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奪還

/奪還

writer:ちょこ

君には理解できないよ。理解する必要がない。理解しようとしないで――。
これでいいんだよ。……そう、これでいいんだ。
いいかい、誰にも言わないようにね。僕達だけの秘密だよ?

◆壱

道なき道を歩いて行くと見えてくる、とてつもなく大きな森。昔から何度も通っていて、様々な思い出がある場所だ。
「あったあった」
そこへ入る前に、目印にしている古びた看板を見つけた。
『入るべからず』と書いてあるらしく、今から会いに行く友達に教えてもらった。
「また来ちゃった……」
そこから森に入ってしばらく歩くと、手作り感満載の、木で作られた家が目に入ってきた。
とても大きいけれど、意外と見つからないらしい。彼はここを、私以外の誰にも教えたことがないと言っていた。
とりあえず玄関先まで行くと、扉の傍に備え付けられている紐付きの呼び鈴を鳴らした。カランカラン、という何とも美しい音色が響く。
「何だ、また君か」
それからしばらくして、中から現れたのは一匹のミュウだった。とても面倒臭そうな素振りをしている。
「うん、また私だよ。……っていうか、ここは私しか知らないんでしょ? 残念だけど私しか来ないよ」
しかし、それはいつものことで特に気にすることはなかった。むしろ、皮肉っぽくそう言い返してやった。
「……僕は今忙しいんだ。ずっと考え事をしててね。――まあいいや、入って」
「やったぁ、ありがとう」
なんだかんだと言って、最終的には私のお願いを聞いてくれるのが彼なのだ。
「お邪魔しまーっす」
私はそれをいいことに、飛び込むように彼の家へ入った。そこには、いつもの光景が広がっていた。
窓からの淡い日差しに照らされた屋内は、心の安らぐ木の香りが充満している。
書棚がたくさん並んでおり、そこにはわけのわからない本がびっしりと詰っていて、幾度となく私には一生縁がないんだろうなと思わされる。
奥には、わらが敷きつめられている場所があって、彼はそこで寝ているらしい。
それら以外には木製の小さなテーブルと椅子があるだけで、質素だけれどとても落ち着くから、かなり気に入っている。
「ソファーはまだぁ? これだとすぐお尻が痛くなっちゃうから、早く拾ってきてよ」
「はいはい、また今度ね」
椅子に文句をつける私に呆れた様子の彼だったけれど、熟練されたサイコキネシスを巧みに使って奥の書棚にあった一冊の分厚い本を引き寄せてくると、目の前にどかりと置いた。
そして、それまでふわふわと飛び回っていた彼が、ちょうど私と向かい合わせになる形でテーブルの上に座った。
「…………」
何やら考え事をしながら、自らの手でゆっくりページをめくり始める彼。私はそれをぼうっと眺めていた。
「この前は、トランセルの陰謀の話をしたよね」
「うんうん。……洗脳されたトランセルが『いとをはく』で世界征服を企む、すっごい馬鹿げた話。うふふ……」
まるで独り言を言うかのように私に話しかけてくる彼に、思い出し笑いをしながら返答した。
「トーシュ」
「何?」
「……ううん、やっぱりいいよ。何でもない」
呼んでみたかっただけというのも何だか恥ずかしいし、今日はどんな話をしてくれるの、と
催促するわけにもいかないと思ったから、適当にごまかした。
私は、彼がしてくれる歴史に隠された様々な裏話を聞くのが、楽しみで楽しみで仕方ないのだ。
「何なのさ……」
そう言ってかなり不服な様子の彼だったけれど、何事もなかったかのように再びページをめくり始めた。
「……そういえばさ」
「ん?」
彼と目が合った。
どうやらそうなることは全く予想していなかったようで、あっという間に彼のほうから恥ずかしそうに視線をそらせてしまった。
「君って、何て名前だったっけ?」
「ええ?! ひっどーい!」
冗談だとわかっていたけれど、それでも少し悲しい気持ちになった。彼が私の名前を忘れるはずがない。
「オオタチ?」
「違う。いや、合ってるけど……リールだよ」
確かに私はオオタチと呼ばれている種族だけれど、ちゃんと名前があるのだ。
「はいはい」
「…………」
してやられてしまったような気がしたけれど、お互い様だと思えた。
「今日はどうしようね」
「何が?」
「……わかってるくせに」
彼が少しにやけた顔をしながら言う。その通りだった。
「とっておきのはないの?」
私は観念して素直になった。もう遠慮することはないと思って聞いてみる。
「そうだねえ……」
すると彼は、悩むような素振りを見せながらいくつかページをめくった後、何故かぱたりと本を閉じてしまった。
「何もしないなんて言ってないじゃないか。心配しないで」
そんな彼の言葉に、心の内を見透かされたような気分になった。
「どうしようかなあ……実は、かなり前から話そう話そうと思ってたことなんだけどさ。いろいろ理由があってね」
「……何?」
率直に、そのいろいろな理由がいったい何なのか知りたかった。
「今までの話と違って全然笑えないし、それに……」
「それに……?」
その先を急かすように、彼の言葉の一部を繰り返す。
「…………」
「……どうしたの?」
彼が暗い表情で黙り込んでしまった。いつもとは違う雰囲気に、胸騒ぎがした。
「とりあえず、聞くか聞かないか……それだけ決めて」
「…………」
今度は私が黙り込む番だった。
これからいったいどんな話をしてくれるのか全くわからなかった。だからものすごく不安だった。
しかし、興味があることに変わりはない。聞きたいのはやまやまだけれど……。
「聞く。……聞くよ、トーシュ」
しばらくの間色々な考えを頭の中でめぐらせた後、そう決意した。いつもと違って、軽々しい気持ちで決めたわけではなかった。
間もなく、何とも言えない緊張感に襲われ始めた。口の中もからからに乾いて、何だか大変な状態だ。
「わかった。……やっぱり君は――」
「え……?」
「何でもないよ。嘘はつかないから……それだけは信じてね」
「……わかった」
何かぼそりと言った彼の言葉が無性に気になったけれど、まだ心の準備を完全に済ませていなかったから、それどころではなかった。
ふう、と軽く深呼吸すると、重力を無視して軽やかに浮遊し始めた彼に視線を向けた。
座っていたほうが楽なんじゃないかと度々思うが、それを指摘したことは一度もない。
見ていると楽しいときもあれば、癒されるときもある。今はぼうっと眺めているだけで、特別な感情は抱いていなかった。
「ここの近くに、一際古い大木があるよね。……その根元にある、花束のことは知ってる?」
「うん。誰が置いてるのかなぁって、ずっと気になってたんだけど……」
この家を出てすぐ、と言っていい場所に、本当に古い――大昔からあるんだろうと想像できる大木がある。
森も、その木も……人間に侵されることなく今まで生き続けて来たことは、もしかしたら奇跡といえるかもしれない。
「……実は僕なんだよ。何でいつまでたっても枯れないのかな、って不思議に思ったことない?」
「言われてみれば……でも、何でそんなこと……」
ふわふわ飛びながらも一向にこちらを向こうとしない彼だったけれど、声の調子で暗い表情をしているんだろうなと想像ができた。
いったい、何があったと言うのだろうか。
「それが今日の話。……始めようか」
彼は私の目の前にある本を、出してきた場所にサイコキネシスで戻した後、再び机の上に――私の前に座った。
今日もまた――否、今日は一味違ったものだけれど――語られることがなかった、ごく一部しか知りえない歴史に隠された秘密が一つ、露になり始めた。

◆弐

ポケモンの気配だった。誰かが森に足を踏み入れ、こちらにやってくる。ゆっくり、ゆっくりと――。
僕は仕方なく、その正体を調べに行ったんだ。……ヒトカゲだった。
ぼろぼろの体を引きずりながら、精一杯歩いていた。泥だらけで、見ていて胸が締め付けられるような思いをしたよ。
可哀相だった。助けてあげたいと思った。でも、自分の中で何故か、そうしちゃ駄目だって思いが込み上げてきてね。

「――だから、気付かれないようにそっと見守ってた。……血の匂いが漂ってきてやっと、深い傷を負ってるんだって確信ができたんだ」
「…………」
想像してみれば、とても痛ましい光景だなと思った。
私は思わず歯を食いしばりながらその話を聞いていた。

力を振り絞ってたどり着いたのが、あの――僕が今でも慈悲の念を込めて花束を手向けてる大木だよ。
導かれたのか、それとも偶然なのか……長く生き続けてる分、あの木にもたくさんの逸話があるからね。
僕は偶然だとは思わなかった。そのこともまた話してあげるよ。今はその時じゃないから、後でね。
――森の神様、こんなに穢れた僕だけど、どうか土に還らせて下さい。
明らかに衰弱してたから、きっと何もしなくても死ねたのに、彼は違う道を選んだんだ。
うずくまってたんだけれど、自分の尻尾を咥えてね。熱くて苦しいはずなのに……。
もう覚悟を決めてたんだろうね。何度か震えた後、動かなくなって死んじゃったよ。
普通なら嫌悪感を抱くけど、彼はとても健気だったから……僕はむしろ感銘を受けたんだ。
それで埋めてあげようと思って近づこうとしたんだけれど、どこからか一匹のアブソルが現れてね。
危うく見つかるところだったよ。只者じゃない特別な気配が突然、一気に押し寄せてきたんだ。
――待ってろよ。絶対叶えてやるからな、お前の願い。
恐ろしく殺気立ったそいつは、そうとだけ言い残して去って行った。僕はその後しばらくの間ヒトカゲに近づけなかったよ。
認めたくなかったけど、怖かったんだ。アブソルが戻ってきたらどうしよう、ってね。
でも彼を何とかしてあげないと気が済まなかったから……近くで見ると余計に痛ましかった。
口から尻尾を抜いたら中はただれているし、本体には歯形が残っていたんだけど、それもかなり奥まで食い込んでいたからね……。
何故彼はここまで追い込まれたのか――僕は妙な胸騒ぎを覚えながら、その真相を必ず突き止めてやろうと思ったんだ。

「――君は典型的な人間派だったよね。……最近は滅多に見なくなったけど、僕は抵抗派だから」
「……いきなりどうしたの?」
急に話の内容が変わったから驚いた。
――遠い昔から、世界は人間派と抵抗派に分かれていた。
人間派は、人間至上主義――あくまでこの世界の頂点にいるのは自分達であって、ポケモンは下等な生物だとみなし、同類にされたくはないと主張し続け、ずっとポケモンを支配、差別してきた。
対して抵抗派はというと、ポケモンと人間の融和をお互いに主張しあってきた。
人間との共存を望み、いつの時代も自然の中で生きてきたポケモンは、気の遠くなるような年月を経て築き上げられてきた様々なものを、人間に支配されるのが許せなかったのだ。
人間対ポケモンの、互いに一歩も譲ることのない土地や食料などをめぐる争いが常日頃に起きていた。
――そうして何世紀もの間対立していたけれど、数百年前にその二つの勢力の和平が人間のおかげで実現した。
だから現在は人間派がほとんどで、抵抗派は忘れ去られそうになるほど少なくなってしまった。また、それにはもう一つ大きな理由があって――
「人間の真の姿を知らないからね、君は。ずっと奴らの良い部分だけを教えられてさ……洗脳されたんだよ」
「違う、そんなはずない。……そんなことされてないよ!」
今を生きる多くのポケモンが、人間から教育を受けている。実際、トーシュに教わったことで知らなかった彼らの悪い部分もたくさんあった。
しかし、私は人間を信じている。その思いだけは誰にも曲げられない自信があった。だから、トーシュにもその点だけはしっかり反論するようにしていた。
「まあ、敢えて今まで奴らの歴史をあまり掘り下げることはなかったけど……今日は違うよ」
「……トーシュが言う、人間の真の姿を見せてくれるってこと? それともまた別の話……?」
「どっちも、かな。……そろそろアイツが来る頃だろうからね」
そういって彼は窓の外を見た。外はいつの間にか夜になっていた。
夜になってまでここにいたのは初めてだった。いつもは、ただでさえ暗い森なので夕方になると大人しく帰っていた。
「ねえ……何だか苦しくない?」
徐々にではあるけれど、酸素が薄くなってきているような――しっかり息ができなくなるのを感じていた。
何だか気分も悪くなってきたような気がするし、背筋に何度も悪寒が走った。
「僕は大丈夫だよ。最初はみんな、そうなるみたいなんだけど……」
彼は何を言っているんだろうか。私はあっという間に、肩で息をするようになった。
――カランカラン、カランカラン……。
聞き慣れた、玄関の鐘の音がした。どうして、誰が――そうして考える暇もなく、次第に自らのぜえぜえと呼吸をする音でさえ聞こえなくなり、視界がぼやけてきた。
思わずその場に倒れてしまいそうになった時、玄関扉が開き、外から何かが中に入ってくるのを確認した。
私より一回り大きくて、白い……次の瞬間、目の前が真っ暗になり、ほぼ同時に思考回路が停止した。その後、倒れたかどうか定かではないが、気を失ってしまったのは確かだった。
――どれくらいの時間が流れたのだろうか。トーシュと誰かとの会話の途中、私はぼんやりと意識を取り戻した。

◆参

「……ね。だから、慎重に頼むよ。苦労したんだから」
――ああ。だが、今までと同じだったらどうするつもりなんだ?
「そんなはずない。特別なんだ。……僕が貰っていいの?」
――駄目だ。いや、どちらにしても、判断するのはそいつだからな。
「そうだね。僕らにそれを決める資格はない」

何と表現すればいいんだろう。
トーシュと話す何者かの声は、どこか暗みを帯びていて、とても低かった。
しかし同時に、それは透き通るような美しさも備えており、空間だけでなく心の中にまで響いてくるようだった。

――お目覚めのようだな。どこから聞かれていたと思う?
「さあね。……とりあえず、今の状況を説明してあげないと」
――そうだな。いい結果になってくれるといいんだが……。

「……っ……んん……」
徐々に意識がしっかりしてきたけれど、ずきんずきんと頭に痛みが走ってとても辛かった。
私が目覚めた直後に会話が途絶えてしまって、何だか切ない気持ちになった。しかし、それも一瞬で消えてしまうような出来事が起こった。
「わ、な、何で私……!?」
上下左右、うろたえながら、ひとしきり辺りを見渡した。
気がつけば、立つのもやっとな大きさの頑丈な檻の中に閉じ込められていたのだ。
「こんばんは、リール」
「わあああっ!!」
突然、ぼんやりとした意識の中で聞いていた“トーシュではない誰か”に、後ろから話しかけられた。
私は思わず飛び上がってしまい、天井で強く頭を打って再び意識を失いそうになった。
「……大丈夫か?」
抑揚のない声色で聞かれた。しばらくの間震えながら頭を抱えてうずくまっていた私は、痛みが薄れたところでようやく顔を上げることができた。
「大丈夫なわけ……ない……」
文句を言ってやろうと意気込んでいた私だっだけれど、目の前にいたポケモンの姿に思わず言葉を失った。
――何て綺麗なんだろう。
いくら手入れし続けてもこんなに美しくはならないだろうと思える、神々しいまでにつややかな体毛。
それとは対称的に、頭に備わっている大きな鎌は傷だらけで、いくつもの戦いを乗り越えてきた証のように見えた。
そこには、筆舌に尽くしがたいほど容姿の整ったアブソルが立っていた。
「僕には君の魅力が全く理解できないんだけどねえ」
しばらくの間言葉を失ってしまい、呆然としていた私だけれど、そんなトーシュの言葉にはっと我に返った。
「わ、わわっ、ご、ごめんなさい……」
何だか急に恥ずかしくなってきて、湯気が出ているんじゃないかと思えるほど顔が熱くなった。
自分が大変な状況にいるのも忘れて、まともにアブソルを見ることができなくなり、うつむいてもじもじしていた。
「そんな固くなるな。ごめんなさいは俺たちの台詞さ」
「そ、そうだ、何でこんなことするの?! 何にも悪いことしてないのに!!」
檻にしがみつきながら口調を荒げて言った。急に怒りも込み上げてきたような気もする。
やっと本題に入った、と思った。しかし、その勢いもあっという間に砕けることとなってしまう。
「んあぁ……力入んない……」
意思とは裏腹に、私はへなへなとうつぶせになってしまった。
当然視線も下がって、どこよりもふさふさしている胸元の毛やお腹を見ることになった。
人間の言い方だけど、アブソルは“お座り”をしているわけではなかったので、はっきり確認できたのは上半身だけだった。
目を凝らしてみても、毛に隠れていることもあって雄か雌か判断できなかった。念のために確認したかったんだけれど――。
「や、わ、私ったら何考えて――痛あっっ!!」
再びはっと我に帰って飛び上がってしまったときには、すでに遅かった。天井に頭をぶつけてしまい、また恥をかくことになってしまった。
『……?』
そして、辛うじて、アブソルとその近くを漂っていたトーシュが不思議そうに私を見ているのがうかがえた。
一回目より大分早く痛みが引いたのはよかった。しかし、面目なくて、なかなか顔を上げることができなかった。
――匂いの所為だ。
アブソルにさらに近づいたことで、甘く艶かしい香りが漂ってきたのだ。体験したことはないけれど、まるで魂を吸い取られるようだった。
しかし、恐ろしいことに、悪い気はしなかった。
「……落ち着けないのは仕方ないと――」
しばらく気まずい雰囲気が流れた後、沈黙を破ったのはアブソルだった。しかし、大きく扉を叩く音が響いて、あっという間にその言葉が遮られてしまった。
私は、またまた頭をぶつけるほどではなかったけれど、それにとても驚かされた。
「畜生……すまんな、何度も驚かせて」
しかし、アブソルはそれを予期していたように全く動じなかった。私は何より、心配してもらえたことが妙に嬉しかった。
――扉が開いた。
冷たい風が一気に屋内に押し寄せてきて、それに私は身震いしながら、アブソルを視線から離してそこから入ってきたポケモンを見た。
「ああ、ルイン様……再びお会いできて光栄です」
ゆっくり扉を閉めた後急いでひざをつき、恐れ多そうにそう言ったのは、見た目が厳ついラグラージだった。
このアブソルは本当にいったい何者なんだと思うと同時に、初めて名前を知った。
――私が引っかかったのは、それだけでなかった。
「ああ、トーシュ様、何と神々しいことか……感無量の一言に尽きます」
ラグラージは、ルインの傍にいたトーシュにまでそんな言葉を捧げたのだ。
「……俺に何度も同じことを言わせるな。貴様にはいつも、必ず一つ抜け目があると言っていたはずだ」
それからほとんど間を置かずに、ちっとも声色を変えないで――それでもすごい迫力があった――じりじりとラグラージに近づきながら、ルインが言った。
「静かに入って来いと言ったはずであろう」
「お、あ……ああ……申し訳ありません……申し訳ありませんです……」
何か言おうとしたラグラージだったけれど、まるで世にも恐ろしいものを見てしまったかのように縮こまってしまい、震えながら許しを請うた。
「もういいでしょ。リールがすごい顔してるよ」
「ああ。……シャルク、少しの間リールを頼む。こいつと外に出てくる」
「は、はい! お任せ下さい」
ラグラージは低姿勢のまま、おどおどしながらも再び扉をゆっくり開いた。その時入ってきた外からの空気は、さらに冷たさを増していた。
「ごゆっくりどうぞ」
行こうか、というルインの言葉に意外にもトーシュは無言で小さく頷きながら、彼の後について外に出てしまった。
――ちょ、ちょっと待って、冷静に考えてみれば……。
「格好の悪いとこ見せちまいましたね。雌っ子とこういう状況になったのは久しぶりだってのに……ははは」
とりあえず、向こうから話しかけてきてくれて、私は胸をなでおろした。
さっき会ったばっかりでこれからどうしろと言うんだ、と真剣に悩んでいたのだ。
「私、どうにかなっちゃいそう……最初から何もかも説明してよぉ」
「ああぁ、そ、そんな、泣いちゃ駄目です、俺までどうにかなっちゃいますよ」
シャルクは慌てて私の傍に寄ってきて、必死になだめようとしてくれた。その姿が何だかおかしくて――。
「ふ……ふふふ……ご、ごめんなさい。ふふふふ……」
私は涙をぬぐって、何とか泣きたくなる気持ちを抑えることができた。
シャルクはというと、何が何だかさっぱりわからないようだったけれど、それを阻止できたことに安心したのか、微笑しながら私を見ていた。
「不安なのはわかります。俺だってこっちに来たときは不安だらけでしたから」
私は檻の中に閉じ込められているだけで――それこそかなり重大なことなんだけれど――どこか別の場所に移動したわけではないのに、シャルクはそんな言い方をした。
「こっち……?」
――私が“どこか別の場所”に来ていて、彼も、いつどこでかは知らないけれど、“ここ”に来たんだ、と。
いったいどういうことなんだろう。私の頭の中でその謎は深まるばかりだった。
「ええ。あなたはルイン様じきじきに、こちらの世界の説明を受けることになるとお聞きしましたが……」
「……そうだ、ルインにもだけど、何でトーシュをあそこまで敬わなくちゃいけないの? 普通にしてりゃいいのに」
「はははっ、そりゃあ、あの方々が――」
その後、私は驚くべき言葉を彼の口から聞くことになるのだった。


to be continued...


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  • てすと
    ――ちょこ ? 2009-11-23 (月) 01:44:02
  • すごい気になるところで終わっちゃいましたね…
    リールはいわゆる一目惚れしたわけですが、とても可愛いですね。
    どなたか知りませんが進んで応援させて頂きます!
    これからも頑張って下さい
    ―― 2009-11-23 (月) 02:49:43
  • 特におもしろいとは思わなかったので続かなくて結構です。
    ――某読者 ? 2009-11-25 (水) 02:23:21
  • 感性は人それぞれですからね。難しいものです。
    私はリールの置かれた状況など、続きが気になります。
    応援しています。頑張ってくださーい!
    ――双牙連刃 2009-11-25 (水) 03:15:57
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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