ポケモン小説wiki
同調

/同調

作者GALD




昼間なのに視界がぼやける。睡魔によって視界をぼやかされながらも、黄色い面影を追っている内に頭がカクカクと揺れ始める。
意識ももうろうと、頭がコックリと折れると目の前が真っ暗になった。
次に脳に電源が入ったのは夕暮れ時で、辺りに闇が生まれていたが、昼間より視界ははっきりとしていた。
体を起して付着した草葉をふるい落とすと、周囲に誰の気配も感じない。
いつも通り、置き去りにされてしまったようだ。ずっと寝ている自分が悪いので、文句を言うこともできず、仕方なく歩きだした。
そして広がる暗い思考の海に潜る。しかし訳の分からないことばかり考えているので、無駄な潜水である。
それでも、一人で自分自身に浸っているときが一番落ち着いた。
誰との接点を持つこともなく、孤独でいるのが楽に思える。思考を凝らしていると何かに包みこまれていくように森の暗闇の濃さが増し、自分の体が黒毛で覆われているため闇に溶け込む。
暗い夜にカモフラージュして一人だけになる。しかし、俺自身も一人での孤独を望んでいるのに、周囲が闇に染まっていくにつれて体から不気味な輪状の模様が目立つようになる。
目の色も血に飢えたような赤い色をしている、こんな自分の容姿が好きになれない。俺はブラッキーという種族らしい、俺にとっては誰かを信頼するような甘い感情を持った者の生れ果ての姿だ。都合のいいように信頼されておいて気に食わなければ捨てる、俺もその一匹。
誰かを信頼なんてしたくない、そう強く思うほど自分のことが嫌いになった。俺が進化する前には生き道を選択して、違った結果も待っていたかもしれない、それなのに俺は誤った道を選んでしまった。
そして今、一匹で路頭を彷徨っている。別にさみしくはない。あてもなく無駄に森を漂っているこの習慣も体に染み付いてしまったらしい。
静まり返った森の鎮静を足音で乱すことなく、誰にも気づかれないように足を上げて地を踏む。
もし、自分が足を止めて自然に身をまかせれば、知らぬ間に凍えて楽にくたばれるかもしれないなどと、変な期待をしてしまったが、そんな勇気があればこんな人生を歩んではいない。死を恐れて中途半端に生きている。
冷えた風が、少し体にあたって虚しく吹き抜けていく。
生きる意欲もそこまで湧いてこないし、熱中している事もない、何を思ってここにいるのか分からない。
考えるだけでどんどん深みにはまっていき、気分も暗く沈んでいく。
そう一人だけの空間に誰にも接さず、冷たいのが一番馴染み深く、冷静でいられる。周りのことなんて考えなくてもいい、自分だけを見ればいいから。
そうやって自分で沈んで言っているのに、誰かが俺を引き上げようと声をかける。
俺は無視して歩き続けるが、何度もしつこく俺を呼び止める声にようやく振り向いた。
すると相手は急に俺が止まったのに、かえって言う言葉を失っているようだ。ただ立ちすくんでいるだけのようなので、俺は再び歩きだした。
すると瞬時に俺の進行方向に立ちふさがり、通り過ぎようとしても回り込まれ、どうしようもなく足を止めると、目の前にはブラッキーとは異なる進化過程を持つ、サンダースが一匹いた。
一応俺を置いて行ったのはコイツだ。毎回俺を置き去りにしていく割に、何故か俺を探しにくる不思議なやつだ。そして何より俺と関わろうとする物好きでもある。
「何の用がある?」
訪ねてからはっとした。まず俺に用があるやつがいるわけがない。そうすると、自分の質問すること自体が誤りになるが、自分だけが思っている気がして撤回するのをやめた。
「言われなくても分かるでしょ。」
サンダースはぶすっとして俺に語りかけてると、俺の向かっている方向とはそれて歩きだした。俺は内容を把握して、サンダースの背後に連なる。
俺は捨てられてからというもの、たまたま出くわしたこいつと一応一緒にいる。特別なにかあるというわけでもなければ、互いに毎日交わす言葉も少なく何故共にいるのか分からない。
こんな間柄なのに、夜俺がどこかへ行ってしまおうとすると、何故かと目に来るのだから俺には理解し難い存在だ。
更には俺は内心でサンダースを拒んでいた。性格には嫉妬しているという単語がふさわしいかもしれない。目の前に成功しているやつがいるのだから仕方がない。
だから、俺はサンダースと距離をとって歩いていた。これ以上間合いを詰めると、なんだか自分を否定してしまう気がして離れていた。サンダースも俺が後ろについてきているのは分かっているようで、これといって変わった素振りは見せない。
俺は黙々と後ろに続いて行くと、サンダースはある木の辺りで姿を消した。
別に隠し扉があるわけではなく、木の幹の下に偶然空洞ができておりそこに定住している。
中は光はなくサンダースが放電していて辺りを照らしていた。俺は何もしゃべらないでいると、サンダースは放電するのをやめてお休みの一言もなく眠り出した。
光がなくなり真っ暗になったかと思えば僅かに入り込んでくる月光が眩しく、俺には寝るのに数時間を必要とした。
しかし、眠る前には長く感じた時間も意識を失ってしまえば過ぎるのは早く、いつの間にか眩しい日光を浴びていた。
外に出て朝方の涼しい空気にふかれたが、依然と頭がぼやける。
半ば寝ぼけている俺をようやくの思いでサンダースは待っていたようだ。
俺と目が合うとさっさとしなさいと催促して森の中へ進んだ。
俺の先を行くサンダースに仕方なく俺はついて行った。というのも、食糧調達というのをこなさなければならないからだ。今まで育てられてきた俺にとっては不便なことであるが、後ろめたさはなかった。
しかし、戻らなくてもいいと言っても食料が転がっている訳がなければ、木なら何でも木の実がついているわけではない。
俺一人だと困難を要する作業だが、幸いサンダースのお陰で事これに関しては助かっている。
木々を歩き回って適度に食べ物を集める、その間俺は見ているだけでサンダースが一連の作業をしてくれる。
木の実を見つけるとサンダースは体毛を鋭利にとがらせ木の実を打ち抜き、素早く落下地点に回ってキャッチする。これを一個一個丁寧にこなしていく、それを俺は眺めているだけ。
今日も同じような流れでサンダースは慎重に集めていく。ある程度集めるとサンダースは無言で目の前に食べろと言わんばかりに取ったものを差し出す。
いつも無言で渡してくるので俺も何も言わずに受けとって二匹で食べる。
どちらも言葉をかわそうとしない虚しい食事、互いに口が開いても食料が入っていくだけだった。
食事を終えるとこんどは別行動になり、サンダースは俺に背を向け、俺はこれといってすることもないので無口のまま地面にうずまる。
それからサンダースに少し視線を投げると、偶然にも視線が合ったが言葉を投げかけることはなかった。
それからサンダースは振り返ることなく茂みに入ってしまい、俺は一匹で取り残された。
一匹であろうと二匹であろうと何のやる気も俺にはわかない。したいこともない、すべきことも分からない、何で必死に生きているのかも、全てが無駄に思えてくる。
何かが俺から遊離して大きなものが俺から欠落していて、自分で何が足りないのかはわからない。そのせいか、行動することが嫌なのではなく無意味に感じて、寝ること以外取るべき行動が思いつかない。
マイナス思考でいるからか、陰鬱な俺を通過していく風は、変に生温く気分のいいものではない。俺にわだかまりを残して去っていく。
いつもになく心がざわついていた。この気持ち悪さの正体はわからない。しかし、誰かが潜んでいる気配もない、俺一匹のはずなのに、奇妙な感覚が俺の悩ませる。
日か沈んでも気持ち悪さから解放されることなく俺は少しいらだっていた。
けれど、こんな調子では感覚の正体を見切ることは出来ないと、気を紛らわすためにとりあえず歩きだした。
それでも心の中で俺の気を引こうと、もどかしさが付きまとって来る。理由もなく俺を悩ます感覚の理不尽さに一層腹を立てて、足を速めた。
やつあたりで地を強く踏んでみても、気が晴れることはなく、さらにストレスが蓄積される。
こんなタイミングの悪い時に限って、見覚えある面影が視界に入った。
俺はサンダースとすぐに分かったが、サンダースの方は辺りが暗くなっているせいか俺に遅れて気がついたようだ。
いつもは無視して去るのだが、今回はたまたま目が合ったので双方黙って向かい合った。
時間がすぎるほど空気がどんよりとして、やり抜く方法を考えるあまり、無意識の内にうさばらしの対象に選んでいる事に気付かなかった。
「何の用だ。何もないならどけ。」
いつもより強い口調だが、自分ではそう思わずたださっさと視界から去ってほしいと願っている。
「どこいくつもりよ。すぐに戻るわよ。」
サンダースの口から言葉と共に出てくる白い気が、急いで連れ戻そうとする理由を暗示している。
いつもならはいはいとついて行くのだが、なんだか我慢できなかった。五月蠅いと声が響くと、俺は爆発した。
「お前が何を知ってる?俺の背負ってる物が分かるわけないだろ。」
言い過ぎとは思わなかった。悪い話、おかげで上がり切っていた体温も下がって辺りの寒さを感じる。
俺はサンダースの横切ったが、まったく反応しない。冷えた頭の中に少し後悔があったのか、一度だけ振りかえったが、サンダースは俺に背を向けていた。
これでようやく一人になれた、与えられた使命を果たしたような気がした。しかし、俺に達成感はなく依然と気持ち悪さが残っている。
足が自然と停止した。もはや自分でも何が足りないのか、何を求めているのか全く分からない。ただ、この気分の悪さが俺に満足していないと言い続けている気がする。
一体俺はどうしたらいいというのだろうか。自分の望みを叶えたはずなのに、俺には不満がある。俺はどうすれば満足出来るのか。
答えが分からず、自分だけが引きずりこまれていくような違和感。この際誰でもいいから教えてくれと、自ら他者と接する道を選んでいいとさえ思えてくる。
こうして血迷っている俺に、不意に暖かさが広がった。俺の不満を中和するかのような安心感が広がって、なんだか気が楽になった。
同時に不意に背中に体重がかかって、俺はぐらっと揺れたが踏ん張って、支えることに成功した。
どうやら何者かが俺に覆いかぶさっているらしい、誰かは言うまでもない。
「あたしを独りにしないで、もう誰かに置き去りにされるなんて嫌なの。」
両サイドから胴体にぎゅっと力が加わり、サンダースの叫び声が俺の中に響いた。俺とサンダースはどうやら似たような境遇に置かれていたようだ、しかし大きく違う所がある。
「どうして、お前は独りがどうして嫌なんだ?捨てられたのなら、独りの方がいいってことぐらいわかるだろ。」
表面上ではこう意地を張っていても、本当の所は自分に自信がない。
振り落とそうとはしないものの、サンダースを拒む体勢を俺は崩さず、サンダースをきつく睨みつけた。
その際に涙を溜めたような目と向かい合っう。怯えているわけではない、俺の言葉で表せないような不思議な眼差し、俺は何かを訴えかけられた。
俺は何も答えず、そっぽを向いた。今までサンダースと一緒にいてこんな気持はなかった。でも、サンダースがいることで何かが俺の中で満たされていく。
「私も最初は独りっきりの方が楽だと思ってた。でもね、貴方を見てなんだか知らない間に助けてて、結局独りでいることなんて寂しいだけなのよ。
もう独りぼっちなんて嫌なのよ。貴方にも分かるでしょ?」
サンダースの言っている事は何となくわかる。つまり、俺もきっとサンダースを必要としているのだろう。
あれだけ、嫌っておいて俺は言い訳を作っていただけなのだろうか。情に負けたというわけではないが、心の迷いが俺の足を躊躇わせ、ただその場に立ちすくんだ。
機能停止した俺にサンダースはゆっくりと頭を背中につけ、温かい粒がこぼれた。
背中ではだた湿っぽいだけ、それでも体には確かなぬくもりを感じる。
「過去のことなんて背負ってないで、私の事背負いなさいよ…」
今の事を言うために力を尽くしたのか、サンダースは泣き崩れて脱力しており振り払うのも容易にできそうだ。
俺は後ろ脚で地面を軽く蹴ると、サンダースは俺の背中に強制的に乗らされ四足全てが地から離れた。
不意に俺が持ち上げたので、サンーダスは不甲斐ない声を出したが、俺は落ちるなよと言うと、返事がないので俺に任せると言うことだろう。
ちょっと過去を振り返りながら、サンダースを担いで歩いた。嫉妬していると錯覚していただけで、避けていたのはただ誰かと接するのに怯えていただけのようだ。でなければ、今こうして歩いている事はないだろうし、もしかすると心のどこかではサンダースの事を気にしていたのかもしれない。
回想に浸っていると妙に体が熱くなっている、変にサンダースの事を意識してしまっているからなのか。
意識しているのは俺だけではないようで、俺のまさしく真上から同じような雰囲気を感じる。
ブラッキーというのはエスパータイプのような特化している種族には劣るものの、本来備わっている能力のお陰である程度周囲の感情を感知することが可能である。
気配を察知するような、研ぎ澄ませる感覚とは違い、本来はかなり範囲が制限される。
しかし、皮肉にも飼われている際に戦闘用に養っているため、多少の距離を保っていれば相手の行動が多少なりとも読めるし、密接していれば嫌でも感じ取れる。
最近は周りの事に拒否反応を示していたので、能力を抑えていたが、サンダースに気を許しているためか、自然と発動している。
具体的にどんなものかまでは掴めないが、相手の心境が読めてしまうというのに罪悪感を覚えた。
せめてもの償いにと俺は何とか会話を切りだそうと試みるが、これといったネタがない。
最後まで何も言えずに帰ってしまう。が、ここにきてようやく会話が成り立った。
「降りてくれ。」
ようやく発言できたのがこの一言だと思うと、なんだか虚しい。
「ありがと。」
サンダースは背中から降りて、会話は続かぬまま終わってしまった。
するとなんのためらいか、サンダースは変に距離を取って横になる。
俺もなんだか近寄るのに気が引きてその場で寝ることにした。こうして控え目同士が作った空間だが、昔ある近寄れないもの同士は一定の距離で温まったらしい、それと同じなのか妙に暑苦しくて寝付けない。
計算してスペースを確保したわけでもないのに、温かいを通り越して暑いが、俺は気付かれないように少し離れてみた。
やっぱり暑い、別に真夏の夜でもないのに冷汗ではなく、普通の汗をかいている。
「なぁ、起きてるか?」
気でも紛らわそうと独りごとでもいいから声を発してみた。
「何よ?何かしたいことでもあるの?」
何か用事があって呼んだつもりではなかったのだが、返事の内容的には付き合ってくれそうな感じである。
「大したことじゃないんだが、話し相手にでもなってくれないか?」
「あぁ、そう。珍しいわね、貴方が話すなんて。」
拍子抜けというか、期待はずれというのか、なんだかサンダースは少し脱力したようだ。
流石に何でもかんでもと思ったので、ここは力を抑えて思いつく限りの事を口にする。
自然と会話を展開していった。久しぶりに喋った割に、妙に俺の口が動く。俺の口数の方が多いなんてことは今回が初めてだろう。
その後珍しく喋った分、気晴らしのつもりがなんだか疲れも出てきて、俺は熟睡してしまう。
朝はお約束通りサンダースを待たせてしまう。
のっそりと外に出てきた俺の進展のなさに、大きなため息をつく、サンダース。
とりあえず俺はおはようとだけいって、頭を起動させる。そして、昨夜まだ言ってない事を思い出してさらっと口にしてしまった。
「誰が重いって?ちょっと、気が緩みすぎじゃないかしら?」
シンクロのお陰で、ひしひしと怒りの感情を感じ取れる。おまけにバチバチと電気が体に帯電している音も聞こえる、これはなかなかまずそうな気がする。
「だって、お前が背負って言うから。」
「覚悟しなさい。」
そのあと体の痺れがなくならないので、結局作業を全てサンダースに任せてしまった。
なんだか悪い気もしたが、体が思う通りに動かないのだから仕方ない。
しかし、手伝わないことは今ままでと同じことなので、作業を手っ取り早く片付けて俺に食料を恵んでくれた。
その時初めて、ありがとうという言葉をサンダース相手に使った。
「元々言えるなら、毎日ちゃんと感謝してくれてもいいじゃない。誰の事思っていっつもしてあげてるんだか。」
「すまないな、今度からは俺もお前の事思うようにするよ。」
なんだか無意識に言葉が出たが、後から後悔した。
「どういう意味かしら?」
「あーもう、いちいち聞かなくても分かってくれよ。」
「分からないから、貴方の口から聴きたいんだけど?」
こういう時に相手もシンクロのような類の能力が嫌でも察してくれるだろうから、それを理由にいい訳できるのにと思う。
もちろん、サンダースという種族はそのような特殊なものはないので、とぼけられると何も返せない。
「分った、好きだよ。」
「直球で言われると、案外恥ずかしいものね…私も好きよ、愛してる。」
言っている事はそのままのようで、俺の中の気持ちとサンダースの思っている事は同じような感じがする。恥ずかしいって言うのもあったし、互いに嬉しいというのもあり、なんだか温かい。俺達は同調していた。
きっと俺がしたかったのは、誰かとこんな気持を共有したかったんだろうな。
「これからも、よろしくな。」
これは余計な言葉だったかもしれない。気持ちが重なってる今なら、これぐらい言わなくても伝わるはずだろうしな。
                                                終わり


久しぶりに、投稿させていただきました。最後まで読んでくださってありがとうございます。


何かありましたらどうぞ

コメントはありません。 Comments/同調 ?

お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2011-01-06 (木) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.