空蝉
「十年の上に重なる一日目」というジュカイン(♂)×人間(♂)のバカップルな短編のおまけ的小ネタ。そっちを読まなくても全然事足りるぐらいしょーもない話です。
「なぁ、ブリッジー」
「んー、なんだ?」
どこか間延びしたやりとり。
久々の休暇をもらって暢気に朝寝坊をしていた一人の青年と、ブリッジという名のジュカイン一匹が、いつもより少し手の込んだブランチをつつきながら向き合っている。
「おまえの精液くれよ」
「……ぶっ」
思いっきり茶を吹いた。
「うわ、きったね!何吹いてんだよ馬鹿だなぁ」
「なななな何をいきなりお前前前はあぁぁッ!」
「吹いた茶を返せとか言うなよ?」
「言うかボゲェ!」
ブリッジのパートナーであるこの人間───ヒロが驚異的な天然キャラで、こんなふうに爆弾発言をかますのはもういつものことだったが、その都度ご丁寧にナイスなリアクションをしてしまう自分をブリッジは何だか情けなく思う。
「……いつもお前の尻に入れてやってるだろうが」
呆れたように返すブリッジの台詞もまた爆弾かもしれないが、これが二人のペースだった。
「あはは、うん、そう。───じゃなくてー。お前の子供作ろうと思ってさ」
「はぁ!?」
「お前の身体能力がどんなふうに遺伝するのか研究してみたい。なぁいいだろ?」
「……」
研究材料にしたいのか。やっと話の辻褄は合ったものの、ヒロの言葉を頭の中で咀嚼しながらしばらくブリッジは黙っていた。その表情はどことなく険しい。
「イヤだ」
「えー何で?生まれた子供はちゃんと俺が責任持って可愛がって育ててやるからさぁ。研究ってのも目的だけど、俺お前の子供欲しいよ」
「……だからダメなんだ」
「?」
ヒロはきょとんと首を傾げる。
ブリッジは、はぁーと大きな溜息をついた。
「俺のガキだったら、間違いなくお前に惚れる。だからダメだ」
「……えーと、そーゆーのが心配なわけ?」
俺はお前以外のポケモンには興味ないけどなぁ、などとヒロはブツブツぼやいている。
脳天気なパートナーに、ブリッジは苦虫をかみ潰したような顔をして言った。
「じゃあ聞くが、仮に俺のガキの頃そっくりなキモリが目の前に現れたとして、お前どうする?」
そう問われて、ヒロはうっと詰まる。
そして僅かに頬が赤らんだかと思うと、へらっと気の抜けた顔で目尻を下げた。
「うぉ、俺ちょっと我慢できないかも」
「ほ ら み ろ」
予想していたとは言え……我がパートナーながら何て誠意のない男なんだとブリッジは肩を落とす。
「言っておくが、男を取り合って我が子と本気バトルする父親にはなりたくないからな、俺は」
「ブリッジって意外と独占欲強い質なんだな」
ヒロが興味津々な目で見つめてくる。
何を今更、とブリッジは思う。今までどれだけヒロの恋路を邪魔してやったことか。肝心のヒロ自身が全くそれに気付いていないのだから、頑張ったところで何とも虚しいのだが。
「お前にガッつくのは俺だけでいい」
そんな所有宣言が当然のように口に出るほど。
ヒロを独占したい。
ヒロの情愛を誰かと分け合うなんて考えられない。たとえそれが血を分けた我が子であっても。
「でも俺はー、お前そっくりのキモリも入れた3Pでもいいかなぁ、なんて。あはは」
「いっぺん死んでくる?」
ああ……なんでこんな奴にベタ惚れなんだろう。俺は馬鹿か?
馬鹿なのは作者です○| ̄|_
空蝉
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