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初詣2021

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前回 初詣2020

注意事項:強烈な時事ネタです。おまけに究極の昆虫食表現があります。気分が悪くなったらお気に入りの大会作品を読み直して目を洗いましょう


 去年は大変な一年だった。いや、大変なんてもんじゃない。
 例のウイルスで学校が閉鎖され授業が止まり就活は地獄、右を見ても左を見ても自粛にマスクに不謹慎に地獄の釜の蓋が空いて人間の犯すありとあらゆる罪を目の当たりにする羽目になった。
 一昨年までの生活が戻る目途は立っていない。
 お陰で今年は帰省もできず下宿で年を越した。父母はともかく祖父母はもういい年齢だから、もし罹ったらそのまま……ということもある。
「ん……朝か?」
 時刻は午前10時。大晦日からリモートで飲み続けていたのでいつ頃記憶がなくなったかは覚えていないが、かなり遅くまでやっていたということを意味する。
 主人が落ちてからも映像を送り続けて充電の切れたパソコン、散乱するビールやチューハイの缶に買ってきた総菜のパック。自分のペースで飲み食いしているのに胃が持たれるとは何事か。新年早々間の抜けたことをしてしまった。
 スマホを覗いてみれば、昨日までつながってたやつらと、残念ながら接点のなかった奴らからおめでとうのメッセージが届いていた。お年玉をせびられないのはメリットだがそれ以外のデメリットが多すぎる。既にポケモンを持っている連中は今年は手持ちが増えました♡だのなんだのと心を抉ってきやがる。
「よう。元気か」
 カサカサカサカサ
 不意に耳元で他者の声がするからゴキブリのように這いつくばりながら部屋の隅に逃げる。
「何だ!? 誰だ!?」
「わっちじゃわっち」
 ばあ、と自分を見下すように覆いかぶさってきたのは大きな女性……いや、こいつには見覚えがある。それにこのキツイ獣臭。人間ではないと分かっている。
「どうやって入ったんだてめー」
「神様に向かってその言いようはないんじゃないかえ?」
 そうだ、鍵はしっかり掛けていたはずなのに我が家に入ってきたこいつは去年初詣に行ってなんか現れたキュウコンの神様が人間になったやつ。
 今年は帰省も詣でもしてないのに俺の下に来た。……なんでやねん。
「ふん。去年、”来年も来い”と言った以上この状況で来られるわけもないからこっちから来てやったぞ」
 うーん……これは何だ、初詣”られ”?
「神様が不法侵入していいんですか」
「オヌシ神様を告発しようとでもしてるのか?」
 ぐう。
 きっと神様ならウイルスも運ばないし自粛の必要もないんだろうな。今なんて逆に精力的な行動をなさっているわけだし。ほうら祓ってやるぞっつって去年のように抱き寄せられて頭を叩かれた。今年はどこの神社にも行ってないから何も憑いてないなと言われた。だから二日酔いは改善しないのね。
「神様ならウイルスの一つや二つ消してくれよ」
「そうはいかん。人間が神様に頼り切って自分たちで困難を乗り越えることをやめるからな」
「もう人間の手には負えねーんだが……」
「本当にヤバくなったら手を貸してやらんことはないが……わっちにそんな力はないよ。田舎の小さな神社の獣神。信仰の篤さは神様の強さ」
 それだけ言うと神様は離れ、足元に転がる缶や残飯を拾い始めた。うお、きったねえなんていう神様は見たくなかったが、こればかりは自業自得ともいえる。
 何故か一人と一柱で年が明けてから大掃除をする元日の昼。年末の大掃除もろくにしていなかったから神様にダメ出しされてばかり。しまいには下宿ごと燃やしてやった方がいいんじゃないかと言い出す始末。
 何とかなだめて機嫌をとり、燃やすのだけはやめてもらった。なんでこいつウチの氏神なんだろ。
「腹が減った。出前取ってくれ。クーポン券持ってきたぞ」
「ええ……なんだこいつ……」
 神様とクーポン券。どこかのライトノベルか何かにあるんじゃないの、これ。
 それで渡された青い紙はこの地方のおまけつき食事券……大学生でもうっかりして買えなかったこれをどこで買ってきたんだこいつ。普段こっちにいないのに。
 わっちゃ神様だぞ、ふふん、というのを目で伝えられた。やんぬるかな。
「銀の匙でいいだろう。助六となんか好きなもん頼め。わっちは稲荷さえあればいい」
「おお……テンプレ通りのキツネ……。てか銀の匙は漫画だぞ、銀のさらじゃねえのか」
「キツネも何もキュウコンの神様ぞ?」
「銀の匙は家畜の漫画ですが……まあいいや」
 あ?お前読んどったんか、と宣うよくわからない神様の独り言を無視して、まだ充電の残っているスマホから出前の番号を調べる。……1月1日に配達してくれるんかな、銀のさら。
「ていうか神様の本当の姿ってそっちなんですか? キュウコンの方ですか?」
「あ? 獣神だっつってんだろ。下宿中に抜け毛撒き散らかされたいか?」
 そんなもん撒き散らされたらこのご時世でくしゃみが止まらなくなって非常に困る。電話がつながった。なんと宅配してくれると。ただし時間指定は遅めだが。頭が下がることこの上ない。一歩間違えれば自分も元旦にスクーターやチャリンコを乗り回すバイトに徹していたのだ。だからこそなおさら頭が下がる。
「で、氏神様。今日は何の御用で?」
「オヌシと一緒に寿司を食いに来た」
「嘘おっしゃい」
「ふふ、神を舐めておるな? わっちクラスにもなると全国100万か所に分身を送り込んで信者とともに正月を過ごすのなんて訳もないぞ。オヌシの実家にもこっそりお邪魔しておる」
「あー……神様分身だったんですかい」
「モノは食うけどな」
 つーかこいつ信仰が少なすぎて弱った神様じゃなかったのか。
 神様の言うことはよくわからん。全くわからん。
 空になった土鍋を金たわしでこすり、有料のゴミ袋に割りばしだの総菜のカラだの残飯だのをぶち込んでいく。
 去年は本当にクソみたいな年で大変でしたよ、なんて愚痴ってしまう。神様が悪いわけではないし、誰に責任を負わせればいいかとかそいうところまで詰めるつもりはないが、とにかく文句を聞いてほしかった。
 人間の姿で掃除を手伝ってくれるのはありがたいがこれを見られたら非常に気まずい。てか他の人間にこいつの姿は見えているのか。
 それ以外にも現実的な問題があった。……おい、ゴキブリ食うな。わかっちゃいたけど人間の姿でゴキブリを食うな。キツネにとっては単なる餌でも人間の姿でゴキブリを食うな。
「神様! やめてください!」
「……む。そうか」
 ゴミ袋の口を結んで、3日だか4日だかまで収集のこないゴミ捨て場に持っていくと近所のおばちゃんがいた。絶対に何か言われるからダッシュで帰る。後ろから黄色い声がした。絶対に聞かねえ。
 帰ると神様はそのデカい図体を玄関の脇にぴったりくっつけ、何か変なことをしていた。何か髪の毛をくるくるしてる?ような、何か迷っている感じの仕草。とても分かりやすい。こちらを見つけるなり、女性の身体はバカでかい九尾のキツネへと変貌した。どんな理屈だ、と言うまでもなく、抵抗できなくなった。もう今更何が起こっても気にすべくもないけれども。
「……土間なら毛を散らしてもいいだろう。ちょっと来い」
 土間でキュウコンにきつく抱きしめられた。なんじゃこりゃ。全く抵抗できん。何かからくりがあるんだろうけど、何もできん。
「オヌシがわっちを信じていなくてもわっちはオヌシを見守る義務がある。それを忘れるな」
 あっ…………
 暖かい……ヤバい。これはヤバい。獣臭さなんか消し飛ぶほど気持ちがいい。これは溶ける。つーかこのまま天に召される。
 本当に昇天しかけたところで、インターホンが鳴った。なんだ、クロネコか? それとも郵便局か? とは神様の言。そんなこと言う神様は初めてだと思いつつ、のぞき窓から見た配達員は、寿司職人の風貌をしていた。
「あっ、神様、銀のさら来ましたよ、銀のさら!」
「おう!」
 神様から渡されたクーポン券を片手に玄関を開ける自分……こんな新年、あるのだろうか。



去年1月1日に更新したので今年もなんかやってやろうと思って半日で書きました! 縁起物だから面白いつまらない関係なく読んだって下さい!

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Last-modified: 2021-01-01 (金) 00:02:20
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