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可愛いあの仔は悪タイプ

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可愛いあの仔は悪タイプ 

writer――――カゲフミ

―1―

 道も家も一定の間隔で配置された住宅街。近づきすぎないよう、遠くなり過ぎないよう、絶妙な間取りだった。
ものすごく几帳面な人が机の中を整頓すると、おそらくこんな感じになるのではなかろうか。
車同士がすれ違うにはちょっと狭い道幅だけど、自転車で通る分には全く問題がない。
アスファルトできっちり舗装されていてがたがた揺れることもないし、広くて快適だった。ただ、細かく整備された住宅街の宿命と言おうか。
どこを見てもどこで曲がっても、基本的に同じような風景が続くので、慣れないうちは非常に迷いやすい。
僕の家からはそんなに離れていない場所とはいえ、普段通ることのない道なので油断すると現在位置が分からなくなってしまいそうだった。
唯一のはっきりとした目印は、住宅街に入ってしばらく進むとある公園だ。
大きな公園なので見落とすことはまずない。自分が今どの場所に居るのか確認するにはもってこいなのだ。
住宅街の間にあるものにしてはなかなか立派で東側と西側、二つの入り口がある。
東側にはブランコやシーソー、ジャングルジムなど、子供たちが遊ぶような遊具が配置されている。
一方、西側は舗装された細めの道が緩やかにカーブしながら続いており、所々に植えられた木々に囲まれつつ、ゆっくりと散歩を楽しめるようになっていた。
無料で利用できる公園にしては、かなり洒落た作りになっているのではないだろうか。入り口が東西二つあるのも公園の広さを感じさせていた。
しかし公園の周囲は頑丈な柵で覆われているわけでもなく、垣根や茂みで囲まれているだけなので、無理矢理乗り越えればどこからでも入れそうな気はした。
その長い垣根に沿って自転車をこぎながら僕は西側の入り口までやってくる。子供たちの声がする東側とは対照的に、こちらは至って静かなもの。
垣根の木々と散歩道の脇に植えられた木々の匂いが合わさって随分と心地よい。気分転換したい時などにここを歩けば、確かにリラックスできそうだった。
だけど、僕が用があるのはこの公園ではなく。この西側の入り口を出て、真っ直ぐ向かった先にある家が僕の目的地だ。
昨日一度来はしたものの、まだ完全に道順を覚えきれていない。下手に近道するより目立つ公園を頼りに進んだ方が確実だろう。

 公園西口からしばらく直進していくと、少し道も細くなり家もまばらになってくる。
所々に空き地や田んぼが顔を出し始め、住宅街と言い切るにはちょっと怪しい感じだ。そんな中、いきなり飛び出してくるのがこのでっかい家。
豪邸、とまではいかないかもしれないけどそれでも十分立派だ。住宅街に立ち並んでいた家より少なく見積もっても一回りは大きいのだから。
一度でいいからこんな家に住んでみたい。現在アパート暮らしの僕としては、そう思わずにはいられなかった。おっと、個人的な感情は後にしよう。
まずは頼まれた仕事だな。僕は家の前に自転車をとめると目の前の大きな家、ではなく隣にあるこの家の離れに向かって歩き出す。
何とこの家の敷地内には離れまで存在するのだ。もちろん本家よりは大分小さいのだけど。
それでも外から見る限り、僕が住んでいるアパートの一室よりは広いように思えてならない。うーむ、やっぱり格差を感じる。
だからこそ、雇い主からの日給がいいんだろう。それに釣られてと言えば聞こえは悪いが、こうして僕が自転車を飛ばしてはるばるやってきたのはそれが目当てでもある。
 今日から三連休だけど、これと言って何も予定のなかった僕。家でごろごろするだけじゃ勿体ないし、何か簡単な短期バイトでもないかなと求人情報誌を見ていたら。
留守中のポケモンの世話をしてくれる方募集中、というのがあった。へえ、こんなアルバイトがあるんだな、と何となく見ていたら。
その仕事は三日間で一万五千円もらえるらしい。ただ、どんな内容なのか細かいことは書かれていなかった。
楽だと思って行ってみたら一日中肉体労働、なんてことになると割に合わない。
とはいえ他に短期の募集はなかったし、無理そうだったら断ればいいか、と軽い気持ちで依頼主に電話してみた。
すると、どうやら僕が一日ずっといる必要はなく、三日間依頼主のポケモンに朝夕の食事と一回の散歩をさせにくるというもの。
それなら一日の中でちょっと時間を割けばいいだけだし、それで日給五千円と考えれば割のいいバイトだ。
引き受けることにした僕は昨日、下見も兼ねて詳しい説明を受けにこの家までやってきた。
依頼主はどんな人なのかちょっと緊張したけど、実際会ってみると物腰の柔らかい優しそうな雰囲気のおばあさんだった。ミネットさんと言うらしい。
何でも、友達と行く旅行先のホテルがポケモンを持ち込めない決まりなのだそうだ。その分他のサービスは充実しているとのこと。
近所の人にも頼まず、わざわざアルバイトを雇うのはそれだけお金に余裕があるってことなんだろうか。もちろん僕の勝手な憶測に過ぎないけれど。
きっとミネットさんが友達と泊まりにいくのも、僕の頭では想像もつかないような豪勢なホテルなのだろう。
羨ましい限りだが、僕は僕で与えられた役割をちゃんとこなさなければ。休日も朝早めに起きなければならないのは少し億劫に感じたものの。
この家は僕の家から自転車で十五分程で来られる距離。交通費がいらないのはありがたかった。
正直、朝夕の食事をあげるのにそんなに時間が掛かるとも思えない。間の散歩に多少割かれるとしても、実質的な勤務時間は大したことないだろう。
それを考えるといいバイトを見つけたものだな、と自然と笑みが浮かんでくる。さてと、この離れにミネットさんのポケモンがいるんだったよね。
当然鍵は借りてある。あれ、待てよ。鍵を回そうとして僕はふと思い留まる。そういえば、世話をするのは何のポケモンなのか聞きそびれちゃったな。
ええと。確か昨日、私の可愛いリリアちゃんをよろしく頼むわね、としかミネットさんは言ってなかった。ちゃんってことは雌のポケモンなのかな。
これと言って注意事項の説明もなかったし、世話をするのがそんなに難しいポケモンじゃないとは思うけど。
リリアって響きからすると、結構可愛い感じのポケモンなんじゃなかろうか。とにかく、扉を開ければ分かることだ。
僕は扉の鍵を回すと、ゆっくりと開いていく。ぎぎ、と軋む音。かなり大きな両開きの扉で、古くなっているらしく取っ手が錆びてざらついていた。
「誰?」
 視界の端でのそりと何かが動いた、ような気がする。部屋の奥の方から声が聞こえた。声の調子からするとやはり雌らしい。
妙に部屋の中が薄暗いせいではっきり確認は出来なかったけど、おそらく僕が世話を頼まれたポケモンなのだろう。
「あ……僕はミネットさんから君の世話を頼まれた者だけど、話は聞いてないかな?」
「あ、昨日ミネットが言ってた人ね。聞いてるわ」
 よかった。ちゃんと事情は伝わっていたみたいだ。これで聞いてないなんて言われたら、このアルバイトは大丈夫なんだろうかと心配になっていたところ。
「うん、だから三日間だけどよろしく……って、この部屋電気どこかな?」
「電気なら、そこから右側の壁伝いに行けばあるわよ」
 電気は右側、ね。部屋が広いせいか電源まで遠く感じる。普通、電気は入り口のドアから近いところにあるもんじゃないのかなあ。
と、この部屋の設計に対する不満を頭の中でぼやきながら。僕はスイッチのありかを何とか探り当てた。
窓の近くまで行ってようやく分かったけど、午前中なのに何でこんなに暗いのかと思ったらカーテンが閉まっているせいか。
晴れてるんだからカーテンを開けて日光を取り入れればわざわざ電気付けなくても明るいのに。電気代を僕が払ってるわけじゃないし、口出しするのもあれか。
僕はぱちりと部屋の電源を入れる。薄暗い部屋が瞬時にぱあっと明るくなった。それと同時に浮かび上がる、黒と赤紫と紺色の入り混じった大きな姿。
寝そべっていた長い首が、僕の姿を確認するためなのかすっと持ち上げられる。一本目に続いて二本目、三本目と順番に。
そして背中の黒い翼を広げてふわりと宙に浮かび、ぽかんと口を開けている僕の方へゆっくりと近づいてくる。
「うわあっ!」
 思わず僕は悲鳴と共に後ずさりをしてしまっていた。背中が壁にぶつかってこれ以上下がることができない。
入ってきた扉の方へ逃げればよかったんだろうけど、突然の出来事で冷静な判断を下せなくなっていたようだ。
ちょ、ちょっと待ってくれ、嘘……だろう。もっと可愛らしいポケモンを想像してたのに、リリアちゃんってよりにもよってサザンドラ、だったの。
驚いた僕をよそに、もうすぐそこまでリリアは迫っていた。近くで見ると想像以上に大きくてとんでもない迫力だ。
それぞれ頭の視線が僕に集中している。六つの赤い瞳でじっと見つめられると、ただただ恐ろしくて。体が全く動いてくれなかった。
そして、真ん中の頭をぬっと僕に近づけてくるリリア。口元からは鋭く尖った牙が顔を覗かせている。も、もしかしてここで僕はこのサザンドラに――――。
「失っ礼ねー。いきなり私の姿見た途端悲鳴上げるなんて」
「え……?」
 あれ、何だか軽い感じの口調だな。声は最初に聞いたけど、それがサザンドラだと意識してなかったせいか印象に残ってなかった。
顔を近づけられはしたものの、それ以上何かをされるわけでもなく。いや、何かされたかったわけじゃないからありがたいと言えばそうなんだけど。
「別に何もしやしないわよ、あなたがどんな顔か見てただけ。それよりも朝ごはんまだ? そのために来てるんでしょ」
 どうやらサザンドラの頭で喋るのは真ん中だけらしい。それもそうか。全部の頭が同時に喋られたら訳が分からなくなりそうだし。
そう言うリリアの両側にある頭が物欲しげに口をぱくぱくさせている。喋れずともある程度の意思はあるらしく、空腹を訴えているようだ。
「あ、そ、そうだね。準備するから待ってて」
「早くしてよねー」
「わ、分かった」
 もたもたしてると僕がリリアに食べられちゃいそうな気がして。部屋から逃げるようにして飛び出すと慌てて離れの隣にある倉庫に向かう。
一瞬、このまま自転車に乗って何事もなかったかのように帰ってしまいたい衝動に駆られたが、バイトを進んで引き受けたのは僕なのだ。
こんなところで投げ出すわけにはいかない。ポケモンの世話をするだけなら、楽なバイトだと思っていたのに。まさかその相手がサザンドラだったなんてなあ。
ちゃんと無事に面倒見切れるのかどうか、早くも僕は自信をなくしつつある。前途多難な三日間が、今始まりを告げようとしていた。

―2―

 倉庫も離れの扉と同じように結構古い感じだ。鍵を差し込みはしたものの、とちゅうで引っかかってしまって回らない。
若干錆ついているせいなのか、それとも僕が焦っているからなのか。鍵を持つ指先が震えている。
早くしなければと気持ちばかりが先走って脳からの指令に体が追いついていない感じだ。落ちつけ、僕。
言い訳っぽくなってしまいそうだが、何しろ僕は今朝が初めてなんだし手際良くいかないことだってある。もし待たせちゃってたらリリアにちゃんと謝ればいい。
いくら彼女が外見の恐ろしいサザンドラでも、頭を下げている僕に追い打ちをかけてくるような非道ではないと信じたい。
早くしないとどうなっても知らないわよ、と脅されてるわけでもないし。すべては僕の杞憂。どうかそうあってくれ。
もたつきながらも倉庫を開くと、足元に最近使った後のある皿が三つあった。小さいのが二つ、大きいのが一つだ。
ここまで要領悪く進んできた僕でもこれは察しがつく。どうやらサザンドラはそれぞれの頭で食事をするらしい。
大きめなのが真ん中の頭、残りの二つが左右の頭用なのだろう。僕はすぐ傍にあったポケモンフーズの入った袋を鷲掴みにすると、ひっくり返して容器に盛り付けていく。
ポケモンフーズの配分は分からないけど、少ないと文句を言われるのは嫌だから溢れない程度に皿を満たすくらいには入れておいた。
零してしまわないよう慎重に三枚の皿を重ねて持ち上げると、僕は再び離れに足を踏み入れる。もう一度あのサザンドラと向きあうのか、と思うと少し気が引けはしたが。
バイトを続行するつもりならどうせ何度も会わなくちゃならない。それに今はお腹を空かせたリリアを待たせてるんだ。躊躇ってなんかいられなかった。
「お待たせ……」
 おそるおそる部屋に入ると、待ちくたびれたかのようにリリアが顔を上げる。僕が手に食事を抱えているのを見ると、目の色がみるみるうちに変わっていく。
ただでさえその赤い瞳には圧倒されてるってのに。それに有無を言わせない気迫のようなものまで加わっているから怖い。
ここでもし僕が食事を渡さなかったりしたら本当にその大きな口で噛み付かれる、そんな気がした。
こんなプレッシャーを長時間味わっていると胃が痛くなってしまいそうだ。早いところ済ませてしまおう。
「量、これくらいでいいかな?」
「うん、いいからいいから。早く早く」
「わ、分かった。はい……」
 たぶん、僕の言葉はほとんど耳に入ってない。いまリリアの頭の中は目の前のポケモンフーズのことでいっぱいだ。
ひとまずは、量に文句を付けられなかったのならそれでいい。僕は手早く皿を床に並べていく。左右の頭用の容器を先に。真ん中の用のは最後に。
その三つ目の皿から僕の手が離れるか離れないかのうちに。リリアの口がぐいっと伸びてきて、ポケモンフーズをがつがつと貪り始めた。
僕は呆然としながら数歩下がって自分の右手を見つめる。よかった、ここにある。一瞬、手ごと持っていかれたかと思った。心臓に悪いったらありゃしない。
そう言えば昔図鑑か何かでちらっと読んだことがあるような気がする。確か、サザンドラの種族は進化前から食べることに対して貪欲な所があるんだったっけ。
要するに食い意地が張っているというわけだ。サザンドラの食事風景なんて、なかなかお目にかかれるものじゃないかもしれない。
実際、僕があと五回は見なければいけない状況にあるのは置いといて。それぞれの頭が大きな口でポケモンフーズを咀嚼しながら飲み込んでいく様は、なんというか。
それなりの想像はしていたけれど、それ以上に圧倒されてしまいそう。無条件で嫌な汗が出てしまうような。これは理屈とかじゃない、本能的な恐怖なんだろうか。
恐ろしいなら目を背けていればいいのだろうけど。そこは怖いもの見たさで、僕はついついじっくりと観察してしまっていた。
いきなりがっついた割にはポケモンフーズを床にこぼしたり、散らしたりはしていない。その辺りはミネットさんの教育がしっかりと行き届いてるらしい。
それにしてもよく食べる。その食べっぷりに関しては見ていて清々しささえ覚えるほど。でも、こんなに食べて太ったりしないのかな。
僕は実物のサザンドラを見るのは初めてで、一度にどれくらい食べるのか標準的なことは全然知らないけど。素人目に見てもこの食事量はちょっと多いかな、という気はする。
注目してみると、リリアは僕が以前図鑑で見たサザンドラよりも若干お腹や尻尾の付け根辺りの肉付きがいいような……。
「なあに、私のことじろじろ見て。そんなにサザンドラが珍しい?」
「え、あ……ごめん」
 いつの間にやらリリアはポケモンフーズを食べ終え、自分の口の周りをぺろりと舐めている。それに気付かなかったくらい、僕は彼女のことを凝視してしまっていたらしい。
僕が見てたのは珍しいから、だけじゃないんだけど。本当のこと言ったら機嫌を損ねてしまうだろうことは目に見えているので黙っておいた。
ポケモンとはいえリリアは雌だ。太ってるよね、と言われて喜ぶ女性はなかなかいないだろう。
「結構珍しいのかもしれないけどさ。あなたは今日から三日間、私の面倒見てくれるんでしょ? その相手にびくびくされたりそわそわされたりすると、私も居心地悪いわけ。分かる?」
「そう、だね。ごめんね」
 何だかリリアに謝ってばかりな僕だけど。彼女の言い分も最もだ。面倒を見るのがサザンドラだったというのは、完全に想定外だったとしても。
世話をするだけなら楽だろうと呑気に構えて。ミネットさんにポケモンの種族をあらかじめ聞いておかなかった僕にも責任はある。
最初からリリアがサザンドラだと把握できていたのなら。ある程度の心の準備も出来ていて、こんな風に不快な思いをさせることもなかったかもしれない。
どうせ三日間のバイトだから、給料のためだから、と割り切って。淡々と与えられた事をこなしていくだけじゃ面白みがないのは確か。
それに、僕がそんな態度だとリリアは黙っていないだろう。僕にやる気がないと分かれば、文句の一つや二つや三つ。
あるいはそれ以上に飛んできそうに思える。バイトの間、彼女と揉め事を起こしてしまうことだけは何としてでも避けたいところ。
いきなりサザンドラと対面することになって、すぐに慣れろってのはさすがに無理だけど。だんだんと打ち解けられていけばいいかな。
「自己紹介がまだだったよね。僕はウェイン。よろしく、リリア」
 最初、部屋に入った時に自己紹介はしようと思っていたのだが。暗かったり、電気をつけたらサザンドラが出てきて驚いたりでうやむやになってしまっていた。
すっと手を差し出して、ああ、サザンドラには手がないんだったと思って引っ込めようとしたのと。僕の手がリリアの右側の頭にぱくっと飲み込まれたのがほぼ同時だった。
「ひっ」
「ウェイン、ね。よろしく、ふふ」
 ぬめぬめした生温かい感触が僕の右手に纏わりついてくる。どうやら左右の頭に牙はないらしく痛みは全く感じなかったけど。
まさか彼女がこんな行動に出るなんて想像だにしなかったため、僕は表情をこわばらせたまま手を引っ込めることもできずに立ちすくんでいた。
ああ。とうとう食べられてしまったか、と僕の中で恐れよりもどこか諦めに近い感情が一瞬浮かびあがったが。
そのままもぐもぐされてしまうようなこともなく。口に含まれて、弄ばれているだけ。きっとこれがリリアなりの握手なのだと僕は強引に解釈してみた。
何だか長い間しゃぶられていたような気がしたけれど、どうにかリリアは僕の手を解放してくれた。
「よ……よろしく」
「それじゃ、また夕食のときはお願いねー。あ、散歩はウェインの都合のいい時間帯に行ってくれればいいから」
 僕の返事を確認することもなく、そう言ってリリアは部屋の奥へと戻っていく。ああそうか、まだ夕食も。さらには散歩もあるんだっけか。
おぼつかない足取りで部屋を後にすると、僕は扉を閉めてへなへなと座り込んだ。リリアの相手をするたびにこんなに心労を重ねていたんじゃ身が持ちそうにない。
飲み込まれた右手は唾液でべとべとだ。しかもちょっと生臭いし。これも、慣れでどうにかなる問題なんだろうか。
せっかくバイトを頑張ろうと前向きになろうとしてたところだったのに、早くも出鼻を挫かれてしまった感が否めない。
朝夕二回の食事を与えて、一日一回散歩に連れていく。やるべきことはとても単純明快だ。唯一の問題はその相手がサザンドラだということ。
とりあえず朝は乗り切ったとはいえ、あと三日ある。難関は随所に待ち構えていそうな気がして、僕はため息をついたのだ。

―3―

 時間帯は夕方を回ったくらい。日没から一時間ほど経っている。僕はリリアが食べた後の皿を、離れの外にある水道で洗っていた。
この時期、昼間は暖かくても日が落ちると真水は少々冷たく感じる。袖が濡れないよう腕まくりをしたところに吹き込んでくる風が肌寒い。
食べかすなんてほとんどないくらいに綺麗にたいらげてくれているので、洗いやすくて助かるな。
一通り洗い終えたら軽く水を切り、倉庫に持っていく。壁に立てかけるようにして片付けると、忘れずに鍵を掛けた。
こうやっておけば明日の朝までには乾くだろう。本日二度目のリリアの食事も何とかやり終えることができた。
そう簡単にスムーズに行くはずもなく、滞りは割とあった。僕なりに工夫はしようとしていたんだけど、詰めが甘かったらしい。
 朝みたいにリリアに食事を待たせてしまうのは思わしくない。だったらあらかじめ倉庫で準備してから離れに入ればいいんだ。
そうすればリリアもすぐ食べられるし、僕も焦らずにすむし一石二鳥。やったね、と意気揚々と倉庫に向かったまでは良かった。
ただ、残念ながら朝は離れに皿を置きっぱなしにしてしまったため、結局彼女に急かされる羽目になってしまったのだが。
ついでに、皿は食事の後に洗っておいてほしい、夕食の準備に来るのが遅いからお腹減った、と色々小言も追加されてしまった。
僕としては出来る限り、リリアに不満や苛立ちを感じさせずに面倒を見られたらと思っている。だけど。
今僕にちゃんと出来ていることと言えば。決まった時間に来て、リリアにポケモンフーズをあげる。それくらいだった。
バイトとしてのノルマは達成できているが、それは本当に最低限のこと。やっぱりまだまだ細かいところで気が利いていないんだ。
とにかく、同じ失敗は繰り返さないようにしなければ。教訓は得た。明日はリリアを待たせることなく朝食の準備に取り掛かれるだろう。
さて。朝夕の食事は終えたものの、まだ散歩が残っている。都合のいい時にとリリアは言っていたけど。食後すぐでもいいのかな。
今から家に帰って夜遅くにまたここに来るのは手間だし。夕飯の準備とまとめて散歩も終わらせた方が効率がいい。まずは彼女に聞いてみよう。
服の袖を下ろしながら僕が離れに戻るとリリアがのそりと顔を上げた。床にはリリアが寝る用の大きな布団が敷かれている。
サザンドラともなるとかなり大きいので、人間が使う布団を二つ敷き詰めてなんとか収まっている感じだ。朝来たときは部屋を見回す余裕もなくて気がつかなかった。
食べた直後なのにすぐ横になってると体に良くないのにって思ったけど、ここだとそれ以外特にすることもないか。
一緒に居る他のポケモンがいれば退屈しないだろうに。この部屋の広さならあと何匹かはゆうに住めそうな感じはする。
ただ、ミネットさんから世話を頼まれたのはサザンドラだけだったので、彼女の手持ちはリリアだけなのだろう。
「あ、もしかして散歩?」
 僕が聞く前に言ってくれるなんて察しが早い。行きたくてうずうずしてたんだろうか。
考えてみればリリアは一日中部屋の中だもんなあ。外に出られる機会が散歩のときだけとなれば楽しみになるのも無理はない。
しかしサザンドラの散歩、といわれても全くイメージが湧かなかった。隣に並ばせて一緒に歩くんだろうか。それとも、後ろをついて来させるのか。
なんにせよ人通りの多い場所や時間帯だと目立つし邪魔になりそうで迂闊に出せそうになかった。自分の足元を歩かせられるヨーテリーやチョロネコとは違うのだ。
「うん。ミネットさんはどんな感じで行ってたのかな?」
「んー、良く行ってたのは公園ね。来る途中にあったでしょ。あそこなら広いし」
 なるほど。そこならここから自転車で五分くらいで行ける。僕も入ったことない公園だから興味はあったし、最初の散歩には無難な場所かもしれない。
「そっか、今日はそこでもいい?」
「いいわよ。今なら公園に人もいないでしょう」
 やっぱりリリアにも自覚はあるみたい。何しろサザンドラなのだ。人がたくさんいる公園に顔を出せばどうなるかくらいは彼女も分かっているのだろう。
僕も初見ではかなり肝をつぶしたわけだし、多少は慣れたにしても唐突に視界に入ってくるとどきりとしてしまう。
それくらいの迫力がリリアにはあった。彼女を外に連れていくなら日が落ちてからの方が差し支えがない。時間的にも今は丁度いいくらいか。
じゃあ行こうか、と扉を開こうとしてリリアのモンスターボールがなかったことに気がつく。
住宅街の道路で自転車の後ろにサザンドラを連れて走るのはいくら何でも非常識だ。
そうやって公園まで移動すればリリアにとってはいい運動にはなるかもしれないけれど。ボールから出すのは公園に着いてからにする。
「はい、これ」
 ボールはどこかなときょろきょろしていた僕に、いつの間に取り出したのかリリアは右側の頭に咥えていたモンスターボールを器用に投げてよこす。
サザンドラの両側の頭はほとんど手と同じような働きが出来るようだ。コントロールはしっかりしていてボールは僕の手の中に収まった。
ちょっぴり湿っていたのは気にしないことにしよう。口で咥えていたんだから仕方ないか。
それにしても、リリアは僕がどうしたいのかを判断するのが迅速だ。どちらかと言うと僕は顔に出やすいタイプだから、単に分かりやすいだけという可能性も捨てきれない。
あるいは散歩を心待ちにしていて、少しでも早く出発したいのかも。リリアが待たされるのが嫌いなのは承知している。さっさと出かけよう。
「じゃ、公園までよろしくね」
「分かった」
 僕はリリアにモンスターボールを向け、開閉スイッチを押す。小気味良い音がして、赤い光が彼女を包み込む。
やがて、彼女はボールの中に吸い込まれていった。スイッチ一つでサザンドラみたいに大きなポケモンでもきちんと収納されてしまう。
そんなモンスターボールの技術力に感心しつつ、僕は扉に鍵を掛けて離れを後にした。

 人の多そうな住宅街でも夜はしんとしていて、公園に向かう途中誰ともすれ違わなかった。僕は東側の入り口に自転車をとめる。
すぐ近くの看板に公園内への自転車の乗り入れは禁止する、と書かれてあった。夜ならまだしも、多くの子供が遊んでいる昼間だと確かに危険だ。
垣根の外からでも聞こえてきた昼間の賑やかさとは打って変わって、夜の公園は静寂に包まれていた。
子供達と戯れていたであろうジャングルジムやシーソー、ブランコもひっそりと眠りについている。無人の公園もなかなか風情があって悪くない。
中央にあるベンチまで歩いて行き、僕は腰を下ろす。今なら人目を気にすることなくリリアを外に出すことが出来そうだ。
僕は鞄にしまっていたモンスターボールを取りだして、開く。ボールから出たリリアはふわりと優雅に地面に降り立った。六つの黒い翼が揺れる。
大きな体の割にはサザンドラの足は小さくて少々頼りない印象を受ける。体を支えられるのは翼の浮力があるからなのか。
「んー、やっぱり外はいいわー」
 夜の空気を目一杯吸い込んでリリアは大きく伸びをした。リラックスしてもらえたようでなにより。ずっと屋内に居たんじゃつまらないし、体にも良くない。
一日一回の散歩は彼女の気分転換と健康管理を考えて、ミネットさんが僕に頼んだのだろう。リリアが留守中に退屈しきらないようにする配慮か。
「あ、散歩の時間ってどれくらいだろ?」
「私が満足するまで」
 当たり前でしょ、と言わんばかりに即答するリリア。えっ、と一瞬言葉を失った僕に彼女はくすくすと笑いながら真ん中の首を横に振った。
「なんてね、冗談よ。いつもは公園を大体一周したら戻ってるわ」
「そう……なんだ」
 何だか冗談には聞こえなかった。気が済むまで付き合わされるのも、リリアが相手ならばあり得そうに思えて。
別にこれは僕を試してるとか、そういうんじゃないと信じたいな。彼女がそう言ってるんだから公園一周するくらいを目安に帰ることにしよう。
この遊具がある東側を通り抜けて、西側の木々に囲まれた小道をぐるりと回って戻ってくる感じか。
「しばらくこの辺うろうろしたいし、西側に行きたくなったら声掛けるから」
 そう言い残して、リリアはふわふわと遊具の方へ行ってしまった。え、まさか。彼女がブランコとかで遊んだりは……しないよね。
ちらりとそんな考えが僕の頭を過ぎったが、もちろんそんなことはなく。リリアはただ単にジャングルジムやシーソーを眺めて楽しんでいる様子。
僕も昔は公園の遊具で遊んだ記憶がある。ジャングルジムにシーソーにブランコに。どこの公園にでもありそうな遊具。
それらに特別な思い入れがあるわけでもないし、僕は別段物珍しく感じたりはしなかったけれど。
ポケモンである彼女からすれば、その造形や仕組みに興味を惹かれる部分があるのかもしれない。
リリアが楽しめてるのならそれでいいんだけど。僕の方はこれと言ってすることもなく、何となく手持無沙汰だった。
ずっとベンチに座りっぱなしだったので、おもむろに立ち上がって公園を見渡してみた。今この公園の中に居るのは僕と、そしてリリアだけ。
こんなに広い空間が貸し切り状態だと、何だか自分が偉くなったような気分になる。何てったって僕は今サザンドラを連れてるんだからね。
仮に人がたくさんいたとしても。僕の背後にいるリリアを見た途端、皆がそそくさと道を譲ってくれる情景が目に浮かぶ。
と、無意味な優越感に浸ってみたり。僕がリリアを従えてるような空想描いてるなんて、彼女が知ったら怒るだろうなあ。
まあ口に出してないし、遠くて顔も見えないからリリアに分かりっこないはず。でもちょっとだけ気になった僕は、徘徊する彼女を目で追ってみる。
夜でも外灯がいくつかあるので公園内はうっすらと明るいものの、夜を感じさせる暗がりはしっかりと立ち込めている。
外灯の仄かな明かりにリリアが照らされている。黒を基調とした配色だからなのか、あるいは単純に悪タイプだからか。
暗闇の中にいるとその姿は良く映えた。暗がりで六つの赤い瞳が不気味に光る様は、否応なしに見た者を竦ませる気迫がある。けど、何だろう。
彼女の最初の恐ろしさを乗り越えられたからなのだろうか。ほんのりと照らされてつややかな光沢を放つ漆黒の毛並みに。
知らず知らずのうちに僕は見入ってしまっていた。これはサザンドラという種が持つ本来の美しさ、なのかなあ。
言うまでもなく、ミネットさんの手入れがきちんと行き届いていることは前提の話ではあるのだけれど。
「なあに、ウェイン。私のことじーっと見つめちゃって」
 呼びかけられて僕ははっと我にかえる。どうやらしばらくの間、リリアに視線が釘付けになっていたらしい。少なくとも、彼女が近づいてくるのに気付かなかったぐらいには。
「あ、いや……。リリアって綺麗なんだなって思って」
「あら、ようやく気付いてくれた? ふふ、ありがと」
 照れたり戸惑ったりする様子もなく。むしろこの答えが来るのを待っていたかのように、リリアは三つの口で満足げに笑った。
僕としても彼女の機嫌を取ろうだとかそんなつもりはなくて。心を打たれるくらい、綺麗と感じたから自分の気持ちを述べたまでのこと。
ただ、僕の発言でリリアが多少なりとも戸惑ったりしていたならば。案外可愛いところもあるんだな、と彼女の印象が変わっていたかもしれない。
そんな僕の考えをリリアが知る由もなく。遊具を見回るのも飽きたらしく、西側に行きましょうよと僕に提案してくる。
ま、この方がリリアらしい、なんて。会って一日も経ってない僕が思うのもおかしな話だけど。
照れてどぎまぎしたり、慌てふためいたりする彼女の姿はどうも想像できなかったのだ。
朝や夜の会話から判断すると、軸がちょっとやそっとじゃぶれなさそうで。それでこそリリアなのかな、と。心の中で苦笑しながら、僕は彼女と公園の西側に向かったのだった。

ウロさんからリリアちゃんの挿絵をいただきました。ありがとうございます!

―4―

 世間はミネットさんのように旅行に出かけたり、友達や家族と団らんしたりして過ごしているであろう三連休。その二日目の朝。
僕は三度、自転車に乗って彼女の家へと訪れていた。何もせずに家でだらだらしていると不規則な生活になってしまいがち。
バイトがあると早く起きなければならないために、生活リズムを保つのにも結構役立っている。
結局昨夜はリリアと公園の西側もがっつりと探索してから帰ったため、疲れて良く眠ることができた。
それに加えて一日二回、ミネットさんの家まで来ることで。片道十五分でも合計すれば一時間の自転車運動になる。
普段の休日と比べると僕はかなり健康的な生活がおくれていた。リリアと散歩すれば一緒に歩くことになるわけだし、僕の健康も促進されているんじゃなかろうか。
倉庫の鍵を開けて、立て掛けておいた皿を取りだしポケモンフーズを盛り付けていく。三回目ともなれば多少は手際よく進んでいるような。
先に準備しているのだから、少なくとも今朝の食事はリリアを待たせることなく済ませられる。
皿を重ねて離れの扉の前まで持っていき、一旦地面に置いてから鍵を開いた。
ぎしぎしいう扉は相変わらず。もうちょっと開きやすくしてほしい、なんてのは贅沢だろうな。何も僕がここに住むわけじゃないんだし。
部屋に入るとリリアの三つの頭が僕の方に向けられていた。昨日と違ってだらりと布団に寝そべっているようなことはない。
先に起きて僕が来るのを待っててくれたんだろうか。部屋に入らなくても倉庫での物音や足音で目が覚めていた可能性もあるけど。
「おはよう、リリア」
「おはよ。あら、準備がいいじゃない」
「まあ、三度目にもなれば」
「分かってきたのね。ささ、早く早く」
 うん。順調だ。昨日と違ってリリアの表情を険しくさせることなく進んでいる。むしろ感心してくれているような気さえするくらい。
やっぱり、あらかじめ食事の準備してから部屋に入ったのは正解だったみたいだ。僕は皿を順々に床へと置き、さっと素早く手を引っ込める。
「いただきまーす」
 リリアは盛られたポケモンフーズに一気に食いつく。今朝は食前の挨拶があったおかげで僕もちょっとだけ心の準備をすることができた。
何度か体験していても彼女に皿を差し出すときは緊張が走る。大きな口がぐっと迫ってくるから。怖さを克服するには時間が掛かりそう。
そう言えば、昨日はいただきますなんてなかったのに。いきなり顔を突き出してくるから僕もどきどきでかなり肝の冷える思いをした。
するときとしない時があるのはどうしてなんだろう。今日は僕の段取りがスムーズで気分が良かったから、なのかなあ。
リリアのことだし、そのときの機嫌が行動に反映されるのは結構ありそうだ。そう考えると、食事の前に挨拶をしたときは機嫌が良いとの見方もできる。
その憶測だけで彼女が僕の手際に満足してくれているかどうかを判断するのは短絡的だけど。目安として見ておくのも悪くないか。
「あーおいしかった。ごちそうさまー」
 と、僕が思案しているうちに。リリアは食事をすっかり平らげてしまっていた。相変わらずの早さ。皿の表面がつやつやに光ってるのは、余すところなく舐めたからだろう。
後でお皿を洗う僕からすると綺麗に食べてくれるのはありがたいんだけど。ポケモンとはいえ雌なのにその食べ方はちょっとどうなんだ。
「なあに、ウェイン?」
 いけないいけない。何か思うところがあるとついつい黙ってリリアの方を見てしまう。察しがいい彼女のこと。僕が何か言いたそうな顔をしていたら、すぐ分かるはず。
食事の仕方についてはトレーナーじゃない僕があれこれ言えるものでもないし。リリアだって指摘されていい気分はしないだろう。
あの上品そうなミネットさんが、リリアが皿を舐めていても何も言わないなんてちょっと考えにくいんだけどなあ。
それともいつもは出来ない分、口出ししないであろう僕の前では皿の隅々まで味わい尽くしているのかもしれない。
「何でもないよ。お皿、洗うね」
 そんなことを直接彼女に言ったり、聞いたりできるわけもなく。僕は食べ終わった食器を外に運び出すことで誤魔化すことに。
皿を積み重ねて入り口まで持っていき、扉を開こうと一旦床に置いたところでリリアに呼び止められた。
あれ、やっぱり気を悪くさせちゃってたのかなと、心配になってしまうのは僕が小心だからなのか。
生憎サザンドラ相手に常に堂々としてられるような度胸は、僕の場合どんなに訓練してもつきそうにない気がする。
「そういえばさあ。ウェインはポケモン持ってないの?」
 なんだ。そんなことか。変に緊張していた自分が馬鹿らしく思えてくる。今は連れて来てないけど僕にも手持ちはいた。
「持ってるけど。どうして?」
「今日の散歩のときでいいから、連れて来てくれないかな。他のポケモンも一緒だと散歩も面白くなりそうだし、ね?」
 要するに僕のポケモンと一緒に散歩がしたいってことか。リリアは良くても、サザンドラと散歩できると聞いて喜ぶポケモンがいるかどうか。
面白くなるのはリリアだけなんじゃないかなあ。自分が退屈しないから連れてきて、という主張も彼女らしいといえばそうなのだけど。
リリアは期待する眼差しで僕を見つめてくる。その六つの視線にはウェインはもちろん連れて来てくれるよねと、僕に対する訴えが込められていた。
連れてこないと後が怖い、とかそう言った圧力は全く感じなかった。むしろ、しおらしく頼み込むことで僕の承諾を得ようとしているような。
三つの頭を少しだけ前屈みにして、何度か瞬きをしながら。さすがはリリア。おねだりの手段もしっかり心得ている。
何だかこの時点で僕には断るという選択肢が残されていない気がして。そんな目で見つめられながら、無理だと言い切ることは僕には出来なかった。
たぶん彼女は僕の押しの弱さを知った上で頼んでるんだろう。これこそ悪タイプの名に恥じないリリアの狡さ、なんだろうか。
「いいけど……」
 と、結局頭を縦に振ってしまう僕。まあ無理難題を押しつけられてるわけじゃないし。僕の手持ちのエイドには少し頑張ってもらうことになりそうだ。
「連れてくるのが何のポケモンなのかは言わなくていいから。会ってからのお楽しみで」
「分かった」
「ああそれから、あなたのポケモンにも私がサザンドラだってこと教えないでね」
 エイドが何の種族なのかをリリアに伝えないのは、彼女が会った時の楽しみを増やすため。それは解せる。
最初から来るポケモンを知っているよりも、どんなポケモンが来るんだろうかと想いを馳せながら待っていた方が楽しみも増すというもの。
でも、エイドにリリアがサザンドラだと教えないで欲しいというのは。やっぱり彼女自身の外見を考慮してのことなのだろうか。
連れてくる前に拒否されたら確かに僕も困るけど。何の前置きもなしにいきなりサザンドラと対面させるのも気が咎めるんだよなあ。
「それは……来る前からリリアを怖がるかもしれないから?」
「まあそれもあるけど。最初から心の準備されてたらつまらないのよね。ウェインくらいの反応は欲しいかなー」
 くすくすと笑みを零すリリア。彼女の見た目に関わることだから控え目に聞いてみたんだけど、そんな気遣いは無用だったらしい。
きっとリリアはサザンドラを初めて目にした相手が驚いたり引き攣ったりする様子を見て退屈しのぎをしているのだろう。
驚く側だった僕としては、とてもじゃないけど良い趣味だとは思えない。ただ、口調からするとリリアは相手が驚くことを前提にして話を進めている気がする。
「リリアは怖がられるのは嫌じゃないの?」
「慣れちゃった。こういう姿してるとどうしてもねー。相手の反応を見て楽しめるくらいには心に余裕があるのよ」
 食事を早く出してほしいとせがんだり、妙に軽い言葉遣いだったりと、最終進化系にしては子供っぽさが残っていると感じていたリリア。
慣れたとリリアは言っていたが、そこに行きつくまでにはきっと僕の想像もつかないような苦労もきっとあったはず。
今の彼女はひどく落ちついていて、どことなく大人びたサザンドラを匂わせる表情をしていた。これも積み重ねてきた経験からくるものなのだろうか。
自分が怖がられる存在だということをあらかじめ承知して。悲観することなくそこから新たな楽しみを見出す、彼女らしい考え方だ。
「でもさ、最初に僕が怖がってた時は居心地悪いって……」
「そりゃあなたはしばらく私の世話をしてくれる人だし。ずっとあんな調子だと困るから、それくらいの心構えでいてよねってこと。もう結構慣れたでしょ?」
「おかげさまで」
 若干の苦笑を交えつつ僕は答える。初日に部屋に入るや否や迫ってこられたり、右手を呑みこまれたりしたときは本当にどうしようかと思ったけど。
何度も彼女と同じ空間で過ごすことでの順応は実感していた。暗闇から突拍子もなく飛び出したりしない限りは、リリアを見て悲鳴を上げはしないだろう。
「だから、変な心配しないでちゃんと連れて来てよね」
 リリアの心配はしなくていいのは分かったけど、僕が本当に気掛かりなのはエイドの方だったり。
ポケモンはトレーナーに似るって言うし、あいつにサザンドラを目の当たりにして堂々としていられる度胸があるとは想像しにくい。
まあ、今更断るわけにもいかないし。リリアに嫌な面白みを求められてしまっているようでちょっと気の毒だけど。エイドは何とかして連れてくることにしよう。
「分かった。でも僕の手持ち、そんなに肝が据わってないから悪ノリはしないでくれよ」
「ふふ、分かってるわ」
 きゅっと口元を吊り上げてリリアは笑う。さっきの風格ある顔つきはどこへやら。あどけなさの残るリリアに戻ってしまっている。
その笑い声が悪タイプの名に相応しい邪なものに感じられて仕方がなかったのは僕の気のせい。そういうことにした。

ウロさんから再び挿絵をいただきました。ありがとうございます!

―5―

 場所は昨日の公園。他にも散歩できるところはあるけれど、勝手が分かってる方がいいでしょうというリリアの提案で決定。
僕は東側に自転車をとめて薄暗くなった公園に足を踏み入れた。リリアの夕食の時間を少し早めたので、若干明るさが残っている気がする。
もし公園にそれなりに人が残っていたら、どこかで時間を潰してから来ることも考えていたのだが。幸い、人影は見当たらなかった。
ここからでは分かり辛い西側はともかく、東側はまたもや僕たちの貸し切りというわけか。今日も心おきなく散歩できるな。
僕は鞄からモンスターボールを二つ取り出す。一つはリリア、もう一つはエイドの方だ。まずはリリアのボールを開く。
同時に出してしまうと収集がつかなくなりそうな気がしたからだ。僕も心の準備をする時間くらいは欲しい。
ボールから出た彼女は早速辺りをきょろきょろと見回している。まだエイドはいないってば。そんなに会うのが楽しみなんだろうか。
「じゃあ早速だけど、ウェインのポケモンと会わせてくれる?」
「うん……」
 リリアの朝食の後、家に戻った僕が事情を説明して一緒に来てほしいと言うと、エイドはすんなりと引き受けてくれた。
他のポケモンと散歩するくらいならいいよ、と快く。相手がサザンドラだとは予想だにしてないであろう能天気な返事だった。
もちろんリリアに言われたように、僕からエイドに彼女の種族を伝えるようなことはしなかったけど。
重要なことを知っておきながら僕は教えていない。何だかエイドを騙しているように思えて。いざ、リリアの前に出すとなると思い切りがつかずにいたのだ。
「大丈夫、無闇に驚かしたりはしないから」
 僕の気が進まずにいるのを見て、そっと後押しするように彼女は囁いた。確かに今のところ、リリアは冗談は言っても嘘を言うようなことはなかった。
エイドが本気で怖がったとしても、そこに付け込んでおどかすような真似はしないはず。リリアを信じて、僕はボールの開閉スイッチを押した。
赤い光がエイドの体を形作っていく。夜でもはっきりと分かる不思議な光。やがて、エイドの姿が露わになった。
青と水色。寒色を基本とした体は涼しげな印象を受ける。腰の周りの青いひらひらはスカートを履いているようにも見えるが、れっきとした雄だ。
そのひらひらの両側には貝殻の形をしたホタチと呼ばれるものが付いている。フタチマルである彼にとっては大切な武器。
ただ、僕はあまりポケモンバトルをしないので、彼のホタチが日の目を見ることは少なかったり。
丸くてつぶらな瞳をしているが、その目つきはきりっとしており鋭さを感じさせて……いた。目前に浮かぶサザンドラを見るまでは。
「なっ、あっ、ええっ?」
 目を大きく見開き、徐々に後ずさりを始めるエイド。もともと青い彼の顔が若干青ざめているようにさえ見えた。
きっとエイドは自分と同程度の大きさのポケモンを想像していたはずだ。一緒に散歩というぐらいだから、並んで歩けるようなイメージを抱いて。
しかし出てきたのはフタチマルよりもずっとずっと大きなサザンドラ。予想の斜め上を遥かに越える衝撃の事実。
そして何よりエイドは僕のポケモンだ。そのまま何事もなかったかのように、笑顔でよろしくと言えるような度胸は備わっているはずもなく。
「うわあっ!」
 案の定、小さく悲鳴を上げて僕の後ろに隠れるエイド。僕の腰の辺りから恐る恐る顔だけ出して、リリアの様子を窺っている。
本当に怖いなら目を反らせばいいのに、どうやら彼の中にも怖いもの見たさのような感情が備わっているらしい。こういうところも僕と似た者同士だ。
足を指先で軽くつつかれたのでエイドの方に目をやると、恨めしげな顔つきで僕を見上げてくる。悪いことしちゃったよなあやっぱり。
「聞いてないんだけど」
「ちょっと事情があって、言えなかった」
「ひどい」
「ごめん。でも、僕が大丈夫なんだからそんなに怖いポケモンじゃないよ。ほら、挨拶してみたらどうだい」
 僕自身のことを引き合いに出すのはちょっと情けないような気もしたけど、これが一番エイドを納得させられる方法なんじゃないだろうか。
彼も僕がどんな性格かは心得てくれているはずだし。エイドを前に出て行くよう促しながら、心配ないよの意味も含めて僕は微笑む。
リリアと僕の顔を交互に見つつ渋い顔をしていたエイドだったけど、心を決めたらしくそろりそろりと彼女の前へと踏み出していく。
思っていたよりもエイドはあっさりと応じてくれた。ありがたいことなんだけど、何だか素直に喜べない僕がいる。
普段の僕はエイドの目にそんなに頼りなく映っているんだろうか。もちろん、彼が僕を信頼してくれての行動だろうから嬉しい気持ちの方が大きいんだけどね。
「え、えっと。俺はエイド……よ、よろしく」
 随分とたどたどしい挨拶だ。いくら僕でも初対面の時の自己紹介くらいはすらすら言えたぞ……と、エイドと張り合っていても仕方ないか。
こうやって傍観者的な立場でいられるのは慣れていたおかげだ。僕だって最初は倉庫の鍵を持つ手が震えてしまうくらいあたふたしたのだから。
そんなことを考えながら、僕はリリアの方に視線を移す。きっと彼女はエイドの反応を見て、控え目に笑っているものだとばかり思っていた。
だけど、リリアの顔つきは僕が予想していたものと違っていた。エイドに自己紹介されて、ひどく驚いたように目を丸くしている。
そんな表情のリリアを見るのは初めてだ。でも、一体何に対して驚いてるんだろう。まさかフタチマルが怖いなんてことはないだろうし。
「あ……私はリリアよ。よろしくね、エイド」
 ふっと我にかえったかのように挨拶を交わすリリア。彼女の返事が上の空だと感じたのは最初だけで、あとは滞りなく喋っている。
極力エイドを怖がらせないためか、口調は心なしか大人しめ。気遣いが出来る余裕はあるみたいだ。
フタチマルという種族が苦手なわけでもなさそうだし。さっきのリリアは何だったんだろうなあ。
「あなたのこと怖がらせるつもりはないから、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「分かった……」
 エイドも少しは落ちついたらしく、やや顔つきは硬かったものの小さく頷いた。リリアの声を聞いて若干ながら表情が和らいでいる。
彼が必要以上に緊張していたのも、自己紹介を始めるまでリリアが無言だったというのが大きいだろう。
初めて会う相手の表情だけで何を考えているのか察するのは至難の業。まずは声を聞くことで相手がどんな雰囲気なのかを推し量ることができる。
リリアの場合喋ってみると案外口調が柔らく、声も雌のものであるため相手の緊張がほぐれる可能性は十分に考えられた。
現に僕は最初にあの部屋の壁際でリリアの声を聞いたとき、少なからずほっとしたのだ。そんなに怖いポケモンじゃなさそうでよかった、と。
「エイドはこの公園初めてだろうし、一緒に見て回らない? 案内するわ」
「あ、うん」
 リリアに返事はしたけれども、ちらちらと僕の方に視線を送ってくるエイド。いきなり彼女と自分だけだと気まずいから、僕に一緒に来て欲しいらしい。
昨日と同じように僕はベンチで待っていてもよかったんだけど。リリアと一緒に楽しんでおいで、と強張っているエイドの背中を押すのも酷な話か。
僕とリリアばかり話してたんじゃエイドが来た意味がないから、あくまで会話が止まってしまった時の仲介役のつもりでいることにしよう。
彼女らの様子に気を配りつつ、僕は適当にぶらぶらして公園の遊具で懐かしさに浸るのも悪くなさそうだ。
「行こ、エイド」
 背中の翼をさっと羽ばたかせて遊具の方に向かって進み始めるリリア。もし彼女に手があれば、エイドの手を引いて行っていたことだろう。
一緒に歩み出せばよかったのに、ふんぎりがつかなかったのか。まだエイドはすっきりしない表情で僕を見てくる。そんなに不安がらなくても大丈夫だって。
「ちゃんといるから、な?」
 僕の前にはリリアとエイドを並んで進ませて、少し後ろを僕はついていく。エイドの隣に居るのはリリアだから、必然的に会話は生まれるはず。
我ながら中々の考案だ。このフォーメーションに観念したらしくエイドは小さく肩を竦めて頷くと、彼女と並んで歩きだした。
リリアの方が進む速度が微妙に速いらしく、時折思い出したかのように歩みを速める彼の背中が何だか健気。
エイドや僕と違ってリリアは浮いてるし、細かい部分での調整は難しかったりするのかな。
サザンドラの隣にフタチマルというのも何だか妙な組み合わせだ。体格に差があるので結構な凸凹コンビに見える。
もしもエイドがダイケンキに進化して貫禄が付けば、ある程度バランスは取れそうな気はするけど。
「……へえー、そうなんだ」
 エイドに相槌を打ったリリアが僕をちらりと見た後、再び彼へと視線を戻す。どうやら僕のことが話題に出ていたようだ。
付き合いも長いから、彼との思い出話は幾つもあるけど。あんまり変なことをリリアに話してくれるなよ。
まあ、さっきリリアから僕に向けられた目つきはいつもと同じ雰囲気のものだったから、ひとまずは大丈夫そう。
何だかんだでエイドもリリアと目を合わせて話が出来ているようだし、多少は打ち解けられたんじゃなかろうか。
会話に少し耳を傾けてみたところ、リリアの方から積極的に話しかけてくれてるようなので、無言の時間が流れる心配はしなくていいかな。
それに答えるエイドも表情を引き攣らせることなく、自然に受け答えが出来ている。時折笑顔も交えており、リリアとの交流は満更でもなさそうだ。
僕が足を止めたのにも関わらず、二匹はそのまま遊具の方へ向かってしまった。この調子なら僕が間を取り持たなくても問題ない。
ただ、ちょっとだけ引っかかっているのはエイドと対面したときのリリアの表情。あんな顔した彼女は初めてだったため、印象に残ってしまっている。
遠目にリリアを見た感じでは、何事もなかったかのようにエイドとのふれあいを楽しんでいる模様。
穏やか笑う彼女にぎこちなさは微塵も現れていなかった。あれは見間違いで、気のせいだったと言われても納得してしまいそうなくらいに。
腑に落ちないものがありはしたが、今リリアに問いただすようなものでもないな。とりあえずは、親睦を深めていく彼女らを僕はそっと見守ることにした。

ウロさんからまたまた挿絵をいただきました。ありがとうございます。

 ―6―

 辺りはもう完全に日が落ちて真っ暗。住宅街の外れは街灯も等間隔ではなく、ぽつぽつとまばらに灯っている程度。
場所によってはほとんど足元が見えない。自転車のライトにこの上ないありがたみを感じる瞬間だった。
散歩の手順は昨日と同じ。東側をぐるりと一通り回ってから西側に。今日はリリアとエイドのペースを優先させて、東側にも時間を掛けた。
遅くなったのが幸いしたらしく、結局西側でも誰ともすれ違わず。またもや公園は僕らの貸し切りだったらしい。
西側の小道でももちろん、間で会話を交えての散歩だったため必然的に歩く速度は遅くなる。おかげでかなり時間が掛かってしまった。
やっぱり誰かが新しく加わるだけで、会話量は全然違ってくるもの。歩いている間、昨日よりは随分と口を動かしている時間が長かった気がする。
さて、着いた。自転車をとめ、部屋の鍵を開けて電気を付ける。リリアがどんな家に住んでるのか見てみたいって言ってたし、エイドも出してやるか。
鞄からモンスターボールを取りだすと、僕は同時に開いた。会話するうちにエイドもすっかりリリアと打ち解けてたし、もう驚かせてしまう心配はない。
ボールから出たエイドは何度か目をぱちぱちとさせて僕と、隣にいるリリアの顔を見る。ここがどこなのか何となく察してはいるけど、それでもまだ信じられないらしい。
「ここが私の部屋よ」
「……すげえ」
 ぽかんと口を開けて辺りをぐるりと見回すエイド。ここまで大きな家だってことは知らなかったんだし、無理もないか。
公園でリリアがどんな家に住んでるのか、エイドがちらっと話題には出していたのだが。きっと彼を驚かせたかったのだろう。
来てみれば分かるんじゃない、とリリアは曖昧な返事しかしていなかった。僕もその流れを汲み取って直接は伝えずにエイドをここに連れてきたわけで。
「へ、部屋の奥まで行ってみてもいい?」
「ええ、いいわよ」
 リリアの返事を聞くや否や、エイドは勢いよく駆け出した。慌てていたのらしく、何度か躓きそうになりながら。
あんまりはしゃぎすぎるなよ、という僕の忠告に彼は分かってるって、と調子のいい返事をする。何か壊したり、壁や床に傷を付けたりとかは勘弁してくれよ。
この離れは僕らの住んでいるアパートの一室がすっぽりと収まってしまうくらいの広さはあるし、エイドのテンションが上がるのも頷けなくはない。
ほんの一時間くらい前までがちがちに緊張してたのは一体どこのフタチマルなのやら。打ち解けすぎて逆に遠慮がなくなっちゃうのも問題だな。
リリアに失礼なこと言ったりしないといいけど、と僕は隣にいる彼女に目をやる。
部屋の奥できょろきょろとせわしなく動き回るエイドを見て、リリアは目を細めていた。
時折ふふと小さく笑い声が混じる。その瞳はとても温かくて、まるで自分の弟を見守る姉のよう。
やんちゃな彼に母性本能をくすぐられる部分があるのだろうか。とりあえず、少々羽目を外し気味なエイドに苦い顔をしている様子もなさそうで安心した。
「これって、リリアの布団?」
 ふと見ると、部屋の奥も一通り確認し終えたのかエイドは中央付近まで戻ってきていた。そこで立ち止まって二つ敷かれた布団をじっと眺めている。
何度か触ろうとして手を伸ばしては引っ込めている。余所の家のものだし勝手に触っていいものか躊躇いがあるのだろう。
さすがにリリアの部屋の布団にいきなり寝転がれるほどエイドの神経は太くない。僕が断言できる。
「ええ、そうだけど。気になるの?」
「うん。家にあるやつより大きくて柔らかそうだし」
 小さくて堅めの布団で悪かったな、と僕は心の中でエイドに突っ込みを入れる。アパート住まいの僕と、離れも付いた豪華な家に住んでいるリリア。
どちらの布団の質がいいかだなんて比べるのは野暮というもの。そもそもうちにはエイド用の布団なんてない。基本的に夜はボールの中で休ませている。
彼がミジュマルの頃には割と一緒の布団で寝たりしたこともあったけど。フタチマルに進化してからは、スペースの問題もあって数える程しかない。
それにも関わらず、エイドが話題に出してきたということは、昔寝た布団の感触を今も覚えているからなのだろう。
僕と一緒に寝ていたことを記憶に留めていてくれて嬉しい反面、こんなところで引き合いに出さなくても、と何となく複雑な気分だ。
「比べてみる?」
「うんっ!」
 一旦リリアの承諾があるとお構いなしに。エイドは勢いよく布団の上にダイビングした。リリアは敷き布団しか使ってないらしく掛け布団は見当たらない。
それでも十分な弾力を持ち合わせた敷き布団は、ぼふりと音を立てて彼の体を包み込む。ううむ、確かに僕のよりもずっと良さそうな雰囲気だ。
うちでそんなことをやったら床に頭をぶつけて痛い思いをするだけだ。大した厚みはないのですぐに感触が布団から床へと貫通してしまう。
「すげえ、ふかふかだー」
 顔を埋めたままのエイドのくぐもった声が聞こえてくる。かなり心地よいらしくすっかり布団の海に呑まれてしまっているようだ。
気持ちよさそうに左右ごろごろと転がって。リリアでも余裕のある広さだからエイドにとってはとんでもない贅沢だろう。
「気に入ってくれたみたいね」
「最高だよ」
 ごろりと仰向けになったままエイドは言う。我が物顔で腕を頭の後ろで組んで、目まで閉じてしまった。
ここがリリアの部屋だと言うことを忘れてないだろうか。いくらなんでも寛ぎすぎじゃないだろうかという危惧がちらりと僕の頭を掠めたけど。
リリアも良いと言ってくれてるみたいだし、短い間だけその柔らかさを堪能するくらいなら注意を促す必要もないかな。
「エイドとはよく一緒に寝てるの?」
「昔は結構一緒だったけど、フタチマルになってからはあんまり。さすがに狭くなっちゃって」
 朝起きたらお互いに体半分が布団の外にはみ出していたことを思い出して、苦笑しながら僕は答える。
体がぶつからないように寝返りをうっている間にそうなってしまったらしい。
もちろんそれで快適な睡眠が取れるはずもなく。僕もエイドも別々に寝た方が良いよねという結論に落ち着いたのだ。
リリアの布団くらい大きければ一緒に寝られそうだけど、僕の家にそれを導入するのはなかなか難しい。
と、僕とリリアが少し目を離した隙に。布団の上から小さな寝息が聞こえ始めた。仰向けになった時からどことなく予感はしていたけど、案の定。
そっと足音を忍ばせて布団まで近づくと、僕はエイドを覗き込む。それとほぼ同時に横からぬっとリリアの頭が伸びてきた。
今になって彼女と間近で顔を合わせても怯むことはなかったけど。どうしたんだろうと僕が横目で見ても、リリアの瞳にはエイドしか映っていない。
「くー……」
 布団があまりにも快適だったのか、あるいは公園の散歩で疲れていたからなのか。随分と幸せそうな表情でエイドはすやすやと眠っている。
彼と息が触れ合いそうになるくらいまで顔を近づけると、リリアは小さく笑みを零す。そんなにエイドの寝顔が魅力的だったんだろうか。
「可愛い寝顔ね」
「寝顔はね」
 確かにこうやって眠っているエイドは文句なしに可愛いと思っている。ただ、起きているときもそうかと聞かれれば。
何の躊躇いもなく肯定はし辛いものがあった。長く一緒に暮らしてるとお互いの意見が衝突してしまうことだってあるし。
エイドもああ見えてなかなか口の減らないところがあって、遠慮のない物言いに苛立ちを覚えたことは少なくないのだ。 
「喧嘩することもある?」
「そりゃまあ。時々だけど」
 どうして言い争うことになったのか、今となってはあんまり覚えていなかった。喧嘩の原因なんて得てしてそんな感じだ。
きっと思い出すと馬鹿らしくなってしまうくらい、くだらない些細な理由が大半なんじゃないだろうか。
一緒にいて良かったと思うこともあれば、時にはぶつかり合ってしまうこともあって。ポケモンに限らずとも、誰かと共に過ごすのはそういうことだと僕は思っている。
「さてと、長居しちゃったね。そろそろ帰るよ」
「分かったわ」
 明日の朝もあるから寝坊はできない。エイドにリリアの家を見せたらすぐ帰るつもりだったのに、思ったよりも長い見学になってしまった。
エイドがあまりにもはしゃぐものだから、やれやれだ。でも、そんな非難の気持ちは彼の寝顔の前では何の効果もなくて。
ぐっすりと眠ってるみたいだから、起こすのも可哀想だよねとか思ってしまったり。僕はボールを取り出すと、そっと彼を戻すのだった。
そして、僕も部屋から出ようと入り口の扉に向かおうとしたところで、ふいにリリアに呼び止められたのだ。
「ねえ」
「ん?」
「エイドのこと、大事?」
 いきなり何を言い出すんだろう。突拍子もない質問に僕は面食らってしまった。聞くこと自体が野暮なことのような気がするのだが。
そりゃあ喧嘩しちゃうことだってあるけど、エイドは僕のパートナー。ミジュマルの頃からの付き合いだし、大事に決まってる。
「大事だよ。突然どうしたの?」
「ううん、なんでもない。彼のこと、大切にしてあげてね……」
 控えめに小さく首を横に振ると、リリアはふっと笑った。
だけどその笑顔は僕が今まで見てきた自信たっぷりのほくそ笑みや、穏やかな微笑みではなく。
少しでも風が吹けば途端にかき消えてしまいそうな、そんな儚げな笑み。リリアの姿がこんなにも弱々しく僕の目に映ったのは初めてで。
そのまま何事もなかったかのように扉を開けて帰ることは、どうしてもできなかった。
やっぱりエイドを見てからリリアの様子がおかしい。公園での表情も見間違いなんかじゃなかったんだ。
「あのさ……どうかしたの。公園でエイドと会ってから、なんか変だよ?」
 僕の問いかけにリリアは口を開くことはなく。沈黙を保ったままくるりと背を向けると、布団の上に蹲ってしまった。
自分から話を振っておきながらそりゃないだろうと思いもしたけど、僕がしつこく尋ねてみたところで邪険に扱われるのは目に見えている。
リリアは話したくなさそうな様子だし。むやみに詮索はしない方がよさそうだ。思わせぶりな態度を取ったのも多分事情があったから、かな。
本人が話したくなったら、その時に聞けばいい。とは言ってもあと一日しかないから、聞けたらいいなくらいの心持ちで。
そう僕が諦めて扉に手を掛けたとき、寝そべっていたリリアが顔を上げたのだろうか。布の擦れるような音がした。
「もし明日の朝一人で来てくれたら、そのときに話してあげる」
「……分かった」
 一人で、というのが少し引っかかった。正直どんな内容なのかは想像もつかない。だけど、彼女が話してくれるなら僕は聞きたいと思う。
明日の朝。エイドには悪いけど家で待っていてもらうことになるかな。黙って扉を閉めて施錠すると、僕は離れをあとにした。

ウロさんから挿絵をいただきました。ありがとうございます。

 ―7―

 三日目の朝にもなると、さすがに勝手も分かってきて。お皿にポケモンフーズを盛り付ける手際も良くなってきた気がする。
最初からこれくらい要領良く出来ていたならリリアにじれったい思いをさせることもなかったかな、なんて。最終日にそんなことを思っても仕方ない。
「おはよう」
 離れの扉を開いて、僕はリリアに声を掛ける。布団の上に寝そべっていた彼女はすっと顔を上げて僕の方に視線を移した。
寝ぼけている顔つきじゃない。大きく開かれた赤い瞳は僕を吟味しているかのように、遠くからでも纏わりついてくる。
きっと彼女はかなり前から起きていて、僕が昨日の言葉を守っているかどうか確かめているのだろう。でも、まずは朝ごはんにしないと。
「はい」
「ありがとう……いただきます」
 お皿を床に置いてから、リリアが口を付けるまで少し間があった。一昨日や昨日みたいに食事にがっついてこないのはそれだけリリアが真剣だからか。
真ん中の頭も左右の頭も、しっかりと食べてはいる。思い悩むあまり食欲がなくなったりとかそういう心配はしなくてよさそう。
だけどこれまで感じてきた、見ていると無意識のうちに身を退いてしまいそうになるような。食事に対する勢いが今日は、なかった。
おそらくこれが一般的なポケモンの食事の仕方のはず。ただ、僕の場合は普段のリリアの食事風景を見慣れてしまったせいか、何だか物足りなさを感じてしまう。
せっかくリリアが真面目な雰囲気になってるときに、こんな風に思うのは失礼かもしれないけどね。
「ごちそうさま」
 もう食べ終えたらしい。気迫がないだけでポケモンフーズを食べる速度は変わっていないのか。どの皿も僕の顔が映りそうなくらい丁寧に舐めつくされている。
知らぬ間に施されている見事な早業。そこはいつも通りのリリアでちょっとだけ安心した。お皿を下げて、洗いにいこうとした僕に彼女が一言。
「約束通り一人で来てくれたのね」
「うん。エイドは……たぶんまだ布団の上で寝てると思う」
 昨日帰ってから久々に一緒に寝てみようかなとエイドをボールから出してみたものの。相変わらず眠っていたので、結局何も話すこともなく。
寝っぱなしのエイドを隣に自分も寝るというおかしな状況になってしまった。あれだと狭いだけで一人で寝るのと大して変わらなかったりする。
そして朝になってもまだ彼は眠っていたのでボールに戻さずそのまま置いてきたのだ。一応リリアの所に行ってくる、と机の上にメモは残してきた。
エイドが目を覚ましたら、昨日の豪華な柔らかい布団ではなく安物の薄っぺらい布団に戻っていてさぞかしがっかりすることだろう。
「そう、よく眠れたみたいね」
 心地良さそうに眠っていたエイドの姿が思い浮かんだのか、リリアはふっと微笑む。
部屋に入ったときからどこか強張っていた彼女の表情が初めて穏やかになった瞬間だった。
「それで、昨日の話なんだけど」
 やはりその笑顔は長くは続かず。すぐにまた真剣味を帯びた顔つきになる。こうやってにこやかでないサザンドラにじっと見つめられると。
相手がリリアだと分かっていても緊張してしまう僕がいた。口の中が乾いて、手のひらが汗ばんでくるような気さえしてくる。
彼女が抱えていたものを僕にうち明けてくれる。大事な場面だよなと意識すると、尚更に。
「私を連れて行ってほしい場所があるの。話もそこで聞いてもらいたいから。朝から散歩になっちゃうけど、いい?」
「え……ああ、時間なら大丈夫だよ。でも、どこに?」
 てっきり今ここで話してくれるものだとばかり思っていた僕は拍子抜けしつつも、少しほっとしていた。
もちろん彼女の話に興味があって、今朝一人で来たわけだけど。まだ心の準備とかそういうのが出来てなかった面もある。
これまでのリリアの顔つきや様子からしても、面白味のあるような話ではなさそうだと僕も薄々感づいていたからだ。
「そうね。まずはお皿を洗って、それからがいいかしら。変な所で呼びとめちゃってごめんね」
「あ、そうだね。洗ってくるよ」
 言われてようやく食べた後のお皿を重ねて抱えたままだったことに気がつく。リリアの顔ばかり見ていて自分の手元に意識がなかった。
話をするのがここじゃなくても、重要な話を聞く姿勢とは程遠い。早いところ洗ってしまおう。僕は半ば駆け足になりながら部屋の外に向かったのだ。

 まだ時間帯は午前中、朝と呼べる範疇だった。リリアのボールを鞄の中にしまい、僕は自転車を走らせていた。
ミネットさんの家の前の道路を公園に向かうときとは反対方向に。リリアが言うには目的の場所までは一本道で迷子になる心配はないらしい。
ただちょっと時間はかかるかもしれない、と。出発してから十分経ったぐらいだけど、まだ目的地らしきものは見えてこなかった。
更に進むと周囲の家はますますまばらになって、ぽつぽつ見えていた畑の中にも全く手入れされていない荒地が混ざりはじめる。
道はやや狭くなりついには上り坂まで顔を覗かせ始めた。ぱっと見は緩やかでも自転車にはなかなかきつい傾斜。
ハンドルを握りしめて、サドルから立ってこぎながら僕は必死で坂道を上っていく。諦めて自転車を押していくのとどっちが早かっただろう。
両側の斜面には畑どころか荒地すら見えなくなって、山の斜面を思わせる硬そうな葉を携えた草や背の低い木々が立ち並んできた。
本当にこっちで合ってるんだろうかと不安が頭を掠めたが、リリアに言われた通り一度も僕は曲がらずに進んでいる。間違ってはいない、はず。
しかし体力もそろそろ限界になってきた。胸が締め付けられるように苦しい。膝ががくがくと震えていて。額から頬を伝って汗が流れ落ちていく。
もうこぐのは諦めて押して進もうか、と僕が再び思い始めたのとほぼ同時に。目の前がぱっと開けて、平らな地面が自転車の車輪を飲みこんだ。
舗装こそされていなかったけど、平坦な土地がどれだけありがたいか。坂を上ってきた僕にはむき出しの大地の凹凸なんて大した問題じゃなかった。
自転車を投げ出すようにして留めると、ちょうど近くにあったベンチに僕はどかりと座り込んでぜえぜえと肩で息をする。
心臓の鼓動がびっくりするくらい早い。こんなに息も絶え絶えになるまで運動したのは、本当に久しぶりだ。想像以上に坂道が長かった気がする。
素直に自転車を下りて進んでいればこんなに疲れなかったのかもしれないが、ひとまずそれは置いといて。
おそらく、リリアの言っていた目的地と言うのはここのことなんだろう。ミネットさんの家から自転車で二十分ぐらいだろうか。
僕が来た道から向かって正面と左手側は木々と草々の折り重なった深い茂みになっていてとても歩いて通れそうにない。
この広場には特に何かがあるようには見えないし、となると。唯一、右手側だけは奥に続く広めの道がある。あっちだろうか。
着いたら外に出してくれていい。あそこは人通りがほとんどないから大丈夫、というリリアの言葉通り。明るいのに人影は全く見当たらなかった。
僕一人で思案を巡らせていても埒が明かないし、とりあえず彼女をボールから出して確認した方がよさそうだ。
だいぶ息も落ち着いてきた。ベンチから立ちあがると、僕は鞄から取り出したモンスターボールの開閉スイッチを押す。
「ここで合ってる?」
 ボールから出た彼女はきょろきょろと辺りを見回し、やがて僕の方に向き直ると真ん中の頭をゆっくりと縦に振った。
よかった。一本道だから迷う要素なんてなかったんだけど、初めて通る道だ。だんだん細くなってくると不安にもなってくる。
「ウェイン、ついてきて」
 リリアは右手側にあった道を進み始める。僕も彼女の後に続いた。まだ膝は少し痛かったけど、平らな道だから負担は大したことない。
途中何度か階段はあったものの、ほんの数段で疲れはしなかった。人気のない山道にしては幅が広く、随分と歩きやすい。
所々で道脇の草が刈り取られた跡が残っている。誰かが手入れしている、つまりこの道には需要があるということなのか。
その割には誰ともすれ違わないのはおかしな感じがする。リリアは僕をどこへ案内するつもりなんだろう。
「着いたわ」
「え、ここって……」
 歩き始めて数分経ったくらいか。ぴたりと止まるリリア。僕の目の前に広がってきたのは等間隔で並んでいる灰色の石。
最近作られたらしい表面につやのあるもの、古くからそこにあることを匂わせる苔むしたものなど様々だった。
そして、いくつかの石の前には綺麗な花が添えられていて。どう考えてもここはお墓、だよね。
確かにお墓への道なら、人通りは少なくても手入れは必要になる。ここまで来る道が妙に整備されていたことに、僕はようやく合点がいった。
墓石に彫られた文字を見る限り、人間ではなくポケモンが眠っている墓地らしい。
「エイドね、昔私と一緒に暮らしてたダイケンキに何となく似てたのよ」
 僕に背中を向けたまま、リリアは話し始めた。その間も少しずつ墓地の奥へと進んでいく。
黙ったまま僕は足を踏み出す。置いて行かれないよう、話を聞き洩らさないように。彼女の速度に合わせて、ゆっくりと。
「私が最初に会ったのはモノズのときで、彼もまだフタチマルの頃だった。初めて見る私のことが怖かったのか昨日のエイドみたいに、ミネットの後ろに隠れてたわ」
 個体は違っても似たような性格のフタチマルはいるらしい。まあエイドも極端に怖がりってわけじゃないし、少し度胸がない程度なら他にも居そうな雰囲気はある。
「そのダイケンキも、ちょっと臆病だった?」
「そうね。私は驚かすつもりなんて全然なかったのに、どこか挙動不審でびくびくしてた。でも、話をするうちにすぐに打ち解けて……」
 彼女が言い淀むのと、とあるお墓の前でぴたりと止まるのとがほぼ同じタイミングだった。墓石に彫られた名前はグレイ、だろうか。
ポケモンのお墓を見るのは初めてだったけど、どうやらニックネームが上で種族名は下に来るらしい。そして、下に彫られた名前は――――。
リリアの話に出てきたダイケンキがどうなったのか。物言わぬ墓石が全てを語ってくれた。
この場所に案内されて、リリアがダイケンキを話題に出したときから何となく予想はしていたものの。いざ直面すると、その真実が僕の心にずっしりと圧し掛かる。
「エイドを見てると、元気だった頃の彼をどうしても思い出しちゃってね」
 エイドと会ってからリリアの様子がおかしかったのは、彼が昔の仲間に似ていたから。
リリアが僕一人で来るように言ったのは彼女なりの配慮だったのだろう。この事実はエイドは知らなくていい。
少なくともエイドを前にして話すようなことではない。過去の事情を配慮してリリアに接することができる程、彼は器用じゃないはずだ。
伝えられたところでどうしていいか分からずに当惑する彼の姿が目に浮かぶ。当人でない僕でさえ、予想だにしなかった事実に困惑しているのだから。
「なんか、ごめん。僕がエイドを連れてきたばっかりに……」
「ううん、頼んだのは私だもの。ウェインは悪くない」
 そう、きっとこれは誰が悪くて誰が悪くないか、そういう問題じゃない。偶然が呼び起こした出来事。
考えもなくその場しのぎの謝罪なんて、何の意味もなさないと分かっていながらも。僕は彼女に何か言葉を掛けずにはいられなかった。
「そのダイケンキ……グレイに何か、あったの?」
「事故とか不治の病とかじゃない。彼は持って生まれた命を全うしたわ」
 となると寿命、か。生きている限りは誰であれ必ず死は訪れる。正直僕はまだそんなことを意識する機会は少なかった、いや。あまり考えないようにしてたのかな。
もし僕が突然エイドと別れることになったら。辛くて、寂しくて、悲しくて。いてもたっても居られなくなる。心が張り裂けてしまいそうになる。
想像することしか僕には出来なかったけど、グレイを失ったときのリリアの苦しみは計り知れないものだったと思う。
「私たちの種族はね、他のポケモンに比べて成長するのがかなり遅いの。それに、私がミネットの手持ちになったのはグレイより後だったし。
そのせいもあって、私がようやくサザンドラに進化できた頃には彼は人間で言うとお爺さんくらいの年齢で……仕方なかったのよ」
 ドラゴンタイプは基本的に寿命が長いと小耳に挟んだことは僕にもあった。誰しも生まれてからの時間は同じように進んでいく。
僕もリリアも一年経てば一歳年を取るのは一緒。でも、それぞれの体の中の時計は同じ時間を刻むとは限らない。
その差は生まれ持ったもの、どう足掻いたって埋められるものじゃない。サザンドラとダイケンキでは年をとる速度が違っていたのだ。
「エイドが私の部屋に入ってきたとき、一緒に暮らしてた頃のグレイに重なって見えて……そしたら突然懐かしい気持ちがこみ上げてきて、自分でも何が何だかよく分からなくなって」
「あ……」
 そうか。無意識のうちに僕は声を漏らしていた。リリアはグレイと、あの離れにグレイと一緒に住んでいたんだ。
最初あの部屋に入ったとき、サザンドラが住むにしてもそれでもまだ広いな、と僕が感じたのは。かつてはダイケンキも一緒にいた部屋だったから。
昔共に過ごしたグレイの姿や仕草を彷彿とさせるエイドを前にして、リリアは動揺を隠せずにはいられなかったのだろう。
同じ時間をこんなにも近くで長く過ごしていたのなら尚更のこと。グレイに対する思い入れはずっとずっと強かったに違いない。
「ごめん……なんであなたにこんな話してるんだろ。喚いたってどうしようもないことなのに、ね」
 グレイのお墓を前にして、リリアは項垂れる。山の木々が風でざわめく音に飲みこまれてしまいそうな弱々しい声。
今朝、話が聞きたくて一人で来たのは僕の方だ。リリアが謝るようなことじゃない。だけど、それを伝えるだけじゃ何も変わらない気がして。
僕が今リリアのために出来ることなんてないのかもしれない。それでも黙ったまま突っ立っているだけというのはどうしても耐えられなかった。
見上げてばかりだったリリアの顔。今なら、手が届く。きっと、これが僕にできる最大限で唯一のこと。
「……ウェイン」
「上手く言えないけどさ。リリアは一人ぼっちじゃないよ。ミネットさんがいる。それに……僕も、エイドだっている。そうだろ?」
 リリアの真ん中の頭をそっと抱き寄せて、僕は囁いた。間近で彼女の顔を拝むのはこれが二回目。
一回目は最初に離れで会ったときにリリアから。あの時は腰が抜けてしまうくらいに驚いてしまったが。
今なら。躊躇いなんてどこにもなかった。今度は僕が彼女に近づいていく番だ。
長い首を覆っている黒い毛の手触りがふわふわと柔らかくて心地良い。そういえば、リリアにちゃんと触れるのはこれが初めてかもしれない。
言葉だけじゃない。感触、そして温もりが直接伝わることで、誰かが傍にいることを実感できるはずだから。僕はリリアの頭を優しく抱きしめる。
ありがとう、と僕の腕の中で小さく零して閉じられた彼女の瞳から、つうっと一滴の涙が流れ落ちた。
 ドラゴンタイプの例に漏れずサザンドラは長い命を持つ。長生きできると聞くと、良い面ばかりが思い浮かんでしまうけど。
長く生きるということはその分、親しい誰かに先立たれる悲しみが多く付き纏うこと。そして彼女はその悲しみを知っていた。
天真爛漫で自由奔放で。リリアの振る舞いから、彼女に弱さなんてないと僕は思ってしまっていたけど。やっぱりそんなことはなくて。
辛いとき、悲しいときは不安になって涙を流すことだってある。この瞬間、僕は彼女が抱える孤独に少しだけ触れたような気がしたんだ。

ウロさんから挿絵をいただきました。ありがとうございます。

 ―8―

 三日目の夜のこと。例によって僕は倉庫でリリアの食事の準備をしていた。ここまで来れば僕の日常の一部、とまではいかなくとも。
それくらいの要領で進めることは出来ている。ただ、いつもと状況が違うのはエイドも一緒に居るということだ。
朝連れて行かなかったことで僕を非難するくらいには、エイドもリリアと一緒に居ることが気に入ったらしい。
行かなかったのではなく行けなかったのだが、それは僕とリリアの事情。素直に、夜は連れていくからごめんと謝っておいた。
ミネットさんの家の外観も見てみたいとか言ってたから先にボールから出してやったまではいい。
そりゃあ見たことないような豪華な家だからテンションが上がるのも分かる。でもうわあとかすげえとか声を張り上げるのはよろしくない。
夜なんだから近所迷惑にならないか心配だ。あんまりうるさかったらボールに戻すぞ、と念を押しているので騒ぎすぎることはないはずだけど。
倉庫の中のものが物珍しいのかエイドはきょろきょろと落ちつかない。何だか危なっかしいなあ。変に触られて壊されでもしたらたまったもんじゃないぞ。
「大丈夫だってウェイン、見てるだけ見てるだけ」
 僕の視線を感じ取ったらしく、慌てたように弁解するエイド。まったく調子がいい奴だ。まあそこが憎めないところでもある。
やれやれと小さくため息をついて、僕はお皿を三つ重ねて離れに向かう。いつもは両手が塞がっていて一旦容器を下に置かなければならない。
幸い今夜はエイドがいたから扉を開けてもらうことに。建てつけが良くないから彼にはちょっと荷が重いかな。
エイドは取っ手を握り、踏ん張って力任せに引っ張る。扉が動き出すまでに僕よりも時間が掛かったのは仕方ないか。
それでも開けられないなんてことはなかったし。思ったよりも力があるんだな、ちょっとだけ見直したぞ。
「重かった……」
「ありがと、エイド」
 一言お礼を言って僕は離れに足を踏み入れる。当然、僕の後ろにはエイドも続いていた。
再びここにエイドを連れてくることに多少なりとも抵抗はあった。リリアの過去を聞かされたのが今日の朝、まだ一日も経っていないのだ。
それでも、彼に理由を話すわけにはいかなかった。口止めこそされなかったものの、リリアはグレイのことをエイドに知ってほしくないはず。
僕を一人で来させたのは、エイドにお墓でのことを喋ったりしないという暗黙の了解も含まれていたはずだ。
だからと言って何の説明もなしに来ないでくれ、なんて言っても怪しまれるだけでエイドも納得しないだろう。
結局昨日と同じように、何食わぬ顔をしているのが一番だと僕は判断した。もちろん彼がうるさくしすぎたら窘めるのは前提として。
不安の種は残っていたけれど、リリアの方も朝僕に話をしたことで大分気持ちが落ちついたと言ってくれたし。大丈夫だよね、きっと。
部屋の中にいた彼女はいつものポジション。布団の上に寝そべっていて、真ん中の頭だけのそりとこちらに向けてくる。
「あら、夜はエイドも一緒なのね」
「おう」
 リリアは普段と同じ口調で。顔色も僕が見る限りでは変わったりしていない。ひとまずは安心しても良さそうだ。
僕は抱えたお皿を彼女の前まで持っていく。ん、そういえば、エイドがリリアの食事風景を見るのは初めてになるのか。
あまりの迫力にひっくり返ったりしないかなあ。それとも、僕と同じように怖いもの見たさで眺めるか。あるいは、もっと意外な行動を取ったりして。
さあ、エイドはどう出る。そんなよく分からないわくわく感を胸に抱きながら、僕はリリアにお皿を差し出した。
「ありがと。いただきまーす」
 言うが早いか、かっと開かれた三つの口が皿へと直進して。そして、盛られたポケモンフーズをがつがつと貪っていく。
よかった。いつもの力強いリリアの食べ方だ。エイドがいるからちょっと加減しようとか、その辺に全く配慮しないのが彼女らしい。
最初、エイドはぽかんと口を開けて食べているリリアを見ていたが、やがて一歩、そしてもう一歩下がる。さすがに足取りがぎこちない。
「お……おう」
 揺れる瞳でその光景を眺めて、ごくりと唾を飲み込むエイド。後ずさりはしたものの、逃げ出したり僕の後ろに隠れたりはしなかった。
怖いもの見たさで目を反らさないのはやっぱり僕と同じ。それとも、反らせずにいるのか。この光景は彼にはちょっと刺激が強かったかな。
もともと青いから顔色は青ざめているかどうかは分からないけど、額には冷や汗をかいているようにさえ思えてきた。
少し心配になった僕はエイドの頭にそっと手を当てる。エイドは一瞬びくりと体を強張らせて、僕の顔を見上げた。
まあいつもこんな感じだからさ、と僕が軽く肩を竦めてみせると、少し不思議そうな様子で何度か目をぱちぱちさせる。
僕の意図が伝わったかどうかはさておき。再びエイドがリリアの方を向いた時には、幾分か緊張が解けていたような気がした。
「ごちそうさま」
「今夜もいい食べっぷりでなにより」
「そりゃあね。残したりしたらポケモンフーズに失礼でしょ」
 なるほど。失礼のないように一粒残らず、粉砕された小さな欠片一つたりとも残さずに食べてるわけか。毎回この綺麗なお皿には感心させられる。
さっさと洗いに行くか。僕はお皿を重ねて入り口まで持っていく。出るときもエイドに頼むのは悪いので扉は自分で開けた。
ふと、この部屋にリリアとエイドだけの状況を作ることに、一抹の不安が過ぎって。僕は無意識のうちに振り返っていた。
だけど、どうやら杞憂だったらしい。エイドのさっきの反応をからかっているのだろうか。くすくすと笑うリリアに、少し戸惑うエイド。
彼女の振る舞いには違和感もぎこちなさもない。一日目、二日目と僕が見てきた、のびのびとしているリリアだった。
ほっと安堵の息をつくと、僕は離れの外に出る。朝、リリアの力になれたかどうかは分からない、でも。彼女に笑顔が戻って本当によかった。

 皿を洗い終えて離れに戻ると、エイドはちゃっかり布団の上に居たりする。昨日に引き続き図々しい奴だ。
ただ昨日と違って布団にはリリアも居たので、隅の方につつましく寝そべっていたことは評価してやろう。
布団のスペースはリリアが七割を占拠していて、二割をエイドが使っていると言ったところか。
あとの一割は所々の隙間や空白だ。この布団の持ち主はリリアだし、妥当な配分だろう。
「終わったの?」
「ああ」
 見上げるエイドの表情は、もう帰っちゃうのと名残惜しそうだ。もっと布団……じゃなくてリリアと一緒に居たいのかな。
生憎散歩は朝に済ませちゃったし今夜はここにこれ以上留まる理由はない。はずだったのだけれど。
今は三日目の夜。バイトの内容は三日間リリアの世話をするというもの。今夜の食事までなのか、明日を迎えたら終わりなのか線引きが曖昧な所。
ミネットさんははっきり言ってなかったけど、聞かない僕も僕だ。きっとその時は楽で収入のいいバイトだと浮足立っていたのだろう。
「そういえば、ミネットさんっていつ帰ってくるんだっけ?」
「聞いてなかったの? 今日の夜帰ってくるって言ってたわ。時間は聞いてないけどね」
 リリアに少々呆れ顔で言われて、返す言葉もない。僕の不手際なんだし当然だ。
苦笑しながら頭をかいて誤魔化すくらいしか出来なかった。それでもちゃんと教えてくれた彼女に感謝。
今日の夜、か。さすがにミネットさんが何時に帰ってくるかまでは分からないよね。友達の都合だってあるだろうし。
「そっか。じゃあ、ミネットさんが戻ってくるまでここで待っててもいい?」
 バイトを完了したら、もらうものはもらっておきたいし。一旦家に帰ったところで、いずれはミネットさんに会いに来なければならない。
それならしばらくこの部屋で待たせてもらいたいな。僕の提案を聞いてエイドもさりげなく頷いている。
一日一回の散歩も夜の食事も終わって、僕がバイトとしてやるべきことは完了していた。
でも、ここで別れてしまうのは正直僕も寂しい。もう少し一緒に居たいという気持ちは、きっと僕もエイドも同じだ。
「そうねえ……いいわ。私もミネットが帰ってきたら出迎えたいし、一緒に待ちましょ」
「うん、ありがと」
「やったー」
 惜しみない喜びで、寝転がったままばんざいのポーズをとるエイド。そんな彼の感情表現を見て微笑むリリア。
布団の上だともう完全に弟に目をかける姉の様な構図になっている。そのまま昔話でも初めて、エイドを寝かしつけてしまいそうな雰囲気。
さすがにエイドもそんな歳じゃないので、僕がこんなことを想像してると知ったら怒るだろうから黙っていたけどね。
さて、せっかくもう少しいられることになったんだし、どうしようか。リリアはエイドとのお喋りを楽しんでるみたいだから、水を差すのも気が引ける。
エイドも朝来られなかった分、彼女との会話を堪能してくれればいい。ああ、そういえばこの部屋の奥まで僕は行ったことなかったっけ。
リリアに食事を持っていくのは、だいたいいつも彼女がいる部屋の中央まで。それ以上先に進む必要性がなかったんだよね。
エイドは昨日しっかりチェックしてたみたいだし、ざっと見たところ何かある感じはしないけれど。
どうせなら隅々まで観察しておくのも悪くない。会話に華を咲かせる彼らを横目に、僕は部屋の奥まで歩いてみることにした。

ウロさんから挿絵をいただきました。ありがとうございます。

 ―9―

 部屋、と言っても僕が暮らしているアパートの雰囲気とはやはり違っていた。人型をしたポケモンならともかく、リリアはそんなに手先が器用そうにも思えない。
家具やテーブルなどがないのは当然としても、インテリアなどの装飾品も一切置かれていないかなり殺風景なものだった。
確かにこれはエイドが奥まで行くだけ行って、割とすぐに戻ってきたのも納得がいくような。これといって注目すべきようなものは見当たらない。
それでも、隅の方に埃が積もっているようなことはない。その辺りはミネットさんの掃除がしっかり行き届いていることを思わせる。
唯一、窓のカーテンの柄は紺色の布地に葉っぱの模様がデザインされた洒落たものになっている。ミネットさんのチョイスだろうか。
僕は何気なくカーテンを手に取ってみた。しっかりとした厚みのある手触り。隙間から見えた窓の外は真っ暗で、外はすっかり夜になっている。
ここに着いたときはまだ若干薄暗い程度だった気がするのだが。時間が立つのは早いもの。
今夜に限ったことじゃない。この三日間は特に。ああそうか、本当に今更だけどリリアと過ごせるのもあと僅かか。
あんまり考えないようにしていたのかもしれない。その事実が頭に浮かぶと、どうも感傷的になってしまう。
でも、物思いに耽るのはカーテンを握りしめたまますることじゃないなと、手を離して戻ろうとしたその時。
僕はふと、この窓枠の外側の壁に傷があることに気が付いたのだ。尖ったもので横向きに引っ掻いたような、十センチ程度の傷。
僕の目の高さよりやや低い位置にあった。壁紙が一部剥がれ、剥がれたその部分も色あせてきている。最近ついた傷ではなさそうだ。
この部屋にそんな尖ったものは見当たらない。そもそも、もの自体がほとんどないのだから。あるのはリリアの布団とカーテンくらいで。
「……待てよ」
 もしかしたら。はっとした僕は無意識のうちに呟いていた。思い当たる節が一つ。僕は傷のあった壁のすぐ下の床をしゃがんで見てみた。
フローリングの表面はなめらかで壁のように目立った傷はない。だが、よく目を凝らして見つめてみると、あったのだ。
小さな引っ掻き傷が三本。その三本の傷は仲良く並んでいて、同じような傷のまとまりを四か所発見した。
どうやら間違いない、これは。これはきっと、グレイがここに暮らしていたときに付けてしまった傷跡。
おそらくは、窓から外を覗こうとした時にうっかり角で壁を引っ掻いてしまい、そこで慌てた拍子に床に爪を立ててしまった。そんなところだろうか。
壁と床の傷は丁度ダイケンキの角と、四肢の爪の部分に位置している。もしかすると進化したてで自分の体に慣れていない頃だったのかもしれない。
やっぱりここにリリアとグレイが一緒に住んでいたのは間違いのない事実なんだ。リリアの言葉を信じていなかったわけじゃない。
ただ、今ここでグレイが居た証を目の当たりにしたことで、僕の中で彼の存在がより明確になっていったのだ。
これは僕の憶測にしかすぎないけれど、奥に行くとこの傷からグレイのことを思い出してしまって辛いから。
だからリリアはいつも部屋の真ん中にいたのではないだろうか。部屋の奥が妙に殺風景なのも滅多に近づかないからで。
この傷跡に彼女は何を感じていたのか。ここにいたグレイと、そしてリリア。何だろう。胸の奥が熱い。上手く言葉に表せないのがひどくもどかしかった。
僕は暫し目を閉じて、グレイの姿を思い浮かべてみる。自分の気持ちを落ちつける目的も兼ねて。
一度も会ったことはないけど、確かに君はここに居たんだよね。リリアと一緒に暮らしてたんだよね。
お墓の前では手を合わせる余裕がなかったけれど。ここで静かに目を瞑ることが、僕から彼への哀悼の意。
「おーい、ウェインもこっち来てみなよー」
 と、僕がグレイに思いを馳せているところにエイドから声が掛かる。本当にムードぶち壊しもいいところだ。
まあ、グレイの存在自体知らないエイドに僕の気持ちを察してくれなんて無茶なことは言えないか。
ため息交じりに振り返ると彼は布団の上で手を振っている。気持ちいいからウェインもどうってあいつはどこまでも布団な奴だ。
だけど、あの布団は僕もちょっと気になっていたんだよな。結局僕は一度も触ってすらいなかったわけだし、うちのとどれくらい違うのか興味もある。
今日が最終日。せっかくだし行ってみるか。と、その前に。壁に残された傷に僕はそっと触れる。この行為にどれだけの意味があるのかは僕にも分からない。
ただ、こうすることで僕はグレイを傍で感じられる、そんな気がして。部屋の奥で見つけた彼の記憶を確かに胸に刻み込むと、僕はエイドの元へ向かった。

「これは……いいな」
「でしょー」
 仰向けに寝っ転がったまま、ご満悦な感じのエイド。もう完全に布団を私物化しているような雰囲気だ。端の方でごろごろしているのが唯一の慎みか。
しかし、実際に触れてみた布団の感触はかなりよかったのだ。程良い弾力があって硬すぎず柔らかすぎず。
すべすべした布地の手触りも申し分ない。更にはしっかりとした厚みまであって、手のひらで押すと表面が沈み込んでいく。
薄めで若干ごわごわしている僕の家の布団とは比べるのも失礼なくらい。こりゃあエイドが入れ込むのも分かる気がする。
「何ならウェインも寝てみる?」
「え、いいの?」
 リリアの提案を僕は無意識のうちに受け入れてしまっていた。遠慮することをすっかり忘れて。エイドにあれこれ言えた立場じゃないな、僕も。
それだけこの布団は魅力的だったってわけだ。僕もエイドに続いて布団の誘惑に負けてしまったのかもしれない。
少し隅の方に寄って、リリアは僕のためにスペースを作ってくれる。左側の頭が布団からはみ出してしまいそうなぎりぎりまで。
なるほど、僕は丁度彼女とエイドの間に入るような感じか。仲良く川の字になって寝るってこういうことを言うのだろう。
僕もエイドもリリアもそれぞれ体格が全然違うし、リリアに至っては首が三つもあるから。構図としては全く川にならないかもしれないけど。
もともとリリア用の布団だから一人と二匹ではやはり狭い。でも、寝転がれないこともなさそうだ。隙間を縫うようにして潜り込むと、僕は布団の上に横たわる。
リリアの布団に更に僕が加わって、さすがに窮屈か。エイドの左腕が、リリアの右側の頭が、僕の両腕に触れていた。
とにかく僕の方へ寄ってこようとするエイドは意地でも布団からは出ないぞと必死だった。
皆が布団の上に収まるにはぎゅっと身を寄せないと、特に体の小さなエイドは転げ落ちてしまう。
でも、誰かがすぐ傍にいるって感じはいいもんだ。不思議な安心感がある。特に、体の大きなリリアが隣にいるからだろうか。
そして、極めつけは布団の寝心地。これは確かにいい。凄くいい。昨日居眠りしてしまったエイドの気持ちが良く分かった。
横になっていると自然と欠伸まで出てくる。僕につられたのかエイドも続いて欠伸。僕はともかく彼は朝から十分寝ているはずなんだが。寝すぎて眠いのか。
「もし疲れてるなら少し眠ったら? ミネットが帰ってきたら音で分かるから、起こしてあげる」
「そこまでしてもらわなくても……」
 起こしてくれる、ということは僕が寝ている間リリアは起きている必要があるんだけど、大丈夫なのかな。
彼女の両側の頭は布団に寝そべっていてどことなく眠そうな感じがしていたのだが、確かに真ん中の頭は目がぱっちりと開いている。
左右の頭にほとんど意思はないみたいだけど、やはり真ん中の頭の動作に従うのだろうか。頭が三つある感覚なんて僕にはちょっと想像がつかない。
「いいのよ。朝散歩がしたいって言ったのは私だし、ね?」
 僕の顔を覗きこむようにしながらリリアは微笑む。とても優しい目。きっとこれは彼女なりに僕を気遣ってくれているのだろう。
朝早いうちから運動したおかげで、少し眠かったのは事実。それに加えてこの布団の上なら眠気は確実に襲い掛かってくる。
今から起き上がれと言われたら、すぐに行動に移せないくらいには眠くなってきてはいた。
そうだね。せっかくの豪華な布団なんだし、ここはリリアの善意を受け取って一休みしてもいいかな。
「分かった。頼むよ、リリア」
「うん。ゆっくり休んで」
 彼女のお言葉に甘えて僕は目を閉じる。隣からは既に寝息が聞こえてくるような気がするが気にしない。今は僕も眠いんだから。
すると、僕の上に何やらふわりと柔らかいものが乗せられた。肩からお腹のあたりにかけて何かが。
うっすらと目を開けるとリリアが背中の翼を広げて、僕の上に被せてくれていた。毛布代わりにということなのだろうか。
ふさふさした毛で覆われている翼は柔らかかった。服の上からでも十分にその質感が分かるくらいに。
布団に、リリアの翼での毛布まで。どこまでも恵まれているな、僕は。ありがとう、と小さくお礼を言って。僕は暫し心地良い眠りへと落ちていった。

 ―10―

「ウェイン……ウェイン」
「ん……」
 肩をつつかれて僕はうっすらと目を開ける。そこにあったのは赤い瞳でこちらを見つめる迫力満点のリリアの顔。
いくら彼女に慣れたとはいっても、寝起きざまで至近距離だったから思わずぎょっとしてしまう。でもそのおかげで一瞬で眠気が吹き飛んだ。
こんな感じでリリアに起こされたら素早く目覚められるかもしれない。僕は体を起こして軽く伸びをする。
枕はなくても肩や首の痛みは残っていなかった。さすがは高級布団、と言ったところか。眠気が取れて大分頭がすっきりしたな。
「外で音がしたわ。ミネットが戻ってきたのかも」
 なるほど、確かに部屋の外から車のエンジンらしき音が聞こえてくる。それに加えて誰かの話し声も。友達に家まで送ってもらったのだろうか。
僕は頷いて布団から出ると、案の定隣でぐっすり眠っていたエイドを揺さぶる。僕もこの布団は気持ちよかったけど、それでも寝過ぎだ。
朝も寝て、夜も寝て。そして帰ってからも多分寝る。寝すぎたから夜眠れなくなることがないのはちょっと羨ましいが。
「起きろエイド、ミネットさんが戻ってきたらしい。外に出るぞ」
「ん、ふあぁ」
 まだ眠そうに目を擦りつつもエイドはのそりと起きあがる。寝足りない分は家に帰ってからゆっくり寝ればいい。
よく寝る奴だが、一旦起こされれば寝起きはそこまで悪くなかったり。とてとてとおぼつかない足取りでエイドは僕とリリアの後に続いた。
扉のすぐ手前まで行くと、外での会話がよりはっきりと聞こえてきた。時折楽しそうな笑い声が入り混じっている。
何やら会話が盛り上がっている雰囲気だし、ここで外に出て流れを断ち切ってしまうのも考えもの。
車の音が無くなるまでここで待っていた方がよさそうだ。扉に掛けようとしていた手を引っ込めて、僕は後ろを振り返る。
リリアもそれを察してくれたらしく、黙ったままうんうんと頷いてくれた。一方エイドは壁にもたれかかってまだ欠伸をしている。
僕の小さな気配りを知ってか知らずか呑気なものだ。まあ、ミネットさんの前で大きな欠伸されるよりはいいかな。
エイドは彼女と初対面だし、リリアのときほどではないとは言えやっぱり緊張はするだろうから、そんな心のゆとりはないとは思うのだけど。
と、僕があれこれ考えているうちに外からの会話は聞こえなくなっていた。そして車が遠ざかっていく音。
「終わったみたいね」
「うん、行こうか」
 僕は扉に再び手を掛けて、力任せに押す。入るときも出るときもやっぱり開きにくい扉だった。ぎぎぎ、と軋む音が耳に残る。
完全に開いたのを確認すると、リリアは三つの頭を縮めるようにして扉をくぐり外に出る。そういえば彼女を外へ出すときはいつもモンスターボールだった。
こうやって扉から直接出るのは初めてになるのか。体が大きいとこういった面でも大変なんだろうなあ。
「おかえりー、ミネット」
「ただいま、リリア。元気だった?」
「うん、元気だったよ」
 帰っていきなりのリリアの出迎えに驚く様子もなく、ミネットさんは擦り寄ってきた彼女の頭をそっと撫でる。
離れの電気は付いていたし、誰かいるのは想像がついていたのだろう。ミネットさんの手の中でリリアは嬉しそうに目を細めている。
笑っている彼女は何度も見たけど、僕が今まで見てきたものとはどこか違う気がした。
自分の全てを受け入れてくれる人に心から甘えているようなそんな笑顔。ああ、リリアもこんな表情するんだなと僕は思わず納得してしまう。
やっぱりトレーナーの所が一番なんだろうね。そういった素振りは僕は全く感じられなかったけど、本当はミネットさんがいなくて寂しかったりしたのかなあ。
「そう、よかったわ」
 ミネットさんは安心したように頷く。これと言ってリリアを見て心配したり不安に思ったりすることはなさそうでなにより。
リリアも夜は平常通りだったにしても、朝は色々とあったし。僕も心のどこかでは不安だったのかもしれない。
「ウェイン君もお疲れ様。しっかりお世話してくれたみたいね」
「いえ、そんな」
 面と向かって言われると何だか照れくさいものがあった。僕は微笑しながら誤魔化すかのように人差し指で頬をかく。
一日目は何もかも初めてで勝手も分からず、さらには世話の対象がサザンドラだという衝撃も重なって所々で手間取ってしまった面もあった。
それでも二日目以降はリリアを待たせてしまうようなこともなかったし、ミネットさんの言うような『しっかり』はおそらく出来ていたのではないだろうか。
もちろんこれは僕の自己評価。実際、リリアが僕の手際をどう感じていたかは分からない。
ただ彼女の性格を考えると何らかの不備があれば遠慮なく言ってくれそうだから、多分大丈夫だったんじゃないのかなあ。
「あら、あなたは……?」
 ミネットさんの視線が僕の足元、というよりは背後にいたエイドの方へ向く。彼女と目があったエイドの体が僅かに硬直する。
だがそれも一瞬のことで、公園でリリアと対面したときのように時間が止まったかのように固まってしまうことはなかった。
「……こんばんは」
 多少の緊張は残っていたらしく、エイドは伏し目がちにぺこりと頭を下げただけだった。それでもミネットさんは優しい笑顔でこんばんはと返してくれる。
「ウェイン君のポケモン?」
「ええ、そうです」
「そう。可愛い仔ね」
「ありがとうございます」
 パートナーを褒められたのだから、トレーナーとして僕は素直に嬉しかった。だが、エイドの方はというと。
ミジュマル時代ならともかく、フタチマルにもなって可愛いと言われると手放しで喜べなかったらしい。
ミネットさんの手前、嫌な顔こそしていなかったものの複雑な表情をしている。雄だから、格好いいと言われた方が嬉しいのか。
エイドもまだまだ子供っぽいところがあるし、格好いいか可愛いかで聞かれたら可愛い方だと僕は思う。
それに申し訳ないけど、普段からエイドを見ていて格好いいと思えるエピソードが全くと言っていいほど思い浮かばなかった。
昨日の寝顔とか、可愛いなら結構思い当たるんだけどね。もしダイケンキに進化すればちょっとは格好よさにも磨きがかかるかもしれない。
「あらいけない、あなたにお給料渡さないとね。ちょっと待ってて、取ってくるわ」
 ミネットさんは本家の鍵を開けて中に入っていく。フタチマルを見て、グレイのことを思い出さないはずはないだろうけど。
彼女はリリアのように、ぼんやりしたり動揺したりといった素振りはなかった。リリアと違って、もう完全に気持ちの整理はついていたのかな。
給料、か。最初はほとんどそれ目当てでこのバイトに申し込んだんだっけ。
蓋を開けてみればサザンドラが待ち構えていて、そんな雑念はどこかに吹き飛んでしまった。とにかく滞りなくこなさねばと必死で。
それでも途中からはこのバイトを。リリアに会うこと自体を、僕は楽しんでいたと思う。ここまで自転車で向かうのが全然苦痛じゃなかったし。
三日間があっという間に思えたのが僕がバイトを謳歌していたという何よりの証拠。それもとうとう、終わってしまうのか。
「最初はこんな頼りなさそうな人で大丈夫かしらって思ってたけどね。……楽しかったわよ、ウェイン。」
「至らないところもあったかもしれないけど、そう言ってもらえると嬉しいよ」
 真ん中の頭をぐいっと下げて、僕の顔を覗きこむようにしながらリリアは言う。赤い瞳は夜でも輝きを失わずに僕をしっかりと捉えている。
初対面の僕にも気兼ねなく接してくるものだから、初日はリリアの行動に振り回されっぱなしだったなあ。何回僕の心臓は跳ね上がっただろうか。
それが懐かしいと思えるくらい、こうして笑顔で受け答えが出来るくらいには僕にも耐性ができていた。
「エイドもね。公園の散歩、楽しかったわ」
「うん……俺も」
 エイドはリリアと少し目を合わせただけで、後は俯いてしまう。多くを語らなかった、いや、語れなかったのは。
これ以上喋ると涙がこぼれてしまいそうになるから。そうだろう、エイド。暗くたって僕には分かる。きっとリリアだって分かってるんじゃないかな。
彼女の前で泣き顔なんて見せられない、か。やっぱりエイドはミネットさんの言ったように、可愛い仕草の方がずっと印象に残る。
リリアもそれ以上は言葉を紡ぐこともなく押し黙ってしまった。何か言いたげに僕の顔をちらちらと見てはいるのだが、声には出てこない。
僕も彼女に伝えるべきことが何かあるんじゃないかと思いつつも。結局言葉が浮かばなかったところに、ミネットさんが戻ってくる。
「はい、約束のお給料。一応、確認してくださる?」
「あ、ありがとうございます」
 彼女から渡された封筒の中身を見る。一万円札と五千円札が一枚ずつ。確かに一万五千円、きっちり入っていた。
これが目当てでバイトに応募したというのに。嬉しさがほとんど込みあげてこないのはどうしてだろう。
とてもありがたいはずのお札も、今は薄っぺらい紙切れにしか感じられなかった。
「ウェイン君、お疲れ様」
 僕が封筒を覗いて小さく頷いたのを見て、中身に不備はないと判断したのだろう。ミネットさんの労いの言葉。
バイトをやり遂げた達成感よりも、名残惜しさばかりが僕に纏わりついて。彼女に笑顔で返事をすることが出来なかった。
約束の三日間を終えて、給料ももらって。僕がこの家に来る理由はなくなった。でもそれは、利害関係に限って言うならば。
「ミネットさん、あの……」
「あら、どうかした?」
「また……また、遊びに来てもいいですか?」
 エイドとリリアと、そしてミネットさんまでもが驚いたように目を丸くする。皆の視線が一気に僕に集中したのを感じていた。
今日で終わりじゃない。終わりにしてしまいたくない。再びここに来られる切っ掛けが、僕は欲しかったんだ。
「僕もエイドもまたリリアと一緒に散歩とか出来たらいいなって、な?」
「う、うんっ」
 同意を求めて僕はエイドの方を見やる。少々慌てたように彼もこくこくと頷いてくれた。
僕がこんなことを言い出すなんて思ってもみなかったって顔をしているけど、気持ちは同じだったみたい。
泣いてる場合じゃないぞエイド。リリアと別れるのが嫌なら、また会いたいと思うなら。自ら行動を起こさないと。
「そうね、リリアもあなた達のこと気に入ってるみたいだし……」
 ミネットさんの前でリリアは僕らのことを話題にはしていなかった。でも、きっとリリアが何を感じているのかお見通しなのだろう。
僕たちと同じようにリリアも別れを惜しんでくれていたんだ。まあ、そう思ってくれてたらいいなという僕の羨望も入っていたことは否めないけど。
リリアもミネットさんの言葉を否定するような素振りは見せなかった。ただ、直接口にされると恥ずかしかったのか僕から微妙に目を反らしている。
そんな彼女を見て、ミネットさんはふっと微笑む。あなたの気持ちは全部分かってるわ、とでも言いたげな包容力のある笑み。
「またいつでもいらっしゃいな。歓迎するわ」
「はい……!」
 ミネットさんが承諾してくれてほっとしたのと、嬉しいのと。満面の笑みで僕は答えた。
また会いに来ることが出来るんだ。エイドも声こそ出さなかったものの、お互いに顔を合わせてやったねと笑いあう。
リリアは何も言わずに少し呆れたような表情で僕とエイドをじっと見つめていたけど、真ん中の顔を伏せたときにひっそりと微笑んでくれた。
心の中では嬉しいとは思っていても、僕らの様に表面には出してこない。きっと彼女なりの照れ隠し、なのかな。
三日間のバイトを通じてリリアに出会って、リリアのことを知って。僕も、エイドも。もう少し、リリアと同じ時間を過ごしてみたくなったのだ。

 END

ウロさんから挿絵をいただきました。ありがとうございます。



何かあればお気軽にどうぞ

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 寿命の思いを乗り越えて、今のリリアがあり、今のリリアがあって、これから先のリリアが作られていく。複雑だけど単純、単純だけど複雑。そんな思いが今回のお話からは伝わりました。最初に言っていた、リリアはちょっとやそっとじゃぶれないという言葉は、まさしくその通りだったのかなぁと思いました。たとえ寿命の壁があっても、それを悔やむことなく、それを引きずることなく、かといって忘れることもなく、ただありのままを受け入れて日常を過ごしてきたリリアの心にはおそらくとりとめのないものが鬱積していたのかもしれませんね。そう考えてると、自分の思いを吐露するのではなく、ただただぶれて周りに迷惑をかけたくないのかなぁ、ともとれて、大人の思考だなぁとも思ってしまいます。
     三日間の仕事が終わりに近づいて、ウェインとリリアの別れの刻限が一刻一刻と迫ってくるそれは、シンデレラのそれと似ているなぁと思いました。ガラスの靴ではなく。お互いの胸の内を伝えあって気づいたリリアとウェインの心。このまま離れ離れになって、もう忘れてしまうのか、それとも忘れることなく、思い出の一つとして生き続けるのか。この先の展開もドキドキして目が離せません。
     エイドとリリアの二人が中睦まじく最後の時間を過ごしている中、ウェインは奥の部屋が気になったものですが、そこには触れていいものが入っているのか、それとも触れられてほしくないものが入っているのか、それはまだわからないですが、おそらく次のお話で分かるんだなと思いました。最初から挿絵を描かせていただいている身で、非常にありがたく思いながら、このまま最後までファンの一人として、最後の最後の大円団まで同じ歩幅で突っ走りたい次第でございます。生意気ですね、すいませんorz
     執筆マイペースにがんばってくださいませ!!!
    ――ウロ 2011-08-31 (水) 00:01:51
  • ぶれないリリアが戻ってきたのはきっとウェインのおかげでしょうね。
    私も今回の話を書きながら、6話7話はシリアスモードのリリアだったので今回はちゃんと立ち直った日常モードのリリアを表現したい、と思っておりました。
    始まりがあればもちろん終わりもある。三日間の契約でしたから、良くも悪くも時間が流れて行くのはあっという間なのかもしれません。
    終わりを迎えようとしていることへのウェイン、リリア、そしてエイドの心情を今後上手く表現していきたいところです。
    レスと挿絵、ありがとうございます。回を追うごとにリリアちゃんもエイドも可愛くなってるようなw
    ――カゲフミ 2011-09-06 (火) 11:19:29
  • 非官能なのにベッドシーンw!
    この状況を想像するとウェインが羨ましくて羨ましくてしかたがないです。
    ただ、僕だと恐らくイケナイ方向にドキドキしてしまってきっと寝れなさそうですがね…。
    ――beita 2011-09-08 (木) 20:36:30
  • 確かにベッドシーンと言われればそうなりますねw
    しかしあくまで健全な描写です。後ろめたいことは何もない、はずです。
    私もこんな状況だと色々と雑念が浮かんできて眠れそうにないと思いますw
    レスありがとうございました。
    ――カゲフミ 2011-09-13 (火) 23:30:06
  •  完結お疲れ様でした。
     最後の最後まで大円団で突っ走りましたね。三日間という短い時間の中でウェインとリリアとエイドが見つけ出したものは、ただのアルバイト、ただの頼まれたポケモンという枠を超えて、本当に絆で結ばれましたね。三日感なのでほつれやすいきずなかもしれませんが、それでも彼ら、彼女らにはしっかりと結ばれた、顔を見せた時に、もうみんなとの絆は結び合っていたんだと思いました。最初と比べるとウェインの言動も相手を思ったり、エイドも最初の出会いよりはずいぶんと丸くなって布団っ子になったりと、見どころも沢山あり、最初から挿絵を書いていた身としては、最高に楽しませてもらいました。最初から最後まで驚きや微笑みの連続でした。
     最後の別れは今生の別れではなく、新しい始まり、これからもこの先も、この三人は三人の思いを胸に、たまーに三人の時間を共有するんだと思いました。本当に大切なのは、別れを惜しむことではなく、また必ず会おうとする気持ち。心構えだと感じました。出会いや別れは水のようにあっさりとしていたほうがいいと思いますが、この三人の出会いならばあっさりしていなくても、楽しい世界を見ることができそうですね。
     最後になりましたが、ひょんなことから始まった三日間の日常を描いたこの作品の挿絵を担当させていただいたこと、最後の最後まで同じ歩幅でカゲフミさんとこの作品に関われたことを深く感謝いたします。次回作はどんな話かな、と期待を胸にしながら、今は完結お疲れさまでしたとコメントさせていただきます。
     本当にありがとうございました。次回作もマイペースにがんばってくださいませ!!!
    ――ウロ 2011-09-14 (水) 00:26:41
  • 完結お疲れ様でした。
    とあるバイトから始まった物語。ウェイン、リリア、エイドの三人が絆で結ばれる物語。日常の三日間を切り取り紡いだ物語……とっても良い作品でした。
    ウェイン、エイドがリリアと別れるバイト三日目の夜。遂に終わってしまうんだという時の中で、ウェインの言った言葉は二人とリリアを本当に結び付け、また新たな物語が生まれていくんだなと思いました。
    これからも三人は楽しんで散歩したりそのうちエイドが進化したりと様々な事を感じて仲良くしていく様な気がします。
    長編作品の執筆お疲れ様でした。これからも頑張ってください。
    ――ナナシ ? 2011-09-14 (水) 16:36:37
  • ウェインが三連休の暇をつぶすために丁度良いバイトを見つけ、そしてミネットにリリアの世話を頼まれるわけですが……実はそのリリアはサザンドラだった。
    というこの先どうなるのかというバイトの一日目から始まり、段々とウェインはリリアと打ち解けていく。
    その途中途中に、サザンドラという相手の容姿に少しばかり恐怖を感じてしまう描写は、ドラゴンタイプを多く書かれているカゲフミさんならではの細かい描写だなあと思いました。
    リリアと段々と打ち解けていくたびにサザンドラであることを段々と気にしなくなってくるウェインではありますが、その後呼ばれたエイドは話を全く聞かされてない状態で会うことになり、初めて目の前にするサザンドラにウェインと同じように戦々恐々としながらも接するあたり、ポケモンとトレーナーは似るものなんでしょうかね(
    たった三日間ではありますが、色々とウェインにとっても、リリアにとっても短いようで長かった三日間になったんじゃないでしょうか。お互いのことをまだ完全に知りえたわけではないけれども、これから先、何回も会うに連れてリリアはグレイのことに完全に心の整理がつくのかもしれないですね。

    しかし、高級布団にダイブとか、ポケモンと川の字で寝るとか、ぽっちゃりなサザンドラを綺麗に思うとか、手をモグモグされてしまうとか……。
    なんか一歩間違えればそっち方面に行きそうな気がしないでもない状況下の中でそっちへといかないのはさすがカゲフミさんですね(殴

    それにしてもバイトで三日間で、しかも個人宅のバイトというのも何だか面白いですね。
    そういう個人の小さな仕事の依頼を総括してくれる会社があったりしたりして。
    でも報酬は依頼主さんから。まるでRPGのおつかいのようですね。
    現実にあったら好きな時にバイト……いいなあ(ボソ

    ……話が少しそれてしまいましたが、完結おつかれさまでした。
    今後のウェインたちの行方を想像しつつ、次の新しい作品を待ちたいと思います。
    執筆、頑張って下さいませ。
    ――ウルラ 2011-09-14 (水) 20:27:53
  • 物語の終わりの寂しい感情が、登場キャラとシンクロ出来たような、そんな物語でした。巨大なポケモンを飼ったり、触れ合ったりするのはある種のロマンにあふれておりますが、実際に目の前にしたら苦労も恐怖も多い事でしょう。
    序盤はその恐怖や驚きを余すことなく伝えられ、中盤から終盤にかけては、体に見合った器の大きさを見せつけるような構成と、主人公の心情に違和感無くついて行けました。
    どちらが主でどちらが従者かもわからないような主従関係から、物語の終盤ではすっかり友人と呼べる関係に。そこに至るまでの様々な思いを堪能させてもらいました。
    執筆お疲れ様でした。
    そして、ウェイン。握手代われ!!
    ――リング 2011-09-15 (木) 00:09:04
  • グレイの痕跡の描写で、壁と床に傷……つまり、ここで育てやでする行為を…と脳が勝手に創造してしまいました。けど、そうなると雌雄逆転するので現実に戻ってこれましたが、「それもいいな」とか腐っててスミマセン。
    かわいい悪タイプの餌になってきます。
    ――まん ? 2011-09-15 (木) 08:37:14
  • ウロさん>
    最後は大団円に持って行きました。このまま普通に別れを告げて終わりにするエンドも考えてはいたのですが。
    私としてもここでお別れになってしまうのは何だか寂しく思えて、もう少し彼らの今後を見ていたかったのです。
    三日間を通してウェインもエイドもリリアを通して少しずつ成長できていたのではないかと思います。
    お話が進むたびに挿絵をいただいて、次はどんな挿絵かな、と私もわくわくしながら筆を進めることが出来ました。本当にありがとうございます。
    次回作もマイペースに頑張りますね。

    ナナシさん>
    今回の物語はウェインとエイド、そしてリリアの日常の一ページ。
    ただそれっきりで終わりではなく、その後のページもこれから刻んでいくのでしょう。
    これからも散歩等の出来事を通して絆を深めていくのだと思います。次回作も頑張りますね。

    ウルラさん>
    数あるドラゴンタイプの中でもサザンドラはやはり一般的に見て怖い部類に入るんじゃないかなあと。
    そこから生じる恐怖を残しつつも、どこかでリリアの可愛さを表現できたらと思い描写には気を遣いましたね。
    ウェインもエイド程ではなくとも最初はへたれてましたから、きっとポケモンとトレーナーは似るんじゃないでしょうかw
    時々脱線しかけたのはリリアがあまりにも可愛くてつい。ちょっと手が滑っただけですのでそっちへはいきません(
    もし現実にこんなバイトがあったら私は喜んで応募しますねー。次回作の執筆も頑張りたいと思います。

    リングさん>
    物語の終末はいつもどこか物悲しいものです。書いている私もどことなく寂しい気分になりました。
    画面の向こうでは可愛いと思えるかもしれませんが、実際目の当たりにするとなると勝手が違ってくるでしょう。
    行動的な子とそれに振り回されるもう一方という立場は書いていて楽しかったりします。
    打ち解けた後も本質的な立場はたぶん変わってないんじゃないかなw
    残念ながらウェインの手はリリアだけのものです(

    まんさん>
    この小説は健全です。残念ながらそういった行為はございません。
    もし過去の話であったら面白いかもしれませんがダイケンキになったグレイはリリアからすればお爺ちゃんな年齢なので無理があるかなあと(

    皆さま、レスありがとうございました!
    ――カゲフミ 2011-09-18 (日) 22:21:29
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Last-modified: 2011-09-14 (水) 00:00:00
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