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心に刃を

/心に刃を

まえがき 


今回の作品はβさんのリクエスト作品です

作者:COM

心に刃を 


「98! 99……! 100!!」
 あるところに整備されたポケモンと人間が利用することのできる公園で、必死に前足を振る一匹のリーフィアがいた。
 どうやらそのリーフィアはその前足を振る回数を数えていたようで、数えた通りなら100回前足を振り、少し息を切らして休憩していた。
 この公園ではよくポケモントレーナーがトレーニングに来たり、このリーフィアのように一人で練習をしに来る者も多い場所らしく、公園内はポケモンや人間でかなり賑わっていた。
 そしてもちろんそれだけの数のトレーナーがいれば必然とポケモンバトルにもなる。
「いけ! ジュカイン! リーフブレードだ!」
 公園の一角では今まさに二人のトレーナーによる熱いポケモンバトルが繰り広げられていた。
 指示を出されたジュカインは腕に生える長い葉っぱを輝かせ、対戦相手のダーテングに斬りかかった。
 負けじと対戦相手もダーテングに指示を出す。
 二匹のポケモンが激しくぶつかり合うその様子を横から見ていたリーフィアは思わず口に出した。
「はぁ……僕も早くあんな風に格好良くリーフブレードを繰り出したいなぁ……」



     ◇     ◇     ◇



「お帰り。今日も特訓してきたのか? フキ。偉いなぁ~」
 フキと呼ばれたそのリーフィアは家に帰ると、彼のトレーナーである人間からそう言われワシワシと頭を撫でられた。
「ご主人。僕、早く強くなりたい! そしてもっと役に立ちたいんだ!」
 ペットでも可愛がるように頭を撫でたトレーナーの手が離れると、フキは一呼吸置いてからそう言った。
 すると彼は少しだけキョトンとした表情を見せ、にっこりと笑い
「ありがとう。でも、ゆっくりでいいよ。無理はしなくていい。少しずつ強くなっていけばいいんだよ」
 そう言ってもう一度フキの頭を優しく撫でた。
 トレーナーはそのまま半身だけでフキの方に向けていた体を机の方へ戻した。
 フキは彼のパートナーとなるポケモンだ。
 まだイーブイだった頃に出会い、今日まで一緒に戦ったり、遊んだりして生きてきた。
 遂にはリーフィアに進化させてもらい、今までよりもさらに強くなった。
 ここまで強くなるなれたことの恩返しをしたいといつも強く思っていた。
 だが、トレーナーはいつも『一緒にいてくれるだけで十分』と言って頭を撫でるだけだった。
 トレーナーにとってポケモンバトルは生活の中の息抜きだったため、バトルで勝つことはそれほど重要な事ではなかった。
 しかしフキにとっては彼のパートナーであるため、なんとか今まで強くしてもらえたことをバトルに勝って証明したかった。
 フキにとってはポケモンバトルで勝つことはとても嬉しい事だった。
 トレーナーは覚えていないかもしれないが、昔彼はバトルに勝ったフキをとても褒めたのだ。
 フキにとってはそれがとても嬉しかったし、そうやって喜んでくれるトレーナーを見るのがとても楽しかった。
 そのため毎日毎日特訓して少しでも早く強くなろうとしていたが、時が経ち、トレーナーもポケモンバトルをほとんどしなくなっていた。
 ポケモンであるフキにはそんなこと少しも分からないだろう、そう思ったトレーナーはただフキとの接し方を変えていっただけだった。
 今でもフキの中では強くなることが恩返しなのだ。
 そんなある日、フキはいつものように仕事でパソコンと向かい合っているトレーナーに一応一声掛け、いつものように公園に向かった。
 そこで彼はとあるものを目撃した。
「いやだからマスター……。うっかりにもほどがありますよ! 僕がリーフブレードを主力にできるわけないでしょ!」
 そう一匹のエルレイドがかなり困った表情で彼のトレーナーと思しき人間にそう訴えかけていた。
「まあまあ……確かサイコカッターも覚えるんだよね? それまでそれの代わりと思って……」
 その人間はそう言い、ヘラヘラとした感じで答えた。
 その後もエルレイドは何とか彼に自分の思いを伝えたいのか必死に喋りかけるが、トレーナーは適当にはぐらかして何処かへと行ってしまった。
 それを見てエルレイドはただ深く溜息を吐くだけだった。
 どうやら彼のその調子は日頃かららしく、漸く諦めもついたのかエルレイドはそのまま近くのベンチに腰掛けた。
 それを見た途端、フキは走り出していた。
「すみません! エルレイドさん! あなたはリーフブレードが使えるんですよね!? 是非僕に教えてください!」
 ベンチに深く腰掛け、ゆっくりとしていたエルレイドの元に、少し強引にフキはそうお願いした。
 何事かよく状況を把握できていないエルレイドは少し混乱したが、一度フキに聞き直すことにした。
「なるほどね……。早く強くなりたくて、君なら主力の技にすることができるリーフブレードを僕が覚えてるから技を覚えるためのコツを教えてもらいたい……と」
 フキがなぜ彼にそんな強引なお願いをしたのか、フキの思いまで含めて一度エルレイドは全て聞いた。
 そこまで聞いた所でエルレイドは何度かうん、うんと頷き、少し目を瞑って何かを考えているようだった。
「率直に言うと、僕が君にリーフブレードを教えてあげることはできない」
 組んでいた腕を解いてエルレイドはそう言った。
 それを聞いたリーフィアは少し悲しそうな表情を見せていた。
「僕が……まだ弱いからですか?」
 耳も垂れ、さも申し訳なさそうにフキは聞いた。
 それを見てエルレイドは手と首をブンブンと振って答える。
「違う違う! そういう意味じゃなくて……。もし君は何故呼吸をすることができるのか? と誰かに聞かれてそれを説明することができるかい?」
 すぐにエルレイドはフキの誤解を解くためにそう言い、逆にそう聞きなおした。
 もちろん自分が何故呼吸を出来るかなどと聞かれてそれを詳しく説明できる者はいない。
 フキも同じように素直に首を横に振る。
「僕にとっては呼吸と同じぐらい自然に出せる物だから、説明のしようがないんだ。多分、君も自分の技をどうやって繰り出せばいいのかを相手に教えることはできないと思うよ?」
 それを見てからエルレイドは一呼吸置き、そう答えた。
 そう言われてフキも少しだけ自分がよく使うはっぱカッターについて考えてみたが、確かに言われる通りに何故出せるのかと聞かれると困ってしまうという事に気が付いた。
「やっぱり他人に教えてもらってどうにかなる事じゃないんですね……。ごめんなさい」
 自分でも理解したのか、フキはそう言ってかなり落ち込んだ調子でその場を後にしようとした。
「ちょっと待って! 折角だしもう少し話そう。聞いてたら君の事、僕ならもう少しだけアドバイスできそうだったから」
 それを見てエルレイドはそう言い、フキを引き止めた。
 それ自体は素直に嬉しかったのかフキは少しだけ元気を取り戻した。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はレイ」
 そのエルレイドはレイと名乗り、手を差し出した。
 フキも名乗り、レイと握手をして彼の横に座った。
「僕はね、マスターと一緒にポケモントリーグを目指してるんだ」
 フキが聞く体勢になったのを確認してからレイはゆっくりと喋り始めた。



     ◇     ◇     ◇



 レイは昔から彼のマスターに『いつかポケモンリーグに出場してチャンピオンになる』と言い聞かされて育てられてきた。
 その言葉に相違なく、彼はレイをしっかりと育て上げていた。
 『いつかは自分の力でマスターをポケモンリーグの頂点に立たせたい』
 レイの中にもいつしかそんな感情が芽生え、バトルやトレーニングに対する熱意も更に高まっていた。
 だが、このトレーナーは恐らく腕こそは良いのだろうが、非常にうっかりが多い。
 今回のレイの状況もそうだが、覚えさせる技を間違ったり、大事でもない所では指示のミスが多かったり……。
「もう少し頑張ったらサイコカッター覚えられるから」
 楽天的な性格のトレーナーはそう言い、それまでの代わりの主力技として使えばいいと言っていたのが先程二人が出会う前の公園での出来事だった。
「でも僕は草タイプではないからリーフブレードの真価を発揮することもできないし、勿論主力として使っていくには少々力不足なんだ」 
 レイは苦笑いしながらそう言った。
 それを聞いてフキは少しだけ驚いた表情を見せた。
「リーフブレードはそんなに強い技じゃないんですか?」
 フキは自分が必死になって覚えようと思っていた技がそれほど強くもないかもしれない事に不安を覚えたのか、レイにそう聞いていた。
 するとレイは首を横に振った。
「あくまで僕が使うと、だよ。勿論君のような草タイプのポケモンが主力で使っていけば素晴らしい真価を発揮するよ」
 続けるようにレイはフキにそう言った。
 それを聞いてフキは不思議そうな顔をする。
 フキは勝ちたいという思いは強くても、彼のトレーナーはどうしても勝ちたいというようなトレーナーではないため、フキに技のことや戦い方については殆ど教えていなかった。
 そのため思いだけが空回りしているのはレイからも見て取れた。
「だから……僕が言いたいのは、無理に強くなる必要もないし、強くなりたいと日々思って練習し続ければ強くなれるんだよ。今は負けることが多くても、それがいつか負けないための布石になるから、慌てずに今を一所懸命に生きればいいよ」
 焦っている彼に気付いてもらいたくて、レイは自分の純粋な思いを伝えた。
 大事なトレーナーからではなく、他人であるレイに言われたためかフキもようやく勝ちへの焦りに気が付けたようだ。
「……そうですね。そうですよね! ごめんなさい、そんな当たり前のことに気が付かなくて……」
 そう言ってフキは頭を下げて、来た時とは違い、晴れやかな顔で去っていった。
 フキを手を振って見送った後、レイは腕を組んで一つ深いため息を吐いた。
「僕もいつかはサイコカッターを覚えられるんだろう……けど、マスターのうっかりはいつ治るのかな……」
 そう呟いた後、諦めるように首を横に振った。
 迎えに来たレイのトレーナーは、いつものように段差もない道路で足をもつれさせてこけていた。


あとがき 


どうもCOMです。
今回、かなり短い作品になってしまいました。
誰しも色んなジレンマを抱えていると思います。
自分もそうなので、どちらかというと自分に言い聞かせるために書いたようなものです。
共感してくれる人がいたなら、同じような思いを持った人がいるなら、焦る必要はないと自分に言い聞かせるような作品です。

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Last-modified: 2014-12-21 (日) 18:35:13
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