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入ってはいけない部屋

/入ってはいけない部屋

呂蒙


 ここは首都・リンシ城。城壁と幾重もの堀で城全体を囲った。難攻不落の都市である。ポニータはつてでこの国を治める君主に書記として仕えている。仕えているといっても、君主の側近ではなく、この国の歯車の一つにすぎない。いわば下っ端というわけだ。
 書記といえば、様々なことを記録するのが務めなのだが、脚が速いという理由で伝令や使いのようなことをさせられる方が多かった。リンシは海に近く、また街道が交わる交通の要衝にあるため、食料品は豊富であるが、地下資源や燃料に乏しかった。当然国内の他の都市から調達しなければならないが、必ずといっていいほどその役目が回ってきた。
(はあぁ、何で僕がこんなことを……)
 物資が満載の荷物を引っ張りながら、こんなことを思う。上官にそういうことは輸送担当官にやらせてくださいと、意見したこともあったが、いつも何やかやと理由を付けられて却下されてしまう。
(ケンタロスとか、もっと適任なのがいるでしょうに、もぅ……)
 しかし「脚は速いが、荷物の運び方が乱暴で、いつも車輪が壊れるから駄目だ」という答えが返ってくる。さもありなんという気がしなくもないが、やはり物資の輸送は重労働である。その分、経由する都市では良い宿に泊まれたり、国の割符を持っているため、大した取り調べも受けずに通過できるという利点もあるが、それを差し引いても、任務はきつかった。
 ある日のこと、ポニータが仕事をしている部屋にリザードンがやってきた。属性が同じということもあってか、仲は良い。もっとも、リザードンの方が階級でいえばずっと上になるのだが。
「あ、ロバ殿」
 リンシというよりも、リンシを含めたこの国全体の習慣で、部下は上司に対して名前で呼んではならないという習慣があった。そのため、出身地か、官職名、あるいはそれらを合わせて呼ばないといけないのだ。ロバというのは驢馬ではなく「ロバ」という都市名らしい。似たような名前で「ウバ」という都市名もあって紛らわしいが、仕事上必要なので、この国の大まかな地理は仕事の合間に勉強して、覚えた。この国は約70の城と、関所と砦からなる大陸有数の国家なのだ。
「これを書いて、城下や城門にかけておいてくれ」
「かしこまりました」
 渡されたものを見ると、危ないから宮城の特定の場所には入ってはいけないという内容のものだった。新しい法律だろうか?
「ところで、何故今更こんなものを?」
「うーむ、知りたいなら、後日教えてやるか」
 と言って、その日は教えてくれなかった。
 リンシでは雨季に入り、ネズミや害虫が発生するようになった。深刻とまではいかないが、やはり被害は出ていた。何とかして手を打たなければならない。さらに敵国の諜報が宮廷内の部屋に潜んでいるということも考えられる。それのあぶり出しもしなければならなかった。諜報といっても情報が漏れるというよりも、施設や物資に被害を及ぼす工作員、と言った方がいいかもしれない。とにかくこの国にとっては害悪でしかない。
 ポニータはリザードンから輸送を頼まれた。が、いつもとは変わった品目ばかりだった。
(木炭に、ショウ石に、イオウ……。何に使うんだろう?)
 木炭は燃料にするので、分からなくもないが。他の物資は聞いたことのない名前のものもあった。リンシに一番近い砦で言われた物資を分けてもらい、荷車を引いて、城に戻った。
 言われたとおりの物をもらって、ポニータは戻ってきた。
「何をするんですか?」
「これで、薬を作って、その力で、害虫やネズミを駆除する」
「はぁ、そうですか……」
「ん?」
「こういうことを申し上げるのは、なんですが、似たようなことをやってこの前は失敗したのでは……」
 敵国との戦争中に、リザードンは火炎放射を有効活用するために、火薬、というよりも爆薬を作って、実戦で使ったのである。しかし、肝心の実験はしていなかったため、成功するかどうかは分からなかった。敵をおびき寄せ、物陰から導火線に火をつけて、見事に爆薬に火が付き、相手は大打撃をこうむった。が、火薬の量が多すぎて事が成功するか成り行きを見守っていた味方も熱風にあおられて被害を被った。成功と言えば成功だったが、問題はその後だった。被害を被った部隊を率いていた将軍のルカリオはリザードンとあまり折り合いが良くなかった。そのため、ルカリオは何やかやと理由を付けて、自分も一緒に殺す気だったのではと疑心暗鬼になった。有り得ない話ではない。リザードンは一応謝ったが、両者の関係は微妙なままだった。結局君主が、仲裁し、リザードンを降格させ、ルカリオを栄転させることで、話がまとまった。君主が暗愚だったら内乱になっていたところだった。
「だからこそ、誰も来ないようにふれを出したんだ」
「で、誰が、この薬に火をつけるのですか?」
「私だ」
「立ち会いは、誰を?」
「君と私だ」
「えっ、えええ、やっぱり……」
 嫌な予感が的中してしまった。しかし、上官の命令だから逆らうわけにはいかない。ロバ殿が宮殿をぶっとばして、左遷で済めば御の字だな。ポニータはそう思った。
 
 一方、妙なふれが出たことは、敵国にも知れ渡るところとなり、関所を何とか通過して諜報が首都にまでやってきた。関所が仕事をさぼっていたわけではなく、今回の件は別に機密でも何でもないからだ。関所はいつも任務に励んでいたが、かと言って、特別に警戒を強めたわけでもなかった。
「今回のふれについて、探ってこいということだったが」
「へっへっへ、ここまで来たんだ。きっちり掴んできてやるぜ」
 アリアドスとデンチュラは意気揚々と首都、リンシに乗り込んだ。旅行者を装いながら、情報を集める。が、わかったのは、宮城の一画は危険だから、この日は近づかないようにということだけだった。とりあえず、この決められた日の前日に宮城に忍び込んで、その一画というのを突き止めることにした。
 決められた前日のこと、ポニータは物資を城内の倉庫から、宮城本殿まで運んでいた。さすがは一国の首都、宮城でもかなりの広さである。本殿の前にくると、宮城を守っているゴーリキーに荷物を運んでもらった。そして、決められた部屋の中に荷物を運ぶ。ここは書庫である。国の記録が詰まっている大事な部屋の一つだ。
 アリアドスとデンチュラはこの部屋に忍び込んだ。カギは付いているのだが、アリアドスが細い脚でこじ開けて中に入った。そして、天井に張り付いて次の日を待った。ついでに、ここから脱出する時に、巻物をいくつか盗んでいこうと考えた。
 
 翌日、ポニータは暗い気持ちでその日を迎えた。リザードンとポニータは例の部屋の中に入った。まさか「ネズミ」が潜んでいるとも知らずに。部屋の真ん中に置いてある金属製の箱の前で何やら作業をしている。
「さて、後は導火線に火をつけて、部屋を出るだけだ」
「爆発するのではないですか?」
「爆発はしないから、安心しなさい」
「『は』?」
「よし、火をつけた。部屋から出るぞ」
 ポニータたちが部屋を出てから、間もなく部屋にもうもうと煙が立ち込め始めた。その煙は天井にも侵入し、警戒して、天井内に隠れていたアリアドスとデンチュラを襲った。
(なんだ、臭いな? うっ!)
(くっ、苦しいっ、息が、息ができねぇ!)

 さらにその翌日。宮城を守っているゴーリキーたちが掃除のため、部屋に入った。隅から隅まで大掃除をするようにという指令が出たからだ。部屋に入ったとたん、見慣れない「大グモ」の死骸が見つかり、掃除どころではなくなった。
 報告を受けて、リザードンは言った。
「やれやれ、だから入るなと言ったのに」
 ポニータもその話を聞いたが、当のポニータは左遷が無くなって、ほっとしている様子だった。死骸の件は武官に任せればいいし、と思っていたのですぐに忘れてしまった。


 おわり


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • なんというバルサン…。
    ―― 2012-08-09 (木) 09:12:11
  • 季節ネタにしましたので。水を入れた容器に本体を入れた時の
    ドキドキ感を何とか作品にしようと思ったわけです。
    コメントありがとうございました。
    ――呂蒙 2012-08-10 (金) 18:50:28
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Last-modified: 2012-08-08 (水) 00:00:00
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