作者 森の洞窟の熊さん
この物語には、流血、死などの残酷な描写や、全体的な鬱表現が含まれています。苦手な方はすぐさまバック!
足りない。
足りない
足りない。
こんなものでは、まだまだ足りない。
もっと経験を。
もっと技術を。
もっと力を。
もっと、もっと全てを手に入れればきっと―――
―――フクシュウガ、デキル。
すべてが始まった日は、どれくらい前の話になるのだろうか。
ボクは、小さな集落のような場所に住んでいた。
毎日が楽しくて、嫌なことなんてなくて、とても住み心地がよかった。
ある日のこと。
その日は雨で、憂鬱だなぁとか、今日は遊べないかなぁとか、どうでもいいことを考えていたときのことだった。
住処の小さな洞窟に、何かが折れるような音と、確かな悲鳴が聞こえてきた。
驚いたボクが洞窟を飛び出して最初に目にしたのは―――もとの風景などひとかけらも残っていない、地獄のような景色だった。
雨だというのに、赤く燃え盛っている森。
悲鳴を上げながら逃げ惑うみんな。
そしてそれを追う、人間たち。
なんで、こんなことを。
口から弱々しく漏れ出たその言葉には、遠くにいる人間が叫んでいた言葉が明確な言葉として耳に届いた。
『―――ミュウだ!ミュウを探せ!』
ミュウ?なんでボクの名前が、あの人間から?
『―――幻のポケモン、ミュウを捕まえるためなら、他のポケモンなど殺しても構わない!』
なんで、ボクのために、みんなが?
その小さな質問は、木が爆ぜる音と、沢山の声に呑まれて消えていった。
いやだ、いやだ、いやだ!
悲痛な叫び声もまた、轟音と共に消えた。
不意に、足元を動く何かがいることに気が付いた。
黄色い、何か―――たしか、集落の端のほうに住んでいたピチューだ。
ボクとよく遊んだ、元気な子だった。
ピチューは、ボロボロの手を持ち上げて、掠れた声で言った。
「いやだ、まだ…!」
直後、鈍い音と共に、ピチューの目から光が消え失せた。
その背中には、冷酷な殺意を持った道具、槍が刺さっていた。
『―――いたぞ!こっちだ!』
近くで人間の声がする。
沢山の人間が近づいてきている気配がする。
だけど、ボクは逃げなかった。逃げれなかった。
目の前で友達が死んだ、現実を突きつけられていた。
涙でぐちゃぐちゃになった顔からは、遊んでいたときの元気は感じられなかった。
きっと、こいつらにみんな同じように殺されたのだろう。
みんなみんな、涙で顔をぐちゃぐちゃにして、いろんなところを怪我して。
そして、最後にはこいつらに殺される。
許せなかった。
憎かった。
ボクの中で何かが壊れたのは、この瞬間だ。
気が付くと、人間の一人を吹き飛ばしていた。
それでもボクは止まらない。
次の人間に素早く接近して、記憶の片隅に残っていた技で作り出した氷の刃で胸を貫いた。
人間たちが何かを喚きながら刃を向けてくるが、硬質化した尻尾で叩き折った。
その流れにあわせて、同じ技で人間を弾き飛ばした。
何かが折れるような鈍い感触がしたけれど、気にせず次の人間も吹き飛ばす。
心の中にあるのは、殺意だけ。
みんなが味わった苦しみを、お前たちにも。
そしてボクは、次の人間を殺すために動いた。
あれ、と思って空を見上げてみると、もう雨雲はどこかへ行っていた。
ボクはどこにいるんだろう。そう思って周りを見てみた。
―――血の海だった。
沢山の人間が、いろんな箇所から紅い色を噴き出して、いろんな箇所が不自然に曲がった体勢で倒れていた。
そんな光景を見ても、何も思わなかった。
あるのは、心に大きく開いた穴だけ。
なんでみんなが殺されなければ。
なんでみんなが苦しまなければ。
突然、背中に氷を押し付けたかと思うほどの恐怖が這い回った。
みんな、死んだ…?
それは人間たちも同じだ。
じゃあ誰が殺した?
人間たちが殺した。
じゃあ誰が原因だった?
それは―――『ボク』?
一瞬のうちに大量の自問自答を繰り返し、突然何も考えれなくなった。
気が付けば、『ボク』は嗤っていた。
恐い。苦しい。悲しい。沢山の感情が渦巻いて、流されて、壊れていった。
やがて、炎で木が倒れてできた広場のような血の海に、憎しみの感情が残った。
みんなを殺した、人間たちに―――
―――フクシュウヲ。
復讐のためには、もっと力を手に入れよう。
もっと経験を手に入れよう。
もっと技術を手に入れよう。
手始めに、近くの野生のポケモンを殺した。
弱い。
これじゃ足りない。
もっと、もっと殺さないと。
次の日には、住処の周りのポケモンはいなくなっていた。
もっと、経験を。
もっと、技術を。
もっと、力を。
逃げていく野性のポケモンをひたすら追いかけて、その手で殺した。
まだだ、もっと。
もっと力を。
―――フクシュウノタメノ、チカラヲ。
運命のあの日からいったいどれほどの時が過ぎたのだろう。
ただ、殺して、殺して、殺した。
森の中には、もうポケモンの存在はほとんど無かった。
けれど、まだ。
まだまだ、もっと。
もっと、もっと、もっと。
全てを手に入れないと。
ふと、視界の端に動くものを捕らえた。
へえ、まだこの森に、生きてる奴がいたんだ。
そして、また追いかける。
力を手に入れるために。
逃げてる奴もさすがに気付いたようだが、関係ない。
太い木の根に足をとられた瞬間を狙って―――ピタリと止まった。
足をとられて転んでいた種族。
昔、目の前で殺された、ピチューと同じ種族だった。
知らないピチューは、目に涙を浮かべていた。
『「いやだ、まだ…!」』
「…っ!」
耐えられなかった。
現実から目を逸らしていた。
復讐のための力なんて、ただのまやかしに過ぎなかった。
それからどのくらい動かなかったのだろう。
ピチューはもうどこかへ行っていた。
どうか、生きて―――
それだけ願ってから、ボクはあの場所へ行った。
全てが始まった、あの場所へ。
懐かしい気がする。
つい最近来た気もする。
炎で焼かれてむき出しになっていた地面には、沢山の花が咲いていた。
ボクはここで生まれて、ここで育って、ここで壊れた。
だったら、最後の責任もここで取ろう。
焼け焦げた後の残る大樹のそばから、一つの棒のようなものをとる。
血の付いていた先端の刃は既に錆び付いていて、持ち手の部分も多少雨に侵食されているようだったが、まだ十分に凶器になりうる状態だった。
みんな―――
―――ごめんね
少しだけ昔に戻れたボクは、錆びた刃を自分に向けて笑った。
辺りには大量の血を流して倒れている両親がいた。
住処は既に鉄っぽい匂いで充満していた。
憎い、憎い、憎い。
両親を殺した、あいつがとても憎かった。
―――復讐してやる。
もっと経験を手に入れて。
もっと技術を手に入れて。
もっと力を手に入れて。
―――フクシュウノ、チカラヲ。
暗い洞窟の中で、憎しみが嗤っていた。
風邪ひいて頭痛のせいでこんな鬱作品になりました、ええ。
とまあ、改めて見返さなくてもひどい作品でしたね。
★この作品について
今回は、「ミュウって全部の技が覚えられるけどそこんとこどうなんだろ」的な思い付きから膨らませてかわいいミュウを鬱にしました。てへぺろ☆(殴
小さなポケモンの集落で毎日楽しく過ごしていただけなのに、突然人間が襲ってきます。
人間の言葉から、ミュウは自分のせいだと思い込み、壊れてしまいました。
復讐を目的にポケモンを殺して力を手に入れていると信じていましたが、最後のほうで自分の間違いに気が付くのです。
結局は何もかも、人間が悪かったということですが。
最後に、ここまで読んでくださった皆様に感謝なのです!
コメントいただけたらパソコンの周りを飛び跳ねます((
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