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ここは 亀の万年堂 の、更新履歴を保存しておくページ・・・では最早なくなりました。
稀によく廃棄処分になったモノや資料等が載っていることがあります。



『テンテンテテテンのレポート』Wiki用設定資料 


※ 注意 ※
キャラの名前や設定をそれぞれ分けることで、一応の配慮は図っていますが、以下の内容には「テンテンテテテンのレポート」に関するネタバレ要素が大量に含まれています。本編をご覧になっていない方は注意してください。

現時点での設定資料の進行度
レポートNo.1~5分まで掲載

更新履歴
2009年 7月1日

基本的な設定 

世界観について 


多くの方に見られるような、完全なオリジナルではなく、原作であるゲーム・アニメ等から引用している部分が多々あります。(→ポケモンセンターの仕様、地方・町の名前、人・ポケモンの名前やわざ名などなど)
そしてそれらに加えて、私が捏造した要素が追加されているような形になっています。例えば、キョウカのホームである「プラムタウン」なんかは完全に私が生み出した架空の街です。ただ、ねつ造であるとはいえ、一応地図を参考にした上で場所は決めています。が、それぞれの気候や特色については若干無視してしまっている傾向にあります。もしも、このお話の中心舞台である「ホウエン地方」に住んでいらっしゃる方がおりましたら、どうかその辺のところをご容赦していただきたいと思います。

ポケモンについて 


・ポケモンの言葉
このお話の中においては、『“一部の例外”を除いて、モンスターボールで捕まえられたポケモンのみが人間の言葉を“話すこと”ができる』ようになっています。野生のポケモンは人間の言葉を話すことができず、それぞれの種族名にちなんだ鳴き声(スピアーなら スピィ! など)を発することしかできません。

・ポケモンの生息地
また、世界観のところでも記述しましたが、ポケモンについては原作から引用している部分が非常に多く、とくせいやわざの優劣などは基本的にはそのままです。しかし、生息地などについてはこちらの都合でいじっている部分が多いため、後に色々とおかしい部分がでてくると思いますが、その辺のところもどうかご容赦していただければと思います。

・ポケモンの怪我
裂傷や骨折、損傷部位が残る欠落に関しては、すべからくポケモンセンターで治ります。腕とか脚がもげても、もげた部分が破壊されていなければ、つまりは原型を留めていれば、再びくっつけることが可能だということです。が、完全な欠落については治せません。ようするに、再生は原則として他者の手によっては不可能だということです。

キャラクター紹介 簡易版 (ネタバレを含む内容は考察版にて) 


人間
キョウカ
12歳の女の子であり、このお話「テンテンテテテンのレポート」の主人公。ポケモン事業に幅広く出資している家の一人娘。ポケモンには全く興味がない。セリナとは幼馴染。

セリナ
キョウカと同い年の女の子。全国規模(全地方)で展開している道場の跡取り。12歳という若さにおいて、すでに師範代として様々な者達に教えを説いている。レンの主人。

ドーナツ博士
プラムタウンに研究所を構える、頭の薄いポケモン研究者。性別は男。No.1にてキョウカに最初のポケモンを手渡した。

カズユキ師範代
ミシロタウンにある道場の師範代。No.4にてキョウカ達を道場に迎え入れた。

ポケモン
リード
種族名はゼニガメ。性別は♂。No.1にてドーナツ博士を介してキョウカと出会い、パートナーという名の保護者として彼女と旅に出ることになった。本人曰く天才だが、大食らいの印象が前面に出てしまっているため、あまりそのことを証明できずにいる。

グレイ
種族名はポチエナ。性別は♂。No.2にてプラムタウン近郊の森の中でキョウカ達と出会った。一時は別れたものの、そのすぐ後にスピアーに襲われているところをキョウカ達に助けられ、そのまま同行することになった。

ボッカ
種族名はゴーリキー。性別は♂。No.4にて、ミシロタウンの道場でキョウカ達と出会った。カズユキ師範代の弟子としてキョウカと試合をするも、完膚なきまでに負け、彼女の強さに興味をもち始める。そしてその日のうちには一行についていくと言ってキョウカにすがり、師範代の許可もあって同行することになる。役回りとしては荷物もちである。

レン
種族名はリザードン。性別は♂。セリナを主人として、プラムタウンの道場で暮らしている。何らかの事故によってか、翼の一部が損傷しており、飛ぶことはできない。日々何かしらの理由をもって、セリナにボコボコにされている。

ぷち
種族名はトロピウス。性別は不明。ディアルガを導くモノとして、日々ディアルガにぷちっとされそうになりながらディアルガに様々なことを教えている・・・らしい。本当はきちんとした名前が別にあるのだが、ディアルガには間違って、ぷちという名前で覚えられてしまっている。本当の名前は誰も知らない。

キャラクター紹介 考察版(話の内容に大幅に関わっています。ネタバレに注意) 

一部のキャラクターは簡易版のみとし、考察を省いています。

人間 

キョウカ 


「え? ポケモンって人を襲ってくるの?」

本来ならば10歳でポケモンをもらえるのに、「興味がないから」の一言でそれを撥ね退けた12歳の女の子。致命的なまでにポケモンに疎く、かろうじてモンスターボールの存在を知っているくらいで、他はまるで知らない。どの町にも一軒はあるポケモンセンターの存在も仕組みも知らないあたり、本当にこの世界の住民であるかどうか謎である(ちなみにポケモンセンターの配置整備を支援した、というよりも音頭をとったのはキョウカの家である)。
髪は赤色で長く、基本的には後ろの方で一本に束ねている。肌は色白。瞳の色は鳶色。全体的に線は細いものの、決してやせ過ぎているわけではない。背丈はセリナに比べると若干低く、この世界における同年代の女の子の平均的な高さである。
No.3や5においては料理人を唸らせるほどの料理の腕の凄さを発揮しているが、それ以上にボケっぷりが凄く、そっちの意味で四六時中リードのことをうならせている。本人がそれに気づいていないことが多いことから、基本的には天然でボケていることが窺える。
何年も道場で稽古をしていながら、同じ場にポケモンがいると知らなかった・外で寝る時はベッドが飛んで来ると思っていた等は、ボケているを通り越して異常である。
お嬢様であるにもかかわらず、何故か“ゴーリキー”を軽く捻れるほどに強い。幼少の頃から、セリナと一緒に稽古をしていた影響だろうか。
持ち歩いている物は家が家なだけに高級品が多い。テントや寝袋のみならず、食器類やその他の用品も、およそ一般人が持ち歩けないようなものばかりである。もっとも、彼女たちの中でそのことを気にするのはリードだけだったりする。

セリナ 


「あ、あたし、そんなこといつもしてた?」

殺人的を通り越して、殺ポケ的な実力を誇っている12歳の女の子。その拳はリザードンの腹を穿ち、その蹴りはリザードンの首をへし折ることができる。その実力により、道場の跡取りとなることが決まっているらしい。また、師範代として道場の看板を背負うという重責を担っていながらも、表面上は苦もなく日々の日課をこなしている。
性格はどこまでもキツく、力の無い者に対しても一切容赦しない。自身のパートナーであるレンに対しては特に厳しく、言葉でも拳でも暴力を振るっている。
しかし、それは表向きの面であり、その裏では様々なことで苦悩していることがNo.5にて判明した。その際の彼女は、普段の彼女から180度変貌していたといっても過言ではなかったが、どうにかその想いはレンに届いたようである。

ポケモン 

リード 


「おいらは亀じゃない。ゼニガメだ」

自称天才の大食らいのゼニガメ。経歴からして長く生きているのは間違いなさそうだが、その口調や性格、態度を見る限りではどう考えても子どもである。
ただし、自称天才というだけあってその知識の豊富さは並大抵ではなく、キョウカの質問に対しては実にわかりやすく答えている。言動は歯に衣着せぬものが多いが、なんだかんだ言ってもちゃんとキョウカの面倒を見ているあたり、それほど彼女のことを嫌っているわけではないようだ。
ちなみに好物はわかめスープ。理由は恐らく亀だから。しかし、甲羅を背にして転がっても自力で起き上がれるあたり、タダの亀ではない。
グレイから相談されることが多く(メンツを考えればリードしか相談できる相手がいないため)、その度に励ましたりからかったりしている。ただし、グレイから攻められると脆いという一面も見せている。

グレイ 


「きょ、きょきょきょキョウカさんっ! や、やめてください! は、恥ずかしいです!!」

色々な意味でキョウカキョウカなポチエナ。そのきょどきょどとした動きと言動、そして子犬のような可愛らしい見た目は、見る者の心をとらえてやまない・・・らしい。
話の中ではまだ明かされていないが、どうやらキョウカの前のトレーナーによって捨てられたらしいという暗い過去をもっている。キョウカ達もそれを口にはあまり出さずにはいるが、大体の察しはつけられているようだ。
No.5においては、お風呂にてキョウカの裸を見ることにより、見事なまでのフリーズっぷりを発揮している。ポケモンの♀ではなく、人間の女の子であるキョウカに対してそこまでなってしまうあたり、相当に初心であることが窺える。それ故になのか、♂の象徴はキョウカ曰く、随分と(以下省略)
キョウカが作ったからなのか、本当に気に入ったのかはわからないが、オムレツが大好きなようである。ふわふわとろとろなオムレツは見ても聞いても美味しそうではあるが、彼の口の構造上、やけどをせずに食べるのは大変に難しく、食べるのにはとても苦労しているらしい。

ボッカ 


「お、オレのことは気にしなくていい。こ、これも修行のいっか・・・ん・・・だ」

旅には欠かせない荷物もち。真面目でいかつく、寡黙で頼りになりそうな雰囲気を漂わせているが、仲間に加わってそうそう荷物に潰されるという、荷物もちにはあるまじきことをしでかす。ちなみに弁護しておくと、そうなったのは彼が非力だったわけではなく、荷物が企画外中の規格外な重量だったためである。
カズユキ師範代のお気に入りの弟子らしいが、どのようにしてであったのかは未だ不明。語られるかどうかも不明である。
口数は少ないが、先の荷物に潰された一件や、森の中で木に挟まって動けなくなる等事故ることが多い。どこぞの亀とは違った意味で初回からぶっとばしている。
食べ物の好みやその他趣味等は今の時点では不明である。

レン 


「してたさ。出会ってからこの8年間、ずっとな」

どこまでもセリナにボコボコにされるリザードン。効果音的な意味で、最早生きているのが不思議なくらいである。そしてグレイのキョウカキョウカ状態とはまた違った意味で、セリナセリナ状態でもあったりする。後の彼の姿は見る者に「男の子って・・・」と思わせること請け合いである。
正面から見て右の翼はとある事故によって欠けており、人工的には治すことができない(ポケモンの怪我について を参照のこと)。そのため、体のバランスがとれず、8年前にセリナと出会った当初は歩くことで精一杯だった。今現在は普通に生活できているが、それは全てセリナのごうも・・・特訓の賜物である。
No.5にて初の主役(?)を飾る。また、セリナとの性交時には、とても初めてとは思えない程スムーズにことを運んでいるが、経験があったのかどうかは謎である。少なくとも、人間としたことはなさそうだが・・・。

ぷち 


「だだだだから踏んじゃダメ! ダメなんです! プチッですよ! ディアルガ様!」

時の神様であるディアルガを導くモノとして生まれたトロピウス。導くモノとして、ディアルガに様々なことを教えるため、本を出したり、言葉で説明したりと色々頑張るのだが、いつもディアルガに苛められては空回りしている。が、その中でぷちはディアルガに対して、導くモノとしては抱いてはいけない感情を抱くようになっていく。
いつもの導きの中で、ある時ディアルガはぷちの顎の下の実に強く興味を持ち、食べてしまう。その実はあまりに美味しく、ディアルガはぷちの静止を聞かないままに、力を使ってぷちの時間を巻き戻してしまう。最初はそれによって生まれた歪みは小さなものだったが、ディアルガは何度もぷちの時間を戻してしまった。それにより、ぷちの体は取り返しがつかないくらいに酷い状態になってしまっている。
ぷちはディアルガに対して、時の力を使うことについて、うまく説明できずにいた。その結果、ぷちはその身をもって、ディアルガに教えることになった。が、ぷちの今わの際の願い、ディアルガの願いとにより、ぷちはディアルガの中で、永久に生き続け、永久に壊れ続け、永久に忘れられ続ける存在となってしまった。ディアルガが名も覚えていない導くモノの存在を求めた時にだけ、ぷちはディアルガと会えるが、それはもうトロピウスの原型もとどめておらず、ただの肉塊となってでしかない。果たして、ぷちはもう二度とディアルガと一緒になることはできないのだろうか。

亀のつらつら 

ひっそりと復活しました。

亀図鑑 

ポケモン 

《ゼニガメ》 

 《カメール》《カメックス》の進化前。今は特定の保護施設においてしか見ることのできない《亀》と似た外見を持つが、この種に関しては二足歩行が可能である。
 外敵に対して強い警戒心を持つ点は他のポケモンに通ずるところがあるが、《カメール》や《カメックス》を含め、彼らは集団を以って特定の場所を占有、生息していることが多い。主に選ばれるのは比較的温暖な気候にある島、海域であるとされているが、シンオウ北部の島に少数生息していたという報告もあり、その真相は未だ解明されていない。
 カントー地方の初心者推奨ポケモンの一匹であり、他二匹に比べて進化後が幾分か穏やかであり、扱いやすいため、後述の寿命のことを考えなければ、最も受け取りやすいポケモンである。
 正確な長さは計測することが未だできていないが、寿命が大変長いとされている。そのため、トレーナーと固く絆を結んだが、敢え無くトレーナーが死んでしまい、それに耐え切れず後を追ってしまうという悲しいケースがあるのも事実である。よっぽどの事情が無い限り、一部の他のポケモンと同じくトレーナーよりも長生きをするため、扱うトレーナーはそのことをよくよく考えていかなければならないといえる。よくある例としては家族で親から子へと延々と引き継いでいくという見方がある。
 《ゼニガメ》《カメール》に関しては特に街中では連れ歩きの禁止指定を受けていないが、《カメックス》の場合はその巨体のため禁止指定を受けている。
 知能は全般的に種を通して高くはないが、その寿命故に人間のしてきたことを見てきた者が多く、ポケモン擁護団体に席を置いている者もいる。

《ポチエナ》 

 《グラエナ》の進化前。灰色と黒色の豊かな毛並みと程よい大きさから愛玩用として人気が高いが、同じような扱いを受ける《ガーディ》に比べて人間に懐きにくい上、人間と生活する上では不適切な行動をなかなか直せないため、実際に共同生活をするには不向きなポケモンである。
 野生の者に関しては進化後の《グラエナ》をリーダーに小規模、または中規模の群で動くことが多く、一匹で行動をすることはまずない。群の中では《グラエナ》はリーダーの1匹と、恐らくは伴侶としての者が数匹のみで、他は《リーダー》が選出される際に淘汰される。《ポチエナ》はリーダーに絶対に服従であり、これは対トレーナー間でも同様で、仮にパートナーとして選ぶのであれば、《ポチエナ》に十分に自分が主であることを示さなければならない。他のポケモンに有効な”友達に”という姿勢ではまずパートナーにはなってくれないだろう。
 《ポチエナ》の時に十分に関係が作れていれば、《グラエナ》に進化した後はこの上ない警護者となってくれる。《ポチエナ》は獲物を追う特性上、疲労を覚えにくいとされ、その点が《グラエナ》になるとより強化されるためである。保安官の中では《ガーディ》を主に連れ添うが、状況によっては夜目も《ガーディ》より遥かに聞く《ポチエナ》や《グラエナ》を用いることもある。
 一時はその磨けば美しい被毛を刈り取るため、《ポチエナ》《グラエナ》と共に大量に捕獲・飼育がされていたこともあったが、現在では厳しく禁止されている。
 旅の際に、特に夜間においては最も気をつけなければいけないポケモンでもある。彼らは人間が食料を持っているということを知っていることが多く、また群の所帯の関係上飢えていることがほとんどなため、好んで人間を襲う傾向にあるからである。そのため、彼らが生息している場所には危険区域として指定されており、保安官のセーフハウスが必ず設置されている。

《ゴーリキー》 

 《ワンリキー》の進化系であると同時に、《カイリキー》の進化前。体高は一般的な成人男性のそれよりか少し低い程度の個体が多いが、尋常ではない筋力の源である筋肉の鎧を纏っているため、実際に比べてみてみるとそれ程大きさは変わらないのがほとんどである。
 性格は穏やかであり、人間に対しても好意的である。主に力仕事に借り出されることが多いが、中には保育や介護といった福祉に携わる個体もいる。人間と同じく二足歩行が可能な上、手を使うことができるので、生活を人間と共にするにはほとんど障害がない珍しいポケモンでもある。
 常に体を鍛えることを本能として持っているため、いくら穏やかであるといっても塀の内側に囲うとストレスが溜まり、暴力的になってしまうことが稀にある。
 莫大な筋力は魅力的だが、同時に大きく危険なことでもある。何せその力は無制限で発揮すれば、自分の数倍の大きさの岩を一撃で砕く程である。そのため、人間の中で生活する場合には何かしらの手段でその力を制限することが義務付けられている。主に用いられるのはパワーセーブベルトであり、無償で提供されている。
 気温の変化に比較的強く、人間の手で衣服を身に着けさせることに抵抗をする固体が多いとされている。しかしながら、街中については最低限下半身は何かしらの物で覆わなければ連れ歩くことはできないとしている。
 トレーナーからしてみれば、僅かの制限を気にかければ基本的には扱いやすく、また頼もしい存在であるため、昔から今に至るまで根強い人気がある。共同生活上の不便さがほとんどないことから、引退したトレーナーがそのまま本当のパートナーとして暮らした例もある。
 なお、過去には《ゴーリキー》を人間のドナーとして一部流用できるようにする計画が一部の地方で計画されていたが、ポケモン擁護の団体から強い抗議を受けたことで今は廃止となっている。

《リザードン》 

 《ヒトカゲ》《リザード》の進化系。進化前の個体と同じく尾の先端には命の灯火が宿っており、その炎が消えた時は死んでしまう。進化前に比べて体が著しく肥大しており、筋力と口から噴出される火力もそれに応じて強くなっているが、何よりも大きく変わったのは背中に翼が生えたという点である。
 気性が軒並み激しい上、個体数が少なく、生息地も詳細は不明だったため、近年に至るまで具体的な生態がわからなかった種族でもある。
 尾の炎は感情によって様々な色に変わるとされ、その炎が青くなった時は激しい怒りを覚えていることを表しているという説が有力である。
 ♀が少ない種族とされており、♂が♀を取り合って殺しあうことも珍しくない。それによって一部の地域では個体数を維持できなくなり絶滅してしまった例もあり、この点は《カメックス》《オーダイル》《ゴウカザル》などと通ずる所があるといえる。
 希少な種族ではあるが、カントー地方においては初心者推奨のポケモンとして進化前の《ヒトカゲ》が扱われている。しかしながら、現在ではポケモントレーナーとしての認可を受けることも難しくなっており、必ずしも初心者に渡されるとは限らない。特に進化後に《リザードン》となる《ヒトカゲ》を希望する者については、トレーナーの適性を厳しく審査されることになっている。
 モンスターボールによる捕獲は極めて難しいとされているが、その強さはポケモンリーグでも認められていることと、各地の伝説にある《竜》に近い見た目をしていることから、専門のハンター、トレーナーが大勢いる。《リザードン》が好んで人間や街を襲うことはまずないとされているが、彼らを捕獲しようとして食い殺されるという事故は毎年絶えることがない。
 稀に黒い固体が変異種として生まれることが確認されている。それは同時に特異種であることが多いとされているが、世界でも数匹いるかいないかとされており、詳しい生態はまったくもって不明である。ちなみに過去にはこの黒の《リザードン》に対して無傷で捕獲することを条件とした莫大な懸賞金をかけていた資産家がいた。加えて、各地方に伝わる伝説にも、恐らくはこの黒い《リザードン》をモチーフとした《黒竜》が登場しているものがあり、その翼は体躯と同じく黒く、瞳は血のように赤く、尾の先に宿る炎は常に紫であり、口から吐き出す黒炎は星すらも焦がしたと描かれている。
 気性と力の関係で街中ではボールから出してはいけないことになっているが、この点についてはポケモンの権利を擁護する各団体から抗議が浴びせられており、目下協議中である。

《ヘルガー》 

 《デルビル》の進化系。体内に大半の生物に対して有効な毒物を持っており、口から噴射される火炎によってそれは外敵に向けられることになる。一度その炎を浴びれば火傷を負うだけではなく、速やかに適切な処置を受けなければ外傷部の切除だけでは済まなくなる。
 第一種隔離指定を受けているポケモンである。特定の医療機関での然るべき処置を受けていなければ、ボールに持っているだけでトレーナーは処罰を受けることとなる。
 《グラエナ》や《ポチエナ》と同じく、野生の個体は群を持って動くため、捕獲するのは極めて困難とされているが、トレーナーは彼らが”何の資格も無しに扱ってはいけないポケモン”であるということを良く知っておかなければならない。なぜならポケモントレーナーは”トレーナーの規則に違反する行為をしているトレーナーについて通報する義務”を有しているからである。つまりヘルガーを街中だけでなく野外で無断で使用していた場合は速やかに近隣の保安官に連絡しなければならず、それを怠れば自分自身が処罰の対象になるのである。
 人間を襲った例も数多く報告されているポケモンである。”あく”タイプは全般的に人間に対して敵意、ないしは害をもった行動をとることが多いが、その中でも特に《ヘルガー》および《デルビル》は危険であるとされている。何の対策もせずに野外で出会ってしまった時はまず命の保障はないだろう。
 《グラエナ》《ポチエナ》と同じく、生息が確認されている地域に関しては一般人の立ち入りが禁止されている。許可なく立ち入れば、ポケモントレーナーの認可を受けている者であっても処罰の対象である。
 夜行性であるため、昼間に出会うことはまずない。また、水が大いに苦手であるため、水場の近くにも現れることはないとされている。さらには嗅覚の強さの関係上、”ゴールドスプレー”を代表としたポケモン避けも効果的に機能する。彼らが生息しているかどうか不明な地域でやむを得ず野営をしなければならない時には、そのことを覚えていると役立つだろう。
 隔離指定に入っているとはいえ、扱うことができないというわけではない。然るべき処置を受けていれば、”あく”と”ほのお”を使いこなす強力なパートナーとして付き合うことができる。日常生活を共にするにあたっては凄まじく多くの制限を受けるが、専門のブリーダー、および公的機関の指導を受ければ、一部の地域においては共に暮らすことも可能である。
 外見がスマートであり、黒の肢体と湾曲した角、鋭い眼はコンテストにおいても人気が高い。
 危険であることには違いないが、だからといって排除してしまうのは大きな間違いであるといえる。過去には彼らを危険すぎるとして絶滅させてしまおうとする運動が起きていたが、ポケモン擁護の団体によって止められている。

《アブソル》 

 進化前、進化後の姿が未だ確認されていないポケモン。不衛生な環境にある野生の個体であっても、そのあまりにも滑らかで豊かな、かつ白く美しい被毛と、額から生えている湾曲した鋭い刃が特徴の絶滅危惧種である。
 古くから《アブソル》は災害を招く”わざわいポケモン”であるとされ、ありとあらゆる場所において忌み嫌われてきた。地方によっては《アブソル》を殺した者には賞金が出ていた程である。それを建前として、その美しすぎる被毛を目当てに、多くのハンターが彼らを追い立てていた。
 《アブソル》が実際に大きな天災、もしくは人災の場にいたというのは事実であり、実際に記録として残されている。しかしながら、その災害そのものを彼らが引き起こしていたかどうかは定かではなく、実際にはただその場にいたというだけで存在そのものを追われていたのである。
 《アブソル》にとって生きる場所を見つけるのが困難な時代が終わったのは、実は今から40年前くらいである。ポケモン擁護の団体が彼らの生態を調べ上げ、それをかの有名なポケモン保護団体の『ストック』が世に訴えつつ、地道に保護活動を続けることで、《アブソル》は殺戮の手から公的には逃れることができるようになったのだ。
 だが、各団体の努力のかいもむなしく、現在《アブソル》は絶滅に瀕しており、最優先保護対象の絶滅危惧種というありがたくもない種別を受けている。そのため一般のトレーナーが《アブソル》を自分のパートナーとすることはほぼ無理であるといえる。なお、個人として保有している者に関しては最上級の管理義務が課せられていることも併せて記しておく。
 まさに悲劇といってもいい背景を抱えながら生きているポケモンであるが、その美しさ、ひいては切れぬ物は無いという程に鋭い刃による強さ故に、今現在もなお《アブソル》を襲う災難は絶えない。また、絶滅に瀕しているのは《アブソル》に限った話ではない。どうか志を高く持つトレーナー、ブリーダーの諸君には今一度そのことをよく考えていただきたい次第である。

《ムウマージ》 

 《ムウマ》の進化系。《ムウマ》に”やみのいし”を使うことで進化するという。”やみのいし”が現在ではもう手に入れることができないとされているため、《ムウマージ》の所有者、目撃者は極めて少ない。また”ゴースト”であるために研究も調査も大変に難しく、未だその生態の詳細は不明である。
 外見は《ムウマ》とは大分異なり、古い御伽噺に出てくる魔法使いのような姿をしている。一見すると仮装をしている少女のようでもあるが、その濃い紫色の体躯と妖しい色をもった瞳は明らかに人の持つそれではない。
 《ムウマ》と同じく大変な悪戯好きであるとされているが、その持つ能力により起こされる悪戯は悪戯のレベルに収まらないという。その能力というのは声に秘密があり、《ムウマージ》の声を聞いたものは一瞬で昏睡に陥り、《ムウマージ》の望むままに延々と夢をみさせられてしまうのだという。とある町ではこの《ムウマージ》1匹のために住民全てが昏睡に陥り、救助隊が駆けつけた時には大半の住民が衰弱しきっていたという報告さえ出ている。《ムウマ》の寂しがりやな性格を考慮すれば、《ムウマージ》の能力のそれも構って欲しいがためのものなのかもしれないが、だからといって死ぬまで夢を見させられるというのは許されることではない。
 《ムウマ》《ムウマージ》に関わらず”ゴースト”は何故か人に強く惹かれる傾向にある。一部の地域では確かに”ゴースト”が大量にいる場所もあるが、それ以外の場所においては特に”ゴースト”が群れているということは見られない。また、要求を満たしさえすれば(”ゴースト”である彼らの主な欲求は遊んで欲しいの一点である)この上なく協力的になってくれるのも”ゴースト”の特徴であり、少なくとも《ムウマ》に関してもこの点では一緒である。基本的にはあらゆる物質をすり抜けることができ、種によって力はことなるが念動力を使うことができる”ゴースト”は強力で有用なパートナーとなるため、トレーナーの中には好んで彼らを”説得”する者もいる。
 しかしながら、”ゴースト”を使った犯罪が絶えないのもまた事実である。特にもしも《ムウマージ》を犯罪につかわれようものなら大変なことになるだろう。実質彼らに対抗できるのは”あく”タイプであり、その”あく”タイプ自体が人に対して敵対心を持っていることが多く、対抗手段として用意するのが難しいためである。
 危険性から言えば《ムウマージ》は第一種隔離指定に入るが、実際の所は第二種どまりである。数があまりにも少ないことと、”ゴースト”であるという点を考慮してのことである。
 なお同じ”ゴースト”である《ゲンガー》が特別隔離指定に入っているにも関わらず、どうして《ムウマージ》は免れているのかと常に議論は止まない現状がある。それに対して《地方統括局》は明らかに《ゲンガー》による事故・被害が大きいためと出しているが、当然のようにポケモン擁護団体は反発を示している。

《フシギダネ》 

 《フシギソウ》《フシギバナ》の進化前。背中に緑色の大きな種を背負ったカエルのような姿をしている。果たして動物と言っていいのか植物といっていいのかわからないあたり、まさにポケモンであると言える。
 《ヒトカゲ》《ゼニガメ》と同じく、カントー地方においては初心者推奨ポケモンとして登録されている。《ゼニガメ》と同じく、基本的には穏やかな性格をしている個体が多い。初心者推奨ポケモンということもあり、環境の変化には極度の寒さを除いて強く、日光を浴びれさえすれば飢えにも強いとされている。《フシギバナ》まで進化をすると体が極端に大きくなることもあり、ボールに依存しない共同生活をする上での居住スペースや、必要量のエネルギーの確保などが大変になるが、第二進化形まではそれほど大きな障壁も無く、共に過ごしやすい良いパートナーとなってくれるだろう。
 《チコリータ》と同じく、リーグを目指すトレーナーにというよりは、家庭用にということで求められることの多いポケモンである。見た目を愛らしいといって好む者もいれば、つるのムチの利便性を求める者もいる。そして何よりも重要なのは、《フシギソウ》に進化してから発せられる甘い香りである。《フシギソウ》から発せられる甘い香りには、周りの者を落ち着かせる効果があり、それは《フシギバナ》になると一層強化される。育ち方によってその効果の度合いは異なるが、一家に一匹いるだけで、その家は香りのある限り争いが起きることは無くなるのだと言われているほどである。
 寿命の長さに対して個体数が少ないため、実際に求めるとなるとかなりの苦労が伴う。つい最近までは凄まじいまでの高値がついていたが、今現在はポケモンの金銭的なやり取りが一部の例外を除いて禁止されているため、手に入れるには特別なツテが必要である。
 多く観測されているわけではないが、ある日突然トレーナーの下から姿を消してしまうということもしばしば報告される。集団帰属本能があるのかどうかは不明だが、《フシギダネ》達はどこかに留まるということはあまりなく、夜な夜な集団で移動し、その集団の匂いに惹かれてトレーナーの下から去ってしまうというのではないかと専門家の間では言われている。長年愛して付き合ってきたパートナーが突然去っていってしまうトレーナーの悲しみは推し量れないものがあるが、それも本能であるのなら仕方ないのかもしれない。そう多くはないこととされているが、もしも《フシギダネ》達をパートナーとするなら、そのことは考慮しておいた方がいいだろう。
 戦闘面では背中の種から出される様々な種類の毒や”ソーラービーム”がよく使われるが、毒に関しては他の毒を使うポケモンと比べてみればそれほど強くはない。ただ、あくまでそれは対ポケモンに対してであって、人体に対しては極めて危険であることを忘れてはいけない。

《トロピウス》 

 くさとひこうの両方のタイプを併せ持つポケモン。長い首の先、顎の下には、非常に美味しいとされる実がなる。どうして実がなるようになってしまったのかは諸説あるが、一般的に言われているのは、くだものを食べ過ぎてしまったがために、実がなってしまったというものである。果たしてそれが本当なのかどうかは今現在もなお不明だが、ここで重要なのは、きのみではなく、くだものを食べてそうなったと言われているところである。
 すべからく多くの人間が知っているように、今現在、市場に出回っているくだものというのは、どれも非常に高価なものばかりである。一方で、きのみは安価なものが多い。それは何故かと言えば、くだものは自然の中でほとんど見られなくなってしまったからである。
 くだものが自然の中で見られなくなってしまったのは、所謂ポケモン以外の動物、鳥類がほとんどいなくなってしまったためである。街の外にも中にもそれらはほとんどおらず、いるのはポケモン達がほとんど。そして、それらがきのみよりもくだものを食べるのに対し、ポケモン達はくだものよりもきのみを好む傾向にある。それはくだものよりも、きのみの方が、ポケモン達にとって、より必要な栄養を効率よく摂取することができるためである。このような事情もあり、くだものは今となっては一部の富裕層にのみ嗜まれる高級品となってしまった。
 さて、そういった事情もあり、トロピウスが好物らしいくだものを食べるのは、今現在となっては非常に困難になっている。トロピウスが多く生息しているホウエン地方は、ぜんこく的に見れば、確かにくだものが比較的多く採れる地方だが、それにしても数は生息数に対して絶対的に足りない。ではトロピウスは何を食べているのかといえば、それはきのみである。また、実際にくだものときのみとを同時に並べてトロピウスがどちらを食べるのか選択させても、きのみを食べることが実験の結果明らかになっている。
 以上のように、トロピウスはくだものを食べなくとも絶滅することはない。それでは、一体どうしてくだものを食べて実がなったという話が今でも残っているのだろうか。そしてどうしてトロピウスは顎の下に実をならせるようになったのか。重なる疑問について、今現在も、専門の研究者達が研究している。

機関 団体等 

《ストック》 

 世界でもトップクラスの規模のポケモン保護団体。《ストック》という名前は同じ名前の花に由来しており、赤と白のものが団体のシンボルにもなっている。花言葉はそれぞれ「私を信じて」「思いやり」である。
 同団体の主な活動は世界各地の地方に点在する支部を基点とし、絶滅に瀕しているポケモンの調査及び保護、違法なハンター達の密猟の防止、一部のポケモン達による被害を受けている地方や街への支援などがある。
 同団体の功績は世界に知れ渡っており、《アブソル》を始めとして《ストック》に救われたポケモン達は数知れない。《ストック》以外にも数多くのポケモン保護団体は存在しているが、およそ50年以上前から続いている同団体の活動がなければ、今頃はまだ公然と咎められることなくポケモン狩りが行われていただろう。今そうなっていないのは一重に《ストック》とポケモン擁護団体とが提携し、ポケモンと人との共生を世に訴え続けてきたからであるといえる。
 同団体の特徴としてあげられるのは、いわゆる均一的な対応を常とした保護方法ではなく、極めて非効率的な個別対応を常とした保護方法をとっているという点である。団体によってはポケモンの安全を最優先として均一的な対応を敢えてとることもあるが、《ストック》についてはどの支部においてもそうした対応をとることはないといわれている。そもそもポケモンという生き物事態が実に様々な生態に分かれているため、種族ごとに対応を変えるなどしてある程度は個別化を測らざるを得ないのだが、《ストック》については同種であってもそうとせず、あくまで個別に保護、及び支援をしていくというスタンスをとっている。
 保護をされるようなポケモンは大抵の場合はありていにいって重症である。住処を追われた者、不当に人に扱われ続けてきた者、予防することも対処することも叶わない事態に見舞われた者など、実に様々である。そういった状況下にあるポケモンを保護し、また支援をしていくということは例え均一的な手法をとるにしても大変な労力が必要となる。もちろんそれには金銭的な面でも、である。
 それぞれのニーズに合わせて支援をしていくという《ストック》のとる手法をよしとし、大々的に取り入れている団体ももちろん存在する。しかしながらそれを《ストック》程の規模で行える団体は存在しない。それに伴う労力がというよりも先にあげた金銭的な面によってである。
 その点、《ストック》には強力な支援者がおり、金銭的な問題はクリアしている。潤沢な資金と設備、スタッフを取り揃えるには十分すぎる程の支援を受けているのである。ポケモン保護団体に対する、というよりもポケモンに対するなにがしかというところでおおよその予想はついているかもしれないが、その支援者は《沖夜財団》である。それも含めて、財団の功績が《ストック》と同様かそれ以上に世界に知れ渡っていることは言うまでも無い。
 なお、追記として同団体の特徴としてあげられる点で、保護したポケモンの意思によってはスタッフとして徴用しているというものがある。事実、ホウエン地方トウカシティに在る同団体の代表者の本宅では、特異種として登録済みの、最早同団体の代名詞といってもいいポケモンである《アブソル》を始めとして、様々なポケモンが使用人として徴用され、有意義に過ごしているという。許可さえ下りれば見学をすることも可能なため、興味があるなら実際に見てみるのもいいだろう。





試食品 


突発的に作品を載せる場所。ずっとは載せずに、適当に消していってしまうかもしれません。お腹を壊すかもしれませんが、よろしかったらどうぞ。

これまでの試食品リスト(期間限定、イベント、別名含む)
・『孤犬の狂宴譚』 (仮面小説大会に投稿)
・『双子のルール』 (亀日記に掲載 期間限定)
・『ちょこみんと』 (試食品に掲載 別作者名にて投稿)

限定の品については希望があれば直接お渡しします。
その際は、捨てアドですが、こちらの方にご連絡ください。

E-mail hasugi96@yahoo.co.jp

極力毎日覗いてはいますが、対応が遅れてしまったらもうしわけありません。


『ライラックはサイコソーダの猫がお好き』 



 ジュースっていうのは、色々なモノで出来ているんだ。何を使って作ったかによって味もにおいも大きく変わるし、飲む人によって好きな味は違うから、どのジュースが一番美味しいかなんて決められない。一番は作る人じゃなくて飲む人が決めることだからね。当たり前のことなんだけど、とても大事なことだ。
 ジュースの材料に使う木の実や果物は何を使うか。どういう配分で混ぜるか。炭酸水で割るのか、それとも、そのまま割らずに作るのか。温度は冷たいほうがいいのか、少し温かい方がいいのか。グラスの形は。ストローの色は。
 いかにも関係ありそうなこともあるし、全然関係なさそうなこともある。でも、繰り返すようだけど、ジュースを作る上ではどれも大事なことなんだ。とはいっても、そもそもジュースを絞ることができないボクにはあまり関係ないことだけど。
 ああ、ボクの手がこんなにゴツくなければ、もしも人間の手が生えたら色々なジュースを作れるのに。憧れはしても、せいぜいボクにできるのは人間お手製のジュースを最適な温度や綺麗なグラスでお客さんに出すことくらい。いつか、どこかの島にいるパッチールのお店みたいに、自分の手で作ったジュースを出すお店を出せたら・・・出せたら・・・・・・

「出せたら・・・」

「変態―――ッ!!!」

「ぎゃあっ!? い、痛いよ! 何するんだよー」

「こんな真昼間から! 出せたら・・・ですって!? この! アタシを前にして!」

「うぅ・・・そ、それがなんなのさ。どうして、それでボクが変態に、ひゃあっ!? ぐ、グラスを投げないでえっ!」

「ウルサイ! この変態ガン! アタシの話も聞かずに発情してるんじゃないわよっ!」

「ひえええええっ!? お、おちっ! おちっ! おちちっ!」

「ド変態―――――ッ!!!」

「わーっ!? 誤解だよおおおおおおおおっ!」

 ボクは何も悪いことをしてない・・・はずなのにこうしてひどい目にあってる。幸いというかある意味不幸なんだけど、ボクの体はとっても丈夫でグラスがものすごい勢いで飛んできても怪我をしたりはしない。ただし、それはあくまで怪我をしないだけであって痛いものは痛い。だからなるべくグラスを投げないで欲しいんだけど、ただでさえイライラしているらしい目の前の客にそんなことを言ってもグラスのおかわりが飛んでくるだけに違いない。とりあえず落ち着くまで待っておこう。

「え? また別れちゃったの? ついこないだ付き合い始めたんじゃ・・・」

「そーよ。でもムカついたんだからしょーがないでしょ」

なんとか落ち着いてから聞いてみたら、どうやら失恋でイライラしてたみたい。でも、しょーがないって言ったって、1週間はないんじゃないかなぁ。というか、1週間って付き合ったうちに入るのかな。何かの間違いだったとも言えそうだけど。やっぱり付き合うっていうのは、少なくとも1年以上は経って初めて認められるものなんじゃないかな。誰が認めるのかわかんないけど。

「でもさ、そんなすぐ別れちゃうんだったら、どうして付き合ったりなんかしたの? 付き合う前からわかるんじゃないの? 続かなさそうだなーとか」

「だからなんなのよ?」

「えっ?」

「続かなさそうだからなんなのかって聞いてんのよ」

「なんなのって・・・」

 続かないなら付き合わない・・・これっておかしいことなのかな。ボクからしたら、すごく普通のことだと思うんだけど。でも、目の前にある顔を見ている限りだと、どうやらそうじゃないみたい。うーん、うーん・・・わからないなぁ、でも変なこと言って怒られるのも嫌だなぁ。しょうがないここは素直に

「わかんない」

「死ねっ!」

「ひぎゃあ!」

 痛い。すごく痛い。そりゃ答えられないのは悪いと思うけど、何もとびひざげりをすることないじゃないか。ちょっと間違っただけなのに。ここ、ボク用にちょっと広く作られてるっていっても、ほとんど逃げ場のないカウンターの中なのに。カウンターを乗り越えて顔にとびひざげりするなんてひどいや。ぐすん。

「なに泣いてんのよ? だっさ」

「うう、だって、だって痛いじゃん。歯が折れちゃうよ。顔だって腫れちゃうし」

「ばーか。こんくらいで折れるような歯してないでしょ? 大体そんなこわいかおがはれるわけないじゃない」

「こ、こわいかおは関係」

「・・・」

「ある、かもしれないね・・・」

「そうよね。そうに決まってるわよね。――あ、飲み物なくなっちゃった。はやくおかわり出しなさいよ」

 はぁ~。なんでこんなことになっているんだろう。いつまでこんなことが続くんだろう。この街で生まれてからというものの、ボクはこの子――コジョンドのライラのひざに泣かされっぱなしだ。コジョフーの時はまだちょっと顔が腫れるくらいで済んでいたけど、コジョンドに進化してからは、もう歯が折れるどころか首まで持っていかれそうになることもしばしば。女の子なんだから、もうちょっとおしとやかに、というか、せめてとびひざげりじゃなくて、はたくくらいにしてほしいんだけど。いや、そのはたくも相当に痛いんだけど。でも、そんなことを言ったら、結局ひざがとんでくるだけなんだよね。

「ふー。やっぱり失恋の後にはサイコソーダよね。げふぁっ! うーい」

「・・・」

「なに?」

「い、いや・・・」

 汚い・・・。だけど、これでも女の子なんだよね。げふっとか豪快にげっぷしてるけど、黙っていれば相当な美人だ。あんまりにもかけ離れた種族からは魅力的には見えないんだろうけど、近い種族からは魅力的に見えるから、ライラは昔っからよくモテていて、コジョンドに進化してからは一層その勢いは増したんだ。当然、失恋の勢いもね。言ったらボクの顔がいくつあっても足りないことになりそうだけど。

 ん、そういえば、ライラの恋が続いたことなんて今まであったかな。いや、思い返すまでもなく、無いと断言できちゃうな。一緒に生まれてからずっと見ていたボクが言うんだから間違いないよ。
ライラの場合、まず、行き合い始めてすぐは、とても浮き浮きしてボクに報告してくる。ボクのお店のドアを半壊させる勢いで開けて入ってきて言う決まり文句は決まってこう。

「運命の相手ができたのよ!」

 それから場合によるけれど、大体1週間(これは今回の記録だけど)から1か月くらいで、今回みたいにボクのところにヤケサイコソーダを飲みにくる。そしてウップンを晴らすためにボクにとびひざげりをしたり、散々グチったり、グラスやあきビンを投げつつとびひざげりをしたりする。
 普通は失恋したら回復に時間がかかると思うんだけど、ライラの場合は半日もいらない。ボクの所でサイコソーダのビンを5本も空にすれば、もう次の恋を探しに行ってしまう。立ち直りが早いというか、本当に失恋しているのかなーといつも思う。

「じゃ、アタシはもう行くから」

「うん。わかった」

「なんでそんなにアッサリしてるのよ!」

「ひぎいっ!?」

 危なかった。もうちょっとライラとの距離が近かったら、今頃サイコソーダの空ビンは、ボクの顔の横を通らずに、ボクの顔に直撃していたに違いない。繰り返し言うけど、いくらボクの体が丈夫だからって痛くないわけじゃ

「何避けてるのよおおおおお!」

「うわわわわわ!? ま、まだ投げるの!?」

「いいからそこでジッとしてなさいよおおおりやああああ!!」

 そんな無茶な。いくらボクの体が硬いといったって、壁に当たった瞬間コナゴナになるような勢いで飛んでくるサイコソーダのビンが当たって痛くないわけがない。怒られるのは嫌だけど、痛いのも嫌だ。だ、だからボクは、ボクは・・・

「はうっ! ぐへっ! ぎゃあっ! ひいっ! いたいいたいもうやめてー! もうやめてー! ライラおねがいー!」

「フンっ。最初っから当たっていれば良かったのよ。それじゃ、また来るからね。ジェニィ」

 そう言ってライラはボクのお店から出て行った。はぁ、またお店の中を汚しちゃった。いくらライラ対策で壁やらカウンターうしろのところをあちこち補強してあっても、汚ればっかりはどうしようもない。体のあちこちが痛いけど、ちゃんと掃除しなくちゃ。そうしないと、またライラが来たときに怒っちゃうからね。

「なんでこんなに汚いのよ! このバカムガン!」

 ってさ。



 そういえば、まだボクのことを話していなかったね。ボクはクリムガンのジェニィ。この小さくも大きくもない人間の街で、ご主人様と一緒に暮らしているんだ。とはいっても、ご主人様は有名なポケモントレーナーだから、あんまり街にはいなくて、しょっちゅうあっちこっちを旅してまわっている。昔はボクも一緒に旅をしていたんだけど、ボクはもう十分に強くなってしまったから、こうしてお店で留守番をしているわけ。
 ちなみに店員はボクしかいないから仕事をするのもボクだけだけど、お店そのものはご主人様のものだ。お金が余っているから、他のトレーナーやポケモン達が集まれるような場所でも作っておこうということで建てたんだって。ボクはお店を建てるのにどれくらいお金が必要なのかわからないけれど、ちょっとやそっとじゃないんだろうなーとは思ってる。本当に強くて、すんごいたくさんのトレーナーから賞金をもらいまくってたご主人様からしたら、大したお金じゃないのかもしれないけど。だからご主人様が言っていた、お金が余っていたから~っていうのはあってると思う。お金の使い方としてあってるのかはわからないけど。

「ミックスオレ2つね」

「はーい。かしこまりましたー」

 店員がボク一人ということもあって、お客さんがいっぱいいると結構忙しくなる。でも、お店は人間にして10人くらいしか入れないし、メニューは おいしい水 サイコソーダ ミックスオレ ミックスソーダ ポフィン3種もりあわせ もりのようかんの6種類だけだから、実際はそんなに忙しくなることはない。というか、お客さんがいっぱいになることなんてめったにない。普通のお店はどうだかよくわからないけど、ご主人様が責任を持っているお店じゃなかったら、とっくに閉店になってるんじゃないかなって思う。でも、そのご主人様が、戻ってくるたびに

「おーおー、今回も盛大に赤字だな。はっはっはー」

 なんて言っちゃう人だからね。もともといい加減な人だから仕方ないのかもしれないけれど、キッチリと仕入はしてくれているから、お店を任されているボクにはありがたい。毎回毎回カイリュー便で、明らかに間に合わせの箱にバラバラに入って送られてくるのには疑問を感じる。いったいご主人様は毎回どこで仕入れているのかなあ。へんなやり方してなければいいけど。

「ミックスソーダ1つ。オレを多めにね」

「はーい。すぐにお持ちしまーす」

 ちなみにミックスソーダっていうのは、ミックスオレとサイコソーダを混ぜたもの。元になっているサイコソーダ自体薬っぽい味がしてボクは苦手なんだけど、不思議とミックスオレと混ぜるとその薬っぽさがなくなって美味しくなるんだ。そのせいかこのお店の中では結構よく出るメニューなんだよ。
これって、お客さんによって味の好みが違うから、本当は作る側からすると面倒くさいメニューなんだろうね。でも、ボクはちっとも面倒じゃなくて、ほんの少しの配分の差で味が変わるから、自分の腕の見せ所って感じで結構楽しかったりする。今のところ、お客さんからの受けも悪くないし。これならボクの手がゴツくたって問題なくできるし。

「お加減いかがですか?」

「うん。いつもと同じでおいしいよ」

 ほらね。お客さんの所に品物を出して、目の前で笑顔を見れるのはとっても嬉しい。例え赤字続きでも、ご主人様がボクにお店を任せてくれているのには本当に感謝しているよ。お店にやってくるトレーナーやポケモン達の話だと、旅とかバトルに使われないポケモンは、何もない場所に預けられて、すんごくさみしい思いをすることも珍しくないんだって。ボクだったらとてもそんなことには耐えられないなあと思う。考えただけで泣いちゃいそう。なんていうと、そんなにゴツくてコワい顔をしているのに泣いたりなんかするのかって思われるんだろうけど。
 信じてもらえないかもしれないけど、ボクは生まれた時は体が大きいだけであんまり強くなかったんだ。強くなりたいって気持ちはあったけれど、どうしてもバトルの時にうまく動けなかったり、からかわれたりして、よく泣いていたんだよね。だってボクはドラゴンなのに、ドラゴンっていったらみんな強くて当たり前だって思われてるのに、ボクよりもずっとずっと小さい相手に負けちゃったりするんだから。自分が情けないだけじゃなくて、そんなボクと一緒にいてくれるご主人様までバカにされたりして、すんごく悲しかったんだ。
でも、ご主人様はそんなボクを怒ったり、捨てたりなんかしなかった。なかなか強くならないボクにご主人様はずっと付き合ってくれて、面倒をみてくれて、強くなるようにって色々頑張ってくれた。だからボクも泣いてる場合じゃないんだって、ボクのことを信じてくれるご主人様のために強くならなきゃって一生懸命頑張った。そうしてどうにか強くなったボクは、長いことご主人様とふたりっきりで過ごしてきた街を出て、いろんな場所を旅して回ったんだ。
旅に出てからも楽しかったけど、ボクにとってはご主人様とずっと過ごしてきたこの街での生活が一番好きだ。それにこの街には

「あ、いらっし」

「邪魔するわよ。サイコソーダ。3本。5秒以内」

「は、はいいいっ!」

 ライラはいつも唐突にやってくる。前触れなんかほとんどないんだ。そしてそれに対してどうしてなんて口を挟むこともできない。そんなことをしたらすぐにとびひざげりが飛んでくるからね。だからボクはライラがサイコソーダを出せって言ったらすぐ出すようにしているんだよ。
 ってあれ、ボク、さっきまで何を考えていたんだっけ。うーん・・・まあいいや。今はそれよりもソーダを出さなきゃ。

「はい、お待ちどうさま」

「ふん・・・ってちょっと! これぬるいわよ!?」

「えっ? あ、あーっ、ごめん。まだ冷やしてないの出しちゃった。今すぐ」

「ごめんじゃないわよおおおおおお!」

「わわっ!? ちょ、ちょっと中身が入ってるの投げちゃダメだよぅ。すぐ取り替えるからあ」

 幸いにもライラは投げかけたサイコソーダを穏便にカウンターにおろしてくれた。ライラの暴力の基準は未だにボクにはよくわからないけど、きっと手に持っていたのが空のビンだったらそのまま投げつけていたと思う。ホント、おっかないよね。
 でも、今回はボクの間違いでもある。いつもならちゃんとキンキンに冷えているサイコソーダを出すんだけど・・・やっぱり何か考え事をしながら仕事をしちゃダメだ。仮にもボクはこのお店を任されているんだから。もっとしっかりしなきゃ。

「・・・」

 急いで取り替えた冷たいサイコソーダをそのままビンから飲んでるライラは不機嫌な顔で黙ってる。一緒に出してあるピカピカに磨いたグラスを使う様子はないみたい。グラス磨くのって大変なんだけどね。ボクの手は大きくてゴツイし、ツメが邪魔で、今ライラに出しているような小さなグラスを磨くのはとても難しいんだ。もちろん、出したグラスが使われなかったからって、お客さんであるライラに文句をいうのは絶対に間違ってるんだけど・・・・・・ってあれ、いつもなら2本目からグラスに注いでチビチビと飲んだりするはずなんだけど、今日はどうもそうじゃないみたいだ。2本目も1本目みたいにグラスをほっといでがぶがぶ飲んでる。なんかあったのかな。

「・・・いつもと違うじゃない。なんかあったの?」

 あ、これはボクじゃなくてライラからの言葉だ。その言葉をそのまま返したいって言いたいところだけど、そうすると間違いなくボクの鼻が真っ赤に・・・いや、元から赤いんだけど、とにかく痛い思いをするのでやめておこう。ライラはボクの顔が固いから痛い思いなんてするわけないっていうけど、本当に痛いんだよ。それに怖いし。

「特になにもないよ」

「ウソつくんじゃない!」

 ゴンッ! とサイコソーダのビン底をカウンターに叩きつけて怒るライラ。うう、本当に何もないのにー。なんでいっつもボク怒られてるんだろう。ああ、他のお客さんもいつものこととはいえ、こっちを見ているよ。すいませんすいません。

「ほ、本当に何もないんだってば。お店の方はいつも通りだし、体はどこもおかしくないし」

「ふーん・・・」

 ボクは体がとても丈夫だから病気になったりしない。でも、ご主人様は時々すんごく辛そうな病気、確かカゼとか言ってたけど、ご飯も食べれなくなっちゃうことがあった。そういう時は、ボクや他の仲間が一緒にご主人様のお世話をしていたっけ。なんだか懐かしいなあ。ボクは体がゴツゴツしているから、ご主人様が震えている時にギュってして温めてあげることは本当はできないんだけど、ご主人様はいつもボクにギュッとするようお願いしてきてた。ボクはそんなことしたらご主人様が痛くないかなって心配だったんだけど、すんごく嬉しくもあった。他の仲間には悪いけど、ボクのことを必要としてくれているって感じられたからね。
 ご主人様、ボクがいなくて大丈夫かなあ。ご主人様にはボク以外にも強くて頼れる仲間がたくさんいるし、ご主人様自身も旅にはとても慣れているから大丈夫に違いないんだけど、なんだか急に心配になっちゃった・・・さみしいのかな、ボク。

「アンタ、ウソつくのホント下手よね」

「え? ウソ?」

「いつも通り、アンタの顔はゴツくて、怖くて、キモいけど、そーんなにいつもは沈んでる顔してないでしょうが」

 いつものに加えてキモいが入ってた気がするけど・・・それはともかく、ボク、そんなに沈んだ顔してたのかな。自分じゃわかんないけど、ライラがそういうなら間違いなさそう。でも、何が原因だろう。うーん。うーん。

「う、うーん。でも、本当に何かあったわけじゃないんだよ。強いて言うなら・・・」

「ご主人様のことが心配になった、でしょ? 言わなくてもわかるわよ」

 まさにライラの言うとおりだ。どうしてライラにはボクの考えていることがすぐわかっちゃうのかなあ。ボクにはライラのことがあまりよくわからないから、何だか負けているみたいでちょっと悔しい。でも、ちょっと嬉しい。フクザツ。

「どうして? そりゃアンタがそんな顔するのは、アンタのご主人様のことで何かあった時だけじゃない。昔っからそうよねアンタって」

「そ、そうなの?」

「ハァ? 自分のことでしょ。そんくらい把握しときなさいよ。少なくとも、アタシがアンタとあってから今に至るまで、アンタがそういう顔をするってことはそれ以外にないのよ。――あ、ソーダ追加して。冷えたやつね」

 言われてみるとますますそうなんだろうなって思わされちゃう。確かにボクって普段からあんまり色々なことを深刻に考えないけど、ご主人様のことだけは別なんだよね。だって、それってみんなそうでしょ。ご主人様のいないポケモンは別だろうけど、それにしたって群れの仲間とかに対してそう思うもんじゃないのかな。大事な相手をいつも想うのは当たり前のことだとボクは思うなぁ。
 でも、ライラにそのまま言うと、やっぱり怒られそうだからここは適当にごまかそう。とりあえず今度は間違えずに冷えたソーダを出して・・・。

「はぁ・・・そうやってすぐ元に戻るのね。ホント、アンタってバカよね」

「なにが?」

「何でもないわよ。――ンッブアーッ! げふっ!」

 むー、何だかやっぱりライラがいつものライラじゃない気がする。いつものボクへの絡み方と違う気がするし・・・気になるなぁ。聞いちゃダメかな。ダメだよね。ライラのとびひざげりはできるなら2日に1回に済ませたいよ。だって怖いんだもん。

「じゃ、そろそろ帰るわ」

「あれ? もう帰るの?」

「そーよ。悪い?」

「い、いや。ありがとうございました」

「・・・ふん」

 グチをわめくわけでもなく、暴力を振るうわけでもなく、要するに特に何もせずにライラが帰るなんて珍しい。でも、ライラって言ったってお客様はお客様だ。お店の人がお客様の都合をどうこう言うなんておかしいよね。いつもと違ったって、それがいけないなんてことないんだから。
 ボクがそんなことを考えているうちにライラはお店から出ていった。その後ろ姿だけ見てる分にはいつもと変わらない・・・と思う。一体さっきまで感じてたいつもと違うっていうのはなんだったんだろう。いつかわかるかなぁ。

「すいませーん。ミックスオレと今日のポフィンくださーい」

「あ、はーいただいまー」

 お客さんはまだお店にいるし、これからも来る・・・といいな。さぁて頑張って働くぞー。



 普通お店っていうのはどこかでお休みをするものらしい。そうじゃないとお店で働く人がしっかりと休むことができないからね。
 でも、ボクはポケモンだし――あ、いや、ポケモンだって人と同じように休んでいいとは思うんだけど、ボクの場合はお店をやっていてもすごく疲れるわけじゃない。そして何よりお店をやっているのは楽しくて嬉しいから、めったにないしこれからもないと思うけど、病気とかケガをしなければ休まずにお店をやっていくつもり。
 だけど、ボクはご主人様のポケモンだから、お店だけをやっているわけにはいかない。ご主人様が言うにはボクはもう十分強いらしいけど、いつご主人様からバトルに呼び出されるかわからないから、いつでも役に立てるように練習しておかないといけないんだ。

 そんなわけで、ボクはお店をやる時間を1日中ずっとじゃなくて、おひさまがしっかりと昇る時間から沈むまでの間にして、それ以外の時間は練習するようにしている。とてもいいことに、ご主人様がお店の近くにポケモンの練習用の場所を作ってくれたから、そこでボクだけでもできる練習――例えばわざの確認だったりとか、重いものを持ち上げたり早く走ったりすることを疲れるまでやっているんだよ。時々街の人とポケモンが来て一緒に練習をすることもあるけど、街の人はご主人様みたいにバトルを沢山しているわけじゃないから、ボクもそれに合わせてやるようにしているんだ。
 ちなみに、ライラもここに練習しにくることが時々ある。特に機嫌が悪い時によく来るみたいで、ただでさえ強そうなとびひざげりに磨きをかけようと、わざを練習するところに置いてある太めの木の棒をいっつもへし折っている。折れちゃった木の棒はもう使えなくなっちゃうから、毎日使っているボクとしては折らないでほしいんだけど、それを言うと今度はボクが折られそうになるから、ボクはライラがそうする度に木こりの人にお願いして太めの木を譲ってもらっているんだ。ライラがスッキリしてお店に怒鳴り込まなくなるならそれはそれでいいんだけど・・・・・・やっぱりちゃんと言ってやめてもらったほうがいいのかなぁ。でも怖いし・・・。

「何が怖いのよ」

「いやライラが・・・あぶあっ!?」

「アタシのどこが怖いって? ん?」

「うぅ~、そ、そういうところが怖いんじゃないかぁ」

 今日もボクはお店を開ける前に練習をしにきた。街の人もポケモンもこないし、一人でのんびりとわざの確認をしていたら、いつのまにかライラが来ていたみたいで、おまけに独り言を聞かれてこんなことに。本当にもう、どうしてライラはいつもボクのことをこうやってぶつんだろう。

「アタシが怖い? ふぅ~ん。自分よりも弱い相手が怖いっていうわけ?」

「弱いって、ライラは十分強いじゃないか」

 それにライラも自分でそう思ってるんでしょ、なんて口が裂けても言えないので黙っておこう。
 それはさておき、ライラが強いっていうのは本当のことだ。ボクが今までご主人様と一緒に戦ってきた相手と比べてみても、わざの強さ、動きの速さ、どれをとってもかなり上の方なんじゃないかな。それと、きっと元からもって生まれたものなんだと思うけど、妙に勝負勘が強いんだ。ボクはライラみたいに動きが速くないから、相手の攻撃を見極めてわざと攻撃を受けて反撃することが多い。でもライラはその反撃を見切ってさらに追撃してきたりする。ボクは絶対に当たるっていうところで反撃しているし、実際それで今までたくさんの相手を倒してきた。だからライラのそういう勘には驚かされるんだよね。

「あくまで十分強い、なのね。結局アンタは自分がアタシより強いって思ってるんでしょ」

「そ、それは・・・」

 うう、言い方がまずかったなあ。でも、ライラには申し訳ないけど、ボクのが強いのは間違いないと思う。だってボクはご主人様と一緒に数え切れないくらい戦ってきたから。
ライラはボクみたいにこの街を出て戦ってたわけじゃない。だからどうしたってボクより実戦の経験は少ない。もちろんこの練習場で一人で特訓したり、街のポケモンと練習しても強くなれるだろうし、ライラはそうやって強くなってる。だけど、それだけじゃ強くはなれないんだ。少なくともボクはそう思う。

「フン。いいわ。なら決着つけましょうよ」

「え?」

「本気で勝負しましょうって言ってるのよ。アンタ、今までアタシに手加減してたでしょ」

「ええっ!? 本気でって・・・そんなことしたら」

「ケガするとでもいうの? 当たり前じゃない。本気っていうのはそういうもんでしょ。アンタ、アタシのことナメてるわけ?」

「そんなことないよ! ライラが強いのは認めてるよ。だけど、その、ライラは・・・お、女の子だし」

「ハァ? なにそれ。アタシが女だからなんなの? じゃあアンタは今まで女と本気で戦ったことないわけ?」

「そ、そうじゃないよ。でも、今までご主人様と一緒に戦った相手はみんな強くて、だから」

「それがナメてるって言ってんのよ。ようするにアタシが弱いってことでしょ? 今まで戦ってきた相手よりも、ずっと!」

「違うってば! ただ、ただボクは・・・」

 うう、うまく言えない。ボクはライラを傷つけたくないだけなんだ。でも、そう言ったらライラはきっとどうしてって聞いてくる。そうしたら、ボクは・・・どう答えていいのかわからない。幼なじみだから、大事なお客さんだから、どれもなんだかうそっぽい気がする。だけど何が正解なのかわからない。どうしたらいいんだろう。

「もういいわ。どうせアンタは・・・・・・ジェニィは口で答えらんないんでしょ。ならこうするしかないでしょっ!」

「っ! うわあっ!?」

 突然飛んでくるライラの腕。コジョンドであるライラの腕には、他のポケモンにはあまりない長い毛が手よりもずっと先まで生えていて、すごい速さで振られるそれは、とんでもない威力になる。そして今まさにボクに振られているその腕は、見慣れていて、受け慣れているものよりもずっと速かった。危うくボクの顔に思いっきりあたるところだったくらいだ。勘違いなんかじゃない。今までにない本気の攻撃。

「ライラ・・・本気なの?」

「黙れっ!」

 戸惑うボクに容赦なくライラは2発目の攻撃を仕掛けてきた。最初のを避けるので精一杯だったボクにはそれを避けることはとてもできなくて、覚悟を決めて受けるしかなかった。顔に直撃するライラの腕はとても痛かった。
けど、だからボクは攻撃を喰らう直前から尻尾を振るっていた。ライラはボクよりもかなり身長が低くて、ツメや牙による攻撃は当たりにくい上に効果が薄い。それにライラ程の反射神経があるんだからますます当たらないはず。これくらい密着してると、ボクの得意なはかいこうせんは溜めが長すぎて使えないし、思いっきり接近戦を仕掛けてくるライラからは距離をなるべくとりたい。そこまで瞬時に判断して、ボクは尻尾を振るった。そして気がついた時にはライラの小さくて軽い体を吹き飛ばしていた。

「ライラ!? だ、大丈夫?」

「うっ、うるさい! これでいいのよ!」

「でも、ボクは」

「うるさいっていってるのよ! 黙ってアタシと戦えっ!」

 直撃したボクの尻尾のダメージは結構なもののはずで、ライラも右腕で傷んだ場所を抑えている。ライラは動きが速い分ボクみたいに耐久力がないから、今の一撃だけでもかなり辛いに違いない。少なくとも、すぐに走ったり攻撃することはできないだろう、と思っていたのに、いつのまにかライラはボクの視界からその姿を消していた。
 これは公式のバトルじゃないから、人間が決めた基準とは関係ない戦い方をしないといけない。それはつまり、お互いに1回ずつ攻撃しあうんじゃなくて、さっきボクがわざでもなんでもない尻尾を使ったみたいに、好きに戦っていいってこと。だから動きの速いライラがボクの見えないところにいるのはすごくまずい。ボクが1回動く間にライラはきっと5回くらいわざを出せるはずで、このままライラがどこにいるかわからないままだったら、それこそ好き放題攻撃されっぱなしになっちゃう。時間はないけどよく考えなくちゃ。ご主人様はいつもこういう時よく考えろって言ってたもんね。
 まず、ライラはゴーストやエスパータイプじゃない。だからテレポートを利用した視界外からの攻撃は不可能だ。また、特殊などうぐを使っているわけでもないし、地面にはあなをほるの痕跡もない。ここはダイビングするだけの水場がないし、そもそもコジョンドであるライラには使いようがない。となればライラがボクの視界から消えたのは、とびはねるによって上空へと移動したか、痛む体でも頑張って持ち前の速さを活かしてボクの横か後ろに回り込んだかだ。どっちもありえるけど、ボクの勘ではとびはねるの方だ。ライラ程じゃなかもしれないけど、ボクだってご主人様と何度も一緒に戦って手に入れた勘の強さがある。だからボクは自分を信じて、その結果、宙を舞っているライラを見つけた。
 空中ではライラは身動きが取れないはず。とびはねるは相手の攻撃を予測して、それを回避しつつ攻撃できる時に使うのが基本で、相手がわざの特性をよくわかっていなければ今のライラのように奇襲に使えるかもしれないけど、少なくともボクには通用しない。はかいこうせんの格好の的だ。ボクはその隙を遠慮なくつかせてもらった。

「えっ?」

 ボクの出力を絞ったはかいこうせんは間違いなく空中のライラに直撃するはずだった。けれど、はかいこうせんはライラを素通りしてそのまま何もないところへと飛んでいってしまった。
 そう、ライラは最初から空中にいなかったんだ。空中に見えたのはライラのかげぶんしん。つまり、ライラが狙っていたのは

「はあっ!」

 ライラははかいこうせんの後を狙ってボクの後ろからとびひざげりを放ってきた。ダメージを負ったことで動きが鈍くなったのをかげぶんしんでカバーして、空中にはかいこうせんを誘導、さらにはその事後硬直にリスクなしのとびひざげり、ライラの作戦は完璧だった。相手がボクじゃなかったら、その作戦通りに相手にかなりのダメージを与えていたはずだ。

「っうあ!?」

 そう、ボクはライラの作戦を途中で読み切っていた。もしもライラがとびはねた時、いや、かげぶんしんをした時におひさまを背負っていたら、きっとボクは見破れなかったと思う。けど、そうじゃなかった空中のライラの姿は微妙にぶれていた。そこでボクはそれがオトリだときづいて、うしろに迫っていたライラに尻尾を振るっていた。それによってとびひざげりはボクの後頭部にあたらずに、微妙に軌道をずらされて不発に終わった。とびひざげりは威力が高いわざだけど、外すと自分が大ダメージを喰らうというデメリットがある。ただでさえボクの尻尾の直撃を受けた状態のライラにとっては、戦闘不能になるには十分なダメージだ。これ以上ライラは戦うことはできない。この戦いはボクの勝ちだ。

「ライラ・・・」

「・・・」

 地面に四つん這いで顔を俯けているライラにボクは手を貸そうとしたんだけど、そこでライラの体が震えているのに気づいた。ライラの耐久力については大まかにだけどこれまでの練習でわかっている。だから最初からそこまでダメージが残らないように調整したつもりだったんだけど、もしかしたらいきすぎたのかも。だったら大変だ。ここからポケモンセンターはそれ程離れてないし、足が遅いボクでもライラを抱えて走れば大事には至らないはず。そうと決まれば急いだほうがいい。

「わっ!?」

「触るなっ!」

「で、でもライラ、怪我してるんだったら」

「いいから近寄るなっ! うっ・・・」

「だめだよ大きな声出しちゃ。ボクがポケモンセンターまで運ぶから、ほら」

「さっわ、るなぁ・・・」

「!!!」

 嫌がるライラを無理やり抱え起こしたら、ボクの目の前には涙でいっぱいの赤い顔があった。その顔に気づいてボクはすごく後悔した。ボクは馬鹿だ。バトルで負けた後は誰だって悔しいし、泣くことだって珍しくない。ましてやライラは本気だったんだから・・・・・・そんな顔を見られるのは嫌だったに違いない。だからここまで

「あいたっ! ら、ライラ」

「・・・バカッ!」

 ボクに抱えられている状態から思いっきり腕を振るって顔面に一撃。そしてダメージを負っているとは思えないような速さでライラはボクを置いて走り去ってっちゃった。
 ボクはライラを助けようとしただけなんだけど、確かにボクが悪かったよね。ライラが今度お店にきたらきちんと謝ろう。今まで失恋でどれだけ泣いたり喚いたりしてもすぐお店にきたライラだし、きっと今日中にまたお店にくるに違いない。うん、そうしよう・・・。


 結局、あのバトルから二日たってもライラはお店に来なかった。動けないほど体が傷んでいた・・・わけじゃないと思う。だからライラがお店に来ないのは、やっぱりボクに会いたくないからなんだろう。

「嫌われちゃったのかな・・・」

 ライラと喧嘩したのは今回が初めてじゃない。ボクがライラを怒らせて、ぶたれて、物を投げられて、散々罵られてっていうのとは別に、お互いに納得できないことで言い合って、ボクもライラもお互いに二度と会うもんかってなったことは何度かある。だけどそうなってから少しすると、何だかさみしくなって、ボクはいっつもライラのところにいって謝りに行く。ボクが謝るとライラは少しだけ恥ずかしそうに、ボクの顔を見ずに小さな声で謝ってくれる。そうしてボク達はまたいつもどおりの関係に戻っていくんだ。
 ボクにはライラが何を考えて何を感じているかって全部わからない。でも、喧嘩して、何だかさみしいって感じるのは、ボクだけじゃなくてライラもそうなんじゃないかなって思うんだ。そうじゃなかったらボクが謝ってもライラがそれを受け入れて、ボクに対して謝ってくれるわけないし、その後いつも通りの関係に戻ることもないはずだよね。

「でも・・・」

 今回はいつもとちょっと違うのかもしれない、とボクはグラスを磨く手を止めて思った。
 今回も喧嘩をした時と同じようにボクから謝りにいけば元通りになるのかもしれない。ただボクが考えすぎているだけで、いつもと違わないのかもしれない。そうかもしれないんだけど、ボクは二日経ってもライラに謝りに行くことができなかった

「ボクもライラに会いたくないのかな」

 それは違う・・・と思う。喧嘩した後みたいなさみしいのとは違うけど、ライラに会いたいとは思っているはずだ。でも、会ってどうしたいのかがわからない。謝りたいのかもしれないけど、何を謝りたいのかがわからない。ただ気になっているのは。

「ライラはあの時、泣いてたんだよね・・・」

 ボクが慌てて駆け寄った時、ライラの顔は涙に濡れて真っ赤になっていた。失恋の時もライラはわんわん泣くけど、何だかそういうのとは違う泣き方だったと思う。ボクはあの時、ライラはボクに負けたくなくて、でも負けてしまって、それでどうしようもなく悔しくなって泣いたのだと思った。ボクもご主人様と一緒に旅をしていて、その途中でバトルをして負けた時、悔しくて仕方なくて泣いたことがあるからその気持ちはわかるんだ。
 でも、ライラはあの時本当に悔しくて泣いたのか今はわからない。なんていうか、そういう泣き方じゃなかったような、今まで見たことがない泣き方だったような気がするんだ。ボクはライラとずっと一緒だったから、ライラがコジョフーの時から一緒だったから・・・。

「どうしてライラはあの時泣いていたんだろう」

 わからない。わかりたいけどわからない。ボクにはライラのことでわからないことがたくさんあるけど、今回のことがわからないのはなんだか・・・もやもやする。ご主人様ならわかるのかな。でも、ご主人様は今ボクの近くにはいない。だからこのことはボクが考えて答えを見つけないといけない。

 そこまで考えて、やっぱりボクはライラと会わなくちゃいけないって思った。なんでライラに会いにいきにくいのかはわからない。ライラがなんで泣いていたのかもわからない。それがわからなくてもやもやするのがなんでなのかもわからない。ただわかるのは、ライラに会わないとなんにもわからないし、それをボクは嫌だと思ってるってことだ。だったら会いにいけばいい。今すぐ。

「そうだ。せっかくだから」

 ライラもきっとボクと同じように元気がなくなってるに違いない。だったらコレをもっていったほうがいいよね。元気になった時にコレがなかったら、ライラは絶対にボクのことをぶつに違いないから。

 ボクは準備をして、お店の扉の前の札をひっくり返してライラの所へと向かった。ライラの家はボクのお店からそんなに離れてはいない。だから迷ったりなんかしないんだけど、昔、ボクだけでライラの家に遊びにいった時、ご主人様の家への帰り道がわからなくなって、泣きながらライラの家に戻ったことがある。その時ライラはまだコジョフーで、ボクよりもずっとずっと小さかったんだけど、泣きじゃくるボクの手を引っ張って家まで連れてってくれたんだっけ。今思い出すとすんごく恥ずかしいし、実はその後も同じことが何回かあったりしたんだけど・・・・・・なんでこんなこと今思い出してるんだろう、ボク。

 と、そんなことを思い出しているうちにライラの家についた。ライラの家にはもちろんライラのご主人様である人間が住んでいるんだけど、ちょっとワケありで今はいない。だから家にはライラしかいなくて、ボクがここで家の呼び鈴を鳴らせば当然ライラ本人が出てくる。

「う・・・」

 ライラに会いに来たんだからライラが出てくることに問題はない・・・んだけど、いざ会うってなるとなんだか緊張する。呼び鈴のスイッチを押すか押さないか指を何もないところで泳がせながら迷っちゃう。ああ、押す前にライラが玄関から出てきてくれないかな。だけどそしたら何も言えなくなりそう。じゃあやっぱりボクが呼び鈴を鳴らして。でも出てこなかったらどうしよう。ああ。でも。ああ。でも。でも。ああ。

「何をウロウロキョロキョロしてんのよアンタはぁああああああああああっ!」

「うわぁあああああ! ギャア!」

 勢いよく玄関が開くと同時に、ライラが1秒とかけずにボクの顔にとびひざげりを決めてきた。久しぶりなようで懐かしいようで嬉しいようで複雑なそれは、間違いなくライラのとびひざげりそのものだった。ようするにとても痛い。

「むぐぐぐ、い、痛いよぉライラぁ」

「アタシの家の前で不審な動きしてたんだから当然でしょ! あと5発くらい入れてやったっていいのよ」

「ご、ごめん・・・。でも、呼び鈴を鳴らすかどうか迷っちゃって」

「そんなことで優柔不断になってどうすんのよ! こらっ!」

「あいたっ! うう、もうぶたないでよー」

「ふんっ! で、何しに来たのよ」

 なんだかすっかりいつもの感じになっているけど、そうだ、ボクはライラに会いに来たんだ。そしてライラはもう目の前にいて、ボクを蹴ったりぶったりしていて・・・あれ、いつもの感じってことは、元通りなのかな。だったら、もう何かする必要もなかったりするのかな。あれれ。

「え、えっと、ライラに会いに来たんだけど・・・」

「だから。何をするために会いに来たのよ」

「う、うーん・・・・・・実は、ボクもそれがよくわからなくて・・・わぎゃっ! 痛いよライラ」

「アンタどこまでバカなのよ! まったく。とにかく、ほら」

「えっ? ほらって?」

「真昼間っからバカでアホでノロマで顔が怖いクリムガンがか弱いコジョンドの前にいつまでもいたら怪しまれるでしょ! だからとっとと中に入りなさいって言ってんのよ!」

 なんだか色々気になるところはあるけど、これ以上ライラを怒らせたら何をされるかわからないから、ここはライラに従って素直にお邪魔させてもらおう。うう、にしても痛いなあ。はたかれたところがヒリヒリするよ。ライラの毛はとっても柔らかくてキレイなのに、どうしてはたかれるとこんなに痛いんだろう。

「適当にそのへんに座ってなさい。いちおうお茶くらい出してあげるわよ」

「えっ、いいよ。ボクがするよ」

「いいから! とにかく座ってなさい!」

「は、はいい!」

 ライラの家に入ったのはよく考えてみればすんごく久しぶりだ。ボクの記憶が間違っていなければ、確かボクがご主人様と一緒に街を出る前に来たっきりのはず。ということはボクがこの街に帰ってきてからは一度も来てないのかあ。
 結構な時間がたっているはずだけど、昔と家の中はそんなに変わっていないようなきがする。相変わらずライラ一人が住むには広すぎるくらい広いし、今はもう使われなくなったおっきな長椅子とかテーブルなんかも昔のまま。あ、ボクがうっかりつけちゃった壁の傷までそのままだ。うう、なんだか恥ずかしいなあ。

 とりあえず、このままたってると怒られそうだ。適当にと言われたので、昔遊びに来た時と同じようにふかふかとした敷物の上に座らせてもらおう。もちろん尻尾を変なふうに動かさないように気をつける。昔そんなことを気にせずに座ったら、思いっきり椅子をひっくりかえしてライラにすんごく怒られたからね。今もまだハッキリと覚えてるよ。あの時のライラのとびひざげりからのとびひざげりといったらもう・・・ぶるぶる。

「なによ、アンタ今でもそこに座るの?」

 そう言いながらライラがお茶を運んできた。きちんとボク用に大きなカップを用意してくれている。ライラとか人間用のカップだとボクみたいに大きな手のポケモンは飲むのが難しいんだよね。普段はおこりんぼだけど、こういう時はきちっとしてくれるのがライラだ。
それはそうと、どうやらライラも昔ボクがよくここに座っていたのを覚えているらしい。よくわからないけど、なんだかちょっぴり嬉しい。ふふふ。

「気持ち悪い顔でニヤニヤしないでよ。キモッ」

「・・・・・・ぐすん」

「まあいいわ。それで、なんで今でもそこに座んのよ。他にも場所はあるじゃない」

「そ、それは、久しぶりにここに来たら、なんだか懐かしくなってさ。昔はいっつもここに座ってたなあって、それで・・・って、ライラもよく覚えてたね。ボクが昔よくここに座ってたこと。

「そりゃ覚えてるわよ。アタシが何度言ってもそのばかでかい尻尾をきちんとできなくて、あっちこっちの椅子やらテーブルやらひっくり返されたんだから。あの頃は本気でその尻尾をちょんぎってやろうかと思ってたわ」

 な、なんてこわいことを。でも、そんなにボク何度もひっくり返してたかなあ。うーん、いまいち思い出せない。ってライラがなんだかこっちを睨んでる。あ、そうか。出したお茶を飲めってことか。早めに気づいてよかった・・・。

「ん、おいしいねこのお茶」

「いちいちそんなこと言わなくていいわよ。ふん」

 と言いつつもライラの顔は嬉しい時のそれだ。もちろんそんなことを言おうものなら怒ったそれに変わってしまうので言わない。実際お茶がおいしいのは本当だし、あえて怒らせる必要はどこにもないしね。ライラの嬉しい顔見るとボクも嬉しいし。

「それで、なに? なんでアタシに会いに来たのかわかんないんだって?」

 せっかく和やかな雰囲気になっていたんだけど、ひとまずお茶を置いて、ボクは申し訳なくそのとおりであることを認めた。ライラからすれば馬鹿にされていると感じてもおかしくないし、ライラが怒ったのも無理はないかもしれない。でも、ボクとしては何もかもわからないままは嫌だったし、ライラもきっと嫌なんじゃないかなって思ったんだけど・・・。

「ご、ごめんね、ライラ」

「いきなり謝られたってわかんないわよ。昔とは違うんだから」

「そう・・・だよね。でも、ボクはね、昔みたいにこれからもずっとライラと一緒にいたいんだ」

「だから謝るっていうの? そうすれば昔みたいにアタシもアンタに謝って仲直りできるからって?」

「ち、違うの?」

「・・・・・・・・・」

 ボクが聞き返しても、ライラはボクをジッと見たまま黙ってる。ボクが言ってることがおかしいのかな。でも、ボクはきっと謝ったらまた元に戻れるって思ってたんだけど・・・違うのかな。違うのかどうか、ボクにはわからない。わからないけど、でも、

「ボクがライラとずっと一緒にいたいって思うのは本当だよ。でも、そうなるためにどうしたらいいのかがわからないんだ。ここに来る前も考えてた。あれからずっと考えてた。それでライラに会いに来たら、ボクが思ってたのと違って、ライラはいつも通りで、それで・・・」

「・・・そう、いつも通り、いつも通りね。確かにそうよ。別にアンタが謝ろうが何しようがアタシはいつも通りよ。でも、だからってアタシとアンタの関係まで、前みたいになるってわけじゃないでしょ。何度も言ってるけど、アタシ達はもう子どもじゃないのよ。何もわからなかった頃とは違うの」

 ライラが言ってることはわかってる。きっとボクが謝ったことはライラにとっては望んでた答えじゃないんだろうね。でも、ボクにはライラが何を望んでいるのかわからない。
そうなんだ。ライラが言うように、ボク達は昔みたいに子どもじゃない。喧嘩して、謝って、仲直り。ボクは今でもそれができるんじゃないかって思ってた。そして元通りになるんじゃないかって。ううん、それどころかもうそうなってるんじゃないかって、今さっきまで思ってた。
だけど、ライラはそうじゃないって言ってる。謝っても、そうしなくても、元通りになるわけじゃないって。なら、謝る以外のことを考えなくっちゃいけない。そうしないと、ライラがボクのことを嫌いになるかもしれない。それは嫌だ。すごく嫌だ。だから考えなくっちゃ。考えなくっちゃ。

「うーん・・・うーん・・・・・・・」

「はぁ・・・ねぇジェニィ」

「うーん・・・え?」

「あのね、アンタは昔みたいに戻りたいって思ってるんでしょ?」

「う、うん」

「なら、ハッキリ言っておくけど、アタシはもうごめんなのよ」

「えっ? ごめんってどういうこと?」

「だから、昔みたいに・・・ううん、ついこないだまでみたいに、アンタと付き合うのはもう嫌だし、したくないって言ってんの」

 ライラはいつもみたいにおっかない声と顔で喋ってるわけじゃない。ボクを思いっきり蹴ったりぶったりしてるわけじゃない。なのに、ライラのその言葉は、聞いたボクはすごく苦しくなった。今までにないくらい胸が苦しい。だって、ライラが言ってることって、それって・・・。

「ら、ライラは、ボクのことが・・・・・・き、嫌いに、な、なったの?」

 きちんと聞こえたかわからないくらい小さなボクの声。本当は聞こえて欲しくなかったのかもしれない。だって口にだって出したくない。考えたくもない。少しは考えたりとか口に出したりもしたけど本当になってほしくない。ライラがボクのことを嫌いになるなんて。でも、ライラがさっき言っていたことも、ボクが聞いてもずっと黙っているのも、それって、それって・・・。

「そうよ。ジェニィなんて嫌いよ。アタシのことなんにも、なんにもわかんないんだから!」

 そう言ってライラはボクを置いて二階に走って行っちゃった。置いてかれたボクの頭の中にはずっとライラの言葉が響いてた。嫌だ嫌だと思ってたことが本当になっちゃって、ボクはもう何も考えられなくなった。ただ目から涙が溢れてる。昔迷子になっちゃった時みたいにわんわん泣いてるわけじゃない。声も出ずにただ涙だけがあとからあとから出てくる。しっぽも頭も手も足も動かすことが出来ずにボクはずっと懐かしい敷物の上で泣いていた。

 
「帰ろう」

 どれくらい時間が経ったのかわからない。でもまるで他の生き物みたいな枯れた声がボクの口から出て、それをボクはよくわからずに久しぶりに聞いたように感じた。
 泣きすぎたのか体がとても重い。ここから帰ってボクはどうするんだろう。どうしたらいいんだろう。お店に戻って一日にあまりこないお客さんの相手をするのかな。いつご主人様に呼ばれてもいいように練習をするのかな。
 ううん、どれもしたくない。だって何をしてももうボクはライラと一緒にいられない。ライラに嫌われちゃったんだから。嫌われたくなかったのに、ボクはライラに嫌われちゃった。
 そうなんだ。お店は楽しい。練習だって楽しい。でもそれはそれだけじゃだめなんだ。ライラがそこにいるから楽しかった。
ご主人様の時だってそうだった。ボクが強くなるとご主人様が喜んでくれた。いろんなところを一緒に旅して、いろんなものを一緒に感じて、なにをするにしても一緒で、だから楽しくて嬉しかった。だから、この街にボクだけ戻ってくる時は辛かったんだ。それだけ好きなご主人様と離れないといけなかったから。
だけど、ボクはご主人様から離れても頑張って過ごせてた。楽しく過ごせてた。それはなんで。そんなの決まってる。ライラがいてくれたからだ。ボクが街を離れる前も、戻ってきてからも、ライラは変わらずボクのそばにいてくれた。ボクがご主人様から離れて寂しくっても、ライラがいてくれたから寂しさに負けずにやってこれた。ライラがいてくれたから・・・。
でも、そのライラに嫌われちゃった。そしたらボクはひとりぼっちだ。お店を開けばお客さんがくるし、練習にいけば街の人間やポケモンも来る。だけどボクはひとりぼっちだ。ライラがいなきゃ・・・。
ライラと一緒がいい。嫌われてもまだそんな風に思っているボクはどうしようもないバカなのかな。だけど本当にそう思うんだよ。嫌われても一緒にいたいって。ボクはライラとずっと一緒がいいって。ぶたれたって怒られたっていいから、今までよりももっとキツくされたっていいから一緒がいい。ひとりぼっちが嫌だからじゃなくてライラと一緒がいいんだ。
そこまで強く思えていても、ボクにはまださっきの言葉が響いてる。ライラがボクを嫌いって言ったこと。そしてボクがライラのことがわかっていないって言われたこと。
言葉がグルグル頭の中を回ってる。考えたくても考えられない。それとも本当は考えたくないのか。

「帰ろう」

 二度目の言葉は一度目よりも乾いてた。でも、一度目と違ってその言葉はボクの体を動かしていた。もうノロマって言ってもらえない動きで、ボクはのろのろとライラの家から出ようとしていた。そしてそんなボクに、絶対に聞き間違えない声が聞こえた。
 
 後から考えてみれば、この時ボクが少しでも早く動いてライラの家から出ていたら、それこそ一生後悔することになっていたと思う。でも幸いにもボクはそうならなかった。そうしなかった。

「ライラ!?」

 重くなりきっていたはずの体なのに、ボクは自分でもびっくりするくらい速く動いてた。懐かしい階段を急いで上って、どれだけ久しぶりでも間違えないライラの部屋のドアをぶちぬいていた。だってライラの泣いてる声が聞こえたから。そしたらこうするに決まってるじゃないか。

「じぇ、ジェニィ? どう、して?」

 ライラは寝床に横になって泣いてたらしい。体を起こしてこっちを見て驚いている。ボクは躊躇せずにライラに近づいて体をくっつけた。寝床も踏んづけている。するとライラは普段なら怒ってるはずなのに、ボクをぶったりせずにそのままくっついてきた。見た目ではわからなくても、くっついた時にライラの毛が濡れているのがわかった。きっとボクが泣き声を聞く前からたくさん泣いてたんだ。でも、ボクに聞かせたくなくて、苦しくてもひとりぼっちで泣いて・・・。

「ライラ・・・ごめんね」

 さっきと同じように謝ったけど、今度はライラは怒らなかった。ボクも今度はちゃんとわかって謝った。ボクは本当はすぐにこうするべきだったのに、自分だけ悲しいと思って泣いちゃってた。ボクだけ悲しいなんてことはないはずなのに、ずっとそれに気づかずにライラをひとりぼっちにさせちゃってた。だからボクはライラを今までしなかったみたいに、横になっている体を起こしてあげて、包むように両腕を回してギュッと抱きしめた。そしたらライラは堪えきれなくなったように大きな声をあげて泣き始めた。

「バカッ! バカバカバカッ! ジェニィのバカッ! どうしてひとりにするのよ! ひとりにしないって言ったじゃない! アタシのことひとりにしないって・・・」

「ごめん。ごめんね」

「ごめんじゃない! 約束しておいてアタシのこと置いてったじゃない! 一緒にいてくれるって言ったのに・・・うっ、うっ、うわああああああああん!」

 痛いだろうに、ボクの硬い体に顔をこすりつけながら泣くライラを抱きながらボクはハッとした。ああそうだ。ボクはどうして忘れていたんだろう。ボクは昔、ライラと一緒に生まれてすぐの時、その時からすでに乱暴だったライラに約束させられたんだ。何があってもずっと一緒にいるって。あれからすごくたくさんの時間が過ぎたけど、ライラはずっとそのことを覚えていたんだ。なのにボクは・・・。
 ボクは、ライラとずっと一緒にいるつもりだった。そうしてるつもりだった。でも、それはボクがそう思っていただけで、ライラにはそうじゃなかったんだね。ボクがこの街から離れた時、ライラはつっけんどんに怒りながら見送ってくれたけど、その時も本当は辛かったんだよね。なのにボクはそれをわかろうともしなかったんだ。また街にはいつか戻ってくるから、それでって。
 ライラはボクがご主人様と旅している間、どれだけひとりぼっちで頑張っていたんだろう。ボクみたいにご主人様がいてくれるわけでもなく、この人もポケモンも少ない街でずっと・・・。
 ライラはね、とっても強い。ボクが戦ってきた相手と比べても強いよ。でも、強いからって何でも大丈夫なわけじゃない。ひとりぼっちでいられるわけじゃない。ボクだってご主人様と一緒に強くなってもこんなに泣き虫だ。だからボクはライラに約束しよう。もう絶対に破らない約束をしよう。

「ライラ、ねぇライラ、ボクは、今度こそ約束するよ。ずっとライラと一緒にいるって」

「そ、そんなこといって、また、また行っちゃうんでしょ? また、あ、アタシを置いて」

「もうしないよ。ライラを置いていったりなんかしない」

「じ、ジェニィのご主人様に、よ、呼ばれても?」

 ボクの腕の中でボクを不安げに見上げながら聞くライラを見て、ボクは一瞬だけ目を閉じた。そうしないとボクは、ボクでもわかるこんな時に、目から涙が出ちゃいそうだったから。
 ご主人様に呼ばれたら。もしそうされたらボクはすぐにでも店を閉めてご主人様のところへ行くに違いない。ご主人様はボクにとってかけがえのない大事な存在だ。かえなんてないたった一人のボクのご主人様。
 でも、ボクの腕の中にいてくれるライラも同じだ。ボクが今まできちんと気づいていなかっただけで、わかろうとしていなかっただけで、ライラもかけがえのない存在なんだ。

 ねえご主人様。ボクを許してくれますか。初めてあなたにお願いするボクを許してくれますか。ボクはライラとずっと一緒にいたいです。これからもずっとずっと一緒にいたいです。

「ほ、本当? ねぇ、もう一度言って」

「ボクはライラとずっと一緒にいるよ。これからもずっと・・・」

「ジェニィ・・・」

 ライラはまた泣いてしまった。でも、ボクは見たんだ。ライラはきっとバレてないって思ってるかもしれないけど、ボクはちゃんと見たよ。君が泣いてボクの胸に顔を押し付ける前に、少しだけその顔が笑ってたのを。
「な、なに笑ってるのよ」

 ライラだけじゃなくて、気づかないうちにボクまで笑ってたみたい。でも、ライラの嬉しそうな顔みたら自然と笑っちゃったんだ。なんだかご主人様が嬉しい時にボクも嬉しくなっちゃう時と同じみたいだ。
 あ、そうだ。せっかくお互いに笑えたんだし。せっかくもってきたアレの出番だ。

「ううん、なんでもないよ。ああ、そうだ。ちょっとまっててよライラ」

「えっ? ちょ、ちょっと、どこ行くの?」

「あっ、あーそっか。約束したばっかりなのにこんなことしちゃダメだよね。でも、えーっと、これでいいよねっと」

「きゃっ!? ね、ねぇっ! ちょっとこれ」

 ボクはこんな時のために持ってきておいたアレを取りに1階に降りようとしたんだ。でも、そうするとライラをひとりぼっちにしちゃうし、それは約束を破ることになっちゃうし、だからライラを抱っこして一緒に降りることにした。なんだかライラがわたわたしてるけどどうしたんだろうね。これなら約束を破らずに降りれるしいいと思うんだけど。

「お、降ろしてってば!」

「え? でも」

「いいから! っもう! いきなり抱え上げられるからびっくりしたじゃない!」

「だって、そうしないと約束破っちゃうし」

「に、2階から1階くらいなら別にいいのよ!」

「そうなの? まあいいや。ほら、これ」

「えっ? さ、サイコソーダ? どうして?」

 そう。ボクがライラのために持ってきたのはサイコソーダだ。ライラといえばやっぱりコレだよね。まだ泣きすぎて顔がちょっと赤く腫れてるように見えるけど、きっとコレを飲んだらまた元気になってくれると思うんだ。

「どうしてってライラはコレが好きでしょ? 最近お店に来てなかったし、飲みたいんじゃないかなって思って」

「・・・あ、ありが、とう。でも、そ、その前にちょっと」

「ん? なに?」

 ボクが渡したサイコソーダを両手で持って、なんだかライラはもじもじとしてる。ライラのことをなるべくわかろうとしてるボクだけど、ちょっとこれはわからない。もしかしておしっこを我慢してたりするのかな。でも、それだったらさすがにボクから言うわけにいかないし・・・。うーん。

「じ、ジェニィは、その・・・旅の中で、色んな相手と会ったのよね?」

「えっ? 相手? うん。色んな人間やポケモンと会って、話したり戦ったり一緒に旅をしたりしたよ」

 ライラが旅のことを聞いてくるなんて珍しい。でも、なんで今そんな話をするんだろう。ボクはてっきりすぐにサイコソーダを飲むためのグラスとか氷を用意しなさいって言われると思ったんだけど。

「じゃあ、キレイだったり、カワイイ・・・お、女の子とも?」

「女の子? うーん・・・どうだったかなあ」

 言われて思い出してみると、確かに女の子とも会ってる。そりゃあっちこっち旅してたから当然なんだけど。でも、キレイだったり可愛いかぁ・・・それってライラと比べてみてってことなのかな。だけど人間の女の子とライラはちょっと比べられないと思うし、他のポケモンとってなると・・・

「人間の女の子はよくわからないけど、ポケモンだったら、ライラよりキレイだったり可愛い女の子はあんまり記憶にないなあ」

「えっ!? あ、アタシはどうでも・・・ううん! と、とにかくあんまりってことは、少しはいたの?」

「うーん。いたかもしれないけど思い出せないや。旅で覚えてるのってご主人様とのことばっかりだし」

「そう・・・・・・」

「???」

 いったいライラは何を知りたいんだろう。ボクが女の子に興味があるか知りたいのかな。正直言うと、ボクってあんまり興味ないんだけど、それ言ったら怒られるのかな。ご主人様に言った時は全然怒られなかったし、それどころか、どうしてかわからないけど笑われたんだよね。なんであの時笑われたのかなあ。

「ねぇ、ライラは何が知りたいの?」

「あ、アタシはただ、その・・・・・・ジェニィに好きな相手がいるのかなって・・・」

「好きな相手? ボクが好きなのはライラとご主人様だけだよ」

「へぁっ!?」

 ボクが聞かれたままに答えたらライラはやたらと驚いてサイコソーダの瓶を床に落っことしちゃった。たまたま床に敷物があったからよかったけど、普通の床の上だったら割れちゃうところだったよ。危なかったー。
 あ、好きな相手って言われてパッと答えちゃったけど、もっと言えばたくさんいるのかも。ご主人様と一緒に旅をしてた時の仲間のことも好きだし、強かった相手のことも好きだし、それからえっと、えっと

「あ、アタシも・・・・・・す、好き」

「ん? なにが?」

「えっ。だ、だから。じ、ジェニィの、こと・・・」

「本当? 嫌いじゃない?」

「さっきは、そう、言っちゃったけど、本当は・・・好き」

「よかったぁ! ボクも好きだよ。ライラからも好きって言ってもらえて嬉しいなあ」

 いくらボクでもさっきの2階でのやり取りから、ライラがボクに言った嫌いがウソだったってわかってたけど、こうやってちゃんと好きって言ってもらえると安心するね。さて、じゃあ今度こそサイコソーダを。

「ね、ねぇ、ジェニィ」

「なあに? ライラ」

「その、ジェニィはアタシのことか、可愛いとかキレイって思って、る?」

「うん。ライラは美人だと思ってるよ。実際昔からモテてたじゃない」

「じゃ、じゃあ・・・・・・アタシと、その・・・ずっと一緒にいてくれる?」

「え? うん。ボクはライラとずっと一緒にいるよ」

 あれ。ボクさっきライラにずっと一緒にいるって言わなかったっけ。ライラもおなじく返事してくれたはずなんだけど。やっぱり不安でもう一度確認したくなっちゃったのかな。それなら何度でもボクはライラに伝えるつもりだからいいんだけど・・・。

「そ、そうじゃなくって。だから、その、あの・・・・・・」

 まだライラはもごもごと何かを言いにくそうにしている。ずっと一緒にいるっていう意味をボクが勘違いしているのかな。何か他に意味が・・・あ、そっか。それは確かに言いにくいかも知れない。ボクは全然気にならないんだけどなあ。ただ問題はできるかどうかってことなんだけど・・・・・・まあなんとかなるかな。

「ライラ、ひょっとしてどこで暮らすかを気にしてるの?」

「えっ?」

「ボクのことは気にしなくていいよ。ボクのところで一緒に暮らそう。だってずっと一緒にいるんだもんね。ライラの家の方がもちろん大きいけど、ちょっと改築すればたぶん大丈夫だよ。街の大工さんにお願いすればやってくれると思うし、お金なら」

「ち、違うの! そうじゃないの!」

「え? 違うの? ボクはてっきりそういう話なのかと」

「あ、アタシはジェニィとケッコンしたいって言ってんの!」

「えっ? ケッコン?」

「・・・・・・はううっ」

「わっ!? ら、ライラ? ライラ?」

 ライラってば顔がまっかっかになったかと思ったら突然倒れ込みそうになるから驚いちゃった。とりあえず大丈夫そうだけど・・・・・・でも、ケッコンってなんだろう。ずっと一緒に同じ場所で暮らすこととは違うのかな。ボクがよくわからないってことは人間の言葉なのかな。

「ねぇライラ。ボク、ケッコンってなんなのかよくわからないんだけど、それって人間の言葉?」

「うう・・・そうよ。ケッコンっていうのは人間の女と男がずっと一緒になって」

「なあんだ。それなら大丈夫だね。あれ? どうしたの?」

「その、一緒になって、子どもを作る・・・の」

「子ども? 子どもって・・・・・・たまごを作るってこと?」

 ボクが聞くとライラはなんでか恥ずかしそうに頷く。
 なるほど、ケッコンってずっと一緒になるだけじゃなくてたまごも作ることなんだ。知らなかったなあ。じゃあご主人様と一緒に旅をしていた仲間の中にもたまごを作ってたのがいたから、それもケッコンだったんだね。なんでご主人様は教えてくれなかったのかな。
 あ、でもどうしよう。ボクずっと一緒になるのは大丈夫だと思うけど、たまごの作り方がわからないや。ライラはわかるのかな。わかるならいいんだけど、わからなかったら誰かに聞かなきゃ。大工さん知ってるかなぁ。

「ねぇライラ。ライラはたまごのつくり方知ってる? やっぱり大工さんに聞いたほうがいい?」

「だ、大工!? だめよそんなの!」

「えっ? でも、ボクたまごの作り方がわからないんだ。これでライラも知らなかったら誰かに聞かなきゃいけないでしょ」

「き、聞く必要なんかないわよ。アタシが知ってるから平気!」

「本当!? よかったぁ。じゃあボクにもわかるように教えてくれる?」

「ええっ!? で、でも・・・」

「あっ、それとも、今のボクには難しいのかな。何か練習とか必要? ボク頑張るからなんでも言ってよ。えっと、たまごを産むのはライラだよね? だったらライラがきちんと満足できるように」

「ととととととにかく! じゃ、じゃあまずはににに2階に行くわよ!」

「え? ここじゃできないの? 2階よりここのが広いよ。よくわからないけど広い方が」

「ダメだってば! 寝床じゃないと」

「あ、でもサイコソーダがまだ」

「もう! 持ってけばいいでしょ! ほら!」

 怒ってる・・・のとは違うみたいだけど、ライラはボクを無理やり2階に連れて行こうと背中をグイグイ押してくる。そんなにすぐたまごを作りたいのかな。
 それにしても、うーん・・・たまごかあ。子どもができるってどんなものなんだろう。ボクは人間の子どももポケモンの子どもも可愛くて大好きだけど、自分の子どものことなんて少しも考えてこなかったなあ。2階に上がったらライラに聞いてみようか。


 というわけでボクとライラはまた2階に戻ってきたのであった。なんで2階じゃないとだめなのかはボクにはわからないけど、ライラが2階じゃないとっていうから仕方ないよね。さて、これからどうするんだろう。

「それで、ライラ。一体どうしたらいいのかな」

「え、えっと、まず服を脱ぐのよ」

「えっ? 服?」

「えっ?」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・わ、私達、元から服なんて着てなかったわね」

「うん」

 そりゃあボク達ポケモンも服を着ることがまったくないわけじゃないんだけど、ポケモン用の服っていうのはものすごく高いんだ。だってボク達はポケモンって言ってもライラとボクみたいに見た目が全然違うから、人間の服みたいに簡単に作れないからね。
 それにしてもさっきからライラはボクに背中を向けて何かを見てるみたいなんだけど、一体何を見てるんだろう。たまごの作り方の本でもあるのかな。

「じゃあ、次は・・・えーっと、お互いの体を温め合う」

「温め合う? うーん、さっきみたいにボクがライラのこと抱きしめればいいのかな?」

「たぶん・・・ううん、そうね。さっきみたいにしてちょうだい」

「わかった。よいしょっと」

「よいしょって、そ、そんなにアタシ重い?」

「ライラが? ボクからしたら軽いけど、なにか気になった?」

「な、なんでもない」

「じゃあ問題ないね。それで、この後どうしたらいいの?」

「えっ? あっ、そうね。次は・・・って、ジェニィいったん降ろしてもらっていい?」

「いいけど、離れちゃって大丈夫?」

「少しくらいなら平気よ。それに、このままだとわからないし・・・」

「えっ? なんだって?」

「なんでもない! ほら、早く降ろして!」

「はーい」

 ライラをそっと降ろすと、ライラはボクに背中を向けて何かを見始めた。さっきも思ったけど、ライラが見てるのってやっぱりたまごの作り方の本なんじゃないかなあ。それならボクも一緒に見たほうがいいと思うんだけど。

「ねぇ、ライラ。たまごの作り方の本を見てるんだったら、ボクも一緒に見たほうが」

「ええっ!? そ、そんなの見てないわよ!」

「そうなの? でも、さっきから何か見てるみたいだから」

「こ、これは、その・・・・・・たまごを作るのには、ちょっと色々と気を付けないといけないことがあるから、それを確認するための・・・か、紙よ」

「それならやっぱりボクも一緒に見るよ。いいでしょ?」

「う、うー・・・」

 怒ってるような恥ずかしがってるようなわからない顔をしながら、ライラはボクに紙を見せてくれた。ボクから見るとそれはどう見ても本なんだけど、ライラが紙だっていうならきっと紙なんだろうね。
 ふむふむ。ボクはご主人様にちゃんと人間の文字を教えてもらったからわかるけど、これはやっぱりたまごの作り方の本・・・じゃなくて紙みたい。確かにさっきライラが言っていたみたいに、場所は暗くて狭いところ。服は脱ぐこと。お互い位体を温め合うことなんかが書いてある。ちゃんと絵まで描いてあるけれど、なんで裸の人間の絵なんだろう。さすがにクリムガンとコジョンドとは言わないけど、せめてポケモンの方がわかりやすいんじゃないかなあ。

「ねぇねぇ、ライラ。この温め合うの次のところに書いてある、キスをするってなんだろう?」

「は、はぁ!? き、きききキスって言ったら・・・」

「絵もあるからわかるかなって思ったんだけど、どの絵がキスなのかボクにはよくわからないんだ。この首元をなめてるのがそう?」

「ち、違う違う!」

「じゃあこっちの女の人の股のところを舐めてるのがそうなのかな?」

「ちがあああああああああああう!」

 むむぅ。たまごを作るのって難しいんだなあ。きっとこの紙はすごいわかりやすく説明してくれてるんだろうけど、ボクにはちっともわからない。でもわからないとライラとたまごを作れないし、そしたらケッコンできないし・・・。

「うーん、ライラはわかる?」

「・・・・・・わかるわよ」

「そっか! じゃあ大丈夫だね、どうするか教えて。あ、まずはさっきと同じようにボクがライラのこと抱きしめないといけないのかな」

「ううん。それはいいから、その、目を閉じてくれる?」

「えっ? なんで?」

「いいから! そうしてくれないとできないの!」

「わ、わかったよ。むー、これでいい?」

「うん。じゃあ、アタシがいいっていうまで目を開けちゃだめよ?」

「わかった」

 ボクにはキスのことがよくわからないからここはもうライラに任せるしかない。でも、終わったあとになんで目をつぶらないといけないのか聞いておこう。きっとたまごを作るのは今回だけじゃないし、毎回ライラに任せっぱなしじゃわるいしね。ってあれ。なんだか口のところに柔らかいものが。うーん、それにあったかい。なんだろう。なめてみようか。

「ひゃうわっ!?」

「えっ!? ど、どうしたのライラ!? まだ目開けちゃだめ!? アイタッ!」

「バカッ! なに舐めてるのよっ!」

「ええー? だって、口のところに何か当たったから、何かなって思って。ねぇ、まだ目開けちゃだめ?」

「も、もういいわよ。でも、目開けたらそのままじっとしてるのよ」

「うん・・・んっ!?」

 ボクがライラに言われて目を開けた時には、もうライラが目の前一杯に近づいてきてた。そしてボクの口にはさっきと同じ感触とあったかさが・・・・・・。さっきはわからなかったけど、ライラは自分の口の先をボクの口にくっつけてたみたいだ。これがキス、なのかな。初めてしたけど、いや、本当はさっきしたから初めてじゃないけど、なんだか気持ちいい。
 キスをしてからしばらくして、ライラから口を離した。さっき舐めちゃって怒られたからボクは口を開けないように気をつけてたんだけど、それでも涎が出ちゃってたのか、ライラとボクの口の間に涎の糸ができちゃってた。なんだか恥ずかしい。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ライラもボクと同じで恥ずかしいのかも。ボクと目を合わせながら黙っちゃってるし。ううんー、ボクにもライラにもきっとこの後どうしたらいいのかわからないから、続けるならさっきの紙を見ないといけないんだけど・・・。

「ね、ねぇ、ライラ。その、続けるなら紙を見ないと・・・」

「・・・え? あ、ああ、そうね。み、見ましょう。ええっと、次は・・・」

「うーん、キスの次だから・・・・・・今度こそこれじゃないかな? 男の人も女の人も相手の股のところを舐めてる、けど。何でこんなことするんだろうね?」

「・・・・・・・・・そ、そうね」

「じゃあ、ボクからした方がいいのかな?」

「えっ? えっ、で、でも!」

「ん、ライラからのがいい? ううーん、何だか恥ずかしいけど・・・あっ」

 ああそうか。またボクはわからんちんになるところだった。ボクが恥ずかしいならきっとライラだって恥ずかしいんだよね。ボクはまだいいかもしれないけど、どっちがいいかって決めるのだってライラからしたらすごく恥ずかしいのかも。だったらそれをさせるわけにはいかないよ。
 でも、どうしたらいいんだろう。ただライラを困らせたくない。キスの時、ボクは・・・ううん、ライラもきっと気持ちよかったと思う。だったら今度もきっと大丈夫だよね。それなら、今度はボクから

「ライラ、今度はボクからするよ。いいかな?」

「・・・・・・」

 ボクが聞いてもライラは黙ったままだったけど、それでも頑張って小さく頷いてくれた。恥ずかしかったんだろうけど、それでも。
 これ以上ボクが何か言っても仕方ない。だからボクは一度ライラを優しく抱きしめてから、ゆっくりとライラに横になってもらった。ライラの毛はいつもと同じでキレイで柔らかいけど、毛の下の体は何だか固くなってるみたいだ。怖いのかも。だってボクもちょっと怖いから。きっとライラはボクを怖がってるんじゃなくてどうなるかわからないから怖がってるんだ。なら、まず安心させてあげなきゃ。

「んっ・・・」

 これであってるのかわからないけど、ボクはさっきと同じように、だけど今回はボクから横になっているライラに覆いかぶさるようにしてキスをした。ボクの方がどうしたって顔が大きいし、ライラとは顔の形が違うからちょっと難しかった。でも、キスをしたらライラの体の固さが少しほぐれたきがする。よかった。安心させたげられたのかも。
 ライラから口を離して、ボクはちょっと自分の体を動かした。うっかりライラを押さえつけないように気をつけて、ライラの股のところに顔が来るように。
 よく考えてみたらライラのこんなところ見るの初めてだ。今までライラはボクがこんなにライラの体に触るのを許してくれなかったし、だからボクも触ったり近づいてよく見たりなんてしなかった。けど、もしかしたら、ライラもボクもずっと前からこうしたかったのかな。それなら今こうしてお互いの体に触れ合えるのって、何だか嬉しいね。ライラもそうだといいな。

「ジェニィ・・・」

 両腕でちょっと顔を抑えながら小さくボクの名前を呼んでくれたのは、ボクに用があるからじゃない。やっとライラのことがわかり始めたボクにはライラが何を言いたいのかわかってた。
 ボクはそっとライラの両脚を動かして、ライラの股のところがよく見えるようにした。こうして見てみると、ちょっとだけ股の真ん中らへんの毛が濃いようなきがする。大事なところ・・・だからなのかな。とりあえずここを舐めてみよう。歯が当たらないように気をつけて。

「ひゃっ!? あっ、ん・・・ぅ」

 ライラが声をあげたからちょっと様子を見たけど、痛いわけじゃないみたい。たぶん、つづけて大丈夫。
 キスの時も思ったけど、ここもあったかい。ライラの体ってこんなにあったかかったんだね。お日様もずっと使ってる毛布もとてもあたたかいけど、そのどれよりもボクにはライラのあったかさが気持ちいい。ボクもライラにとってそんなあったかさになれたらいいな。

「じぇ、ジェニィ・・・」

 なめ続けてるうちに、何だかライラの股のところからじんわりと水みたいなのが出てきた。ツメで傷つけないようにちょっと毛をかき分けてみると、ボクの股のところにあるような筋とは違って、ピンク色のあな・・・って言っていいのかな。たぶん、おしっこが出る部分が見える。
 もしかしたら、このじんわりと出てる水みたいなものはライラのおしっこなのかな。でも、その割に匂いがきつくない。どっちかっていうと、ちょっといい匂い。うまく言えないけど、もうちょっと嗅ぎたくなるような・・・・・・。それに、もしもおしっこでも、ライラがすごい恥ずかしがったらやめるけど、ボクは気にしない。どこまですればいいのかわからないけど、もう少し舐めてみよう。

「っ・・・! んんっ、ぁは、ふ・・・ん。あんっ! あ!」

 さっきよりもライラの声が大きくなってる。それに、どんどん水みたいなのが溢れて、あなの周りはボクの涎とあわせてもうびちゃびちゃだ。最初はそこまでじゃなかったけど、匂いも強くなって、何だかクラクラしてきた。キスをしてた時みたいにちょっとぼーっとする。このままだと、ううん、ああ、ボク、よくわからなくなりそう。
 うう、だめだめ。よくわからないけどよくわからなくなっちゃだめな気がする。けど、そうなりたい気もして、ああもう、ボクどうしちゃったんだろう。

「ジェ、ニィ?」

「ライラ・・・?」

 ライラが息を荒くしながら頭をあげてこっちを見てる。そうだ。ボクだけじゃダメなんだ。そうだった。ボクも、ライラにしてもらわないと。ってあれ、ボク、いつもと違う。普段はおしっこのところから飛び出てたりしないのに、どうして出ちゃってるんだろう。あの紙に載ってた絵の人間の男の人みたいになってる。やっぱりライラの股を舐めてるうちにおかしくなっちゃったのかな。

「ら、ライラ、ごめん・・・・・・何だかボク、おかしく、なっちゃった」

「どうして? だって・・・ジェニィ、ちゃんとアタシのこと」

「まって、ライラ、ぼ、ボク、ああんっ!」

 ライラはボクが待ってって言っても聞かずに体を起こしたボクの股をなめてきた。なめられているのは股のところだけなのに、うう、何だか全身がビリビリする。でんきをもらったみたい。ちょっと痛いけど、けど、だけど、でんきの時とは違って、ああんううう。

「ライラぁ、ボク、ボクぅ・・・んん」

 ボクがライラにしてたみたいに、ライラもボクが声をあげてもなめるのをやめない。ぴちゃぴちゃ音をたてながらなめ続けてる。やっぱり、ライラもそうだったんだ。ボクも嬉しい。ライラにすごく求められてるきがする。ううん、求められてる。ああだめだ。もう考えられない。ただ気持ちよくて。ライラにこんなことされて恥ずかしいのに。だけどライラのちょっとざらざらした舌になめられて、ライラのあったかい口の中にボクのが入って、それで、それで・・・

「ふぁっ! ああっ! だ、だめ、ライラ、ライラぁ、ボク、おかしくあっちゃぁ・・・」

「アタシも、ジェニィ。ジェニィ・・・」

「ライラ、ああああっ!」

 おっきな声が出ちゃって、ボクは我慢できなくてライラにおしっこをかけちゃった。でも、いつもと違っておしっこの色が白かった。何でだろう。ただ、全身がしびれて、それで、一瞬真っ白になって、力が抜けちゃった。ものすごく気持ちよかった。けど、まだ欲しい。ボク、まだ、ううん、ずっとライラが欲しい。だってライラ、柔らかくて、おいしそうで。あれ。おかしいよね。おかしい。ううん、だめだ。考えてるとなんかおかしくなっちゃう。今はライラだけ。
 ボクはそれ以上考えないで、ボクのおしっこがかかって白い部分が増えちゃったライラをまた横にした。ほんとは拭ってきれいにしたかったかもしれない。でも、ごめんね、ライラ。ボクもう我慢できないよ。この先どうしたらいいかなんてよくわからないけど、もう紙を見なくてもわかった。ボクは迷ったりせずにまだ飛び出したままのものをライラの中にいれた。それだけじゃなくて、ちょっとライラの腰を持ち上げて、そのまま何度も動かした。

「ライラ! ライラっ! すごく気持ちいいよお!」

「アタシも。アタシも気持ちいい!」

「ライラァっ!!!」

 ただボクは何度も動かして。声をあげて。ライラの中のあったかさに全身がとろけて。しびれて。ライラもそれにこたえてくれてた。ライラと一緒に動くたびに一つになってる感じがして、とても気持ちいい。
それからずっとボクはなにもわからずにライラを白くし続けた。ライラも泣きながら、だけどきっと嬉しく思って受け入れてくれた。ボクも嬉しかった。一緒になるって、ケッコンするってこんなに気持ちよくて嬉しいことだったんだ。

「はぁ、はぁ・・・」

「ふぅ、ふぅ、ん・・・・・・」

 何度おしっこが出たかもわからないけど、いつのまにかボクもライラも倒れちゃって息をするのがやっとになってた。すごく気持ちよかったけど・・・疲れた。もうだめだ。動けないや・・・。

「・・・ジェニィ」

「なあに、ライラ・・・」

「コレ、飲んでもいい?」

「えっ?」

 ボクと違ってライラはまだ動けるみたい。すごいなあ。そしてそんなライラはサイコソーダのビンを持ってボクに飲んでいいかって聞いてる。こんな時に飲むのってちょっと思ったけど、これだけ疲れてるから少しでも回復するためにってことなのかも。あ、だったらボクもちょっとわけて・・・って言おうとしたら、ライラはもう全部飲んじゃってた。ああ・・・ボクのサイコソーダ。

「うう、ボクも飲みたかったよ・・・」

「そう? じゃあ・・・」

「っ!!!」

 倒れてるボクの上に乗っかってきて、ライラはボクにキスをした。ああそっか、ライラ、これがボクの分のサイコソーダってことなの。うれしい。やっぱりライラっておいしい。でもね、ボク・・・もう、ねむ・・・い・・・・・・ぐう。



 ライラと一緒に2階にあがってたまごを作ってからボクはずっと寝てたみたい。おかげで今までにないくらいお店を閉めっぱなしにしちゃったけど・・・仕方ないよね。だってたまごを作るのがあんなに大変で疲れるなんて思ってなかったんだ。それに、たぶんほとんどボクのせいだけど、夢中になってるうちに撒き散らしちゃったおしっこだったり、尻尾を振り回して壊しちゃった家具だったりを片付けるのも大変だったしね。あともう一つ言うなら、これもボクのせいだけど、真っ白になりすぎちゃったライラが体を洗うのも大変だったみたい。ボクが手伝おうかって言ったんだけど、断られちゃった。なんでだろう。
 でも、大変なことばっかりじゃない。目が覚めた時、お日様はもうずっと高くまで昇っちゃってたけど、すぐ隣にライラがいて、ボクはすごく嬉しかった。昨日は本当にたくさんのことがあって、辛くて、悲しくて、そして嬉しくて・・・・・・もしも全部夢だったらどうしようって思ったから。
 ちなみに、そのことをライラに言ったら、いきなりほっぺたを引っぱたかれた。一発で目が覚めるくらい痛くて、なんでこんなことするのって聞いたら、ほら、夢じゃないでしょって・・・。いや、そりゃ痛かったら夢じゃないけど、もうちょっとやり方は考えてほしいよね・・・・・・。

「ちょっとジェニィ! もっと早く歩きなさいよ!」

 そんなライラは今、ボクの前を歩いてる。のんびり歩いてるボクが気に入らないみたいで、すっかりいつもの調子に戻ってぷんぷんだ。きっとこれで何か言ったらまたぶたれそう。それは嫌だからちょっとだけ走ってライラの隣まで移動した。うーん、ケッコンしたってことは、今まで以上にこうやって気を付けないといけなくなるのかなぁ。一緒にいられるのは嬉しいんだけど、やっぱり、ちょっとくらいぶつのひかえてほしいなあ。

「まったく、お店とっとと開けないといけないんでしょ? なにのんびりしてんのよ」

「うーん、確かにライラの言うとおりだけど、ボク、まだちょっと眠いんだよね。ふああぁ~」

「呆れた。あれだけ寝てまだ眠いの?」

「だって昨日すごく疲れたんだもん。ご主人様と一緒にずーっとバトルしてた時よりもよっぽど疲れたよ。ライラは疲れてないの?」

「えっ? あ、アタシは疲れてなんかないわよ」

「そっかぁ。ボクもだけど、ライラ、すごく大きな声あげてたから、てっきり疲れてるのかと・・・って、どうしたの?」

 いつのまにかライラはボクの隣じゃなくて後ろで足を止めてた。やっぱりライラも疲れてたのかな。それならもうちょっとなんとか言ってゆっくり歩いた方がいいのかも。あ、それかボクがまた抱っこすればいいのかな。うんうん、きっとそのほうがいいや。ライラともっとくっつけるし。

「きゃっ!? ちょ、ちょっとジェニィ! なにしてんの!」

「なにって、やっぱり疲れてるんでしょ? だからこうやって抱っこした方がいいかなって」

「だっ!? なっ!」

「ほら、うまく喋れないくらい疲れてるんでしょ。ボクなら大丈夫だからさ。ね?」

「・・・もう」

 ふうん。なんだかライラ、昨日からちょっとおとなしくなることが増えたみたいだ。ボクが起きた時には遠慮なくボクのことぶってきたし、まるっきり変わっちゃったってわけじゃないと思うんだけど、前ならこうやって抱っこなんてしたらそれこそ30発くらいぶたれてたにちがいないよ。それだけ疲れてる・・・ってことなのかな。それともこれもケッコンの効果なのかな。だったらボクとしてはちょっと嬉しい。昨日も思ったけど、こうやって大人しくなってボクの腕の中にいるライラはすんごく可愛いからね。もちろんボクを怒ったりぶったりするライラも美人だし可愛いけど。ああでも、たまごを作ってる時のライラも

「なにニヤニヤしてんのよバカム・・・バカジェニィ!」

「うあいたっ! もーせっかく大人しくなったと思ったのにー」

「はあ? それより、お店についたらまずどうするのよ」

「うーん、そうだなあ・・・とりあえず、ミックスソーダとポフィンを用意して、それからもりのようかんとか他のジュースがちゃんとあるか確認して・・・・・・ってライラ? なんでそんなこと聞くの?」

「なんでって、手伝うからに決まってるじゃない」

「えええええ!? な、なんで?」

「アンタさっきっからなんでってばっかりね」

「う・・・だ、だって、ライラは今までお客さんだったじゃないか。なのにどうして急にアイタッ!」

「バカ! それは今まで・・・・・・と、とにかく! 今日からはアタシも手伝うの! いい!?」

「わ、わかったよ」

 むーん、なんで急に手伝うなんてライラは言い出したんだろう。てっきりボクはお店につくなりサイコソーダを出せって言われて、お店を閉めてたから当然ボクは冷えてないサイコソーダを出すことになって、そしてそれがわかってるはずのライラにボコボコにされると思ってたんだけど。やっぱりこれもケッコンのせいなのかなあ。
 あ、でもライラが手伝ってくれるってことは、ボクが一人でやってたことを二人でできるってことだよね。ということは今までよりも楽になるし、今までできなかったことができるようになるかも。そうだなあ、例えば今まではボクしかいなかったから、どうしてもメニューとして出せるものも少なかったけど、ライラに協力してもらえばもうちょっと増やせるかも。そしたらお客さんがもっと来てくれて、ボクのジュースとか、ポフィンとかがたくさんの人間やポケモンに食べてもらえて、おいしいって言ってもらえるかもしれない。わあ、なんて素晴らしいんだろう。ケッコンしてよかった。そうだよ、ボクに人間の手なんか生えなくたって、ライラがいれば、その方がずっとずっといい。もっと早く気づけばよかった。

「ああ・・・」

「だーかーらーその顔やめなさいっていってんの!!!」

「ぎゃあっ!? うー、ライラ、ケッコンしたんだからもうちょっとぶつの控えてよー。わあ! 暴れたら危ないってば!」

「け、けけけけケッコンとこれは関係ないでしょ!」

「そうなの? うーん、でも、ライラとずっと一緒にいられるならいいかなあ」

「・・・・・・」

「あ、ほら、もうすぐつくよ、ライラ。今日からボクのお店じゃなくて、ボクとライラのお店だね!」

 いつのまにかボクのお店はもうすぐそこってところまで来てた。昔は迷っちゃったりもしたけど、今はもう迷ったりなんかしないよ。それに、もし迷っちゃっても、ボクは大丈夫。だってこれからずっとずっとずーーーーっとライラと一緒なんだからね。


おしまい


『愛に時間を -Six Stance-』 


おはようございます。亀の万年堂でございます。またしても突発的な作品をこちらに載せることになりました。ということでまえがきです。

さて、今回のお話には、6つの想いが込められています。それぞれがそれぞれと交錯し、一つの主たる想いへと絡まっていく、そんなお話です。
例によってこのお話も長編本編に関わってきます。Noこそ後半にはなりますが、どの子もちゃんと本編に出てきます。もっとも、キョウカ達とは異なり、今回のお話に出てくる子達はいずれも”先を歩いている”子達なのですが。

名を冠するシーンも多く、これまでよりも話が長くなることが予測されるため、このお話が完結するのはかなり先のことになりそうです。よって、しばらくはこの試食品のコーナーにはこのお話が載ることになります。果たしてここを見てくださっている方が何人おられるかわかりませんが、気長に付き合っていただければと思います。いつも以上に奔放に更新していくと思いますので、色々と大変だとは思いますが・・・。

それでは、またあとがきでお会いしましょう。

Save at the will 


 僅かな灯りしかない故に薄暗い部屋。しかし、それでもなおハッキリとその広さがわかる部屋の中で、一人の人間がその広さに浮かない大きさの椅子にかけている。人間は、後ろから見たのでは姿を確認できないほどに立派な背もたれに身を沈みこませ、両脇に伸びる腕かけに片肘をついている。その肘から伸びる手の上には、無表情な顔が乗っていた。

「・・・」

 薄暗いが故にその目や髪の色はハッキリとはわからないが、その人間は間違いなく男だった。そしてさらには、着ている物、体格、顔といったところから、まだ子どもであることが窺えた。しかし、”彼”の纏っている雰囲気の中には、子どもらしさを表すあどけなさが一切含まれてはいなかった。薄暗い部屋に溶け込むように静かで、冷たく、受け入れ難い何かを享受しているかのようなそれは、決してこの世界の多くの子どもが持つそれではなかった。
 彼は体を動かすことなく、座り続け、部屋に備え付けてある暖炉を見つめている。火が灯っているわけでもなく、ここ最近使用された形跡もなさそうな暖炉を、ただじっと見つめていた。

「・・・」

 彼は喋らない。部屋があまりに寒いため、口を開くこともままならないわけでもなく、”話す相手がいないから”というわけでもない。話す相手は確かに在る。――彼の、すぐ横に。

「・・・」

 沈黙を保ち続け、彼の前にあるテーブルの上のロウソクに灯された火によって照らされる”彼女”の顔は、彼とは異なり、人間のそれではなかった。
 暗さの中では黒となる蒼い顔の上には赤い目だけがハッキリと浮かび、その周りには如何様にも変わりうる純白の被毛が蓄えられていた。そして、人間で言う額にあたる部分には縦に長い楕円形の石がはめられ、側頭部からは半月の黒刀が伸びている。部分部分で見ていけば、それらは不似合い・不釣合いなものばかりだと言えた。――が、この薄暗さの中でさえ、彼女は見るものが見れば、震えるほどの美しさを備えていた。彼の横に鎮座し、彼に降りかかるもの全てを自身の刃で切りはらわんかのように、研ぎ澄まされた静けさを纏う彼女は、美しかった。

「・・・ミィル」

「はい、ユウト様」

 ミィルと呼ばれた生き物が、ユウトと呼ばれる人間の声に応じた。ユウトの声は中途半端な高さを持ちつつも太く、未だ変化の余地を残しているように感じさせた。一方、ミィルの声は細く静かだったが、ハッキリと通っていた。

「・・・・・・僕はね、」

「はい」

 最初の呼びかけからたっぷりと間を空けてから、ユウトが発言し、最初の呼びかけの時と同じ間を置いて、ミィルがそれに返事をする。そこに緊張は感じられず、安堵の色もまた無い。それが常であるという雰囲気だけがそこにあった。

「僕はね、時々自分が人間であることを、とても嫌で、それが嫌で嫌で仕方なくなることがあるんだよ」

「はい」

「人間は、遥か昔から共存してきたはずの生き物に害を加えつづけてきている。ずっと・・・ずっと昔からだ」

「はい」

「彼ら、彼女らが人間に害を全く加えてこなかったわけじゃない。だけど、人間がそうしてきたよりも、遥かに少ないのは事実だ」

「はい」

「僕は、それがハッキリとわかる場所にいる」

「はい」

「・・・・・・」

 ユウトが語るのに対し、ミィルはまるで機械の様に等しく統制された間隔と調子で返事をしている。それは聞きようによっては嫌味になるかもしれない。そっけないと思われるかもしれない。必要最小限であり、ただそこに存在し傾聴していると示すことを表すとそれは、場合が場合であったら相手を激昂させるものになるかもしれなかった。

 しかし、ユウトはそれを言及しようとはしなかった。ミィルもまたそれを改めようとはしなかった。常の雰囲気は崩れることが無く、ゆらめく炎にじりじりと身を削られるロウソクがなければ、時間が止まっているかのように思えるほど、部屋は静かだった。

「・・・・・・ミィル」

「はい、ユウト様」

 またしても長く間隔を空け、ユウトが口を開いた。ユウトもミィルも何も変わりはしないように見えたが、ユウトにはハッキリとした変化があった。姿勢こそ崩さずとも、ユウトを支える片肘は細かく震えていた。それに伴って、ユウトの顔も、また――

「僕は・・・・・・なんだい? 教えてくれないか? ミィル」

 不安定な声に震えが混じり、ユウトの声は先程と異なって大分聞き取り辛くなっていた。しかし、ユウトとミィルの距離はそれを埋めるには十分だった。そしてそれを証明するように、ミィルは何も無かったかのように間を空けて口を開いた。

「はい、ユウト様は私が仕えるべき主のご子息であり、私が命を賭して守るお方であらせられます」

「・・・・・・・・・僕は、人間かい?」

「はい、ユウト様は人間です」

「・・・・・・・・・・・・そうか」

 淡々と言葉を紡ぐミィルに対し、どこまでもユウトの言葉には震えが刻まれていた。――いよいよ姿勢を保てなくなったのか、今や椅子の腕掛けに置かれていた片肘はそこを離れ、代わりに自身の顔へと手が伸びていっていた。もう片方の手は自分で自分を抱きしめるかのように腹に回され、背もたれの意味を無くすかのように、ユウトは身を半分に前に折っていた。
 
 ここは人間とポケモンとが共存する世界。人間とポケモンとはお互いに見た目も力も違う生き物。しかし、二つの種族は遥か昔から限りなく近い距離で生きてきた。
 近い距離に在る。密接した関係に在る。さすれば見えてくるもの、感じるものもまた増えてくる。

 ユウトの家はポケモンを保護する事業を執り行っている。生きている以上、全てのポケモンが安定して暮らしていけるわけではない。天災によって住処を追われる者達もいれば、突然発生した病原体に種族の存続そのものが危ぶまれるような者達もいる。ユウトの家はそういった者達を保護し、治療し、そして元の住処へと、元の世界へと戻すことを生業とし、同じ志を持って活動する者達の先駆者となっている。
 世間体の評価は高い。全世界の全てのポケモンに在るべき世界を、と銘打って活動する彼らに敵対するものは少ない。立派なことだ、と援助する者は数多い。しかし、

「・・・・・・」

 ユウトは14歳の人間の男。人間の年齢で計算すれば、まだ十二分に子どもと言える。それは養われる身であっても何らおかしくはなく、遊びという中から社会を含む様々なことを学んでいてもよい年齢である。
 だが、ユウトはすでに一生をかけてすることに身をおいている。人間からもポケモンからも必要とされているであろうことに参加している。家こそ両親の物であれ、暮らしている場所こそ両親が成してきた物であれ、彼はすでに両親の庇護からは公には離れていた。一人の志を持つ者として生きている。――すなわち、全世界の全てのポケモンに在るべき世界を

「どうしてだろうね・・・」

 期待を受けている、尊敬の眼差しを受けるに値する表情、雰囲気ではない。声は、まるで刑に服している囚人のように暗く枯れている。仮に医者がこの場にいるとするならば、すぐにでも悪い所がないかと診察を始めるだろう。それほど彼には生気が無かった。

「どうして、どうして”僕達は”あの子にあんなことができる?」

 しかし、言葉は淡々と紡がれていく。それを受けるものもまた、大きく反応はせずに、ただそこに存在している。最初から、ずうっと。

「彼女の目は何もかもを見通す。見通せる。なのに、今は何一つとして見出せない状態にあるんだ」

 口数が増えるに連れて入り混じるのは焦りなのか、恐れなのか。枯れている暗さにほんのりとロウソクの火が揺れていく。閉め切られた部屋に音の無い風が回っていく。

「どうしてそうなったんだろう。どうしてそうなってしまったんだろう」

 今やユウトの顔は誰にも見えなくなった。どこから見ても、それこそ彼の顔の真下からでも見れなくなった。身体は限界まで折られ、その顔の前には、数多の命を掬い、救ってきた二つの手があった。今はただ震えることでしか役割を果たせない、まだ小さい二つの手が。

「彼女は人間に飼われていたのです。ユウト様が救ってこられた、多くの者達と同様に」

 それは現実そのものだった。ユウトの家が、それと志を等しくする者達が、そしてユウト自身がしようとしていること、していることが必要とされる理由であり、目的であり、理想だった。
 ポケモンが本来在るべき姿、在るべき環境として生きられなくなる理由。それは天災が最たるものではない。人災こそが最たるものなのだった。
 
 主人である自分の言うことを聞かない。期待したような働きを見せない。年老いて醜くなった。自分達が住む場所、利用する場所を広げるのに邪魔になった。
 理由はそれこそ無数にあった。そしてそれによって喪われていく命も、逆の立場のそれに比べて考えれば、それこそ無数にあると言えた。
 もちろん、それが全てだというわけではない。中には共に幸せな生涯を全うする者達もいる。友として、家族として、そして時には愛を誓い合う者として。
 しかし、喪われていく者達がいるのは事実。迫害され、理由もわからず住処を追われている者達がいるのも現実。そして共に支えあって生きてきたはずの者達全てを恨むようになる者達がいるのも、決して架空の話などではなかった。

「そうだ。そうだよ。彼女は飼われていた。間違いなく、人間に。僕と同じ人間にだ! 彼女は信じていたんだ! 自分の主人を! 人間を! なのに、それを裏切った! 裏切られた! 当然さ! 彼女が目を閉ざしたのは何もおかしくない。誰がそんなことを受け入れられる? 僕は考えたくも無い。彼女がどのように裏切られ、どのように光を喪ったかなんて。だけど、だけどっ!!!」

 体中で空気を求めるように荒く息をし、ユウトはひたすら隣にいるミィルにがなりたてた。先程まで沈み込んでいたとは思えないような勢いで、荒々しさで、ひたすらにまくしたてた。腕かけに自分の拳をのめりこませんばかりに押し付け、肩を震わせ、ユウトは訴え続けた。

「彼女は救われなくちゃいけない。僕は救いたい。諦めさせたくなんかない。だから僕は考えたくなくても、見たくなくても、彼女が受けてきた、見てきたものを受け入れなくちゃいけない。それができなくてどうして彼女の傍にいれる?」

 返答が得られないことは自身にもわかっているはずだった。彼が打ち付けている相手は、どこまでもどこまでも静かで、その暗く赤い瞳を揺らしはしないのだから。それでも言わずにいられないのは、その自身が自身に負けそうになる故なのか。そして返さずにいるのは、彼がそうはならないと信じているが故になのか。






 


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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