このお話は超ポケダンのネタバレを含みます。
また、一部超ポケダンのストーリーとは異なる展開があります。
予めご了承ください。
世界を救った英雄と言われて、悪い気にはならないだろう。ただそれでも、親友のいない世界を救ったところで、俺の心は晴れやかにはならなかった。
「シソ!今日も調査行こ!」
この声がアイツの声に似ていて、でも違っていて、それが俺の寂しさを加速させた。もう二度と帰って来ないと。
「行こうか、ミュウ」
アイツも……クーもミュウだったんだ。クーも調査が大好きで、元気で、おっちょこちょいで、いつも俺と一緒だった。
思えば俺はクーに助けられてばかりだったじゃないか。それに、ダークマターを倒したのもクーだった。
クーが消えていく時も……俺は何も……。
「……!」
今何かの視線を感じたような気がする……。気のせいかな……?
「シソ?早く行こう!」
「ああ、すぐに行こう」
ここはどこだ? ……木の葉の間から陽が差している。きらきらと輝いて、夢追いかけていたあの頃の俺たちを思い起こす。そうか、ここはあの丘の、クーと夢を語り、叶えた秘密の場所。アイツが空に消えていくのをただ見送るしかできなかった場所。
ここにはあまり来ないようにしていたんだが、俺はどうしてここにいるんだろうか。
昨日はミュウと調査に出て、無事に帰って来て、夕飯食って……。ミュウ……?
「ミュウがいない!?」
昨日は一緒に寝た……はず。もう既に日は高く上がっているし、もしかしたら先に起きて広場に行ってるかも。いや、昨日寝たのは調査団本部だったはず……。じゃあ、なんで俺ここに? ますます分からなくなってきた。
とにかく、広場に行ってみるか。
丘を下るとそこは、おだやか村。俺とクーが出会った村。賑やかなワイワイタウンと違って、ゆっくりと時間が流れていて、いつまでも続いていくような、そんな気さえする。俺たちの冒険はここから始まって、永遠に続くものだと思っていた。でも終わった。この村で、あの木の下で……。
「また、失うのか……」
不意にこぼれた自分の言葉に耳を疑った。失う? ミュウを? 何を言ってるんだ俺は。きっと広場に……
「いない……」
ミュウがそこにいないのは、心のどこかで分かっていたはずなのに、涙が溢れてくる。ずっと一緒だと、永遠にあるものだと思っていたものが、また1つ消えた。何もできずに、ただ涙を流すだけの自分が嫌になる。クーを目の前で失って、ミュウまでも。
……いや、違う。ミュウが消えたとは限らないじゃないか。思い出すんだ、どうして僕がここにいるのか。
「……そうだ」
突然ミュウの体調が悪くなってしまったんだ。調査団本部の部屋で。
とりあえず部屋に戻ってみよう。ミュウがいるかもしれない。
俺は急いでワイワイタウンに向かった。正しくは、おだやか村を飛び出したんだ。あそこにいると嫌でもクーとのことを思い出してしまう。楽しかったことも辛かったことも何もかも、全てが重く圧し掛かって来るようで、きっと俺はそこから早く逃げ出したかったんだ。
クーのことを思い出さないように無心で走ったからか、すぐにワイワイタウンに到着した。太陽はちょうど雲に隠れて見えないが、まだ高い。
おだやか村から初めてワイワイタウンに行った時はかなり時間がかかったな……。まだ、あの頃は……いや、今は考え込む時間じゃないぞ。とにかく今はミュウを探さなくては。
「い……いない……」
部屋にもミュウはいなかった。もう何処にも……
いや、諦めるな! 思い出せ! 俺に起きたことを! もう諦める訳にはいかないんだよ!!
とにかく昨日だ。昨日……昨日ミュウの具合が悪くなって……そうだ、ネイティオを呼んだんだ。
それで体調不良の原因は……ミュウの体内に残ったダークマターで、俺は少しでもミュウの気分が晴れればと思って、おだやか村のあの綺麗な景色を見せに行ったんだ!
そして……あの丘でミュウが消えて、俺は意識を……。ということは、ミュウは、ミュウは攫われたのか!? いったい、誰に!?
「シソ!」
「団長! クチートさん!」
「シソ! ミュウは?」
「一緒じゃないんですか?」
「大変なんです、ミュウが誰かに……誰かに攫われて……!」
俺の後ろには調査団の団長、デンリュウが考古学者のクチートを連れて立っていた。
俺は焦りを隠すことなく起きたことをそのまま二匹に伝えた。
「えっ? おだやか村で……!?」
クチートが驚く。それが俺には不甲斐無くて仕方なかった。
お前はミュウを守れなかったのだな。と、言われているようで。
「実は先程、調査団にこんな手紙が届いたんです」
団長が手紙を差し出す。俺はその手紙を読んだ。
手紙には"浄化の洞窟にてミュウを消滅させる"と書かれていた。
だが、それよりももっと、別なことに俺は……
「この……手紙……」
そうだ、間違いない。これは絶対に……。
手紙を持つ俺のツタが震えだす。悲しくて、悔しくて、何より腹立たしかった。
「もしかしたらミュウは、この手紙を書いた主に攫われたのではないでしょうか」
「浄化の洞窟には魂を鎮める力がある。きっとその力を利用してミュウを……」
あの時の視線も……この手紙も……ミュウを攫ったのも……! アンタなのか……!!
また俺に嘘を吐くのか。今回は……今回ばかりはアンタの意思なんだろ……。
俺はアンタを信じて……信じようとしていたのに……!!
「……ソ! シソ!」
「……あ、はい」
俺は手紙のことで頭がいっぱいになっていたらしい。団長とクチートが何やら話していたようだったが、全く聞いていなかった。
「シソ、聞いていましたか? ワタシたちは他の調査団のみなさんを集めます。シソは先に浄化の洞窟に急いでください!」
「……! もちろんです!」
俺は浄化の洞窟へ向け調査団本部を飛び出した。今はただ、ミュウを救えばいいと、怒りをグッと堪えて。
浄化の洞窟の石は青くうっすらと光っていて、天井も壁も床もすべてが淡い澄んだ青を帯びていた。明かりが無くてもこれなら進める。綺麗な石を1つ取って持ち帰りたい気持ちもあったが、今はそれどころじゃない。
並居る敵を払いのけ、俺は洞窟を進んでいく。いつものバッグにいつもの道具。多すぎるかとも思っていたが、案外そうでもない。
オレンのみやいやしのタネなんかは、寧ろ、少なかったかもしれない。ミスったな……
だいぶ奥まできたけど……あっ!
あっちに何か見える……!
「ミュウ……!!」
鈍く光る洞窟の奥、フワリと浮かぶミュウがいた。
ゆっくりと揺れながらミュウはまだそこにいて、微かに光って見えた。
見つけた。見つけたよ、ミュウ!
ひとりにして、ごめんよ。今行くから……!
「待てっ!! シソ! 来るな! こっちに来るんじゃねえ!」
ああ、やっぱり……やっぱりアンタか、コノハナ……。
オーベムもいるな。今回のコレは、お前らの仕業なんだな……!
「シソ! すまねえっ!!」
……。
「オラ、シソに迷惑かけてるし……」
……。
「本当はこんなこと、したくなかったんだが……」
……嘘だ。
「だが……それでも……! ダークマターは消滅しなきゃなんねえんだっ!!」
何も……何も聞きたくない。アンタたちの言い訳も、嘘も、何もかも!!
……!
光が……強くなっている……?
俺は……俺は知っている。この光を。
「すまねえ! シソ! もう終わる! ガマンしてくれ!!」
俺はまた失うんだな。目の前で消えていくアイツに何一つできやしない。
お前なら、どうしてたかな……。昔、俺が人間の世界に帰るとき、お前はどうしてたんだ? あの時消えるのが俺だったら、お前は何をした?
洞窟の壁が少しずつ明るくなっていく。ミュウを包む光がどんどん強くなっていく。別れが、近づく。
「……あきらめちゃダメだ!!」
クーの声が、聞こえた気がした。俺を鼓舞するアイツの声が聞こえた気がした。
でも本当はもうクーはいないんだ。もうクーはいないけど、ミュウがまだいる! 俺はもう二度と別れたくないんだっ!!
首に巻いていたスカーフが思いに呼応する。スカーフは光り、するりとほどけて宙に浮かんでいく。やがてそれはミュウの光と混ざり……。
「……」
光りはゆっくりと消え、辺りは薄暗く戻った。何がおきたのか分からないけれど、とても静かだ。
光の中から現れたアイツはまだ目を開けない。そしてミュウが目を覚ます。
「眠っている間に感じたよ。シソの強い思いを」
「その通りです」
デンリュウ! ネイティオ! それにクチートも!?
「すみません、シソ。すべてはシソを導くためでした」
「何言ってるんですか……?団長……」
「ワタシは見通した。ミュウの中に封印されたクーを……」
「ネイティオ……?」
「ミュウの具合が悪くなったのは、ダークマターの一部が残っていたからではない……。クーがいたのだ……」
「そこからクーを出すためには、シソの思いの強さが必要になると、ネイティオは感じていたそうです」
話に、ついていけない。
「そして、シソに償うことを探していたコノハナたちは、ネイティオからクーを元に戻す方法を聞き、今回の役割を自ら買ってでたんです」
「楽しそうなことがあるからって、ミュウ、つられちゃって……」
何を言ってる……?償う?
「ネイティオ! これで成功なんかな?」
「クーは戻った。じきに目を覚ますだろう」
皆、嬉しそうだ。
独りな気がした。
「よかった……本当に……。本当によかった……!」
「何がさ」
そう、思った。つい、口に出てしまった。でも、止められなかった。止めたくなかった。
喜びとか懐かしさとか感動とか驚きとか色んな感情が溢れて止まらない。混ざり合って俺の限界を超えて真っ黒になった心は鳴きやまなかった。
「俺に嘘ついてこんなことして、そんなに楽しかったかよ。アンタらは散々俺を騙してさぞいい気分だろうな! 本当に見損なったよ!!」
「シソ……!」
「デンリュウ……お前らも同罪だろ……? 知ってて嘘をついたんだろ? 俺がどんな気かも知らないで、内心でバカにしていたんだろ!! テメェもだ、ネイティオ……! クーを取り戻すためなら、あの場で真実を伝えれば十分だった! こんな茶番用意してどれだけ俺を……!!」
「シソ……?」
アイツの声がした。瞬間、我に返った。
クーは立ち上がっていた。俺の種をそっと掴んで泣いていた。誰も口を開かなかった。とても静かだった。
俺はきっとここに立っていてはいけないと感じた。遠くで落ちた石の音が響く。
「みんな、ありがとうね。……シソ、帰ろうか?」
俺は頷いた。皆の目を見るのが怖くて、俯いたままクーと一緒に帰った。凄く嫌なことを言ってしまった。何であんなことを言ってしまったのか、自分でもな分からなくて怖かった。
洞窟の外は既に夕暮れで、暖かなオレンジ色になっていた。それでもまだ日が沈むまでには時間がありそうだ。
ゆっくりと歩いていく。クーが種をつついて俺がツタを出す。クーが握ってくれた。その手が夕焼けよりも優しく、暖かく感じた。
「ごめんね」
きっといつか言えるから、今はただ……。
性懲りもなく書き始めました。
そして書き終えました。
続きの話も書きたいです。
written by 狗日的