ポケモン小説wiki
変わっても、変わらないさ

/変わっても、変わらないさ

writer is 双牙連刃


「うーん……」
「ん? どうしたリィ」

 一緒にテレビを見ていたリィが急に唸りだしたんでどうしたのかと思ったぞ。具合が悪いって訳じゃあなさそうだな。
今見てたのか? リィからの要望で、ポケモン講座って番組の進化についてさね。
自分が何になるかってのはやっぱりリィにとっても大事な事だしな、色々知っておくのは悪いことじゃねぇだろって思ったんだが……。

「進化か……したらもう、僕はイーブイには戻れないんだよね」
「まぁそうだな。だから、イーブイは何に進化するかが大事になるんだ。選べるのはたった一度だからな」
「そうだよね……」

 なんだか元気ねぇなぁ。……よし! ちょっくら元気付けに出掛けるとするか。

「リィ、ちっと出掛けるか。テレビばっか見てても飽きてくるだろ」
「え? ……うん、行く」

 決まりだな。最近、俺も町にぷらぷらしに行くのが増えたから、人間との変な干渉なんかは避けれるようになったんで動きやすくなってんだよ。
リィはそのまま乗っていくみたいだな。そんなら、適当に行くとするかいね。
む? 外に出てきたはいいけど、雲が厚いな……こりゃ、一雨来るかもだな。まぁ、雨の中の散歩なんてのも、たまには乙なもんだろうさ。
とすると、あそこにするかね。確か、屋根があったはずだ。
ふーむ、歩き出しても一向にリィが喋らねぇな。まるで会った時に戻ったみたいだぜ。ははっ、なんだか懐かしい感じがするな。
あれから、リィは空間の力を手に入れて、俺は過去と向き合い始めた。思えば、あの出会いが全ての始まりだったんだよなぁ。

「リィ、俺と会った時の事、覚えてるか?」
「忘れる訳ないよ。僕がこうしていられるのは、あの時にライトと会えたからなんだから」
「そんな大袈裟に考えるなって。俺はちょこっと背中を押してやっただけさ」

 ん、ポツポツっと来たか。どれ、ちょっと急ぎ足で行くかね。
俺が目指してるのは遊歩道って奴がある町の通りさ。ちょいと行き交う奴等が多いが、なかなか綺麗で散歩甲斐はあるんだぜ。
本降りになる前に行かないとな。俺はいいとして、リィが風邪なんか引いても困りもんだ。
軽く早足で町中を抜けていく。皆ポケモンをしまいだしてるからいつもよりは進み易いやね。
ちょこっと濡れたが、まぁ許容範囲で到着だな。っと……同じ雨宿り目的なのか、こっちは行き交うポケモンと人が増えてやがったか。しょうがねぇか。

「わぁ、人もポケモンもいっぱいだ」
「雨宿りには丁度良いところだからな。……怖くはないか?」
「うん、大丈夫。僕も歩こうかな」

 リィが背から降りて、俺の前を歩いていく。はは、逞しくなったじゃねぇか。
様々な店が並ぶ通りをゆっくりと歩く。ここには確か、専門で警察が常駐してるらしいから町の中でもかなり治安の良いところだな。
ゆえに俺達がぷらぷらしてても襲われる心配は……あるが、すぐに警察が飛んで来るって寸法さね。
リィも楽しそうだし、出掛けてきてよかったみたいだな。雨音のする散歩ってのも、やっぱり悪くないだろう。

「……あれ? ライト、あそこに居るのって」
「リーフか? そういや、家に居なかったな」

 見た事あるベイリーフが、メモを蔓で持ってなんかしてた。何やってんだ?
リーフの視線の先には……あ、レオじゃねぇか。なんだ、どっちも出掛けてたのかよ。

「よぉリーフ何や……もがっ!?」
「……ライトさんとリィちゃんでしたか。今は静かに願いますよー」
「な、何してるの? リーフ姉ぇ」
「いやぁ、出掛ける時にレオさんがそわそわしてたんで、何してるのかなーと思ってちょっと尾行をば」

 をばって、一体何をしとるんだか……まぁでもちょっと気になるよな。
今は、なんか読んでるみたいだな。

「今は和菓子の作り方なる本を読んでるみたいですね。さっきはケーキとか洋菓子、あと中華料理の本も読んでましたね」
「お、おいおい……こっからそんなに見えたのか? 目ぇ良いんだな」
「お褒めに預かり光栄ですよ♪ あ、今日の晩御飯にはきっと羊羹がデザートになると思いますよー」

 リーフが見せてきたメモには、レオが買った物まで書いてある。寒天に小豆に砂糖に他諸々……な、なんか本格的に和菓子作ろうとしてるな、レオ。
にしても、行動がびっしりメモに書き込まれてる……リーフ、お前は探偵か何かを目指してるのか?

「レオさんはどうやら、普通の料理よりお菓子作りの方が上手みたいですね。レンさんとは逆みたいです」
「って事は、レンは菓子作りはそんなでもないのか?」
「いつもの食事作りの回数的な関係で家庭料理系は大得意ですけど、お菓子はまだまだ練習中みたいです」
「り、リーフ姉ぇって皆の事色々知ってるんだね」
「公開はしないからNO問題です!」

 絶対に違うだろ。ってツッコミ入れたかったが止めておこう。この調査能力は賞賛に値するぜ。

「ところで、ライトさん達はどうしてここに?」
「ん? あぁ、ちょいと気晴らしに散歩にな」
「そういえば、リーフ姉ぇももう一回進化するんだよね? ……それって、怖いとか不安だなって思った事ない?」
「……ゆっくり話が出来るほうが良さそうですね。レオさんは気になりますけど、散歩にお付き合いさせてもらいます」

 なるほど、リィは進化にそういうイメージがあった訳か。それで進化の話を見てて元気が無くなったと。
やっぱり何を思う前に進化させられた俺とは、皆事情は違うんだろう。そういう点では、俺もリーフの話には興味あるかもな。
そんな訳で、リーフも加えて遊歩道の中間地点まで来た。ここには、この通りのモニュメントである『太陽の塔』ってのがあるんだ。塔って言っても、ただの置物だがな。

「太陽、か。そういえば、フロスト姉ぇってエーフィになりたかったって言ってたね」
「あぁ、エーフィは太陽ポケモンだったな。……全てを包む温かな光、か」
「ライトさん? どうかしたんですか?」
「いや、なんでもねぇよ」

 俺には眩し過ぎる光かもな、与える光ってのは。
しばし太陽の塔を眺める。待ち合わせの目印にもなってるらしくて、結構ここに人もポケモンも集まってるんだよな。

「……家に居ないポケモンって、エスパーと悪、それと水タイプだよね。僕がなれるもので言ったら」
「そういやそうだなぁ。前に俺がシャワーズになったが、あれはもう勘弁だし」
「あぁ、あの性転換薬の所為でなった時ですね。あの時は大変でしたねぇ」

 まったくだ。って、話が脱線したな。進化についての話だったな。

「まぁそれは置いといて、リィはリーフに何が聞きたいんだ?」
「えっと、さっき言った通りで、これから進化するのってどんな感じなのかって事かな」
「なるほどですね。進化ですか……まぁ、私の場合は二回目の進化ですけどね」

 少し考えるような素振りをした後、リーフは口を開く。

「このベイリーフの姿になる時は、やっぱりちょっと不安でしたよ。自分は一体どうなっちゃうのかなって。でも、今はそんなに不安はありませんね」
「どうして?」
「……皆が、進化した私に『おめでとう』って言ってくれたお陰です。それで分かったんですよ、不安だった理由は、自分の姿が変わって皆からどう思われるかだったって」

 見た目や大きさが変わって、今まで傍に居た奴等からの見る目が変わったらそりゃショックだもんな。確かに不安になってもおかしくはない。
そっか、進化ってのはそういうもんだよな。意識した事無かったから分からなかったが、言われると納得出来る。

「ライトさんはどうだったんですか? サンダースになった時」
「俺か? ……残念ながら、おめでとうなんて言ってくれる奴は居なかったよ。それでもなっちまった以上このままの姿で生きていくしかないって割り切った。こんなもんかな」
「さ、殺伐としてますね……やっぱり、野生での生活って大変だったんですか?」
「楽じゃあなかったさ。ま、大変だった事も、飯以外ではそんなに無かったけどな」

 ふむ、リィは何かを考え込み始めたみたいだ。自分なりの答えを探してるところって感じか?
……イーブイってのは因果なもんだよな。きっとどんな進化を選んでも、何処かで後悔を残す事になる。あぁ、別の進化だったら、ってな。
その点、俺は迷わないで進化したから気楽なのかもしれないな。少なくとも、後悔なんてしようにも出来ないし。

「……ねぇ、僕は……何になればいいのかな? 何になれば、今よりも強くなれるのかな?」
「今よりも強く、ですか?」
「うん……別に戦う為の強さじゃないんだ。なんて言ったらいいか分からないんだけど」

 リィが求めてる物、か。多分それを、リィはもう持ってる。でも、それを確かめる術が無いんだろう。
なんとなくは、話を聞いてて分かった。リィが求めてる物は、俺にも通じるものがある。
……過去の弱さ、それを越える強さを求める。でも、その為に今の自分が変わって、家の皆からの見る目が変わるのを恐れてるって感じかね。
それなら尚更、他の誰かに答えを求めるのは違う。自分の納得のいく答えは、自分にしか出せないんだ。

「リィ、その質問の答えは自分で探してみろ」
「え?」
「ライトさん?」
「今のお前なら、絶対に答えを見つけられる。俺はそう思うぜ」
「ライト……」

 厳しいかもしれないが、俺はリィの強さを信じる。それが、リィの歩みの一歩になると信じて。
戸惑った後、リィの顔には不安がありありと出てる。迷っていいんだ、焦る事もない。

「い、いいんですか? リィちゃん、ものすごーく不安そうですけど」
「いいんだ。これは俺からの宿題って奴だと思ってくれ」
「宿題……」
「ん。さて、雨も小降りになってきたか……ぼちぼち帰るかね」

 歩き出した俺に、慌てた様子でリーフとリィも追いついてきた。雨は、この分だと夜には止みそうだな。



「……なるほど、そんな事があってリィは元気なかったのね」
「そういう事だ。だからアームロックを解いて頂けるとあり難いんだが?」
「それはそれ、これはこれ」

 晩飯食ってフロストに乗られていきなりアームロックってどんな流れだっつの。ったく、リィの事になると実力行使するのがフロストの欠点だな。

「あんた責任持って元気付けてあげなさいよ。なんとか出来るでしょ?」
「出来なくはないが、リィの進化はリィ自身がきっちり答えを出すべき事だ。それは曲げないぞ?」
「……確かに、ね。まぁ、その辺は任せるわ」

 首に回されてたフロストの前足が解かれた。ふぅ、やれやれだ。
そういやリィは何処に行ったんだ? 姿が見えないな?
周りの奴等に聞いても誰も知らなかった。ふむ、いったい何処に?

「この時間だし、出歩いてるとは思えんぞ?」
「そうねぇ、あの子はそんな勝手はしない筈ね」

 レオとフロストの言うとおり、午後八時なんて夜分にリィが何処かに行くのは考え難い。って事は、この家の何処かに居るのは間違い無いだろう。
そんなら……そうだ、居るじゃねぇか。リィを探せそうなポケモンが。

「おーい、レン。ちっとリィが何処に居るか探してくれないか? 姿が見えないんだ」
「え、リィちゃん? 分かった、ちょっと待ってね」

 シンクで洗い物をしてる時に呼んで悪い気はしたが、レンなら波導でリィの居る場所が分かる筈だ。うーん、便利だよなぁ。
手を拭きながら来たレンは、すぐに波導を調べる動作に入る。目を閉じて、手を前で組んで意識を集中するのが癖らしい。

「……これは、二階? ううん、もっと上……屋根の上、かな?」
「屋根の上? なんでそんな所に……俺、ちょっと見てくるわ」
「どっちみちあんたくらいしか行けないからね。しっかり励ますのよ」

 まぁ、励ますのはその時次第って感じだな。一丁行ってみるかね。
外に出て芝生を踏むと、まだ僅かに濡れた触感がした。でも、雨はすっかり上がったみたいだな。
そのまま屋根の上に上がると、満月がそこにはあった。へぇ、晴れたお陰で綺麗に見えるじゃねぇか。
そんな月明かりの下、その月を見上げる小さな影が一つ。

「……良い月だな、リィ」
「うん、綺麗な満月。ねぇライト、一緒に見ようよ」

 まるで俺が来るのが分かってたみたいな言い方だな。それとも、それを狙ってここに来てたのかね。
座り込んでるリィの横に行って、俺もそこに座った。満月の光に照らされた町ってのも悪くないな。

「どうした? こんな時間にこんなところで」
「……昼間に話したこと、考えてたんだ。ライトからの宿題」
「あぁ、あれか」

 単純な戦う強さなら、どれに進化してもイーブイよりは強くなる。だから、どれになっても正解っちゃあ正解だ。
でもリィの願う強さは、リィ自身が決めた物に進化しないと得られない。自らが望んだ力の形でないとな。

「僕、ずっと皆がなって欲しいものになるのが良いと思ってたんだ。そうすれば、皆も喜ぶと思って」

 それも間違いとは言わない。実際、トレーナーに懐いてるイーブイならそう願うだろう。

「でも、それで良いのか迷ってる僕も居る。ただそれだと、皆が望んでない物になっちゃうのかもしれない。そうなったらって思ったら、凄く不安になったんだ」
「……そうだったのか」
「僕は……どうすればいいんだろ? 自分で考えても、どう思われるかは分からないのに」

 ……リィは少し、大人になり過ぎなのかもな。自分よりも誰かの考えや意見を優先しようとしてるみたいだ。
我が侭を言う事も無いし、聞き分けも良い。でも、それはもっと大きくなってからでいい。今はまだ、子供でいいんだよ。
リィの頭に前脚を乗せて、そっと撫でてやった。

「そんなもん、気にしなけりゃいいんだよ」
「え?」
「他の奴がどう言ったって、俺はリィの選んだ事を間違ってるなんて思わねぇ。リィ、お前の生き方を決めるのは……お前自身なんだよ」
「僕の生き方……」

 俺の方を見返してきたリィの目には、まだ迷ったような不安さが見て取れる。
俺はそれに笑いかけてやるさ。言う事だって、もう決まってる。

「誰がなんと言おうと、どんな姿になろうと、俺はリィの味方で居てやるよ。な?」
「本当に?」
「あぁ。約束する」

 座った俺の胸元目掛けて、リィが飛び込んできた。おっとと、二足歩きのポケモンならいいかもしれんが、四足でこれをやるのはちっと厳しいぜ。
どんな顔してるかは分からないが、泣いてない事だけは確かだ。優しく背を撫でてやると、嬉しそうに尻尾が揺れた。

「ありがとう、ライト」
「いいってさ。もう大丈夫か?」
「うん。でも……もう少しだけ、こうさせて」
「ははっ、了解」

 そうしてしばらく屋根の上に留まった後、リィが道を作るってんで空の扉で家の中に戻った。あいつはもう自室に入ったみたいだし、平気平気。
リィはレオやフロストから軽く注意されてるし、俺はレンが茶を出してくれたからそれでも飲んでるかね。

「ねぇライト、リィちゃんと屋根の上で何してたの?」
「ん? ちょいと月見をな。綺麗な満月だったぜ」
「へぇ~、あ、そうだ。それならレオ君が作ってくれたお羊羹もまだ残ってるし、皆でお月見しない? って言っても、ご主人とかプラス君達居ないけど」
「いいんじゃねぇか。おーい、お前等も行くだろ?」
「聞いてはいたが……こういう夜があってもいいか」
「そうね。たまにはいいんじゃない? リィ、もう一度空の扉は開ける?」
「大丈夫。皆でお月見、楽しそうだね」

 んじゃ決まりって事で。ワイワイ騒ぐ訳じゃないが、なかなか楽しい夢見が出来そうな夜じゃあないか、なぁ。



 さて、一夜明けた朝なんだが……はっきりとテンションの差が出る朝食風景となった訳だよ。

「何故……何故そこで呼んでくれないんだよぉ~」
「いや、場所が屋根の上という事もありますし、流石に人間の主殿では危険かと思いまして」
「それなら俺達を呼んでくれればよかったじゃないッスか~、酷いッス~」
「あんたやプラスじゃ、屋根の上で騒ぎ始めてもおかしくないでしょ? 近所迷惑を考えてよ」
「くっ、そんな状況を見逃したとは、リーフ最大の屈辱ですぅ」
「……一体何を目指してるんだ? リーフ」

 とまぁこんな感じだ。急遽決まった話だったが、今度からは呼んでやるとするかね。
とにかく自分の分は食ったし、今日はどうすっかな~。

「あの、皆ちょっといいかな?」
「ん? リィ、どうしたんだ?」
「昨日の事、一晩考えて決めたんだ」

 そっか、答え出したんだな。なら、話を聞いてやった俺は余計にちゃんと聞かなきゃな。
他の奴もリィの話しを聞く為に静かになった。後は、リィが話し出すだけだ。

「えっと、僕ね、昨日何に進化したいかずっと考えてたんだ。それで、なりたいものが決まったから、皆に話しておこうかなと思って」
「おぉ!? いやそっか、条件さえ揃えばイーブイはいつでも進化出来るんだったっけ。確か進化の石も揃ってるし……よし、なんでも言ってくれ!」
「人間さん、僕は石を使う進化はしないよ。僕のなりたいのは……エーフィだから」
「それが、自分で出した答えなんだな? リィ」

 リィは力強く頷いた。エーフィ……太陽を選んだか。

「そうすると、懐き進化だな」
「つまり、俺の出番という事だな!? よし、リィの願いを叶える為に一肌脱ごう!
「まぁハヤトの事は放っておいて……そうね、リィの力を生かすのなら一番良い進化先じゃないかしら」
「ちっと複雑な心境か?」
「そうでもないわ。このグレイシアも、なってみるとそれはそれで悪くないしね」

 野暮な事聞いたかね。睨まれなかったからそうでもないか。
リィの話を聞いてそれぞれに話を始めたようだが、どうやら否定的な意見は出てきてないみたいだな。とりあえず一安心か。
しかし……そうなるとやっぱりどうやってエーフィになるかが問題か。まだ人間に対して僅かながら抵抗があるリィが、どうやってもこいつに懐いて進化するのは考え難い。
うーん、折角リィが自分で出した答えだし、なんとかして進化させてやりたいよなぁ。どうするか……。

「ねーねー、懐き進化って何ー?」
「えっと、簡単に言うと、ポケモンが誰かを凄く好きになった時に起きる進化……かな? ちょっと違う気がするけど」
「ふーん、なら別にリィがハヤト兄ちゃんを好きじゃなくてもいいんだー」
「……ん? なんでそうなる、プラス」
「だって誰かでしょー? ならトレーナーじゃなくてもいいんじゃないのー?」

 そうか……誰かに懐いた状態での進化、その誰かが人間である必要は無いのか。こりゃ盲点だった。
って、今の話を聞いて納得して、若干二名を除いて全員でこっちを見んな。

「それならもう答えは出たようなものじゃないねぇ?」
「そうだな」
「そうですね」
「そうだね」
「ちょ、俺か!? やっぱり俺なのか!?」
「師匠ならリィっちを立派に進化させられるッス! ……でも、具体的にはどうするんスかね? 今でも師匠はリィっちと仲良いし、これ以上懐かないと起こらないって事ッスよね? 今まで進化が起こらなかったって事は」

 いやいやいや、何も今進化するって話じゃなかった筈なのになんで今どうこうする意見を出そうとしてるんだ!? おかしいだろが!
ほら、リィだって戸惑って……ないのね。寧ろこっちをめっちゃ見てる。俺にどうしろと言うんだい?

「これはあれね、何かしらの後一押しって奴が必要なのかしら」
「一押し、だと?」
「だが普段の様子を見る限り、それらしい事は思いつかないがな? 大体、そんなにライトとリィが別行動をしている事が無いだろう」
「確かに、いつもライトはリィちゃんが見えるところに居る気がするね」

 そうでもない気もするが……傍から見たらそうなのかね? これからはちと見直す必要があるかもなぁ。
しかし、そうだとするとそれ以上なんて無いだろ? 無いよな? ある筈無いよな。

「ここは荒療治に近いものが必要なんじゃないかしら。例えば……」
「例えば?」
「キス、とか」

 場がシーンと静まり返った。キス? それは俺とリィがって事か?
待て待て待て、脳内を検索してだな、キスの意味を調べよう。……そうか、魚の名前か。ってそんな訳ないよな。はははは、はは、は……。

「え、えぇ!?」
「な、何を言い出してるんだフロスト!」
「ライトさんとリィちゃんのキスシーンですと……これはなんとしても押さえたいシーンですね……」
「そんな事出来るか! 急に何を言い出しとるんだお前は!」
「だってそれくらいしないと変化無さそうじゃない? いいじゃないリィの為だと思えばそれくらい」

 いい訳あるか! なんなんだその罰ゲームは! 何が悲しくてこのメンツの前でんな事せにゃならん!
っていうかこいつ笑ってやがる。楽しんでる、今この状況を大いに楽しんでやがる。こ、この野郎!

「キスって、あの、テレビで見た事あるあれ……だよね?」
「リィ、お前の想像したものは多分合ってるぞ。そんな事別にしたくないよな?」
「え~っと、なんて言えばいいかよく分からない」

 だよな~。でも恥ずかしそうにしてる辺り、どういう事かは分かってるよな。うんうん。

「純情ね~。でも、もしかしたらそれで進化が始まるかもしれないじゃない。なんだかロマンチックじゃない?」
「そうかもしれないけど、ライトもリィちゃんもあまりしたがってないし、それなのにしても意味無いんじゃないかなぁ?」

 そうだ、言ってやれレン。その性悪グレイシアに!

「よく分かんないけど、やってみればいいんじゃないのー? やらないで話してても何も変わらないよー?」
「そうッスねぇ……師匠、何があっても俺っちは師匠の一番弟子ッスからね」

 何これ? する展開にすり返られたんですけど!? どうしてこう出さなくて良い時にクリティカルな発言をするんだプラスよ!

「はっ、俺が完璧に空気になってる!? くぅっ、ならばここは俺がリィに!」
「黙って静かにしてなさいハヤト? それとも、喋れなくなったほうがいいのかしら?」
「はい、静かにしてます……」

 キスしようとしてたのには目を瞑るからもうちょっと頑張れよぉぉぉ! お前こいつ等のトレーナーだろうが!
あぁ、もう駄目だ、もう場の空気が俺達に釘付けだ。今すぐここからエスケープしたい。
もうこれ、するしかないん? ……駄目だ、混乱し過ぎて変なものが頭にダウンロードされてる。この緊張状態から開放されるには……するしかない。
覚悟を決めろ、ライト。別にレオやソウとしろって言われてる訳じゃないんだ、そういう事で割り切れ。

「り、リィ、ちょっとこっち見たまま目ぇ瞑っててくれ」
「え、ど、どっち?」
「あ~っと、じゃあそのままでいいからちょっとだけ動かないでいてくれ」
「う、うん」

 一瞬でいいよな? いいって事にしてくれ。
そっとリィに顔を寄せて、そのまま……。

「ん……」

 感触で、触れ合ったのは分かる。雑念を捨てろ~……これはリィの為、リィの為なんだからな~。
あら? する時に目を閉じた筈なのになんか明るい? ま、まさか……。
口を離して目を開くと、そこには体が輝きだしたリィが居た。ま、マジですか!?

「ふぉぉ!? み、ミラクル発動です!」
「あっら~、まさか口に行くとは思わなかったし、本当に進化が始まるとはね」
「あ……」

 完全にリィが光に包まれて、姿が見えなくなった。上手く……いったのか?
しばらく光り続けた後、弾ける様にしてそれは収まった。そして、その中には薄紫色の毛並みをしたポケモンが、居た。
間違いなく、そこには太陽ポケモンと呼ばれるエーフィの姿がある。

「リィ、大丈夫か?」
「……僕、どうなったの?」
「心配する事無いわよ。綺麗よ、リィ」
「じゃあ、僕進化出来たの?」
「おぉぉぉー! おめでとうッスリィっち!」

 皆の賛辞がリィに送られていく。なりゆきでああなりはしたが、まぁ結果オーライって感じかね?
あら? なんか、レンの元気が無いような……。
まぁ今はいいか。とりあえず……おめでとうな、リィ。


という事で、久々な新光の更新11話でございました。ちょっと執筆に取れる時間が減ってしまい纏めるのに時間が掛かってしましいました…。
今回で無事にリィもエーフィに進化。その力がどんな物かは以降の話にて!
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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • やっとリィが進化しましたね リィは変わらずエーフィーに......
    執筆頑張ってください
    ――ポケモン小説 ? 2012-07-09 (月) 22:22:02
  • ↑エーフィーではなく、エーフィですよ。
    それはさておき、まずは執筆お疲れ様です。
    思ったのは、少し、ことが上手く運びすぎているんじゃないかなと。
    ライトとリィの接吻でリィの進化が始まるという場面をいれたいのであれば、一、二回進化の方法の予想を失敗させるなどしてライトとリィの接吻という方法を見つけるまでに試行錯誤させるなどをしてみればそこまでの道のりが簡単なものに見えないでよりいいと思います。(あくまでひとつの例です。)
    以上、生意気な名無しの意見でした。
    ―― 2012-07-09 (月) 23:10:17
  • 少し言いたいことが分かりづらくなっていることに気がつきました。
    進化の方法の予想を失敗させるとは、実際に試してから、という意味です。
    ――↑の補足 ? 2012-07-09 (月) 23:18:16
  • 間違っていましたね すみませんでした
    ――ポケモン小説 ? 2012-07-09 (月) 23:34:02
  • ついに進化ですねー
    まさかきっかけがキスとは。
    やりますね、ライト

    そして最後のレンが・・・w
    ―― 2012-07-10 (火) 03:22:19
  • んもーライトがニブチンなもんだからレンが可哀想です(´・ω・`(最後
    せっかく秘密を共有してちょっと距離縮まったかと思った矢先にこれですよ。
    あ、個人的にレンが好きなのでひいきしてるだけですんで気にしないでください←

    何はともあれ無事に進化ですね!
    リィちゃんの能力にもどう関わってくるんでしょうか。楽しみですね。

    ていうかフロストさんのちゅーしちゃえよちゅー(笑)的なノリが思わず小学生か!とツッコミたくなりましたw

    あと、最初の名無しさんの意見も一理あるなと思いました。
    あれこれやって「じゃあもうちゅーしか無いんじゃね」みたいな流れの方が良かったかなと僕は思います。
    まぁ唐突に出されたアイデアで戸惑うのもアリですがw
    まぁこれも超個人的な意見なので適当に聞き流してください(´・ω・`

    長々とすいませんー!これからも応援してますー!!
    ――名無し25号 ? 2012-07-10 (火) 03:56:40
  • >>ポケモン小説さん
    リメイク前とは大分遅れての進化でございます。まぁ、やっぱりリィはエーフィのほうがイメージし易いものでw

    >>07-09の名無しさん
    確かに出来過ぎです。実際、リメイク前は何かと悩んだり考えたりしてますからね、進化する為に。
    今回はリメイクという事で、実はアレがあります。(間に合えば一緒に投下出来たのですがね…)あまり言ってしまうと色々と面白みが無くなってしまうので…この辺で! すいません!

    >>ヒロトさん
    はい、進化回となりました。ハヤトについては…ありがとうございます。もうちょっと頑張れ、トレーナーw
    レオは一途なところがあるので、やりだしたら止まりません。これからもどんどん腕前を上げていく事でしょう。
    お気遣いありがとうございます。体を壊さない程度に、頑張っていきますよ!

    >>07-10の名無しさん
    当事者のライトはギリギリまで渋ってましたがねw
    レンとの関係もどうなるか…もっと頑張れ主人公!(弄られる意味で!)

    >>名無し25号さん
    やはりレンにとってもショッキングな状況でしたね。煽ったフロストも恨まれそうですがw
    無事…かどうかは分かりませんが進化です。かなりリィの能力は変化していきますね…今更ながら、リィだけキャラ紹介が多くなりそうです。

    自分の楽しそうな事に対してフロストはノリノリです。ちょっと子供っぽいのもありかなぁなんて思ってます!

    そして実はもう一捻りあったりして…もうちょっとお待ちくださいませ!
    ――双牙連刃 2012-07-10 (火) 21:34:59
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Last-modified: 2012-07-09 (月) 00:00:00
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