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夜の泡沫のアリア

/夜の泡沫のアリア

作者:リング


「ごしゅじん、おはよー」
 朝、私を目覚めさせる声。実際は、声よりも先に重みで目が覚めるのだけれど、私はこの声がするまでは断固として目を開かないことにしている。
 何故って、彼の声がとても心地よいからだ。
「おはよう、レオ」
 彼の種族はアシレーヌ。とてもいい声のポケモン、アシレーヌに進化するからとアローラ語で『声』と言う意味を持つ名前を付けた子だ。
 歌を歌うのが得意なポケモンということもあり、彼はとても声真似が得意で、音程やアクセント、そして活舌も含めて人間そっくりにまねてくる。彼は、私が起きるとき、食事をするとき、空腹を訴えるときなどに、繰り返し言っていた言葉を覚えて、こうして自身の状態を訴えてくるようになったのだ。

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 その声、そしてその顔の愛らしい事。のしかかってきた彼の顔を撫でると、彼は気持ちよさそうに私の手に顔を寄せてくる。私の機嫌がよさそうな時は、さらにのしかかって体重をかけてくるその仕草に癒される。
 島めぐりをしていたときも、学生時代も、そして働き始めた今になっても、男日照りで彼氏の一人もいない自分の境遇も忘れさせてくれる。
「んー……レオは本当にかわいいねぇ。お前が人間だったらよかったのになぁ」
 これが完全に私に体重を預けてくれたので、私はレオの顔に頬ずり、そして軽く口づけをしてから起き上がる。
「おなかすいたよー」
「はいはい、それじゃご飯にしましょうね」
 男日照りで、家に帰ったら語りかけてくるものなど誰もいない……なんてことがないのはひとえにこの子のおかげである。
「いってらっしゃーい」
「はい、いってきます。戸締りしてお留守番よろしくね」
 腹這いになったまま、元気よく手を振るレオに見送られて。私はいつも仕事へと出かける。朝は仕事へ送り出し、夜は帰りを迎えてくれる彼の存在が私の中で最も活力となってくれるのだ。


「ただいまー」
 仕事が終わって帰るとき、彼はいつもラジオで音楽を聴いている。音楽をひたすら流している番組にダイヤルを合わせ色々な音楽を堪能するのだ。彼は私が帰ってくると、気に入った音楽を披露する癖があり、私もその声に聞き惚れては、彼の頭を撫でたりハグしたり、気分が乗ればキスをすることもある。
 今日も彼は何やら熱心にラジオから流れる曲を聴いていることだろう。
「ん……? この歌は……?」
 玄関の前で鍵を開けようとしていると、家の中から漏れ出る音は、音楽というには少し趣が違う声。そう、これはポケモンの声のような……
「やっぱりこれ、ポケモンの声だ」
 これはチルタリスの歌声だろうか、弾むようなハミングの声色が、心地よい。そういえば、確かこの番組では今日、ポケモンの歌声から着想を得た音楽特集なるものをやっていたっけ。まず最初にポケモンの歌声を流し、そこから着想を得たという曲を続けて流す。
 例えば今のチルタリスの声だとフルートの軽快な調べでそれを表現する曲の天啓を得たようだ。春風のような軽い調子の音楽が耳に心地よい。
 いつもなら私の気配を敏感に感じて出迎えてくるレオも、今日は聞き入っているのだろうか、迎えに来てくれない。ちょっと寂しいと思いつつも部屋に入ると、彼もようやく気づいてくれたのか、こちらに笑顔で這いより私を抱きしめた。
「おかえりー」
 それを抱き返し、彼の後頭部をそっと抱く。甘える彼のキュウキュウという鳴き声が、私の撫でる手を加速させた。
 両手ひとしきり撫で終わったら、彼の頬を両手で包み込みながら鼻同士をこすり合わせてキス、最後に思いっきりハグをする。あぁ、本当にこいつは可愛いなぁ。
「それにしても、私が帰ってきた事に気付かないだなんて、ずいぶんと熱中していたんだね。、レオはこういうのは好き?」
 彼は賢い子だが、それでも人間の言葉を完全に理解するほどではないようで、話しかけて貰えてうれしいようではあるが、何かを理解したような反応は帰ってこない。ただ、流れている音楽を聴いていると尾びれをパタパタと動かしているところを見ると、彼がこのポケモンの歌特集を気に入っているのは確かなようだ。
 その後もその番組ではプリン、ラプラス、ペラップと、色々な歌や、そこから着想を得た曲を流していく。いつもは帰ってきたら音楽番組を消してテレビをつける私も、彼が真剣に聞いているのに水を差すのもなんなので、音楽番組を一緒に聞いてあげることにした。そうして、次はアシレーヌの歌が流れるようだ。
『今度の曲はですね、アシレーヌの歌声に着想を得た、「見送る者」と、「船出をする男」という二つの曲をお届けいたします。これは発情期を迎えたアシレーヌの雌の歌声と、雄の歌声、それぞれを模しているとされて、船出を見送り島に残る女性と、旅立つ男性、二つの立場に分かれた曲でして……
 一つ一つを別々に演奏しても成立する曲でありながら、二つを同時に演奏することで作曲者が本来聞かせたかった旋律が現れるようになっているものであります』
『この曲は、アシレーヌの雌の歌声と雄の歌声がぴったりと重なったときに着想を得たという話ですね。私、二つの曲の元となったアシレーヌの声は聞いたことがないんですけれど、いったいどんな歌声なんでしょうかね』
『それでは、参りましょう。まずはアシレーヌの歌声です』
 そこで私はハッとする。まず最初に雌のアシレーヌの声が流れるのだが。なんと隣ではそれに合わせてレオが歌を歌っている。よくよく聴いてみると、ラジオから流れるつがいの雄のパートとぴったり声があっており、雌の声と程よく混ざる様は聴いているだけでうっとりする。おそらく、歌っている本人も気持ちの良い事だろう。
 面白いので私もちょっと雌のアシレーヌの真似をしてみる。試練の旅を途中であきらめた後は合唱のサークルに所属していたんだ。聞き分けにも歌声にも、今でも自信がある。こんなに真剣に歌を聴いているレオ君は初めてだし、一緒に合わせて歌ってあげたら喜ぶだろうなぁ。
 歌っていた時間は三〇秒ほどであろうか。ラジオから流れる雌のアシレーヌの歌声を真似していると、歌声がだんだんとフェードアウトしていく。
『いやぁ、いい歌声でした。アローラではこれを生で聞けるんですね……バカンスついでに行ってみたいですねぇ。ところで、これって求愛の歌声なんですよね? これを聞いたアシレーヌが興奮しちゃったりとかしないんですか?』
『いやいや、それだったらさっきのプリンの歌声で私たちは眠っちゃいますから。ポケモンたちも私達も、機械の声にはない、肉声に含まれる不思議な力を感じ取っているそうですから、肉声を直接聞かせでもしない限りは興奮なんてしませんよ』
 肉声、と聞いて私は先ほどまでの自分の行動を振り返る。思いっきり肉声で雌の歌声を真似してみたが、レオは一体どんな反応をしてるだろう?
『ほほう、確かにプリンの歌声は心地よい声でしたが、眠くなるという感じではありませんでしたからね。あれは肉声でないと眠くなったりしないのですね。さて、美しい音色のアシレーヌの歌声でしたね。今度はそれをもとにして作曲された、「見送る者」と、「船出をする男」を同時演奏バージョンでお届けします。個別バージョンは、放送後にwebで視聴することが出来ますので、是非とも聞いてください』
「だいすき!」
 ラジオ番組は次の曲の演奏が始まったが、そんなことはさておき、私は今までにない力でレオに抱きしめられている。
「あの、レオ君?」
 ぎゅっと抱きしめられる力は、痛いとか苦しいではないけれど、攻撃的なくらいに強い。
「だいすき!」
 体重をかけられて尻もちをついてしまった私にレオは再び囁いた。抱きしめる箇所は、へそのあたりから徐々に上に上がって、肩のあたりに。口づけが出来そうな位置関係になったところで、レオ君は私を抱きしめたまま、体をこすりつけ始めた。
 体に隠れて見えないけれど、レオ君の下半身はいきり立っている。あぁ、興味本位で見たアダルトビデオと同じ、男のアレがしっかりと膨れ上がっているんだと理解した。彼はそれを、私の下半身に必死になってこすりつけている。
 やり方がまるで分らないから、本能的に命じるがままにやっているのだろう。そんなんで気持ちよいのかと心配する間もなく、レオ君は私の服に思いっきりぶちまけていた。
 きゅうきゅうと、甘えるような声を出しながら、それはもう、今までに見たことないくらいに気持ちよさそうな、満足した顔で。服が汚れてしまった事を嘆くよりも先に、お疲れさまという気持ちが先行して、私は彼の頭を撫でてねぎらっていた。
 本当はこんなことをしてしかるべきなのに、私はなぜかこの状況に今までにないくらいに興奮している。怒る気なんかよりも、ただ彼を愛でていたい気持ちだけが湧いて出た。


 あの一軒以来、癖になってしまった。しかし、それはレオ君が……ではなく、私が、だ。
 彼が興奮した挙句に腰を振り乱し、そして射精に至るまでの数秒間、あの時の表情の移り変わり。可愛くて愛おしい相棒であるレオ君の幸福な顔を眺めているのは、私にとっても何よりの幸福であると気づいてしまったのだ。
 あの雌のアシレーヌの歌声を真似たものが彼にとってのスイッチとなっているようなので、それさえなければ彼は興奮したりしない、いたって普通の良い子だ。
 だけれど、良い子なだけのレオ君では、今の私には退屈だから。だから私は時々、彼のためにあの歌を歌い、彼の興奮を誘うようになった。
 今は、レオ君がもっと楽しめるようにと、どろりとしたローションを体中に塗りたくって滑りをよくして、服なんて着ずに彼の愛を受け止めているが、そろそろ彼に抱きしめられるだけでは満足できなくなって、次のステップに進んでしまいそうな自分がちょっと怖かった。

あとがき 

 夜の泡沫のアリアってなんだよ!? とりあえずアシレーヌはとてもかわいいので、もっとエッチなことをさせてあげるべきだと思います。

 

コメント 

お名前:
  • 歌うのはアシレーヌではなく主人公でしたとは予想外でした。
    普段はその気もない雄が、いざなれば雌の一存で狂ってしまう、狂ったように求めてくる、という光景の愛おしさに共感しきりです。ゾクっと来ます。いいですね!
    レオ君の可愛さに溺れたいです。いやレオ君はこの主人公さんのものですけれど。素敵! --

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Last-modified: 2018-04-04 (水) 22:10:06
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