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憧れた姿に

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 早朝、勢いよくドアを叩く音で目が覚める。
「おはよーカミュン……今日は早いね」
 顔も洗わず、目やにのついた眼をこすりながら外に出ると、大きな影が自分の前に立ちはだかった。
ペチカ(печка)! 見ろよ! 俺もついに進化したぜ! 見ろよこの足、逞しいだろ?」
 暑苦しいまでの大声でそう言ったのは、ラビフット……から、進化したばかりの少年、カミュン(камин)。突然の嬉しい報告にペチカ(мышца)は眠かった目を大きく見開いた。
「え、いつの間に……もしかして昨日の夜進化したの? うわぁ、可愛い……」
 カミュンは待望の進化を迎えて大いにはしゃいでいた。逞しい足、燃え上がる頭部、そしてパンツを履いたような朱色の腰。そう、彼の種族はエースバーン。熱い体と暑苦しい性格が特徴の熱血なポケモンである。
「可愛いじゃない、格好いいだろ!? 見ろ、この姿に成長してからというもの、本能的に刻み込まれてる動作があるんだ……そう、火炎ボールだ! 見てろよ!」
 言いながら、カミュンは小石を足の指でつまみ上げてからリフティング。炎をまとわせると、勢いよく蹴り出して、木から舞い落ちた木の葉を巻き込んで飛んでいく。
「わー、さっすがー。可愛いじゃん!」
「ちょっとちょっと、反応違うぞペチカ! もっとこう、キャーカッコイイ! 抱いて! くらい言えないのかよ! せっかく火炎ボールまで見せたのに、そんな反応じゃ悲しくなるぞ……っていうか、また可愛いって言った!?」
「いやいや、抱いてって……あたし、まだ進化してないのに抱くだなんて、カミュンは気が早すぎるよ」
「当たり前だろ、進化とはエッチなことだ。成長すれば子作りだってできるようになる、この姿になったら一層その欲求も強まってきたんだ。ペチカも早く進化しろ! そしてセックスだ!」
「えー、でも……私どっちに進化するか悩んでて……」
 ペチカはもじもじと鋭い爪をこすり合わせて言い訳をする。そんな彼女の態度に、ダメだなぁとばかりにカミュンは首を振る。
「それにまだ、心の準備ができないなって……」
「なんだよぉ、俺らもう、長いこと一緒じゃないか? 小さなころから友達で、探検隊に入るのも一緒だったじゃん! なのに、まだ心の準備ができないだなんて、つれないことうぃうなよー」
「でもぉ……」

うじうじしてるペチカの種族はダクマ。彼女は、信頼できるパートナーとともに過ごし、目指すべき姿を見据えたときに、初めて進化できるポケモンだ。彼女はウーラオスというポケモンに進化できるのだが、進化した際の姿は二通りあって、目指すべき姿がまだ彼女には見定められないでいる。

 格闘・悪タイプとなって、苦手なエスパータイプ相手にも突っ込んでいけるが、フェアリータイプには致命的になる一撃の姿か。それとも、バランスよく色んな敵を相手にできる格闘・水タイプの連撃の姿になるか。
 内心で言えば、ペチカは偉大なる祖父と同じ姿の一撃の姿となりたかった。祖父は、用心棒として商人や要人の敵を一撃のもとに叩きのめし、その名をとどろかせたという。残念ながら父親はそれほどの才能に恵まれず、中堅の用心棒として、大きな賭場に常駐する程度であったが……実力はまぁ、そこそこである。
 そんな親と祖父の逸話を聞いていると、必然的に憧れるのは強者の名をとどろかせた祖父なのだが、実を言えばパートナーのカミュンは状況に応じて自身のタイプを変えられる特性の持ち主で、その気になれば悪タイプにもエスパータイプにもなれるという器用な奴である。そのため、彼が変わることが出来ない水タイプになるほうが得策なのかもしれない。
 その二つの板挟みにあって、ペチカは悩んでいた。そもそも、確かにカミュンは悪タイプにもなれるかもしれないが、それだけで役割が被っているからダメということにはならないし、何ならペチカが苦手なフェアリータイプにもアイアンヘッドやダストシュートで強く出ることが出来る。相性について考えると、あちらを立てればこちらが立たずで、どれだけ考えても纏まらない。
 進化条件の一つである『信頼できる人と過ごすこと』についてはもうとっくに達成しているが、どちらの姿がふさわしいかを選べないでいる彼女は、いまだに進化を渋っていた。
「まぁ、ペチカが色々思うところがあるのはわかるけれどさぁ。だけれど、進化しないと強くはなれないだろ? 俺との相性とか、そういうのもいいんだけれど、お前は身近にウーラオスが四人もいるんだから、その人たちの姿を見て決めればいいんじゃねーの? 親戚の姿を見て考えようぜ?」
「そうなると、やっぱりおじいちゃんと同じ一撃の姿になるのが一番いい感じなんだけれど……胸に肘撃ちを叩き込んでは心拍を乱し、喉に平拳を叩き込んでは脳と喉を使い物にならなくし、みぞおちに抜き手を叩き込めば、三日は起き上がれなくなる……そんな逸話が残ってる、現役のころをぜひ見てみたかったなぁ」
「うーむ、たしかに聞いていると格好いい気はするけれどさ。ペチカの父ちゃんだって格好いいだろ? おじいさんほど強くなかったみたいだけれど、舞い踊るように戦う姿、あれは格好いいだけじゃなく美しさすらあるぜ?」
「うーん、悩ませないでよぉ……」
 どちらの姿にも、どちらの姿なりにいいことがある。連撃の姿なら泳ぎも得意になる*1し、短時間ならアクアジェットで疑似的に飛ぶこともできる。一撃の姿ならば、狡猾な相手にも上手を取れる*2。どっちがいいかなど、そう簡単に決められるものではないのだ。
 しかし、頭では悩んでいても、最近のペチカの体はしっかりと進化を求めている。このごろはふとしたきっかけで進化の兆候が体の中で起ころうとしているのがわかるのだ。体の中に熱がこもり、その熱が全身にいきわたるようなあの感じ。これを我慢して進化しないようにすると、なんだか体の熱や疼きがなかなか取れないし、ずっともじもじして不快感が残ってしまう。
 変わらずの石も持っていないし、どうすればいいものやら、悩みの種である。

「とりあえず、ギルドいこっか。進化したことだし、これからもっと難しい依頼にも挑戦できるな! みんなにもこの姿を見せたいしなー」
「うん、がんばろ。あ、親にはもう見せたの?」
「当たり前だろ! 俺は親からも祝福されてもみくちゃにされた後さ! お、見ろよペチカ! 先輩たちが鍛錬してるぜ」
 カミュンが指さした先には、常に戦いを求めてさまよう狂戦士のようなドリュウズと、そんな彼にも律儀に付き合ってあげる喧嘩友達のチラチーノ。角ドリルや地割れで一撃必殺をきめようとするドリュウズと、種マシンガンやトリプルアクセル、スイープビンタといった連続攻撃で休みなく攻め立てるチラチーノ。
「じわれ……タネマシンガン……角ドリル……トリプルアクセル……これは……私の中で、何か目覚めそうな……」
「おいおいおい、ペチカ! 何かに目覚めちゃダメだろ! 進化するのは嬉しいけれど、きちんと選べるときに選べ!」
「はぅ!? ご、ごめん……そうだね、こんなところで進化しちゃだめだよね……」
 二人の戦いを見ながら我を失っていたペチカは、カミュンの大声で現実に引き戻される。そうこうしているうちに、二人の勝負も終わっており、勝者となったチラチーノがこちらのほうを見る。
「よう、そこの見慣れない顔は昨日までラビフットだった坊主か? 進化したんだな、可愛いじゃないか!」
 チラチーノはこちらに駆け寄りながら笑う。進化を祝福しているようではあるものの、そのセリフにカミュンは不満そうだ。
「おいおい、可愛いっていうなよ、格好いいだろ!? 見ろ、この逞しく良く締まった足! 小さな音も見逃さない大きな耳、どこからどう見ても格好いいだろうがよ!」
 こんな調子でカミュンは自分の体の恰好いい部分をアピールする。
「思わず握りしめたくなる小さな手! くりくりとして愛らしい大きな耳! さすがエースバーンだ」
 そのノリを維持するようにチラチーノは大きな声で彼の要旨を褒めるのだが、褒める方面は格好いいよりもかわいい方面だ。
「おいおいおいおいおいおいおい! それじゃ俺のことをかわいいって言ってるみたいじゃねーかよ!」
「事実だからなぁ。それに、格好良さってのは行動で見せるもんだ。強くなったならその背中で格好良さを見せればいいのさ。ともかく、進化おめでとう。もっと強くなって活躍しろよ」
「むー……こうなったら意地でも格好いいって言わせてやるからな!」
 非常にほほえましい表情でチラチーノは言う。カミュンは不機嫌そうだったが、チラチーノなりの祝福はカミュンにも十分に伝わったようで、格好いいと認識してもらえにことを不満そうにしながらも、いつか子ども扱いされないように見返してやると前向きであった。

 湖畔に建てられたギルドへとたどり着くと、ギルドのすぐ近くにある湖ではラプラスとパルシェンが模擬戦を繰り広げている。
「つららばりの息もつかせぬ連続攻撃と、ツノドリルによる必殺の一撃……あぁ……体が熱い……」
「まてまてまて! ペチカ、戦いをまじまじと見るのは辞めろ! 進化しちゃうだろ!?」
「はうぁっ!? ご、ごめん……体が進化したがっているんだ……」
「まったく、こんなことなら変わらずの石を行商人に頼んでおくべきだった……必要なければ知り合いのイーブイにでも渡しゃいいんだし」
 大慌てで止めに入ったカミュンのおかげでペチカは不用意な進化をせずに済んだが、こんな調子では気が抜けない。ダンジョンに入り込んでもこの調子だったらどうしようかと、二人は頭を悩ませるのであった。

 探検隊ギルドの皆にカミュンが進化をした姿をお披露目すると、やはりみんなが口々に言うのは、カミュンが可愛いということ。可愛いといわれるたびに地団駄を踏みながら不満をあらわにするカミュンだったが、みんなからお祝いの品をもらったり、ギルドで食事をおごってもらうなどしてご機嫌になり、やっぱり進化はいいもんだと、人生に二回しかない進化祝いを堪能してから依頼に向かうカミュンであった。
 その日の依頼は、走って一日ほどの距離にある山のダンジョンでの採集依頼。ダンジョンへ向かう途中に集落もあるし、それほど大きなダンジョンでもないため、h実用なものは現地調達で問題ないだろう。大した荷物を持つことなく二人は突き進み、途中の集落にて食事をとったのち、そこから目的のダンジョンまで向かう。
「おいおい、見ろよペチカ……あの村のカップルかな、こんなところで盛ってやがるぜ! いいなぁ、俺もせっかく進化したんだし、ペチカとやりてえなぁ」
 カミュンが指差した方向には、集落の者たちの目に入らないよう、あいびきをしている二人組。ハブネークとカエンジシの男女であった。
「え、え、あの……私、まだそういうのはちょっと……心の準備ができないというか……」
「でも、ちょっと大変そうだな。ハブネークは一回のセックスで一日近くの時間がかかるけれど、カエンジシは一回のセックスは数秒で終わっちまう。まともなセックスになるのかな……」
 カミュンはこういう色恋沙汰が大好きだ。エースバーンは繁殖欲が旺盛だが、まともなセックスになるのかという意味ではペチカとカミュンでも同じく当てはまることである。今は幼くちょっと優柔不断なところのあるペチカだけれどこれでも伝説のポケモン、繁殖力はかなり弱いほうである。仮にこのまま二人が夫婦になったとして、性生活の気が合うかは、神のみぞ知るといったところである。
「本当だ……ハブネークはカエンジシのおねーさんに巻き付いたままじっとしてるけれど、カエンジシのおねーさんは……ちょっと体を動かすと、気持ちよさそうに背筋をびくびくとさせている……けれど、ちょっともどかしそう。ハブネークのおにーさんは全然満足している感じじゃなさそう……なんというか、足並みが壊滅的だ。ううん、でも……あの二人を見たら……なんだかちょっと変な気分……」
「だろう? ペチカ……お目はだんだん興奮して体が熱くなって……俺を抱きたくなる……そうだろー? 少しずつ発情して……どんどんセックスがしたくなる……」
「いや、ならないならない……」
 催眠術をかけるかのようにカミュンはペチカを煽るのだが、どうも彼女は効いていないようだ。
「それにしても、この気持ちは一体……連撃のガオガエンと一撃のハブネーク……」
 虚ろな目をしながらペチカがつぶやく。ようやくカミュンも察した、ペチカが進化しようとしている、と。
「待って! ペチカ! 目を覚ませ! その気持ちはいけないやつだ!」
 ペチカが熱に浮かされたような視線で情事の真っ最中のカップルを見つめていたところを、カミュンは必至で彼女の肩をゆすって正気を取り戻させる。
「お前は目を離したら進化しそうになるな!? こうなったら変わらずの石を掘りに行くか? そういうダンジョンの依頼受けるか!?」
「ご、ごめん……私も気を抜かないようにする……」
「でもさぁ、そもそも進化をすればこんなふうに進化を止めようとする必要もないだろ? こんなことなら悩まずにサッサと進化してしまえばいいんだ。そうすりゃ、今みたいにまだ心が決まっていない状況で進化が始まってしまうこともないし、楽だろ? いつまでもうじうじ悩んでいないで、連撃と一撃、どっちの姿になるかきちんと決めたほうがいいんじゃないのか?」
「それはそうなんだけれど……こういうことって、よく考えて決めたいっていうか……憧れたおじいちゃんのような一撃の型か、それとも……」
「もう何年も考えてることだろ? 最近進化できるようになったってだけで、これまで考える時間はいくらでもあったわけだしさ。それに、親父さんもおじいさんもおばさんも、その姿に進化して後悔したことは特にないって言ってたろ? もちろん、もう一つの型がうらやましいと思う時はあるけれど、きっともう一つの型にも同じくらいに不便な時があるだろうから、それは後悔するには当たらないみたい……なことをみんな言ってたじゃないか。むしろ、進化しないで時間を過ごすほうが無駄な時間だと思うぜ。強い姿になって、出来ることが増えれば受けられる仕事も増える。
 進化しないでうじうじ考えているほうが、うっかり進化しちゃうよりもずっとずっと損してるって……」
「うん……」
「なぁ、俺も、セックスしたいとか毎日思ってるけれど、それだけのためにお前に進化してほしいわけじゃないんだぞ。進化すると自信も出てくるし、自信が出れば物事にも積極的になれる。まぁ、俺も初めて進化した時はちょっと大人ぶっちゃったりなんかして、マイナス面もないわけじゃなかったけれどさ……」
 カミュンは自分がラビフットに進化したばかりのころを思い出し、恥ずかしげに語る。
「確かに、ラビフットのころは急に格好つけたりとかしてたよねぇ」
 ペチカはそんな彼を見て微笑んだ
「まあな。でも、いいこともたくさんあったぞ。ヒバニーの時の俺はやんちゃすぎたからな。お前のじいさんに無謀すぎる勝負を挑んだりとか」
「あったね。いいようにあしらわれてたけれど」
「今の俺もやんちゃな自覚はあるけれど、進化をきっかけに礼儀とか遠慮とかそういうものをきちんと知ろうって気分になれたし。そう、進化ってのは強さだけじゃない。エッチを含む、新しいことへの挑戦のいい契機となるんだ。体に引っ張られるように精神が大人になることも多いし……そういうの、ホルモンとかってやつが関係しているらしいな?
 お前の体が大人になりたがっているのも、体だけじゃなく心が大人になろうとしてるからなんだよ、きっと」
「カミュンはエッチにこだわり過ぎだって……でも、確かにそういうものなのかもしれないね。進化、したいな……」
「じゃ、期限でもきめるか! あと一か月以内に、どちらに進化するか決めようぜ!? あと二か月もしたら冬になる。ひと月前には冬に備えて太らなきゃならねーし、それまでに進化しておいたほうがいいだろ? 体が大きくないと冬を越すのは辛いからな」
「うん……」
「それまでに決めてなかったら、コイントスで決めるからな! 覚悟しておけよ!」
「わかった!」
 期限を定められてしまったペチカは、そろそろ本当に決めなくてはいけない時期であるということを自覚して気を引き締めた。その後、仕事のためにもぐりこんだ不思議なダンジョンでは進化したカミュンが暴れまわる様子を見て、ペチカは改めて進化したポケモンの強さ、爆発力を実感する。
 結局、今回の仕事はほとんど、カミュンがやってしまった。やはり進化の力というのはすさまじいもので、進化してはしゃいでいるのもあるのだろうが、カミュンは元気が有り余っているようであった。これならばもっと難しい依頼への挑戦も可能だとは思われるが、しかし二人の強さが大きく離れている状態で難しいダンジョンへと挑戦するのはまりよいことではない。
 一緒に行動して、カミュンが前衛、ペチカが後衛として機能しているのであれば問題はないが、不思議のダンジョンでワープの罠を踏んでしまったりなど、何らかの手段で孤立しペチカ一人で行動するような状況になって今うととても危険である。それを考えると、チームメンバーが同レベルの水準まで体が強くならないことには非常に攻略が厳しくなるのである。
 カミュンが進化を進める理由は、そういうところにもあるのだ。
 結局、どっちの姿になったとしても悩ましい場面には必ず立ち会うことになるのだ。悩んで時間を無駄にするくらいな、本当にコイントスでもして決めてしまったほうがいいのかもしれない。

 ◇

 カミュンが進化してから数日がたったころ。依頼を終えて街へと帰る際に、街が騒がしかった。
「あの煙……おい、森のほうだぜ……空が明るいってやばいだろあれ! 森林火災だ! まじかよ、何が原因なんだ……」
「え、どうしよ……」
「わからんが、俺はとにかく行く! 俺なら炎くらいへっちゃらだし! 何かしら役に立つだろ!」
「あ、ちょ……」
 立ち上る煙、そしてその煙をオレンジ色に染める炎。明らかに尋常ではないそれをみて、カミュンはろくに話もせずに現場へと出かけてしまった。進化してからというもの、元々素早かった足の速さはさらに極まり、おまけに話を聞かない頭よりも体が先に動く性格も極まってしまい、カミュンはこうなってしまうともう追うことは不可能だ。
 仕方がないので、彼の後方を大幅に遅れて走ることになったペチカは、予想以上に火事が広がっている光景に立ちすくむことになってしまった。
「よう、ダクマのお嬢ちゃん……あんたは避難していたほうがいいぞ」
「あ、パルシェンさん……」
 とにかく、何かできることでもないかと湖のほとりまで走ってきた彼女に、パルシェンが言う。
「俺も消火活動に参加してたんだが……ちと、あの炎の勢いは骨が折れる。空気も乾燥しきって、雨を降らしてもすぐにやんじまうものでな。水分補給しながら、雨を降らせたりハイドロポンプで消化させたりで、やっとこさ食い止めてる状況だ」
 パルシェンはどうやら、消火活動のために体内の水を使い果たし、湖で水分補給をしに来たようである。現在、森ではギルドのメンバーはもちろん、街の住民総出で消火活動に当たっているらしく、状況は良くないようだ。
「今は消火活動は諦めて、少しでも延焼の速度を遅らせながら、木を切り倒したり土をかぶせるなりして燃やせるものを無くす作戦に出ている……で、そのためには力のあるやつが主に必要なんだが、お前は……」
「あの、パルシェンさん!」
「な、なんだよ!? 突然大きな声を出して」
「私に、つららばりを撃ってください」
「お嬢ちゃん、遊んでいる場合じゃねえんだぞ!?」
「遊びじゃないです! 私も、役に立ちたいから」
 真剣な顔でペチカが言うと、パルシェンは彼女の言葉の意味を理解する。
「……そうか。進化の決心がついたのか。かまわないが、一回しかやらないからな! それで進化できないなら置いていくぞ!」
 パルシェンの言葉にペチカは無言で頷き、彼の動きをよく見届ける。パルシェンの氷柱針はまず初めに左肩を狙う。それをよけようとして右によけると、今度は胸に当たるようないやらしい位置に針が飛んできて、さらに足、胸、足、と上下に揺さぶるような波状攻撃を飛ばしてくる。
「結構距離があったとはいえ、当てるつもりで撃ったんだがなぁ……さすがはお嬢ちゃんだ」
 その一連の氷柱針を見届けたペチカは、腹の底から湧き上がる力の赴くままに進化を開始し、小さかった体を巨躯へと変える。体内に水の力が巡り、今すぐにでもその有り余る力をぶつける場所が欲しい衝動に駆られる。
「おー、立派立派。あんたの親父さんに負けないだけの体格だな」
「ありがとうございます……ですが、今は喜ぶよりも先に行きましょう。パルシェンさん、足は速いほうじゃないですよね? 私、運びます」
「OK、頼むぜ」
 ペチカがパルシェンを肩に抱え、進化によって得られた健脚で彼を運んでいく。運んでいくうちに、火災現場が近くなってきたところで、パルシェンはふと口にする。
「おい、お嬢ちゃん! 俺のこと投げられるかい?」
「いけるけれど、どこに投げればいい!」
「あっちのひときわでかい木のあたりだ! すでに燃え移っているが、空中から波乗りすれば……消し止められるはず。そしたらお前は、あの木を倒せ! もったいないけれど、あとで木材にでも暖房用の薪にでもなるだろ!」
「了解!」
 ペチカはパルシェンを力任せに投げ飛ばす、少しばかり狙いがずれてしまったが、そこは相手もベテランの探検隊である。空中で水を放出し、姿勢を制御しながらな民利を発動、広範囲を巻き込んで大量の水をまき散らす。
 それを見送った後、ペチカは大木のような腕を振るって太い木に燕返しを見舞う。一発では切れなかったが、何度も何度も繰り返すうちに木はミシミシと音を立てて倒れていく。自分の胴体よりもよっぽど太い木を切り裂く経験は今までなかったが、燃え盛る炎とは逆方向に倒れたようで何よりだ。
 ほかの場所でも、次々と木が切り倒され、燃え移る前に泥や水をかけられ、延焼を防ぐよう頑張っている。中には、もらい火の特性を生かして燃えた木に突っ込んで自慢の爪で木を切り裂くウインディのような勇敢な者もいる。
 炎に強い水タイプのペチカも、炎が近くにある分には耐えられるが、やはり炎に近づくのはあまりに危険であった。やはり、自分が出来るのは木を切り倒すこと。延焼を少しでも防ぐことだ。燃え盛る木を倒すのは炎タイプのポケモンにでも頼むほうが賢明だろう。
 木を切り倒すのは時間がかかるため、一瞬で出来る水かけはこまめに行い、出来る限り火の回りを遅くする。近隣の村の住人まで駆け付けて、落ち葉を運んだり、切り倒した木をさらに別の場所へと運んだり、水タイプの技を使えないものであっても、サイコパワーで湖の水を運んだり、泥をかけたりと、各々の出来ることをやって、少しでも炎による被害を食い止めようと奮闘する。
 道具屋が無料でいいからとPPマックスやヒメリの実を大量に届け、街の料理屋も食事を届けて、現場で必死に働いている者達をサポートする。発見が早かったこともあり、大きな被害を出す前に食い止めることはできたが、広範囲の森が消失してしまい、森はすっかり無惨な格好になってしまう。
 枝葉は焼け落ち、木々は焼失して真っ黒こげ。樹は大きく育てば周囲の街に輸入できるような一つの産業だったのだが、これでは台無しだ。火を消し止めた後、しばらくみな呆然としていたが、時間はもう夕方。一日にやるべき仕事は何一つ終わっていない状況だ。皆、煙が出ているところを念入りに消した後は、自分たちの仕事へと戻っていくのであった。
 町の住民には暗い雰囲気が支配していたが、ギルドではその暗い雰囲気を吹き飛ばすように、話題はペチカへと集中する。
「めでたいねぇ、ダクマの嬢ちゃん! あんた進化したのかい! いや逞しい!」
 ラプラスがペチカを見下ろして笑う。
「こりゃ、尻に敷かれそうだな、エースバーンの坊主。女房を怒らせないように機嫌の取り方は学んでおけよ? なんせ女房ってのは、伝説のポケモンよりも怖いんだ」
 ギルドでは先輩格のイオルブがそう言ってカミュンを脅す。祝福する声もからかう声も半々だ。カミュンとペチカの同種の他のポケモンははまだ全員進化しておらず、体を極限まで鍛えることによって平均よりもはるかに早く進化してしまったため、子ども扱いしたい気持ちと大人扱いしたい気持ちが混ざっていることが要因だろう。
「おいおい、今更だろ? こいつが怖いのなんてダクマのころから知ってるし! ウーラオスになったらさらに怖いのは承知の上だって」
 そんなギルドの先輩たちの気持ちを知ってか知らずか、エースバーンはそのノリに乗っかって、おどけて見せる。
「こら、エースバーン! 私は怖くないって!」
 からかわれる対象のペチカは、耳を赤くして抗議するが、からかう言葉と祝福する言葉の雨はそれからも続くのであった。

 ふたりは散々もみくちゃにされた後に解放され、その後両親に報告するべく、ペチカの実家へと向かって行く。
「まーったく、お前俺のいないところで進化しちゃうんだもんなー……お互い、ダンジョンの中で戦ううちに進化とかだったらお互い恰好ついたのにな」
「わかるー。本当なら私もカミュンの前で進化したかった。でも、お互い様だよね」
「そうだな、俺も進化するところ見たかったし見せたかった。でも、そんなことはどうでもよくて……お前、連撃の型でいいのか? 
相当悩んでいたし、じいさんと同じ姿になりたかったんだろ? 連撃の型に決めちゃって、後悔はないのか?」
「うーん、よく考えたらさ。私のおじいちゃんが格好いいのって、別に一撃の型だからじゃなくって、いろんな人助けをしてたからなんだよね。それで、沢山の人に感謝されて、今でも近所はもちろん、街の外の人からにも慕われているわけでさ。……得手不得手はあるけれど、どっちの姿になっても結局メリットとデメリットは五分五分なのかなってさ。
 まぁ、あなたとの相性の兼ね合いもあるから? 全くの五分五分っていうわけではないけれどさ。ま、結局のところ、今回必要だったから連撃の型になったってことで後悔はしないよ。人助けをするから恰好いいなら、今回人助けをできた私は格好いいってことだしね」
  自分自身に言い聞かせるようにペチカは言う。
「そこまで悟ってるなら、俺が何か言うこともないな。ま、苦手なタイプがいるようなダンジョン、苦手なタイプのお尋ね者はほかのやつに任せりゃいいってことだな」
「そうそう、適材適所ってことで。私たちはエスパータイプが多いダンジョンに行きたくないだけで、逆に岩とか地面タイプの多いダンジョンならば行きやすいし? 後悔することなんかよりも、出来ることを考えないとね」
 とっくに進化できるようになってからというもの、何ヶ月も悩んでいた彼女の姿が嘘のように、今のペチカの表情は生き生きとしている。進化してすぐに、森の消火活動に役立てたことが嬉しいのだろう。どんな姿でも役立てればそれでいいと吹っ切れている。
 そんなウキウキ気分のまま、ペチカは実家に帰って親に進化した姿と進化の経緯を説明した。火事の処理のために進化の迷いを吹っ切るとは、ここまで善人に育てようと頑張った甲斐がある、と両親は喜んでいた。お祝い会のためには秘蔵の酒を出され、脂の乗ったサシカマスの塩漬けも、本来ならば保存食だが冬を待たずに祝いの席に出された。
 肉を食べられないカミュンだったが、これでもかと大量に出された山菜鍋をたっぷりとごちそうになり、宴の後はご機嫌のまま自分の家へと帰っていった。

 そして翌日。前日の酒も少しばかり残っているが、二人はダンジョンに赴く必要のある依頼を受けるべく、ギルドに向かう。残っている酒は、依頼を受けて目的地に向かうまでの間に抜けるだろう。
「なぁ、ペチカ!」
「お、おはよう……ちょっと、挨拶もせずにいきなり何!?」
「お前が進化してくれたのはとてもうれしい。やっぱり、相棒が成長してくれたのは素直にうれしいし、すごく美人だし、やっぱり強くなれば今まで以上に難しい依頼も受けられるしで、いいことづくめだな!」
「あぁ、うん……美人、ってそうかな……うふふ」
「が、やっぱり、進化したらあれをやらなきゃな!」
「た、鍛錬かな?」
「それもいいけれど、エッチなことだ!」
 すっとぼけて見せるペチカだったが、当然のことながらカミュンの答えは違うものだ。
「だよねぇ、前々からずっと言ってたし……でも、私まだ心の準備が……」
「んー……でもよぉ、心の準備、心の準備ってずっと言ってたら何もできないぞ? ほら、進化の時だってやってみたら大したことがなかったわけだし、やろうぜ! やってみたら案外、恥ずかしいとかそういうのは大したことなくて、体のほうは毎日求めるようになって毎日セックスしたくなるかもしれないだろ?
 それなのに食わず嫌いして先延ばしして、意を決してやったらとても楽しくて……こんなことならもっと早くやっておけばよかったなぁ……なんて思ったりしちゃうかもしれないぞ。今日ここでセックスすれば! そんな思いをしなくても済む! 人生を無駄にしなくて済むんだぞ!」
 カミュンはペチカへと熱く力説する。その勢いに押されて、ペチカは自分よりはるかに体格の小さいカミュンから後ずさって距離を取る。
「うぅ、そういわれると……なんか、すごい無駄にしているような気もしてきたんだけれど……」
「いつまでももじもじしても、その時間は無駄になっちゃうからな! 思い立ったが吉日! 善は急げ! メメント・モリだ!*3 俺は逃げないけれど、時間はいつだって逃げ続けるんだからな!?」
「その、カミュンがエッチなことにかける意気込みはわかったから……うん、そうだね、確かに人生を無駄にする気がしてきたから……どこか、人気(ひとけ)のないところに行けたら、そこで……やってもいいけれど……で、でもあれだね。水気があるほうがいいかな。体を洗えるように川とか湖の近くがいいね……帰ってきたときに匂いがついていて色々と言われるのは嫌だし……」
「エースバーンは淫乱だとか性欲が強いとかいろいろと脅されていたし、実際その通りなんだけれど……そのことでギルドの皆からかわれるのも面倒だしなぁ……いろいろ勘繰られると確かにうざったいしな」
「でしょ? だから、ダンジョンに入る前にやっちゃって、そのあと体を洗って、そうすれば匂いも消えるでしょ……で、カミュン。ひとつ聞きたいけれど、子供が出来ないような配慮はちゃんとできてるんでしょうね?」
「そりゃあもちろん! 親もそのことについてはめっちゃ心配してたからな。だから対策は用意するよ。性欲押さえることなんて不可能だからな!」
 自信満々に言い放つカミュンの顔を見て、ペチカは何とも言えない表情をする。
「……そう。エースバーンって大変なんだね」
 ちゃんと準備をしていて偉いというべきなのか、それともすでに準備をしているとかどれだけ性欲が有り余っているのだというべきか、色々な言葉を考えたペチカだったが、そのすべてを飲み込んで苦笑する、
「確かに男は男で大変だけれど、大変なのは付き合わされる側だっていうけれどな。母さんいわく……毎日求められたって。だから、もしかしたらペチカには苦労賭けるかもしれない。その分、仕事で俺が稼いで楽にさせてやらないとな!」
「それを誇らしげに言うのはやめて……っていうかカミュンも毎日求める気!?」
 進化して、まじめに話す話題がこれである。カミュンも、もうすぐ童貞を捨てられそうだからと舞い上がっているところはあるのだろうけれど、すでにして彼のテンションについていけないところを鑑みれば、付き合わされる側のほうが大変という、エースバーンに対するカミュンの母親の評価は間違っていなさそうだ。
 せっかく進化したのだから難しいダンジョンに挑戦しようとか、体の使い方を慣らさないととか、そんな会話の一つでもしたかったが、この調子ではカミュンはセックスをしない限りはまともな会話は望めなさそうである。
「性欲が強いのはわかっててカミュンと付き合い始めた私も、それは覚悟の上だったけれど……これは強烈ね。カミュンのお母さんから話に聞いた通り過ぎて……ちょっと大げさかと思ってた」
 ペチカは大きくため息をついた。だが仕方ない、惚れた弱みというものである。
「あー……でも、その、あの。ペチカに嫌われるくらいなら俺も我慢するから……俺、セックスはしたいけれどペチカに嫌われるのは嫌だぞ!」
「いいよ、カミュンがつらいところを見るのもなんだし。どうせいつかはやることになるんだし、私でいいなら……でも、進化した手で変な噂を立てられるのはやっぱり嫌だから、そこは気遣ってくれるよね?」
「大丈夫大丈夫それくらい我慢できるって!」
「自慢にならないからねそれ……」
 なぜか自慢げなカミュンの態度は、ペチカを苦笑させた。

 進化を終えた二人は、体を慣らすためにと、今までと同程度の難易度の仕事を受けることにした。体を洗う場所が欲しいというペチカの希望に合わせ水辺にある不思議のダンジョンへと赴く。目的地が近づくころにはすっかりと酔いもさめ、素面の状態に戻ったのだが、ダンジョンの近くにある人気のない水辺へと向かうまでの間、カミュンはワクワクして足がついつい速くなり、ペチカはもじもじして気が付けば遠くにいるカミュンに足並みをそろえるのが大変だった。
 いつもダンジョン突入前の野営地として利用している、積み上げられた石のかまどの跡が残っている場所にたどり着くと、ペチカは照れくささからカミュンの顔をまともに見ることはできなかった。お互いが小さいころから出会い、強くなるために切磋琢磨し、その後親から独り立ちする前に、実家から通う形で探検隊になり、今は独り立ちしてお互い別々の部屋を借りて暮らしながら探検隊としてのコンビは継続中。
 子供のころは仲のいい喧嘩友達だったというのに、いつの間にか一緒にいることが当たり前になっていった。探検隊の仕事が軌道に乗り始めたころから、少しずつ恋心に芽生えてしまい、いつかはこういった関係になるような気もしていたが、それが進化した翌日だなんて思いもしなかった。
 心の準備が何もできていないが、カミュンのほうはもう準備万端といった感じで、野営の準備を喜々として行っている。温度差がすごい。

 いつもはペチカに任せている作業も、任せてくれとばかりに率先して行い、ペチカを休ませようとしてくれる。その気遣いに甘えるようにしてペチカは心を落ち着かせる。テントが完成し、食事を終えたらすぐにでも始まるだろう。そんな時どんな顔をすればいいのか考えながら、カミュンの作業をちらちらと伺っていた。逆にカミュンのほうも、ちらちらとペチカのほうを伺っていて、ペチカが逃げ出さないか心配なようだ。

「やっぱ、不安か?」
 干し肉と木の実を焼いた夕食を差し出しながらカミュンが力なく微笑みかける。
「ペチカ、やっぱり無理そうなら我慢せず無理って言っていいからな。俺もここにきて、お前に嫌われるのが怖くなっちゃって……お前の気持ち全然考えていなかったし」
「そうやって、私を気遣ってくれるところはやっぱりいつものカミュンだね。まー、失敗したというか、もしも気持ちよくなくって残念な結果になったりしたら、その日一日は機嫌が悪くなるかもしれないね」
「だろ?」
「んー……でも大丈夫だよ。初めて料理を一緒にした時、木の実を焼きすぎて台無しにしたし、難しいダンジョンに挑戦して大失敗して救助を呼んだときとかも、今ではいい思い出でしょ? 失敗してもいいよ、気楽にやろ? もちろん、成功するように心がけるのは大事だけれどさ」
「うん……そー言ってくれるなら。俺も気兼ねなくやれるかな」
 カミュンは一度深呼吸をしてから夕食に口をつける。一度心を落ち着けないと、焦る気持ちに後押しされて、早食いが止まらなくなってしまうだろう。努めてゆっくり食べ終えてから歯を磨くと、ペチカがいつ準備ができるだろうかとそわそわしながら待っていた。しかし、ペチカは恥ずかしがって、もじもじしているだけ、彼女の準備を待っていたら朝日が昇っても終わりはしないだろう。
「ペチカ! やるぞ」
「う、うん……」
 結局、準備が出来ていないなら準備をさせるしかないのだと気づき、カミュンは地べたに座っているペチカの手を取った。
 誰が来るわけでもないとは思うが、あまり見通しの良い場所でというのは何なので、茂みに我が身が隠れる場所まで移動する。人気のない場所までたどり着いたカミュンは無言でペチカを押し倒す。思わず肩をこわばらせたペチカだったが、一度目を閉じて深呼吸をすると、意を決して彼の求愛に応えた。
 カミュンよりもはるかに大きく逞しい体を横たわらせると、運動しているわけでもないのに心臓が高鳴った。ペチカを見下ろしているカミュンも、いざ相手を目の前にすると緊張でなかなか行動に移すことが出来ない。
「どうすりゃいいんだろう……」
 カミュンはペチカを眺めたままどうしたものかと悩んだ。ペチカは進化した際に腰回りから前掛けのような体毛が垂れ下がっており、それをめくった先に生殖器がある。
 その前掛けをはずして、隠されている彼女の大切な場所を見てみたいのだが、いきなりそんなことをしてしまっては情緒も何もない。まずは女性を気遣え、というのが家族や探検隊からのアドバイスだ。がっつくことなく段階を踏んで、まずは軽いふれあいからやるべきだと。
 まずは彼女の胸に耳を当てる。ものすごくドキドキと脈打っており、相手も緊張しているのがよくわかる。カミュンはペチカの体の横に座り、彼女の体を優しくなでる。今までも軽くハグをしたりすることはあったが、こうやって長い時間触れ合うのはよほど寒いダンジョンに出かけたときくらいだ。ただ、いつもと違うのは、こうして大人の体になってからは初めてだし、触り方も遠慮がない。
 これまで添い寝をした時は、炎タイプの体温を活かしてペチカを凍えさせないためにやったくらい。そんな時は体に触れる面積は最低限にしようと努力していたが、今はその逆。体に触れる面積を出来るだけ多くするかのように体をべったりとつけている。
 いつもは触れ合わない場所を他人に触れていることでペチカも少しだけその気になってきて、彼女もカミュンの背中に腕を回して、腰や尻などを撫でまわす。カミュンはこれだけで興奮がいやおうなしに高まってしまう。
「やっぱお前体でかいな……」
 彼女の手で尻全体を撫でられてカミュンは苦笑する。自分のほうが体が大きいほうが格好いいのに、ここまで体格差があると自分が完全に子供のようだ。こうなることはペチカの親戚の体格を見ればそうなることはわかっていたとはいえ、実際に触れあってみるとその差に愕然とする。
 そんな小さい雄が相手でも、ペチカは特に気にする様子もないようで、カミュンを愛でるさまはまるで年の離れた兄弟をあやすかのよう。ちゃんとエッチな気分になっているのかどうか、心配になるほどだ。カミュンはといえば、もう下半身は痛いほどに勃起している。頭は足などの加熱される部分も、相手を低温火傷させそうなくらいには熱を帯びている。
 ふと油断していると、カミュンはペチカから力強い抱擁を受けた。やはり彼女は途方もない腕力で、背骨を折るほどの殺意こそ感じないものの、脱出させる気を感じない程度には力がこもっている。
「ペチカ、苦しいって」
「ごめん、ちょっと、物足りないなって」
 カミュンに言われ、ペチカは慌てて力を弱めてはくれたが、首を持ち上げてカミュンを見つめるまなざしは少しだけうるんでいた。
「私もようやく決心がついたから……カミュン、今度はその、私を気持ちよくしてみてよ」
「気持ちよくって……」
 どうすればいいんだっけと、頭の中で何度も予習した映像が頭をよぎる。カミュンが探検隊仲間の男女数人や知人などから聞いたやり方によれば、こういう時は口づけをすればいいのだろうと、必死で記憶を絞り出す。
 深呼吸を挟んでから、ペチカのいかつい顎に手を添えて誘導し、自分の口と引き合わせる。ずらりと凶悪な牙が生えそろう口を改めて間近で見ると、こんなものに噛みつかれたら死んでしまうなとふと思う。
 自分に関しても同じで、悪意を持ってこの至近距離で自慢の脚で攻撃すれば、ペチカもただでは済まないだろう。相手が絶対に攻撃してこないとわかっているからこそこうやってお互い無防備をさらし合っているのだ、信頼関係がなければセックスなんてものはできないと改めて感じる。機嫌を損ねたらこの牙で噛みつかれるかもしれないんだなぁ、と自覚したカミュンは、へまをしないようそっと、お伺いを立てるようにしながらペチカへと口づけた。
 彼のこの行動、ペチカは抵抗なく受け入れるどころか、むしろ相手が積極的に応じてくれた。ペチカはカミュンの後頭部を優しく抱いて、積極的に口づけを返す。どうやらこの行動は正解だったという雑念を感じながら、カミュンはペチカが満足するまでその口づけを続けた。
 一度、深呼吸をしようとカミュンが口を離すと、ペチカはカミュンを開放する。自由になった体で冷たい夜の空気を吸って呼吸を整えたカミュンは、ペチカがまだもじもじとしているのを感じて、一度彼女の体を全体的に見まわしてみる。逞しく肉付きの良い体だ。ペチカは直視されるのが恥ずかしいのか、少し顔を逸らしていた。しかし、下半身のほうはわかりやすいくらいに股をこすり合わせていて、少し発情しているのが伺える。
 カミュンが前掛けのようなペチカの体毛をめくりあげようとすると、彼女は顔を逸らしながらも無言で頷く。言葉は交わさなかったがやってくれ、と言わんばかりだ。めくりあげた体毛の先を見てみれば、彼女の体はすでにその気になっていたようで、触れてもいないのにしっかりと濡れている。ただ、いくら濡れていると言っても、まだすぐにカミュンのペニスを突っ込めるわけではないというのは先輩方からさんざん言われている。
 柔軟運動をしていない朝は驚くほど体が固くなるように、まだほぐされていない彼女の下半身は男性を受け入れられるほど柔らかくはなっていない。それでも、体格ではるかに劣るカミュンであれば何の問題もないような気もするが、念には念を、そして情緒を大事にしなければいけない。
 彼女の体毛は、妙な癖があるのだろうか、体のほうにめくりあげても自然と股のほうへと戻り、大切な場所を隠そうとする。そのため、カミュンは片手で体毛を押さえ、もう片方の手でちょんちょんと控えめに彼女の秘所をつついて回る。やはり特別な場所だけあって彼女の反応も面白いくらいに素直だ。自分以外の誰かに触られるのが初めてな場所だけあって、刺激に慣れていないのだろう。
 くすぐったいのか気持ちいいのか、カミュンが触るたびにペチカもピクピクもじもじと反応する。割れ目の周りだけでなく、割れ目内部に小さな手を這わせると、より一層彼女の体に力が入るのを感じる。カミュン自身、体が火照ってどうしようもない時など、自分で自分を慰めたことがあるからわかる。気持ちがいいと体が自然と動いてしまうものだ。
 ペチカがこういう風に反応しているということは、そういうことなのだろう。ふと、ペチカがどんな表情をしているのか見ようとすると、彼女は口に手を当てて顔を隠しており、声も出ないよう必死で抑えているようだ。
「気持ちいいの?」
「そりゃ、ね……でも、自分でしててもこれくらいは……」
 ペチカは強がりを言う。この程度の気持ちよさは慣れっこと言いたいのだろう。そんなことを言われると、カミュンは意地でも声を出させたくなる。カミュンは痛みを与えないよう注意しつつも、彼女のことをどんどん攻め立てた。小さな手を割れ目に這わせたり、割れ目の上のほうにある小さな突起に触れてみると、ペチカは今までで一番大きな反応を見せた。
 大きな声を出すことはしないが、鼻息が漏れて身を縮める。胸が上下し、息を荒くしているなどと、明らかに快感を感じている。この反応が面白くて、カミュンはもっともっと、激しくペチカの突起を撫でる。すると、ペチカは面白いように反応する。逃げるように体をよじり、これ以上やらせないとばかりに股を閉じたりなど、無言で抵抗を試みていた。
「どしたの、ペチカ? 気持ちよくなかった?」
「そういうわけじゃないんだけれど……ちょっと、くすぐったくて」
「くすぐったいってことは、やめたほうがいいのか!? あ、ごめん……気づかなくって」
「そういうわけでも無くて……」
「じゃあどういうこと?」
 ペチカはまだまだ恥ずかしそうで、カミュンのほうをまともに見てくれない。じゃあどういうわけなのか? という問いにペチカは応えることなくそっぽを向いた。ならば、彼女が自発的に口にするまで同じことを続けてやろうと、意地悪なことを考える。
 ペチカが鼻息を押さえられなくしてやろうと、カミュンは強引なくらいに彼女のまたぐらを触る。よほどくすぐったいのか、彼女は体をこねくり回すように動いていて、ずっと責め立てたいカミュンはちょっとばかりもどかしい。
 そのため、カミュンは両手で彼女の脚を押さえつけた。カイリキーのように腕が四本あるわけではないので、両手がふさがった彼女を責め立てるのは舌である。
 ペチカのまたぐらにある割れ目、突起に対して、小さくて可愛らしい舌でチロチロと舐めるのだ。口の中で唾液をたっぷりと分泌し、それを潤滑液にして、体の最も敏感な場所を攻め続ける。
 カミュンの舌はざらついておらず、指で触れてみるとすべすべとした感触をしている。傷つきやすい粘膜であっても、この舌を優しく這わせるだけならそう簡単に傷つくことはなく、彼女の体を心配することなくいくらでも舐め続けることが出来る。
 ペチカはカミュンの顔を押しのけたりはしなかった。カミュンの責めを甘んじて受け入れ、なんてことない風を装おうとする。しかし、口を押えて声を出さないように歯を食いしばる姿は、耐えるのも精一杯だと宣言しているようなものだ。そんな状態では体の反応が赴くままに声が漏れるのを止められそうにない。カミュンは聞こえないふりをしてあげているが、彼の敏感な耳はしっかりと彼女の喘ぎ声をとらえていた。
 ペチカはカミュンの攻めがくすぐったいけれど、それ以上に気持ちいい。自分自身でいじっているときには感じなかった高まりを感じて、ペチカは期待と恐怖が半々だ。
 なんせ、自分の体が自分の物じゃないかのような感覚すらしてくる。運動しているわけでもないのに心臓の脈拍が上がっている。酒を飲み過ぎたときでもなければこうはならない。それに、喉から肺にかけてが焼けるように熱い。
 さっきまで聞こえていた周囲の音が上手く聞こえず、ペチカの耳は仕事をしていない。すでに目も仕事を放棄し始め、目を開けているのか閉じているのかあいまいになってくる。当然、鼻や舌なんてとうに仕事を放棄している。自分の周りの様子を知る術すら封じられるような状況に置かれたペチカは、体の焼けつくような感覚に耐えながらカミュンの愛撫に耐え続けた。
 そうして肺からこみ上げた熱が脳まで達した時、彼女の快感があふれ出した。頭が真っ白になるという表現にふさわしい。今まで下半身の一部に集中していた気持ちの良い感覚が、ほぼ全身まで広がった。反射的に脚が突っ張ってしまう。あんまり会館に浮かされた姿をカミュンに見せるのは恥ずかしいと思っていたが、その思いも快感がはじけて吹き飛ばされた。
 今まで張りつめていた快感が体中にあふれだすと、反射的な体の動きを止めようと抗う気力も失われた。驚いたのはペチカだけじゃなくカミュンもだ。ペチカが苦しみもだえるような声を上げたかと思うと、頬に膝蹴りをたたきつけられたかのような衝撃まで食らってしまって、一瞬何が起こったかわからなかった。
 衝撃から頭が復活した時ペチカを見ているとぐったりして疲れ果てたかのような彼女の姿。荒い息をついたまま、体を痙攣させている。
「あの、大丈夫?」
 カミュンがペチカの顔を覗き込む。口が開けっ放しになったペチカの目は虚ろで、とても正気の状態とは思えなかったが、痙攣が収まると彼カミュンに体を引き寄せた。されるがままにペチカの体の上に乗せられたカミュンは、小刻みに上下する彼女の胸、そして胸から感じられる彼女の体温、そして鼓動の速さに唖然とする。
「あー……もしかして俺、ペチカに無理させた?」
 自分はこんな状況になったことがないカミュンには、手痛い失敗をやらかしたとしか思えないような状況で、カミュンはずいぶんと不安げな表情をしている。
「いや、大丈夫……あまりにも気持ちよかったから」
「え、あれで? 良かった、なんか苦しそうな顔してたように見えたから……でも、あれか! 気持ちよかったなら大丈夫か」
「う、うん。でもあれ、疲れるからちょっと休ませて……自分でこうなったことがないから……ちょっと、慣れてなくて」
「確かに、あんなに体が震えていて、すごく疲れそうな感じだったな……全身すごく力がこもってて、膝蹴りまでくらってて……」
「え……蹴っちゃった? ごめん……」
 先ほどのペチカの様子をカミュンが説明し始めると、そんな状態をカミュンに見せてしまっていたのかと、ペチカは恥ずかしくて思わず顔を隠した。
「うーん、でも、気持ちよかったら体が自然と動くこともあるよな。だから俺は怒っていないって……」
「いや、それはわかるんだけれど……蹴りまで食らわせちゃっただなんて恥ずかしくって」
「気にするなって。むしろそれだけ気持ちよかったなんて、俺としちゃ誇らしいくらいだし」
 満面の笑顔で悪意もなく言ったつもりなのだろうが、ペチカにはカミュンにいいように弄ばれてしまったことが恥ずかしいのだ。それがわかっていないカミュンは性質が悪いのだが、彼は温度差にあまり気づいていないようであった。
「で、それはいいんだけれど……ペチカ、俺ももう我慢できなくって……俺、やってもいいかなぁ?」
 カミュンは自身の下半身を見る。ギンギンに張り詰め怒張した彼の性器が、存在感を放っている。今までやられてばっかりだったペチカは、今なら立場を逆転できそうだと、少し気怠くなった体を引き起こす。
「じゃあ、私も気持ちよくしてもらったし……そのお礼をしないとね。いいよ、私の体……カミュンにあげる」
「あぁ、お願い……俺もお前を楽しませなきゃと思って、ずっと我慢してて……」
「わかったわかった。もう、エースバーンは性欲が強いのに、我慢してたんだから辛かったでしょ?」
「そりゃもう……」
「じゃあ、カミュン。まずは私が気持ちよくしてあげるから横になって」
 カミュンを横たわらせると、彼は肩幅程度に足を開いたまま、期待に満ちたまなざしでペチカを見上げている。そんな彼の大きくなった性器をつまみ上げると、尻をすぼめ、腰を突き上げた。無意識のうちにそんな体制をとっているあたり、相当余裕がなかったのだろう。本能に支配されているなぁ、とペチカは苦笑する。
 面白いので、ペチカはカミュンの性器をさんざん上下に扱いて、気持ちよくしてあげてから指を離してみる。少しずつこみ上げてきた快感が急にお預けになったカミュンは、『え?』と心底意外そうな顔をしてから、恨みがましい表情に変わってペチカを見る。
「な、なんだよ……もう焦らさないでくれよ」
「んー……だって反応が面白くって……。ここで快感を取り上げたらどうなるかなぁって」
「面白がっている場合じゃないんだって、俺は限界なんだから……頼むよペチカ」
 カミュンの言い方からすると、本当に余裕がなさそうだ。彼の体は小さく、組み伏せてしまえばカミュンの勝ち目はないので、やろうと思えばこのままずっと焦らして遊ぶこともできるが、そんなことをしたら彼は泣いてしまうんじゃなかろうか。
 さすがに、彼がそこまで追いつめるのもかわいそうなので、ペチカも仕方ないなぁと素直に気持ちよくしてあげることにする。さっきと違って意地悪することなく、彼の性器をつまんで上下に扱く。やはり、よほど気持ちいいのか、もどかしそうに腰を上下する仕草が愛らしく思える。彼の性器はすでに透明な汁を先端から流しており、ピクピクと小さく脈動していて、今すぐにでも射精を求めているようだ。
 調子に乗ってカミュンの性器を口にくわえ込むと、彼はよほど気持ちよいのか、ペチカの頭を抑え込んだ。何度も腰が浮き、さらなる快感を得ようとカミュンは必死だ。
「大丈夫? 気持ちいい?」
 ペチカは男性器を舐めるのも初めてで勝手もあまりわからなかったが、そんなつたないものでも、これまで耐え続けてきたカミュンには効果抜群だ。
「気持ちよすぎて……すぐに出しちゃいそう……あ、もう無理、口離して」
 このままではすぐにでも射精してしまいそうだが、カミュンは口の中で気持ちよくなって終わるだなんてのはありえない。やっぱり、出すなら彼女の中で、である。
 そんな弱音を吐いてしまうくらいには限界近い。ペチカは言われるがままにカミュンの性器から口を離し、彼の顔を見る。興奮しているせいか少しばかり上気した顔。彼の額にある赤い体毛も、いつもよりずっと橙色の光を放っている。
「なに? もうダメになりそう?」
「うん……でも、こんなんじゃやっぱり不完全燃焼だからさ! 出来ることなら……あれを使ってさ」
 カミュンは勃起させた性器をそのままに、荷物をガサゴソと調べて、コンドームを取り出した。不思議のダンジョンで仕留めた獲物の腸を使い、加工した避妊具*4である。これがあれば射精をしても精液が外に漏れることはなく、妊娠しなくなるという代物だ。
 見たことはあったが、間近で見せつけられるのは初めてだ。
「へー……家で見せられたのよりも小さいなぁ……」
「ぐぉ……いや、そりゃウーラオスと比べればそりゃ俺のは小さいし……サイズ合わせたらそりゃ小さくもなるさ……」
「いいのよ。これが小さくても、愛情の大きさは変わらないでしょ?」
「小さいのは否定しないのかよ……」
 ペチカに明るい顔で性器が小さいと言われ、カミュンは露骨にしょげた顔をする。
「畜生、馬鹿にされたままじゃ終われねーし、こうなったら俺が気持ちよくさせてやる……」
「無理しないでね」
 カミュンがやる気を出すのを見て、きっと空回りするんだろうなぁとペチカは苦笑する。
 ペチカは自分の額の炎を明かりにして、自身の性器にコンドームを取り付ける。締めすぎて血流を止めないよう、ほどほどの強さで縛り、準備万端。射精寸前まで上り詰めていた快感がクールダウンするには十分な時間は経った。
「じゃ、行くぞ……」
 カミュンはそう言ってペチカの性器に自身の性器をあてがった。ペチカは先ほどの快感を思い出してごくりと唾を飲み、口元を手で覆うが……しかしながら、思ったよりも大したことがない。カミュンが手でやったときと比べると、彼の性器は少し貧弱だ。そのうえ、今は自分が気持ちよくなるために必死でペチカを気遣う余裕はない。
 普段から足腰を鍛えていた彼も、子作りのために腰を振った経験はなくその腰使いはつたないもの。ぎこちない様子はペチカが見ていてほほえましいものだった。
 さっきまでペチカを気持ちよくしようと頑張っていた時と比べれば、ペチカはちょっと不満だった。夢中で腰を振っていたカミュンは、クールダウンの時間も空しくすぐに果ててしまった。自分が楽しむ分には十分だったが、女性を満足させるにはあまりにも不十分だ。
 射精を終えてため息をついたカミュンは口元を隠したまま黙っているペチカのほうを見る。
「あの、ペチカ。気持ちよかった?」
「うーん……いまいち、かな」
「うぐっ……」
 ペチカに歯に衣着せない評価を下されカミュンは口ごもる。
「最後まで気持ちよくは終われないか……」
「まぁ、仕方ないでしょ……初めてだし。でも、あなたは頑張ってくれたわけだし……それに、私も一度気持ちよくしてもらえたから十分かなって。ほら、そんなものぶら下げてないで、早くとっちゃおうよ」
 ペチカはカミュンを座らせると、彼が装着していたコンドームの結び目をほどく。内部に射精された精液が零れ落ちるのを見て、ペチカは思わず声を上げる。
「ふーん……こういう風になっているんだぁ……出すときはどうなっているんだろ? 出すところ見てみたいな……」
「出すときって……見ててもそんないいもんじゃないぞ?」
「ふふ、かもねー。カミュンはきっと自分のなんて見飽きてるもんね。でも、私は一度も見たことがないからやっぱり知りたいなーって思っちゃうよ……ねぇ、カミュン。もし力尽きていないならさ、二回戦行っちゃわない? また私のこと、気持ちよくしてほしいな」
 ペチカは休憩中のカミュンを潤んだ瞳で見つめる。出したばかり性欲も萎え気味だったカミュンだが、こんな目で見つめられてしまうと断れるわけもない。
「わかった……ちょっと休めば回復すると思うから、その間はペチカを……また気持ちよくしようかな?」
「やったぁ……じゃ、お願いね」
「今度は蹴るなよ」
「気を付けるよ」
 さっきはあまりに気持ちよくて体が跳ね上がり、その勢いでカミュンを蹴り飛ばしてしまった。頑張ってくれたカミュンに対してあまりにもひどい仕打ちであったと、ペチカも恥ずかしい思いだ。反省しようにも、頭が真っ白だったので、姿勢を気を付けるとか、そういうことで再発を防ぐしかなく、手探りだ。
 ともあれ、回数をこなさないことにはどうしようもなく、なんにせよやってみるしかなかった。ペチカは体を横たわらせ、再びカミュンの愛撫を受ける。さっき極限まで気持ちよくなってすぐの時は、触られると異常なまでのこそばゆさを感じて、触られることが不快になるくらいであったが今は体もクールダウンしている。今はカミュンに触れられると、得も言われぬ快感がこみ上げる。カミュンが股間の前掛けのような体毛をめくりあげ、女性器に舌を這わせると、ペチカは気持ちよくて思わず声が出そうになってしまう。ペチカははまたもや口元を手で覆って顔をそむける。
 ふわふわな体毛に包まれたカミュンの手で優しく女性器をいじられると、自分の思い通りにならないもどかしさと、思い通りにならないからこそ思わぬ刺激が飛んできて、それに備えていない体は敏感にその刺激を受け止めてしまう。
 何より、同じ刺激であっても気分が高揚している。長いこと付き合っていた相棒からの愛撫ということもあって、贔屓目に見てもつたない手つき、つたない舌遣いだというのに、それすらもいとおしく思えてしまう。
 カミュンはペチカの反応を見ていたが、やはり声を押さえられているのはつまらない。やっぱり、先ほどの様に驚いて蹴り飛ばしてしまうくらいに快感に翻弄されてほしいのが男のサガだ……蹴らないでほしいけれど。
 先ほどと同じように、彼女の弱いところを重点的に責め立てる。割れ目の中に指を入れ、小さな突起に舌を這わせ、デリケートな粘膜を傷つけないようもみほぐすように力を込めて愛撫する。ペチカは声を出してなるものかと意地を張っているが歯を食いしばっているせいでこめかみがぴくぴくと動き、カミュンの攻めに反応しないよう足にも力を込めているせいか、毛皮の上からでも筋肉に力を込めているのが丸わかりだ。
 こんな抵抗、されればされるほど逆らいたくなってしまう。余裕ぶっていたい彼女の我慢を崩壊させるため、カミュンは秘所を執拗に撫でまわした。
 ペチカは強がって無言を貫いた。だが、余裕ぶって挑発の一言でも言ってやりたかったが、口を開く余裕はなくて、そうこうしているうちにもうこれ以上は耐えられないというところまで快感が張り詰める。それでもカミュンはお構いなしにペチカを攻め続けた。ペチカがもう限界だったことに気づいたのは、彼女の膣が激しく自分の手を締め付けたその瞬間になってからだ。
「あ……」
 ペチカの胎内に入れていた指が激しく締め付けられると同時に彼女の体が跳ねあがり、カミュンは間の抜けた声を上げる。今度はペチカが気を付けていたおかげで蹴られることはなかったが、相変わらずいくら何でもオーバーリアクションなんじゃないかと思うほどの激しい反応だ。口元を手で覆っていても呻くような声が漏れ、本当に苦しくないのか心配になるほど。
 もっとこう、甘くて艶っぽい声を期待していたカミュンとしては、拷問しているような気分になるこの声は色々と心配になるのだけれど、痙攣も収まり口元から手を離したペチカの顔はとても幸せそうだ。
 そのまま、ペチカはしばらく呼吸を整えて余韻に浸っていたかったが、何を考えたかカミュンはその状態のペチカの体に触れ、さらなる愛撫を繰り返した。
「ちょ、待って……まだ体中くすぐったくて」
 触れられると気持ちの良い場所でも、つい先ほどオーガズムを迎えたばかりだと、くすぐったさで触られるたびにもだえてしまう。思わず股を閉じ、体を丸めて対抗するペチカだったが、結局はカミュンの手を固定してしまっただけで、かろうじて指先で敏感な場所をいじられてしまい、ペチカの下半身全体に強い刺激が駆け巡る。
「本当にやめてって! あ、う……おかしくなるって! あく……うぅ……」
 嫌がっているぞぶりは見せているはずだが、それでも続けるカミュンの手で、ペチカは乱されてしまう。こうなると、頭の中には快感と不快感の板挟みだ。脳が沸騰しそうなほどの熱、喉の焼けるような感触、心臓に張り手を受けるかのような痛み。そして、それを塗りつぶすような快感。
 胸の動きは呼吸というよりは痙攣と言える状態だったが、カミュンは構わず愛撫を続けた。おかげで、ペチカは半ば強制的に苦痛を乗り越えさせられる。ペチカは苦痛の先にある強烈な快感に翻弄され、体を丸めて耐えていたのも限界になる。その拍子に体が跳ねあがってしまい、カミュンの顔面にまたもケリが叩き込まれることになってしまった。
 どちらもしばらく立ち上がれないくらいの前後不覚となった状況でペチカはこれ以上カミュンに敏感な場所を触れられないよう、凍えているかのように体を丸くした。通算三度目の絶頂で呼吸もままならず、疲れ果てた彼女の精一杯の抵抗が体を丸めることであった。この体制を取ってしまえば、体格で劣るカミュンがこれ以上彼女をいじくり回すことは難しい。吹っ飛ばされた彼もようやくペチカの顔を恐る恐るのぞき込む。
「あの、大丈夫?」
 さすがに調子に乗りすぎたかと反省してカミュンも申し訳なさげだが、ペチカはなかなか反応をよこさない。相当消耗しているようだが、全くの無反応というわけではなく、一瞥くらいはしているので、これ以上悪化することはないだろう。しかし、疲れ果てた表情の中には少し恨めし気な気配も感じられた。
 これは、ペチカが元気になったらこちらも反撃されることを覚悟せねばならないだろう。

「カミュン、いったい何考えてるの……」
 痙攣も収まり、ようやく呼吸が整ったペチカが、心配そうに見守っているカミュンをにらみつける。
「あー……なんというか、こっちも連撃なのかなぁって。連続で気持ちよくなれたら面白いかなって……」
「そんなわけないでしょ! 発想がヒバニー並みに幼稚じゃない! いくら私が連撃の型だからって、あんなのを連続でやってたら死ぬわ! っていうか、カミュン。私にあれだけのことをやってきたってことは、カミュンはカミュンで覚悟はできてるってことだよね?」
 ペチカは言いながら体を起こし、カミュンの手を掴む。
「あ、それは……」
「ふふ、問答無用だよ。そろそろそっちも回復しているみたいだし? 今度は私に好き勝手やらせてもらうからね」
 ペチカはカミュンを強く抱きしめた。体格差は絶望的、こうなってしまえばカミュンが逃げることは不可能だ。
「じゃあ、さっそく……今度はカミュンが気持ちよくなるところ、見せてもらおうかな?」
「お、おう」
 ものすごい力で後ろから抱きしめられたカミュンは諦めてペチカのなすがままに身をゆだねることにする。軽く握られた性器が上下に扱かれると、ほんのり仁割と快感がこみ上げてくる。ペチカは優しい手つきで、いつもカミュンが自分を慰めるときよりもずいぶんと弱い力だ。もどかしいと思っていたら急に勢いよく扱かれるようになって、カミュンは腰が跳ねてしまった。少し痛いが、それでもペチカの手に触れられているというだけでなんだか特別な気分になる。
 ぎこちない手つきだったが、それでもペチカの観察力は大したもので、カミュンが腕の中でどういう風な反応をするか、きっちりと感じていたらしい。少しずつ気持ちのいいやり方を覚えていった彼女は、容赦なくカミュンを気持ちよくさせる。
「ペチカ……ちょっと激しい……」
「いいじゃん。そのまま気持ちよくなっちゃいなよ」
 このまま射精するのはもったいないと抵抗するカミュンだが、ペチカの腕力で後ろから押さえつけられると、カミュンの腕力ではとても抜けられそうにない。振りほどこうにもそれはかなわず、彼女の手の中で無様に射精してしまう。びくびくと性器が震えて、生暖かい精液が手の中に放たれる。手の中で性器が震える感触、ねばついた粘液の感触。
 初めての感触、光景をペチカはよく観察し、手の中で味わった。カミュンはすっきりしたのか、ペチカの腕の中でため息をついていたが、それで終わりではなかった。ペチカはカミュンの体を強く抱きとめると、射精したばかりのカミュンの性器を引き続き扱き続けた。
 絶頂を迎えたばかりの性器というのは男女を問わず敏感だ。触れられる程度ならともかくだが、それまでのように刺激を与え続ければ、くすぐったい感触ですぐにでも手を放してほしくなる。腰が引け、足をねじくって暴れても、ペチカは彼を離しはしない。先ほど、自分が抵抗してもやめてもらえなかったカミュンに対する意趣返しだ。
「ペチカ、ちょっとそれ、やめて……もうきつい……」
「と、私も似たようなことを思ってたんだけれど、無視されちゃったからね。私がこっちのほうも連撃の型かどうかだったっけ? カミュンも下半身はお盛んだし、連続で行けるでしょ?」
 ペチカは意地悪な顔でカミュンの耳元にささやいた。
「ご、ごめんって……ちょちょちょっちょ……無理だってこれ、ちょ、ほんとにやめて……」
 カミュンは本気で辛いようで、ペチカの強引な抱擁から逃れようとするが、それでもペチカは止まらない。しかも、カミュンが中途半端に暴れている分、ついつい力が入ってしまい、カミュンは性器を引きちぎられる痛みと握りつぶされる痛みを交互に味わうことになって散々だ。
 結局、そのまま性器を勃起させたまま維持することはかなわず、連続で射精させようというペチカの目論見は失敗に終わった。萎えてしまった性器は、ペチカの乱暴な愛撫もちょっと鬱陶しいくらいにしか感じなくなってしまった。
「あららぁ……残念。元気がなくなっちゃった……」
「残念、じゃねえよ……今のかなりきついんだからな」
 ペチカの腕の力がようやく緩んだので、カミュンは彼女の腕の中から這い出て彼女と向き直る。
「うーん、それはお互い様だし? これに懲りたら、私がもう気持ちよくなったのに、触り続けるようなことなんてしないでね? 力は私のほうが強いんだから」
「う……悪かったよ……今度は無理をさせないから……」
 性器を乱暴かつ無遠慮に扱かれ、酷い目にあったカミュンは耳が垂れかかっていて、本気でひどい目にあったという表情をしている。探検の最中に大怪我をした時よりもしょげているんじゃなかろうかというほど彼は小さくなっていた。
「でも、なんだかんだ、ペチカも楽しんでるみたいだな……よし、少し休んだら三回戦行こうか!」
「いや、あ、明日ダンジョン出かけるし、疲れたから終わりにしよっか……」
 やはりエースバーンは底なしだと、ペチカは苦笑しながらやんわりと断る。
「えぇ!?」
「だって、なんか体が熱いし腰にあんまり力はいらないしで、調子悪くなると仕事に支障が出るし、まだ私この体になってダンジョン潜るの初めてだし……」
「うぅ……仕方ないなぁ……じゃあ、ダンジョンから戻ったら……しよっか」
 カミュンは目を輝かせ希望を口にするも、ペチカは彼の口を塞ぐ。
「そんなことしたら匂いでほかのギルドメンバーにバレるでしょーが……」
 ペチカはそう言ってため息をつく。どうせいずれはバレることになるだろうが、進化して初っ端でそんなことをしたと思われるのはなんだか恥ずかしい。
「これから南海だってできるんだし、今日はこんなところで、ね?」
「むー……仕方ないな……。でも、今後もやってくれるってことだな! じゃ、また沢山道具買っておかなきゃ!」
「……それで、噂されないようになるべく知らない街で買おうね」
 カミュンのことだ、大量に避妊具を購入してしまうこともあるかもしれない。そんなことをしてしまえば毎日のようにやることをやっていると宣言しているようなものである。
「うー、それもそうだな……よし、体を洗ったら寝て、起きたらダンジョンに行くか!」
「切り替え速いなぁ……」
 カミュンはすぐに立ち上がり、キャンプ地のすぐ近くにある水場へと向かって行った。まだ少し体中に力が入りづらいペチカは、まだ重い体を引き摺るようにして水場へと向かうのであった。
 結局、進化すれば進化したことが良かったと思えるし、セックスをすればセックスしてよかったと思えるようになるものだ。憧れた姿を神聖視して二の足を踏むくらいなら、思い立ったが吉日と、とっとと挑戦してみるのがいいのだ。思えば探検隊に誘ったのもカミュンだし、進化したのも初体験も、カミュンの猛烈な勧めがあったからだ。思い描いていた憧れと現実は違かったけれど、なんだかんだそれでいいと思えている今がある。
 まだまだ人生で踏み出していない憧れはいくつもあるけれど、それも早めに済ませておくのが正解なのかもしれない。毎日心配事もなくて幸せそうなパートナーを見て、ペチカはもう少しあいつを見習おうと心に決めるのであった。


*1 波乗りはできないがダイビングはできる。人を乗せて泳ぐのは得意じゃないのかもしれない
*2 いたずらごころを発動させない
*3 自分がいつか死ぬことを忘れるなという意味の言葉。今を生きろということ
*4 昔はそのような素材で作られていた。

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Last-modified: 2021-01-02 (土) 20:57:06
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