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倒錯の中で

/倒錯の中で


同性愛表現を含みます。
かつ官能表現ありです。
それ以外にも読み手を選ぶ表現が含まれている可能性がありますので、ご注意ください。




 今年の冬は寒いらしい。ずっと前にテレビで流れていたことだ。
 なぜが、ルクシオはキュウコンを見てそんな事を思い出した。
 その番組を見たときも確かにキュウコンと一緒だったはず。
 時間もちょうど今位。だから思い出したのかもしれない。
 季節は既に冬の盛り。吐く息は真っ白に濁っている。
 単純に空気が冷たいからか、あるいは身体が火照っていたのかも知れない。
 キュウコンがそっと息を吹き掛けてくると、次第に身体が温かくなっていった。
 背中を擽られているような不思議な感覚があった。
 月明かりが差し込める薄暗いなかで、キュウコンに身を委ねた。
 やはり炎ポケモンだからか、キュウコンは温かかった。
「もういいんじゃない? 誰も居ないし」
 良しとも悪しとも言い切ることの出来ない状況だった。確かにリビングには誰も居ない。
 しかし扉を一枚挟んだ向こう側。つまり寝室にはご主人が眠っている。
 それどころか、他のポケモン達は寝ているのか、起きているのかすら判らない。
 もしまだ起きていたとするなら不味いだろう。
 唯一判るのは牡のライチュウのみ。彼はついさっきまでこの部屋に居た。
 喉が乾いた、と行って台所の方へ行きそれ以来である。
 寝室に行く為にはこの部屋を通るしか道はない。
 つまりは、台所に彼は居る。まだ絶対的な安心はどこにもないのだ。
「ライチュウが向こうの部屋に行くまで待って」
 そうは言ったものの、キュウコンから離れようとは思わなかった。
 身体が温まる――それだけが理由ではなかった。
 ルクシオ達の身体は半分ほどコタツの中に入っている。下半身はコタツの中に埋もれている。
 だから、実際にライチュウがこの場所を通っても見られてはいけないな部分は隠れたままなのだ。
 それはキュウコンも理解しているはず。
「大丈夫だって。部屋の中は真っ暗だし、何も見えない。それに、こうしたいって言ったのはルクシオだろ」

 優しい口調なのだが、自分の非を責められているように感じた。
 全ての原因はルクシオにあるとでも言わんばかりである。
 一理はある。
 しかし、誘ってきたのはキュウコンの方だし強引に関係を結ぼうとしたのもキュウコンである。
 ルクシオはただ、感情だとか性欲の波に飲まれないように、必死で抵抗していたというのに。
 自分だけの所為にされるのは不服だった。

 キュウコンはルクシオよりも大きい。
 力は強くなくても、高い知性を持っている。
 牡のキュウコンは牝に劣ることのない美しささえ兼ね揃えている。
 思い起こせば、一目ぼれだったのかも知れない。
 主人にゲットされたとき。あの草原で対峙したそのときから、ルクシオは釘付けであった。
 バトルといっても、一方的に攻め立てられるばかりだったのだが、それでも恐怖すら感じなかった。
 キュウコンの笑顔ばかりが目に入っていた。

 ゲットされ、初めて主人のモンスターボールから出たルクシオは、主人よりも先にキュウコンに話しかけていた。
 幼い頃のことだから、何を話したか覚えていない。
 ただ、それからルクシオはキュウコンといつも一緒に過ごすようになっていた。
 そのとき抱いていた感情はおそらく憧れにも似ている。漠然としたものだったはずだ。
 けれど、成長していくに連れ、成熟していくにつれて、憧れは恋愛感情へと変化していった。
 
 まだ同性同士でどの様に愛し合うのか知らなかったころ、ルクシオはよく妄想していた。
 もし自分が牝であったのなら、キュウコンとどのような関係なのだろうか、というものである。
 仲のよい友人かそれとも恋人か、もしかすると身体だけの関係になっているのかも知れない。
 結末がそのどれかであっても、告白する勇気はあったに違いない。
 異性であるのならば……。
 
 なんせ同性である。同性同士が両想いになる、なんて妄想の世界だけの話だと思っていた。
 だから、告白なんて考えても見なかった。
 
 ある夜のこと。ルクシオだけ居間でテレビを見ていた。他のポケモン達も主人も寝床に居た。
 いきなり後ろから抱きつかれ、好きだと言われた。
 何が起こったのか解らず、振り返ると紅潮したキュウコンが居た。
 いや密着していた。キュウコンと触れ合っているのは初めてだったかも知れない。
 腰の辺りには突起のようなものが擦り付けられていた。後ろ足で突付かれているのだろうか、と思っていた。
 その時のやり取りは今でも薄まることなくルクシオの記憶の中にある。
 ――こうなったのはルクシオの所為だからな。責任、取ってもらう
 その時は放心していたが、後になって考えると支離滅裂である。
 冷静に成れない程、好きで居てくれるのは嬉しいことだった。
 だが、それはルクシオの責任ではないだろう。
 キュウコンが勝手に好きになっただけの事。

 何も知らないルクシオに対して、彼は強引に関係を結んだ。  
 強姦に近かったと言えるはずである。
 力ずくで乱暴にされた訳ではなかったのだが、ルクシオの拒否は一切無視された。
 耳元で何度も愛している、と囁かれはしたのだが屈辱的なものでしかなかった。
 それから、ルクシオは被虐的な行為に対して興奮してしまう性癖に気付いてしまった。
 誰かに見られるかも知れない、くぐもった声や濡れた音を聞かれるかも知れない。その緊張感を欲した。
 また、自分の意思を無視され蹂躙される性交渉に一番興奮を覚えてしまった。

 どう考えてみても、原因はキュウコンであってルクシオではないはずだ。
 そんなことをキュウコンに説いてみても、聞く耳は持たないだろうし無駄なことに思えた。
 一々説く必要もない。
 一応はルクシオのことを思い遣ってくれることが多い。
 たまにしか出来る機会はないのだけれど、体調が悪いと我慢してくれる。
 終わったあとは抱きしめてくれるし、キスもしてくれる。
 普段ご主人の前では関係がばれてしまわないように緊張して振舞っているから、身体を触れ合わせてくれるのは嬉しいことだった。
 つまるところ、不満もよりも満足している部分の方が多いのだ。

「でも、まだ駄目。やっぱり見つかっちゃうよ」
「それが好きなんだろ?」
 否定することは出来なかった。確かに好きであることには間違いない。
 しかし、普段はみんなが眠っていることを確認しているから安心して身を委ねられるのである。
 結局は安全な遊びだから好きで居られるのだ。これが本当に危険なだけなら、ただの自殺行為でしかない。
 だと言うのに、言葉や思いとは裏腹に身体は素直に反応していた。頬が熱くなるのを感じる。
「キスしたげる」
 ルクシオはこれ以上問答を続けると、首を縦に振ってしまいそうで不安になった。
 性交渉をすればそれなりに音が出るし、声を殺すことも難しい。 
 キスだけで満足してくれるならきっと大丈夫だと思った。
 なんせ、部屋は薄暗くて満足に周りの様子も見えないほどなのだから。

 ルクシオはキュウコンの首を前足で抱えた。自然と顔が近づく。すると密着する部分が増える。
 屹立としたルクシオの性器も彼の身体に触れた。
 しなやかな繊維質が絡みつくと、それが刺激となって走った。
 息遣いが聞こえる。吐く息が顔に掛かった。
 温かい。
 もうキュウコンは不満を口にしなかった。目を開き、じっとルクシオを見つめていた。
 ルクシオは咄嗟に口を開く。
「目、瞑ってくれないと恥ずかしいよ」
「恥ずかしいほうが好きだろ?」
 衝動的であった。見られている恥ずかしさから、ルクシオは一気に唇を付けた。
 ほんの一瞬のことなのだが、顔から火花が飛び散りそうなくらい緊張した。
 自分からキスをするなんて初めてだったから、かも知れない。
「まさか、お仕舞い?」
「うっさいなぁ。これからが本番だよ」
 ルクシオはまた唇を重ねた。今度は一瞬で離れることはない。
 離れようとはしたのだが、首の後ろに回されたキュウコンの前足がそれを阻害した。
 どんなに力を込めても逃げ出すことは出来なかった。
 無理やりに舌が進入してくる。
 今まで話していたキュウコンとはまるで違う生き物のように、口腔を蠢いている。
 行為は強引で乱暴だった。ルクシオが必死に束縛を解こうとしても、それは叶うことがない。
 首に回していた前足をばたつかせ、抵抗してみせるが、止めてはくれない。
 それどころか、あやしいひかりを放ってくる始末。
 ルクシオはとっさに目を瞑り、キュウコンの舌を押しのけようと必死になって拒んだ。
 抵抗すればするほど、身体には快楽が刻み込まれていく。
 汗ばむのを感じた。
 興奮を覚えることはあっても、こういうキスは慣れない。
 ルクシオはやはり、頬にそっとする幼い子どものような口付けが好きだった。
 それが一番安心でき、恋人同士ということを認識できた。
 だからと言って、ディープキスが嫌いと言う訳でもなかった。
 外側にある殻が破られ、抉じ開けられ、自分の一番柔らかい部分を擽られているような感じがした。
 安心や認識とは違う、待ったく別の何かがあった。それは性欲という意味ではない。
 頬に何かが伝い、落ちていく。
 唇から唾液が零れ落ち、粘土を持った液体が淫靡な空気を漂わせていた。頭の中がぼんやりと混乱してくる。 
 快楽に毒されている。身体の奥の方から切なさがこみ上げてくる。

 少しキュウコンの顔を見たくなって、口を離そうとした。ルクシオの希望は適うことはない。
 安心したかった。
 快楽のためにルクシオを利用しているのではなく、純粋に愛してくれているのだと、確かめたくなった。
 本当は避けるつもりだったのだが、仕方なく無理やり口を閉じ、キュウコンの舌を噛んだ。
 
 薄暗がりの中で、綺麗な赤い瞳が見えた。キュウコンに笑顔はなかった。
 不安そうにルクシオを見つめている。
「嫌?」
「ううん」
「続けてもいい」
「私のこと、愛してくれてるの?」
「当たり前だよ。こうやって、甘えられるのはルクシオだけだよ」
 短いやり取りだったのかも知れないけれど、十分だった。
 会話が終わるとキュウコンはまた舌を入れてくる。
 気づけば、拒んではいなかった。貪るように激しく動くキュウコンの舌に、そっと自分の舌を絡めた。
 押し出そうとして絡まるのとは違う。舌と舌が結びつく。
 擽ったいような、痺れるような、不思議な感覚を覚えた。
 

 物音がした。台所のほうだ。
 キュウコンは気づいていないようで、まだキスを続けていた。
 ルクシオは前足で彼の顔を押し退け待って、と小声で話した。
  
 ライチュウが台所の方から戻って来ようとしているみたいだった。足音が近づいている。
 ルクシオはキュウコンの側から離れようとした。
 牡同士が身体を密着させているなんて明らかに不自然だからだ。
 でも、慌てて離れるのも不自然かも知れない。
 
 ルクシオはそのまま、キュウコンと見つめ合ったまま固唾を飲んだ。
 どうか、二匹の関係がばれませんように、と祈ることしか出来なかった。

「キュウコンもルクシオも、まだ起きてるの」
 大きな欠伸を交えてライチュウは言った。
 その声は落ち着いている。きっとルクシオとキュウコンが抱き合っていることなんて、思いもしないだろう。
「ん? 私達も、もうすぐ寝るよ」
「ルクシオさぁ、自分のこと私って言う癖は直したほうがいいと思うよ。なんか、牝みたいだし」
「でも、癖って中々直せないし。それに、私は変だと思ってないから直す気もないし」
 疎ましく感じた。早くライチュウが居なくなればいいと思っていた。
 なぜ、ライチュウは話しかけてくるのだろうか。
 理解できなかった。欠伸するほど眠いのなら、早く寝てしまえばいいじゃないか。
 ルクシオがいくら考えていたとしても、本心を話せる訳もなかった。
「ま、ルクシオの自由だけどさ」
 それに対して何と答えたらいいのだろうか。
 考え付かなかった。ただ、黙ってその場をやり過ごすしか術を知らなかった。
 ライチュウはまた欠伸をする
「おいおい、そんなに眠たいのなら早く寝たほうがいいぞ。睡眠不足は健康の大敵ってな」
 助け舟を出してくれたのはキュウコンだった。
「うん、そうするよ。二匹も早く寝たほうがいいよ」
「おやすみ」
 ルクシオも続いておやすみ、と言う。
 ライチュウも返事をして寝室の方へと向かった。

「ありがとう」
「別に。俺だってルクシオが本気で嫌がってるのか、虐められたくて演技してるのかくらい判るさ」
「べ、べつに演技なんか……」
 小声で抵抗するとキュウコンは大きな声を出して笑っている。
 他のポケモンが起きてしまいそうなくらい大きな声だ。
 ルクシオは熱くなった頬を隠すようにキュウコンの胸に顔を埋めた。

 こういう瞬間がルクシオにとって幸せな時間だった。


   *    *


「なんか、冷めちゃったね」
「そうか? ルクシオなら逆に興奮してそうだけど」
 相変わらずキュウコンは失礼な事を言っている。でも、もうそんなことにも慣れてしまった。
 むしろ意地悪なところも含めて好きなのかも知れない。
「キュウコンはまだ、したいって思う?」
「当たり前だろ」
 ルクシオはキュウコンから離れ、コタツの外に出た。肌寒い。自然と身体が強張って震え始める。
 身体はどのように反応していても、頭の中ではどうやって誘おうかということばかりで一杯であった。
 実は誘ったりするのは苦手である。
 現に今までキュウコンを誘ったことはない。どちらかというと、いつも誘われるほうなのだ。
 あまり淫乱だと思われるのも癪であった。何とかして、キュウコンと上手に出来るように……。
 考えれば考えるほど、難しい問題だと思った。
 そもそも、ルクシオ自身は性交渉なんて駄菓子のおまけ程度にしか考えていない。快楽もそれほど必要ない。
 むしろ、それが痛みであっても構わない。
 大切なのは、その性交がただ快楽を得るための行動なのか、愛情の確認作業なのか、ということだ。
 だから、上手に誘う必要もないのである。
 では、なぜ場の雰囲気に合わせようとしているのだろう、なんて考えても答えは見出すことが出来なかった。
「寒いだろ。コタツ、入れよ」
「もう誰も居ないんだから、コタツで隠さなくてもいいでしょ?」
 口が滑ったというのか。
 声を発したときは何も感じては居なかったのだが、後になって恥ずかしさがこみ上げてくる。
 何度考えても、コタツの外でしたいという意思表示にしか思えなかった。
 なんて、破廉恥なことを言ってしまったのだろう。
 自分が本当にそんなことを言ったのか、と疑いたくなってしまう。
 後悔したときはもう遅い。
 キュウコンはにんまりと笑みを浮かべてコタツの中から這い出してくる。
「そうか、包み隠さずっていうのも開放感があって良いかも」
「いや、そういう意味じゃなくて。ほら、あれだよ。あれ」
 弁解の余地はなかった。
 それ以上は何を言っても滑稽なだけで、意味を成さない。
 それでもルクシオは何とか言い訳を探そうとしていた。
 度台無理な話だ。自分の本音をどう言い訳できるのだろう。

 コタツの中は熱が篭り、布団が重苦しくて邪魔でもあった。
 狭いから、キュウコンが覆いかぶさってくれないというのもあった。
 冬場はコタツの中で契るので、どうしても横向きになってしまう。
 広い場所で、向かい合ってするほうがルクシオは好みだった。

「あれって何だよ。したくないなら今日はいいよ」
 眠い、と言うとキュウコンはわざとらしい大きな欠伸をして、寝室の方へ前足を出す。
 意地悪をしている。ルクシオは確信した。
 すると、これから自分がどのように身を振れば良いのかある程度決まっている。
「待ってよ、違うよ」
「ん? 何が違んだよ」
「だから、その……」
 キュウコンは一瞬振り返り早く寝ないと身体に悪いぞ、と言った。
 嘲笑が混ざったいやらしい笑みを浮かべている。
 すぐに前を向くと、また歩き始めた。
「向かい合って、したい」 
「いきなりどうしたんだよ。向き合って何がしたいんだよ」
 キュウコンは身を翻しルクシオの方に向かって来る。自然になのか、意識しているのか、にやにやとしていた。
「知ってるでしょ、私の好きな体位くらい」
「体位? 何の話だかさっぱりだけど。何をしたいのか言ってごらんよ」
 ルクシオは、はっきりとセックスというのを躊躇った。そんなはしたない言葉を話すのは苦痛でしかなかった。
 けれど、それを言わないと今日はお預けになってしまうことも解っていた。
 結局、キュウコンと重なりたいのならば言わざるを得ないのである。葛藤がない訳ではないが仕方ない。

 セックス以外に何か別のいい言葉はないだろうか、と考えてみた。
 思いつく言葉は全て淫語である。曖昧な言葉を言ってもとぼけられるだけ、とルクシオは心得ていた。
 はっきりとした意味として通じて、それで卑猥な語感ではない言葉。そうなるとかなり選択肢はなくなる。
「夜伽」
「は? なにそれ、お伽話の親戚か?」
「性交渉のことだよっ! そうやって冷やかさないでよ」

 キュウコンは笑い声をかみ殺すのに必死なようで、腹を抱えて、のた打ち回っていた。
 ルクシオは至極真面目に答えたものだから笑われると余計に羞恥を覚えた。

「何がおかしいのさ。ちゃんと答えたでしょ」
「夜伽だとか、性交渉だとか、どこでそんな難しい言葉を覚えてくるんだよ」
 やっぱり変態だな、とキュウコンは付け加えた。
「いじわる」
「でもさ、そういう言葉ってあれと同じ意味だろ?」
「うん」

「したい?」
 キュウコンの問いに、ルクシオは小さく首を縦に振った
「なら、セックスしたいですって言ってごらんよ。そうしたら、可愛がってあげる」
 思考はすでに正常ではなかったかも知れない。その誘いは十二分にルクシオの心を揺さぶっていた。
 初めにキスをしていたときから、身体は疼いていたのである。それからずいぶんと己の色欲を我慢していた。
 キュウコンが抱いてくれるのを心待ちにしていた。その気持ちを笑われ、貶されるのはつらいことだった。
 ましてや、その単語を言うように半ば強制されているに等しい。
 
 ルクシオの中で羞恥心が性的興奮に変化しつつあった。
「耳貸してやるから、小さい声で言ってごらん。それなら俺にしか聞こえないよ」
 それは甘い誘惑だった。火照った脳では、小声でなら構わないかも知れないと考えるのが精一杯であった。
 身体がその行為を求めているのは確かだった。恥ずかしいと感じると背筋に電撃のようなものが走る。
 
「セックス、しようよ」
 小さい声だった。耳元で放たれた声は外に漏れることなく、キュウコンにだけ伝わった。
「よく出来ました」
 ルクシオは一気に押し倒された。
 息が自然と荒くなる。
 快楽のために性交しているわけではなくても、気持ちいことが嫌いということではない。
 
 ルクシオはそっと、その流れに身を任せた。 

 
   *   *
 

 キュウコンはルクシオの前足に自分の前足を重ねる。
 重なった部分に体重をかけ。ルクシオが顔を覆い隠せないようにした。
 前足を拘束され、無防備になった顔に、まるで征服者のように醜く舌を這わせた。
 
 知らないポケモンにその様な屈辱的なことをされたら、ルクシオは全力で電撃を浴びせるだろう。
 仮に仲のいいポケモン同士でも許すことは出来ない。顔を舐められるなんてあまり気持ちの良いものではない。
 だが、キュウコンは別だった。拒絶したくなる行為でも、キュウコンが相手なら受け入れることが出来た。
 身動きが取れないようにされているのも、自分の身体に全体重が掛けられているのも、心地いいとすら感じれた。

 唇にキュウコンの舌先が触れると、雛鳥がエサを貰うかのように口を開け、キスをした。
 部屋の中にはまた水の音が聞こえ始めていた。
 単調なキスだったかも知れないがルクシオは支配されている喜びに満たされていた。

 愛情を確かめたいという気持ち。
 性欲を満たしたいという気持ち。
 その両方が正面からぶつかれば、先に飛び出してくるのは悲しくも性欲の方だった。
 刹那的な快楽に興じたいという卑しくも淫らな欲望。
 どれほど丈夫な殻で覆い隠していても、キュウコンと縺れているときは誤魔化すことなど出来はしなかった。
 心のそこから愛情を確認したいと願っていても、目の前に散りばめられた快楽には適わなかった。

「キュウコンが、欲しい」
「どういう意味?」
「フェラチオしたい……」
 ルクシオは目を固く瞑り、首を横に逸らした。たとえ小声であっても、はしたない言葉に代わりはない。
 出来れば使いたくはない言葉。
 使いたくないとは言っても、すでに行為は始まってしまっている。
 自分の感情を我慢するのも嫌だった。
 キュウコンに気持ちよくなってもらいたい、と思う気持ちは同時に己の性的な欲求でもあった。
 身体の奥から溢れてくる火照りや衝動を抑えられるだけの余裕も忍耐も、ルクシオには残っていなかった。

 両肩に掛かっていた重みや、全身に感じていた温もりが、すっと闇の中に消えていった。
 ほんの一瞬の出来事に戸惑った。それまであった幸せが離れていってしまう。
 これほどに悲しいことは無かった。ルクシオは目を開くと、すぐさま上体を起こし、周りを見渡した。
 キュウコンはルクシオの横に倒れていた。
「好きなようにしてごらん」

 ルクシオは、キュウコンの上に被さる。目の前にはキュウコンの大きく反り立ったペニスがあった。
 舌を這わすと、ペニスが規則的なリズムで動いているのを感じた。

 頬が一気に熱くなった。拍動は五月蝿いほどに耳の奥でなり響いていた。
 さっきまでの羞恥が嘘のようでもあった。
 むしろ、私は変態なのだ。だから同性の性器をくわえられるのだ、と自ら羞恥を煽った。
 歯でキュウコンのペニスを傷つけないように気をつけながら、口の中に咥えた。
 すでに先走っていたのか、塩気を帯びた味がした。
 透明で、粘り気を帯びたキュウコンの体液を吸い出すように搾り出す。
 量はそれほど多くなくても、少しずつカウパー液が溢れ出していた。
 舌先で尿道を突付いたり、転がしていると次第に塩の味が濃くなっていった。
 
 その時、ルクシオは股座に違和感を覚えた。
 刺すような刺激があった。その刺激が一体何なのか、確認する必要もない。
 次の瞬間には咥えていたキュウコンのペニスから口を離す。
 唾液とカウパー液の混ざったものが、ねっとりとした糸となって崩れ落ちた。


「おちんちん触ったらだめっ」
「駄目って言われると、余計に虐めたくなっちゃうぞ」
 振り返るとキュウコンは笑っている。
「一週間も我慢したんだから……。今日はお尻だけでイきたいの」
 そういうと、ペニスに感じていた違和感はなくなった。
 けれど、またすぐに別の違和感に襲われる。今度は臀部だった。
 キュウコンは暇になっている前足でルクシオの臀部に触れると、揉んでみたり、押し広げてみたりしていた。
 割れ目を広げると、小さな穴を目掛けて舌を這わせた。

「ひゃっ……何するの」
「何って、お尻でイきたいんだろ? だから手伝ってやってんの」
「でも、それは、そういう意味じゃなくて……」
「感じてるくせに」
 そういうと、キュウコンはまた舌を這わせる。
 割れ目にそってぺロリと一舐めしているだけなのだが、ルクシオはまた嬌声を上げた。
 その時間はたったの一瞬かも知れない。それでも十分に快楽を感じれるだけの刺激であった。
「駄目だよ、やめてよぅ」
 
「駄目なのか。その割にはおちんちんから、いっぱい汁が出てるけど?」
 そういうとキュウコンは、ルクシオのペニスに前足に触れる。
 軽く触れられただけだというのに、ルクシオは果ててしまいそうだった。
 身体はガクガクと震え、目の前は白く染まっていく。
 このまま溜まった欲情を放ちきってスッキリしたいとも思った。
 もったいなかった。
 久しぶりにキュウコンと契れるというのに、中途半端な快楽に染まってしまうのは嫌だった。
 
 乱れたい。
 気が狂ってしまいそうな程の絶頂を迎えたい。
 初めて経験した、身体と心が溶け出してキュウコンと一つになっているような錯覚に浸りたい。
 
 ルクシオは射精を回避しようと、力なく前へ足を踏み出し、キュウコンの側を離れた。

「おちんちんは絶対だめっ」
「じゃあ、お尻はいいんだな?」

 キュウコンは何も言わず寝そべっていた身体をいきなり翻した。長い九本の尻尾が宙を舞うほどの勢いだった。
 四つん這いになっているルクシオを目掛け、詰め寄る。
 後ろから両前足で捕まえる。それは牝と牡が交尾をするときと同じ体勢だった。
 自然に生きるケモノたちが好む体位。本能の赴くままに性感を貪るのにちょうどいい形。
 先走りで湿り気を帯びたペニスはルクシオの肛門に向けて一気に突き立てられたのだが、うまく繋がれない。
 まだルクシオの身体はキュウコンを受け入れる準備が整っていなかった。
 性的な興奮を覚えていても、挿入されたいと望んでいても、その秘部は解れていない。
 簡単に結合できる状態ではなかった。

 快楽や性的な興奮とは違う。
 ルクシオはひび割れた器一杯に幸せを注がれているような気がした。
 求められる喜びのようなものを感じていた。

「キュウコンってさ、意外とこういう所がかわいいよね。なんか、必死っていうかさ」
「うるさいな、お前だって必死なくせに」

 唐突にルクシオの中へキュウコンが進入してきた。
 さっきまでの嬌声とは違う、苦痛に曇った声がこぼれた。歯軋りの音も聞こえる。痛みが身体の中を駆け巡る。
 やはりまだ万全の状態ではなかった。排泄に使うその器官は、本来は堅く閉じられている。無
 理やりに挿入を試みれば痛いのは当然の結果だった。
 肉球の間が冷や汗で湿り気を帯びていく。
「痛くないか?」
「だ、だいじょうぶ」
「嘘つくなよ。痛そうな顔してる」
 キュウコンはすぐに結合を解くと、悲しげな目つきでルクシオを抱きしめた。
「ごめん。痛くするつもりは無かったんだ。久しぶりだったから、つい興奮しちゃって」
   
「痛くして欲しい。ねぇ、だめ? 痛くしてくれないと……」 
 ――愛されてるって思えない
 ルクシオは、はっとした。それは言ってはいけない言葉なのだ。
 頭では理解していた。
 初めて身体を重ねたときのことをキュウコンは反省している。
 否定の意思を聞くことなく自らの快楽に走ってしまったことを深く後悔しているのも知っている。 
 その言葉はこの世界のどんな言葉よりも残酷に響くのだと知っている。
 だというのに喉元まで飛び出している。
 キュウコンは答えなかった。
 ただ、前足に力を入れて、ルクシオを固く抱きしめるばかりだった。

 ルクシオは複雑な気持ちだった。こういう何気ない間や、抱きしめられている瞬間は嫌いではない。
 むしろ好ましい。 
 だからと言って、一度火照りだした身体はそう簡単に静まることはない。
 キュウコンは何気なく抱きしめているだけ、と気付いていても興奮が冷めたり変質したりはしない。
 鬱積した欲情が思考を乱だしていく一方だった。
「責任とか、感じてるの?」
「ああ、悪かったとは思ってる」
「悪かったと思ってるのに、こういう事してるのって変じゃない?」
 キュウコンはそれ以上は答えようとしない。
 
 じれったく感じた。

 ルクシオは振り返りざまにキュウコンの唇を奪う。
 自分で考えても異常な行動。
 確かにその場所にはキュウコンがいて口付けを拒むことなく受け入れてくれる。
 微笑みかえると、微笑み返してくれる。息をするたびに身体が強く密着する感覚。
 感じる鼓動。温もり。
 不道徳を拭うことは出来なくとも、それを嫌だとは思わなかった。恥ずかしいとも思わない
 
「いまさら、責任なんて感じないでよ」
「いや、でも――」
「キュウコンのせいなんだからね。責任、とってよ」


 キュウコンはゆっくりと陰茎をルクシオの中に埋没させていく。
 後ろから身体を包み込み、少しでも奥深くに挿入できるよう腰を持ち上げた。
 粘膜同士が擦れ合う。
 どちらも卑猥な液体を絡ませ、粘り気の爆ぜる音を漂わせながら、ゆっくりと往復運動をする。
 お互いに尻尾を結び合わせる。
 ルクシオの首筋に牙を宛がうと低い唸り声のようなものを上げながら、小さな声でルクシオに話しかけた。

「お前、本当に俺のこと、好きか?」
「好きだよ、大好き」
 対して、ルクシオは身体を弓なりに逸らしながら漏れ出す声をかみ殺すのに必死だった。
 時たま、意思に反して甲高い声が響いた。
 目を固く瞑る。牙と牙の間からだらしなく涎をながしている。 
 それまで焦らされていた分だけ、感じる快感は大きいものだった。

「ごめん、もう……」
 キュウコンは腰を速く振り出す。溜まりすぎた射精欲は、ほんの僅かな時間で解消されてしまう。
 身体のぶつかり合う音や、蒸れた息遣いが部屋に満ち溢れ始める。
 始まって二分と経たないうちに、キュウコンは精液を放っていた。


ご意見、ご感想なんでもどうぞ

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • GJ!!
    ―― 2010-09-01 (水) 02:25:21
  • Many Thanks!!!
    ――柘榴石 2010-09-02 (木) 23:38:30
お名前:

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Last-modified: 2010-08-31 (火) 00:00:00
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