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心の花

/心の花

書いた人 ウロ(旧名九十九)
非常に青臭い表現が入ってます。厨二病です。滑らかな目で見てあげてくださいorz


「……本当にここにいるのかな…幻のポケモンっていうのは…」
柔らかい微風を受けながら、一匹のポケモンが呟くように喋った。
そのポケモンは全身が白い体毛に覆われていて、額に輝く小判がついている。眼光は鋭く、まるで獲物を狙う狼のようだった。そのポケモンの種族名は―――ニャース。
そのニャースは、ある組織に所属していた。頭が切れ、洞察力もあったのだが、一度だけ大変な失敗を犯してしまい、その失敗を挽回するために、幻と呼ばれるポケモン――――シェイミを探すために、花の咲き乱れる町、フロールタウンにやって来た。
「今度こそ成功させなくっちゃ…自分の名誉を挽回するためにも…幻と呼ばれるシェイミを探すんだ!!」
ニャースがシェイミを探す理由はいたって単純明快。
―――珍しいポケモンだからだ。
ニャースのいた組織は珍しいポケモンや強いポケモンなどを組織に引っ張り込み、戦闘要員として育て上げるというこれまた単純明快な組織だった。
「…だけど…伝説や幻とまで言われたポケモンを探そうとするなんて。僕の所属している組織も馬鹿な考え方をするよなぁ…見たことや聞いたことがないから幻や伝説と呼ばれているのに…そんなポケモンを探すなんて、蟻のコンタクトレンズを探すようなもんだよなぁ…」
先程まで意気込んでいたニャースだったが、途端に自分のしていることが間抜けに思えたのか、ぶつぶつと独り言を呟き始めた…
「やっぱり方法を変えようか…でも僕は戦闘能力も殆ど無いしなぁ…とりえといえばこの頭だけ…こんなんじゃあ強いポケモンを捕まえるのは絶対無理だしなぁ…」
ニャースがうんうんと唸っていると、横から声をかけるポケモンがいた…
「…あの…もしもし?」
「…はい?なんですか?」
ニャースが顔を声のする方に向けると、そこには整った顔立ちのキレイハナが立っていた。
キレイハナは少しだけ居住まいを正し、優雅に頭を下げるとこう言った。
「フロールタウンにようこそ。貴方は観光にこられたんですか?」
違います。と、言おうとしてニャースはふと考えた。
ここで観光客を装って幻のポケモンの事を聞きだすことができれば、シェイミに少しでも近づくことができるかもしれない…相手は自分のことをただの観光客と思っているみたいだし。こっちも早めに用事を済ませたいし…少し気は引けるけど、この子を利用させてもらおう。
と、頭を巡らせた結果。そんなずるい作戦を思いついてしまった。
「…ぁー。はい、観光でこの町に着たんですよ。この町の花は見事ですからね」
周りに咲き乱れるカラフルな花の数々を一瞥して、口からでまかせをぽこぽこと喋っただけだったのに、相手はそれを信じたようだった。
「まぁ!そうなんですか!!でしたらゆっくりしていって下さい。観光客の皆さんはこの花達を見に来る人が多いんですよ」
「…ええ、僕もその一人のようですね」
「ふふふ…」
でまかせで言ってみた言葉が当たったようだった。これを俗に言う“棚牡丹ラッキー”というやつなのだろうと勝手に解釈したニャースは、そのまま勢いに流されるように喋った。
「ですが僕はこの土地に来たばかりで、分からないこともいろいろとあります。もしお暇でしたら、僕にこの街を少しだけ案内してくれないでしょうか?」
かなり図々しい物言いだったが、キレイハナは嬉々としてそれを受け入れてくれた。
「(この町の人は優しいんだな…見ず知らずの僕のことをこんなに信じている…それに比べて僕は…)」
ニャースは自分の行動を巻き戻して考えてみた…いくら頭が回るといえ、それは小ずるい知恵を回らせて相手を騙すような回転の仕方しかしないため、それは相手を利用しようとする最も最低な行為である。
その行為は―――相手を信頼していない証拠である。
「(…いや…そんな感傷に浸っている暇は無いんだ。僕の今やるべきことは自分の名誉挽回。そのために利用できる物は全て利用しなくっちゃ…)」
心の中にまとわりつく情を吹き消して、改めて周りを見た。
「…そういえば…私まだ貴方の名前を聞いていません。私の名前はサフランといいます。ニャースさん、貴方の名前は?」
ニャースはふと考えた―――が、すぐに考えるのをやめた。
「(………名前くらいならいいかな。)」
そう考えて、ニャースは偽名を使おうと思っていたがすぐにやめて、自分の名前を打ち明けた―――
「僕の名前は…フレンドです」
フレンドはにこりと笑うと。手を差し出した。
「よろしくお願いします。フレンドさん」
サフランは微笑を浮かべて手を絡めた。


☆☆☆


「フレンドさん、ここが中央の噴水広場です。ここはいろんなポケモン達が休む休憩所にもなっているんです。…少し休みましょうか」
サフランに町を案内されたフレンドは、その町の大きさに驚愕し、町の隅々まで咲き乱れる花達にも驚愕した。
「…凄いですね。こんなに花が咲き乱れているなんて…僕はてっきり町の入り口や大きい広場だけだと思っていたんですけど」
フレンドの素直な感想にサフランはくすりと笑うと、こう言った。
「まだまだお花は咲き続けていますよ。この町全体が巨大な花束だと思ってくれれば分かりやすいですよ」
「この町全体がですか!?…はぁぁぁ…」
フレンドは呆れるような声を出した。一通り町を歩いてみて、この町の大きさは都市クラスだと推測できた。そんなところを全て花が咲き乱れているとはもはや自然現象の一種といえるだろう。
フレンドがそんなことを考えてふと後ろを見ると、噴水の中心地にある花畑の花に目が止まった。
その花畑の花だけは、他の花とは異彩を放っていた。
「…?サフランさん、あそこの花は何ですか?色や形は他の花とあまり変わらないのに、……何というのか……他の花とは何かが違う気がします…」
フレンドの言葉にサフランは微笑をやめ、真剣な顔になって語り始めた…
「…あそこに咲いているのは、この土地で一番最初に咲いたお花なんです…花の名前は…グラシデア。感謝の心を示すときに差し出したといわれる伝承のあるお花です。…実はこの土地、草木一本も生えない荒地だったんです。ですけど、ある時一匹のポケモンが現れて、ありがとうの気持ちと共にこの花を植えていったんです。そうしたら朝日が夕日に変わるかのように、グラシデアの花を中心にいろいろな花が咲き乱れたんです」
フレンドは真剣にその話を聞いていた。もしかしたらと思って聞いてみたが、どうやら当たりのようだ。
「…サフランさん、そのありがとうの気持ちを伝えたポケモンはどんなポケモンですか?」
フレンドは遠慮なくサフランに聞いてみた。サフランはしばらく考えるような顔をしていたが、やがて口を開いた。
「…感謝ポケモンと呼ばれるポケモン…シェイミです」
その名前を聞いたとき、フレンドは確信した。この町にはシェイミの伝説が隠されている。フレンドはそこからどうやってシェイミを探すか考えようとした瞬間―――地面に違和感を感じた。
地面がもぞもぞと蠢く様な感覚を覚えてフレンドは地面を見つめる。
自分が踏んでいた草木の一部が揺れている…
「ん?何だろう…もぞもぞしているような…」
「…あの…ちょっと…重いんですけどその足を退けてくれませんか??」
「…え?」
フレンドはじっと地面を見つめていたがまったく声の主の姿は見当たらない。相変わらず地面がもぞもぞと蠢いているだけだった。
――いや、急にフレンドが踏んづけていた草の一部がぴょこんと跳ね上がった。
「うぎゃあっ!!」
「きゃあっ!」
フレンドとサフランは同時に悲鳴を上げて跳ね上がった草のような物体を見つめていた。
その物体はしばらくプルプルと震えていたが、やがてゆっくりとフレンド達の方を向いた。
「重いっていったのに退けてくれないなんて・・・酷いですよ、ニャースさん!!」
フレンドはまじまじとその物体――ポケモンを見つめていた…
草木と見間違えるような容姿、両側についたグラシデアの花の様な物、吸い込まれるような蒼い瞳…
まったく見たことの無いようなポケモンだった。
「酷いですね…人を踏んづけておいて謝罪もしないなんて…謝ってください!!」
まったく物怖じしない態度でそのポケモンはフレンドに謝罪を要求した。その態度に気圧されたのか、フレンドはたじろぎながら――
「あ…えっと…すみません」
――と、謝罪した。それを聞いたそのポケモンは満足そうに頷いた。
「それでいいです。普通のポケモンだったら癇癪を起こして周りに悪態を撒き散らしているところですよ。そうしなかった私に感謝してください」
えへん、と胸をそらしてそのポケモンは誇らしげにそういった。フレンドは鬱陶しそうな顔をしていたが、サフランは驚いた顔をしてそのポケモンを見つめていた…
「あ…貴方は…かんしゃポケモン…シェイミ!?」
サフランの言葉を聞いてフレンドはぎょっとした。
――この高慢ちきで自意識過剰のちまいのが…シェイミ??
「私のことを知っているんですか?ふふふっ、ずっと土の下で眠ったかいがありました。私の名前が随分広まっているようですね」
シェイミはくすくすと笑ってフレンドを見た。フレンドはいまだに信じられないような顔でシェイミを見つめていた…
「…君が…シェイミ??」
「種族名はそうですね。でも私の名前はフラウです。覚えておいてくださいね」
フラウと名乗ったシェイミはにっこりと笑ってフレンドの傍によってきた。
「…何ですか?」
訝しげな顔をしてフレンドはフラウを見た。
「……………ご飯」
「………はぁ?」
「お腹がすきました。ですから何か食べさせてください」
フレンドは嫌そうな顔をしてフラウを見た。高慢ちきで自意識過剰のうえ自己中心的な性格だ。もちろんそんなことまでする義理も無い。
「お断りします。急いでいますので」
そう言ってさっさとフラウの傍から離れようとした。そして頭の中ではこんなポケモンを捕獲しようとした自分を叱り付けていた…
「(まったくあほらしい…こんなポケモンを捕まえようなんて組織のお偉いさんたちはどうかしているよ!)」
目的もなくなったこの街にもう用は無いとばかりに立ち去ろうとした瞬間――真横から強力なエネルギーの塊が飛んできて頬を掠めた…
「…どこに行くんですか??」
振り向くとフラウが笑っていた。その体は薄黄緑色に輝いている。逃げようとすればさっきのを当てるつもりらしい。
フレンドが得体の知れない力に恐怖して動けないのを見て、その頭の上によじ登ると、冷ややかな声でこう言った…
「私の言動や行動で勝手に全てを判断するのはやめて欲しいですね。…もしかしてそれだけで私のことを弱いと判断したんですか?うふふっ…」
ぺちぺちとフレンドの頬に自分の手を当てて笑う。その後に屈託の無い笑顔を見せてこう言った。
「ご飯を食べに行きましょう。“フレンド”さん」
「…っ!!何で!?」
自分の名前を知っているんだ、と言おうとしたがその言葉を何とか飲み込んだ。伝説のポケモンというのは心の中を読むことも出来るらしいということだけは心の中にとどめておいた…
「…サフランさん…案内してくれてありがとうございました…私はこれからフラウと食事に言ってきますので…」
「さようなら~」
フレンドはぺこりと一礼すると、重そうな足取りでレストランに向かっていった…
「あれが…シェイミ…随分変わった性格なんですね…」
サフランは小さくなっていく二つの影を見つめてそんなことを呟いた…


☆☆☆


「…ふうっ、美味しかったです。こんな食事は久しぶりですね♪」
「……片っ端から注文して全部食い尽くすなんて……どういう胃の構造をしているんですか…」
フレンドとフラウは適当に選んだレストランに入って食事を取っていた…が、フラウがほぼ全品を注文し、それを片っ端から食べてしまったため、フレンドの財布の中はすっからかんになってしまった…
「…そろそろ話してくれませんか?どうして伝説とまで言われた貴方が、土の下から出てくるんですか?」
食事を終えて一服していたフラウに、フレンドは目的を聞いてみた。フラウはきょとんとしてから
「…特に理由なんかありませんよ。退屈だったから外に出ただけです。それに、私が寝ている間にグラシデアの花の周りがどうなっているのか見てみたかっただけです」
フラウはそう言って外を見る。その横顔は本当に嬉しそうな顔をしていた。…自分の植えた花の周りが綺麗になったので嬉しいのだろうか…
「本当に良かったです…私の役目はちゃんと果たせていました」
「役目?」
フレンドは首を傾げてその役目について聞いてみた。フラウは昔を思い出すような口調で話し始めた…
「はい…私達シェイミという種族は、荒れた大地や汚れた空気を綺麗にして、その土地に留まるという役目があるんです。そしてその土地にい続けて、その土地を見守るという役目もあるんです…」
「へぇ…」
フレンドは感心してその話を聞いていた。組織のためにいろいろな土地に行くフレンドにとって、その土地に留まるというのはちょっと想像できなかった。
そんなことを考えているフレンドを尻目に、フラウはさらに話を続けた。
「ですけど今のように地上に出てしまうとグラシデアの花が枯れてこの土地がまた荒地に変わってしまうんです…ですから数週間後にはまた土の中に戻って寝ながら自分のエネルギーを放出して草花を枯らさないようにしないといけないんです…」
フラウはつまらなさそうな顔をして目の前にあるコップをとって中に入っている水を一気に喉の奥に流し込んだ。
「…それは大変ですね、それでは貴方の自由は利かないのでは?」
フレンドは小首を傾げてフラウを見つめた。伝説のポケモンというのは想像よりも窮屈な生活をしているのかもしれない。
「そうですね、でも土の中にいても窮屈ではありませんし、外の様子は今みたいにたまに外に出れば分かります。栄養も土の中に入れば植物からとることが出来ますし、特に嫌と思ったことは無いですね。…ですけど、土の中はもう飽きてしまいました。話し相手がいません…孤独は嫌です…孤独は…寂しいです」
シェイミは少しだけ悲しそうな顔をして俯いてしまった。
フレンドは孤独というものを知らなかった。組織にはたくさんのポケモンがいるし、一人で遠くの土地に行っても、その土地の人と仲良くなることが出来る。土の中で何百年も潜ってグラシデアの花にエネルギーを与え続けるフラウのことを考えると、少しだけ同情してしまいそうだった。
「…辛かったんだね…だったらこの数週間くらいはゆっくりしていったら…」
いいと思うよ、と言い切る前にフラウが口を開いた。
「もちろんそのつもりです。数週間の間よろしくお願いしますね、フレンドさん♪」
「………はぁ!?」
いきなり何を言っているんだという顔で、フレンドはニコニコ顔のフラウを見つめた。フラウは笑顔を崩さないままこう続けた。
「さっき言いませんでしたか?…私、孤独は嫌なんですよ」
「それは分かるけど。どうしてよろしくお願いしますなんですか!?」
「フレンドさんは最初に私を見て幻滅しましたよね、そして無理矢理つき合わされた私に対して一種の怒りと呆れのようなものを感じています。…ですから私は貴方が質問したときに話の軸線をずらしたんですよ♪自分の身の上話の中に、同情を誘う言葉があれば少なからずそれに共感してくれるでしょう?ですから、同情するくらいなら数週間私に付き合ってください♪」
一気に心の中をまくし立てたフラウは一息ついて、フレンドが飲んでいた飲みかけの水をひったくると、一気に飲み干した。一方フレンドはぽかんとしていたが、自分が嵌められたということを知って、いきり立った。
「騙したのか!!」
フレンドが肩をいからせてフラウに食って掛かる。レストランにいた他の客がフレンドとフラウに注目する。フラウはフレンドの怒声も客や支配人の視線も軽く流してこう言った。
「私は嘘なんて言っていませんよ。本当のことをいって、そのことに共感してしまった自分の心を恨んでください」
しれっとフラウはフレンドに告げた。フレンドは暫く興奮していたが、周りのざわめきが気になったのか、少し落ち着いた。
「…わかったよ。どうせ僕も数週間この町に滞在する予定だったから、付き合ってあげる」
お手上げとばかりに両手を挙げてやれやれといったフレンドを見つめて、フラウはにっこりと微笑んだ。
「よろしくお願いしますね。フレンドさん」


☆☆☆


「フレンドさん!あれは何ですか!?いろいろなものが積み重なっています!!」
「積み重なってるんじゃなくてくっ付いているんだよ。あれは公園の遊具の一つだと思う」
食事を済ませたフレンドは、数百年にわたって外に出ていなかったフラウに外の様子を見せていた…フラウにとっては全てが新しく変わっていて、見るもの聞くもの感じるもの全てが新しい感覚で、すっかりご満悦のようだった…
「凄いですね…この辺りは数百年前まではただの小さな村だったのに…」
フラウはしきりに辺りをきょろきょろと見回しては、フレンドにあれは何だと尋ねた。それにつき合わされているフレンドのほうは、相当疲労が溜まっているようだった。
「このあたりは新開拓地の計画が数十年前からされていたからね…フラウが眠っていた場所を中心に町が出来ていったんだと思うよ」
フレンドは説明しながら―――頭では別のことを考えていた。
すなわち――本来の目的だ。
フレンドは頭の中でどうやってフラウを捕まえようかと考えていた。なりは小さくてもやはり伝説のポケモンは伝説のポケモンなのだと改めて知らされた。先程の凄まじいパワーがあれば、組織の上層部に所属しているポケモンたちも認めてくれるだろう。そうすればこちらの名誉も挽回できるというものだ。――そのためにこの町の花が全て枯れて、この町が荒廃してしまう可能性があったが、そんなことはどうでも良かった。
自分の私利私欲の前では、こんな町など些細な問題だ
フレンドが邪な考えを張り巡らせていると、フラウが遠くから声をかけてきた。
「フレンドさん!早く来てください!!」
フレンドははっとして目の前を見た。フラウは遠くに行ってしまっていたようで、姿が小さかった。それと同時に自分の考えが読まれていないことに気がついた。
「(どうやら遠くにいると読心術は使えないようだね…フラウの前で考えるのはやめよう…邪な考えを読み取られたら…面倒だ)」
フレンドはそう心の中で誓うと、
「ごめん、すぐに行く」
といって、フラウに向かって走り出した。
「遅いですよ。待っていた私に感謝してください」
開口一番そんなことを言われて、フレンドはげんなりした。
「ごめんごめん。感謝してるから――って、何その大量の荷物は?」
フラウの周りには供え物のように大量に食料や花束が置かれていた。
「あ、これですか?これは私を見たポケモン達が感謝の気持ちと共においていったものですよ。"綺麗な土地にしてくれてありがとうございます"って。…私の存在を知っているポケモン達は良いポケモンばかりですね。ふふふ…」
艶やかに笑うフラウを見てフレンドはしかめっ面をした。フラウの正体を知ったらみんな仰天するだろうと思った。
「どうでもいいけど、それ、持って帰るんだったら早めに帰りたいんですけど…どう考えてもホテルとこの場所を二~三往復しなくちゃいけないし…」
フレンドはどのように持てば効率よくホテルまで持って帰れるかを頭の中で計算しようとするが、フラウはさらりとこう言った。
「別に持っていかなくてもいいですよ。ここに放置します」
フレンドは別の意味で驚いた。何故これだけのもらい物を放置するのかということと、感謝の気持ちを無下にするような行為に。貧乏性のフレンドはフラウの言葉が理解できなかった。
「そんな顔をしても持って行きませんよ。そんなことよりフレンドさん、見せたいものがあるんです。またグラシデアの花のところまで来てくれませんか?」
フラウはそういうと、フレンドをほっぽりだして一人で先程の噴水のところに走り出した――
「…何なんだよ、一体…」
フレンドは残された贈り物の山を恨めしそうに見つめていたが、持って言ったらフラウに何をされるか分からなかったため、しぶしぶ諦めて、フラウの後を追っていった―――
町は黄昏に染まり、美しく輝いていた。


☆☆☆


「フラウ!何処!?」
すっかり夜になってしまった町の中を、噴水広場に辿り着いたフレンドは必死に探していた。
「…やれやれ…サフランさんに町の中を案内してもらったのに迷っちゃうなんて…この町は広すぎるよ…」
フレンドがベンチに座って一息つこうとした瞬間、後ろから声がかけられた。
「フレンドさん。こっちですよ」
フレンドがびくっとして後を振り向くと、そこにはにこやかな顔をしたフラウが立っていた…
「そんなところにいたんだ…フラウは小さいから見つけにくいんだし、あんまり分かり難い所に行かないでよ…」
フレンドがやれやれとため息をつくが、フラウはそんなこと微塵も気にせず、フレンドの頭にぴょん、と飛び乗った。
「そんなことはどうでもいいですよ。グラシデアの花のところまで進んでください」
どうでもいいといわれてフレンドは少しむっとしたが、こんなことでいちいち怒っていたら身が持たないと考え、言われたとおりにグラシデアの花が咲いている花壇まで進んでいった。
「さぁ、ついたよ。見せたいものって何だい?」
フラウはぴょいっとフレンドの頭から飛び降りると、グラシデアの花にそっと手を触れた。
その瞬間、フラウの身体が眩く輝き始めた…
「!?なっ…何なんだ!!」
フレンドはあまりの眩さに目を覆った。強い光は数秒間続き…光が収まるとそこには別のポケモンが立っていた…
「………フラウ?」
フレンドが目の前の存在をフラウと呼んだ。そのポケモンはフラウとはまったく違う体つきをしていた。翼のような耳、首についている赤いスカーフのようなもの、身長もフレンドと同じくらいになっていた…
「あれ?君は誰?とか言わないんですね。ちょっとがっかりしました」
そのポケモンはしょんぼりと頭を擡げた。その言葉を聞いてフレンドはそのポケモンがフラウだということを確信した。
「期待に添えなくて残念だったね。…だけどその姿は何なの?変身?」
「変身…とは少し違いますね。言葉を選ぶなら"フォルムチェンジ"といえばいいのでしょうか。…ポケモンで言うところの変態だと思ってくだされば結構です」
フラウが軽く説明を終える。しかしフレンドはポケモンが変態する瞬間を始めて見た。組織に所属しているポケモン達は大体進化前か進化した後のポケモン達ばかりだったので、進化とも変身とも違う生命体の変化は、どこか心を打つものがあった…
「でも…どうして変態する必要があるのさ。さっきの姿は不便なの?」
フレンドの疑問にフラウがこう答えた。
「不便ではありません。あの姿は主にエネルギーを放出するための姿。地上にいる間はエネルギーを放出する必要がないので、この姿になって数週間を過ごしたあとに、また先程の姿になって土に戻ります」
分かりやすく説明した後に大きく伸びをする。その姿が月の光に照らされて、なんとも艶やかに見えた。
知らないうちにフレンドの鼓動は高鳴っていく、体中の血液が沸騰するような感覚が襲い掛かり、フラウをまともに直視できなくなる…
「(何だ?この感覚…フラウを…まともに見ることが出来ないなんて…)」
フレンドの胸はどんどん高鳴っていく、フラウは顔を真っ赤にして俯いているフレンドを見ると、心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?フレンドさん……顔が真っ赤ですよ?」
「!!なっ…なんでもない!!ホントになんでもないから!!!」
フレンドはフラウの顔を見る。先程と違って見下ろす形ではなく向き合った形になっているので、余計に顔のほうを見てしまうのだ…変態前とは違い、整った顔つきに柔らかい声、すらりとした体系に吸い込まれそうな蒼色の瞳…
「(こうして見ると…凄く可愛いのに……どうして性格はああなんだろうな…)」
顔を赤くしながらフレンドは残念そうにため息をつく。フラウは大人しくしていればかなり美人の部類に入るだろう…
「(……って、何で残念がっているんだろう…僕の目的はこの子を捕まえること……の、はずなんだけどなぁ…)」
フレンドは頭をぽりぽりとかいて首を捻った。
―――不思議な気持ちでいっぱいだった…フラウは我侭で高慢ちきでやたらと自画自賛したがるけど……嫌いなポケモンじゃない。
おそらくフラウは純粋なのだろう…何色にも染まらない真っ白な心。その純粋さゆえに自分の行動を最優先させる傾向があるのかもしれない…だからこそ、フレンドはフラウのことを邪険に扱わず、嫌うこともないのだろう―――
「大丈夫ならいいんですけど…フレンドさん……よく見ていてくださいね」
フラウはそう言って目を閉じると地面に念を送った。すると周りの花が発光し始めた…
「わぁっ…」
フレンドは感嘆の声を漏らした。フラウが念を送った瞬間、グラシデアの花を中心として様々な花達が、自分達の色を光に変えて輝く…それは町のネオンライトのような光景で、とても煌びやかだった…
「ふふっ…気に入ってもらえましたか?」
いつの間にかフラウがフレンドの隣で笑っていた。フレンドはいつ隣にいたんだろうと思ったが、そんなことを考えていても、瞳は光り輝く花に向けられていた。
「凄い綺麗だよ…だけど何でこれを僕に見せるの?」
フレンドの疑問にフラウはこう言った。
「私の我が儘を気いてくれた、ほんのささやかな"感謝"と"御礼"です」
にこやかに笑うフラウとは対照的に、フレンドは驚愕した顔でこう言った。
「は?……"感謝"?……してるの?僕に?」
フレンドは信じられないといった顔でフラウを見つめるが、フラウはゆっくりと頷くと、
「はい、今日一日つき合ってくださって本当にありがとうございました」
つき合ってくださってと入ったが、フレンドは"つき合った"のではなく"つき合わされた"のだ。もっと分かりやすく言えば"脅されてやむなく付き合った"の方が正しいだろう…
「いや……僕は君に脅されて―――」
仕方なく。と言う言葉は吐き出されなかった。フラウはほんのりと顔を赤らめてフレンドに近づくと、そのままキスをしてフレンドの口を塞いだ。
「んむぅ…ふぁっ…」
舌と舌が絡み合ってピチャピチャと湿った水音があたりに響き渡る。暫く重なっていたが、フラウが口を離して銀色の糸が二人を繋ぐ……
「…明日も…よろしくお願いしますね」
赤みがかかった顔が笑顔になる。フレンドはまだぼーっとしていたが、無意識のうちに、
「……うん…」
と呟いた。
…二人は暫くの間無言で見つめ合っていた。が、フレンドが先に口を開いた…
「……ホテルに帰ろうか…」
「はい…」
そのまま二人は踵を返し、寄り添ったままホテルの道を歩いていった……


☆☆☆


「起きてください、フレンドさん!」
ゆさゆさと揺られて、フレンドはベッドから派手に転倒した。
「うぎゃっ!…いてて、フラウ…もう少し優しく起こしてくれないかな…」
「十分優しくしたつもりなんですけど…」
フラウが困ったように首を傾げる。フレンドは痛むところを抑えて立ち上がると、カーテンを開けて窓を開けて外を見た。
朝日が完全に昇り、穏やかな風が部屋いっぱいに吹き付ける。フレンドは数十秒間その微風を身体で楽しんだ。
「さて、今日は何をしようか?」
フラウに聞いてみた。数週間付き合うと言った手前、フレンドが勝手に予定を決めてしまってはフラウの機嫌を損ねるだけだ。
だからこそフラウの意見を尊重しようとした……が、
「何をしよう。と、申されましても。私はまだこの町のことが分かってないんですから、その質問は的確とはいえません。フレンドさんが決めたほうが有意義な一日が過ごせると思いますが?」
せっかく意見を尊重してあげようと思った矢先にこれである。
まったく持って世話の焼ける伝説のポケモンだとフレンドはため息をついて、暫く黙考した後、口を開いた。
「じゃあ、今日もいろいろなところを回ってみようか。フラウがまだこの町の事分かってないみたいだし…」
「……嫌です」
フレンドの案はわずか数秒で却下された。
「ええ!?どうして?」
「私は数週間したらすぐに土の中に戻ります!この町のことが分かっても意味がありません!!もっと考えてください!」
フラウがむすっとして怒鳴りつける。しかし、その物言いにフレンドもカチンと来た。
「何だよ!人が折角決めてあげたのに!!文句言うくらいなら一人で言ってくればいいじゃないか!」
言い終わった後にフラウを見る。――フラウはびっくりした後に、少しだけ哀しそうな顔をした…
「……もういいです!一人で行ってきます!!」
フラウはそう怒鳴った後に、窓から大きく飛び立ってしまった。
フラウの姿が小さくなると、フレンドは誰もいない空間で呟いた。
「何だよ…フラウの奴…。………でも、こんなことで怒ったの…久しぶりだな」
フレンドは基本的に感情を抑制して、口先で相手を騙していたため。滅多な事では怒ることのない性格になっていた…怒りは冷静な判断力を奪い取り、相手を逆上させやすくする…
「……フラウをなんとしても捕まえなくちゃいけないのに……なんで怒ったんだろ…僕……」
小さくため息をついて、フラウが飛び去っていった方角の空を、虚ろな瞳で見つめていた…


☆☆☆


「……」
フラウは、フロールタウンの上空を飛び続けた。
「……フレンドさんの…莫迦…」
自分の言ったことに後悔しているのはもう分かっている。…だがあそこでフレンドが怒るとは思っても見なかったのだろう……
「…はぁ……」
フラウは大きなため息をついて、上空を飛び続ける。心の中にはぽっかりと大きな穴が開いたままだった…
「……私…なんでこんな気持ちになるんだろう…」
たかが一日しか出会っていないポケモンが、隣にいないだけでなんだか落ち着かない。妙にそわそわする。
……この気持ちは何なんだろう?
「…………あぁ……何となく…分かったような気がします」
誰に言ったわけでもなく、フラウはぼそりと呟いた。
―――フラウはこの世界では感謝の気持ちを表した神として崇め称えられている。
そう、"崇め称えられている"のである。…しかし、フラウにはそれが嫌で嫌でたまらなかった。
神などと大層な呼び名で呼ばれていても、自分はポケモンだ。身体の構造や感情など、他のポケモン達と何ら変わりはない。
荒れた大地を元に戻したとも言われているが実際は違う。自分は花を植えて土に力を与えただけだ。そこからこの大都市を作るまで至ったのはみんなの・・・他のポケモンたちの力なのだ。決して自分の力ではない。
……それなのに他のポケモン達は自分の力のおかげでこの町が出来たと、自分をはやし立てて祭り上げて、自分を英雄のように仕立て上げている…
他のポケモンたちの感謝の気持ちは・・・全て"自分"に向いてしまっているのだ…
自分がありがとうの気持ちを伝えたかったのは、自分にこんな事をして欲しいのではない…
大切な人のために…
あるいは世話になった恩師に…
またはかえがえのない人のために…
いずれ出会う最高のパートナーに…
自分の気持ちを全て出し切って、"ありがとう"を伝えるためにあのグラシデアの花をこの大地に残してきたのに…
「……結局は誰も……私の本当の気持ちには気付かなかったんですね……」
俯いて飛び続ける。蒼色の瞳から、一粒の涙がこぼれて、大地に落ちた……
「……はぁ…」
暫く樹の上ですすり泣いてから、落ち着きを取り戻して、さっき考えてたことをまた考え始める。
どうしてフレンドがいないだけでそわそわしていたのか…
答えは簡単だった。…彼は、どんなポケモンにも平等に接しているからだ。
言い方を変えているが、言い換えれば同じような対応しかしないと言うことである。
だが、それだけでもフラウにはそれが嬉しかった。自分のことを神様扱いするよりかは、たとえぎこちなくても、不器用で不恰好でも、自分を対等に見てくれるポケモン…そんなポケモンが自分の隣にいて欲しかった…
思えば、フレンドを強引にこちらの都合につき合わせたのも、フレンドの隣に居たかったからなのかもしれない…自分のことを全て教えたのも、彼にキスをしたのも…全てが全て、彼の傍に居たくて、彼を手放したくなくて、不器用な自分が彼を引き止めるためにした不器用な行為だったのだ…
「……そろそろ、戻りますか…」
二度目の夕焼けが差し掛かった頃に、フラウはすっきりした顔でしきりに頷くと、羽のような耳を大きく広げて、フレンドの宿泊しているホテルに飛び立った…


☆☆☆


「…遅い……」
フレンドは壁にかけられた時計を見つめて呟いた。
フラウがまだ帰ってこないのだ。時間はもうとっくに夕方を過ぎて夜に差し掛かっている。フレンドはそわそわしながら窓の外を見た。
いろいろなポケモン達がせわしなく行きかっているが、フラウの姿はまったく見えない。
「…やっぱり、まだ怒っているのかな…」
フレンドは大きなため息をついてベッドに寝転んだ。そして今朝方にやらかしてしまった自分の行動を思い返す。しかし、思い返せば思い返すほど自分の幼稚な行動に嫌気がさしてくる。
「…はぁ…」
知らず知らずのうちに大きなため息が漏れる。どうしてフラウの前ではあんなに感情が出てしまうのだろうか…
「………あぁ、何となくだけど分かったような………分からないような…」
フレンドが誰もいない空間で呟く。もちろん返事は返ってこない。


フレンドは組織の中ではあまり目立つポケモンではなかった。
組織の中には屈強なポケモンもいれば、一つの能力に秀でたポケモンもいる。フレンドはそのどちらにも当てはまらなかった。力も無く、これと言って特殊な能力も見当たらない。まさしく凡庸なポケモンの代表と言えるだろう。
しかし、一つだけ秀でているものがあると言えば、その頭の回転の速さであった。そのおかげで、フレンドは組織の中でも極めて優秀なポケモンとなって言った。
だが、それを良しとしないポケモンたちも多数存在する。フレンドは頭が良すぎるのだ。そのおかげで他のポケモンたちとの会話が上手く成り立たないのである。難しい言葉をいくつも並べて、御託を饒舌に喋るポケモンとは、誰も仲良くしたいとは思わないだろう。
実際にフレンドには組織内でも浮いた存在であったし、本人もそれをよく理解している。
それ故に、組織内でフレンドには友達らしい友達と言うのが存在しなかった。フレンドはそれを特に気にしなかった。
生ぬるい友情や、くさい絆など、必要ないとフレンドは感じていた。
なら、フラウがいないだけでそわそわしてしまうこの感じは何なのだろう。
答えは簡単だった。フラウは、自分よりも秀でたものであったために、自分の本質を一瞬で理解してくれていたのだ。
フラウからしてみれば、自分の言っている言葉など空気のようなものなのだろう、自分の言葉の意味をきちんと理解し、それに最も当てはまる答えを返す。日常的な会話では当たり前のことが、フレンドには出来なかったのだ。そのために、相手をいつも苛々させてしまい、そのせいでいつもこちらから謝罪して、一方的に話を打ち切って、その場から立ち去ろうとする。つまり、逃げていたのだ。他人の気持ちが分からずに、怖くなって…
知らないうちにフラウに惹かれていたのも、そういった理由からかもしれない。
フレンドは欲していたのだ。自分と対等に話すことの出来るポケモンの存在を。フラウの言葉はフレンドの何倍も理知的で、フレンドのように理屈を込めてばかりいる堅い言葉とは違う、何かがあった。
それに、彼女は自分と会話をしていても、嫌そうな顔はしない。・・・むしろゲームをするような感覚で自分との会話を楽しんでいる。
他人との会話が、これほどまでに新鮮で楽しいと言う感覚は、フラウに会うまではまったく感じなかった…
「……謝らなくちゃ……」
フレンドは曇りのない瞳で外を見ると、早足で自分の部屋から出て行った。


☆☆☆


フレンドがホテルの外に出ると、辺りはすっかり暗闇になっていて、建物の明かりがうっすらと町を照らしている。まるで光のイルミネーションのようだった。
「……ん?あそこにいるのは…フラウ??」
フレンドがよく見えない瞳を細めて遠くを見る。闇が濃くてよくは分からなかったが、身体の色彩からしてフラウには間違いがなかった。フラウは一軒の花屋に入っていった。
フロールタウンには主に四つの花屋が存在していることを、サフランが教えてくれた。それぞれで、春の花、夏の花、秋の花、冬の花を取り扱っている。造花ではなく、生花である。何故そんなことができるのかと言うと、これもグラシデアの花のエネルギーによるものだと言うことを、昨日フラウが教えてくれた。
「(あそこは・・・夏の花が売っている花屋だ…)」
フレンドは何かしら気になって、こっそり窓から様子を覗いた…フラウが花屋の店員らしきコノハナと話をしているところだった…
「花屋さん…異性に渡して仲直りできるお花とかありますか?」
フラウはそう言ってコノハナと店内をぐるりと歩いていく。
花を咲かせる力はあっても、花の種類や花の名前は一切わからないようだ。なんだかそれが妙に可笑しくて、フレンドは声を殺して笑っていた。
そうやって笑っていると、コノハナが綺麗に揃えられた花束を一つ持ってきて、こう言った。
「でしたら、これをお持ちください。異性に渡すのにはぴったりなお花ですよ」
フレンドはその花を知っていた。忍冬(すいかずら)と呼ばれている花で、太い茎に、柔らかい白がマッチしている。
「忍冬?…なんでそんな花を?」
フレンドは首を傾げてコノハナに勧められた忍冬の花束を持って満面の笑みを浮かべているフラウを見つめた。何故忍冬かは分からなかったが、仲直りのきっかけを探してくれていることが分かって、フレンドは何故だか嬉しくなった。
「(……まてよ?忍冬の花言葉って…確か……)」
フレンドは必死に記憶の糸を手繰り寄せて忍冬の花言葉を思い出す。
忍冬の花言葉は………愛の絆。
主に夫婦間や大切な異性に対して、どんなときでも傍にいて、変わらぬ愛を誓うと言う強い心を表した言葉だ。
「(なっ!?何だってそんな花を!?)」
フレンドは耳まで真っ赤にして、フラウを見つめていた。フラウは忍冬の花言葉が分からないようで、何度もお礼を言って、花屋から出てきた。
「………!まずい!!」
フレンドはそそくさと来た道を引き返すと、急いでホテルの自分の部屋に戻った。
「はぁ、びっくりしたぁ…」
フレンドは糸の切れた人形のように力なくベッドに倒れこんで深いため息を一つつくと、フラウのことを考え始めた…
「忍冬の花言葉は……愛の絆…かぁ。じゃあフラウは・・・僕のことを?」
変な期待を抱いて悶々としていたが、冷静に考えればフラウが僕のことを好きになるはずかが無いと思えて、急に空しくなって考えるのを止めた。
それに…フラウのことを好きにはなれない……好きになってはいけないのだ…
「そうだよ。フラウは僕の汚名返上のための…ただの"駒"なんだ…」
フレンドは自分にそう言い聞かせて、明日こそはフラウをどうやって捕まえるかを画策し始めた。自分の言った言葉が自分の胸に突き刺さるのを無視して。
フレンドはフラウに嘘をついている。自分はフラウのことを利用しようとしているのに、フラウはそのことにはまったく気付いていない。フラウの真っ直ぐで純粋な気持ちを、はたして自分は受け止めることが出来るのだろうか…
無理だ。絶対にそんなことは出来ない。他人を利用することしか考えてない奴が、どうして純粋な気持ちを受け止めることが出来ようか?自分にはその資格すらない…
「僕は…フラウの忍冬を…受け取る資格なんてないよ…」
自分の本当の気持ちに嘘をついて、他人を騙して…こんな自分に仲直りのきっかけを作ろうとしてくれたフラウ…その気持ちを、自分はどう受け止めれば言いのか分からない。
「フレンドさん…あの…フラウです…開けてください…」
自分のつまらない心を自問自答していると、不意にドアの向こうからか細い声が聞こえた。フラウと言うことは見ずとも分かる。フレンドはゆっくりと立ち上がると、ドアを開けた。その瞬間目に入ったものは――
―――真っ白な鈴蘭の花だった。
「…えっ?」
フレンドは自分の目を疑った。先程フラウが購入したものは忍冬の花だったと思ったのに、なぜかフラウは真っ白な鈴蘭の花束を持って俯いていた。
「…今朝のこと…謝りたくて…どんな風に謝ればいいのか分からなくて…お花を…」
俯いて震えながらフラウは言葉を紡ぎだす。ぽたぽたと水滴が落ちて床を濡らす。フラウは泣いていた。フレンドが何を言うのか分からず、怖いのだろう。
「ほ…本当は忍冬にしようと思ったんです。でも、やっぱり気持ちを伝えるのには・・・鈴蘭が一番いいと思って…その…あの…」
フラウは涙を流しながら消え入りそうな声を絞り出す。フレンドはばつの悪そうな顔をしてフラウの言葉を聞いていた。
―――鈴蘭の花言葉は…"純粋"…
今のフラウの心をそのまま表した言葉だ。フラウは本当に謝罪の気持ちを伝えたかったんだろう…その心がそのまま鈴蘭の花に表れていた…
「あの…その…ご、ごめんなさい。フレンドさんの気持ちを考えないで…私…」
フラウは顔を上げてフレンドのことを見た。涙でくしゃくしゃになった蒼色の瞳にフレンドの顔がぼやけて映る。
――これじゃあ僕が悪者みたいじゃないか…実際は悪者だけどさ…
はぁ、と、大きくため息をつくとフラウはびくりとしてフレンドを見つめた。フレンドはにこりと笑って言葉を吐き出した…
「僕の方こそ…ごめんね。君の気持ち…全く考えてなかったのにあんな風に怒っちゃって。……花束なんて関係ないよ。フラウの気持ち…確かに僕に伝わったよ」
よしよしと頭を撫でて鈴蘭の花束を受け取る。その直後――フラウがのしかかってきた。
「うぅっ・・・うわああぁぁぁぁん!!」
フラウはフレンドの胸の中で声をあげて泣いた。今まで溜め込んだものが一気に爆発したのだろう。
「ごめんね…フラウ…」
フレンドはフラウを静かに抱きしめる。綺麗に咲き誇る鈴蘭の香りが、部屋の中をいっぱいにした…


☆☆☆



「……落ち着いた?」
フレンドはすすり泣くフラウを抱きしめて、耳元で囁いた。
「うっ…ぐすっ……はい…」
フラウはすすり泣きを納めて、フレンドの顔を見た。フレンドは優しい瞳でフラウを見つめている。
「よかった……君がいなくならなくて…もし怒ってたら…僕はどんな顔して君に会えばいいのかって…」
フラウはその言葉を聞いて一瞬だけきょとんとしてから、また瞳を潤ませた。
「ふぇ…フレンドさん…ううっ…怒らなかった…私に…感謝してくださいぃ…ぐすっ」
フラウはごしごし目を擦ってかすれる声で図々しいことを言った。しかし本当にフレンドが怒ってないと分かってよほど嬉しかったのだろう、再度フレンドの胸に顔を埋めてしくしくとすすり泣きを始めた…
――フラウって涙もろいのかな?涙腺が弱いだけかなぁ…
などと考えながらフレンドは泣いているフラウの頭を優しく撫でて、
「うん、感謝してるよ。ありがとうフラウ…」
そういった。
「ふええぇぇぇん…」
泣き続けるフラウが眠りについたのは、深夜を回った頃だった…


☆☆☆


「ふぅ…さて、と」
フレンドはすやすやと眠るフラウに毛布をかけると、目つきを変えて真っ暗闇の中の窓を睨んだ。
「いるんでしょう?出てきてください。……クッキーさん…」
フレンドが窓に向かってそういった。するとカーテンがゆれた瞬間、一匹のポケモンが姿を現した。
「気付いていたんですか?」
クッキーと呼ばれたポケモンはフレンドを見つめる。赤い瞳に黄色と黒の体色、後ろに垂れ下がるようについている大きな口…種族名は―――クチートだ。
「さっきから部屋の中に違和感を感じていたんです。…フラウは泣いていて気付かなかったかもしれませんが」
「ふふっ。流石は参謀。頭の回転力と全体を見渡す観察眼は組織内でも随一ですね」
「煽てても何も出ませんよ?」
フレンドは少しだけむすっとして、クッキーを見つめる。クッキーはそんな視線をさらりと流して要件だけを告げた。
「貴方が無断でどこかに行ってしまいましたから、組織の上層部は大変困っておりましたよ?この町で何をしていたんですか?休暇はもらっていないはずですが…」
クッキーの質問に、フレンドは機械のような無機質な返答を返す。
「自分の名誉挽回のためです」
フレンドの答えに、クッキーはきょとんとした。
「名誉挽回?この間の失敗のことですか?あのポケモンはフレンドさんに捕まえるのは不可能だと思ったので上の人たちが無茶な注文をしたと思ったのですが…」
クッキーが小首を傾げて不思議そうな顔をする。
――失敗と言うのは、フレンドがポケモンの捕獲に失敗したからなのだ。
だいぶ役に立ってきたので本格的にポケモン捕獲に駆り出されたのだが、フレンドは戦闘があまり得意ではない。せいぜい自己防衛程度にしか戦闘技術が身についていないのだ。
そんなフレンドを待ち受けていた最初のポケモン捕獲が――色違いのボーマンダであった。
結果は惨敗。
組織にそれなりの力を認めてもらった矢先にこれである。前回の失敗をまだ根に持っていたフレンドは、無断で捕獲任務に向かっていったのだった。
「……そんなことはどうでもいいですよ。とにかく、組織に行っておいてください。後三日は戻りませんが、戻ってきた時には素晴らしい土産を持って戻りますので…と」
「自信があるのですか?」
「自身が有る無いではありません。必ず成功させなければいけないのです。僕も必死ですから…」
フレンドが獲物を刈る狼の目でフラウを見つめる。フラウはいまだに眠っている。それだけフレンドを信頼しているのだろう。フレンドが一瞬――本の一瞬だけ哀しそうな顔をした。
「………わかりました。組織の人達には説明しておきます。フレンドさんはフレンドさんの心のままに行動してください」
「感謝しますよ。クッキーさん」
クッキーはにこりと笑うと。音も無く部屋から消えていった。再び闇夜の静寂が部屋の中に充満していく。
「……あと、三日……」
誰に言うわけでもなく、フレンドは呟いた。



☆☆☆




三日目の朝、フレンドは昨夜の出来事が原因で寝不足だった。フラウはそうでもなくけろりとしていたが、フレンドは違った。目の下に熊ができていて、瞼がどことなく重そうで、少しやつれているようにも見えた。
「……フレンドさん?大丈夫ですか?」
うつらうつらとしていたフレンドをぺちぺちと叩いて、フラウは心配そうに声をかける。フレンドは半分寝ている瞳でフラウを見つめたが、暫くして瞼をごしごしと目で擦って、首を左右に振ると、少しだけ目が覚めたような顔つきになった。そしてフラウを目で捉えると、心配してくれた感謝の神様に恭しく頭を下げて、オペラの主人公のように語りだした。
「ありがとうございます。私の大切な姫君よ、心配は無用です。貴方を必ず幸せにして見せましょう…」
言った後に欠伸をして大きく伸びをした後に、小さくため息をついて朝食が並ぶ長方形の木製テーブルに突っ伏した。フラウは一瞬だけぽかんとしていたが、やがて何か異質なものを見るような目をして本気で心配そうにフレンドを見つめた。
「……ホントに大丈夫ですか?」
フラウの心配そうな瞳をちらりと一瞥し、フレンドは再度欠伸を出して、またさっきの眠そうな瞳に戻ってこう言った。
「大丈夫だったらあんなことは言わない…ふぁぁ…」
またでそうになった欠伸を何とかかみ殺して、フレンドは卓上に並べられたトーストを手に取り齧り付いた。フラウはその横でスクランブルエッグをフォークで弄っている。それを見ていたフレンドが注意するような口調でこう言った。
「フラウ、食べ物を粗末にしちゃいけないよ…食べ物は無機物じゃないんだ。ちゃんと食べないなら僕に頂戴」
フレンドがスクランブルエッグの皿を取り上げようとしたが、フラウがじっとりとねめつける様な瞳で睨んできたので、おとなしく引き下がった。
「考え事をしていただけです。誰も食べないとはいっていませんよ」
むすっとしてスクランブルエッグをフォークで絡めて口に運ぶ。火の通った卵が口の中から喉の奥へするりと抜けていく。フレンドは依然としてトーストを齧っていたが、やがて横にあったゆで卵の殻を剥き始めた。
「ふぁぁぁ…むにゃむにゃ…」
フレンドが四度目の欠伸をして、軽く首を回して、周りを見る。朝だからだろうか、あまりポケモン達の姿が見れない。朝、と言ってもフレンド達が起きたのは5時半だった。もっと正確に言うならフレンドはフラウに起こされたのだ。眠そうな瞳が、恨めしそうにフラウを捉える。フラウは暫く俯いて食事を口に詰め込んでいたが、フレンドの視線に気がつくと、食べていたウインナードッグをさっと隠した。
「……そんな物欲しそうな目をしてもあげませんよ。これは私の取り分ですから」
フラウがそう言って半分くらい残っていたウインナードッグを一口で食べてしまった。その様子を見ていたフレンドが両目をどんよりとさせる。そしてその両目をフラウの隣にある。堆く積みあがった皿の山に向けて、大きなため息をついた。実際、ため息をつきたい状況だった。
ホテルの朝食はバイキング形式だった。しかし、バイキングの時間が朝の5時から6時までなので、フラウは「とにかく朝はいっぱい食べたい」と言う短絡的思考で、爆睡していたフレンドを叩き起こして、モーニングバイキングに駆り出したと言うわけだ。そのときのフレンドはやたらと嫌そうな顔をして、「お金を出してあげるから一人でいってきなよ」と言って断ろうとしたのだが、フラウが「一人では楽しくない、一緒に来て欲しい」と、涙を流して懇願してきたのだから溜まったものではない。下手に断ろうものなら昨日の二の舞になる可能性があったからだ。昨日、やっと自分の思いを伝えて仲直りすることができたフラウとまた喧嘩してしまっては、フラウを傷つけてしまうと思い。疲れた身体に鞭を打って、フラウと一緒にバイキングに行ったのだ―――が、しかし、フレンドはフラウの大食らいの体質をすっかり忘れていた。
フレンドが朦朧とした頭で何とか栄養バランスを考えて食べ物をとっている隣で、取り皿の七割が炭水化物とタンパク質で構成されたフラウの朝食を見て、げんなりとしたのはいうまでもない。異常な大きさをしたロブスターを中心として、どでかいスペアリブやら、山をなすマッシュポテトやら、フライドチキンやらロースとビーフやら。
油ぎらぎら。カロリー満点。一週間で体重が1・5倍になりそうな取り合わせを、フラウは特に気にもせずに貪り食っていた。一度に大量にそんな物を乗せたトレイを片手で持っていたフラウの怪力にも驚かされたが、それを十五分で平らげてしまうブラックホールのような胃袋にも驚かされ、そんな重いものが朝食のバイキングに出されていることにフレンドは一番驚愕した。最近の低カロリーや低コレステロールなんぞ知ったことはない風情だ、と、言わんばかりにフラウのメニューは極端に偏っていた。
皿にその後にまたお代わりをとりに行ったフラウを見て、フレンドはもう笑うしかなかった。二分後に戻ってきたときは、異常な卵料理の数々を持ってきていた。そしてそれらをほとんど平らげ――今に至る。
フレンドとしては、急にフラウが戻さないことを祈るばかりであった…



☆☆☆


「今日は何処に行くの?」
朝食を終えて一服しているフラウにフレンドは問いかけた。フラウは体毛を弄って考えていたが、やがてゆっくりとこう言った。
「…とりあえず適当に回ってみましょう。いろいろあるんですから、全部は見ることができるわけではありませんし」
にっこりと笑ってフラウはフレンドの手を握る。ふさふさの体毛に覆われた真っ白な細い手から、フラウの体温が伝わってくる。フレンドは知らず知らずのうちに心臓が高鳴っていた…
「(これは…まずい…非常に宜しくない……)」
フレンドはフラウのこういうところをあまり好ましく思っていなかった。突発的に何か異性を惹きつけるような行動を起こすため、気があるのかと思ってしまう。そのせいで、フレンドは困惑しっぱなしであった。
「…昨日のこと、本当にごめんなさい…私はなんて謝っていいのか分からなくて…変ですよね・・・感謝の気持ちは分かるのに、謝罪の気持ちが分からないなんて…」
そう言って、自嘲気味に微笑むと、するりと手を離して窓の外を見た。空は雲一つ無い良い天気で、外出するには絶好の天候だったが、フレンドの心には暗い暗雲が立ち込めていた…
「…ねぇ、フラウ、ちょっと聞いてもいいかな。フラウはどうして忍冬の花をやめて鈴蘭の花を持ってきたの?」
フレンドがそう言ってフラウの手を自然に握り返す。フラウは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつものにこにこ顔に戻って、こう言った。
「そのことでしたら、ホントは忍冬の花にするつもりだったんですけど、どうして忍冬の花を選んだのか分からなくて、花屋さんに聞いたんです」
「…何を?」
「忍冬の花言葉…です」
「……」
フレンドが硬直する。花言葉の意味は知らなくても、花言葉自体があると言うことはわかっていたらしい。だったらなんで花言葉を最初に聞かないんだろうとは思ったが、自分のことで頭がいっぱいだったんだろうと思って、フレンドはその小さな疑問を頭の隅に押しやった。
「聞いてみて、忍冬の花は合わないと感じたんです。気持ちのこもっていないものを受け取るのは誰だって嫌だと思ったから、自分の気持ちを素直に伝えることができるお花はないですか?って聞いたんです。・・・そうしたら、鈴蘭のお花を持ってきてくれたんです」
フラウは少しだけ顔を赤くしてフレンドが握っていた手に少し力を込める。フレンドは笑っていたが、内心は良かったと思っていた。忍冬なんて渡された日には、どう返していいのか分らなくなる。
「ですから、自分の気持ちに正直に行動しようって思ったんです。ですから、今日はいろいろ回ってみたいです。フレンドさんと二人で。・・・一緒に回ればきっと楽しいですよ」
フレンドは半分目が覚めた頭で、フラウの言葉をよく理解すると、作り笑いではなく、心の底から自然に出た笑顔をフラウに向けて、言葉を紡いだ。
「うん、わかった」
フレンドにつられて、フラウもにこりとした微笑を浮かべる。その後、朝食の会計を済ませて、二人は外に出た。

――適当に町を歩いて、道々に咲く花を眺めていた…

――少し休憩した公園で、フレンドが思い切り打ち水をかぶってずぶ濡れになった。フラウはそれを見て笑っていた。フレンドは少しむすっとしていたが、やがてフラウにつられて笑い出した…

――歩いている途中でよったアクセサリーショップで、フラウにグラシデアの花をモチーフにした首飾りを買ってあげた…

――運動広場で軽い運動をしたが、フレンドが先に根を上げてしまい、フラウは少し不満そうだった…

――日の落ち初めを告げる夕焼けを眺めて、いろいろなことがあったと二人で語った…

町を練り歩いて、大した変化もなかったが、二人はその平凡な時間をたっぷりと楽しんだ。
誰かといることが、自分のことを見てくれている存在が、この時ほど素晴らしいと思ったことはなかった。
もっともっと、一緒にいたい。もっともっと、同じ時間をすごしたい。二人の心は、同じことを思っていた…
――しかし、駄目なのだ。
二人が一緒にいたいと思うほど、どんどん時間が過ぎていく、二人が別れたくないと思うほど、どんどん終わりが近づいてくる…
二人は同じようなスケジュールで、残りの三日間を過ごしてしまった………


☆☆☆


「…何てことだ…」
フレンドは頭を抱えて最後の日の朝を迎えた。数週間、と言っていたが、フロールタウンには定期船が出ている。フレンドはその定期船に乗ってこの街にやってきた。一週間の滞在と言うことで、今日の夜に、フレンドのいた土地に帰る定期船がきてしまうのだ…その間までに、フレンドはフラウを捕獲しなければいけなかった…
「……僕が…フラウを…」
フレンドは俯いて今まで過ごした時間を思い出した。
いろいろなことがあった。
いろいろなことを学んだ。
いろいろなものに触れた。
――そして、大切な友達ができた。
フレンドの頭にフラウの顔が浮かび上がる。怒った顔、泣いた顔、喜んだ顔、自慢げな顔、眠そうな顔――そして、笑った顔。
その全てを一週間と言う短い時間で知る事ができた。自分には決してできなかった友達から、心を学んだ。そんな友達を、どうして裏切ることができようか…
「…僕には…できない…」
フレンドは静かにかぶりを振って、隣で幸せそうに眠っているフラウを見つめた。
無防備な寝顔は、信じている証拠なのかもしれない…
「……帰る前に…謝ろう…本当のことを伝えて、僕が消えれば…」
フレンドは静かに決意をして、すぴすぴと変な寝息を立てているフラウを揺り起こした。
「んぅ…」
フラウは不機嫌そうにくぐもった呻き声を上げると、瞼を開いて周りを見た。そしてフレンドの姿を確認すると、柔和な笑みを浮かべた。
「お早うございます。今日はどこに行きましょうか?」
なんでもない、日常会話のような質問。フラウはまだ本当のことを知らない様子だった…
「…そうだね。夜までは時間があるし、適当にぶらぶらしようか…」
「……?夜に何かあるんですか?」
「…ちょっと…ね」
フラウの質問をフレンドはうやむやにする。フラウは特に不審には思わなかったが、フレンドは心臓がバクバクと鳴っていた。
―――いつ切り出せばいいのか分からない…
そんな気持ちがフレンドの中をぐるぐると回っている。悶々としていると、フラウが声をかけた。
「でしたら、今日はちょっと違うことをしましょう。フレンドさん、私の背中に乗ってください」
「……は?」
いきなり何を言い出すんだと思ったが、別に何かやましい気持ちがあるわけでもないようだ。フラウは早く乗れと目で催促する。
「…じ、じゃあ…乗るよ」
フレンドがおっかなびっくりした足取りで、フラウに跨る。
「んっ…」
跨った瞬間フラウがくぐもった喘ぎ声を漏らす。フレンドは一瞬びくりとして、どこかの性感帯にでも触ったのではないのかと本気で慌てた。
「うわぁっ!!ごっ…ごめん!」
何が悪いのか分からなかったが、フレンドはとりあえずフラウに謝った。それを聞いたフラウはくすくすと笑い出して、おどけた口調でこう言った。
「あはは、冗談ですよ。びっくりしました?」
「……」
フレンドは一杯食わされたと知り、一気に不機嫌になった。
「…そんなに怒らないで下さい、行きますよ。……それっ!!」
フラウの掛け声と共に、フレンドを乗せたフラウの体がふわりと浮き上がる。
「わっ・・・わわわっ!!!」
フレンドがバランスを崩して落ちそうになるのを何とか堪えて、フラウにしがみ付いた。
――その刹那、
「ひあっ!」
フラウがびっくりしたような声を上げてふらりと右に傾く。慌ててバランスを整えるが、顔が真っ赤だった。
「……?」
フレンドが不思議に思い、自分がしがみ付いているところを見た。
自分の手が、フラウの形のいい胸を、両方ともしっかりと掴んでいた。
「うわぁっ!!」
流石にこれは本当にびっくりして、フレンドは慌ててフラウの胸から手を離した。
「あ…あのこれは、その、いや、ホントにゴメン!!!」
フラウに跨ったままフレンドは謝罪の言葉を述べた。フラウは暫く顔を真っ赤にして俯いていたが、
「だ、大丈夫です、ちょっとびっくりしただけで…じゃ、じゃあ気を取り直して…行きますよ!!」
フラウは真剣な顔つきに戻って、大きく木製の床を蹴る。その瞬間ものすごいスピードでフラウの身体が急上昇し、窓から美しい青空へと飛び立った。
「うわっぷ!!」
いきなり来た突風に最初のうちは目をつぶっていたフレンドだったが、やがてゆっくりと目を開けると、そこには澄んだ青空が広がっていた。
「…わぁ…」
おもわず感嘆の声を漏らす。こんな間近で空を体験するとは思わなかったのだろう。下を見るとフロールタウンの全体が見える。入り口から全ての町を囲むように咲き乱れている花は、まるで巨大な花束のようだった…
「サフランさんのいったこと…本当だったんだ…」
おもわず感心してしまう。暫く下を見ているとフラウが唐突に声をかけてきた。
「どうですか?お空の世界は?」
フラウの問いかけにフレンドは笑って答えた。
「凄いや、こんなに綺麗だとは思わなかった」
フレンドの笑顔を見たフラウは少しだけ安堵したように息を吐いた。
「…ようやく、自然に笑ってくれましたね…」
「えっ?」
フレンドはどきりとしてフラウを見つめた。フラウは飛ぶ速度を若干落として、ゆっくりと飛行しながら話し始めた。
「フレンドさんと始めてあったとき、フレンドさんは変な悲壮感を持っていたんです。切羽詰っている、と言う感じでしょうか?…とにかく、そんな感じで、笑ってもなんだか心の底から笑っていると言うことがなくて、とっても怖かったんです。でも、この三日間でフレンドさんは随分変わりました。自然に笑うようになったし、いろんなことも話してくれるようになりました。…私が知っているポケモン達は、そんな風に笑ったり、いろんなことを話してくれるなんてことはしてくれませんでしたから…」
フラウに言われて、自分のことを考えた。
自分は自然に笑えるようになってきたのだろうか、確かに、初めてこの町に来たときは、伝説のポケモンを捕まえることしか頭になかった。それ以外のことなんて殆ど考えていなかった。
だけど、今はどうだろう?フラウに始めてあったときは、その性格から勝手にイメージを植えつけて、落胆した。だけどそれは大きな間違いだった。フラウと一緒に過ごしたことによって、フラウのいろいろな面や、複雑な心を知る事ができた。
伝説と言っても彼女もポケモンなのだ、怒ったり、笑ったり、泣いたりする。自分は目先の欲望にとらわれていて、そんな当たり前の感情に気付くことができなかった。他のポケモンたちともそんな風だったのかもしれない、だから嫌われていたのだろう、と言うことも。
だけど、そんな心を知って、相手の気持ちを考えることができるようになった。
自分の気持ちを素直に出して、心から笑えるようにもなれた…
「…きっと、そうなれたのは、フラウのおかげだよ…フラウが人の心のいろいろな部分を教えてくれた、だから僕は……変われたんだと思う…」
自分の心を見つめて素直にそう呟く。その言葉を聞いたフラウはにこりと微笑んだ。
「そうですか…私に感謝…してるんですか?」
「うん、感謝してる。君がいてくれて、本当に良かった…ありがとう」
フレンドの答えに、フラウはほんの少しだけ驚いたが、すぐに笑顔になった。そして、自分の心を切り出した…
「私も、フレンドさんに感謝してます…土から出てきて、私を知っているポケモンがいても、私を私としてみてくれるポケモンはいませんでした。フレンドさんだけが、私を、対等に見てくれました。……フレンドさんは、私の最高の、友達です」
「……僕も、フラウのこと、最高の友達だと思ってるよ。この気持ちは嘘じゃない…」
――本当は、それ以上の存在になりたかったけど…
そんな気持ちをフレンドは心の奥底にしまい込んで、綺麗な青空を見つめた。
「(最後に、最高の景色を見ることができた…もうこれで、心残りはない…)」
澄んだ青空は、どこまでも、どこまでも、どこまでも続いていった…


☆☆☆


美しい花たちが、町の明かりで綺麗に照らされている。フレンドにとって、この町で過ごす最後の夜の景色だった…
「フレンドさん?お話って何ですか?」
待ちの入り口にある船着場にフラウを呼んだフレンドは、自分の気持ちを全て伝えるために、自分の持っているちっぽけな勇気を全て振り絞って、フラウに話しかけた。
「フラウ。御免ね。今日で、もうお別れなんだ…」
掠れる様な声でそう呟く。フラウが一瞬だけ硬直したように身体を堅くし、フレンドを見つめた。
「……え?…どういう意味ですか?フレンドさん」
フラウがこの世の終わりのような顔をしていた。その顔を見て、自分はなんて最低な奴なんだと心の中で思った。
「僕は君のことを騙していたんだ、この町に来た目的は、君を、生きたまま捕獲すること…」
フレンドの言葉にフラウがびくりとする。全てにおいて優れているフラウだが、信頼しきったポケモンを相手とするならば、少なからず自分の力が鈍ってしまうからであろう。蒼色の瞳は潤み、フレンドを見つめている…
「だけど、僕はそんなことできない。そんなことしたくない…君に会えて分かったんだ。心の、気持ちの大切さを…」
フレンドの言葉をフラウは噛み締めるように聞いていた。フレンドはこみ上げる嗚咽と、目から毀れそうになる涙を堪えて、一言一言を搾り出した。
「始めのうちは、君のことを外見だけで判断して、勝手に性格を決め付けて、勝手に失望した。だけど、君と過ごせば過ごすほど、君という存在が、君の心が、段々分かってきて、君は、本当はとっても優しくて、心の温かいポケモンだって、分かって…僕は…僕は…っ!君のことが……好きになってたことに・・・気がついたんだ!」
フレンドはありったけの気持ちをフラウに伝えた、フラウは驚き、徐々に顔を紅潮させていった…
「フレンドさん…」
「だけど、君はこの先はまた土に戻ってしまう。僕のこの気持ちはどうせ伝わってもすぐに消えてしまうものだから、伝えない方が言いと思ってた。だけど、自分の気持ちに正直になれたのは、フラウのおかげだから、だから、伝えたんだ。自分の、本心を…」
遠くから汽笛の音が聞こえた。おそらく最終の船便だろう。耳を澄ませば、遠くから「最終船です、お乗り込みの方はお急ぎください…」と言う声が繰り返し聞こえる。フレンドはその声を聞くと、後ろを振り返り、こう言った。
「ありがとう、フラウ。君のこと、僕は忘れないよ。君が土に潜って。君が僕のことを忘れてしまっても。僕は君の事を忘れない。何年でも、何十年先でも、ずっと」
どんどん声が上ずっていくのが分かる。自分は泣いているのだ。これ以上話すと辛かった。自分が消えてしまいそうだった…
「…………さよならっ!」
短く言うと、フレンドは船着場に向けて走り出した。
――これでいい。自分のことなんて忘れて、フラウは土に戻って…これで、いいんだ…





――しかし、フレンドが船に乗ることは無かった…
後ろから、何かが抱きつくような感触、汗ばんだ身体と身体が密着して、鼻を突くような甘い匂いが後ろから流れてくる…
「…かないでください…」
掠れた声が後ろから聞こえる。
「…行かないで…下さい」
フラウが、走り去ろうとしたフレンドを、追いかけて――後ろから抱きしめたのだ。
「……フラウ…」
「フレンドさんが……いなくなったら……わ、私は……誰を好きになればいいんですか?」
フレンドが驚いて後ろを振り向く、フラウは泣いていた。ごしごしと瞳を擦って、かすれる声を絞り出す。
「はっ、始めてあったときは、全然気になりませんでした。…ああ、この人も他のポケモンと同じなのかなって…でも、フレンドさんと過ごしていくうちに、私、変になっちゃったんです…」
フレンドは静かにフラウの話を聞いていた。止まっている船のエンジン音だけが、星明りの夜の下に響き渡る…
「フレンドさんと会うたびに、胸が熱くなって、ドキドキして、フレンドさんのことしか考えられなくなって…それで、分かったんです…」
「……えっ?」
フラウはすうっと目を閉じると、フレンドのほっぺにキスをした。ぷにゅっとした柔らかい感触がフレンドの頬に鮮烈に伝わる。
「私は、フレンドさんのことが、好きになっているんだってことを…です」
最終船の出航を告げる汽笛が鳴り響く。最後の船は、大きな音を立てて、真っ暗な海の中を進んで、やがて見えなくなってしまった…
「最終船…乗りそびれちゃったね…」
フレンドがそう呟く。フラウは申し訳なさそうな顔をしていた…
「ご…ごめんなさい…私のせいで…」
「……ううん、本当は乗ろうとしてたよ…だけど、ここまで気持ちを伝えてくれた人を――どうして置き去りにできるの?」
フレンドは空を見上げて、静かに息を吐くと、フラウをぎゅっと抱きしめた。
「フラウ…大好きだよ…」
フレンドは耳元でそう呟く。フラウは自分の心臓の音が聞こえるほど緊張していたが、やがて一つの言葉を返すことができた…
「私は…愛してます…」
二人の唇と唇が重なり合い――
――二人の心も、重なった…


☆☆☆


真っ暗な闇の中、明かりが消えたフロールタウンの噴水広場に、二人のポケモンが向き合っていた…
「……本当に良いの?僕なんかで…」
フラウに向かってフレンドが最終確認をする。フラウは首をゆっくりと縦に振るとこう言った。
「違いますよ、フレンドさんだからいいんです……その、私、初めてですから…あ、あの…優しく……してくださいね?」
フレンドが思いを伝え、フラウが思いを伝えた。…その後、フラウは番(つがい)になりたいといった、フレンドはそれを承諾し、――今に至る。
「う、うん……痛かったりしたら言ってね?」
フレンドは緊張してフラウの顔を見ている。フラウは自分のことを処女だと認めていたが、フレンドもそういった類の経験は皆無である。つまりは二人はこれが初体験になるのだった…
ゆっくりと二人が唇を重ねる。お互いの舌が接触し、周りに湿った水音が響き渡る…
「んぅ…んむぅ…」
フラウは顔をうっすらと紅潮させ、フレンドに身体を預けている。
フレンドは片手でフラウの身体を弄(まさぐ)ると――フラウの胸を揉みしだき始めた…
「ふむっ!?…ふぅっ…んぅぅ…」
フラウはびっくりして口を離そうとしたが、フレンドがそれをさせまいと余った片手で腰をしっかりと掴んで、フラウに密着する…
「ふっ…ふむぅ…むぅぅっ」
フラウの身体が小刻みに震えて、するすると手がフレンドから抜け落ちていく、フレンドは暫くフラウの胸を弄っていたが、やがて小さな肉芽を指先で弄び始めた―――
「んんっ!?んーんー!!…ぷぁっ!!」
胸を揉まれるのとはまったく違う快楽に、フラウは一方的にフレンドから口を離した。二人の口から銀色の糸が尾を引くが、すぐに切れてしまった。
「あっ…ふぁっ、やぁっ…ふれんどさっ…あぁんっ!」
フラウが力の抜けた前足で必死にフレンドにしがみつく。フラウの身体に漂う甘い香りが、二人の間にねっとりと纏わりつく。
「…フラウって、胸が弱いの?」
すっかり充血したフラウの肉芽を、指先で潰したり、くりくりと回したりして、フレンドは素朴な疑問を投げかけてみた。……暫く舌後、艶っぽい喘ぎ声とともに、途切れ途切れの返答が帰ってくる。
「ふぅん!…そっ…そんなの…分かりませっ…あうっ!」
フレンドが肉芽を弄るたび、フラウの身体はビクリと反応し、どんどん力が抜けていくようだった。はぁはぁと荒く息をつき、瞳がとろんとしている。
フレンドは片手で胸を弄りながら、顔をもう一つの胸に持っていくと――口をつけて、吸い始めた。
「ひゃあっ!!あっ…あああああぁぁあぁぁぁぁっ!!」
胸の辺りにいきなり来た湿った感覚。その後に襲い掛かった快楽の波に、フラウはあられもない悲鳴を上げる。力の無い前足で、必死でフレンドの背中を叩いて止めてと信号を出すが、フレンドはそれを無視して、手と口のスピードを上げていく…
「あっああっ、はぁうっ!やっ、フレンドさっ…とっ、止めてくださっ…」
フラウが掠れる様な声で懇願する。だがフレンドは動きを止めようとはせず――代わりに自分の丸まった尻尾をピン、と伸ばして、フラウの目の前にゆらゆらと揺らめかせる…
まさか、とフラウは思った。その予想は――見事に的中した。
フレンドが尻尾をするするとフラウの秘所に持っていく、先程の行為で、すっかりぐしょぐしょになったフラウの秘所は、細い尻尾なら簡単に飲み込んでしまいそうだった…
「ふっ、フレンドさん…あっ、あの…その」
「大丈夫…優しくするから……………多分……」
「たっ、多分って!ちょっとそれは無責任すぎ……ひゃぁあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
フラウが何かを言おうとした瞬間、胸を弄られていたときとは比べ物にならない快感が体中を電流のように駆け抜けた。
フレンドが自分の尻尾を巧みに操り、フラウの秘所に出し入れを繰り返している、じゅぷ、じゅぷ、という規則的な淫音が周りの静寂を打ち破る…
「フラウ、あんまり大きな声出すと気付かれるよ?」
「はあっ、はあっ、そんなことっ…言われてもっ…あぁっ!!」
フレンドが悪戯っぽくフラウの耳元で囁く。尻尾を出し入れするたびにフラウの秘所からは愛液が漏れ出て、周りの地面をじっとりと湿らせる。フレンドは更に中断していた胸への愛撫を再開する。
「あっああぁっうあぁぁっ…フレンドさんっやめっ、もうっ……限界っ!だめっですっ…!!!」
「う、うん。僕も、そろそろ限界……」
フレンドはそう言ってすっていた肉芽を軽く甘噛む。
――その瞬間、フラウの頭の中がスパークした。
「ひっ……あっ!!あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
フラウが叫び、ぷしゃっと愛液が秘所から噴き出した。それと同時に、膣が締まりフレンドの尻尾を締め付けた。
「わっ…ぅあっ!!」
いきなり快楽の波が押し寄せて、フレンドは尻尾から伝わる快感の波に耐え切れなくなり、自分の肉棒から思い切り精液を吐き出した…
「うっ…わぁ…」
快感が去り、フレンドは覚めた頭で周りを見渡してばつの悪そうな顔をした。周りの土は自分の精液とフラウの愛液でくしゃくしゃになっている。――当のフラウは、虚ろな瞳で虚空を仰いでいる。足ががくがくと震えていて、荒い息を何度も吐いては吸ってを繰り返して――そのまま気を失ってしまった。
「あ………後で絶対に怒られそうだ…」
顔を紅潮させてぐったりとしていたフラウを見て、フレンドは益々気分を沈ませた…


☆☆☆


「ふっ…うぅん…」
フラウはうっすらと目を開けて周りを見た。……自分の愛液とフレンドの精液が散乱している地面を見つめて、先程の行為を思い出した。
「(えっと、フレンドさんに秘所を尻尾で弄られて…それで…それで…)」
思い出した瞬間顔が赤くなる。自分が考えていることを必死で忘れようとフラウが首を左右に振っていると、後ろから不意に声がかけられた。
「お目覚め?」
「うひゃああああ!!」
フラウはびっくりして反射的に自分の胸と秘所を隠す。秘書に触った時、ねっとりとした愛液が自分の手に付着して、なんともいえない気分になった…
「ご、ゴメンねフラウ。まさかここまで感じるなんて思わなくて…」
フレンドが頭を下げて謝罪する。フラウは暫くフレンドを見ていたが、やがて小さな声でこう言った。
「フ…フレンドさんは…意地悪です……優しくしてくださいって言ったのに…」
フラウはいったあとに顔をまた紅潮させる。フレンドは申し訳なさそうに俯いた。
「ゴメン。僕も初めてだったから、加減がわからなくって…」
「……今度するときは…もう少し…優しくしてください…ね?」
「う…うん。努力するよ…」
二人はまた見詰め合う。暫くは無言だったが、フラウが決心したように口を開いた。
「フ……フレンドさん……その…私に…い……挿入てくれませんか……」
言った後に、恥ずかしすぎて顔を隠してしまったフラウを、フレンドはにこりと笑って見つめた。
「そんなこと言わなくても、フラウは番になりたいんでしょ?だったら、そういうことは言わなくて良いと思う…」
「は…はい…」
フラウがまだ赤みのかかった顔を覗かせる。フレンドがその顔に軽くキスをして、フラウに覆いかぶさる…
「それじゃあ…いくよ?」
「は…はい!!」
ゆっくりと、フラウは腰を落としていく。徐々に秘所が肉棒を飲み込んでいく…
「ふうっ…んっ…」
「うっ…くっ…」
半分ほどいったところで、何かに当たるが、フラウはそれを無視して腰を落とす。何かが破れる音がして、結合部から少量の血が漏れる…
「うっ…つぅっ…」
「フ、フラウ・・・大丈夫なの?」
「大…丈…分です…動いてください…」
フレンドはこくりと頷くと、ゆっくりと腰を上下に動かし始める。動くたびに膣が締め付け、フラウが苦しそうな声を出す…
「うあっ…あぁぁっ…ぐうっ…」
「ぐうっ…うぅっ」
フレンドがフラウにキスをする。痛みを少しでも和らげようとしたのだろう。フラウもそれに答えて、二人の唇が重なり、舌を絡ませる。フレンドはそのまま腰を動かし続ける。
「うんっ…うぅっ…むっ…んんんっ…」
「んっ…んむっ…ふぅん…」
フレンドが唇を話す。とろりと垂れた銀色の糸が、そのまま地面に落ちる。以前とフレンドは腰を動かし、ぢゅくぢゅくと言う音だけが響き渡る…
「んぅ…あっ…ふぁああっ…フレンドさん…すごいっ……ですぅ…」
「うっ、すごいっ…締め付けがっ…」
フラウの声は段々と甘い声に変わっていく、フレンドは一心不乱に腰を動かし続け、段々と射精感が近づいてきていることがわかった…
「フラウっ…そろそろ…どいてっ…」
フレンドはそういったが、フラウは堅く目を瞑り、いやいやと首を横に振った…
「嫌…ですっ…ずっと…一緒です…んっ」
そう言って、フレンドに抱きついて絶対に離れないようにした。それと同時に、フレンドも限界を感じて、思い切り射精した…
「うああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ふああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
フラウの膣内を、愛液とは違うぬめりが満たしていく…そのまま疲れたようにくたっとフレンドに倒れこんでしまった。
「あ……膣内に……出しちゃった…」
フレンドは申し訳なさそうな顔をしていたが、フラウの顔は笑顔だった……
「えへへっ、これでずっと……ずっと一緒です…」
フラウはそう言って、またフレンドと唇を重ねる。フレンドはそれを優しく受け止める…口を離した後、フレンドは柔らかな微笑を浮かべて、こう言った。
「うん……ずっと……ずーーっと一緒。……大好きだよ……フラウ…」
「私は……愛してます……」
二人は繋がったまま、幸せそうに眠りについた…


☆☆☆


「……番の鳥は…一つになりましたか…」
明け方に二つの影がフロールタウンを出て行ったのを確認し、クッキーはため息をついた。そして徐に古ぼけた通信機を取り出すと、回線を開き、通信を始めた…
「こちらクッキー…フレンドさんの件ですが……はい、彼は失敗して死んでしまいました……ええ、この目で見ました……非常に優秀な人物でしたが……はい、残念です。ええ、……替わりは探しておきますよ。……はい、お任せください……それでは…」
通信を終えて電源を切り、遠く見えなくなった二人を見つめた。
「フレンドさん・・・これで貴方を縛るものは無くなりました…大切な人と……心のままに生きてください…」
そういって微笑をする。少しくさいかな?と自分の心の中で思いながら、グラシデアの花を見つめる…
「……心は、いつでも、繋がっている…ですね」
クッキーは微笑を浮かべて花に問いかける。
グラシデアの花が…頷くように頭を垂れた…
――おしまい――


非常に懐かしい処女作。書き直そうかと思いたいですが、やっぱりそのまま何もせずにもう一度のせる。
ここから始まったとはいえ、なんかもうとほほな作品です;;誤字とか多いしねw
非常に淡白な仕上がりとなっております。ごめんなさいorz



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Last-modified: 2013-06-29 (土) 00:00:00 
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