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幼気ホイッスルブロワーズ

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大会は終了しました。このプラグインは外してくださってかまいません。
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エントリー作品一覧



主要キャラ紹介 [#5MbANsD] 


仲良し三匹組
●レンスケ:主人公。ミジュマルの男の子
○ アラタ:オンバットの男の子
○ ミライ:ケーシィの女の子

大人
◎     リラ:フライゴンの女性
◎フォルミュレス:サザンドラの男性



幼気(いたいけ)ホイッスルブロワーズ
作:朱烏



1. 告発 




 バクオングのドーマ校長先生が鳴らした銅鑼が、青空の下の教室で切り株の机に向かう僕らの耳をつんざいた。帰り支度を促すチャイム。今日の学校はお昼で終わりだ。
「これもいつか苦情が来ると思うな」
 右隣の席で浮遊しているケーシィの女の子、ミライが険しい顔で呟いた。先生たちの気分――もとい裁量によって授業時間が伸び縮みすることが恒常化していて、それが子供たちの集中力に悪影響を及ぼしていると説いたドーマ校長先生は、日時計を頼りに非常に正確なチャイムを鳴らし始めた。問題はそのチャイムがリーシャンの鈴の音やラプラスの歌ではなく、校長自慢の大声だったことで、あまりのけたたましさに学校周辺の住民たちがクレームの鬼と化した。
 結局、爆声チャイムは一週間とたたずに廃止され、昨日から銅鑼にすげ替えられている。でも音の大きさだけでいえばどっちもどっちだ。
「銅鑼よりもオイラの超音波のほうがよくない!? めちゃくちゃ効くと思う!」
「別に効かなくてでいい」
 左隣でズレたことを言っているのはオンバットの男の子、アラタ。僕のツッコミをものともせず、未だにえへんと胸を張っている。
「で、今日はどうする?」
 僕は立ち上がって、不敵な笑みでふたりに目配せをした。
「そりゃあ」
「もちろん」
「「修行でしょ!」」
 ふたりはそれ以外の選択肢などはなから眼中にないと言わんばかりだった。
「聞くまでもなかったね! じゃ、早速いつもの場所まで競走だ!」
 おなかのホタチをぎらぎらと眩しい太陽に掲げたのを合図に、僕らは教室を囲う柵を跳び越えて走りだした。



 ★★★



 この世界はいろいろな謎に満ち溢れていて、まだ誰も足を踏み入れたことの無い場所が無数にある。
 僕らの住むクロトビ大陸は、北の海の向こうのテッコン大陸から二百年ほど前にやって来た移民たちが少しずつ開墾していって、なんとか文明をもったポケモンが住めるようになった。
 大陸の東側、海岸沿いに築き上げた町を根城にして、生活圏をさらに広げようと西側へ進むはずの開拓団は、もう長いこと足止めを喰らったままだ。比較的穏やかな東側と打って変わって、不気味で強大なダンジョンが蠢く向こう側に、何百匹吸い込まれたかわからない。開拓団の一員だったキリヒトさん――父さんの友達だったキリキザン――も、三年前ほど前に吸い込まれた。半年前、ダンジョン:不還森(かえらずのもり)で涎を垂らしながら彷徨っているのを見かけたという噂が流れた。誰も生きていてよかったなんて口にしなかった。野生返りしてしまったら、もはや死んだも同然だ。
 父さんは友達を失ってしばらくはろくに食べ物も喉を通らなかったが、月の満ち欠けが半周する頃には開拓団での仕事を再開した。件の噂を耳にしたときにも「そうか」とだけ言って、普段と変わらぬ様子で仕事に行ってしまった。
 父が他のポケモンよりも精神が特段に強かったなどとは思わない。誰も彼もがそういうエピソードには見舞われたくないし、ましてや当事者になどなりたくはないと思っているが、それでも覚悟は決まっているのだ。
 ダンジョンは放っておいたらこちらに侵食し、僕たちを呑み込もうとする。それに抗うため、ダンジョンを切り開き、より安全な土地へならすことは、この大陸に住む者の責務なんだと父は言った。
 ダンジョンの侵食に怯えることなく、平和な国を築き上げるという壮大な野望は、そんな大人の背中を見て育つ子供全員に共有されていた。
 僕は開拓団に入団して、いつか父さんたちと一緒にダンジョンに挑むことを夢見ている。アラタもミライも、僕と同じ夢を見る仲間だった。


 ★


「はあぁ、疲れた。さすがに一時間ぶっ通しはキツかったなあ」
 橙色に染まる砂浜。以前は学校近くの空き地で修行していたが、ちょっとしたトラブルがあって使えなくなり、今は町から少し離れたこの砂浜に場所を移していた。
 寄せては返す波が太陽光を反射してキラキラと光り、漂着した流木の上でクラブが泡を吐く――そんなほのぼのとした光景の中、僕らは互いに向かい合わせになって地面に腰を下ろし、激しく息を切らせていた。
 修行といっても、特別なことをするわけではない。誰かがギブアップするまで、三匹でひたすら戦うだけだ。今回は、全員が同時に倒れる痛み分けだった。
「風起こしが当たんないよ~。レンスケ、コツ教えてよ~」
「僕そんな技使わないし……」
 泣きついてくるアラタを押しのけようとするも、べったりとひっついてくる。存外に力が強い。
「ていうかさ、アラタ! 超音波当てて混乱した私とレンスケを戦わせるのは卑怯だから!」
 ミライが宙にふわふわと浮かびながらアラタを叱責する。その目はつり上がっているように見えるが、狐目はいつものことなので、荒げた声がそう見せているだけかもしれない。
「卑怯じゃないもん! それがオイラの戦い方だもん! ダンジョンでモンスターハウスに入り込んじゃったら、そういうふうに相手を仲間割れさせるのが一番有効だってお父さんが言ってたもん!」
 アラタが反論する。超音波はアラタの最も得意とする技だが、修行で使われると僕もミライも意識が朦朧としてちゃんと戦えなくなる。立派な技ではあると思うが、何度も当てられるとストレスが溜まるのだ。僕らは混乱への耐性(とくせい:マイペース)を取得するために修行をしているわけではない。
「それはそれ、これはこれ! 修行は私たちの基礎能力を高めるためにやってるんだって前も説明したよね!? 修行でそんな小手先の技を使ったってどうしようもないでしょ!」
 小手先の技と切り捨てたミライの見解に、アラタがいきり立つ。
「なんだよ! ミライだってテレポートで相手の後ろをとって物理的にぶん殴るだけのワンパターンじゃん! そんなんで偉そうに説教しないでよ!」
「ちょ……アラタそれはマズい……」
 アラタの言葉は、ミライの気にしているデリケートな部分を不用意にえぐった。ケーシィであるミライは、進化するまでは自力で覚えられる技がテレポートしかない。技マシンなんて高価なものは、ダンジョンに潜る大人だけが使うことを許される代物だ。
 その指摘が地雷であることはアラタにもわかっていたはずなのだが、ヒートアップしてつい意地悪な言葉が飛び出してしまったのだろう
 僕が仲裁に入る前に、ミライはえげつない速度でアラタの背後にテレポートし、強かに後頭部をぶっ叩いた。
 ――それがアラタの最大出力の超音波の引き金となってしまった。
「う……うわああああぁああぁああああぁああぁあん!!!!!!!」
 うずくまって耳を両の手で塞いでも、けたたましい高音が耳を貫き、さらに耳が感知し得ない高周波数のパルスが直接的に脳をつんざく。
「あ……あら……タ……落ち着い……」
 こうなったらもう手はつけられない。以前同じようなことがあったときは、半径五〇メートル以内が被害範囲だった。皿やら瓶やらの焼き物の半数が、アラタの超音波に共鳴して無惨に割れ散った。
 その中には大昔にテッコン大陸から持ち込まれた貴重な陶器まで含まれていたものだから、大人たちはバクーダの噴火のごとく怒った。アラタはおろか僕とミライもまとめて折檻を受け、修行は一時的に休止状態に陥った。アラタは近隣住民への謝罪行脚のために父親に連れ回され、しばらく学校に来られなくなった。
 僕らは子供だから、愚にもつかない失敗をしでかすことはあるけれど、子供ということを免罪符にするには事の程度が大きすぎた。
(早く止めないと……)
 またいつアラタが衝動的に強力な超音波を放つかわからないから、街から離れた場所で修行をしているのだ。だが、これはちょっと――いや、かなりうるさい。町にも簡単に届いてしまいそうだ。
 アラタはすでに『取り扱い注意』のラベルを貼られていて、先生からも学校の児童からも問題児扱いされている。アラタがそれをさして気に留めていないように見えるのは、それでも僕とミライが友達でいてくれているからだろう。
 でも、僕にしろミライにしろ、親はアラタと関わることをよく思っていない。僕が寝床に入ったあとの晩酌で、母が「お父さんはいいひとなんだけどねえ」と父にアラタの厄介さをぐちぐちと言っていたのを聞いてしまって厭な気持ちになったのはつい一週間ほど前の話だ。
(これを機にアラタから引き離されるかもしれない)
 それだけは絶対に厭だけれども、僕は超音波による激しい頭痛でそれどころではなく、ミライは半ば気を失っている。
 アラタが落ち着いてくれることを祈るだけの地獄のような時間。誰でもいい。アラタを鎮めてください――


 アラタくん、大丈夫よ。深呼吸して。


「……」
 大音声の中に差し込まれた透明感のある囁き。不思議と、耳を塞いだ僕にも届く。
 そして、ピタリと泣き声が止んだ。
 目を開ける。アラタの姿はない。代わりに、僕らよりもずっと大きい体の萌黄色の蜻蛉竜が、アラタの座っていた場所を薄翅で包み込んでいる。
「……どうしたの、アラタくん。何か厭なことでもあったの?」
 翅の持ち主はひたすら穏やかな声音で、翅で包み込んでいるそれに向かって話しかけていた。
「……リラさん」
「レンスケくん、こんにちは。喧嘩でもした?」
 紅いレンズの奥の眼は、どこまでも優しい。僕ら子供の誰を怒るでもなく、この場に思いがけず充満してしまった怒りや悲しみを溶かすためだけに、リラさんはここに来たのだ。
「……落ち着いた?」
 リラさんが体の前方で閉じていた、緋に縁取られた薄翅をぱっと広げると、呆けた表情のアラタが出現した。まるでリラさんに力のすべてを吸い取られてしまったかのようだった。
「アラタ、大丈夫?」
 僕の言葉にハッと我に返ったアラタは、僕の顔を見るなりぽろぽろと泣き出した。
「ごめんなさああぁぁぁい……」
「僕は大丈夫だよ。でもミライに謝らないと」
 ミライは、宙に浮かびながら首をうなだれている。うわごとをぶつぶつと言っているが、たぶん脳の超能力を司る部分に深刻なダメージを受けていないか点検をしているのだろう。
「……ミライはしばらくそっとしておいたほうがいいね。あとで謝っといてね、アラタ」
「うん……」
 涙を拭うアラタを見て、リラさんは「落ち着いたみたいね、よかったよかった」とにっこり笑った。
「リラさん、ありがとう。でも、どうしてここに?」
 リラさんは、町一番のべっぴんさんだ。優しい目元、穏やかな笑み、流線型の滑らかな四肢、流麗に空を舞う姿。開拓団の裏方として団員を支える働き者は、子供にも大人にも人気だった。
「ちょっと町に用があったんだけど、帰りがけにあなたたちを見かけて。久しぶりに修行の様子でも見学しようかしらって、あっちのほうで眺めてたのよ」
 そう言ってリラさんは、浜の外れにある大岩を指す。どうやらたまたま通りがかったわけではなく、最初から一部始終を見られていたらしい。僕の下手くそなホタチ捌きを見られたかと思うと、少し恥ずかしくなった。
「アラタくんの超音波、すごいね。ちゃんとコントロールできるようになれば、もっと強くなれるわ」
 泣き止んだアラタに、リラさんはすかさず賞賛の言葉を贈る。アラタがリラさんのことを大好きなのを彼女はわかっているので、気を利かせて持ち上げたのだ。
「ほんと? じゃあもっといっぱい練習して、いつかリラさんと一緒にダンジョンに挑めるように、オイラ頑張るね!」
「あはは、私は裏方だからダンジョンには潜らないわよ? でもアラタくんが立派な大人になって開拓団に入ったら、全力でサポートするね」
 声をかけられて有頂天になったアラタは、両手を握って前に突き出し、いかにも「がんばるぞ!」という感じのポーズをとった。――褒められて嬉しいのはわかるが、リラさんに超音波が全然効いていなかったことには気づいていないのだろうか。
「……ふう、整備(メンテ)終わり、異常なし。……あれ、リラさん?」
 トランスしていたミライが正気に戻って、リラさんに存在に気づく。
「み、ミライ、ごめんね!!」
「いいよ、別に。それより、リラさん、ちょっといいですか」
 謝るアラタに目もくれず、リラさんにふわりと近寄ってその手を取る。そして、執拗にリラさんの手を撫で始めた。
「ふふ、ミライちゃんって本当に私の手が好きよねえ」
 女の子はみんながリラさんに憧憬の情を抱いているが、ミライも例に漏れない。むしろ他の子よりも執心しているくらいだ。しかし、リラさんにべったりだと同世代の女の子から反感を買うのをわかっているから、あくまでもクールを装って、リラさんの手だけを愛でるのだ。ちょっぴり屈折している。
(けど、いいなあ……)
 アラタもミライも、直接的か迂遠的かという違いはあるが、リラさんが大好きであることをしっかりと表明している。僕もリラさんに好意を持っているが、それをどのように表に出せばいいか、いつも計りかねている。
 だから、リラさんが僕ら三匹に構ってくれるとき、悶々とした気持ちになる。もっと図太く無遠慮になったってばちは当たらないと何度も自分に言い聞かせてきたけれど、結局はリラさんとぎこちない会話を交わすだけ。
「ミライばっかりずるい! オイラも!」
 痺れを切らして、アラタがリラさんに抱きつこうとしたときだった。
「何をしている、リラ」
 場が一瞬で凍りつく。それは僕らとリラさんが織りなす和やかな空間に、気配も音もなく飛来していた。
(魔王が来た……)
 萌黄色のリラさんの後ろから、六つの鋭い眼光が僕らを射抜く。青藍色の膚をもつ体から、鉛色の毛皮に覆われた長い三つ首が張り出した奇怪なフォルム。左右の首はただの腕で意思は持たないらしいけれど、僕にはとてもそうは思えなかった。三つの頭はどれもこれも禍々しい邪気を孕んでいて、今にも僕らを食い殺してしまいそうだ。
「こんなとこで道草食ってやがったのか」
 体中から怒りのオーラを発しながら、魔王はゆっくりとリラさんに近づいていく。僕らは後ずさって、リラさんから離れた。
「行くぞ。こんなクソガキどもと関わるんじゃねえ」
「……ごめんなさい、ミュレスさん。みんな、またね」
 巨大なサザンドラの憎々しげな一瞥に、僕らは蛇睨みを食らったように体がすくんだ。去り際のリラさんが小さく手を振ってくれたから、強張った体はほんの少しだけほぐれた。
 夕陽の暮れなずむ町に向かって空を飛んでいくのを、彼らの見えなくなるまで見送った。重苦しい空気の中、口を開いたのはアラタだった。
「なんだよ、アイツ!!」
 翼手をばたつかせながら、悔しそうに地団駄を踏んでいる。リラさんをなすすべなく連れて行かれたことに腹を立てているのだ。クソガキと言われた件については――あいにく返す言葉がないが。
「相変わらずだったね、魔王フォルミュレスは」
 ミライがため息をつく。フォルミュレス――あの巨大なサザンドラの、口にするたびに噛みそうになる長ったらしい名前だ。
 リラさんが町のみんなから好かれるアイドルだとすれば、フォルミュレスはその対極に位置するポケモンだった。
 子供が大嫌いで、少しでも気に入らないことがあれば怒鳴り散らす。大人に対しても横柄な態度は変わらず、町の諍いの種の半分はフォルミュレスであるという冗談もあるぐらいだ。彼を窘めるのは神様でも不可能だというのが町のみんなの共通認識で、ゆえに僕らは魔王とあだ名している。
 大人たちが何よりも重んじるのは協調性だった。クロトビ大陸はそのほとんどすべてがダンジョンであると推定されていて、僕のいる町は先祖が初めてこの大陸で切り拓いた土地だった。以降、開拓団がどんどん西へ向かってダンジョンを切り拓こうとしているが、切り拓いて作った小さな町が、ある数日の間に忽然と消えた――なんてことは珍しくない。ダンジョンは獰猛で、急激に侵食してくるのだ。
 町のみんなが同じ方向を向き、共通の目的――ダンジョンの侵食に抗って大陸を開拓する――に向かってひた走るのは、それがひいては自分たちの生命を守ることに繋がるからだ。輪を乱し、喧嘩ばかりし、悪意を撒き散らす者は、それだけでみんなの協調性にヒビを入れ、ダンジョンに対抗する力を失わせる。
 そういった類のポケモンは、追放されるのが常だ。ダンジョンの奥深くへの流刑――大昔はよくあったらしい、残虐な刑罰。今となっては流刑に値するようなポケモンなどいなくなって、形骸化した因習だったが、フォルミュレスの横暴さはまさに流刑に相応しいのでは、と大人はおろか、子供の中ですら囁かれている。
(それでも町のみんなは魔王を追い出せない)
 理由はいくつか存在する。
 一つ、開拓団に正式に所属しない身でありながら、開拓団の誰よりも腕が立ち、フォルミュレスのおかげで切り拓けたダンジョンがあること。
 二つ、開拓団の副団長であるクチートのオウドさんが、やたらとフォルミュレスに肩入れをすること。
 三つ――これは一つ目の理由にも関連するが、そもそもフォルミュレスを縛り上げて追放できるような強いひとがいない。開拓団の団長はかろうじてフォルミュレスと張り合える実力を持つが、いつ寝ているのかわからないぐらいに忙しいひとなので、魔王一匹に労力を割いてなどいられない。
 そして四つ目の最も肝心な理由。フォルミュレスが、リラさんの夫そのひとであること。
(……町の七不思議の一つだ)
 器量がよく、気が利き、誰よりも優しく、たおやかで開拓団のサポーターとして優秀な仕事ぶりを発揮する、三六〇度どこから見ても欠点などないリラさんが、なぜあんな最低最悪な男と番となっているのか。
 夫がトラブルを起こして「困ったひとね……」と落ち込むことはあっても、フォルミュレスに対する愚痴や悪口などは一切言わない。お揃いの紺色のスカーフを腕に巻いているから夫婦仲は悪くないのだろうけど、フォルミュレスのリラさんに対する態度は高圧的に過ぎ、端からは絶対的服従を促しているようにしか見えない。対等な関係を築けているとはとても思えなかった。
「リラさんもなんであんなのと結婚してるんだ! オイラのほうが絶対リラさんを幸せにできるのに!」
 アラタは未だに怒りが収まらない。同じドラゴンタイプゆえ、憧れというよりは恋慕の情を抱いているのだ。年の差はいかんともしがたいので、たとえフォルミュレスがいなくなっても、さすがに諦めてほしいと友達である僕は思う。
「アイツ、ぜったいに家でリラさんに酷いことしてるよ!」
「痣にならないように殴るのが上手そうよね」
「リラさん、きっとアイツに弱みを握られて、無理矢理番にさせられてるんだ! 許せない!」
「その弱み、ちょっと知りたいかも……」
 二匹は好き勝手に恐ろしい三つ首竜を罵った(最後の台詞には目を背けることにする)。
「アラタ、ミライ、憶測でものを喋るのはよくないよ」
 と諫める僕自身も、同じような疑いをフォルミュレスに向けていた。リラさんがフォルミュレスと番になることなど、よほどの事情がない限りはありえない。
 それがいったい何なのか、いくら三匹で話し合ってもわからずじまいだった。


 ★


 ある朝のこと。
 お弁当をぶら下げながら学校へ行く道すがら、リラさんがカクレオンのメイサイさんの店で買い物しているところに出くわして、思わず声をかけた。
「おはよう、リラさん。お買い物?」
「あら、レンスケくん、おはよう。そうなの、基地に備蓄してたタネがいくつか切れちゃって、仕入れに来たのよ」
 リラさんが屈託のない笑顔を僕に向けてきて、どきっとする。
「はは、開店直後に一番値切り上手なお客さんが来て参っちゃうね。赤字になっちゃうよ」
 メイサイさんは笑いながら、露店の奥で引き出しを漁っていた。
「……あれ? リラさん、そのスカーフ」
 リラさんの長い首には、淡い橙色に染められた大きめのスカーフが巻かれていた。萌黄色の膚との対比が、朝日に照らされて美しい。
「ああ、これ。ミュレスさんがプレゼントしてくれたの」
 はにかむような笑顔で、リラさんは言った。僕がぎこちなく口角を上げて、へえ、そうなんですか、と返す。
「すごく似合ってて素敵だね。あ……学校遅れちゃう、またね、リラさん!」
 わざとらしい言い訳で、その場を後にした。粗野で乱暴で高圧的な魔王に、リラさんにプレゼントを贈るだけの気配りができたとは。
 見直した! というには今までの負債(マイナス)が大きすぎるが、魔王の意外な一面に僕は感心した。
 学校に着くと、すでに何匹が子供たちがいた。僕は空いている切り株に座る。隣にはアラタがいて、切り株の上に小さくちょこんと座っている。
「アラタ、おはよう」
 アラタは上の空で、隣に僕が来たことに気づいていないようだった。
「おはようってば」
 アラタの肩をぽんと叩くと、アラタはびっくりしたようにこちらを見た。
「あ……レンスケ、おはよう」
「どうしたのさ、アラタらしくないね」
「ん……何でもないよ」
 心なしか元気がない。さては、家で何か悪さをしでかして、親にかんかんに怒られたと見える。
「アラタ、レンスケ、おはよう」
 ミライも教室にやって来て、僕らの前に座った。アラタの返事が弱々しかったことに怪訝な表情をしたが、僕と同じように「どうせ親にでも怒られたんだろう」と勘を働かせたのか、アラタの異変には一切触れてこなかった。

 足跡文字の書き取りと、お金の計算のしかたの授業を受けて、昼ご飯の時間になる。
 三人で僕の座っていた切り株を囲んで、包まれた葉っぱを広げた。全員もれなく木の実が一つだけの簡素な弁当だ。
「それ、アラタが嫌いなやつじゃない?」
 ミライがアラタの木の実を見て指摘する。確かに、アラタの苦手なラムの実だった。
「お父さんが、いい加減に食べられるようになれって……」
 好き嫌いをなくすことは、立派な開拓団になるために大切なことだと、僕らの親や先生は口酸っぱく言い聞かせてくる。木の実には体力の回復、状態異常の治療、一時的な能力の向上などいろいろな効能がある。ダンジョンに潜るときは当然それらの恩恵に(あずか)ることが多く、苦手で食べられない、というのは場合によっては死活問題なのだ。
 ラムの実は、混乱状態を治す木の実だ。相手を混乱させることが得意なアラタが、混乱を癒す木の実が食べられないというのは、なんだかおかしかった。
 僕とミライはアラタを尻目に、自分たちの木の実にかぶりつく。
「そういえばさあ、今朝リラさんに会ったんだ。首にスカーフ巻いてたんだよ」
 僕は話題を転換する。
「へえ、珍しいね。どんなやつ?」
 ミライが興味津々に食いついてきた。リラさんのお洒落は一刻も早く把握したいという気概を感じる。
「薄い橙色のやつ。何を使って染めたんだろうなあ。魔王にプレゼントされたんだってさ。びっくりだよね」
 その瞬間だった。アラタは急に立ち上がった。その勢いで、アラタのラムの実はひっくり返って、地面に転げ落ちた。
「アラタ!」
 そして、脇目も振らずに教室の外へ飛び出していく。まわりの子供たちがざわざわしていてが、構わずに飛んでいくアラタを追いかけた。ミライも僕に続く。
 丘を滑空して下りていくアラタを、僕は猛然とダッシュして飛びついた。伸ばした手が、アラタの左足を掴む。
「ぶっ!」
 ふたりとも下り坂に顔から墜落して、ごろごろと転がる。ややあって勢いが止まったところに、ミライも追いついた。
「ど……どうしたのさ、アラタ。急に飛んでくなんて、びっくりさせないでよ」
 アラタは膝と手を地面に突いたまま、呼吸を荒くしていた。様子がおかしい。見開かれた目は過度に潤って、薄紫色の顔は青黒くなっている――過呼吸だ。
「アラタ、吸った息を、時間をかけてゆっくりと吐いて。僕らがいるから、大丈夫」
 以前、アラタがパニックを起こしたことを父さんに相談したときに教えてもらった方法だ。これで気持ちが落ち着くらしい。
 アラタが呼吸を整えるのを、僕とミライは交互に彼の背中をさすりながら、しばらく見守っていた。
 やがて、呼吸がいつも通りに落ち着くと、アラタが口を開いた。
「……スカーフ」
 ようやくアラタが口にした言葉に、僕らは首を傾げる。
「スカーフ? それがどうかしたの?」
「オイラも今朝……リラさんに会ったんだ」
「うん」
 話の繋がりが見えずに生返事をする。アラタはかっと開いた目で地面を見つめたまま、言葉を続ける。
「……見ちゃったんだ」
 アラタの言葉が震えている。何かを――僕たちに告げようとしている。
「オイラ、見ちゃったんだ。リラさんの首のスカーフが風で少しめくれたときに――」


 何度も強く咬まれたような痕がついているのを。


「……それ、ほんと?」
 ミライが狐目をつり上げる。
「……ほんと」
 アラタは泣き出しそうだった。今にも強烈な超音波であたり一帯をぐちゃぐちゃにしてしまいそうなほど、悲しさと苦しさで精神が不安定になっている。
「アイツ、リラさんに暴力を振るっているんだ」
 ついにアラタの目から涙が流れ始めた。唐突な告発に、僕は動揺を隠せない。
 アイツとは、もちろん魔王のことだ。魔王が、リラさんを虐めている――?
「やっぱり最低な男だったわね」
 ミライは僕よりも冷静で、吐き捨てるように言った。
「――たとえばダンジョンに出掛けて、野生にやられた可能性とかは?」
 アラタと一緒に取り乱すわけにはいかず、努めて平静を装ったが、自分の言葉が全くの見当外れであることに言い終わってから気づいた。リラさんはダンジョンに潜らない、裏方専任のひとだ。
「私、昨日の夕方に市場で買い物をしているリラさんを見たけど、首に傷はなかった。だとしたら、リラさんの首に咬み痕がついたのは夕方以降から今日の朝方までの間。夜中にダンジョンに発つのは町の掟で禁じられているから、その可能性はない。町に野生が降りてきたって話も最近は聞かないし……」
 ミライは大真面目に、僕の仮説を丁寧に反証した。こういうときに腐したり嗤ったりしないのは、ミライのいいところだ。
「じゃあ、やっぱりフォルミュレスが……」
「それ以外の可能性なんてないでしょ。スカーフはプレゼントじゃなくて、傷を誰にも見られないようにリラさんに巻かせたんだと思う」
 結論づけるのが早急すぎやしないかと思うが、考えれば考えるほど、リラさんの首に咬み痕がつく理由なんてそれ以外に思い当たらない。
 ダンジョンから帰ってきた大人が傷だらけなことを訝しむポケモンはいない。むしろ傷というものは勲章の一種で、隠すものではないのだ。
 だが――リラさんは隠していた。
「……うん、そうだね」
 ミライの推論が極めて妥当であることは、認めざるを得ない。
 フォルミュレスはリラさんに暴力を振るい、結果として首には咬み痕がついた。それが表沙汰にならないように、フォルミュレスはリラさんにスカーフを渡し、着用するように命じた。筋書きとしては破綻がないように思える。
 けれども――「プレゼントしてくれたの」とはにかんだリラさんの微笑みが、ぼんやりと脳裏を横切る。辻褄がどうにも合わない。取り繕っているようにも見えなかった。
「どうする?」
 ミライが僕とアラタのまわりを浮かびながらぐるぐると回り、僕らに尋ねる。頭脳を働かせるとき、誰かのまわりを公転するのはミライの癖だった。
「先生に言ってみる」
 アラタが、意を決したように言うが、
「言ってどうなるの?」
 とミライが憐れむような目つきでアラタを諭す。
「シミュレーションしてみよう。先生に言う。先生は事実かどうかをリラさんに確認しにいく。おそらく――いえ、絶対にリラさんはフォルミュレスを庇う。そうしたら私たちは引き下がるしかなくて、告発は無意味になる」
「じゃあリラさんじゃなくてフォルミュレス本人に確認するのは?」
「……本気? そんなことしたら流血沙汰になるわよ」
 僕も「それは自殺行為だね」と同意する。そんなバカげたことを言ったのはどこのどいつだ? と僕らにまで荒れ狂った魔王の手が及ぶことは想像に難くない。
「でも……」
 なおもミライに抗弁しようとするアラタの気持ちは痛いほどわかる。僕らは子供だ。信頼できそうな大人に頼るしか方法はない。僕らにとっての信頼できる大人というものが存在するかどうかは疑わしいが。
 ミライは深くため息をついて、
「じゃあ、ヨシマサ先生に相談しよう」
 と言った。上級生の担任をしているはつらつとしたルカリオだ。確かに正義感の強いあのひとなら、なんとかしてくれるかもしれない。
 僕らは昼休みが終わる前に、ヨシマサ先生のもとを訪ねた。
 ヨシマサ先生はいたって真面目な顔で、それは大変だ、と飛び出していった。授業をすっぽかしてまで対応してくれるとはありがたい限りだが、どんなふうに解決を図ってくれるかは一切教えてくれなかった。ただ、任せてくれ、ときらきらした目で言われるのを信じるしかなかった。


 ★


「……すっごい怒られたね」
 僕らは、帰路をとぼとぼと歩いている。ヨシマサ先生にどでかい雷を落とされて、意気消沈していた。
「ヨシマサ先生に少しでも期待した私が馬鹿だったわ」
 正義感に満ちあふれたルカリオは、馬鹿正直に開拓団本部へ突撃し、リラさんに「フォルミュレスさんに虐待を受けているそうですね?」と言い放ったらしい。大勢の団員の前でのことだったから、リラさんは目を白黒させて口ごもる。さらにぐいぐいと迫ったヨシマサ先生に、リラさんは体をわななかせながら激昂した。
「いい加減なこと言わないでください! 私は夫から虐待など受けていません! 失礼にもほどがあります!」
 リラさんは温和で、誰も彼女が怒ったのを見たことがなかった。その彼女が目をつり上げて怒鳴ったものだから、団員は一斉にリラさんに加勢する。非難ごうごうに罵倒されたヨシマサ先生は、涙目になりながら敗走した。
 そして、その恨み辛みをヨシマサ先生は僕らにぶつけたのだった。私によくも恥をかかせたな! なんて、八つ当たりも甚だしい。
「もう、私たちがやるしかないわね」
 僕とアラタの前に飛び出して、こちらを向いたミライの狐目にふつふつと闘志が宿り、
「アイツがリラさんに暴力を振るっている現場を押さえる」
 と宣言した。
「……どうやって」
「テレポートでリラさんの家に侵入するのよ。アイツが暴力を振るったら、現行犯で取り押さえる」
「正気?」
「正気」
 狂気だろう。さすがのアラタも困惑の表情を隠せない。
「ミライ、よく聞いて。その作戦には問題がある。勝手に他人の家に侵入するのは泥棒と同じだし、子供三匹で魔王を取り押さえられるわけない」
「正攻法をとったヨシマサ先生はどうなった? 信用に足らない大人をけしかけてみる? ――無理でしょ。攻め入るなら邪道を征くしかない。不意打ちに徹すれば、きっと魔王も捕まえられるよ」
 興奮しているミライに、アラタは呆れたような表情で僕のほうを見た。普段のふたりとはまるで正反対の態度だ。
「言いたいことは山ほどあるけど、そもそもテレポートを使う必要ある? 窓から覗いて監視してるほうがまだ安全じゃない?」
 即効性を求めるミライに、僕はできるだけ危険を冒さないような方法を提案しようとする。
「無理よ。リラさんの家の窓、内側にすだれが取り付けてあったもの。夜になると下りて、外からは何も見えなくなる」
 すだれ、か。僕の家にはない物だから考えつかなかった。夜に窓から星を見るのが好きだから、窓を締め切るのはもったいない。別に外から見られてはいけないものがあるわけでもないのに、どうしてすだれなんて――と考えたところで、もし家庭内暴力が事実なら外部から見られないようにするだろうと思い至り、暗澹たる気持ちになった。
「じゃあ、侵入して家の中でじっと身を潜めて、その時が来るのを待つわけだ。けど、リラさんの家に隠れられる場所なんてあるかな」
 この町の住居は間取りが画一的だ。ドーム型の家の中は、一切の仕切りがない。玄関をくぐれば、その家の中にあるものがすべて見渡せる。多少は調度品が置いてあるだろうが、おそらく僕らの体を隠しきれないだろう。
 ミライが黙り込んだところで、アラタが顔を上げた。
「……あるよ、隠れられる場所。リラさんの家に」
 僕とミライが、怪訝な顔つきでアラタを見た。
「暖炉……あるでしょ? 今みたいに使わない時期は、暖炉の前に薪木を高く積み上げてるんだ、リラさん()は。オイラたちの身長よりも、ずっと高く」
「なんで知ってるの?」
 ミライが間髪入れずに尋ね、アラタの体がびくりと反応する。
「……魔王が遠征で数日留守にしてるときに、リラさんに家に行ってみたいってダメ元で頼んでみたらさ……いいよって。おやつをご馳走してもらったんだ。三回くらい行ったよ」
「……やるじゃん」
 遥か遠くから横恋慕をしているのかと思ったら、アラタは意外にもリラさんとお近づきになっていたらしく、呆れながらも感心してしまった。ミライは「そのまま魔王からリラさん奪っちゃいないよ」と不穏なことを言ってのける。
「『ミュレスさんには絶対に内緒にしてね』って言われたけど」
 そりゃそうだ。子供嫌いなフォルミュレスが、その中でも最上級に嫌っているアラタをリラさんが家に招き入れたと知ったら、怒り狂ってアラタを食い殺してしまうかもしれない。
「とにかく、積まれた薪木の裏は死角だし、夜なら薄暗いからバレないと思う」
 逸っているのはミライだけだと思っていたが、アラタも光明が見えるや否や前のめりになった。こうなったら、僕は仲間たちの勢いに巻き込まれるしかない。
 ミライは黄土色の顔をしかめて、僕らのまわりを公転し始めた。ミライは、将来念力で支えなければいけないくらいに重くなるはずの脳で、今まで得られた情報と僕らの持ちうる手段・能力を組み合わせて、リラさんを救うための最適解を探索している。
 僕はそれを目で追い、アラタは不安そうにそわそわしていた。ミライの公転速度がどんどん速くなっていく。
 いい加減目が回りそうになったとき、ミライの公転がぴたりと止まった。
「……作戦が固まったわ」
 

2. 潜入 [#36NISNE] 




 僕らは、息を殺している。ゆっくりとした呼吸で、少しでも物音を立てないよう、耳をそばだてている。
(ここまでは順調……)
 心臓の音がうるさくて、僕はどうにかして緊張を鎮めようと躍起になっていた。
 僕らは今、リラさんの家の中にいる。


 親が寝静まったのを認めて、僕らは家を抜け出してきた。夜を出歩くのは、新たな地平を開拓したときに行われる夜通しの祝宴以来で、つまるところ僕らは星と月の明かりだけの屋外というものに慣れていなかった。
 家の明かりは、すっかり消えているところもあれば、ぼんやりと窓の奥が照らされているところもあった。寝る時間は種族によってまちまちだが、みな一様に家に籠もっている。
 唯一の例外は、野生が降りてこないかを夜警する開拓団の一部の団員だが、彼らは町外れのさらに外れを見回っているので、かち合う心配はない。
「ミライは眠くないの?」
 道すがらに、僕とアラタを先導するミライに尋ねた。
 ケーシィは一日の時間の八割以上を眠って過ごすのが普通だと聞いたことがあるが、僕はミライが眠っているところを見たためしがない。
「私は半日眠れれば大丈夫だから」
 それって大丈夫じゃなくない? と静かな羽音で飛ぶアラタは怪訝な顔をするが、ミライは無表情だった。
 リラさんとフォルミュレスの家は町の端にある。僕らは誰も出歩いていない町の中を駆けて、決戦の地へと向かった。
「もう一度、作戦を確認するよ」
 目的地まであと百歩分のところで、僕らは足を止めた。
 まずは座標をリラさんの家の暖炉前に設定し、ミライのテレポートで三匹同時に移動する。事が起こるまでは、息を潜めてじっと待つ。
 そして、もし魔王がリラさんに暴力を振るったら、その瞬間にアラタが飛び出して超音波をお見舞いする。不意打ちと混乱状態で前後不覚の魔王の顎に僕がシェルブレードを打ち込み、その隙にミライはリラさんをテレポートで逃がす。
「でも、昨日の今日でタイミングよくそんな場面に出くわすかな……」
 僕は懸案事項を口にする。僕らの前で必ず暴力が行使される保証はどこにもない。
「何も起こらなかったら、黙ってテレポートで戻ってくればいいのよ」
「……確かに」
「決定的な証拠を掴むまで、毎晩張り込むわよ」
 それでは僕らのほうが睡眠不足で倒れてしまいそうだし、ケーシィであるミライは二日で両目の下にどす黒い隈をこさえてしまうだろう。けれども、リラさんを助けるために泣き言は言っていられないのだと、ミライの目は訴えている。
 リラさんの家の窓は、ミライの言うとおり内側にすだれが掛かっていた。隙間から淡い光が漏れているので、まだ就寝してはいないらしい。
「竜の睡眠時間は、夏は短くて冬は長いって聞いたことがあるけど、本当みたいね」
 季節で睡眠時間が変わるなんてどうにも作り話くさいが、ミライの蘊蓄(うんちく)を否定すると面倒な絡み方をされるので無視を決め込む。
「いい? せーのっ、で行くからね……!」
 僕らは、手を繋いで輪になった。
「「「せーのっ!」」」



 リラさんとフォルミュレスの住む家は、とても広く、天井も高かった。大きな竜が二匹も住むのだから、家が大きく造られるのは当然なのだが、それにしたって広い。僕の家の二倍は軽く超える広さだ。
 僕らの潜む暖炉は、玄関と正反対の位置にあった。薪木は確かに(うずたか)く積まれていて、僕らの身長を優に超えている。しかし、横から顔を出せば部屋の様子はよく見渡せた。
 室内は蝋燭の灯で、淡く照らし出されていた。その灯は石を削り出した食卓の上にあり、リラさんとフォルミュレスは石の腰掛けに座って、向かい合わせで何やら喋っていた。食卓は僕らから向かって右手にあり、萌黄色と青藍色、それぞれの横顔を観察できる。
 リラさんは翅を畳んで下ろしているのに対し、フォルミュレスはその嵩張る六翼を大きく拡げて、壁に禍々しい陰影を作り出している。ただでさえ尋常ではない体躯をしているフォルミュレスだ。その威圧感は隠れている僕らをすくませるほどだった。
「やっぱり……んですか……」
「ああ……は変えな……」
「私も……」
「……お前は……っていろ」
 夫婦は抑えめの声量で会話をしていて、具体的な内容は聞き取れない。険悪な雰囲気ではないが、かといって和やかでもなさそうだった。
 いくら耳を澄ませても、会話は不鮮明だった。しかたがないので、薪木の横からほんの少し顔を出して、部屋をしっかりと観察しようとする。
 部屋の中央には毛足の長い、白い敷物が敷かれている。このような敷物は珍しい、と思った。――僕らには、ダンジョンにいる野生を狩るという習慣はないが、町にときどき降りてきてしまう野生に関しては異なる。住民に危害を加える可能性が高いのに、ダンジョンに戻すにはあまりにも手間が掛かる――だからその場で狩るしかない。殺した野生は食肉にしたり、毛皮があれば剥ぎ取って防寒具をこしらえたりする。しかし、敷物にするという選択肢はほとんどない。贅沢品だからだ。
 左手には、藁が厚く敷かれている。どこの家にもあるような寝具だ。この家に唯一ある窓のそばに、それはあった。
「あれ、なんだろうね」
 アラタがひそひそと耳打ちをしてきた。小さな指の指す方向は玄関だった。玄関の扉の両側には素焼きの壺が置いてあるが、左側の壺のそばには籠が置いてあった。――籠、というよりは小さな檻のように見えた。
(僕ら三匹がぎりぎりで詰められるような……)
 心臓が鼓動を速めた。不吉な心象風景にかぶりを振る。
「レンスケ……?」
「何でもないよ」
 アラタの揺れる目。僕の不安を、このそそっかしいオンバットに伝播させてはいけない。気持ちを落ち着かせるように、目と耳を食卓のほうに向ける。
 どれほど時間が経っただろうか。竜の夫婦はずっと真剣な表情で何かを話し合っていて、僕らが期待――いや、危惧しているようなことが起こる気配はない。
 今日は空振りだろうかとため息をついたとき、魔王の台詞がいやにはっきりと聞こえてきた。
「……いつになく反抗的だな。そんなに躾けられたいか?」
 およそ大人から大人へ掛けるものとは思えない言葉が飛び出した。躾とは、大人から子供に対してするものだろう。まかり間違っても、夫から妻に対して行うことではない。
 長い首の先端に咲き誇る血の色の花弁――その中央に居座る青藍の雄蕊は鋭い牙をのぞかせながら笑っていて、萌黄色のリラさんは俯いている。
 ――躾とは暴力のことを指しているのか。
「信じらんない……」
 右隣にいるミライが息を漏らしながら呟いた。僕と同じ考えに至ったらしく、その声は怒りで震えている。
「オイラ……オイラ……!」
「抑えて……!」
 アラタの左手をぎゅっと掴んだ。アラタは衝動的だ。こちらの用意がままならないうちに超音波を暴発させられては、作戦が大きく狂ってしまう。
 冷静さは大事だ。せっかく忍び込むところまでは上手くいっているのだ。首尾よく作戦を遂行させるのに必要なことは、心を乱さないことだ。
「……」
 リラさんが、何かを喋った。アラタに気をとられて、まったく聞き取れなかった。そして、忽然と蝋燭の灯が消えた。
 淡い光に慣れていた目は、急激な暗闇についていけない。腰掛けから二匹の竜が立ち上がる音がした。
 二匹の気配は、向かって右から左側へと移る。――藁が敷いてある寝床のほうだ。
(寝るのか……)
 二匹は寝床に収まったようだった。てっきり、これから暗闇の中で魔王がリラさんを虐めるのだろうと思っていたので、拍子抜けした。
 ――リラさんが暴力に苛まれないのはいいことだが、あんな暴力亭主と隣り合って寝るなんて、心安まるわけがない。
「……今日は不発ね」
 ミライの言葉に混じる安堵と焦燥が、身を潜めて機を窺う三匹の思いを代弁していた。
 彼女が手を差し出す。テレポートでこの家を辞するために、僕らと手を繋げようとしている。
 僕とアラタがおずおずとそれぞれの手を伸ばしたときだった。
「さて、たっぷりと奉仕してもらおうか」
 ミライの喉がひゅっと音を立てた。僕は積まれた薪木の横から顔を出す。
(寝るんじゃなかったのか!?)
 巨大な輪郭が、僕らに背を向ける形で、敷き藁の上にどっかりと座っていた。
「はい……」
 リラさんの小さな返事が聞こえた。フォルミュレスと相対して座っているようだったが。フォルミュレスの体躯があまりにも大きくて、僕らのいる場所からリラさんの体はまったく見えない。翅や尻尾は辛うじて覗けるぐらいだ。
 僕は、決定的瞬間を逃すまいと寝床を凝視した。魔王の言う「ほうし」や「躾」とやらを、見逃すわけにはいかない。
 しかし――リラさんが殴られたり、尻尾ではたかれたり、咬みつかれたりする様子は、一切なかった。リラさんの翅はゆっくりと上下し、尻尾はうねっている。 
 ミライとアラタの様子を窺う。ふたりも僕と同様に、あの夫婦が寝床で何をしているのか、皆目見当がついていないらしい。少なくとも僕たちが想定していた事態は起こっていなかった。
 寝床の窓に掛かっているすだれは、わずかに巻き上げられていて、ほのかな星明かりを招き入れている。それがフォルミュレスの大きな輪郭をぼんやりと薄暗がりの中に浮き立たせている。
(……!)
 僕らの間に緊張が走る。リラさんの呻き声が聞こえたからだ。
 敷き藁の上の様子を注視する。がさがさとした音と、リラさんのくぐもった声が、丸い屋根の家の中でかすかに響く。フォルミュレスは息を漏らしながら、低く唸っている。
 ちゅぱ、じゅる。
(な、何の音だ……)
 水気を感じさせる音。何かを頬張って、吸っているような音。時折混じるのは、リラさんが喉を鳴らす音。
(怖い……)
 フォルミュレスが「躾」と称するものの正体が、どうしても掴めない。リラさんは高圧的な魔王に従って何かをさせられているのかもしれないが、決して暴力を受けているような雰囲気ではない。悲鳴や苦痛の声を上げるわけでもなく、ただ両者の小さな声が薪木越しに漏れ聞こえてくるだけだ。それが何なのか一切合切わからないのが、怖い。
 アラタを見る。――窓からの微光を掬い取ってぼんやりと光る瞳は、苦悩に揺れていた。動くべきか、動かざるべきか。ここに留まることは悪手ではないか。バレたらどうなるのか。
 ミライのほうを見ると――僕の顔を見て首を振った。まだその時ではない、という判断。ここはとりあえず彼女に采配を任せるのが賢明だ。
 とにもかくにも、このまま観察し続けるしかないのだろう。一番マズいのは、フォルミュレスが暴力を振るっている確固たる証拠を掴めないまま、僕たちの不法侵入がバレることだ。リラさんを救うどころか、度が過ぎるイタズラをする悪ガキどもという汚名を着せられるハメになる。
 呻き声と謎の水音は、しばらく続いた。気の遠くなるような長い時間だった。実際には一〇分程度しか経っていないのかもしれないが、息を殺して身を潜める一〇分間というのは、退屈な足跡文字の書き取りの授業よりも長く感じられた。
「……もういいぞ」
 フォルミュレスが深く息をついた。鉛色の六翼が、楽しそうに(・ ・ ・ ・ ・)ゆらゆらと蠢いている。
「ミュレスさん……」
「急かすな。……今宵は長いぞ」
「……はい」
 夜半の空気が静まり返っている。少しずつこの場にいることも慣れてきて、密やかな会話もしっかりと聞き取れる。──それでも相変わらず意味は理解できていないが。
 がさがさと音が立つ。ふたりが体勢を変える。僕らは身を屈めた。
 リラさんがうつ伏せになった。顔が僕らのほうを向いている。どきりとして、わずかに薪木から出していた顔を引っ込めた。──気づかれてはいない。
「……首のスカーフ、なかった」
「え?」
 気がつかなかった。ミライは夜目がよく利くのか。いや、それよりも──食卓についていたときは、リラさんは首にスカーフを巻いていたはずだ。いつの間に外したのだろう。
(あの咬み痕のついた首筋を、フォルミュレスの眼前に晒している……)
 それじゃあまるで、咬んでくれと言わんばかりだ――。
 厭な感じがする。これから何が行われるのか、見るのも恐ろしい。
 しかし、僕らがそれを暴き立てるのは、間違っているのではないか――そんな思いが、どうにも拭いきれない。違和感がある。
 僕らは、今の自分たちでは絶対に気がつくことのできない、とんでもない思い違いをしているのではないか。
 けれども、あくまで予感めいたものが胸にわだかまっているだけで、言語化を果たすには何もかもが不足している。ましてや、ミライやアラタに僕の厭な予感を説明するなんて、困難極まりない。
「……!」
 アラタが、顔を完全に薪木から出していた。そんなあからさまでは勘づかれる。僕はアラタの手を引っ張るが、アラタはリラさんたちを見るのに夢中で、頑として退こうとしない。
(もう……!)
 監視しないことには決定的な場面など押さえられるわけはないと腹をくくり、アラタの上からさらに顔を出した。
 リラさんは、紅いレンズの奥にある目をぎゅっと閉じている。萌黄色の体の上にフォルミュレスが覆い被さっていた。
 学校の子と取っ組み合いの喧嘩をして、相手に馬乗りになったことがあった。なんとなくそれを思い出した。――子供の喧嘩とはまるで雰囲気が異なり、双方が押し黙っているが。
「何してるの……」
 僕とアラタに続いて顔を出したミライがぼそりと呟くが、そんなこと僕らにわかるわけがない。侵入してから、理解の及ばない光景ばかりが延々と繰り広げられているのだ。
 でも――リラさんは苦しそうに見える。リラさんは大きな竜だが、フォルミュレスはこの町の住民の中でも異次元の体格を持つポケモンだ。そんなヤツに乗っかられて苦しくないほうがおかしい。リラさんのか細い呻き声に、心臓がきゅっとなる。
 フォルミュレスが長い首を押し下げて、牙ののぞく大きな口をリラさんの顔に近づけた。
「ぐちょぐちょに濡らしやがって。いやらしい雌蜻蛉(トンボ)め」
 濡らしやがって? 何を? いやらしい? リラさんは雌だけど、それを改めて言う意味は?
 フォルミュレスがもぞもぞと動いて――思い切りリラさんに体重を掛けた。
「ああっ……」
 苦しげな声を上げるリラさん。しかし、その呻き声に一抹の切なさのような――僕らがこの場に留まる理由とはまったくそぐわない要素が含まれている。
 体をわずかに浮かせては、再び体を押しつけるような動作を繰り返すフォルミュレス。――口角が上がって、目も冷たく嗤っている。
 殴ったり、咬んだりしているわけではない。けれども、リラさんを虐めて楽しんでいるように見える。
「ミライ……どうする……?」
「まだダメ……」
 まだ――か。ミライは、これから決定的な場面が訪れると踏んでいる。
 敷き藁の擦れる音が断続的に響く。薄闇に、ふたつのおぼろげな輪郭が一定のリズムを刻みながら動いている。
「もっと締めてもらおうか」
 ぐっとリラさんを押し潰すように、リラさんの腕を押さえつけ、そして――リラさんの首筋に咬みついた。
「んんっ……」
 ついにやってきた、言い逃れのできない決定的瞬間。
 リラさんは痛みに喘ぎ、フォルミュレスは何度も執拗にリラさんの長い首を咬む。萌黄色の滑らかな(はだ)に鋭い牙が食い込み、色濃く変色していく。頼りない星明かりにもかかわらず、それが明瞭に観察できる。
 リラさんが、魔王によって傷つけられていく。見るに堪えない。
 フォルミュレスの息が荒い。歯を食いしばっているリラさんの首は、フォルミュレスの唾液でぬらぬらとして、それがいやに――こちらの心を煽る。
 煽る――? 何を。僕はこの光景を目の当たりにして、いったい何を感じているのだ。――やっぱり、わからない。
(……見とれてる場合じゃない!)
 拳を握りしめる。フォルミュレスがリラさんを現在進行形で虐めている場面は押さえた。一番効果的なタイミングを見極めて、アラタに合図を――
「やめろォ!!」
 わん、と夜の空気が凝縮したような音がした。アラタの超音波が放たれる寸前の、独特な音。
「アラ――」
 止める暇もなく、アラタは薪木の陰から飛び出して、フォルミュレスに襲いかかっていた。
「うおッ……!」
 まだ早い。僕もミライも、準備ができていないのに。しかもこの超音波、事前に打ち合わせた「対象を絞って当てる一点集中モード」ではない。あたり一帯が作用圏内の拡散モードだ。
 アラタの暴走に、僕もミライも咄嗟に耳を押さえた。僕らまで混乱状態になったら一巻の終わりだ。
(……!)
 五秒。ばたばたと取っ組み合いをするような音が耳を塞いでも聞こえてきて、それが止むまでの時間だった。
 目を開ける。暗い。薄暗がりではなく、真っ暗な闇だった。僕とミライに、大きな陰が落ちている。
 巨躯――魔王の体だ。鈍く光る三対の両眼。左の首が、アラタの顔を掴んでいた。
「灯りをつけろ、リラ」
「は、はい」
 ぐらりと襲いかかってきた魔王の太い両腕の中に、僕とミライはまとめて押さえ込まれる。
 必死の抵抗。暴れる。太い腕に噛みつく。足で腹を蹴る。――びくともしなかった。
「助け――」
 叫ぼうとした瞬間に、口を塞がれる。
「叫んだら殺す」
 ドスの利いた低い声で凄まれた。首が締まる。本気だ。観念するしかなかった。
 フォルミュレスがどこかへ移動する間、かちかちと火打ち石の音が聞こえた。リラさんが蝋燭の灯そうとしているのだ。
 僕らは、無理矢理何かの中に押し込められた。ちょうど、ぼんやりとした灯りがついて、僕らは自分たちの置かれた状況を把握できるようになる。
 檻に、閉じ込められていた。玄関のそばに置いてあったあの檻だ。金属製で、とても冷たくて、硬い。僕ら三匹の体はほとんど密接していて、身動きが自由に取れないほど狭かった。
 フォルミュレスとリラさんが、その檻を挟むようにして向かい合っている。下から見上げるリラさんの顔は困惑していて、フォルミュレスは心底不快そうに牙を剥き出しにしている。
「リラ、説明しろ」
 フォルミュレスはあろうことか僕らを質すのではなく、リラさんを()めつけた。
「私にも、何が何だか……」
 リラさんは、両の手を不安そうにいじりながら、僕らを見下ろした。なぜこんなことをしたの、と僕らに目で訴えている。
「……ったく。ミジュマルにオンバットに……ケーシィか。なるほどな」
「みんな、逃げるよ!」
 ミライの言葉にハッとする。そうだ、僕らにはテレポートがある。
 僕はミライの手を握って、ぎゅっと目を瞑った。三秒後には、僕らは星空の下にいて、拘束から解き放たれている。
 そのはずだった。
 僕らを取り巻く景色は、何一つ変わっていなかった。
「テレポートか? 使えんぞ、その檻の中では。どんな技も無駄だ。我が故郷グラドシェイムが誇った、至高にして忌々しい利器。この遅れた大陸だと向こう五〇〇年は作り出せまい」
 フォルミュレスが呪文のような台詞を吐いた。ほとんど意味不明だが、つまるところ、僕らは窮地に立たされているらしい。魔王は僕らを詰め込んだ檻を引っ掴んで、敷物の上に放り投げた。
「痛っ……!」
 僕とミライとアラタは、檻の中でぐしゃぐしゃに絡まり合っている。
「ミュ、ミュレスさん! そんな乱暴な……」
「何が悪い。勝手に他人の家に入り込んで俺たちの閨事(ねやごと)を盗み見ていたクソガキどもだぞ。俺が寛大な心の持ち主でなければ全員首をねじ切っていたところだ」
 その言葉を聞いて、僕は自分の頭が急激に沸騰するのを感じた。何が寛大な心の持ち主だ。自分がリラさんに振るった暴力を棚上げして、僕らを糾弾する権利があると思っているのか。
「出してよ! お前がリラさんを虐待してたのはわかってるんだ!」
 アラタもまったく同じような感想を抱いたのか、それとも興奮して我を忘れているのか、魔王に語気鋭く迫った。
「虐待? 何の話だ」
 檻を持ち上げて自らの顔の前に持ってきたフォルミュレスは、目を大きく見開いて僕らを睨みつける。
 恐ろしい形相だった。喧嘩は相手を選べというけれど、好き好んでこの魔王を相手取るやつがいない理由をありありと理解できる。乏しい明かりでは青藍色の膚がより一層不気味で、後ろに控えている萌黄色の穏やかなリラさんとの対比が鮮明だった。
「リラさんの首だよ! お前が咬みついて虐めてるとこ、オイラもレンスケもミライも見たからな! スカーフをリラさんに巻かせて隠してるつもりだったんだろ! オイラたちには全部お見通しだ!」
 ここまで舌鋒鋭いアラタは見たことがない。もともと頭のたがが外れている感はあったが、ここに来てまったく怖じ気く様子もなく抗うアラタに、畏敬の念を覚えた。
 僕もミライも、そして渾身の抗議をぶつけたアラタも、フォルミュレスがほんの少しでも狼狽する姿を期待していた。そうならないはずがないと、確信すら持っていた。
 しかし、当のフォルミュレスは――ぽかんとしていた。まるで、そのような指弾を受けることが全くの予想外だったとでも言うように。
 狼狽したのは僕らのほうだった。魔王には、自分が暴力を振るっているという自覚がないのだろうか。
 気温は決して低くないはずなのに、僕らを取り巻く空気は底から冷え切っていた。アラタのぴんと立った耳がみるみるうちに萎れていく。
 やがて、魔王はくつくつと笑い始めた。
「な、何がおかしいんだよ!」
 アラタは顔を紅潮させて、再度フォルミュレスに迫る。
「こいつは傑作だなァ! 聞いたか、リラ! お前は俺に虐待されているらしいぞ!」
 魔王は大笑いしながら、リラさんのほうを向いた。
「リラさん、そうでしょ! 虐められてたんでしょ!?」
 ミライが後ろから体を乗り出して、魔王の後方にいるリラさんに語りかけた。けれども――リラさんは目を逸らした。
 それが、僕らの威勢をばっさりと削いだ。リラさんを助けに来たのに、肝心の彼女は手を伸ばそうとしない。僕らがショックを受けたのを嘲うように、魔王は笑い続けている。
「そうかそうか、お前らにはあれがリラを虐めているように見えたのか、くくっ」
 何がおかしいのか。僕らは何か勘違いをしているのか。そんなはずは――。
 でも――首を咬んだことに絞っていた焦点を一度拡げると、確かにそのこと以外では、魔王がリラさんに暴行を加えた形跡はない。リラさんに何かをさせていたり、覆い被さってゆっくりとしたリズムで動いていたりということはあったけれど、暴力的ではなかった。
(――たぶん、違うんだ。フォルミュレスはリラさんを虐めていなかった)
 心の奥で燻っていた違和感が、徐々に花開いていく。認めたくはないが、フォルミュレスがでまかせを言っているようにも見えない。何より、リラさんの態度があまりにも不合理で、それが遠回しに僕らが間違っていることを伝えている。
「……そういうことだったのね。お昼に突然ヨシマサ先生が私を訪ねてきたのは」
 息を呑んだ。リラさんが、僕らを悲しげな目で見つめている。
「おい、リラ。コイツらはまだ指南(・ ・)されていないのか」
「……たぶん、まだだと思います。あと一年か二年、待たないと」
 また、理解不能な会話が始まる。指南? 待つって何を。
「そうか。まあ、どう見ても未熟だからな。だが……見られたからには教えてやらないといけねえなァ、大人として」
 フォルミュレスが意地悪い口調で言うと、僕らの詰め込まれた檻を持ち上げて、そのまま寝床のそばに置いた。魔王は寝床にどっかりと腰を下ろし、「こっちに来い」とリラさんを呼びつけた。
 リラさんは「はい」と従順な返事をして、フォルミュレスの横に座る。
「おい、クソガキども。俺たちがここで何をしていたか、わかるか?」
 僕らは押し黙る。少なくとも、この後に及んでフォルミュレスがリラさんを虐めていた、などと主張する気にはならない。その解に誤りがあることだけは理解している。
「リラ、教えてやれ」
「わ、私……ですか?」
「……お前が恥じらう姿はそそるが、今はコイツらのために包み隠さずに答えろ」
 リラさんは、俯いてもじもじしている。口を開きかけては閉じるのを、何度か繰り返した。魔王は、その様子を面白がるようににやにやと眺めていた。
 そして、ようやくリラさんのか細い声が鳴った。
「私たちがしていたのは……こ……交尾なの……」
 交尾。こうび。コウビ。――聞いたことがあるような、ないような。
「アラタ、知ってる?」
 すっかり意気消沈しているアラタは、わかんない、と口ごもる。ミライは、僕が尋ねる前に首を振った。
「交尾ってのはな、番がいるなら誰でもやってることだ」
 そう言ったフォルミュレスは、自らの股間をまさぐり始めた。僕は驚いて目を逸らす。他人の前でそのような場所をいじくるのはよくないと父さんが言っていた。言われなくてもそんなことはしたくないし、ほかの子だってそれが最低限のマナーであることは教わっているはずだ。
 でも、魔王はそんなことをお構いなしに股間を触って、そして、あろうことかアレを引っ張り出したのだ。
「やだっ」
 叫んで目を覆ったのはミライだった。僕もアラタも顔を強張らせている。
「何驚いてやがる。雄なら一部の例外を除けば誰だってついてるだろうが。お前らにはねえのか? ……おっと、ケーシィのほうは雌だったか」
 意地悪に笑いながら、フォルミュレスは自分の赤黒いちんちんの根元を掴んで、見せつけてくる。
 確かに、僕にもアラタにもちんちんはある。父さんにもあるし、ほかの大人の雄にもあると思う。でも、これはおしっこをするためのものだし、今ここで引っ張り出してくる理由なんてないだろう。
 ――あれ、でも、おしっこをするだけのものなら、なぜ雌にはないのか。そんな率直な疑問が浮かんだのもつかの間、魔王のちんちんが徐々に大きく長くなってきた。
「え……」
 ふにゃふにゃで垂れ下がっていたったはずのそれは、僕の身長ぐらいの長さになり、そして天井を向いた。
「これが勃起だ。交尾するにはこうやってチンポを勃たせなきゃならねえ」
 ただの排尿器官だと思っていたものが、思いもよらない変貌を遂げる。脈動し、一個の生き物にすら見えるそれに、僕らは言葉を失っていた。
「リラ、お前もこいつらに見せろ」
「で、でも……」
 どきりとする。先ほどの僕がびっくりしたのは、魔王が自分のそれを見せつけてきたことであって、ついていることそれ自体にではない。
 でも、リラさんは違う。リラさんは雌だ。僕は雌の体のことは、ちんちんがついていない、ということしか知らない。
「教えなきゃ先に進まねえだろうが」
「……わかりました」
 気乗りしなくとも、リラさんにとって夫の命令は絶対らしい。
 リラさんが両脚を前に投げ出した。縞模様の長い尻尾が敷き藁からはみ出て、僕らの檻の横に流れている。
「……ミライちゃんは知ってると思うけど……いえ、もしかしたらよく見ないと、女の子でもここのことはよくわからないかも知れないわね」
 リラさんが上ずったトーンで、ゆっくりと説明を始める。僕は、リラさんの両脚の間にある、雄であればちんちんがついているはずの部分を凝視した。
 ――みだりに自分の股間を触ってはいけないのと同様に、他人の股間を凝視するのも十分失礼な行為だ。だが、大人であるフォルミュレスが真っ先にそのマナーを踏みにじったことや、薄暗く淀んだ雰囲気に当てられた(・ ・ ・ ・ ・)ことが重なって、僕の感覚は麻痺していた。
 そこには、うっすらとした割れ目があった。リラさんの体の基調色は萌黄色だが、そこの部分にはわずかに桃色が差してある。
 リラさんが体を丸めて、短い腕をその割れ目に伸ばした。そして――そっと割れ目を拡げる。
 ごくりと、アラタが生唾を呑み込む音がした。
 割れ目の奥には、穴があった。桃色の肉は薄明かりに照らされて、てらてらと鈍い輝きを放っている。
「雌にはね、ちんちんはないけれど……おまんこ、っていう穴があるのよ」
「うわあ……」
 アラタが檻に顔を押しつけて、リラさんの秘密をしっかりと覗き込もうとする。
「ふん、マセガキめ……」
 フォルミュレスの言葉は、アラタに届いていないようだった。
「ここからおしっこが出るの?」
「ううん……おしっこが出るのはこっちよ」
 リラさんの爪が、割れ目の上部にある、言われなければ気がつかないような小さな穴を指す。だとしたら、割れ目の中央にある深い穴は、何のためにあるのか。お尻の穴は割れ目のさらに下にあるので、大便を排泄する穴ではないことは明白だった。
 異様な光景。大人の雄と雌が、檻に閉じ込められた僕らの前に座って、それぞれの性器を見せつけている。
 ――雄にはちんちんという名の棒があって、雌にはおまんこという名の穴がある。
「もしかして……ちんちんを、おまんこの中に入れる……」
 僕がぼそりと呟いて、アラタとミライが僕の顔を見る。そんな馬鹿な、とでも言いたげに。
「ご名答」
 フォルミュレスが僕のはじき出した答えに丸をつけて、アラタとミライはさらに驚きと戸惑いの入り混じった声を上げた。
「でも……なんで……」
 どのような必然性があって交尾という行為が行われるのか、どうしてもたどり着けない。ちんちんがおまんこに入るのはわかったけれど、ただそれだけだ。
「おい、ケーシィ。お前さっきから黙ってばっかりだな。学校の授業よりもこっちの方が人生で何十倍も大事だぞ」
 ちんちんをいきり立たせたまま、魔王は檻の奥にいるミライを嘲うように言う。
「……うるさい」
 僕とアラタはなんだかんだでこの異様な雰囲気にのめり込んでいるが、ミライは違った。不愉快であるという態度を崩さずにいる。
「……ケーシィ、お前が俺の質問に答えられたら檻から出してやる」
 何の前触れもなく、フォルミュレスが餌をぶら下げた。
「ほんと?」
 ミライが前のめりになって、僕らを押しのける。檻の中の狭さが、いい加減苦痛だった。
「雄が雌のマンコにチンポを入れる――すなわち交尾をする理由はなんだ?」
「それは……」
 ミライが言い淀む。わかるわけがない。交尾という行為を、さっき知ったばかりなのに。
「ヒントをやろう……お前やリラのような雌には可能で、俺やそこの二匹のマセガキには絶対にできないことはなんだ?」
 檻に顔を近づけた魔王が、目をすがめながらにやにやと嗤う。ミライは檻から脱出するために、全力で考え込む。
「雌にできて……雄にできないこと……そんなの、タマゴを産むことぐらいしか……あ」
 僕とアラタが、互いの顔を見る。
「交尾をすると、タマゴが産まれる……」
 番なら誰でもやってること、とフォルミュレスが言っていた意味が、ようやく咀嚼できた。そして、僕は青ざめる。
「聡明だな。さて、クソガキども……お前たちが犯した罪も、これで理解できただろう?」
 魔王が激怒した理由と、リラさんが僕らの味方をしなかった理由。それらが今、繋がった。僕らは、リラさんとフォルミュレスが新しい家族を作ろうとしている大事な行為を踏みにじったのだ。
「それより、正解したんだから出しなさいよ!」
 檻をがたがたと揺らして歯を剥くミライ。どこまでも図太い性格をしている。
「出すわけねえだろ」
「嘘つき!」
 子供の罵りなんてフォルミュレスには微塵も通じない。僕はもう、自責の念で魔王に逆らう気力を無くしていた。アラタに至っては、超音波で夫婦の営みを台無しにした張本人だから、事態の重大さは一番理解しているだろう。
「大方指南は終わった。だが……百聞は一見にしかず、というありがたい言葉がある」
 まだ続くのだろうか。リラさんの首の傷に気がつかなければ、今頃僕は父さんと一緒にすやすやと夢心地でいられたのに。いったい僕は何をやっているのだろう。
「リラ、仰向けになれ」
 魔王がリラさんに顔を向ける。
「え……この子たちの前で、するんですか?」
 僕は体を強張らせた。アラタは息を呑み、ミライはほとんど憔悴している。
「お前らはどうだ。見たくないか?」
 今まで威嚇するような声音だったフォルミュレスが、初めて柔らかい調子で僕らに問うた。
 見たくない――と言えば嘘になる。けれども、素直に見たいと言ってしまうのはよくないと、理性が歯止めを掛けようとする。
「あ、あなた……さすがにこれ以上この子たちを虐めるのは……んッ!」
 フォルミュレスが、唐突にリラさんの後頭部に腕を回して、無理矢理口づけをした。リラさんの小さな口に、フォルミュレスの大きな口から伸びた舌が入り込んで蹂躙する。リラさんはそのまま太い腕に押し倒され、フォルミュレスに貪られていく。
 昨日までの僕なら、これも暴力だと判断しただろう。実際、暴力的な行為だと思う。でも、ここまでに文脈を汲み取るなら、この痴態は必要なこととして行われている。
 フォルミュレスがリラさんの口を開放する。唾液の糸が、ふたりの口を繋いでいた。
「こっちはお預け食らってイライラしてるんだ。こんな夜中にコイツらの家を一軒一軒回って親に事情を説明するのか? 朝になっちまうだろうが」
 大人としては、僕らを深夜に外に出すわけにはいかない。それに、リラさんの家にテレポートで勝手に侵入したなんて告げ口をされたら、叱られるどころでは済まない。上手い具合にごまかす方便を思いつかない限り、ここからは出られないのだ。
「あと一週間だ。時間がねえ。孕みたいって言ったのはお前だろ」
「……そうですね」
 押し倒されたままのリラさんが小さなため息をついて、檻入りの僕らを見やった。
「レンスケくん、ミライちゃん、アラタくん。あなたたちも将来、きっとすることになるだろうから……やり方、よく見ていてね」
 リラさんが、普段とは違う雰囲気をまとう。フォルミュレスの腕に抱かれたまま、ゆっくりと目を瞑る。
「リラ……挿入()れるぞ」
 フォルミュレスが、腰を浮かせる。太く長い、赤黒いちんちんの切っ先が、リラさんの割れ目にあてがわれる。
 リラさんが、よく見ていてと僕らに言った。それを蔑ろにする理由はもはやなく、僕はその様子を目に焼き付けようと、檻の格子に顔を押しつける。
 アラタもまた、同じように格子に顔を押しつけていたが、一瞬アラタの下腹部に目が留まり、僕はぎょっとした。アラタの股間から、小さくも勃起しているちんちんが顔を出していた。
 ミライが見たら失神するかもしれないな、と彼女の顔を一瞥する。ミライは、リラさんの顔を凝視していた。ふたりの大人の性器を直視しないよう、わざとそうしているらしい。
 僕のも、同じような状態になっているのだろうか。たぶん、なっているのだろう。今は、見たくないけれど。
 リラさんの喉奥からくぐもった声が漏れる。フォルミュレスが少しずつ腰を沈めて、リラさんの割れ目に侵入していく。あんな大きなものをねじこまれて、リラさんは平気なのだろうか。
 フォルミュレスの腰が完全に沈み切って、結合部が見えなくなる。リラさんとフォルミュレスの尻尾が、互いにねじりあって巻きついている。
 長い尻尾をもつ種族は、親愛を確かめるために互いのそれを触れ合わせる習慣がある。でも、このふたりは、もっと深いところまで絡み合っていた。
「ミュレスさん……」
 リラさんは小さな悲鳴を上げるように夫の名前を呼んだ。僕らとの会話には絶対使わない声音。フォルミュレスを求めるときの声。
「リラ……!」
 フォルミュレスが、腰を持ち上げ、ちんちんを引きずり出す。湿り気を帯びた結合部はねっとりとした淫猥な光沢を放っていた。そして、激しく腰を打ち下ろした。
「ああっ」
 リラさんの嬌声に、フォルミュレスのスイッチが入る。高速で乱暴な抽送運動が、リラさんを何度も襲う。リラさんは奥を突かれるたびに、体をくねらせてよがった。
「おら、もっと締めろ!」
 フォルミュレスの牙がリラさんの首に食い込む。萌黄色の長い首が仰け反って、体はびくんと跳ね上がった。リラさんの目には涙が溜まっていて――口は、どこか笑っているように見える。
「どうだリラ! 視姦されながらヤる交尾は……! いつもより締まってんじゃねえか、おい……!」
「あ、あなた……私、ひっ……気持ちよくて……おかしくなりそう……ああっ!」
 リラさんの腕が、フォルミュレスの腕をぎゅっと掴んでいる。
(交尾は……気持ちいいんだ……)
 大人の竜二匹が、夢中になって乱れている。僕らの存在を忘れているかのように、互いの体を求め合っている。リラさんの脚は、フォルミュレスの胴をしっかりと挟み込んでいた。
 首を咬まれることも、凶暴なちんちんを入れられることも、リラさんは心の底から望んでいる。
 リラさんは、一番身近な大人だった。僕らは学校の先生よりも、リラさんに好意を抱いている。でも、今のリラさんは僕らの知るリラさんではない。リラさんは目の前にいるのに、ずっと遠くに行ってしまったような気分だ。
「愛してるぞ、リラ……!」
「ミュレスさん……私も……!」
 リラさんがなぜフォルミュレスの妻なのかという、町の七不思議の一つ。誰もがその謎をつつきたがる。でも、真相なんて大したことじゃなかった。リラさんはフォルミュレスを愛していて、フォルミュレスもまたリラさんを愛している。ただ、それだけ。
 愛し合う理由だって、僕らが無縁の場所に存在しているのだろう。僕らの知らないリラさんがあったように、魔王にも僕ら子供には見えない何かがあって、リラさんがそれに惹かれたのだ。
 スカーフも、純粋なプレゼントに過ぎなかった。首の咬み痕を見られるのは体裁が悪いから、首に巻いていただけで、それ以上でもそれ以下でもない。なのに、僕らが必要以上に騒ぎ立ててしまった。
 本来、僕らのような子供が見ていい光景ではないのだと思う。だから、大人はこのような営みを、きっと子供たちが寝静まった夜にするのではないか。
 ぱちゅ、ぱちゅ、と室内に二匹の竜が体を打ちつけ合う音が響いて、僕らはそれを眺めている。
(僕もいつか、この夫婦と同じようなことをする日が来るのだろうか)
 艶やかに喘ぐリラさんと必死なフォルミュレス。温く匂い立つ空気に、頭がぼんやりとする。
「出すぞ、リラ!」
「あなた、来て……!」
 フォルミュレスの抽送がさらに激しさを増す。終わりが近いことを予感する。檻の中の僕らは、手に汗を握っていた。
「孕め!!」
 どん、と地響きが鳴ったような家の揺れ。全体重をリラさんに打ちつけたフォルミュレスは、ぶるりと震えて、動きを止めた。
 今しがたこの場にあった熱が、霧散していくようだった。しんとした空気に包まれて、ああ、夜はこのように静かだったな、と現実に引き戻される。
 ふたりの荒い息づかいだけが、いつまでも続いている。僕もアラタもミライも、まるで迫り来る災害から自分たちを守ろうとするかのように身を寄せていた。
 ややあって、フォルミュレスが体を持ち上げ、リラさんの割れ目から、挿入していたものを引き抜く。怒張していたはずのそれはずいぶんと小振りになり、へにゃりと萎れていた。割れ目からは、白く粘性のある液体が溢れている。
 ――きっと、フォルミュレスがリラさんに注ぎ込んだのだ。たぶん、タマゴになる素のような液体ではないかと推論する。
(凄かった……)
 それしか、言葉か見つからない。リラさんとフォルミュレスが、疲れ切った、しかし満足げな表情で抱き合っている。
 夜更けなのに目は冴えたままで、心臓の昂ぶりは収まる気配がない。
 ミライが「そろそろ出してよ」と呟くまで、子供も大人も茫然自失だった。











Epilogue: 韜晦(とうかい)する竜 




 あの事件から八日が経過した。今日は学校が休みだった。
 僕、アラタ、ミライの三匹は緊張した面持ちで、リラさん宅の食卓を囲んでいる。リラさんに招かれたのだ。フォルミュレスは留守だった。
「副団長さんからお菓子を頂いたの。よかったら食べてね」
 干した木の実が、編み籠いっぱいに盛られている。僕が恐る恐るそれに手を伸ばすと、アラタとミライも続いた。
 僕らはどういう目的でリラさんに招かれたのか、説明を受けていない。昨日、三匹で修行しているところに、よかったら遊びに来てと急に言われたのだ。僕らは逡巡したが、フォルミュレスが町を離れてしばらく戻らないと聞いて、誘いを受けることを決意した。
「……この前はごめんなさいね」
 リラさんはおもむろに口を開き、謝罪の言葉を述べた。
「怖かったでしょう」
 萌黄色の首筋には相変わらずスカーフが巻かれている。
「ちゃんと謝っていなかったから、改めて言いたかったの」
 僕らは、なんと言葉を返せばよいかわからずにいた。あの事件において、悪いのは全面的に僕らだった。思い違いで、大切な夫婦間の行為に水を差した。二匹の間に間違いなく愛があったことも、僕らの罪悪感を加速させた。
 ――僕らは、フォルミュレスの取り計らいによって、勝手に他人の家に侵入した悪ガキどもというレッテルを貼られることなく、普通の生活を送ることができている。あのあと、僕らは早朝にそれぞれの家に送り届けられた。深夜徘徊していた僕らをリラさんが保護し、明朝に帰したという偽の筋書きを描いたのだ。僕らは結局、親から叱られるだけで済んだ。
「リラさんは何も悪くないです。私たちが勝手に早とちりしました。リラさんにも、まお……フォルミュレスさんにも失礼なことをしました。ごめんなさい」
 ミライが僕らを代表して謝って、僕とアラタもごめんなさいと頭を下げた。
「……お互い様かもしれないわね。まあ、指南を二年ほど早めたって思ってもらえれば……いいかしらね……」
 リラさんはらしくもなく、言い訳めいたことを言った。
「そういうことで、いいと思います」
 僕は干したクラボの実を囓りながら、それに答える。
 指南。この町では、子供はある程度の年齢を過ぎたら、各家庭の大人が性についての手ほどきをする。場合によっては実践もするらしい。学校の上級生にこのことを尋ねたら、なんで知ってんだよ、と顔を赤くしながら突き飛ばされた。
 僕らは、幼さゆえにまだまだ知らないことがたくさんある。それはきっと、ダンジョンのように奥深い。
「スカーフ、もっと大きなものに変えようかしら」
 リラさんがスカーフの縁を触りながら呟く。首には、まだ咬み痕が残っているのだろうか。
「もっと大きなスカーフだったら、アラタも首の傷に気がつかなかったかも」
 僕が冗談めかして言うと、アラタは目を伏せた。
「そうねえ。でも、昔からミュレスさんによく咬まれてたから、今さら指摘されるなんて思わなかったのよ」
「え……」
「気がつかなかった? 私、ミュレスさんと寝た次の日は、傷が目立たないように膚と同じ色のスカーフを巻いていたのよ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)
 絶句する。僕らは知らず知らずのうちに、魔王と激しく交わった跡を生々しく体に残しているリラさんと、和やかに会話していたのだ。
(あ……そういうことか)
 ヨシマサ先生の「恥をかかせたな!」という言葉がリフレインする。開拓団の大人はみんな、リラさんが首によく咬み痕を残していることを知っていたのだ。でも、それを指摘するのはマナー違反。ヨシマサ先生が非難ごうごうだったのは、リラさんを怒らせたからだけではない。空気が読めなかったことを咎められたのだ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)
 頼りにならない先生だ、と断じてしまったことを申し訳なく思う。
「でも、お前にはこっちの色が似合う、ってこのスカーフをプレゼントされて。嬉しかったから舞い上がったような気分で巻いてみたんだけど、まさかあんなことになるなんて……」
「本当にごめんなさい」
 僕らはもう一度頭を下げた。いいのよ別に、と笑うリラさん。
 ――かつての僕らはまったく感じられなかった、リラさんの色気。リラさんの大人の顔を知ってしまったから、今の僕らは彼女に敬語を使っている。
「そういえば、フォルミュレスさん、しばらく戻らないって聞きましたけど」
 アラタが木の実を頬張りながら尋ねる。あの日からちょっとだけリラさんを見る目つきが変わったように見える。横恋慕は継続中だ。
「二ヶ月戻らないわ。本格的に西側のダンジョンを切り拓くんですって。副団長に頭を下げられたのよ。それで、団長と副団長がついてくるなら行ってもいいって返事をしたの」
 開拓団団員とことごとく折り合いが悪い魔王だが(団員を雑魚呼ばわりして憚らないので当然だが)、副団長の言うことだけはどういうわけか素直に従うのだ。
「生きて帰ってくればいいけれど……」
 リラさんは心配そうに天井を見上げてため息をついた。僕らからすれば、あのフォルミュレスがダンジョンでやられるところなんて、とてもではないが想像がつかない。
「リラさんは、フォルミュレスさんのどういうところが好きなんですか?」
 ミライが唐突に話題を変えた。食卓に体を乗り出している。
「……それは、魔王(・ ・)なのにっていう意味かしら?」
 僕らはぎくりとする。裏でフォルミュレスのことを魔王呼ばわりしていることがバレていた。
「ふふ……そうね。いっぱいあるわよ。ちょっと長くなるけど、昔話をしていいかしら」
 リラさんが、紅いレンズに覆われた目を瞑る。僕らは、静かに頷いた。
「私が魔王様に救われた話よ」



 ★★★



 みんなは、どうしてあなたたちのご先祖様がテッコン大陸を捨ててこのクロトビ大陸にやってきたのか、習ったかしら。
 ――そうね、まだ習ってないわよね。あ、ミライちゃんは知ってるのね。もしかしたら、親御さんから教わったのかな。
 ――うん、そうなの。あなたたちのご先祖様はテッコン大陸で虐げられながら暮らしていた。そして、その暗い生活から逃れるために、命がけで海を渡ってきたの。勇敢なひとたちよね。
 私とミュレスさんも同じなの。私たちの住んでいた国は、(ドラゴン)は奴隷階級として虐げられていた。支配者階級は妖精(フェアリー)
 文明はとても進んでいたけれど、それを支えるためにたくさんの竜が奴隷として使役されていたわ。
 奴隷の扱いは、それぞれの仕える家によってさまざまだった。それなりの衣食住を保障されている竜もいれば、酷い扱いを受けてボロ雑巾のように捨てられる竜もいた。
 奴隷として売り捌かれるときは、みんなまともな家に仕えられるよう、必死で媚びを売っていたわ。主人がまったく働かない家だと、奴隷が擦り切れるまで働かないといけないから。
 ――私が売られた先はハズレだった。主人がとにかく酷いひとで、少しでも気に入らないことがあるとすぐに私をいたぶった。死ぬと面倒臭いからこれぐらいにしてやる、が口癖だった。
 一方、ミュレスさんは――当時は名前のないジヘッドだったけれど――別の家に仕えていて、とてもうまくやっていた。主人の家族とはとても折り合いがよくて、仕事も一を聞いたら十をこなす。主人の命令は絶対に守り、竜は妖精にかしずき、そして妖精が治める貴方がたに仕えるために存在している、と自ら言って憚らない、従順なポケモンだった。
 彼の値段、月ごとに上がるのよ。彼の評判を聞いたひとが、大金を払って彼を買うでしょ。しばらくしたらもっと大きな家にもっと高いお金で買われる。
 良質な奴隷をもつことは一種のステータスだった。彼は文字通り頭一つ抜きんでている奴隷だったから、みんな涎を垂らしながら彼を求めたの。
 あれが竜の目指すべき奴隷像だ、と町ゆくひとは讃えていたけれど、奴隷階級のうちでは竜としての矜持(プライド)を捨てた裏切り者って陰口を叩かれていた。そういうわけで、良くも悪くも有名なポケモンだったのよ。
 私は、とにかく一日一日を生きていくことで精一杯だったから、彼の生き方をどうこう言うような余裕なんてなかったけれど、ちょっと羨ましいなあって思っていたわ。
 もし私も彼のように上手く立ち回れたら、主人から唾を吐きかけられて、蹴ったり殴ったりされる日常が少しでもマシになるのかなって狭い檻の寝床で考えてた。
 やがて、町に衝撃的なニュースが流れた。王家が彼を召使いとして破格の値段で買い取るって言い出したの。
 建国以来、平民所有の奴隷が王家に召し抱えられることなんてまったくなかった。貴族に買われることはときどきあったらしいけども――信じられない出世よ。平民よりもずっと上の衣食住が約束される、私じゃ到底たどり着けないような領域。さすがにそのときばかりは自分の運命を呪ったわ。
 そして、彼は王家に売られると同時に、最終進化を許されたの。――ああ、奴隷はね、支配者階級を脅かすような力を持たないように、絶対に最終進化をさせてもらえないの。もっとも、最終進化にたどり着けるくらいに強くなる奴隷なんてほとんどいなかったけれど。私もビブラーバ止まりだった。
 彼は従順で、賢く、模範的で、支配者階級の唱える正しい奴隷の在り方というものに恭順の意を示した。だから、王家のポケモンたちは気を許したのね――。
 そして王家に売られて三ヶ月、彼は最終進化を果たし――その夜にクーデターを起こした。信じられる? 従順に振る舞っていた四半世紀以上に及ぶ期間は、すべて演技だったの。
 支配者階級の信頼を全面的に勝ち取りつつも、王家と敵対関係にあって憂き目にあっている貴族や、不満を抱き燻っているひとたちを裏で繋いで、蜂起させる。
 こうして、私たちの住んでいた国は崩壊を始めた。
「俺が何もしなくても、崩れゆく国だった。無理矢理な戦争による領土の拡大。それに追いつかない急激な人工増加。平民や下級貴族に押しつけられる負担。──奴隷でなくたって、国に不平を垂れる連中はいくらでもいる。俺は、ぐらぐらと不安定に揺れている煉瓦の塔を、ちょっと小突いただけだ」
 笑いながら言ってたわ。――あなたたちのつけたあだ名通り、魔王なのよ。悪巧みの天才。
 まもなく内乱が始まった。私たちの国が弱り始めたことを察知した他国の軍も攻勢を仕掛けてきて、国内はさらにめちゃくちゃになった。
 私は、もぬけの殻になった家を抜け出した。尻尾にあの忌まわしい檻がロープでくくりつけられてなかなか上手く飛べなかったけど、なんとか戦火の届いていない海辺に向かったの。
 曇った海辺には塔が建っていた。古びていて、今にも倒壊しそうだった。そして、その上にサザンドラがいたの。


 ★


「いい眺めだな。俺たちを虐げてきた国が滅びるのは」
 私が近づくと、三つ首の竜は開口一番にそう言った。彼があの有名な奴隷であることには一瞬で気づいた。なんという種族かは知らなかったが、ジヘッドであった頃の面影があった。最終進化を許された竜なんて、この国には一匹しかいない。
 けれども、私はまだこの状況は彼が仕組んだものであることは知らなかったから、まだ模範的奴隷というイメージを抱いていた。
 だが、この三つ首竜は国が滅びることを嘲り、大勢が死んでゆくのを喜んでいる。愕然とした。
「お前、なんだその尻尾。外せよ、そんなふざけたもんは」
「……どうしても外せなくて」
 彼は露骨に不愉快そうな顔をした。私がどんくさいことへの苛立ちか、それとも同胞が苦しんでいることに対しての怒りなのか、判断がつかなかった。
「ちっ、世話が焼けるな」
 彼は、器用に私の尻尾に結わえられたロープをほどいて、檻を外してくれた。そのいかにも不便そうな腕ではありえない手際の良さが、彼の能力を表しているように見えた。
「さて、お前はどうする、リラ」
「り、リラ……?」
「お前の名前だ。俺もお前ももう奴隷じゃないんだから、名前が必要だろ。この俺がたった今つけてやった。ありがたく思え」
 二つの事柄に虚を突かれた。勝手に名付けられたこと。そして、「もう奴隷じゃない」と言われたこと。
 不意に、体が軽くなった気がした。喉から手が出るほど欲しかった自由が、突然与えられたのだ。
「……あなたのことは、なんとお呼びすればいいんでしょう」
「そうだな……フォルミュレス、がいい。王家のヤツらの言葉で『抗う者』っていう意味だ。どうせアイツらは全員打ち首で血も絶えるからな。話してた言葉くらいは俺の名前が引き継いでやるよ」
 フォルミュレスはけたけたと笑った。彼の悪タイプらしい底意地の悪い本性を見て、安心した自分がいた。彼は少なくとも、心の内では従順とは程遠かった。
「で、どうするんだ? ここにいたって死ぬか、奴隷に戻るだけだぜ」
 私は狼狽した。急に自由を与えられても、私にはすべきこともなければ、したいことも思いつかなかった。生き方は与えられるもので、求められるものではなかったのだ。
 フォルミュレスは火の手の上がる町を眺めている。曇り空が赤く染まるのを、恍惚とした表情で見つめていた。
 私はその目を見て、意を決する。
「フォルミュレスさんについていきます」
 赤い瞳が、私の顔をまじまじと見つめてきた。
「……俺はこの海を渡って、ここのヤツらが誰も知らない、果ての果てまで行くつもりだ。途中でくたばるかもしれねえ。それでも同じことが言えるか?」
「ついていきます」
「力尽きたって助けねえぞ。そのまま海に捨てていくからな」
「はい」
「後悔するなよ」
「絶対にしません」
 もともと、ボロボロに朽ち果てていく運命だった。だから、渡り切れずに海へ落ちたら、もうしかたのないことだと受け入れられる。
 自由を手に入れられたというのなら、私はこの三つ首竜の行く先にすべてを委ねるという自由を行使する。
「……よし、じゃあこの檻ん中に食い物を詰め込めるだけ詰め込め。塔の地下に食料庫がある。一時間後に出発だ。二日三日で渡れると思うなよ」
「はい!」
「すぐ準備しろ」
 フォルミュレスが、にやりと笑った。




 ★★★




 秋の夜長の浜辺。ここのところ野生がよく町に降りてくるので、私はあくびをしながら見回りをしていた。頭にぶらさがる大口も、私に続いてあくびをする。
「そろそろ遠征計画を立て始めないとな」
 ご機嫌な独り言。副団長に就任してまだ二ヶ月だが、日々の業務に忙殺されているうちにちょっとは板についてきたかな――なんて思ってみる。
 月明かりが沖をきらきらと照らしていた。そして、砂浜のほうに目を移す――何かが打ち上げられている。
「なんだあれは……」
 私は走ってそれに近寄る。かなり大きい。私の体が小さいこともあるが、こんな大きなポケモンは初めて見た。野生のヌシが降りてきたのか? 
 しかし、においは野生のそれではない。海風のにおいが染みついている。――海を渡ってきたというのか? そんなまさか。
「どうした、しっかりしろ!」
 巨体を揺する。倒れていたのは、獰猛な三つ首竜と称されるサザンドラだった。もし野生だったら立ちどころに処分の殺処分の対象だ。
 咬んできやしないかと思いながらも、恐る恐る口に手をかざす。かろうじて呼吸はできているが、かなり衰弱していた。
 そして、そばには籠のようなものが転がっていた。
「面妖な……」
 見たことのない種類の金属でできている。鋼タイプ柄、金属に知悉(ちしつ)していると自負する私だったが、この素材には思い当たるところがまるでない。
 しかし、真に驚くべきはそれではなかった。籠の中に、ビブラーバと思しきポケモンが入っていた。こちらも衰弱しきっており、半日もしないうちに息絶えてしまいそうなほどだった。
「ゴウ……ル……ユ……」
「何だ……?」
 サザンドラが唸った。わずかに開いた口から、聞いたことのない言葉がなじみのない発音で漏れ出てくる。
 言葉を操れるのは野生ではない証左。ひとまず安心だが、とにかくすぐにでも何らかの施しをしなければ彼らの命が危ない。
 サザンドラの右腕が震えながら、檻に向かって伸びる。
「動かないほうがいい。消耗してしまう」
 サザンドラを制そうとするが、その腕は構わずに檻の端を掴んだ。
「……ガ……ル……」
「……! わかった!」
 言葉が通じなくとも、身振りでわかる。そいつを助けてやってくれ──そう言っているのだ。
「安心しろ! どっちも助けてやるからな!」
  
 ――これが私の、町一番の暴れん坊と町一番の美人になる竜二匹との出会いだった。









 幼気な告発者たち(ホイッスルブロワーズ)  了




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第十回帰ってきた変態選手権、6票×0.6(4日遅刻減点処置)=3.6票頂いて7位でした!
以下投票コメント返信です!

いやらしい……間違えた!愛らしい……。
粗野で粗暴なのに愛情も思慮も兼ね揃える魔王様、素敵ですね!
無知な子供たちの前で気持ちよくなっちゃうシチュエーションにもぐぐぐっと来ました。一票ッッ
(2021/12/08(水) 19:18)

いやらしい頂きました! ありがとうございます!
魔王様、普通に嫌な奴ではあるんですが、芯は持っているのでたぶん子供たちも見直したのではないかと思います。
性の手ほどきって心そそられるものがありますよね。

性を知らない子供達の幼心が上手く表現されてて素敵でした!
(2021/12/10(金) 16:42)

上手く表現できていたか悩んでいたのですが、そのような言葉を頂けて少し安心しました。ありがとうございます!

幼い子供に見せつけちゃうの、倫理観が吹っ飛んでいていいですね……そのまま、幼い子供に実技指導もしたかった……
(2021/12/13(月) 20:14)

やっぱり倫理は破ってナンボなので(リアルではノー
実技指導はあと一、二年経ったら彼らも経験するのではないかと思います(*^○^*)

性教育だ! のみならず性愛の機微や外からはわからない絆の存在やオトナの対応など様々なことを素直に吸収してえらいなぁ……こんな風にちゃんと学べたらいいですよね……。
(2021/12/17(金) 08:26)

リアルでこんなことしたら虐待案件なんですが、昔の日本は性におおらかだったといいますしこういう感じのも全然ありだよな~って思いながら書いてました。
実際に子供が情事を目の当たりにして仰るような深い事情まで理解できるんだろうか……とは思うんですが、レンスケとミライは賢いのである程度理解できるんじゃないかなって思います。アラタは頭というよりは本能で理解したかもしれませんね。

幼さ故の純粋さは輝かしくもあり時には残酷なものですね
子供たちの前で性教育の実演はなかなかに背徳的でよかったです
(2021/12/17(金) 11:36)

背徳感を子供の純真さで倍増させてお送りしました。こういうの、結構性癖ですね……。

リラさんと魔王フォルミュレスの関係性が、とても素敵でした。
子供たちの見ている前での視姦プレイもゾクゾクしますね……
何だかんだ子供たちを取り計らってくれる魔王さん、優しいですよね。
最後のリラさんの昔話が、よりこの物語を美しいものに彩ってくれました。

読みやすく、美しく、それでいてエッチな作品を楽しませていただき
ありがとうございました!
(2021/12/18(土) 23:51)

虐待スレスレのプレイでしたね。
魔王とリラさん、いわゆる亭主関白と三つ指をつく妻みたいな関係なんですが、(愛がある限りにおいては)こういうの結構好きですね。
魔王さんに優しいって言ってはだめですよ。多分キレられます(笑)
投票ありがとうございました。



読んでくださった方々、そして投票してくださった方々、本当にありがとうございました!

感想等ありましたらどうぞ。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • サザンドラの旦那とフライゴンの妻で妻の首に噛み跡……と来た時点であっこれは深く追求したらまずいやつ、と大人はぴんと来るのかもしれませんが。
    子供たちは純粋さ故に正義感が暴走してしまった感じですね。結果的に性教育実技試験の見学はなかなか背徳的で良き……。
    レンスケとミライはともかく、リラさんと同じドラゴンタイプのアラタくんはこれがきっかけで性癖歪んじゃいそうですね。 -- カゲフミ
  • キスマークが残るみたいなの、大人だと意味がわかっても子供には全然意味不明だろうなってっていう発想で書きました。
    こういう発展途上っぽい集落って古来の日本みたいに(?)、実技指導がありそうでエッチですよね。アラタくんは擬似的なNTRを味わったので脳はやっぱりやられてしまったと思いますね……将来に期待したいです()
    コメントありがとうございました! -- 朱烏
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Last-modified: 2021-12-20 (月) 00:16:05
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