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初恋人との再会

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名も無き人間
この物語はクレハがアブソルと再会する物語デス。
エロは少ないですがご了承下さい。


ウリューノスとドゥロールとの数十年続く戦争が終わってから数十年経とうとしていた。

今は戦争はおろか、揉め事や争い事も無いに等しい程平和な世になっていた。

俺やトライス、シックルやガーネットも守護団として腕を磨く日々を送っていた。

勿論、ガーネットは御転婆、シックルは天邪鬼、トライスは堅物。

毎日苦労する事が多かった。だが……それでも平和なら俺は良い。

だが俺はそんな平和な空気で忘れていた。

ウリューノスで……数少ない俺の理解者が居た事に……

そしてその人物とは直ぐ再会する事になる……戦場という場で。


「よし! 次は相手からの攻撃をかわし、反撃する型だ!」

『はい!』

「グレン! もっと素早く動き短剣を振るうんだ!」

「はい! 父上!」

俺の名はクレハ……って、自己紹介するのも変か……

過去の大戦からは早数十年。打って変わって平和な日が続いている。

毎日飽きる事無く、好きなだけ鍛錬をし、好きなだけ過ごせている。

勿論、俺自身も鍛錬を抜かる事はしない。己の怠慢は己を滅ぼすからな。

俺の子のグレンも立派に成長し、今や俺の隊の主要騎士になっている。

まだまだ成長途中だが、その腕前は著しく上がっていた。

願わくば……ずっとこのまま……誰の血を流す事無く時が流れてもらいたい……

もう俺は見たくない……誰かが殺し、誰かが死ぬ戦場の光景を……

「よし! 次は組み手だ! 各自二人で鍛錬しろ! 怪我はするなよ!」

『はい!』

「グレン。お前は俺が鍛えてやる。本気でかかってこい。」

「は、はい! ありがとうございます! では、いきます!」

あまり考え事をしていたら俺の隊の者に示しが付かない。

直ぐに次の鍛錬を言い、俺の組み手の相手にグレンを呼んだ。

仲間が劣るというわけではないが、グレンの腕は隊の上位程になっていた。

俺でなければ相手が務まらない程だ。成長とは喜ばしいものだ。

「よし! 良いぞグレン! 次々と攻撃し相手の動きを封じるんだ!」

「はい! やっ! たぁっ!」

……今思えば……よく口に銜えた短剣をこうも振るえるんだろうか……

手持ちと違い、首で動く範囲は限られている。なのにそれを感じさせないとは……

……今度俺もやってみるとするか。勿論、誰も見ていないところでな。


直ぐに日は落ち、辺りは夜闇に包まれ始めていた。松明の灯はあるがな。

朝起きて食事を取り鍛錬し、領内の見回りをしてから再び鍛錬。

そして鍛錬が終われば湯を浴び体を洗い、食事を取り体を休める。

その繰り返しの日々が、俺にとってはこの上なく心地良かった。

過去の大戦の事を忘れてしまう位に、今は平和な世だった。

過去の大戦を忘れる……それは多くの犠牲者を忘れると言う愚行でもある……

俺はそれだけはしたくない……数多くの仲間も散っていったからな……

「クレハ様。見張り交代の時間になりました。後を頼みます。」

「分かった。ゆっくり体を休めろよ?」

「はい! それでは失礼します!」

そして夜の任務。城門前の見張りの時間になっていた。

見張りと言っても、大した事はしないんだがな……念には念を。という事だ。


……夏の時は良いんだが……今は真冬だ。正直寒い。

かと言って酒を飲んで見張りをするわけにはいかない。寝番をしたら大変だからな。

炎タイプだから多少は良かったが……

「ク~レハ!」

「うおっ!? ガーネット!? 何故此処に!?」

「えへへ、クレハが寒くて震えてるんじゃないかと思ってさ。……暖かい?」

「ったく……あぁ、暖かい。」

思わず剣を取る所だった……いきなりガーネットに背後から抱き付かれてしまった。

いくら平和とはいえ……背後の気配を感じ取れないとは……怠慢を感じさせる……

だがガーネットがピッタリとくっ付いているから暖かい。少し恥ずかしいがな……

……だが俺は気付いていなかった。裏門での出来事に。

「クレハ様! 敵襲です! 裏門から多数の武装した兵が!」

「何だと!? 直ぐに正門を封鎖しろ! 直ぐに向う!」

「はっ!」

裏門に敵襲だと!? まさかウリューノスの残党だというのか!?

ここから裏門はどんなに走っても数十分は掛かる。急がねば……

「クレハ! 目を瞑って!」

「あぁ、頼む!」

「いくよ! っ!!」

矢張りガーネットは良い仕事をしてくれる。瞬間移動とは助かる。


裏門は既に……戦場と化していた。忘れかけていた、あの光景が……

血を流し倒れる味方。剣と剣を繰り出す兵士……そして……血の臭い……

また……やるしかないのか……

「ガーネット。お前は王と王女を御守りするんだ。頼んだぞ。」

「分かった。クレハも気を付けて。」

「あぁ。」

流石に最前線でガーネットを戦わせるわけにはいかない。仮にも姫だからな。

……ここは俺だけで十分だ。

「何をしている! 押し返せ! 一気に攻めるぞ!」

「クレハ様! はい! かかれ!」

『オオ~~!』

久々な兵士に対しての鼓舞。一気に攻め、一気に鎮圧しなければ。

幸いにも敵は少数だ。これならば犠牲も少なく出来る。

俺の鼓舞もあってか、味方も果敢に攻め、状況はこちらに分が出始めていた。

「撤退だ!」

「逃がすな! 追え!」

「この退き際……待て! 追うな!!」

暫くすると、敵兵が次々と撤退を始めて居た。

それを見た味方も、次々と後を追って行った。

だがこの退き……確か何処かで……それを思い出した時には遅かった。

兵を追って行った味方は……体中に矢が刺さり全員死んでいた。

この戦法……まさか……アイツが? いや、まさかな……

「よぅ! 遅くなってわりぃ! どうやら守ったみたいだな。」

「あぁ。敵も今撤退した。多くの味方を追い討ちしてからな。」

「ちっ……なんだってんだよ、どこの国の兵だコイツ等?」

「腕章や旗は無いな……恐らく……ウリューノスの残党だろう。」

敵は戻って来ないようだ。これならば裏門を閉じれば暫くは安泰だ。

そして見計らったようにシックルが来た。ったく、遅いんだよ……

裏門の味方は……全滅か……敵ながら素晴らしい戦法だ……

だが腑に落ちない。この兵は何なのだろうか……

腕章も無ければ紋章も旗も無い。これではどこの国の兵なのかすら分からない。

所属不明の兵……そしてあの戦法……俺の考えが外れなら良いんだが……

「とりあえず王の下へ行くぞ。」

「あぁ。」

裏門と正門を閉じれば、暫くは手が出ない筈だ。

俺はシックルを連れ、王の下へと向った。


「父上!」

「おぉ、無事だったかクレハ!」

「はっ。しかし裏門を死守していた兵士達は皆……申し訳ありません……」

「クレハが謝る事では無い。私も急な敵襲で驚いている。」

さすがドゥロール城だな……既に堅牢な護りに入っていた。

これならば辿り付く前に立ち往生する筈だ。

王や王女、それにガーネットやグレン等の重鎮は王室に揃っていた。

食料や武器の備蓄も揃っている。当面の問題はこれで大丈夫か……

今の内に戦闘準備を整えなければ……

「王よ、ご命令を。」

「うむ。第一守護団は正門を死守! 第二守護団は裏門を! 第三守護団は哨戒!
 そして第四守護団は此処、王室を死守だ!」

『はっ!』

今思えば……バオウ王の采配を見るのは今回が初めてだな……

総合能力の高いトライスの隊を正門に置き、密集戦闘の得意な俺の隊を裏門に……

速度の高いシックルの隊を哨戒にし、ガーネットの隊を王室の護りに……

俺が言うのもなんだが……的確な指示だ。それぞれの長所を活かせる配置だからな。

だが……今回は模擬戦でも演習でもない。死ぬか生きるかの実戦だ。

「グレン! 行くぞ。」

「はい!」

既にトライス、シックルは準備を整え持ち場へと向った。

俺も直ぐに裏門に赴き死守しなければ……

グレンが心配だが……名を冠した騎士だ。大丈夫だと信じよう。

直ぐには攻めてくるとは思わないが……早くに防衛戦を張るに越した事は無いな……


「これは……」

「クレハ隊長。既に前線隊、後方援護隊共に陣を張り終えて御座います。」

「流石だグリン。お前が居てくれて本当に助かる。ありがとう。」

「いえ、クレハ隊長あってこその私です。感謝しています。」

裏門前の広場に着いた俺が見たのは、既に陣形を整えた俺の隊だった。

勿論、それを指揮したのは作戦隊長のグリンだ。いつもながら良い動きだ……

俺がマグマラシの時から色々世話をしてくれ、今の付き合いになる。

俺が隊長になった時に、一番喜んでくれたのもグリンだったな……

「不謹慎だとは承知していますが……腕が鳴りますな。」

「ふっ。頼りにしているぞ。」

「お任せ下さい。いつ敵が攻めてきても良いように備えてあります故。」

久々の実戦に血沸き肉踊るのも無理は無い。俺もどこかで心が躍るのが分かる。

戦に身を落とした者は、どこかでその高揚感や緊張感を求めてしまう傾向にある。

それを抑えられなければ大量殺戮者となってしまう場合もある。

俺は勿論、グリンやシックルですらそうはならない。強い意思があるからな。

「物見より報告! 敵兵、グラール山砦跡地を占拠し、陣を布いた模様!」

「なんと……この城を見渡せる丘に陣を布くとは……敵ながら良い判断ですな。」

「……先程の戦法といい、陣を布く場所といい……矢張り、アイツなのか……?」

物見によると、敵方はグラール山砦跡地を占拠したらしい。

グラール山砦跡地は、唯一ドゥロール城を見渡せる場所だ。

そこに陣を布かれてはこちらが不利だ。城が丸裸になったと言っても良い。

ただでさえ近く、更に砦内には遠眼鏡も備わっている。これは不味い……

「グレン、お前は王室のガーネットと合流し、念力で動きを見張ってくれ。」

「し、しかし……」

「頼む。お前とガーネットの力が必要不可欠なんだ。」

「分かりました。……御武運を!」

こうなっては敵側に先手を取られる可能性が高い。そうなればこちらが危機に陥る。

そうなる前にこちらが先手を打つ。念力を持って敵の動きを見張る事。

幸いにもガーネットとグレンが居れば十分な程だ。安全だしな。

全く……これでも業火の悪魔と呼ばれ恐れられた者の正体だからな……

「グリン。念の為だ。上空防衛と地下振動に注意を払ってくれ。」

「了解しました。私も念力で出来る範囲で見張りながら動きます。」

「頼んだぞ。……このまま何も無ければ良いのだが……」

もし……もしも相手が俺の思っている者ならば……ただ警戒しているだけでは駄目だ。

上空からの敵襲や攻撃、更には地下からの地震攻撃も注意しなければならない……

勘違いならばそれで良い。だが……もしも的中したら……その時は……

『クレハ、聞こえる? 敵が砦から動いたよ。確信は無いけど、飛行隊だと思う。』

『分かった。ありがとうガーネット。』

『気を付けてね? 絶対戻って来てよ? 死んだら……駄目だよ?』

『あぁ。姫君の御命令には従います。』

矢張り思っていた通りの流れだ。ガーネットが敵の動きを知らせてくれた。

俺とて念力は使えないが精神を集中させて会話する位出来る。猛特訓してな。

飛行隊か……恐らく偵察だろうな……偵察もせずに攻撃する馬鹿じゃないからな。

「グリン。」

「聞いておりました。各員! 対空防衛並びに迎撃の準備だ!」

「了解!」

「……(本当にお前なのか……? アブソル……)」

言わずともグリンには聞こえていたらしい。余計な事を言わなければ良かったな……

直ぐに伝令が飛んで行ったからトライスやシックルにも伝わる筈だ。

後はいかにして城を守るかだな……俺の考えが当れば恐らく……


「駄目です! 高度が高すぎて攻撃が届きません!」

「えぇい! 各員攻撃に備えろ!」

矢張りな……こちらの攻撃射程外で偵察をしているようだ……

裏門への奇襲、陣の取り方、そして偵察の仕方。全て俺が教えたものだ。

元ウリューノス武器防具倉庫係のアブソルに。

生きていたのか……攻撃をする理由は分かっている。

俺が……紅蓮の鬼神がドゥロールに討ち取られたと勘違いしているからだ。

それならば……不慣れだが、やるしかないな。

「済まない。お前の弓を借りるぞ。」

「はっ、ですが隊長……とてもじゃありませんが……」

「当てる積りはないさ。気付いてくれるだけで良い……」

「はぁ。」

どうせ弓兵が持っていてもしょうがない。俺は弓兵から弓を借りた。

俺とて力を振り絞って射ったとしても届く距離じゃない。

俺は矢に火薬と導火線を付け、火を付けてから上空彼方へ撃った。

暫く風を切る音がし、そして花火のように赤い火花が散った。

これも俺が教えた離れた味方への信号みたいなもんだ。狼煙と同じだな。

「隊長?」

「これで良い。皆、体を休めるんだ。明日まで敵は来ない。伝令にも伝えてくれ。」

「な、何故そう断言出来るのですか?」

「敵の大将が……ガーネットと同じく俺を想ってくれている人だからだ。」

勿論、グリンや隊の皆はキョトンとしていた。意味不明だろうからな。

大方、味方への信号だとは思っているだろうが、味方は城内だからな。

だが……上空を見れば偵察部隊も撤収し始めていた。砦からの撤退信号によって。

矢張り応えたか……赤い火花を見たら赤い火花を二発上げろ。そう伝えたからな。

だが……受け入れてくれるだろうか……ドゥロールの俺を……

アブソルとてウリューノスを愛していたとは思えない。誰しも言える事だ。

疑心暗鬼になっていなければ良いのだが……


矢張り俺の予想通り、敵襲も無ければ偵察も無かった。

そして俺やシックル達は王室へと集まっていた。

「恐らく敵が攻めてくるまで時間は長くない。こちらも陣を展開せねばならぬ。」

「お待ち下さいバオウ王。恐れながら……私に考えが御座います。」

「申してみよ。」

「私を……グラール山砦跡地へ使者として送って下さい。」

……確かに普通の戦じゃ、偵察を終えれば攻めるのが勝つ秘訣だ。

だが相手はアブソル。俺が居ると分かれば待つ筈だ。俺が行くのを。

言って分かるかは何とも言えないが……言うしかないな。

「此度の敵襲を指示している者、元ウリューノス武器倉庫番のアブソルです。」

「なっ!? そうか……だからあの火花っつぅわけか。」

「解る様に申してみよ。その武器倉庫番のアブソルなる者が指揮者というわけなのか?」

「はい。奇襲方法、陣取り、偵察全て私が教えた事です。そして合図も知っていた。
 合図に応えたと言う事は、私が直接会う必要があるのです。どうかお許しを。」

シックルは知っているだろうな。あの火花の意味合いを。

能ある鷹は爪隠す……と言うしな。

後は王からの許しが出れば……この戦の被害を最小限に抑えられる……

「良かろう。文を書く故、暫し待つが良い。」

「はっ! 有難う御座います!」

「……ねぇねぇシックル。アブソルって誰なの?」

「……言ったろ? ウリューノスの武器倉庫番。クレハを慕っている雌さ。」

王の文があれば尚良い。矢張りバオウ王を慕って良かった……

何か後ろでシックルとガーネットが話しているが……良く聞こえないな……

まぁ、良からぬ話をしているのは分かるさ。後でガーネットの誤解を解かねばな。

「これを持ち、敵陣へと赴くと良い。だが、条件がある。」

「条件……ですか?」

「生きて戻って来い。それが条件だ。それ以外は認めぬ。」

「はっ! では行って参ります!」

バオウ王はリザードンだ。手紙もデカイわけだ……持ちにくいな……

そしてバオウ王は俺に生きて帰ってくるように言ってくれた……

勿論、その積りだ。死んだらガーネットに恨まれそうだからな。

王室を出る時に、ガーネットから鋭い視線を浴びた気がするが……気にしないでおこう。

ドゥロール城からグラール山砦跡地までは歩いて数十分だ。

多少長いが、瞬間移動で驚かせるよりはマシだしな。


……グラール山砦が視認出来る頃には、敵陣の陣容も解っていた。

砦前に弓兵と少数の前衛隊……俺が教えた陣形だ。

俺を確認した敵兵も、勿論戦闘の姿勢を取っていた。まぁ、当たり前だな。

「俺の名はクレハ。ドゥロールより使者として参った。開門願いたい。」

「……暫しまtt…うわ!?」

「クレハ将軍!!!」

「うおっ!?」

畏まって言う必要は無かったな……凄い勢いで砦の門が開いた……相当重い筈だが……

勿論、門の前に居た兵士は勢い良く飛ばされた。まぁ、直ぐに飛行隊に助けられたが。

そして飛び出して、飛び付いて来たのはあのアブソルだ。間違いない。

「久しいなアブソル。無事で何よりだ。」

「ほ、本当に……クレハ将軍ですよね?」

「信じられないか? ならばこの場で、あの夜の事を口外しても良いぞ?」

「っっ!? だ、駄目です! それだけはっ! し、信じましたからっ!」

軽鎧を身に着けてはいるが、あのアブソルだ。忘れる筈も無い。

俺がウリューノスで唯一、ガーネットを除けば初めて恋をした相手だからな。

俺としての最大の証拠である、ある夜の事を言おうとしたが止められた。

まぁ、周りには兵士が居るからな。バレて恥ずかしいのはアブソルだ。

「立ち話もなんですし、どうぞ中へ。……戦闘姿勢は崩して下さいね。」

「はっ!」

「ふっ、立派な敵大将だな?」

「ふふ、ご冗談を。」


中は戦闘準備を整えた兵士で溢れていた。陣形も見事だ……

もし気付かずに攻め入られていたら危なかったな……

ふと見るとウリューノスの倉庫から持って来たのか、攻城戦用の兵器も置いてあった。

さすがは武器倉庫番だな……最早脱帽だ。

「ではクレハ将軍、こちらに。」

「アブソル。将軍は無しだ。」

「で、では……クレハ、こちらに。」

「あぁ。」

さすがに『将軍』と付けられると違和感がある。

将軍だったのはウリューノスでの事。今は一介の騎士だからな。

直すように言うと、アブソルは顔を赤くして呼び捨てにしてくれた。

そっちの方がシックリ来る。あの夜も……そうだったしな。

そして俺はアブソルの部屋兼司令室に通された。勿論二人きりだ。


「ずっと会いたかった! 国王から死んだと聞かされて、凄く悲しかった……」

「アブソル……」

「御願い……今は……抱き締めて……」

「……分かった。」

成程な……国王には俺が死んだと言われたのか……

まぁ確かに俺が反逆するまでは死亡扱いだったろうな……

こうしてアブソルを抱き締めたのはいつ頃だろうか……ガーネットが見たら怒るだろうな。

だが俺は泣いている雌を放っておく程馬鹿じゃない。抱き締める位はな。

「落ち着いたか?」

「あ、はい。ありがとうございました。」

「早速だがアブソル。バオウ王がお前に宛てた文だ。」

「私に……ですか……覚悟はしていましたよ。城に攻め入る前から。」

暫く泣いていたが、次第に落ち着いたようで、俺から離れた。

勿論、涙や鼻水は付いている。まぁ、気にしないが。

そして俺はバオウ王より預かった文をアブソルに手渡した。

それを受け取ったアブソルの顔は曇っていたな……まぁ、普通はそうだろうな。

内容は分かっている。即時降伏並びに武装解除。

後はバオウ王の気持ちが綴られているだろうな。

「……分かりました。武装解除し、降伏します。」

「感謝する。……全く、今回の事で、お前を敵に回した恐ろしさが実感出来たぞ?」

「ふふっ、全てはクレハが教えてくれた通りですよ? では、行きましょう。」

「あぁ。」

暫く何度も読み返していたようだが、素直に降伏に応じてくれた。

アブソルとて、攻める理由。つまり、俺の仇ではなくなった時点で争う気はないだろう。

もしアブソルが責められるなら……俺も責めを負う。俺が原因だからな。

だがバオウ王や皆の優しさは俺が良く知っている。大丈夫だ。

……そして俺はアブソルと、その部下達と共にドゥロール城へ戻って来ていた。

勿論、戻った途端トライスの隊に攻撃されかけたがな。戻った事位分かれよ……


「バオウ王、クレハただいま戻りました。」

「ご苦労であった。……そなたが此度の騒乱を起こした者か?」

「はい。この責任は私に在ります。どうか兵士達には恩赦を……責めは私が。」

「そうか。ならばそなたに罰を与えよう。」

知っているとはいえ……矢張りバオウ王の気迫は鬼気迫るものがあるな……

だがアブソルはそんな事が無いかのように、部下達を心配していた。

アブソルらしいな……バオウ王の言う事が分かると、思わず笑いそうになる。

罰を与えるか……俺への罰は、今現在の立場だからな。

「丁度我が城の武器や防具管理が滞っていてな。そなたに任せたい。」

「え……し、しかし……此度の攻撃で……少なくとも死者が出ましたし……」

「ならば、そなたはどのような罰が良いのだ?」

「それは……。……良いのですか? 私の様な者を、城に迎えてしまって……」

成程な、アブソルへの罰は武器防具の管理か。想像はしていたがな。

武器や防具の知識は俺が一番良く知っている。アブソル以上の者は、そう居ない。

だがアブソルは一つ返事で了承はしないな……無理もないか。

少なくとも、裏門と砦跡地に居た兵士を殺めてしまったのだからな。

まるで……あの頃の自分を眺めているようだ。

「そなたに選択肢は無いぞ? 罰は私が決めた。償いたいなら全うする事だ。」

「……承知致しました。武器防具の管理はお任せ下さい。」

「ではクレハ。アブソルを武具備蓄倉庫へ案内してくれ。」

「はっ。こっちだ。」

今思えば……バオウ王も堅物なのかもな。自分の意は貫き通すからな。

まぁ、それが賢王たる所以か。そのお陰で俺も居るのだものな。

矢張りアブソルと王室を後にする際に、ガーネットから鋭い視線を感じた。

……夜が不安になってくるな……何とか宥めなければ……


「ず、随分と……多く散らかっていますね……」

「あれ以来、戦等は無いからな。管理も滞っていた。では頼んだぞ。」

「あ、クレハ。」

「何……んっ!?」

見る限りだと、倉庫じゃなく散らかし放題の子供部屋みたいだな此処は。

中には埃を被った鎧すらある……これでは見る方も辛いな……

とりあえずアブソルに任せて戻ろうとしたが、アブソルに止められた。

そしてそのまま……口付けをされてしまった。

「クレハの立場は知っています。ですが……私もクレハを想っています。どうか……」

「アブソル……」

「申し送れましたが、私の名はラフィエル・リィム。お好きに呼んで下さい。」

「そうか……だがラフィエル。俺は既に契りを結んだ者が居る。それには応えられない。」

ラフィエル・リィム……初めて聞いたな。良い響きの名前だ。

だが名前を知ったところで……ラフィエルと交わる事は出来ない。

俺個人としては良いのだが、ガーネットを傷付けなくないからな。

出来る事と言えば、こうして強く抱き締める位だ……


「ク~レ~ハ~? 何やってるのかな~?」

「うおっ!? ガーネット……いや、違うんだ、これは!」

「あ、ガーネット姫様……大変失礼致しました!」

「ふふ、嘘だよ。私だって、クレハを束縛する気は無いよ。」

くそ……ラフィエルに抱き付いていて、ガーネットが来た事に気付かなかった……

精神力は培ってきたつもりだったが……雌に対しての精神力は半人前という事か。

だがガーネットは笑顔で許してくれた。束縛する気は無いと言ってな。

それはつまり、俺とラフィエルが交わっても良い。と言う事になる。

「だって、リィがクレハの初恋の人なら、愛さなきゃ駄目じゃない?」

「ガーネット……」

「そういうわけだから、リィは好きにクレハに求めて良いからね。」

「はい。有難う御座います。」

いきなりリィは無いと思うが……ラフィエルは満更ではないようだ……

これからは……ガーネットとラフィエルを愛さなければならないのか……

万が一両方一度に相手するとなると……俺が持つか分からんな……

だが……ラフィエルが傍に居るだけでも……俺は嬉しいし、心が休まる。

それだけで良い。後は努力次第でなんとでもなる。

「じゃあリィ。今日早速おいでよ。一緒にクレハを攻めよう?」

「ちょ、ガーネット!?」

「ふふっ、そうですね。」

……ガーネットめ……心の中では嫉妬しているな……夜が嫌になってきた……

まぁ……それも良いかもな。たまには雌2匹と楽しむのも。そう思おう。

fin.



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Last-modified: 2010-01-20 (水) 00:00:00
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