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因果な片割れの夜

/因果な片割れの夜

この小説には十八禁はありませんが血生臭い表現と捉えられる所が少しあります。
ただそれはかなり小さいはずなので、安心してご覧くださいませ。

by簾桜




「みゅは~、い~き~か~え~る~!!」

 偶然見つけた荒れ地の中の楽園。崖にへばり付くように植物が群生し、地下からの湧水のお陰で出来た池が細々とだが命の恵みが満ちる場所へとさせた、オアシスとも呼べる場所。
 ミュウとミュウツーはここで一晩を送る事に決めた。いつまで続くか分からないこの荒れ地では、いつこのような場所と巡り会えるか分からない為、休めるときに休んだ方がいい。
 ミュウは先程からタップリ数十分、水浴びを楽しんでいる。自由気ままな性格の為いつ飽きるかは定かではないが、恐らくもう十分程はこのままであろう。
 そしてミュウツーはと言えば、こちらは今晩、そして今後の食糧となる木の実を探している所であった。彼らとて生き物、食糧や水がなければ生きていく事が出来ない。
 ところで、彼らは食料は集めているが水を入れる水筒みたいな物は見当たらない。では今まで水は如何していたのか? それは……もうすぐ分かるだろう。
 木の実をあらかた集め終わり、楽しそうに遊ぶミュウの姿を確認しつつ彼は次の作業へと移る。
「やれやれ、少しは手伝ってほしいものだ。……ふん!」
 己の念の力を右手に集中させ圧縮、他属性へと変換していく。やがて右手の周囲のみが極寒の空間へと変化し、周囲に漂う水分を凍らせていく。それをうまく集める事により、やがて彼の手の中で小さな氷の塊が出来上がった。
 それをあらかじめ左手で作り実体化させた念の物質で作った少し大きな鍋に入れ、再び氷を作りだす。やがて数個が出来上がった後は、今度は念を炎へと変化させ、事前に集めておいた薪へと着火する。
 次第に炎が薪に燃え移り、あっという間に焚火へと変わる。その炎の中に念物質の鍋を乗せると氷はやがて溶け、そして飲み水へと変化する、という訳だ。

 ちなみにこの方法を考えたのはミュウ。実際はミュウも旅の途中この方法を使ってた者を見、それを真似したと言っていたそうな。
 いずれにしても、この方法を考えたポケモンあるいは人間は生活力および発想力の強い者だとミュウツーは常々思っていた。
 元々この飲み水作りはミュウが担当していたが、最近はミュウツーに任せっきり。と言うのも旅を始めて最初の頃のミュウツーは自身の最大の攻撃は出来ても、最小にコントロールする事が酷く欠落していたのだ。
 その為旅を始めた頃は戦闘中余計な犠牲者が出たり、街一つがあわや壊滅という惨状になりかけたりなど、色々と苦労があったらしい。流石のミュウもそんな危なっかしい奴にこれほど緻密な作業は任せられないという事でしぶしぶ作っていたそうな。
 最近はようやく彼も緻密なコントロールが出来るようになった為、作業は全てミュウツーに任せ、ミュウ自身は遊び呆けてばかり。そんな彼女をミュウツーは時折鉄拳制裁をし、それに怒ったミュウがグチグチと妬み、やがて喧嘩に発展し――そんな形で二匹は今まで旅を続けてきたのだった。
 余談だが、何故近くに水場があるのにわざわざ氷から水を作っているのかと言うと、単純にミュウツー自身がコントロールのスキルアップをしたいが為に練習をしているだけである。

「ふぉ~気持ちよかった~。いやーこんな所で水場を見つけられるなんてラッキーだったねー」
 ようやく水浴びを終えたミュウがフワフワとミュウツーの元へと飛んでくる。ちょうど氷もすべて水となって火から遠ざけていたのだが、ミュウが念物質の鍋にチョンと触れただけで、鍋は氷のように冷たくなりあっという間に温水が冷水となってしまった。
 ミュウはことエネルギーの他属性変換の技術においてはトップクラスの実力を持っている。しかしミュウツーほど強力なパワーを持っておらず*1稀にそのパワー不足が戦闘に響くことがあった。最もそれは、ミュウツーの暴走を止めるが為に起こった問題ばかりなのだが……。
「全く、私がやるよりも遥かに早くこなせるのではないか?」
「いいじゃん別にー私は楽しく生きれればそれでいーいの。んぐ……プハー!」
 小さな手で水をすくい、喉を潤す。この間ずっとミュウツーの左腕は鍋から離れていない。これは念物質がミュウツーの特異な“技”であって、実際に物質を“作り出す”訳ではないからだ。つまり一旦手を離せば最後、念物質はその姿を維持する事が出来ない。
 ふと、がさがさと草木が擦れる音が響く。草をかき分けやってきたのは、ニドランと呼ばれるポケモンだった。姿から見て雄である。

 またも余談だが、ニドランと言う種族はポケモンの分類上、種族名が同じで雌雄がハッキリと分かれているただ一種のもの。同じように雌雄がハッキリと別れているポケモンは数種類は少なからずいるが、全て種族名は違う。図鑑上でもニドラン♂とニドラン♀と全く別物として分類されている。
 何故このような事が起こったかと言うと、それは進化の先が雌雄全く違う事があげられるだろう。雄は進化するとニドリーノ、ニドキング。雌はニドリーナ、ニドクインというポケモンに進化する。
 普通ここまで雌雄の差が出るポケモンも珍しいが、何故ニドラン種だけこのような生態なのかは現在も不明である。
「…この(くだり)は必要なものなのか?」
「作者のなけなしの文章文追加だから、別に読み飛ばしてもいいと思う」
 ……そこまで言う事ないじゃない。*2

 ゲフン……さて、こちらに気がついたニドランは毛を逆立てフーッと威嚇をする。当然子供の威嚇に怯えるほど二匹は弱くはないので気にも止めていない。
 やがてニドランは無駄と判断したのかなるべく遠くまで走り、急いで喉を潤すとそのまま走り去ってしまった。この一連を見、ミュウツーは少しだけ怪訝そうな表情をした。
「やはりここでキャンプを張るのはいささか危険かもしれん。少しでも離れた場所に行った方がいいと思うが」
 この広大な荒れ地の中のオアシスは、どうしてもポケモンが集まってしまう。先程のような子供なら別段取るにたらないが、もしも大きなポケモンが徒党を組んでくるのならば……幾らミュウツーでも裁き切れないかもしれない。……なのだが。
「だーいじょびだいじょび、こーんな顔した釣り目の凶悪そうな不審ポケモンに自分から来よーとする勇気のある奴なんていないって」
「……それはつまり、私を侮辱しているという事で構わないか?」
 彼から発せられる明らかに不機嫌なオーラを、ミュウはカラカラと笑いながら受け流したそうな。


 そんなこんなで、時間で表わすともうすぐ十一時ぐらいのもうすぐ真夜中。荒れ地は乾燥した空気のため星がよく見えとても綺麗に瞬いていた。
 やはりというか当然と言うべきか、池の周りには数種類のポケモンが集まり僅かに生える木々に身を寄せ合って眠りについていた。
 しかしこれまた当然と言うべきか、明らかに恐ろしい容姿をしたミュウツーを警戒してか、彼らの周りに近づく者は誰一人としていなかった。
 ミュウツーは納得がいかないという雰囲気を出しまくっているが、それ以外は何事もない、穏やかな夜であった。
「ふぁぁぁ……流石にもう眠いやぁ。もう寝るー」
 談笑もそこそこにそう言った途端コロン、という音が聞こえるほどミュウは綺麗に転がり、そのままスピスピと眠りについてしまった。どうやら彼女、寝付きがかなりよろしいようだ。
 ミュウが眠った後も、ミュウツーはただただ星を眺めていた。数分、数十分、数時間と経っても、何が楽しいのか彼はずっと星を眺めていた。
 何かに憑かれている、と言った表現がもしかしたら正しいのかもしれない。星を見る彼の表情は――悲しげであった。
 ミュウと彼が出会って、既に数年。色々な事があったのは分かる。だがしかし、そのすべてを語る事は彼には出来ない。
 あまりにも色々な事があって、語りつくせぬから。貰った物が多すぎて、何を話せばいいかわからないから。

「そんな木陰に身を隠してないで、出てくればいいだろう。それとも、全員が眠らなければ姿を見せられないのか?」
 突如、ミュウツーがそう呟く。すると彼の後ろにある木から、一つの影が“ふわりと”姿を現した。
 それは、黒い幽霊のような姿をした、ムウマと呼ばれるポケモンだった。ムウマはやたら警戒しているのか、先程からこちらに来ようか空中を行ったり来たりを繰り返している。
 ゴーストポケモンは時として、他の種族の見る夢や悪夢を己の糧として粗食する事がある。……どうやらこのムウマ、今晩はこのオアシスに眠るポケモン達の夢を食らうために来たらしい。
 やがて悔しそうな顔を浮かべ、そのまま霞むように消えていく。今夜の食事を諦めたようだ。
「心配せずとも、食事を邪魔するつもりはないのだが、な」
 自嘲めいた笑みを浮かべ、ふと右手を凝視する。
 かつての自分が、脳裏に浮かぶ。何も考えずに、全てを破壊してきた自分を。許しを斯う者を何の躊躇もなく切り捨てた自分を。
 そしてそれを、ただ楽しむためだとか、それしか出来ないからとか、そういう理由でしなかった自分を。何の理由もなく行ってきた自分の罪の数々を、未だに拭う事が出来ない。
 これは報いだと、ミュウツーは思う。かつて散々その手を、その身を血で穢してきた、自分自身が犯した罪の。
 いずれ自分は、地獄へと堕ちる。ただ、その時が来るまでは、せめて。
「ふゆ……みゅ、むみゅ~……」
 不意に寝返りをうったミュウを見、そして笑った。自嘲などではない、自然な笑みであった。
 様々な事を教えてくれた。それこそくだらない事から大切なものまで。大切な事を教わった。命とは何なのか、自分とは何なのかを。
 確かに喧嘩ばかりではあるが、あの頃の自分ならば喧嘩をする事すら出来なかった。
 ――せめて、この瞬間だけは。もう少し、ほんのあと少しだけでも……。

 瞬間、鋭い殺気を感じた。すっと立ち上がり、遠くの方を見る。相当遠いが、まっすぐこちらに向かっていた。
 自身の体を若干浮かせ、ミュウツーは殺気の方へと急ぐ。普通に歩くよりもこちらの方が断然速い。
 やがて見えた姿は、ヘルガーと呼ばれる黒い姿に二本の角を生やしたポケモン。悪、炎タイプという、ミュウツーにとっては厄介な相手で、それが三匹。
 突如現れた宙に浮かぶ敵にヘルガー達は若干驚いてはいたが、三匹は同時にグルルッと鋭い威嚇を放つ。普通のポケモンなら萎縮をする光景だが、百戦錬磨のミュウツーにはあまり効果はないようであった。
「あんた、俺達に何か用かい?」
 真ん中に居る、恐らくリーダー格であろうヘルガーが聞く。ミュウツーは小さく笑い、余裕そうに語る。
「この先の池に仲間がいてな。別に貴様らの食物連鎖を邪魔する気はないが、目の前でそれをやられるのも後味が悪い」
つまり、今晩は俺達に絶食しろってことかい?
 そう言うと同時に、ヘルガー達の殺気が倍増した。瞬間残り二匹がミュウツーの背後へと周り、彼を囲む。なかなか素早い連携だとミュウツーも舌を巻く。
「で、この状態でどうすると? 見たところあんたエスパーのようだし、この状況は絶対的に不利だと思うが?」
 そうだろうな、と言いつつもニッと笑う彼を、ヘルガー達は渋い顔で睨む。やがて耐えきれず一匹が襲いかかろうとした……次の瞬間であった。
 明らかにミュウツーの周りに流れる気が、彼へと集中する。やがて集中した気は上へとあがり、やがて彼の目へと――
「まさか?! 止まれぇ!!」
 リーダーが叫ぶも、時既に遅し。悪タイプですらその存在を見抜き攻撃を可能とする瞳術ミラクルアイの力を借り、瞬間的にミュウツーは右手で作り出した念で飛び込んで来たヘルガーを捕獲、ゆっくりと体を締め付けていく。
 体中を握り潰され、ガァァァと言う断末魔を上げる仲間に駆け寄ろうとするヘルガーを遮ったのは他でもない、ミュウツーから一瞬放たれた殺意のプレッシャーであった
 まるで血のように紅く、ベットリとしたような異質な空気。心臓の弱い者なら、これだけでショック死するかもしれないという程の重圧。それだけで、二匹の戦士を黙らせるには十分であった。
今日は気分がいい。すぐに退散するならこの場は見逃そうと思うが、どうする?
 依然として放たれる血のような威圧を受けつつ、リーダーはゆっくりと首を縦に振った。


「ふみゅ~いーいあ、さ、だ、ねー!」
 大きく体を伸ばし、眠気とだるさを取るミュウ。既に日は若干あがってはいるが、旅立つのならば今からでも遅くはないだろう。
 結局あのあとあまり睡眠をとっていないミュウツーではあるが、そんな事などおくびにも出さずいつも通り無表情で起床した。
 故に、夜の事を知る者は誰一人としていない。……そう、誰一人として。
 オアシスで手に入れた木の実を葉っぱで編んだ布で包み、背負ったあとミュウツーはミュウの後を追う。……やがて来る終わりへの旅路に向け。
「じゃいこっか~。ねぇねぇ、もうすぐこの荒野抜けられるかなぁ~」
「確かにもうすぐ抜けられるかもしれんが、だからと言って旅が終わるわけではないぞ」
「え~」
「え~、ではない」





 やがては訪れる別れ。だがそれは必然。故に彼は歩く

 だから彼は守る。影である彼に光を当ててくれた彼女に

 いずれ自らが朽ちるその時まで。いずれ離れるであろうその時まで

 孤高の戦士は歩く。ただその歩みは、少しだけゆっくりとではあるが

 ほんの少しだけ、別れを惜しむように。ほんの少しだけ、今の時間が長く続くように――



 ん~最後微妙だったか? 寧ろいらなかったか?? ……感想お待ちしております。




*1 一般のポケモンに比べたら遥かに強力。ミュウツーが異常なだけ
*2 by作者

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Last-modified: 2010-05-12 (水) 00:00:00
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