あの仔は
いや、俺は
声は雄の仔っぽいよね。
でも仕草は雌の仔に見えなくも無いよね?
一体どっちなんだろ?
絶対に教えてくれないから分からないんだよね……。
だよね……。
ねえねえ、それなら――――
――――それなら、確かめてみる?
夜のポケモンセンター。毎晩二十一時の消灯時間を迎えれば、一部を除いて全ての部屋の電気が消され闇に包まれる。
この時間は皆寝ている筈……なのだが、ある一室だけまだ寝ていないポケモンが居た。
「ふぅ……、久しぶりだったから結構出ちゃったかな……」
「ふふ、大丈夫ですよ? 沢山出るのは健康な証拠ですっ」
「ありがと。……にしても、まさか本当にしてくれるとは思わなかったから、部屋に来たときはびっくりしたよ」
入院中のフタチマルと、ここで働いているタブンネがベッドの上でひそひそ話をしている。タブンネは口周りについたものを舐め取ると笑いかけた。
初めは抵抗があったこの行為も、今は一つの“患者とのコミュニケーション”としてやっているようだ。お陰で患者と打ち解けやすくなったり、普通なら話してくれない様な事も話してくれるようになったり。たまに身に危険が及びそうになったりもするのだが、そこは仲間同士で助け合っている。
「結構して欲しいって方は多いんですよー? だから、もう慣れちゃったんです、えへへっ。本当はダメだってきつく言われてるので、これはナイショにしておいて下さいね?」
「絶対に言わないから安心して。もしバレたら、またして貰えなくなっちゃうから……なんて」
「ふふふ。毎日は流石に無理ですけど、また我慢出来なくなったらその時に、ですよ」
「じゃあ、また今度……お願いしちゃおうかな」
「はいっ、何時でもどうぞ。あ、そうだ……、お休みする前に綺麗にしないとですね……」
そう言えば……と、視線を下げそこを見ながら思い出す。
「えっ? あ……い、いや、これは自分で出来るから――」
「いえいえ、全部ひっくるめて私の“お仕事”ですからっ」
お構い無しに多少汚れてしまっていたフタチマルのお掃除を始めると、序に周りの毛繕いを少々。その間フタチマルはまた出してしまいそうになったが、口を噤み力を入れて必至に耐えた。矢張りお仕事とあってか、タブンネのしてくれた事は今まで経験した事の無いくらい気持ちのいいものだった。
そんなフタチマルを尻目にせっせと処理を済ませると、タブンネはベッドから降りフタチマルに布団を被せる。
「ところで……」
「何でしょう……?」
「君って雄? 雌? い、いや……一見すると性別全然分からなくって……。声も雄のような雌のような……」
「それは……秘密、ですよ? さ、見つからない内にお休みして下さいねっ!」
「ちぇー……」
ウインクをしながらイタズラな笑みを溢して個室から出ていった。
会う度に気になるあの仔の性別。何度も聞いていたのだが、やっぱり今回も教えて貰えなかった。
気になる、気になる、気になる。
枕に顔を埋めてこのどうしようもない気持ちをぶつけ、足をばたつかせる。気持ちが落ち着いてくると、仰向けになり暗い天井を見つめた。
まだまだ夜は長い。
「気になるよなぁ……」
「気になるよねぇ……」
隣の個室に居るジャノビーがフタチマルの部屋に来ていた。同じ時期に入院したと言う事もあって、当初からよく話している相手だ。
タブンネに頼めばしてくれる。この情報をくれたのがジャノビーだったりする。勿論、ジャノビーも時々してもらっている。そして、同じくタブンネの性別が気になる迷える雌なのだ。
「こんにちは……あら、ジャノビーさんもいらっしゃったのですね?」
ノックが聞こえてくると、二匹が居る部屋にタブンネが回診にやってきた。
笑顔で入ってきたタブンネをじっと見つめる。二匹の凝視にタブンネは困惑している。
「やっぱり分からないよね……」
「うん……」
「あ、あの……どうされたのですか……?」
肩を落す。その様子を見て、タブンネは何か自分が悪い事でもしたのかなと窺った。
「あ、こっちの話です。君達の性別って雄なのか雌なのかって言う話」
「ふふ、この間も言いましたが、それはナイショ……ですっ。無闇やたらに性別を言わないようにと言われているんですよ。性別を言うと、特に雌なら性的な行為を患者から要求される事があるらしいですので、それを防止するために……です」
熱い視線の意味が分かりくすくすと笑うと、耳の触覚をフタチマルに当てて触診を始めた。
体調は良好、順調に回復している様だ。それと一緒にフタチマルの気持ちも伝わってくる。
性別が気になる性別が気になる性別が気になる性別が気になる性別が気になる――――。もやもや気分。それだけ。
思わず苦笑いすると、折角居るのだからとジャノビーの触診も始めた。こちらも体調は良好、考えている事は一緒だった。
「私は雌だから、別に性別教えても良いんじゃないの?」
触診中のタブンネにくっつきそうな位顔を近付けた。
「ふ、フタチマルさんもジャノビーさんも、もう少しで退院出来そうですねっ。ではではお邪魔しました!」
冷や汗浮ばせながらタブンネは光の速さで逃げだした。
「あ、逃げた……。私なら関係無いと思うのになー」
「そりゃぁ、あんなに迫られれば逃げるでしょ……」
フタチマルは獲物を逃した獣の如く落ち込むジャノビーに突込みを入れざるを得ない。
南中高度が最大から少し低くなった時間、窓から吹く風でカーテンが靡いている。今日は涼しい。
「雌なら襲われる、かぁ……。いやまぁ、性別関係無しに要求しちゃったんだけどさ……。流石に一線は越えられないみたいだけど」
昨夜頼んだ時も、性別を隠す為と言う理由でそこまではして貰えなかった。
「だよねー。結局は要求しちゃうからそんなの意味が無いよねー。でもまぁ、雄だったら……してくれるならしたいかなぁ……」
脳内で勝手に妄想を繰り広げるジャノビーを呆れ顔で見つめるフタチマル。
「お前、付き合ってる彼氏居るとか言ってなかったっけ……?」
「言った言ったー、すっかり忘れてた」
ジャノビーは苦笑いしながらフタチマルへのお見舞いの木の実を勝手に食べた。
こんな雌が居るなら雄でも襲われるだろうな――とフタチマルが考えていた時
「……っと、私いい事考えたー」
「いい事……?」
ふと、何か思い付いたらしく、ジャノビーがニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
フタチマルもお見舞いの木の実を食べようとしたが、それよりも気になって手を止めてじっと見つめる。
「うんうん、いい事いい事。それはね――――」
「今晩は」
「こないだお願いしたばかりなのにまた呼んでごめんね?」
「いえいえ、お気になからずに……ですよ」
数日経ったある日の夜、フタチマルは再びあの夜のタブンネを呼び出した。
呼び出した理由は一つしかない。勿論、タブンネもそれを分かっている。
「それでは、失礼しますね」
毛布を畳んでベッドに乗るタブンネ。
その時が作戦決行の合図。
タブンネの背後から何かが伸びてきて――――
「わっ! な、あぅ……ぅぅ……!」
何かに身体をぐるぐる巻きにされて、口を塞がれてしまった。
「しっ、静かに……。声を出すと見つかっちゃうから……ね? こんな場所見つかったら君だってマズイでしょ? 大人しくしててね……」
背後から聞こえてきた囁き声に、涙目になりながらも首を振って言われた通りに大人しくする。
突然の事にタブンネは動揺を隠しきれない。押し倒され襲われそうになった事は数あれど、今まで縛られるなんて事が無かったからどうしていいか分からない。
「ごめんね、どうしても君の性別が気になるからちょっと驚かせちゃった……。ほら、もう出てきたら?」
フタチマルが申し訳なさそうに謝ると、背後からもう一匹のポケモンが出てきた。
「……! じ、ジャノビーさん……!」
口を解放されると、出てきたポケモンを見て驚いた表情を見せる。が、直ぐに隣部屋の患者だと分かると安堵へと変わった。
「全く、消灯時間とっくに過ぎているのに部屋を抜け出してはいけませんとあれだけ言ったのに……」
今度はぷんぷんと怒って見せる。自分がまだ蔓の鞭で拘束されている事をすっかり忘れてしまっているようだ。
「まぁまぁ、良いじゃない良いじゃない。それよりも……ね?」
「やっちゃうか……」
宥めるように、でも直ぐにフタチマルへと視線を向けてアイコンタクトを取る。そして更に両足に蔓を絡ませ開いていく。
頷くと、開かれた両足の間に手を伸ばしていくフタチマル。ニヤニヤしながらそれを見つめるジャノビー。タブンネは焦っている。
「やっ……! だ、だめです……! そこは……! さわっちゃ――――!」
顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに首を降るが、当然動ける筈もなくされるがまま。
「どうだ……? 分かったか?」
「こ、これ……は……」
手が大事な部分へと到達した時、タブンネがビクッと震え、一瞬フタチマルの動きが止まった。
「……へぇ、そう言う事……ね……」
ジャノビーもそこを覗き込む。間近で確認した。
「うぅぅ……。は、恥ずかしいです……。あ、あの……この事は誰にもナイショに……して下さい……」
「勿論秘密にするよ? 私達だって何時もナイショでして貰ってるし……ねぇ?」
「お、おう……」
中性に見えるが故の、性別を無視した天然のメロメロ攻撃……とでも言うのだろうか。
懇願の眼差しで見つめられると、例えタブンネが雄でも雌でも相手はそのお願いを聞かずにはいられなくなってしまうのだ。
「その代わり……」
「その代わり……?」
ジャノビーの怪しい笑み。
タブンネは首を傾げた。
「普段して貰ってる分、今夜は私達でお返ししてあげる」
「こ、こないだのお礼って事で……」
「えっ……、えぇぇっ……!?」
二匹の発言に矢張驚きを隠せない。
「じゃあ早速……ふふふ……」
「声を出すとばれちゅうから、気を付けてね。大丈夫、やり過ぎたりはしないから、ね?」
ジャノビーは既に準備万端。フタチマルは多少気にかけてはいるようだが、同じくやる気満々で――――
「やっ、あ……っ! そ、そんなに触ったらだ、だめ……です……あぁっ……!」
色めいた声、粘性を帯びた水が跳ねる音響き渡り――――――
――――
「本っっっっ当にナイショにして下さいね! ね!」
「分かってる、分かってるからそんなに顔近付けないで……」
「あっ、すみません……」
昨夜の出来事も含めて、バレたら色々と大変だからと必死になってフタチマルに念を押す。余りの気迫に圧され気味だ。
「でも、気持ち良かった……でしょ?」
からかうように笑いながら顔を近付けてみた。
「……はい。その……触られるのは初めてだったので……。とても恥ずかしかったですけど……」
「えっ……。は、初めてだったんだ……」
「初めて、ですよ……?」
「てっきり同じ様な事してるのが居ると思ったんだけど……」
「ふふっ。きっと、後にも先にもああやって襲ってくるのは貴方達しか居ないと思いますよー」
「うへぇ……、そうかぁ……」
絶対にやった奴が居るから大丈夫だって! 私を信じなさいー!
そうジャノビーに言われて襲ったのは良いものの、予想は見事に外れていた。苦笑いしか出来なかった。
その様子を楽しそうにタブンネは見ていた。
「あ、あの……フタチマルさん……」
急にタブンネがもじもじしながら上目遣いで見つめてくる。
「えっと、今夜……またお部屋にお邪魔しても……よろしいでしょうか……?」
「うん、いいよ――――――えぇっ!?」
普通に二つ返事を返してしまったが、その質問に思わず大きな声を出してしまった。
タブンネを見る。視線を合わせないようにしているのか、目が泳いでいる。僅かに目が合うと、更に頬を紅潮させた。
「なんで……って……ま、まさか……だよね……?」
とても信じられないが、恥ずかし気に頷かれると
「ぼ、僕は構わないけど……」
ついつい言ってしまう。
タブンネは満面の笑みを見せてくれた。
「では、今晩……よろしくお願いします……。ではっ」
嬉しそうに部屋から出ていくと、何時ものジョーイさんの助手としてのタブンネへと戻っていった。
夜のポケモンセンター。毎晩二十一時の消灯時間を迎えれば、一部を除いて全ての部屋の電気が消され闇に包まれる。
この時間は皆寝ている筈……なのだが、ある一室だけまだ寝ていないポケモンが居た。。
「毎回気になってたんだけどさ」
「何ですか……?」
乱れ汚れたたベッドの上で横になるフタチマルとタブンネ。
「声を殺しながらするのって大変じゃない……?」
「大変……ですけど……。誰かに見つからないようにやると言うのがなんだか……その……興奮すると言いますか……あっ、いや、その……!」
「君って案外そっち系……だったりするのかな……? 蔓で縛られた時も何だかんだで楽しそうに――」
「そ、それは言わない約束ですっ!」
あたふたする辺り、強ち間違ってはいないのだろう。図星を突かれて若干ムキになっている。
「あはは、ごめんごめん。じゃあ、今日はこの辺にしようか」
「はいっ。次はお隣さんの番ですので……早く行かないと文句言われてしまいます」
「あいつは……。あいつの相手は大変じゃないか……?」
「結構激しいですけど……私は楽しいです……どちらも」
呟きながら処理を済ませると、ベッドから降りフタチマルに布団を被せた。
「それでは、お休みなさいですっ」
「お休み……」
可愛げに首をかしげるタブンネを見送りながら、フタチマルは夢の世界へと誘われていき、もう退院が近いんだよなとか、タブンネの事を考えていたら――
終わり
小説板の方にも投稿しています。
どんな事をしていたのか、どんな事をしたのか、性別はどちらなのか。
読者の皆さんにお任せしますという作品にしてみました。
名前はまだ決まっていないのでトリップで……。
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