ポケモン小説wiki
今日一日また・・・・・・

/今日一日また・・・・・・

呂蒙
※この作品は、「1人と7匹の物語」シリーズの春限定作品です。(夏になったから削除、はしません)

 
 ガタガタと音を立てる窓ガラス。別に地震が起きたわけじゃない。ここんところ、風の強い日が続いているだけのことだ。風ぐらいどうってことはないだろうと思うかもしれない。でもな、人間にとっちゃそれが大変なわけだ。洗濯物は飛ばされる。強い風のせいで電車は止まる。駐輪場の自転車はドミノ倒し・・・・・・。などなど生活を大変にするだけの厄介者だ。
 ポケモンにとっても、この風を嫌う奴はいる。ずばり炎タイプのポケモンだ。身近にいるのは、ブースター、バリョウさんのウインディといったところだ。炎タイプお得意の火炎放射も、強い向かい風や横風が吹いたりすると、相手まで届かない場合もしばしば。オレにはよく分からんけど、火炎放射っていう技は、遠距離攻撃が出来るのが売りだから、間合いをつめて発動するような技じゃないと思うわけだ。カンネイさんのギャロップいわく、接近戦なら、蹴りをぶち込んだ方が効果的だという。でもなぁ、脚が短いポケモンはそれムリだろ。一体どうしてんだろうな? オレは電気タイプだからよく分からん。そもそも、雷は風の影響なんかうけないしな。砂が目に入らなければ大丈夫。70パーセント、いや控えめに6割9分7厘5毛くらいにしておこうか、なんつってね。
 さーてと、テレビでも見るか。前足でリモコンのスイッチを踏む。が、運の悪いことにCMだった。
「国際ポケモンバトル競技大会・ラクヨウ国際競技場にて開催! 参加者募集中」
 開催は2週間後だが、未だこのようなCMをやってるってことは参加者が十分に集まってないってことだな、オレでもそのくらいのことは分かる。でもなぁ、リクソンはあまりこういうのに興味が無いし、この日は丁度旅行中で出るのは不可能、付け加えて言えば、どうやらこれは予選で、本選はまた別の日にやるらしいのだ。ということは、だ。大学の休みが終わっちまってるから予選を突破しても結局は棄権しなけりゃならないのか、リクソンに大学を休めともいえないしな。んなバカバカしい。やるだけ時間の無駄か。
 番組もつまらないし、そうだバショクにゲームの攻略法を教えてもらいに行くか、退屈しのぎになるしな。それにちっとは体を動かさないとな。そうと決まれば電話電話っと。番号をちょいちょいちょいとプッシュする。
「あ、もしもし」
「はい・・・・・・」
「バショク?」
「あ、先輩のとこのサンダース、どうしたの?」
「今からそっち行っていい?」
「ああ、いいよいいよ」
 というわけで、ゲームソフトを紙袋に入れて、ついでにブラッキーも連れて家を出た。紙袋を口にくわえているから会話は出来ないが、別に長時間ってわけでもない。軽くランニングでもすれば20分もありゃ、余裕で着く。こんな珍しい(といっても周りに6匹もいるからそういう実感がわかないんだが)ポケモンが2匹もいてなおかつトレーナーと一緒にいなかったら、「野生だ、捕まえろ」と大騒ぎになるが、セイリュウ国にはゲームに出てくるようなトレーナー、要するに積極的にポケモンを捕まえるとか、半ば強引にバトルを仕掛ける、といったことをする奴らは、ごくわずかしない。リクソンと一緒にいないときにそんなのに出くわす確率なんて限りなくゼロに近いんじゃないか? というか、オレらを捕まえようものなら窃盗だしな、そんでもって、捕まえ損ねたとしても窃盗未遂。海外へ逃げようとしても、ま、港か空港で御用だろうな。おっほん、「知りませんでした。ごめんなさい」で通用しないのが、法律なんだな。
 それにしても風が強いなあ。行ったことはないけど、ゴビ砂漠とかタクラなんとか砂漠もこんなかんじなんだろうか。
 オレなんかは首まわりを除いたら、黄色だからまだいいが、ブラッキーは金環模様のところ意外はほとんどが黒だから、目立っちゃってしょうがない。このまま、家に上がり込んだら、バショクの家を汚してしまう。バショクには悪いけど、玄関前で払ってもらうことにするか。あーあ、まったくイヤになるな。
 街の大通りに出る。みると、小奇麗なホテルが数件並んでいる。別に前からあったものだけど、例の大会で外国から客が来るんできれいにしたってところかな。えーと、なんて言うんだ? 頭が、せ、設備、設備投資ってやつか? 頭が良いと、雷とか電撃波みたいな技の威力が上がるなんていうけどほんとなのか? だいたい「頭が良い」ってどういうことなんだ。そもそも人間とポケモンのいう「頭が良い」っていうのは別もんなのかもしれない。そーゆーのを考えるのが哲学ってやつか。そっかそっか。
 口がふさがってて喋れないから、いろんなこと考えることが出来たな。
 バショクの家はこの大通りからすぐのところにある。このまま、ランニングして呼び鈴鳴らして、「こんにちは」といって、ゴールイン・・・・・・。となるはずだった。しかし、世の中っていうのはそうそううまくいくもんじゃない、とはよく言ったものだ。
 家まで百数十メートルのところに来たときポケモントレーナー3人組がいたのだ。しかも、男2人、女1人。某アニメのキャラ構成と同じだ。まあ、それは偶然だろうが。ふいにブラッキーが耳打ちをする。
「サンダース、やばいぜ、バショクの家まで全速力で・・・・・・」
 その理由はオレにも分かった。その3人はこの辺じゃ見かけない顔だった。多分、例の大会に出るためにこの近くのホテルにでも滞在してるのだろう。聴覚は人間よりもずっと優れているからな。そいつらが何を言っているのかははっきりと聞き取れた。
「ちょっと、ちょっと。サンダースとブラッキーよ」
「トレーナーが側にいないって事は多分野生だろうな」
「よ~し、ゲットしてやるぜ」
 な~にが「ゲット」だ。もうちょっと気の利いた表現ができないのかって違う違う違う。こんな非常時に何、リクソンみたいなこと考えてるんだ。上を何かが飛び越していった。鳥? 風船? いやピジョンだ! あ、結局鳥か。前に降り立って、挟み撃ちか。そうなると面倒だ。逃げてもどうせ追って来るんなら撃退に限る。攻撃こそ最大の防御だ。敵が空を飛んでいるのなら撃ち落してしまえ。よーし、体の中の電気を増幅させて・・・・・・。一か八かだ。
「喰らええええええええッ」
「何!? いきなり雷だと!?」
 白昼の住宅街に轟音が響く。あれ? あ、いけね。叫んだからどこかにゲームソフトを落としてしまった。
 まあ、いいや。後で探そう。ちなみに運よくオレの雷はピジョンに命中した。体からは白煙が立ち上っている。殺していないけど、確実に麻痺させたからこれで動けないだろ。ま、オレだっていきなり雷はムリよ。ある程度の電気を体内に溜めて、効果を上げるために増幅させないといけない。でもねー、筋肉は動かすと微弱ながら電気を発生させることが出来るわけね。ましてや、ここまでランニングしてたから、ある程度の電気は体の中に溜まってたんだよな、だから後は増幅させるだけ。毛並みがツンツンしてれば1秒もかからないから、さっきみたいなことが可能だったんだよな。外すと話は変わってくるけど、いきなりあんな大技が出るとは思っていないからな、タイプで不利でなければ大抵はうまくいく。あ、そうそう、筋肉がどうのってのはバリョウさんが言ってたから試してみたわけよ。
 トレーナートリオはこれであきらめるかと思ったら、
「強いわ」
「欲しい!」
「何としてでもゲットしてやるぜ」
 オメーら、諦め悪すぎるぞ。男なら引き際が肝心だろッ! あ、約一名女がいたか・・・・・・。
「よーし、こうなったら2匹とも凍らせちゃうんだから!」
 あーあ、次は女のポケモンの相手か。じゃあ、氷タイプか。バリョウさんのウインディ、出番だぞー、おーい。で、出てきたらまるで子供の見るアニメだ。何とかするしかねえか、速攻で。
「サンダースの二度蹴り使えそうだな」
「そうだけどなぁ、近づいて凍らされちまったら、何もかも終わりだぜ」
 で、ボールが開き、でてきたのは、
「うわわわわ、顔が殺人罪ッ」
「ブラッキー、お前の言いたいこと、だいたいはわかるぞ」
 この辺じゃ見かけないけど、本で写真は見たことあるぞ。たしか、ルージュラとか何とか。絶対近づきたくない。三十六計逃げるにしかず。が、体が動かない。足元を見ると、すでに氷づけにされてしまっていた。別の意味で顔に注目してしまい、足元を見ていなかったとは、不覚だったぜ、畜生。おまけにルージュラが、
「ぶちゅーしましょー、ぶちゅー・・・・・・」
 とか何とか言って迫ってくる。あれに、キスされたら永眠してしまう。ああ、もうだめだ。ただぼんやりとした不安・・・・・・。あれ、誰の言葉だ? 背筋が寒くなる、寒いというのではなく、恐怖で。ん? 何だこの音? ざざざっという波のような音がする。この辺にあるものといえば、道路の両脇にあるドブぐらいだが、波ができるほどの汚水が流れているわけでもないだろう。そして、ドスの聞いた声。
「失・せ・ろ」
「ブラッキー?」
 波の音が途切れた。
「よっしゃあ、効いたようだな、悪の波動」
 どうにかこうにか2匹目も倒した。そして、ブラッキーはトレーナーを睨みつける。ブラッキーの気迫に圧倒されたのか、それとも単に怖気づいたのか、3人は後ずさりをした。
「ますます欲しくなってきたぜ、どうだ一緒に・・・・・・」
「お断りだ、オレたちにはオレたちの生活があるんだ」
 言葉の調子からすると、ブラッキーの怒りのレベルは相当なものだった。頭上には黒い球体が浮かんでいる。ブラッキーの得意技の一つ、シャドーボールだった。本気で当てる気はないんだろうけど、これくらいしてやらないと怒りが収まらない、といったところか。無論、オレは止めない。こういう厚かましい人間を見ていると、リクソンがどれだけ立派かが良く分かる。
 ブラッキーの怒りの黒球は、「トリオ」の方へと飛び、3人が逃げると、空高く舞い上がり音も無く消滅した。いやー、ブラッキー、かっこいい・・・・・・。
「ところで、この氷どうしよう」
「解けるまで待つ?」
「うーん」
 それでは時間がかかり過ぎる。どうしようか悩んでいると、砂嵐があたりを包み込んだ。え? 黄砂? にしては、砂が黄色くない。それにしても、眼に砂が入って、眼を開けているのが困難になってくる。おまけに砂が体に当たって痛い。確実に体力を奪われていく。うっ、耳に砂があっ! もしや、奴らの仕業か、しょーこりもなく、その根性はリッパだ。ほめてやる。砂嵐に混じって奴らの声が聞こえる。くそう、あんなリクソンと比べたらクズみたいな人間に捕まるなんて、オレのプライドが許さない。が、この状況では反撃すら出来ない。球状のものが、放物線を描いてこちらに飛んでくる。あんなのに捕まるだと!? もうだめだ、悔しくて憤死しそう。
 観念した時、カツンという乾いた音がした。はは、オレ、捕まっちゃったよ。リクソン・・・・・・。何かが頬を伝わる。眼に入っていた砂が流れ出て、かろうじて眼を開けることができた。あれ? ボールに入れられてない。まだ捕まっていない? ってことだよな。側にはボールが落ちていた。ボールには長い金属製の矢が突き刺さっていた。矢? こんな事が出来るのは・・・・・・? 2つの声が耳に入る。
「何だ、お前は? 邪魔をするな!」
「急に砂嵐が起きたから来てみれば・・・・・・。それはこっちが言いたいことだ。他人様のポケモンを捕まえようとは、さてはお前ら泥棒か誘拐犯だな」
「こいつらはオレたちが先に見つけたんだ! 誰だか知らないが絶対に渡さないぞ」
「ふふ、それはこちらの台詞」
 そういうと、声の主は弓を引き絞り、再びオレに向かってくるボールを撃ち落した。すごい弓の腕前だ。やがて、砂嵐が少しずつ弱まり始めた。と、同時にしっとりしたものが、体にまとわりつく。丁度、加湿器のすぐ側にいるような感じだ。
「ぎりぎり間に合ったな。助けに来たよ、もう大丈夫」
 聞き覚えのある声、というかさっき聞いた声。声の方を見る。その姿を見たとき、男のクセに涙が出そうだった。さっきと別の意味で。オレとブラッキーは同時に歓喜の声を上げた。
「バショク、それにラプラス!」
 バショクとラプラスはそれに応えるかのように微笑すると、こっちへ近づいてきた。
「くそ、こうなったら、そこの弓矢男を先に倒してやる」
 何だか「矢ガモ」みたいな言われようだ。物陰からは何だか、カバみたいなのが出てきた。
「バショク、カバルドンが出てきたよ」
「ははは、かき揚げ丼だかカルビ丼だか知らないけど、なにをするのか見てみるのも面白いな」
 バショクは笑っている。何というか、超余裕の表れ?
 あれ、確かこいつがいると、砂嵐が起きるんだよな、何でそれが無いんだ今? ところで、さっきからこの「しっとり」は何だ。
「・・・・・・何で、砂嵐が起きないんだ? ええいこうなりゃヤケクソだ。地震を喰らえ!」
「洗い流すぞ、ラプラス、ハイドロポンプ!」
 地震が起こる前にラプラスの高圧放水が、トレーナートリオとカバルドンを洗い流した。後の塀に開いた穴が水圧の高さを物語っていた。
「あっ、やっべー、後ろの壁壊しちまったよ」
「でも、バショク、消防活動の時だって、放水で窓枠が飛んじゃうことあるでしょ。あれと同じだよ」
「今のは、消防じゃないけどな」
「そーだね、あははははは・・・・・・」

 九死に一生を得るってこういうことなんだな。いつの間にか、四肢を拘束していた氷が解けていて、自由に動けるようになっていた。とにかくこの、一方的な勘違いというか、思い込みで起きた事件は、バショクとラプラスのおかげで解決した。ちなみに、「しっとり」の正体はラプラスが作り出した靄だった。あれで砂を湿らせて、砂嵐を潰したのだという。そこまでは考え付かなかったな。
 例の三人は伸びたまま病院に運ばれた。意識が戻り次第逮捕だろうな。気の毒な気がしなくもないけど、法律は知りませんでしたじゃ、通らないって事だな。でもまぁ、オレたちも野生と見られてもしょうがない行動をとってしまったのは事実だったしな。要するにオレたちにも落ち度はあった。一応皆には伝えとこう。
 風も丁度いい強さに弱まっていた。
「ところで、バショク」
「ん?」
「オレに射撃っていうかさ、技を百発百中で当てられる極意を教えて欲しいんだけど」
「いいけど、結構地味だよ、飽きっぽいとすぐにやらなくなるからさ」
 ぎくりとしなかったらウソになる。でも、やっぱりあの標的を確実に仕留られるようにはなりたい。
「大丈夫、大丈夫」
「まあ、まずは集中力かな、体力はあるようだからさ。ある程度ついたら、オレのところに来てくれ。次のステップを教えるから」
  家につくと、バショクはお菓子と飲み物を出してくれた。ほんとなら守らなければならないのにな。これじゃ、立場があべこべだ。
「あ、ちょっと空気入れ替えるからさ」
 バショクが窓を開け放つと、暖かい南風が入ってきた。風がオレの体毛をなでる。
「外吹く風は金の風 大きい風には銀の鈴 今日一日(ひとひ)また金の風・・・・・・」
「え? 何今の、バショク」
「中原中也っていう日本の詩人の、『早春の風』の一部なんでしょ、バショク」
「その通りだ」
 ラプラスってインテリなんだな。あんまり会ったこと無いから知らなかったけど。
「ラプラス、この30で逝った詩人は一文字一文字にどういう思いを込めていたんだろうな、弓も同じだよな。文字が矢に変わっただけで」
「バショク・・・・・・。言いたいことは分かるよ」
 何となくバショクの眼が悲しげなものに見えたのは気のせいだろうか。それは、部外者が口を出すことじゃないだろうから、何も言わなかった。オレは、さっきの詩をかみ締めるように繰り返した。声には出さずに。

 外吹く風は金の風 大きい風には銀の鈴 今日一日また・・・・・・

 ここまで繰り返したとき、再び南風が吹いた。バショクの髪の毛をなで、オレとブラッキーの体毛をなで、閉め忘れたドアから、吹き抜けていった。


「今日一日また・・・・・・」おわり

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 一応テスト
    ――呂蒙 2010-03-22 (月) 02:14:01
お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2010-03-21 (日) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.