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嘘つきの舞台で

/嘘つきの舞台で


この小説には官能的な表現が含まれます。


 
「あなたは、嘘がつける?」
 唐突に目の前のリーフィアが振り向いて、僕に話しかけてきた。僕は驚いて声を出さないよう努力したものの、表情には多少出てしまったかもしれない。
 僕はずっと彼女の後ろについて来ていたのだが、彼女から話そうとしない限り話をするつもりはなかったので、彼女の影に成り下がっていた。
「いきなり何?何で急にそんなこと聞くんだい?」 
 僕が期待した答えを返さなかったからだろうか、彼女はややふくれっ面になる。
 その表情が妙に可愛らしく、また同時に愛おしく思えた。
「別に、ちょっとね」
 僕は彼女と関係をもち始めてからけっこう久しい。しかし、いまだに彼女というポケモンがよく分からない。
 それはもちろん、ある程度のことは知っている。いつもそばにいるから、分からなかったら逆におかしい。それでもあまりに分からない部分が多すぎた。
「まあもう少し話しましょうよ。時間ならあるでしょ?」
 くすっと彼女は笑う。
 彼女の笑顔は蜃気楼のよう。突如、忽然と砂漠に顔をにょっきりと現す。
 ときにオアシスの仮面をかぶる。すべてが砂に塗れた不毛の地で、善良な旅人を騙すのだ。
 騙されているとは知らない旅人は渇いた喉を満足させるため、いや己の生命を明日へ繋ぐため砂に足を取られながら一直線に突き進む。
 ところがどうだろう!進んでも進んでも、砂漠は表情を変えず、愛想笑いすらしてくれない。さっきまでオアシスがあったと思われる場所には粗い砂が敷き詰めてあるだけだ。
 なんということだ!私は幻影に踊らされていたのか!神よ、嘘だと言ってくれ!
 そう、“嘘”なのだ。
 まさしくこれは彼女だ。あらゆる雄を砂風呂にはめ、そして……。
「ねえ、この世界には嘘をつくポケモン、そして嘘をつかれるポケモンがいると思わない?」
 僕はだまって彼女の語りに耳を傾ける。
「この世界のすべてのポケモンを線引きして二つに分けろ、もしそう言われたらだいたいのポケモンは雄と雌に分けるでしょうね。
 ふふふ、私は違うわよ。そんななまっちょろい分け方なんてしない。
 私なら、嘘をつくポケモン、嘘をつかれるポケモンに分けるわ。
 だいいち、私にはどうして雄と雌に区別するのか、理由が全く分からない。雄と雌なんて一回生まれたらそれでおしまいじゃない。神様とかいうのに勝手に決められて、一生背負わなくちゃいけないのよ。
 でも私の考えならどう?いつでも変われちゃうじゃない。素敵でしょ?
 しかも自分がどちらのポケモンなのか本人は分からないの。
 嘘をつくタイプと信じて疑わなかった日常が、ある日をさかえにころっと変わることもある。嘘をついていた相手から実は嘘をつかれていたですって?ああ!この世界はなんて滑稽なのかしら!」
「もう夜だよ。静かにしなよ」
 僕が正面にいたことすら忘れて酔いに浸っていたようだ。街灯がうつむいた赤面を照らし出す。
 調子を取り戻し、再び減らず口は動き出した。
「私はどっちだと思う?嘘つき?それとも?」 
 彼女はその答えに最も近いところにいる。だから答えを知らないはずがない。僕だって即答できる。そんなもの、決まっているから。
 だけど……。
「それはちょっと……僕の一存ではね」
 キッと僕の目を彼女が見据えてきた。予想外の奇襲に面食らい、思わず目をそらした。
「あらそう。あなたなら即答してくれると思ってたのに。がっかりね」
 彼女は嘘つきだ。嘘をつくのが彼女の仕事だから。
「私は嘘をつきながら、この世界という舞台の上で、華麗に踊ってるの」
 一端区切ると頬をゆるめてにっこり笑った。僕は街灯が僕たちの影を投影している現場をとらえた。
「あなたの助けを借りてね」 



 多分、晴れているのだろう。
 これでもかというほど澄み切った青空に、生まれたての赤ん坊のように白く、無邪気な雲が一つ二つ漂っているように見える。
 どこまでも続く空の末端目がけて視線を投げると、遙か彼方の眩い太陽と目が合いそうになり、慌てて目をそらした。さらに視線を走らすと、端の代わりに幾ばくかのポケモンしか見ることが出来なかった。
 ……愚かなこと。空という究極を見極めようとするなんて。
 だってそうでしょ?相手は“究極”なのよ。遙かなときを越え、道理を極め、超越した力を持つ。
 でも、私なら究極を越えられる。
 この、私なら。
 だって私は究極の根端を知っているもの。教えてあげましょうか?
 “嘘”よ。
 この広大な群青を見て、あなたは感動する?心が揺れるようならあなたはきっと嘘がつけないポケモンね。
 見て!空の色は何?答えて。……青なんて答えるようだから、あなたは嘘がつけないのよ。
 あれは本当は青ではないはず。かつて、空を創造するとき、神様が眉間に皺を寄せて、こちらから空を見たときに何色にするかを熟考したの。そして数多の色の中から青が選出された。
 ああ、なんて青は素敵なのかしら!真実を隠す、あの青色は!何も存在しえない真っ黒なただの虚空を、幾多の目を感動させる実在に染めあげてしまう。
 分かった?空とは、究極とは、空(くう)、すなわち嘘なのよ。空とは嘘を真実へ昇華させることに成功した意思を持たない巨大な天井。
 そして、私はそのことを知っている数少ないポケモンの一匹。私は空の真の色を知っているし、自分が嘘つきであることも知っている。まさに究極を極められる人材なの。
 興味のある者にしか聞こえない声を客席に向かって高らかに熱唱している間も、足は命令されているわけでもなく勝手に目的地へと距離を稼いでいた。
 種々多様なポケモンたちが開けた街道を歩いている。通りは定期的に掃除されているからか、あるいは汚すようなポケモンがいないからか、一方なのか両方なのかでさえ定かではないが、清楚と秩序が保たれていた。等間隔に設置された植え込みの小さな花も一役かっている。
 全てのポケモンが各々の目的地を目指しててくてく歩いているが、その中には目的地を探し出すことを目標にしている者も混ざっている。それがもし雄なら、すぐ分かる。
 リーフィアが彼らの横を通り過ぎると、彼らはこぞって彼女を振り返るのだ。彼らはしばらく立ち止まって彼女の影を目で追う。
 そのほんのわずかな時間が彼らに目的を与えてくれ、実のあるものにしてくれる。だが願い叶わぬと悟ると、再び“目的地”へとぶらぶら足を運び始める。
 リーフィアはそんな視線を感じ取り、笑った。
 彼らをどう思う?うん、哀れかもね。目標がない、明日に希望が見いだせない生活はつまらないと思うわ。
 私はやるべき仕事が多すぎて忙しい。少し分けてきてあげましょうか?……いや無理ね。私の仕事は私にしか出来ないもの。代えはきかない。
 忙しくも充実した生活なんて言葉も嘘だと思わない?誰が最初にそんなこといったのかしら?
 多忙と充実感は共存出来ないじゃない。忙しい間は自分がいかに充実しているかなんて解らないでしょ。後になって、『あのときは幸せだった』って気づくのよ、みんな。
 彼女の性格は理解できたと思う。傲慢。自信過剰。そして嘘つき。
 



 彼女は何を思って歩いているのだろうか?
 僕たちは、本当に大切な記憶や考えを隠すため、その周りをくだらないガラクタや錆びた鉄屑で覆うという。重要なことを常に自覚していると、僕たちはその重さに耐えきれず、押しつぶされてしまうから。
 前へ進む限りは自分から向かわなくても目標から近づいて来てくれるものだ。前進と近づくことをイコールで結ばなければだが。
 彼女にもまたたどり着きたい島があり、上り詰めたい山がある。どんな場所を理想郷としているかは、僕には想像もできないけれど。
 時々、不思議に思う。
 彼女は歩くときに本当に足を前へ踏み出しているのだろうか?彼女は展望したい景色のために、自身の足を己の力で運んでいるのだろうか?
 違うのではないか?
 実際のところは、彼女はその場で足踏みをしているだけであって、この星そのものが回転し、彼女を目的地へと誘っているのではないか。彼女は他力のみを駆使し、オールを回すこともなく、急勾配の崖に足をかける危険を冒すこともなく、求めてやまない果実を手中に収めているのではないか。
 ……馬鹿馬鹿しい。それこそ違うということを、僕が一番よく知っているではないか。
 彼女は努力した。
 足に掴みかかる泥水の中を這いずり回り、硬く乾いた地面を細い(しかし強靭な)四足の裏で踏み付けてやろうと歯を食いしばった。泥水に抵抗し続けている間は飲みたくもない汚水が彼女の喉を通り、内側から彼女を汚していった。
 泥水に抵抗しきれなくなった者も少なくない。そんな女たちの心にはぽっかり穴が開き、嫉妬が巣くった。彼女はそれだけにはなりたくないと爛々と目を輝かせていた。
当時、僕は彼女をこの世界に呼び寄せたことを少なからず後悔した。
 彼女と初対したときの胸の踊り様は今でも忘れることが難しい。彼女は他の誰よりも抜きん出て輝いていたし、彼女なら、この世界でも十分通用すると考えた。何よりも彼女自身がこの世界を求めた。
 この、嘘こそが夜空にばら撒かれた星のように輝き、嘘こそが真である、この世界に。
 彼女は泥水から這い上がるや否や瞬く間に夜空の一等星へ躍り出て、燦然と漆黒の闇夜に輝きだした。夜空には他にも忌むべき凶星が瞬いていたが、彼女のそれは一際だった。
 僕が後悔した点はここにもある。
 彼女の上面が輝けば輝くほど、出会ったときの純粋で澄んだ目は暗く堕ちていった。僕は悲しいと思った。
 純情な瞳がまざまざと現実を知ってしまった様を眺める気持ちは、成人した子供を見守る親に相当するだろう。昔の彼女の瞳に映った空と現在の彼女が感じる空とでは、全く違う風景になっていることは想像するに難くない。
 僕が地下へ引きずりこまなければ彼女はどうなっていただろう?あのときのまま、見たままの空に圧倒され、群青の偉大さに感動できたかもしれない。
 いやどうだろう。
 僕が掴みかからなくても、彼女は自分の“足”で門を叩いた可能性が高い。
 彼女は残念ながらあのような才能に恵まれた。僕でさえ、一時は彼女の完全な手駒と化すところだった。力を十分に発揮できる世界を模索するうちに、彼女は十中八九この世界にも立ち寄ったはずで、先に何が待っていようがこの世界の虜になっていただろう。
 僕が望むまいが彼女はここに来たのだ。そして踊ったに違いない。
 嘘つきの舞台で。
 ……僕は何を考えているのだろう。別に気にすることではないだろう?今に始まったわけではないのだから。
 彼女が望む果実があるのならば、僕もまたその果実を望むまで。これからも変わることはないだろう。僕は彼女を支える一支柱であり続ける。
そうとは解っていながら僕の頭は後ろを顧みるのがお好きなようで。
 これは、彼女を真の意味でどっぷり泥水につけてしまった、一種過ちに対する弁明なのだろうか?
彼女は何が起ころうがいずれはこちらへ来た、というのは間違いないのだが、僕が引き金として彼女を誘発してしまったのは否めない。純情を根こそぎ洗い流してしまったことは自明の理。
 ……過去は変わらない。何を今更。今現在僕が仕事として彼女のためにできる唯一の手助けは、舞台で躍る彼女を遠く離れたここからそっと見守るだけだ。今はそれだけで良い。
 今は……。
 



 彼が色あせるだけのセピア色の世界を散歩している内に、リーフィアはとりあえずの目的地にいよいよ迫っていた。
 彼女の目には雄の姿が映っていたが、焦点は合わせなかった。
 彼女の関心は実に森で覆われた孤島の中心にあり、雲に隠れた山の頂にあった。
 景色か、果実か。多分、両方に関心は存在する。



 ホテルの一室。
 長方形の箱の変のうち、短い二辺がそれぞれ窓と出入り口となっている。壁は黄色と白色が混ざったような色をしているが、黄ばんでいるわけではなく元来らしい。部屋に設けられた照明の光が弱いため、全体的に薄暗く黒いもやがかかっているように見える。
 別に整備が行き届いていないわけではないのだろう。これは、恥が恥でなくなるこのような舞台を盛りあげてくれる、些かご丁寧過ぎる演出なのだ。
 簡素な部屋の最低限の生活空間には、余計な家具が一切置かれていない。
そんながらんとした部屋の中央に、ベッドが黙々と壁に寄り添い居座っているのだから、ベッドが部屋の主であると受け取ることも出来る。あながち間違っていないけれど、とリーフィアは思った。
「どうした?」
 彼は一足先に所々の準備を済ませ、ベッドの近くの床に腰を落ち着けていた。四足歩行のポケモンのため、椅子より床のほうが落ち着く。
 彼は私を見るや否や、無駄な肉がそぎ落とされたたくましい四足で丁寧にフローリングされた床に雄々しく立ち、口火を切ったのだった。
「ううん、何でもない」
「やることは済んだのか?」
 抑揚のない声で彼はぼそりと呟いた。感情が押し殺された低い旋律。
 このとき、彼にとって私は取るに足らない道具であり、置物とか絵画なんかとそう差がないことに、今更ながらはっと気が付いた。
 そうよ、それでいいの。私はあなたの道具。あなたを他人より際立たせるアクセサリーとでも思っていなさい。
 事実、ここに来る前、混雑した通りを歩いていたとき、あなたは私の隣で優越感に浸って笑っていたじゃない。妬ましい注目に溺れていたのでしょう?私といるあなたは月の様に私の光で青白く瞬いた。あの満足そうな顔はこれまでにも様々な雄の面上に見え隠れした。
 そんなにポケモンの注目を浴びたいのかしら?私は一回影になってみたいとすら思う。
 生まれ持った才能、後天的に身に付けた能力ゆえ、いつも私は表舞台で踊り、客の世話をしなければならない。
 影になって、下から景色を見てみたい。影になって、誰からも離れたい。影として、誰かにずっと付いて生きたい。
 ……矛盾してるわね。しかも何か勘違いされそうな台詞回しだし。私は絶対に誰かを信用したりしない。
 二度と、絶対に。
 やめやめ。感傷に浸るのは終わりにしましょう。もっとも、私は感傷など感じるほど弱くないけれど。少なくとも今は。
 アクセサリー……微妙ね。どんなに高価な小道具を身にまとおうが、客席から見て小さければ木の実を土に植えず放置するのと差異がない。
 舞台の上なんだから、彼を目立たせるのは……そうスポットライトの役割かしら。
 いいわね、しっくり来たわ。私はスポットライトとして彼を低い位置から張りの強い光で照らし、彼に巨大な影を縫い付ける。(だから私は影になれないのかもね。輝く場所に影は出来ず、私は光の中にいるから)他を戦慄させる、真より揺ぎない偽を提供してあげる。
 あら、似てない?あの、眩くも禍々しい、灼熱の太陽に。
 誰もが等しく光を浴び、恩恵を全身に受けていながら、直視しようものなら愚か者の目を焦がす塊。紅蓮の塊も空なんかと同様にやはり究極で、やっぱり手に取って掬うことが出来ない。太陽を掴む願いが叶った暁には、汚らわしい手は灰に浄化されるでしょうよ。
 もっとも、朝日じゃなくて夕日だけどね。朝寝坊はお子ちゃまの特徴。
 そう言えば私の同僚は自身の仕事をリボンに例えていたっけ。
 安価でありながら舞台においてはダイヤモンドより目立つ。大人しく頭にくっついて可愛らしく愛想を振りまいていると思わせて、そっと垂れ下がり、首に巻きついて、絞める。
 うまいわねぇ。私はまだそこまで出来ない。“締め”には助けがいる。
「どうした?」
 私は彼が再度繰り返した言葉の中に私を急かす感情が含まれているのを確かに感じた。私は焦らしているつもりもなければ、先延ばしにしようという気も更々ない。
 彼も、最初の雄もそうだった。
 初めて雄と交わったとき、彼は言ったわ。「大丈夫」と。
 大丈夫ですって?ええ、あなたは大丈夫でしょうよ。
 あなたは快楽と海に身を任せ、ぷかぷか浮いていればそれでいいんですものね。力なんて全くいらない、無抵抗でただ漂っていればいい。
 それで私に何を残したの?何を植え付けた?私を一生逃れられない鎖で呪縛していながら、あなたは何をしているの?
 まあ、答えられるはずもないけど。どうしても知りたいなら地獄に行って聞いて来なくちゃいけないし。でも私はあの雄にこれ以上“私を”返上する気は一欠片もない。
 今でも忘れられない、あの感じ。
 私の中に“何か”が攻め入って、これまで私が築きあげた牙城を侵した。私は大切な何かが音をたてずに崩れる様子を黙って見るしかなかった。
 本気でそれでいいと、思っていた。
 それが私の初舞台……



 ……私はベッドの上で彼に押し倒され、小さく悲鳴をあげてしまった。彼は気に食わないと言った顔をしたが、次の瞬間にはにんまりとした粘着質の強い笑みを浮かべた。
 私はその危うさをまるで察することが出来なかった。
 彼が私を押し倒したとき、よく覚えていないけれど、私はなんだか急に寒くなったような気がして、身体が小刻みに震えていた。
 呼吸もなぜか不規則になり、息が詰まった。
 絶対に恐怖からではないと、今ではそう思っている。
 おまけに身体が硬直し、動けないと来たから、私には一切の逃げ場が残されていなかった。
 彼は私に構わず、下からそうっと這うように私に近付いた。彼の手が私の足の裏、膝、そしてどんな雄にも決して渡さなかった財宝の周り(直接は触らなかった。時間の問題と思った)を、順を追って滑って行く。
 彼が私を駆け抜けて行くのに比例して、私からこみ上げる感情があった。
 彼は私の、自分でも存在を悟ることのなかった水源を掘り当て、決壊させてしまった。今でこそ“決壊させてしまった”だけど、初舞台の私にとっては彼が“切り開いてくれた”と思ったことでしょう。
 美しい流曲線を描く私の胴体を、彼の手がゆっくり伝って行くのを感じた。腹部の短い体毛はもちろん、触られていない背中の産毛まで全てが逆立ち、強張った。
 そこから前足の付け根へ、脇の下へ、さらに私の女たる膨らみへ平行移動し、侵入して来た。彼は私の、本来ならば私だけのものである場所を弄ろうとする。
 下から滴り落ちていれば当然たどり着く場所であるはずなのに、私の予想は思っていたより浅はかだった。
 頭の中にあんなにも咲き乱れていた色とりどりの花は消え失せ、白と黒の点が点滅するだけとなった。モノクロの世界に投げ出された私は、半ば気を失っていた。
 ……落し物は気ではなく理性だと、気付いたときには後の祭りだった。
 空虚以外の何でもなくなった私は、完全に彼の、子供の玩具だった。
 彼が“私”を撫で回すので、円の上にさらに同心の円が重なった。せわしなく開け閉めを繰り返す彼は、私を二度と日の元に置かないと意気込んでいるようだった。
 やがて新しく出来た円は形を崩し、元からあった“私”に本格的に食い込んで来た。
 痛い位だったと記憶している。
 摘みほぐされた私は世界から浮き立った。全てがどうでもいいように思え、またそれが全てだった。私は玩具遊びをやめる素振りの見られない彼を、黙然と瞳に映していた。
 最中同時に、私は彼の象徴が肥大し、頭を上げ、私の後ろ足にぺたりとくっつくのが分かった。初めて雄を雄として認識した。
 固い、いや柔らかい。生き物の身体の部位にしては固過ぎ、しかし鉱物と比べれば心(しん)が含情され過ぎたモノ。
 それよりも驚いたのは肉棒の温かさ。動き回って汗をかいたポケモンと同じくらいで、むしろ熱気に包まれていた。違いは、運動したポケモンは全身が湿っぽいが、アレは特定の箇所のみ湿っていて、他は晴れの日の路上のように乾いていた点。
 彼はわたしと言う陶器を壊さないよう慎重に値踏みし、価値を鑑定しているように見えた。
 彼は私の自慢の突起に飽きてしまったのか、手を私から離した。私ははっと現実へ引き戻された。
 彼は身体を起こし、私を上から見下ろす。
 先の正体不明の震えが呼んでもいないのにやって来て、私と重なる。
 寒い。
 彼も私もお互いを親に感じあった。ポケモン同士が接しているのだから、体温は自ずと上がるはずである。
 なのに、寒い。
 きっとここは冷房が効き過ぎているのね。私は日光は好きだけれど、暑いのは嫌いよ、そう納得したかもしれない。
 暖房が全然作動してないわ。私は寒いのは嫌いなのよ、あるいはそう自分に言い聞かせたのかもしれない。
 どっちでもいいわ。どうとでもなりなさい。問題はそんなくだらないことじゃない。
 私が寒さに敏感であることを彼が見破るまであまり時間はかからなかった。彼は物思いに耽(ふけ)る老いたポケモンに変貌した。
 突然、彼は私を覆うように身を重ね、私に少し体重をかけた。私の耳と彼の唇が接するほどの距離で、囁く。
「大丈夫。僕が着いてる」
 ダイジョウブボクガツイテル。
 暗い洞窟で呪文を唱えるように、その言葉は私の胸に反響した。
 ええ、そうだったわ。私にはあなたが付いているじゃない。
 私は彼の言葉を聞いた瞬間、それまで感じていた悪寒が同量の温情に変換され、私に拡散するのを感じた。あたかも、極寒の雪原から常夏の孤島へ連れて行かれたように。
 そうだったのね。私は“行かれた”を履き違えていたわけね。“いかれた”のは私の頭だった。
 私は心の器が満たされることの真意を理解した。
 あなたが、欲しい。
 それから私は彼に答えるため、彼の首の後ろに自分の腕を回し、彼を引き寄せ、ぴったりあわさった。
「はぁ……」
 彼の顔が私の胸に埋まり、私は彼をその胸いっぱいに堪能する。彼はこの急転の事態に驚愕を隠せないようで、滑稽だった。彼の目の角が削れて見開かれたので、私はビー玉みたいな目玉を確認出来た。
 初めて誰かに素直になれた。一見すれば湿っていていかにも植物が育ちそうな地肌も、掘ってみれば硬化した粘土が顔を出すことだってあるのよ。きっと、彼はそのことを知っていた。
 今でも思い出すと嬉しい。胸は弾み、心は躍った。(踊ることが職業になるとは、頭の片隅にもなかったけどね)
 偽りと分かった、今でさえ。目を閉じれば身体ごとあのときに戻って行けそうな気がする……
 ……私は、勝った。私は彼の期待に答えるばかりか、それを超えた。
 彼は私の欲しいものを何でもくれたわ。きっと冗談で言った「私を殺して」以外、全て叶えてくれたんじゃないかしら。
 なのに、私はいつも彼の期待を裏切ってばかり(ため息が漏れる)。彼に伝えたい想いは、残念ながら常に私に忠実だった。わがままな私は彼に迷惑をかけっぱなし。
 それでも、彼は私と舞台で羽ばたきたいと言ってくれた。私はそれが彼の愛と思うと嬉しかったけど……心苦しくもあったわ。
 今は、どう?私は彼の期待にただ答えるだけでなく、私は彼の期待を超えたのよ。ええ、超えたのよ!彼の心を溢れるほどの慈雨でいっぱいにしてやった私の力で。
 そうよ!私はついに彼に勝った!今なら私は彼の全てを“私”で満たすことだって容易いでしょう。それは権利ではなく、私の使命。
 ……驚いたわ。私の胸に顔を埋めたまま、彼が舌を突き出して来たんだもの。
「ひゃあ!」
 ああ、気持ちいい。彼を感じる。
 もっと私を舐めて。もっと土を溶かして泥々にして。あなたに、近付きたい……
 ああ、前足に力が入らない。私を守るものは何もない。誰でも好きなように触っていいわよ。遠慮はいらない。
 ……やっぱりだめ。私は彼だけのもの。私と泥合戦するのは彼だけ。
 だらしないとは自分でも分かっているわ。まあ、いいじゃない。私は彼にならどんなに掘り起こされたって構わないもの。
「はぁはぁ……ねえ、キス、して……」 
「君がいいなら」
 優しいのね。やっぱり私の彼だわ。
 彼の顔が私から離れ、私の目の前に飛び出して来た。自分からお願いしながら「離れないで」って叫びそうになっちゃったわ。恥ずかしい。
 胸が彼の唾液で艶やかに光を帯びている。どんな星の瞬きより綺麗な、雨上がりの畑が私にかぶさっていた。私は彼が私を愛した証をいつまで眺めていても飽きない自信があった。
 まず彼は私の首を甘噛む。私は口を開けっ放しにして、彼を想った。お腹が呼吸にあわせて深く上下運動を繰り返す。
 彼の舌がだんだん上へ、頬へ、そして口へ達する。短い道のりながら、私は悠久を感じた。唇が触れ、彼の口が私の口をこじ開け、私は口内で彼と繋がった。
「ふう!……ぐうっ……」
 息が出来ない。鼻からじゃ間にあわない。
 いやよ!離れたくない。永遠でも彼とこうして一つに繋がっていたい。別の地域の土が溶けあうにはそれ相応の時間がかかるのは分かっているけれど、私はそれが我慢ならないし、彼もそう思っているに違いないわ。
 それに彼をまだ満足させられていない。でも、これで、どう?
 私は彼の領域に舌を入れた。私の舌が相手を求め、彼の口内をうごめき回ると、彼がまた驚いた顔をした。私は彼を今再び越えた。
 いっそ、壁を壊してしまいたい。彼を嘗め回して、私の舌で泥々にしてしまいたい。さあ、今度はあなたが私に答える番よ。来なさい。
 彼は目で笑った。
 彼は口を私に押し付け、私の舌と自分の舌をごちゃごちゃにする。
 不思議。くちゃくちゃエロい音を出す蓄音機は、本当に私なのかしら。
 意識しなかったけれどそろそろ苦しい。息が……
「ぷはあっ!」
 彼が限界に達しちゃった。どう?私はまた勝った。
 私たちの唾液が混ざって出来た銀色の糸が彼から滴り、私の顔に落ちる。
 ああ、まだ残ってる。彼の、温もりが。ずっと残していたい……
「ねえ?そろそろ……いい?」
 我慢の限界ね。私の初を彼に捧げましょう。私の永遠を、あなたに。
「もう少し待って。やって欲しいことがあるんだ」
 快感と不快とが溶けあった変な心地になった。
 彼は私から初を奪ってくれる。永久(少なくとも私の一生分)の契りが、私のものに。
 どうして?まだ満足いかないの?さっさと私を奪いなさい!
 彼は私を抱えこむと私と身体を入れ替え、上下関係が逆さまになる。彼はさらに身体を回し、私の目の前に肥大し切った彼の雄が姿を露にした。
「しごいてくれないか?」
 しごく、ねえ。ここは私の腕の見せどころなのかしら。ある意味、試練とも呼べるかもしれないわね。
 私は、知識については一般並みかそれ以上のものをもっていると自負しているけど、行為そのものについては全くの素人だった。
 どうやら彼は経験が浅いながらも一応玄人らしい。比較対照がないから何とも言えないのかもしれないけど、胸の触り方にしても上手だったと思う。少なくとも、私は満足した。
「つまり、私の口にあなたのモノを入れればいいのよね?」
 彼は喉を低くうならせ、首を小さく縦に振った。どうやら正解らしい。私は“しごく”について多くは知らなかったけど、彼を心行かせるなら、私は何でもやってのけるつもり。
 改めて彼の雄を直視してみる。先端は鋭利な爪で切り込みを刻んだように穴が開いている。私はその穴に目が吸い込まれ、奥深くにある果実の種子に思いを馳せた。二重の意味を付帯しているが、片方は私にとってどうでもいいことだった。
 汁が彼の先を湿らしている。私はとろとろの液体が溶けかけた飴のように見え、私はその甘さを味見してみたい衝動にかられた。幻想的な欲求を抑えるのは骨を折ったわ。
私はソレについての理解を深めるため、注視する。細部からではなく全体から把握しようと焦点をあわせる。
 ふーん、皮が厚いわね。そして……太い。立派なモノね。雄はみんなこうなのかしら?それとも私を前にした彼がこうなのかしら?
 私は後者に賭けてもいい。
 私の股間に収まるのか、疑問ね。
 ふふふ、いいえ、収めてやるわ。無理やりでも、私は彼から初を奪ってもらわなくちゃ困るもの。私の舞台のシナリオはそうなっている。それに彼は私が全力を費やして愛した唯一のポケモンだしね。
 なぜ私は彼を愛しているのかしら?かつて、私がそれについて考察したとき、私は愚問であるとして答えの探求を怠った。最終的には「愛しているからどうでもいいじゃない」と逃避に走った。要は分からなかったから、曖昧にしてごまかすよりほかに道がなかったのよ。
 そう、私には今日の今まで解せなかった。“愛”が。
 その理由は多分、私は今まで誰も愛したことがなかったし、誰も私を愛してくれなかったから。どいつもこいつも、私に群がる雄ときたら、自分しか視界にない。私でさえ見ていない。
 何よ?私はあんたらの可愛いお人形さんじゃないのよ?むかつくったらなかったわ。
 いっそ惨殺でもしてやろうかと思ったけど、私に力がないことと、私の慈悲深さがそれを妨げた。
 ……本音を知った彼らがどうなったかは知ったことじゃない。私には縁のない世界の小さな出来事。外世界のお伽話に付き合っているほど私は暇じゃないわ。
 でも分かった。奴らと彼の違いが。
 彼は決して、私を愛さなかった。
 私は彼のアレを頬張る決心を固めた。私の視界の中で、ぐんぐん雄が大きくなる。
 私のアソコは円滑汁で完全に湿っていて、身体面での準備も完璧。私は手の届く距離まで接近した時間が待ち遠しくなった。
 彼は決して、私を愛さなかったのよ。そうしたら、私は彼が欲しくなった。私の、私だけの道具にしてやりたくなった。
 そこまで来て私の歩いた道に沿って並ぶ墓石の下に眠る、奴らの気持ちを理解した。
 当然のことながら、私達はあるものを欲しがったりはしない。私は許多たる雄を所有し、捨てて来た。
 私は彼にしゃぶり付き、舌でころころ転がし、味わった。舌はこの味を「苦い」とか「生臭い」とか主張しているらしいけど、私は甘くて美味しいと判断した。私の味覚は信用出来ない。
 捨てて来た?う~ん、語弊があるかもしれないわね。彼らは今でも私のアルバムに埃塗れで収納されている。“生きて”いる。私のアルバムに彼のような写真は一枚としてなかった。私は彼を写真に封印し、私だけの思い出にしたくなった。
 彼が率先して腰を揺すり始めた。嬉しい。でも私はもっと早く彼を楽にしてあげたい。延いては、私のアソコが限界近いから。アソコが疼くなんて聞いたこともなかったわ。
 私は彼の象徴を舌でおちょくる。
 私は思い出の雄共に積もる灰を嘲笑った。
 私はあんたらのようなへまはしないわよ?私の愛は本物。偽者に踊らされたあんた達とは格が違うの。あんたらは私に触れることすら叶わなかったけど、私は彼にもう届きそうな場所まで距離を詰めている。私の手の上で彼を躍らせてみせる。
「はあはあ……」
 あら、疲れたのかしら?経験者の癖に。しょうがないわね。もっと刺激を、快感を注いであげる。
 私は舌を彼の割れ目へ滑り込ませる。彼の雄がビクンと脈立つのが伝わり、そこが雄の感じるところであると知れた。私は弱点に集中攻撃を浴びせ、彼の苦悶の表情を目に焼き付ける。彼の限界がすぐそこまで迫っていると思うと、私は歓声をあげたくなった。
「うう、×××、もう……」
 さあ、いつでも来なさい。全て受け止めてやる。あなたの精を。
 あなたの愛を。



「どうした?」
 私は警発した。無色の世界に色彩が戻り、私の頭を色の洪水が駆け抜ける。私はどこにいるのか、彼はどこへ消えてしまったのか、辺りを見回した。ちょっとしてから私を発見した。
 彼は心配そうな顔持ちで私を覗き込んでいる。目に宿る抑制された闘志に、私は見覚えがあった。そう、彼らの目にもまた、同じような炎が爛々と松明の先っぽから音をたてていたのだ。
「ううん、何でもない」
 “どうした?”?あなたが心配なのは私の胸が張らなかったらどうしようとか、アソコが乾いたままなら入れにくいとか、モノがどたん場でインポになったらどうしようとか、そういうことでしょ?
まだ何か隠してるわね。今更何を隠してるの?私は“根幹以外は”全てあなたにさらけ出しているわよ。
 それにしても……感傷に浸るなんて、らしくないわね。いや、違う。私には浸るような感傷は残されていない。悲しくなんて、ない。
 あれはいい勉強だったわ。騙すポケモンが騙される可能性なんて、よくよく考えたら十二分なのよね。
 あれは、分岐点だった。騙すことが浅はかな趣味から威重な職業に変わるまでの。その点では、私は彼に地獄まで赴いてでも感謝しなくちゃいけないのかもしれない。私は今の職業が好き。だって才能を生かせるもの。
 私は、どんな屈強な者も最後は大地(あるいは深海)へ回帰するのに同じく、この地へ根を下ろした。それは必然的に起こったことであり、私は経過はどうであれ必ずここに私を見いだした。
「さあ、楽しみましょう?」
 彼は私に笑いかけた。私は“彼ら”に笑いかけた。



「キスは私がこの前教え込んであげたわよね」
「……ああ」
 私は彼に乗り上がっている。決して、私は優性を手放さない。前足で掴める量は少なくとも、それは常に私の手中に。
「でも本格的なのは経験したことがない、そうよね?」
 察するに、雌と関係なんて持ったことないんでしょう?彼の赤面した顔が愛苦しい。俯いていれば隠せると思っているのかしら?まだ子供のあどけなさを残した青年の一途な瞳は純白で、吸い付きそうな魅力が見え隠れする。
 私も、かつてはそうだったと思うと、虫酸が走った。これから汚れていくなんてとんでもない皮肉だけど、しょうがない。
 嫌?だったら私が守ってあげる。私のように黒く染められることもない、永劫の光明で包み込んであげるわ。
 スポットライトの例えが正確に的を射ていて、私は嬉笑する。
 彼は私より年下だけど、私も彼も気にしてない。雄が年上でなくてはならないなんて、埃っぽい、きな臭い考え。でも不便な部分があるのよね……
 成長の過程で、やはり雄と雌の体格差は現れてしまう。ただでさえリーフィアなどのイーブイ進化系は身体が小さいのに、雌のイーブイ族はさらに拍車がかかる。小さいからといって戦いで特別不利になるわけではない(むしろ私は小回りが利いていいと思う)が、私が雄の上に乗って仕事するには利便性に欠ける。この体制維持が難しい。
 キスには関係ないけど。
 私は彼の瞳を覗き、彼をじっと見据える。彼ははっと息を飲み、私から目を反らすが、私はいたずらな目を向け続ける。埒が開かないと分かるまで時間が必要のようだ。私はあまり時間をかけたくないので、前足で彼の頬を押さえ、強制的に私に視線をあわせるよう仕向けた。
 彼は諦めが悪い子だった。しかし私の方がもっと諦めの悪い観葉植物だった。葉を奇怪な色に染色し、執拗に主人の関心と世話を求める、フリをする。
 やっと彼と視線が重なる。鏡のように、その瞳いっぱいに私が投影されている。私は鏡の向こうまで覗き見なければならないため、じっくり観察した。
 最後の確認。ここで問題があるようなら……
 彼の鏡はどこまで行っても疑うことを知らない鮮やかな色が延々と続いており、疑誤色は検出されなかった。
 当然の結果よ。私は彼の前ではいい子ちゃんだったからね。それでも、この瞬間はホッと胸が撫で下りるもの。最終段階で失敗は許されない。
 彼はポッと何かに憑かれたみたいに私の前(下)でぼんやりしている。
 ほら、これが、雄。何ぼうっとしてるのよ、変態。どうせ雌の気持ちなんて考えてないんでしょ?舞台で、雄は、雌なんて眼中に一切入れない、欲で活動する別の生き物に変身……いえ“進化”する。雄なんて、どうしようもない、屑ばっかり。
 私の管轄は若い、盛りの野郎だけだけど、可能なら、全ての雄をこの手にかけてもいい。
 不思議?殺るだけならわざわざこんな遠回りしなくてもいいんじゃないか、て。
 やれやれね。……なるべく自力を使わず、自然の法則を用いて物体をぺしゃんこにしたいなら、どうする?上まで持って行くわよね?
 そこからは指一本、一突きすればことは成就する。そうよね?
 ええそう!ご名答!私は雄を天国まで招待する役目を担っている。直接堕とすのは私でないけど。分かってくれたかしら?
 地上から地獄へ堕とすより、天国から堕とす方が砂煙が高く上って面白いってことよ。(地獄に砂があるの?とかいらない疑問は投げ捨てておいた)。
「どうかしたか?」
 ほら、私の唇が欲しいんでしょう?あげるわよ!
 私は間入れず彼の唇を奪う。彼の立ったモノが、後足の付け根にじっとり触れた。すでに大きく、今にもヤレそうみたいだけど、まだ期は熟していない。
「はぐっ!……うう……」
 さあ、もっと呻きなさい。苦しみなさい。私が苦難の先の快楽を味あわせてあげる。
 私は彼の唾液たっぷりの長物を舐め回す。彼は驚いたのか、彼の身体が小さく跳ねた。私が洗礼を与え続けていると、最初は無抵抗、なされるがままに遊ばれていた彼から、徐々に抗力を感じ始める。相反する舐めあい合戦は、卑猥な音を部屋中に響かせ、私を歓喜させた。
 初心者にしてはよく楽しめるようね。この調子で……
 私は結合を早めに解くことにした。口をゆっくり離す。私も彼も息遣いが荒い。左胸の器官が忙しそうに血を送り出している。
 胸が大きいと歩き難くいけど、雄に幻影の壁を見せるのは、この商売道具なのだ。私はこれを誇らしく思う。
 私は名残惜しそうな彼を無視した。
 次に、私は彼と身体を入れ替え、上下を転換し劣性になる。さらに反転させ、彼の目の前に私の股を見せ付けた。
 別に私は、あいつと自分を重ねているわけではないと、自分に言い聞かせる。私が奴をなぞらえているなんて、そんな、アホな……たまたま似ているだけなのよ、ヤリ方が。
 うん、きっとそう。
「私を……イカせてくれない?」




何かありましたらご遠慮なく……

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 嘘、ですか。嘘をオアシスへと例えてみたり、リーフィアの嘘に対する言い回しになんだか引き込まれました。
    ああいう独特の比喩表現って難しいと思うんですよね。短い感想ですが、これにて。 -- カゲフミ 2009-07-09 (木) 21:02:14
  • コメントありがとうございます。
    そうですね、ない知恵しぼって頑張って考えました。 -- もろ ? 2009-07-09 (木) 21:17:15
  • 途中から砂漠に埋もれてるような感覚や空を飛んでるような感覚に溺れたんだぜ
    いいぞ、もっとやれ……やって下さい。 -- 漫画家 ? 2009-07-16 (木) 07:14:49
  • グヘヘ、もっとやって…おっと。
    コメントありがとうございました。 -- もろ ? 2009-07-16 (木) 19:01:39
  • 読者を引き込むようなこの文章に心打たれました。とても細かく文が書かれていて、リーフィアの心情なども凄く分かりやすいです。続きを期待していますので、頑張ってください。 -- ピカピカ 2009-07-28 (火) 13:22:21
  • コメントありがとうございます。
    期待にお応え出来るかはわかりませんが、応えられるよう頑張りますね。 -- もろ ? 2009-07-28 (火) 17:24:00
  • いつもまともな本読んでないんで始めの方圧倒されました。演劇の勉強とかされてるんですか? -- 2009-08-02 (日) 23:29:49
  • コメントありがとうございます。
    いえ、全く勉強してませんよ。すこし、そのジャンルに興味があるのは確かですが。 -- もろ ? 2009-08-02 (日) 23:51:16
  • テスト -- もろ ? 2009-08-04 (火) 15:17:34
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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