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守護の力 十五、十六話

/守護の力 十五、十六話

十五, 翼と氷 ~case~


朱に染まった夕空。白の山々も夕日に照らされ、橙に輝いていた。その暖かい光の中を二匹は帰る。
やっぱり、進化すると風の感じ方とか、細かいところまで変わっているようだ。涼しかった風は一層ひんやりとしていた。
行き来で相当疲れている筈だが、彼にそんな様子は見られない。弱音を口にしたくないだけなのか、長距離の飛行には慣れているのか。
「大丈夫?疲れてない?」
「ん?この位の距離なら余裕余裕。心配しなくてもいいぞ」
彼が答えた、…その時だった。
「空は俺達の縄張り(モン)だッ!!邪魔すんなッ!!」
何処からか声が聞こえた、
その瞬間…
「ぐああッ!?」
何か強い衝撃に吹き飛ばされた。その衝撃に耐えることができず、背中から振り落とされた。
「ディフッ!!」
彼の背中から、鮮血が吹き飛ぶ。その向こう、巨大な翼を持つものが見えた。
「あれは…龍族…!!」
こちらを襲ったのは龍族、ボーマンダだった。一体でも町一つ壊滅させるのが容易な一族、普通に戦っても先は見えている。間違いなく最悪の状況。
彼は再び体勢を整え、こちらに突進してくる。当然自分には抵抗する術はない。
「レーシャッ!!」
ディフも何とか持ち直し、こちらを助けようとする。が、とても間に合う距離ではなかった。
「覚悟しな、雑魚どもがッ!!」
陽の逆光となった影はすぐそこまで迫っていたー



ー神翼の力を溜める彼の眼も、その影によく似ている。彼を包む神々しい光は、自分には何故だか、黒く感じられた。
「…そこまでですッ!!陽ノ念:サイコキネシス!」
赤紫の気を纏った何者かが飛び出してきた。同時に、ディフ達の身体が宙に浮く。
「うわッ…!?」
「な、何だ!?」
「メイサ…?」
その"何者か"は、撤退した筈のエーフィ:メイサだった。
「さあ隊長、これで…」
「降ろしなさい、メイサ」
「た、隊長ッ!?どういうことです!?」
「いいから、降ろして」
「わ、分かりました…」
動揺を隠せないまま、彼女は陽ノ念を解く。
さっきまでの大雨は、いつしか小さくなっていた。



十六, 翼と氷 ~oath~


「レーシャ…?」
「…私の負けね、ディフ」
「負け?明らかにお前の方が優勢だっただろ?」
「あなたみたいに強くなりたかった。あなたを越えてみたかった。…でも無理ね。私の手の届くところにあなたはいない」
彼の眼を見つめた。さっきとは違う、穏やかな眼だった。
「強く誓った、今のあなたは…」



ーん…?
「ここは…?」
辺りは既に真っ暗だ。見慣れた景色、嗅ぎ慣れた空気。
ー帰ってこれたのかな…?
「…気がついたか?」
彼が覗き込む。右の肩には赤黒い傷口が残っていた。
「ディフ…。…ボーマンダは…?」
「大丈夫だ。あいつらは最近飛べるようになった種族。俺の方が百倍速えーよ。…」
リース山脈の方を睨みつける。しばらく、森は静寂に包まれた。
「…そんなことより、」
彼が恐れ多く口を開く。
「…すまない。お前を護ってやれなくて…」
何故か悲しそうに、額の方を見つめる。眼を逸らすことなく、じっと。
恐る恐る自分の頭を撫でてみる。ズキッ、と鋭い痛みが走る。
だが、そんなものは気にならなかった。…もっと重大な事実を突き付けられたからだ。
「…"氷石"が…割れてる…!?」
信じられなかった。何度も確かめた。その度に痛みが走った。
ー何度やっても、深い傷があるのが分かった。同時に、どうしようもない悲しみが込み上げてきた。
「どうして…どうしてッ…!?」
ただ泣くしかなかった。撫でて確かめることも、もうできなくなっていた。
「…レーシャ」
彼は、泣きじゃくる私に話しかける。返事をしようとしても、声にできなかった。
「…"守護者"って、知ってるよな…?」
頷くだけで精一杯だった。もしかしたら、身体が震えるのと混ざって伝わっていなかったのかもしれないが。
「…なろうと思う。守護者に」



「…あの時のあなたの誓い、あの時のあなたの眼、私は一度も忘れたことはない。」
今の彼もあの時の彼も、その眼は、ただ真っ直ぐ私を見つめていた。二つの姿が重なって見えた。



ー俺はこの翼に、あの満月に誓う。



「…これからどうするつもりなの?」
レーシャはこちらを見つめ、問いかける。
「隊までこいつを送る。…それからのことは考えてねえ」
「大丈夫だよ」
ロヴィンが言う。確信をもって、力強く。
「大丈夫、ディフなら」
「私もそう思う。これだけ強い信頼で結ばれているんだから、ね」
ロヴィンの方を見る。彼女も、こちらの笑顔に応え、微笑んだ。
「…安心した。あなたもあの誓い、忘れてないみたいで」



ー俺がどうなろうと、この誓いは護ってみせる。
彼の姿は、満月の下に映えた。それは、何よりも勇ましく、大きく見えた。
ー俺の翼は、誰かを護るためにある。



守護の力 十七、十八話へ。



気になった点などあれば。

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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