written by cotton
今宵私の手の中で 零,
Entrust flame with hatred~
ー生きてる…?
何故だ?落石に巻き込まれて俺は死んだ筈。なのに、何故痛みを感じる…?
瞼が重い。息が苦しい。
ー苦しそう。助けてあげよっか?
誰だ…?神の使いか…?
ー助けてほしい?
ああ…、この痛みから解放されるなら、何でもしてくれ…
ー右腕、出せる?
…右腕?
ー…っと。終わり~。これで貴方は、
後悔した。
ー私のもの☆
神の使いでは決してない、「悪魔」と契約したことを。
「貴方がヒトリ目。ワカシャモさ~ん、おめでと~☆」
「ヒトリ目…?それと契約ってどういうことだ…?」
「私の言うこと聞いて、嫌って言うなら、」
耳元で彼女は囁く。
「貴方を殺すから」
殺す…!?
驚きと恐怖で声も出ない。
「死にたくないなら、仲良くしましょ?」
契約じゃない。ただの支配じゃねーか…。
契約の証となった右腕からは、禍々しい邪気が流れ出ていた。
「…で、命令は何だ?」
従うのは嫌だったが、これでも一応命の恩人だ。とりあえず、聞いてやるか。
「えーっとね…って、名前聞いてなかったね」
「ああ、俺はフレイムだ」
「じゃあフレイム…」
最初の命令。
「南の町のポケモン達、皆殺しにして☆」
「何だ…と?」
「だーかーら、町を襲ってくればいいの」
「襲ってこい、ったって…」
「…死にたいの?」
…クソッ…!従うしかねぇのか…!どうしようもない。自分が無力なのが悔しかった。
「…分かった」
そう言って、町へ向かった。反論もできない自分に、怒りを感じた。
「…これでいいのか?」
「うん、十分十分☆」
当然、気持ちの良いものではなかった。手加減はしたものの、かなりの犠牲を出してしまった。
ここまで回復した自分は幸なのか不幸なのか。簡単に従うべきではないとは分かっていても、生死が関わってくると嫌とは言えなかった。
契約から1年が経った。
気のせいか、「悪魔」は最近溜め息をついていることが多くなった気がする。何か気になってることがあるのだろうか。
そんな疑問と共に、次は何をさせられるか、という恐怖が生まれる。
その時には既にバシャーモになっていた。当然だが、被害も大きくなっていった。
「今日は…まだ此処にいて。明日の昼まで…」
「え…?」
やっぱり、何かおかしい。今までは夜中限定だったのに。
「昼…?何故だ?」
「風向、湿度、気温…そのとき、すべてが丁度だから。…あいつの幸せを奪うのに」
「あいつって?」
「西へ真っ直ぐ進んだところの家。まず燃やして、帰ってきたところを襲って」
溜め息の原因はそれだったのか。今までにそんなに細かい指令を聞いたことがない。それほど憎んでいる相手なのだろうか。
「…そこに二匹住んでいる。両方を殺して」
木で造られたその家は火の粉でも容易く燃えた。
その炎は次々とその家を囲んでゆく。熱風が空を焦がす。
ーお母さんッ!!
いくら命令とはいえ、これ以上の罪悪感には耐えられなかった。慰める事もできず、その場を後にした。
少女の家を奪った。少女の大切な母を奪った。彼女の平穏な日常を奪った。
「…背いたわね、命令に」
彼女はこちらに背を向けて話す。
「死ぬ覚悟は…できてるでしょう?答えは聞かないけど」
そう言い、こちらに歩いてきた。
この世に未練はなかった。自分は罪を犯した。このまま、「悪魔」の言いなりになるのが嫌だった。
「ただ一つ、聞かせてくれ。あの少女をそこまで憎む理由は何だ」
「私には"死の体"を冥王から与えられた…。彼女と一つ違いで…」
涙が地面を濡らす。
「あの娘がいなければ、私にも"生の体"が与えられた筈なのにッ…!!」
右腕に両手を重ねて向ける。小刻みに震えた手で。
「…さようなら…。」
右腕の炎に、憎しみを込めて―
後書きへ。
気になった点などあれば。
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