ポケモン小説wiki
外伝EX 時空を超えた邂逅

/外伝EX 時空を超えた邂逅

writer is 双牙連刃

10万hit記念第二弾!
今作は、新・光の日々とサマーバケーション! 両作品の流れを汲む作品となっております。
時折主人公の変更により視点が変わりますのでご注意頂けますようお願い致します。
お読み頂ければ幸いです。では、↓からスタートにございます。



「……ねぇギラ君! この立体機構装置って作ったら面白そうじゃない!?」
「いや、作ったって私達には必要無いじゃないですか。もぉ、面白いからってアル様は感化され過ぎですよぉ」

 むー、面白いと思うんだけどなぁ。ワイヤーをこうバシューっと飛ばしてビューンって飛んで、まるでどこでもターザン装置みたいでいいなぁ。
でもどうせ作るならガスって制限は無くそう。途中で飛べなくなるって危険過ぎるし、うーん……そうだ、ルー君のエアロブラストを応用してエアブースト式にすれば無制限に飛べる!
うんうん、構成はこんな感じで、今度試作品作ってみようかな。いやー、面白いDVD借りてきてくれたなーギラ君。

「……よし、なんとか作ってみましたよアル様」
「わーい、チャーハンだー。無理言ってごめんねギラ君」
「いえいえ。でも、今度アル様のお友達のところ行く時は連れて行ってくれるって約束、忘れないでくださいね」
「もっちろーん。零次さん達も私の知り合いというか部下って言えばどういうものなのかって言うのは分かってくれるだろうから、ちゃーんと友達になってくれるよ♪」
「いやそれ、私が神と呼ばれる者の一匹だってバレちゃいますよね!? 大丈夫なんですか?」
「平気平気。なんたって私なんかアルセウスだってバレちゃっても友達してるし」

 零次さん達の懐の深さは海溝よりも深いから、本来の姿はギラティナだとしても気にしないで友達になってくれる事は間違い無いでしょう。多分。
あ、ギラ君が作ってくれたチャーハンもなかなかの一品。流貴さんの料理と比べるのは可哀想だけど、ちりめんじゃこを入れてるところはポイント高めかも。

「でもアル様? 私達って基本的に食事を取る必要って無いですよね? どうしてアル様はご飯を食べるんですか?」
「ふふっ、ギラ君は先代と交代してからまだそんなに経ってないもんねー。大丈夫、これから美味しいものを食べる事の幸せさとか、友達と遊ぶ楽しさとか教えてあげるからね」

 見た目の年齢としては12才くらいの男の子になってるギラ君の頭を撫でると、目を細めて嬉しそうにしてる。もう、可愛いなぁ。
あのニ匹や先代のギラっちにも見習わせたい可愛さだなー。まぁ、私が各方面の仕事を投げっぱなしにしてたのも悪かったけど……。
とりあえず食べながらDVD上映会再開。いやー、最近は何処も平和で忙しくなくて、まったり出来ていいなぁ。
しかし、落ち着ける家作ってよかった。思えば、今までもこうしてあの神トリオから隠れられる場所を作っておけば、地球3週とか別次元に退避とかしなくても楽に休めてたんだよ。もー、私もバカだったなぁ。
にしても、零次さんがいいって言ってくれてよかった。この浮遊神殿に家を建てれば零次さん達も遊びに来てくれるし、何処に行くにも空に居るんだから動きやすくて楽チン楽チン。これも零次さんが蒼刃さんの封印を解いてくれたから出来るようになったんだけど♪
あ、そう言えば零次さんと心紅ちゃんが結ばれたお祝いしに行ってなかったっけ。今度お祝い言いにいかなきゃな。しばらくぶりの異種間カップルだし、人とポケモンの仲の復旧に繋がる事例の一つだし、きちんと挨拶しなきゃなぁ。

「あ、そういえばアル様。ちょっとご相談したかった事があるんですよ」
「ん? 何なにー?」
「えっと、破れた世界の方で、ちょっとだけ異常な空間歪曲を見つけたんです。パル様に相談したら、『規模も小さいからそこまで心配する事は無い』って言われたんですけど……」
「そうなの? んー、空間のスペシャリストのパルっちがそう言ってたんならそこまで心配する事無いかもしれないけど、ちょっと気になるね?」
「ですよね? 普通なら、そんな空間歪曲なんて起きませんし」

 スプーンを咥えながら一思案。そういえばなんか前にディアっちょに報告された事あった気がするなぁ。えーっと報告書報告書……。
あったあった。確かこれに、どっかで起きた事件で空間と時間に僅かに異常が出たって報告されたっけ。
んーと……種別不明のポケモンが衝突、両者共に強力な力を持っているが故に起きた模様。なお、一匹はミュウツーに酷似したエネルギーを発していた、か。うーん、これの所為かなぁ?
ん? 誰かが呼び鈴鳴らしてる。って、勝手に入ってきたな? 誰だろ?

「……やっぱりここでしたかアルセウス様。ん? 俺が作った報告書、読んでてくれたんですか?」
「あ、ディア様!」
「なーんだディアっちょか。うん、今ちょっと気になった事あって読んでたんだ」
「そうだったんですか。あ、これ差し入れっていうか、お土産です。って、なんだギラも居たのか」
「おっ、スイカだー。ディアっちょナイスチョイスー」
「うぅ、気付くの遅いですよディア様~」
「すまんすまん。あ、これ冷やしときますね」
「あいあい~」

 いやぁ、ディアっちょの変身は毎度の事イッケメーンにございますこと。黒タンクトップにジーパンが似合う、青みがかった銀髪のイケメンとか反則なう。その辺うろうろしてたら間違い無く人間の女の子に逆ナンされるでしょあれ。
まぁ、中身は私に厳しいプチデビルだけど。最近はちょっとラフになってくれたのが救いでございます。

「んで、今日はどったの?」
「いえ、最近パルキアと連絡が付かなくて困ってるんです。それで、もしやここに居るのでは思いまして」
「パルっちが? ギラ君、最近会ったんだよね?」
「はい、三週間前くらいに」
「なんだって? 何処で?」
「えっと、アルミア地方ってところです。そことリンクしてる破れた世界側の部分に空間異常があって……」
「そうか……と言う事は、奴も最近の空間異常には気付いてたのか」
「え、そんなに不味い感じ?」
「下手をすると、別世界に繋がる可能性があるレベルの歪曲も確認されてます」

 マ・ジ・で? それはガチでヤバイかも……。もし他の世界と繋がったりしたら、原因の究明やらそっちの管理者達へのお詫びとか、面倒臭い事が目白押しになる!
とは言っても空間管理はパルっちに任せてるから、他の場所に影響を出さないように修復するのはパルっちにしか出来ないし……。

「そうか、奴と連絡が付かないのは、恐らくそれらの修復に駆けずり回ってるからだな」
「げぇ~……私も出動しなきゃダメっぽいかなぁ?」
「えっと、私も破れた世界側から多少干渉する事は出来ると思いますけど、歪曲を緩和するくらいが限界だと思います……」
「そうだね、いざとなったら先代のギラっちも叩き起こすから、なんとかパルっちのバックアップをしよう。スイカ食べたら」
「いや、そんな悠長な事言ってていいんですか!?」
「だぁって折角ディアっちょが持ってきてくれたんだから食~べ~た~い~! ギラ君もそうだよね、ね!?」
「うっ、うぅ……すいませんディア様……」
「はぁ~……ギラ、お前は悪くないぞ……」
「じゃあ食べるのに決定! よく冷えるまではDVD見てよ!」
「ん? これは、最近のアニメですか?」
「ディアっちょも興味ある? どうせする事無いんだし見てようよ」

 ……うん、ディアっちょも興味はあり気かな。皆今なってる人間の姿でたまに人の様子見てるんだし、その間に気になることを見つけても仕方ないよねー。
って事で再生再開~。……と思ったらなんか私の携帯に着信が。あれ、パルっちからだ。

「アルセウス様、どうしました?」
「いや、パルっちから連絡来たみたい。なんだろ?」
「パル様から!?」
「うん。えーっと……はーいもしも」
『あ、アルセウス様ぁ! 助けてくださぁい!』

 はい? なんぞ?

『他世界の空間制御とこちらの歪曲がリンクしてゲートが……も、もう抑えきれないですぅ!』
「ちょ、はいぃ!? 他世界の力がこっちに干渉しちゃってるの!? それは不味いっしょ!」
『ひぁ、開いちゃ……だ、ダメェ!』
「ガチで緊急事態だわ! 皆、上映会ちょっと中止! パルっちのとこ行くよ!」
「は、はい!」
「他世界からの影響? どういう事なんだ? 私の方には何も……」
「考えるのは後! もう世界同士が繋がりかけてるみたいだし、せめて被害が出ないように早く塞がなきゃ!」
「り、了解です!」

 もー、どうして他世界のパルキアが力を使っちゃってる訳!? 何? もしかしてまーた世界の管理者同士で喧嘩してるとか!? そっちの世界のアルセウスしっかりしてよもぉー!
あれ? でもディアっちょは何も感じてないんだったっけ。なら原因は何? ……はぁ、しばらく忙しくなっちゃいそうだなぁ。



「ごめんね、ライト。いつも夜に見てもらっちゃって」
「気にするなよ。この時間なら目立たなくていいと思って提案したのは俺なんだからな」
「あれ、どうしたのライト……って、リィちゃんの空間の力の訓練か」
「あら、もうリィもかなり空間の力を使えるんじゃなかったかしら?」
「使えはするけど、まだ制御するのは難しいんだ。エーフィで居れば使う事は無いけど、イーブイで居る時は必要になるかもしれないし」

 そうじゃなくても、訓練しておいて損は無い。より強力な力を制御出来れば、普段使いの力なんて余裕だろ。ようはこれは、リィの念力やサイコキネシスの訓練にもなってるって訳だ。
100の力が必要なものを制御出来れば、20の力で制御する力なら数倍楽になるって寸法だな。まぁ、実際はそんなに簡単な事じゃあねぇんだけど。
んじゃま、さっくりと始めるとすっか。っつっても、最近はリィのイメージする力が上がったのか、空の扉も、間違った場所に繋がる事は無くなったんだけどな。

「それじゃあ……よし、図書館の前に繋げてみようかな」
「町の中って事だよね? 大丈夫? リィちゃん」
「うん、地面の方に向かって開けば、あまり目立たないで開けると思うんだ」
「なるほど、開く方向の制御の練習だな。いいんじゃないか? 失敗したらすぐ閉じればいいんだし」
「でもそれ、開く向こう側を操作するって事よね? そんな事出来るの?」
「それは僕のイメージ次第になるけど、出来なくはないよ。向こう側を想像して、出口の向きを頭の中で回すって感じかな」

 ふむ……リィの中でやり方はイメージ出来てるみたいだな。それなら、リィの思う通りやらせてみるか。

「よし、じゃあ行くよ」

 リィの前脚が空間の力に包まれて、淡く輝き出す。訓練を続けてる内に、わざわざ空の欠片を挟んで祈らなくても力を引き出せるようになったんだとさ。
それを……横薙ぎに振るう。これで別の場所とここを繋いじまうんだから、空間の力ってのはすげぇよなぁ。
って…ん?

「あれ?」
「あら? いつもみたいに筋は出来るけど……」
「筋が、消えちゃった?」
「おかしいな、いつも通りの手応え、あったんだけどな?」

 ふむ……空の扉を作ろうとしたところに、特に違和感は無いな。なんだったんだ?

「リィ、もう一度やってみろよ」
「そうだね。今度はもっとはっきりと……それ!」

 僅かに力を強めたのか、リィの前足に集まっていた光が強くなった。それを振り抜くと、また光の筋が空間に走る。
ん? 今度は……開きそうになったのが僅かに淵の一部が欠けて消えた。……こいつは、もしかして?

「あれ、また消えちゃった」
「……ライト、これはまさか……」
「あぁ、多分……」
「え、どうしたのフロストちゃん。ライトも、何か分かったの?」
「リィの力に、何かが干渉してるのかもしれん。明らかに、開かれようとしていたのを邪魔されたような動きをした」
「僕の空の扉に……?」

 だが、何故そんな事をした? 第一、そんな事を誰が出来る?
リィ自身は違うと言っても、リィの空間の力は神の力だ。おいそれと干渉出来るような代物じゃあない。
ポケモン全ての力を下げるような力が働いてる様子も無いとすると、リィ個体を狙っての干渉だって言える。が、それにはリィが空間の力を持っているって事を知っていて、この時間にそれを使うと知ってないとならない。
纏めて言うと、この干渉には不自然な部分が多すぎるって事だ。一体何処から?

「リィ、体に異常は無いんだよな?」
「う、うん、これといって違和感は無いし、力もちゃんと集められるよ」

 って事は、リィの空の扉にだけ干渉してるって事か。ますます分からねぇなぁ……。
とにかく、リィの空の扉に突っかかってくるってんならその時に気を張ればいい。犯人をあぶり出してやる。

「リィ、もう一度空の扉を作ってみてくれ」
「え?」
「理由は分からんが、相手は空の扉を開かせたくないようだ。だったら、リィが開こうとすれば相手はまた動く。そこを、俺が捕らえるって訳だ」
「出来るの、ライト」
「やってやれん事はねぇさ。じゃ、頼むぜリィ」
「分かった」

 リィが手にまた力を集めたのを確認して、周囲の気配を探る。干渉は空の扉が出来てすぐに始まってた、ならばもう干渉者は監視してるだろうよ。
……? おかしい、周囲に気配が無い?

「レンちっと……ってもうやっててくれたか」
「うん……でもライト、かなり広範囲で波導を調べてるけど、それらしい波導は無いみたい」
「ライト、開いていいの?」

 リィのチャージは終わったか。……こちらの様子も探らずに干渉するとは、どうやってやがるんだ?
幸いリィ自身に異常は無い。なら、扉を作って様子を探る事もまだ出来そうだな。

「あぁ、開いてくれ」
「了解。……開け、空の扉!」

 空を切り裂くようにリィは前足を振った。
その軌跡は空間に光の線を引き、いつも通りならその線が割れ、その先にリィが思い浮かべた場所が見える。筈だったんだが……。

「え、何っ、これ……」
「真っ暗な……」
「穴、か?」

 どうなってんだこりゃ? 開いた先には何も見えない。いや、真っ暗な何かが渦巻いてるみたいだな。
……!? なんだ、風? 違う、これは!

「な、引っ張られる!?」
「まじぃ、皆、その穴から離れろ!」
「くっ、これで!」

 おぉ! フロストが小さいながらも氷の壁を作った。上体は隠せないが、これで踏ん張る事は出来るぜ!
だが不味いな、吸い込む力が強くなってやがる。これを止めるには……! やれるにはやれるが、あんまりやりたくねぇなぁ……。

「くぅぅ!」
「こ、このままじゃ不味いわよ!」
「うぅ……あっ!?」
「! レン!」

 事態ってのは不味い方に転びやすいとはよく言ったもんだぜ。吸い込まれそうになってレンが氷の壁を掴んだら、どうやらそれが滑っちまったようだ。
はぁ……もうこうするしかねぇか。レンを助けるには、吸い込む範囲外まで横に飛ばしてやるしかない。それをするには……。

「……フロスト!」
「レン!? って、何よ!?」
「後、頼むわ」
「え……」

 足をくっつけていた壁から飛び出して、吸い込む力に乗る。これなら、レンが穴に吸い込まれる前にそこに到着出来る。
よし、ちっと痛いかもしれんが我慢してくれ、レン。

「お、らぁ!」
「きゃっ!?」
「馬鹿! あんた何やって!」
「ライト!? 駄目だよ!」

 これしかねぇんだ。リィの空間の力クラスを打ち消して、この穴を閉じるには。
空の扉を一部でも欠損させれば、その効果は霧散する。まぁ、さっき見てた感じからの推測だから本当にそうかは分からんがな。
でも、リィにこれを消すチャンスくらい与えられる筈だ。確実に、なんらかの異常は与えさせてもらう。
前足に電気を集める。……出来ればリィの目の前でやりたくはないが、穴を超えちまう一瞬にやればまず分からないだろ。
まぁでも……こればっかりは、流石に死ぬかもなぁ。そうなったら、隠す意味も無いけどよ。

「おぉぉぉ!」

 高まって光にまでなった力を、扉の淵にぶち当てた。と同時に、俺はその先の穴へと吸い込まれた。
……暗い、真っ暗だ。なんとか、こう! よし、体は反転出来たっと。
ふぅ、振り返ったら、もう空の扉は閉じ掛けてた。どうやら、俺の体を張った賭けは勝ちだったようだ。
……さて、どうすっかね、これ。なんとなく引っ張られるような感じがするって事は、何処かに流されてるのは間違い無いようだが。
体を動かそうにも、なんとかよじって体を回せる以外はどうにもなりそうもない。真っ暗なトンネルを、風にでも乗ってるみたいに流されてるみたいだ。

「んー、何処に行くんかね?」

 願わくば、死ぬのだけは勘弁ってとこだ。こんな死に方は俺もノーセンキューだぜ。
……ん、なんか前方に光を発見。あそこが出口か?
どうやらそうみたいだな。だんだん光が近付いてきやがった。
そのままそこに吸い込まれるようにして……抜けた。

「……ん?」

 引っ張られるような力が途切れたら、今度は下に引き寄せられる。ってかこれ、重力だな。

「あ、やべこれ」

 下向いたら、そこには綺麗な青い海が広がっておりました。しかも、昼間になってる。どういうこっちゃ。
とかなんとか考えてる場合じゃねぇな。このまま落ちてもなんとかなるだろうが、周りに島らしきものが無い。泳ぐっつってもハードな遠泳になりそうだぜ。
と思ったら俺の体が空中で止まった。……もう何が起こっても驚かんな。

「うぁっちゃー……間に合わなかったかー」

 声のする方を見上げると、なんかデカイのが四匹程浮いてたんだが。なんぞこの状況。

「すいません、私の力が及ばなくて……」
「いやぁ、パルっちは頑張ったよ。でも早くここを閉じないとまだ被害が……」
「あー、多分その穴、もうこっち側しか開いてないから無害だぜ。閉じといた方がいいだろうけど」

 俺が声を出すと、全員がこっちを向いた。どうやらこいつ等、この穴を塞ぐ為にここに居るみたいだな。

「お前は、喋れるのか!?」
「まぁな。っつーより、出来るんならそいつを早く閉じた方がいいぞ。下手に鳥ポケモンなんかが入り込んだら、まず出れなくなる」
「そ、そうだね。パルっち、もうちょっと頑張って」
「了解しました」

 パルっち? ……ピンク色の大きな竜のポケモン、それにその呼び方……。
何もない場所にぽっかりと開いた穴に手をかざすと、それはゆっくりと閉じていく。空間の制御、それが出来るって事はこいつは……。

「空間の神、パルキアか?」
「オフコース。それに時間の神……というか管理者のディアっちょに、破れた世界の管理者のギラ君、そして私がー、この世界全ての管理者のアルセウスでっす! よろしく、異世界のサンダース君♪」
「……どうやら、俺はとんでもないもんを抜けちまったみたいだな」
「とりあえず……ウェルカムトゥマイワールド、ってところかな? 恐らく事故的に巻き込まれたんだと思うけど」
「いきなり『異世界のものはここに居てはならない!』とか言われるより歓迎されてる方が幸せだろうなぁ……」
「あははは……とにかく一旦落ち着いてお話しましょか。どうやら、そちら側の事情を知ってるみたいだからね」
「話せる範囲でなら、になるがな」

 どうやら俺はこのアルセウスって奴の力で今浮いてるらしい。ならば俺に拒否権は無い。大人しく運ばれるとするか。

 ……で、なんで俺は今スイカ食ってんだ? いや、美味いけどもさ。
しかし驚いた。空に地面が浮いてた事にもだが、そこに家が建ってて、おまけにそれが人の姿になったこいつらのだったとはな。

「いやー、やっぱりスイカはこの八つ切りに切ったのをガブッと行くのがいいよねー」
「うん、甘くて美味しいですね!」
「あ、サンダースさんお塩要ります?」
「おっと、んじゃあ掛けてもらおうかな」
「……って、和みすぎですよアルセウス様」
「まぁまぁ、サンダース君も突然こんなところに飛ばされちゃって戸惑ってるだろうし、落ち着く為にもね」
「塩振らなくても甘かったが、振ると際立つねぇ」
「……サンダースさん、めっちゃ馴染んでますよアル様」

 おたおたしてもどうしようもねぇからな。さて、いい加減サンダースさんって呼ばれてるのにも違和感あるし、自己紹介でもするか。

「じゃ、こっちの自己紹介といくか。俺はサンダースのライト。出来ればライトの方で呼んで頂けるとありがたいねぇ」
「ライト君ですか。こっちは、先ほど紹介した通りですね」
「パルキア、ディアルガ、ギラティナにアルセウス、だったな。神が勢揃いたぁ贅沢なお出迎えだったぜ」
「それを聞いても物怖じしないライトさんは、一体何者なんですか?」
「なぁに、ちょいと世界中を旅する流れ者ってだけさ。まぁ、最近は一軒の家に世話になってたんだがな」

 紹介を済ませてスイカを一口。水分補給が一緒に出来る点は、スイカは良い食材だよな。

「んで、聞きたい事は結構あるんだが、どっちが先に始める?」
「そうですねぇ……ならまず、ライト君があのゲートを通ってしまった経緯を聞いていいですか?」
「あいよ。そうさなぁ……まず誤解を産まないように言っとくぜ。あの穴を作ったのは、あっちのパルキアじゃあない」
「何? パルキアでなければ誰が空間に亀裂を生じさせたんだ? まさか、人間か?」
「いやぁそうでもねぇんだ。実は、俺の知り合いにパルキアと同じ力を持ってるポケモンが居てな……」

 そこから、リィについての説明と、その力の訓練中にあの穴が出来た事を説明した。こっちで分かるのは、そこまでだしな。

「なるほど……」
「何故リィの力になんらかの干渉があったか、あの穴が開いたかについてはあんた達の方が知ってそうだな」
「そうですね。力の干渉は」
「私が空間の歪曲を抑えようとしているのが、そのリィさんの、空の扉という力に干渉したので間違い無いでしょう」

 ……見事な変身だなぁ。どっからどう見ても人の女にしか見えんぜ。髪の色が綺麗な亜麻色なのも、様子の綺麗さに貢献してるぜ。

「あぁ、私がもっとちゃんと歪曲を抑えていればぁ……」
「どぉどぉ、落ち着いてパルっち。ライト君がこっちに来ちゃったのは仕方ないとして、それで被害は済んだ事だし」
「穴が出来た事についても、毎日その訓練をしていた事を考慮するとこちらの不備という事になりそうだな」
「空間の歪曲が増えて、リィさんの力にリンクしちゃったのが原因って事になりますもんね」
「……うっ、うわぁぁぁん!」
「……あんた等、タイミング考えて発言しようぜ?」
「うっ!? す、すまんパルキア」
「あぅぅ、パル様ごめんなさい~」
「おーよしよし、パルっちは頑張ってたよー」

 慌ててるディアルガとギラティナ、泣いてるパルキアとそれをあやすアルセウス。……神って結構普通なのな。
まぁ、落ち着くのをスイカ食いながらしばらく待つか。この中で1番冷静なのが、サンダースの俺ってどうなんだろうか?
パルキアが落ち着きだすと、慌ててた二人も落ち着いてきた。が、パルキアに睨まれて怯えてたが。

「んで、話を戻すけどよ。俺は結局、今まで居たのとは違う世界に居るって事でいいんだな?」
「そうなりますね。混乱してパニックになってないのはこちらとしてもありがたいですよ」
「ま、見知らぬ土地に行くのは慣れてるっちゃあ慣れてるからな。異世界とは、とんだ遠いところに来たもんだ、くらいなもんかね」
「でもでも、戻れるかどうか不安じゃないんですか?」
「確かに、最初に出会ったのがあんた等じゃなければどうすっかなぁくらいには思っただろうが、状況的に俺は恵まれてるだろ」
「そうですね、もちろんライト君には元の世界に戻れるよう手配しますよ。ただ……すぐにとはいかないかもしれませんけど」
「……さっき言ってた、空間の歪曲をなんとかするまでってのが正解かね?」

 アルセウスが苦笑いしながら頷いた。まぁ、そうなるだろうなぁ。
俺としても、そんな不安定な状況で帰される為の穴を開けられたとしても、また違うところに繋がっちまったなんてオチになりそうで落ち着かん。それだけはマジ勘弁だ。

「実際のところ、それはどうにかなる代物なのか?」
「全力を持って対処してみせます! 絶対に!」
「パル様のサポートの為に、私も破れた世界側から修復作業をやりますし」
「俺とアルセウス様も援護に入る。時間は掛かるだろうが、どうにかは出来るだろう」
「あぁ、さようなら私のまったりライフ……」
「……まぁ、俺はとりあえず無事だし、帰れるんならゆっくりでも問題無いぜ。流石に何年も掛かるって訳じゃないよな?」
「寧ろ、空間歪曲を何年も放置しておけないからな。早くて一週間、遅くても10日間程だろう」
「なるほどねぇ……ま、その間はこっちの世界の厄介になるとするかいね」
「えぇ!? ライトさん、この世界に仇なす者なんですか!?」

 ……俺を含め、ギラティナ以外が溜め息をついたって事は俺が言った事はきちんとした意味で伝わったって事だよな。
どうやらこの中で最年少がギラティナで、まだ世の中勉強中って事らしい。俺が言った事の意味を説明すると赤くなってたよ。
見た目通り子供って事か。……元の姿を見ると、とてもそうは見えんがなぁ。

「と、とにかく、ライトさんを戻せるようになったら必ずお戻し致します!」
「あー、パルキアさん、そんなに気張らなくてもいいぜ? あんまり肩肘張りすぎると、良い仕事出来るのも出来なくなっちまうぜ?」
「そーそー、ほーらリラックスリラックス♪」
「にょあ!? にゃははは!? あ、アルセウス様、止めっ! あははははは!」
「……ははっ、賑やかなのは良い事だねぇ」
「すまんな、うちの管理者はこんな感じなんだ」
「でもアル様はすっごく良いお方ですよ、本当ですよ!」

 そんなに力説しなくても分かるさ。部下想いの良い奴じゃないか。
さてと、俺として本題はこれからだな。この世界での身の振り方って事にもなるし、きちんと聞いておかねぇと。

「んで、それまでの間、俺は何処に居ればいいんだ? あんた等が仕事をするとなると、ここも無人になるんだろ?」
「あ、確かに。どうするんですかアル様?」
「あそっか、うーん……」
「なんなら野良でフラフラしててもいいが……」
「いや、それは不味いな。この世界のポケモンは、基本的に人間の言葉を喋れない。君のような存在が野生に居ると、人間に狙われる危険性が高くなるだろう」
「あ、そうなのか? そういうの聞くと、やっぱり違う世界に居るんだと思うな。こっちは皆普通に喋るぜ?」
「へー、そういうのも面白かったかも……でもそうなると、やっぱりあそこしか無いかなぁ」

 あそこ? 俺が喋れても問題無いところなんてあるのか?

「実は、喋れるポケモンが居るところがこっちにもあるんですよ」
「なんと? でも、喋れないって事なんじゃねぇのか?」
「まぁ、そこだけは例外って感じです。多分断られないとは思うけど、一応メールしとこっと」
「あ、零次さんって人間さんのところですね!」
「ん、人間のところなのか?」
「あぁ、人間でアルセウス様と面識もあるし、確かに適任ではあるな」
「返信キター! っと、オーケーっぽいですね。流石零次さん、そこに痺れる憧れるぅ♪」

 どっかで聞いた事ある台詞だったが、ここはあえてスルーしておこう。こんなんでいいのか世界の管理者……。
しかし人間のところか。最近家とかに本当縁あるな、俺。

「でも今日はここに泊まってって下さいね。日はまだ高いにしても、ちょっと急過ぎますから」
「あぁ、了解だ」
「って事で、中断してたDVD上映会再開~。パルっちも、もう今日急いでなんとかしなきゃならないのは無いんだし、一緒に見てくでしょ?」
「え? いやでも……」
「まぁ、今日くらいはいいんじゃねぇの? さっき言った通り、俺もそんなに急いでねぇし」
「それに、今日のゲートを塞ぐ為に疲弊してるんだろ? その状態で無茶しても、大した事は出来んだろ」
「何かあったら私もディア様も居るんですし、パル様はゆっくり休んでください」

 少し戸惑ってるパルキアに、皆で笑い掛けてソファーに座るよう促す。……良い仲間じゃないか。
そんなら、俺もそのDVDとやらを見せてもらうとするかな。……微妙な疑問だが、ここって電気とかどうしてんだ? いや、常識的に考えても疲れるだけか。



『……タウンで続いているポケモン誘拐事件ですが……』
「まーだこの誘拐犯捕まってないのね。警察は一体何やってんのかしら」
「でも怖いですね。ポケモンだけを狙う誘拐なんて」
「うむ、ポケモンである我らは警戒するに越した事は無いだろう」
「まぁ、蒼刃なら逆に撃退出来るだろうけど、心紅と拳斗はあまり一匹で出歩くんじゃないぞ。心紅は、人の姿に化けてれば問題無いかもしれないけど」
「ル! 分かった!」
「そうですね……分かりました」
『私は基本的にアクアボールの中だからね……零次、ボールを盗られたりしないでよ?』

 分かってるって。にしても、この町でこんな事件が起こるなんて思ってもみなかったな。
一週間位前からだったか、この町でポケモンが唐突に居なくなるって事件が起きた。最初はポケモンが逃げ出しただけだって言われてたんだが、その事件が様相を変えるのにそう時間は掛からなかった。
襲われ、ポケモンを奪われたっていう届出が出されるようになったと思ったら、こうしてテレビで報道される事件にまで発展したんだ。今じゃあ町中このニュースの話をしているくらいに。
司郎は『犯人なんかイリュージョンで引っ掛ければ楽勝じゃね!?』とか言ってたがどう考えても返り討ちに遭う未来しか見えんな。

「そうだ零次、今日はアルセ……んんっ、アルス殿が来るんではなかったか?」
「あ、そう言えばそうだったな。まぁ、ただ遊びに来るだけだと思うけどな」
「それだと、朝から行くって言うのは変じゃないですか? 零次さんが学校に行くのは知ってますよね? アルスさん」
「……そういえばそうだな。それに、昨日のメールでは一つお願いがあるとか書いてあったっけな」
『お願い、か。なんなんだろう?』

 さぁ……でも無茶な事は言ってこないだろうさ。
なんて話してると、家の呼び鈴が鳴った。噂をすれば、かな。

「あら、誰かしら」
「多分今話してた俺達の知り合いだと思う。俺が出るよ」

 居間から出て、玄関に向かう。アルスさんに会うのも少し久々かな。
玄関を開けると、いつも通りのアルスさんと……なんだ? 見知らぬ男の子が居た。白髪の男の子か……。

「おっはようございます零次さん! いやぁすいませんね、こんなに朝早くから押しかけちゃって」
「突然現れるのはいつもの事じゃないですか。ところで、その子は?」
「あ、この子ですか? えーっと私の知り合いで」
「は、始めまして! アル様にお世話になってる……あの……」
「……ギランだろ?」
「あ、はい! ギランって言います!」

 ……ん? なんか今、第三の声が聞こえたような?

「とりあえずまずはこれ。お祝いでーす♪」
「はぁ……お祝い? なんのですか?」
「とぼけちゃって~。も・ち・ろ・ん、零次さんと心紅ちゃんの、ですよ♪ あ、別に覗き見してた訳じゃないですからね。そういう波長があったって言うのを知ってるだけですから♪」

 噴いた。そりゃあもう盛大に。つまりそれは、俺と心紅の関係を知ってるって事だよな。やばい、勝手に顔が赤くなってくのが分かる。

「い、いやその、俺と心紅の仲はそんな特殊なものではなくて! いや、特殊だけど!」
「赤くなっちゃって、零次さんか~わ~い~い。って、零次さんをからかってる場合じゃなかった」

 お、落ち着け俺も。置いてけぼりになって、ギラン君の顔に疑問符がいっぱいだ。

「実は、昨日メールした通りに零次さんにお願いがあってきたんですよ」
「はぁ……差し当たって言うと、そのギラン君を預かってほしいとかですか?」
「イグザクトリィ! って言いたいんですけど、預かってほしいのはギラン君だけじゃないんですよ」
「と、言いますと?」
「まぁ、さっきの声で分かったかと思うが、ここにもう一人……というか、一匹居るんだな、これが」

 アルスさんとギラン君が避けると、そこには一匹のポケモンが居た。……ん? ポケモン!?

「えっと、喋れるサンダースの」
「ライトだ。訳あってこの二人と知り合ってな、一時的に暮らす場所に困って、このアルスさんの提案であんたんとこに世話になれればと思って尋ねさせてもらった」
「で、わた……じゃなくて僕は、ライトさんのトレーナー替わりという事でお世話にならせて貰えればなと思って、ついて来た次第です!」

 トレーナーじゃなくてトレーナー替わりって事は、別段主従関係にあるって訳ではなさそうだな。

「そんで、世話にはなれるんかな?」
「え、あ、あぁ……少し母さんに話さないとならないけど、多分大丈夫だと思う」
「ならば話は私からしましょかね。零次さんのお母さんにも会ってみたいですし」
「えっと、お邪魔します!」
「そんなら、俺も邪魔させてもらうとするかいね」
「あぁ、えっと、どうぞ」

 ……とりあえずアルスさんの知り合いって言うなら、怪しい事は無いだろう。伊達に創造の神ではないんだし。
家の中に通すと、ギラン君はやけに緊張した面持ちで靴を脱いだりしてたが、ライトと名乗ったサンダースは落ち着いた様子で足を拭いてる。……拳斗と蒼刃用の足拭きタオルをすぐに見つけるとは、やるな。
先導してリビングに入ると、流石に皆驚いてた。まぁ、見知らぬ顔が二つもあればそうなるわな。

「あ、アルスさんと……零次さん、そちらは?」
「いや、まだ俺も詳しくは聞いてないんだが……」
「始めまして! ギランって言います!」
「ライトだ。……へぇ、ラティアスが喋るとはねぇ」
「し、喋った? 零次、どういう事よ?」
「私からご説明しましょう! あ、私は零次さんの友達でアルスって言います。零次さんのお母さん、どうぞお見知り置きを!」
「はぁ、これはどうもご丁寧に」

 アルスさんが母さんに説明を始めると、俺以外の面々はその説明に聞き入り始めた。アルスさんが持ってきた饅頭は、食卓の上にでも置いとこう。
俺は玄関で多少聞いたから程々に。……ん? ギラン君とライト……でいいよな? ライトは小声で何か話してるようだ。

「期間は一週間から10日程なんですけど、お願い出来ませんか? もちろん、必要な食費や生活費はお支払いさせてもらいます!」
「うーん……」

 ん? 母さんがギラン君を手招きで呼んだ。……何故徐ろに頭を撫でたり頬を撫でたりしてるんでしょ? いやまぁ、なんかギラン君嬉しそうにしてるからいいか。
で、お次はライトが呼ばれると。苦笑いしてるが、とりあえず寄っていった。
やっぱり撫でると。ん? でもサンダースの毛は触れると危険じゃ……いや、大丈夫みたいだな。首周りの毛なんか危なそうだが、母さんの手が触れると柔らかそうに揺れた。……少し触れてみたいかもしれない。

「よし! 預かりましょう!」
「やった! やりましたねライトさん!」
「あぁ……でもなんで俺達は撫でられたんだ?」
「なんというか、どんな子なのかの確認ってとこかしら。ギラン君は良い子そうだし、ライト君の毛並みには惚れたわ。これはもう、幾ら撫でてても飽きないレベルだわ」
「はぁ……そりゃどうも」

 ……母さんが気に入ったんならまぁいいか。よっぽど気に入ったのか、まだ撫でてるよ。
でもこれで、ギラン君とライトが一週間はこの家で生活すると。……事件が起きてるこんな時期に、ポケモンの居候が増えるとはな。

「自分で言うのもあれだが、見ず知らずで転がり込んじまって済まないな。頼れる相手がまったく居ないもんでね」
「短い期間ですけど、よろしくお願いします!」
「ふふっ、どっちも良い子って事は今ので分かったわ。こちらこそ、よろしくね」
「……? 蒼刃、どうした?」
「あのサンダース……いや、なんでもない。気にしないでくれ」

 ? どうも蒼刃の様子が変だが、ライトに何かあるのか? 喋るのは確かに不思議だが、それ以外は普通そうだがな?
何かあれば後で聞いてみるか。今日は学校に蒼刃を連れて行く予定だし。

「それじゃあ、俺は学校行く準備してくるよ。蒼刃も準備しておいてくれよ」
「了解した」
「んじゃあ私達は自己紹介でもしてようかしら。あ、ギラン君とライト君は朝ご飯食べた? 食べてないなら、何か作るけど」
「そいつは助かるな」
「ぜひ頂きたいです!」
「同じく!」
「……いや、アルスさんよ? あんたは仕事行くんだろ?」
「そんなつれない事言わないで下さいよぉ~。落ち着いてご飯食べれる最後のチャンスなんですからぁ」
「ふふっ、じゃあ三人分何か作ろうかしら。心紅ちゃん、手伝ってくれる?」
「はい、分かりました」

 ……家の方は母さんも心紅も居るし大丈夫だろう。学校から帰ったら、俺も話を聞かせてもらおうかな。


~一日目 昼~

 いやぁ美味い飯だった。レンの腕に引けを取らない美味さだったぜ。
現在は、朝飯を済ませて少し寛いでるところだ。にしても、本当に俺の方にギラティナ、ギランをお付きにしてよかったんかねぇ?
これはアルセウス、アルスからの提案だった。空間の修復は私達三人でやるから、ギラ君はライトさんにもしもの事が無いように付いててってな。
ぶっちゃけ、俺に何か起こるってこたぁあまり考え難いが、どうやらギランもここの面々と知り合いたかったらしいから、断る事もしなかったって訳だ。
しかし、ギランの姿はなぜこれをチョイスしたんだか? セーラー服に水色のスカーフ、それにカーゴパンツ型の短パンって……子供らしさ推し過ぎるだろ。

「でもよかったですね、ライトさん。無事に置いてもらえて」
「まぁな。気になったんだが……ギラン、お前のその姿って、何かモデルが居るのか?」
「え、これですか? アル様から見せてもらったファッション誌っていうのから良さそうなのを選んでもらったんです。どうですか?」
「まぁ……いいんじゃねぇか?」

 なるほど、奴の趣味だったか。見た目子供なんだしいいのか。
さて、こっちでの拠点が出来たのはいいんだが、どうも俺が居た世界とは勝手が違うらしい。……微妙に今でも、違う世界に居るって事が腑に落ちてないんだが。
故に、ふらふら散歩に出るのも難しいか。折角違う世界とやらに居るんだし、見て回るのも面白そうなんだがな。
……ん? 何かがこっちを見てるな。あれは……リオル? あ、さっき紹介されたっけな。拳斗って名前だったっけか。

「よぉ、どうかしたかい?」

 あ、耳立ててもっと隠れちまった。こりゃあ、人見知りって奴かねぇ?
しかし、リオルか……レン、あの後どうなったかね。こっち側に吸い込まれる事は無かったみたいだが、結構強めに殴っちまったから怪我とかしてねぇといいんだが。
……戻ったら、ちゃんと謝らないとならないな。殴った事も、こっちに流れちまったことも。きっと、心配させちまってるよな。
やれやれ、戻ってからも忙しそうだぜ。リィやフロストにも問い正されそうだしな。

「ライトさん……? どうして笑ってるんですか?」
「ん? 今俺、笑ってたか?」
「はい。ちょっと苦笑いでしたけど、嬉しそうでしたよ?」
「いや……誰かに心配してもらえてるって、嬉しい事だよなってさ」

 これは、放浪者をやってたんじゃ分からない嬉しさだよな。心配を掛けてる相手にゃ悪いけどよ。

「あ、えっと……」
「ん? あぁ心紅ちゃんだっけ? 済まねぇな、俺達の分の食器まで片付けてもらって」
「い、いえ! 元々お手伝いで洗い物とかは私がやってるんで!」
「はは、そんなに緊張しなくてもいいんだぜ? 俺は、別に特殊なポケモンじゃねぇからさ。あの青いポケモンさんみたいによ」
「え!? 蒼刃さんの事、分かるんですか!?」
「具体的にどうとは言えねぇけどな。なんというか、纏ってる覇気が違うっつうのかな」
「ライトさんそんなの分かるんですか!? わ、じゃなくて、僕には全然分かりませんでしたよ!?」

 ……ギランはもうちょい僕って言うのに慣れねぇといけねぇな。まぁ、今まで使ってた一人称を変えるってなぁ結構大変だろうけどよ。
それに、これは経験則から来るもんだからな。戦い慣れてたりしねぇとちっと分からんのではないかねぇ。
って、ぬぉ!? なんか抱き抱えられたぞ!?

「んー、やっぱりこの毛、凄くサラサラ。心紅ちゃんの艶やかなのも良いけど、これは別の良さねー」
「知子さんですか……抱っこするのは構わんですけど、せめて一声掛けて下さいよ」
「うん、今度からはそうする」

 後ろから来るとマジでビビる。ってか、あまり腹の毛を撫でないで頂きたいもんだ。

「でも、ライト君って軽いわね。拳斗君とあまり変わらないんじゃないかしら?」
「元々サンダースはイーブイの進化系で1番軽いですからね。それに加えて俺は、必要な分以外は食わないし」
「なるほど、この毛皮の下の靭やかな筋肉はそういう理由で出来てるのね。華奢に見えるけど、相当力あるでしょ」
「……知子さん、なかなか侮れない観察眼ですね」
「でしょ? 元空手家は伊達じゃないわよ♪」

 なるほどねぇ……どうやら侮れない家庭に厄介になることになったようだ。あの零次って奴もかなり戦れそうだったし。
ま、こん中で1番戦れるのはあの青いのだろうけどな。蒼刃って言ったか、居る間に一勝負しても面白いかもな。
しっかし、この縫いぐるみ状態は流石に勘弁願いたいところなんだがな。利点があるとすれば、警戒してた拳斗ってリオルがこっちに寄ってきたくらいかね。

「ねぇ、ライト君とギラン君ってどういう関係なの? トレーナー替わりって聞いたけど、そうじゃないんでしょ?」
「えっと……」
「まぁ、言っても問題ねぇんじゃないか? どうせ俺は一週間くらいしか居ないんだし」
「は、はい……ライトさんは、この世界のポケモンじゃないんです。って言っても、信じてもらえないかもしれないけど」
『へぇ、なんだか違う感じがしたけど、違う世界のポケモンと来たか』
「ん? えーっと海歌さんだっけ? あんたは人間の言葉を喋れないのか?」
『生憎ね。でも興味あるかな、その話は』

 それならって事で、ここまでの経緯をまた説明だ。……こっち来てからこんなんばっかりだな。ま、事情が事情だからしょうがねぇか。

「時空に穴が開いて……」
「それに巻き込まれて……」
「今ここに居るって訳だな」
「で、僕はライトさんがこの世界で生活するに当たってのお手伝いをする為に一緒に行動する事になったんです。アル様から呼ばれなかったらですけど」
「なーんだ、それならそうと最初から言ってくれればよかったのに」
「普通、こんな話を信じる奴ぁ居ないと思うんだがなぁ」
『この家の人達はちょっと変わり者だからね。事情があるポケモンも多く居るし』

 なんとまぁ、凄いもんだな。そんなに理解力のある人間、そうは居ないだろうさ。

「えっ、と言いますか、今の話、信じてくれるんですか?」
「ギラン君もライト君も嘘ついてる様子は無かったからね。まぁ~、ちょっと信じ難い話ではあるけど」
『この家にはポケモンと人間のカップルや二千年前のポケモンなんて言う変わり種も居るんだし、今更別世界のポケモンだなんて言われても驚かないよ』
「ちょ、海歌ちゃん! バラさないで……あ」

 ……多分、この心紅とさっきの零次って奴がカップルで、蒼刃が二千年前のポケモンって奴だな。はぁ、こっちが信じられない気分だぜ。

「……俺くらいでは驚かない理由が少し分かったわ」
「す、凄いところですね、ここ」
「そういう訳だから、ライト君もギラン君もゆっくり寛いでね。あ、でも外に出る時は一言掛けて」
「ん、やっぱり何か不都合があるんすか?」
「それもだけど……あ、これが原因よ」

 知子さんがテレビを指差すから、それを追ってテレビのディスプレイに目を向けた。
……ポケモンの誘拐事件? やれやれ、何処にでもこんな事件が起こってるんだな。

「この事件が起きてるの、この町なのよ」
「なんだって? つまり、町中でポケモンが消えてるのか?」
「それは、見過ごせない事件ですね……」
「だな。どういう事なんだい?」
「事件自体は最近起こったものなんですけど、犯人が分からないまま被害だけが増えてるんです」

 ふーん……よっぽど上手く隠れて犯行に及んでるか、集団で犯行を行ってるかだな。

「それは昼間も起こってるのか?」
「少ないけど、昼間にも起こってるみたいね。だから、トレーナーはかなり警戒してるって話よ」
「そんな中をポケモンだけで歩いてれば、どうぞ攫って下さいなってところか」
「こ、怖いですね……ライトさん、何処かに行く時は僕に一声掛けて下さい。一緒に行きますから」
「了解だ。用心に越した事は無いからな」

 ふむ、ここの現状も知る事が出来た。出掛ける為の不安要素も分かったし、良い事聞いたな。

「んじゃあ早速行くとするか」

 悪いが知子さんの腕から脱出させてもらった。流石に同じ状態で居るのは飽きちまうんでな。

「え? ライトさん行くって……」
「ん? この町を散歩にでもさ。一週間も世話になるんだ、多少地理を知っててもいいだろうよ」
「でも今危険だって聞いたばかり……」
「危険なんてなぁ何処に居たってあるもんさ。んなもん笑い飛ばして、その場を楽しむのが俺のスタイルなんでね」

 ギランについて来るよう手招きすると、慌てたようについて来た。人間の世界の様子を知りたいらしいし、こういう機会は有意義に使わんとな。

「あぁ、ライト君! 本当に気を付けて行くのよー! 預かって一日で何かありましたじゃあまりにも立つ瀬が無いわ!」
「了解してます。なに、本当に散歩してくるだけですよ!」
「で、では、行ってきますー!」

 ギランが靴を履くのを待って、一緒に玄関を出た。一応、確認しておきたい事項もあるしな。

「さてギラン、外で俺はどうやら堂々と喋る事は出来んようだ。誰かが話しかけてきたりしたら、頼りにさせてもらうからな?」
「はい! お任せ下さい!」
「よろしい。それともう一つ、俺を連れてるって事は、まず間違い無くトレーナーとの戦闘が起こることもあるだろう。そういう時は、俺に戦えって指示を出すだけでいい。細かな指示まで出さなくていいからな」
「な、なるほど……どっちにしろ僕、細かな指示の出し方なんて分かりませんし」
「あぁ。それと、指示を出す時は……というか普段からでもいいが、そういう時はライトって呼び捨てで構わない。自分の手持ちをさん付けで呼ぶのはおかしいだろ?」
「確かに。が、頑張って善処します!」
「オーケー、そんじゃ、ちょいと行くとするか」

 そんじゃ、どの辺から行くとするかな。……ん? 後ろからドアが開く音がしたな。なんだ?
振り返ってみると、そこには拳斗の姿があった。……ついて来たいのか?
ギランと顔を見合わせて、なんとなく頷いてみた。まぁ、連れが一匹増えてもいいやな。

「……来るなら来な。ついでに、案内してくれるとありがたいしな」
「拳斗君でいいんですよね。一緒にお散歩しましょうよ!」
「ルゥ……いいの?」
「ちゃんと知子さんか心紅ちゃんには言ってきたんだろ? それなら構わないぜ」
「う、うん!」

 おっとぉ、飛び乗られるとは思わなんだ。ま、俺的にはいつもの事だから構わんけどよ。
その様子をギランには笑われちまったが、とりあえず歩きだそう。適当に歩いてれば何処かに行き着くだろ。
……流石にアキヨみたいに、普通に往来をポケモンが歩いてるってなぁ少ないな。まぁ、これが普通の町並みなんだが。

「おぉー、これが人の町なんですね。アル様は普通にしてればなんともないって言ってましたけど、ちょっと緊張しちゃうなぁ」
「まぁ、気張らずぼちぼち行こうぜ。……こうして小声でなら、そんなに目立たず話せそうだな」
「そうですね。あ、何か広いところがありますよ!」

 やれやれ、俺以上に周りに興味深々ってところだな。一人で先行かれて逸れられたら一大事だ、俺も急ぐか。
ここは……駅前の広場ってとこかな。ギランは……まぁ、子供だから目立ってくれて分かりやすいぜ。

「わー、人がいっぱいだ」
「……あまり一人でうろうろしないでくれよ?」
「あ、ごめんなさい。でも、ここはどんなところなんでしょう?」
「ここは駅って言って、電車って言うのに乗って遠くまで行けるんだよ」
「へぇー、凄いなぁー乗ってみたいなー」

 無茶を言わんでくれ。そんな遠出予定に無いし、何より先立つもんが無い。無理だっつの。
ん……やれやれ、こんな往来でかよ。止めて欲しいもんだなぁ。
ギランは気付いてないが、なんかこっちに近付いてくる奴が居る。……腰にはボールが三つか。三連戦……問題無いだろう。

「ねぇ、君!」
「? え、僕ですか?」
「そうそう! その二匹、君のポケモン!?」
「えぁ、い、いえ、このリオル君は今預かってるだけで……」
「じゃあサンダースは君のなんだね! よかったら、バトルしない!? サンダースなんて珍しいから是非したいんだ!」

 まぁ、そりゃ困るわな。やれやれ、アキヨじゃ滅多に無いんだが、場所が違えばルールも違うか。
こりゃあ受けるしかないだろ。基本的に、申し込まれたバトルを断るには負けた時と同じペナルティが発生する。が、一文無しの状態の俺達じゃ差し出せるのはポケモンくらい、つまり俺自身しか無いんでな。
まさかこいつ、それを狙って? ……じゃないにしても、結果としてそうなるんだから戦るしかねぇやな。
ギランに目で指示する。受けろってな。

「わ、分かりました……そのバトル、お受けします……」
「よかった! あ、でもお金持ってる? 持ってないと、君のサンダースを貰う事になっちゃうけど」

 うわ、ガチでそっちが狙いだったよ。まぁ、じゃなきゃこんな子供にバトルなんて吹っ掛けないわな。
しかし、こっちが負けるのを前提に話をされるのは癪に触るぜ。そうそうやられてやると思うなよ?

「へ、平気です。……って答えていいですよね?」

 軽く頷いてみせる。っと、なんとなく理解してくれたのか、拳斗がすっと俺から降りてくれた。説明の手間が省けてよかったぜ。
そんならギランの前に出てっと。さーて、何が相手になるんかいなっと。

「悪いけど、僕も結構強いよ! 行け、ギャロップ!」

 ほぉ、素早さ勝負でもするつもりか? 炎タイプでも足の速さで勝負するタイプを出すたぁ、俺も舐められたもんだ。

「ギャロップ、ニトロチャージだ!」
「た、戦って下さい、ライト!」

 了解だ。ニトロチャージか……体に炎を纏って、力を溜めての体当たりだったな。纏った炎の力で加速する良い技だ。
が、俺を普通のサンダースと思って舐めてるんだ、幾らスピードを上げても覆せない自力の差って奴を見せてやるか。
向かって来たギャロップの動きを……見切る。残念だが、スローに見えるレベルだぞ?

「うわわ、ライト、避けてぇ!」
「よーし直撃コース!」
「……んな訳ねぇだろっと」

 奴の足がぶつかる直前に真横に避けて、ガラ空きの脇腹を思い切り殴り抜いた。おー、綺麗に横にスライドしたな。

「……え!?」
「ぎ、ギャロップ!? なんでサンダースがギャロップの横に!?」

 そのままゆっくり、ギャロップは倒れた。ま、こんなもんだな。
倒されたポケモンは勝手にボールに戻る。これがあるから、まだ倒されてないなんて粘られなくて楽だよな。野良とは違う利点だ。

「す、凄い……」
「ギャロップが一撃で!? く、つ、次は……行け! フライゴン!」

 おぉ、スゲェの連れてるじゃねぇか。電気も効かないドラゴンタイプ、タフだし、力も体力も本来は低いサンダースなら天敵レベルの相手だ。
ギランも不安そうにしてるが、生憎俺は普通じゃない。この程度の相手は訳無いぜ。

「よし、フライゴン! 砂嵐だ!」
「砂嵐? わっ!」

 あ、この野郎迷惑な技使いやがって。周りの人にも被害が出ちまうじゃねぇか。
まぁ、十分に人は離れてたようだし、なんとかなるだろ。さて、ダメージは無いにしても、視界が塞がれたのは厄介だな。
相手は目を保護するカバーみたいのもあるからこっちを視認出来てるだろうし、なんか大技が来ると思ってて間違い無いだろう。

「そのまま破壊光線だ! 受け止めきれるかな!?」
「うわわわ、ど、どうしよう!?」

 ギラン、おたおたしなさんなーって。……ついでにこの砂嵐を吹き飛ばすチャンスだな。
この砂嵐の中じゃあ奴の姿は見えない。が、使ってくる技が光線なら……! ははっ、真正面の一部が光った。どうやら空中から撃ち下ろす形で破壊光線を仕掛けてくるつもりだったみたいだな。
攻撃方向は確認、光ってるのは力を溜めてる口の部分だからそれが一瞬見えなくなったら……飛んでくるって寸法だ!
前足に守りの雷を誘導して、向かってくる破壊光線に向ける。対特殊技用のカウンターアタックってところだな。
来た、収束した光の束が俺に当たろうと迫ってくる。そんなら、当たってやろうじゃん?

「いよいしょぉっとぉ!」

 仄かに白く光る前足が、光線に触れる。特殊技を拡散する力が働いて、光線はその収束を保てなくなる。
拡散していく光線に向かって……一気に前足を振り抜く!
……一気に力が拡散して、辺りを包んだ砂嵐を吹き飛ばした。まさに、一石二鳥ってな。

「わぁっ!?」
「な、なんだ!?」
「驚いてる暇は無いぜ、フライゴンさんよ」

 慌てて防御体制を取ってるフライゴンのところまで跳んで、その頭を抑えた。跳び上がった力が無くなる前に……体を仰け反らせるようにぐるっと回す!
フライゴンの背中が地面側を向いたのを確認して、後ろ足で腹の辺りを蹴ってやった。同時に前足を離せばどうなるか? んなの分かりきってるわな。
受身を取ることも出来ずに、フライゴンは地面に叩きつけられた。ふむ、まだボールに戻らないって事は、ちっと加減し過ぎたかね? ドラゴンタイプのタフさはやっぱり侮れんな。
そんなら止めに、くるくるっと回りながら体制を整えて……フライゴンの腹目掛けて着地っと。

『!? う、げ……』
「悪いやね。クッション代わりにさせてもらったわ」

 大の字になって伸びたようだし……おっと、ボールにも戻ったな。そんじゃ、ギランの前に戻るとするか。

「……へ?」
「え、フライゴンがやられてる!? な、なんで!?」
「大丈夫か、ギラン。そら、最後の一匹が出てくるぞ」
「え、あ、はい!」

 よしよし、良い表情するじゃねぇか。気合の乗ってるいい顔してるぜ。

「こ、これであなたのポケモンは残り一匹です! 降参してください!」
「くぅ~! ここまでやられてそんな事出来るもんか! とっておきの一匹だ、行くぞぉ!」

 やれやれ、ギランの一言で諦めてれば楽だったんだがなぁ。ま、ここまで一方的にやられればトレーナーとしてのプライドとして引けんわなぁ。
ボールが開いて最後の一匹が姿を現す。おや、見た事の無いポケモンだな。白い熊みたいなポケモンだな。

「よーしツンべアー、氷柱落としで先制だ!」
「き、来ますよライト!」

 言われんでも。おぉ、なんともデカイ氷柱を出すもんだな。叩き割れんことも無いだろうが、ここは避けとくか。
? 俺を囲むようにわざと避けて落とした? 何が狙いだ?
……!? なんだ、足が凍ってる!? いや違う、氷柱が落ちた先の地面が凍ってやがるんだ。その範囲に俺が巻き込まれちまったって訳か。
まさか俺の機動力を削ぐ為の先制をするとはな……少し、勝負を早く着け過ぎたか? 速いって事を印象付け過ぎたかもしれん。

「狙い通り! ツンべアー、冷凍ビームで追撃だぁ!」
「ちっ、逃げられんか」

 ツンべアーとか呼ばれてる奴の口から、冷たく輝く光線が撃たれる。うぉ、冷た! 守りの雷のお陰でダメージはそうでもないが、更に右半身が凍っちまった。こりゃ不味いぞ。

「もう動けないな。よぉぉし、絶好のチャンス! 暴れろ、ツンべアー!」
「グォォォォ!」
「う、うわぁ、逃げて、ライト!」

 出来たらそうしてるんだがなぁ。動けんのだわ、本当に。
うわぁ来た来た。我武者羅に突っ込んで来てるし、二、三撃は覚悟するか。
いって! いきなり顔面に爪とか勘弁してくれ。なんとか深く当たるのは避けたが、普通の奴ならそれで重傷になりかねんぞ。
で、お次は殴りつけてくると。額で受けたが、首の辺りまで衝撃来やがった。幾ら俺が異常だっつってもこりゃきついわ。
お次は踏みつけかよ。こんだけボコボコにされるのも久々だなぁ。暴れるは最大で八回くらい攻撃してきたっけな? 耐え切れるかね?

「ま、まだ倒れないの!? き、君、これ以上は危ないからサンダースを戻すんだ!」
「う、うぅ……」

 戻せっつっても無理な話だっつの。俺、ボールに入ってる訳じゃねぇもんよ。
っと、四撃目が来たか。……ん? 蹴り? ……チャンス到来じゃね?
凍ってない左脇腹にツンべアーの蹴りがぶち当たった。いってぇ……けど、俺の体以上に限界が来てたもんが先に割れちまったようだな。
気温は低くない、ましてはもう3発もきついのを食らってたんだ。そんな状態で、ただの氷がどれだけ耐えれるかなんて考えるまでもないだろ。
氷は砕けて、俺の体は蹴りの衝撃で吹き飛ばされる。軽いんだから当然だわな。
が、俺を倒すには足らなかったようだ。空中で体制を整えて、満点の着地を決める。ん、軽く頭がふらつくが、開放されりゃこっちのもんだ。

「ら、ライトさん!? 大丈夫ですか!?」

 駆け寄って来ようとするギランに前足を向けて制止する。勝負中にトレーナーがポケモンを庇ったりしたら、負けを認めるようなもんだからな。

「あの攻撃を耐えたっていうの!? そんな、サンダースにそこまでの打たれ強さなんて無い筈なのに!」

 普通のサンダースなら最初の爪撃で気絶してるっての。それを蹴りの前に三発も耐えた時点で察しろよ。
そんじゃあ、思いっきりやってくれたお返しをせんとならんな。地味にやばかったんだ、きっちり決めさせてもらうぜ!
足に力は入る、その力で一気に地面を蹴る。……どうやら、ツンべアーの暴れるは時間切れを起こしたようだ。

「うわ、来る!? ツンべアー堪えるんだ!」

 残念だが、もうまともに指示を聞ける状態じゃないみたいだぜ。目の前に唐突に現れた俺に驚いたツンべアーは、大振りに腕を振って……バランスを崩した。
その状態じゃ、まず防ぎようもないだろう。んじゃ、遠慮無く決めさせてもらうぜ。
上体を起こして、前足だけで立つ状態になる。重量級なようだし、久々に思い切りやれる相手だ。加減はするが、すぐに倒れてくれるなよ。
簡単に言えば、これから俺がするのは掌打のラッシュだ。だが、それを俺の力でやればどうなるかは分かるだろ?
白い腹目掛けて、俺の掌打が突き立てられる。一撃でもあのレオを気絶させる一撃だ、それを何発も喰らって立ってられる奴がどれだけ居ると思う。
およそ十発。ほぼ同時に当たる十発の掌打がツンべアーの体を貫いた。……一鳴きもせずに仰向けに倒れたが、死んではいないから心配無いな。

「……」
「い、一瞬で、倒しちゃった」

 ふぅ、あーしんど。取って置きの一匹なんて言うだけあるじゃねぇか。作戦も相まって、久々に軽く燃えたぜ。
頬に出来た切り傷を拭って、後は放っておけば自然と治るだろう。
これにて……俺の、勝ちだ。

「……ギラン、締めは頼むぜ」
「あ、はい! 勝負ありです! それとも、まだやりますか!」
「くぅぅうぅ! ……ごめん、僕の完敗だ。まさか、たった一匹のサンダースに負けるなんて……」

 たった一匹、されど一匹ってな。戦いは数だけじゃねぇって良い授業になったんでねぇの?
そんじゃ、授業料を頂くとしますか。トレーナーバトルとしてやったんだ、正当な報酬だろうよ。
どうやら大人しく報酬を渡す気はあるようだ。まぁ、そっちから吹っ掛けてきたバトルだし、ギャラリーもかなり居るんだ。逃げられんわな。

「あ、ありがとうございます」
「いやいやいいんだよ。ところでなんだけど……」
「はい? なんですか?」
「そのサンダースと僕のポケモン、交換しない!? 誰でもいいから!」

 そう来たか。まったく、懲りないな。

「遠慮します。ライトさ……ライトは、僕の大切なポケモンですから。あなたは、あなたと一緒に頑張って戦ってくれるその三匹を大切にしてあげて下さい」
「うっ……そう、だね……はぁ、本当に完敗だよ。バトルとしても、トレーナーとしても」

 そう言って、トレーナーは去っていった。……願わくば、ポケモン目当てでバトルを仕掛けるような事は卒業して、真っ当なトレーナーになる事を願うぜ。
おっと、ギャラリーからも拍手が送られてきた。……いつもならすぐに立ち去るところだが、まぁギランも居るし、たまにはゆっくり賞賛されるのも悪くないだろ。
で、当のギランは渡された金をじーっと見てる。こりゃ、後でなんか聞かれるな。

「ルゥ……ライトさん、大ジョブ?」
「心配は要らんよ。背に乗るなら乗っていいぜ」

 実際は軽くふらつくんだがな。幾ら俺が通常よりタフでも、受ければダメージはあるからな。
ちょっと躊躇ってたが、ゆっくりと跨ってきた。うん、リオルのサイズならこうやって乗っても安定するぜ。

「どうしましょうライトさん……お金貰っちゃいました」
「トレーナーバトルってなぁそういうもんさ。……ここじゃ小声でもバレるかもしれんな。場所移すか」
「そうですね。何処行きましょうか?」
「良いところあるよ。あっち」

 ん、拳斗にどうやら宛があるみたいだな。そんなら、案内に任せて行くとするかいね。
そのまま案内に従って歩いてく。ふらつくのは、多少根性でカバーだ。

「ここ!」
「公園か……悪くない」
「人もそんなに多くないですし、ちゃんとライトさんも休めそうですね。もう、さっきからフラフラじゃないですか」

 !? まさかバレた? 乗ってる拳斗も何も言ってこないくらい完璧に歩いてた筈なんだがな?
キョロキョロした後、何かを見つけてギランは走っていった。その先にあるのは……自販機か。
さっき金は手に入ったんだからそりゃ買えるわな。額は四千円、見た目が12くらいのギランからすれば結構な額だよな。
買った数本の飲み物を持ってギランが戻ってきた。そんなら、近くのベンチで休むとするか。

「好みが分からなかったから適当になっちゃったけど、どれがいいですか?」
「悪いやね。そんなら……ミックスオレで頼むわ」
「はい! あ、拳斗君も好きなの飲んでいいよ!」
「リオ? いいの?」
「うん!」

 ははっ、拳斗も嬉しそうだし、とりあえずバトルして損はしなかったな。ちとしんどかったが。
おっと、俺の分はギランが飲ませてくれる気らしい。どっちにしろ俺にゃあプルタブを開くのは無理だし、ここは厚意にあやかるとするか。

「はい、ライトさんどうぞ」
「すまねぇな」

 ……ぷはぁ、動いた後の甘いもんはいいねぇ。体に染み渡るぜ。

「でも、どうして戦ったんですかライトさん? 戦わなきゃあんな痛そうな事受けなくて済んだのに」
「トレーナー間のルールで、対戦を行った場合敗者は勝者に報酬を払うってのが決まってるのは知ってるか?」
「あ、さっき貰ったお金の事ですよね」
「その通り。で、この報酬には基本的に金を支払う事になってんだが、敗者側にそれを支払う事が出来なかった場合別のものを支払う事になってんのよ」

 金が無ければ道具、道具が無ければポケモン。それが昔から変わらない対戦終了後の報酬として手渡すものだ。金や道具が無くても、戦わせたポケモンは必ず持ってるって事になるからな。

「そ、そんなの酷いですよ!」
「確かに。だから最近では、金も道具も支払えない相手が負けたら、勝者が報酬を諦めるって事が増えてるんよ」
「そうなんですか?」
「あぁ。だが、さっきのあいつは『負けたらそのサンダースを貰う事になる』なんて念を押してきたよな? もし俺が負けてた場合、こっちには支払うものが無い以上、奴が言った通り俺は奴のポケモンになるしかなかったのさ」
「そんなぁ……ん? でもその話が、どうして勝負を受けた事に繋がるんですか?」
「簡単だ。あのバトルから逃げるには、負けた時と同じ報酬を支払わないとならないんだよ」
「へぇ~……え?」

 そう、俺達が無事にあの場をやり過ごすには、対戦に勝つ事しか残されてなかったんよ。

「で、でも、僕がトレーナーじゃないって言えば!」
「野生のポケモンが町に入り込んでるって事で、俺は警察に追い掛け回される。あの大衆の面前でそんな名乗りをすりゃあ間違い無くな。おまけに、お前さんと拳斗は漏れなく警察で事情を聞かれることになっただろうな」

 んで、拳斗の主人であるあの零次って奴か、知子さんが来るまで警察署の方に拘留決定ってな寸法だ。まったく、逃げ場の無い状況で嫌になってくるだろ。

「うぅ、それじゃあ僕はライトさんのお役に全然立てなかったって事なんですね……」
「んな事ねぇさ。お前さんが居なけりゃ散歩自体出来ないし、出来たとしてもさっきみたいな奴らが俺を捕まえようとしてきただろ。お前さんが居たからこそあのバトルに持ち込めたし、こうして飲み物にありつけてるんだ。役に立ってないなんて間違っても言えねぇよ」

 にっと笑ってみせると、なんだか照れたような様子で自分の分の缶を傾けた。制限を受ける今の状態じゃ、ギランの存在は生命線とも言えるもんよ。
ってか、結構気温高めなのに飲んでるのおしるこかよ。また変わったもん買ってきたなぁ。

「……ライトさんって、凄いですね。ポケモンなのに人間の世界の事に凄く詳しいし、とっても強いし。なんだか、羨ましいです」
「ま、俺の知ってる事は向こうの世界の基準って事にはなるがな。基本的なルールは変わらないようだから、俺の知ってる事も使えたに過ぎんさ」
「でも、やっぱり凄いです。僕なんか、神と呼ばれる者の一匹なのに何も知らなくて、頼りなくて……」
「……誰だって、最初からなんでも出来るって訳じゃねぇさ。俺には今まで歩いてきた道があるってだけだ。お前さんには、これから歩いていく道が前に広がってんだ。ゆっくり歩いていこうぜ、自分なりにな」
「あ……えへへ、ありがとうございます」

 ウインクして見せると、嬉しそうな笑顔が返ってきた。……いかんな、何俺は神相手に言ってるんだか。こういうのは絶対に師匠から伝染ったよなぁ。
でもま、なんとなくギランと仲良くなれた気もするしいいか。短い期間とは言え相棒だ、良い思い出作るのは悪くないだろ。

「ルゥ? ギランって神様なの?」

 ……拳斗が居るのすっかり忘れて話しちまった。どう返せばいいかね?

「あ、えっと、拳斗君はアルス様がとっても偉いポケモンだって事は知ってるんだっけ?」
「うん。アルセウスっていう凄いポケモンだーって、蒼刃先生が言ってたよ」
「先生? いやまぁそれは今はいいや。僕はね、アル様みたいに凄い方になる為に勉強してるんだ。うーん、見習いってところかな」
「凄くなりたいの? それなら、蒼刃先生にいっぱい色んな事聞くといいよ。蒼刃先生凄いもん」
「凄い、ねぇ? どう凄いんだい?」
「リオー……とにかく凄いの。兄さんも、蒼刃先生に教えてもらってるから凄く強いんだよ」

 兄さん? ……該当するのは、零次か? ふーん、あいつも変な人間だなぁ。
二千年前のポケモン、蒼刃先生か。ますます面白そうじゃねぇの? 事実はどうであれ、興味は出来たぜ。
あちらさんも俺について何やら興味を持ってたようだし、帰ってきたら少しばかり話をしてみるかね。

「さーて、そんならもう少しぶらぶらしたら帰るとするか。腹も減ってきたし」
「え? んと……あ、もう10時だったんですね。確かにお腹空いても仕方ない時間です」
「お散歩まだするの? なら、また背中乗っていい?」
「ん? 別に構わんよ。気に入ったかい?」
「リオ! 温かくてふわふわで気持ち良いよ!」

 ……そうだったのか。フロストやリィがこぞって乗ってきたり、ベットだなんて言うのにゃその辺が関与してんのかな?
自分じゃ調べようが無いから分からんのよなぁ。まぁ、乗った奴が満足するんならそれでいいか。
そんじゃまゆっくりまた散歩するか。願わくば、バトルは起きてくれないとありがたいんだがなぁ。


~一日目 夕~

 ……本日の稼ぎ、占めて7,582円なり。まさかあの後に二戦も吹っ掛けられるとは思わなんだ。
まぁ、その二戦は拳斗も協力してくれたんで楽に終わったがな。いやはや、まさかあんなに戦えるとは思わんかった。
その後心紅ちゃんに聞いた話で納得はしたがな。シンオウリーグチャンピオンの元手持ちたぁ驚かされた。
で、俺は今どういう状況かと言うと……。

「凄いんだよ! ツンべアーっていう大きな熊みたいなポケモンをライト兄ちゃんがドドドドーって!」
「そうなんですよ! まさか前足で突くだけで倒しちゃうなんて僕も思いませんでした!」

 ちびっ子二人、正確には一匹と一人……いや、二匹か? ややこしいのぉ。とにかく拳斗とギランに懐かれた。で、拳斗に乗られながら今日の散歩の話に付き合わされてるってところだ。
聞き手は心紅ちゃんと零次、それに海歌と……蒼刃だ。

「へぇ、でもサンダースってそんなに力あったか?」
「そうですよね。サンダースは確か、特殊技が得意な足の早い種族だったと思いますけど」
『けど、拳斗とギランが嘘をついてるようには見えないけど?』
「……嘘ではないだろうな。間違いなく、それが出来る力があるのだろう」
「へぇ、そう言う根拠はなんだい? 蒼刃先生?」
「その呼び方は遠慮したいんだが……まぁいい」

 やれやれ、大分警戒されてるな。まぁ、得体の知れない存在が近くに居るんだから当然か。

「率直に聞こう。貴殿は、何者だ?」
「見た通りのサンダースだが?」
「種族を聞いているのではない。何故そのような空気を纏っている? 我も、そのような相手には数える程度しか出会った事は無い。……もう一度問おう。貴殿は、何者だ」
「お、おい蒼刃? 何怖い顔してるんだよ?」
「止めなくていいぜ、零次さんよ。……そうだな、口で言うより、分かりやすい方法で行くかい?」

 立ち上がるか。俺もノリで言ったが、このレベルの相手をするのはちときつい。なんとかなるかねぇ?

「ま、待て待て! お前達は何をするつもりだ!」
「なぁに、晩飯前の腹ごなしってとこかな」
「ちょ、ちょっとライトさん!? 止めましょうよ、今日もうかなり戦ってるじゃないですか! 疲弊した状態で……」
「ライト兄ちゃんはもう疲れてないみたいだよ?」
「え?」

 俺の回復力を舐めてもらっちゃ困るぜ。瀕死からも一日で回復するんだ、そうそうへたばりはしないさ。

「え、ひゃぁぁ!?」
「な!?」

 瞬間的に俺は飛んで来たもんを砕いた。良い斬撃だ、なんて技かは知らないがな。

「……なるほど、異常な程の高速の突き、我の聖なる剣を一撃で打ち砕く力、我が一閃に容易に反応する反応速度……ただのサンダース等と何故名乗っているんだ?」
「それはこっちの台詞だっての。的確に喉元狙ってくるし、振りが異常に速ぇ。あんた、どれだけの修羅場をくぐってきたんだか」
「……え?」
「な、何が起こったんだ?」
『蒼刃が聖なる剣を出したところまでは見えたけど……』
「言ったろ? 晩飯前の腹ごなしだって。まさか、ガチで戦りあうと思ったか?」
「まぁ……我も些か気を締め過ぎたやもしれん。が、元々この家で預かっている者と本気で剣を交わすつもりは無い。ただ、一撃のやり取りをすれば相手がどの程度の高みに居るかは分かるのでな」

 そゆ事。ま、事情が分かってる俺ら以外にゃあ今からガチで戦うような雰囲気に見えても仕方ないがな。

「リオー、今のスゴかったね、蒼刃先生の剣がビュンって来て」
「ライトさんがそれをバリンって! あんなに速いの、僕も見た事ありませんよ!」
「僕もー!」
「……ちびっ子達、今の見えたのね」
「あ、侮れんな、ギラン殿も拳斗も」

 本来がギラティナであるギランはそのポテンシャルが高いのも分かるが、この拳斗もマジで侮れないレベルでヤバイな。こりゃ相当化ける伸び代あるぞ。

「しかし、我が剣が一撃で砕けるとはなぁ……結構自信あったんだけどなぁ……」
「あ、あら? どしたんだ?」
「あっ、蒼刃が凹みモードに入った。こりゃ、しばらく無気力状態になるな」

 あー……どうやら俺は、剣と一緒に蒼刃の自信も砕いちまったらしい。いやだってさ、多分寸止めされただろうけど本気でやらないと失礼っしょ?
まぁ、下手に俺が何言っても今は無駄だろうからそっとしておこう。……からかったら面白そうだが。

「よーし、今日は頑張ったわ! って、何かあったの?」
「えーっと、別次元の戦い的な?」
「はぁ~ぁ……」
「ま、まぁ気にしないで下さい」
「そう? ならいいけど」

 ん、滅茶苦茶良い香りするな。なんだ?

「いやー久々に作ったわこんなの。腕ってなかなか落ちてないもんねー」
「エビチリにチキンソテーに焼きそばって……節操無さ過ぎだろ」
「いいじゃない、ギラン君とライト君の歓迎会って事で! 一人足りないのが残念だけどね」
「親父は今日も研究所に泊まりなのか? もう四日目だろ?」

 研究所? って、そういやこいつらの親父さんはポケモンのなんかを研究してたんだったな。……まぁ、薄ら暗いあそこの研究とは比べもんにならんくらい真っ当なもんだろうがな。
しかし美味そうな飯だ。レンは基本的に和食が得意だから、中華と洋食はあんまり出てこないんだよな。
良い機会だ、折角ご馳走になれるんだしありがたく頂こう。

「さっ、ライト君もギラン君も遠慮しないで食べてね。何と言っても、あなた達の歓迎会なんだから」
「い、いえそんな、短い間ですし……」
「こういうのは、期間はそんなに大事じゃねぇのよ。折角なんだ、好意は受け取っとこうぜ」
「うーん、アル様やパル様が頑張ってるのに、いいのかなぁ?」
「いいのいいの。そら、食おうぜ」
「あ、はい。それじゃあライトさんの分は僕が取り分けますね」
「おう、頼むぜ」

 焼きそばをメインにして、エビチリとチキンソテーがそれに添えられるようにして盛られてる。……皿を何枚も汚す事も無いしいいか。
んじゃま、海歌の横で食べるとするか。人間用の食卓しか無いし、椅子に座れん俺は床に置いてもらって食うしかないわなぁ。
あぁ、床は汚さんように敷き物してるからその辺の心配は無い。元々そんなに汚すような食い方しないけどよ。
うん、美味い! 火の通り加減もいいし、味付けもいい。ちょっと濃く感じるのは、俺の舌がレンの味付けに慣れちまってるからだろうな。

「あ、美味しい!」
「そう? 結構自信あるから嬉しいわねー♪」
「いや、本当に美味いですよ。俺が居たところにも料理上手が居ましたけど、同じかそれ以上ですね」
「へぇ~、ライト君が居たところって、トレーナーの家だったのよね? なら、そのトレーナーの方が?」
「いや、あれは……ただのアホですね。料理上手なのはそいつの手持ちの一匹のルカリオなんですよ」
「ポケモンが料理をしてるって事ですか? ラティアスなのにお手伝いしてる私が言うのもなんですけど」
「あぁ、そういう事さ。あの家は殆どの家事をポケモンの方が出来ちまうっていう変わった家だったのは確かだな」

 ここの様子を見てると改めてそう思うぜ。これが普通なんだよな、本当は。
でも、どっちも悪くはないと思う。俺が向こうの生活に慣れたってのもあるだろうが、どっちがやってもあまり変わらないしな。

「ポケモンが家事をする家か……」
「あんたは、将来的にそうなるんじゃないのか? 零次さんよ」
「!? な、ななななな!?」
「ら、ライトさん!?」
「だって、そういう話なんだろ?」
「本当にねぇ、うちの息子は出来る嫁をもう見つけてるんだから安泰よ」
「か、母さんまで何言ってんだよ!」

 赤くなった一人と一匹を皆でニヤニヤしながら見ようのお時間です。落ち込んでる蒼刃とよく分かってない拳斗を除いてな。
でも……ちっとだけ、羨ましくも思う。好きな奴に好きだって素直に言えて、一緒に居る約束が出来るのにはな……。

「うぅ~」
「恥ずかしがる事でもねぇだろうさ。両想いなら、そうなって然るべきだと俺は思うぜ」
「そうよね。ま、零次の場合男としての責任を取らないなら私が地獄に送るけど!」
「責任って……え、えぇ!?」
「なんだ気付いてなかったのかギラン?」
「だ、だってお付き合いしてるとは聞きましたけど! あ、あぅぅ……」

 いや、何故お前が恥ずかしそうにするし? ピュアだねぇ将来の異界の管理者は。
さて、この話をこれ以上するのは止めておくか。もう心紅と零次の顔は真っ赤だぜ。

「あ、ギラン、悪いけどサラダも取ってくれねぇか?」
「ふぇ!? は、はい!」
「というより、ライト君よく聞いた話だけでそれだけ理解出来るわね?」
「はっはっは、勘はなかなか働く方なんですよ」

 んじゃ、もうちょっと食ったら休むとするかな。んー、寝るのはここになるんかね?


 リビングで寝るのも少々久々になったか。まぁ、代わりに一緒に寝る面々は増えてるがな。
どうやらポケモンは基本的に居間で寝てるみたいだな。例外は……心紅か。

「悪いなお二人さん、さっきはちょいとからかいが過ぎたぜ」
「本当だ……でもまぁいいさ。そうなるって言うのは、多分間違ってないから」
「れ、零次さんもいきなり何言うんですか! もぉ~」
「ははっ、それだけ仲良いなら本当に安泰そうだな。羨ましいくらいだぜ」

 どうやら心紅は、ここじゃなくて零次の部屋で一緒に寝るらしい。……これについては、レンと同じ部屋で一緒に寝てる俺にからかう権利は無いわな。
そろそろ零次達は部屋に引っ込むって事だから一声掛けた。後の事はお察しって事で、な。

「ルゥ~、兄さんお休み~」
「あぁ。拳斗、お休み」
「それじゃあ皆さん、お休みなさい」

 ……仲睦まじい二人、か。若いねぇ。……って、言う程俺も老けてないけどよ。
さて、俺達も後は寝るだけなんだが、まだ皆寝そうに無いよなぁ。

『蒼刃、いい加減立ち直りなって』
「分かってはいる。んだがなぁ……」
「リオ~……心紅姉ちゃんが寝る前は僕が兄さんと寝てたのになぁ」
「え!?」
「ギラン? まさか変な勘違いしないよな?」
「で、ですよね! してませんよ! もちろん!」

 してたな、こりゃ。どんな需要があるんだよ。
とまぁ、寝る前にしちゃあかなりカオスな事になってるぜ。やれやれ、愉快だねぇ。
……ん? なんだ?
窓の外から誰かが見てる? 何もんだ?

「ギラン、そこの窓開けてくれ」
「え? はい、暑いんですかライトさん?」

 ギランが窓を開けたと同時に、右前足に溜めた電磁波を撃ち出した。……逃げたな。

「な、ど、どうしたんですか!?」
「いや……ちと気になる事があったんだがな。悪い、なんでもねぇみたいだわ」
『白い……電気?』
「あぁ、俺の電気は進化した時から白いんだ。原理は分からんがな」

 別に消滅の光についての説明する必要も無い。あれの説明をしなけりゃ、ただの白い電気だからな。
結局、見ていた奴は逃げたか……あれが警告くらいになればいいが。
しかし、なんの為に? 通り掛かっただけって感じでもなかったが、気になるな。
でも深追いはしないでおいた方がいいかもしれんな。ギランを巻き込んで危険に晒す事もねぇだろ。

「はぁ……今、何か居たな」
「おっ、旦那も分かったか。落ち込んでても、その辺はきっちりしてるのな」
「それはな。ライト殿があの雷撃を撃った後に、動いた者があったから気付いたというのが悔やまれるが」
「え? どういう事ですか?」
「一言で言うと、こん中を覗いてた奴が居たんよ。旦那が気が付いたって事は、俺の思い違いじゃなかったみたいだがな」
『この家を? どうして?』

 さぁて……珍しいポケモンが見えたからってだけならいいんだが。例の事件の事もある、用心はした方がいいだろう。
窓を閉めるついでに、カーテンを閉めるようギランに伝えた。もう無いとは思うが、気を付けるに越したこたぁねぇだろ。
念の為に皆に窓の傍に寄らないよう警告して、警戒は切らないようにしておくか。

「なんだか、嫌な感じですね……」
「全くだ。ポケモンを狙う誘拐事件なんてのも起きてるし、厄介なもんだな」
「犯人さえ特定出来れば、こちらから一網打尽に出来るのだがな……」
「蒼刃先生なら、本当に出来そうだよね」
『なんにせよ、ライトが居る今なら少しは安心して眠れるかな』
「ま、何かあれば手は貸すし、警戒はしとくから心配はしなさんな。恩を仇で返す無粋さは持ち合わせてないんでな」

 やれやれ……面白い居候生活になりそうだな、こりゃ。明日からも退屈しないで済みそうだ。

「そんじゃ、そろそろ寝るか」
「はい。あ、電気は僕が消しますね」
「ルゥ~、じゃあ皆、お休み~」
「うむ、また明日だな」
『あ、蒼刃がちょっと立ち直ってる。っと、皆お休み』

 パチンと音がして、居間の電気が消えた。……外で動くものは無いみたいだな。ちっと警戒し過ぎかねぇ?
カーテンも閉めたから暗いが……よし、夜目は効いてきたな。楽な体勢になってるようだし、時期に皆眠るだろう。
ソファーの方でギランが横になった音もしたし、今日一日はこれで終了だな。……最短で残り六日、それまではここの世話になるのか……。
レンやリィ、それにフロストはどうしてるかね。もう二日も経ってる事になるし、何事も無いといいんだがな。
それに、他の奴にも何も言わずに消えちまったからな、過度に心配してないといいんだが……。
……考えても仕方ないか。ジタバタしようとも、帰れないもんは帰れないんだ。帰れるようになるのは分かってんだし、オタオタしないで過ごすとするか。
それにしても……さっきの奴は一体なんだったんだ? 隣の家まで間はあるっつっても、間隔は1メートル強ってところだぞ? そんなところに入って、わざわざこの中を覗く理由はなんだ?
今、外に動くようなものは無い。もう居ないだろうが、やっぱり気になるぜ。

「誘拐、か」

 巻き込まれたくはないが……覚悟、しておいた方がいいかもしれんな。


~後書き!~
ってな訳で始まりました、クロスオーバー作品でございます。
元々はサマバケ連載中に新光とのクロスオーバーをしたらどうかという意見があったのが今作を書き始める切っ掛けだったりするのですが……メインストーリーテラーはライトだったりしちゃってます。はい。
で、どういう形にすればクロスさせられるかを考えた結果、今回のような形に相成りました。零次達を新光の世界に行かせるのはちょっと無茶があるのですよね、色々と。
さて、長々となりましたが……別世界に流れ着いたライトがどうなるのか、新たな相棒のギランとはどうなっていくのか、そして誘拐事件はどうなるのか。次話に続かせて頂きます!

次話

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 10万hit記念作品キターーーーーーーV(^_^)V!!

    しかも、自分が想像していたコラボ作品!!ありがとうございます!!
    続きを期待してます♪
    ――通りすがりの傍観者 ? 2013-08-21 (水) 11:53:55
  • ヤバイニヤニヤが収まらない。
    誤字報告です。心紅の名前が一部真紅になってました。
    まさかリィの力が零次の世界に繋がるなんて、と言うことはライトが居ない間のリィ達の話もあるのかな?
    執筆頑張ってください。
    ――196 ? 2013-08-21 (水) 16:14:15
  • 双牙連刃さんの2大代表作がまさかの夢のコラボ、ありがとうございます♪
    続き楽しみにしてます、頑張ってください!
    ――シュガー ? 2013-08-21 (水) 20:19:56
  • ニヤニヤが…ニヤニヤが…止まらないよぉー!
    ―― 2013-08-21 (水) 20:27:43
  • 待ってました!!!! 続き期待して待ってます!
    そして安定のライトw 執筆頑張ってください!
    ――ポケモン小説 ? 2013-08-21 (水) 23:21:01
  • とても良い作品で、ワクワクしながら読まさして頂けました。
    次回も楽しみにしています。
    頑張ってください。
    ――ハカセ ? 2013-08-21 (水) 23:38:13
  • シリアス展開期待
    頑張ってください!
    ――妄想人間 ? 2013-08-21 (水) 22:56:01
  • >>通りすがりの傍観者さん
    新光とサマバケのクロスはリクエストの声もあったので、この機会に書いてみようと思った次第なのです。お喜び頂けたのなら何よりですね。
    続きも出来次第投下予定なので、期待して頂ければ幸いです。

    >>196さん
    おうふ…心紅の名前はたまに誤変換してしまうのですよね。直しておきます、ご報告感謝です。
    新光サイド側で何が起こっているかはサマバケ側より少なくはなりますが触れる予定でございます。頑張って書いていきますよ!

    >>シュガーさん
    寧ろ、この二作品以外の作品には繋げようがありませんからねぇ…。
    続きもお楽しみ頂けるよう頑張らせて頂きます!

    >>08-21の名無しさん
    ニヤニヤして頂けるとは、ありがとうございますw
    この続きもニヤニヤ出来るような面白い作品になるよう頑張らせて頂きます!

    >>ポケモン小説さん
    ライトは何処に行ってもライトらしさ全開でございますw 寧ろ安定してないライトはライトじゃないかもしれないw
    応援感謝です。ありがとうございます。

    >>ハカセさん
    おぉ、ワクワクして頂けるとは嬉しい。ありがとうございます。
    次話は鋭意製作中ですので、ゆっくりお待ち頂ければ幸いです!

    >>妄想人間さん
    事件が絡むのでシリアスな要素も結構出てくる予定ですが…私クオリティのシリアスになるので、ハードさは薄いものになってしまうやもしれません…。
    でも、なるべく期待に添えるような作品に出来るよう頑張らせて頂きます!
    ――双牙連刃 2013-08-22 (木) 12:23:32
  • 「数える程度しか出会った事は無い」ってライトクラスが何体も…
    ―― 2015-04-29 (水) 12:48:09
  • >>04-29の名無しさん
    蒼刃の場合、過去に実際の戦争の場に立っていたというのがありますからね。実力はともかく、ライトのように強い気配を纏ってる相手と会った事があるって意味合いでの発言です。
    っていうか、ライトクラスがごろごろ居たら戦争なんてものに戦いが多分発展しませんw ライトクラスになると、存在が戦略兵器みたいなものですからねw
    ――双牙連刃 2015-04-30 (木) 12:05:08
お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2013-08-21 (水) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.