ポケモン小説wiki
創造神のメモ帳

/創造神のメモ帳

大会は終了しました。このプラグインは外して下さって構いません。
ご参加ありがとうございました。
官能部門・投票結果

官能部門エントリー作品一覧
非官能部門エントリー作品一覧




 この小説には、ポケモンの獣人化、竜人化、殺人、グロ、特殊官能表現(複乳)など、個人の好みが分かれたり、人によっては嫌悪感を感じる表現があります。
 これらが苦手な方、耐性が無い方は閲覧をお勧めいたしません。
















「なんだよ、またお前小説書いてんのかよ」
 ノックもせずに部屋に入ってきた友人がパソコンの画面を覗き込んで不愉快そうに呟いた。彼は暑苦しそうに背負っていたバッグを遠慮なくオレのベッドへ下ろし、パソコンデスクの椅子の背もたれへ肘を突く。
「わざわざ電車で片道260円も使って遊びにきてやったのに、一人で何やってんのさ」
「お前が勝手にアポ無しで来たんだろ。アポが無いなら俺には俺の自由があるし」
 折角頭に思い描いていた世界が歪み、不鮮明になってしまった。あと少しで区切りがいい場所までいけたというのに。
「あれか、不定期にある小説大会とかいうやつか」
「あぁ、久々にな」
「ポケモン小説、ねぇ。ほんっと、ポケモン好きだよな。ま、ケモナーだから仕方ないか。それよりス○ブラしようぜ」
 この友人ときたら、高校まではたった一人でも身体を動かすのが好きな運動バカだったのに、今ではゲームの面白さに目覚めてしまって家庭用据え置きゲーム機をわざわざ持ってきては俺を巻き込む始末。締め切りまであと三日もないというのに、この週に一度しかない休日を自分の時間として使わせてくれない。
「あのな……いきなり来るならせめて手土産の一つは持って来いよ。"一応"友達の俺だからいいけどよ、仕事だとかでそんなことしたら閉め出されるぞ。てか、最低でも家を出る前に電話ぐらいしろ」
「ごめんごめん、ゲームしよ」
「はぁ……」
 彼の運動バカから生まれた情熱や熱心さが大学卒業後の社会で欠点になりそうだ。幼馴染としては直してやりたいが無理な相談だ。
「わかった。俺も予定があるから夕方までな」
 そして俺はパソコンをスリープさせてゲーム機のセッティングを手伝った。



 そして、彼が帰ったのは結局夜の六時だった。
「ったく……サバゲの時間が一時間少なくなったじゃねーか……」
 サバゲというのは、エアガンで撃ち合う大人の遊びだ。銃は見た目本物そのもの。身に着ける装備も軍や特殊部隊のものと変わらない。それがプレイヤーを興奮させる。一発でも当たれば即死に繋がる本物の戦闘と同じく、一発でもBB弾が当たったら即退場。故にエアガンのメンテナンスは重要だ。俺は最低でも30分はメンテナンスに時間をかける。マガジンのバネは弱くなってないか、ポンプのゴムは劣化していないか、等々。
 そして用意が済んだ俺は部屋の明かりを消し、やや散らかった部屋を真っ暗にした。唯一、パソコンはスリープで放置されていて電源ランプがオレンジに光っている。玄関に鍵をかけ、アパートの駐輪場へ向かう。彼女ができて結婚するまで一人暮らしするには丁度良いくらいで、家賃も3万円弱。趣味はサバゲとパソコンくらいで、毎月趣味に使うのは精々2万。貯金もそこそこできているし、なんら不満のない生活だ。
 二つのバッグをバイクのサイドに装着し、ダットサイト付きタクティカルショットガンと大型ハンドガンが入った大きなガンケースを背負ってエンジンをかける……そして、春のやや暖かくなってきた夜の道をややスピードを上げて走り抜けた。
 街は丁度夕飯時で、飲食店を求めて走り回る車が多かった。それもつかの間。街を出てしばらくすれば山に入る。さらに奥へいけば、サバゲー場になっている廃工場は見えてくる。そこが今夜の俺の戦場。
 あたりに他の車も無くなり、乗っているバイクの明かりだけが目の前を明るく照らしている。ただただ、目的地までの冷たいコンクリートを照らし、そこに落ちている小石をタイヤで弾き飛ばしていく。ふと視線を落とせば、バイクのキーから垂れているポケモンのキーホルダー。グレイシア、ガブリアス、マフォクシー、スイクン、ルカリオ、コジョンドのメタルチャーム。ポケモングッズ専門店をハシゴしてわざわざ探し回った子だ。俺のお気に入りで、ゲームでもこの六匹だけは愛情こめてポケパルレで遊び、育て、可愛がった。部屋にこの子達の人形もある。ネットで見かけた、「人形にオナホを装着できるようにする方法」というのを実行しようとしたがなんだか恥ずかしくてやめた。
 あとちょっとで会場に到着するだろう。工場跡の明かりが木々の奥にちらついてきた。ハンドルを握りこみ、ややスピードを上げた。ちょうど、80km/hでストレートにさしかかった時、目の前が急に明るくなった。目を開けていられないほど。そして俺は一瞬で理解した。

 対向車

 後悔した。運転中にポケモンの事を考えてしまい、早くサバゲがしたいばかりに、スピードを上げすぎて中央線をはみ出て対向車線を逆走してしまったのだ。

 ライトの高さ的に、相手は大型トラックだろう。あぁ、そうだ、廃工場のさらに奥に新しい工場があるんだった。

 そういや、小説ってどこまで進めたんだっけ。

 そんなことはどうでもいい。今俺は死ぬんだから。

 どうやって死ぬんだろう。

 脳が弾け飛ぶ?

 全身打撲でショック死?

 それとも吹っ飛ばされて崖下へ落下死?



 俺は…………死んだ?





 気が付けば、俺はバイクに跨ったまま、ハンドルに伏せていた。辺りは暗い。真っ暗だ。
「死んだのか?」
 声が出る。呼吸ができる。手足が動く。なんだか、背負っているガンケースがやたら重い。ともかく、状況を確認しようと腰のポケットライトで辺りを照らす。しかし、そこは俺が居るはずの山道じゃなかった。
 コンクリートで舗装はされているもののやや乱雑な道路だ。崖側を見れば俺が住んでいる町と思われる明かりはあるが、高層ビルやその類は一切無いはずなのにその明かりが地平線いっぱいに広がっている。
「…………」
 バイクのエンジンは止まっている。損傷は一切無く、俺自身も怪我は全く無い。荷物も無事だ。だが……
「電波が……」
 途中、電話があってほんの数分前まで使えていたスマホが圏外。電話や通信するアプリは一切使えなくなっていた。
『只今、電話をお繋ぎすることができません。電波状況を確認してください。只今――――』
「と、ともかくここじゃ邪魔だ」
 バイクを道の端へ寄せようと重心を戻すと……俺の予想を裏切りバイクが右へ倒れてしまった。なんだか、バイクの重心が右にずれている気がする。ともかく、荷物の点検だ。
 バイクの左側のバッグには迷彩服、ヘルメット、ゴーグル、目出し帽、グローブ、肘膝当て、防弾ベスト、マガジンポーチ、ホルスター。ここまでは異常なし。次はBB弾やエアガンのマガジン、エアガンの確認だ。問題のバイクの右側にあるバッグを開けると……
「うわっ!?」
 BB弾とマガジン、ガス缶程度しか入っていなかったはずのスカスカのバッグには、大量の本物の弾薬が入っていた。ハンドガンの弾、ショットガンの弾。ショットガンの弾に関してはスラッグ弾という一発の弾頭を発射する弾薬と、5番ショットゲージという散弾の二種類。全て、丁寧に紙製の箱に入っていた。
「ど、どうなってやがんだ?」
 まさかと思い、背負っていたガンケースを下ろして中身を確認する。

 カチャッ……ガパァッ……

「……何も……変わってない?」
 見慣れた俺の愛銃。ダットサイト付きタクティカルショットガンと大型ハンドガン93R。固めのスポンジに沈み込んできっちりと収まっていた。ハンドガンを手に取ると、なんだかやや重くなっているような感じがした。というのも、重心が本物のようなのだ。恐る恐る、グリップの底を見てみる。すると、見慣れない形のマガジンが納まっていた。本来やや細長いはずのマガジンなのだが、なぜかグリップよりやや小さいくらいの大きさになっていた。マガジンキャッチを押して引き抜いてみると……それは本物のハンドガンのマガジンそのものだった。
「…………嘘だろ」
 ショットガンも見てみる。ショットシェル型のマガジンが納まるはずの場所は空。ポンプアクションをして薬室を開放してみると、そこにはエアガンのマシンボックスではなく、本物の薬室があった。同時に、赤いショットシェルが送り込まれてしまった。
「ほ、本物になってやがる……!?」
 こんなもの、他人に知られたら警察につかまってしまう!慌ててガンケースに収めて背負いなおす。
「ともかく、こんなんじゃサバゲなんかにゃ行けない……」
 ややデコボコとした道を戻り、自宅へ帰ろうとした。



 山を抜けて電線がある場所まで来たが、まだ辺りは畑が広がる。まぁ、ここならば電話も……と、思ったが、やはり電波が来ていない。衛星通信も駄目。マップで現在地の確認もできない。そして、俺は街に入った。なんだか胸騒ぎがする。俺に視線が集まる。目は合わせていないが、視線を感じる。
「……なんか変だな」
 とにかく自分の方向感覚だけを頼りに見慣れない街を走る。そして、時間と共に少しずつおかしい部分が目に入り始めた。

 見たことの無い車。

 見たことの無い読めない文字と看板。

 見たことの無い店。



 そして


 見たことのある 顔


 そこでようやく初めてこの街の赤信号でバイクを止めた。

「ママー、絵本に出てきたのがいるー」
「コスプレにしてはあまりに手が込んでないか?」
「何あれ…」
「つ、通報したほうがいいんじゃないか?」

 シルエットは人間に似ているが、骨格がややおかしい。上半身は人間のようだが、下半身が動物的だ。そして、偶然街灯ではっきり姿が見えた。

 ポケモンだ

 それも、俺が何度も何度も妄想し、何枚もの絵にしてきた『獣人』や『竜人』!

 信号が青になり、さっきから寒気を感じる背筋を強張らせながらバイクを急発進させた。こんなの、普通じゃない!俺は、トラックと正面衝突して死んだ筈だ!これは自分が作り出した幻想なんだ!はやく、目を覚ましてあの世に……いや、ここがあの世……なのか?
 信仰や神はいくつも存在する。死後の世界も、その信仰の数だけある。これが、その死後の世界だというなら、それはおかしすぎる。なぜ、ポケモンなんだ?なぜ、十数年前に生まれたポケモンなんだ?なぜ人間が居ないんだ?なぜ死んだときの姿と持ち物で、一部が本物になるんだ!?

 な ん で 俺 は こ ん な 世 界 に 来 ち ま っ た ん だ

『そこのバイク!道の脇に寄せて止まって!』
 気が付けば、けたたましいサイレンとやや割れた拡声器の声がしていた。ほぼ反射的にバイクを止め、指示に従う。
「君ィ、その姿はなんだい?「イリュージョン」でそんな姿になってるのかい?それは犯罪だよ。分かる?それに、ナンバープレート、海外のバイクをそのまんま使ってないかい?」
 警察服の若いジュプトル竜人が横にやってきて、ジロジロと俺の顔を見る。呆れ七割驚き三割、といったところか。
「俺は……人間だが」
「はは、もっとマシな嘘はつけないのかい?ともかく、現行犯逮捕ね」
 気が付けば、彼は腰の手錠を手に取り、俺の手を掴もうとしていた。
「や、やめろ!」
 そして無意識にその手をはたいてバイクのアクセルをふかし、急発進して逃げた。こんなの、理不尽だ。意味不明だ。後ろで、あの警察官が無線で応援を要請しているのが聞こえる。こんなところで捕まったら何をされるか……!!
「うぉっ!?」
 早速俺の知る世界では起こりえない現象に遭遇した。歩道を歩く人々が、いや、ポケモン達が攻撃を仕掛けてきた!どれも威力の低いもので、種や小さな火の粉が飛んできてはバイクや体に当たって弾け、後ろ斜め上を見れば飛行タイプのポケモンやその他の飛べるポケモンが追いかけてきていた。
「冗談じゃn」
 そう言いかけた時、全身を凄まじい電撃が駆け巡った。目の前に星が飛び交い、体が言うことを聞かずに痙攣し、ハンドルから手を離してしまう。そして、無人のバイクが走っていった。あれって俺が乗ってるはずのバイクじゃないか。変だな。やけにゆっくりとそのバイクが傾き、横転して火花を散らしていく。そして、俺の体が糸の切れた人形を放り投げたように地面を跳ねて転がり…………世界が真っ黒になった。





「DNAデータ照合結果は?」
「例の資料から予想した通り、この世の全ての種族と40%前後で一致。レントゲンやCTスキャンの結果も、内臓もレントラー種やグラエナ種等の獣人系、リザードン種やガブリアス種等の竜人系、その他鳥人系、希少な伝説系ともほぼ一致しました。恐らく、それらの種族と交配も可能かと」
「なるほどな」
 俺が目を覚ますと、そこは刑務所の冷たい牢屋ではなかった。
「健康状態に異常無し。ですが……やはり捕獲の際の攻撃が過剰だったようで」
「ふむ、所々軽い火傷が見られるな。「ひのこ」のダメージか」
「はい、自己治癒能力は我々と比べるとかなり低いようです。ご覧の通り、あれから二日も経った今も火傷は残ったままです」
 俺は白い短パン一枚姿で、ガラスの大きな筒の中に寝ていた。床は鉄なのか、すごく冷たかった。
「ん……『ニンゲン』が目を覚ましたようだな」
 あの電撃と火の粉の所為で痛み痺れる身体を起こし、立ち上がると、白衣を着たネイティオ鳥人が近寄ってきた。
「おい、何のつもりだ!ここから出せ!」
 俺はこのまるで実験用のモルモットのような扱いに腹を立て、ガラスへ拳をぶつけ怒鳴りつけた。が……
「おお、我々と同じを言葉を。しかも身体能力もそこそこあるようだ」
「なかなか雄雄しくで逞しい声ですね。今出たデータによると、彼の筋肉量、体脂肪率、どれもすばらしい限りです。何か日常的に運動をして鍛えているようです」
 痛む拳を揉みながらガラスの外を観察する。どうやら研究施設のようだ。俺は直径2mのガラスの筒に閉じ込められていて、出口のようなものは何処にもない。ただ、通気口のような小さな穴が無数に天井にあるだけだ。ネイティオの横で、同じく白衣を着たグレイシア獣人がタブレットを片手に俺を見ていた。女性なのか、胸が大きく膨らんでいる。よく見れば、この二人だけでなく、数人の獣人や竜人がパソコンモニターをにらんでいた。
「こら!ちゃんと聞いてやがんのか!出せって言ってんだろうが!!」
 しかし、俺の言葉は気にしていないのか、それとも無視しているのか、二人でいつのまにか調べ上げた俺の身体データを参照していた。それが腹立たしくて、ひたすらガラスを殴り続けた。拳が擦り剥け、痣ができ、血が滲んできてガラスを赤く汚していく。
「ぬっ!?いかん、暴れて怪我をしはじめよった!」
「人工ねむりごな、噴射します!」
 ガラスにヒビが入った。ここを集中して殴れば……!
「カプセルに亀裂発生!」
「さらに損傷拡大!このままではカプセルが壊れます!」
 意識が遠のいてきた。拳の感覚もなくなってきた。肘で亀裂を殴り、さらに亀裂を広げていく。
「このままでは!」
「所長!離れてください!危険です!」
「ねむりごな散布率100%!」
 視界が暗くなってきた。瞼が閉じてきてるのか?思いっきりガラスを殴っているのに、手ごたえがなくなってきた。
 そして、視界が真上へ向いていくのを最後にまた俺は暗闇に落ちていった。

 気が付けば、このガラス容器の中で俺は一ヶ月も過ごしていた。その間、ありとあらゆる実験をされた。普通に血液を採取されたりした以外にも、内容次第では死に掛けたことすらあった。中の空気をギリギリまで薄くされたり、毒ガスを入れられたり、与えられるよくわからないペースト状の食事には薬物が入っていたり、俺の知る機材で言うなら「胃カメラ」のようなもので体内を見られたり、火傷をしない程度のあらゆる温度の水に放り込まれたり、とにかく、拷問ともいえる仕打ちを食らい続けた俺は、もう立ち上がる力もなかった。あの不味いペースト状の食事も食べる気がしないし食欲も無い。
「所長、もうこれ以上は彼の身体が持ちません。流石に……可哀想です」
 グレイシア独特のひし形の大きな耳がゆっくり下を向き、表情が曇る。タブレットを持つ手に力が入っているのがわかる。タブレットが小刻みに震えている。
「だからといって、この幻だったはずの生命体の研究をやめろと?」
 だからなんだというのだ。とでも言いたげな視線をグレイシアへ向けると、不機嫌そうに目を細めるネイティオ。
「そうではありません。ただ、結果を急ぎすぎて彼の負担が」
「その点ももう気にする必要は無い。あと2つの研究で最後だ」
「もうこれ以上何を調べるというのですか?」
 聞きたくない。俺が今まで見てきた宇宙人ものの映画も思い出したくない。映画の中で、外見や身体能力を研究し尽くされた宇宙人がどうなったか。それが、俺にされようとしているということすら、俺は理解したくなかった。だが「2つ」というのは気になる。俺が考えたくない1つと、あともう1つは?
「研究初期から構想が組まれていた『交配プロジェクト』だ」
 …………そうか、確か、『交配が可能かもしれない』とかいう事、言っていたような……その『交配』ってのは、間違いなく……
「しかし、被検体志願者なんて……」
 所長と呼ばれていたネイティオが、抗議を始めたグレイシアに銃を向けた。そう、それは俺の93Rだ。
「これの脅威はデータで見ただろう?実験体がまた暴れ出すとも限らないからな。これは凄いものだ。遠くからでも場所次第では一撃で命を奪える」
「しょ、所長……まさか」
「そうだ。お前が実験体とセックスし、孕めるかどうか、出産し、その子供が生きれるかどうか……調べるのだ。無論、ここの研究員だけが知る極秘の研究だ。彼の人権やらなんやらと世間がうるさいのでな」
 よく見れば、研究室にはこの二人しかいない。狂った俺の体内時計ではわからないが、恐らく今は一般の勤務時間外。深夜なのだろう。
「そんな……そんな事をしなくても、彼から精子を採取して試験管で受精検査すれば済むことではないですか!!」
「もし受精したら、結局の所お前の子宮に移植するつもりだが?人工子宮での試験管ベビーの生存率はまだまだ低くて確実性が無い」
「断ったら……」
「私の人差し指がこの金具を引いてしまうな」
「…………」
 グレイシアの視線が俺とぶつかる。恐怖に怯えている瞳を、初めて見た。

 俺は何もしない。

 口パクでゆっくりそう伝えた。ネイティオは俺に背中を向けていて気が付かない。グレイシアはそれを知ってか知らずか、俺の意図に気づいているのかいないのか、何も反応せずにネイティオで視線を戻してうなずいた。
「無論、見られていては恥ずかしいだろうからな。専用の部屋を用意した。カメラやマイクの類は無い。出る時はドア横のパネルで私に連絡したまえ。そうしたら、護衛と共に迎えに行こう。場所はこの部屋の真下だ。猶予は一週間。その期間内ならいくら時間がかかっても構わん」
 ネイティオが振り向き、ガラスケージの横のパネルを操作した。すると、俺がいるこのガラスケージごと、エレベーターのように下がっていき、二人が見えなくなっていく。
「セックスしたかどうかなんぞ、すぐに分かるのだからな。お前自身、良く知っているはずだ」
 それを最後に、俺はまた暗闇へ降りていった。



 どれだけ待っただろう。もしかしたらたった数分かもしれない。もしかしたら一時間かもしれない。暗闇っていうのは、不思議なもんだ。何かモーターの音がして、それが止むと急に明るくなった。その急な明るさに目が慣れなくてまぶしかった。何度も瞬きをして慣れてくると、ようやく自分がいる場所が把握できた。
 ごく普通の寝室のようだ。黒をメインにした部屋で、ベッド等の寝具以外は黒に統一されている。俺は丁度その部屋の角に居た。いつの間にかガラスが無くなっていて、足元に丸い鉄の床が残っていた。どうやら、ガラスの部分だけがスライドして上か下に収納されたようだ。
「大丈夫?」
 あのグレイシアの声がして、横たわったままその方へゆっくり顔を向けた。彼女は白衣のままこちらへ歩み寄り、俺の頬を撫でた。その手はひんやりしていて心地よかった。この床の冷たさと違って、優しさがこもっている。
「ああ、なんとか」
 その自分の声は想像以上に掠れていた。本当に自分の声なのか疑わしいくらいに。
「ごめんなさい……もっと早く所長に警告していれば彼も思い直してこんな事にならなかったかもしれないのに。今、彼は何かに取り付かれたように貴方を調べつくそうとしてる……あれは異常だわ」
 彼女の綺麗なサファイアのような瞳が潤む。
「銃をむけられちゃ、お前も逆らえないさ……」
「じゅう……というのね」
「ああ、俺の世界の武器だ。お前は悪くない」
「…………」
 そこで会話が途切れた。やはり、俺とセックスするのはものすごく躊躇われるんだろう。そりゃそうだ。彼女から見れば、いや、この世界の住人から見れば俺は宇宙人みたいなものだからな。
「猶予は1週間……だったな?」
「ええ」
「……俺を逃がしてくれないか?」
 彼女もその考えだったのか、数秒後に深くはっきりとうなずいた。
「でも、今の貴方は体力も消耗してかなり衰弱しているの。猶予があるうちはしっかりと食事をして回復させなければ、いざというときに逃げ切れないわ」
「ありがとう……でも、あの不味いドロドロしたレーションはやめてくれよ」
「もちろん。貴方の消化器官が私たちとほぼ変わらないと分かった時点であの食事は変えるべきだったのに、何かの手違いでそのままになっていたの。立てる?」
「どうかな」
 ここでようやく俺は立ち上がろうと身体に力を入れた。上半身は上がるが、なかなか腰が上がらない。まるで全身に錘がついているかのようだ。
「一人で立てないなんて……相当酷いわね。ほら、肩貸すわよ」
 と、彼女が俺の腋へ肩を入れて支えてくれた。が、やはり俺の体重を支えるにはか弱くやや辛そうだ。
「隣に部屋がもう一つあるの。所長がわざわざこの区域からなるべく出なくてもいいようにと、生活設備を置いてくれたらしいわ」
「そりゃありがたいことで。もうあの研究室には戻りたくないし」
 その部屋へは自動ドアで繋がっていて、行き来が楽だった。その部屋は白がメインで明るく、俺が知る一般的な洋風な家そのものだった。が、キッチンが見当たらない。それに、家具は一切動かせず、凶器になりうるものは一切置かれていない。
「あの所長は俺がお前を殺すとでも思ってんのか?」
「さぁ……万が一、という可能性があるから仕方ないといえば仕方ないわ。でも、監視カメラやマイクが無いのは助かったわ」
「ま、6日間はゆっくりさせてもらうよ。俺はリュウト。お前は?」
「シヴァリエ。シヴァって呼んで」
「シヴァ……?……まさか、フルネームはシヴァリエ・ブルーじゃ……」
「な、なぜその名前を!?」
 驚いたシヴァは俺を思わず床へ放り出してしまい、俺は盛大にひっくり返った。
「偶然かもしれないけどな、俺が前書いてた小説に出てくる登場人物とそっくりで……聞いてみたんだ。あのネイティオも、そっくりだ」

 そして、あの残酷な実験から離れ、ようやく落ち着いた時間を過ごすことができた。娯楽は何もなかったが、シヴァが毎日この区画へやってきては話を聞かせてくれた。この世界はどんな場所なのか、政治はどうなっているのか、通貨などの生活に関わる最低限の知識。どうやら俺がいた世界とほとんど変わらないみたいだった。ただ、武器に関しては根本的に違った。人間には鋭い爪も無ければ牙も無く、空を飛ぶ翼も無ければ水中を泳ぐ鰭も無い。そんな人間だからこそ「武器」という道具が必要だった。が、彼女ら獣人や竜人は違う。ある者は火を吹き、ある者は触手を鞭のように扱い、ある者は気象や自然の力を使う。ともなれば、武器など荷物でしかない。
 あと、この世界の住人について。彼らは自らをポケモンとは呼ばず、ニューマンと呼んでいた。それも、俺が言う人間が彼らにとっては遥か昔何億年も前の存在らしく、その後に生まれたから「ニュー」マンというらしい。が、物的証拠や根拠があるわけでなく、殆ど推測なんだそうだ。
 それが始まった唯一の遺品が、この研究所の近くの博物館に保管・展示されているらしい。一体、どんなものなんだろうか。俺のような人間が残したものであれば、少なからず俺が知るものだとは思うんだが。


 そして、疑惑が確信に変わった。そう、ここは俺が作った小説の世界だ。でも、あれはまだ途中だ。記憶が正しければ主人公が街で意識をなくすところまでだ。
 そう、今はもう俺の知らないシナリオの中にいる。

 時間はすぐに過ぎていった。6日目の朝、俺はすっかり全快してた。いつもどおりの筋トレはできるし、手足の感覚も元通りだ。
「もう大分よさそうね」
 そこに、いつものように朝食を持ってシヴァが区画の入り口から入ってきた。扉が閉まる直前、外にもう一枚の扉があるのが見えた。あれが、シヴァが言うこの区画を隠すカモフラージュドアらしい。外からは何も無いただの壁に見えているらしい。が、特定の登録された人物が近くに行くと、わずかに小さなボタンが浮き上がり、それを押せば開く仕組みらしい。が、出るときはあの所長の操作でなければならない。
「ああ、おかげさまで。で、逃走経路は」
「それが……」
 テーブルにサンドイッチを置いたシヴァの表情が曇る。
「……私、この区画へ閉じ込められることになったの」
「何!?」
 直後、この区画から出る唯一の出入り口が分厚い特殊隔壁で閉じられてしまった。見たところ、こちらから開ける手段は無いようだ。
「貴方とセックスをするまで、その証拠を見せるまで私たちを出すつもりは無いらしい。抗議しようとしたら、またあの武器を向けられたわ。彼に何も進展してないのを知られたみたいで……」
「……やられたな」
「どうやら、私の心を読んだみたいなの。サイコキネシス(読心術)よ」
「厄介だな……」
「ただ、彼にも弱点があるの。私の考えに乗ってくれないかしら」




 そして、気が付けば時計は夜の10時。ベッドに俺とシヴァは座って黙りこくっている。
「…………」
「…………」
 先に動いたのはシヴァだった。座った状態の俺に押し倒すように抱きつくと、その水色のややひんやりした裸体を寄せてきた。
「いいのか、本当に……俺は異世界の住人で……」
「ええ、確かに最初は近寄り難かったわ。でも、6日間こうして会話していて、姿以外何も私たちと変わらないんだと、ようやく理解したの。それに、この6日間貴方は優しくて……異性としてとても魅力的だわ」
「そうか?俺は他と比べたらあまり筋肉はないし、腕も太くないし……」
「何も、異性選びは外見だけじゃないわ」
 彼女が、こんなにも積極的だとは。最初に見ていたあの冷静な研究員の彼女は、偽りの姿だったんだろうか。細くて繊細なその藍色の手を俺のあまり厚くない胸板へ這わせ、首筋、頬へと移動させる。そのくすぐったいような切ない感覚に、俺の股間が少し反応し始めた。
「孕むかもしれないんだぞ……しつこいようだが、いいのか?」
 答えは無かった。代わりに、短いマズルの綺麗な唇が俺の口に重なった。やっぱり少しひんやりしているが、その初めてのキスはほんのりと甘かった。それを合図に、思いがけない合意の上の行為は始まった。出会ったばかりなのに、いつの間にかお互いに惹かれていた。彼女も初めてで知識が浅いのか、ただ重ねるだけでじれったそうにして唇を離した。
「どうせするなら、嫌々するよりはいいでしょ?」
「そうだな」
 この流れなら自然か。何度も妄想しては絵を描いたりオカズにしていた、獣の乳房に手を伸ばした。彼女は複乳らしく、一番上の一対から下へいくにつれて小さくなっていく8つの乳房が2列で並んでいる。一番上の乳房はギリギリ掴める巨乳。一番下は乳首しかないような貧乳。その差がなんとも言えず、興奮する。
「んっ、人間と違うのに、私なんかで興奮できるの?」
 その乳房は最初はひんやりしていたが、揉んでいるうちに段々と温かくなってきた。藍色の卑猥な長い乳首も、小指の指先並みに勃起して自己主張を始めた。まるで水風船を揉んでいるような弾力だ。その8つの乳房を品定めするように揉み比べ、乳首を摘んだり弾いてやる。
「ああ、俺は変わり者でさ。シヴァみたいな獣人が好みだ」
「こ、こんなでも?」
 やはり、彼女が行動を加速させていく。俺を跨ぐようにして膝立ちすると、恥ずかしそうに自らその雌の花園を見せてくれた。動画でみるような人間のものとは異なり、割れ目がI字ではなくY字だった。獣絵師が描く生殖器そのものだった。興奮で肉が充血し、ぷっくりとそこだけが盛り上がってやや赤くなっていた。
「ああ、凄く興奮する……」
 彼女を驚かせないように、手が見えるようにそこへ触れる。彼女がくすぐったそうに小さく声を漏らし、身体が震える。躊躇わずその割れ目を人差し指と中指で開いてみる。予想通りの綺麗なピンクだが、やっぱり人間と違いなかなか尿道が見当たらない。クリトリスもちゃんと探さなければみつからなかった。が、それ以上に膣口がぴっちりと閉じていて卑猥だった。そこは雄を求めてヒクヒクと蠢き、透明な粘液をたらし始め、俺のそそり立つ肉棒を濡らしている。さらに奥を開いてみれば、膣口のやや奥に薄い膜が見えた。どうやら、今回が初めての行為らしい。
「っ……リュウト……わ、私っ、もう本能を止められないっ!」
 あっと言う間だった。いきなり俺の肉棒を掴んだと思うと、腰を下ろしてそのお互いが未経験の領域へ踏み込んだ。掴まれた快感を感じる暇もなく、ヌルッとした熱い肉に俺の肉棒が飲み込まれてしまった。
「うぁぁ!し、シヴァ……!」
「キュゥゥン……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 ふと彼女の目を見れば、それはもう俺が知り始めていた彼女のものではなかった。本能と欲望に沈んだ鋭い目だった。謝りながら、鮮血をわずかに滴らせる肉穴で俺の肉棒を飲み込み、絞り上げる。俺の胸に両手を置き、激しく腰を上下させて快感をむさぼる。
 静かだった薄暗い寝室に腰がぶつかる乾いた音が響き、水色の獣が俺の肉棒に乱れ狂う。複数乳が跳ね回り、乳房同士がぶつかるペチンペチンという音も混じる。どうやら、彼女の獣の本能を掘り起こしてしまったようだ。
「くぅぅっ、お、奥のコリコリした肉が……」
 おそらくそれは子宮口なのだろう。亀頭にやや堅い肉がキスをするように触れては吸い付く。膣も周期的に痙攣して締め付け、凄まじい快感を叩きつけてくる。まさか、妄想の世界でしか存在しなかった彼女と、こうして交わることが
できているなんて、まるで夢のようだった。
「きゃぁぅ!?」
 ここまできたら思いっきり激しく、気持ちよくなってしまおう。上半身を起こすとシヴァの複乳に顔を埋めるように抱きつき、彼女の処女だった穴を下から激しく小刻みに突き上げる。その乾いた音も早くなり、聴覚の敏感な彼女をさらに興奮させるには十分だった。
「は、恥ずかしい音がしちゃってる!そんな激しくしたら……ぁっ!」
 俺も目の前の雌をむさぼるのに夢中だった。異世界にきてしまったことも、捕まっていることも、全部忘れて彼女を気持ちよくさせ、一緒に絶頂を迎えたかった。切なそうに振り回されている長い乳首にしゃぶりつくと、軽く歯を立てたりして弄り、俺も獣になったかのように激しく交わる。
「や、やだっ……もう、人間のおち○ちんにハマッっちゃう!亀頭がコリコリして気持ちよくてっ……イクっ!」
「お、俺もっ!シヴァのぷっくりしたマ○コが根元に絡み付いて撫でて……!」
 いつも一人でしているときよりも遥かに早く絶頂を迎えてしまった。射精の直前に大きく引き抜くと、シヴァが跳ね上がるほど乱暴に突き上げた!

ビュ、ビュルッ、ビューッ、ブビュビュビュビュルルルルルッ!

「―――――――――――――ッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 シヴァと絶頂が重なったらしく、彼女へ想像を絶する快感が襲い掛かった。大きく身体を反らしてアヘ顔を決め、ビグンッ!ビグンッ!と激しく痙攣し始めた。
「――――っ、シヴァ、大丈夫か?」
 射精が終わり、シヴァを心配して優しく抱きなおす。ふぐりに感じる感覚で、結合部から俺の欲望が漏れているのか分かる。
「……き、気持ちよすぎて死ぬかと思ったわ……セックスは痛いと聞いてたけど、違うのね」
 少し反応が遅れたが、ややうつろな目で俺を見つめてきた。どうやら平気なようだ。
「はは、まぁ、俺のは多分この世界の雄とはアソコの大きさとか形が違うから……」



 そして、俺とシヴァは部屋から出るべく所長がくるのを待った。その間、俺は寝室のガラスシリンダーの中で待機となった。シヴァは股間から白い液体をたらしたまま裸でベッドに座っている。白衣くらい着せてやってもいいのに、あの腐れた鳥は何を考えているのか、そのままでいることを要求した。
「…………」
 彼女はまだ興奮が納まらず、時々自分の乳房を揉んだり股間を弄っている。
「おい、大丈夫か」
「……ん、あぁ、平気よ」
 声をかければ我に返っておとなしくなるが、放っておけばすぐにオナニーを始めてしまう。本当に何が目的なんだ?そうイライラし始めた時、ようやくあの出入り口が開いた。が、入ってきたのはあの所長じゃなかった。あまり白衣が似合っていないゴーリキーとボーマンダ竜人だった。
「へへ……」
 なんと、二人はシヴァへ迫ると白衣を脱ぎ捨てた。たったそれしか身に着けていなかったらしく、禍々しい大きさの逸物が二本、彼女の目の前に突き出された。
「っ、貴様ら、何のつもりだ!!」
 だが彼らは俺を無視してシヴァをいきなりベッドへ押し倒した。彼女もさすがに抵抗し、暴れるが……そのゴーリキーとボーマンダの力にグレイシアが、雌が敵う筈もなく、瞬く間に手足を縄で縛られてしまった。
「ゴムさえつけりゃ、俺らがヤッたって所長にはばれないさ」
 ゴーリキーが彼女を無理やりお尻を突き上げるような体勢にさせ、お尻側にいるボーマンダは勃起した巨根に特大サイズのコンドームをかぶせ始めた。
「い、いやっ!そんなの入れられたら!」
 元々青い彼女の顔がさらに青ざめる。しかし、身体は興奮したまま。俺とは比べ物にならないであろう、その雄の匂いで反応したのか、俺の白濁液を垂らす膣口がヒクヒクと更なる精を求めて蠢く。そして、やめてと泣き叫ぶ彼女を黙らせようと、ゴーリキーがやや短い極太逸物を彼女の口へぶち込んだ。思わず咳き込む彼女。喉まで入れられているのか、彼女の細い喉が少し膨らんでいる。あのままでは窒息する……!
「て、てめぇら!それ以上シヴァを汚すと……」
 その威嚇も耳に入っていないのか、ボーマンダがコンドームを装着し終えた巨根を中出し済みの膣へ挿入しようとする……

「や、やめr」


                  ズドドンッ!!!!!

 一瞬、何が起こったかわからなかった。ガラスの外が爆音と共に煙に包まれ、何も見えなくなった。ともかく、何か危険なことに代わりはない。ガラスを叩き、彼女の名を叫んだ。
「シヴァ!シヴァ!無事か!?」
 だが返事は無い。ただ、煙が薄くなっていくのを待つしかなかった。その数秒後、煙の中から鍵爪がついたドラゴンの手がヌッ、と現れてガラスに触れた。
「人間、しゃがむなり離れるなりしてくれ!ガラスを割る!」
「一体なんだってんだよ!」
 声がハスキーで、男なのか女なのか分からないが、とりあえずここから逃がしてくれるようだ。結局、シヴァの計画は意味を成さなかったが結果オーライ、か。言われたとおりしゃがむと、分厚いガラスの破片が俺の背中へ降り注いだ。所々破片で切ってしまったか、あちこちがチクチクと痛い。破片が落ちてくる感覚がなくなると、恐る恐る辺りを確認する。煙はある程度薄まっていて何人かのシルエットが確認できた。床に倒れているのはおそらくシヴァを襲おうとしていた二人で間違いないだろう。そして、目の前には見慣れた特徴のシルエットが。腕と背中から伸びている鰭、頭の横に大きな飾りが二つ。ガブリアスだ。だが、やたらと丸みを帯びたシルエットだ。女……か?
「何をぼさっとしてやがんだ、はやく逃げるぞ!」
「お、おい、お前は誰なんだよ、なんで俺を逃がす?」
 その問いに構わずそのガブリアスは俺の手を掴んで、破壊した出入り口から逃げようとするが、俺はその手を振り払い、もやのかかった部屋の中、ベッドへ向かう。
「お、おい何を……」
 顔の特徴や服装は分からないが、ガブリアスが近くにやってきてまた俺を連れ出そうとする。
「彼女を、シヴァを置いて行けない!逃げるなら彼女も……!」
「本気か!?アイツはお前を監禁してた連中の一人だぞ!?」
「だまれ!俺の勝手だろう!?」
 そう、彼女も最初は俺を研究対象としか見ていなかっただろう。だが、さっきの行為前の彼女との会話で分かった。脱出計画を練ったときもそうだ。彼女はこの秘密裏に行われていた研究そのものが気に入っていなかったんだ。研究、検査と証した拷問の数々に苦しむ俺を見て、言い方が悪いが情が移ったのだろう。確かに俺も、唯一そんな目で俺を見守ってくれていた彼女をいつの間にか求めていたのかもしれない。この世界でようやく俺を理解し、心配してくれた彼女を。
「ちっ、わかったよ、もたもたすんなよ!」
 俺は爆発で意識を失ったシヴァへ白衣をかぶせて背負い、ガブリアスの後を追って部屋を出た。
 部屋の外は目印になるようなものが少ない真っ白な廊下。前と、右と、左、どちらに進めばいいのか。
「今は平気だろうけど、そのうちに警報が鳴る。そうなりゃ警備員が駆けつけてくるはずだ。はぐれるなよ!」
 ガブリアスは道を覚えているようだ。すぐに右へ向かうと、その巨体からは想像できない速さで走り始めた。必死にその後を追う。素足だからか、時々ツルツルの床で転びそうになる。
「おい、ガブリアス!」
「レジーナって呼びな!」
「……レジーナ、俺の服と持ってた道具類がどこにあるか分かるか?一個はここの所長が持ってるんだが、あれは諦める」
 レジーナと名乗った彼女?は、腰から無線機のようなものを取り出して誰かと通信を始めた。
「おい、メガネ!聞こえてるか?人間がこの世界に現れる時に持ってた物が全部没収されてるらしい、どこにあるか分かるか?」
 すると、愛称なのかメガネと呼ばれた通信相手は落ち着いた口調で返事を返してきた。正直、今質素なパンツ一枚で恥ずかしい。だから早いところ俺が着慣れた服に着替えたいところだ。
『ああ、今確認してるよ。ええと、そこから南、今向かってる方角に重要品保管庫があるね。そこにあるんじゃないか?情報によれば、そこの研究所が極秘で無法に発見、回収したオーパーツやら未だに解析ができていない物品が納められてるらしいしね』
「そこだな。レジーナ、ここの連中にくれてやるにはもったいない物ばかりが盗られてる。奪還したい」
 すると、レジーナもやや不満そうだが渋々俺をそこへ護衛してくれた。
「早くしろよ!」
『僕が仕掛けたハッキングもそろそろ限界だ。警報が鳴るよ!』
 レジーナにシヴァを預け、保管庫の中を探し始めた。中は鉄製の棚がずらりと並んでおり、見たことは無いが明らかに危険そうなマークが書かれたタンクや箱が並んでおり、すでにフタの間からやばい感じの粘液が垂れてきているものあった。
『ハッキングが解かれる……もうあと5分も無いよ』
「おいコラ!はやく出て来い!このまんまじゃミイラ取りがミイラになっちまうよ!」
「分かってる!」
 そして、部屋の奥へ、奥へと走る。そして、見慣れたバッグが目に入った。



『もう駄目だ。今回も失敗だ。レジーナ、撤退だ』
 そう通信機から報告が入った直後、廊下に耳を劈くような警報が鳴り響き、白かった通路は壁からせり出したパトランプで真っ赤に染まった。
「ぅ……んん……ここは……貴女は?な、なんで警報が!?」
 そこで、レジーナに背負われていたシヴァが目を覚ました。最初こそ回りが把握できていなかったが、すぐに理解したようだ。
「おう、人間を救出しようと思ってたんだけどさ、計画が失敗したからやめるんだよ」
「な、ならなんで私は……」
「ああ、人間がお前もってうるさかったんだけど、もう関係ないな。じゃぁな!」
 レジーナは非情にもシヴァをその場に放置して逃げていってしまった。廊下の突き当たりを左へ向かい、姿を消した。
「ここは…………保管庫の前?」
 その時、彼女に迫る影が。見るからに研究員の服装ではない。プロテクトスーツのようなものを着たポケモン獣人達だ。恐らく、彼らは緊急出動した警備隊だ。
「あの半裸の女は?」
「逃げ出した実験体か!?捕らえろ!」
 シヴァへ警備隊が迫る。混乱に乗じて一緒に逃がされた彼女も、もし捕まれば何をされるか。シヴァは保管庫へ逃げ込み、中から手動で厳重で重いドアロックをかけた。同時に、ロックを解除するためのパネルへ冷凍ビームを浴びせて墓石、あけられなくした。
 分厚い扉の所為で警備員達の声は聞こえないが、ドアを破壊しようとしているのか、何か衝撃を与えている音が保管庫中に響く。
「リュウト!どこに居るの!?」
 中へ叫ぶが、返事は無い。鉄が引き裂ける音がして後ろを振り向けば、超合金製の扉がひしゃげて警備員達の顔が見えていた。
「もう一発だ!」
 警備員の一人、バシャーモがメガトンパンチで壊れかけの扉を殴り、完全に破壊した。その衝撃で外れた扉は不運にもシヴァへと襲い掛かった!彼女は反応する暇も無く扉に激突し、3メートルも扉に押される形で床を滑った。その超合金の扉はシヴァ一人では退ける事が出来ない……必死に暴れるシヴァ。逃げられないと知ってか、警備員達は観念しろ、とニヤニヤしながら迫ってくる。
「いやっ、来ないで!」
「おとなしくしてりゃ何もしない。じっとしてな」
 しかし、その警備員の目つきは明らかに救出しようとする奴の目ではない。そしてシヴァは思い出した。今までに何人もの被検体を何処からか連れてきては研究に使い、必要が無くなれば「処分」。それらは基本、研究員ではなく警備隊の連中が行う。そして、今までに脱走を試みてきた被検体達の何人かは行方不明。その全員が女。そう、彼らに捕まればどうなるか。十中八九、先ほどのカイリキー達のように、レイプをしてくるに違いない。そして、犯しに犯し、反応が無くなれば文字通り「処分」……
「い、いやぁぁぁぁ!」
 そして、バシャーモがシヴァの腕を掴み、ドアを蹴り飛ばした直後……


「その汚い手でシヴァに触るな、鳥」




 後から入ってきていた警備員の連中は、顎から上が吹き飛んでひっくり返ったバシャーモを見て、固まっている。俺が吹き飛ばした。
「リュウト!?」
「ごめん、少し探すのに手間取った」
 ようやく見つけた俺の戦闘服と武器。全身を迷彩服に身に纏い、ブーツを履き、ヘルメットと目出し帽、ゴーグル。そして大量の弾薬が入ったバッグとショットガン。あと、嬉しいことにハンドガンが保管されていた。どうやら、あの所長は管理関係にはうるさいらしい。しっかりと俺が持ってきていたガンケースの中に丁寧に収められていた。これらを身に着けるとただの人間だった俺が軍人や特殊部隊、映画の主人公になった感じがして、サバゲーでもテンションがあがったものだ。それが今、そのテンションで、人ではないものの……俺は命を奪った。
「やっぱすげぇな、ショットガンってのは」
 ポンプアクションをして固まっている警備員へ向けると、急に我に帰った連中が蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。
「リュウト……それが貴方が持ってきた武器?」
「ああ、話は後だ。早くここから逃げ出して、俺らの逃走を計画した連中に合流するぞ」

 逃走は簡単だった。ご丁寧に案内板が所々に設置してあり、1階のホールへ行く事には苦労しなかった。俺がいたのは地下だったようだ、何度も階段を駆け上がり、エレベーターを使い、シヴァの協力でドアロックを解除した。
 メインホールには一般の従業員やサラリーマンが行き来しており、いかにも平和そうだが、よく見ればホールの隅でセキュリティーらしい格好をした連中に研究員が緊迫した状態で話をしている。恐らく、俺たちのことは概ね侵入者だのなんだのと嘘を言って捕まえてもらおうとしているのだろう。
 しかしぐずぐずはしていられない。そもそも俺の姿は普通に立っていても目立つ姿。種族。この町から離れて人気の無い場所へ逃げなくては……実際、俺の異様な姿に気が付いた連中が俺を怪しんでいる。
 シヴァに案内されて奴らに見つからないうちに建物の外へ出る。幸い、まだ警察の類は居なかった。だが、その場に居るだけで人目を引き、奴らへ目撃情報を与え、先回りされてしまう。
「タクシー!」
 どうやらこの世界でもタクシーという概念はあるようだ。だが、俺の知る車とはすこし異なっていた。ハンドルとペダルではなく、まるで出来の悪いラジコンのようなたった2本のレバーで運転しているようだ。やや遠くにいたタクシー。こちらへ向かってくる途中、他のタクシーに進路をふさがれ、こちらへ来れなくなった。
「おい、てめぇ何考えてやがる!」
 進路妨害をした同業者タクシーの運転手が窓から顔を出した。ニドクイン竜人だ。
「ごめんねー」
 特に悪びれた様子もなく、俺たちの目の前に止まった。
「早く乗りな、お二人さん。追われてるんでしょ?」
「なんでそれを!?」
 ともかく、助け舟には違いない。すばやく後部座席に乗り込むと、俺は座席の下へしゃがみ込んだ。直後、走り始めたのか横にGがかかった。
「あんたらを逃がしたガブリアス、覚えてる?あの子達が所属してる反政府組織の一員なんだよ、あたし」
「まさか、ヴァルキュリア?」
「ちょっと待て、話が見えない。俺にも分かるように頼む」
 丁度二人で話が進みそうだったのを止めた。運転手のニドクインの姿は見えないが、声からして人間でいう三十路近くのようだ。余談だが、俺の顔の前にあるシヴァの足は細くて綺麗だった。

 話を要約すると、今この世界、というか国は政治が腐敗していて、世界的に条約で禁止されている人体実験や大量破壊ワザの研究をしているらしい。いわゆる、俺の世界でいう「ヒトラー」「ナチス」の時代。その圧政に不満を持つ連中が、この先近いうちに起こりうる世界戦争をとめようと反政府組織を名乗って戦っている。その一環で、政府連中が行っている研究の破壊と奪取をしていて、偶然何かでこの世界へきてしまった俺を保護しようとしていたらしい。俺がシヴァと過ごしていた6日間の間、色々と作戦を練って実行しては失敗していたらしい。
「ちょっとまて、レジーナとかいうガブリアスは「計画失敗」とか言ってシヴァを置いて逃げたんだ。なんでお前がここにいて俺たちを拾って……」
「ああ、それも計画のうち。盗聴されてたらいけないからね。わざとレジーナとメガネちゃんはそう言って逃げて、あたしが待機してたのさ。あと、あたしはエリザベス。まぁ、組織の連中の「ママ」みたいなもんかね?」
 そう言って、エリザベスは車を止めた。外の町の環境音が聞こえない。どうやら町の外のようだ。先ほども、舗装されていない道を走ったのか、だいぶ車が揺れていたな。エリザベスに促されるまま車を降りる。ここは山の中らしく、周りに町の人工的な明かりは見えない。代わりに大きな満月の明かりが俺たちを照らしてくれている。
「こんなところ、何年ぶりかしら。凄く空気も澄んでて心地がいいわ」
 シヴァが車を降りてそうつぶやき、満月を見上げた。彼女の顔はあの研究所の無機質な明かりで照らされて不健康そうに見えていたが、そうではなかった。月明かりに照らされる彼女の姿は、あの時の乱れ様とは似ても似つかない美しさがあった。わずかな風に靡く額の帯。パッチリとした目に透き通ったサファイアのような瞳、長い睫、小さな口……タクシー運転手の格好をしたエリザベスというニドクイン竜人も例外ではなかった。種族柄、ややぽっちゃりしてはいるが、その豊かな身体はセクシーでいてエロ過ぎず……彼女の目もシヴァに負けず劣らずで、シヴァとは違う深みのある濃い青色をしている。
「お月見もいいけど、今はそんな時期じゃないよ、お二人さん。ま、そこの人間さんはグレイシアちゃんを見てるみたいだねー?」
「なっ……」
 俺は覆面で顔が見えないからいいが、シヴァの顔が真っ赤になっていた。彼女は恥ずかしそうに近くの廃墟へ入っていくエリザベスを追って走った。俺もその後を付いていき、廃墟の奥へ進んだ。

 中は殆ど真っ暗だったが、エリザベスが床の一角をノックした。そして、何かの合言葉を発した。俺には真似することのできない言葉だ。すると、その床がぼこっと浮いて横へずれた。中から明かりが漏れてくる。
「おう、帰ったかママ。おかえり」
「報告通り、人間と一緒に付き添いのお嬢さんもつれてきたよ。はぁ、運転中ばれやしないかハラハラしたー」
 彼女に案内されて中へ入る。そこは今は使われていない地下鉄の事務所のようだった。だが綺麗に掃除整頓されていて、ベッドやその他生活に必要なものが置かれていた。ヴァルキュリアという組織のメンバー達が、俺たちを出迎えてくれた。中に、あのレジーナというガブリアスもいて「あのときは悪かったな」と、侘びを入れてきた。そして、気が付いた。彼らはみんな、俺が好きなポケモン達ばかりだ。
 ニドクイン、ガブリアス、イーブイ系(シヴァ含めたら全員!?)、ミミロップ、コジョンド、マフォクシー、リザードン、グラエナ、ヘルガー、ルカリオ、フローゼル、キュウコン……そして、一番奥の大きなソファーには……
「ようこそ、反政府組織ヴァルキュリアへ。名前を聞いてもいいか?」
 あの伝説のポケモン、スイクン獣人が座っていた。イメージとは異なるが、黒いボディースーツを着ていてその妖艶なボディーラインが丸見えだった。
「りゅ、リュウト……カリヤ・リュウトだ」
「リュウト……ふむ、「ワ」の国の名前か。いい名だ」
 このメンバー達の中で一番の巨乳のようだ。まるでバスケットボール、バレーボール、ハンドボール、カラーボールがそれぞれ2つ入っているかのような圧倒的な迫力だ。身体も大きく、立ち上がったら2m半はあるだろう。そしてなぜか、構成員の女は皆、思春期の子供が直視できなさそうな身体をしている。というか、皆女だ。

 結局、俺がこの世界に来てしまった理由、原因は誰も全く分かっていないらしい。そして、帰る方法も検討すらつかない。ともかく、考えるにしても時間が必要だ。だが、俺には政府という巨大な敵がいて考える時間を与えてくれない。だが、今ここには共に戦う仲間がいる。この世界には存在し得なかった武器がある。

 俺はこの世界でも生きていくのもいいと思い始めている。

 自分で作った世界に自分がなぜか迷い込み、なぜか自分が好きなポケモン達に囲まれ、果てには肌を重ねた。

 そして、俺もまだ知らない物語が、この世界で動いている。

 もしいきなり元の世界に戻ったらその時はその時だ。

 俺が居た世界とは違って、ここには俺を心配し、気にかけてくれる異性がいる。まぁ、人間じゃないが。

 物語を、文字通り己の手で作り出していくのもいい。

 この先、どうなるかなんて分かったもんじゃない。

 面白い。

 こうなりゃ、どうにでもなれってんだ。





                                     To Be Next...........???


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-05-19 (火) 01:25:28
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.