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感謝の気持ちを花束に

/感謝の気持ちを花束に

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作者:ユキザサ



「一人ぼっちの夕食にも慣れちゃったなぁ」
 最初は不安に感じた一人での食事も半年過ぎたころから慣れ始めた。むしろ一人で誰にも何も言われないこの環境を今ではありがたく感じるほどである。だがやはり少しの寂しさは残っているわけで、消えていたテレビの電源を付ける。流れ出したバラエティ番組を見ながら野菜炒めに箸を伸ばすとインターホンが鳴った。
 別に何か通販で頼んでいた訳でもないため、最初は何かと思ったがわざわざ確認をするのも面倒ではーいと声をかけてからドアをガチャリと開けた。立っていたのは宅配便のお兄さんでさわやかな作り笑いを浮かべながら受領の印鑑を求めてきたので、即座に印鑑を押すとまたさわやかな作り笑いを浮かべて荷物を私に渡すと軽やかな足取りで安アパートのサビた階段を下りて行った。
ズシリと重い荷物の送り主は母だった。一人暮らしを始めてから二か月に一回ほど送られてくる実家からの荷物にはいつも野菜などの食材と一緒に向こうの様子を書き綴った手紙が同封されている。持ったまま行動するのも大変だったので音を立てないように静かに台所に置いて封がされているガムテープを剥がすと、想像した通り野菜と手紙が入っていた。もう一つ謎の箱も入ってはいたが。
「電話かけるか……」
 時計を見て時間を確認すると、寝るには少し早い時間だったので、そのまま実家に電話を掛ける。数回のコール音の後に聴きなれたが少しだけ懐かしく感じる声が受話器から聞こえてきた。
「もしもし?」
「あら、荷物届いた?」
「うん。なんか変な箱入ってたけど、あれ何?」
「何って、貴方の誕生日プレゼントよ」
 その言葉に心の中であぁそう言えば明日誕生日だったなぁと気付く。我ながら自分の事に興味がなさすぎると再実感しながら、スマートフォンをスピーカーモードに変えてから台所に置いたままの段ボールから白い箱を取り出してリボンを取り、蓋箱を開けると中にはハッピーバースデーと書かれたクリーム色のバースデーカードと黄緑色の草に桃色の六花弁の造花でできたブーケだった。
「綺麗な花だね」
「それねぇ、お父さんが買って来たのよ」
「えっ?」
 まさか父がこんなファンシーな贈り物をくれるとは思ってもいなかった。箱を取り出して分かったが母からの誕生日プレゼントであろう、おめでとうと大きく書かれた封筒が箱の下にあった。中身を確認すると諭吉さんが顔を出し、逆に母のプレゼントが現実的過ぎて苦笑いを浮かべた。
「大学で必要な物とかもあるでしょ?だから私はあえてそうしたのよ」
「あはは、ありがとう。父さんは?」
「今日仕事遅いらしくてね、まだ帰ってきてないのよぉ」
「そっか……」
 そう言えばこちらに来てから全然父と会話をしていない。折角なら直接お礼をしたかったが、仕事なら仕方がない。また今度の機会に取っておこう。
「じゃあ、またその内電話するよ。プレゼントありがとう」
「えぇ、父さんにも伝えておくわ」
 そう母が言うと、スピーカーモードにしていたスマホからガチャリと受話器の切れる音が聞こえた。それと同時に持っていたブーケの箱を台所に置くと独りでにガサガサとブーケが動き出した。
 流石に何か違うと感じ取った私はすぐ近くに置いてあった、菜箸を握りしめその動いているブーケを少し突いた。その瞬間……
「うわっ!なになに!?」
「な、なんだこいつ」
 造花を何本か背中に刺したまま突然箱から飛び出して台所の上に立った生き物を口を開けてみていると、その生き物はきょろきょろしながらまくしたてる様に私に言葉を投げかけてきた。
「えっ、てかここどこ?」
「まずお前が何なのか私は聞きたい。ハリネズミかなんか?」
「失礼な奴だな。ボクはシェイミって言うんだよ。質問に答えたんだから今度はこっちの質問に答えてよ。ここはどこ?」
「どこって私の家だよ」
「もしかして君誘拐犯?」
「どうしてそうなる」
「だってボク花屋に居たはずなんだけど」
「花屋?」
 話を聞きながらシェイミというポケモンについて調べるためにテーブルに置いていたスマホを取り何でも知ってる有能な奴にシェイミについて聞いてみると、グラシデアの花という花が関連でヒットした。その花は父のプレゼントの造花の花だった。私が一人で情報を調べていると、その造花を背中に刺したままシェイミは勝手に私の肩に乗って来た。
「重いんだけど」
「一人で勝手になんかやってるから気になったんだよ。あれ?グラシデアの花じゃん」
「あぁ!やめろやめろ、触ったら画面が動くだろ」
「おかしいなぁ今頃ならボクも渡りを始めてたはずなんだけど」
「は?」
 短い手を伸ばしてくるシェイミに抵抗しながら、スマホに映っているページをスクロールするとグラシデアの花粉を吸い込むと感謝のために飛び立つなどと書かれていた。随分とロマンチックなポケモンである。
「ちょうど良く花屋で見つけたから触るだけにしようと思ったら、丁度良い箱見つけてさ。入ってたら気づかないうちに寝ちゃってたんだよね」
 得意げに鼻を上げながらそう言うシェイミにため息をつきながら背中に刺さった造花を一本取って、シェイミの目の前に持っていく。
「これ造花だけど?」
「えっ?」
 そして、少しの沈黙の後に聞こえてきたのはシェイミの悲鳴だった。

 ようやく落ち着いたのかシェイミはテーブルの上で同じ段ボールで送られてきたキャベツをモソモソと食べている。私も様々な要因で食べ損ねていた野菜炒めを温めなおしてから食べている。先ほどまでの元気はどこに行ったのかというほど俯いたままモソモソ食べている。静かになってくれたのはありがたいがこうも静かになられるとこちらも居心地が悪い。
「あ、あのさ、本物探すの手伝おうか?」
「いいの……?」
「ここであったのも何かの縁だろうし」
 そう言うとチンタラ食べていたキャベツをバクバクとものすごいスピードで食べ終えて、シェイミはテーブルから降りてトコトコと私の隣まで歩いて来て、ぴょんと私の膝上に乗ってきた。
「お礼に撫でるのを特別に許してあげる!」
「お礼を言う態度かそれ?」
 まぁでも折角だから撫でさせてもらおうと、手を伸ばして撫でるとサラリとした感触がした。黙って撫でられているシェイミを見ると気持ちよさそうに目を細めている風に見えた。
 そのまま撫で続けながらこれでこれからしばらくは寂しくないだろうなと考えて少しだけ心の中で感謝してみると、突然シェイミの背中の花が増えた。
「ビックリした」
「君がお礼の気持ちを持ってボクに接したからだよ。なんのお礼なのかは知らないけど」
「へぇ、不思議な体だな」
 そんな会話をしながらその日は過ぎていった。

 シェイミが来てから一週間ほどたったが、いまだ私の生活圏近辺でグラシデアの花は見つからない。学友にも聞いてみたりはしているが、物は知っていても現物は見たことがないという人がほとんどだった。そんな事を考えながら電車に揺られていると、突然車内アナウンスが流れだした。それは架線トラブルでしばらくの間この駅で止まるというアナウンスであった。
「後一駅だったんだけど。ついてないなぁ」
 まあ、歩けない距離でもないし降りてみるか。別段歩くのも嫌いじゃないし、新しい発見もあるかもしれないと止まっている電車から降りて改札に定期券を通した。電車の窓から見ていたが改札を通ると昔懐かしといった商店街が広がっていた。
折角なら見ていこうとその商店街に入るとすぐにあった花屋で最近見慣れた桃色の六花弁の花を見つけた。二度見してから急いで近くに寄って、スマホに落とした画像と見比べる。それはまさしくグラシデアの花そのもので、僅かに私の心は興奮していた。
「その花に興味を持つなんて珍しいね」
「あっ、すみません……」
「いや、いいんだ。ここら辺じゃ珍しい花だしね」
 じっと花を見ていた私に声をかけてきたのは若い男性の店員だった。エプロンのポッケに花鋏や霧吹きを入れたままでにこやかな表情で私の隣に立った。
「これグラシデアの花ですよね?」
「そう。感謝の気持ちを伝えるために送る花でね。嫁さんに送るために取り寄せたんだけど、折角ならと思って余分に取り寄せたんだよね」
「あの、買っても良いですか?」
「良いけど結構高いけど平気?」
 値段を見て少しだけ驚きながらも、まぁ珍しい花なら仕方ないだろうと思い財布を取り出すと、おめでとうと書かれた封筒が目に入ってクスリと笑ってしまった。大学で必要な物ではないけど、これはこれで必要な物かもしれないから許してもらうとしよう。封筒から取り出した諭吉さんを店員に出してしばらく待っていると、花束とおつりと一緒に何枚かお札とは違う紙を渡された。
「福引の挑戦券。その先でやってるからもしよかったら参加してみて」
「あっ、はい。ありがとうございます」
 店員に感謝の言葉を言ってから手にした福引の券に目を落とす。まぁ、どうせ末賞のポケットティッシュだろうなどと考えながら、折角だからやっていくかと特設コーナーの列に並んだ。
 あんがいすんなりと私が回す順番になった、挑戦券を羽織りを着ているおじさんに渡して私もガラポンの取っ手を掴みガラガラと回していく。昔、母に付き添って回した時の懐かしい記憶がよみがえってくる。何度か回してころりと出てきた黄色の玉を見ておじさんは持っていた。ベルを力強く鳴らした。

「遅いよ。何してたのさ」
「ごめん。でも感謝しなよ?探してきたんだから」
 そう言ってシェイミの目の前に買って来た花束を見せる。見せた途端にシェイミは光に包まれて気が付いた時にはその姿が変わっていた。
「へぇ。それがお前の本当の姿なんだね」
「まぁ、そうだね」
「案外かっこいいじゃん」
「な、なんだよ突然」
 ずんぐりむっくりとしたあのハリネズミのような姿だったシェイミがスラっとした小型犬のような姿になった。素直にかっこいいと告げると気恥ずかしそうに耳をパタパタさせながら頬を前足で掻いていた。そんなシェイミを見ていると何だかおかしくて、つい笑ってしまった。
「な、なに笑ってるんだよ!」
「い、いや。何でもないよ。あのさ」
「?」
「シェイミが良ければなんだけど、一緒に来てくれない?」
 そう言って私は熨斗の付いた袋をバッグから取り出して見せた。先ほどの福引で当てた賞品である。あの後鳴りやまないベルの中渡されたこれは、何と丁度良い事に私の故郷への一泊二日の旅行券であった。期間も丁度学校の授業がない週末で行けそうだった。何より丁度父の日と被っていた。少し恥ずかしい気はするが、折角なら久々に会ってお礼を言おう。そう考えた。
「シェイミが来なかったらこの旅行券も当たらなかった訳だし、お礼の意味も込めてって思ったんだけど。まぁ、シェイミがすぐに旅立つって言うなら止めはしないけど」
「別に良いよ。見つけてきてもらったお礼もあるし……」
 また気恥ずかしそうにシェイミはそっぽを向いた。
「それなら、今度帰るって連絡しなくちゃね」
 そうして私はスマホを手に取り実家の電話を鳴らした。少しのコールの後にもしもしと電話に出た父の声は少し驚いた後に柔らかな優しい声色になった。少しの談笑の後に今度帰るよと告げたら、とても驚いていたけどそれもまた少ししたら気を付けてなと言って笑った。プレゼントのお礼は会った時にしようとそれ以外の話で盛り上がっていた私の電話を横でパタパタと飛びながら見ているこいつが居心地が良いからと言い、この安アパートに新しい住民が増え一人と一匹の騒がしい生活が始まるのはもう少しだけ先の話である。


後書き 

後 で 書 き ま す

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Last-modified: 2019-06-16 (日) 23:12:18
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