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悪い子の所には

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悪い子の所には 

writer――――カゲフミ

  リクくんは片付けが大の苦手。苦手でそして嫌いでした。自分の部屋にあるおもちゃで遊んだあとは遊びっぱなしです。
 彼のお部屋の机やベッドの脇には車や汽車や飛行機のおもちゃ、そしてポケモンの人形などが散らばっています。
 お部屋の隅にはちゃんとおもちゃをしまうためのおもちゃ箱がありますが、中はほとんど空でした。
 片付けたってどうせ遊ぶときは外に出さないといけないんだから出しっぱなしの方がいいじゃない、というのがリクくんの考えです。
 困るのはそんなリクくんのお部屋を掃除するお母さんです。お部屋全体に万遍なく散らかっているおもちゃは掃除をするのにすごく邪魔です。
 ときにはうっかり踏んづけてしまい、おもちゃが壊れてしまったり、壊れなくてもお母さんがとても痛い思いをすることがありました。
 だからリクくんにお母さんは何度も注意します。遊んだあとはちゃんとおもちゃ箱にもどしなさい、遊ぶたびに戻してたら散らからないんだから、と。
 でもいつもリクくんは、はーいと生返事をするだけで一向に片付けようとはしません。
 お母さんがしびれを切らしていいかげんにしなさいと叱りつけたときはさすがに渋々片付けますが、結局時間が経つうちに元通りお部屋は散らかってしまいます。
 そんなリクくんを見かねたお母さんはあるときこう言いました。おもちゃを片付けない、物を大事にしない子のところにはジュペッタが来るよ、と。
 ジュペッタは捨てられたぬいぐるみに命が宿ったポケモンと言われています。自分を捨てた子供を探しているとか。
 ぬいぐるみじゃなくて、他のおもちゃを大切に扱わない子だってジュペッタはちゃんと見てるんだよ、とお母さんは言います。
 でもそんな話で怖がるリクくんではありません。僕はぬいぐるみを捨てたりしてないから、ジュペッタが来るわけなんてないじゃない。
 それにジュペッタはカゲボウズが進化したポケモンだよ。お母さんはそんな話本気で信じてるの、と自信ありげに話します。
 ちゃんと図鑑に載ってたもんね、と胸を張るリクくん。それはお父さんとお母さんが去年の誕生日プレゼントにあげたものでした。
 この手の話は下手に知識を付けられるとやりにくいもの。ポケモン図鑑をあげたのは失敗だったかなあと、お母さんはため息をつきました。

  それから何日か経ったある日。リクくんはいつものようにお部屋のベッドで眠ろうとしていました。
 ベッドや机周りは相変わらずおもちゃがたくさん散乱していて散らかっています。そんな状況に慣れてしまっているからでしょうか。
 薄暗い部屋でもリクくんがおもちゃを踏んでしまったり蹴飛ばしてしまったりすることは少ないのが不思議なところです。
 もちろん、踏んだり蹴飛ばしたりしないから片付けなくていい、というわけではありませんが。
 主におもちゃをうっかり壊しているのは自分じゃなくてお母さんだから、と彼が安心していた理由はそこにあったのかもしれません。
 リクくんが目を閉じて眠りに落ちかかったところでがたり、と部屋の奥から何だかおかしな音が聞こえてきました。
 何だろうと一瞬思いましたが、きっと気のせいだろうと再び眠ろうとしたリクくん。
 そんな彼を眠りの世界から引き戻そうとするかのように、もう一度音ががたり。さっきよりも大きいような気がしました。
 どうやら気のせいではないようです。何の音なんだろうとリクくんはおそるおそる顔を上げます。
 音がしたのは部屋の奥、クローゼットがある方でした。薄暗い部屋の中、半開きになったクローゼットの中は真っ黒。
 聞きなれない物音は闇雲に不安を掻きたてます。どうしよう、お母さんを呼ぼうかなと彼が起き上がろうとしたその時。
 クローゼットからずるりと何か黒い塊が這い出てきたのです。まるで、中の暗闇が意思をもって動き出したかのように。
 聞き取れない唸り声を上げながらずるずるとゆっくり、そして着実に。それはリクくんの方へと近づいてきます。
 時折床に落ちていたおもちゃが黒い塊に触れて擦れる音がしました。突然の出来事にリクくんは目と口を見開いて身動きすることもできません。
 これはただ事じゃない。とにかく早く、今すぐに、ここから逃げなくちゃ。それでも体が強張って全然言うことを聞いてくれませんでした。
 クローゼットからベッドまでは少し距離があります。黒い塊はおよそ半分のところまでもう来ていました。
 一旦、黒い塊の動きが止まります。細長く伸びた二本の手、でしょうか。それを床についてゆっくりと立ち上がりました。
 暗がりの中でもはっきりと見えた不気味に赤く光る二つの光がリクくんを捉えます。
 そのまま両手を伸ばして、再び彼の方へと一歩。また一歩と歩き出しました。
 もう怖くて動けないなんて言っていられません。転げ落ちるようにベッドから這い出すと、おもちゃに躓いて転びそうになりながらも。
 悲鳴のような声でお母さあああああんと叫びながらリクくんは部屋から飛び出していきました。顔は涙でくしゃくしゃです。
 ちょうど居間にいたお母さんはただ事でない彼の様子に慌てて駆け寄ります。
 どうしたの、何かあったのと聞いてもリクくんは泣きじゃくるだけで今は話ができそうにありませんでした。
 そんな彼を抱きしめて大丈夫大丈夫、とお母さんは優しく頭や背中を撫でてくれました。
  少し落ち着いた後、リクくんはお母さんに部屋で見たことを話しました。
 お母さんは頷きながら聞いてくれましたが、何か変な黒いのが部屋にいたという彼の話をさすがに全部信じる気にはなれませんでした。
 もしかしたら怖い夢でも見て、そこでの体験が現実とごっちゃになっているのかもしれないなと思っていました。
 じゃあ一緒に部屋を見に行こうというお母さんの言葉にリクくんは慌てて首を横に振ります。まだあれがいるかもしれない部屋に戻るなんてとんでもないことです。
 もし何かいたらお母さんがここはリクの部屋だから出ていきなさい、って言ってあげるからと何度も諭され彼は渋々お母さんに付いていくことにしました。
 部屋の前まで来ても何の物音も聞こえません。お母さんが半開きのドアを開けて部屋の電気をつけます。
 飛び出してくるかもしれない、とお母さんの後ろにぎゅっとくっついていたリクくん。しかし何も起こった様子がないので恐々と目を開きます。
 明るくなった部屋には何もいませんでした。いつもの散らかっている自分の部屋。クローゼットの中を覗きこむお母さん。
 開けてみてもそこには洋服が引っかけてあるだけでやはり何かがいるような雰囲気はありません。
 不思議そうな顔をしているお母さんにリクくんは、でもさっきは確かにいたんだよと言います。
 少し考えた後お母さんは、もしかしたらリクが片付けないからジュペッタが出てきたのかもしれないよと言いました。
 リクくんははっとしてお母さんの顔を見ます。嘘くさい迷信だと思って馬鹿にしていたけれど。
 部屋に何かがいたのは紛れもない事実。赤い瞳やぞっとするような薄ら寒い声もはっきりと覚えていました。
 リクがちゃんと部屋を片付けないとまた出てきちゃうかもね、というお母さんの言葉に顔色を無くすリクくん。すっかり怯えてしまっています。
 きちんと片づけすればきっと大丈夫。ほら、今日はお母さんも手伝ってあげるから、ね。と、お母さんに背中を押されて。
 リクくんは死にもの狂いで散らばったおもちゃを箱に戻し始めました。そんな彼を見守りながらお母さんもいくつかのおもちゃを拾って箱に入れます。
 数分も経たないうちに部屋はすっかり綺麗になって、床には何も落ちていません。もうおもちゃを踏んで壊してしまうことはないでしょう。
 ほら、ちゃんと片付いた。これからは一人でも片付け出来るよね、というお母さんの問いかけに、リクくんは頷くことしかできませんでした。
 片付けないことが原因であんな怖い思いをするのはもう二度とごめんだと思っていたからです。
  それからというもの、リクくんはおもちゃで遊んだあとはちゃんと片付けをするようになりました。
 あれ以降、あの黒い塊が部屋に出たことは一度もありません。あれが本当にお母さんが言ったジュペッタなのかはリクくんにはわかりませんでした。
 でももし、また出てきたらとてもいやなのでリクくんは今日もしっかりと片づけをするのです。
 片付けるのが嫌いで部屋が散らかりっぱなしのあなたのところにも、もしかしたらジュペッタが出てくるかもしれませんよ。







































「あれからどうです、リクくんは?」
「おかげさまで、私があれだけ言っても聞かなかった片づけを進んでやるようになったんです」
「それは……なによりです」
「これが約束の代金です。本当にありがとうございました」
「いえいえ。もしまた何かあればご連絡ください、それでは」
 男は軽く会釈をして立ち去って歩いていく。さっきの家が見えなくなったところで男がモンスターボールから出したのはジュペッタだった。
「今回も上出来だったみたいだぞ、ジュペッタ」
「へへ、なかなか名演技だったろ?」
「ああ。理屈で言うこと聞かないガキはビビらせて従わせるのが一番さ」
「次の依頼はあんの?」
「ライモンシティの方に夜遅くまで起きてなかなか寝ない子供がいるんだとさ」
「ふーん、じゃあ俺の出る幕じゃなさそうだな」
「そうだな……次はヨノワールかゲンガー辺りに頑張ってもらうとするか」

 おしまい



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Last-modified: 2013-04-15 (月) 00:00:00
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