「ふぅ……、ようやく薪割り終わりっと♪」
と、大分お疲れの様子で地べたに腰を下ろす一匹のヒトカゲ。
小さいながらも器用に自分の身長の二倍はある斧を振るえるらしい。
「おーい! リーヴェ!」
ヒトカゲの後方から謎の声が届く。
とても力強く、それでいてまさに「リーダー」と言える声だった。
「おー、サーペ! どしたの?」
「どしたの?じゃなくてだな、 薪割り終わった…みたいだな。
こんな暑いなかようやるよ……全く。」
リーヴェというヒトカゲに近づくサーペというゼニガメ。
汗が一滴も出ていないリーヴェを不思議そうに見るサーペ。
そう……、季節は夏。
あの「出来事」が起きたのも夏であった……。
――たす……けて――
「ん……?」
「どうしたの? サーペ、 いつもの事だけど難しい顔しちゃってさぁ♪」
「いつもの事は余計だ、お前みたいな能天気な奴とは違うんだっつの。
ところで、今たすけてって聞こえなかったか?」
「はへ? ちょ、ちょっとサーペ! 夏は始まったばっかだけどもう怪談始めちゃうのー?
ボクまだ準備ができてないよぉ」
遠い方から聞こえたのか、それとも何者かがテレパシーで訴えているのか。
難しい顔で考えるサーペにリーヴェはただ一言、「怪談はやめて」。
聞こえた方からしたらとんでも無く失礼な発言だが、聞こえていない方からしたら当たり前に発言である事は確かで…。
――息が……苦しいよう…!――
「聞こえる……、なんで俺にしか聞こえてないんだ? 今度こそリーヴェにも聞こえた筈だ。」
「うん、ボクにもちゃっかり聞こえたよ、 なんか……雌っぽい声だったね?」
二匹は夏の猛烈な暑さ、のどの渇き、空腹を忘れて一心不乱に走った。
――声のする方へ。
「おい……、これはマズくないか?」
「そんなのボクに言う事じゃない! 絶対ない!」
空腹感、のどの渇き、暑さを忘れて走った先にあった物。
それは、七夕に1000年に一度目覚めるといわれる伝説のポケモン。
――ジラーチであった……。
「と、とりあえずだな。 この方を村へ連れて行かないとマズい事になる、つかもう十分マズいだろ。これ」
「う、うん。 とり、と、とりあえず! ムルクファ村長のところに連れていかないと…。」
昔話でしか見たことのないポケモン。
実在しないと存在を否定され続けたポケモン。
――そのようなポケモンが今目の前にいる、これはある意味……奇跡ではないだろうか。
その奇跡により動揺して心拍数がぐんぐん上がって行く二匹な訳だが。
とりあえず、この二匹が村へジラーチを運ぶまで話をスキップさせていただこう。
――2 存在していなかった筈なのに。
「こ、これは本物じゃ……本物のジラーチ様じゃ!
とりあえずだな、医師を呼んで来い! 今すぐにだ!」
二匹は苦労しながらもジラーチを村の村長の元へ運んだ。
もちろん村人からの視線が痛かったのは言うまでもないわけで。
ムルクファという随分と年を取ったフーディン。
どうやら村長らしい。
――2時間後――
「う……、うーむ。」
ジラーチの目が開くと同時に、医者の家に入った大量の村人が「おおお!!」と思い思いの歓声を上げている。
起きて早々この状況だと誰だって驚くだろう、最悪の場合死に至るだろう。
「わわわっ!? 何だこの状況は!」
自分のすぐそばにかなりの数の村人が押し寄せているのにかなり驚くジラーチ。
まぁ、それは当たり前なのでもうスルーさせて頂こう。
「おおお、ジラーチ様じゃ! これで、村同士の戦いにも終止符が打てるぞ!」
「やったなあぁぁ!!」
「え?? ちょ、待って下さい!」
「確かに僕はこの村を救済に来ました、 だけど争乱に僕の力を使うなんてできません!」
ジラーチのその言葉によって、医者の家の中は静まりかえる。
みんな唖然としていた、 「助けに来たんじゃないのか」「その力で隣の村を滅ぼす事など簡単じゃないか」「ふざけるな」
ジラーチに対して容赦ない言葉が浴びせられる、 「希望を返せ」「金返せ」
たまに訳のわからない声も混じったが、大量の村人の中から長老・ムルクファが出てきた。
「ジラーチ様、貴方のお力がないと村同士の戦争は……永遠に終わらないのです。
こちらの村が滅ぶのか、あちらの村が滅ぶのか。 どちらの村も生きようと必死なのです。
だからこそ、貴方の力【破滅の願い】とやらで村を滅ぼしていただきたい。」
「無理……です、どんな事があろうと人殺しに神の力を使うのは禁止されています。
たとえ、それがどんな状況であろうとも。」
「じゃあ、貴方様がこの村に救済に来たのは嘘ですか?
ただ遊びに来ただけなのですか!?」
「違います! 戦争だけが全てな訳じゃないのは貴方が一番分かっているでしょう!
村と村の偉い方々で話し合えば戦争など起きな……」
「貴方に何が分かるんだ!」
「今までの戦争で何匹村人が死んだと思っているんだ! それでも神か!」
と、医者の家で激しい言いあいが始まってしまった。
知らず知らずの内に村人はほとんど帰ってしまい、その場に残っているのは長老 サーペ リーヴェだけとなった。
「オッホン、 とりあえず心変わりするまで後ろの二匹と共に周辺を歩き回ってください。
少しは心変わりするはずです。」
とだけ伝えると、歳で重たい体を引きずりながら自分の家へと戻っていった。
この場に残されたのは、ジラーチ サーペ リーヴェだけとなった。
「僕は スリターです。 君達は…リーヴェ君とサーペ君、で合っているかな。」
『は、はひい!』
伝説のポケモンの前なのか、二匹は緊張で完全にこわばっているようで…。
ここまでが出会い……このあととんでもない事が起きようとは、誰も予想はしなかっただろう。
悲劇の始まりまで後 二時間となった。
密かなコメント爛でこざりまする 見たら「ここはこうするといいよ」「こいつのセリフおかしいよ」「よかったよ」など、コメントを下されば地獄の底から蘇ります。