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孤独と独占のトキシック

/孤独と独占のトキシック

Writer:赤猫もよよ


 
 「孤独と独占のトキシック」

 三度目に悪夢にうなされ飛び起きた時、寝床の入り口から覗く空は既に白みがかっていた。夢によって生じた苦痛の残滓を残すようにどくどくと早鐘を打ち続ける心臓に強い息苦しさを覚えて、ゲッパクは呻き心臓を抑えた。
 夜中の静寂の中にあっても、耳元にこびり付いた同族の絶望と憤怒、そしていくらかの失望を孕んだ罵声は付きまとい続ける。母の呪詛のような言葉も、父の殺意の籠った視線も、心を許しあえると思っていた同胞たちに向けられた嫌悪の毒牙も、全てが鮮明に思い出された。
 その一字一句、一挙一動をなぞる度に、自身が犯してしまったことの重大さを噛み締めざるを得ない。気高き種族である猫鼬が、あろうことか絶対的な殺意を持って立ち向かう相手である牙蛇の娘と恋に落ち、あろうことか身体を重ねてしまったという事実に。
 悔いている訳ではなかった。自身が何度生まれ変わり、そして何度同じ状況に立たされようとも、必ず自分はこちらの道を選ぶだろうと確信していた。だがそれでも、同族に見放されたことで生じた痛みは、拭い去ることが出来ない。
「眠れないのですか」
 ゲッパクが身体を起こしたことで目が醒めたのだろう、隣でツキシロの鈴を鳴らすような声が耳を撫ぜた。
「やはり何処か、お身体がよろしくないのでは」
 憂い気な口ぶりでこちらを見上げる赤い瞳に、ゲッパクは緩く頭を振った。本当は狂ってしまいそうなほどの痛みを抱えていたが、これからの事で不安を抱いているであろう彼女に、これ以上の無駄な重みを背負わせるわけにはいかなかった。
「僕なら平気だ。明日も早い、もう寝よう」
 思案を振り切るように横になり、再度瞳を強く瞑ったゲッパクの火照った体に、するりと薄ら冷たい何かが巻き付いた。
 幾度となく身体を寄せ合わせた身故に、その感触が何であるかは直ぐに理解した。ゆっくりと瞳を開けると、鎌首をもたげたハブネークの溢れた悲しみに焦点が合う。
「ああ、こんなにも身体が熱いなんて。きっと、また嫌な夢を見ていらしたのね」
 そう言って、ツキシロはゲッパクの汗ばんだ首筋に唇を這わせた。「かわいそうなゲッパク様」
「やめてくれ、汚い」
 頬に伝うひやりとした感覚に顔を顰め、ゲッパクは近づけられていたツキシロの顔をそっと押しのけた。宵闇の黒の中に妖艶に揺らめく琥珀色の玉細工のような彼女の瞳が瞬く度に、弱り切った心の内が見透かされているような心持になってやり辛い。
 ばつが悪そうに顔を背けるゲッパクに、今必要としているのは自分の愛ではなく時間と静寂であることをツキシロは理解した。何を言うでもなく微笑んで、ゆるりとした所作で距離を取り持ち上げていた鎌首を横たえる。
「汚いのは、身体を舐めた私でしょうか。それとも、それも誰かに言われた言葉でしょうか」
 返事はなく、黎明の空は凪いでいた。

 寝床から出ると、よりいっそうの無音がゲッパクの火照った体を包んだ。
 身を挺して護るべき対象である筈の彼女に両の手では掬いきれないほどの気遣いをさせてしまったことへの自己嫌悪と、粘るような嫌な汗が毛皮の深くを這い回る事への極度の不快感が、ゲッパクの足を必然的に冷たい川の方へと向けた。
 銀色の鱗を持つ龍のようにとろとろとうねる川面には、砂塵をまぶしたような星がいくつも浮かんでいた。
 顔を付け、星交じりの清水を貪るようにして喉に流し込む。燃えるような熱を孕む頭が、ほんの少しだけ冷静の方へと傾いた。
 一息ついた後、川辺に腰を下ろし、足先をそっと水に泳がせる。
 崩れた同心円状に広がる白糸が、ゆっくりと身を翻すようにして輝いていた。
 揺れながらも水面に微かに映る自分の顔は、色を失った果実のそれに良く似ていた。
 
 遥かに望む幽谷は霧にけぶり、空は寒気立つ。
 急に冷やされた身体には寒気が走り、それでもなおゲッパクは足先を水に浸したまま佇んでいた。
 
 呆然と視線を傾ける霧の白の中に、咎めるような幾つもの視線が迸る。
 閉じた耳の向こうに、無慈悲に浴びせかけられた残酷な言葉が木霊し続ける。
 もうやめよう、もうやめてくれと嘆願しようと、背中に立つ彼らは剣を刺し続けることを止めはしない。
 犯した罪が許されることはなく、背負った十字架は息絶えるその日まで背負い続けなければならないという事実に、無論立ち向かわなければならないという事は彼女の手を取ったあの日から重々に理解しているつもりだった。その時はそれが可能なことであると感じていたし、確かな確信もあった。
 だが現実はかくも厳しいものなのか。楽観は無残にも踏みにじられ、残ったのは手折られた心とどん詰まりの現状。どこからも行場を無くした、風前のともしびとしての二匹の存在だけが、いまここにある確かなものだった。
 ――いっそのこと、彼女さえいなかったら。
 そう考えかけて、そんなことを考えてしまう自分に腹が立った。彼女を選んだのは自分で、この状況を選んだのも自分だ。彼女に罪を見出すことなど、してはならないというのに。
 またも波打つ心臓を鎮めようと、ゲッパクは自分の身を浅い川面に泳がせた。
 一瞬全身を包む冷感の後、奇妙な虚脱と浮遊がゲッパクの身を支配する。
 流れに揺られ揺蕩う身体は、苦しみの海に一隻取り残された小舟のように影を落とす。
 櫂も掴めず、流れに身を任すことも出来ずもがいていた。
 脳裏にこびり付いた雑念は消えない。毛の深くに刻み込まれた泥のような汚れは、幾ら体を擦ろうとも無駄だった。

「こんなところにいらしたのですね」
 川底に身を沈めたまま暫くが経って、ぼんやりとした眠気が身体に繁殖し始めた頃。霧の向こうから雫を打つような声が聞こえて、ゲッパクは朦朧としていた意識を取り戻した。
「幾ら麗らかな春とはいえ、お風邪を引かれますよ」
 小さく顔を綻ばせ、顔を覗きこむのはツキシロの瞳。「余りにも戻られないので、心配で」
「そんなに長い間、僕はここに居たのか」
 冷え固まった身体をゆっくりと起こし、川から出て毛に付いた飛沫を払う。
「私が眠りに落ち、醒め、それでも貴方は戻られなかったのです」
「心配をかけた。……すまない」
「顔を上げて下さいまし。私は怒ってなどいませんよ」
「違うんだ。僕は、君の事を――」
 それ以上の言葉を出す勇気が無くて、ゲッパクは詰まった喉をひゅうと鳴らした。
「僕は、その」
「私が居なければ良かった――そう思いましたか」
 思わず息を呑んだ。全てを見通すような琥珀色の瞳が、薄ら寒い夜明けの空間でりんりんと輝いていた。
 その中には感情があった。しかし哀しみではなかった。全てを包む海のような、穏やかに満ちた顔をしていた。
「ツキシロ、僕は」
 言いかけた言葉が、ぬるりと巻き付くような抱擁によって遮られる。
「私には何もありません。でも、貴方には沢山のものがありました」
「それらを全て捨て去る事がどんなに苦痛か、私には想像してもしきれません」
「私が居なければ、貴方は今より少し幸せな毎日を送れていたのでしょう。故に、居なくなればいいと思うのも、無理はありません」
 淡々と言葉を述べるツキシロの横顔には、確かな苦みが走っていた。
 彼女を傷付けてしまったという自責の念が、ゲッパクの喉をなおも重くする。
「当然の事なのです。どうか自分を傷付けないで。私は、傷ついてなどいませんから」
 つう、とハブネークの頬を涙が伝う。
「消えろというのであれば消えます。今は、私と居ても辛いだけでしょうから」
 するりと抱擁を解き、踵を返し、朝ぼらけの川霧の向こうへと消えていこうとするツキシロの背を、ゲッパクは魂が抜かれたような面持ちで見ていた。
 何を言えばいいのか、まるで分からない。彼女が述べた言葉は事実だった。
 ツキシロのせいで、というと語弊があるが、彼女が居なければ今の状況が発生していなかったのは本当だ。平凡な雄として、群れの中で平凡な生を享受できたのだろうし、いつかは心惹かれる雌と出会って命を全うしていただろう。
 だが、それでも、彼女を愛したことも嘘ではない。彼女と共に居られて、幸せであるという事は否定できない。彼女と出会い、愛を育んだ僅かな時間は、生まれ過ごした中で何よりも掛け替えのない記憶となっていた。
 それに、だ。今ここで彼女を失えば、自分は何の為に群れから追放されたのか分からなくなる。沢山の温もりを失って、漸く独り占めることのできた彼女を、みすみす失う訳にはいかないのだ。
「行かないでくれ」
 そんな事を考えていると、言葉は自然に吐き出された。
「僕にはもう――君しかいないんだ」
「ゲッパク様」
 それは今言える、精一杯の言葉だった。
「君を失ったら、僕はもう一人ぼっちだ。だからどこにもいかないでくれ。僕を一人にしないでくれ」
「私が居ると、貴方は罪悪感に苦しむことになります」
 地獄の淵に垂らされた蜘蛛の糸を手繰り寄せるように、ゲッパクは霧にかすんでいくツキシロの身体を引き寄せた。
「ならば忘れさせてくれ。君の全てで、僕を満足させてくれ」
 互いの吐息が掛かるほどに肉薄した二匹の視線がゆっくりと重なる。じわりと身体が熱を帯びていく。
「良いのですか、私で」
 ツキシロの大口から差し出された糸のような朱い舌が、猫鼬の首をちろりと舐めまわす。なにか途轍もない衝動に突き動かされるように、二匹の鼓動は次第に早くなる。
「君しかいないと言ったろう」
 ゲッパクの右手が、撫でるようにして牙蛇の頬を這う。
「さあ、僕を満たしてくれ」
 その言葉を切っ掛けに、猫鼬は牙蛇の唇を強引に奪った。互いの境界線が分からなくなるぐらいに密接した獣達。ゲッパクのざらついた舌が強引にツキシロの唇をこじ開け、無防備に晒された彼女の舌に舌を絡める。肉を動かし、互いの温度が触れ合うたびに、悶えるような悦楽の波が全身を駆け巡った。
 ツキシロの口腔を穿り回し、舌を撫ぜ、くちゅくちゅと淫らな水音を鳴らしながら粘り気のある唾を絡ませ合うゲッパクの舌。無抵抗なツキシロを得意げになって攻めまわす肉の刃に、突如刺すような痺れの味が広がった。その刹那、敏感であった筈の舌の感覚が遠いもののように薄れ、覚醒していた意識がほんのりとした暗みに包まれる。
 何時の間にかツキシロの舌がゲッパクの口腔内に忍び込み、それと同時に麻の葉を噛んだような、或いは毒茸を食んだような陶酔感が一杯に広がった。それがツキシロの毒腺から分泌された猛毒であることは言うまでもない。しかしそんなことはどうでも良かった。口一杯に膨らんだ宝石のような毒蜜を喉に流し、麻痺した全身はかえってツキシロの舌が孕む熱を鋭敏に感じさせる。長い口づけの息苦しさも相まって、ゲッパクの理性は限界を迎えつつあった。
 胴に触れる熱い肉の塊の存在を理解して、ツキシロは一度口を離した。粘り気のある白糸を引く互いの唇に、頬を伝う毒と唾液の一滴。足取りをふらつかせながらも、名残惜しそうに潤んだ眼で自身を見上げるゲッパクに強い支配欲を覚えながらも、彼女は飽くまで襲われる白百合であることを辞めない。
 視線を落とす。荒々しく息を吐くゲッパクの股間には、汗でべたついた雪のような白毛を掻き分けて赤い肉の槍がいきり勃っていた。びくびくと相手を求めてうごめく熱い槍はどこか可愛らしさを覚える大きさでありながらも、強い雄の匂いにツキシロの下腹部は甘い熱と湿り気を覚えていた。
「ツキシロ……」
 切なげに喉を鳴らす猫鼬に、ツキシロの女性は強い感情を訴える。
 胴を巻きつけゲッパクの身体を固定した後、手慣れた仕草で肉棒を口に含み、木の実を食むが如く激しい雄の味がする熱い棒を優しく舌で転がした。初めは荒波のように襲いくる強烈な吐精感に耐えていたゲッパクも、何処で覚えたのか分からない巧みな舌遣いに、とろとろとした先走りを鈴口から流し始める。
「ひ、ああっ……くあっ……」
 呼吸が覚束なくなるほどの強烈な刺激に、ゲッパクは身体を小刻みに痙攣させ始めた。覚悟を決めたのか、力なく垂れた身体がツキシロの胴体にぐったりともたれ掛かる。傍から見れば、戦いに負けた猫鼬を甚振る牙蛇のようであった。
 肉棒を啜る粘っこい水音が早朝の川辺に響く。荒ぶる吐息の音以外に何もなく、世界には二匹しかいなかった。舌を滑らせる度に乙女のような嗚咽を漏らしながら、しかしなおも吐精に耐えようと歯を食いしばり小刻みに震えるゲッパクの姿が、この世全ての何よりも愛おしくてたまらなかった。心の奥に仕舞われていた筈の加虐心に火が付き、突如緩やかな動作で舐めていた筈の舌を暴れさせる。仕置きの鞭のように舌を肉棒に振るい、逃げ場を無くして躍動する肉棒を柔らかく吸いつけた。苦いような痺れるような先走りを飲み干し、それでもなお、母の乳房に吸い付く幼子のように鈴口を舐りまわす。
「ま、まて……これ以上は……あっ」
 容赦のない猛攻にびくん、と一際大きくゲッパクの身体が跳ねて、限界に達した肉棒がびゅるびゅると欲望の種を吐き出した。限界まで溜めた後の放尿のような快感と開放感、全てをさらけ出してしまったという恥ずかしさが襲い、ゲッパクの頬が煌々と照っていく。
 想像していたよりずっと多くの精が口の中に飛び込み、全てを飲み干すことは出来ずツキシロは息継ぎの為に口を離した。頬に零れ落ちた精液を割れた舌先で舐め取り、うっとりとした面持ちで琥珀の瞳を瞬かせた。荒い息を吐く口とまだまだ活力を見せる肉棒との間に引いた白糸は、さっきのものよりずっと妖艶な輝きを放っている。
 再度肉棒を舐めまわしたい欲求もあったが、むせ返る雄の匂いに当てられてツキシロの女性自身が疼いていた。あれほどの責めを受けてもなお性欲を貪りたそうにしているゲッパクの様子を見て、心の内で猛毒のようにあでやかな笑みを浮かべる。
 ゲッパクに巻き付いている胴を動かし、とろとろと透明を垂らす蜜壺を彼の目の前にちらつかせた。
「ゲッパク様ばかり気持ち良くなるなんて狡いわ。私にも……くださいな」
 それはまるで魔法の言葉のように、肉欲に揺れるゲッパクの脳を揺さぶった。呼吸は荒くなり、瞳孔は血走る。理性などとうに捨てていた。
 傷つけないよう、そっと両手の爪でゆっくりとスリットを開くと、ぬちゃりと淫らな水音が響いた。外気に晒されひくひくと喘ぐ膣は酷く魅力的で、半ば無意識の内に指を突っ込んでいた。
 外壁からじわじわと沁み出してくる愛液は融けた水晶のようにてらてらと光り、ゲッパクの指を搾り取ろうと肉は締まっていた。水辺で遊ぶ子供のように愛液交じりの指を中で掻き回すと、上気したツキシロの口から嬌声が漏れる。
 と、その時であった。精を吐き出したことで僅かに落ち着きを取り戻していた筈の心臓が締め付けられるように痛み、身体に火が灯されるようにかっと熱くなるのをゲッパクは感じた。またたびの酔いに似た症状のそれがなんなのか、ゲッパクは本能的に理解する。
「ゲッパク様?」
「うう、ううう……ぐぐ」
 心臓を抑えたかと思えば荒く息を吐き、ぎらぎらと殺意にも似た眼光を揺らめかせるゲッパクに、ツキシロは本能的な恐怖を覚えて息を呑んだ。股間から伸びる膨張した赤黒い肉は火山の溶岩を思わせ、天を穿つかのように反り立っていた。あんなものを突き立てられたならば――と想像して、ツキシロはますます股を濡らす。
 視線の揺らぐゲッパクの、普通ではありえないほどの力に組み敷かれて、ツキシロの思惑は確信に変わった。
 元来毒を物ともしない猫鼬という種族だが、極稀に毒を通してしまう個体が存在することがある。ただ通すだけならばいいが、その毒をどういう訳か力に変えてしまうのだから恐ろしい。およそ理性と呼べるものを失う代わりに、強靭な力を得る特性――毒暴走。彼がそういう特性であることは、初耳だった。
「ゲッパク様、素敵。……さあ、くださいな」
 餌を欲しがる雛鳥のように下の口をひくつかせると、思惑通りゲッパクの視線はそこに止まった。骨が砕けてしまうのではないかという力でツキシロの身体を引き寄せると、獲物を誘うように口を開く花の園に、自身の雄をねじり込む。愛液に浸されている為に痛みはないが、ぎゅうぎゅうと雄を締め付ける膣圧にゲッパクは僅か顔を顰める。しかし肉棒を包み込む痺れるような悦楽と甘い暖かさに籠絡され、次第に気にならなくなったようで、ゆっくりと腰を動かしながら膣を掘り進めていく。
 初めて味わうだろう強烈な性的快楽に、ツキシロの理性も崩壊寸前だった。ゲッパクが荒っぽい腰つきで逸物を動かす度に、膣が擦れ麻薬じみた快楽が脳を真っ白に染めていく。
「あはぁッ! もっと! もっとぉ!!」
 普段の静かな様子からは想像できないほどの淫らな喘ぎを上げ、ツキシロはゲッパクの闘争本能を促した。蜜壺をぐちゃぐちゃに掻き回される度に、獣と化していく自分を自覚しながらも止めることが出来ない。そこには喜びがあり、悦楽があり、愛があった。
 次第にストロークが大きくなるにつれて、潤滑油が擦れる淫らな音以外に何も聞こえなくなってきた。身体が触れ合い、汗が混じり、汁が混じり、最早二匹を隔てるものはどこにも存在しなくなっている。
「ああっ! ゲッパク様ぁ! ゲッパク様ぁっ!!」
 何度となく膣の中に精液を流し込もうとも、ゲッパクは腰を振る手を止めない。萎えることを知らない逸物が幾度となく子宮を掻き回し、限度を超えて荒々しくなった性交は二匹を絶頂へと運んでいく。
 心臓の鼓動が痛みを感じる程強くなり、意識は段々と白濁していく。
 互いの口からは涎が零れ、喉の奥からは山をもつんざく様な嬌声が飛び出す。
 身体中の熱が結合部分に集まり、ぬぷぬぷと粘り気のある水音が揺れる。
「や、やあっ! ああぁあああああっ!!!!」
「があああああああああああああああっ!!!!!!」
 ゲッパクの獣の咆哮と、ツキシロの強烈な嬌声。膨らみ、爆ぜたのは一瞬だった。


 白く燻った空はなおも続きながらも、世界は朝を迎えた。
 毒によって削られた体力がついに底をついたのか、ゲッパクは息も絶え絶えに力無く大地に横たわる。もはや動けるだけの体力も気力もないのか、虚ろに投げ出された視線は、白霞に濁った空の向こう側を無感情な様相で見つめていた。
「……ツキシロ。ツキシロはいるか」
「ここにおりますよ、ゲッパク様」
 だらりと身体を投げ出したゲッパクとは対照的に、ツキシロは琥珀色の瞳を爛々と輝かせながら鎌首をもたげた。
「ツキシロ。矢張り僕は、最低な奴なのかもしれない」
 ゲッパクは腕で両目を覆った。重い沈黙の中に、時折嗚咽が混じる。
「こんなにも君に愛されているのに、それでも寂しいんだ」
「……貴方はお疲れなのでしょう。疲れている時は、心も弱ってしまうものです。今は何も考えないでください」
「許してくれ、ツキシロ。僕は君を愛している。それでも、みんなのことを考えてしまうんだ」
「私は、貴方のお傍に居られれば十分なのです。貴方さえいれば、他には何もいらないのです」
「すまない……すまない……」
 うわ言のように謝罪を繰り返すゲッパクは、暫くの内にすっと穴に落ちたように眠りに落ちた。すうすうと無垢な赤子のように寝息を立てる姿からは、消せない雑念と痛みにもがく様子は感じ取ることが出来ない。
 ツキシロはそれを、何か強い感情を浮かべた面持ちで見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。謡うような声だった。
「この身を捧げ続けましょう。いつか貴方が、雑念を拭い去ることが出来るまで。過去の思い出を、全て忘れるその日まで」
 まるで水が流れるように、ツキシロは音も無くゲッパクの首筋に口づけをした。
 
「貴方が、私以外要らないと想うようになるまで」
 呟くように言って、ツキシロは毒のような微笑みを浮かべた。


■あとがき
一年ぶりです。お久しぶりです。もよよです。
ザンハブって割とポピュラーな組み合わせだと思うんですけど、いざくんずほぐれつさせるとなると意外に難しかったです。物理的に。ザングースの方は二足だからまあいいとして、蛇の特徴的な体型は描写も動かすのも大変。まだまだ修行が足りないなあと感じさせられた所存です。
すけべな小説を書くのは初めてでした。まだまだ拙い表現力ですが、少しでも楽しんでくれたならば幸いです。
あとザングースの日おめでとう。本来ならエロは駄目なんですけど、そこはまあ、ほら、ね!(書き終えてから気が付いた)


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • ザングースの日に相応しい(あるいは相応しくない?)濃厚な内容でした。
    仲間への未練を捨てきれないゲッパクと、そんな彼の気持ち全てを優しく包み込むツキシロの包容力が印象に残りました。
    官能シーンもどこか幻想的で俗世を感じさせないような不思議な感じで読み勧められました。
    初官能とは思えないほどしっかりとした描写でこれからのムフフな小説も期待させていただきますね( -- カゲフミ
  • >カゲフミ様
    感想ありがとうございます。励みになります。
    群れを追われた天敵同士のまぐわいという事で、孤独で二匹しかいない世界を表現しようと躍起になった結果なーんかやったらふわふわとした交尾になっちゃいましたね。
    今回官能を書くにあたって、カゲフミさん含め様々な方の官能シーンを参考にさせて頂きました。とりあえず何やってるかは伝わったようでホッとしてます( -- 赤猫もよよ
  •  私も以前ザングースとハブネークで1作品描きましたが、そこでモヤモヤと不完全燃焼だった部分を綺麗にまとめられてしまった気がしますね。宿命にあらがう恋はなぜこうもドキドキさせてくれるのでしょうか。
     ザンハブという先の見えるガイドラインがあり、読者が展開を予想できるからこそ、筆者様の固い文体や婉曲的比喩が生きてくるのだと思います。ところどころに散りばめられた風景描写や比喩には息をのむほど美しいものがあり、そういったところで夜の静けさや月白の抱える不安を浮き彫りにしてくれる丁寧さが素敵です。
     あとエロい。官能作品をエロさで勝負していくスタイルは好きです。ここにはあまりそういう書き方をする方がいらっしゃらない(と勝手に考えている)ので、自分の作品に通じるものがあるなぁ、なんて思いながら読んでいました。それでもなお雰囲気を崩し過ぎない言葉を選りすぐっているところが圧巻です。 -- 水のミドリ
  • う、うわー!返信遅くなってごめんなさい!全く気が付きませんでした。
    僕自身ザンハブを書くのは初めてなんですけど、この二匹の恋愛ものはシンプルながらも奥が深いというか、タマゴグループ含め色々と妄想のしがいがありますよね。
    エロは初めてだったので、意図せずしてガッチガチの文体になっちゃいましたが、かえってそれが功を奏した?のでしょうかね。ともかく、エロいと思っていただけて嬉しいです! -- 赤猫もよよ
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Last-modified: 2016-03-09 (水) 23:50:10
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