名も無き人間
長らくお待たせしてしまって申し訳ありません;;
そして遅くなりましたが、震災に遭われた方達の一刻も早い復興を祈っています。
「よし、じゃあ今日は終わりにしよう。部活のある奴は遅れないように行くんだぞ。」
「やっぱ短縮授業は良いよな~。うっし、一緒に部活行こうぜ!」
「あ、僕はポチエナを迎えに行くから先に行ってて。僕も直ぐに向うよ。」
「オーケー。んじゃ先に行ってるからな。……っと、出て来いエーフィ!」
そして四時限目の授業が終わって、クラス担当の先生が授業の終わりを告げたんだ。
先生はいつも五分前には授業を終わらせてくれるんだ。部活に遅れないようにね。
僕は部活へ行く準備を始めていると、前の友達が一緒に行こうって誘ってくれたんだ。
だけど僕はポチエナを迎えに行く用があったから、断ったんだ。
友達はそれを承諾してくれると、ボールからパートナーを出したんだ。
授業外と放課後はポケモンを外に出して良い事になってるからね。
友達のパートナーは雌のエーフィなんだ。
「んじゃ、部室でな~!」
「うん、また後で! エーフィも後で遊ぼうね。」
「エ~フィ!」
友達は帰り支度を済ませると、いつものように手を振って挨拶してくれたんだ。
僕も片付けをしながら軽く挨拶すると、エーフィの頭を撫でてあげた。
実はエーフィ、友達より僕に懐いているんだ。友達が認めるくらいにね。
エーフィは嬉しそうに鳴くと、友達の後についていった。
「よし、ポチエナを迎えに行こうかな。じゃあ皆、また月曜日!」
「お…おう! またな! ……うぬぬぬ……」
「今度ポチエナちゃんを抱っこさせてね! ……はい。次は尻尾だよ。」
僕も帰り支度を済ませるとカバンを背負って、部室へと向ったんだ。
教室を出る前に残っていた友達に挨拶してからね。
友達はそれぞれパートナーと触れ合いながら返事を返してくれたんだ。
腕相撲をしながら返事をしたり。毛並みを整えながら返事をしたりね。
教室を出た後友達の悔しがる声が聞こえてきたけど、僕は校長室へ向ったんだ。
「失礼します。ポチエナを迎えに来ました。」
「授業お疲れ様でした。……ほら、ポチエナ君。迎えに来ましたよ。」
「キャンキャン! クゥ~ン……」
「あはは! 擽ったいよ! ちゃんと良い子にしてたかい?」
「キャン!」
校長室の前に着くと、ノックしてから中に入ったんだ。
中にはソファーで寛いでいる校長先生と、ポチエナが膝に乗っていた。
校長先生は僕を労ってくれると、ポチエナに僕が来た事を教えてくれたんだ。
ポチエナは僕を見付けると嬉しそうに鳴きながら、僕に飛び込んで来た。
そしてそのまま顔中を舐められちゃったんだ。
僕は半ば強引にポチエナを離すと、良い子にしてたか聞いたんだ。
ポチエナは笑顔で一声鳴くと、舌を出して尻尾を振っていた。
「あ、そうそう。ポチエナ君、お腹が空いてたみたいなので、オヤツをあげておきました。」
「ありがとうございます。本当に助かりました。」
「いえ、いつでも来て下さい。歓迎しますよ。」
「ありがとうございます、それじゃ失礼します。」
「キャンキャン!」
校長先生はポチエナにオヤツをあげてくれたみたいだった。
そういえば朝から何もあげてなかったんだ……悪い事しちゃったな……
僕はポチエナを抱き上げると、校長先生に頭を下げて感謝したんだ。
校長先生は腕を後ろで組んで、いつでも来て良いって言ってくれた。
それに対してもう一度頭を下げて感謝してから、僕は部室へ向ったんだ。
ポチエナも後ろを振り向いて校長先生に感謝の声をあげたみたいだった。
校長室から部室まではそれほどの距離は無いんだ。一分位で着けるんだよ。
もう部室には殆どの部員が来ているみたいで賑わっていた。
「待ちくたびれたぞ~。」
「ごめん。ところでエーフィは?」
「ほら、そこだよそこ。」
「ん?」
入り口で雑談をしていた部活仲間に挨拶をしてから、僕は自分の席に向った。
部室では基本的に一つの机に自分とパートナーが座る形になっていたんだ。
僕の席はエーフィがパートナーの友達の隣。
僕はその友達にエーフィが居ない事を伝えてどこに居るか聞いたんだ。
すると友達は呆れ顔で僕の席を指差した。
そこを見ると、エーフィがチャッカリと僕の席に座っていたんだ。
エーフィは僕を見ると一声鳴いてから友達の隣へ戻っていった。
「いつもありがとねエーフィ。冷たくなかった?」
「エ~フィ~!」
実はエーフィ、いつも僕の椅子を暖めておいてくれるんだ。
僕はエーフィの頭を撫でながら感謝してから、冷たくなかったか聞いた。
エーフィは笑顔で鳴いて、大丈夫だった事を教えてくれたんだ。
「お前は良いよなぁ……いっそエーフィとポチエナ交換しねぇ?」
「駄目だよ。エーフィだって、信頼してるからこそ一緒に居るんでしょ?」
「う~ん……こいつが俺を信頼ねぇ……」
「フィ……」
そんな様子を見た友達はエーフィとポチエナを交換しないかって聞いてきたんだ。
多分僕にエーフィが懐いてるから僕の方が良いと思ったのかな。
だけど僕は断ったんだ。エーフィだって、友達を信頼してる筈だからね。
実際僕と居るよりも安心しきってる感じがするからね。
それを伝えると友達はエーフィを見つめて首を傾げていた。
エーフィは呆れた様に一声鳴くと、そっぽを向いて僕の隣に来たんだ。
それを見た友達は落ち込んだようで、俯いちゃった。
「エーフィ、本当は御主人様の事好きなんでしょ?」
「フィ!? エ~フィ!?」
「隠さなくても良いよ。大丈夫、内緒にするから。」
「フィ~……フィ?」
僕は隣に来たエーフィに小声で友達に好意を持ってるか聞いてみた。
図星だったみたいで、エーフィは顔を真っ赤にしながら勢い良く首を横に振り出したんだ。
僕は可笑しくなっちゃって、絶対内緒にすると約束して、エーフィを撫でた。
エーフィはまだ顔を赤くしてたけど、ポチエナに気付いたのか顔を近付けてきたんだ。
だけどポチエナは悪タイプだから相性が悪いんだ。大丈夫かな……
「フィ! エ~フィ~!」
「キャン! クゥ~ン……」
「エ~フィ~……」
「良かった、仲良くなれそうだね。」
そんな心配を裏腹に、エーフィは笑顔でポチエナに挨拶をしたんだ。
ポチエナも僕の膝から降りてエーフィに挨拶してから、毛繕いをしはじめたんだ。
エーフィもポチエナの毛繕いをし始めて、二人はすっかり仲良しになったみたいだった。
あ、お互いが毛繕いし合うのは信頼し合ってる証拠なんだよ。
「よ~し、皆揃ってるな! じゃあ今日も部活始めるぞ! ……ん、そのポケモンは?」
「あ、僕のポチエナです。まだパートナーじゃないですけど。」
「そうかそうか! 大きな進歩だな! 宜しくなポチエナ! はっはっは!」
「クゥ~ン……? キャン……」
少しポチエナ達を見ていたら、顧問の先生が入ってきたんだ。
今更だけど、もう部員は全員集まってたらしい。
先生は教卓に着くと、ポチエナを見て誰のポケモンか探し始めたんだ。
先生は部員のポケモンは全員暗記してるからね。
僕は直ぐに自分のポケモンだって伝えたんだ。
すると先生は大袈裟に喜んで、ポチエナにも挨拶をして笑っていた。
あの先生は一言で言えば熱血教師って言うのかな……面白い先生なんだよ。
勿論、僕の過去を知っていて、励ましてくれたのもこの先生だったんだ。
ポチエナは先生のテンションに馴染めないのか、小さな声で返事をしていた。
「よ~し! じゃあ今日は『信頼関係における会話の成立』をやっていくぞ!」
「相変わらず元気だよなぁあの先生……見習いたい位だぜ。」
「あはは。それが良い所なんじゃないかな。明るくて良い先生じゃない。」
「コラそこ! 私語するな!」
「痛てえ!」
先生は笑顔でテキストを開くと、今日やる所を言ったんだ。
僕が昨日読んだ、『信頼関係における会話の成立』が今日やる範囲。
ある程度読んだから大体の事は分かってたんだ。
僕がテキストを開いていると、友達が先生の事を言ってきたんだ。
僕もそれに笑顔で答えて、明るい所が良い所って言った。
だけど声が届いたのか、先生は友達と僕にチョークを投げてきたんだ。
僕は咄嗟に頭を隠したけど、チョークが当ったのは友達だけだったんだ。
僕に飛んできていたチョークは空中で浮いて止まっていた。
「ありがとエーフィ。助かったよ。」
「エ~フィ~!」
「お前なぁ……俺のチョークも止めてくれよ! お前の御主人様なんだぞ!」
「フィ~……」
「わっ!? 止めろエーフィ! ……いってぇ!」
そう、エーフィが念力で止めてくれてたんだ。
僕は笑顔でエーフィの頭を撫でて御礼を言ったんだ。
エーフィも笑顔で鳴いて応えてくれた。
それを見ていた友達は自分のチョークも止めてくれってエーフィに言ったんだ。
だけどエーフィは途端に怖い顔をしたんだ。正直凄く怖かった……
そして友達は焦りながらエーフィを必死に抑えたんだ。
だけどエーフィは友達に、止まっていたチョークを思い切りぶつけたんだ。
見てる方にも痛みが伝わって来そうな位凄い音がしたよ。
「おうエーフィ! 代わりにチョークぶつけてくれたのか! ありがとな!」
「フィ!」
「ク~ン……?」
「大丈夫だよポチエナ。あれ位で死んだりしないよ。」
先生は心配もしないで、逆にエーフィに感謝してたんだ。
エーフィも得意げな表情を浮かべて、前足で友達を突いてた。
ポチエナは心配そうに友達を見てたけど、僕が大丈夫って言うと安心したみたいだった。
「よ~し、じゃあ始めるぞ~! 各自自分のパートナーと隣同士になれ~!」
「エ~フィ!」
「こらこら。エーフィは僕の隣じゃないでしょ。」
「フィ~……」
先生が教卓に着いてテキストを開いて、授業を始めたんだ。
隣にパートナーを座らせるのは毎回の決まりで、皆既に隣同士になっていた。
だけどエーフィは笑顔で僕の隣に座ったんだ。これも毎回の事だけどね。
僕はエーフィに友達の隣に行くように言うと、ガッカリした様子で戻っていった。
それからは何も問題は起こらないで、授業は順調に進んだ。
信頼関係における会話の成立。授業を受けて、その意味が良く理解出来た。
お互いが全てを受け入れて、決して切れない絆で結ばれた時に言葉が分かる。
と、いうものだったんだ。僕もいつかはポチエナの声が聞こえる時が来るかな……
「よ~し、後は交流の時間にするぞ! 皆自由に雑談して良いぞ!」
「なぁ、今日の内容どう思う? お前は信じるか?」
「うーん……けど本当だったら良いとは思うよ。ね、ポチエナ。」
「キャン!」
時間は直ぐに過ぎていって、部活は談話の時間になったんだ。
すると皆は思い思いに席を立って、雑談し始めた。
前に座っていた友達も僕に話しかけてきて、今日の内容を信じられるか聞いてきたんだ。
勿論素直には頷けなかったけど、本当だったら良いから僕は頷いたんだ。
ポチエナにも聞いたけど元気に返事をしてくれた。
「なぁなぁ、ちょっとポチエナ貸してくれないか? エーフィ貸すからさ~。」
「僕は構わないけど…ポチエナ、良い?」
「キャン! クゥ~ン……」
「エ~フィ……フィ~……」
ポチエナを撫でてると、友達はポチエナを貸してくれって言って来たんだ。
僕は構わなかったけど、ポチエナに聞いてみた。本人の同意が無いと可哀想だからね。
ポチエナは笑顔で鳴いてから友達に飛び付いて、ジャレ付き始めた。
エーフィも直ぐに僕の隣に来て体を擦り付けてきたんだ。
昔も友達とパートナーを少しだけ交換とかしてたな……
だけどアイツはもう居ない。あの時……僕がしっかり付いていれば……
「フィ~?」
「あ、ごめん。何でも無いよ。心配してくれてありがとう。」
「エ~フィ!」
暫く考え込んでると、エーフィが心配そうに顔を覗き込んできたんだ。
多分曇った表情をしてたから心配してくれたのかな。
僕は何でも無いって言ってから、エーフィを撫でてあげたんだ。
エーフィは安心したように笑顔になると、仰向けになって甘えてきた。
「俺が撫でる時は仰向けにならないのになぁ…俺、嫌われてるのかな……」
「嫌われてるからじゃないよ。エーフィは恥ずかし…いたたた!」
「フィ~!」
「エーフィがお前を引っ掻くなんて珍しいな~。ついに嫌われたか?」
その様子を見てた友達はガッカリした様子で、嫌われてるんじゃないかって言ったんだ。
勿論僕は違う事を伝えて、エーフィの気持ちを教えようとした。
だけど途端にエーフィが引っ掻いてきたんだ。顔を真っ赤にしてね。
友達は少し嬉しそうな表情を浮かべながら嫌われたと思ったらしい。
今に始まった事じゃないけど……鈍いな……
「けどお前、変わったよな~。前はエーフィすら触りたがらなかったのにな。」
「今だって完全には吹っ切れてないよ。ただ……こうしてると何か楽なんだ。」
「そっか。そうだ! 前みたいに一日だけパートナー交換しないか? 記念にさ!」
「僕は良いけどポチエナは…その様子なら大丈夫そうだね。」
友達はポチエナを撫でながら昔の僕と変わったって言ってきたんだ。
それは自分でも思ってた。昔の僕は自暴自棄になってたからね。
だけどポケモンに触れ合ってると心が落ち着くんだ。
それを聞いた友達はパートナーを一日交換しようと言ってきた。
アイツが居る頃は良くやってた事だから、僕は構わなかったんだ。
ポチエナを見ると、友達にじゃれ付きながら遊んでいた。
あの様子なら大丈夫だと思ったから僕は頷いたんだ。
「じゃあ決まりだな! 一日宜しくなポチエナ!」
「キャン!」
「僕も。一日宜しくねエーフィ。」
「エ~フィ!」
友達も頷いて返すと、ポチエナに笑顔で挨拶をしたんだ。
ポチエナも嬉しそうに尻尾を振りながら鳴くと、友達に擦り寄ってた。
僕もエーフィに挨拶をすると、エーフィも嬉しそうにじゃれ付いてきたんだ。
その後は色んな事を話しながら時間を潰した。
そうしている内に終業のチャイムが鳴り始めたんだ。
「よ~し、じゃあ今日はここまでにしよう! 解散!」
「よっしゃ、帰ろうぜ! 帰りに買い物していこーぜ。嫌いな物食べさせられないからな。」
「そうだね。じゃあ、行こう!」
「エ~フィ!」
「キャン!」
先生が部活の終わりを告げると、皆帰り支度を済ませて帰っていった。
友達も僕に話し掛けてきて、帰りに買い物をしようと言ってきたんだ。
僕はエーフィの好きな食べ物を知ってるけど、友達は知らないからね。
だから僕は頷いて、一緒に近くのポケモンショップに向ったんだ。
「え~っと…クラボの実とオレンの実、それにチーゴの実…っと。」
「よくエーフィの好物覚えてるな~……俺未だに間違えるぞ。」
「フィ~……」
「あはは……もっとエーフィの事知らないと駄目だよ。」
僕はカゴを取ってエーフィの好きな物をどんどんカゴに入れた。
それを見て友達は少し驚きながら、自分はたまに間違えると言ったんだ。
するとエーフィはいかにも呆れた様な表情で溜息をしていた。気持ち分かるかも……
僕も苦笑いしながら、もっとエーフィの事を知るように友達に伝えたんだ。
「それで、ポチエナの好物は何だ?」
「まだ全部は知らないけど、モモンの実とオレンの実は好きみたいだよ。ね、ポチエナ?」
「キャン!」
「オーケー。後はポケモンフードを買ってっと……こんなもんだろ。行こうぜ。」
友達はポチエナの好物を僕に聞いてきたんだ。
僕も全部知らないから、知ってる物を友達に伝えた。ポチエナに聞いてからね。
ある程度カゴに入れて、レジを済ませると僕達は店を後にした。
そこからは僕の家が近いから、僕の家の前に集まったんだ。
「んじゃ、エーフィ頼むな。エーフィ、迷惑掛けるなよ?」
「フィ……」
「大丈夫だよ。ポチエナも、ちゃんと言う事聞くんだよ?」
「キャン!」
そして少し雑談した後、友達がエーフィに迷惑を掛けないように伝えた。
だけどエーフィは当たり前のようにそっぽを向いちゃったんだ。
僕はエーフィの頭を撫でながら、今度はポチエナに迷惑を掛けないように伝えた。
ポチエナは笑顔で元気良く鳴いて応えてくれた。
「んじゃ、明日になったら迎えに来るからな! またな~!」
「うん! また明日~! ……さて、入ろっかエーフィ。」
「エ~フィ!」
友達はポチエナを抱き直すと、手を振って帰っていった。
僕もその後姿を見送ってから、エーフィを連れて家に入ったんだ。
明日から二連休かぁ……何して過ごそうかな……
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