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年上の特権と子供の特権

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「あー、あんたが子供の頃はよかったなぁ」
 乾燥した土地に掘られた穴倉の中、隣の男と背中合わせに眠っていたコジョンドがぼやく。
「どうした? 昔が懐かしくなったか?」
 隣で眠っていたマフォクシーは、のそりと体を起こして彼女の方へ向き直る。彼は炎タイプを持つ体ゆえか、大して寒くないのだろう。丸まることなく体を伸ばして彼女を後ろから抱きしめた。
「まーね、今の生活はなーんか物足りなくって」
 彼に抱きしめられて温かくなると、コジョンドは体を伸ばして緊張を解く。
「確かに、昔は母親やお前さんが餌をとってきてくれたから、黙ってても飯が出るってのは良かったけれど、案外自分で狩りを始めたら気にならなくなったけれどなぁ。今は俺も狩りできるから楽だろうに、いったい何が不満なんだい?」
 マフォクシーは耳元で優しく囁きかける。
「うーん、よくわからないんだけれど、もやもやするんだよねぇ。そう、親が帰ってこなくなったあんたを育ててた時は……なんだかすごく充実していたんだよねぇ。こう、あんたを抱えて、ぎゅっとして眠るような……」
「いまじゃ俺の方が大きいからね。でも、抱かれるのもいいもんだろう? 特に今の季節は」
 マフォクシーがコジョンドのうなじに厚い息を吹きかけると、彼女は気持ちよさそうに身震いする。
「あぁ、いいんだけれど……いいんだけれど、昔のあの頃に戻りたいというのもあるのよ。貴方が私の胸の中に潜り込むようにして眠って来た時の、あの小さいぬくもり。その感触、今も忘れていないのよ」
「あんときは、俺も母親が帰ってこなくって不安だったからなぁ。そりゃ、誰でもいいから縋れるものが欲しかったよ。しかし、そんな風に言われると、改めて感謝しないといけないね。ほら、寒いだろ? もっと温めて恩返し恩返し」
 そう言ってマフォクシーはコジョンドにのしかかる。地面と彼に挟まれる形になった彼女は、温かさに包まれて気持ちよさそうに『んー』と声を上げる。
「はぁ、確かに今の生活もいいわぁ。あったかくって、大きい毛皮に包まれるなんて、あんたが小さかった頃はありえなかったし……でも夏は要らないかも」
「夏になっても追い出さないでくれよ……?」
「うんうん、温情で置いてあげるよ」
 小さい子を抱きしめるのも乙なものだが、大きな男性に抱かれるというのもやはり格別の高揚感を伴う。背中に伝わる柔らかで温かい感触には、思わずため息が漏れてしまう。
「だろう? 二人で一緒なら、弱点も補い合えるしいい事じゃないのさ。確かにもう一度子供に戻ってみるっていうのも悪くないかもしれないけれど、そんなことになったら俺は運ばれた飯を食うことしか出来ない役立たずだぜ? いいのかい?」
「そうねぇ……確かに一人で小さいあんたの分も狩りをしなければいけないのは大変だったけれど。貴方が私に抱かれながら眠って、それで以ってお漏らしして泣きながら謝るとか……そういうのが最高だったから」
「いきなり何を口走ってるんだお前さんは!?」
 コジョンドの口からいきなりの変態発言。驚きのあまり、マフォクシーは耳元でどなり声を上げてしまう。
「ちょっと、うるさいよぉ」
「そんな妙な事を言うからだよ!? そんなさぁ、変なことで好かれても俺どう反応すればいいかわからないし」
「どんな反応って……『たまには子供のころに戻ってみるかい?』って、甘い声で言ってもらうとか……あなたがそんな事を言ってくれたらいいよね」
「いいよねって言われてもピンと来ないよ、俺には……」
 どう答えたものやらわからずに、マフォクシーは大きくため息をつくのであった。
「いやぁ、小さい頃には嬉しさのあまりお漏らししたりとか、そういうのがあったから。そうやって私に臭いをつけてくれたみたいで、私の中にある母性と女性が同時にきゅんとうずいちゃったの。貴方が不安で怯えていた時は母性がキュンキュンしたのよ。私が狩りから帰ってくるだけで嬉しくてお漏らししちゃったときは、女性がきゅんきゅんうずいて……あぁ、小さい子供は臭いに感情って出るんだねって思ったもので。
 そう、私に足りなかったのはその匂いよ! 今は、獲物に気取られないように臭いをなるべく消しているけれど、やっぱりあの時のように、匂いで積極的に存在をアピールする気概が足りないのよ!」
「知らねーよ……こんな年になっても小便漏らしたくねーわ」
 一人盛り上がるコジョンドに、マフォクシーは呆れる他ない。
「だからね、たまにはあなたの匂いをこれでもかと撫でつけて、私をあの頃に戻してほしいの!」
「お前発情期はまだ先じゃねーのか?」
「これは発情とは関係ない!」
「そうか、戯言に満足したら飯でも狩ってきてくれ……」
 呆れたマフォクシーは、コジョンドを抱きしめるのを止めて、また床にごろ寝する。
「もう、つれないなぁ」
 コジョンドは、体を起こして寝転がる彼を見下ろす。
「満足させたいなら私の望みをかなえてよぉ。私が貴方を拾ったのも、こんな風に寒くて草花も寂しくなる季節だったじゃない。そこで貴方は血の滴るミネズミの死体を物欲しそうに眺めていてじゃない。
 やせ細った貴方を見た私は、ついつい巣穴まで誘ってしまって、泣きじゃくりながら母親を探していたことを告げたあなたを、穴倉の中で抱きしめて慰めた! その日、初めてのおねしょ! 感慨深い!」
「声に出さなくっていいから! あとそんなもんを懐かしむのはやめろ!」
「臭いだけで不安だってことが伝わってきて、私の中にある母性が守ってあげなきゃって、強く声を上げたの。でも、今は、守り甲斐がない!」
「守り甲斐がないのはいい事じゃねーか……変な懐古もほどほどにしろ」
「ねぇ、たまには甘えてもいいのよ? あの頃みたいに」
「えー……」
 コジョンドは一人気分が昂ぶっているのだが、対するマフォクシーはあまり乗り気ではなく、頭を掻きながら眉を顰めている。
「まぁ、あんたにゃ恩もあることだ。それで満足するならやらんでもないけれど……今いきなりやれって言われてもやっぱり無理だよ」
「やっぱり、無理難題かな?」
「いいや、甘える分には問題はないよ。ただ、気分を変えるのが難しいだけ。こうして顔を合わせていると、どうしてもお前を母親よりも女に見てしまうから。
 俺だって昔と違って、進化してこんな立派な身体を手に入れて『男』になったせいだってのもあるんだろうけれど。だから、幼い頃の気分を味わうにしたって、すぐには無理だ。
 お前が狩りにでも行って顔を合わせない時間の間に気分を整えるよ」
「要約すると、飯でも狩ってこいってことね。体の良いさぼりじゃない」
「そうなるね。俺はお前が帰ってくる間に、小さかったあの頃の不安な気持ちを思い出すよ」
 マフォクシーは瞼を閉じる。完全に眠る体勢に入るのを見て、コジョンドは苦笑する。
「まったく……調子がいいんだから。そんなんじゃ、父親になった時に困るのに」
 ただ、そう言って穴倉の外に顔を向けた彼女の顔は、気持ちが悪いくらいに笑んでいた。これは、今日の獲物が可愛そうである。

「ただいまー」
「あ、お帰りお姉ちゃん」
 コジョンドが狩りから戻ってくる。息絶えたピカチュウを抱えて戻って来た彼女をむかえる声は、いつもの彼とは違う声。精一杯幼い声を作ろうとしているのだろう。
「大丈夫、怪我とかなかった?」
 彼はひざまずき、コジョンドを見上げている。真剣に彼女の欲求にこたえようとしていて、やっぱり昔とは何か違うものの、その頑張りには思わず口元が緩んでしまう。
「大丈夫よ。お姉ちゃんはどこにもいかないから安心して」
 そんなマフォクシーを立ったまま撫でてあげる。出会った頃は彼女が膝をつかなければ相手を撫でられなかったため、やっぱり感覚は違う。けれど、あの頃の気分を思い出すと、懐かしい気持ちと共に胸がすくような気分だ。
「本当? 本当にどこにもいかないよね? 絶対だよね?」
「大丈夫、私は強いからどこにもいかないよ。怖かったんだね、大丈夫だから、お姉ちゃんを信じて」
 そう言って、コジョンドはマフォクシーの頭を撫でてよしよしとあやすのだが。
「ふっ……」
 思わず、本来漏れるべきでない笑い声がコジョンドから漏れてしまう。
「あっはっはっは……」
「くふふふふ……」
 同じく、マフォクシーも笑い始めてしまい、結局演技は台無しになる。
「無理だ! 今のあんたがやっても気持ち悪いだけだわ。やっぱり子供じゃないと今のセリフは別の方面で破壊力がありすぎ」
「最初から分かってたことだろうが、アホか!」
 お互い相手を遠慮なしに貶しあい、笑いあう。
「あの頃遠慮なしに甘えて来たあんたは可愛かったんだけれどねー。やっぱり甘えるのは子供の特権だわ。大人がやっても気持ち悪いだけだ」
「あの頃みたいに甘えてくれって言ったのはお前のくせに……まったく、恩返しのために付き合ってやろうとしたらこれだよ。あー、でもこのままおしっこ漏らせとか言われずに済んだだけよかったわ」
 二人は言いたい事を言って、その後も気分良く笑みを浮かべる。無言ではあったが、お互いの笑顔が口ほどに物を言うので、無言の間にも気不味い雰囲気にはならなかった。
「でもさ、あの頃に気持ちを少し思い出したよ。不安で心細くって、あんたしか頼れる相手もいなくって……ずっと縋りついてた。いつしか、こうして守ってもらえることはありがたい事なんだって理解して、甘えてばかりじゃいられないって思って、独立できるように頑張ったけれど、結局お前の巣の中で厄介になっちまったなぁ……出て行くタイミングを完全に失っちまったよ」
「だって、私も貴方がいないと寂しくなっちゃうんだもん。小さい子供って、いつまでも可愛いから……ついつい手元に置きたくなっちゃって。恩返ししたいなら独り立ちするよりも一緒に住めだなんて押さえつけていたけれど、いつの間にか育っちゃうもんだなぁ。甘えられると気持ち悪いくらいに」
「ひっでー言い方。あんたが巣立ちを阻害した癖に……」
 マフォクシーは苦笑して、コジョンドの体に触れる。
「なぁ、そんなに甘えさせるのが好きならさ……」
 そのまま彼がコジョンドを優しく押し倒す。
「今度は本物の子供でもいればいいんじゃないのか? 俺も最終形態にまで進化したことだし、いいだろう?」
 彼女に馬乗りになり、挑発的な笑みを浮かべて横たわるコジョンドを見下ろす。
「うん。でもまだ早いよ。春まで待ってくれるなら」
 そう言って、コジョンドはマフォクシーの太ももを触って生殺し。そこまで触るなら、いっそのこと最後までと思うのが男の性だけれど、それを知ってか知らずか、コジョンドはイタズラな笑みを浮かべるだけであった。
「ちぇー、意地悪。やらせてくれないなら思わせぶりな態度取るなよぉ」
 このまま見つめていると収まりがつかなそうなので、マフォクシーはふてくされたようにコジョンドから体を背けて寝転がる。
「焦らすのも立派な楽しみ方よ? 甘えるのは子供の特権だけれど、自分好みにしつけることが出来るのは年上の特権ね。だからぁ、初めての時は激しく楽しみましょ」
 せっかくそっぽを向いても、コジョンドはそう言ってマフォクシーを後ろから抱きしめる。今の雰囲気で彼女の匂いを嗅いでしまうと辛いので、マフォクシーは悶々とした気分でそれを振り払う。彼の下半身がいきり立つものを隠しやすい構造だったのがせめてもの救いだろうか。
 これ以上いじめると流石に相手にも悪いので、コジョンドは食べやすいように獲物の腹を切り裂いていく。そうして肉や内臓を引きずり出したところで、コジョンドがそれを差し出しながら一言。
「もしも父親になったら、きちんと父親の務めを果たしてね、あなた」
「お前みたいに上手く子育て出来るといいけれどな」
「やだ、何それ? 自分が上手く育ってこれたって言いたいの?」
「そう思わないんだったら、今頃お前は俺を追い出してるだろ?」
「よくわかってるじゃない」
 コジョンドは血塗れの口を笑顔にする。
「関係は変わっちゃったけれど、これからもずっと一緒、どこにもいかないよ。お姉ちゃんを信じて……ってね」
「うん、約束だよ、お姉ちゃん……ってか? そんなこと言わなくたって、約束するまでもなく俺は一緒に居るよ。もう腐れ縁なんだしな」
 言い終えるとかなり恥ずかしく臭いセリフに、マフォクシーは耳から火を噴きそうになりながら、照れ隠しに獲物に手を付ける。春はもうそう遠くないから、その時に備えて巣穴の拡張をしておくべきだろうか。


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Last-modified: 2016-03-06 (日) 07:34:29
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