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北宋之風流天子

/北宋之風流天子

呂蒙

<登場キャラクター>・ネタバレ注意。
趙佶(チョウ=キツ)・北宋王朝8代皇帝
蔡京(サイ=ケイ)・丞相(今で言う総理大臣みたいな人)
エネコロロ・趙佶の愛するポケモン



 第1章・平和な時代

 春の陽光があたりに降り注ぐ。街はいつにも増して、活気付いている。ここ首都、開封(カイフォン)には、北からは陸路、南からは運河を通って様々な文物が運ばれてくる。街の中心には宮殿があり、その周りには碁盤目状に道が敷かれている。街は、城壁で囲まれているので外敵の侵入も気にしなくてもよい。もっとも、ここ何十年かはそんなことはないので、城壁は開け放たれている。いつしか街の人々の間では、「城門が閉められた時にはもうすぐこの国は滅ぶ」とまで、言われるようになった。
 街には様々な店が並ぶ。食品から贅沢品を売る店まであるが、どこも賑わっている。道を人やポケモンが歩き、気に入ったものがあれば購入していく。よほど景気がいいのか、どこの店でも懐から交子の束(札束)を取り出し、大量に品物を買っていく客が一人や二人はいる。
 宮殿から程近い、筆を売る店でも、一人の青年が立ち止まり筆の品定めをしていた。
「何をお探しでしょうか?」
 奥から店の主人が出てくる。すると青年は答えた。
「絵筆を探している。上等の絵筆をな」
(こ、この方は・・・・・・?)
 主人は思った。顔立ちはこれといって特徴もない。端正な顔立ちをしているわけでもない。しかし、服装や身につけているものはどれもこれも、上等、いや最上等のものばかり。まるで、宝石箱が歩いているようだ。店の主人がじろじろ見ていることをとがめるわけでもなく、青年はこういった。
「無いなら、他の店に行くとしよう」
「あ、お、お待ちください」
 背中を向けた青年に、主人はあわてて言葉をぶつける。青年は無視することも無く、くるりとこちらを向いた。
「これなどいかがでしょう」
「ほ・・・・・・これは・・・・・・。この店で一番の品、かな?」
「その通りでございます」
「これにしよう」
 そういうと、青年は懐から交子の代わりに黄金を取り出して主人に渡した。
「・・・・・・」
「おや、足りなかったかな?」
「あ、いえ。ありがとうございます」
 青年は店を出て行った。
(黄金で勘定とは、今時変わったお客だったなぁ。何者なんだ?)

 ◇◇◇

 青年は宮殿へと入っていった。
 門番もとがめない。何故か? 職務怠慢ではなく、彼こそがこの宮殿の主だからである。
「陛下、陛下。お帰りなさいませ」
「おうおう、いい子にしていたか」
 一匹のエネコロロが飛び出してきて、青年に甘える。この青年は、姓を趙、名を佶という者である。後世に「風流天子」とか「徽宗(きそう)皇帝」と呼ばれる人物である。
 北宋の元符三年(西暦1100年)、世の中は平和そのもので誰もが天下泰平の世を謳歌している、そんな時代であった。
 だから、趙佶自身も政治を忘れて、エネコロロと遊び、趣味に没頭する日々を送っていた。それでいてエネコロロの言うころは何でも聞いた。ある時エネコロロが
「ねぇ、陛下。私、果物が食べたいの」
 というものだから、わざわざはるか南方から珍しい果物を持ってこさせたりもした。ちなみに、この時の果物を運ぶのにかかった費用は国庫が負担したという。また、エネコロロを悪く言ったり侮辱したりするものも許さない。ある時、従者の一人が、
「そんな化け猫を側に置かぬ方がよろしいかと・・・・・・」
 と忠告したが、これを聞いた趙佶は切れた。
「この痴れ者がぁ!!! 退がれっ!!!」
 さすがに死罪は免れたものの、この従者は後日、数千里も南にある海南島に転勤になったという。「転勤」といえば聞こえはいいが、地方に飛ばされるということは即ち左遷、赴任地がこんな僻地であれば、超弩級の左遷であり、事実上の流刑であった。
「そ、そんなぁ、あんまりだ・・・・・・」
 この従者は涙を流しながら、首都開封を後にした。
 趙佶の生活は趣味とエネコロロありきの生活になってしまっていたが、本人はなんとも思っていなかった。エネコロロの望むことをかなえてやり、喜ぶ顔を見ているとこちらまで嬉しくなってしまう。趙佶にとってエネコロロの喜ぶ顔は生きる原動力といっても過言ではなかった。ところで、政治のほうはというと・・・・・・。中書省や尚書省から政治向きの書類が来れば
「よきにはからえ」
 この一言。適当以外の何物でもない。とはいえ、やはり皇帝が命令しないと先に進まない事案もあるので、「いやいやながら」政治向きの仕事をすることもあるのだが、普段慣れていないことなので、遅遅として先に進まない。
「え、えーと、ここに花押をすればいいのか?」
「そうです」
 花押とは今で言うサインのことだ。花押を書くことすら満足にできない、それだけ、政治とは無縁の生活をしているのだ。普段は丞相の蔡京が全てを取り仕切っている。この蔡京という人物、表向きは政治手腕に優れたといえなくもない人物であるのだが・・・・・・。
 しばらくたったある日のこと。
「エネコロロ」
「何でしょう?」
「そなたと二人だけで過ごせる場所がほしいのぉ」
「二人だけの場所ですかぁ・・・・・・」
 エネコロロは眼をきらきらさせている。
「さて、こたびの普請誰に任せるか?」
 自分は皇帝なのだ。何かをするのに他人の許可など要らない。誰かがいさめても却下して、それで終わり。
「蔡京殿はいかがでしょうか?」
「そうだな、蔡京に任せれば安心だな」
 蔡京が宮殿に呼ばれた。
「陛下、急なお呼び立て、何事でしょうか」
「うむ、実は朕とエネコロロが二人っきりになれる屋敷がほしいのじゃ。そちに普請の監督をまかせる」
「ははっ、この蔡京にお任せください」
 そう、この蔡京という人物。宰相なら皇帝を諫めなければいけないのに、その逆。皇帝とエネコロロに媚を売り、気に入られるようなことしか言わない。おまけに、裏で政敵を失脚させるなど自分への権力の集中を図るとんでもない食わせ物なのであった。もちろん、皇帝はそんなこと知らない。
 しばらくして、贅の限りを尽くした屋敷が完成した。
「ふむ・・・・・・」
 趙佶は喜ばなかった。
「陛下、何かお気に召さぬことでも?」
 蔡京が不安そうに聞く。
「屋敷自体は気に入っておる」
「と、申されますと?」
「庭が殺風景なのじゃ。この屋敷にふさわしい庭石を持って参れ」
「ははっ」
 こうして、さらに出費のかさんだ屋敷が完成した。
 
 ◇◇◇

 趙佶とエネコロロはこの屋敷に移り、贅沢な暮らしをする毎日であった。
「陛下」
「何じゃ?」
「私、幸せ」
「朕もじゃ」
 体を寄せ合う二人。
「欠けたることもない月が出ておる。美しいのぉ」
「そうですね~」
「ずっとこうしていたいの」
「私もです。いつまでも陛下のお側に・・・・・・」
 しかし、この贅沢のせいで、国庫からはすさまじい勢いで金が減っていった。ついには収支が赤字に転落してしまい、農民からの重税で補うようになっていった。
 平和な時代に暗雲が立ち込め始めた。

 第2章 靖康の変

 二人が贅沢三昧の暮らしをして、政治を省みなくなっている間に、国はどんどん乱れていった。
 そんなときに大事件が起きた。北方異民族国家の金が大群を率いて南下したのである。北宋軍は撃破されてしまい、開封は包囲されてしまった。趙佶はすでに上皇となっていたのでお気楽な隠居生活・・・・・・、というわけにはいかなかった。話し合いをしても一向に結論が出ない。
(もはや万事休すか・・・・・・)
 趙佶は、その夜屋敷に信頼のおける従者を数人集めた。
「もはや、開封は持ちこたえられぬ。そなたたちは、エネコロロを臨安に避難させてほしい。ついては、葛籠にエネコロロを隠し、その上に絹の布を被せる。これで、何とか目くらましになるだろう。さあ行くのじゃ」
 エネコロロは涙を流していった。
「今まで、上皇様とお供をしてきました。私も上皇様と運命を共にしたいと思います。私も開封に残らせてください」
「ならぬ。朕は平和な時代に生まれ、平和と共に生きたかった。が、平和に染まりすぎて、こんな事になろうとは考えられぬようになってしもうた。父上が立て直した国を朕がこの手で壊してしまったのじゃ。せめてもの罪滅ぼしに、この国の最期を見届け、生あるならば、このような愚か者がいたことを後世に伝えたいと思う」
「上皇様・・・・・・」
「そなたは、生まれてすぐに父母を亡くした朕の支えであった。今まで、側にいてくれたこと、いくら礼を言っても言い足りぬ。さ、早く行け」
「上皇様、臨安でお待ちしております」
 趙佶は微笑し、頷いて見せた。そして、従者に旅賃を渡すと、自らは宮殿へと戻っていった。


 終章 五国城

 趙佶以下主だったもの三千人は、金軍に捕まり、数千里も北にある五国城(現 黒龍江省。中国の果ての果てである)に幽閉された。
「おお、満月か。形はいつしかエネコロロと見たものと同じだ。が、この月は青白い。何か、不吉な・・・・・・」
 北の荒野を冷たく乾いた秋風が吹きぬけた。

「北宋之風流天子」終わり

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  • テストコメント
    ――呂蒙 2010-02-12 (金) 00:25:50
  • 中国ですね。
    ―― 2010-02-12 (金) 03:39:53
  • そうですよ。冒頭に説明書いたって、あれ?
    書いたと思ったんだがなぁ・・・・・・。
    ――呂蒙 2010-02-12 (金) 03:43:00
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Last-modified: 2010-02-11 (木) 00:00:00
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