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変身薬でエモンガTFして毛繕いしたり空を飛び回ったりするタイプの露出狂の女の話

/変身薬でエモンガTFして毛繕いしたり空を飛び回ったりするタイプの露出狂の女の話

※本作品にはR-18表現が含まれます。

・変身薬でエモンガTFして毛繕いしたり空を飛び回ったりするタイプの露出狂の女の話

by農協の人

 車を五分ほど走らせたところに、公園がある。小高い丘を丸ごと使った、広い公園だ。
 この敷地は、大きく二つの区域に分かれている。芝生に覆われた平坦な運動スペース。そして、鬱蒼と生い茂る山の木々を切り開いて作ったハイキングコースだ。私が今から行くのは、ハイキングコースの方。
 ジャージを身に纏い、鞄を担いでハイキングコースを登っていく女。それが私だ。端から見れば、ランニングでもするようにしか見えないはずだ。
 いけないことをしようとしている、という自覚はある。だがその背徳感すらも、私のこれからの興奮をより高めてくれるスパイスにしかならなかった。
 過剰に高鳴る鼓動の中、小高い丘を登る。その頂上には、小さな塔がある。周囲の木々を突き抜けるほどの高さを持つその塔は、登ると周囲の景色を一望できるようになっている。
 この塔を見上げて、私は呼吸を荒げた。まだだ。まだ、登ってはいけない。この姿のままでは、飛ぶことはできない。
 周囲に誰もいないことを確認する。このハイキングコースも塔も、出来てから既に数十年経っている。今更物珍しいものでもなく、利用者は非常に少ない。それが私にとって、非常に都合が良かった。
 塔とは反対側の方に、一本の道が伸びている。道はカーブを描きながら、丸太が打ち込まれた階段状になっている。その先は木々や蔦のおかげで見ることはできない。何食わぬ顔で、脇道の階段を下る。階段は途中でフェンスで塞がれている。この先に道を繋げるつもりだったのだが、工事が中止になったのだろう。フェンスに手をかけ、力を込めて登る。運動神経は悪い方ではない。
 階段を下りきると、四方をフェンスに囲まれた踊り場に出る。ここなら、意図的に入ろうとしない限り誰も立ち入ることはない。
 さて。
 私は鞄を下ろす。
 水と小瓶と鏡の詰め込まれた鞄。例えこの鞄を見られたとして、小瓶の正体さえ知られなければ……いや、例え知られたとしても、今から何をしようとしているのか、その真意を推し量れるものはいるまい。
 二つある小瓶のうち、一つを手に取る。ラベルには、エモンガのイラストが描かれている。
 今から私は、この子になるのだ。
 キャップを開けて、ぐいと飲み干す。味は、少し違和感はあるが栄養ドリンクに近い、甘酸っぱい。胃の中に浸透していくのを感じてから、もう一本を開けて口の中に含む。草っぽい味で、少しぬるっとしている。あまり心地の良い感覚ではないけれど、この感覚を口の中すべてに行き渡らせてから飲み込む。こうすることで、薬の効きが良くなるような気がする。
 そのまましゃがみ込んで、ジャージのジッパーを少し下げ、薬の効き目が現れるのを待つ。動悸が激しくなっていく。自分の体が作り替えられていく興奮と、外の空気に直接触れる、寒気にも似た感覚。それらがない交ぜになるので、変身中はまともに立っていられる状態ではない。ぐるぐると景色が回り出しながら、不思議な高揚感に包まれていく。
 持ってきている化粧用の鏡を目の前に立てる。
(そろそろかな)
 私の体が、人の形からエモンガの形へ変わっていく。
 ズボンの腰の辺りが、緩くなっていくのが分かる。腕も、袖の中に隠れていく。体が少しずつ縮んでいるのだ。
 鏡を見ると、胸元からうっすらと小さな白い毛が生えてきているのが分かる。胸元、首、頭、頬、そして鼻先。人間の髪の毛は、逆に短くなって体に収納されていく。体の前の方は白い体毛。そして、後ろの方は黒に近い灰色の体毛。すべて生え揃うと、まるで頭巾を被っているみたいに見える。短いが密な体毛に包まれると、外気に触れる寒さは消えていった。服を着ている時と同じくらいの暖かさを感じる。服を着ていなくても、問題ないくらいに。
 それに伴って、耳の形も変わっていく。人間のようなでこぼこした耳の形はシンプルな楕円形へと変わる。そして、耳が頭頂部から生えているのかと思うくらい、上へ上へと伸びていく。
 耳の外側には頭と同じ暗い灰色の毛が生え、内側には黄色と白の毛が生えていく。
(ひゃあっ)
 風が吹き抜ける。耳が大きくなったことで、敏感になっていたようだ。小さな刺激も拾ってしまう。思わず耳を押さえようとする。身体が大分小さくなっているようで、押さえようとした腕は袖の中だった。
 心なしか、指も小さくなっているような気がする。指の数も少なく親指はそのまま
 腕を上げた時、脇の辺りに何かが突っ張るような感覚が走った。エモンガ特有の皮膜が生えてきているのだ。ぴんと張るような感じはあったが、痛みだったり、動かしにくいといったことはない。かなり柔軟な作りになっているようだ。改めて意識してみると、二の腕の真ん中辺りと横腹の辺りが繋がっているのが分かる。徐々に腕の先の方へ、足先の方へと伸びていくのを感じていく。
 全身は大分縮んできているようで、既に靴は脱げ、ズボンはずり落ちていた。服を肩にかけておくのも難しい。頭が服の中にもぐり込み、全身が上着の中に隠れる。既に人間だった頃の半分以下の大きさになっている。
(ん……っ)
 腰の下とお尻の割れ目の間の辺りから、新しい感覚が生じていく。尻尾が、生えてきている。何度変身しても、この感覚は言葉にするのは難しい。背骨がお尻の方まで伸びていくような感覚か、あるいは、尾てい骨の辺りの皮膚感覚が鋭敏になって細長い形を取っている、というのが一番近いだろうか。そして、これは変身の中でも最も気持ちのいい変化だった。自分が自分でなくなっていくような高揚感。それを存分に味わいたくて、四つん這いになって、お尻を突き出すような姿勢になる。
「えも……っ」
 声が漏れる。毛皮に包まれていくわたしの身体。耳が頭の先まで伸びていく私の身体。腕と脚を繋ぐ皮膜に覆われていく私の身体。最後に伸びていく尻尾。
 尻尾の背中側が服に擦れて、少しくすぐったい。お尻の先の方に重量を感じる。上着の裾が、尻尾で持ち上げられているのだ。服の中で身体を反対向きにして、裾側から外に出る。
(よいしょっと)
 尻尾の背が裾を滑り、するりと落ちる。後ろを見ると、細長い尻尾の先端に黒く長い毛が稲妻模様を刻むように生えている。尻尾をぐいっと股下から回して、ぎゅっと抱きしめた。なんて愛おしい形をしているのだろう、と思った。自分であって、自分でなくなっていくような、不思議な高揚感。何度もこの薬を使ううちに、この姿がもう一つの自分の姿であるような錯覚さえ起こしそうになる。
「えもっ」
 抱き抱えている、伸びた身体の末端の黒い毛を、はむと噛んでみる。柔らかい毛の感触が、口の中に広がる。そのまま、舌を伸ばして毛の流れの方向へと動かしていく。人間の時より唾液は少なく、毛並みが整っていくのが分かる。人間の時には出来ない自分の尻尾の毛繕い。そのまま少しずつ尻尾の付け根の方へ。舌の伸びる限界まで舐めきると、今度は肩、腕、そして手。そして、マントのように伸びた皮膜。姿が変わってしまえば、こんな毛繕いも当たり前のように出来てしまう。
 初めて毛繕いのことを思いついたとき、少しの抵抗感はあった。だが、いざやってみると、毛が整えられていく感覚が心地良くて、つい夢中になってしまった。唾液に汚されて、きれいになっていく自分。毛皮に身を包み、恥ずかしいはずの行動に、恥じらいがなくなっていく自分。人間だったはずの自分がめちゃくちゃにされる感覚。陵辱感にも似た、得も言われぬ恍惚感。
(あ、やばい)
「え……もっ」
 股の間のひだが擦れ、熱くなっていくのを感じる。つい股間に手が伸びそうになるが、ぐっと我慢する。まだだ、まだ早い。お楽しみはこれからなのだ。いったん毛繕いをやめる。このまま続けていたら、エモンガの姿でいられる時間を全部使い切ってしまう。折角なのだから、もっとエモンガらしいことをしないと。
 改めて鏡をのぞき込むと、人間だった頃の面影はほとんどない。一匹の、どこにでもいるようなエモンガだった。少し毛繕いが激しかったせいで、毛並みが所々湿っている。

 時計を見て、時間を確認する。薬の効力は約二時間。ここで何度か試すうちに分かったことだが、二時間経過するより早いタイミングで人間の姿に戻ることは可能だ。強く念じるだけで元に戻れる。変身直後は難しいが、徐々に軽く願うだけですぐ反応するようになっていく。思考が薬の効き目に素早く影響を与える原理はよく分からないけれど、服用者にとってはありがたい。切り上げたいときにはいつでも切り上げられる、ということだから。
 脱ぎ落ちた衣服を、短い腕でぐるぐると丸めてかばんの上に乗せる。土や落ち葉の上に置いておくと湿って冷たくなってしまうので、間に何かを挟むのはマストだ。あまり見栄えはしないが、小さな身体で綺麗に折り畳むのは時間がかかるし、どうせ誰も見ていない。
 振り返って、フェンスにしがみつく。エモンガの三本指は木登りをしやすいようにできていて、金属の網に簡単に指を引っかけることができる。両足と両手でジャンプするような動作を繰り返すと、あっと言う間に縁まで上ることができた。垂直に立ったものに上ることに関しては人間のときよりも楽だ、と思う。力はないけれど、身体はとても軽い。
 まずはエモンガの身体としての準備運動だ。人間の目線ほどある高さの、フェンスの縁。そこから、ぴょんと前に飛ぶ。それと同時に、両手を広げる。脇の辺りに、すうっと涼しい空気を感じた。人間にはない、皮膜の拡張された感覚だ。風を掴み、空気が自分の身体を押し上げるような力が、自由落下する力とのバランスを取り合って、身体の落ちる速度はゆっくりになる。空を滑るように、前へ前へと進んでいく。
 数秒と経たないうちに、地面へ着地する。滑空に問題はなさそうだ。
 身体を慣らすためにも、低い位置から滑空練習を一度しておくのは大事である。もしいきなり高いところから飛び出してしまったら、何かの拍子で落ちて怪我する可能性がある。それで動けなくなったら、私のしていることが明るみに出る。そうなれば、私は社会的に終わりだ。なるべく安全に事を運ばなければならない。
 さて、準備万端になったところで、もっと高いところへ行こう。
 人気がないことを確認しながら、来た道を戻っていく。二本足で歩くことも出来るけど、足が短くて全然進まないから、そうはしない。前足を地面に付けて、後ろ足で蹴り出せば、人間の走りと同じか、それ以上のスピードを出せる。両足で前に飛んで、両手で土を掴む。宙に浮いた後ろ足が身体に追い付いたら、また地面を蹴る。身体が小さいせいで、ちゃかちゃかと早いサイクルで動作を反復することになる。初めてエモンガになった時はなかなか上手く走れなかったけれど、今では人間の時よりも早く動けると思う。慣れたものだ。
 元来た道を戻り、いよいよ公園の塔に上る。円柱状の建物の周りに、螺旋状の階段が走っている。タイル張りの床は土埃に覆われており、階段の段差の角には落ち葉が溜まっている。
(水は溜まってなさそう……かな)
 時々、土混じりの水溜まりが一段ごとに残っていることがあり、階段を上るのに苦労する。エモンガの目線では一段上の状況も分からないので、上った瞬間に間違えて踏んでしまったら最悪である。土と落ち葉。自然の中の湿った地面は平気で四足歩行できるのに、どうして人工物と混じるとこうも触れたくなくなるのだろう、と苦笑する。その日の最初に階段を上るときはどうしても慎重になる。ここ一週間はずっと晴れが続いていたから水は残っていないと思いたい。一段一段確認しながら上ってみたが、とりあえず大丈夫そうで安心する。
 塔のてっぺんは展望台になっており、広い公園や周囲が一望できる。360度のパノラマビューだ。手すりによじ登り、下を見下ろす。整備された住宅街の中にこんもりと盛り上がる、ハイキングコースの木々が揺れている。その向こう側の広場には、無邪気に遊ぶ人々。
(今日はちょっと風があるなあ)
 前を向く。空は晴れているが、雲の流れが目に見える。風が強いと飛ぶのが難しくなるが、その分うまくやれば滑空時間をいくらでも延ばすことができる。長いこと飛べるといいな、と思った。自分の姿に気付いてもらえるように。ぶる、と身体が震えた。風が急に冷たさを帯びたような気がした。心臓がバクバクと音を立てているのが分かる。舌を出して、肩やお腹、皮膜、そして尻尾まで、もう一度全身を軽く毛繕いする。はやる身体を落ち着かせるためであり、毛先が湿ることで、周囲の空気の流れを感知しやすくさせるためでもある。
(よし)
「えも」
 思わず声が漏れる。息を吸い込んで、吐き出すと同時に手すりを蹴り出した。
 飛ぶ。
 両手足を目一杯広げると、皮膜が風を掴んだ。両手両足も、お腹も、背中も、どこも地面に縛られることなく、ただ前へ前へと滑空する。自分の身体が、重力から少しだけ解放される。
 顔が少し冷たい。毛で覆われているとはいえ、強い風はその隙間を貫通してくる。特に鼻先は毛がないので、空気を直に受ける。空気の流れを読み、なるべく皮膜で受け止めるようにする。右から吹けば身体を傾け、左から吹けば尾を振って身体を反対に回す。上空の空気の流れは頻繁に変化する。いち早く敏感に察する為にも、毛繕いは事前にしておくべきなのだ。
 ハイキングコースの上空を抜け、広場の上空へとたどり着く。サッカーをする少年たち、キャッチボールをしている親子、縄跳びを練習している女の子。それぞれが楽しそうにそれぞれの遊びに興じている。全身裸の女が、その遙か上空で見ているとも知らずに。そう考えると、どうしようもなく心臓が高鳴る。ぐるぐると上空を旋回して、滑空を続ける。
(うわっ)
 突然、びゅうと突風が吹き付けた。全身に力を込めて、身体がひっくり返りそうになるのをすんでのところで押さえつけた。滑空を続けていた身体が前に進むのをやめ、強い風に押されていく。風圧に負けないように、全神経を集中させて体勢を保つ。皮膜にぶつかった空気が逃げ場を無くし、私の身体を上空へと押しやっていく。
 風が落ち着き、周囲を見渡す余裕が出てくる。
「えも……」
 自然と、声が出てしまった。私は今、初めての高度に到達している。地上の景色が、今までになく小さい。かなり遠くて確証は無いが、最初に飛び立った展望台の塔よりも、多分高いところにいる。基本的にエモンガの飛行は滑空であり、降下していくだけなのが普通だ。飛び立った場所から上昇することはない。塔から広場まではそれなりに距離があるため、高度はかなり下がってしまう。今まで建物に隠れていた、遠くのマンションやスーパーの看板までが見える。今までにない高さから見る景色は新鮮で、しばらくの間は周囲の景色に夢中になっていた。絶妙な高さから眺める街の風景は、きっとポケモンになってみないと味わえない。ドローンを飛ばしても、冷たい空気を受けてドキドキすることもないだろうから。冷たさに慣れて、空や自然に抱かれるような感覚も味わえないだろうから。


 思いがけず貴重な体験をしたおかげで、ずいぶんと爽やかな気持ちにさせてもらった。
 だが、高度が下がって、広場の人々が大きく見えてくると、私の心は当初の気持ちを思いだしてしまった。思わず口角が上がってしまう。
 広場の人々のうち何人かが、空を見上げている。それはつまり、私の姿に気付いているということ。
 わたしの姿が、多くの人に見られている。顔を、お腹を、尻尾を、そして、股間を。まじまじと。見て、私をもっと見て。毛先の一つに渡るまで。裸を見られている恥ずかしさと、人間として扱われていない視線が、私の心臓をきゅんと高鳴らせてくれる。空を飛んでいる最中だというのに、股がひくついてしまう。
(あっ、もうダメかも)
 さわりたい。見られている興奮に耐えきれない。いつもなら同じ飛行をもう二、三回繰り返すのだけれど、今日は調子がいいみたいだ。高度も大分下がってきたので、広場から林の方へと舵を切る。
 木々の先端は細くて、身体を乗せるには心許ない。ちょうどいい向きの枝を探し、直感的に着地場所を選ぶ。着地場所に選んだのは、ハイキングコースの中腹にある葉っぱの少ない木の枝だった。腕を前に出し、皮膜を閉じて着陸する。一瞬だけ皮膜を開いたまま身体を垂直に立て、減速するのがコツだ。がさり、と木が音を立てて揺れる。枝は少ししなったものの、折れることなく元の形に戻る。揺れが収まったところで枝を伝って下に降りる。頭を下にして、こちらを向いた枝が刺さらないように細心の注意を払いながら、木の幹の方へと進む。慣れないうちはお尻を下にして後退していたけれど、案外頭を下にしても問題ないことに気付いてからはこの方法だ。身体が軽くて小さくて、四足歩行もできるとなると、得意なやり方も変わる。
 地上の様子が分かるところまで降りたところで、自分の位置を把握する。ハイキングコースの地形は、人工物が無くても木の形で大体分かるようになってしまった。木の枝からジャンプして、滑空して別の木の幹にしがみつく。また上って、別の木へと飛び移る。服を脱いだ地点からそう遠くない辺りに、目指している場所はあった。
 私のいつも「使っている」木である。すべすべとした手触りで、毛羽立ちがない。幹を上るのが大変なので、他の木から直接滑空して太く伸びる枝に着地する。いつもの定位置だ。
 太い枝は根本で湾曲して、上向きに伸びている。そこに跨がると、丁度抱き枕を抱くような姿勢を取れる。両腕を伸ばし、枝にぎゅっとしがみつく。触った直後は少しひんやりしていたけれど、すぐに自分の体温が伝わって、心地よくなる。
(エモンガって、何かを抱きしめたりはするのかなあ)
 木のぬくもりを感じながら、ふと考えた。エモンガの身体は、木を登ったりするのに適した身体だ。抱きしめる、という行為自体はするのかもしれない。自分のように、ほっとするような安心感があるかどうかは別にして。
(今日もいっぱいの人が見てくれたなあ)
 空を飛ぶ感覚。ジェットコースターのように、一つ制御を間違えれば地上へ真っ逆さまに落ちていくスリル。風を掴んだ果てに見える景色と、遙か上空から人々を見下ろす優越感。そして、空を見上げた、人々の視線。私の一糸まとわぬ姿を興味深そうに見つめる、人々の視線。裸を見られている恥辱感。
 すり。
 思い出して、無意識に腰が動く。
 跨がった木の枝に、両足の間を擦らせる。ゆっくり、ゆっくりと。
 すり。
 もう一度。体毛の薄い股の割れ目を、優しく、太い枝にあてがっていく。
「も……っ」
(あっ)
 ぐっ、と両足に力が入る。しっぽがぴんと伸びる。枝を足で挟み込んで、股間の割れ目の先端を押し当てる。
 体温と同じくらいに暖まった枝に、割れ目の先端の小さな突起が触れた。ただただ快感を得るためだけの気管。メスのエモンガの身体にも、これはあるらしい。少しずつ押し当てては戻し、割れ目を柔らかくしていく。全身に力が入っていくのと裏腹に、先端をほんの少しだけ当てて。ぐりぐりと、丁寧に捩っていく。息が少しずつ荒くなっていく。
(~~っ)
 漏れ出す蜜を膣内に留められず、僅かに木の枝に滴り落ちる。その少しのぬるぬるが、割れ目の閉じた部分の全てを開け広げた。
(我慢できない)
 強い快楽が押し寄せる。 その瞬間、今までじらしてきたものを一気に解き放つ。割れ目を押し当てる力は強く、そして動きは大きく、早く、そして何度も。
「えもっ、もっ、もっ……」
 声が漏れる。気持ちいい。気持ちがよすぎて、もう頭も身体も股間から押し寄せてくる快楽のことしか考えられない。
 どれくらい夢中になっていただろう。快楽の果ての絶頂。頭の中が真っ白になって、私は果てた。だが、まだ足りない。身体に熱が残っている。この気持ちを、欲を、全て出し切らなければ収まりがつかない。もっと野生に包まれていたい。獣になりたい。
 ふと、お尻から伸びるものに意識が向いた。ふりふりと、自在に動く細長いしっぽ。今の自分が獣たる証拠のように思えて、うまく使えないかと考えた。とっさに、股下にくぐらせて、抱え込んでみる。しっぽを上手に固定しながら、腰を動かし、股に擦らせてみる。身体がびくん、と震えた。ちょっと難しい体勢だけど、気持ちよくなれそうだ。ピークを超えた心臓が、再び絶頂に向かって高鳴り始める。
 すり。腰を前に押しやる。しっぽのこりこりとした骨の感触が、股の割れ目を伝う。
 すり。腰を後ろに引く。毛の流れに逆らった動き。小さなたくさんの刺激が、突起に刺さるような快感を与える。しっぽの毛並みに蜜が深くまで染み込む。
 気付けば、しっぽをぎゅっと抱きしめていた。丸太のような木と自分の身体に挟まれて、しっぽが少し痛んだけれど、それでも快楽の方が上回る。顔の目の前に、黒い稲妻模様の毛先がある。自然と、私の舌先は伸びていた。毛繕い。身体をきれいにする為の行為。だが、今回の舌先は、全く別の意味を持っている。そり、と舌がしっぽの先端に触れる。そして毛並みに合わせて、先端へ舐め上げると、不思議な快楽が全身を駆けめぐった。自然と股を閉じ、しっぽの根本が、きゅんとなる。腰を前後させながら、ゆっくりと、丁寧にしっぽを整えていく。普通の毛繕いは根本から先端に向かって行うけれど、今は逆に、徐々に根本の方へ下がっていく。途中から体勢がきつくなってきたので、腰の動きはいったんおあずけにする。身体を丸めて、どんどん根本の方へ向かって顔を下げる。人間では決して舌の届かない場所。顔は、蜜が溢れてぐしょぐしょになった股間へと到達した。
 気持ちよくなるためだけに存在する突起を、舌先に捉えた。まだ感度は高く、そして刺激を快感に変えてくれる。ぱくりとそれを口に含み、舌で優しく愛撫する。そのたびにびくん、びくん、身体が痙攣したように震える。気持ちいい。絶頂までは達しないものの、頭の中が心地よさに満たされていく。呼吸が荒くなっていく。
(そういえば、まだ試していないことがあったな)
 エモンガの身体が持つ、人間にはない能力。頬に力を込めれば、電気を流すことができる。電撃自体は使ったことがあるから、やり方は分かる。自分の身体にピンポイントに電気を流すことができるのかは分からない。気持ちよくなれるかどうかも分からない。それでも、もしかしたら。思いついてしまったからには試さずにはいられなかった。新しいひらめきがうまくいったらと思うと、心臓の高鳴りが止まらない。
 ほんのわずかな電流を、恐る恐る流してみる。痛くならない程度に、ちょっとだけ。
「!」
(あああああっ)
 全身がぎゅっと縮まり、思わず声を上げそうになる。くわえた口先が離れてしまいそうになるのをぐっとこらえる。
 電気風呂に入ったときのようなぴりぴりとした刺激。あれが、気持ちよくなれるところだけを狙って放たれるような感覚だった。想像通り、いや、それ以上。ちょっとでも油断すると、強制的に絶頂させられそうなくらいの強力な刺激だった。
(これ、イケるかも)
 あまりにも衝撃が強いので、ちょっと心の準備が必要だった。呼吸を少し整えて、突起を少し愛撫する。
 舌先を、ぴと、と気持ちいいの部分に付ける。これだけでももう、痙攣するほどの快感なのだけれど。それでも、エモンガの力は更に自分を気持ちよくできる。頬袋に力を込めて、ぴり、と電気を放つ。さっきよりももっとたくさんの電気を送り込む。
(~~~っ!)
 びくん。びくん。びくん。びくん。
 何度も痙攣する身体。絶頂が止まらない。もっと。もっと。身体の全身の筋肉がぎゅっと収縮して、股間から感じる多幸感をひたすら味わえるような形になる。舌先を離すことができない。やめたくない。同じリズムで、何度も、何度も、身体が震えた。
 何回イッたのだろう。数え切れないくらいに絶頂を繰り返して、ようやく私は舌先を離した。
 はあ、はあ。息が切れる。体力を使い果たしてしまったみたいだ。
 そよ風が吹き抜けて、火照った身体を優しく撫でた。木にしがみついて、気がつくと眠ってしまっていた。

(はっ)
 意識を失っていたことに気付き、慌てて飛び起きる。手のひらを見ると、まだエモンガの三本指であることを確認し、胸をなで下ろした。人間の姿に戻っていたらと思うとぞっとする。時間は分からないが、そろそろ元に戻ってもおかしくない頃だろう。
 木から木へ、滑空を繰り返して最短距離を進む。幹にしがみついて登り、高い枝から飛び立ってまた次の木へ。本来エモンガの飛行とはこういうものだと思う。私のやっている飛び方をしたければ、鳥ポケモン変身薬を使えばもっと自由自在に空を駆け回れるのだろう。だが、鳥ではないものが飛んでいる、という珍しいものを見るようなあの視線がいいのだ。思うように飛べないからこそのスリルもある。それらが、私の心臓を高鳴らせてくれるのだ。
(あれ)
 服と鞄を置いておいた場所に近づいたとき、なにやら声が聞こえてきた。若い声だった。
「なあ、ここ、上れそうじゃない?」
「えーマジ? 危なくない?」
「この道、まだ先がありそうじゃん。気にならない?」
「言われれば確かに気になるけど……」
 話し声の内容を理解した瞬間、ぞっとした。全身から冷や汗が吹き出る。
「ちょっと行ってみるわ」
「もー、すぐ戻ってこいよな」
「お前も来たらいいじゃん」
 二人の少年が、無邪気に探検ごっこをしようとしているらしい。一人がフェンスの先に何かあるかを探ろうとして、もう一人が渋々とついて行こうとしている。
 だが、それはダメだ。普段だったら好きにしてくれて構わないが、今だけは駄目なのだ。私の社会的な立場が終わってしまう。最悪、この夢のようなドリンク剤が販売停止になるかも。
 フェンスを登ろうとしている少年を視界に捉える。近くの木に全速力で上り、彼の頭をめがけて飛び込んだ。
「危ない!!」
 フェンスを登るのを渋っていた方の少年が声をかける。だがフェンスに手をかけていた方の少年が気付くより早く、私は彼の身体に到達する。
「エモぉぉ!!!」
 ごめん、本当にごめん。申し訳ない。悪いことをしてる。
 心の中で何度も謝りながら、頬に力を込めて、少年に電撃を浴びせた。あばばば、ときっと彼が人生で一度も出したことのない声を出して、その場に転がった。死んではいない。気絶しているだけだ。
「ひっ」
 もう一人の少年の方を向くと、彼は小さく悲鳴を上げた。逃がしてしまえば、私の退路を断たれる。即座に私はもう一人の少年に電撃を放った。同じような声を上げて、彼も倒れた。自分で言うのも何なのだが、あまりの容赦の無い行動に正直引いている。
 身だけでなく、心も野生のポケモンになってしまったのだろうか。ノータイムでこんな判断ができてしまう自分が、なんだか哀しい。

 携帯の時計を起動させてみれば、ちょうど二時間が経過するころだった。
 戻れ戻れと念じれば、少しずつ身体が元に戻っていく。薬の切れ目に近いおかげで、元に戻るのは早かった。腕や足は少しずつ太く長くなっていき、それに伴って脇の皮膜も小さく縮んでいく。お尻の三本しかなかった指も、そのうち二つが分かれて五本に増えた。エモンガの柔らかい体毛は縮んで、抜け落ちていく。代わりに人間の髪や体毛が生えていく。電気袋もなくなり、頭頂部に伸びるほど大きかった耳もすっかり縮んだ。お尻から出っ張ったように伸びた尻尾も、すっかり消えてなくなる。
 普段よりもよっぽど早いスピードで戻っていく身体だったが、それでも内心焦りが止まらなかった。もっと早く戻ってくれと願わずにはいられない。腕が伸びる前から袖に腕を通そうとして、脇に残った皮膜が引っかかってシャツが少し伸びた。ズボンを履けそうになったと思って上げたら、尻尾が残っていて引っかかった。伸縮性のあるジャージの素材があだとなって、私を焦らせる。
 鞄の中に必要な荷物を全て詰め込んで、完全に元の姿に戻ったことを確認して駆け出した。フェンスを掴んで上り、飛び降りる。幸い、二人の少年はまだ気を失ったままだった。
(危なかった……)
 ハイキングコースにまで出て、私はようやく足を止めることができた。どっと疲れが押し寄せて、いっそ四足で歩いた方が楽なんじゃないかと思った。人の姿ではさすがにできないけれど。
 駐車場に停めてある車に乗って、運転席の座席にもたれ掛かった。
「もうやめとこっかな……」
 ため息をつき、呟いた。人に見つかるかもしれないというスリルは確かにドキドキするけれど、本当に見つかってしまえばたまったものではない。あのフェンスの向こう側は、安全な場所ではなかったのだ。最初から。
「……」
 頭の中で、シミュレートが始まる。服を脱いで二時間放置していても誰にも見つからない、自然豊かで人の視線もそれなりにある場所。そんなところが、近所には他になかっただろうか。
 いくつか見当をつけて、車のエンジンをかける。そのうちの一つか二つは、ちょっと寄り道するだけで行けそうだ。下見がてら車を降りて散策してみるのも、悪くないかもしれない。
 全く懲りていない自分に呆れながら、私は車を走らせた。

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  • 最後に見繕いにいく"二時間放置していても誰にも見つからない、自然豊かで人の視線もそれなりにある場所"、というのが個人的にはわくわくします。
    ここで見つからないように意識している対象は人間なわけですよね。もうちょっと自然が増えれば野生のポケモンとかちあったりしそうですよね、とか。
    主人公さんは普通に人間なので変身した状態で野生と遭遇したところで大した感慨はなさそうではありますけれど、ところでこの主人公さん、興奮が結構簡単に身体に出てくる様子なのを野生の目線から見ることがあれば、果たしてどのように映ってしまうのでしょうか。わくわくしませんか。…等と、書かれていないことを勝手に想像して楽しんでいます。

    それはさておいて、じっくりと変身を書いて引き込んでから空を飛ぶ解放感へと流れていくの、かっこいいです。
    見られることなく視線を引くというのはぞくぞくします。自分で居続ける、というのも時に疲れますし、跡形も残らない別の形こそを自分として認めて欲しい、というの、ありますよね。……ありません?

    軽率に変身したいものですよね。素敵でした。 --
  • 感想ありがとうございます!
    人混みを絶妙に避けた、自分しか知らないような隠れ家的スポット。そういうのって楽しくなりますね。
    一応電撃も扱えるようなので、野生のポケモンに襲われても自衛は出来そうですが、彼女が新しい性癖に目覚めたらそういう展開も……?
    彼女は抑圧された日常から開放されたいという思いもあるのかもしれませんね。ポケモンに変身することで、色々なしがらみから解き放たれることもありそうです。
    ありがとうございました!! -- 農協の人 ?
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Last-modified: 2021-03-24 (水) 19:41:25
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