この小説には十八禁、特殊プレイ、また血生臭い表現など
そのような物は一切ありません。安心してご覧くださいませ。
by簾桜
風が吹けば砂が舞う広大な荒れ地。木々は枯れ貧弱な姿をさらし、ゴツゴツとした岩が辺りに散乱している。
命の灯火すら少ない大地に、ニ匹のポケモンの姿が見える。一匹はやけに体が小さくピンク色、とても長い尻尾。そして何故かフワフワと体を浮かしている。もう一匹はその姿を大きく、逞しくしたようにした人のような姿をしたポケモン。所々紫が目立つが、その体はよく引き締まっており、相当な強者だというのが分かる。
旅人なのか二匹共マントを羽織り、目的地があるのだろうか、二匹は道なき道をただひたすらに進み続けていた。
黙々と進み続ける中、小さい方が体をふわりと地面に降ろし、口を鋭く尖らした。
「お~な~か~す~い~た~!!何時になったらこの荒野を抜けれるの~!?」
「ピーピー泣くな。まだ数時間しか経ってないし、そもそもお前は空中に浮いてただろうが!」
「空中浮遊だって長時間だったら結構念の力を消費するの!」
「そんな言い訳が通用すると本気で思っているのかこの頭も妖精級バカが!」
「うっさいこの根暗でアンポンタンなバトルマニア!」
「だれがマニアだ! 私は寧ろ戦争反対派だ!」
「敵を一撃で倒して、酷い時だと消滅までさせるのに何が反対だよ!」
「何だ!!」
「何よ!!」
二匹はヌググググと呻き声を漏らしながら睨みあい、そして――
「「フンッ!」」
――と言って、お互い背を向けたのだった。
……もうおわかりだろうか? この二匹のポケモン、実はミュウとミュウツーという、世界でもかなりレアな種類のポケモンである。
ミュウとはこの世界に数匹しか存在が確認されていないとも言われている、精霊に近い存在と言われるとても珍しいポケモン。
全てのポケモンの始まりとも言われ、それゆえかメタモンを凌ぐ変身能力を持ち、さらに強力なサイキック能力を持つという何とも不可思議なポケモンである。
対するミュウツー。これは少々悲しい話を織り交ぜなければならないであろう。彼は元々、生物の輪廻から全く外れた存在。心ない人間たちに“作られた”命。
先に紹介したミュウの遺伝子を利用して作られ、戦闘用に改造されたクローン。心ない人間達は彼を戦争の道具として使うために作った……が、その野望はあっけなく崩れ去った。
力を付け過ぎたミュウツーがある日突如暴走、全てを無に帰し、そのまま野生の世界へと紛れ込んでしまった。
記録によるとかつて彼は数人の人間と行動を共にした事があるらしいが……その詳細は本人を除き、永久に闇の中であろう。
……そんな因果関係を持った二匹が、荒野のど真ん中でグチグチと罵りあっているのは一体どういう事なのだろうか?
それを説明するとなると、少しだけ時間軸を戻さなければならないだろう。
―――数年前
夜の闇を切り裂くネオン輝く大都会。大小様々なビルが連なり、数々の人間たちが己の欲望をかなえる為に活動している。
そんな大都会の空高く、あるビルの屋上にてそんな光景を見る姿が。ボロイマントを羽織った、あのミュウツーであった。
ミュウツーは感情のない目でその光景をただ見ていた。何をするでもない、ただただ人間達が何をしているのかを見ているだけであった。
月夜が彼を照らしている、そんな中でも身じろぎせずに立ちつくしている。まるで人間達を羨ましく思っているように。
風がビュウッと彼の体を撫でる、そんな中でも瞬きせずに睨んでいる。まるで人間達を妬ましく思っているように。
やがて何を思ったのか、彼はその場を後にしようと体を宙に浮かせた。熟練のエスパータイプにとって空中浮遊など誰でもできる簡単な技術。
彼はゆっくりと空を目指し――不意に何かを感じとり瞬間的に右手に念の力を集約させ、後ろを向き勢いよく空を切った。
右手から離れた念の力はそのまま念の刃、サイコカッターとなって高速で飛ぶ。しかしその刃は対象をとらえることなく、そのまま空の彼方へと飛び、塵となって消えてしまった。
「ふぉ~ビックリしたぁ!いきなし攻撃なんて酷いよ~」
後ろから声をかけられた。振り向くとピンク色をし長い尻尾、そして特徴的とも言える大きな蒼い目をした……当時のミュウがそこに浮かんでいた。
ミュウツーが今度は左手に念を集中させ、ミュウのいる空間ごとサイコキネシスで握り潰す。しかし次の瞬間ミュウの姿は突如として消え、サイコキネシスはあっけなく不発に終わった。瞬間的に気配を察知し、霊の力を溜めた球体、シャドーボールを後方に放つミュウツーだったが、やはりミュウの姿はそこにはなく、これもまた不発。
チッと舌打ちを零すミュウツーの前に、ミュウが一瞬で姿を現す。どうもテレポートを使って移動しているらしいが、一瞬のうちに座標を設定するその技術に、ミュウツーは目の前にいる生物がかなりの強者である事を悟る。
手加減無用と判断し、ミュウツーは両手をバンと強く重ね、念を強く、固く密集させてゆく。本来念の力は目に見えるものではないが、強く圧をかける事により、徐々に実質を帯びていく。その究極とも言えるもの、それが――。
「うわ、実体化した!?」
念の力を物質として実体化させる、という事である。戦闘用に特化されたミュウツーだからこそ出来る、まさに神の領域とも呼べる技。
ミュウツーは物質化した念を自身の背丈と同じ大きさのスプーンへと成形し、構えた。全身から殺気をみなぎらせ、ある程度の念を自身の周りに巡らせる。
こうする事により相手の気の流れをより鮮明に視えるよう、感じやすくなるようにする。仮にテレポートで逃げられたとしても、姿を見せた瞬間に高い確率で追撃する事が可能となる。
どうやらミュウの方も危険と感じたらしく、フワフワと浮かんでいる態勢から少しだけ体を伸ばし、くるりと一回転した後手に念の力を溜める。何をするかは不明だが、テレポートの発動時間の短さを考えると、油断はできないであろう。
長い時間睨みあう中、先に動いたのはミュウツーであった。勢いよく飛び出し、一気にスプーンで突き刺す。ミュウはそれを反射的に避けたと同時にシャドーボールで反撃するも、実体化したスプーンはそれ自体が強力な念そのものの為難なくはたき落とした。
「くぅ、ほ、な、は、いやややややや、ちょ、まっ、てぇ!?」
ミュウツーから繰り出される、怒涛の連続攻撃。右から、左から、突きの連打、上から振り下げ、回転しての強打、そして間に混ぜる念の球を使った攻撃と、正しく攻撃の隙を与えないようにする完璧な攻め。
それに対し、時に体を捻って、時にテレポートを利用して、時に防御壁を瞬時に作って受け流し、ミュウは辛うじて避け続ける。
数十秒後両者態勢を整えるため飛びずさる。お互いはぁはぁと荒い息を浮かべているが、相手に意識を集中させたまま。
……忘れてもらっては困るが、二匹が戦闘しているのは街の遥か上の空、しかも戦闘によって二匹はいつの間にか雲を突き抜け、飛行機が飛んでいそうな高さで戦っている。
月が手に届きそうな程近く感じる中、二匹は息を整え次の一手を打つ。
「これを避けられたら褒めてあーげるぅ!」
叫ぶと同時に、頭上で作ったシャドーボールを体をめいっぱい使って放り投げる。ただのシャドーボールとただ一つ違うのは、そのサイズ。
ぱっと見ただけでもミュウの約三、四倍はあるであろう特大の攻撃。これをまともに食らえば、いかにミュウツーとて痛手を受けるのは必須。
苦い顔をすると同時に、彼はスプーンの硬質化を一旦解き、再び形成する。今度は片側のみかなり薄く形成し、一瞬で背丈並みの大きさのナイフとなった。
両手で強く柄を握り、特大シャドーボールに向け振り落とす。ダンッという音と共に霊球は真っ二つになり、少し経った後大爆発を起こした。
「あ、ちゃ~……そう来ましたか」
流石のミュウもこれには驚愕を通り越して呆れ顔になってしまう。すると急に来た頭痛に顔を歪ませた。
念じる事により攻撃するエスパー系にとって、頭痛は格闘タイプの筋肉痛と同じもの。急激に念力を使用したため、限界が来たらしい。
ミュウツーも息を荒げ様子をみているが、疲労の色は隠せないようだ。
「あ~もうヤメヤメ、疲れちゃったよもーう」
そう叫び、ミュウは体を大の字のように大きく広げてフワフワと空中に彷徨わせる。その姿に少しだけ疑問に思っているような表情を浮かべるミュウツーだったが、やがて手に持つナイフの実体化を解き大きく息を吐き出した。
少しの間だけ流れる、無音の時間。稀にふく風のみが、唯一無二の音。
やがて回復したミュウが、ミュウツーに近づく。身構えるミュウツーであったが、攻撃の意思がないので下手に手を出せない。
ゆっくりとミュウツーの周りを回るミュウに、ミュウツーは困惑の表情を見せる。数分間じっくりと観察した後、おもむろにミュウがこう切り出した。
「ん~、やっぱ私と似てるね~。見た時からなんーかおかしいとは思ってたけどぉ……まぁどうでもいいか」
どうでもいいのならさっさと離れてくれと言うようにミュウツーは睨みを利かせる。そんな事などお構いなしに依然としてミュウは彼の近くを飛び続ける。
「というかさぁ、少しでも何か喋りなーよぉ、不便でしょ~??」
多少ミュウツーの右目がピクッと動く。そして「喋る……?」といいたいような顔で首を少しだけ傾けた。
……どうもミュウツーは、自分の思っている事が表情に出やすいようだ。その行動でミュウは何かを感じ、少しだけ彼に近づく。そして、気付いた。
「あんた……会話をした事がないの?」
会話、という単語にミュウツーはさらに首をかしげた。ただ敵を殲滅するがために生まれ今までたった一匹で生きてきたため、言葉を口に出すという行為をする必要がなかったミュウツーに、いきなり何か喋れというのも少し酷な話だ。
無論それを知らないミュウは随分と変な奴だなぁと心のどこかで思いつつも、少しだけ悩み、そして答えを出す。
「ねぇあんた、私と一緒に行動しない? 何かほっとけないし……ね?」
これが、気ままに生きて来た光と、孤独に生きていた影の、出会い。
「――ねぇ」
時は戻って現在。依然として背中をあわせている二匹であったが、ミュウの方から会話が始まった。
「その、さっきはゴメンね。ちょっとカッとしててさ」
「それは私もだ。……すまなかった」
二匹はゆっくりと後ろを向き、少しだけばつが悪そうにする。やがてミュウがふわりと浮かび、小さな手をそっと差し出した。
「仲直りの、あーくしゅ」
握手の部分を少しだけハッキリと言うミュウに、ミュウツーは少しだけ顔を綻ばせてその小さな手を握る。
二カッとほほ笑むミュウに、ミュウツーもついもらい笑いを浮かべた。
「では、さっさとここを抜けるぞ」
「えぇ~もう行くのぉ!? もうちょっと休も~よぉ~」
「もう十分休んだだろうが! いい加減先に進むぞ!」
「えぇ~いいじゃん別に~。おーなーかーすーいーたー、のーどーかーわーいーたー!」
「えぇい駄々をこねるな飛び回るな、って十分ブンブン飛び回ってるじゃないかぁぁぁぁ!!」
……どうやら、二匹の喧嘩はまだまだ続きそうですね。めでたしめでた……し?
さて、どうしてミュウとミュウツーは都会からこのような荒野に行く事になったのか。
そしてどのような過程を経て、ミュウツーは現在の性格になったのか……それは、次のお話で分かる事でしょう。
次があるかどうかは……作者次第でしょうが、ね。
えと、こんな形でいいのか? 不安だ……不安すぎる。
まずはご挨拶を。今回初めてここに投票させてもらいました簾桜(すだれざくら)と申します。
まだまだ拙い作品しか出せない未熟者ですが、なにとぞよろしくお願いございます。
でわ、またいつか。でも何時になるやら……?
ひょっとしたら、続くかもしれません。
一部上手くいかなかったので編集しました。いづれ工事します……。
感想がある方はこちらへ。よほどの酷評でなければ多分耐えられる……はず。