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全知全能を求めて

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第八回仮面小説大会投票所 官能部門 参加作品 


雲ひとつない澄み切った爽やかな蒼空。
そんな温かい光さえも届かない鬱蒼と茂る森を歩くひとつの影。
影の主はどうやらイーブイの少女のようだ。
誰も近づこうとしない森に少女の足音だけが響く。

「……本当に、こんなところにアカシックレコードがあるんでしょうか?
 歴代のインハルトさんもここを通ったと言うし、間違いはないんでしょうけど……。
 やっぱり、凄い不安です……」

少女は少しでも不安を和らげるために独り言をつぶやき続ける。
インハルト、目次を意味するその称号は彼女にとっては名前でもあった。
歴代も少々特殊な雌のイーブイ達で彼女は二十代目らしい。
世界の始まりから全てを記録すると言う、全知全能の世界記憶。
それがこの先にあると言われている。
曖昧な言い方なのは、それを確認した先代達がいないからだ。

しばらくインハルトが歩いていると古びたピラミッドが見えてくる。
アカシックレコードがあると言う遺跡。
五十年に一度だけ開くと言われている。
ここまでは歴代も到達したとされていた。
そこから先は帰ってきたものがいない未知の領域。
千年前に一度だけアカシックレコードの知識に救われたと言うが定かではない。
元々小さな島だったが、あまりの生活の過酷さに、イーブイとその進化系しか住まなくなった。
今だにこの島にこだわり続けるのはこの遺跡があるからだ。

「……ピラミッドは三角。王家の資格。
 ここにアカシックレコードがあるんですよね?
 昔の王様が管理していたのでしょうか?
 歴代のインハルトさん、どうか私をお守りください」

インハルトは覚悟を決めて遺跡の中へと踏み込む。
すると突然遺跡の入口が閉まる。
その音に驚き、一度振り返るがすぐに前を向く。
部屋には壁掛けの松明薄暗く照らしていた。
この松明がいつから燃えているのか考えると不気味なので、あえて考えないようにする。
薄暗い部屋を見渡すと先に進めるであろう扉を見つけた。
扉に近づいて押しても引いても開こうとしない。
諦めて再び周囲を見渡すと扉の横には燭台があり、記号が掘られている。
知識のない者が見れば記号だろうが、彼女には古代の文字だと理解できた。

「……流石、古代遺跡。やっぱり文字が現代のものではないですね。
 えっと、何が書いてあるんでしょうか?」

インハルトはしばらく壁の文字を見つめる。
読める言ってもすぐに翻訳するのは難しい。
そもそも古代文字を読める者の方が少ないのだ。
歴代達が古代文字を学んだとは聞いたことがない。
彼女も十年前に、集落に住む年上のイーブイの少年に教えてもらった。
いや、イーブイの少年に教えてもらったのは事実なのだ。
当時五歳だったインハルトもその少年の顔をはっきりと覚えている。
しかし、集落にそんなイーブイは存在しないと大人達に馬鹿にされた。
外部から隔離されたこの集落に来訪者が来るとは思えない。
そのイーブイが今でも何者だったのか分からないが彼女は事実会っている。
当時は恋愛感情なんて理解してなかったが、好意は抱いていた。
お兄ちゃんのお嫁さんになると、口癖のように言っていた記憶がある。

「……わきの燭台に火を灯せ。
 さすれば道は開かれん。
 これなら解読しないでも、感でなんとかなりそうですね。
 歴代はそうやって進んだんでしょうか?」

壁の松明を取り、インハルトは燭台に火を灯す。
すると扉はひとりでに開く。
次の部屋もこの部屋に同じように扉があり古代文字が書かれていた。
一歩、足を踏み込むと背後の扉が今度はひとりでに閉じる。
進めば戻れない。ありがちな仕掛けにインハルトは一度振り向きため息をつく。
同じように解読し、仕掛けを解除し先に進んでいく。
仕掛けを解除していくたびにその難易度は上がっていった。
歴代はどこまで進めたのか気になりながらも、彼女は先に進んでいく。
これまで骨なんかは存在してないから、これより先か処理されているのか。
難しくなる仕掛けに不安になりながらも、戻れないのだから進むしかない。
何度も仕掛けを解除すると、今までは少し違う部屋にたどり着いた。
あたりを見渡しても、ここには仕掛けのようなものは見つからない。
もちろんアカシックレコードのようなものもなかった。
それがどんな形状のものか、彼女が勿論知るはずもない。

「ここが一番奥……でしょうか?
 それにしては、何にもないですけど……」
「そりゃ、ここは一番奥じゃないからね。
 まぁ、奥まで行ってもお嬢さんが探してるものは、きっとないけどね」

誰もいなかったはずの背後から突然声がした。
声の主は恐らく少年だろう。
インハルトは驚き声の主の方へと振り向く。
その姿を見て彼女は違う意味で驚いた。
声の主は十年前に古代文字を教えてくれたイーブイの少年だったのだ。
なぜか、十年前と変わらない姿で目の前にいる。
当時は年上に見えた少年も今は同い年くらいだろう。

「こんにちは。二十代目のインハルト。
 君がここにやってくるのは十年前から分かっていたよ。
 まずは第一関門突破おめでとうと言っておこうかな。
 いらっしゃい。アカシックレコードが眠るとされる僕の城へ」
「……あなたは私に古代文字を教えてくれたお兄さんですよね?
 一体何者ですか? それにここがあなたの城ってどういうことです?」
「そんなに沢山質問しないで欲しいね。
 この姿は僕の仮の姿だよ。
 僕が君に正体を表すかは君次第かな。
 君は全知全能を手に入れるのは何のためだい?
 いや、やっぱり言わなくていいよ。全て分かってるから。
 表向きは集落を繁栄させるため。
 君自身の目的は、進化できないいう奇病の情報が欲しいからでしょ?
 別に歴代も進化できなかったんだから気にすることはないよ。
 そういう体質の子が五十年に一度生まれて、目次と呼ばれる。
 ただそれだけのことだよ。
 あと、このピラミッドを管理してるのが僕って意味だよ。
 はじめの松明とか、掃除とかね」

何も話していないのに、全てを知っている目の前の少年。
心を読まれているような不気味さに、嫌悪感を感じずにはいられない。
信用できる要素がなさすぎた。

「何も話さない僕を信用してとは今は言わない。
 でも、これ以上進むなら君にも覚悟を決めてもらう。
 最後には君はアカシックレコードにその身を捧げることになるよ。
 時間はこの砂時計が落ちるまでね。
 二個あるからひとつ渡しておくよ。
 僕はここで待ってるから、覚悟があるなら話しかけて。
 覚悟がないなら僕が君を遠いところに転送させる。
 時間切れは覚悟がないものとみなすから。
 落ちきるまで半日はあるから、ピラミッドの中でも見てゆっくり考えなよ。
 閉じた扉はまた開けとくからさ。
 仕掛けを解くのに必死で、よく見てないでしょ?」

少年は砂時計を渡すとそれ以上何も話さない。
インハルトが砂時計を受け取ると閉まっていた門が開き出す。
これ以上は覚悟あると言わない限り口を開かないだろう。
砂時計の砂をインハルトはじっと見つめる。
何もしていなくても砂はゆっくりと進み、当然止まってはくれない。
中を見てきて良いと言われても、そんな気になれなかった。
仕掛けを解くのに数時間はかかっていたのもある。
とりあえず、休憩を取り考えることにした。

覚悟は物心がついた時からしていたつもりだった。
でも、いざ目の前で使命を捨てて良いと言われると考えてしまう。
もし自分が二十代目でなかったらと何度も考えた。
やはり迷わずにはいられない。
自分自身が本当にどうしたいのか?
少年と行けばどうなる?
使命を捨てればどうなる?
はっきりとした答えを出せずに何度も何度も自問自答した。
自問自答するたびに、彼女の中でこの先を知りたいという感情が大きくなる。
不安はないといえば嘘になる。
それでも彼女は少年と先に進むことに決めた。
意を決してインハルトは少年に話しかける。

「……私、行きます!
 ここまで来たんです。今更戻れません。
 私はこの身をアカシックレコードに捧げます」
「覚悟はできたみたいだね。じゃあ、行こうか
 レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴー!!」

少年は振り向くと後ろの壁の一点を押す。
すると、くぼみが現れそこに鍵を差し込む。
壁がひとりでに開くと道が現れる。
道は今まで以上に薄暗い。
一見しただけで、この先に何かありそうである。
インハルトをチラリと見ると少年は歩き出す。
意図を汲んだ彼女は素直に少年の後を追う。
静かな空間に二匹の足音だけが響く。
気味の悪さにインハルトの歩く速度が無意識に早くなる。
しばらく歩くと、少年が足を止めた。
目の前には今までとは比べ物にはならないくらい豪華な扉。
恐らくここが最後の扉のだろう。
少年がゆっくりと振り向いた。

「ここがこのピラミッドの最奥の部屋だよ。
 心の準備もあると思うし、君が開けると良いんじゃないかな。
 あ、扉は見た目の割にすんなり開くから心配しないで」

少年の言葉にインハルトはじっと扉を見る。
この先にアカシックレコードがあるはず。
そう思うと緊張してしまう。
震えながら、インハルトは扉を押した。
少年の言うとおり扉はあっさりと開く。
最後の間を見てインハルトは絶句する。
部屋は想像していたものと違い過ぎたのだ。

「……え? ここにアカシックレコードがあるんですか?
 と、とてもそんな風には見えないんですが……」

部屋の中央とても一匹用とは思えない大きな寝床。
体を洗うであろう水場。
何に使うか分らない沢山の道具。
部屋自体も妙な気分になる香りに充満されていた。
どれも見たことないばかりだか、これだけは直感で理解できた。
明らかに普通の目的の部屋ではない。嫌な予感がする。

「じゃあ、逆に聞こうか。
 君の中でアカシックレコードとは一体どんな形状のものなんだい?
 あの中央の寝床、ベッドって言うんだけどね。
 この辺じゃいない人間が作り出したものなんだ。
 人間は眠らせたポケモンから様々な情報を引き出せたんだ。
 更には、夢の中で手に入れた物を具現化せることもできたらしい。
 すごい技術だとは思わないかい?」
「じゃ、じゃあ、あのベッドがアカシックレコードなんですか?」

インハルトはアカシックレコードの形状について考えたこともなかった。
いや、記録というだけで本か何かだろうと思い込んでいたのだ。
自分の想像していたものをかけ離れたものに驚きを隠せない。
あのベッドで眠ることで、全ての記録を呼び覚ます。
使い道の分らない道具は、アカシックレコードと接続する装置なのだろうか?
身を捧げろとは、眠りについたら目覚めないのだろう。
そして、インハルトの称号を持つもののみがアクセスできるのか?
これならば、歴代も帰ってこないわけだと、納得した。
彼女の言葉を聞くと少年が再び口を開く。

「いや、あれはただのベッドだけど……。
 そんな技術もあるんだよって言いたかっただけだよ。
 あ、ちなみに君の考えたことは、どれもまったく関係ないから。
 そもそも初めに、奥に君の求めるものはないと思うって言ったじゃないか。
 君自身が他と違うのは分かるけどさ……。
 自分だけが特別な存在って考えは痛いよ?」
「じゃあ、今の話いらないじゃないですか!?
 今の考えが痛いってのは分かってますよ!
 ていうか、今更ですけどあなたって他人の考えでも読めるんですか!?
 そもそも、何もないなら何でこんなところまで案内したんです!?」
「なんか、本当に今更だね。
 気の質問だけど、答えはそうだよ。
 何でって説明するのは面倒だから、そろそろ僕の正体を見せようか。
 そうすれば君も多少は納得するだろうし」

少年の姿が光に包まれる。
光が消えるとそこにはイーブイはいなかった。
そこにいたのは全身薄い桃色の体毛を持つ小柄なポケモン。
ミュウ。あまりにも痕跡がないことから、絶滅したとも言われていた。
その大きな青い瞳はまっすぐインハルトを見つめる。

「我が名はアーカーシャ、全知そのものだ。
 僕は原初。僕は終末。万事はここより始まりて、ここにて終わる。
 僕の導き出した解に間違いはない。
 そう、この僕こそがアカシックレコードさ」
「……さっきのあなたの言葉をそのまま返します。
 自分だけが特別な存在って考えは痛いですよ?」

あまりの痛さにインハルトは、冷ややかな視線を送る。
根に持っていたのか、皮肉なのか、先ほどの言葉をほぼそのまま返す。
明らかにアーカーシゃの言葉を信じていない。
その視線にアーカーシャが気まずそうにしていた。
まっすぐみつめていたはずの視線が泳いでいることから明らかだ。
二匹の間にしばらくの沈黙が流れた。

「あ、うん。そうだね……。
 なんか、こう、そこまで冷たい視線を送られると敗者のような気分だよ。
 まぁ、僕が実際特別な存在なのは確かなんだけどね。
 でも、今はそんなことはどうでもいいんだ。重要じゃない。
 君が信じようと信じまいと、僕がアカシックレコードって事実は変わらないし」
「何度も自分をアカシックレコードって言ってますけど本当なんですか?
 そこまで露骨に言うと逆に信じられないんですけど?
 証拠になるようなものはないんですか?
 た、例えば進化できない奇病を治す方法とか」
「それ、君が知りたいだけだよね?
 ま、折角だし仕組みだけは教えてあげるよ。
 イーブイは本来、不安定な遺伝子が外部の影響を受けて進化する。
 外部の影響は進化の石だったり、土地の気候だったりね。
 それは勿論、様々な環境に適応するため。
 でも、同じずっと土地で住んでいれば、その能力も退化するよ。
 不安定な遺伝子が安定してしまう。これが奇病の正体だね。
 あと、この奇病を治す方法はあるよ。
 簡単な話、安定した遺伝子を不安定にすれば良い。
 ま、それができれば奇病なんて言われないけどね」

インハルトの奇病を説明するアーカーシャ。
誰に聞いても知らないとしか答えられなかったのに簡単に答えてしまう。
その話の内容を彼女は真剣に聞いていた。
治せると聞いて、自然と笑顔になっている。
その表情を見てアーカーシャはにやけていた。

「で、あの……。肝心な具体的な治し方は?」
「それは君が僕をアカシックレコードと認めると思って良いのかな?
 認めないなら、この話はここでおしまい」

話を聞いて、少し考え込むインハルト。
他者が知らない知識を持っているという点は信用できる。
普通には入れないこのピラミッドにいるのも確か。
誰も知りえない仕掛けも解いてみせた。
信じられる要素はそれなりにある。
自称ではアカシックレコードでもないのかもしれない。
何より、奇病の治し方を知るまたとない機会。

「……私はあなたをアカシックレコードと認めます」
「良い返事だね。じゃあ、話の続きをしようか。
 答えは、通常じゃありえない様々な遺伝子を持つものの遺伝子を取り込むこと。
 噛み砕いて言えば、君が僕と交尾すれば進化できるようになる。
 正直、十年前に僕が君と接触したのは君は、僕好みになると直感したからだよ!
 さぁ、僕と交尾しようインハルト!」

答えを聞いた瞬間に、インハルトは先ほどよりも鋭い視線を送った。
彼女に性の知識はあまりないが、明らかにアーカーシャを軽蔑している。
その目は冷ややかを通り越し、むしろ殺意を感じた。
雌として、この雄の申し出を受け入れることができない。
いや、受け入れたくなかった。

「……それって、本当なんですか?
 私には盛った雄がデタラメを言ってるようにしか聞こえないんですけど」
「全知は僕だ。僕が導き出した解に間違いはない!
 それにミュウの遺伝子はとても貴重なんだよ。
 人間の科学者なんて、まつげからミュウを複製しようとまでするくらいに。
 だ、だから僕と交尾しよう?
 インハルトと交尾するつもりで二週間も自慰行為してないんだよ。
 お願いします。童貞こじらせておかしくなりそうなんだ。
 それにさっき、アカシックレコードに身を捧げるって言ったよね?」
「あなたがアカシックレコードって知ってれば言いませんでした!
 それに、あなた自身が捧げろって言ったからでしょう?
 ほとんど誘導尋問だったじゃないですか。私、ゾッとします。
 会ってすぐの相手に交尾させてと言われて、はいと答えるほど私は淫乱じゃないです。
 ……それに私、自分でしたこともないのに……」

必死すぎるアーカーシャにドン引きするインハルト。
これがかつて好意を抱いた相手だと思うと悲しくなる。
正確には、アーカーシャと交尾したくないというよりも、性に対してまだ恐怖があった。
懇願を続けてきたアーカーシャが急に不敵な笑みを浮かべる。
明らかに悪知恵が働いたようだ。
全知全能の悪知恵なんて考えたくないと、インハルトが後ずさる。

「……確かに、誰にでも腰を振る雌は僕も嫌かな。
 でも、アカシックレコードから無償で情報を得られるなんて思ってないよね?
 何かを得ようとするには同等の代価が必要になるんだ。
 この情報は世の中では手に入らない情報だから高くつくよ。
 じゃあ、インハルトは僕にどんな代価を支払ってくれるんだい?
 あ、一応言っておくけど、僕を倒そうなんて思わないほうがいいよ。
 控えめに言っても君が僕に勝てる確率は低いから。
 君が負ければ、どうなるかは言わなくても分かるよね?」

アーカーシャが納得するものを、インハルトは持ってはいない。
直接言ってはいないが身体を捧げろと言っているのは明らかだ。
選択肢を一応与えているが結果はどれも一緒だろう。
明らかに本人の口から言わせようとしている。
何か打開策が考えるが、何も思いつかない。
身体を重ねれば、嫌でもアーカーシャの言うことが正しいか分かる。
目の前の雄が本当に嫌いなわけではない。
ただ、もう少しムードを大事にして欲しかった。
インハルトも諦めたのか、ため息をついて口を開く。

「そ、それはそうですけど……。
 わ、分かりました。
 情報料として私の身体を使ってください。
 や、優しくしてくださいね?」
「インハルト自身から、その言葉が聞けたし善処するよ」

アーカーシャはインハルトを掴むと、ベッドの上へテレポートする。
突然視界が変るとインハルトは流石は、エスパータイプと感心した。
ベッドに飛ぶと、アーカーシャはインハルトを仰向けに押し倒し、唇を重ねる。
いきなりキスしてきたことに、彼女は驚き目を見開いた。
呆気ないほどに奪われるファーストキス。
ムードなんて、あったもんじゃない。
恥ずかしさと、怒りが同時に湧き上がる。
そんな彼女の気持ちを知るはずもなく、アーカーシャは舌を口内にねじ込む。
獲物を捕まえた蛇のように、その舌は彼女の舌を絡める。
二匹しかいない静かな部屋に、ピチャピチャと卑猥な水音が木霊した。
満足したのか唇を離すと、二匹の唾液が儚い橋を掛け、消える。

「ぷはっ! も、もう少しムードを大事にしてください!
 私、乱暴なのは嫌いです……。優しくするって約束ですよ?」
「う、うん。じゃあ、今度はインハルトのおまんこ弄るからね」
「……おまんこ?」

性の知識があまりない、インハルトは彼の弄りたい箇所がどこか分かっていないようだ。
きょとんとしていると、下腹部に何かが触れる。
雌の大事な部分に妙な刺激が走った。
突然の刺激に短い悲鳴をあげる。
このままだと、自分が変になってしまう。
その未知の刺激にインハルトは軽く恐怖した。

「ひゃん! そ、そんなところ弄ってないで、おちんちん入れればいいじゃないですか……。
 こんなことしてないで、早く終わらせてください……」
「さっきは優しくしてて言ったじゃないか。
 濡れてもいないで入れたら痛いじゃすまないよ?
 だから、ゆっくりならしていこう」
「で、でも……。ひゃあ! あ!」

インハルトは強気の態度は崩さないが、明らかに動揺している。
その目には涙が滲んでいることから察することができた。
流石のアーカーシャも彼女が緊張しているのに気づく。
緊張を解こうと、性器を優しくマッサージのように何度も何度も撫でた。
その愛撫に、インハルトは無意識に身体をよじる。
未知の刺激を受け入れきれない脳は逃げようと必死になっていた。
しかし、身体はその快楽を受け入れている。
性器から愛液が滴っていることから察することができた。
アーカーシャはそれを確認すると、一本だけ指を入れる。
一度も異物を受け入れたことのないその膣は、指一本でも簡単には侵入を許さない。

「ほら、指一本でもこんなにきついんだよ?
 快楽は怖がらないで大丈夫。受け入れて。
 インハルトの快楽に身を任せた喘ぎ声が聞きたいな」
「そ、そんなこと言われると、逆に聞かせたくなくなります……」

まだまだ強気な態度を崩さないインハルト。
彼女のそんな姿を見てアーカーシャの加虐心が煽られる。
入れた指を何かを探すようにゆっくりと動かす。
あるところで、インハルトが身体を大きく反らした。
一度声を大きく上げるが、何度も聞かせたくないと右前足で口を塞ぐ。
アーカーシャは見つけたその場所を何度も刺激する。
撫でられるのとは比べ物にならない強い刺激。
塞いでいても、インハルトの声が漏れる。
その強い刺激に耐えられるわけない。
先程よりも大きく身を反らし、痙攣している。
どうやら、絶頂をむかえたようだ。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
前足をどかすと、顔は涙とよだれでひどい顔になっていた。
しかし本人は声を出していないと思ってるらしく、得意顔をしている。
喘ぎ声はほぼ聞けなかったが、アーカーシャはその淫らな顔で十分満足できた。
証拠に触れてもいないのに、逸物は大きくそそり立っている。
更なる快楽を渇望し、先走りを滴らせていた。

「はぁはぁ。……ど、どうです。
 私はあなたの攻めなんて屈しませんよ」
「そんな顔で言われても説得力ないけどね。
 でも、インハルト。さっき、自分でしたことないって言ったよね?
 初めてでこんなに感じるなんて、交尾の才能があるんじゃないかな」
「そ、そんな事ない……と思います」

アーカーシャの皮肉に顔を真っ赤にするインハルト。
もっと、辛辣に言い返してくると思っていたアーカーシャは呆気にとられていた。
内股でモジモジとするインハルトもまだ満足していないように見える。
その仕草は遠まわしに、もっとしてと言っているかのようだ。
もう我慢なんてできないと逸物を彼女の割れ目にあてがう。
すぐに入れたいという気持ちを押し殺し、インハルトに声をかける。

「い、入れるよインハルト?」
「私の事なんか気にしないで、入れればいいじゃないですか。
 最初だって、私の気持ちなんか殆ど無視してますし。
 でも、これだけは言っときます。
 私、別にあなたの事が嫌いなわけじゃないんですからね!
 じゃ、じゃない! 私、あなたの事が好きなんですからね!!
 だ、だから逆です! 逆じゃないですけど逆なんです!!
 ……うぅ、恥ずかしい。もう、早く入れてください」

強がろうと、口を開くと本心が出てしまった。
言い間違いで顔を真っ赤にする。
もうこれ以上ボロを出したくないのか黙ってしまう。
アーカーシャは苦笑いしながら、ゆっくりと挿入を開始する。
緊張して力んでるのもあるが、異物の侵入を阻止しようと膣はきつく逸物を拒む。
中程まで入ると何かに当たる。
アーカーシャは確認のため、もう一度彼女の顔を見た。
互いの目と目が合い、インハルトが無言で頷く。
アイコンタクトで同意を得ると、ゆっくりと純潔の砦の攻略を開始する。
その抵抗は逸物の侵入には、あまりにも弱すぎた。
砦を攻略された膣は逸物を全て受け入れる。
二匹の荒い息遣いだけが部屋に響く。
アーカーシャは小刻みに震えており、動けばすぐにでも射精してしまいそうだ。
このままでは、みこすり半で果ててしまう。
やはり、一発は射精しておくべきだったかもと内心焦っていた。
ただでさえ、既に変態呼ばわりなのに、このままでは早漏まで付いてしまう。
もう少しじっとしていたかったが、その静寂を先に破ったのはインハルトだった。

「初めてって痛いって聞きましたけど、こんなもんなんですね。
 私は平気ですから、動いて大丈夫ですよ」
「そ、そう? じゃ、じゃあ動こうかな……」

流石に、今動くと射精するなんて格好悪くて言えるわけがない。
アーカーシャは一度腰を大きく引き、すぐに戻す。
膣の締め付けは、やはり自慰なんかとは比べ物にならない。
我慢しようなんて考えは一瞬で吹き飛ぶ。
いや、二週間も貯めていたのに我慢などできるわけもない。
インハルトの中に己の白い欲望を吐き出す。

「……早いですね。あなたに射精されたから、私はこれで終わりでもいいですよね?」
「え。いや。その。……そうだね」

インハルトの言葉にアーカーシャは元気をなくす。
雄としての面子は丸つぶれだ。
逸物を引き抜くと本人とは違いまだまだ元気である。
その逸物を見て、インハルトは楽しそうに不敵な笑みを浮かべた。

「さっき、あなた自身が言いましたよね?
 何かを得ようとするには同等の代価が必要になるって。
 これ以上続けたいなら、私に何か代価を払ってくださいね?」
「うぐぅ。じゃあ、君のために用意した腕輪があるんだけど……。
 このアカシックレコードが全ての知識をつぎ込んだ特別製だよ。
 理論上では自由に進化と退化ができるようになるはず……。
 ま、この僕の自信作だから間違いなんてないはずだけどね!
 結婚指輪の変わりのつもりで用意したんだけど……。これでいい?」
「……ず、随分と気合の入った品ということは分かりました。
 まぁ、最低でも十年はこの計画に時間かけてるですもんね……。
 あなたのその気持ち受け取ってあげます」

念力で腕輪を取り出し、自慢げに説明するアーカーシャ。
逸物をそそり立たせたままでは威厳もあったものではない。
腕輪を渡すと再び逸物を割れ目にあてがう。
息を荒くして正に飢えた獣である。
膣に逸物を挿入し、ピストン運動を開始した。
今回は流石に一往復で射精はしない。
彼女の膣を味わうようにゆっくりと腰を動かす。
だが、少しづつ動きは早くなる。
激しくなる動きに、インハルトも嬌声を漏らす。
その声に興奮し、逸物は更に大きさを増した。
互いの思考はどんどん快楽に染められていく。
二匹は身体だけなく心もひとつになろうとしていた。
その激しい動きはお互いを絶頂へ誘おうとする。

「はぁはぁ。インハルト、また中に出すけどいいよね?」
「ひゃぁ。い、一度出してるですから……お、同じですよ。
 ミュウの貴重な精液を、む、無駄に出しちゃえばいいじゃないですか。
 で、でも今度は一緒に気持ちよくなりたいです……。
 な、なんて思ってるけど、思ってないですからね!」

ここまで来ても、素直になれないインハルト。
フォローする余裕はアーカーシャにもない。
強く彼女を強く抱きしめ、彼女の最奥を白き欲望で満たす。
彼女の膣も逸物を逃しはしないときつく締め付ける。
二発目とは思えない膨大な量は、彼女の中に入りきらず結合部より溢れてきた。

「……で、あなたはいつまで抱きしめてるんですか?
 暑いんで、さっさとどいてください。
 ……べ、別に疲れたし、このまま寝てもいいなんて思ってないですからね!」
「じゃあ、僕のわがままで今日はこのまま寝ようか。
 おやすみ、インハルト」
「しょ、しょうがないから一緒に寝てあげます」

アーカーシャはインハルトの額にキスをする。
恥ずかしさから、顔を真っ赤にしてインハルトはそっぽを向いてしまう。
まだまだ素直には、なってくれないらしい。
そのままインハルトは眠ってしまう。
寝顔が見れないのを残念に思いながら、彼女を抱きしめたままアーカーシャも眠りについた。



二匹はほぼ同時に目を覚ました。
時間を確かめる方法はないが、恐らくは朝だろう。
まずは水場で体を洗い流し、食事を取る。
インハルトは昨日受け取った腕輪を見ていた。
本体は金で作られ、九つのそれぞれ違う宝石が埋め込まれ一周している。
どういうものかは聞いたが、使い方はわからない。

「あの、アーカーシャさん。この腕輪ってどう使うんですか?」
「今、初めて名前を呼んでくれた?
 まずは、腕輪をはめる。九つの宝石を押し込む。
 宝石はそれぞれの色で属性を司ってるんだ。
 まぁ、ややこしいそうのだけ説明しとくと、青が水、水色が氷だね」
「なるほど。では試してみましょうか」

インハルトは腕輪をはめて黄色い宝石を押し込む。
その身体は光に包まれ、消えるとサンダースに進化していた。
何をしても進化できないと思っていたインハルトは大はしゃぎしている。
アーカーシャの言葉が真実であったことが証明された。
それ故にアーカーシャは得意げに彼女を見ている。
イーブイの幼い体型も良いが、進化して大人びたインハルトもまた色っぽい。
進化したインハルトとの交尾も良いかもと鼻の下を伸ばしていた。
背後から、妙な視線を感じたインハルトは彼に電磁波を放つ。
体が痺れ、自由が効かなくなり床に転がる。
突然の事に理解するのに時間がかかった。
視線を上に向けると、進化したインハルトがこちらを見下ろしている。
その顔は怒りと恥ずかしさで真っ赤だった。
こんな表情はよく見せてくれるんだけどな、などと思いながら床の冷たさに涙が出る。

「……ね、ねぇ。な、何で僕こんな目に合ってるのかな?」
「今、明らかにいやらしい視線を向けてましたよね?
 少しは反省してください」

どうやら彼女はまだまだ素直になってくれそうにないようだ……。


みなさん、こんにちは。
第九回短編小説大会にて『予測可能・回避不可能?』を投稿した作者です。
今回は四票もいただき、第三位タイという高成績で驚きました。
夜勤で仕事中だったため少しだけですが二十日のチャットでの感想会も覗かせてもらいました。
チャット会や投票時のコメントの内容的にキャラクターは高評価のようですが内容自体は甘いものだったようですね。
……自分自身で言うのも何ですが、他の入賞作品と比べてレベルは低いと感じましたし。
他の入賞作は納得といったレベルなのに、良く入賞できたもんです。
そんな大作ぞろいの中で、これだけ票をいただけたことには純粋に感謝です。
九回短編では久しぶりの執筆と短編大会の初参加で色々と苦労しましたが、今回は大分悪乗りさせてもらいました。
開始一行目で自分の作者名入れたり、昔通り日曜朝のヒーローネタ入れたり、プレイしてるオンラインゲームのネタ入れたり……。
元々は短編用に考えていて、『かいこ』のネタがうまく浮かばず破棄した作品をリサイクル。
超不思議のダンジョンではおいしい役もらってましが、本家で久しぶりに配信のミュウを使いたかったんです。
一応はその名残が、ポケモンドリームワールド、ミュウツーの逆襲ネタだった訳ですが……。
短編用をリサイクルしても結局はそういう長さにしかならないと痛感するばかりです。
失踪した作者が長く語ってもしょうがないので今回はこのくらいで失礼します。
最後にwikiのこれからの発展を一個人として応援しています!



コメント返信

いいな~と思ってしまう。
もしもこの立場だったら..
とにかくお疲れ様でした。 (2016/06/13(月) 04:28)


 アーカーシャさんは大分立場を悪用しましたからね

強気の態度のインハルトが可愛い。 (2016/06/15(水) 00:51)


 初めは大人しめにするつもりのだったのですがアーカーシャで悪乗りさせすぎて、これで大人しくしてるの無理! となってこうなりました。

良い (2016/06/16(木) 09:39)

 
 ありがとうございます。

投票します。 (2016/06/19(日) 22:35)


 貴重な一票ありがとうございました。


お名前:
  • 三位タイおめでとうございます。悪ノリしてこその仮面小説大会ですからね、個人的にはとてもご馳走様です。
    いつの日かその仮面の下の名を堂々と呼べる日を心待ちにしております。 --

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Last-modified: 2016-06-22 (水) 19:30:20
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