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太陽村の人々は……

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 太陽村の人々はエーフィを神格化していた。
 太陽村の人々は10歳になると村の長からイーブイをもらう。
 太陽村の人々はもらったイーブイをエーフィに進化させなければいけない。
 太陽村の人々はもらったイーブイをブラッキーに進化させた場合、その悪魔の使いであるブラッキーを殺さなければいけない。
 太陽村の人々は――。

 太陽村にこの日で10歳となる少年がいた。太陽村は山奥にある小さな村で人口も少ない。彼も村長からイーブイを受け取ることになる。
そして、彼はそのイーブイをエーフィに進化させなければいけない。それは村人の誰もが知っている大人になるための村の掟だった。
 少年が10歳になった日、彼は珍しく村一番の早起きをし、村長の家に向かっていった。
彼は好奇心に充ち溢れた目で太陽を見上げ、「僕もイーブイをもらうんだ」と心が弾ませ、歩く速度を上げる。
彼はもう一度「イーブイをもらうことができるんだ」といううれしさで溢れた目を太陽に向けた。
村の人々はそんな少年を見て自分にもああいう頃があったのだなあと懐かしむのであった。
 村長の家に着いた少年は早速もらえるイーブイはどこかと尋ねた。
「村長。イーブイはどこですか?」
「まあまあ、そう慌てるでない」
 村長はゆっくり動き部屋の奥から1匹のイーブイを連れてきた。イーブイは一直線に少年の腕に飛び込んだ。
 少年は驚いたが、ゆっくりとイーブイの頭を撫でた。
「よろしく。イーブイ」

 村中の人から「がんばれ」などの激励を受け取りながら少年は家へと帰ってきた。
「母さん。イーブイをもらってきたよ」
 少年はうれしそうに母親に報告した。
「がんばって、エーフィに育ててね」
 母からも声援を受け取るとよりいっそう「エーフィに進化させよう」と思うのだった。
家に帰った少年はイーブイと遊び、食事し、風呂に入った。
夜になると少年は布団を敷き、イーブイといっしょに布団へと入った。少年は「イーブイ。もう寝るよ」と言うとすぐに寝息を立て始めた。
一方イーブイはまだ慣れない環境で眠りにくいのか、布団の中でごそごそと動いていた。

 次の日、少年は畑仕事を手伝うために朝から親と畑へと出かけていった。この村では子供も労働力である。
イーブイは慣れない仕事に手間取っていたが、母親のエーフィの仕事を見よう見真似で何とか仕事をしようとしていた。
その後、少年のイーブイは新しい環境や仕事に慣れ、何事もなく日常が過ぎ去っていった。


 ある日。
 少年のイーブイはついに進化の日を迎えた。それは少年がまったく予期しないものだった。
少年が寝ているとき、イーブイの体が光り始めた。進化の光。イーブイは体を震わせ進化を受け入れた。
イーブイを包んでいた光がだんだんとなくなっていき進化後の姿があらわになる。少年が、いや、村中の人が望んでいた薄い桃色をしたポケモンはそこにいなかった。
イーブイは村中の人から憎まれている黒いポケモン、ブラッキーに進化したのだ。

 少年が目を覚ますと、彼の隣にはブラッキーがいた。少年は愕然とした。
「お前……、進化したのか……?」
 少年は恐る恐るブラッキーに聞くと、ブラッキーは頷いた。少年は手を伸ばし、ブラッキーの頭を撫でる。
「何で……。ごめん。僕にはどうしようもできない。でも、お前は何も」
 少年は直感的に布団をブラッキーに被せた。自分で言ったとおり少年にはブラッキーをどうすることもできない。
ただ、見つかってブラッキーが殺されるのを待つか、長老のところへ自首しにいくしかなかった。

「ねえ、その布団の中に何を隠してるの?」
 少年の部屋に母親がやってきて言った。
「別に何も」
 母は不審に思い布団を一気に取り払う。そして、ブラッキーの姿を見てしまった。
「あなた、悪い子だったのね。がっかりしたわ。それと、村長のところに言いにいかなきゃね。ブラッキーに進化しましたって」
 母の言葉で少年はその場に崩れ落ちた。

 村長の家へと行こうとした少年だったが、村の大人たちに囲まれてしまっていた。
「ブラッキーは悪くない。何もしてない」
 少年の声は震えている。そんなことは村の人には関係ない。ただ、ブラッキーを排除すればいい。
「何もしてないなら、何でブラッキーに進化したんだい?」
「ブラッキーは悪魔の使いだ。殺さなくてはいけない」
 村中の人が口々に少年を責め立てる。少年はブラッキーを抱え、ただ震えていることしかできなかった。
ブラッキーに黒い袋がかぶせられる。そして、処刑場へと連れられていった。少年もブラッキーの後を追う。行き先は決まっている。村のはずれにある処刑場だ。
処刑場の入り口についた少年は村の大人たちに抑えられ、ブラッキーが処刑されるところを遠くから見ていることしかできなかった。
ブラッキーは自分の身の危険を感じたのか大きく鳴く。しかし、決して暴れなかった。少年がいるほうをまっすぐに向いていた。
「ごめん……」
 少年は地面を見つめ、ブラッキーに謝った。そのすぐ後だった。ブラッキーに斧が振り下ろされたのは。
ブラッキーが処刑場に入ってから処刑が終わるまで、村のエーフィは皆、ずっと俯いていた。
ブラッキーの処刑が終わった後、村中の人たちは自分のエーフィに「もう悪魔の使いはいなくなった。大丈夫だ」と声をかけていた。

 少年は長老の家で再度イーブイを受け取っていた。
「今度はエーフィに進化させるんじゃぞ」
「……はい」
 少年はそう返事をしたものの、心をどこか遠くに置いてきていた。

 イーブイを再度受け取った少年だったが、殺されたブラッキーのことばかり考えてしまい、今のイーブイの世話をおざなりにしてしまっていた。
少年も他の村人と同じようにブラッキーを悪魔の使いだと思っている。しかし、彼は自分で育てたブラッキーをかばった。どんな形であれブラッキーをかばってしまったのだ。
それはブラッキーが悪魔の使いと呼ばれている畏怖からなのか、育ててきて愛着が沸いたのか少年には分からなかった。
 村の人々は少年がイーブイをブラッキーに進化させたためブラッキーに魂を取られたのではと噂していたが、少年は気にしなかった。
新しく貰ったイーブイを見てエーフィに進化させていたらと少年は思ったが、心から思うことはできなかった。
たとえ新しく貰ったイーブイをエーフィに進化させることができたとしても、また何もできないと少年は思っているからであろう。



 少年のブラッキーが殺されてから2ヵ月後。空に昇った太陽がどんどんと消えていった。
そう。日食が始まったのだ。村の人々は口々に「ブラッキーの呪いだ、ブラッキーの呪いだ」と叫びながら慌てふためいている。
少年の母親も例外ではなく慌てている。例外があるとしたら少年だった。少年自身日食が怖かった。しかし、それよりも殺されたブラッキーの方が怖かった。
「僕が何もしてやれなかったから……」
 少年は呟いた。そして、誰も彼に気を取られている暇はなかった。村中の人が我先にと家の中へ入っていった。
少年は意を決した。新しく貰ったイーブイを抱きかかえ、村の外へ向かって走り出した。


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Last-modified: 2011-08-14 (日) 00:00:00
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