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光を求める闇

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光を求める闇 

by蒼空
始めに
この小説には殺害描写等のグロテスクな表現が含まれております。
苦手な方はこの小説を読まずにバックすることをオススメします。
なお、この警告を読まずに気分を害されても作者は一切の責任を取りません。
あらかじめ御了承ください。



悪……それは社会を生きる者達によるルールに従わない事をさす。
しかし、そのルールは決して守るのが難しいものではない。
普通の生活をしていればそのルールに触れる事はなかった。
そう普通に生活していれば……。


何かに追われるように夜の町中を一匹のドラピオンが逃げている。
いや、そのドラピオンは実際に追われていた。
ドラピオンが逃げ続けると無情にも目の前に大きな壁が立ちふさがる。
迂回するにもそこは一本道で追っ手が近づいてきた。

その追手は黒の痛んだローブを身に纏いその顔には髑髏の面をしている。
肌を出さないように全身はスーツやブーツで隠していた。
まさしく、その追っ手は死神と呼ぶのが一番相応しいだろう。
その姿から当然、性別を判断する事は出来ない。
取り合えず分かるのはそのシルエットから一メートル前後で四脚のポケモンであるという事だけである。

「そろそろ追いかけっこも終わりにしよう……」
「……貴様……この俺に何の恨みがある?」
「別に僕自身はあんたに恨みなんかないさ。でも自分がしてきた事に心当たりがないのは重症だね……。
 自分の利益を生む為にあなたはいくつもの命を犠牲にしてきた……。
 その報いを受けるのが今日だっただけさ……。死んでいただけますね?」

追手の声は当然機械で変えられている。
ゆっくりと、だが確実に追手はドラピオンに近づいていく。
追手の前足には四脚のポケモンでも扱えるよう開発された武器、鉤爪が見えていた。
ドラピオンの顔から血の気がどんどん引いていき真っ青な顔になっている。

「か、金ならいくらでも出す! 命だけは……た……すけ……」
「金なら依頼主からいくらでも貰えるんでね……。
 それにあんたのした事は金じゃ解決出来ないんだよ……」

追手はドラピオンの命乞いを聞きもしないで鉤爪を首に当て一閃する。
ドラピオンからは大量の血が噴出しやがて動かなくなった。

「……任務完遂。さて、後処理は僕の仕事じゃないからな。
 後は依頼主がどうにかするって契約だし僕は大人しく帰るか」

追手はドラピオンだったものを放置しその場を去っていった。


ならば悪に手を染めた者を裁く者は正義なのだろうか?
秩序を護る者を正義とすれば悪を裁いた者は正義だろう。
法を護る者を正義とすれば悪という者をこの世から消した者は悪になるだろう。
この世のルールに善悪など存在しないあるとすればそれは歪みである。
歪みを正すものこそが正義と呼ばれるのだろう。

十七歳前後のサンダースが電気屋に並ぶ展示品のテレビからニュースを見ている。
その内容は昨日の晩に殺されたドラピオンの事についてだった。

「ふ~ん。あのドラピオン殺されたんだ。まぁいろいろ良くない噂を聞く奴だったからな……。
 結局は平和そうに見えるこの町も犯罪は絶えないんだな……」

サンダースはしばらくテレビを見ていてニュースが終わると電気屋を後にした。
しばらく町中を歩いていると狭い路地の方から雌かと思われるポケモンの声が聞こえてくる。
サンダースは無視できず声のする方へと向かっていく。
そこでサンダースが見たのは若いイーブイがガラの悪いブーバーンとブーバーに絡まれている光景だった。
イーブイの年齢はサンダースより一歳か二歳若い程度である。
何やらブーバーは左手で右手を押さえている。

「普通にぶつかっただけで骨が折れるわけないでしょ」
「だが俺の部下が骨が折れたって言ってるんだよ!
 慰謝料をよこせば痛い目には合わせないでやるぜ~」
「痛いよ兄貴ぃ~。これは折れてるよ~」

このやり取りにイーブイは怒っているよりも呆れていた。
ブーバーンはイーブイの態度に腹が立ったのか怒鳴り始める。

「てめぇ! こっちが優しく言ってりゃツケ上がりやがって!! 殺すぞぉ!!!」
「……死ぬのはどっちかな?」

殴りかかるブーバーンの攻撃をイーブイは軽く避ける。
その事でブーバーンの更に怒りの炎の燃やす。
サンダースは無意識に二匹の間に割って入っていた。

「なんだてめぇは!? 痛い目に合いたくなきゃさっさと退きな!」
「美少女のピンチは放っておけない性分でね」
「それならお望み通りお前から痛い目に合ってもらうぞぉ!!」

サンダースの挑発でブーバーンの標的がイーブイからサンダースへと変わる。
ブーバーンはサンダースに右手を構え火炎放射を放つ。
その攻撃をサンダースは簡単にかわし電気タイプでも上位に分類される技、雷をお見舞いした。
轟く雷鳴がブーバーンを容赦なく襲い、避ける事が出来なかったブーバーンは雷の直撃を受け倒れる。
兄貴分が呆気なくやられた事でブーバーは一目散に逃げていった。

「お嬢さん怪我はないかい? 俺はユピテル。あなたの名前は?」
「……別に怪我はない。助けてもらったから一応、礼は言っておく。ありがとう
 これは警告だけどこっちの世界にあまり首を突っ込まない方が身のためだよ。
 そうやって正義感や興味本位でかかわって死んでいった奴を僕は大勢知ってるから」
「お、おい! せめて名前だけでも!!」

立ち去ろうするイーブイをユピテルと名乗ったサンダースが引き止めた。
イーブイは呆れながらユピテルの方へと振り返る。

「僕の名前はアインス……。これで十分でしょ?」
「アインスか……良い名前だね」
「……本当にそう思ってる? それとも僕の名前の意味が分かってないの?
 僕の名前の意味は『一』って意味だから……。数字の名前を褒められても腹が立つだけだから……」

アインスと名乗ったイーブイにユピテルが名前を褒める。
ユピテルに悪気はなかったのだろうがアインスは不機嫌になった。

「じゃぁ僕はこれで……。君は表の住人でしょ? あまり裏の住人と係わらないほうが良いだろうからね……」
「……表とか裏とかなんて関係ないだろ!? 同じこの町に住む仲間じゃないか!」
「ふん。表の奴はそうやって綺麗ごとばかり言って……。世の中あんたが思ってるほど綺麗じゃないよ。
 今朝もニュースでやってたでしょ? 結局、仲間だなんだって言っても世界は汚れてるんだよ!
 仲間なんて弱い奴が自分達を守るための綺麗ごとでしかないんだよ!
 そうやって自分の住む世界だけ見て偉そうに言わないで!!」

アインスの言葉にユピテルは黙ってしまう。
そんなユピテルを一瞬だけ見てアインスは去っていった。

「世界は確かに汚れてるさ……。だけど……だからこそ互いに信じあっていかなきゃいけないじゃないのか……。
 俺だって綺麗な世界でだけで育ってるわけじゃない……。世界は少しづつでも変えられるはずじゃないのか」

ユピテルはアインスの背中をじっと見ていた。



アインスは町から少し離れた廃墟を出歩いていた。
嘗ては様々な研究で栄えた町だっかが今は荒廃しそんな面影は何処にもない。
この町はとある事件がきっかけで有害なガスが充満した。
充満するガスは短期間であれば吸っても問題はないが長期間吸えば命に関わる。
この場所に住むものは誰一匹としていなかった。アインスを除いては……。
アインスは崩れた研究所の中に入っていった。

研究所の地下はこの町でも最重要機密の実験をしていたため丈夫に作られていたため、ガスの侵入もなかった。
地下室の扉を開けると簡易ベッドと粉々になった実験器具が散乱した部屋が見える。
重要な部分はないが実験のレポートなんかも散らばっていた。

「結局、僕はこの研究所しか居場所がないんだね……。
 ユピテルか……。この胸の高鳴りはなんだろう。
 まぁ、もう会うことなんてないだろうけどさ……」

アインスは近くに落ちているレポートを見ながら呟く。
レポートの内容は人工ポケモンの製造についてのものだった。


『プロジェクト EVE(イブ) ――Eievui(イーブイ) Variable(ヴァリアブル) Evolution(エヴォリューション)――』
イーブイ可変進化型の概要
イーブイ可変進化型(以下EVE)とは七種全ての進化・退化を自由にこなすイーブイである
進化能力以外に加え、通常のイーブイの能力の数倍以上にまで高める事に成功
現在実験中の為一号機の性能限界は今の所は未知数であるが十数倍の能力を発揮可能
進化の多様性と高い能力により様々な任務の遂行が可能な優秀な兵器になりうると考えられる

EVEの一号機『アインス』の実験データならびに二号機『ツヴァイ』三号機『ドライ』の計画については別紙を参照


手に取ったレポートを読み終えるとアインスは再びレポートを床に落とす。
そう、アインスはこの研究所で生みだれた人工ポケモンだった。
この研究所と同時に破棄されるのを見計らい脱走して手に入れた自由……。
結局、自由を手に入れても人工ポケモンは表の世界で生きてはいけなかった。
町の正式な住人として手続きを行うための資料がないためである。
アインスは住処すらない状態で生活なんて出来ないと考え研究員が居なくなったのを確認しここに戻ってきた。
忌まわしき記憶しかないこの場所に……。

「さて、そろそろ仕事の時間かな……。この気持ち……今は忘れよう」

アインスはブラッキーに進化しロッカーに向かう。
ロッカーの扉を開けると痛んだローブにスーツとブーツ、髑髏の面がしまってある。
その衣装を身に纏うとその姿は死神そのものであった。
そうアインスこそが昨夜のドラピオンを殺害した犯人だったのである。
アインスは裏の住人達と仕事が集まる酒場へと向かって歩き出していった。



アインスが酒場に着くとそこには昼のブーバーンとブーバー以上にガラの悪いポケモンがたむろしていた。
カウンターに座るとアインスは酒場のマスターのマニューラに話しかける。

「マスター。今日の依頼についての情報が知りたい」
「……たまにはあんたも酒でも注文したらどうだ? ここは本来酒場なんだぞ……。
 ほれこいつが今日の依頼だリーパー。今日は報酬が割高なものが多いぞ」

アインスはこの酒場では……いや、裏の顔ではリーパーと呼ばれていた。
依頼のまとめられた資料を取り出しマスターはアインスの前に差し出す。

その内容は様々なものだった。

ライバル会社を排除してくれ……。他社の機密を盗んできてほしい……。資金を貸してほしい……。
しかし、それは世界を歪めるだけの依頼。アインスが望む世界の歪みを正す依頼はなかった。

「今日の依頼はいまいちだな……。これが情報料だ……。問題ないだろう?」
「額に問題はないがあんたの態度が気に食わんな。酒も頼まなければ依頼も受けない。
 あんた……腕は良いが仕事を選びすぎじゃないか?」
「僕の格好じゃ飲食は出来ない。無理を言わないでほしい。
 自分にあった依頼を受ける方が仕事の成功率は高くなる。
 仕事の成功率は直接命にかかわるからね。冷静な判断だと言ってほしいな」

アインスは金貨を一枚マスターに投げる。
金貨をを受け取るとマスターはアインスに皮肉を言う。
アインスはその皮肉を軽く流すと席を立った。
席を立つと丁度ウェイトレスのブラッキーとぶつかる。
そのブラッキーは三十五歳前後の雌だった。
今、この年齢でも彼女は美女の方に分類される美しさを持っている。
ブラッキーの持っていた商品は全てアインスの頭から降り注ぐ。

「また貴様か……。お前は何度失敗すれば気が住むんだ!
 お前は本当に役にたたないな! お前を拾って損ばかりだ!!」
「す、すみません! あの……私……」
「謝ってすむ問題じゃない! リーパーは大事な客なんだぞ!!」

マスターがウェイトレスのブラッキーを怒鳴る。
ブラッキーは必死に謝っていた。

「……マスター、このブラッキー……いくらでなら売ってくれる?」
「それはどういう意味だ?」
「店の従業員だと問題だけど僕の所有物なら問題ないだろ?」

アインスは前足の鉤爪をチラつかせる。
マスターとブラッキーはその意味を理解するのに時間はかからなかった。
ブラッキの表情は見る見る青くなっていく。

「そうだな……。裏ではイーブイ種は珍しいからな金貨三十枚……いやこいつがドジだから二十五枚でなら譲ってやる」
「……そうか。ではこれで良いな?」
「くくく。毎度あり」

アインスは金貨をマスターに渡しブラッキーを引き取って酒場を後にした。



アインスはブラッキーをつれて研究所へと向かっている。
怯えながらブラッキーはアインスについていく。
しばらく歩くとアインスの住処の廃墟にたどり着いた。

「あ、あの……。これ以上ここに近づくと危険ではないでしょうか?」
「短時間なら問題はない。ついて来い」

廃墟に近づくを躊躇うブラッキーを気にせずアインスは研究所へと向かっていく。
ブラッキーは慌ててアインスの後を追った。
研究所につくとアインスは仮面を外しローブとスーツを脱いだ。
ブラッキーはアインスが素直に正体を明かすとは思ってなかったのか戸惑っている。

「洗濯機は奥にある。使い方は分かるだろ?」
「え? は、はい! あの私……どうなるのですか?」
「正体を見られたかには殺す……とは言わないから安心して。
 別にどうもしない……。まぁ君をここで軟禁はするけどね。
 僕の正体を見て野放しってわけにはいかないから。
 そうだ僕の名前はアインス……。詳しくはその辺の資料でも見て。
 僕の事について書いてあるから。それで僕の素性は大体分かると思う」

アインスは脱いだ衣服をブラッキーに渡す。
衣服を受け取るとブラッキーは洗濯を始める。

「……ところで君……名前は?」
「は、はい……私セレーネと言います……」
「ふ~ん。良い名前じゃない。少なくても僕よりはね」

アインスはブラッキーのままセレーネの作業を見ていた。
その視線が気になるのかセレーネはアインスの方をチラチラと見る。

「私と同じ雌のブラッキーが一流の暗殺者だなんて思ってもいませんでした……。
 裏の住人でイーブイ種のポケモンって私だけだと思ってましたので……少し安心します」
「確かに今はブラッキーだけど別にそういうわけじゃない。セレーネの足元の資料が丁度良いかな? 読んでみなよ」

セレーネはアインスに言われた通り足元の資料を見る。
その資料は出かける前にアインスが見ていたものと同様のものだった。

「リーパーさんて……その……」
「プライベートではリーパーじゃなくてアインスって呼んで。
 そう人工ポケモンだよ。まぁ親が居ない事は気にしてないんだけどね。
 色々不便だよ。力は多少の制御が出来るから良いけど。住民の手続きが出来ないから表で暮らせないし。
 もっとも手続きが出来たとしてもここに居た研究員に見つかったらおしまいだけどね」
「……アインスさんって強いんですね……。私は誰かに縋らなきゃ生きていけなかったから……」

彼女は笑おうとしていた。
しかし、その表情は笑い顔とはかけ離れている。

「君はもう一匹じゃないよ……。僕がついている……」
「……アインスさん。強いだけでなく優しいんですね……。
 でも、何で私を助けてくれたんですか?」
「残念。僕は殺し屋だから優しいって言うのは不適切だよ。
 それは、何となく他人の気がしなかったんだよね。
 自分でも良く分からないんだよそれが……」

セレーネはアインスの言葉にクスクスと笑う。
今までずっと奴隷のような日々を過ごして来た彼女にとってアインスが言ったような冗談は久しぶりの事だった。

「二匹とも汚れちゃってるしシャワーでも浴びに行こうか?」
「ここってシャワーがあるんですか?」
「質問を質問で返すのね……。風呂はないけどシャワーはあるから一緒に浴びよう」

セレーネは「はい!」と返事をする。
その返事を満足そうに聞いてアインスはシャワーへと向かっていく。
セレーネはアインスの後ろをついていった。



研究所の中をしばらく歩くとシャワー室へとつく。
セレーネは珍しそうにシャワーを見る。

「そんなに珍しそうにしてどうしたの?」
「へ? あ、はい! その……随分広いんだなと思って……」
「まぁ幹部しか使用を許されてない場所だったみたいだからね。
 幹部のポケモンに四脚のポケモンも居たらしいから僕等でも不自由なく使えるよ」

アインスは戸惑うセレーネを軽く説明しシャワーを浴びる。
セレーネは恐る恐るシャワー室に入っていく。

「あの。本当に私も浴びて良いんでしょか? 私はただの使用人ですし……」
「えぇい! 僕が良いって言ってるんだから!
 まさか、そんなに汚れたまま僕の世話をするわけじゃないよね? それ!」

シャワー室に入ったのは良いが戸惑っているセレーネにアインスがシャワーをかける。
アインスの予想外の行動にアインスが慌てふためく。

「うぅ。いきなりなんて酷いですよ!」
「セレーネがモタモタしてからでしょ」

セレーネはアインスの行動に拗ねる。
そんなセレーネを見てアインスが笑いながら近づく。

「はは。面白い。それにしてもセレーネって綺麗な毛並みだね」
「……慰安婦に近いメイドとして働いてた事もありますから……。妊娠したから捨てられたんです……」
「うっ。それは……。でも子供はどうなったの?」

流石にそんな答えが返ってくるとは思ってなかったのかアインスは怯む。
セレーネ表情が見る見る暗いものに変わる。

「生きていればアインスさんより一つか二つ上の年齢です……。
 卵は主人が引き取ったので実の子供とも会った事はないんですよ……。
 私がブラッキーですから子供のイーブイは『息子』の方が確立は圧倒的に高いですけど。
 それに今の年齢なら進化している確立の方が高いでしょうし……。
 会いたいって気持ちはあるんですけど……。私には探し出す手段がないんです」
「……まぁ裏社会で生きてるんだ。お互いに暗い過去はあるんだね……。
 でも、メイドってことは働いてたのは金持ちのところのでしょ?
 それだけでも子供を捜すには貴重な手がかりだと思うけどね」

アインスはシャワー室を出ようとして立ち止まる。
その表情には焦りという感情が見えていた。

「アインスさんどうしました?」
「……バスタオル持ってくるの忘れた……。
 自分の能力を無意味に使うのは好みではないけど……」

アインスはそう言うと光に包まれブースターへと変化する。
ブースターに変化したアインスは自らの体温を上昇させ水分を蒸発させた。

「……意外に便利なんですね……」
「まぁ、不便ではないんだけど……好きではないかな。
 ……タオルを取って戻ってくるのが面倒だから僕が乾かしても良い?」
「ええ。私は構いませんよ」

アインスは体温を調整しセレーネに抱きつく。
抱きつかれたセレーネの体毛はみるみる乾いていった。
乾かし終わるとアインスはイーブイの姿へと戻る。

「……イーブイのアインスさんって小さくて可愛いですね」
「そう言われると照れるな。普段は褒められないから……。じゃあ出ようか」
「はい。分かりました」

アインスの言葉にセレーネは礼儀正しく返事をした。
その返事を聞いたアインスは呆れている。
アインスとセレーネはシャワー室を後にした。



アインスはシャワーを浴び終えるとセレーネをアインスの自室の隣の空き部屋へと案内していた。
その部屋も本来は広い部屋なのだろうが放置された研究資料が床を埋め尽くしている。
その部屋を見たセレーネは唖然としていた。

「……随分と散らかった部屋ですね……。まるで地震でもあったような惨状ですよ」
「地震ではないけどここの研究者が資料を処分せずに施設を放置するほどの事があったからね」
「アインスさんはその時もここに居たんですか?」

アインスは無言で首を縦に振る。
当然だろう。アインスはここの試作兵器だったのだから。

「何があったか知りたい?」
「教えていただけるのなら知りたいです……。言いたくないのなら無理には聞きません」
「イーブイ可変進化型一号機の性能限界実験中に暴走……。原因は無論、自らの力を制御できなかったから。
 一号機はその時、計器の測定値では通常のイーブイの十倍の能力は出してたそうだよ。それでも限界性能じゃなかったみたいだけど。
 それ故に二号機、三号機は安定性と信頼性を考慮し、最大でも五倍程度の能力しか出せないようにデチューンして製造されたそうだ。
 それでも一号機の能力は精神状態に左右されやすく五倍の能力に満たない事も多かったからそれでも十分だったらしいね。
 今から十年前の事かな……。一号機はその後、危険すぎるとこの研究所と一緒に破棄されたそうだよ。
 破棄って言っても僕がこの施設から逃走して正確な場所が分からないからって爆弾での町ごと爆破。
 この町の事は当時ニュースで相当話題になったからそれくらいは知ってるでしょ?
 ニュースではテロって報道して事実は隠蔽されたけどこれがこの町の事件の真実。
 この町には有毒ガスの研究施設もあったからそれも一緒に爆破したからこの町は今の惨状になったんだけど。
 もっとも町ごと爆破しても一号機の破棄には失敗してる訳だけどさ。詰めが甘いよね」

自らの過去をまるで他人事のようにアインスは淡々と話していた。
セレーネはアインスがあまりに淡々と話すのでアインスが自分の過去を話しているという事実に気づいていない。

「……何故、一号機の破棄に失敗したと言い切れるのですか?」
「いや、だって……一号機って僕だし……。だから僕の名前は『アインス』なんだけど。本当に気づいてなかったんだ」
「あ! す、すいません。別に私、悪気があったわけでは……」

そんなセレーネの反応を見て、アインスは笑っていた。
セレーネはアインスに笑われた事で顔を赤くさせる。

「そ、そんなに笑うことないじゃですか!」
「だってさ! 『アインス』を『一号機』って言うだけで本当に気づいてないんだもん! これは面白いって!
 ……と冗談は置いておいてせめてベッドにたどりつける位には片付けようか」
「なんか上手く誤魔化しましたねアインスさん……」

まるで「聞こえていません」とでも言いたげにアインスは床に散らばった資料を拾い始める。
セレーネは納得がいかない顔をしているが、アインスが片づけを始めたのを黙ってみているわけにもいかず渋々と納得していた。

「取り合えず資料は僕の部屋に持っていくけど問題ないよね」
「勿論構いませんよ。私には意味の無い資料ですから」
「じゃあ僕は部屋に戻るね。明日も買出しに行かないと食料の確保は表が一番楽だからね。
 裏の物価は高くて、僕みたいに仕事を選ぶととてもじゃないけど買えないし。
 リーパーの正体は知られてはいないから進化して、出るいても捕まる心配はないと思うけど。
 一応は僕がイーブイで出歩けば疑われることもないだろうし。好きではないけど便利な能力だよ本当……。
 あ! そうだセレーネは何か必要な物はある? あるんなら明日買ってくるけど?」

セレーネはアインスの質問され必要な物があるか考える。
……が、特に思いつくものはなかった。

「今はないですね。何かあったらそのつど言いますね」
「了解。じゃあ僕はもう寝るから。おやすみセレーネ」
「はい。おやすみなさいアインスさん」

アインスはセレーネに挨拶をして部屋を出ていく。
セレーネもベッドに横になり今日と言う日を終えるのだった。



アインスは買出しを終え、公園のベンチで買い物袋を横に置き溜息をついていた。

「……食料も二匹分になると随分と多くなるな……。これならセレーネにも来てもらった方が良かったよ……。
 流石にここで僕の能力を使って進化すると目立つし。どうしよう……」

アインスは横に置かれた買い物袋を見る。
どんなに眺めても無論、袋が軽くなることはない。
そんなアインスに一匹のポケモンが声をかけてきた。

「よぉ! 確か……アインスだっけ? また会うなんて運命を感じるな!!」
「はぁ~。裏の住人と係わらないほうが身のためだよ? 僕は君のために言ってるんだよユピテル……」
「美少女に名前まで覚えてもらえてるなんて光栄だね。それにしても随分と買い込んだな……」

ユピテルはアインスの横に置かれた買い物袋をじっくり見る。
大量の荷物を見て冷やかすユピテルをアインスは睨みつけた。

「……冷やかしならとっと帰れ。そういうのって頭にくるんだよ……」
「なんなら家まで運ぶの手伝ってやろうか?」
「……裏の住人の住処に近づこうだなんて、何を考えてる?」

アインスは公園に居るポケモンに聞こえないようにユピテルの耳元で囁く。
ユピテルの顔はとても冗談を言っているような顔ではなかった。

「……裏の住人に仕事を依頼したい……と言えば言いか? 荷物運びの報酬に仕事を請け負ってくれる相手を紹介してくれれば良い……」
「ふ~ん。君が? 裏の住人への依頼料は高くつくよ……。止めとけば?」
「随分と詳しいんだな。……まるで自分が仕事を請け負った事があるような口ぶりで……」

ユピテルは意地でもアインスから意地でも聞きだすつもりらしい。
そんなユピテルをアインスは獲物を狙う狩人のような瞳で見ていた。

「……僕も色々と世話になってるからね……。僕は一応止めたよ。それでも知りたいなら大人しく荷物を持つんだね」
「すまないな。なら荷物を持たせてもらおうか」
「……悩まないんだね。表の生活に戻れなくなるかもしれないのに」

アインスは脅すようにユピテルに囁く。
しかし、ユピテルの覚悟は相当のもののようだ。

「それでもあいつには死んでもらわないと困るんだ……」
「ふ~ん。まぁ依頼を受けてくれるポケモンが居ると良いね。じゃあ、僕の家はこっちだから。
 それとその重たいの持ってくれると嬉しいな~」
「……分かったよ」

アインスはユピテルに指示を出し、公園を後にする。
重たい荷物を持たされユピテルは文句を言いながらもアインスについて行った。

アインスは廃墟が近づくといったん足を止める。
は不思議そうにユピテル首をかしげた。

「ん? どうしたアインス?」
「荷物運びはここまでいいや。あまり誰かを近づけて素性がバレるのは避けたいし。
 ……これ。裏の住人が集まる酒場の場所を書いたメモ。多分誰かが受けてくれるでしょ。
 後、表の生活を失いたくないなら、せめて顔を隠して来た方が良いと思うよ」
「色々すまないな。世話になってばかりだな」

アインスはユピテルの素直さに呆れながら荷物を受け取る。
メモを受け取るとユピテルはいったん町の方へと戻っていった。

「……誰かを怨んでるようには見えないんだけどね。この世界は歪んでるね。
 ユピテル……僕は出来れば君の力になってあげたいな……」

アインスは独り言を言ってから荷物を持ち直し研究所へと戻っていった。



アインスは自宅でリーパーの衣装を身に纏い酒場へと出向いていた。
酒場に入るとマスターが手を振りながら「こっちへ来い」と叫んでいる。
マスターの前の席には仮面をつけたサンダースが居た。
アインスは席が空いてるにもかかわらずあえてサンダースの隣に座る。

「マスターが僕を呼び出すなんて珍しいね」
「……そっちの客人が腕の良い奴を探してるって言うんでね。紹介するなら勿論あんただろ?」

アインスはマスターの話を聞いて呆れていた。

恐らくは隣のサンダースはユピテルだろう。
いったい、こいつはいくら渡したんだ……。
ユピテルって思った以上に金持ってたんだな……。

「あんたがこの酒場で一番の腕利きか?」
「僕はあまり自分を過大評価するのは好きじゃない。少なくてもマスターをそう思っているのだろう」
「素顔を隠した奴が一番ねえ……」

サンダースの声は明らかにユピテルだった。
ユピテルはローブと仮面をつけたアインスが信用できないようだ。
依頼主の秘密を尊重するためマスターは席をはずしている。
小声で話せばこの二匹の会話が聞こえる者は誰も居ない。

「素顔を隠してるのはお互い様だろう……。こっちにも都合がある。僕が気に食わないなら他を当たってくれ」
「……分かったよ。依頼の内容だがスピードスター社の社長、ライボルトのソアを殺して欲しい……」
「スピードスター社……。自立防衛システムの人口ポケモン、ポリゴンを開発して一気に伸びた会社だな。
 ポリゴンの開発により町の警備は飛躍的に向上。こっちは仕事がやりにくくなったけどさ……。
 今はより過酷な環境に耐えうるボディとAIが強化させポリゴン2が主流。
 AI機能は低下したが攻撃能力を劇的に上昇させたポリゴンZの発表会が確か一週間後だったね」

スピードスター社について知っている事をアインスはユピテルに説明する。
ユピテルは「それなら話は早い」と言いたげに話を進めた。

「……詳しいんだな。そのスピードスター社だが裏では生物兵器の開発をしている。
 その為、ソアを殺してもらいたい。マスターから聞いたがあんた好みの依頼だろ?」
「……プロジェクトEVE……。全ての進化を可能にし能力を上昇させた究極の生態兵器のイーブイ。
 汎用性の高さはポリゴンシリーズに比べたら遥かに高い。表立っては発表できないけどその分良い額になるんだろうね。
 もっとも現在は試作の段階だから他所に売れるほど量産出来ないないみたいだけど」
「……お前、スピードスター社でもトップシークレットのEVEについて知ってるのか!?」

アインスは仮面の下では「当然だ」と言いたげな顔をしていた。
EVEについてアインスがその事に話したことをユピテルは驚いていている。

「……一号機は破棄されたらしいけど、二号機と三号機は健在のはずだろ?」
「随分と計画に詳しいんだな……。プロジェクトの関係者か? それなら素顔を見せられないわけだ」
「さぁね。顔を隠してるんだし素性は言えないな」

アインスは適当に誤魔化す。
正直に言えばアインスは『関係者』ではなく『被害者』と言った方が正しい。

「……で、殺害計画はこっちで立てちゃって良いのか?」
「一週間後にZ型の試作機の発表があるのはさっきお前が言ったから分かっているだろう?
 その時には社長は必ず来るはずだからその時に始末してもらいたい。
 まぁ、その分警備も厳重になるかもしれないけどな……
 だけどこっちには警備の状況をリアルタイムで送るシステムがある。
 警備に関してはこっちでサポートするから問題はないだろう」

ユピテルは自慢のシステムをアインスに簡単に説明した。
アインスはその説明を面倒そうに聞いている。

「……優秀なサポート付きですか? 嬉しいねぇ~。でも、あまり期待しないでおくさ。
 期待しすぎて酷い目には遭いたくないからね。これも僕の性格だから悪く思わないでくれよ」
「随分な言いようだな。このシステムを作るのにどれだけの予算と情報が……」
「僕はそういう道具は自分で使ってみるまで信用しないことに決めてるからな」

アインスの皮肉にユピテルは嫌そうな顔をした。
話が終わったのを確認し、アインスは席を離れ酒場を後にする。
ユピテルはアインスの背中をずっと睨みつけていた。



一週間という時間はあっという間に過ぎ、ポリゴンZの試作機の発表日が訪れた。
アインスは現在エーフィに進化していてで事前に渡された通信機とゴーグルを仮面に下に身につけ地下で待機している。

「さて、支援は最初から期待はしてないけど……。始まりくらいは指示を待ってるか。
 まだ、この辺には誰も居ないみたいだし……。やっぱ潜入はエーフィの能力が一番だよ」
『今、そちらに警備兵の詳細を送った。ゴーグルの左側にスイッチがあるだろう?
 スイッチ入れれば現在の情報を確認できる。必要がなければスイッチをオフにすれば良い。
 その近くの十字のスイッチでマップの移動が出来る。右側のスイッチでは階層の変更だ』
「ふ~ん。どれどれ……」

アインスはユピテルの通信の指示に従いゴーグルのスイッチを入れる。
するとゴーグルに地図と青い点と赤い点が表示された。

『青い点がリーパーの現在地、赤い点が最初から配置されていた警備兵の位置だ。
 今は勿論居ないが増援や他勢力などのイレギュラーは黄色で表示される。ターゲットは紫で表示されてるから確認しておいてくれ』
「へぇ~。意外に便利なもんだね。これは思ってたよりも良い支援だ。これなら余程の事がない限り失敗はしないな」
『信用はしてないが頼りにはしている。以上だ。作戦は以後そちらに任せる。用があったら呼んでくれ』

アインスは通信が切れるとゴーグルで地図とソアの居場所を確認する。
細かな通路も書いてある事を考えると恐らくは内部に協力者が居たのだろう。

「はぁ~。もう少し愛想良くしても良いと思うだけどな。素顔ならあんなに褒めてたくせに。
 この通気口……警備も居ないし、小柄なサンダースかグレイシアでなら通れそうだね。まずはここから侵入するか……。
 動きは鈍いグレイシアよりここは素早いサンダースで行く方が無難だよな」

アインスはサンダースの姿になり地上へ出る。
地上に出るとレーダー通りで誰も居ない。
アインスは素早く通気口へと侵入した。
通気口を進んでいるとレーダーに黄色い点が現れる。
しばらくすると赤い点は次々と黄色い点へと集まっていく。

「っち! 他の集団もソアの首が狙いか……。しかも正面突破なんて……。
 よほど自信があるのか、それとも馬鹿なのか……。どちらにしろこっちもコソコソするメリットはもうないな……」
『他のテロ組織が介入してきた。注意しろ』

アインスが文句を言ってるとユピテルは一方的に通信してきてすぐに切った。
その言葉は随分と淡々としていて、ユピテルにとって今のアインスは駒に過ぎないのだろう。
アインスは通気口の出口を発見し、レーダーで誰も居ないのを確認し通気口を出た。

「……随分と派手にやってるみたいだね……」

アインスが辺りを見ると確かにそこには誰も居なかった。そう生きている者は……。
そこにはテロ組織の一員だっと思われるポケモンの屍とポリゴン2の残骸が無数に転がっていた。
床は一面赤く染まり酷い匂いが鼻に突き刺さる。屍は原型をとどめているものの方が少ない。

アインスはレーダーで現状を確認すると黄色い点が次々と赤い点を消していき、その黄色い点が別の二つ黄色い点に消されていく。
初めはテロ組織が圧倒していたようだが二匹の増援に次々に倒されているのだろう。

「Z型の試作品は一機しか搬入されていないはず……。なら、この二つの点は……EVEか?
 実はZ型の試作機は二機、搬入されてましたって方が楽で良いんだけどな……。
 まぁ、それはないか。それだったらテロリスト共がこんなに圧倒させる事はないだろうし」

二匹の警備兵はどんどんアインスの方に近づいてきている。
しばらくすると、二匹のイーブイがアインスの前に現れた。
年齢はどちらもかなり若く、共に十歳前後だと思われる。
どうやら性別は雌雄一匹づつのようだ。

「あれ? 随分格好が違うけどあなたはテロリストの仲間じゃないの?」
「ドライ、侵入者は全て抹殺するようにソア様に言われてるんだから同じだよ」

ドライと呼ばれた雌のこっちに質問してくるが雄の方はかなり警戒している。
だが、痛んだローブと髑髏の面を被ったポケモンが目の前に居れば当然の反応だろう。

「さて、そっちのお嬢さんが『ドライ』なら、そっちの坊ちゃんは『ツヴァイ』で良いのかな?
 一号機の名前が『アインス』だったんだから間違いは無いと思うけど。
 やっぱりEVEシリーズの生産は進んでたんだね。ああ、そうだ僕はリーパー。よろしく」
「あなた、何でEVEの事知ってるの!?」
「……プロジェクトの関係者か……。それで腹いせにソア様を殺そうって!?」

ドライは相当驚いているようだが、ツヴァイは意外に冷静である。
アインスが戦闘態勢を取るとツヴァイとドライも同じく戦闘態勢を取った。

「これでも腕に自信はあるんだ。消えてもらうよ……」

アインスは言うと同時にドライの背後に居た。
サンダースの素早さに電光石火と高速移動。まさに早業である。
アインスはそのまま右前足の鉤爪を横に一閃した。

「え? 嘘!? こんなに早いなんて!?」
「……こいつ強い……。ならこっちも。いくぞドライ!」
「う、うん。じゃないと勝てない」

しかし、ドライは寸前のところで回避する。
ツヴァイとドライはそれぞれブースターとグレイシアに進化した。
先ほどはアインスが進化していたから有利だったに過ぎない。
二匹に進化されれば今のアインスに勝ち目はなかった。

「……進化したか。正直かなり辛いな。寧ろ勝てるのか?」
「凍てつく吹雪で凍っちゃえ!!」

ドライを中心に吹雪が部屋中に巻き起こる。
ツヴァイはこの吹雪の中でも体温を上昇させ平然な顔をしていた。

アインスがローブでなんとか吹雪を防いでいると異変が起き始めた。
足元が段々と凍りついている。

「……そんな!? ブーツが凍ってきた!?」
「じゃあ俺が溶かしてやるよ! そのまま燃えつきろ!!」

ツヴァイは凍って動けないアインスに容赦なく火炎放射を放つ。
成す術もなくアインスは炎に飲まれた。

「……意外に呆気なかったね? まぁ私とツヴァイ兄さんの前じゃどんな相手も敵わないよね?」
「そうだな。じゃあ次の侵入者を……って嘘だろ!?」

ツヴァイとドライが立ち去ろうとすると炎の中、ブースターへと姿を変えたアインスが立ち上がった。
身につけていた物は仮面の下についていたゴーグルと通信機以外は全て燃え尽きている。
ツヴァイとドライは再び戦闘態勢を取った。

「くそ! あいつもブースターだったのかよ!」
「ははは。厳密には違うかな。僕も君達と同じなんだよ」

アインスは笑いながらブラッキーの姿へと変化する。
ツヴァイとドライは変化するアインスを見て驚いていた。

「……イーブイ可変進化型一号機・アインス。処分されたはずじゃないのか?」
「で、でも目の前で確かに変化した。一号機かは分からないけど、間違いなくあいつEVEだよ……」
「ふふふ。僕が怖い? そうだよね君達は通常のイーブイの五倍までしか能力を出せない。
 僕は以前に十倍の能力を出した結果がある。当時は無理でも今の僕ならそれくらいの力なら簡単に制御できるんだよね。
 僕の素顔を見た以上は君達には死んでもらうから。今更命乞いはなしだよ? 君達も散々殺してきたんだから……」

アインスはゆっくりと二匹に近づいていく。
迫る恐怖にドライは動けないでいた。
ツヴァイはそんなドライを庇うようにアインスの前に立ちふさがる。

「……抵抗しないほうが楽に死ねるよ」
「簡単にやられるつもりはない!」

ツヴァイは叫ぶとアインスに突撃する。
突っ込んで来るツヴァイにアインスは左前足を横に軽く振った。
その一撃でツヴァイは簡単に壁まで吹き飛ぶ。

「……強すぎる。勝てない。俺達はこんな簡単に終わるのか?」
「じゃあ、ここで死ね」

アインスが近づいて行くと不意に通信機に連絡が入る。
ツヴァイとドライを無視してアインスはユピテルと通信を行う。

『リーパー。イレギュラーの通信を傍受した結果、あいつ等ビルに爆弾を仕掛けたらしい。
 ソアは爆弾で死ぬだろうが、死んだ証拠として首を持ち帰ってきてもらいたい。検討を祈る』

ユピテルは連絡だけ済ますと通信をきる。
呆れながらアインスはツヴァイとドライを交互に見た。

「……今までの侵入は爆弾を仕掛けるためか……。お前達と遊んでる暇はなくなった。
 ここから逃げるなりソアを救うなり好きにすれば良いさ。ソアを助けるならもう一度僕と戦うことになるけどね」
「ば、爆弾!? 冗談じゃない!! 逃げるぞドライ!!」
「で、でもソア様が居ないと私達、暮らす場所が……」

ツヴァイはドライの言葉を聞いて「そうだよな……」と呟いた。
今の二匹にはここで生き延びても住む場所はない。

「じゃあ、僕は急いでるからこれで失礼するよ」

ツヴァイとドライは必死に自分達の行動方針を話し合っている。
アインスはツヴァイとドライを無視して社長室へと向かって走り出した。



アインスは階段を駆け上がり社長室の前へとたどり着く。
ツヴァイとドライと分かれて以降はアインスの前に誰一匹と姿を現さなかった。
既に死んだか逃げたかのどちらかだろう。
社長室の扉を開けアインスは部屋に入る。
アインスが部屋に入るとソアと思われるライボルトが向こうを向き椅子に座っていた。

「……お前がソアだな?」
「ああ、そうだ。よくここまで来れたな。だが、爆弾が仕掛けられたそうだ。お前は逃げないのか?」

ソアはアインスの質問に振り向かず答えた。
答えを聞いたアインスはゆっくりとソアに近づいていく。

「お前を殺してからゆっくりと脱出させてもらう」
「ここで死ぬのも悪くないか……」

ソアはゆっくりと振り向いてきた。
その表情は不気味なほど落ち着いている。

「……お前、アインスか。大きくなったな」
「僕を処分するように指示しておいて何を今更!!」
「……あれは俺の指示じゃない。研究所の奴が勝手にした事だ。
 俺からすれば一号機の能力なんてどうでも良かったんだからな。
 重要だったのは外見だからな。ブラッキーの姿のアインス見ていると思い出すな。
 ……セレーネ、もう一度お前の顔が見たかった。俺は今でもお前が……」

ソアは何かに取り付かれたようにアインスを抱きしめる。
アインスはソアの行動が理解できなかった。

「EVEは元々俺が愛したブラッキーのクローンを作りたかったからに過ぎない」
「……そのブラッキーはどうなったの?」
「正確な情報は分からない。セレーネは元々は親が俺の為に雇ったメイドだったんだ。
 凄い綺麗な奴でさ……俺は一目見て彼女に惚れた……。
 でも、彼女は仕事に関しては何も出来ない落ちこぼれだったから親はすぐに解雇するって言ったんだ。
 俺は必死に親を説得して何とか仕事を続けさせるように言った。
 彼女もそれがきっかけで俺の事を好きって言ってくれるようになったんだ。
 それ以来、俺達は毎日、夜になると交わっていた。無論、主人とメイドでそんな関係が許されるはずがないのは分かっていた。
 親にその事がばれたのは俺が避妊をしてなかった性でセレーネを妊娠させてしまったんだ……。
 卵は何とか俺が預かって今日まで育ててきたが……セレーネは親に連れて行かれた。
 それから彼女の顔を一度も見ていない事を考えると恐らく殺されたんだろうな……。あの親はそういう奴だったからな……」

ソアはアインスを抱きしめたまま語った。
そのことにアインスはただ困惑している。
爆発音がビルに響き渡りアインスは現実へと引き戻された。

「……どうやら爆弾が爆発したようだ。そこの本棚の後ろに非常用の隠し出口がある。お前の能力なら逃げられるだろう。
 俺が言うのも変かもそれしれないが……。アインス生き延びろ……。そして幸せになれよ」

アインスはソアの言葉に迷いが生じてした。

こいつを殺すのが今回の僕の目的……。
でも、僕はこいつから聞きたいことが沢山できた。
セレーネの事、多分偶然なんかじゃないんだ。
二匹の話が噛み合いすぎてる……。
じゃあ、僕はどうすれば良い……。

「ソア様! ご無事ですか!?」
「……結局こうなっちまったな」

二匹のブースターが社長室に入ってくる。
無論、ツヴァイとドライだった。
二匹はアインスを抱きしめるソアを見て唖然としている。

「……どういうこと? ツヴァイ兄さんは分かる?」
「俺に聞くなよ。俺だって分かるわけないだろ……」
「べ、別に僕はこいつと何の関係も……」

アインスがそんな事を言っている間にも部屋は揺れ崩れ始めている。
ソアはそっとアインスを離した。
アインスは躊躇いながらも非常用出口の前の本棚を退かす。
階段は爆発で無残に崩れていた。

「……残念。こっちはもうだめそうだね。ツヴァイ、そっちの方はどうだった?」
「もう道って呼べる物はないし……炎に包まれてる。だから俺達はブースターで来たんだからな」
「つまり、もう出口はないわけだ……。まぁこれも運命か……」

アインス達は部屋の中央に集まり部屋が崩れるのをただ待っていた。



ユピテルは以前のように電気屋の展示品のテレビでニュースを見ていた。

「スピードスター社襲撃事件から一週間がたった今も社長のソア氏は発見されていません。
 現社長不在のスピードスター社は株価がどんどん下落しており、今後の安否が気にかかるところです」

ユピテルはスピードスター社関連の聞き終えると歩き出す。
いつの間にか公園の方へ歩いていく自分を嘲笑っていた。

「これで良かったはずだろ。一の命を殺めることで千の命を救う。
 俺は決断したじゃないか……。なのに何で今更……。
 ソアの……父さんのしてることは間違いだって……」

ユピテルはベンチに座り空を眺めながら呟いていた。
その言葉は誰でもない自分自身に問いかける言葉。
ユピテルの目からは自然と涙が溢れていた。
そんなユピテルに一匹の雌のブラッキーが声をかける。

「……あなたがユピテルさんですね。確かにあの人の面影があります」
「そうだけど……あんたは?」
「私はセレーネ。リーパーさんに言われあなたを迎えに来ました。ここに居れば会えるだろうって。
 ついて来てくれるとありがたいのですが……」

一緒警戒したがユピテルはすぐに首を縦に振った。
セレーネはユピテルの動作を見て安心している。

「……じゃあ、案内してもらおうか……。奴は仮面をつけていても俺の正体を分かってたのか」
「ありがとうございます。それではこちらです」

セレーネはユピテルがついて来るのを確認し公園を後にした。



研究所の方へとセレーネはユピテルを誘って行く。
ユピテルは以前アインスとこの道を通ったことを思い出している。
自然にユピテルは足を止め景色を眺めていた。

ここで俺はあいつと別れたんだっけ……。
そういえば、この日を最後にあいつには会ってないな。
って俺は何を考えてるんだ。あいつは二度会っただけじゃないか。
……抑えられないこの気持ち。俺はあいつに惚れたんだな。

「何を思い出してるか知りませんが遅くなると怒られるんですけど……」
「え? ああ、すまない。じゃあ行こうか」

ユピテルは慌てて歩き出す。
時間を気にしてるのかセレーネは早足になっていた。

「遅いから僕の方から迎えに来ちゃったよ。久しぶりだねユピテル」
「アインス!? お前がリーパーだったのか!? いや、奴は一メートル前後のポケモン。
 何故、リーパーの名を使ってまで俺を呼んだアインス?」

ユピテルが声のした方を向くと三匹のイーブイが居た。
アインスをこんなところで見るとは思っていなかったのかユピテルは驚いている。
ツヴァイとドライは『アインス』の名を聞いて一歩前に出て戦闘態勢を取る。

「……ツヴァイ、ドライ警戒しなくても良い。ユピテル、君の答えだけどそれは僕がリーパーだからだよ。
 報酬の話だけど……、実は僕はソアを始末出来てなくてね……」
「つまり、まだソアは生きてるってことか。裏の業界でトップがこれじゃ聞いて呆れるな」
「まぁ、死んではいない。君にも色々と確認したいことが出来ちゃってさ……。
 連絡が遅れたのは謝るけどさ。そんなに僕を馬鹿にしなくても良いんじゃないかな?
 殺せなかったんじゃなくて殺さなかったんだからさ……。
 後、君の事少しだけ調べさせてもらったよ。ユピテルはそんなに自分の親が嫌い?」

アインスは馬鹿にされたのを気にせずユピテルに質問する。
その質問に明らかにユピテルは嫌そうな顔をした。

「嫌いだね。特に父親は。母親は写真も残ってないしあいつは何も話してくれなかったからどういうポケモンか知らない。
 あいつは命を弄んでいたんだ……。それは絶対に許されないことだ……」
「あの方はユピテルさんが思ってる以上に優しい方ですよ。だってあなたをここまで立派に育ててくれたのはまぎれもないあの人なんですから。
 確かにソアさんの罪が消えることはないかもしれないですけど……償うことは出来るはずです」
「あんた……随分父さんの肩を持つじゃないか……。セレーネって言ったけ? 父さんとどういう関係だ?
 ただ、一言だけ「知り合いです」なんて言って誤魔化そうとするなよ……」

ソアをやたら庇おうとするセレーネに疑問を感じたユピテルが睨みながら質問をする。
セレーネはしばらく口を閉ざしていたがやがて意を決したようで口を開いた。

「……ソアさんは私の主人です。私は以前、ソア様のメイドとして働いていました。
 そして私達は愛し合っていて子供も授かりました。こう言えば私が何者か分かっていただけますか?」
「……俺の母さんって言いたいのか? 冗談は止めてくれないか。そういう人の心に漬け込む冗談は嫌いなんだ」
「……そうですよね。いきなり言われても困りますよね。ごめんなさい……。でも私はあなたの……息子の顔が見れただけで嬉しいです」

ユピテルの一言でセレーネは落ち込んでいた。
落ち込むセレーネを一度だけ見るとユピテルはアインスの方へと視線をずらす。
アインスは呆れたようにユピテルを見ていた。

「いつまでも、こんなところで立ち話もなんだし僕の家に招待しよう。ついて来て」
「言われなくてもそうするさ。それで俺をここまでつれて来たんだろ?」

アインスはユピテルとセレーネを連れて研究所へと向かっていく。
ツヴァイとドライは無言でユピテルを睨みながら後を追っていった。



しばらく歩くと研究所が見えてくる。
初めはユピテルも渦巻く有毒ガスを警戒してついて来るのを躊躇っていた。
しかし、他のメンバーが躊躇いもなく入っていくのを見ると素直についていく。

「……ここが僕等の住処。で、入り口はこっち」
「随分と寂れた場所に住んでるんだな」
「そうでもしないと正体がばれるかもしれないからね。
 それに外見はこんなんでも中はしっかりしてるんだから。
 なんてたって、元はスピードスター社自慢の秘密の研究所だしね」

ユピテルの皮肉にアインスは素っ気無く答える。
ツヴァイとドライは相変わらずユピテルを睨んでいた。

「……お前等さっきから睨んできて一体何のつもりだ?」
「……こんな奴がソア様の息子なんだなぁと思っただけ」
「お前、俺に喧嘩でも売ってるつもりか?」

ユピテルの言葉にツヴァイは嘲笑った。

「……別に結果の見えてる相手に喧嘩なんて売らないよ。あんたは兵器に勝てる自信がある?
 まぁ、そっちが仕掛けてくるなら容赦なく血祭りに上げてやるけどな。
 こっちも最近、暴れたりなくて身体が戦いを求めてしょうがないんだよ」
「っち。これだからEVEシリーズは嫌いなんだ」
「アインス姉さんもEVEですけど、そんな事を言っていいんですか?
 そうじゃなきゃ、今の姿の大きさとリーパーの大きさが合わないじゃないですか」

ドライの一言にユピテルは驚いていた。
ツヴァイはそんなユピテルの顔を見て楽しそうにしている。

「外に長く居るのは危険ですの中に入りませんか?」
「まぁ、早死したいなら止めないけどさ……」

セレーネとアインスはそれだけ言うと研究所内に入っていく。
ユピテル達も慌てて二匹に続いて研究所に入っていった。



研究所の中に入ると散らかってはいるものの外よりは快適である。
セレーネ達は中にはいると一礼して去っていった。
ユピテルだけつれてアインスは自室へと進む。
アインスの自室につくとアインスとユピテルはベッドに腰掛けた。

「……さっきのイーブイの娘の言葉本当なのか?」
「そうだよ。僕はイーブイ可変進化型一号機・アインス。だから僕は自分の名前が嫌いだね。
 偽名を使うことも考えたけど良い名前が思いつかなくてね。
 これで僕がリーパーが一メートル前後のポケモンだったのも納得した?」
「納得するしかないだろう。まさかEVEプロジェクトを潰す依頼をEVEに頼んでたなんてな……。
 これでお前がプロジェクトにやたら詳しかったのも納得がいく」

アインスの答えを聞いてユピテルは呆れていた。
しかし、アインスは全くその事を気にしていない。

「後、ソアの事だけど……」
「それについては君が判断することでしょ? 表向きでは死んでるわけだし。
 もう表立って行動することは出来ないだろうしね。それでも殺す?
 僕は今のソアを殺しても世界は変わらないと思うから……止めを刺すのは君に任せるけどね。
 どうせ、ソアが居なければスピードスター社も瓦解するだろうし。
 それでも、君はソアが……父親が死ぬことを望む?」
「……俺は」

ユピテルが考えるとアインスも自然と黙っていた。
アインスは考えるユピテルをじっと見ている。

「……俺だって別に心の底から憎んでるわけじゃないんだ。報酬の方は……」
「……ユピテルの体で払ってほしいなぁ」
「そうか体で……って! 何を言い出すんだ!?」

ユピテルは顔を真っ赤にしてアインスから離れる。
アインスの表情は決して冗談を言ってるような顔ではない。

「……正直に言うと初めて会った時から好きになってた。一目惚れって言うんだよね……。
 だから、僕は君を傷付けたくなかったから君を突き放した。
 それが最初で最後の出会いかもしれないって思うと自然に胸が苦しくなってた。
 公園で再開した時、君の言うように運命を感じた。
 君が僕の事をどう思っていても構わない……。僕に君との思い出をつくって欲しい……。
 イーブイの僕じゃ嫌だって言うのなら僕は君の好みにいくらでも進化する……。
 だからお願い……。自分勝手なお願いなのは分かってる……。それでも僕は……」

ユピテルはアインスの言葉に悩んでいた。
そんなユピテルに何かを期待しながらもアインスは黙って見つめている。

「……これが俺の答えだ。俺もお前が……アインスが好きだ」

ユピテルは一言そう言うとアインスを押し倒し唇を奪う。
無論、ユピテルは舌をアインスの口内に侵入させていた。
アインスは初めは驚いていたがユピテルの舌を受け入れる。
その行為はどれだけ続いたのかやがてユピテルは口を離した。

「ありがとうユピテル。……その僕は何に進化すれば良いかな?」
「……今の姿がアインスにとって一番の自然体なんだろ? なら俺はそのままで構わない。
 俺はアインスの外見に惚れたんじゃなくて、心に惚れたんだ」
「格好良い事言って実はロリコンで進化した僕じゃ勃起しないんですなんて言わないよね?」

アインスの一言にユピテルが無言でアインスを睨みつける。
睨まれた事でアインスは慌てて「冗談だよ」と笑って誤魔化した。

「じゃあ、僕が先にしても良いかな? ユピテルに気持ち良くなって欲しいから……」
「そこまで言うならお願いしようかな」

ユピテルはアインスの前で後ろ足を大きく開けて自らのモノを見せ付ける。
アインスとのキスで興奮したのかモノは大きく反り立っていた。

「……凄い。雄の性器ってこんなに大きくなるんだ……」
「アインスってもしかして異性の性器って見たことない?」
「……うん。僕は兵器としてしか扱われてこなかったからそういう知識は全然なくて……。
 僕から誘っておいて、そう言うの悪いけど……。その雄って性器を扱けば気持ち良いんだよね?」

ユピテルはアインスの質問に恥ずかしそうに「ああ」と軽く返事をする。
答えを聞いて満足したアインスはユピテルのモノを両前足で軽く挟み込む。

「じゃ、じゃあ動かすね……。初めてだから上手くできるか分からないけど……」

アインスはゆっくりとユピテルのモノを扱きだす。
初めはぎこちない動きだったか時間が経つにつれ動きは次第にスムーズになっていく。

「ユピテル……気持ち良いかな?」
「あ、ああ。自分で扱くより……は、遥かに気持ち良い……」
「そう? じゃあ、これなら……もっと感じてくれるかな」

ユピテルの一言にアインスは嬉しそうにする。
アインスは扱くのをモノに顔を近づけ舌を出しユピテルのモノを舐めた。

「うわぁああ!! ア、アインス!?」
「進化すれば咥えてあげることも出来そうだけでイーブイじゃ舐めるのが精一杯だから……。
 だってユピテルはイーブイの僕が良いんでしょ?」
「その……そういう事言われると俺が幼女を犯すのが趣味の変態に聞こえなくもないんだが……。
 年齢はそこまで変わらないからアインスを幼女って良いのかは分からないけど……」

ユピテルはアインスの言葉に複雑な気持ちになった。
そんなユピテルの心境などお構いなしにアインスは必死にモノを奉仕する。
アインスが奉仕を続けていくと、次第にユピテルの呼吸が荒くなり限界が近づいていく。

「ア、アインス……で、出るから……離れろ!!」

ユピテルは言うと同時に絶頂を向かえ射精した。
ソアの件での気苦労で処理していなかったのか一回で凄い量が出る。
流石のアインスもそんなに早く動けるわけはなくユピテルの精液を正面から浴びた。

「ユピテル……流石に出すのと同時に言われたらEVEの僕でも避けれないよ……。
 まぁ避けるつもりなんかなかったから別に良いんだけどさ。
 でも、こんなに浴びると色違いみたいだよ」
「……すまん。自分で処理するときはこんなに出たことはなかったんだけど……」
「別に気にしなくても良いよ。折角だからユピテルの精液でも舐めてみようかな」

アインスは自分の体についた精液を右前足ですくい舐める。
口内に広がる道の味にアインスは顔をしかめた。

「……苦い。正直好みの味じゃないかな」
「ば、馬鹿。そんなもの舐めたら汚いだろ!?」
「綺麗、汚いは僕が決めることだから。じゃあ今度はユピテルが僕にしてよ……」

アインスはユピテルの前に仰向けになり後ろ足を開き秘所を見せ付ける。
初めて見る雌の秘所にユピテルは釘付けになっていた。

「ふ~ん。ユピテルも雌の性器を見るのは初めてでしょ? 反応が初々しいもん」
「……そうだよ。アダルト雑誌なんかでは見たことあるけどさ……」
「やっぱり、そういう雑誌に興味あるんだ~。ユピテルはモテると思ったけどね。
 今までずっと自分で処理してたんだ。可愛い」

アインスが笑うとユピテルは少し眉間にしわを寄せた。

「……モテなくて悪かったな。人が気にしてることを……。
 ああ、どうせ俺は言葉通り自慰して彼女が居ない自分を慰めてた寂しい童貞坊やですよ」
「拗ねない拗ねない。今夜は僕が相手してあげるからしっかり雌の感触を味わってね」
「じゃあ、お言葉通りアインスさんの滴る愛液を味あわせてもらおうか……」

ユピテルはそう言うとアインスの秘所へと顔を近づけ、アインスの秘所を舐める。

「あぁああ!! 良いよぉユピテル……。もっと……」

始めて味わう感覚にアインスは頭が真っ白になる。
ユピテルは秘所を舐めながら快楽に身を委ねるアインスを見ていた。
その姿は童貞のユピテルを興奮させるのに十分過ぎるほどの光景である。
一度は硬さを失ったユピテルのモノは再び大きく太くなる。
ユピテルは一度、アインスの秘所から顔を離す。

「……アインス。俺もう我慢の限界だ。もう入れても良いか?」
「……む。僕まだイってないんだけどな……。まぁその分、気持ち良くしてよねユピテル」
「えっと。善処はするが過度な期待はしないでくれ。……自信ないから」

アインスはユピテルの曖昧な返答に溜息をついた。
そんなアインスの反応はお構いなしにユピテルは自らのモノを秘所へと入れていく。
途中何かに進行を妨げられたがユピテルは力任せに障壁を破る。

「あぁああああ!! そ、そんな!! い、いきなり!?」
「あ、いや、その……。本当に我慢できなくて……。アインスごめんな」
「……馬鹿。少しは雌の体も労わってよ。いくら僕がEVEで他者より丈夫に出来てたって破瓜の痛みは別格だよ……。
 少しでも反省してるなら少し待って……。まだ痛むから……。ただでさえイーブイで無理してるのに……」

アインスはユピテルを睨みつけた。
睨まれたユピテルは流石にアインスの言うとおり大人しく待つことにする。
時間はゆっくりと過ぎていき、部屋には二匹の荒い呼吸音だけが響く。

「多分もう大丈夫。でも、いきなり最高速ってのは止めてよ」
「やっぱり怒ってる? でも今回は約束する」
「……当然でしょ。ゆっくりだからね」

先ほどの件もあり、アインスはユピテルに釘をさす。
ユピテルはゆっくりと腰を動かし始めた。

「……凄い。アインスが俺のを締め付けてくる」
「んぁああ!! 恥ずかしい事言わないでぇえ!! ユピテルのが僕をつく度、頭が真っ白になりそうで気持ち良いよぉ!!!」

アインスは快楽に溺れ悲鳴に近いような喘ぎ声をだす。
更に快楽を得るべく、ユピテルはスピードを上げた。

「だ、だめぇ! そんなに早く突かれたら僕、おかしくなっちゃうよぉお!! あぁあああああ!!!」
「俺ももうだめみたいだ。中に出しても良いよなアインス!!」

アインスはユピテルに激しく突かれ絶頂を向かえる。
またもアインスの答えを聞く前にユピテルは精液をアインスの中に注ぎ込んだ。
精液を注ぎ込まれたアインスのお腹は孕んだように大きくなる。
ユピテルは射精が終わると秘所からモノを抜き取った。
アインスの秘所からは栓を失ったことで精液と愛液が混じった液体が逆流しシーツを汚す。

「ユピテルのが僕の中に……。こんなに出して卵出来たら責任取ってくれるの?」
「雄として責任取らなきゃいけないよな。その……これからもよろしくなアインス!」
「それが言いたいから僕に中出ししたの? これからは僕が立派な裏の住人にしてあげるからね」

アインスとユピテルはキスをすると二匹で抱き合い眠りにつく。
その寝顔はとても幸せそうな顔をしていた。




隣の部屋ではソアとセレーネが聞きたくもない二匹の喘ぎ声を聞いていた。
ソアはセレーネの承諾を得てこの部屋で共同生活をしている。

「なぁユピテルを呼んだのって俺をどうするか決めるため……だったよな?」
「ええ。そのはずですけど……」
「俺……こうやってあいつの声を聞いてるけどここで本人を見てないんだが……。
 二匹とも当事者の俺を無視して何を楽しんでるんだよ……。
 この施設は気密性には優れてても防音性はここまでなかったか。
 設備には金をかけたが施設自体は目立たないようにそこまで金をかけなかったからな」

自分の息子の喘ぎ声を聞きソアは溜息をつく。
セレーネはそんなソアを見て苦笑いしか出来なかった。

「でも、こうしてソアさんともう一度話せて私は嬉しいです。
 ですが、良くあの爆発で助かりましたね? 運が良かった……だけではないのでしょう?」
「まぁEVEが三匹も居れば不可能も可能に出来るって事か。あいつ等が俺を庇ってくれたんだ。
 しかし、本当にあいつ等の体は丈夫に出来てるよ。十匹居れば世界を手に入れられる力だな……」

ソアとセレーネはしばらくユピテルの話題で話をしていた。
息子の話で盛り上がっていると隣の部屋から喘ぎ声が聞こえてこなくなる。
しかし、久しぶりに再会した愛し合う夫婦はその事に気づいていない。
会話に花が咲いているとき、ツヴァイとドライが部屋に入ってくる。

「こちらの仕事は終わりましたよソア様」
「ソア様。よろしければ私がお部屋の掃除でも……。もしかしてお邪魔でしたか?」
「はぁ。もう俺の事は様付けしなくても良いって言っただろう……。
 寧ろ父さんって呼んで構わないって……。子供を邪魔だと思う親はいないから安心して良いぞ」

ソアはツヴァイとドライの真面目な反応に呆れる。
そんなソアをセレーネは優しく見守っていた。

「で、ですがいきなりそんな事言われたって自分達は……」
「そ、そうですよ。混乱しちゃいますよ。もう少し時間をください……」
「まぁ、時間はたっぷりあるんだ。新しい家族も増えたし皆で仲良くやっていこうな」

ツヴァイとドライは満面に笑みを浮かべ、ソアに抱きつく。
セレーネはそんな夫達をみて微笑んでいた。


闇あるところ光あり。
その光は微かな物かもしれないが必ずそこにある。
その光を手に入れられるかはその者にかかっているのだから。


――END――


大会中にいただいたコメントの返信を。

ストーリー性が最高です。家族と子の再開とか仲間との(ry

親や仲間なんかの『絆』をテーマにしてストーリー性を重視してみました。

か、完璧だ・・・

完璧ですか。ありがとうございます。

何ともいえないすごさ

色々と凄いことになってますね。

話が凄い好みでした。官能無し仕様にしたとしてもこの作品に投票してますね。

そう言っていただけると非常に嬉しいです。実際のところはストーリー重視だったので官能なしでも行けた気がします。


コメント頂けると嬉しいです。




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Last-modified: 2016-03-29 (火) 16:02:52
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