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事実上の解雇宣告を受けてしまったので、べつのほうほうでたべていくことにしました

/事実上の解雇宣告を受けてしまったので、べつのほうほうでたべていくことにしました

 第九回短編小説大会出場作品


 後半に、官能表現があります。表現が苦手な方はお読みにならないことをお勧めします。




 こうして考えてみると、今の自分があることが実に不思議に思える。自分で特に何かしたわけではない。ただ流れに身を任せていたら、こうなってしまった、というだけのことだ。
 数年前までは、目が回るほど忙しく、休日などありはしなかった。当然自分の趣味に費やすための時間もなかった。だが、今は少々落ち着いた。誰のためになるわけでもないが、今までのことを簡単にまとめておこうと思う。

「このままだと、この世界でやっていくのは厳しいかもしれないね……」
「……」
 上司からの無情な宣告。この時のことは思いだしたくもない。が、あの時の自分は愚かだとつくづく思った。縁を切って正解だったのだ。あのまま、しがみついていてもいいことはなかっただろう。
 私がいた世界は、ポケモンのバトルを生業とする世界だった。プロスポーツの世界だと思えばわかりやすいかもしれない。要するに、先程のは事実上の戦力外通告だった。つまりはリストラである。
 何だって、そんな世界に踏み込んでしまったのか。この国では競技人口が少ないし、それなりの実力ならばそれなりにやっていけるだろう、と思ったことだった。が、その考えがそもそも間違っていたのだ。
「そ、そんな……」
 相手の鋭い打撃を受け、地面にどっと叩きつけられる、私のジャローダ。全く、相手に歯が立たなかった。国内に限れば、これほどまでにやられることはなかった。あの時のことはいくら謝っても、足りないだろう。本人はそれほど気にしていないとは言うが……。人間に置き換えると、女性が本気で殴られて、地面に倒れたようなものである。
 この世界に、国籍や性別は関係なかった。外国のリーグで活躍の場がなくなったトレーナーがこの国で再起を図るために、移籍してくるのだという。弱いといっても、競技人口が多く、競争も激しい外国でのこと。この国では、無敵ともいえる実力だった。
 活躍の場を奪われた、トレーナーは廃業を余儀なくされる、というわけである。まあ、しばらくは失業保険があるから何とかなるとは思うが……。
 翌日、私は正式にクビを言い渡されたが、私も抵抗した。私は退職届は出さない、会社の都合で辞めるのだからと主張し、ついには、相手も折れた。この方が普通に辞めるよりも保険金が多くもらえるという打算があったからだ。愛と勇気だけでは食っていけないのである。だが、このままで引き下がってなるものか、やられたらやり返す、このままではおれぬとも思っていた。
「ねえ、辞めてきたんだって?」
「違う。辞めされたんだよ、つまりクビさ」
「……どうすんの、これから」
 ジャローダの口調や表情からは不安がにじみ出ていた。「ロイヤルポケモン」という分類がされている草タイプのポケモン・ジャローダ。結構人気が高いと聞く。どこかに売り飛ばせば、大金になるだろうが、子供の時から、ずっと一緒に過ごしてきたのだ。そんな非人道的なことができるはずもなかった。
 とにかく、新しい仕事を探す必要があった。唯一救いだったのが、私は大学を出ていた、ということだった。別に優秀だったわけではないが、何かの足しになるだろうとは思った。が、私はとにかく人を頼ろうと思った。ポケモンでも2対2、あるいは3対3で戦わせる形式がある。お互い弱いところを補いつつ、敵と戦うわけだ。一人の力には限りがある。
「そういえば……」
「ん? どうした?」
「友達が、こないだ転職したとか言ってなかったっけ?」
「それだ!」
 ジャローダがこのことを言わなければ、今の私はなかっただろう。これは間違いない。私は、早速その友達を次の休みに食事に誘い、その時に、正直に悩みを打ち明けた。
「まあ、あの生き残りが厳しい世界で、よく3年間持ったな」
 友達は、コーヒーカップをソーサーに置き、そう言った。
「お前んち、この近くだったな? 背広持ってるか、無かったら貸すけど?」
「それくらいあるよ」
「じゃあ、すぐに帰って、背広に着替えろ。今日、先生に紹介して何とかしてもらうから」
「今日?」
「早い方がいいだろ?」
 ここは友人の言われたとおりにする。この友人、何でも有力者のもとで働いているらしい。しかも住み込みで。先生とか言っていた。一体何者なんだろう、この時は見当すらつかなかった。
 私は首都郊外の屋敷に連れていかれた。堅牢な塀が敷地を囲んでいる。敷地の中には立派な屋敷が建っている。地元の名士だろうか?
「先生、ただいま戻りました」
「お帰り、おや、お客さんか?」
「ええ、先ほど電話で話した……」
「ああ、ああ。とりあえず、応接室で」
 先生と呼ばれている人物は、口髭が特徴的な紳士だった。背はそれほど高くはなかった。私よりも背が低かったから、恐らく170センチもないだろう。しかし、その小柄な体とは対照的に随分と威厳のある人物だった。今でも時々会うが、白髪が増えたこと以外、初めてお会いした時と全く変わっていない。
 私たちは応接室に入った。まず、お互いに名刺を交換する。
「話は聞いていますが……。もう少し詳しくお聞かせ願えませんかね、あなた自身のことを」
 よくありがちな、横柄な態度ではなかった。この先生、いったい何者なのだろう? この時は、正体が分からなかったので、ただただ、不安だった。
「ん、ところで、その後ろにいるのはあなたのポケモンですか?」
 先生はジャローダに目をやって、私に聞いてきた。
「彼、元プロのトレーナーなんです」
「ほぉ、そうですか」
 友人が私に代わって説明をしてくれる。今思うと、先生は密かにあのことをこの段階で考えておられたのかもしれない。
 企業の面接のようなやり取りが1時間ほど続いた。すると、先生は立ち上がって
「話はよく分かりました。仕事の方は私が何とかしましょう。1時間ほど時間をもらえますか?」
「はい、私は構いませんが」
 先生は部屋を出ていった。その後で、私は
「一体、何者なんだ、先生って」
「大臣だよ、この国の。まだ30代だけどな、結構な実力者で、面倒見がいいから、秘書や後輩から人気があるんだってさ。でも、若いうえに人気もあって家柄も最高ランクだから、ジジイ連中からすると目の上の瘤らしいけどな」
 つまり、友人はこの大臣の秘書というわけだ。ちなみに、この友人も、後にこの大臣の支援で、この時以上の地位についている。
 しばらくして、先生は一通の封筒を手に戻ってきた。
「ある企業に、雇ってもらえるように推薦状を書いておきました。この日に指定された場所に行ってください」
 と言って、その封筒を渡してくれた。
 後日、その企業の面接があり、めでたく採用となった。あの推薦状が絶大な威力を発揮したのだろう。とにかくこれで食いっぱぐれることはなくなった。
「まあ、とりあえず、良かったわね」
「ああ」
 ジャローダがそう言ってくれた。とにかく、少しでも楽をさせてやりたかった。もう、訳の分からん強さを誇るやつになぶられるようなことはさせたくなかった。
 しばらくは、会社勤めが続いた。しっかりと給料がもらえ、贅沢はできないが、普通に暮らしていく分には何の問題もなかった。

 それから数年後、またも転職の機会がやってきた。今度はクビになったわけではなかった。あの先生から呼び出されたのである。友人を介して付き合いはあったのである。どこでどう人脈が効果を発揮するかわからないものである。
「単刀直入に言う。次の選挙に出てほしい」
「……」
 私には断れなかった。世話になっていたからである。こうして、自分の息のかかった人間を増やしていくわけか、と私は思った。もっとも、私にとっては悪い話ではなかったが。支援はしてくれるというのだし、何とかなるだろう。そう思っていた。

 結果、私は当選してしまった。大変なのはそれからだった。
 例の先生にはいろいろと支援をしてくれたこともあり、逆らえなかった。が、その先生が失脚したらしたで、今度は後ろ盾がなくなってしまう。一日たりとも気は抜けなかった。ポケモンのバトルなどよりもえげつない抗争が繰り広げられているところに来てしまった。
 それから、また数年後、先生は目障りなジジイどもを排除して、首相となった。味方も多かったが、敵も多く、まだ気は抜けなかったが、私もそのおこぼれで出世することができた。そんなある日、首相に呼び出され
「君に任務を与える。政務官として、力を発揮してほしい」
 聞くと、ポケモンを持っている人たちから、何とかして税金をとりたいから、そっちの世界にいたことがある君が中心になっていろいろやってほしい、とのことだった。
「え? つまり出世?」
「そういうことだ。首相、大臣、副大臣の次に偉い人、ということだな」
 遂に、復讐する機会が巡ってきた。上司である大臣は、首相にこき使われて、かなり多忙なようなので、この件に関しては「よきにはからえ」であった。自分がかつていた世界を生かすも殺すも自由な立場になったわけだ。無論、今のまま生かしておくつもりなどなかった。どうせやるなら、やりすぎなくらいがちょうどいいというもの。
「徹底的にシメてやるか……」
 私が内閣の一員であった数年間は多忙を極めたが、復讐は遂げることもできたし、やったことへの評価はそれほど悪くもなかった。

「今思えば、不思議だよ。本当に」
「そのせいですごい大変だったんだからね、こっちは」
「まあ、いろいろあったと聞いてはいるよ」
「まったく……」


 全く、前はバトルをさせられ、あの時は上からの無茶ぶりも断れなかったし、はっきり言って大変だったわ。そのおかげで今は広い家に住めているから、文句は言えないけれどね。
 あいつが政務官になってからは別の意味で大変だった。仕事は人間たちのことだから私には関係ないと思っていた。でも、上下関係は、ポケモンの間でも例外じゃなかった。従う謂れなんかないのだけどね、あいつのこともあるから逆らえなかった。
 ある時、あいつの上司の上司、つまり大臣とあいつが大臣の家でお酒を飲むことがあった。その時は、久しぶりのまとまった休みで意識が飛ぶまで飲もうと、無茶な約束をしていたらしい。当然、私も強制参加だった。
 最初のうちは、あいつと大臣は仕事の話をしていた。
「しかし、大変ですね。文部大臣と厚労大臣の兼任ですからね」
「全く、大臣手当は2倍もらえるけどね。これじゃあ身が持たないよ。首相は人をこき使うのがうまいんだよなァ。敵に回すと後ろ盾のこともあるから怖いし」
「はあ……」
 しかし、酒が入ってくると、だんだん雰囲気が変わってきた。
「よーし、飲め飲め。今日の酒題は政務費で落とすから心配しなくていいぞ」
「ジャローダ。大臣がこれを一気飲みしろと仰せだ」
 あいつが葡萄酒のボトルをドスンと私の前に置いた。え? 拒否権は、無いのよね。断ってよ……。どうしてこういう無茶を。急性アルコール中毒で死んだら、化けて出るから。
 蔓を使って、ボトルを持ちあげ、覚悟を決めて中身を流し込んだ。
(う~ん、結構来るわ……)
 飲んだ瞬間は何ともなかったけど、やがて、体が熱くなり、ぼーっとしてきた。酔いが回ってきたみたい……。人間って酒が入ると人によってこうやってぶっ飛んじゃうらしい。大臣は、普段から問題を起こさないようにと用心深く、ストイックに生きてるらしいから、その反動なのかもね。
「ははは、あっぱれあっぱれ」
「そうでしょう?」
「そうでしょう」って、あんたは何もしてないでしょうが! その内、大臣は抑えがきかなくなったのか、私の体をあちこち触り始めた。人間だったら、完璧セクハラよ、これ。
「ジャローダって、結構柔らかいんだね」
「ええ、結構弄り心地はいいですよ」
 止めてくれても、いいんじゃないの? この日は、長い体をあちこち触られたり、口にお酒を流し込まれたりと散々だった。でもまだ、この時点ではよかった。本当にひどいのはこの後だった。
 
 大臣もポケモンを持っていた。マニューラ。タイプで言えば私の方が不利。でもそれ以上に、立場が弱かった。大臣といえば、あいつの上司の上司。とても逆らえなかった。
 マニューラ、相当飲んでいた。酔った勢いなのか、それとも元からこうなのか分からなかったけど、こんなことを要求してきた。
「なあ、ジャローダ」
 嫌な予感しかしなかった。
「折角だから、抜いて」
「折角だから」ってどういうこと!? まあ、お互いの主人は潰れちゃってたからってことなのかもしれないけれど……。ぶち込まれないだけまだいいのかな。さっきも言ったけど、立場が弱いから断れない。
 私は言われたとおりにするしかなかった。相手の粗末なモノに長い舌を這わせ、巻き付け、刺激を与えていく。早くイッてくれればそれでよかった。相手も酒が入っているだろうから、一発出したら寝てしまうに違いない。
「はあっ、ああっ、す、すごい……。うっ、くああっ……」
「んっ!?」
 口の中に出された……。当然、まずかった。何、立場が弱いとこんなことまでしないといけないの……?まあ、さっさとイッてくれたから、それはよかったわ……。

 それからしばらくして、あいつは副大臣になった。あの日のことが関係しているかどうかは分からないけど……。
 本当にもう、体を張って尽くしてきたといっても、みんな納得してくれると思う。
 数年後、内閣が倒れて、あいつもお役御免になった。議員はまだ続けているけどね。お互いこう思った「やっと楽になれる」と。


「まあ、色々あったよな」
「そうね……。こうなるなんて思ってなかった」
 人生どう転ぶか分からないものだ。色々やってみないと、どうなるか分からないうということだ。あの大臣も今は議員を退き、紹介をしてくれた友人は首都とは別のところで知事になっている。
 理不尽なこともあったが、それぞれの人やジャローダに感謝している。

 おわり




 <後書きとお詫び>

 どうもこんばんは。
 この度、4票獲得で3位をいただきました。投票してくださった皆様ありがとうございました。
 まず、お詫びを一つ。題名がただでさえ長いのに、後半を変換し忘れるというとんでもないミスを犯しました。管理人の方に直してもらおうかと思ったのですが、管理人さまは日々多忙とのことですので、題名変更の依頼はせず、そのまま作品を乗せてしまうことにしました。題がやたら長く、申し訳なく思っています。
 で、このようなこっぱずかしいミスを犯しましたので、名前を明かすのは……勘弁してください……。
 前々からこのWikiでは活動しておりますので、文体や話の構造で、作者が何となく推測はできる方はできると思いますが、この度の失態は、穴があったら入りたいくらいの失態でございますので、今回は名前を明かすことはいたしません。

 またお目にかかることもきっとあると思います。皆様、どうかその日までお元気で。
 

 ほんとにおわり。投票してくださった皆様、ありがとうございました。


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Last-modified: 2016-03-07 (月) 22:05:05
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