written by cotton
今宵私の手の中で 三,
結局その日は家には帰らず、ココの家に泊まることにした。他の負傷者で村の治療の施設は埋め尽くされた。比較的傷を負っていなかったリード達は追い出されてしまった。
「ーまったく。酷いよねぇ。」
そう愚痴るのはルッチ。
「まだ子供なのに戦いに出して、しかも手当もしてくれないなんて…」
「酷いのは、あのルカリオの方だよ」
昨日の晩。彼の見下すような笑み、邪気に包まれた右手、何故だか寂しさを感じた目…。それらが次々と思い出される。
広場には昨日の激闘の痕が残る。血で染まった地面、粉々になってしまった花壇の煉瓦、等々。
初めて見たときー昨日の広場とは、全く違っている。当然、怪我したポケモン達のほうが不幸なのだが、引っ越した初日にこのような騒動に巻き込まれた自分も不幸なのかもしれない。森は雲によってその緑を更に黒く、重くしていった。
その緑が漆黒へと変わり、―夜となった。
部屋には看病で疲れたココとルッチ、闘いで傷を負ったリードとジグ、ザン。皆、既に眠ってしまっている。
自分も眠ろうとしたが、また「彼」が来るかもしれない、と不安になったので起きていることにした。
部屋には、皆の寝息が重なりあう。ーそれしか、耳に入ってはこない。
そこへ、
…ザッ…ザッ…ザッ…。
ー足音…?…!まさか!
予感的中。一つの影が広場に立っていた。
「ルカリオ…!」
「…なんだ、またお前か…」
「もう好きにはさせない。あなたを止めるから!」
「…独りでか?」
あの時と同じように、また彼が笑った。
ー独り…!そうだった。自分が置かれている状況がやっと理解できた。
今助けを呼んでも誰も来ないこと。今目の前にいる敵は村の皆と一匹で闘い、全滅させたこと。
そして、今自分はそんな相手と戦おうとしていること。
「止めるから、か。面白ェ…!」
彼は、右手に力を込める。その手は、更に鋭さを増す。
「メタルクロー」が、こちらに迫ってくる。
ー…私、何もできなかった。
「ハーブちゃん!」
その声が聞こえたかと思うと、彼女は、彼の右手をその体で受け止めた。
「ココ!大丈夫!?」
「うん、平気平気。鋼には強いから」
確かに、彼女には傷一つついていない。
「…二匹か、面倒くせェ。帰るわ、俺」
「…!ちょっと!待ちなさい!」
その声が聞こえなかったかのように、彼は早々と帰っていった。
「ココ、…ありがとう」
「ううん、ハーブが無事でなにより」
笑顔ではあったが、目は真剣だった。
ーやっぱり、何もできないのかな、私…。
ココの家へ戻る間、ずっとそんなことを考えていた。
自分の行いは勇気ある行動だったのか、あるいはただ無謀なだけだったのか。
ー無謀だった、のかな…。
傷だらけになるまで闘ったリードとジグ。彼らのは、村を守りたいという勇気。しかし自分のは、自分すら守れない無謀。
ー今度こそ、みんなを守ってみせる。
その言葉を、強く胸に刻み込んだ。
四話へ。
気になった点などあれば。
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