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冷熱両極天奇行

/冷熱両極天奇行

書いた人 ウロ(旧名九十九)
誤字が多いので多めに見てあげてくださいorz


熱い、とても熱い。今時分はそう思っているはずだ。暑い、ではなく。熱いんだ。
「熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い……あっっつい!!」
都会と呼べる街中で熱いという言葉を連呼する。今の僕はとても変なポケモンと思われているのだろうか…
そんなことはどうでもいい。とにかく今は水が欲しい。渇ききった喉を潤す水が、燃え盛った自分の体を冷やす水が…とてつもなく欲している。それだけじゃない。氷も欲しいところだ。しかし、そんなものはこの場所には生憎ない。もちろん、水もだ。まったく都会だなんて名前だけで何にも揃っていないじゃないか。そんなことを思ってしまう。だってそう思うしかない。
僕の病気を治せると思って、この都会まで来たんだから。これで医者に見てもらって治せないなんていわれたら…怠惰と疲労感で自分の体が燃え尽きてしまうかもしれない。めらめらと燃えるような自分の体の色を見て、益々熱くなってくる。
やっぱり水が欲しいな、と強く強く思ってしまう。だが先ほど言ったように、そんなものが都合よく現れるわけではない。まったく嘆かわしいことだ。氷も何もない都会に、有名な医師がいるとはあまり考えたくないものだ。しかしそれでもそこにいって病気を治したい。直せなくても病名くらいわかりたいものだ。
それにしても、熱い。体が蕩けてしまいそうだ。僕は自分がブースターであることをこれほど呪ったことはない。せめて進化するのならグレイシアになっておくべきだったのだろうかと一瞬疑問に思ってしまうが、グレイシアになったところで自分の病気が治るとは到底思えないし、それにグレイシアは何かと不便そうだった。火が使えるというのは戦う以外にもいろいろとできる利便性を兼ね備えている。そう考えると多少熱くても我慢していろいろなことができるという点では、ブースターになったのは正解だったのか?
いまいちよくわからない。それにしても、熱い。まだ医者の所にはつかない。歩いているうちに燃え尽きてしまいそうだ。
「あう、アイス食べたくなってきた…」
僕は深いため息をついた。もっとも、僕がアイスを食べてもすぐになくなってしまう。しかも涼しくなんてならない。これではお金の無駄遣いだ。全くアイスなんて下らない食べ物を開発する暇があったら僕の病気に何か対抗策でもつけて欲しいところだ。
親がつけてくれたリブという名前も、正直に言ってしまえば重荷でしかならない。なぜなら今の僕は正しくリブパティ状態だからだ。じっくりと焼かれているような感覚に頭を抱えたくなる。医者の所はまだ見えない。
それにしても、熱い。やはりその辺りで水をもらってきたほうがよかったのだろうか?しかし僕はそんなことはしない。乞食じゃあるまいし、その辺りの民家で水をください。などといったらどれだけ同情と哀れみの視線が来るかわかったものではない。そんな恥ずかしいことをするくらいなら、熱さをぐっと我慢して歩いたほうがいいだろう。昔の偉い人は心頭滅却すれば火もまた涼し、無念無想に達すれば熱々の釜も持てるはず!…などといったそうだが正直そんなことができるのは炎ポケモンだけだ。他のポケモンは絶対に火傷する。まったく昔の偉い人というのは知識だけでなく伝達力も理解力も不足しているというしかない。そんな恐ろしい行動は後世に伝えるのではなく、さっさと封印してその辺の土の中にでも埋めておけばいいのに、やたらと引っ張り出すから、最近のワイドショーで無茶なことをするポケモンたちがどんどん増えていく。まだまだ医者の所にはつかない。
それにしても、熱い。まるでスチーマーに入れられているような感覚だ。頭がボーっとしてきている。いけないいけない。こんなところで倒れてしまっては恥だ。何に恥じるのかはわからないためここは両親に恥だということにしておこう。早くこの病気が治ることを祈りたい。そもそもこれが病気かどうかもわからない。でもブースターに進化したとたんにこんな体質になってしまったのだから、病気といわずして何といおうか?変体質?却下。まるで僕が変態のようだ。字は違うが変態っぽかったから却下したい。まったく、どうしてこの世の中には太陽というものが存在するのだろうか?そんな燃えかすの様な星なんて何処かへ飛ばして僕が太陽になってこの世界を照らしてやりたい気分だった。疲れているからそんな考えが浮かぶのだろうか。それとも本心だろうか?わからん。まあいいや。そう思うしかない。僕は住めるんだったら水星に住みたいな。名前を聞いただけで潤いそうな名前だ。ようやく見えてきた。医者のところできっちり見てもらわなくては…
それにしても、…熱い。


☆☆☆


寒い、とても寒い。今時分はそう思っているはずだ。冷たい。ではないく。寒いんだ。
「寒い、寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い……さむいっ!!」
都会と呼べる街中で寒いという言葉を連呼する。今の私はとても変なポケモンと思われているのだろうか…
そんなことはどうでもいい。とにかく今はお湯が欲しい。凍りついた喉を溶かすお湯が、凍てついた自分の体を温めるお湯が…とてつもなく欲している。それだけじゃない。毛布も欲しいところだ。しかし、そんなものはこの場所には生憎ない。お湯もだ。まったく都会だなんて名前だけで何も揃ってはいないのですね。そんなことをふと思う。そうとしか思えないからだ。
私の病気を治せると思って、この都会まで来たんだから。これで医者に見てもらって治せないなんていわれたら…怠惰と疲労感で久遠の眠りについてしまいそうだ。キンキンと凍るような自分の体の色を見て、益々寒くなってくる。
やっぱりお湯が欲しいな、と強く強く思ってしまう。だが先ほど言ったように、そんなものが都合よく現れるわけではない。まったく嘆かわしいことだ。毛布も何もない都会に、有名な医師がいるとはあまりに考えたくないものだ。しかしそれでもそこにいって病気を治したい。直せなくても病名くらいわかりたいものだ。
それにしても、寒い。体が固まってしまいそうだ。私は自分がグレイシアであることをこれほど呪ったことはない。せめて進化するのならブースターになっておくべきだったのだろうかと一瞬疑問に思ってしまうが、ブースターになったところで自分の病気が治るとは到底思えないし、それにブースターは何かと不便そうだった。氷が使えるというのは戦う以外にもいろいろとできる利便性を兼ね備えている。そう考えると多少寒くても我慢していろいろなことができるという点では、グレイシアになったのは正解だったのかもしれませんね。
いまいちよくわかりません。それにしても、寒い。まだ医者のところにはつかない。歩いていくうちに凍り付いてしまいそうだ。
「ふぁっ…あったかいココアが飲みたくなってきました」
私は深いため息をついた。もっとも、私がココアを飲んでもすぐになくなってしまう。しかも暖かくなんてならない。これではお金の無駄遣いだ。まったくココアなんて下らない飲み物を開発する暇があるのなら私の病気について何か対抗策でもつけて欲しいところです。
親がつけてくれたジェラードという名前も、正直に言ってしまえば重荷でしかならない。なぜなら今の私は正しくジェラードアイス状態だったからだ。ゆっくりと冷やされていくような感覚に頭を抱えたくなってくる。医者の所はまだ見えない。
それにしても、寒い。やはりその辺りでお湯をもらってきたほうがよかったのでしょうか?しかし私はそんなことはしません。乞食じゃありませんので、その辺りの民家でお湯をください。などといったらどれだけ同情と哀れみの視線が来るかわかったものではありません。そんな恥ずかしい思いをするくらいなら、寒さをぐっと我慢して歩いたほうがいいでしょう。昔の偉い人は心頭滅却すれば冷水もまた暖かし、無念無想に達すればキンキンの氷塊も持てるはず!…などといったそうですが正直そんなことができるのは氷ポケモンだけです。他のポケモンは絶対に凍傷を起こします。まったく昔の偉い人というのは知識だけでなく伝達力も理解力も不足しているというしかない。そんな恐ろしい行動は後世に伝えるのではなくて、早めに封をして土の下にでも埋めてしまえばいいと思います。やたらと引っ張り出すから、最近のワイドショーで無茶なことをするポケモンたちが増えるのだと思います。まだまだ医者の所にはつかない。
それにしても、寒い。まるで氷水の中に入れられているような感覚です。頭がズキズキしてきました。いけないいけない。こんなところで倒れてしまっては恥ずかしいです。何が恥ずかしいのかはまったくわからないためここは両親に恥ずかしいということにしておきましょう。早くこの病気が治ることを祈りたいです。そもそもこれが病気かどうかもわかりません。ですがグレイシアに進化したとたんにこんな体質になってしまいましたので、病気以外にありません。それとも、変態?いえいえ、えっちなポケモンのことではありません。体の変化のことです。ですが、何だか卑猥な感じがするのでいけませんね。…どうしてこの世界には月というものが存在するのでしょうか。光るだけならいくらでも私が光って上げられます。疲れているからそんな考えが浮かぶのでしょうか?それとも本心でしょうか?わかりません。そう思うしかありません。私は住めるのなら火星に住みたいです。名前を聞いただけで暖かそうな名前ですから。ようやく見えてきた。お医者さんにしっかり見てもらわなくては…
それにしても、…寒い。


☆☆☆


ビルが立ち並ぶ都会と呼べる町から少しはなれ、ちらほらと自然が見えるところにその病院のようなものはあった。これで僕のことを見てもらえるのかはよくわからないけど、でも一応都会の病院なんだ。病気の有無はわからないけど。とりあえず見てもらえるだけ見てもらわないと。
「んっ?何だか熱くなくなった…おかしいな。病気が治ったわけでもなさそうだけど…」
また病気といっている。相当これを病気というのが僕は好きらしい。病気自体にはかかったことが全く無いというのに。でも、何で急に丁度いい温度になったんだろうか?
そこで目線を遠くに寄せてみてみると、僕の見る目が正常な限り、こちらに向かって歩いてきているポケモンがいる。よく目を凝らしてみてみようか…あれは…グレイシアだ。
「わぁ…凄く綺麗なグレイシアだなぁ…」
思わず感嘆の声を漏らしてしまう。つややかな瞳、柔らかい物腰、ぷるっとした唇。って、ここまで見えてる僕は変態か何かなのか?……でも、そういう風に表現するしかないなぁ…
だって―――本当に綺麗だから。
「こっちに向かってきてるって事は、彼女も病気か何かなのかな?」
向かってくるグレイシアの足取りは何処か重そうで、少しだけだけどふらついていた。そんなに重い病気なんだろうか…だけど僕のこのヘンテコリンな病気に比べたらまだマシなほうだと思った。だって、僕のは病気というにはあまりに奇妙で変だから…
本当に熱い。どうしようか、医者を待ってる間に僕の発熱のせいで他の病人に害が出るかもしれない。どうしよう、外で待っていようかな…でも、外にいたらいたで他の人に迷惑がかかるかもしれないし…うぅ…どうすればいいんだろうか……
「嗚呼、考えてると熱くなってきた」
「ふぅ、考えていると寒くなってきました」
下を向いて考え事をしていたためにいきなり重なった声にはびっくりした。前を見ると先ほどのポケモンが同じようにびっくりしてこちらを見ている。嗚呼、やっぱりグレイシアだった。僕の目はまだ正常に機能しているな。…遠くから見てもわかるけど、近くで見るとやっぱり綺麗だな…どうしよう、やっぱりグレイシアになっとけばよかった…
「あっ!すみません、考え事をしていたもので」
「いえ、こちらこそすみません」
先にあちらが誤ってきた。別にぶつかったわけでもないのに謝ってくれるなんて、礼儀と礼節を知っている娘だな…ちょっと話でも聞いてみようかなぁ……
「あの~、もしかしてこちらの病院に用事ですか?」
軽く話しかけてみた。グレイシアのほうはびっくりしてこっちを見ている。そんなにじっと凝視されるとまた熱くなってくるなぁ。
「えっと、はい。そうです。あなたもこちらに用が?」
そうなんです。と軽く言って頭を下げる。初対面で始めた話したのに、よく無視しないなぁ。この娘は人見知りは慣れてるタイプなのかな?それともただ単に寛容さが高いだけなのか…
「僕の病気を治せると思って都会まで来たんですよ。……ほんとに病気かどうかはわからないんですけど」
「そうなんですか?実は……私もそうなんです。私の住んでいるお医者さんの人じゃ私の病気は手に負えないといわれて…」
おお、ばっちり話題が合った。これはいい。話しかけやすいタイプだこのポケモン。ん?同じ?ってことは、この娘も僕と同じ様な病気の類にかかっているってことなのかなぁ……だったら僕の病気っぽい症状のこと話してもよさそうだなぁ。
「そうなんですか…僕の病気というのは――」
「実は…私の病気というのは――」
「――体が熱いって感じる病気のようなものなんです」
「――体が寒いと感じる病気のようなものなんです」
……えっ?同じっぽい病気?でも、あちらさんは寒いでこちらは熱い…ん?もしかして僕が熱くなくなったのはこの娘の病気の力?いやいやまさか……でも、ありえるかも。
「………何だか似てるね、僕たち」
何言ってるんだろ。ナンパしたいわけじゃないっての。僕の馬鹿。
「………ふふっ、そうかもしれませんね」
あ、よかった。そう意味でとってくれて。今度からは慎重に言葉を選ぼう。言葉選びはとても重要だって改めて知らされたよ。それにしても、この娘も同じような病気だったのかぁ…
「あの、お名前を教えていただけませんか?」
え~と、そうだ。いきなりで混乱してたから名前名乗ってなかったや。失礼極まりないことしちゃったかも。…………あ、でもそれはあっちも同じことなのかな?
「ああ、すみません。僕の名前はリブといいます」
「私はジェラードといいます。よろしくお願いしますね、リブさん」
「あ、こちらこそどうも」
ジェラードと名乗ったグレイシアが握手を差し出してくる。何だかどきどきしちゃうなぁ。こんなにどきどきしたのは友達のおやつをこっそり食べたとき以来かな。
ぎこちなく握った彼女の手から。じんわりと冷気が流れてくる。凄く気持ちいい。彼女にくっついていれば気持ちよく眠れそうだ。……だから変態じゃないんですってば。
「もしよかったらさ、僕と一緒に行かない?もう少し君のこと聞きたいんだ」
さっき言葉を選ぼうと決心したばっかりなのに、また軽率な発言をする。これでは先ほどの堂々巡りじゃないか。…でも彼女はやはりにこやかな微笑を浮かべて――
「喜んで」
――と、言うだけだった。


☆☆☆


ビルが立ち並ぶ都会と呼べる町から少しはなれ、ちらほらと自然が見えるところにその病院のようなものはあった。これで私のことを見てもらえるかどうかは定かではありませんけど、一応都会の病院ですから、病気かどうかはともかく、見てもらわないことには始まりません。
「…?おかしいですね?寒さがなくなりました。私の病気がそう簡単に治るとは思わないのですが」
また病気といっている。相当これを病気というのが私は好きらしい。病気自体にはかかったことが全く無いというのに。でも、何で急に丁度いい温度になったのでしょうか?
そこで目線を遠くに寄せてみてみると、私の見る目が正常な限り、こちらに向かって歩いてきているポケモンがいる。じっと見つめているとなんとなくわかります。あれは…ブースターですね…
「…凄く素敵なブースターです…」
思わず感嘆の声を漏らしてしまう。透き通った瞳、しっかりとした四肢、ふわふわの毛並み。…っと、こんなこと思っている私がまるで卑猥なポケモンみたいですね。でも、そういうしかありません…
だって―――本当に素敵だから。
「こちらに向かってきているということは、あの人も病気の類なのでしょうか?」
向かってくるブースターの足取りは何処か重そうで、少しだけだけどふらついていた。そんなに重い病気なんでしょうか…だけど私の奇妙奇天烈摩訶不思議な病気に比べたらまだマシなほうだと思った。だって、私のは病気というにはどこかが変ですから…
本当に寒い。どうしようか、医者を待ってる間に私の冷風のせいで他の病人に害が出るかもしれませんし。どうしましょう、外で待っていても、外にいたらいたで他の人に迷惑がかかるかもしれませんし…はぁ…どうすればいいのでしょうか……
「嗚呼、考えてると熱くなってきた」
「ふぅ、考えていると寒くなってきました」
下を向いて考え事をしていたためにいきなり重なった声にはびっくりした。前を見ると先ほどのポケモンが同じようにびっくりしてこちらを見ている。嗚呼、やっぱりブースターでした。私の目は死んではいなかったようです…遠くから見てもわかるけど、近くで見るとやっぱり素敵ですね…どうしましょう、やっぱりブースターになればよかったかも…
「あっ!すみません、考え事をしていたもので」
「いえ、こちらこそすみません」
急に謝ってしまいました。別に悪いことをしたわけでもないのに、でも、何だか自分が悪い考えをしていたような気がして…ああ、何だかとても恥ずかしいです。
「あの~、もしかしてこちらの病院に用事ですか?」
急に話しかけてきてくれました。一瞬ですがびっくりしますね。思わず相手の顔を見てしまいました。う……かっこいいです。
「えっと、はい。そうです。あなたもこちらに用が?」
とりあえず適当に相槌を打っておきましょう。でも、お話をしたこともないポケモンに話しかけるなんて、このブースターさんは人見知りをしないタイプなんでしょうか?それとも肝が据わっているだけかもしれません…
「僕の病気を治せると思って都会まで来たんですよ。……ほんとに病気かどうかはわからないんですけど」
「そうなんですか?実は……私もそうなんです。私の住んでいるお医者さんの人じゃ私の病気は手に負えないといわれて…」
おお、ばっちり話題が合いました。話しやすい人で本当によかったです。あれ?同じ?ということは、この人も私と同じ様な病気の類にかかっているということでしょうか……だったら私の奇病について話してもよさそうですね…
「そうなんですか…僕の病気というのは――」
「実は…私の病気というのは――」
「――体が熱いって感じる病気のようなものなんです」
「――体が寒いと感じる病気のようなものなんです」
……えっ?同じ病気?でも、私は寒く、彼は熱い…もしかして私が寒くなくなったのは彼の病気の相殺能力?いやいやまさか……でも、ありえるかもしれません。
「………何だか似てるね、僕たち」
似ている。確かに言われてみればそうかもしれません。そう考えると笑ってしまいますね。
「………ふふっ、そうかもしれませんね」
同じ病気の人がいて少しだけですけど安心したのかもしれません。息を吐くと気が抜けてしまいそうです。でも、この人も同じなら、もう少し話を聞いてみたいですね。とりあえず……名前が知りたいですね。聞いてみることにしましょう。
「あの、お名前を教えていただけませんか?」
失礼極まりない発言だったかもしれません。何だか困惑しているみたいですし…
「ああ、すみません。僕の名前はリブといいます」
「私はジェラードといいます。よろしくお願いしますね、リブさん」
「あ、こちらこそどうも」
よかった、ちゃんと名乗ってくれました。とりあえず握手を…
ぎこちなく握った彼の手から。じんわりと熱が流れてくる。凄く気持ちいい。彼にくっついていれば気持ちよく眠むれそうです。……だから変態じゃないんですってば。
「もしよかったらさ、僕と一緒に行かない?もう少し君のこと聞きたいんだ」
言おうとした言葉を先に言われる。しかし不快な感じはしない。むしろ心地いい。もう少しこの人のことを知ってみたいな…だから、言う言葉は決まってる――
「喜んで」
――それだけ言えばいい。


☆☆☆


二人が入った外科と呼ばれる場所には、さまざまなポケモン達がいた。気分が悪そうに頭を抑えているもの、苦しそうに咳き込んでいるもの、さまざまなポケモン達がさまざまな病原菌を持っていて、それを治しに来る場所で、二人の病気とも言えるような症状は些か的外れにも思えた。ジェラードが顔を真っ赤にして辺りを見渡す。
「た、たくさんいるみたいですね…リブさん、どこに座りましょうか…」
ジェラードが落ち着かないようにそわそわしている。それもそのはず、ジェラードは田舎の小さな村から出てきたばかりで、都会の建物やら何やらをまだまるで知らないといったところである。しかし、それはリブにとっても同じであり、リブもたくさんのポケモン達の姿を見て些か戸惑っているようにも見えた。しかしそれでもいいところを見せようとしたのか、はたまた緊張で体が勝手に動いてしまったのかはわからないが、ポケモン達が座っている椅子の、一番奥のほうにジェラードを誘導した。
「ここに座ろう。僕達のせいで他のポケモン達に迷惑をかけるわけには行かないから、隅っこのほうで様子を見てみようよ…」
リブの言葉にジェラードはこくりと頷く。二人が密着して座ると、二人の汗の匂い、心臓の音、湿った息遣いまでが鮮烈に聞こえてきた…それだけで二人は顔を赤くしてうつむいてしまう、会話も途切れ、呼吸音だけが二人を支配する。二人が一緒にいるだけで、二人の体温は平常になっていく…
「(やっぱり、気のせいじゃなかったんだ……リブさんと一緒にいると、私の体温が普通になってる…今確信できた…でも、何でリブさんと一緒にいると、私の体温が常温になるんだろ…?)」
「(気のせいじゃない、確信できた。ジェラードと一緒にいると、僕の体温が普通のブースターのそれに変化することができるんだ………でも、何でジェラードと一緒にいるだけで、僕の体温が一定の常温になるんだ?)」
二人は同じことを考えて、頭を捻る。どうしてなのかということを考えて、それでも答えが見つからない。医者なら何かわかるかもしれないということでずっと待っていたら、番号が呼ばれた。
「20番と21番のお客様、こちらへどうぞ」
受付のラッキーがニコリとした微笑を浮かべて二人を医者の部屋に案内する。二人はなぜ二人一緒に呼ばれたのだろうということに疑問を持ちながら、誘導されるままに医者の部屋の前に来た。ドアを開けて中に入ろうとすると、受付のラッキーが苦笑いをしながら二人にこう告げた。
「申し訳ありません、お二人様のことは先生がまもなく冷熱両極天奇行が来る。となにやら叫んでいたので、二人がきたら二人一緒に診察室にくるように言われたのです」
「冷熱両極天奇行?それは僕とジェラードのことを指すのですか?って言うか、来ることがわかっていたのですか!?どうして?」
「まさか、先生というのはエスパータイプですか?」
二人が驚きに顔を見合わせる。その反応を見てラッキーは益々苦笑いをした。そして苦笑交じりにこう言った。
「いえ、至って普通のポケモンです。ですが、性格がちょっとアレな性格なので、でも、医療の腕は天才的なんです。本当ですよ?……と、とにかく、二人のことは先生が診てくださいますので、まずは挨拶をしてはいかがでしょうか?」
「「????」」
二人が不審げな顔をしたが、ラッキーはそれを軽く流して、ぺこりと一礼をすると、受付のほうに歩いていってしまった。残された二人は益々頭を捻って、とりあえず自分たちの症状を見てもらうためにドアをノックしようとして――
「ドアをノックしてはいけない!!ドアは神聖な生物を閉じ込める棺のようなものなんだ!!君たち二人がノックをしてしまうことで、神聖なものが驚いて抜け出てしまう恐れがある!!だからこそ!ドアを!ゆっくりと!開けて!!私のところに来たまえ!!!」
――思い切り怒鳴られた。
「ひっ!」
「な、何だぁ?もしかして性格がアレってことは、アッチ系ってことなのかな…」
ジェラードはびっくりしてリブに抱きつく、湿った体が密着して、ジェラードの形のいい胸がむにゅっとリブの腕を挟みこむ。リブは顔を真っ赤にしながら、叫び声の主の性格をいろいろと妄想した。
しばらく沈黙していると、ドア越しから低い声がかかってきた。
「そんなところで突っ立ってないで、早く入りなさいよ…ヒヒヒ」
最後の笑い声に、ジェラードは益々抱きつく力を強くし、リブは益々顔を真っ赤にした。
「……なんかヤバそうな先生だな………どこが至って普通のポケモンなんだ?」
ラッキーの言ったことが嘘だと思い、リブは静かにドアノブに手をかけて、ゆっくりとドアを開けた。
中は意外にきちんとされていた。外科や内科に必要な医療器具は全て揃っていて、きれいに掃除されている。壁は真っ白でしみ一つない。床には患者を見るためのベッドがあり、椅子があり、それらも全て、埃一つ被っていない。
しかし―――何よりもその部屋で場違いなのが、白衣を着て眼鏡をかけて、居住まいをしっかりと正した――怪しい雰囲気を放ったなんとも理知的なゲンガーが――妙な動きをしていた。
「アラーミス!ウンスターデス!ヘイルダール!裁きを今!ギニシャマピクチャ………」
なんとも形容しがたい動きだった。コサックダンスを踊っているようにも見えるが、見ようによってはリンボーダンスを踊っているようにも見える。しかし、動きを変えてヒゲダンスのようなポーズをとっては摩訶不思議な言葉の羅列をつらつらと叫んでいた。それを見た第一印象の言葉を、リブはぼそりと呟いた。
「……変な医者」
「そこ!聞こえていますよ!!」
「うぎゃあっ!!」
コサックダンスからタップダンスに踊りを変えたゲンガーが不思議な踊りを踊りながら右手をリブに指して注意する。その器用な行動に何故かジェラードがびっくりしてまたリブに抱きついた。ジェラードの顔は泣きそうで、涙が瞳にジワリと浮かんでいる。リブはジェラードを落ち着かせてから、医者と思われるゲンガーに話しかけた。
「あの~、すみません、先生はあなたですか?」
不思議な動きをしていたゲンガーはぴたりと動くのをやめて、ぐわっとリブの方向に勢いよく振り向いた。その動きにジェラードはまたしてもびっくりして、リブに抱きつく力を強める。
「いかにも、私はこの街で多分一番といわれていると思われる医者、ゲンガーのレイスです。令すでも礼すでもありません。レイス、ですからね……ヒヒヒ」
軽く自己紹介をした後に舌を出してケタケタと笑う。お化け屋敷で活躍したほうが自給がいいんじゃないだろうかと、リブが軽く失礼な想像をした。
「僕らが来ることを知っているようでしたが……どうしてですか?」
「簡単なことですよ…ヒヒヒ」
レイスは不気味に笑うと、眼鏡をかけなおして説明をした、一言だけ。
「星と月の導きです」
「喧嘩を売っているのですか?」
「何円で買ってくれますかね?…ヒヒヒ」
思い切り殴りたい衝動をぐっと堪えて、リブはしかめっ面をする。ラッキーのいっていたことがまったく嘘ということが判明して怒りを通り越して呆れが体中を充満させた。
「冗談ですよ…本当のことを言いますとですね、君たちの体の体温はかなり遠い所の気温も微妙に変化させているようなんです、常人にはわからないほど微妙な変化ですがね。西は熱く、東は寒い。これは両極端な気温の変化で私もびっくりしたんですよ。ですが、そんな急激な気温の変化はありえないと思いましてね、これは妙な気候だと思い、おそらくそれに頭を悩まされるポケモンが二匹、炎と氷の相反する属性の二匹のポケモンが私のところを訪れると思ったのです。訪れる理由はおそらく私の噂を聞きつけて私なら治せる。あるいは、治せるとまで行かなくても病気の名前くらいはわかるだろうと思い私の病院の門徒を叩いた……と、言ったところでしょうか…ヒヒヒ」
軽く説明を終えてケタケタと笑う。リブはしかめっ面が消えて、代わりに驚きの表情が顔に出ていた。微妙の気温の変化に気付く野性の勘はおろか、ここに来る経緯をずばりピンポイントで当てた第六巻も凄まじいものだった。ラッキーの言ったことが本当だとわかり、どうしてこんなに凄いポケモンなのに、性格がアレなんだろうとひどく落胆した。
「ふむ、当てずっぽうで言った言葉がずばり当たっていたようですね。これはすばらしい、これも運命の力ですね。メギド、メギドラ、メギドラオン……」
「………当てずっぽうだったんですか………」
ジェラードがひどく落胆する。それは当然だろう、あれだけ当てておいてこんなふざけた性格なのだから、第一印象が悪くなるとリブは思った。
しばらくしてレイスがベッドを指差す。二人がきょとんとしてレイスを見ていると、レイスが叫んだ。
「何をしているのですか、ベッドに横にならないと病気かどうか診察できないでしょう!!早く横になりなさい、まずはブースター君から!!さあ早く!エロイムエッサイム!!」
いきなり叫ばれてびっくりしたが、リブは横になったら絶対何かされるだろうと思いながら、しぶしぶベッドに横たわった…


☆☆☆


僕の名前はリブ。ブースター。いまさら自己紹介するのもなんだと思ったけど、ここで一つ僕の好きな色の話をしようと思います。
皆さんは色と言ったらどんな色が好きですか?黒、白、赤、青、黄色に黄土色、山吹色に亜麻色、好きな人にとっては玉虫色なんかもいい色になると僕は思っています。
少し話題とずれてしまいましたね、それで、僕の好きな色はずばり……青色なんです。どうして青色なのかはといいますと、青色は水の色。透明じゃなくても子供は海や水を描くときに必ず青色か水色を使います。それはどうしてなのでしょうか?
僕が考えるには、子供の頭ははじめて効かされた水という物体を、必ず青いと教えられるのであるからと考えます。しかし本当のことを考えると、水というのは青色を吸収せずに散乱するので、そこが深い海ほどたくさんの青色を乱反射させて綺麗な青色に見えるというのが現代の科学とわかります。
そんなことはどうでもいいですね。どうやら脱線してしまいました。話を戻します。僕が青色が好きな理由は、とても涼しそうな色だからです。僕の病気を治してくれないけど、見ていると涼しい気分になれる色です。これは個人の感覚なので、他の人たちには違う感じになるのかもしれません。
……でも、今現在の僕の好きな色が変わりつつあります。…黒が好きになるのかもしれない。陰鬱、憂鬱、恐怖に孤独…あらゆる負の感情を増幅させてくれる黒色が好きな人もいるのかもしれません…僕は正直に言ってしまうと黒色が苦手です。でも、このままだと僕の心が黒一色に塗られてしまうのかもしれない…

「あの、先生、…………」
「はいはいなんですかな?私のリブ君……サイモンバラティーナの思想は今でも受け継がれていますよ。私の中に…ヒヒヒ」
「そんな意味不明な宗教の思想はどうでもいいんです。どうして僕を拘束するんですか?治療じゃないんですか??」
ジェラードは外でラッキーと他愛のない話をしている。中の様子が見えるはずもなく断続的に笑い声が響く…幸せが身近にあるというのはこのことなのだろうかとリブがしみじみと思ってしまう…
綺麗に整えられたベッドに寝かされたリブは、いきなり両手足を固い荒縄で縛られて、ベッドに括りつけられた。しかも仰向けで寝かされているため、自分のモノが丸見えになってしまう。正直に言って、恥辱の格好だ。リブは顔をほんのりと赤らめて白衣を着て―――神社でよく見かけるお払いの枝と、怪しい液体の入ったビンを片手に持ったレイスを不安と訝しげな瞳で見つめる。レイスは相変わらず不思議な動きをしている。正直に言ってしまえば鬱陶しい動きだ。…たとえるなら台所で蠢く黒い●●●●のようなかさかさとした動き。何でゲンガーがこんな動きができるんだろうかと疑問に思ってしまう。
「おお、神よ!!大いなる大神よ!大神といってもイザナミの大神ではありません!私の呪……もとい治療を正しい道へと導きたまえ!!」
「あの、先生、人の話聞いてます?……聞いてないですね」
「アウタルンダーモルナリキスマーラ!!デモルカニーノフーマルキストラアラナミスケルノギニスラピクロランダマイザ…ウンバボー!!!」
意味不明な呪文を叫んではお払いの枝と思われるものを左右にぶんぶんと振り回して、レイスは何かを祈るようなポーズをとってから、リブのほうへと振り向いた。
「ふぅ…さて、何でしたっけ?」
「今更か!!!!遅いです!!!!」
リブは躍起になって縛られた手足を思い切り動かすが、方結びされた荒縄はびくともしない。リブが思い切り燃やしてやろうかと思ったが、病院が火事になるのでそれだけは思いとどまった。ふつふつと猛る心を抑えて、感情を押し殺した声でレイスに告げた。
「先生、僕を拘束することに意味はありますか?」
「はい、意味はありますよ。だって、縛らないと逃げちゃうじゃないですか」
「当たり前だっ!!!」
感情を押し殺そうと思ったが、それも数秒で終了した。リブは益々力を込めて縄を千切ろうとしたが、ぎしぎしとベッドの軋む音がするだけで、縄が千切れることは全く無い。
「治療中に逃げられては困りますからね。拘束でもしないと治療できませんよ。まぁ、治療できないこともありますけど…」
「……まさか、患者さんにいつもこういうことをしているのでは?」
「いえ、あなたが初めてです」
「何で僕は拘束するんだ!!!!」
リブは顔を真っ赤にしてどたばたと暴れるが、ベッドが軋むだけで何もおこらない。レイスはやれやれと肩を竦めた後に、怪しい液体の入ったビンの蓋をとる。その瞬間何ともいえない臭いが部屋中に充満する。その匂いに思わずリブはむせ返って咳き込んでしまう。
「えほっ、えほっ。ちょっ、何ですかそれ!?」
「さあ、よくわかりません。適当に調合した薬ですから」
「はあ!?」
リブは思わず素っ頓狂な声を上げる。そんなものを飲まされたらたまったものではないと思い必死に口を真一文字に引き結ぶ。
「力を抜いてくださいね~、じゃないと君の体がどんな状態なのかわかりませんからね…ヒヒヒ」
そんなことを言われても怪しげな液体を飲まされるのは簡便ならない。そもそもこんな状況で力なんて抜けるわけが無いとリブは思い、未曾有の恐怖に益々体を強張らせた。
――しかし…
「ふあっ!??」
いきなり不意打ちとも言えるようなぬるりとした感触、いきなりの行為にびっくりしてリブは前を見ると――レイスが先程の怪しい薬を―――リブの肉棒にたっぷりと塗りつけていた…
「やっ!ちょっと先生、なっ…何してっ…あぁんっ!!」
「何をしているのか?それはもう体のむずかゆい所に薬を塗っているんですよ…言い忘れましたがこの病院では飲み薬はほとんど取り扱っていませんよ…騙されましたねぇ…ヒヒヒ」
ピンク色の液体をぬるぬると塗っていくうちに、リブの肉棒はどんどんと大きくなっていく。ハアハアと荒い息をついて、力が出せずにきゅっと口を引き結ぶことしかできない。
「いい反応をしますねぇ…さすがは若者、私にもこんな時代が…」
「あっ……やめてくださっ…ひぃんっ…」
その液体にどんな効果があるのかは全くわからないが、リブの紅潮した顔と、感度が上がっていることを総合すれば媚薬の一種なのだとわかる。
「おお、成程、適当に薬品を混ぜ合わせて作った薬だったんですが…まさか媚薬とは」
「あっ…あっあっあっ……や、やめっ……もう、でちゃうよぉ」
「おっ、そろそろですか、それなら…」
リブの力の入っていない言葉を聞いて絶頂が近いとわかったレイスは、リブの肉棒を優しく掴むと先漏れの液が出ている穴に指を少しだけ入れて中をかき回した。
「ふえっ!?あっ……ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
リブの体がびくりと跳ね上がると、肉棒から己の欲望を思い切り吐き出した。レイスはそれを器用に試験管に入れると、蓋をして懐にしまいこんだ。
「それでは、この精子、ちょっともらっていきますね。リブさん、もういいですよ。ジェラードさんを呼んできてください」
レイスがケタケタと笑いながらリブの名前を呼ぶが、リブは顔を紅潮させて気を失っていた…


☆☆☆


リブはうっすらと濁った視界の中で、夢心地のような感覚に襲われながらも、ふらつく足取りで身を起こした。気がつけばいつの間にか横にはジェラードが心配そうな瞳で見つめている。その隣にはニコニコしながら羊皮紙を持ったレイスがたっていた。リブは一連の状況を思い出しかあっと赤くなる。よく周りを観察すると、乱れたシーツや汚れた自分の体などはどうやらレイスが片付けてくれたらしく、それをジェラードに見られることはなかった…が、先程の行動に意味がなければレイスはただの変態になる。もし単純に遊び気分で自分の醜態を他人に、しかも雄に見られることなのだとしたらリブは本気でレイスを怨み続けるだろう。
「………そうだ、ジェラードは?へんな事されなかった?」
念のためにジェラードにも聞いてみたが、ジェラードはきょとんと首を傾げただけだった。
「変なことですか?……えっと、そうだ、唾液を少しだけ採られましたけど…それが何か?」
「リブさん変なことを聞きますねぇ……私は紳士ですよ?」
「紳士な人が何で同姓のポケモンから…そのっ、あのっ、せっ…精液を取るんですか!?」
最後のほうを何故か大声にして叫ぶ。いってからリブははっとしてジェラードのほうを見た。ジェラードは目を見開いてリブとレイスを交互に見てはごしごしと目を擦ってから、
「えっ!?せ、精液!!?ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ??二人とも…アッチ系なんですか」
「いえいえ、私は違いますよ。リブ君が激しく誘うものだからどうしても断れずに」
「変な方向に話を摩り替えないでください!!僕は健全な男の子です!!その、先生みたいな変態的思考は持ち合わせていませんから!!」
躍起になって耳まで真っ赤になった顔をむすっと膨らませてリブは反論した。レイスはケタケタと一頻り笑った後に、柔らかい声で話し始めた。
「冗談ですよ。さて、診察の結果をお話しておきますね。私がリブ君から精液を取ったのは本当ですが、決してナニをドウするといったことではありません。まぁ、私としてはそういったのも全然オッケーでき許容範囲内なんですけどね…ヒヒヒ」
「オッケーしないでください、患者が減りますよ」
リブが真っ赤な顔をして突っ込むが、レイスは軽く無視して話を続ける。
「話がずれてしまいましたね。さて、リブ君から精子をとったのは、体から作られている液体の中で男性は精子が、女性は唾液が異常な成分を分泌しているというのが、私は過去の経験から覚えました。リブ君から精子を取ったのはそのためです。そして、二人の液体を調べた結果、異常なことがわかりました」
「異常な…こと?」
ジェラードが首を傾げてレイスに問いかける。レイスは眼鏡を両手ですっと上げると、こくりと頷いてこういった。
「はい、リブ君の液体のほうは高温を、ジェラードさんの液体は低温を、それぞれ変わることなく保っているのです。これはまだ医学会にも発見されていない、おそらく皆も知らない病気でしょう。そしてこの病気は―――おそらく私の力で治すことは不可能でしょう」
レイスが申し訳なさそうに頭を下げる。リブはやっぱりといった顔をしていた。多分そうだとは感じていたのだろう。レイスも遊びで自分にあんなことをしたわけではないのだと、今になって考えてみたら自分たちの病気を少しでも治そうと頑張ってくれたのだろう。ジェラードもそれをわかっているらしく、何も言わずに微笑んでいた。
「いいんですよ先生。先生に治せないのならもう無理だと思います。ですけど、病気の名前くらいは教えてもらえませんか?」
ジェラードがレイスにやさしい笑みを浮かべる。レイスはそれに答えるようににこりと笑いかけると、病気の名前を教えてくれた。
「リブ君の病気は"高熱放出症"これは自分の体温が高すぎて周り・・・といってもほんの少しだけですが、周りに体内の高熱を放出し続けるせいで、自分の体が以上に温まるという病気です。特に命を脅かす危険性もありませんし、体に害をなす病気でもありません。問題点といったら、夏風邪を引きやすくなるといったところでしょうか。逆にジェラードさんの病気は"高冷放出症"といって、自分の体内に溜まった非常に冷たい冷気を体の周りに放出するせいで、自分の体が極端に冷やされてしまうという病気です。これも特に命を脅かすというわけではありませんが、下痢がひどいときは直りが一向に遅いという恐ろしい病気です」
「そ……それは恐ろしいですね」
ジェラードが真剣な目つきになってレイスの話を聞いていた。確かに下痢だけは本当に困る。リブもそれだけは身にしみてわかっているようだった。レイスは一頻り話をして一息つくと、二人にこんな話を持ちかけた。
「と、これが二人の症状です。気分が悪くなるなどの変化はないので安心してください。それでですね、二人の病気は互いについになっていればあまり熱い寒いと感じることはおそらくないのではないでしょうか、という考えが私の中に浮かんできてるのですが、二人とも何か心当たりはありませんか?たとえば、互いに密接したときに自分が熱い寒いと感じなくなったとか…」
レイスに言われて二人はしばらく考えた。確かにそれはそうだ。ここに向かう途中に急に自分の体温に変化が起き、体に不都合を感じなくなった。単なる偶然ではなさそうだったので、そのことをレイスに話すと、レイスは穏やかな微笑を浮かべてやはりといった顔をした。
「どうやら私の思ったとおりだったようですね。二人の病気は互いに病気の力を中和する性質にあるようです。二人がより一緒になれば、もしかするとこの病気も直せるきっかけができるかもしれませんね…と、言うわけで、二人とも今日からこの病院で寝泊りしてください」
「えっ?」
「はい?」
二人は互いに首を捻ってどういうことかと告げる。レイスは眼鏡をすっと押し上げて話し始める。
「つまりですね、一ヶ月ほどここで働いて欲しいんです。二人の日常生活を見て、二人の定期健診などを毎日行って、病気が密接した二人にどんな風に影響するのか見てみたいので…もちろん、電話は貸しますよ。病気の治療のために一ヶ月くらい入院するといっておけばいいでしょう。どうでしょうか?泥舟に乗ったつもりでやってみませんか?アルバイト…ヒヒヒ」
最後の笑いさえつけなければ考えてみてもよかったのに、と、リブは心の底からそう思った。だが、レイスの言っていることをおざなりに返そうとは思わなかった。
自分は病気を治すためにここに来たのだ。そして、ジェラードもそう思っているはずだ。だったら、一ヶ月ここにいて、どんな病気なのか実体くらい知っておこうという気持ちと、もしかしたら直る兆しが見えるかもしれないという小さな希望が心の中に燻っていた。それゆえに、返事はとても短く、とても早かった。
「やってみます。一ヶ月間、よろしくお願いします……ジェラードも、それでいいかな?」
ジェラードはにこりと笑って頷いた。肯定という意味なのだろう。リブはレイスのほうへと顔を向ける。どんな仕事が待っているのかはわからない。自分がどれだけ働けるのかなどは未知数だ…
だが、やってみて損はないだろう。いや、やらなければ後悔するかもしれない。
「よろしくお願いします。先生」
「用こそ、総合病院へ、冷熱両極天奇行なお二人さん」
リブとレイスは儀礼的な握手を交わした。今日から一ヶ月。どんな毎日になるのだろうか……


☆☆☆


リブの心は夢の中をさまよっていた。
いつも見る悪夢の類の夢。自分の体が燃え上がって消えていく感触。どんな病気かわからず、悶え苦しんだ挙句、体が燃え上がり、炭も残らず、影も残らずに、そのまま燃え尽きる。病気のことも、どんな病気かもわかったのに、この悪夢からは絶対に逃れられない。永遠に繰り返される。まるで擦り切れたエンドレステープのように…そして、必ず自分の悲鳴で目が覚める…
「うわぁっ!!!」
リブはベッドから勢いよく上半身を起こした。体中が熱い、じっとりと掻いた汗までもが、すぐに乾燥して蒸発していく…隣のベッドでは、ジェラードがすやすやと穏やかな寝息をたてている。どうやら今の悲鳴では起きなかったらしい、ずいぶんと深く眠りについているようだった。
「くそっ……なんでこんなに熱いんだ……」
リブはぜいぜいと方で息をしてから辺りを見渡す。いつも見慣れた自分の部屋ではない。真っ白で、何もない虚無の空間。それで思い出す。ああ、自分は病院で働くことになっていたんだ、と。
のそのそとベッドから身を起こして、洗面所に向かう。洗面所では先約が洗面所を使っていた。見間違えるはずもない。レイスだった。
「ああ、おはようございますリブ君。今日は君にもこの病院で働いてもらいますから。一緒に頑張りましょうね」
「はあ、まあ、それなりに」
リブは眠そうな瞳をごしごしと擦り。適当に手をひらひらと振る。レイスはそれに満足したのか、タオルで顔を拭くと、すぐに診察所のほうへといってしまった……
「…一般的な常識なんかは覚えているんだ」
リブは去り行くレイスを見つめて、きわめて失礼な発言をした。それから水の蛇口を捻って顔を洗う。冷たい水が勢いよく出て、リブはそれを両手でたっぷりと受けてから顔につける。一瞬の冷たさがきたが、それはすぐに生ぬるい水になり、最終的にはお湯に変わってしまった。
「はあ……やっぱり、意味ないなぁ…」
リブはプルプルと首を左右に振ってから、レイスの向かった診察所へと足を進める。一体どんな仕事が待っているのだろうかという不安半分、期待半分の気持ちを抱えて…

ジェラードはリブが起きてから数十分後に、のろのろと身を起こした。眠そうな瞳を瞬かせ、あっちこっちを向いてから、しばらく考えるそぶりを見せてから、軽く首を左右に振る。コンディションは良好のようだ。
「………よし、顔でも洗いに行きましょう」
ジェラードは大きく伸びをした後に、しっかりとした足取りで洗面所に向かう。蛇口を勢いよく捻ってお湯を出し、それを両手いっぱいに受け止めて顔を洗う。暖かいのは最初だけ、すぐに冷たい水に変わってしまい、ジェラードは深いため息をついた。
「ああ、やっぱりですか…」
がっかりしたように方をうなだれて、重い足取りで診察所へと向かい――扉を開けた瞬間とんでもないものを目にしてしまった。
診察所には三人いた。受付で世話になったラッキーと、もう一人はジェラードたちに協力してくれている医者、レイスだ。そしてもう一人は――ジェラードと同じ性質のような病気を持っているブースター、リブがいた。
リブは顔を真っ赤にしてうつむいていた。よく見ると可愛らしい女物のナース服に、ナース帽を被っている。正直に言ってしまえば、物凄く似合っている。イーブイ系統のポケモンたちは、雌なのか雄なのかいまいちはっきりしない顔立ちの面子が多いため、どんな格好をしてもナチュラルにはまってしまうのだろう。つまり、両性玩具にもなる感じだ。
ジェラードはしばらくほけっとしていたが、すぐに意識が現実に戻ると、リブのナース姿をまじまじと見つめていた。
「リブさん……ソフトに似合ってますね」
「やめて、お願い、僕を見ないで…」
益々顔を赤くしてうつむいてしまうリブを見て、ジェラードは益々似合っていると心の中で思った。正直、そういう類の店で働いたならかなり人気者になれるだろう。…本人はかなり嫌がりそうだが。
「いや、すみません。リブ君の背丈に合う男物の服がなかったので。しかしこれはこれで結構さまになっていますね。どうですか?性転換手術、うけてみません?ヒヒヒ……」
リブはぶんぶんと首を横に振って却下した。かなり恥ずかしいのだろう。ジェラードは周りの温度でリブの気持ちが何となくだがわかった。
「早めに……新しい作業服を探しておいてください…こんな格好で働くなんて…は、恥ずかしすぎて…死ぬ」
「わかりましたよ。さて、ジェラードさんにもナース服を着てもらいますね」
「はい。……あの、所でなんでナース服なんですか?」
レイスに投げかけた疑問は、さも当然のような答えが返ってきた。
「病院だからです。後、私の個人的な趣味ですね…ヒヒヒ」
レイスが屈託のない笑顔を見せる。何だかそれがとても不気味に思えた。ジェラードは渡された染み一つない四速歩行ポケモン用のナース服に袖を通す。着てみると妙な感覚がしたが、普段服など着ないのでそれに対する違和感だろうと思い、特に気にせずにレイスに質問した。
「ところで、ここではどんな仕事をするんですか?患者さんを診れるのは先生しかいないと思うんですけど…」
ジェラードの質問には、レイスの代わりに隣にいたラッキーが話してくれた。
「ここでの仕事は、薬品の整理、診察の受付、先生の補助、主にこの三つになるわ。リブ君は薬品の整理をして、ジェラードさんは先生の補助をしてくれると助かるわ。何世故の病院、広いけど私と先生しかいないから、全然回らないのよね…おかげで私も肩凝っちゃって…」
ラッキーが冗談に聞こえないことを言った後に苦笑いをする。多分この病院にポケモンが集まらない理由の一つが、先生の性格なんだろうと思ったジェラードは、それを言おうとしたが何をされるかわからないのであくまで平静を装って黙っていた。
「わかりました。それじゃあ僕は薬品の整理をしに行きます。ラッキーさん、教えてください」
ひらりとナース服を翻して、リブが薬品の説明を受けながらラッキーと一緒に消えていく。残されたジェラードは黙ったままうつむいて、居心地が悪そうに辺りをきょろきょろと見渡した。レイスは何かの書類をじっと見て考え事をしているようで、話しかけづらい雰囲気があった。そのまま何分か経って、レイスが書類を整理してからジェラードに話しかけた。
「ジェラードさん、私の補助といっても特に難しいことはありませんよ。私の指定する薬品を取ったり、患者さんのカルテを読み上げるくらいです。…まぁ、後は貴方達の診察をしますけどね…ヒヒヒ」
「……はぁ…」
ジェラードは間の抜けた声で返事をしてからいそいそとレイスの隣に移動した。時計の針は止まることなく進み続け、病院が機能し始める。
その一日、リブは薬品を整理し、病院内を清掃し、女に間違われてナンパされ、精神的にげんなりした。ジェラードは、しっかりとレイスの補助を努めて、仕事の内容やカルテの見方、薬品の効果や置いてある場所を大体だが覚えることができた…


☆☆☆


「はい、両腕を上げてくださ~い…は~い、いいですよ、そのままゆっくりとお手上げポーズをとって~…ほ~ら、これでリブ君もお手上げ侍…いたっ!」
「馬鹿なことしてないで早く診てください、先生。ジェラードが待ってますよ」
両の前足を上げてむすっとしているリブが、レイスの頭に軽いチョップを叩き込む。相変わらずレイスはケタケタ笑っているし、リブはむすっとしているし、ジェラードはぼうっとしている。
…病院で生活してから一週間が経ち、リブもジェラードも仕事に慣れ、レイスやラッキーと軽い雑談をするまでに打ち解けることができた。結局リブの体に合う作業服がなかったため、リブは相変わらずナース服のままだが、もうそれに慣れてしまったのか、リブは特に何とも思わなかった。レイスに軽く突っ込みや暴力を加えることもするようになったし、なれない環境に戸惑っておろおろすることもなくなった。ジェラードは元からこういう仕事が得意だったのか、二日でほとんどの仕事をこなせるまでに成長した。もはや、二人はこの怪しい病院の要といっても過言ではないだろう。
しかし、どれだけなれても、二人の症状は治ることはなく、なれることもできずに熱い寒いといい続けていた。レイスも毎日見ているのだが、未だに症状がどんなものかわからずに、右往左往状態だった。
「……ふぅむ、体に異常がないということは、内部に異常があるのでしょうか?どれ、もう一度リブ君の――」
「やめてください、本気で殴りますよ?」
「む、それは残念」
リブの診察を終えると、今度はジェラードの診察をし始める。ジェラードは黙って診察を受けていたが、リブはジェラードの異変に気がついた。
「ジェラード、どうしたの?何だか顔色が悪いよ?」
リブに言われてはっとしたジェラードはリブのほうに首を動かす。目の下にはくまができていて、瞳も乾燥しているようだった。リブは心配そうな顔をしてジェラードを見ていたが、ジェラードは力なく笑うだけだった。
「大…丈夫です……少し…疲れただけ…ですから」
ジェラードはそういって椅子に座った。レイスが聴診器を当てて体調を見る。しばらく見ていたがジェラードの死にそうな顔を見て怪訝そうな顔をする。
「ジェラードさん、……疲労してますね。後で何か作りますから、それを食べて一週間ほど療養してください。ただでさえ不思議な病気にかかっているのです。それに加えて疲労していたら、体が悲鳴を上げてしまいますよ?」
「はい……すみません」
ジェラードは申し訳なさそうな顔をしてから、診察を終えてすぐに部屋に戻っていってしまった。リブは心配そうに去っていくジェラードを見つめていたが、レイスに呼ばれてそちらを向いた。何事かと思いレイスのほうへと向き直ると、レイスが白衣の上になんの捻りもないエプロンを着て、キッチンへと向かうといった。リブは正直吹きそうになるのを堪えて何をやるのかと聞いた。
「料理ですよ…ヒヒヒ。最近の若い人は料理ができない人が多いですからねぇ…リブ君料理の心得はありますか?」
「えっ!?………………えっと…」
リブは言葉に詰まる。料理などしたこともない。それが本音だった。それを正直に言うと、レイスはくすりと笑うだけで、すぐにリブにもエプロンを渡した。
「でしょうね、ではリブ君、私の料理を少し手伝ってください。大好きなジェラードさんのために料理をするんですから……張り切ってくださいね?…ヒヒヒ」
大好き、といわれてリブは耳まで真っ赤になってそれを否定しようと――できなかった。レイスの言う通り、というわけではないが、的は得ていた。
ここに来るまで、リブには友達らしい友達ができることはなかった。子供のころ親に何になりたいといわれたとき、真っ先に親と同じブースターになりたいといったのだ。そしてブースターになってからこの奇妙な病気にかかってしまったのだ。そのおかげで今まで一緒にいた友達からは、自分がいると熱くなるという言葉で、離れていってしまったのだ。自分がそんなに熱いのかというのは子供のころでは理解ができない感情だった。しかし、時が進み、精神が大人になるに連れて、自分の体に異変が起きているということに気がついて、確かに自分の体がおかしいということに気がついた。だがしかし、他人に移るわけではないというのに、なぜ皆自分から離れていってしまったのだろう。自分と友達との関係は所詮はこの程度だったということなのだろうか。リブは今までそれをずっと抱えてきて生きてきた。だからこそ、同じような病気にかかっているジェラードを何よりも共感し、誰よりも仲良くなれたのかもしれない。それゆえに一ヶ月という短い時間、まだ一週間しかたっていないというのに、友達を越えた感情が少しずつ大きくなっていく。その気持ちは…"好き"という恋愛感情。
馬鹿らしいかもしれない。馬鹿にされるというのもわかっている。一週間かそこらで何も知らないポケモンを好きになるという感情は、普通のポケモンには理解しがたい感情なのかもしれない。しかし、一目惚れという言葉があるように,恋というものは唐突に現れて、唐突に去っていくもの。今のリブは唐突に現れた恋を自分の心に留めるという大切な時間だった。だからこそ、自分の思いをさめないうちにジェラードに伝えたいという気持ち半分、いきなり自分の気持ちを押し付けるような形で伝えていいのだろうかという迷う心が渦巻いていた。
「いろいろ考えているのかもしれませんが、今はジェラードさんを元気にすることが先決ですよ。ささっと料理を作ってしまいましょう…ヒヒヒ」
レイスがリブの心を見透かしたように肩を軽く叩く。リブははっとしてレイスを見つめたが、すぐにエプロンをつけてキッチンに続く道を歩き始める。
確かにそうだ。感慨に耽っている場合ではない。ジェラードが元気になるためにはどういう料理を作ったらいいのだろうか?


☆☆☆


ジェラードは布団の中で、はぁはぁと荒い息をついていた。体が熱い、どきどきする。眠ろうと思っても眠ることができない。最近毎日それが続いている。体をごまかしてずっと仕事をしていたが、疲労と指摘されて拾うということがわかった。そもそもなんで疲労になってしまったのだろうか。
いつからこんな風になったんだろうか。どうしてこんなことを考えるようになってしまったのだろうか…考えれば考えるほど、答えは遠くなっていく。そしていつも頭に浮かぶのは…リブの顔だった。ジェラードは心の中ではわかっていたのかもしれない。……リブのことを、好きになっているということに…
認めることが恐くて、言葉に出すのが苦しくて、それをしまいこんでずっと仕事をすることで忘れられるだろうかと思った。だが、それは無意味だった。忘れられないのだ。リブのことが…
ジェラードの周りに友達はいなかった。それは何故か、簡単だ。こんな体質だからだ。周りにいると冷えて寒くなってしまうポケモンを、誰が好き好んでかまうだろうか。そのために、ジェラードはどんな時でも、何があっても一人ぼっちだった。これも病気のせいなのだとしたら、少しでも自分の人生を変えるきっかけが欲しくて、一人になるのが嫌で、レイスの元をたずねる途中で、リブに出会った。そして、自分の人生がリブと一緒にいるだけで、180度変わったような感覚になった。一緒にいるだけで、一緒に働くだけで、一緒に話しているだけで、気持ちが楽になった。他のポケモンたちと話しているときは、どんな時でもジェラードをまるで別の生き物のように見ていたのだ。それは心のどこかでジェラードを異端児と認識していたのかもしれない。しかし、この病院のポケモン達や、リブは違った。どんなポケモンでも、平等に扱う、決して汚らわしい目で患者のポケモンを見ることはない。レイスの補助をしていて、レイスがどれだけ真剣にこの仕事に取り組んでいるかわかった。失敗すれば怒ってくれるし、成功すればほめてくれる。間違えたところは訂正してくれるし、片付けも手伝ってくれた。リブは知らないレイスのいろいろな顔を、ジェラードは知ることができた。この病院には、温かいという心がたくさん溢れていた。そして、その前に病魔に蝕まれているポケモンであるにもかかわらず、明るく、屈託なく話しかけてくれた。
今今思えば、あのときから引かれていたのかもしれない。自分と同じ病気にかかっていても、それを決して呪うこともなく、今の世界を精一杯生きているリブの姿に…そんなリブだからこそ、ジェラードは好きになったのだろう。
「リブさん…」
高鳴る鼓動を無理やり押さえつけるように、ジェラードは乱暴に胸を叩いた。気持ちが伝わるはずがない。こんな自分を、リブが好きになってくれるはずがない。そう考えるだけで、益々胸は苦しくなる。
一体どうしたらいいのだろうか、そう考えても、いい考えなど浮かぶはずがない。症状は益々悪化し、嗚咽と頭痛が容赦なくジェラードを襲う、体が冷えて、小刻みにカタカタと震え始める。ジェラードは虚ろう思いの中で、決して届くことのない恋を、呪いのように思い続けた…


☆☆☆


キッチンというには、少し広すぎる気がする。
清潔感が漂う病院の台所は、アルコールの匂いや、薬品の匂いなど微塵も漂ってはいなかった。すっきりとした流し台に、大きな調理場、火を扱うところも隅々まで清掃されていて新品のそれを維持していた。リブは病院とは場違いな空間の中で多少驚いて周りを見渡していた。
「先生、ここは病院ですよね?あの、何でこんなに台所が広いんですか?というよりもレストランの調理場じゃないですか?」
リブの疑問にレイスはくすくすと笑った後に一回りほど大きなまな板と、大変丁寧に手入れされたと思われる柳包丁を取り出しながら話し始めた。
「そう見えますかね、ここは私がたまに食事を作るときに使うキッチンなんですよ。いろいろ作れたほうがいいと思って業者の人に頼んでいろいろ作ってもらったのですが、あまり料理をする時間ができなかったので、キッチンは綺麗なままですけどね…最後に料理をしたときは、確か20年位前ですね」
「20年前ですか?どうしてそんなに使っていないのにこんなに綺麗なんですか?」
リブが不思議そうな顔をして誇り一つ落ちていないキッチンを見渡し、時々感嘆の声を上げたり、不思議な調理器具を見つけては物珍しそうな顔をしていた。レイスは蛇口を捻りまな板と包丁を簡易的に洗いながら話を続ける…
「フェリア……ラッキーが毎日掃除をしていてくれるんですよ……もう使っていないというのに、なぜ掃除をするのかとフェリアに聞いたことがありました。そのときフェリアはいつも笑ってこういってくれるんですよ。先生が料理をしなくても、私が料理をするかもしれませんから。…って」
リブは穴あき杓子を弄りながら話を聞いていた。あのラッキーの名前はフェリアというのかと思いながら、レイスの話に耳を傾けていたが、ふと疑問に思ったことをレイスに聞いてみた。
「先生、先生は…どうして医者になったのですか?それだけの知識や精神学の心得があったのなら、もっといい仕事につくことができたのでは?」
リブの疑問に、料理の準備をしていたレイスの動きが一瞬止まる。少しだけ間をおいてから、レイスは少しだけ悲しそうな笑顔を浮かべた。
「知識がある…ですか。…本当に知識があるんだったら、大切な人を失うことなどしなかったでしょう。私はまだ、無知のままですよ…」
いつもとは違うレイスの顔に、リブは少しだ気怪訝そうな顔をした。どうしたんだろうか、いつものレイスはどこに言ったのだろうか、そんなことを考えて、レイスの話に耳を傾け続ける。
「少しだけ、昔話をしましょうか…私がまだ若く、医者の卵だったころのお話でも。…………………………昔、私は同期の仲間たちの中でも特に成績が悪くて、辺鄙な田舎の病院に飛ばされてそこで雑用をする日々を送っていました…あるとき一匹の雌ポケモンがやってきました。私は一目見てその女に惚れました。俗に言う一目惚れというやつですね。当時の私は医学の知識も、色恋沙汰も全て半端なときだったのです。その女性にどんな風にアプローチをすればいいのか全く分からずに、ただ毎日病院で検査を受けるその姿を遠くで眺めるだけでした。私は口下手でしてね、彼女の姿を遠くで見ていられれば幸せでした…」
「でも…それじゃあその女性に思いは届かないのでは?」
小さめのなべに水を入れて火をかける。卵を割って溶く。さらさらと手馴れた手つきで調理をするレイスは手を動かしながら話を続けている。リブはどうして告白しなかったというのが疑問で仕方がなかった。ただ見ているだけなんて、絵画ではないのだから。そう思っていた。そんなリブの気持ちを見透かすようにレイスが話を続けていく…
「私も告白したいとは思いました。彼女は絵画ではないんだ。見ているだけの骨董品ではない、ちゃんと生きているポケモンだ。そう自分に言い聞かせて何度も話をしようと思いましたがやはりあがって今いましてね…どうしても話をすることができなかったんですよ。そんな不毛な毎日を過ごしていたときです。その彼女が、重症で運ばれたんです。妙な病気にかかったそうでして、田舎の医療施設では、手の施しようがなかったのですよ。都会の大きな病院に応援を頼んで、すぐに来てもらえるように手配しました。そしてすぐに来るまで患者に異変が起きないように見ていて欲しいと――私に彼女の担当の主治医がいったのですよ」
「えっ?それってまさか…そのときに告白のチャンスを掴んだってことですか!?」
「君はいい反応をしてくれますね…二人きりになった私と彼女は会話をしましたよ。大丈夫です、すぐに助けが着てくれます。そんな当たり前の励ましでも、彼女は嬉しそうに頷いてくれました。そのときの気持ちが高ぶって宝こそ、彼女に告白しようと決心して、変な告白をしてしまいましたよ」
「変?どんな風にへんな告白をしたんですか??」
リブがうずうずしながら続きを催促する。レイスは少々苦笑いをしながら調理と話を同時進行させる。
「私はずっとあなたを見てきました。私はあなたのことが大好きです。緊張していたことと、あがっていたこともあって、変な言葉の羅列をつらつらと語ってしまいましたよ…そしたら彼女、言ってくれました。よかった、私が思い続けたことは、無駄にはならなかったって。彼女は苦しそうな声を精一杯絞って話してくれましたよ。私はずっとあなたのことを見ていました。一目惚れでした…って、私はとても嬉しかった。夢ではないだろうかと自分の耳を疑いました。しかしそのときの想いが鮮烈に焼きついていましてね、それが現実だと私に教えてくれました。両思いというのは本当にあるんだと実感できましたよ。しかし、そのとき彼女の容態が急変しましてね…苦しそうな瞳を私に向けてこういいましたよ。苦しい、苦しい、助けて。…と」
「それで…どうなったんですか?」
「私は…何もすることができませんでした。ただ、弱っていく彼女を見守ることしかできなかった。彼女の心拍数がどんどん低下していき、ついには止まってしまう――そんな時、応援が駆けつけてくれました。それで彼女は一命を取り留めることができたんです。しかし、私はそのときのことで自分を責め続けました。私にもっと力があれば、私にもっと知識があれば、私にもっと勇気があれば…彼女を私の力で救えたかもしれないのに…そう思いました。そのときのことがきっかけで、私は狂ったように知識を貪る様になりました。どんな患者が来ても守れるように、どんな患者が来ても助けられるように。もうあのときのような気持ちにはなりたくない。その一身で寝る時間も削って勉強に打ち込みました。助けた彼女とはその後すぐに結婚しました。彼女も私のことを応援してくれましたし、彼女も私と同じ道を歩みたいといってお互いに医学の道に走りましたよ…そして、いつの間にか全て治療する名医と呼ばれるようになりました。…しかし私はそれが重荷でしかならなかった。名医だったら、あの時あんな思いをすることはなかった。……と」
「先生……それで先生の奥さんはどこにいるんですか?」
「君たちがいつも会っていますよ。フェリアです」
「ええっ!?あのラッキーさんが!?」
リブは驚きを隠せなかった。ノーマルとゴースト、相反するものが一つになるなど到底考えられなかったからだ。リブは質問してみた。どうして相反するもの一緒になったのか、それで後悔はしなかったのか……と、するとレイスはうっすらとした微笑を浮かべてこういった。
「後悔するくらいなら結婚などしていませんよ。君と私は非常によく似ています。今の状況もそうですね…ジェラードさんに何か起こったとき、私は全力を尽くします。絶対に助けられないという言葉は絶対に使いません。99%不可能だとしても、1%の可能性はあります。しかし、あくまで医者というのは患者の生きようとする力を促進させるだけです。本当に生きたいと思うのは、患者の気持ちなのです。だからこそ、リブ君、あなたはジェラードさんの支えになってあげてください。私のようには…ならないでください」
いつの間にかいい匂いがするなべを持ったレイスがにこやかな笑みを浮かべていた。料理が完成したのだろうか、それを持って台所から離れていく。慌ててリブもそれについていく。最後に小さく、レイスがこういった。
「リブ君、この話は誰にもしてはいけませんよ」
リブは何も言わず、ただ静かに頷いた。


☆☆☆


「う…アレ?」
ジェラードは不意にいい香りに釣られて目を覚ました。どうやら少しばかり眠っていたらしい。顔に少しだけ手を触れると、乾いた水の感触がした。どうやら少しだけ涙を流していたらしい。
不思議な夢を見ていたような感覚だった。昔、ずっと昔、自分が小さいころ、変な病気も何もなく、家族と、友達と、皆と、屈託なく遊んでいたころ。今思えばそれは全て幻だったのかもしれない…そう思えるほどに時の流れは残酷で、無慈悲だった。あの夢のようだった幻の日々は…おそらく一生戻ってはこないだろう。
だが、今の自分に後悔はしていない。病気を治したいという気持ちはあるし、何よりも気になるポケモンもできた。相手が自分のことをどう思っているのかは全く分からない。しかし、自分の気持ちに嘘はつけない。それだけを心の中に留めておいて、ジェラードは一息ついた。
「ジェラード、おきてる?」
遠慮がちにドアをノックする音が静かな病室に響き渡る。おそらくいい香りの正体はリブが何か持ってきたのだろう。ジェラードは一呼吸おいてから開いていることを告げた。
ドアが開く乾いた音と共に、小型の銅鍋を抱えて慎重にリブが入ってきた。ミルクの香りが部屋いっぱいに広がる。それにつられてジェラードのお腹が素直な音を出す。丸半日何も食べていないので、空腹の心が根を上げたのだろう。ジェラードは少しだけ顔を赤くして、リブに遠慮がちな視線を送った。
「………ご飯食べる?お粥だけど…」
ゆっくりとした仕草で銅鍋を置いて、蓮華を手渡す。ジェラードは小さく縦に頷いて、鍋の蓋を開けた。甘いミルクの香りがぷぅん、と部屋いっぱいに広がる。ジェラードが蓮華で一口すくって口に運ぶ、口の中で柔らかいお米の感触とミルクが程よく絡み合ってすっきりとした後味を残す。ジェラードは驚いた顔をして一言、言葉が漏れた。
「おいしい…」
ジェラードは静かにそれだけ言うと、次々とお粥を口に運んでいく。先程の疲労状態はどこへ言ったのやらといったところだった…ばくばくと豪快に食事をするジェラードの姿を見て、リブの顔に段々不安の色が消えていった。ジェラードはいったん蓮華を止めて、指先についた米粒を舐めとりながら、リブに質問する。
「このお粥、リブさんが作ったんですか?」
「ううん、先生が作った。先生は僕が作ったことにしておいてくださいって言ったけど、僕は料理できないし、嘘つきたくなかったから」
ジェラードはそうですか、といってからまた食事に戻った。課茶か茶と食器と蓮華がぶつかる音、かちこちと時計が針を刻む音が静かな病室に響き渡る。ジェラードは無言で食べ続けていた。リブは一言も喋らなかった。そんな時間が数分続き、リブが先に口を開いた。
「ねえ、ジェラード?食べながらでいいから、聞いてくれないかな…」
「………」
「さっきさ、レイス先生の話を聞いてたんだ。レイス先生に喋っちゃ駄目って言われてるんだけど、やっぱりジェラードには伝えておきたいなって思って…」
「………」
「レイス先生さ、医者の卵だったとき、大好きな人が死にそうになるほど危険なとき、何にもできなかったときがあったんだって。先生はそのとき自分を責め続けたんだって。自分にもっと力があればよかったんだ。…って」
「………」
「それでその人は助かって、先生はその人と結婚したんだって。それで、もうどんな人も見殺しにしないようにって、自分に言い聞かせて、医学の勉強したんだって…」
「………」
「その人、あのラッキーさんなんだって……不思議だよね、ノーマルタイプとゴーストタイプがお互いに愛し合って、好きになったなんて…それで、レイス先生言ってた。僕とジェラードは、そのときの先生によく似てるって…」
「………」
「僕はさ、相反する元同士が一緒になったらきっと後悔するのかなって思ってばかりいた。けどさ、先生の話を聞いてからちょっとだけ勇気がもてたような気がするんだ。だって、先生は言ってくれたんだよ。僕と私はよく似ているって…それって、同じような状況で、同じような境遇の人を愛したってことになるのかなって…」
「………」
「先生の話聞いて、僕凄く感動したんだ。こんな風にお互いのことや自分のことを好きになれるポケモンがいるんだって。後でちょっとだけレイス先生を見たんだけど、フェリアさん…ラッキーさんと話しているところ見てたら……とっても幸せそうだったんだ。僕もあんなふうになれるのかなって、僕のことを受け入れてくれるポケモンがいるのかなって…」
「………」
「僕さ、ここに来て、気になるポケモンがいるんだ。その娘は、凄くまじめで、気が利いて、優しくって、でも、ちょっと変な娘…でも、凄く好き。僕のことも、対等に見てくれた。対等に扱ってくれた…」
「………?」
「君のことだよ……ジェラード」
「………………ぶっ!!」
ジェラードは食べていたおかゆを思い切り吹き出してげほげほと咳き込んだ。リブが少しだけ嫌そうな顔をしてジェラードを見つめた。
「うわぁ、ジェラード汚いよ」
「えほっ、えほっ……わ、私………その…えっと、…あの…」
「今すぐに答えなくてもいいよ、これ、僕の一方的な告白だから…嫌だったら嫌でいいし。それじゃ、元気になってね」
リブは一方的に話を切ると、椅子からゆっくりと立ち上がり、ドアを開けて静かに病室から出て行った。
残されたジェラードは、軽く咳き込んで、吹き出したせいでべたべたになった手を舐めていた…


☆☆☆


その翌日。朝靄が発生し、湿った空気の中で、リブはもぞもぞと身を起こした。カーテンを開けて、朝の光を拝もうとしたが、靄のせいで太陽の光はぼやけてしまっていた。
「ふぁぁぁ…」
小さく欠伸をして伸びをした後に、ぷるぷると首を左右に振る。顔を洗うために、外に出ようとして、部屋のドアが乱暴に叩かれる音がした。
「はい」
「リブさん!!」
聞きなれたラッキーの声だった。フェリアが切羽詰った顔をして。ドアを乱暴に開け中に入ってきた。リブが何事かと問い詰めた。
「大変なんです!ジェラードさんの容態が……凄く荒い息遣いだったんです!ドアを開けようと思っても開けるなといわれて…もう私どうしたらいいのか分からずに…」
「ええっ!?まずいじゃないですか…!!レイス先生を呼んできます!!」
リブはいそいそとナース服に着替えると、風のように飛んでいった。フェリアはもう一度ジェラードの病室のほうに向かっていった…。
「先生!!」
リブが息を切らしてレイスのいる診察室をノックする。返事がないのでリブは仕方なく無許可でドアを開けた――その瞬間凄まじい悪臭がリブの鼻をついた。
「うぐっ!!!ぐっ…」
「おや?リブ君どうしました??そんなポケモンの排泄物を踏んだような顔をして」
レイスが鼻栓をしてなにやら怪しい作業をしていた。リブは自分の鼻をつまんでよく見てみると。どうやら薬の調合をしているようだった。リブはその薬の色を見て驚愕に目を見開いた。その薬の色がかなり目に悪い色をしていた。控えめに言うなら…茶色。ストレートに言うなら………●●●の色であった。
「何ですかそれ!?」
「ああ、新しい薬の調合をしていたんですよ。いつも調合をするとき鼻栓をしますからね。今度からは私が返事をしなかったらドアを開けずに話したほうがいいですよ。私の薬品の匂いは公害だとフェリアが言っていましたからね…」
リブがとたんに嫌そうな顔をする。レイスはもくもくと怪しい薬品の中にいろいろな薬を入れていく。周りには使い終わったとされるフラスコや試験管が綺麗に洗浄殺菌されて丁寧に並べられていた。リブは鼻をつまんだまま会話を続ける。
「へんな薬を使うときくらい張り紙張っておいてくださいよ………そもそも、薬の調合は違法だと思いますけど――」
いいんですか?といい終わる前にレイスが白衣のポケットから一枚の資格を取り出した。リブはいぶかしげな顔をしてその資格に目を通す。資格には"特級調合師免許"と書かれていた…
特級調合師免許……リブが記憶を必死にまさぐって免許の説明を思い出す。
「…………………………僕の記憶が正しければ、これは国が認めた難解な調合試験をクリアしないと取れないと思ったんですけど…」
「その通りです。ちなみにそれを持っている医者はおそらく私一人だけですよ」
「何で先生がそんなものを持っているのですか?」
「それは欲しかったからです。しかし試験を受けてガッカリしましたね。試験の内容はごく模範的な調合の筆記試験と、知識と応用を加えた実習試験しかありませんでしたから。最近の若い医者は知識ばかりに偏りがちでしてね…実習試験で絶対に失敗するんですよ」
リブは未だに疑問の目を向けた。レイスの医学能力は確かに一番だとリブも認識していた。だが、薬草学や調合学の知識まであるとは思えないからだ。それとも、医学系の知識や技能を全てひっくるめて一番ということなのだろうか。リブは一つだけ質問した。
「レイス先生、その試験でどんな薬を調合したんですか?」
「無味無臭の風邪薬ですよ。風邪薬というものは一般的に出溢れているものでしたが、試験官は無味無臭というところに着目してくれましたよ。老若男女問わずに使われる。といってね」
リブは納得した。無味無臭の薬を調合するためには微妙な調合加減や薬の効果を正しく理解する知識が必要だということはレイスの執筆した書物をあさって得た知識で理解していた。それゆえに理解できないことがリブにはあった。
「だったら無味無臭の薬を作ってくださいよ。何で進んで悪臭を出す薬を作るんですか!?」
「無味無臭の薬なんて作っても面白くないじゃないですか。臭いがあるほうが私は薬として認識できます」
「だったら今すぐその鼻栓を外せっ!!嫌なら僕が優しく外してやる!!!」
リブは鬼のような形相でレイスに襲い掛かったが、レイスは少しも慌てずに"サイコキネシス"でリブの足を引っ掛けた。
「おぎゃっ!」
リブは思い切りつんのめって転倒し、病院の床に接吻した。レイスがケタケタと笑いながら薬の調合を再開する。
「全く、血気盛んなのはいいですが、ビーストモードになるのはジェラードさんの前だけにしてくださいね。私、そっちの気はありませんので」
リブは痛む鼻面を抑えて、レイスの言う言葉に反論した。
「………人の精子採ったポケモンの言うことですか…!?」
「アレは診察のためです、決してやましい気持ちじゃありませんので」
「嘘だ…8割くらいやましい気持ちが絶対に詰まってる…」
「心外ですねぇ………それはそうと…リブ君、私に用があるのではなかったのですか?」
レイスがのほほんと思い出したように言うと、リブははっとして急に血相を変えた。レイスもリブの表情を見て何かを感じ取ったようだった。
「そうだった!大変なんです!!ジェラードの容態が急変したらしくって!!」
「!!何ですと!?」
レイスが急に真剣な顔つきになってリブの話に耳を傾ける。その隣で強烈な臭いを放っている薬品など、無視である。
「息遣いが荒くなって、フェリアさんが入ろうとしても誰も入らないでって言ったそうです…どうしよう、もしかしたら昨日僕が療養中に余計なことをしたから…ジェラードが…」
「…リブ君のせいではありませんよ。病気というのはいつ悪化するものか分かりません。名医だといわれても、所詮はポケモン。命をどうこうしようなどというのはおこがましい行為だったのかもしれません……全く恥ずかしい話です」
レイスが悲しそうな顔をする。リブは首を静かに横に振って、レイスに微笑を向ける。
「先生のせいじゃありませんよ。先生が診てくれたから、僕もジェラードもこれ以上の悪化はなかったんじゃないですか。先生はもっと凄いんですから、自信を持ってください…」
「……君は優しいんですね。リブ君。そうですね。あのお粥に変な薬を入れたのも、私のせいではないですからね…」
「そうです…………………………はぁ?」
リブが一瞬だけフリーズする。レイスの言葉を試行錯誤しているようだった。変な薬を入れた。へんなくすりをいれた。ヘンナクスリヲイレタ……
「なっ……にをやってんですかあんたはぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
リブが本気でこめかみに青筋を浮かべてレイスに食いかかる。レイスは明後日の方向を向いてぽつぽつと小声で喋った。
「いえ、ちょっと水の分量を間違えましてですね。ちょうどいい具合に味加減もばっちりですし、水を足すのもあれだったんで…それでリブ君に使った薬が残っているのを思い出しましてね、ちょうど白衣に入っていたのでそれを代わりに…リブ君がつまみ食いしていたところを見て何ともなかったので…まぁ大丈夫かなぁと思いまして…」
「死ねっ!!」
リブは一言それだけを吐き捨てるようにレイスにぶつけると、レイスがしていた鼻栓を思い切り抜き取った。
「ちょっ!何をっ!!…………うぼぁ…」
レイスの鼻腔に強烈な臭いが進入し、レイスは十秒も立っていられずに気絶した。
「墜ちろ。地の果てまで」
リブは気絶しているレイスにファッキンマザーポーズをとると、急いでジェラードの病室に向かっていった。
「くそっ…ちょっとでもいい人だと思った僕が馬鹿だった」
ジェラードの元に向かう途中で、リブはレイスに対する評価を初期値にリセットした。


☆☆☆


走って走って、リブはジェラードの病室にたどり着いた。荒い息をつくまもなく、汗だくになった顔を乱暴にぬぐうと、ジェラードの病室を見上げた。レイスの薬の悪臭はジェラードの病室まで臭っており、薄まっているとはいえリブは怪訝そうな顔をした。
「臭い…まだ臭ってるのか……ドア閉めておけばよかったかも…」
先程まで原液が至近距離まである部屋で数分長居していたせいか、鼻が麻痺してしまったようだ。鼻がほとんどきいてはいなかった。リブはごしごしと鼻を擦って、遠慮がちにジェラードの病室のドアをノックした。数秒の沈黙の後、かえって来たのは短い返事…
「入らないでください」
リブはドアを開けようとして思いとどまる。ここで無理をしてでも入らないと、ジェラードがどんな状態なのか分からない(大体レイスの薬の効果だったら凄いことになっているというのは予想できてしまっているが)。それでも、自分がここで無理やり入っていってしまえば、それはそれで彼女との信頼関係に亀裂を生じさせてしまう原因になりかねないかもしれない…しかし、リブはそれでも勇気を振り絞って一言、ドア越しにジェラードに話しかけた。
「ジェラード、僕でも入っちゃ駄目なのかな?」
沈黙、ジェラードが少し驚いているような感じが雰囲気で感じ取れた。リブはジェラードが話すまで辛抱強く待っていた。しばらくの時間が過ぎて、返ってきたのは短い返事。
「…………リブさんなら……入ってもいいです…」
リブはその返事を聞いて心底ほっとした。ここで拒絶されていたら無理やりでも押し入ろうと考えていたからだ。遠慮がちにドアを開いて中に入った瞬間、鼻をつくような甘い香りと、艶かしい湿気がリブを包んだ。
「………ジェラード?」
リブはジェラードの姿を見て顔を紅潮させた。ジェラードの顔も高潮しており、荒い息をついてベッドに横たわっていた。シーツは愛液で濡れており、ジェラードの股からも愛液がとめどなく溢れていた。幼さが残るあけどない顔が艶っぽい色気を放っており、リブは思わず生唾を飲んだ。
「リブさん………エッチな女の子って軽蔑しますか……?」
「えっ!?いや……それは…」
ジェラードはぼぉっとする頭を片手で抑えて、リブに話しかけた。
「昨日の夜から何だか体がジンジンして、朝起きたらベッドがこんなことになってて、私、凄く恥ずかしくって…なんだか自然に息が荒くなって…そしたらフェリアさんがドアをノックして「大丈夫ですか」って言ってくれたんですけど…こんな姿見られたら……は、恥ずかしすぎて……」
「成程……だからここに来るポケモンを頑なに拒んだのか……でもさ、ジェラード、どうして僕は入れてくれたの?」
リブが首を傾げてジェラードを見つめる。ジェラードは紅潮した顔をさらに真っ赤にしてぽそぽそと小さい声で呟いた。
「それは……返事を……」
リブが訝しげな顔をして耳を澄ませる。ジェラードは俯いて乱れた呼吸を整えている。先程小さく呟いただけで、何を言っているのかいまいまいちよくわからなかったリブは、もう一度聞こうとジェラードに話しかけた。
「えっ?何て言ったの?もう一回言って?」
「昨日の………昨日の…………」
「えっ?昨日?昨日何かあったの?」
「…………………………もう!!」
ジェラードはむすっと膨れると、リブに近づいて――キスをした…
「ふむっ!?むっむぅぅぅぅぅぅ……」
いきなりの不意打ちにリブは目を見開いて硬直した。ジェラードの柔らかい唇の感触。頬を伝わる汗の流れ、舌と舌を絡ませる湿った水音、口から伝わる高鳴った心臓の鼓動。全て本物だった。幻ではない。
ジェラードが口を離すと、とろりと銀色の糸が二人の間を紡ぎ、切れていく。リブはしばらくぼおっとしてジェラードを見つめていた。ジェラードが真っ赤な顔にうっすらと微笑を浮かべて、話し出した。
「リブさん……これが昨日、貴方が言ったことに対する……私の答え。…大好きです。リブさん」
「…………あっ!」
そういえば、昨日ジェラードに告白したのを忘れていた。リブは今思い出したような顔をしてジェラードを見つめる。ジェラードは少しだけむくれていた。
「酷いですよ。自分の言ったことを忘れるなんて…でも、リブさん私に思いが届かないって思ってたんじゃないですか?」
「えっ!?」
ジェラードがにこりと笑って話を続ける。
「それは間違いです。むしろ思いが届かないと思ったのは私の方。短い時間で貴方と過ごすたびに、私の気持ちが、私の心が、貴方に染まっていきました。不思議ですよね。どこから来たのかも分からない誰かを、一目見ただけで好きになれるなんて。生き物は本当に不思議、でも、私はそんな生き物で本当によかったと、今なら思えます。私を見てくれている。私を異端扱いしない。ちょっとふざけているけどとっても優しい人……そんな人に、私は出会えた…リブさん。私はあなたのことが大好きです…これが私の…"答え"です」
「ジェラード……」
喋ったあとに耳まで真っ赤になってそっぽを向いてしまう。そんな仕草が可愛らしくて、リブは思わず小さく笑ってしまう。それでも、ジェラードの思いは確かに伝わった。今度はこちらが思いを返す番だといわんばかりに、リブもジェラードに話しかけた。
「ありがとう。正直に言うとさ、僕、君にふられると思ったんだ。君がすきでも、それは僕の一方的な想い。そんな身勝手な想いなら、心の奥深くに沈めてしまったほうがいいと思ってた。でも、やっぱり伝えたかったから……それで、君に思いはちゃんと伝わった…ジェラード……大好き」
リブがジェラードと唇を重ねる。お互いに封じ込めていた気持ちは、ちゃんと伝わった…


☆☆☆


べたべたになったベッドで、二匹のポケモンが絡み合う。外は寒い風が吹いているが、部屋の中は湿った暖かさと、むせ返るような空気が漂っていた。
「ふっ…んむぅ…」
ジェラードはリブに全てを委ねている。リブはジェラードを優しく抱えるような体制でのしかかっている。ふわふわとしたリブの体毛がジェラードを優しく包んで、さめる体を温める。逆にジェラードのひんやりとしたからだが、熱を持ったリブの体を程よい温度に調節する。
「ふぁっ……リブさん……あぁんっ…」
リブはジェラードの体の温度を程よく堪能したあと、ジェラードの体を弄ると、程よい形の胸に口をつけて、乳首を舐め始める。ぴちゃぴちゃというミルクを舐めるような音が響いて、ジェラードがぞくぞくと体をのけぞらせる。ざらりとした舌の感触が、ジェラードの性体感を刺激して、ジェラードはあられもない喘ぎ声を上げる。
「あっ!あぁぁっ!!はぁんっ!!リブさっ…そ、そんなことしても、母乳はでませんよぉ…ひゃあんっ!!」
ジェラードは荒い息をついてきゅっとリブの後頭部を力なく抱きしめるが、舐められて力が抜け、すぐに手を離してしまう。もともと媚薬のせいで感度が高かったためか、ジェラードは絶頂を迎える寸前にまで感じていた。
「ひっ……あっ…ふあああああっ!!!」
ジェラードの体が一瞬だけびくりと震えると、秘部から愛液をぷしゃっと噴き出した。シーツがさらに愛液を吸い、空に飛んだ液は密着していたリブの腹部にかかる。
「ふぁ…ぁぅ…」
絶頂を迎えたジェラードはくたっとして呼吸を乱している。リブはそんなジェラードを見て意地悪な笑みを浮かべると、今度はジェラードの秘部に顔を近づけた。
「べたべただね、ジェラード。僕が綺麗にしてあげる」
「えっ?あ、あの…」
ジェラードが何かを言う前に、リブはジェラードの秘部に舌を這わせる。膣内はねっとりと湿っていて、なんともいえない感触と、雌ポケモン独特のむせ返るような臭いがそこから漂っていて、知らず知らずのうちにリブの体は興奮状態になっていた。最初は焦らすように、段々と全体を舐めていく。そのたびにジェラードの口から切なげな喘ぎが漏れる。
「あっ!!リブさん…ひゃあっ!そこはっ…き、汚いですぅ…」
「汚くないよ、凄く綺麗。それに、ジェラードのにおい。僕は好きだな」
リブがねっとりとした秘部を舐めあげるたびにジェラードの体がピクリと反応する。そこからはとめどなく愛液が溢れ出して、リブはいつの間にか舐めるのではなくジェラードの秘部に口をつけて吸い始めた。
「ひっ!?あっ…あっあっあっ…あぅっ…ひゃあっ!だめっ…駄目ですぅ…そんなところ、すっちゃ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ジェラードが大きな嬌声を上げて、二度目の絶頂を迎える。秘部からは勢いよく愛液が再度噴き出して、リブの顔をべっとりと汚した。リブの顔を見て、ジェラードは申し訳なさそうな顔をした。
「あっ!!……ご、ごめんなさい」
耳まで真っ赤にしてぺこぺこと頭を下げるジェラードの姿を見て、リブは静かに首を横に振った。
「別に気にしてないよ。でも、そんなに悪いと思ってるのなら………舐め取ってほしいなぁ…」
「ひゃっ!?えっ?えええっ!?」
ジェラードはリブの言葉を一瞬理解できなかったが、リブがずいっと顔を近づけてきたので何をして欲しいのかを一瞬で理解した。ジェラードがどうしようかと視線を左右に泳がせていたが、リブが顔をぐいぐいと近づけて早くと催促するので、覚悟を決めてリブの顔についていた自分の愛液を舐め取り始める。
「ん、んむっ…むにゅう…ぷあっ…ふっ…ふぁっ…」
ぴちゃぴちゃとリブの顔を舐め、取れないところは吸い取るように舐め続ける。そのたびにリブはくすぐったそうな顔をして、ふふふっと笑った。全部舐め取った後に、リブがちゅっとキスをする。不意打ちに驚いたが、ジェラードはそれを受け入れて、数秒間リブのキスの味を楽しんだ。
「んむぅ……ふふっ、何だか自分の体から出てきた液体を舐めるなんて、変な感じです」
「どんな味?」
「ん~、ちょっとだけ甘いような感じでした」
「うふふ…じゃあ、そろそろいいかな?慣らしたし、大丈夫だよね」
リブが正上位の位置になってジェラードに大丈夫かと訪ねる。ジェラードは静かに頷くと、リブはそれを肯定と受け取り、すっかり大きくなった自分のモノをジェラードの秘部に宛がうと、ゆっくりと沈め始める。
「うっ…くぅっ…痛っ」
ジェラードが少しだけ辛そうな顔をする。結合部からは少量の血が漏れていて、リブはジェラードを楽にしてあげようとスピードを上げる。
「うぅっ……あぅぅ…あっ!!」
全て埋まりきったときに、ジェラードがはぁはぁと荒い息をつく。リブも少しだけ辛そうな顔をしてジェラードを見つめる。
「動くよ?…大丈夫?」
「はい。リブさんと一緒なら…私は、どんな試練にも、耐えて見せますから…」
古風なことを言って精一杯の笑顔で笑う。リブもそれにつられてにっこりと最上の笑みを浮かべて、ゆっくりと腰を動かし始める。膣内でこりこりと何かが擦れるような感覚がして少しだけ辛辣な顔をする。
「うっ…くっ…あぅっ…あぁっ…」
ジェラードが苦しそうな声を上げる。リブは少しでも痛みをそらそうと思ってジェラードの乳首を舐め始める。
「あっ…ふっ…くぅ…んんっ…」
ジェラードの声が少しだけ甘い声に変わる。それに安心したのか、リブが腰を動かすスピードを速める。それにつれて、擦れる様な不可解な感触が次第に消えていき、スムーズに動くようになる。苦声は歓声へと、不恰好だった動きは滑らかな動きへと徐々に変わっていく。つながる二人の声も、次第に高くなっていく…
「あっ…リブさん…私…もうっ!!」
「うん、一緒に……」
スパートをあげて、最後に思い切り奥まで突き上げる。ジェラードの頭は、その動きで真っ白になる。
「!!!!っーーーーーーーー!!」
ジェラードとリブが互いに声にならない嬌声を上げると同時に、リブのものが大きく震えると、ジェラードの膣内に精を思い切り吐き出した。そのままこてりと二人で横になり、強烈な睡魔の中で幸せそうに眠りについた。


☆☆☆


木漏れ日の光が漏れて、幸せそうに眠る二人の姿をキラキラと照らす。
一匹の影が動いた、もぞもぞと力なく起き上がり、寝ぼけ眼で辺りを見渡す。
時計を手にとって、午前九時四十六分…寝すぎたと思って隣にいるジェラードを揺り起こした。
「起きて、ジェラード、もう九時を過ぎてるよ…」
「んっ…ふぅ…ん」
どれだけゆすっても起きてこない、当然といえば当然だ、昨日あれだけ体を酷使するような肉体運動をしたのだから…かっこよく思ってみて、思わず苦笑してしまう。
「はは、えっちなことしてただけじゃん」
昨日の夜、何をしていたのかがハッキリと蘇る、ジェラードの気持ちを受け取って、自分の気持ちを伝えて、大好きな人と一緒になって…
「凄いなぁ、僕の人生、辛い事の方が多かったのに…」
「辛い事の方がある分だけ、いいことが後からやってくるって聞きますよ…?」
ふと、隣から声が聞こえた、いつの間にか起きていたジェラードが頬を少しだけ赤に染めて恥ずかしそうな顔をしてこちらを見ていた。
「ご、ごめんなさい、私、変なこと言いましたか?」
悪いことをした子供のような顔で、すぐに俯いてしまう、そんな仕草を見ても、可愛いと、愛おしいと思える。
俯きがちな顔をじいっと覗き込んで、柔らかな微笑を浮かべてくしゃくしゃと頭を撫でる。
「別に大丈夫だよ。ジェラードは間違ったこと、言ってないよ…君の言うとおりだから、人生は不幸が前半にある人は、幸福が後にやってくるってね…」
「エヘヘ…」
自分が伸ばした腕を気持ちよさそうに受け入れるジェラードの顔を見ていて、今の自分がどれだけ幸せなのかがよくわかった。
今なら思えるだろう。
きっと、自分が病気になったのは、この娘と出会うために……ジェラードと一緒になるために…この小さな世界の、小さなこの場所で、出会うために…
「リブさん?どうしたんですか??」
考えていたらきょとんとした顔でジェラードが覗き込んできた、少しだけびっくりしてくすりと笑う…
「あ、ああ、いや、考えてたんだ。この小さな世界で、僕は君に出会えたことを神様に感謝しなくちゃ…君に出会うことが出来て、本当に嬉しい…」
「ふふ、ちょっと芝居がかかったみたいですね…でも、私もそう思います。物心のついたときからこの病気にかかっていて、周りからは皆が離れていって……でも、貴方に会えました」
そういってにっこりと笑う彼女の顔は、出会ったときよりも輝いて見えた、自分の目の錯覚かもしれないが、ジェラードは出会ったときよりも、笑っている。
であったときは、自分の病気を治すことだけを考えていた。
誰かが病気にかかっていたときも、心配をすることもなく、自分を直すことだけを考えていた…他人よりも自分だと考えていた心に、釘を刺したのが、ジェラードというグレイシアの存在。
同じようで違う病気にかかっていた、対になる属性のものとであったとき、自分の心は少なからず反応をしていたのだろう、彼女も自分と同じような境遇だったと…そのときからだろうか、親近感というよりも、共感を感じていたのかもしれない…
彼女も自分と同じ考えだと思っていたが、全然違った、自分が助かりたくても、誰かも助かって欲しいといういたわりの気持ちを持った彼女の心と、自分だけが助かりたいという身勝手な自分の心。
属性だけでなく、心の考え方も相反していた、そのときからだろうか?自分が恥ずかしいと思い始めたのは…
彼女のおかげで、自分はそれに気付くことができた。
そして、ジェラードも、変わることが出来たのだろう。
…何かに対して若干無頓着だった彼女の顔に、笑顔が生まれた、この病院で働いていたときの彼女は、本当に幸せそうだった…
それはフェリアさんやレイス先生…それに僕…みんなの心に触れ合って、ジェラードの心にも変化が現れたのだろう。
五月蝿いと思っていたこともあったし、面倒くさい性格だと思ったこともあったが、やはり先生は先生だった、レイス先生は…最高の名医だろう。
「――聞いてますか?またボーっとしてますよ。もう!」
ジェラードが頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く、いろいろ考えていて彼女の話をちゃんと聞いてなかったのだから、怒るのも当たり前だろう。
ごめんね、と謝って、後ろからぎゅっと抱きしめる。
冷たいからだが、暖かく感じられたような気がした…
「リブさん、私のお腹の中、まだちょっとだけあったかいです…」
「……恥ずかしいよ」
「フフ、ごめんなさい。私は、嬉しいです……リブさんと一緒になれて、本当に嬉しい…」
幸せそうにお腹をさすって、ジェラードは微笑んだ、自分は今からずっと彼女と一緒にいるだろう。
そして、これからもずっと彼女を守っていくだろう…
「いろいろ迷惑をかけちゃいましたね…私、レイス先生に謝ってきますね」
「うん、じゃあ、僕も行くよ…」
二人で一緒に手を繋いで、ドアを開ける心地のいい風が、吹いた気がした。
自分の体の具合を確かめる、熱くなかった、あれだけうなされていた芯まで煮えたぎるような熱が、体の中から剥がれるように消えていた…
「熱くないや」
「寒くないです」
ジェラードも同じ返答をする、自分の体と彼女の体に、同じような現象が起きていた。
これはどういうことだろうか?
「先生に聞けば分かるかもしれないね…」
「はい!」
元気よく返事をしたジェラードの隣で、一緒に頷く。
ドアを軽くノックしようとして、気配が分かることに気がついて声を出してみた…
「先生、いますか?」
「待ってましたぁ!!魔人グランディアの儀式は成功したのですね!!?ああ、リブ君、それにジェラードさん!!入ってきてください」
前言を撤回したくなった、物凄く変なことを言っている、入りたくない、絶対に入りたくない。
「勇気ですよ、リブさん」
「……そうだね」
失礼します、と一言断ってがちゃりとドアを開ける。
目に飛び込んできたものは、紫色の液体が入っている試験管を両手に持ったレイス先生の姿だった。
「ようこそ!!私の実験室へ!!ヘイルダール、ゲインゾーム、ドランベルガ…」
「相変わらず変な呪文をぶつぶつといってますね、五月蝿いですよ?」
やっぱり好きになれない、この先生、変だ。
「変と思っていたら大間違いですよ!?」
「うぎゃあ!!」
心の中を読まれて、リブが大きな声を上げた、ジェラードもびっくりしてリブを見つめる。
「フフフフフフフフフフフフフフフ…二人ともフフ私はとうフフとうやりましフフフたよフフフ私はフフ作りフフフフだしたフフフんですフフフ…」
ふがとりあえず多くて聞き取れなかった、何が言いたいのだろうか、抜き言葉?
「ちゃんと喋ってください、意味不明です」
ハッキリと言い切る、このくらい言わないとこの先生は黙らない、もはやそれが身にしみて分かっていた。
「冗談です、そう、二人を治す薬が完成しましたよ!!昨日リブ君に気絶させられてから急に閃きましてね…」
それを聞いたとき、非常に驚いた。
まさか本当に治療薬を完成させるとは夢にも思っていなかったからだ、あの紫色の液体がそれなのだろうか…
が、しかし…
「さあ、この薬を飲めばきっと直りますよ!!…二人から採取した液体を綿密に調べ上げて、二人の液体を混ぜ合わせて、互いの効果を――」
「先生…もう治りました…」
「――打ち消しあうわけですね。お互い相反する病気にかかっているのですから…互いを会わせれば打ち消しあうのが科学的に正しいということを――」
話を聞いていない、どうしようかと思ったらジェラードが大きな声で先生に話しかけていた。
「あの!!先生!!私達、治ったんです!!病気が、私、寒くないですよ!!!」
「――なぜ気づかなかったのでしょうか!?私は――って、はい?」
一人の世界に入っていた先生がジェラードの言葉を聞いて素っ頓狂な声を出す。
それに畳み掛けるように自分も声を出して先生に伝える。
「ホントですよ。僕達、え、えっちなことをして、えっと、な、中に出しちゃって…そしたら、治ったんです」
「……ちょっと診てみる必要がありそうですね」
嫌に真剣そうな顔つきになって聴診器を持ち出して、発狂しそうな勢いで近づいてくる、それはそれは本当に恐かった。
「お、お手柔らかに…」
若干驚きながら、ジェラードが紳士的にお辞儀をして、すっと胸をそらす。
「……心臓の音は正常、熱体温も正常……」
先生は真剣な顔つきで、右、左、上、下と、聴診器をずらしていく…そんな行動が背中を合わせて十分くらい続いた後に、
「完全に正常な状態ですね…私も驚きました」
それだけ言って、本当に驚いた顔をした。
「僕も見てくれませんか?」
自分から見て欲しいといえたのは進歩したからかもしれない、先生がこくりと頷いて、ジェラードと同じように聴診器を当てて体を調べる。
「リブ君も完全に正常な状態です…これは…おそらく二人が行った性行為が原因ですね…」
「そんな、性病をもらったときみたいに言わないでくださいよ」
「そういう解釈しか出来ません」
そういって、先生は更に説明を続けた。
「そうですね、おそらく二人の病気が二人の性器と触れ合ったときに互いにぶつかり合い、それで互いを干渉し合い…そのまま病原体が消え去ったというところでしょうか。もちろん、どちらかが残る可能性のほうが上ですし、両方一緒に消えるということはほぼゼロに近いでしょう。…しかし、二人に宿っていた病気は消えました…これは…」
「「これは?」」
なんだろうと思って、二人が耳を澄ませてレイスの言葉を聞き取ろうとする。
「互いを思い合い、一緒になった二人の奇跡ですね。俗に言う愛の力ですよ、愛の。ラヴです、ラヴ。ラヴ・ザ・パワーです」
「…そう、ですか?……なんだか、恥ずかしいような、納得できるような」
「愛の力…ロマンチックですね…」
リブは頬を染めて、ジェラードは夢を見るような瞳で、それぞれがそれぞれの返答を口にする。
「…でも、すみません。先生、せっかく僕達のために薬を作っていただいたのに…その、使わないことになっちゃって…」
申し訳なさそうに言うが、レイスは首を横に振って穏やかな笑みを浮かべた。
「二人が二人を思う気持ちが、病魔に打ち勝ったのです。これは私達医師の力ではありません。二人の気持ちの勝利です。…こんな薬で治るよりも、得るものは大きいはずですよ?」
そういって二人を指差す、互いが互いを見詰め合って、恥ずかしそうにそっぽを向く。
「おめでとうございます」
レイスがそういって、拍手をする、それに反応するように、フェリアもにこやかな笑みを浮かべて二人を称えた。
「……リブさん…これからも、その…よろしくお願いしますね…」
ジェラードが恥ずかしそうにそういって、真っ赤な顔を更に紅潮させる。
病気が治っても、僕達は別れるわけじゃない…
一人が欠けてしまえば熱くなるし、一人が欠けてしまえば寒くなる…
病気なんかなくても、僕達は一緒にいることを選んだのかもしれない…
「こちらこそ、これからも…、ううん、ずーっと、一緒に…これからもよろしく!!」
僕達はこれからも互いに支えあっていくだろう…
だって、僕達は…寒いと熱いの奇妙な二人組み……
――冷熱両極天奇行だから……

おしまい


もはや何も言いますまいみたいな作品。ブイズに初挑戦した結果がこれだった。正直に言ってしまう。なぁにこれぇ?ギャグキャラクターを入れたらなんかお祭り騒ぎみたいなお話になりました。レイス先生ー!!俺だー!!治療してくれー!!



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Last-modified: 2012-10-07 (日) 00:00:00 
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