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何がどうしてこうなった?

/何がどうしてこうなった?

この小説には官能の予定がございます。でも予定は未定だったりしちゃったり。
そういうのはいかんよという人はお戻りくださると幸いです。ただ何時その場面に入るかは全く持って不明だったりしちゃったり。
by簾桜



 鳥ポケモンが騒がしく鳴き、茹だるような暑さが支配するとある夏の真昼間。炎ポケモンである俺にとっては別段何ともなく寧ろ過ごし易い天気だが、別の理由で憂鬱(ゆううつ)な気分になっている。
とある街道をはずれた森の中の池付近で大きなため息を俺は吐く。ため息の数だけ幸せが逃げるという話も聞くが、そんな事お構いなしに吐き続ける。……どうしたもんかなぁ。
というか、何時の間にこんな状況になったんだろう? いや、別に困る事ではない。寧ろ喜ばしい事なんだけど……これは少々まずすぎる。
鼻をくすぐる僅かな甘い匂いに少しだけクラッと来てしまう。最近は特に意識してべったりと近づかないように気を付けていたのに……これでは台無しではないか。
というか、こんなに暑い日によく俺の傍で寝てられるな。暑くないのか、それとも体調管理用生体機能の類がいかれたのか……出来れば前者であってほしいと願う。
一体何に悩んでいるかと言うと俺の隣に、というよりもたれかかっている奴の事。

「むにゅ~……おにゃかいっぱぃ……」

 ……純白の毛に黒い肌に黒い尻尾、鎌のように鋭い角という風貌、現在は油断という言葉すら足りない程ニヤケ顔でしかもヨダレを垂らしつつ俺の横で眠っているアブソルの事に関してだ。
このアブソルとは、卵から孵ったばかりの頃からの幼馴染――というか腐れ縁?という間柄。もう何年も一緒に居る兄妹のような関係なのだ。あ、ちなみにこいつ雌だから、そこんとこよろしく。
幼馴染とはいえ、年頃の雄の傍でここまでニタリ顔をさらけ出して……危機感とかそういうの大丈夫なのかこいつ? まぁ、こいつらしいっちゃらしいけどさ。
小さい頃から天真爛漫でいつもニコニコ笑顔のまんま、苦しい事でも笑顔で乗り越える。災いを招くからと周りから嫌われても、何ともないかのように何時もふるまって……。
初めてあった頃は、俺も彼女の事が少し怖かった。だけど話すうちに、何てことはない俺たちと同じ一匹のポケモンだった。それからは二匹で何時も一緒に遊んでいた。
遊ぶと言ってももっぱらバトルが多かったけど。小さな頃俺は本当に弱くて、いっつもいいように遊ばれて……でもそんな事でもとっても楽しくて……。

 って、なーに回想にふけってるんだ俺は……頭を強く振って現実へと意識を戻す。つまり、ついウトウトと昼寝をしてて気がついたらいつの間にかこいつが近くで眠っていただけなのに、なんでこんなにもドキドキしないといけないんだ……。
全く、さっさと起こしてどいてもらわないと、本当にヤヴァイことになりかねない。下手したら友情に亀裂が走る事になってしまう。どういう事でというヤボな質問はしないでほしい、というか誰に言ってる独り言かはあえて気にしない方向で。

「おいアブソル、何勝手に隣で寝てるんだよ、起きろって」
「むぐぅ……あつぅ、じゅっぶん……」

 後十分って……待てるわけないだろうが。こうなったら最終手段、許せアブソル。
両手で彼女の両頬をグニッと引っ張り、そのままグニーッと引っ張ってみる。案の定彼女は目をパッチリと開いて前足をブンブンと振り回して抵抗する。
だけど、仮にもバクフーンである俺がこの程度で参るほど弱くはない。お構いなしにぐぃーっと引っ張り続けて彼女を無理やり起こし続ける。

「ぎゅあふぁ、ふぉめんなは、ふぁふぁふぃふぇ~!!」

 あ、ちょっとやりすぎたかも。目に涙を浮かべてる。……怒ったかな? 怒ったよなぁ。
ようやく離してあげると、彼女の頬が少し赤くなっている。うむぅやりすぎた……すっごい睨んでる、いや怖いってマジ御免なさい。

「ひっどい! こんなに赤くなるまで強く引っ張らなくてもいいじゃん!」
「いやゴメン、つい反応がおもしろくて……ホント御免ってば」

 ブスッと頬を膨らませる彼女に必死に謝る。……こうなると暫く不機嫌なんだよなぁ、どうしよう?
こうなったら、物で釣るしかない、かなぁ。いつもいつも何かをあげる事で許してもらっているのは少し情けないような気もするけど……あーあ、あんまり動きたくないけど仕方ないよなー自分でまいた種だ、うん。

「分かったよ、昼飯食ってないだろうからなんか探してくる、それで許してくれよ」

 アブソルがピクッと反応した。「まぁたそれぇ?」と言うようなジト目で見られるのは若干辛いけど、何だかんだで何時もそれで許してもらっている。
それは多分俺が昔馴染みだからという意味合いがとても強いとは思うけど、それでも木の実を探す手間とか考えると結構辛い。
しかもアブソルが好きな味の木の実はこの近辺では少なく、これがまた苦労する一因になっているのだ。アブソルはこの事分かってるのかなぁ……?

「しょうがないなぁ、じゃあ甘ーい木の実ヨロシク♪」
「へいへい……」

 ニコッと笑いながら見送るアブソルを背に、二足歩行でゆっくり向かう。四足の方が早いけど気分が重くてやってられない。はぁ……あるといいなぁモモンの実。


 もぅ……まだほっぺたがヒリヒリするぅ。そりゃ~抜き足差し足で勝手に近づいて添い寝した私が悪いけどさぁ……。
だからってこんなになるまで引っ張らなくても……あーもう最悪ぅ、玉のお肌に傷がついたらどうしてくれるのよ。

「分かったよ、まだ昼飯食ってないだろうからなんか探してくる、それで許してくれよ」

 バクフーンのその言葉に体がピクッと反応してしまう。物で釣るのは彼の常用手段なんだけど、いつも些細な喧嘩ばかりなのでそれで許してあげている。まぁ幼馴染という間柄だし、百歩譲ってみたいな感じもプライスレスなんだけどね。
……まぁ確かにお腹もすいてきたし、今日はそれでいっか。

「しょうがないなぁ、じゃあ甘ーい木の実ヨロシク♪」
「へいへい……」

 小さくため息つきながらバクフーンはノシノシと少しだけけだるそうに歩いていく。頼りなさそうなその背中が見えづらくなった時、私はさりげなく重いため息を吐いた。
……彼にはばれなかったけど、私の毛は汗を吸ってかなりベタっとしている。やはりこの炎天下真昼間に炎タイプである彼と添い寝するのはすっごく暑かった。
吹いてくる風がスースーと冷たく感じるくらいだから結構な寝汗をかいたのだろう。後で洗わないと毛がパリパリになっちゃうかもなぁ。
こんな想いをするくらいなら添い寝しなけりゃいいのにと思うかもだけど、最近近づこうとしても彼の方から遠ざかるようになってきたからこれぐらいしないと密着できなくなっちゃったんだ。
まぁ彼は優しいから、多分私が暑い思いをしないようにと配慮してくれているからだと思うんだけど……やっぱり気になっちゃうんだよね。

 ……私の事、嫌いになったのかな―――なんて、馬鹿げた考えがどうしてもよぎってしまう。

 そんなことあるはずないと思いつつも、どうしても疑っちゃう。ずっと一緒にいてほしい、私だけを見てほしい、彼と――。
ふと浮かんだピンク色の雑念をブンブンと振り飛ばす。だけどそんな考えが頭の隅の方でしっかりと根付いて離れてくれない。

 何時からだろう、彼を幼馴染としてじゃなく一匹の雄として見始めたのは。まだヒノアラシの頃は私の方が大きかったから、何度かからかってやったことがある。その時は目に涙を浮かべて何時の日か仕返ししてやるとわめいていた。
やがて彼がマグマラシに進化した頃、大きさは若干小さいかなっていうぐらいになったのに一気に力強くなって、いつの間にか彼にお遊びのバトルで勝てなくなってしまった。それが悔しくて、何だか置いてかれたような気になって、泣きじゃくっていた所を彼に見られてすごく恥ずかしかった。
だけど彼はそんな私に寄り添ってくれて、励ましてくれた。……その時から、私は彼に恋をしてしまったのかもしれない。その時は恋愛感情だとは全く気付かなかったけど。
そして数ヶ月前に彼はバクフーンに進化した。そうしたら一気にカッコよくなって、何だか私じゃ釣り合わないんじゃないかと思うようになって。それでも彼は、変わらずに私に優しくしてくれた。
そんな私を隠すように、前にもまして笑顔で過ごす事が多くなったけど、心の中はいつも疑心暗鬼になっていた。本当に彼は私と一緒で楽しいのか? 本当は私と一緒に居るのは嫌なんじゃないのだろうか?
いやだ、いやだ、バクフーンとの関係が壊れるのが怖い。彼に嫌いだと言われたら、私はもう立ち直れないかもしれない。
彼に気持ちを伝えたい。でも真実を知るのが怖い。どうする事も出来ずに、ただただ真っ暗な闇の中を堕ちてゆく、そんな気分になってしまう。

 結局、私は彼を待たずにトボトボとある場所へと向かう事にした。


「モモン~、モモン~、この辺のはずなんだけどな~」

 ブツブツと唸りながら森の中を二足歩行でノシノシと歩く。全身けだるくて四足歩行で素早く動く気になれない。夏バテかなぁ……炎ポケモンが夏バテって笑い話にもならんぞ。
一応この近辺にも人間達が来る事はあるから、それも注意していかなければならない。特に俺はバクフーン種という割と貴重らしい種族だから、見つかると何日も追いまわされて大変な目にあう事も少なくない。
まぁいざとなれば焼いちまえばいいだけの話だけど。ヒノアラシの頃からバトル三昧(といっても相手は専らアブソル)だったから、これでも結構腕に覚えがある。なんとかなるさ、うん。
と、そんな事考えずにモモンモモンっと。確かこの辺に――?

「――ウソだろ?」

 つい、そんな言葉が出てしまった程絶句した。俺が知っている森のモモンポイントには無事到着した。だけどひとっつも残ってない、まだ幼い小さな木の実すらもだ。
俺はここ以外モモンの実が群生する所を知らない、と言う事は……アブソルに木の実を持っていけないという事に他ならない。
やばいやばいやばい、これは不味いって。別に彼女に怒られる事はまだいいけど問題は彼女が悲しそうな表情をするかも知れないという事。
彼女には悲しい顔をしてほしくない。何時でも笑っていてほしい。だってあいつは、俺が――。

 ――俺が愛した、牝性(じょせい)なんだから……。

 数ヶ月前に進化した時よりも前から、まだマグマラシだった頃から淡い想いを抱いていた。ヒノアラシの頃はそれこそよくバトルをしたりするだけの気のいい友達程度だった。まぁ体格の差で惨敗だったけど、それでも楽しかった。
だけどマグマラシに進化した頃、俺は一気に強くなった。体はまだアブソルの方が大きかったけど、実力云々は殆ど拮抗していた。多分小さな頃からヒミツで特訓していた事が実を結んだのだと思う。
やがて、俺は彼女に勝利した。ずっと負けてばっかりだったからその時は嬉しかったけど、後日彼女が泣いていたのを見て、思わず絶句した。
彼女が泣いている所なんて、想像した事もなかった。何時も笑っているのが当たり前だったから、考えた事もなかった。
それからだった、彼女を守ってあげたいと思ったのは。もうあんな泣き顔は見たくないと思ったのは。

 だから、ここで彼女を悲しませたくはない! ここは何が何でもモモンを見つけ出して彼女に届けなければ……ウオォォォォ、でもどうすればいいんだ!?

「何一人で悶え苦しんでるの? 頭でもぶつけた?」
「ワァ!? ……ってなんだロズ兄かよ、脅かさないでくれよ」

 とっさに声をかけられ、体がビクッと硬直する。あわてて振り向くと見慣れた姿を捉えた。両手が赤と青のバラの花束のような形をしており、見た目はちょっと美青年、ロズレイド。普段はロズ兄さん、もしくはロズ兄と呼んでいる。勿論雄なんだけど、どうも雌に間違えられる事が稀にあるらしく、それで傷ついてるとこを俺は見た事がある。
 ちなみに体の大きさは俺の半分もないぐらいだけど、俺より一回りぐらい年上だ。ちなみに俺は人間で言うと十九歳前後あたりだと思ってくれると分かりやすいと思う。
 ロズ兄さんは前に人間の所で世話になっていたらしく、この辺のポケモン達が知らない事でも知っている、知恵袋的な存在。あと木の実に関する事が詳しいのは、流石草タイプと言ったところかな。
 ……そういや前に、この辺の木の実を調べてるって言ってたっけ? だったらひょっとして。

「ロズ兄、いきなりであれだけどひょっとして蓄えの中にモモンの実とかない?」
「モモン? 今さっき回収した新鮮な物ならあるけど」

 犯人はあんたかい!? いや、そんな事はこの際どうでもいい!

「頼む、一個でいいから分けてくれないかな、アブソルの機嫌を取る為にどうしても必要なんだ!」
「また怒らせたのかい? 別に構わないけど、その代わり少しだけ仕事を手伝ってくれる?」

 手を合わせた状態で思わず首をかしげてしまう。手伝う? 一体何を?
少しだけふっと笑ったような気がするロズ兄を追いかけていくと、それはもう山盛りに摘まれた木の実の山が。……え、まさかこれってひょっとして? ウソでしょ?

「いやぁ~今日は調子にのって集め過ぎちゃってね。バクフーン君力あるし、一気に運んでくれると助かるなぁ」

 あ、あはは。とりあえず俺の腰部分まで山になってる木の実……というかこんなに木の実集めて何をするんだろうロズ兄……?
ま、まぁいいか……とりあえずアブソルの笑顔の為、一仕事しますか。これでも俺、体は丈夫だからね、楽勝楽勝……多分。


 彼女が多分いるであろう森の奥地、このあたりのポケモンは来ないだろうかなり草が生い茂っている場所へとやってきた。何せ気まぐれな性格だから、どこに居るのかよく分からないポケモンなんだよなぁ。
だけどまぁ、こう草が伸びまくっていると視線が低い四足歩行の私はどうしても迷ってしまう。頭の角で周囲の草を切ってもいいけど、この辺一帯は怖いポケモン達も多いから出来ないし……。
二足歩行が出来るバクフーンだったら自分が今どの辺にいるのか分かると思う。うぅ~さっきから鼻にサワサワ当たってくすぐったいぃ……あ、駄目、でちゃ……!

「ハクシュ!」

 グジュっと鼻をすする。誰もいないからいいけど、くしゃみを見られるのはかなり恥ずかしい。鼻水、でてないかな?

「大丈夫、出てないよ」
「ズズッ、ありがと……って!?」

 背中から聞こえた声に、ゾワッと全身の毛が逆立った。いっつもいっつも突然現れる彼女に私は何時も度肝を抜かされる。一体何時私の背中に乗ったのかすらわからない。
首をグイッと後ろの方へと向けると、やはり彼女が私に乗っかっていた。白い毛並みに大きな尻尾。青い電気袋が可愛いパチリスが。
だけどその可愛い容姿とは裏腹にこの子はかなりな悪女なのだ。男共を猫撫で声で誘惑しては木の実なんかをかっぱらっていく、挙句についたあだ名が泥棒リスなんだから……。
そのおかげで、彼女はこんな森の辺境に住むしかなくなったって訳。別に彼女の自業自得だからかまわないけど、もうちょっと会いに来る私の為に進みやすい所に住んでほしいとは常々思ってる。それを口に出す事はないけどね。

「その様子だと失敗したみたいね。バクちゃん見た目は野獣だけど心はピュアというか臆病と言うか、そういうとこあるからね~」
「いや、野獣はちょっと可哀そうだと思うんだけど」
「そもそもあんたももっと積極的になんないと、アイツの童貞奪えないわよ?」
「そ、そんなストレートに言わないでよ!?」
「じゃあ変化球ならいいの?」
「そう言う事でもない!!」

 はぁ、とついため息が漏れてしまう。ひょんな事で彼女と友達にさせられちゃったけど、これほどその事を後悔した事はない。そういったスキルに長けてるからか結構卑猥な表現もポンポン会話に入れていくから、どうしても体力を使ってしまう。勘弁してほしい。
まぁ、でも、そういったスキルに疎い私にとっては、心の奥底ではそういう話はとても参考になる。役だった事は今までないけど……。
でも今日こそは! と意気込んで見たけど、昼寝をするバクフーンを目の前にして急にしぼんじゃって、結局添い寝になってしまった。情けないと思われるだろうけど……だってやっぱり、恥ずかしいし……。

「心の中で恥ずかしがってるようじゃ駄目駄目ね……」
「って、何で私の考えてる事分かるの!?」
「そりゃあんた、すっごく顔に出てるから」

 そ、そんなに私って分かりやすいのかな……?

「まったく奥手×奥手は関係が進まないのが厄介なのよねぇ。こーなったらやっぱ最終手段を使うしかなさそうね」
「さ、最終手段?」

 一体何の話をしているのだろう……? そして何だろう、この背筋に漂う妙な悪寒は。
 野生のポケモンとしての勘が、行ってはならないと警鐘を鳴らしてる。けど……それ以上に好奇心がうずくのも事実。

「まぁ行けば分かるよ。よぉし、このまましゅっぱーつ!」

 苦笑を洩らしながら、パチリスの案内でさらに奥へと突き進む。……どうでもいいけど、やっぱり鼻に草が当たって……はふぅ、我慢できればいいけどなぁ……。
あ、やっぱだめ……!

「ハクシュ!」
「おわっと!? くしゃみするならするって言ってよ」
「あなたがこんな所にいるからでしょ!! ぐじゅ……」


「ロズ兄、まさかここに入るの?」
「まぁ正直見た目からして信じられないだろうけど、そうだよ」

 木の実を運ぶ事はまず三分の二ぐらいを半分ずつに分けて残りは隠して、二人でえっちらほっちら持ったから別段大丈夫だった。だけど……お届け先がちょっと……ありえなかった。
明らかにヒトが暮らしてるんじゃね? というような大樹の切り株をくり抜いて作ったような家。ドアとか、木で作ったテーブルとか、窓とか、ハンモックとか、ヒトにしか作れないような物も周りにあったり付いたりしてる。窓にはカーテンも付いてるし、なにより辺りに漂う異様な匂いで、すでに鼻はひん曲がってしまった。
ここで注意だけど、ここは俺達が暮らしている森の端っこのさらに端っこ、殆ど日の差さない木々が密集しているような場所だ。

「いやぁ、最近ここに住んでるポケモンに木の実を大量に運ぶように頼まれちゃってさ。家も本人もちょっと変わってるけど、いい人なんだよ?」

 御免ロズ兄、その話信じられない……。

「まぁ中に居る人には僕が会っとくからさ、バクフーン君は残りの木の実を持ってきてよ。道、分かるでしょ?」
「はぁ、まぁ、分かるけど……」

 正直、またここに来るのは気が進まない。肉体的にというより精神的に。でも、アブソルのモモンを手に入れる為だと思えば! ……思っても、きついなぁ……。
アブソルと別れた時と同じくらいおもーい足取りで、来た道を戻っていく。誰が住んでるのか気にはなるけど……会いたくはないなぁ、何となく。





「ほ、本当にここでいいんだよね?」
「まぁ確かに妖しさ満点だけど、絶対頼りになるんだって」

 うーん、パチリスがそう言うならそれはまぁそうかもしれないけど……怖いなぁ……。
これ、明らかにニンゲンがいるよね、っていう感じの巨木の切り株をくり抜いて作ったようなお家。しかもご丁寧にドアと窓付いてるし、カーテンとかもあるししかも近くの木にはハンモックぶら下げてるし。あ、木で作ったテーブルもある。
でも一番気になるのは辺りに漂う腐敗臭のような匂い。鼻が良い方だから余計に辛いよー、うぅー鼻水詰まらせたままにしとけばよかったぁ……。
意を決し近寄ろうとすると、何やら大量の木の実を運ぼうとしている影が見えた。あれは……ロズ兄さん?

「あれぇロズロズじゃん。なにやっとんの~?」
「あれ、アブソルちゃんにパチリス? 君達何やってるの?」

 前に一度聞いたことあるけど、ロズ兄さんとパチリスって同じ時期に森に来た馴染みとの事。意外な関係だけど割と前から知ってたから別にそれは驚かない。けど……何でこんなに木の実をいっぱい?

「あらかじめ頼んでいた物をもらいにね。あんたは?」
「僕はここの人に頼まれたものを届けに来たんだ。バクフーン君にも手伝ってもらってね」
「え、嘘!?」

 バクフーンもここにいたの!? 木の実を探しに来た筈がなんだって荷物運びを……と思ったけど、話を聞いてみるとロズ兄さんの持っているモモンをもらう為に働いていると言う事らしい。
バクフーン、何時もこんなに苦労して木の実とかを持ってきてくれてたんだ……あうぅ、知らなかった。今度頼む時は一緒に行こうかなぁ。

「あら、家の前に人影があると思ったらあなた達どうしたの?」

 後ろから声をかけられてビクっと背筋が凍ってしまう。振り向くとそこにいたのは何やら黒っぽい物を詰めたかごを持つ、まるで雌のヒトのような姿をした、ポケモン――でいいんだよね? サラサラの長い髪は魅力的だけど、こんなにヒトによく似たポケモンも珍しいなぁ。
ロズ兄さんが小声で、彼女はルージュラというポケモンだと言う事を教えてくれた。何でもここで色々なお薬を作ってくれているのだとか。傍にある大量の木の実も全部その材料らしい。
という事は、辺りに漂うこの腐敗臭はお薬の匂いって事? ……本当に大丈夫なのかなぁ? 

「やっほージュラっち。例の“アレ”貰いに来たけど出来てる?」
「あらパチリスちゃん。一応出来てるけどあんなお薬一体どうするつもりなの? それとそこの可愛いアブソルのお嬢さんは?」

 可愛い、という単語に思わず顔が熱くなる。そう言う事、あまり言われ慣れてないから、その、恥ずかしくて……。

「実はこの子にあげる用なの。とりあえず“アレ”ちょーだい、説明はしとくから」
「あら、そう言う事。いいけど無理はさせないでね。私の薬は強力だから」
「モチのロンでしょーちのすけよ。仮にも友達のアブソルに無理なんてさせないわよ」

 なんだかとんとんと話が進んでいくので軽く置いてかれてる気分だけど、この話の流れからするととても嫌らしい雰囲気のものなんだろうなぁと嫌でも分かってしまう。多分そういうお薬なんだろうなぁ。
ロズ兄さんも若干苦笑いを浮かべてるから、何の話なのかおぼろげに気付いてるのだと思う。私の危機察知能力がビシビシと危険を知らせてくれてるけど、今更逃げられないだろうし。
ルージュラさんが家の中に入って数分で濁りきったピンク色の液体が入った小瓶を持って出てくる。なんか妙に毒々しいと言うか、あからさま過ぎると言うか、そういったツッコミを入れたいけど多分言ったら負けなんだと思い込むことにした。

「じゃあ、これ何時ものね。分かってると思うけど使用するときは本当に注意してね」

 何時もの、って事はパチリスはあの薬を何度も使ってるって事? ……あえて詳しくは聞かないでおこう。





「えーっちらほーっちらよーっと……あーキッツイ」

 残っていた木の実を運びつつ、俺は例の家へと急ぐ。あーもうどうしてこんな目に……今度からアブソルを怒らせるのは止めておこう。もうこんな事したくねぇ。
と言いつつ、また怒らせるんだろうなぁ。どーも俺ってなんと言うか、アブソルを苛めたくなっちゃうんだよなぁ。……俺、実はS? んなアホな。
思わず苦笑しながらも、やっと例の怪しい家に到着した。あーもう、絶対明日筋肉痛だよ、まぁそこまでやわな鍛え方してるつもりないですが……伊達に最終進化系ではナッシング!
っと、ロズ兄はどこかいなっと……あれ、入り口付近に誰かいるけど、あれは?

「と言う訳で、大体分かった?」
「まぁ、何となく……で、本当に、本当に大丈夫なんだよね!?」
「モチのロンよ、ちゃんと保障してあげるから」

 あれ、何でここにアブソルが……話してるのは辺境の森に住んでるパチリスだったかな? 随分親しげそうだけど、友達なのでしょうか。
というか二匹共、何の話をしているのでしょうか。なんつーか、背筋の辺りがどことなく薄ら寒い気がするのは気のせいでしょうか。
アブソルとよく一緒にいるせいか、いつの間にかそういう直感めいた物が鍛えられてしまったんだよなぁ。八割の値で当たる辺り、結構優秀な方だろう。嘘だけど。

「お、帰ってきたねバクフーン君。大変だったでしょ」
「あ、ロズ兄。何でここにアブソルいるの?」
「乙女の秘密、って奴だね。雄はあんまり女の子に詮索しちゃ駄目なんだよ」
「なにその法則めいた格言」

 何故か後ろから来たロズ兄が、モモンを持って話しかけてくれた。これが仕事の報酬かな。あー、これを手に入れる為にだいぶ苦労したよ。
潰れやすいので気をつけながらもらい、アブソルの元へ。向こうもこっちに気づいたらしく、二匹ともこっちを見てくれた。何かアブソルがどきっとしたように感じたけど、気のせいだろう。

「あ、バクフーン。お、お疲れ様」
「おーう。何でここにアブソルいるかは知らないけど、とりあえず、はい」
「あ、アリガト」

 小さな口で、モモンの実を咥えるアブソル。四足のポケモンは前足使えなくて大変だなぁ。
そのまま一口で食べられてしまうのを見ると、苦労が報われない気がするのですが……まぁ、言ってもきかないんですよねそうなんですよね。はぁ。

「で、始めましてかなパチリスさん。アブソルの友達ですか?」
「そゆことよバク君、これから宜しくね。ほら、折角再会出来たんだし、さっさと戻った方がいいんじゃない?」

 へ? 一体何の話? というか戻るってどこに?

「ニブチンねぇー、折角おぜんd……ゲフンゲフン、何でもないです」
「はい?」
「いいから、二匹でさっさと行きなさい!」

 何か、妙な迫力で脅されているのですが……? まぁこんな激臭の漂う場所に長居は禁物だよな。
そう思って一緒に行こうと誘おうとアブソルの方を向くと……アブソル、すっごく真っ赤になってた。何故に?

「えっと、アブソル?」
「あ、うん、じゃ、行こか」

 すごーくカクカクした動きで、そのまま帰ろうとするアブソル。何をやってんだか分からないけど、まぁとりあえずいいか。
 その場でお礼を言った後、アブソルの後を追う。しっかし今日のアブソルは何か変だなぁ……変な物でも食べたのか?



「……ホントニブチンね。大丈夫かしら……」
「まぁ、種は撒いたし、後は彼ら次第だよ」
「ところで、ジュラっちは?」
「興味ないってさ」
「はぁ……」



 後ろでそんな悪巧みが話されてた事を知るのは、この日から数日後の事だけど……何故あの時気づかなかったかなぁ~。


バク「一年以上もほっとかれるとか……ウェルダンに焼かれたいみたいだな」
アブ「まだ続くけど……正直カマイタチでズタズタにしたい気分だよ」
作「すいませんでしたぁ!」

お名前:
  • 読みましたよん。
    さーていよいよピンクい方面へと向かっていく感じですかね?
    パチリスの悪魔キューピッドっぷりが嵌っていて、アブソルもいちいち可愛いです。

    ゆっくり頑張ってくださいませー
    ――ナナシ ? 2012-10-28 (日) 14:19:07
  • 心情の描写が丁寧でキャラが魅力的です。
    続き待ってます。
    ――名無し ? 2010-12-05 (日) 04:25:49

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Last-modified: 2012-10-21 (日) 00:00:00
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