SOSIA.チラ裏的作品その一
※注意
この作品には意味不・版権ネタ・キャラ崩壊が含まれます。
そんなのヤダって人は"戻る"でバック願います。
◇簡易キャラ紹介◇
○シオン:エーフィ
主人公。ヴァンジェスティ社社長令嬢の婚約者。
○橄欖:キルリア
シオンつきの
○フィオーナ:エネコロロ
ヴァンジェスティ社社長令嬢。
○孔雀:サーナイト
極東の島国から来た和風フォルムのサーナイト。フィオーナつきの
尾は臀部を巻くようにして前へ。上体は出来るだけ真っ直ぐと伸ばして。
「ホント面倒……」
「何がですか」
食堂の長テーブルの短辺、対面のエネコロロがこちらをじろりと見た。すぐ後に控えている侍女のキルリア、橄欖にすら聞こえないような小さな声で呟いたのに。地獄耳。
「や、何でもない……」
右前肢で飾り毛の先を
「シオン。食事中に
「はい……ごめんなさい」
だって僕はエスパーなんだよ?
そもそもエーフィのシオンもエネコロロのフィオーナも前肢の第一指が逆向きにはついていないし、種族柄走るコトに特化して指は短く折りたたまれるようについてるんだから、道具の使用には向いていない。それをどこの誰が開発したのやら、今やあらゆる日用品が物を掴めないポケモンでも使えるようにデザインされていたり、
「僕まで巻き込まなくてもいいのに」
「シオンさま……頭の中が漏れています……」
と、橄欖に小声で釘を刺された。つい口に出しちゃうのは僕の悪い癖だ。ま、真剣に相手を欺くとなるとなるとそうでもないんだけど。
「巻き込む、とはどのような意味で?」
時既に遅し。地獄耳の
「まあまあフィオーナさま、そう仰らずに。せっかくのシオンさまとの夕食ですし」
フィオーナの後ろに立つサーナイトが制してくれたが、フィオーナが聞くはずもなく。
「
孔雀と呼ばれたそのサーナイトは極東の島国の出身で、ここらでよく見かけるサーナイトとは容姿が一変している。腰の位置には"帯"と呼ばれる器官があり、それで純白の布質部分を留めているように見える。腕は緑色の肉質部分よりずっと広い布質を持ち、袋状の"
「申し訳ありませーん……」
孔雀は頭を下げて見せたが、あまり申し訳なさそうな表情ではなかった。毎度のことなのでフィオーナもそれについては言及しなかったが。
「シオン。貴方はわたしの婚約者です。ヴァンジェスティ家の婿養子即ち次期社長です。それが、何を『僕は蚊帳の外~♪』みたいな顔をしているのです。貴方には自覚というものが欠片程も存在しないのですか?」
「どうせ傀儡みたいなもんでしょ? 大学に通ってるきみのほうが実権を握るのは目に見えてるんだから」
「それがいけないと言っているのです。仮にわたしが疾病などで倒れたらどうするおつもりで?」
「それは……あっ、秘書とかそーゆー便利なひとがいるでしょ?」
「全く、貴方という仔は……」
フィオーナは眉をひそめ、頭を抱えて首を振った。フィオーナの背後で孔雀が楽しそうにその様子を見ている。
「あ、マナー違反。フィオーナ、鬣に触ったよ今」
「いい加減になさい。秘書が必ずしも優秀とは限りませんし、その役職にも限界があります。完全に社長の代理ができるなどとはまさかお思いでないですね?」
「うん、それは、アレだけど。僕もそこまで
「文章が書けない? 貴方、学生時代は品行方正、成績優秀だったと聞きましたが。現代国語は苦手だったのですか」
「や、あれはできたけど。自分で文章を書くのとは違うじゃない。記述解答だってさ、採点基準のポイントさえ全部掴んでたらぐちゃぐちゃの文章でも点数くれるもん」
「稀に見る偏差値莫迦……実生活に反映されていなければ意味を成しません」
「きみみたいに内面も外面も完璧にはできないんだもの」
フィオーナも高校時代の成績は優秀だったらしく、しっかりと実生活に即した知識も備え、美人で気品もあり、強力なバックボーンも資産もあって、社会的に見れば非の打ち所がないと言ってしかるべき
「でしたら、一昔前の陽州では――」
このままでは一方的にシオンが糾弾されそうだったところへ、孔雀が助け舟を出してくれた。
「さしものシオンさまも、
「え?」
シオンは生まれつき
「最近は大陸の影響を受けて恋愛の形態も多様化の方向に向かっていますが、昔は顔を見る前にまずお手紙のやり取りから始まっていたんです。と言っても貴族階級の話ですけど……
「最後に? 顔をあわせたらどうなっちゃうの?」
「あれですよ。
「姉さんっ」
橄欖が細いながらも鋭い声を姉にぶつけた。普段は物静かな口調なのだが、実姉を相手にすると少し変わるみたいだ。
「っと、お食事中でしたねー」
「孔雀。その口引っこ抜きますよ」
フィオーナが冷たい声で言い放った。何気にすごい暴言。
「失言には注意します。えーと、それで恋文のお話なのですけど、当時は顔を合わせないからその恋文、多くは和歌ですが、その和歌の上手さや字の綺麗さで異性の評価が決まると言っても過言ではありません。シオンさまはキレイなお顔をしていらっしゃるのに、文章が苦手というのはいただけませんねー。陽州の
「えー、そうなの? べつにいいじゃん文章なんて……ね、橄欖?」
「わたしは……今のシオンさまで十分……」
シオンをフォローしようとした橄欖にも、フィオーナの視線が突き刺さった。
「いえ……やはり、秀逸な美文を書ければ……よりシオンさまの評価も上がるのではないかと存じます」
って、あっさりとフィオーナに買収されないでよ。僕の
エメラルド色の双眸。鉄板をも貫通してしまいそうなアイビーム。
――前言撤回。うん。怖い。なんか殺されそう。
「それでは今夜、フィオーナさまとシオンさまで和歌の贈答などお試しになってみます?」
「ほぇっ?」
孔雀さん。それ、本気で言ってる?
「いいですね。わたしも短歌というものに少し興味があります。シオンの文章作成力も少しは鍛えられるやもしれません」
や、きみも陽州人じゃないんだから初めてでしょ? 何その根拠のない自信に溢れた目は。やめとこうよ。
「はい。それではフィオーナさまにはわたしが教えて差し上げますので、橄欖ちゃんはシオンさまの方をお願いね。湯浴みが住んでフィオーナさま、シオンさまが自室にお戻りになられたら始めますよー」
「ちょっと待ってよ、きみたちは遊び気分なんだろうけど、僕はそんなの」
「ご心配は要りませんシオンさま……わたしがついておりますので……」
ああ、橄欖。きみだけが頼りだよホント。
こうして、一夜限りの陽州風な余興が始まってしまった。ちょーめーわく。
◇
「まず、殿方……つまり、シオンさまからフィオーナさまへ恋歌を送ります……配達は……当時の陽州で"女房"と呼ばれた
四肢を一方向へ投げ出してベッドへ寝転がり上体を起こしているシオンは橄欖の言葉にうんうん、と頷いている。食事の時は乗り気でなかったみたいだけれど、どうやらそれなりに楽しもうということらしい。心の純粋な仔だから、きっとそうなるだろうと橄欖も思っていた。
「それで、まず短歌のルールですが……メッセージを五、七、五、七、七の音節に乗せます……前の五、七、五を上の句、七、七を下の句と言いますが……今日はあまり気にしなくても構いません……」
「いきなり制約キツっ。使える言葉、なかなか選べなくない?」
「そこが腕の見せ所と申しましょうか……語彙力ももちろん、取捨選択も重要だということです……」
「取捨選択、かぁ。伝えたい気持ちをその短い文の中で上手く表現しなきゃならないんだね」
シオンさまはこう見えてとても利口だ。普段の会話ではその一端を垣間見ることはできないものの、新しい概念を一度の説明ですんなりと受け入れてくれる。
「はい……もっとも……字余り、字足らずといって……一文字程度の増減なら許容されることもありますが……初心者には難しいのでおすすめできません……また、
「
「はい。具体的にはそのようなことです……」
「まずは、音節が合うようにテキトーに言葉を並べてみていいのかな?」
「一首の短歌を一文で構成してもよろしいですが……区切れというものがあり……途中で切れて二文になっても構いません……」
「へー。もしかすると案外自由に書けるかもね。よーし。やってみよっと」
シオンは起き上がって机に向かい、紙と愛用の万年筆を取り出した。万年筆は
「うーん……思いつかないな。ねえ、恋歌ってどんなのがいいの?」
「
ツンデレ、とはちょっと違うかも。間違いではないけど。和歌の贈答については高校生の頃に古典で習っただけだから、実は歌の道に詳しいわけではないのだ。
「ふふふっ、フィオーナには無理だよそれ。ものっ凄い直球で来たもん。僕たちの場合、むしろその逆だったんじゃない?」
「シオンさまがツンデレ……ですか」
シオンは椅子から飛び降りると、床に座って身体をくねらせて、目に涙をためて横目で橄欖を見た。
「なっ、何も橄欖のためにジギタリス折っちゃったわけじゃないんだからねっ」
何を言っているんですかシオンさま。ツンデレもかわいいですけど。そんなコトをされますと、シオンさまの貞操とかピンチですよ?
――はっ。わたしは何てことを想像してしまったのでしょう。神様仏様、お許し下さい。無宗教なわたしですが……ジギタリス?
「庭園のあれ……シオンさまが犯人だったんですか……」
庭を管理している孔雀がジギタリスが一本折れている、と膨れていた。シオンさまが犯人だとわかったら笑って許すのだろうけど。
「とにかく直球で書けばいいんだねっ。あとは洒落、っと」
シオンは何かいいことを思いついたのか、サッと立ち上がって机に向かった。さらさらと紙に綴るのも速かった。もしかして才能があるのかな。橄欖とて、学校で習った知識はあるけれどきちんとした歌は詠んだことがないから、正直驚いた。
「じゃーん♪ これでどう? 直球も直球、ユーモアも交えて
前言撤回。
とはいえ、ある種の驚きを感じたことには変わりないけれど。
何ですかソレ?
「あーっ、橄欖に見せちゃダメなんだった! 今の見なかったコトにしておいてねっ」
いやそういう問題ではなくて。最初のわたしの話、理解していただけたのでしょうか? ああ、それともわたしが至らないばかりに説明が足りなかったのでしょうか。
慌てて短歌(?)を折りたたむと、シオンは橄欖にウインクして見せた。どきり、というよりはずしりと胸に来るような、
「贈るときって封筒とかに入れるの?」
「いえ……紙を細く畳んで紐状にして……一輪の花や木の枝に結びつけるのが習わしです……その際、花の色や花言葉には気を使わなければなりませんが……」
「愛といえば赤い薔薇かな?」
「和風ではありませんが……それもなかなか面白いかと……」
もはやどんな花を選んでも同じだとは思いますが。
「じゃあ、ちゃんと返事もらってきてねー」
橄欖は花瓶に挿してあった赤い薔薇の枝にシオンの自称"短歌"を結びつけ、階段を降りて一階のフィオーナの部屋へと向かった。
◇
部屋をノックする音がして扉を空けると、シオンさまの詠んだ恋歌が書きつけられているのであろう紙を結んだ一輪の薔薇を持って立っていた。
橄欖に赤い薔薇はちょっと似合わない。大人になりかけた少女が背伸びをしているような、そんな印象を受けてしまう――が、我が妹の実年齢は二十歳。ほとんどの国では立派な成
「速かったわね橄欖ちゃん。シオンさまにはきちんと説明できた?」
「あ……いえ……その……一応……」
俯いた瞳は、何かに落胆しているようだ。うまく伝えられなかったのだろうか。
「じゃあ橄欖ちゃんはここでちょっと待っててね」
シオンに仕える橄欖は、主人の想い
一端扉を閉め、机に向かうフィオーナさまへと薔薇を手渡した。
「シオンも粋なことをしますね」
そう言って笑ったフィオーナの表情はいつになく可愛らしかった。なんだかんだ言ってもシオンへの恋情は
「ほどいてくださるかしら」
「かしこまりました」
薔薇に結びつけられた紙をほどいて、再度フィオーナへと手渡す。
フィオーナは孔雀からそれを受け取ると、机の上で紙を広げた。
「は?」
フィオーナの口から漏れたのは疑問と不審の声だ。どんな歌だったのだろう。
「孔雀。先程の貴女の説明は間違っていませんか?」
どうやらその不審は歌を詠んだシオンではなく、こちらに向けられているみたいだ。
「と、申しますと?」
「五、七、五、七、七の音節と仰いましたよね」
根本から来ましたか。さすがのわたしもそこまでは間違いませんよ。てゆうか少なくとも橄欖ちゃんよりは詳しいはずですよ。
「はい。間違いはありません。字余り、字足らずについても申し上げた通りです」
「それでは橄欖の説明が足りなかったのか、シオンが理解できなかったのか……これは何ですか?」
フィオーナは手招きして机の紙を見るように孔雀を促した。
覗きこんでみると。
SUK IDAY O☆ FION A by しおん
「これは……サトベスド大陸の文字、アルファベットですねー」
「そんなことは見れば分かります」
「なるほどー。橄欖ちゃんの言うことを曲解したのですね。それも、シオンさまらしい曲解の仕方です」
「曲解?」
「全角スペースと半角スペースの使いわけ……このナゾがわかりますかフィオーナさま。全角はすなわちここで区切って読めということです! ゆっくりいきますよー」
フィオーナはまだ疑うような目で孔雀を睨みつけている。これ、言ったらヤバイかも?
「えすゆーけー あいでぃーえーわい おーすたー えふあいおーえぬ えーばいしおん
なんと! 字余りですがきちんと五・七・五・七・七の定型詩になっています! さらにはこれを共通語読みすると、『好きだよ☆フィオーナ byシオン』となり、イー●タちっくな☆の挿入方法ですが、掛詞という高等技術も取り入れ――あたっ」
猫パンチですかフィオーナさま。どうしてわたしなのですか。理不尽です。それはシオンさまのところへ瞬間移動して繰り出すべき技(?)です。これだからこの主人は困るんですよまったく。
「わたしを
「いえ、冗談ですよ冗談♪ 向こうで手違いがあっただけですよきっと。本来の和歌の贈答というのはわたしの説明からフィオーナさまが想像なさった通りです。あ、そうそう。返歌は強制ではありませんよ。内容はどうあれ、返歌を詠むということは殿方の求愛を受け入れるという意思表示をすることになりますから」
「もともとそっけない振りをするのが
フィオーナは大きなため息を一つついて、孔雀をキッと睨みつけた。
「橄欖に伝えなさい。このような稚拙な恋文に返事を書く気などありませんと……それから、指導力不足。シオンをしっかり教育するようにと」
「はい♪」
なんだか楽しそうなコトになってきました。
◇
「つき返された?」
「はい……申し訳ありません……わたしの指導力不足を指摘されました……」
「そんなコトないってば」
「そうですか……?」
今回ばかりはわたしの責任も半分ほどしか――
――ということは半分はシオンさまの責任? いけない。
「……いえ、わたしが至らぬばかりにこのような失態を……」
「まあ過去のことはいいじゃない。僕も勘違いしたのは悪かったし……でも、何がいけなかったのかな? 完璧な
掛詞≒洒落のようなもの≒シャレ≒ユーモア
なんという脳内変換。主に後の二つ。
二アリーイコールはあくまで"nearly"なのですよシオンさま? わたしが説明のために一度"≒"を使用したのにもかかわらず、ご自分でさらに二度も重ねて"≒"を媒介させれば原形をとどめなくなってしまいますよ?
いいえ。感情ポケモンであるキルリアが、二本もの受信アンテナを持つわたしが主の思考回路を読み取れなかったことがいけないんですよね。胸の一本しかツノのない姉さんはシオンさまの側にいなかったのに理解できたのですから。これでは何のために無理な進化キャンセルをしているのやらわかりませんよね。
「力量不足ながらもう一度説明させていただきます……まず、五・七・五・七・七は絶対です……区切るのは必ず単語の区切りですよ……スペースで無理やりお切りになってもいけません……それから使用言語は共通語のみです……宇宙語もなしですよ……」
「よし、わかった!」
シオンは右前肢の肉球でぽむ、と左前肢の甲を叩き、椅子に跳び乗って机に向かった。
何故に
いや、今はそんなことはどうでもよくて。
「お待ちくださいシオンさま……大事なことがまだ……」
「ほ?」
何故に姉さんの物真似?
いや、今はそうではなくて。
「短歌はその名の通り歌です……
「歌だね。まっかせといてー」
歌をやけに強調しておられますけど……五・七・五・七・七だけは忘れないでください。
◇
かわいたー 風をからませ あなたをー 連ーれてくのさ (禁則事項) 限りない夢を (略) 両手に掴んで
「して、これは何ですか孔雀?」
「歌……ですね。ラ●クアンシエルの"HO●EY"*5ですー」
「そんなことは見れば分かります!」
あ、ご存知だったんですねフィオーナさまも。時空を超えているのに。
「これまたシオンさまらしい曲解ですねー。橄欖ちゃんはきっと短歌が歌であることを強調して、シオンさまがそれをすとれ~とに受け取られたのでしょう」
「それで版権モノを……なら、この括弧書きは何ですか! それに字が足りない部分を長音符で補ったこの手抜き感!」
「恐らくは橄欖ちゃんが定型を守るようにと指導した結果……"(略)"には本来"この"が入っていましたが、字余り回避のため省略、といったところでしょうか。残念ながら橄欖ちゃんは長音符の使用を禁止するのを忘れていたみたいですねー。(禁則事項)は言わずと知れた『涼●●ルヒの憂鬱』の登場キャラ●●●●●る*6の台詞で、他言語である"honey so sweet"を――あたっ!」
また猫パンチですかフィオーナさま。だから何故わたしを殴るのです。今回は橄欖ちゃんのミスです。殴られるべきは我が愚妹です。ヒステリックな
「●●●●●るとは……」
「
「アンチだかなんだか知りませんが版権モノでしょう! とにかく却下却下却下! 三度目の正直でまともな歌が読めなければ橄欖の首を切ります!」
「ギロチン台ですかー? いくらフィオーナさまでも妹にそんなコトをすればわたしが黙っていませんよー」
「リストラですリストラ。とにかく、もう一度だけチャンスを与えますと橄欖に伝えなさい」
「はい♪」
なんだか危なそうなコトになってきました。
◇
「いいですかシオンさま……版権モノの乱用はいけません……シオンさまをはじめとしたこの世界の生きとし生ける者全ての……存亡に関わります……」
「はい」
さすがに反省したのか、シオンは真面目に頷いてくれた。しゅんと縮こまったシオンさまもかわいい。食べてしまいたい。
――はっ。わたしは何を。わたしは使用人です。シオンさまはわたしの主様です。
「それから括弧書きの注釈もダメです……外来語として定着したカタカナ語を除いて……長音符の使用も禁止です……もちろん……予め言っておきますが……疑問符、感嘆符……その他諸々の特殊記号も禁止です……」
「わ、制約キツっ。使える言葉、一気に減らない?」
今、ものすごい
「そこが腕の見せ所と申しますか……ともかく、これで失敗すればわたしはこの屋敷を追い出されてしまいますので……お願いします……」
「そんな……嘘でしょ? これは頑張らなくっちゃ」
「こうなれば……陽州のしきたりには反しますが……配達前に一度、わたしに拝見させてください……」
「橄欖存亡の危機だし、しきたりとか何とか言ってる場合じゃないよね。どうせなら
「それは……恋歌としてはいかがなものかと存じますが……この際、仕方ありませんね……」
わたしごときに良い和歌など詠むことができるのでしょうか。神様仏様、どうか力を。
……無宗教ですが。
◇
二度目に橄欖を追い返してから、三通目の手紙を受け取るまでには既に一時間が経過していた。時刻も既に夜の十二時を回っている。
やつれた目をした橄欖が持ってきたのは薄紫色の小さなアスターの花に括りつけられた恋文だった。
「届きましたよー」
橄欖から受け取ったほどいて手渡すと、フィオーナは眠そうに目を擦りながら受け取った。
「遅かったですねー。アスターの花言葉は"美しき追想"ですよー。我が妹も散り際は美しくということなのでしょうか」
「これだけ時間を掛けたのだから少しはまともな歌になっているといいのですが。わたしも鬼ではありませんからね。先程の如く逸脱していなければ良しとしましょう」
机の上で、細く折りたたまれた和紙が広げられてゆく。
我が妹の生死や如何に。
孔雀は唾を飲んで、フィオーナの背に隠れて見えない和紙が開かれてゆく音を聴いていた。
フィオーナはシオンさまの詠んだ(おそらく八割以上橄欖ちゃんが考えたのであろう)和歌に目を通すと、ふっ、と優しく微笑んで、
「あの仔
フィオーナは出窓を開いて、闇の落ちた中庭へ視線を向けた。夜風に鬣が揺れ、月明かりに照らされたその姿は艶やかで美しく、月の女神を思わせた。きりっとした瞳には優しさが漂っていて、口元には優美な微笑みを
「少し派手にしましょうか……孔雀、あの花にこれを結んで届けて頂戴」
フィオーナが指し示した先には、一本だけ折れて倒れてしまったジギタリスが多数のベルのような、霊妙な花を咲かせて並んでいた。
それにしてもフィオーナさまといいシオンさまといい、陽州にはない花を使うのがお好きなようで。でも最後に橄欖ちゃんが持ってきたアスターだけは陽州にも自生していて、和名を紫苑という。名前だけではなく、花の色もシオンさまの体色と同じだ。
「はい♪」
なんだかほっとする展開になってきました。
フィオーナは窓を閉めて孔雀に向き直った。
「それから、わたしはもう就寝しますので。孔雀は手紙を届けたら自室に戻って結構です」
「了解いたしました。それでは、お休みなさいませ」
細く畳んだ和紙を受け取って扉を出ると、橄欖が不安そうな目で孔雀を見上げてきた。
「大丈夫よ。フィオーナさま、返歌をきちんと詠んでくださったもの」
「そう……ですか……良かった……」
「あ、わたしはこれから庭に花を取りに行くから……先にシオンさまのお部屋に戻っていて」
◇
ジギタリスは背丈の高い茎の周りに、ベルのような形状の花を沢山咲かせる。色は白色だったり桃色だったり薄紫色だったりする。薔薇との相性がいいので、薔薇園に数株並べておくとアクセントがついていい感じになる。道の両側に同じ本数ずつ植えていたから、一本折れて一本切ったので丁度良かった。
しかし確かに派手だ。まさか和紙を結び付けたこの花を持って廊下を歩くことになるとは。
ジギタリスの花言葉は、熱愛。きっとフィオーナさまからシオンさまへのお気持ちなのでしょう。
「シオンさまー、橄欖ちゃん。持ってきましたよー」
コンコン、とシオンの自室のドアをノックする。
が、反応がない。
「シオンさま? 開けますよ?」
扉を開けると――
「……ふふっ。この状態をフィオーナさまに見られたら、本当に首が飛んじゃうかもですよー。橄欖ちゃんったら」
――どういう成り行きだったのかは知れない。
ベッドの上で丸まっているシオンさまには毛布が掛けられていて、橄欖はその横で床に両膝をついて、シオンの体を枕にするようにして静かな寝息を立てていた。橄欖の帰りを前に寝てしまったシオンに毛布を掛けたあと、おそらく自分もそのまま眠りに落ちてしまったのだろう。
起こすのはさすがに可哀想だ。あの一時間はきっと解雇の恐怖と戦っていたのだから。それに、妹が自らの主に許されぬ淡い恋情を抱いているのも、姉にはお見通しなのです。
「この花を添えておきましょうか。フィオーナさまの意図には反して違う意味を持ちそうな(゚∀゚)ヨカーンですが♪」
孔雀は
~Fin~
古文の勉強をしていたら思いついたネタ。
一日で一気に書き上げました。
……ええ。自分でもかなりカオスな内容になったと思います。読み返してみても、これは読者を笑わせたいのか和ませたいのかサッパリわかりません。
普段は使わないハリポ的手法(文字サイズ変更)を使ってみたり、絵文字を入れてみたりと、文体もカオス。
たまにはこんなのも書きたくなっちゃいまして。
橄欖が一番はっちゃけてますね(笑
ユーモア担当要員じゃないキャラなのに、無理にユーモアに狩り出してしまいました。今ではいろいろと反省してます。
チラ裏に投稿した作品だから執筆病の発作(自己満)とゆーコトで許してくださいm(_ _)m
最後の手紙にはどんな和歌が詠まれていたかって?
知りたい方は↓のカッコをドラッグしてみてください。
[シオンが書いたのは和歌ではなく橄欖の残留を哀願する手紙だったので、フィオーナはそれに答えて和歌を贈りました。和歌の内容は作者の時間の関係で作れなかったため保留としておいてください]
何かあればコメントいただけると嬉しいです。
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