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戦火月光

/戦火月光

opojiです。初の短編作品に挑戦しようと思います。それでは、どうぞ。



人間という生き物は、時に幸福をもたらし、時に悪魔と化す。人間同士で勃発する戦争・・・何も罪もない、関わりようがない私たちポケモンに、火の粉が襲い掛かってきた。

この荒野を見ればわかるだろう?昔はこんな殺風景ではなく、活気に満ち溢れた街があったのさ。愚かで身勝手な人間が、同じ人間を排除するために造られた兵器によって全て奪っていった。隣人も、友人も、家族までもだ。

今でも忘れる事はないあの日々・・いや、忘れちゃいけないんだと思う。

・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・



雲ひとつない青空に、突如飛来する複数の鉄の塊。けたたましい騒音と同時に、地上に居る者たちを震え上がらせた。

「ゼオンより司令部へ。間もなく宝石箱の投下ポイントに到着する。指示を乞う」

「司令部了解。作戦通り遂行せよ」

「了解。ゼオン、アウト」




いつもと変わらない日々を送っていたつもりの私だったが、なんだかやけに騒がしくなってきた事に違和感を覚える。

「なんだ?あれは・・・」

気持ちよく昼寝をしていたのに、それを邪魔され不機嫌になる一匹の雄のポケモン。全身黒い体毛に包まれ、体の数箇所には月を連想させる模様。そして赤い目で騒音の正体を睨む。名は、ブラッキー。

「一体何事だ?」

一匹でそう呟くのがバカバカしく感じたが、どうやらそう思っていたのは私だけじゃないらしい。周りを見れば、逃げていく連中も居た。今この状況を把握しきれず、私はただ空を見上げている。

そして、何かが投下された。その落ちていく正体がなんなのか知らないのに、全身がなぜか危険信号を送ってくる。そして・・・

「・・!!」

襲い掛かる爆風、耳がもげそうになるような爆音。そして私の体は宙を舞い、どこかの家の壁に叩きつけられた。
「ぐっ!!・・・」
声にならない痛みが全身を走る。それでも必死に目を開くと、目の前には街全てを包み込む爆炎が立ち込めていた・・・。
「やばいっ!!」
どこへ逃げれば良いのか判らないが、とにかく走った。無我夢中に走りまくった。各所から聞こえてくる悲鳴・・・目をつぶりたくなる。

そして、爆風の第二波に襲われ、再び私は吹っ飛ばされた。

全身が痛むが死にたくはない。必死に立ち上がりまた走り出そうとするが、ある存在が私の動きを止めた。レンガで作られている塀の隅にうずくまる、一匹のポケモン。

「おい!そこで何をしてるんだ?!逃げなきゃ死ぬぞ!」

「うぅ...」

大声で話掛けたが、相当怯えているのか動けないようだった。無視できなくなった私は、そのポケモンに近づく。

「しっかりするんだ!」

そう声を掛けると、そのポケモンは顔を上げ私を見上げた。ピンク色の体で、顔の額には赤く輝く真珠のような物がある。名はエーフィ。薄っすら涙を流しているのがわかる。

「痛いの・・・」
「痛い?怪我してるのか?」

見れば、左の後ろ足から少し出血しているのが判った。そのそばに崩れたレンガがあるという事は、きっと落下してきたレンガに当たったんだろう。

「歩けるか?」
「・・・」

必死に立とうとするエーフィを、ブラッキーが器用に体を使って手伝うが、再び・・・

「きゃぁぁ!」
「なに?!」

第三波目の爆風。しかも距離が近いようで、さっきより比にならない。体勢を崩しエーフィの上に覆いかぶさってしまう。そして、隣接していた人間が住む家屋が崩れ、二匹の真上に・・・

「くっ!!」

一瞬二匹を包むように形成された円状の壁。それにより、崩れてきた家屋の残骸から身を守る事ができた。ブラッキーが繰り出した技、まもる。

「た・・・助かった・・・」
「ふぇぇ.....」

エーフィは涙で顔がぐしょぐしょになっている。

「行くぞ・・!」

ブラッキーはエーフィの腹下に頭をくぐらせ、器用におぶると力強く歩き出した。エーフィはただただブラッキーに身をゆだねるしかなかった。



あれから幾度に渡って爆撃に見舞われたが、私たちはなんとか生き延びる事ができた。生きてきた中で初めて、命の尊さに一番気づかされた瞬間だった。

今は、私とここまでおぶってきたエーフィで廃墟と化してしまった大きめの建屋に居る。空には太陽があるはずなのに、燃えさかる街の黒煙によって遮られ、不気味に周辺が薄暗くなっていた。

「よいっしょと・・・」

私はエーフィを丁寧に床に降ろし、固くなってしまった身体をほぐすようにストレッチをする。うぅぅ...痛たたた...

「具合はどうだ?」

じっと私を見つめるエーフィに問う。

「なん・・とか・・」
「・・・そうか、なら良かった」

外からはまだドンパチ音が絶えないが、戦線よりかはいくらか離れた場所に居るとわかり、内心少し安心していた。

「・・あの!」
不意に私に声を掛けてくる。
「ん?」
「あの...助けてくれて・・どうもありがとう・・・」
若干俯き加減で、お礼を言ってきた。頬が赤く見えたのは気のせいだろうか?いや、気のせいだな、うん。
「どういたしまして。ここまで生き延びられて、嬉しい限りだよ。ところで、足・・・」
「え?」
私はエーフィに近づき、怪我している足を見た。さっきより状態は良くなってるみたいだが、まだ出血しているように見える。どっちにしろ、体力は削られているのは確かだ。
「...そこそこ収まってきたな。さて・・・私は何か食料を調達してくるが、待っててくれるか?」
「は、はい!!良いんですか?」
「あぁ。ヘタに動かない方が良いからな」
エーフィはじっと私を見つめている。その眼が語るのは、期待感か、あるいは一種の不安感か?
「じゃぁ、お願いします...」
「わかった。何、君を置いて行ったりしないさ。必ず戻ってくる」
そう伝え、私は外に向かって歩き出した。すると・・・
「あの!!」
呼び止められ、再びエーフィの方を向く。
「どうした?」
「その...あなたのお名前は?」
・・そうか、思えばまだお互いに名前を知らなかったんだな。
「私はジャイル。君は?」
「サンルーニャ。サンって呼んでください!」
「わかった。じゃあ、サン・・・行ってくる」
「お願いします...えっと・・ジャイル、...さん」
「気にするな。呼び捨てで構わない。それに、敬語でなくても良いぞ。堅苦しいからな」
「う、うん...じゃ、じゃあ、ジャイル・・お願いね」
「・・・あぁ」
.....なんだか妙な雰囲気になってしまったような気がするが、気にしない方針で行こう。私は外へ向かった。ちゃんと戻ってこれるように、しっかり道順を覚えなくちゃな。



果たしてここが栄えていた街だったのか?初めて訪問した奴なら、口をそろえてノーと言うはずだ。それだけ損害は激しく、跡形も無い。家屋のガラクタばかり。なんでこんな事になったんだ?理解できなかった。ただ、目の前の現実を受け止めなければ、この先生きて行けないだろう。世の中良い人間も居れば、悪い人間もいる。そんなの、誰から言われなくてもわかっている。わかっているが・・・行き場の無い憎悪の矛先は人間に向けられそうで怖い。人間不信という、ポケモンの一種の病気があるらしいが、この時だけはその心情がわかる気がした。

何を思ったってどうにかなる訳ではあるまいし、今を生きるためにすべき事をしなくてはな。さて、食料だったな。どこかにあるはずだが・・・。

...ビンゴ。多分屋台型店舗の木の実だろう、地面に転がっている。肝心の店舗建屋は・・・無いか。適度なカゴを見つけると、私はそれに入れられるだけ木の実を入れて、カゴを咥えてサンが居る建屋まで運び出した。
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「!! ジャイル?」
「あぁ、私だ」
急に物音がしたから、不安になっていたのだろう。若干の震え声でサンが言ってきた。
「良かった・・・」
「どうかしたか?」
「一匹じゃ怖くて・・・」
「そうだったか。少し待たせたな」
「んんう?大丈夫よ?」
しっかりとした声で会話をしてくる。気持ち、さっきより元気になってるっぽいな。良い事だ。
「はい、これ」
私はカゴごとサンの目の前に置く。
「ふぇ?!こんなに一杯?!」
「これから何があるかわからないからな。持てるだけ持ってきた。人間が開いていた店の木の実だと思うが、状況が状況だし、良いよな?」
「うん。そうだね」
「これで少しは体力も回復すると思う。さぁ、食べな?」

サンと私で、ある程度の木の実の量を食べ終え、満足感が少し沸いてきた。これで食料の問題も、少しはしなくて済む。後は・・夜を待つのみ。今夜はお月様が見られれば良いが・・・。

気づけば、昼間のあの爆音や銃撃音は消え、いつもの静寂な夜になっていた。私は空を見るために、一度立ち上がる。

「どこ行くの?」
「ちょっと空の様子を」
「・・・?」

私は建屋から出て、空を見る。綺麗に散らばった星に、輝くいつものお月様。良かった、これならば最大限力を発揮できる。

「サン!!」
私は外から、中に居るサンを呼び出す。
「なにー??」
「ここまで動けるか?!」
「ジャイルが居るとこ?」
「そうだ!!」
「・・・頑張ってみる!!」
サンはそう大声で伝えると、全身に走る痛みに耐えながら私がいる場所まで、ぎこちなく歩いてきた。
「痛・・痛い...」
「よく頑張ったな、サン。もう大丈夫だ」
私のすぐそばで、楽な姿勢を取るサン。
「こっちを向いて」
私とサンの目が合う。
「そのまま、力を抜いて...」
そのまま二匹の顔が近づいていく・・・サンの頬が真っ赤に染まっているのがわかる。なんとも可愛らしい姿・・・そして、お互いのおでことなる部分をくっつけた。私は目をつぶる。

「お月様・・・私にお力を・・・」

そう呟き、身体が黄金のような光で輝き出す。続いてサンの身体も同様、輝き始めた。

二匹のおでこがくっついたまま数十秒。輝き終え、私はサンから一歩離れた。私自身、身体の不調部分が全て解消されたが、サンの方はどうだろう?

「すごい・・・!足が!足が治ってる!!」
良かった、効果はあったみたい。私がやった技は、つきのひかり。
「よし、良かったな」
「うん!!ジャイル!!ほんっとうにありがとっ!!!」
最高の笑顔で私に伝えてきた。その笑顔が素敵すぎて、私の心が熱く高鳴っていた。



この後、元気になったためか、思いのほかぐっすり就寝できた二匹。明日の平和を願って・・・。


翌朝・・・
サンよりも先に私は目覚める。外はまだ朝になりきっていないが、明るくなっている。昨日の惨劇が蘇り、不幸感に再び襲われた。
「これからどうすれば...」
360度見わたしても、ただ瓦礫の山があるだけ。吹き抜く風には、土ぼこりが混じっている。ふと私は、この街全体が見わたせる高台の丘を思いだす。とりあえず、そこへ行ってからこれからの事を考えるのも悪くないだろう。

まだ眠っているサンを起こすわけにもいかない。...が、私はサンの寝顔を知らぬ間に見続けていた。この子はどこに住んでいたんだろうか。そもそも私と同じように、野生だったのだろうか...。サンの事を気になりだしたら、それしか考えられなくなっている自分が居た。そして私自身の勝手な妄想が創出されてしまうのだ...。時よりビクビクンと耳を動かし、幸せそうに眠るサン。見ていて飽きが来ない私はおかしいのだろうか?

そうしているうちに「ふぁぁ...」とサンがあくびし、目を覚ました。起きた直後、私とサンの目が合ってしまい、しばらくパチクリまばたきを繰り返した。

「...おはよう」
「う..うん、おはよ!」

やはり見続け過ぎただろうか・・・サンの頬が赤くなってる。
「傷の具合は?昨日の効果でもう痛くないだろ?」
「うん!本当にケガしてたのか疑っちゃうくらい、平気だよ!」
「よかった」
「ジャイルの方は?」
「問題ない。回復しきれたみたいだ」
「お互いに元気になれて良かった♪」
「そうだな」
可愛い笑顔で俺に話すサン。内心私はその笑顔に心を打たれている...
「ところでだ、サン」
「何?」
「行きたい場所があるんだが...一緒に来てくれるか?」
「行きたい場所?うん、いいよ!行こ!」
サンに承諾を得たところで、私たちは外へ出る。木の実の入ったカゴを私が咥えて。
「うわぁ...何これ・・・」
サンにとっては、初めてまともに街の様子を目の当たりにしたんだろう。街全体が瓦礫と化し、他に生物がいる雰囲気が皆無だ。
「...これが現実だ。受け止めるしかない・・・」
「うん・・・」
「...こっちだ」
道しるべとなる建造物は何も無いが、私の記憶と直感で高台の丘を目指した。瓦礫につまずきながらも、ただひたすら前を向いて・・・私たちは歩く。
「ねぇ」
後ろからサンが問いかけてくる。
「どうした?」
カゴを咥えながらもかろうじて話す。
「今どこへ向かってるの?」
「高台の丘だ。知ってるか?」
「高台の丘・・・あぁ!街を一望できるあそこね!知ってる!!・・・そっか、行けばもっとどんな状況かわかるもんね!」
「そう。それで、そこ行ってからこれからの事を考えても良いかなって」
「うん、あたしもそう思う!」
サンが若干走って、私の隣まで来る。
「ねぇ、後さ・・・」
「ん?」
「ジャイルの事、聞いても良い?」
「え??」
突然の事に、私は歩く足を止めてしまった。さらにカゴまでもドサッと落としてしまう。・・・いや、冷静に考えればそんな驚くことじゃないのに...何やってるんだ私は・・・。
「わ、私の、事...か?」
「う、うん」
喋る言葉がカミカミだ・・・。深呼吸して...
「い、いいぞ!何でも聞いてくれ!」
「じゃ、じゃあ...とりあえず歩こっか!」
フフフっと、面白げにサンは笑うと私に顔を向けた。
「そうだな...」
カゴを咥えなおし、私たちは再び歩き始める。
「ジャイルってさ、人間と一緒に暮らしてたの?」
「いいや?立派な野良さ。毎日のーんびりしてた」
「野良!あたしとおんなじだね!!」
「サンもか?」
「うん! そっかぁジャイルもそうだったんだぁ!ねぇ、どこら辺にいつも居たの?」
「ええと・・・ファクテラ一号区辺りだったかなぁ」
「遠い!!ここから遠いよそこ!」
ファクテラ一号区(ファクテラ街)・・・私たちポケモンがそう呼んでいる地域は、古い街並みがたたずむ市街地。名前の由来なんざ知ったこっちゃない。
「だな。あの時たまたま私はメイヘルに用事があって、その用事を済ませた後昼寝しててね」
メイヘル(メイヘル中心部)・・・同じようにポケモン間でそう呼ばれてるそこは、活気に満ち溢れた市街地。人間が住む住宅はおしゃれな物が多かった。
「そうだったんだぁ!ちなみにね、あたしそこが住処だったんだよ?」
「へぇ!あそこに住んでたんだ」
「うん。それであの出来事が起きて、あたしとジャイルが出会った。なんだか、...運命、感じるね」
「そ、そうだな...」
危ない、、、またカゴを落とすとこだった。運命、か・・・。
「ひゅう...ひゅう...」
「ん?」「??」
徐々に聞こえてきた、誰かの呼吸音。私とサンは顔を見合す。そして、呼吸の主を捜すために辺りを見回すと、瓦礫に横たわった一匹のポケモンがいた。
「おい!大丈夫か?!」
私はカゴを置き、駆け寄った。


まさに瀕死とはこの事だろう。そのポケモンは身体全体を使って呼吸している。水色と黒で構成された毛色で、自らの強さを表しているトサカのような容姿が目立つポケモン。その名も、ルクシオ。
「しっかりするんだ!」
あの爆撃から夜が明けてここまで必死に生きてきたんだ、生かしてあげたい。
「うぅ...誰だ?」
痛む身体を必死に耐えつつ、ジャイルの顔を見る。
「通りすがりだが。あんた、一匹か?!」
「...あぁ、失ったよ・・・何もかも」
そう話す声がかすれている。
「そうか...何か食べたか??」
「俺の記憶が正しけりゃ、昨日の昼に主人から貰った物が最後だな」
「...サン、木の実を」
「うん!!」
「...くれるのか?」
「もちろんだ。こんな状況で放っておける訳ないだろう。ほら...」
私はカゴから状態の良い木の実を咥え、渡す。
「ありがとう」
わずかに身体を動かし、口まで木の実を持ってくると、鋭い牙を使って木の実を噛み砕いた。木の実の果汁がジュルッと溢れ、口の中からわずかにこぼれる。
「おいしい・・・」
一回一回噛んでいくと同時に、ルクシオの目には確かに涙が溜まっていった。
「まだたくさんあるから、遠慮なく...」
「ひっぐ...グス...」
「お・・・おい?」
ついに声が出てしまいながら泣き出してしまった。
「大丈夫?」
サンが心配げに歩み寄る。
「うぅ...えっぐ...俺・・・あの惨事から今までひとりぼっちで...言いようの無い寂しさに押しつぶされそうで...そしたら・・・そしたら・・・うっぐ...わぁぁっぁぁぁぁ・・・・・」
「と、とりあえず落ち着け!なっ!わかったから!!」
私が対応に困っていると、すかさずサンがフォローに入ってくれた。さすがはメス・・・その、なんだ?母性本能とやらが反応したのだろうか?サンの目つきはまるでわが子を見るような優しい目で見つめ、話を一生懸命聞いていた。この子の名前はライジ。この辺に住んでいて、主人も居た。そう、人間と一緒に暮らしていたのだ。だが迫り来る炎には勝てるはずもなく、家も仲間も何もかも失っていった・・・。ライジだけでも生き残れたのは全くもって奇跡であり、その残された命、大切にして生きていかなくちゃいけない事を私たちはライジに伝えた。涙を流しながら私たちの話を素直に頷くライジ。
「俺・・・やっと生きている奴に会えて本当に嬉しかったんだ...やっぱり、孤独って...」
「そう、孤独はとっても寂しい事よね・・・。でも、絶対ひとりぼっちなんかじゃないもの。この、ジャイルみたいに、とーーーーっても優しいポケモンだって居るんだから!」
「...」
すごい恥ずかしくなる事を言ってくれる・・・。
「あたしもね?実は、ジャイルに命を助けてもらったの。脚を怪我しちゃって、動けなくて・・・。他のみんなも逃げるのに必死で、他人の事なんか絶対気に掛ける事なんてありえないのに・・・ジャイルは立ち止まってくれた。あたしの元へ来てくれたの」
サンは私の方を向いてきた。私は目線を合わせることがなぜかできず、下を向いてしまう。
「ね?ジャイル?♪」
「...あぁ」
「ジャイルさん・・・本当にありがとう。俺、ジャイルさんみたいに、もっともっと他のポケモン、あるいは人間でも良い。少しでも生き残ってほしいから・・・助けに行こうと思う。この大切な輪を広げるんだ・・・」
「ライジ...君には君にしかできない事があるんだ。それを精一杯施せば、きっと他の者たちも喜んでくれると思う。こうなってしまった以上、後には引けないんだ。それと、だ。さっき、人間でも良いから、と言ったな?」
「うん」
私はさらにライジに近づく。
「その気持ちが大事なんだ。確かに人間達が犯した惨劇かもしれない。だが、決して全部が全部悪い奴じゃないと、私は思うんだ。もしここで我々ポケモンが人間を差別したならば・・・それこそ、ここまで一緒に過ごして来た意味も無くなり、さらなる生物の死が訪れてしまう・・・。ライジ、君の見解がそれで私は安心した。君は、立派になるぞ」
「そんな、照れますよぅ...。俺が思っていた事は、間違えじゃないんですね。良かった」
「あぁ」
ライジは立ち上がる。
「大丈夫か?身体は」
あちこちまだ傷だらけなのだが・・・ライジの顔は誇らしく遠くを見つめる。
「こんな傷、たいした事無いと思えてきました」
「無理は禁物だぞ?」
「大丈夫です。貰った木の実で元気出たんで・・・」
最高の笑顔でそう言うライジ。何かが吹っ切れた感じがわかる。
「ジャイルさんが言ってた、後に引けないって・・・後ろを振り返ったって、何も無いんだ。だったらこれからためになる事を、それこそ前を向いて考えて行こうと決めました。...失ったモノは計り知れないほど大きいものだけど・・・それでも俺は生き残れたんだし、できることをしていきます」
力強くそう言うと、二歩、三歩と歩き出し、そして立ち止まりこちらを振り返る。
「どこに行けば良いかわからないけど、とりあえず歩いてみます。目的なんて今は何もないけど、きっといつか生まれるから...」
「そうだな、ライジ」
「ジャイルさん達は、これからどこへ?」
「とりあえず、高台の丘へ行ってみようと思ってね。そこなら街全体が一望できる」
「なるほど、高台の丘ですね。俺も少ししたら行ってみようかな・・・。...それじゃ、、、」
交互に私たちを見つめるライジ。
「、、、このご恩は、絶対に忘れません!!いつかきっと・・・また、どこかで!!」
「あぁ!元気でな。くれぐれも無理はするなよ?」
「また、どこかで会えたらいいね!!」
ライジは大きく頷くと、前を向き歩き出した。私たちはしばらくライジの後ろ姿を見送っていた。焼け野原の上を歩く、ルクシオを・・・。
「若いよな」
「うん。まだ子供だったのかもしれないね」
「なのに立派なもんだ。強い子だよ」
「そうね」
「・・・さ、私たちも行くとしようか」
私はカゴを咥えなおし、再び歩き始めた。ちょこちょことサンもついて来る。吹き抜ける風は、やはり寂しいものだが・・・。


歩き続けて数十分。少しづつ町並みも変わり始め、家屋の損壊の程度も軽くなってきた。家屋の損壊よりは、レンガや壁が崩れたりしてるのが多い。そして、ここに来てやっと生きている人間やポケモン達が目に見えるようになってきたのだ。これほどまでに嬉しいことはない。私とサンは顔を見合わせ、笑顔になった。
「この辺は被害が少ない方だったんだな」
「そうみたいだね!」
みんなそれぞれに何かしら作業をしていた。瓦礫を運搬している人間や、壁の修復をしている人間...。少しでも元に戻そうと必死なのだ。その中を私とサンは歩いていく。
..
...
....
「もうすぐ目的地だ」
「街・・・どうなってるんだろ・・・」
私たちは坂を登る。いろいろ自身の中で街の全体像を想像してみる。まぁそれはもうすぐわかるのだが。
登り終えてついに頂上の広場へ出た。唯一と言って良いだろうか...ここの広場はすごく綺麗な状態だった。地面には青々とした草原、風で気持ち良さ気に揺れる大きめの木。
「生きてる・・・」
「あぁ。草もふさふさだし・・前来た時と何も変わってない!ただ・・・」
私は一度口を閉じ、辺りを見わたす。静か過ぎる・・・。前に来た記憶だと、少なからずこの場所にはポケモンや一緒に居る人間が居たはずだ。現状は...
「ただ??」
「・・・サン」
視線を戻し、さらにサンと向き合う。
「ここに居るのは、私たちだけのようだな」
「あっ...たしかに・・・」
「やはり、あの爆撃のせいでみんな・・・」
「・・・散っていったのね」
「恐らくな。隣町か、あるいはもっと別の地方へと避難を」
私はサンから視線を外し、再び前を向く。
「ひとまず現状を見つめなければ。行こう」
「うん」
ここの名所でもある、街全体が見渡せる地点へと歩き出す。ふさ...ふさ...と、草原の上を歩く私たちの音だけになった。


それはまさに悲惨な光景だった。一日明けた今でも、遠くの方ではまだ火は消えていないらしく、黒煙が立ち込めているのがわかる。見えるのは瓦礫と化した風景・・・目立っていた都市部のビルも無い。本当に、何もかもを奪って行ったんだな...。一体どれだけの命が失われたのだろうか・・・。しばらく私たちは言葉を失っていた。時間が止まっていたかのようにも思えた。
「・・・想像以上だな」
「こんなになってるだなんて...」
「サン」
私がサンを呼ぶと、こちらを向いてくれた。
「...サンは、これからどうしたい?」
「え?...」
「・・・」
「ジャイルは??」
真っ直ぐ私を見つめるサン。
「私は・・・私は、この街に残ろうと思う。やらなくちゃいけない事が、たくさんあると思うんだ、色んな面で」
「そう・・・。じゃあ、私も...」
「え?」
「私、そのね?...」
下を向くサン。そのまま会話を続ける。
「その、ジャイルと一緒に居たい」
「!?」
「い、いや、その変な意味じゃなくてその何て言うかなそのジャイルと一緒に居たいって言うのはだからえーっと私ができる限りのお手伝いがで、できればなって!!」
「お、落ち着け!」
「ご、ごめん・・・」
「・・・いや、良いんだ。...サン」
「ん?」
「実は、その、私もな、なんというか、えー、っと、サンと..一緒に..居たい..というか...」
「ジャイル・・・」
みるみるうちに私の顔が熱くなっていくのがわかった。ただ手応えは確かに感じられた。お互いの、意思が・・・一緒だったのを。
そしてサンがさらに近づいてきて、私の横にピッタリくっつく形で座った。
「私、ジャイルとこれからも、ずーっと一緒に居たい」
そっとつぶやくように・・・。
「..ありがとう、サン。私もだ」
それでも力強く。
「ジャイル、こっち向いて?」
向けば、視界いっぱいにサンの顔。
「これは、私を助けてくれた、私と出会ってくれた、ほんのお礼・・・目を閉じて?」
気づけばサンの唇と、私の唇が確かに交わっていた。いつの間にかサンに惹かれたこの自身の想いをぶつけるように・・・優しく・・・力強く・・・。



3年の月日が経った今。復刻に向けて私とサン、そして生き残り尚且つ街に留まった者達によって、本当に少しずつではあるが一つの地区が元に戻りつつある。人間達の勝手な戦争とやらは現状何も知らないが、しかし私達は生きている。そのことだけはありがたく思い、また、生きている事によって戦争による犠牲者に対して、せめてもの追悼の意として、今ここに。


最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございます!!初の短編モノでした!(ちょっと短過ぎなんじゃないかと、後悔してます・・・)
駆け足完結で申し訳ないです・・・これからもう少し他作品でクオリティを上げられるよう頑張って行きたいと思います!これからも宜しくお願いします。また、誤字等、不備箇所がございましたら、なんなりとコメントをいただけたらなと思っております。

追記:
この戦火月光、続きって訳ではありませんが、ジャイルとサンが最後キスをしたその後シーンを執筆しようか悩んでいるところであります...。その、要するに官能シーンって事、ですね。気が向けばヒョコッと現れるかもです。(><)

最後になりますが、本当にありがとうございました。




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Last-modified: 2011-06-19 (日) 00:00:00
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