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何度生まれ変わっても君のもとへ走ってゆく

/何度生まれ変わっても君のもとへ走ってゆく




著:朱烏






「大丈夫……だよ。だって私、神様……だもん」
 病気に蝕まれ日に日にやつれていく彼女を見るのはただでさえ苦しいのに、ついぞ言動までおかしくなった。彼女の惨状を前にして気を確かに持たねばと思っても、どのような返事が正解なのかもわからない。
 ――彼女と俺は同じ姿をした三つ首の竜で、間違っても神などではなかった。
「私は……ノウル君のほうが心配だな。またしばらくの間、独りぼっちに……なっちゃう」
 死に際に俺の心配をするなと思う。心配させる俺が不甲斐ないのかもしれないが、それでも。
「もう喋るな。寝るぞ」
 俺は彼女に密着するように横たわり、翼を彼女の弱った体に覆い被せた。
「ノウル君は……優しいね」
「もう喋るなと言っただろう」
 ふたりの棲み処である岩肌のうろに入りこむ月の光が、彼女を淡く照らす。その紅い両眼は白く濁っていて、せっかくサザンドラに進化して見えるようになった景色は、とうの昔に奪われてしまっていた。
 夜半の空を見上げ、一緒に無数の星を数えるのが好きだった。
 もう叶わないのが、無性に悲しい。
 艶があったはずの灰色の毛皮はまだらになり、うろこはひび割れて乾ききっている。
「おやすみ、ノウル君」
「……ああ、おやすみ、レーネ」
 今夜が峠かもしれないと予感する。だからといって、特別な施しを彼女に与えられるわけでもない。気の利いた言葉はもとより持ち合わせていないし、あれこれ考える間に彼女はもう寝息を立てていた。
 月明かりに背を向けるように、眠りにつく。目を瞑るのが怖いと感じたのはこれが初めてだった。
 翌朝、レーネは事切れていた。涙は出なかった。いずれ来るであろう日が今日だったまでだ。
 ただ、そうは言っても、彼女の顔に触れると恐ろしいほど冷えきっていて、死というものに否が応でも対面させられた。
 放っておいたらすぐさま死肉は腐るだろう。成り行き任せで結ばれた番といえども、そのような姿は見たくない。
 俺はレーネの亡骸を埋葬する場所を探しに、うろから飛び立った。







何度生まれ変わっても君のもとへ走ってゆく






 レーネとの出会いは十数年前に遡る。
 その頃の俺は独りぼっちだった。親はおらず、友達もいない。棲み処であった殺風景な丘は、ときどき迷惑な嵐がやってきては荒れ果ててしまうような厳しい環境で、ときおり迷い込んで来る小さなポケモンを狩っては飢えをしのぐ生活をしていた。
 生きる場を移そうにも、物の見えない中で遠くへ行くことなどできないし、自分より強いポケモンがいたら狩られてしまう。辛うじて生き延びている中、さらにもう一歩を踏み出す勇気はなく、結局は嵐が丘での苦しい生活に甘んじていた。
 なんとか、最終進化まで辿りつくことができれば。その思いだけでその日その日を生き抜いている。
 空を舞い、自由に狩りをし、存分に生を謳歌できるサザンドラの姿となるまでは、苦境を耐え抜いてみせよう。
「あら、珍しい」
 声と、頭上に重低音のはばたきが響いた。
(狩られるっ!)
 緊張がびりりと背に走り、即座に身を低くして走った。油断しているとときどき猛禽ポケモンに狙われる。一度死にかけたこともあったが、反撃がたまたま急所に命中し事なきを得た。
 しかし今回はまずい。
(デカい……! 追いつかれ……!?)
「待って、逃げないで!」
「うぐぇっ!」
 宙からのしかかられ、組み伏せられた。五秒ともたなかった。感触は、猛禽のそれではない。重量感が異なる。
 逃げるにはそれはあまりにも重すぎた。首に上から手がかけられており、振り向いて反撃するのも不可能だ。
 嗚呼。俺はジヘッドにすら進化できないまま短命に終わるのか。
「あー、ごめんね。別に食べようとしてるわけじゃ……いや別の意味で食べるかもだけど……とにかくあなたに危害を加えるつもりはない安心して」
「……だったら早くどけよ」
 震えながら虚勢を張る。見えない相手の言うことなど信じられるわけがなく、油断したところをがぶりとやる算段だろうと思った。ならばせめて一矢報いよう。背中からどいた瞬間振り向きざまに竜の波動を撃ってやる。
 しかしいつまでたっても背中の重しは外れない。それどころか、温い鼻息が吹きかかってくるぐらいに、顔と顔が近づけられる。その長い首は俺の首をもたげ、いよいよもって逃げることのできない体勢にさせられていた。
「私の言うことを聞いてくれたらどいてあげる」
「……聞かなかったら?」
「今日の私の餌になってもらおうかな」
 弱者に選択肢は与えられないのだと痛感した。生に固執するなら大人しく言うことを聞くほかない。餌にされるより酷い目には遭わないだろう。
「聞いてほしいことってなんだよ」
 俺は腹をくくった。もうどうにでもなれ。
「私と番になってほしいの」
「……ツガイ?」
 言葉の意味がわからなかった。
「ツガイってなんだ」
「そっか、まだ知らないんだね」
 その声音になぜか苛立ちを覚えた。憐れみに似た嘲り。
「いいよ。これからゆっくりと教えてあげる」
 太い腕でがっしりと抱えられると、そのまま急上昇した。反駁する暇もなかった。目が見えずとも、落ちたらただでは済まないほど高所に連れ去られたことはわかる。
「私の棲み処に行こうね」
 今さら、俺を拉致したこいつが雌だと知った。匂いや触感が雄のそれとはどうも違う。
「何でもいいから早く終わらせろよ……」
「君のそういう自分の立場を全然わかってなさそうなとこ、ちょっと好きだな」
 気味の悪い台詞にぞっとする。これから何をされるのか、このまま暴れて滑り落ちて死んだ方がマシなのではないかと、小さい脳みそで思い詰めた。

 その夜、俺は三つのことを知った。
 一つ目は、彼女が俺の最終進化先であること。二つ目は、ツガイというものがどういうものであるかということ。三つ目は、「食う」という単語にはもう一つの意味があること。
 吹けば飛ぶような小さな存在の俺は、大きな彼女に美味しく頂かれた。

 イカれた話だ。当時こっちはまだ体も心も未成熟な未進化体で、あっちは十分に成熟した最終進化体だ。傍から見れば明らかにいびつな番で、成り立ちも彼女が俺を手籠めにするという過程を経たものだからやはり狂っている。
 だが、死の瀬戸際をギリギリで渡ってきた俺にとって、食物連鎖の最上位を頂く彼女がそばにいることはこの上なく価値があることだった。
 そんな打算的な思いもあり、俺はこの凸凹な関係を受け入れた。


 レーネの遺骸を、竜の波動で撃ち抜いた穴の中に横たえて、せっせと土を被せた。
 彼女と番として過ごした時間はおおよそ十数年だが、結局こちらに恋愛感情が芽生えるようなことはなかった。
 逆にレーネはこちらが辟易するほどに好きだという感情をぶつけてきた。気を抜けばすぐに抱擁してくるし、振り払おうとしても力が強いので叶わなかった。これは俺がサザンドラへと進化してわかったことだが、彼女は単純に強かった。病に臥すまで俺がレーネに力で勝てたことは一度もない。
 ただ、長期間一緒に過ごせば情は生まれるもので、妙な抱きつき癖もそのうち受け入れられるようになった。俺にあれこれと世話を焼くレーネに対し、俺は彼女に何一つとして返してこなかったのだから、その程度は受け入れないと罰が当たるとも思ったのも確かだ。
「いろいろ振り回されたが、終わるとあっけないな」
 ここまでの生に大きな比重が割かれていた存在がぽっかりと抜け落ちた。これからどう生きるのか。新たな番を探すか、レーネと出会う前のような生活に戻るのか。
「……まあ、なるようになるだろう」
 俺はもう弱くない。命を脅かされる心配もない。
 これから二百年、三百年と生きていくうちのちょっとした退屈な期間を、狩りをしつつ、想いを巡らせながら生きていくだけだ。

 何も恐れる必要はない。


  ◆


 季節が五周廻った。その間俺はずっと独りで生きていた。番探しは長続きしなかった。どこを探しても同族は見当たらないし、ドラゴンポケモンすらほとんど出会わなかった。レーネが未成熟だった俺を番に選んだ理由がわかった気がした。結果として子を成すことはなかったので、俺を選んだのは失敗だったのかもしれないが。
 今度の冬はうろこの内側が凍りそうなほど寒かった。秋に十分な蓄えはできず、かといってこの寒さに弱い竜がこの気候で狩りに繰り出すのは自殺行為に等しい。
 俺はレーネが死んだ後も棲み処は変えなかった。慣れ親しんだうろの中で、眠りと半覚醒を延々と繰り返す。春まで凌ぎきれるか、耐えられずに命の灯火が消えるのか。
 正直なところ、どちらに転んでもよかった。生への執着は、モノズだった頃と比較すると嘘のように潰えていた。
 レーネがいなくなってからの五年間は、思いのほか味気なかった。長らく彼女の庇護を受けていた影響か、俺の中に煮えたぎっていたギラギラとしたものはだんだんと冷めていって、いつの間にか溶けて消えていた。
 レーネと出会わず孤独を貫いていたほうが、もっと血潮を熱くさせながら生きられたのではないかと思う。
「今さら……か」
 難しいことを考えるのはやめた。まどろみ、うつらうつらと、意識が沈んだり浮かんだり、そうやって冷たい時間を浮遊しながら空腹に耐える。
「……ウル……ノ……君……」
 夢を見ている。誰かが誰かを呼ぶ声がする。
「……君……ノウル君」
 すっかり忘れていた自分の名前だった。誰かが呼んでいる。いや、誰かじゃない。俺の名前を知っているのはレーネただひとりだ。
「レーネ……」
 深い霧の中にサザンドラの姿を見つけようとするが、声がするだけで一向に見えない。
 さまざまな角度から反響した声が、俺の体を包み込む。心地がよい。
「ノウル君、死んじゃダメ! これ食べて!」
 口に何かが押し込まれた。反射的にそれを噛むと、血と、毛皮と、そして肉の味がした。
 驚いて目を開ける。
「誰だ……?」
 見知らぬ顔。淡黄色と褐色のしましま。やたらと長い胴。円い漆黒の瞳。
「良かった……コラッタ持ってきて正解だったよ」
 このうろにわざわざ入ってくる阿呆はいない。俺の餌になるからだ。
 オオタチ。しっかりと肥えている。狩りの対象。
 不意に食べた肉のせいで、意識外だった空腹が急激に増幅した。
「きゃっ」
 自分でも驚くほど機敏に動けた。目の前のご馳走にありつくべく、一瞬で組み伏せ、口を大きく開けた。
「待ってノウル君! 食べないで!」
 はたと、甦った生存本能に曇った理性が、咬みつかんとする体の動きを止めた。
「なんで……俺の名前を知っている」
 そうだ。こいつはずっと俺の名前を呼んでいた。レーネしか知らないはずの俺の名前を。
「私が名付けたんだもん。知ってるに決まってるでしょ」
 まだ、夢を見ているのかもしれない。だから、面識の一切ないオオタチが狂ったことを言いだしても何も不思議はない。
「ノウル君、私、レーネだよ」
 ――ほら、やはり狂っている。
「ノウル君!? しっかり……」
 半冬眠状態で極端に血の巡りが遅くなっていた体が、急に動きだせばどうなるかは想像に容易い。
 俺はばったりと倒れ、それから三日三晩動かなかったらしい。


  ◆


 オオタチは大量のコラッタを俺の前に並べた。俺は訝しがりながら、この季節には滅多にありつけないような肉を貪った。
 しかしどうにもコラッタよりも眼前のしま模様のほうが美味そうに見える。腹だって膨れるだろう。だがオオタチの目配せは猶予を請うようでもあったし、貴重な食糧を無下にするのも気が引けた。
 それに、聞き間違いじゃなければ、このオオタチはレーネを名乗っている。
「で、お前は何なんだ」
 肉をゆっくりと咀嚼しながら問う。
「何なんだって、酷いなあ。十五年連れ添った仲じゃない」
「お前のようなオオタチは知らん」
「生まれ変わったんだもん。姿は変わっちゃったけど、私、レーネだよ。ノウル君ならわかるでしょ?」
「……何もわからん」
 頭が痛い。生まれ変わった? 五年前に死んだレーネが?
 ありえないだろう、そんなこと。信じるほうがどうかしてる。
 だが、喋り方も、雰囲気も、なんとなく似ている気がする。
 何よりも、俺の名前を知っている。『ノウル』は、孤児(みなしご)ゆえに名前のなかった俺にレーネが付けたものだ。そして俺はレーネ以外とまともな交流を持たなかったし、レーネも同じようなものだったから、俺の名前を知るのはレーネ以外にいなかった。
「信じてくれないの?」
 肉の味が感じられない。まだ夢の中に迷い込んでいるような感覚だ。
「……絶対にレーネしか知らないような俺の何かを言ってみせたら、ちょっとは信じるかもしれないな」
 名前のことも、わざわざ俺の棲み処に餌をもってきたことも、考えれば考えるほど結論は一つしかないことに気づかされる。だから、この問いはほぼ無意味だった。
「……ちょっと恥ずかしいけど」
 ややあって、オオタチはもじもじと体をくねらせた。恥ずかしい?
「これくらいでしょ?」
 オオタチは己の長い尻尾を抱きかかえるようにして俺の前に持ってくる。尻尾の中ほどをぎゅっと締めて、尻尾の先までの長さを示すようにした。
「……何だ?」
「ノウル君のちんちんの大きさ」
 俺は咀嚼していたコラッタの肉を噴きだした。岩壁に血と肉がべったりとこびりつく。
「食事中に下品な話をするなといつも言ってるだろ!」
「えへへ、ごめんね」
 忘却の彼方に置き去りにしていた思い出。懐かしいやりとり。
 降参するしかない。こいつは間違いなくレーネだ。
「俺が好きな肉とかきのみとか、そういうのでよかっただろ……なんで(シモ)の話なんだ」
「こっちのほうがわかってもらえるかなって」
 その通りだった。レーネの品のなさは俺が誰よりも理解している。
「また会えてよかったあ」
 彼女は俺が折れたと見るなり、安心したように笑った。


  ◆


「だって私、神様だもん」
 転生の謎を何度問いただしても、レーネから返ってくる答えは決まってこれだった。
 オオタチがレーネであることは認めざるをえないが、やはり納得のできない部分は多かった。
「それを知ることってそんなに大事? 私はどんな形でもノウル君のそばにいれることのほうがずっと大事だな。ノウル君はどう?」
 一度目のレーネが死んだ後に感じていた空虚な気持ちは、二度目のレーネの存在により少しずつ埋まっていった。

 雪解けの季節が来る。半分凍っていて萎びていた俺の体は、徐々に本来の竜としての威厳を取り戻していた。
「見て見て! 今日はお日様が元気みたい!」
 うろにぎらぎらと差し込む朝陽。俺は眩しさに目を細め、もう少し寝かせてくれと奥に引っ込もうとしたが、レーネに強引に連れだされる。
 レーネのはしゃぎようはまるで子供のようだった。何者も犯しがたい無邪気さがある。そのくせ、幼かった俺に究極の二択を躊躇なく押しつけられるような残酷さも持ち合わせている。
 レーネの振る舞いの身勝手さは、確かに下民を振り回す神のようだった。
「本当はさ、ノウル君の姿を一目見たらそれで終わりにしようって思ってんだ」
 俊敏かつ洗練された動きでコラッタを追い詰めるレーネは、そんなことを言った。俺は空中からレーネを追いかける。
「ノウル君、ドライだし。私が死んだらすぐに別の番を作ってそうだなって思ってたから」
 牙がコラッタの首に食い込んだ。
「けど、ノウル君って私が思った以上に不器用だったんだね」
 レーネが俺のもとに仕留めたコラッタを持ってきた。
「凍死しかけるほど生きるのが下手だとは思わなかったな」
「ほっとけよ。別にあのまま死んでも良かったんだ」
「私は大好きなノウル君に死んでほしくないよ」
 レーネが咥えているコラッタの瞳に光は宿っていない。吸い込まれそうな深い虚ろの黒。俺もあのまま死んでいたらこんな味気ない物体へと変貌していたのかもしれないと思う。
 だが、一度目のレーネの死骸は果たしてこのようなものだったか。違うような気もする。うまく思いだせない。きちんと顧みぬまま、土の中に埋めてしまった。
 どうしてだろう。
「おーい、ノウル君大丈夫? 早く食べなよ」
 コラッタを口に突っ込まれて、放心状態から引き戻された。
「これはレーネの分だろ。俺は自分で狩れる」
 レーネはぽかんと口を開けて驚く素振りを見せると、突然ぽろぽろと泣きだした。
「う、嘘だろ……なんで泣くんだよ」
「ノウル君……私が死んでからたくましくなったね……。あれだけ狩りが下手っぴだったのに……」
 俺はげんなりする。それはレーネが過保護すぎていつも俺の分まで餌を獲ってくるから、俺の狩りの技術が成長しなかっただけだ。
 レーネは俺のことを好きだ好きだと言うけれど、実のところそれは恋愛感情から来るものではなく、母親が息子を見守るときのそれではないかと疑念を抱く。
「山に行ってくる」
 レーネの傍にいると心が乱れて仕方がない。
「私も行く!」
「ついてくるな。ちょっとコラッタ以外のものを探しにいくだけだ」
 このままでは親の目線で狩りを品評されるのがオチだ。どうせ俺のがさつなやり方に文句をつけるに決まっている。
 俺はむしゃくしゃしたまま、レーネから逃げるようにその場を後にした。

 結論から言えば、狩りは失敗した。大きめの食べ応えのありそうなポケモンにはすべて逃げられ、コラッタを辛うじて数匹捕らえただけだった。
「疲れた。寝る」
 陽も落ち、傷心した俺は体を横にした。すると、すかさずレーネが俺の胸元に体を滑り込ませてくる。背を向けて寝たはずなのにいつの間にか回り込まれていた。
「えへへ、ノウル君のふかふかした毛皮、暖かいなあ」
「そりゃよかったな」
 オオタチの形状は抱くのに心地がいい。それだけは認める。なんでオオタチなんかに生まれ変わったのかと思ったが、俺の抱き枕になるためであるならば、妥当だろうと思う。
 しかし、今宵のレーネはやたらもぞもぞと動く。
「あんまり動くなよ。寝れないだろ」
 腹や下半身に尻尾の先が振れて回るので、こそばゆくてしかたがない。
「ノウル君……もう出会って三か月経つよ?」
「そうだな」
 十五年も連れ添った仲なので、レーネが言わんとしていることはわかる。尻尾が誘うように俺の腹の上をうねる。
「勘弁してくれ。タマゴグループが違うやつをそんな目で見れねえよ」
「えー。前は毎日してたじゃない」
「そりゃ誰かさんの性欲に毎日付き合わされてただけだっての」
 そんなにしたかったらここを出て他の雄を誘えばいいと言った。俺は今さらレーネが誰と寝ようと気にしない。
「……私がしたいのはノウル君だけだもん」
 怒っている気がする。そりゃそうだ。無神経なことを言ったのだから。だが俺は不器用だ。レーネに己を譲歩できるほど器は大きくないし、二度目の生でも俺に付きまとうことに決めたのも他ならぬレーネだ。
 俺は抱き枕に無視を決め込んで、目をきつく閉じた。


 それ以降も、レーネは俺にべったりだった。これほど俺に一途なのは、ある意味で可哀そうだと思った。
「ノウル君は私のことそこまで好きでもないんでしょ?」
 何度目かの冬。外は猛吹雪で、うろの中に引きこもり互いに惰眠を貪ったり無為に覚醒したりする中、レーネはそのようなことを言った。
「ああ」
 一度目のレーネにも、今のレーネにも、恋はしていない。ただし、情は通っている。確認する必要のない、互いの共通認識だ。
「私はノウル君のことが大好きだから今の生活が気に入っているけど、ノウル君は別の番を探そうとしないの? 子供が欲しいとか思わないの?」
「……あの後しばらくして、探したこともあった。けど、すぐに飽きて止めた」
「そっか」
「だいたいお前以上の雌なんてそうそういねえと思うし、適当な雌で妥協すんのは俺には無理だったって話だ」
「えへへ、ノウル君に褒められちゃった」
 レーネが嬉しそうに尻尾を振る。まったく上等ではない褒め方をここまで喜べるものかと、俺は素直に感心した。
「やっぱりノウル君のとこに来て正解だったなあ」
 レーネは、いつでも幸せそうだ。愛情を与えることを知らない俺の傍にいていいことなど何一つとしてないように思うが、レーネが問題ないと思っているのならそれでいいと思った。


 一度だけ、大きな喧嘩をしたことがあった。
「棲み処を変える」
「なんで?」
「最近餌が減ってきただろ。お前もちょっと痩せ細ってきたし。ここで俺たちが生きていくのはだんだん難しくなっていくだろう」
 環境など容易く変わる。俺はここに根ざしてかなりの長い時間が経ったが、いよいよ限界が近づいていると感じていた。
「どこに行くの?」
「丘を下りて、山から離れようと思う」
 レーネの表情が険しくなった。ほとんど見たことのない表情だった。
「それは……だめ。ノウル君はここを離れちゃだめだよ」
「なんでだ」
「なんでも」
「答えになってないぞ」
「とにかくだめ」
 押し問答。レーネははぐらかすときは徹底的にはぐらかす。神を自称する理由もついぞ教えてもらえない。もっとも、最近はめっきりそんなことは言わなくなったが。
「意味がわからねえな。このままじゃ近いうちに俺もレーネも飢え死にするぞ」
「そんなことは起こらないよ。ノウル君、ちょっと神経質すぎるんじゃない? いつも無神経なくせに」
 レーネの毛が逆立ち、俺に牙を見せる。威嚇の姿勢だった。
「絶対に行かせないからね」
 鬼気迫る。俺も頭に血が上って躍起になる。
「あんまり俺を怒らせるなよ」
 悪の波動のエネルギーを溜める。俺は生まれて初めて、パートナーを攻撃しようとしている。
 心の中の冷静な自分が、明らかに間違っている行為を制そうとしてくるが、俺はお構いなしに打ち出した。
 向かってくるレーネは間一髪で身をひるがえしてかわし、なおも俺に突進してくる。
「ノウル君のわからず屋!」
 腹部に思いのほか強い衝撃が走った。しかし、受け止められないほどではない。俺は飛び込んできたレーネの体を乱暴に掴むと、そのまま地面に叩きつけた。
 決して本気ではない。力加減を間違えれば命を奪いかねない。
 それでも、その一撃でレーネは動かなくなってしまった。一度目のレーネの強さが嘘のように、今のレーネは弱かった。それは種族の違いゆえかもしれないし、単純な個体差かもしれなかった。
「……レーネ?」
 頭が冷える。もしや、取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。
「レーネ!」
 ああ、そうだ。昔も、何か理由をつけて丘を下りようとしたときに、レーネに止められた。理由を問うても、明瞭な答えは得られなかった。
 ただ、サザンドラの生きていける場所は限られる。俺もレーネもサザンドラである以上はこの場所を離れるのは難しいと言った。
 俺はまったく納得しなかった。最終進化まで登り詰めた竜は強いのだから、どこに行こうと天敵はいないし、餌さえ獲れれば何も問題はないと思った。
 だが、レーネが悲しい顔をしたから――そしてサザンドラとして長く生きているのはレーネのほうだったから、俺は渋々従った。言いつけはレーネの死後も律儀に守った。
「ノウ……ル君」
 俺は安堵した。レーネの息はある。
「ごめん、レーネ。酷いことをした」
「ここを……離れちゃダメだよ……。ここ以外じゃ……ノウル君は……」
 うわ言を呟くレーネに俺は悄然として、ゆっくりと抱きかかえる。そのまま、棲み処のうろへと連れて帰り、寝かせてやった。
 大喧嘩はその一度きりで、俺が折れることで収められた。




 さらに季節は何度も廻る。互いに歳を取る。
 俺の見た目はほとんど変わっていない。だがレーネはどんどん萎れていく。
 俺は三百年生きるが、レーネは違う。寿命は俺よりもずっと短い。致し方ないことだった。
「ノウル君は……優しいね」
 以前も、死期が近いレーネが同じ台詞を口にしていた。
「私、もう……ぼろぼろのおばあちゃんなのに……ずっとそばにいてくれるんだもの」
 ゆっくりと、噛みしめるように言う。俺は、果たしてそれは優しいという定義に含まれるのかと疑問に思う。
「お願いが……あるの」
「なんだ」
 ずっとレーネにべったりとくっつかれ、振り回されてきた俺だ。頼みの一つや二つ聞くぐらい、朝飯前だ。
「次も生まれ変わったら……ノウル君のところに来てもいい?」
「……生まれ変われたらな」
 今回のことは、奇跡だろうと思う。奇跡に二度目はないだろう。
「あ、でも……もし私がいないうちに……いい女の子を見つけたら……邪魔するつもりはないから、安心してね」
「……お気遣いどうも」
 夜が明けるころには、また俺は独りぼっちに戻る。それが束の間なのか、死ぬまで続くのか。
 いずれにせよ、レーネのいない生活はつまらないものになるという確信だけはあった。
「ノウル君……おやすみなさい」
「……おやすみ」
 本当は、まだ起きていてほしい。だが、死にゆく老体に願うには酷だ。
 二度目のレーネが終わる。俺は深く長い溜息をついた。


  ◆


 いつまで経っても、新しいレーネを見ることはなかった。
 奇跡は一度起きたら終いだ。レーネがどんなにすごい神であろうと、この世の理を捻じ曲げることはそう何度もできないということだ。
 独りぼっちはまったくつまらない。番探しは一応してみたものの、成果は上がらなかった。
 この辺りの餌も、徐々に少なくなっているように思えた。ここ十年の冬は特段厳しいわけではなかったから、なんとか乗り切ることができた。しかし、蓄えることが困難になってきている折に、この世界すべてを凍てつかせるような厳冬がやってきたら、今度こそ命が終わる。
「いい加減、約束は破ってもいいよな」
 朧なレーネの像は、肯定とも否定とも取れるような表情をする。頭の中に描かれた都合のいい幻像。もう、彼女の姿をはっきりと思いだすことも難しくなった。六片の翼の美しさはいかほどだっただろうか。長い尻尾の縞の数はいくつだっただろうか。
「じゃあな、レーネ」
 一度目のレーネと二度目のレーネが眠る嵐が丘を後にする。
 そして俺は、レーネの忠告の真の意味を知ることとなった。

 
  ◆


 生まれてこの方、嵐が丘とその周辺から出たことはない。
 その狭い見識だけで充分に生きていけるとレーネは言う。だが、どんなものにも限界は来る。神様はそれを知らない。
 丘を下りると、だんだんと見たことのないものが増えてくる。
 知らないポケモン。知らない建造物。それから――ポケモンとは異なる生き物。
 二足歩行で、頭部にのみ毛が生えている。餌になりうるかと考えたが、それよりも不味そうだという感想が先に立った。
 とかく、嵐が丘よりも何もかもが豊富にあった。餌にも困らなそうだ。
 空から地上の様子を観察する。奇妙な二足歩行が何匹か俺のほうを見て指さしている。
 一通りふもとを巡ると、興味深いものを見つけた、広い草原が柵で囲われていて、その中に大量のポケモンが草を食んでいる。どいつもこいつも気性は大人しそうで、肉も脂肪もしっかりと蓄えられているように見える。
「ご馳走だらけだ」
 涎が止まらない。嵐が丘でみみっちい体躯のポケモンばかり狩っていて、食事はそういうものが当然であると思い込んでいたが、一たび嵐が丘を離れてみればこんなに素晴らしい餌たちが闊歩している。
 どうだ、レーネ。お前は間違っていた。生きていたならば、狩ったこいつらの肉をお前に食わせてやれたのに。
 俺は、呑気に草原を歩いているポケモンたちに突っ込んだ。
 異常事態を感知したポケモンが、転がりながら逃げる。なるほど、丸くかさばった体毛はそのようにして使うのか。
 しかし、遅い。俺の速度からは到底逃げ切れない。弱い草食動物が竜に敵うものか。
 断末魔の悲鳴。俺は止まらぬ食欲を満たすように、その群れを食い荒らした。
 今まで嵐が丘で飢えを恐れながら生きていたのが馬鹿みたいだ。
 美味い。血が。肉が。すべてを食べ尽くしたい。どれだけ食べても、まだまだ腹に収まりそうだ。
 ここは天国だ。レーネも早くここに来るといい。生まれ変わったら、この天国を味わわせてやれるのに。
 足りない。足りない。まだまだ食べられる。胃袋がすぐに空になる。羊ども、もっと俺の食欲を満たせ。
「パルスワン、氷の牙! ムーランド、じゃれつく!」
 頭の中が食欲に支配されていると、襲い来る脅威に気づけない。
 羊の返り血にまみれていた俺は、犬どもの攻撃をまともに喰らった。首に凍てつく牙が食い込み、腹に妖精の力をまとった乱暴な蹴りが入る。的確な効果抜群の技に、俺は地に沈んだ。
「くそ、なんてこった……! ウールーたちが……! この害竜め! 俺のウールーたちをよくも!」
 頭を蹴られる。口の中が切れた。牙が折れる。妙な二足歩行は、黄色い犬と毛深い犬に、俺を押さえつけるよう指示した。
 こいつ、ポケモンを使役しているのか。
「最近は出ないと思っていたのに、油断していたらこれだ! くそったれ! ……人間様に喧嘩を売るとどうなるか、目に物を見せてやる」
 人間。何よりも恐ろしい存在だと、心と体に深く刻み込まれる。うろこが剥がれるほど苛烈に苛め抜かれた俺は、反撃する気力も体力も完全に失った。

  ◆

 牧場の端に置かれていた鉄製の頑丈な檻に、乱暴に押し詰められる。厳重に錠を掛けられ、俺は篭の中の竜となった。
 縄で括られた六片の翼と、後ろ手で縛られた両腕。針を打ち込まれ何かが体に注入された。意識が混濁し、視界は黄ばんでいる。
「最近牧場を荒らしまわっていたのはこいつか。なんとも醜く、禍々しい」
「左様で。鎮静剤を打ち込んだので、もう暴れる心配はありません。明日にでも殺処分する予定です。損害は大きかったですが、これで牧場主たちもポケモンも安心するでしょう」
「今日にでも処分できないのか」
「生憎今日すぐに受け入れてくれるような屠殺場がありませんでした。まあ、竜の肉は高値が付きますし、多少なりとも被害の補填はできましょう」
 背の低い偉ぶった人間と、背の高い若そうな人間が、物騒な言葉を交わしている。
 殺されるのか、俺は。ただ餌を食ってただけなのに。もしかしてあの野放しになっている草食ポケモンは俺のような肉食の竜を捕えるための罠だったのか。
 レーネの忠告の意味がようやくわかった気がする。嵐が丘から下りればそこは人間とかいうやつらの領分。人間は強者であり、そこで暴れればたちまち自分は弱者へと陥れられて排除される。
 柵の中のポケモンを見たとき、食欲がどうしようもなく溢れ出た。今まで押し込められていたような本能が剥き出しになって、まるで理性という蓋が初めから存在していないかのようだった。
 人間と夕陽が去って、俺は涙を流していた。それは痛みや悔しさや、死の恐怖から来たものではない。今の自分には誰も味方になってくれないのだという、味わったことのない孤独の極致が、どうしようもなく自分を悲しい気持ちにさせていた。

 泣き疲れて眠り、起きたのは夜更けだった。底冷えする夜の風が傷に滲みる。大きな満月は、間抜けな俺を嘲笑うかのように煌々と見下ろしていた。
 朝には、俺は屠殺場に送られるらしい。冷たい夜半、死を待つ時間というのはどのように過ごすのがよいのか、そればかりを考えていた。
 まだ舌にかすかに残る羊の肉の味を反芻する。我ながら性懲りもないが、あの例えようのない美味さは、願わくばもう一度だけ味わいたかった。それが寂しさを紛らわせる最もマシな方法に思えた。
 ふと、遠い静寂の暗幕の向こうに、翼のはためく音が聞こえた。徐々に大きくなる音は、真っ直ぐにこちらに向かってくる。
「あれは……」
 月明かりに照らされていた見慣れぬシルエットは、せわしい翼の動きを止めて檻の前に降り立った。
「ノウル君……だよね?」
「……レーネ?」
 懐かしい呼び名。再び忘れかけていた己の名を呼ぶポケモンは、吸血ポケモンの姿をしていた。
「今度は……ゴルバットか」
 もう二度と起こらない奇跡だと思っていた。
「お前に看取られる最後なら……悪くないか」
「馬鹿なこと言わないで。待っててね、今開けるから」
「いや、いい……。俺がレーネの言うことを聞かなかったから……こんなことになった。俺みたいな馬鹿のために頑張る必要なんて」
「あのね、私……生まれ変わってたの、今日まで気がつかなかった。呑気に番作って、タマゴを産んで、町外れの洞窟でずっと暮らしてた。牧場でサザンドラが暴れてたって人間が噂してたのを聞いて、急に何もかもを思い出したの。ごめんね……ノウル君を独りぼっちにするつもりなんか全然なかった。許して」
 神様失格だよ、と、ぽろぽろ泣くレーネに、俺はさっさと屠殺されてしまいたい気持ちになった。レーネに悪いところなど、何一つとしてない。俺が欲を張らずに嵐が丘での暮らしに満足していれば、レーネは俺のことを思い出さず、番や子供と一緒に楽しく過ごしていたはずだった。俺の愚かさが、レーネに家族を捨てさせた。
 なんと情けない話だろう。
「いくよ!」
 空高く舞い上がり、大きく旋回して加速したレーネは、翼を鋼のように固めて思い切り檻の錠に突撃した。
 轟音とともに破壊される錠、歪んだ鉄格子。レーネは器用に俺を束縛していた縄を咬み切った。
「怪我が辛いかもしれないけど、ちょっとの辛抱だから」
 痛む体を鞭打ち、飛び立ったレーネについていく。
 翼が傷ついて、上手く飛べない。蹴られた右目が、よく見えない。
「……すまない」
 それでも、命があるだけ救われている。


  ◆


 気がつけば、棲み処で朝を迎えていた。
「ノウル君、おはよう」
「……おはよう、レーネ」
 レーネは天井からぶら下がっている。蝙蝠だから、それが一番自然な体勢なのだろう。
「……ごめん」
 ややあって、俺は己の身勝手さを詫びた。
「いいよ。ノウル君ならいつか人里に下りようとするってわかってたから」
 声音から、俺が忠告を無視したことに対する不満は一切感じられなかった。
「お腹空いてるでしょ?」
 レーネが指すうろの奥には、コラッタの死骸が何匹置かれていた。
「ウールーの味を知った後じゃ、美味しく感じないかもしれないけど」
「いや……ありがたく頂く」
 食欲を無限に増幅させるような旨味溢れる羊肉よりも、レーネが獲ってきてくれた慣れ親しんだ鼠のほうが、今はずっと美味しい。
「うっ……ぐぅ……」
 涙が止まらない。ぼろぼろと流涙しながら、次々と鼠を口の中に押し込んだ。
 空の胃に餌が収まった瞬間、緊張の糸が切れた。助かったのだ。格好をつけても、死ぬのはやっぱり怖かった。
「怖かったね。もう大丈夫だよ」
 逆さまに笑いかけるレーネは、俺を責めるようなことを一切口にしなかった。
 死ぬ間際、レーネはいつも俺を優しいと言うけれど、彼女の優しさに比べれば俺のそれは取るに足らない。
 鬱陶しいはずの朝陽の眩さが、いつもより暖かく感じた。
「私も、ノウル君と同じようなことをしたことがあったんだ」
 サザンドラの時、ノウル君と出会う前にね、とレーネは付け加える。
「私の棲んでいたところは全然餌が取れなくて。ちょっとした出来心で、人里に下りちゃったんだけど。その後は、ご想像通り」
 苦しい思い出をえへへ、と笑いながら語るレーネの顔には、一抹の寂しさがあった。
「ポケモンにはそれぞれいろいろな本能があるけど、サザンドラはすごく難しいよ。食欲の抑えが利かなくなっちゃう。本能に任せて好き勝手に振る舞えば、みんな敵になって、最終的には独りぼっちになるの」
 それは、昨日痛いほど思い知った。痛みと孤独と不安に押しつぶされたまま死にゆく恐怖。窮地を救われた今でも、まだ気持ちは宙に浮いたように不安定だった。
「だからね、私、ノウル君には楽しく生きてほしかった。サザンドラの生き辛さを知ってほしくなかったんだ。私の独りよがりなお節介かもしれないけれど」
 ひとしきり泣いて、腹を満たし、仰向けになってレーネのいる天井を見る。
「そのお節介がなければ俺は死んでた」
 上から俺を見やるレーネ。下からレーネを見上げる俺。出会ってから、ずっと変わっていない位置関係。
「家族のもとには帰らないのか」
「ノウル君のこと思い出したら、なんだかもうどうでもよくなっちゃった」
 レーネは、無邪気で残酷だ。それが神様というものだ。何度生まれ変わっても俺に偏愛するのも、神の気まぐれゆえ。
「今回はあんまり寿命が残ってないしね。ゴルバットって、思ったより短命で」
 生き死にを繰り返すほど、生を俯瞰し、達観していくレーネは、神性を帯び始めていく。
 ぶらさがってうつらうつらとする彼女を見て、俺の最期のそのときまで、あと何度違う姿のレーネに出会うのだろうと思う。
「レーネは……次は何に生まれ変わりたいんだ?」
「ノウル君に会えるなら……なんでも。だから、海のポケモンは、ちょっと無しかな。陸のポケモンがいい。できれば、寿命が長いほうがいいな」
 なら、またサザンドラに生まれ変わればいいと冗談めかして言うと、それはありかな、とレーネは返す。
「散々サザンドラは生きにくいって言ったくせに」
「サザンドラならノウル君とちゃんとした番になれるもん。生まれ変わったら、モノズのうちに私を見つけて、見初めてほしいな」
「……無茶を言うなよ」
 えへへ、と笑うレーネは、恥ずかしさを隠すように、翼を折りたたんてまどろみの奥深くに入っていった。

 それから何年か経って、俺は三度目のレーネを見送ることになった。寿命にしてはいささか早く、知らぬうちに病に蝕まれていたのだろうと思う。
 悲しくはなかった。三度あったのだから、四度目の奇跡も近いうちに起こるだろうと、楽観的になっていた。
 神の御業で、レーネは何度でも甦るはずであると信じきっていた。

 一年、二年、三年と季節は矢のように過ぎ去り、
 十年経っても、
 二十年経っても、
 三十年経っても、
 レーネが俺の目の前に現れることはなかった。




  ◆
 



 永く生きるということはどういうことか、少しずつわかってくる。
 ほとばしっていた情熱は、いつしか昔話になり、そしておとぎ話へと変容していく。
 どうしたって忘却は免れ得ない。だんだんと思い出が抜け落ちて、追憶は重ねられていく膨大な日常に妨げられる。
 だから、生が味気ない空白で埋まらぬように、新しい何かを探す。

「ノウル、そろそろレインが発つって」
「……そうか」
 雌のフライゴンが、一本の木から木の実を集め続けている俺の背中越しに話しかけてくる。
 名をエイジュという彼女は、俺が十年ほど前に得た番だった。肉体的な衰えが見え始め、子を残すことも難しくなろうという時分で出会った若い彼女との間に、俺はレインというひとり息子をもうけていた。
「父さん」
 振り返ると、そこには甲高い羽音をならしてホバリングしている息子の姿があった。ついこの前ビブラーバに進化したばかりだが、まだ柔らかなその体で彼は巣立つ決意を固めていた。
「……俺はまだ早いと思ったんだがな」
「それでも行くよ、僕は」
 まだまだ未熟だが、弱々しかったナックラーの頃に比べれば随分とたくましくなった。
「せいぜい野垂れ死ぬなよ、レイン」
「うん。父さんももう年なんだから、ちゃんと体労わって、病気しないでよね」
 そう言って、レインは俺が大量に抱えている木の実を一つひったくった。
「餞別にもらってくよ」
 より一層激しい羽音を鳴らして、レインは空の向こうへと飛び立っていった。新しい棲み処は、俺の知らないずっと遠くの世界かもしれないし、案外近い場所かもしれない。だが、いずれにせよもう二度と会うことはないだろうと思った。
「相変わらず、気の利いた言葉はかけれないんだね」
 エイジュは呆れたように溜め息をついた。赤いレンズ越しの目に、涙を湛えている。
「……これが俺の精一杯だよ」
 老いていく体での子育ては、艱難辛苦の道のりだった。二百年近くのほとんどを孤独に過ごしていたから、番になったエイジュはともかく、自分の子であるレインにどう接すればよいのかまるでわからない。結局、してやれたことは腕の中で寝かせてやることぐらいだった。
 この十年で散々父親に向いてないことを思い知らされた。エイジュがいなければレインを育て上げるなどできなかっただろう。
「エイジュは……これからどうするんだ」
「まだ決めてない。けど、春が来たら、砂漠に戻ろうかな」
 竜は、永い一生をただ一匹の番と添い遂げるわけではない。子育てが終わってもまだ子を成せる余裕があるなら、別の番を作ることもままある。
 俺はもう子は作れないだろうが、エイジュはまだまだ若い。番になっても、互いに添い遂げる気がないのは言葉を交わさずともわかっていた。
 彼女は、遠くの砂漠から旅をしてきたフライゴンだった。サザンドラなど滅多に見ないからという理由で迫られ、一夜限りの契りを交わしたつもりが、タマゴができたと俺の棲み処に舞い戻ってきたのでなすがままに番となり、慣れない子育てに勤しんだという次第だった。

「ずっと聞きそびれていたんだけど」
 夜、ひとしきり息子レインとの思い出話に花を咲かせた後、エイジュは話題を変えた。
「ノウルは、私と出会う前はどんなふうに過ごしてきたのかなって」
 うろの入り口から差し込む月光が、エイジュの赤いレンズに映り込む。
「別に。独りで、適当に餌を獲って、寝て、起きて、そんな平凡な暮らしだ」
 何も面白いことはないと、岩壁に背中を預けて天井を仰ぐ。
「えー、嘘だよそんなの。二百年も生きてるんだもの、面白い出来事とか、事件とか、一つや二つ、あるでしょ?」
 エイジュにせっつかれ、俺はとうの昔に忘失した記憶を懸命に探る。もはや色褪せて、大部分が欠けてしまった思い出を今さら仔細に語ることなどできない。
 それでもエイジュはお構いなしに知りたがる。
「その見えてない右目だって、生まれつきじゃないんでしょ?」
 エイジュのふとした言葉で、俺はようやくいくつかの出来事を思い出した。
「……サザンドラになってから、死にかけたことが二回あった」
「ほら、やっぱりあったじゃん、大事件。面白そうだから話してよ」
 俺の生涯を娯楽か何かと思っているエンジュに少しむっとするが、まだ三十年も生きていない彼女だから、少しは彼女のこれからの生の糧になってやろうと、俺は思い出を紐解き始める。
「まだ若い頃、ここは今ほど餌は豊富じゃなくて、冬も竜にとっては厳しい寒さだった」
「それで?」
「ある年、秋に十分に栄養を蓄えられないまま迎えた冬が、文字通り死ぬほど冷たかった。うろの中でずっと眠って体力を温存しようにも、体はどんどん凍りついていって……春を無事に迎えられずに凍って死ぬかもしれないと、意識が薄れてきたときに……」
 俺はそこから押し黙る。
「どうしたの? 乗り越えられたんでしょ、その冬は?」
「ああ……だが」
 どうやって乗り越えたのか、まるで思い出せない。そのままだったら死んでいただろうから、何かしら幸運な出来事があって春を迎えられたはずなのだが。
「誰かが……助けてくれた……ような」
「誰かって?」
「……わからない。なんせ大昔のことだからな。これ以上老竜を虐めてくれるな」
 記憶を掘り起こす匙を放り投げた俺にエイジュはむくれる。
「じゃあ、二回目は?」
「……この丘を下りて、ずっと向こうに人里がある。そこに牧場があったんだ。人間が、自分たちの生活のために、広い草原を柵で囲って、その中にポケモンを飼っている。今はどうなってるか知らないがな」
 おぼろげだった記憶が泥の中からさらわれるように姿を見せるにしたがって、当時感じていた不安や恐怖も腹の底からせり上がってくる。
「そしてあるとき餌に困った俺は、人里に下りて、牧場で呑気に草を食む大量のウールーを見つけてしまったんだ」
「……襲ったんだ」
 ごくりと唾を飲むエイジュ。その反応は、サザンドラ元来の凶暴さに驚く反面、楽しんでいるようでもあった。
「襲った。空腹だったからな。ただ腹を満たすことしか考えていなかった。何匹か殺して食べて、怒った人間に見つかって捕らえられた。この右目も、そのときにやられた」
「そうだったんだ」
 エイジュの薄翅が萎れる。俺の気分を敏感に察知しているようだった。
「痛めつけられて、檻の中に閉じ込められた。人間たちは、すぐに俺を殺処分すると言った」
「酷い。人間って、怖いんだね。……それで、その後は?」
「満身創痍で、動けない俺を……誰かが助けてくれた。檻をこじ開けてくれた」
「誰が助けてくれたの?」
 俺も、俺自身にずっとそれを問うている。だが、どれだけ記憶の扉を開いても、肝心な記憶が出てこない。
「なんで思い出せないんだろうな。その誰かは、俺にとって大切な存在だった気がするんだが、本当にそうだったのか、ただの思い込みなのかまったくわからない」
 肉体も、物の覚えも衰えが止まらない。遠い昔の話が満足にできないことを今しがた自覚し、この体が徐々に死に向かっていくことに気がついた。
「老いるのは怖いな。何もかもがダメになっていく」
 こんな爺とよくエイジュは一緒になったものだと、俺は自嘲気味に笑った。
「ノウルのこと、たくさん話してくれてありがとう。少しでも一緒に過ごしたひとのことを知れてよかった」
 エイジュは、それまでとっていた茶化した態度を改め、俺に向き直った。
 その夜、俺とエイジュは、久しぶりに抱き合って眠りについた。

「もう行くね。ノウル、元気でね。長生きしてね」
 冬を越え、またうららかな春がやってくる。エイジュは名残惜しさもそこそこに、薄翅を羽ばたかせ、レインと同じように青い空に飛び立った。
 俺はその姿が見えなくなるまで、ずっとエイジュの羽ばたきを見つめていた。
「これでまた、独りぼっちか」
 温い風が言の葉をひらう。時が衆を別つのは自然の道理であるならば、この別れに感傷的な気分になるのも愚かだと思う。
 事実、レインの出立のときも、エイジュを見送った今も、彼らの幸せを願う気持ちはあれど、引き留めたいという気持ちは微塵も湧かなかった。
 たまたまできてしまった子供のけじめをつけるために娶った番を、ついぞ愛せなかった。
 なぜこんなにも薄情だったのかはわからない。ただ、愛を与えたいという気持ちは確かにあった。しかし、誰かのためにそれを取っておかなければいけない気がした。いつも心の隅に引っかかっていたそれは、ずっと触れられることのないまま褐色に錆びついている。

 やがて、肉体も精神も急速に錆びついていく。
 生き物が必死に番を求める理由は、単純に生き永らえるためだろうと思う。その過程で、拙い頭で難しいことをしきりに考えて、手足を動かすから、体は健康を保てる。裏を返せば、考えることも手足を動かすことも止めれば、簡単に死へと沈んでいく。
 エイジュは俺の長生きを願ったが、もう子供を作ることもできず、番と息子の生活に合わせるために雑食へと変容した己の食性にも()み始め、骨も筋肉も翼も臓腑も痛み、何一つ新しいことが始まらないことがわかりきっている現況に、いい加減区切りをつけたいとすら思っていた。

 だが皮肉なことに、日ごとに物覚えが悪化し、ただでさえ失いかけていた記憶の欠片がぼろぼろに砕け散っていくのを自認した瞬間、区切りをつけたいという気持ちすら忘れていた。
 脳が蝕まれていた。


  ◆


 なぜ自分がここにいるのかわからない。なぜ自分の両腕には顔がついているのかわからない。なぜ自分の翼は飛ぶ力がないのかわからない。なぜ右の目が見えていないのかわからない。この世に生まれ落ちてどれくらいたったのかわからない。自分の名前がわからない。
 今日は、朝陽が眩しかった。真っ青な空に白い巨鳥が大きな音を立てて、直線的な雲を描いた。紫色の鼠を見つけたが、こちらの顔をみるなり一目散に逃げだした。木を揺らすと、青い木の実が四つ落ちたので、拾って食べた。
 夜は曇って、月明かりがぼんやりとしていた。風は冷たかった。遠くで、犬か狼かの遠吠えが聞こえた。
 昨日以前のことは何一つ覚えていない。だから今日出会ったすべては、また明日にはきっと空っぽになっている。






「ノウル君!」
 地を揺るがすような声が聞こえた。何者かが、うろの入り口を覗いている。淡い逆光によって照らしだされた青白い輪郭は、空恐ろしさを覚えるほど巨大だった。
 白い腕がすっと伸びてきて、俺の貧相な体を捕える。俺は夢かうつつかわからぬまま、最後は怪物に食べられて終わるのだろうかとぼんやりとした心持ちでいた。
「良かったあ、ノウル君、まだ生きてたんだね。もうすっかりおじいちゃんになっちゃって……ごめんね、遅くなって」
 竜とも鳥とも海獣ともいえるような白い巨体は、俺を胸に押し当てて両腕でぎゅっと抱きしめる。骨がみしりと音を立てた。
「苦しい……」
「あ、ごめん! まだ転生したばっかりで、力加減わからなくて……でも、これでようやく証明できたよ。見ての通り、神様でしょ、私?」
 蒼い目飾りの中に輝く瞳は、俺の顔を一心に見据えている。
「お前は……誰なんだ」
「……嘘でしょ? ノウル君、忘れちゃったの? 私、レーネだよ! 時間かかっちゃったけど、ちゃんと迎えに来たよ!」
「ノウル……? 俺のことか、それは?」
「そんな……」
 夜なのに太陽のように眩しかった笑顔は、しゅんと萎んでしまった。
「遅かった。間に合わなかった」
 白い手の震えが、俺の体を揺らす。直接流れ込んでくるような悲しみに、俺は動揺した。
「何度生まれ変わっても、海の中のポケモンとか、すぐ食べられちゃう虫ポケモンとか、そんなのばっかり。ギラティナに悪戯されちゃったのかな。やっと神様に戻れたのに、ノウル君に会えたのに、あんまりだよ、こんなの」
 大粒の涙が、俺の額にぼたぼたと落ちてくる。蒼い胸から、ゆっくりとした心臓の鼓動が聞こえた。寿命の長大さを想起させる、雄大な音だった。
「よくわからないが……大変だったんだな」
 親身になろうにも、俺はこのポケモンのことが何一つわからない。
「ね、ノウル君。私ね、ノウル君がおじいちゃんになっても好きだよ。こんな私に何度も好きになられて迷惑だったかもしれないけど、生まれ変わっても変わらず私のそばにいてくれたノウル君が好きだよ」
 だが、このポケモンの言うすべてが、決してでまかせではないことはわかる。転生を繰り返していることも、神様であることも、俺を好きなことも、真実なのだろう。あまりにも突飛で、信じ切るにはいささか残りの時間が足りないが。
 死期が近いゆえか。枯れ果てゆく俺は、この見知らぬポケモンに何かを残したくなった。
「俺は、そろそろ寿命が終わる」
「……そうだね」
「君の気持ちは……とてもありがたいが……受け止めきれない。だから、もし俺が、君と……同じように……生まれ変わったら……その気持ちを……」
 音も、光も、においも、うろこに触れる白い手の温もりも、すべてが消え去って暗転する。
 鼓動が、止まった。











  ◆











「ほら、あいつ。お前のこと好きなんだって」
「ふぅん」
「こっち見てる。もう告っちゃえよ」
 陽光がかすかに届く深さの冷たく仄暗い海で、同種族である雄のタッツー二匹が俺を色恋沙汰に巻き込もうとしていた。
 岩陰に隠れて俺のほうをちらちらと見ている雌が、泡を吐き出してアピールした。
「俺はパス。前から言ってるだろ。心に決めたひとがいるって」
「だから、誰だよそいつ。全然教えてくんねーじゃん」
「俺だって知らん」
「意味わかんねー。知らん奴を心に決めてるってどういうことだよ」
 尖った口から、それぞれが不満を泡にして吐き出す。
「うるさいな、お前らには関係ないだろ。いいからあっち行ってあの子の相手してこいよ」
「うわっ」
 俺は墨を吐いて鬱陶しいやつらから逃げ出した。
「まったく、口を開けばくだらないことばっか。勝手にやってろっての」
 苛々した気持ちを鎮めるため、だんだんと光が失われていく深海へと深く潜っていく。
 水温が少しずつ下がっていく。冷たい水が、うろこの隙間に侵食していくようで気持ちがいい。
 流れに身を任せ、漂っていると、ごう、と水底からうなりをあげて白く巨大なポケモンがやってきた。
 渦巻く海流に巻き込まれて目を回しているところを、その大きな翼で優しく受け止められた。
「レ、レーネさん、こんにちは……。今日もすごい速さで泳いでましたね……」
「ノウル君っぽい影が見えたから、近寄ったらやっぱりそうだったから嬉しくなっちゃって。今日もお散歩に行こっか」
 レーネさんは雌のルギアだ。いつも忙しなく海中を動き回っていて、神様にしては随分と威厳が欠けていておてんばなのだけれど、その親しみやすさが俺は好きだった。
「今日はひとりでいたんだね」
「だってあいつら、うるさいんだもの。女の子に告れだの付き合えだの、しょうもないことばっか。面倒だから逃げてきちゃった」
「そういうお年頃だからねえ。しかたないよね」
 レーネさんはくすくすと笑っている。俺にとってはまったく笑いごとじゃないが、大人は子供の一挙手一投足を笑うのが常だ。
「レーネさんは、好きなひといる?」
 仕返しに、レーネさんに色恋の話題を振ってみる。
「うーんとね……。いるよ。……四百年前から、ずっとそのひとに恋してるんだ」
 レーネさんは、俺の速度に合わせて泳いだ。
「昔ね、番だったこともあるんだけど、今は私のこと忘れちゃってるみたいなんだ」
「えー、酷いね、それ。俺がレーネさんだったら怒ってるよ」
 僕は顔を赤くして、泡を吐いた。
「ふふ、ありがと。ノウル君は優しいね」
「別に優しくなんか。ただ、レーネさんの気持ちを考えると、すごく悲しくって」
 レーネさんの表情をうかがうと、意外にも晴れやかな表情をしていた。
「大丈夫だよ。いつか私のこと思い出してくれると思うし、私は何百年でも何千年でも……何度生まれ変わっても待てるから」
 気が遠くなりそう、と僕が呟くと、レーネさんは、思ったより時間って早く過ぎ去るものだよ、と笑う。
「今日は、綺麗なサニーゴたちの群れがいる、美しい海に連れてってあげる」
 俺は、レーネさんの大きな翼に抱かれて、紺碧の海を旋回しながら、海の表層へと昇っていった。





 了







以下投票コメント返信

▼読み進めていく内に涙がぽろぽろと、引き込まれてしまいました! (2019/12/12(木) 21:01)

朱)泣くほど真剣に読んでいただいたことに感謝します。作者冥利に尽きます。


▼お話の流れといい、世界観といい、それを表現する文章力といい……とても素晴らしく、強く感情移入して物語を楽しむことができました。
ちょっと変わった一匹のサザンドラの一生というのを、追体験できたと思います。儚くも、美しいものですね。
素敵な作品を読ませていただき、本当にありがとうございました。 (2019/12/14(土) 16:46)

朱)正直お話を最後までどうやってつなげるか全然わからなくて、書き上げた今もこれでよかったのかわかってないです。でもしっかり感情移入してもらえるような物語に仕上がったみたいなので及第点かなと思います。三百年の一生を二万字余りで表現するのが妥当だったのかどうか……。
こちらこそ、読んでいただきありがとうございました。


▼輪廻というテーマが個人的に好きなのもあって、今大会の中で一番印象に残った作品です。永い時を不器用に生きる竜ノウルと、文字通り「何度でも」ノウルに寄り添い続ける神レーネ。二人の暮らしややり取りが愛おしく感じるほど、劇中で何度となく訪れる死別の無常さが際立つようでした。かつて「会いに行く」側だったレーネが「待つ」側になり、ノウルがその逆の立場になるという役割の転回が、今作品におけるテーマであるだろう輪廻と掛かっているのかなあと考えたりもします。いつか400年の恋心が実る日を祈って、票を投じさせていただきます。とても面白い小説でした! (2019/12/14(土) 18:37)

朱)輪廻をテーマにして書いた作品を絶賛放置中だったので、別案でもう一度輪廻を書こうと思い至り、結果としてこのような物語になりました。不器用な竜と偏愛する神のいろいろな経験を書くのはとても楽しかったです。別れはできるだけさっぱりと書いたつもりでしたがこれくらいの塩梅でちょうどよかったみたいですね。役割の展開……なるほど……言われてみればって感じがします。以前からのあるあるなんですが意識してなかったり、もしくは無意識にやっていたことを読者に指摘されて改めて気づくっていうケースが多くて、視野が広がりますね。きっと近いうちに恋は成就すると思います。ありがとうございました!


▼えっと、えっと、投票します! (2019/12/14(土) 22:30)

朱)投票ありがとうございます!


▼とても純粋な二人の思い会う姿が美しく、心を引かれたので投票させていただきます。 (2019/12/14(土) 23:52)

朱)投票ありがとうございます。きっともう少し時間が経てば、本当の意味でふたりが結ばれると思っています。


 第十一回仮面大会の非官能部門でギリギリ入賞してました。そろそろ遅刻して優勝逃し芸飽きたぞお前
 読んでくださった方々、そして投票してくださった方々にこの場を借りて御礼申し上げます。
 流転をテーマにしつつオオタチにちんちんって言わせる小説を書こうとしたらこんな風になりました。わあい。
 ちなみにレーネはサザンドラに生まれ変わる前はルギアで、死後に再度神様に転生した時のため、勉強として記憶を保持しながら様々な一般ポケモンに流転していました。でも一匹のポケモンに偏愛を注いでいるのが神にあるまじき行為とギラティナに咎められ、途中からノウルに全く接触できない姿に転生させられてしまっていました。自覚を持てってことだね。でもレーネは反省してないです。無邪気で残酷なのがレーネなので。
 タイトルはGARNET CROWの「君の家に着くまでずっと走ってゆく」を参考にしています。甘ったるい歌詞はある意味レーネの望んでいる世界を表しているようでもあるので、気が向いたら聴いてみてください。


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Last-modified: 2019-12-25 (水) 23:21:00
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