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古今婚姻説話

/古今婚姻説話

※この作品には官能表現が含まれております


 ……今、僕は押し倒され、更には床に組み敷かれている。
 腕に感じるのは藍色のひんやりした皮膚と、一本の鋭利な鉤爪の硬い感触。目の前に見えるのは突き出した黄色い頭角の先端に、その両横には黄色く鋭い眼光がこちらを至近距離で見据えていた。時折、横から奥に見える鰭のついた尾が床をパタン、パタンと叩く。そして、剥がされた自分の洋服を見てやっと気づいた。


 僕は今、ガブリアスに襲われたのだと。


「……えっと、ね。何がしたいの?」

 こんな状況下でガブリアスにそう訊ねることが出来るのは、偏(ひとえ)に彼女が僕のパートナーだから。でも、いつもは大人しい彼女のいきなりの行動に平常心を保てるわけも無く。彼女のフシューという荒い息遣いを聞きながら、ただ体を強張らせるしかなかった。

 こうなった原因は本当に何なのだろう……。




   古今婚姻説話   作者:ウルラ




「ミオシティから出張修理の依頼……ですか?」

 ――本当にいきなりだった。ミオシティの図書館から出張修理の依頼の電話が来たのは。ここはトバリシティで、その街とはかなりの距離がある。しかもここは本州から離れているため、リニアトレインのような交通機関もあまり発達していない。どうしても時間が掛かってしまうのは明白だった。

「うむ、そうだ。一応私のピジョットを貸すから、それで向かってくれ」

 確かに空を飛べば時間は短縮できるかもしれない。しかしそれでも帰りが遅くなるのは明白だった。軽くため息をついてその電話を切ると、どうしたものかと部屋を見回す。ふと、パートナーであるガブリアスの姿が目に入った。そういえば彼女はどうすればいいのだろうか。仕事の時はいつもモンスターボールの中に入れっぱなしになってしまうから、家で留守番させることがほとんど。でも今回は事が事だけに彼女が長い時間留守番できるかどうか分からない。

「ガブリアス。今日、帰りが遅くなりそうなんだけど、留守番できる……?」

 伝わるかどうかは怪しいけれど、一応彼女に確認の意味で問いかけてみる。すると、僕の言葉の意味が分かったのか、彼女は少しだけそわそわしながらも頷いてくれる。でも、何だか様子がおかしいような気もする。さっきからこちらを見ては他の方にすぐに目を背けてしまう。顔も少し赤くなっているような気がする……。熱でもあるんだろうか?

「大丈夫?」

 なんとなく心配になって、そう問いかけてはみたけれど。彼女はなぜか僕が近づくと少し遠ざかってしまう。こういうことになると本当に心配になってきた。

「本当に大丈夫なの?」

 そう言いながらまた近寄ってはみたけれど、やっぱり避けられてしまう。こうやって見ると何だか嫌われているような気がしてもっと不安になってくる。それでも諦めずに
近づいて行くと、それを後悔する羽目になってしまった。

「グァァアウ!」

 彼女は両手を大きく振り上げてそう叫ぶと、僕をキッと睨みつけた。多分、『詮索するな』っていう警告なんだと思う。確かに普段は大人しくもあるけど、いざという時は雌である彼女が雄に見えてしまうほどに恐くなる事があった。それは大抵野生のポケモンに出会ったりだとか、僕が彼女にちょっかいを出した時くらい。今みたいなよく分からない威嚇をされたのはこれが初めて。でも、詮索しようとすればたちまちあの鋭い爪に引き裂かれそうな気がして、それ以上は踏み入れない。仕方ないと思いつつも、気が立っている彼女を刺激しないようになるべくゆっくりとその場を動くと、パソコンの隣にある転送装置に手をかけて、モンスターボールを手に取った。そして上着を羽織って、すぐさま外に飛び出すようにしてドアを開けた。

「ふぅ……」

 正直、あんな嫌な空気は久しぶりだった気がする。最近は仕事が忙しくなって、彼女に構ってやれないことが多い所為か揉め事なんてのはなかなか起こらないし、何より最近になって彼女は僕に対してそっけなくなってしまってる。やっぱり構ってやれないことに対して怒っているんだろうか。…そんな考えが頭を過ぎるけれど、帰ったら精一杯の休暇をとらせてもらって、彼女と何処かにでも行こうかと軽く事を考えていた。
 ――まさかそれがあんなことになるとは、この時の僕は微塵にも思ってはいなかった。




 またこの時期が来てしまった……。彼を威嚇しながら見送った後、あたしは深くため息をついた。
 ある一定の周期で訪れるこの胸を締め付けるような激しい動悸は、彼に近づくと更に酷くなるのが特徴だった。それ以外は私にもよく分からない。いや…分からないんじゃない。分からない振りをしているだけだった。

 ――あたしは彼のことが明らかに好きだった。

 何故あんな臆病でおっちょこちょいの彼を好きになったのかは分からない。でも、この気持ちに嘘偽りが無いのは確かだった。
 こんな心境になり始めたのはあたしがガバイトからガブリアスになってから。進化したあたしを見て、恐がりながらもおめでとうと言ってくれた彼を見て、あたしの体はおかしくなり始めた。毎年に必ず一回は訪れる、この耐え難い苦しみ。それは彼が近づくと更に苦しみを増す。だからこそ、さっきも自ら彼を遠ざけたんだ。

 でも本当は彼に撫でてもらいたくて。ガブリアスの姿になってからというもの、あたしはいまだに彼に撫でてもらっていない。というのも、あたしが彼を遠ざけていることに他ならないのだけど。その時期でなくとも、彼が近づくと何故か嫌な感じがする。正確には嫌な感じというよりも、奇妙な圧迫感を感じるのだ。


 あたしは彼が完全に家から離れたのを感じると、いつもの日課になっている行為をやるためにのっしりと体を起こす。本来ならもっと早く動きたいのだけれど、ここはマンションであるためにあまり大きな音は立てられない。やがて彼がいつも使っているベッドに腰を掛けると、鼻の先をシーツに押し当てる。……彼の香りが鼻腔に伝わり、何ともいえない気持ちで満たされる。でも、体の方は満たされてはいなかった。彼の匂いを嗅いで既に湿った下半身の小さな割れ目に鉤爪を伸ばすと、そのままその穴にゆっくりと挿入する。

「クフゥッ……」

 それと同時に来る気持ちよさに目を細めながら、不意にそう声を漏らしてしまう。聞きなれた自分の喘ぎ声は気にも留めずに、更に奥へ奥へと、そして出し入れを繰り返す。段々と遠退いていく意識を必死に保ちながらも、あたしはその運動を更に加速させた。クチュクチュという水音が時折部屋に響く。

「ガァゥ…フッ……」

 周りに誰もいなくても、なるべく声を抑えるようにしている。でもそんなこと、刺激を求めるたびに段々と忘れて大きくなっていく。次第に迫ってくる終わりを惜しく感じながらも、絶頂を早く迎えようと一番感じやすい陰核を刺激し始めた。

「ガァァァァ……!」

 勿論、そんなことをすれば容易く上がってしまうのは分かっていた。けれども快楽を、この苦しみを遠ざけるためならば大きな刺激で消し去るしかなかった。
 あたしは荒れた息のまま、ベタベタになってしまったシーツの上に寝転んだ。自身の雌の匂いと、彼の匂いを一緒に感じながら……そのまま瞼をゆっくりと閉じた。




 正直こうなってしまったのは、良いことなのだろうか悪いことなのだろうか。
 図書館の受付の話によると依頼者がどうも不在らしく、どれを修理して欲しいかの伝言も残してはいないとの事。いないにしてもせめて修理するものくらいは言付して欲しかった。これでは待ちぼうけを食らってしまうこと間違いなしだ。

「仕方ない、か」

 まぁ、この図書館はクーラーが効いていてとても快適だし、暇つぶしには最適な本が沢山ある。ある意味良いことといえば良いかも。
 階段を上がって三階に着くと、そこには子供でも大人でも読める神話本や歴史の本などが並べられていた。基本的に貸し出しをこの図書館はしないらしいが、その場で読むのならタダで、何冊読んだって構わない。

「ん。これかな」

 ふと目に付いた『シンオウの昔話』という本を手に取ると軽く表と裏の表紙を眺める。この本は確か小さい頃によく読んでいたなぁ~と黄昏れつつも開いて中を読んでみる。昔はよく分からなかった意味が、今では手に取るように分かる。当たり前のことと言えばそうだけど、僕にとっては自身がひとえに成長したということが実感できるこの方法はすごく面白いし、たまに今の自分を見直すことが出来るから更に面白い。
 パラパラとページを捲っていくと、結構色んなことが書かれていたんだなあと分かる。その中でも一番目を惹いたものがあった。

 ――三節・人とポケモンの婚姻説話

 内容を読んで唖然とした。そのときはまだ子供だからこそ意味が分からなかったけれど、分かると途端に恥ずかしくなる事もあるということを、このとき初めて知った。

ひととけっこんしたポケモンがいた。
ポケモンとけっこんしたひとがいた。
むかしはひともポケモンもおなじだったから
ふつうのことだった。



 簡単に言えば昔は人とポケモンが結婚した。という話になる。多分それは親密な関係をさした言葉もあるとは思うけれど、どうしてもそれが直接的な表現になっているのを見ると、本当に昔は人とポケモンがそれ以上の関係になっているとしか思えない。しかし、今では到底考えられない話。でもそれを昔読んでいた自分が途端に恥ずかしくなってしまうのはやはり『そういうこと』を考えているからなのだろうか。おかしな妄想を抑えるために、僕は急ぐようにしてその本を閉じて元の場所に戻した。


 ――他の本を読んでそのことを忘れようとはするものの、なかなか忘れることが出来ない。その時、ポケットに入っていた携帯電話が震えだした。

「はいもしもし。……はい…はい。ええ、分かりました。今すぐ行きます」

 結構短い時間で会話を終わらせると、すぐに携帯電話をしまい込む。依頼者、というかここの管理者が戻ってきたらしいので一階来て欲しいとの事。でもどうしてわざわざ電話で伝えてきたのだろう。階段を上がって来ればすぐなのに。
 そんなことを疑問に思いながらも、急いで一階の方へと降りて行った。




 遅い。いつもならもう帰ってきている時間なのに。

 あたしはいつの間にか寝ていた。でもいつもなら起きたら大抵彼が居るはずなのに、今日はその彼の姿が見えない。そういえば出て行くときに『今日は遅くなりそう』とか行っていたから……本当に遅くなったのかもしれない。寝起きでまだ重い身体をゆっくりと動かしてベッドから立ち上がると、シーツがゴワゴワになっている事に気付いた。多分あのまま結構な時間が経ったんだと思う。また彼に余計な手間を掛けさせてしまう罪悪感を隅へと追いやり、玄関の方へと鈍い足取りで歩いていく。やはり彼の靴は無く、まだ帰ってきてはいないのだと改めて確認した。

 また独りで待つんだろうか。以前にも彼が遅くなったことがあったけど、ここまで寂しく感じたことは無かった。でもそれは今が発情期であることに関係しているのだと思う。簡単に言えば、言葉では表せない、病気でもなければ怪我でもないこの痛みに耐える時間がまたやってきたという事。寝て紛らわすということも出来るかもしれないけれど、彼のベッドの匂いの所為でまた自慰行為に走ってしまうかもしれない。流石に二回目をやればシーツが悲惨なことになるだろうし、何よりもうあれは水を吸わないだろう。自分で汚しておいてなんだけど、あんなシーツの上で落ち着いて眠るには程遠いし。結局、彼が帰ってくるまでずっと待っているしかない。

 あたしはため息をつくと、壁に寄りかかって瞼を再び閉じた。深い眠りにはつけないだろうけど、彼が帰ってくる間のほんの耐え凌ぎに。




「おつかれさま。明日はゆっくり休んでいいよ」

 家の前に降り立った後、飛びきったことで満足そうにしているピジョットをボールの中に戻す。真ん中のボタンを押してボールを小さくしてしまうと、ドアノブを握って深呼吸した。遅れて怒っているのか、ふてくされて寝ているのか……。ここまで遅れたことはなかったから、正直どうなるのか僕には予想もつかなかった。

「た、ただいま~……」

 ドアを開けて恐る恐る入ってみると電気もついていない薄暗い部屋が目の前に広がる。あまりに暗くて何があるのかよく分からない。とりあえず電気をつけようと、スイッチの方に手を伸ばした瞬間、隣に何かがいる気配を感じた。

「ガブリアス?」

 電気をつけて気配の方に視線を移すと、案の定そこには彼女がいた。黄色い目がこちらを睨むようにして向けられていて、自分の体は何一つ身動きをとることが出来ない。実際、力とか気の強さについては彼女の方が上で眼つけられるとどうも僕の方が萎縮してしまう。どちらがトレーナーなのか分からないくらいに。

「ごめん。遅れて……」

 彼女の顔を直視することが出来ずに、俯きながら僕はそう言った。それでも全く鳴いたりも動いたりもしない彼女に不安を覚えながらも、ゆっくりと俯かせていた顔を上げた。

「あ……」

 目の前の彼女の顔にただ僕は驚くことしか出来なかった。彼女は泣いていたのだ。今までこんな泣き顔なんか見せなかったのに、今はただ涙を流している。それを彼女は必至に堪えようとしているけれども、止めどなく溢れてくる涙を止める術はないようだった。




 今日は彼が家に長くいなかったからなのか、それとも今の時期のこの感情が関係しているのか。よくは分からないけれど、彼を目の前にして涙が止まらないのは事実だった。今まで彼の目の前で泣いた事なんて一度もないけど、自然と恥ずかしさは感じない。彼なら良く私に泣き付くけれど……。

「ガゥ……ッ!」

 それは本当にいきなりだった。彼はあたしの首の後ろに手を回して抱き寄せると、頭をゆっくりと撫でてくれる。ガブリアスになってからは一度も触れてくれなかった彼が、あたしを……。

「ごめんね。本当に……」

 そういう彼の声が、近くから聞こえてくる。今はそれが本当に嬉かった。

 ――でも、こんな時期に彼がまさかここまで近づいてくるとは思わなかった。ふと感じる彼のにおい。息遣い。そして近い顔。触れ合う体……。あたしをその行動に導くには十分すぎる要素がそろってしまっていた。




 ……今、僕は押し倒され、更には床に組み敷かれている。
 腕に感じるのは藍色のひんやりした皮膚と、一本の鋭利な鉤爪の硬い感触。目の前に見えるのは突き出した黄色い頭角の先端に、その両横には黄色く鋭い眼光がこちらを至近距離で見据えていた。時折、横から奥に見える鰭のついた尾が床をパタン、パタンと叩く。そして、剥がされた自分の洋服を見てやっと気づいた。


 僕は今、彼女に襲われたのだと。


「……えっと、ね。何がしたいの?」

 そう問いかけはしたものの、いつもは大人しい彼女のいきなりの行動に平常心を保てるわけも無く。彼女のフシューという荒い息遣いを聞きながら、ただ体を強張らせるしかなかった。

「っ……!」

 いきなり顔を近づけたかと思えば、その口は僕の口を捉えた。あまりに咄嗟過ぎる彼女の行動に口を開けていたため、いとも簡単に彼女の舌の侵入を許してしまう。
 口の中を彼女の舌がぐるりぐるりと駆け巡る。その奇妙な感覚に溺れそうになりながらも、今自分自身が受けていることに対する恥ずかしさも込み上げてくる。しかし拒もうにも彼女の力で押さえつけられた腕は全く動かせないし、口の中を弄られる感触でどうにも全身から力が抜けてしまう……。

「ぷはぁっ……!」

 ようやく彼女が口を話してくれて、今まで上手く吸えなかった息を目一杯吸い込んだ。それは彼女も同じなようで、荒い息を必至で整えようとしている。口から覗く鋭い牙を見て、よく口に当たらなかったなぁと感心しつつも、こんな状況から全く抜け出せない自分自身に嫌気が差すのだった。




 荒げた息を少しずつ整えながら、あたしは次の行動へと動き出す。口の次は勿論彼のアレを弄らせていただく。今まで一度も見たことのないものを見るけれど、不思議と抵抗はなかった。寧ろ見たいという気持ちの方が大きかった。彼の服はもう剥ぎ取ってある。後は視線を下に移すだけ。

「ガゥッ……」

 先ほどの口付けで彼の逸物はそそり立っている。まさかさっきの行動で彼が感じてくれているとは思わなかった。それに喜びを感じながらも、逸物に口を近づけていく……ものの、何だか彼が嫌がっているような気がする。でもそんなこと、糸の切れたあたしにはどうでも良いことになっていたのかもしれない。

「んっ……やめッ……」

 そんな彼の制止の言葉も聞かず、あたしはその逸物を目一杯にくわえ込んだ。牙をなるべく当てないようにして口を上下させ、更には舌をそれに巻きつけて愛撫する。彼の体が小刻みに上下してそれに反応を示しているのを見て、どんどんとそれを加速させた。
 もっと彼の悶える姿を、もっと彼の喘ぐ表情を見たい。そんな淫らな感情が、あたしの行為をどんどんとエスカレートさせていった。

「うあっ……っ!」

 彼がそう一瞬だけ体を強張らせると口の中に何かどろりとした液体のようなものが流れ込んでくる。今まで口にしたことのない味に、嫌悪感を示しそうになったけど、じきに慣れてきてしまう。やがてそれを飲み込むと、まだ彼のモノについた白く濁った液体をぺろりぺろりと舐め取っていく。それだけでも彼の逸物は再び気力を取り戻し、最後の行為に至る為に必要な大きさを満たそうとしてる。でも、まだ早い。早すぎる。彼にはもっと頑張ってもらわないと、この長年溜まった不満は解消しそうにはなかった。




 未だに刺激の余韻が残り理性が虚ろとする中、何故こんなことになってしまったんだろうと、あまり上手く回らない頭で考えていた。その考えの中で、妙に一つだけ強く反応を示すものがあった。今日仕事に行ったミオシティの図書館。その中の一冊の内容を思い出す。

ひととけっこんしたポケモンがいた。
ポケモンとけっこんしたひとがいた。
むかしはひともポケモンもおなじだったから
ふつうのことだった。



 この状況に合うのはこれしかない。……でもなんで? 何故彼女が今こんな行為をしているのだろうか。前々から彼女は僕に対してそっけない態度を取っていたのに、彼女が僕を『好きになっている』なんて思えない。それ以前に、今の彼女は完全に本能でしか動いていない気がする。情欲に揺り動かされて、まるでいつもの彼女とは違う……。
 そこまで考えて、やっと理解する。

 ――彼女は今までずっと我慢してきたということを。

 彼女が僕を意識し始めたのは、ガブリアスになってからだろうか。それ以来彼女はそっけなくなっていた。多分、行為に及べば僕に嫌われると思っていたからなのかもしれない。それからずっと、我慢し続けてきて……。そして今日になって爆発した。朝に荒々しくなっていたのは、それがもう限界になっていたということなんだろうか。そんな中で僕の帰りが遅くなって更にそれは肥大した。……多分、そんな感じなのかもしれない。

 でも、正直打ち明けるのならこんな荒々しい仕方じゃなければ良かったんだけど……。

「んっ……」

 そんなことを考えている最中、僕の逸物は再び彼女に咥えられてしまう。まだ先ほど出したばかりだというのに、彼女はまだそれを欲するつもりなんだろうか。でも、よくよく考えればそれだけ我慢してきたという裏付けでもある。ここは彼女の攻めに耐えるべきだろうか。

「あぁぁッ……!」

 彼女にいきなり吸い上げられ、自分でも出したことのない絶叫を上げてしまう。耐えると意気込んだ後にすぐこれでは何だか彼女の相手が務まるのか、不安になってきた。
 んく、んく、と嬉しそうにのどを鳴らして飲む彼女を見て、こちらばかりが受けていていいのだろうかとも思えてくる。というよりも攻められっぱなしというのも妙に嫌な感じが……。いっそのこと、攻めてみようか……。
 モノを舐めるのに夢中になっていたから大丈夫だろうと力を入れて反転させてみようとするけれど、彼女の体の重さを全く考えていなかった。多分、頭がそこまで回らなかったからだと思う。その挙動を逃げ出そうとしたものと勘違いしたのか、彼女は牙をこちらに向けてきた。

「グァウ!」

 彼女はそう一鳴きすると、牙を僕の首筋に宛がう。決して逃さないという意思表示なのだろうか。それとも、次に動いたら命の保障は無いという脅しなんだろうか。どちらにしても、今動いてはならない。そんな感じがする。いや。正確には全身にその恐怖を叩き込まれて、全く動けない。
 彼女の荒い息が喉元に当たり、僕はただそれが深く食い込まないことを願うだけ。まさか彼女が噛み付いてくるとは思わないけれど、理性を失っているも同然な今の彼女はやりかねない。そんな風になるまで気付かなかった僕の非ではあるのだけど……。




「痛っ……!」

 あたしは彼のその言葉で、現実に引き戻された。そして目の前でつーっと流れていく赤く鉄の臭いをしたものを見て、自分のしたことを酷く後悔した。
 彼の首筋に噛み付いてしまったのだ。そこまで血が出ていない軽症だけれど、あたしの頭の中には彼を傷つけた事実がぐるぐると駆け巡っていた。

「グゥゥゥ……」

 このままでは彼に嫌われてしまうと思って、彼の傷口を舐める。彼には伝わらないかもしれないけれど、あたしなりの『ごめんなさい』を必死で訴えた。なぜそうしてしまったのかは分からない。ただ、彼が逃げるのをあたしは力で押さえ込んだのは確かだった。そのときに自分の理性がほとんどなかったにしても、彼の首筋に噛み付いてしまったことは変えようの無い事実。だからこそ、あたしは必死で彼に……。

「もういいよ。分かったから……」

 不意に耳元からそんな声が聞こえて、舌を止める。彼は今何と言ったのか。あたしは自分の耳を疑う。その言葉はあたしを非難しているかのようで恐かった。でも、それとは裏腹に彼の表情は穏やかで……。あたしは彼の言った言葉の意味を、少し経ってようやく知った。

「でも……謝るのは、本当は僕の方かもしれない」

 そんな言葉が聞こえた瞬間、あたしは口を何か柔らかいもので塞がれてしまう。上手く口元が見えないのだけれど、ややあって何がおきたのかを把握する。彼があたしと……口付けを。それを理解した途端、あたしは本当の意味で混乱状態になっていたと思う。さっきまで嫌々あたしの行為を受けていた彼が、今となってはこちら側が受けになっている。一体、彼はどうしたんだろう。
 やがて彼があたしから口を離す。舌を混じり合わせるような深い口付けではなかったものの、あたしにはそれが意外と長く感じられた。でも、終わってみると短くも感じてしまう。……多分、まだ足りないからだと思う。

「ガブリアスの気持ちに気付かなくて、ずっと辛い思いさせてたんだって、今更になって分かるなんて……。僕って鈍いよね」

 そんなことはない。と、そう強く言いかけたけれど、彼が次の行為に向かうための準備をしていることに気付いて、あたし自身でも分かるくらいに顔が火照っていく。行為を続けようとするって事はまさか……。それとも、その場しのぎの行為なんじゃないかとも疑ってしまう。でも、いつもはおっちょこちょいで頼りない彼だけれども、こういうときだけ良く見えてしまうのは、きっとあたしがこの時期にこんなことをしているから……だと思う。恋は盲目という意味がよく分かったり分からなかったり。

「グゥッ……!」

 いきなりきた刺激に、あたしは思わず体を仰け反らせた。刺激のきた下半身に目を向けると、そこにはあたしの……を舐める彼の姿があった。『どこを?』って思うかもしれないけれど、きっと普通に流れから分かると思うから二度も言わなくて良いよね。

「でも、鈍いなりきにお詫びはきちんとするつもりだから」

 一旦口を離し、彼はあたしの方を向いていった。一方、こちらは初めてくる刺激の余韻を感じることしか出来ないでいる。彼の方が手馴れているように見えるのは何故かは分からないけれど、彼が本当にあたしのことを想ってくれていることに心が躍っていた。

(……?)

 突然刺激が止んでしまったのを疑問に思い、視線を下のほうに向けると彼が寝転がっているのが分かった。突然の行動に、あたしは何をしたらいいのか分からず、ただおろおろと目を泳がせるだけしか出来なかった。




 どうやら今僕がしている体勢をガブリアスは理解していないようで、ただ彼女は目を泳がせていた。出来れば彼女に主導権を握って欲しかったんだけど、分からないのなら少し後押しをするしかないのかもしれない。

「あとはガブリアスの好きにしていいよ」

 その言葉でようやく分かったのか、彼女は顔を赤らめながらも僕の上へゆっくりと覆いかぶさってくる。……何というか、理性を忘れた彼女と普通の彼女の違いがよく分かるのは、それほど溜め込んでいたということなんだろうかとも思ってしまう。でも、今は彼女との行為を楽しんだ方がいいかもしれない。それが彼女への償いだと思うから……。

「クルルル……」

 行くよという合図なのだろうか。彼女は自らの大事な部分を僕の逸物に重ね合わせると、少しだけ深呼吸をし始める。ここからは二人とも未知の領域。きっと心の準備か何かをしているんだろう。こっちはもう出来ているけれど、彼女は今まで理性というものを失っていたから準備が出来ていなかったのかも。やがて、「フシュッ」という言葉と共に、僕達の行為の火蓋は切って落とされた。

「うあああっ……!」

 何の前触れもなく(というには語弊があるかもしれないが)、彼女は一気に腰を下げてくる。慣らすこともしていないため、そこからくる刺激はもの凄いものだった。
 彼女の中に収まっている僕のモノが、両側からぐいぐいと強く締め付けられる。それだけでも強い刺激がきているというのに、更に何度も撫で上げられ、そして再び撫で下げられるその動きにすでに限界が近かった。あまり口を大にして言えることではないけれど、僕はそこまで我慢強くは無くすぐに果ててしまうのだ。自慰をしているときもそうだった。すぐに上がってしまい、結果すぐに終わらせざる得なかった。こんなことで彼女を満足させられるのだろうか。

「グッ……アッウ……」

 ……その心配はどうやら杞憂だったのかもしれない。彼女の方も段々と限界が来ているのか喘ぎ声が高く、更にはその感覚も短くなってきている。彼女もまた、早めに上がってしまうタイプなんだろか。試しにこちらから腰を軽く上げたり下げたりしてみると、彼女は更に善がり声を上げるのだった。

「ふっ…ぅ…あっ……」
「ガゥ…グ…クフッ……」

 くちゅりくちゅり、と速さをあげると共に聞こえ始めるそんな淫らな水音に、僕らは更に興奮していく。何度も何度も抜き差しされるモノに、それを受け止める柔らかな洞はもう既に快楽の水に染まっていた。後はただ、そのときに向かって一心不乱に行為を早まらせるだけ。

 そして……。

「あああっ!」
「グガァァァアッ!」

 二人は一際大きな声を上げて、絶頂を迎えるのだった。





 ――まさか、こんなことになるとは思ってもみなかった。彼があたしの好意を受け止め、また行為もしてくれるなんて。終わった後は夢なんじゃないかと自らの鰭を掻いてはみたものの、「夢じゃないよ」と彼に笑われてしまう結果になった。無論、その後はあたしの口でその笑い声を止めたわけだけれど。
 そんなこんなで、今は彼と共にまたいつもと変わらない生活を送り続けている。ただ、今までの生活と少しだけ違うのは、もうあの不思議な胸の痛みは無いということ。一定周期で訪れていたアレは、一年経っても起こることは無かった。あれは本当に何だったんだろうと思うけど、今まで我慢していた思いを打ち明けられただけでもう気にしないことにしてる。


 ――僕は彼女の相手もしつつ、またいつものように仕事に向かってる。余談だけれど、結局あの図書館で壊れていたものは空調機で、一応僕が直したはずだったんだけれどどうやら寿命だったみたいで。あの日のまた次の日に呼び出されてしまう羽目になった。お陰でまた帰ってくるのが遅くなってしまい、また彼女との一夜を過ごすことになってしまったのだけれど、今回は大分穏やかに行為を進められた感じがする。それはひとえにあの日の行為で、彼女は理性を失うことが危険なことだと理解してくれたのだと思う。ちょっと自分で違う気もするけれど、そこは気にしない。




 何故なら、僕達、あたし達は、永遠の契りを交わしたのだから。



...Fin


お名前:
  • >ラティアスさん
    ありがとうございます。
    人とポケモンの純愛とか割と好きだったりします。

    >シャウトさん
    コメントの返信遅れて申し訳ありません。ありがとうございます。
    ――ウルラ 2013-05-02 (木) 00:47:27
  • やっぱりポケ×人は面白いです。書き方も面白かったです。
    ――ラティアス ? 2013-05-01 (水) 00:26:45
  • やべwwww
    マジGJ!!
    ――シャウト ? 2012-08-05 (日) 03:34:06
  • >カゲフミさん
    はい、私です。たまには作者名なしにて投稿してみました。
    元々例の茶部屋の話から思いついた話ですが、そう言って下さると本当に嬉しいです。
    感想ありがとうございました。と、お粗末さまでした。 -- イノシア ? 2009-07-31 (金) 22:33:54
  • ガブリアス♀に押し倒された人間のトレーナーという素敵な出だし。作者はあなたでしたか。
    ドラゴン好きな私としてはたまらないシチュエーションでした。
    言葉が交わせない設定なので、伝えたくても上手く伝えられないようなもどかしさが良い味を出していました。
    ガブリアスが時折見せていた野性的な雰囲気も良かったです。ごちそうさまでしたw -- カゲフミ 2009-07-31 (金) 20:50:51
  • >メタル狩りさん
    多分このwikiではガブ×人は初めてかもしれません。
    今回は物語を含ませながらも官能を多めに含ませてみました。臆病な人間にも萌えてくださるとは、お目が高いw

    >07-28 01:41の方へ
    ピジョットはモンスターボールの中でムフフですw

    >07-28 22:45の方へ
    そう言って頂けると嬉しいです。

    >07-28 23:14の方へ
    ガブリアスのツンデレは一人称を「あたし」にした瞬間に自然とそうなってしまいましたw
    一人称の切り替えは区切り線を使っていたのでちょっと強引かなとは思っていましたが、ガブリアスの視点で人の言葉に変えないのが統一感になっているのですね。よいアドバイス有難うございます。

    皆さん作品への感想どうもありがとうございましたっ。 -- イノシア ? 2009-07-29 (水) 23:32:13
  • ガブリアスの微妙なツンデレごちそうさまでしたw
    一人称の切り替えでもガブリアスが人の言葉を喋らないのが統一感を出していて良かったです。 -- 2009-07-28 (火) 23:14:55
  • いいはなしだなー。 -- 2009-07-28 (火) 22:45:22
  • ピジョットウマーだなw -- 2009-07-28 (火) 01:41:58
  • ガブリアスと人間の絡みは初めて見たかな…?
    なんてエロチックな良作!臆病な人間にも密かに萌えてたりして…w(ぇ -- メタル狩り ? 2009-07-27 (月) 21:50:13

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Last-modified: 2010-12-28 (火) 00:00:00
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