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今宵私の手の中で 六話

/今宵私の手の中で 六話

written by cotton

今宵私の手の中で 六,

「ううん…?」
此処は…?…そうだ、あの闘いが終わってからのことを覚えていない。
自分はどうなったのだろう。彼はどうなったのだろう。
誰かが呼ぶ声がする。
「…ブちゃん、ハーブちゃん!」

「ココ…?」
目の前にあったのは、彼女の心配そうな顔。起きあがろうとするが、全身が痺れて動くことができない。
「…くッ…!」
「ダメよ、動いちゃ」
ココの家。見回してみると、みんなが心配そうに私を見ている。
「…どうなったの、私…?」
「僕たちをかばった後、そのままルカリオの方に走っていって、…気づいたら、二匹とも倒れてた」
「…ッたく、無茶しやがって」
「でも良かった。ハーブちゃんが無事で」
みんなの温かい笑顔。自然と、涙がこぼれ落ちた。
「…で、さ。どうしよっか?こいつ…」
「え…?」
彼女の指さした先にいたのは、

「ルカリオ…!?」

「何で…!?何であいつが此処に!?」
「ま、何つーか…色々聞きたいことがあって、さ」
聞きたいこと…そうだ。聞かなくちゃ。彼がこの村を襲った理由。
彼の体には包帯が巻かれ、時折苦しそうな表情を見せながら、眠っている。

彼がその眠りから覚めたのは、午後になってからだった。
「…ッ!?何処だ、此処は…!?」
「あ、やっと起きたみたいね」
全員が彼に注目する。
「…お前達、いいのか?俺を助けて…」
「助けたって訳でもないんだけど…」
「…教えて。」
彼の目を真っ直ぐ見て、彼に問う。寂しさが感じられる、穏やかな目を。
「どうして村を、みんなを襲うの…?」
「…命令だ。命令には逆らえねぇ」
「命令…だと?」
「俺の境遇を話す。聞いてくれ…」
静かな口調で、彼は話し始めたー

ー生まれたときには、既に独りだった。
名も無い。親もいない。自分のいる場所も分からない。
辛うじて分かったのは、自分がリオルであるということのみ。自分の波動が、そう伝えていたから。
何処に行くべきかも分からなかった。手を差し伸べてくれる者などいなかった。
道も分からずただ歩く。感じるのは、空腹と、寂しさと、絶望のみ。

ーもう、歩けない。
森の中で、ついに歩くこともできなくなってしまった。
ー死にたく、ないよ…。
こぼれた涙が地面を濡らす。このまま、死んでしまうのだろうか。
そんな自分に手を差し伸べた者がいた。

「起きてー!おーい」
ー誰…?
「お腹減ってるの?助けてあげよっか?」
ー助けて…。死にたくない…。
「そう。じゃあ、私と『契約』しましょ?」
ー契約…?
「右腕、貸ーしーて?」
ー何をするつもり…?
「それはね…フフフッ♪」

そうして俺は、「悪魔」と契約をした。
命令に従うこと。それが契約の内容だった。
右腕には契約印として、呪いをかけられた。契約に従わなければ、殺される。
「これで、フタリ目っ…と」
その、上機嫌な「悪魔」の手によってー

翌日の夜。
彼は、話があるから、と私を広場へ誘った。広場には、未だ固まった血の痕が残る。
「で、何?話って」
「ああ…。話は3つある。聞いてくれ」
真剣な表情。あの日の見下したような笑みとは違う。
「まず1つ。この村と、ポケモン達を襲ったこと。反省している。すまなかった」
彼は深々と頭を下げる。
「次に二つ目。…少し後ろ向いててくれ」
そう言われ、後ろを向いた。
「ぐッ…!」
「…?…ルカリオ?」
彼の悲痛な声に驚き、振り向いてしまった。その目に写ったのは、
「ルカリオ…!」
右腕を切り裂いた、彼の姿。
邪悪な気を帯びたその腕は、ドサリ、と地面に落ちた。肩からは、大量の血が吹き出す。
「ああ…見られちまったかか。だが、これで契約破棄だ…」
「どうして…!?自分の…腕を…?」
あらかじめ用意しておいたマントで、彼は右肩を覆った。それからは、僅かに血が滴り落ちる。
血が治まってから、彼はまた話し始めた。
「3つ目。これが最後だ。こうしなければ、また此処を襲っちまう」
「でも、何でそこまで…?」
「護りたいからだ」
彼は、こちらへゆっくりと歩きだした。
「お前が最後に使った技のように、何かを捨てる覚悟をしなければ、誰かを護ることなんかできない。…ハーブ、」
その一言に耳を疑った。
「お前を護りたいんだ」
目の前まで、彼は近づいていた。
「護りたい…?私を…?」
彼は残った左腕で抱きしめる。

「お前が好きだ。」

「…!!」
突然の一言に、声も出なかった。
好きだ。
彼の声が、心の中で響き続けた。
月の光も、星の瞬きも、私たちを祝福しているように見えた。それらはすぐにかすんで、ぼやけてしまった。
「俺はもう、独りじゃない。お前がいるから」
肩で、彼の涙が弾けた。温かい、彼の想いが。

七話へ。

気になった点などあれば。

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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