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不思議な薬の恐怖

/不思議な薬の恐怖

writer is 双牙連刃



 いつも通りの昼下がり、俺の上にはやっぱりフロストが居る。ったく、寛ぐなら自分の部屋のベッドへ行けっての。
そして困った事に、その俺が居座っているソファーにはレンとリィが座っており、その横にリーフが居る。どうしてこうなった。
まぁ、この家の牡が俺を残して皆学校へ行ったからなんだけどな。レオは久々について行ったぜ。
あいつも家に居る間に結構鍛えてたからな、普通のバトルじゃ物足りないだろうさ。まぁそれはそれで置いといて。

「なぁ、もうちょっと各自別々の事しないか? 全員でテレビ見る事もあるめぇよ」
「だって、他にする事ないしねぇ」
「あたしはあんたから降りる気無いわよ」
「僕はなんとなく、皆が集まってたからここに居るんだけど」
「まぁ、のんびりしましょうよ」

 ……あいつ等が帰ってくるまでこんなんだろうな。まぁいいか、別に困ってる訳じゃないし。
おや、玄関のチャイムが鳴った。なんか来たかな。

「はーい、今出ますー」
「二時だぞ? なんだ?」
「普通に考えれば、配達よね。来客が来るにしても急過ぎるし」
「ライトー、ちょっと来てー」

 ん、レンに呼ばれた。なんかあったんか?
行ってみたら、でかいダンボール箱を抱えた配達員がそこに居た。なるほど、物持ちに呼ばれた訳か。
確かにこれはちょいと手こずりそうだな。ま、俺を除いてだけどな。

「フロスト、ちょっと降りれ」
「そうね。一体何が届いたのかしら?」
「ごめんね、私だとちょっと重くて」
「気にすんな。おいあんた、俺の前脚の上にそれ、下ろしてくれ」
「え、いいのかい? はっきり言ってこれ、相当重いよ?」

 後ろ足だけで立って、前脚を水平に揃える。ん、全然問題無いな。我ながらサンダースである事を無視した出鱈目な腕力……いや、脚力だぜ。

「おー」
「もう受けとっちまっていいのか? ハンコは?」
「っと、そうだった。ここに受け取り印をお願いします」
「あ、はいはい」
 後はレンに任せて、俺はこれを運んじまおう。前が見えんが、フロストがナビしてるから問題は無い。
のたのた歩く事になるが、なんとかリビングまで運んできた。こっからはリィに頼むか。

「おーいリィ、こいつをテーブルまで飛ばしてくれ」
「はーい」

 箱を包むように光が現れて、、俺の前脚の上から箱は消えた。そしてそれはテーブルの上に現れる。
リィが使えるようになった空間の力の一つ、空間転移だ。まだ長距離は出来ないみたいだが、リビングの入り口からキッチンまで位なら転送出来るみたいだな。
こんな事に使っていいのかって? リィの訓練にもなるし、別段問題は無いだろ。リィも自由に使えるんだし。

「ふぅ」
「お疲れさん。大分慣れてきたか?」
「まぁね。ところで、これって何?」
「んー……あ、ご主人のお父さんから届けられた物みたいですよ」
「あらホント、送り主がゼンだわ。って事は、また妙な薬ね」
「妙な薬だと?」

 おいおい、一体なんなんだよこれ。しかもまたってどういう事だよ。
聞く前に箱を開けられそうになってる。リーフが持ってきたカッターでテープが切られていく。
さてオープン。……先見がなければジュースかとも思うが、妙な色した液体が詰まったガラス瓶が十本くらい入ってた。緩衝材が入ってる辺りはなかなか本格的だな。

「また多いわねぇ、前に送られてきた時は半分だったわよね」
「あぅ、あまり思い出したくないですね」
「な、何があったんだ?」
「……なんかこれ、どれも飲んじゃいけないような気がするんだけど」

 よしOK、これがどれも飲んじゃいけねぇって事は分かった。リィのセンサーに引っかかるなら間違いない。
……ん? 瓶の陰に何かあるな。これは、手紙か? 取り出すのは簡単だな。
ついついっと取り出してみてと。あぁ、やっぱり手紙だ。

「ほれ、リーフ」
「っとと、なんで私に渡すんですか?」
「いや、近くに居たから」
「配達員さんと話してたら話し込んじゃったよー。あれ? それって……」
「あぁレン。パンドラの箱だったわ。今から正体が分かるところよ」
「じゃあ、手紙読んでみますね」

 リーフは手紙の封を切り、中の手紙を取り出した。……ほんと、手みたいに動く蔓だな。

――ハヤトへ
今私達はアルトマーレという地に来ている。美しい都だぞ。
さて、今回も私達が作った試薬を送らせてもらった。
前回の結果も踏まえて、今回の物もテストを頼む。
恐らく大変な事になるだろうが、皆で乗り切ってほしい。以上だ。

 お前を信じている父より

 ……とりあえずこの手紙は消し去っていいのか? いいよな。寧ろこれを書いた奴に俺の全力の雷をぶちかましてやりたいぞ。
なんだこのふざけた文章は、俺はこんな物を認めたりはしないぞ、断じてだ。
そもそも大変な事になるって分かっている物を息子に送りつけるなよ。何が信じてるだ、信じてる(笑)の間違いじゃねぇか。

「とりあえず聞きたい事は色々あるが、まず、前に何があった?」
「えっと、前にもこんな風に薬が送られてきた事があってね? 最初だからあまり気にしないで皆で飲んじゃったの」
「……思い出しただけで頭痛がしてくるわ」
「私はまだマシでしたね……フロストさんなんかハヤトさんといっうぐぅ」
「止めて、それ以上は本当に言わないで」

 あー、劇薬に近いなそりゃ。あいつと一線越えそうになるのはマジで辛いな。これ以上フロストを虐めてやらないでおこう。
つまり、その悪夢がまた起こりうると。おいおい勘弁してくれよ。
でも待てよ? もしかしたら、俺がなんとか出来るかもしれねぇな。まぁ、試してみないと分からんけど。

「これは、ハヤトが帰ってくるまで放置しかないわね。下手に飲んでおかしくなったら止められ……あぁ」
「俺もリィも居るし、なんとかなるだろ」
「いざとなったら僕がディストーションで隔離出来るしね」

 ディストーション、聞こえはおっかないが、やる事は空間を僅かにずらして、空間同士を隔てる壁を作るって力だ。使い方によっては絶対の盾にもなるし、脱出不可能な檻を作る事も出来る。
空間転移やディストーションは、俺が助言しながらリィが編み出した力だぜ。他にも応用すれば、色々な力が使えるようになるかもな。

「はぁー、まったく頼りになる二匹だわね。同じイーブイ系列として羨ましいわ」
「そう言うなって。それと、一回だけ誰か試しに飲んでみてくれねぇか? ちょっと試したい事があるんだよ」
「試したい事? なによそれ?」
「俺なら、飲んだ後の薬の効能って奴を抑えられるかもしれねぇぜ」

 リィ以外の三匹の目が見開いた。前のはそんなに大変だったのか、今の様子を見ればなんとなく分かるぜ。

「そ、それ、本当なの?」
「十中八九はいけるだろうな。まぁ、やってみん事には確定は出来んけど」

 うーん、流石に半信半疑の情報じゃ飲まないか。こりゃ、やっぱりあいつ等が帰ってくるのを待つしかないか。
お、レン? 手紙と一緒に入ってた薬の効能早見表を見だしたな。まさか、信じてくれるのか?

「この混乱薬なら、もしライトが治せなくてもリィちゃんの力で抑えてくれるよね?」
「レン、まさか飲む気? こいつにだって治せるか分からないのよ?」
「でも私、ライトの事信じてるから。出来ない事は言わない、でしょ?」
「あ、あぁ、まぁな」

 うーむ、こんな事を言われると是が非でも成功させなければならなくなるではないか。ま、気合で何とかするか。
恐る恐るレンが緑色をした液体を、飲んだ。うわぁ、結構えぐい光景だぜ。

「うぁ、め、目の前が回るよぉ~」
「めっちゃ即効性です!」
「よし、一丁やってみるか」

 右の前脚に電気を集める。ただし、戦闘用の電磁波なんかじゃあない。俺の毛に通ってる電気だ。
こいつには特殊技を減衰させるだけじゃなく、毒や麻痺を打ち消す効果もあるんだ。つまり、状態異常無効化ってところだな。
そう、こいつを集めて対象に流し込んでやれば、同じ効果を相手に付加出来るんじゃねぇかと思ったわけ。さて、どうなるかな?
ふらふらしてるレンにそっと触れる。集めた電気がレンへ移って、白く光ってるようになったぜ。これは予想外だったな。
おっと、光が止んだら倒れこみそうになっちまった。きちっと支えてやらないとな。

「うっ、ん……」
「よぉ、どうだい?」
「あ、目が回ったの治ってる。凄い、なんともないよ」
「おっどろいたわ。あんた、そんな事出来たの?」
「まぁ、やった事なかったからぶっつけ本番だがな。ピュリファイってところか?」
「浄化って意味ですね。ぴったりじゃないですか」

 ふむ、これなら普段使いでもいけそうだな。溜めは必要だが、これで状態異常は治せる。
っていうか状態異常にカテゴライズされてんじゃねぇかよ! やっぱ駄目だろこれ飲んだら!
とにかく、これで一個は効果が分かったな。即効性の混乱を発生させる薬……何のための薬だよ?

「でも、これで飲んでもなんとかなりそうね。あんたは絶対に飲んじゃ駄目よ?」
「飲みたくもねぇっての。ま、俺が治せるって分かったんだ。後のは置いといて、あいつ等にも苦労してもらわんとな」
「そうですね。……ところでレンさん、いつまでライトさんの腕の中に居るんですか~?」
「ふぇ!? あ、ごめん!」
「お? おぉ」

 別にあのままでもよかったんだけどな? うわ、リーフがにやにやしとる。なんかこう、俺とレンのコンビは必ず誰かにニヤニヤされちまうな。
い、いや、俺もそうされたい訳ではないんだよ? どうせならレンとこう、朝にまったりコーヒー飲んでる感じでだな? って俺は何を言い訳しようとしてるんだ。

「もうあんたも、リィみたいにレンの部屋で寝泊りすればどうよ? 多分誰も文句言わないわよ?」
「で、出来るかんな事! 牡と牝が同じ部屋で寝泊りするとか!」
「そ、そそそそうだよ! ……別に来ても私は良いけど」
「レン姉ぇとライトは仲良しだよねぇ」

 だ、駄目だ、これ以上話してたら照れ死んでしまう。無いぞ、絶対に無いからな。
とにかく後は奴等が帰ってくるのを待とう。こらそこの水色と緑の! 俺等を冷やかすんじゃない!



「つー事で、俺は回復役に回らせてもらうぜ」

 うわ、土下座された。プラス以外から。マジで前回の騒動、辛かったんだな。

「くそっ、親父も何故この悪夢をまた送ってきたんだ。二度と送らないでくれって言ったのに」
「仕送りっていう手綱を握られてなければ、断るって事も出来るんだけどね」
「とにかく一つずつ慎重に飲んでいきましょう。まずは……」
「俺が行くッス! 師匠の一番弟子として、熱い信頼を見せるッスよ!」
「まぁソウ君は元々免疫持ちですからね。でも、気をつけて下さいね?」
「心配サンキューッス、リーフっち!」

 何やら俺のセンサーが受信したが、今回はあえてスルーしておこう。
が、リーフの顔がやっぱりちょっと緩い。これはもしかして、なんじゃないか~? いやぁ、あまりこのセットで見た事なかったから気付かなかったな。
フロストも目が光っとる。流石フロスト、目聡いな。
さてドリンクタイムだ。選んだのは……赤か。情熱的というか何というか、らしいチョイスかもな。

「効能は……興奮薬? 体が熱くなって元気になるんだって」
「おい、それって」
「頂くッス!」

 あ、飲んじまったよ。リィが読んだ効能が正しければ、それってそういう事だよな?
これは……即効性ではないみたいだな。まだなんともなさそうだ。

「おっ、これは当たりか?」
「当たり?」
「試薬と書いてあっただろ? 前もそうだが、効果の出ない物もあるようでな。あの時は俺がそれに当たったのだ」
「そうか、それでレオが鎮圧をしたと」
「当たりだ」
「うっ、あ?」

 おっと、だが残念ながらこれはそういう事がなかったらしい。ソウがうずくまっちまった。

「ソウ、大丈夫か!?」
「体が、熱いッス……はぁっ、はぁっ……」
「やっぱりこういう興奮だったか」
「あ、あぅ、ライトさん早く治してあげてください~」
「あいよっと。どれ」

 ピュリファイを準備してと。んー、背中でもいいか。そい。
レンと同じように白い光に包まれる。これ、俺の毛の電気なんだよな……密度上げたら俺も光るんかね?

「おぉー」
「ん? なんともなくなったッス!」
「これで安心感も出てきたわね。あんた本当に便利ね?」
「そうそう一家に一匹俺が居れば万能薬要らずってアホか」
「ノリ良いわね」

 おや、心配そうにリーフがソウに寄り添ってる。誰も特に冷やかさないということは、これは公認なのか? 別に言う事でもないから言わんけど。
なんにせよこの薬の効果は俺で消せる。二匹何とかなったんだから他も大丈夫だろう。
因みに、どの薬も一定時間が経てば効果は無くなるらしい。実際の時間は丸一日って書いてあるがな。
つまり俺が治さなかったらレンは混乱しっぱなしでソウは興奮しっぱなしだった訳だ。……あ、やばいこれ責任重大だ。

「よーし心配の原因は無くなったに等しい! 皆ガンガン行ってさっさとテストを終わらせるぞ!」
「馬鹿、さっきの見てなかったのかよ? ピュリファイには溜めが必要だ。複数は同時に治せねぇぞ」
「一匹ずつ試すというのに変わりはないという事だな」
「そういうこった」

 アホが膝を抱えたところで試飲再開だ。……気にしなかったが、ピュリファイってどれ位使えるんかね? なんかまだ疲れたりしてねぇから大丈夫だろうけど。

「じゃー次僕ー。この紫のにしよー」
「え、えぐいの行くわね」
「なんでー?」

 天然というかなんというか……まぁプラスが飲むって言ってるならそれでいいか。
リィが読んだ説明文によるとこれは着色薬。ポケモンの体毛や皮膚に反応して色が変わる代物みたいだな。
うわ、なんの躊躇いもなく飲んだよ。あの色は流石にちょっとは躊躇ってほしいもんだな。
これも即効性じゃないな。プラス自身にもなんともな……。

「ん? 皆どうしたのー」
「えーっと、鏡見てきなさい」
「はーい」
「……あれ、治すか?」
「まぁ、プラス次第で」

 マーブル。一言で言えばそうなった。一色じゃなくてランダムなのかよ。あれは不味いだろ。
あ、レンの叫び声が聞こえてきた。そういや風呂場で洗濯してくるって言ってたな。

「ぷ、プラス君! プラス君が!」
「あー、今俺達全員で見た。これはもう誰も飲まないほうが良いだろうな」
「おーこれ凄いー。僕治さなくていいよー」

 ……なんとなくそう言うんじゃないかと思ったよ。目に悪い配色になりやがって。まぁ、気に入ってるならいいか。
さて次、これで四本目か? そうそう、今までの三本も全部飲んだ訳じゃないぞ。まだ三分の二くらい残ってる。後で処理だな。

「じゃああたし行こうかしら。リィ、この白いのは?」
「えっと……眠り薬、かな? あ、違う催眠薬だ。なんでも言う事を聞くようになる、だって」
「……あんた、絶対に治しなさいよ? 絶対だからね」
「お、おう」

 嫌な顔しながらしぶしぶ飲んだ。おっと、目が据わったな。これは即効性か。

「おーい、フロスト大丈夫か?」
「…………」
「催眠だから、何か指示をしないと動かないと言う事か?」
「なるほど。じゃあどうするかな」
「よし、フロスト! 俺の事をご主人様って呼ぶんだ!」
「はい、ご主人様……」

 違和感全力で仕事してるな。まずフロストの意識があればこんな事言わないだろう。危ない薬だのう。
おい馬鹿野郎、何ぞくぞくした顔してる? こんな事で喜ぶのか変態め。

「じゃ、じゃあ次は」
「レン、レオ、ソウ、そいつを黙らせといてくれ」
「了解ッス!」
「主殿、やって良い事と悪い事があります」
「ご主人、ちょっと眠っててね」
「え? ちょっ、あぁ嫌ぁ! ごめんなさい勘弁して! んぐぅ!」

 ソウとレオで押さえつけて、レンが催眠薬を飲ませた。……人間にも効くみたいだな。
よし、フロストを治すとするか。素直なフロストなんて似合わねぇよ。

「フロスト、ちょいとこっち来な」
「はい……」

 ピュリファイ大活躍。そっと頬に触れて、力を流してやる。おっと、目も元に戻ったな。

「……にょあ!? あんた何してるのよ!?」
「ははは、ま、おめぇはそれが一番だぜ」
「え? なんか意識無くなってたんだけど、あたしどうなってたの?」
「あぁなってた」
「主殿、正座をして大人しくしていて下さい」
「はい、分かりました……」

 いつもああなら静かでいいんだけどな。そして何気にレオと主従関係が逆転。なんかこう、そうあるべき形になったと思うのは俺だけか?
ま、自分も一瞬とはいえあれになってたんだから引くわな。顔引きつりまくりだぜ。

「あ、あたし変な事させられてないわよね?」
「未然に防いだから心配すんな。因みにあれが防いだ結果だ」
「OK把握したわ。ハヤト、正気に戻ったら覚悟してもらおうかしらね」
「程ほどにしとけよ?」

 ちょっ、冷気が駄々漏れになっとるよ。落ち着けフロストよ。このままあいつに向けたら大変な事になるって。
次でやっと折り返しかよ……何気に今までの薬は全部効果があるし、技術力は半端じゃないな。
順番的に次はリーフかレオだな。お次のチョイスは何かいね?

「ねぇ、僕も飲んでみたいのあるんだけど、いいかな?」
「ん? リィか?」
「うん。読んでたら面白そうなのあったんだ。加速薬!」

 ほう、加速って事は素早さを上げるって事か? 割と面白そうじゃないか。
俺が飲んだら……空気抵抗で燃え始めそうだな。止めておこう。

「加速薬ですか? あー、リィちゃん、ライトさんの後ろに回り込むのやってみたいって言ってましたからね」
「バックスタブか? 今のリィなら空間の力で出来るだろ?」
「違うの、こう、凄い勢いで相手の後ろに回りこむのがやってみたい!」

 ふーむ、そういう事ならまぁいいか。色はオレンジ、またきつい色だなおい。
レンがコップに移してリィの前に置いた。言ってなかったが、皆こうして飲んでたからな。
前脚で挟んで、うぉぉ、一気に行くな。一気飲みしちまったよ。
……ん? 飲んだリィが動かなくなった。

「あれ、リィちゃん?」
「どうした?」
「な、んか、変。うご、き、にく、い」

 明らかに加速じゃなくて鈍足になってるぞ? まさか、薬の力が反転してんのか?
リィが置いた早見表を見ると、確かにオレンジは加速薬になってるな。まぁ、試薬っつうのはこういう事もあるって事か。

「も、とに、もど、して」
「あいよっと。まぁ、残念だったな」
「う、にゅう、~」

 さっくり回復。慣れてきたからか、一発を放つスピードが上がってきた。これはいい熟練度上げだ、もうちょいやってればタイムロス無しで出来るようになるかもな。
しょげたリィの背中を擦ってやって、ちょっと慰めてやる。なんでも上手くいくってわけじゃないさね。
何はともあれこれで半分。折り返し地点だな。

「まったく、どれもしょうもない効果の薬ばっかりだな」
「とりあえず今までの分の結果は纏めましたよ。ご主人、まだ出来そうにないですから」
「ナイスだリーフ。それが無けりゃ試してる意味が無いからな」
「ライトが居なかったら絶対に出来なかったね。もし居なかったら、まともに動けるのレオ君とリーフちゃん、それにプラス君だけだったよ」
「ピュリファイか、便利なものだな」
「あぁ、自分でも驚きの便利さだぜ」

 発想の転換てのは大事だな。俺の力がこんな風に使えるとは思ってなかったぜ。
見たところ、ピュリファイを当てた皆に異常も出てない。良い感じだな。

「じゃあ次は私がやりますね。レオさん、メモをお願いします」
「心得た」
「んーっと、このピンク色のにしましょうか。リィちゃん、これはなんのお薬ですか?」
「ピンクだね。えっと……これ本当なのかな? 退化薬だって。リーフ姉ぇだと、チコリータになるって事かな?」

 マジで? そんな薬どうやって作るんだよ? これはガセ臭いな。

「よかったなリーフ。恐らく当たりだろ」
「そうね。流石にゼンでも、進化したポケモンを退化させるのは無理でしょう」
「なんかちょっと安心しちゃいましたね。ジュースだと思って飲んじゃいますね」

 ピンク色のジュース、モモン系の味がしそうだな。ぐいっと一気に行ってみよう。
やっぱり変化無しか。そりゃそうだろうな。

「思ったとおりだったな」
「別に変わりありませ」

 ……はい? ありませんって言おうとしたリーフが光に包まれた。嘘だよな? 嘘だと言ってよリィーーーーフ!
光が収まった後にそこに居たのは……チコリータだった。
唖然としかしようがないぞ……ゼン、アホの親は天才か? 天才なのか!?

「ん?」
「……出来ちゃったね」
「出来ちゃったな」
「出来ちゃったわねぇ」
「え? えー!?」

 これは、俺治せるのか? 薬の効果を消したら、元に戻るよな? な、なんとかしてみよう。
慌てふためいてるリーフを落ち着けて、ピュリファイを当てる。上手くいってくれよ……。
な、なんか光の周りが遅い。やばい、俺の撃ち止めが近いのかも。もう結構使ってるからな。だがここは振り絞れ、俺!

「うぎぃ~、こんな所で撃ち止めなんてふざけんな~」
「ラ、ライトさん頑張ってください! 私、元に戻りたいです!」
「ま・か・せ・ろ~!」

 ぶはぁ! あ~、振り絞ったぜ。なんとか全身まで光で包んでやった。血管切れるかと思ったぞ。
俺が包んでやった光が収まって、もう一度リーフが光りだした。おぉ、俺もやるもんだな。
はい元通りっと。……ピュリファイを練ろうとしたが、もう上手く練れそうにないな。連続使用は、大体5発が限界みたいだ。

「ふぁぁ、本当に退化しちゃうとは思わなかったです~」
「元に戻せてよかったぞ。流石に、これは駄目かと思ったぜ」
「あんたもの凄い顔してたけど、大丈夫?」
「俺はな。でも、ピュリファイが撃ち止めっぽい。これ以上の治療は無理だな」
「ふむ、まぁ半数以上は分かったんだ。これ以上は今日やる必要も無いだろう」

 ……毛の電気自体が無くなる事は無いみたいだな。逆立った見た目が収まるかと思ったが、そうはならんらしい。
レンやリィも心配そうに見てる。ま、使えないのはピュリファイだけだ。心配な事はねぇよ。

「まぁ、あんたは頑張ったわね。お疲れ様」
「へへ、どうも。なんかこうやって礼言われるのは新鮮だな」
「皆が変にならなかったのはライトのお陰なんだもん。お礼は言わないとね」
「そうです。はぁ~、本当に戻れてよかったです」
「では、残りは明日以降とするか。……あ、主殿の事を忘れていた」

 一日経てば治るんだから、それまで放っておいても平気だろ。誰かが指示出しすれば動くんだし。

「ちょ~っと待って。この中で、一匹苦労してないポケモンが居ると思うんだけど?」

 あ、レオがびくっとした。まさか、片付けに積極的だったのはその所為か?
フロストがじりじりとレオに迫っていく。でも、俺のピュリファイが無いと治療は出来ないんだぞ? それなのにこの薬を飲めってのは酷じゃねぇかなぁ?

「リィ~、残りの薬の中で、一日放っておいても良さそうな物、教えて?」
「ま、待て待て! 何も今じゃなくてもいいだろう!」
「私まで体を張ったのよ? あの面倒くさがりのライトも真面目に治療していたのよ? それなのに、あなただけ逃げるのかしら?」
「う、うぐっ、しかしだな」
「まぁレオ、俺も一休みすりゃ一発分くらいは回復するだろ。それまでだと思って我慢しろよ」
「うぬぅ~」

 本当に飲みたくなかったんだな。観念したのか、片付けようとしてたダンボールをまた開いた。
残ってるのは青いのと黒いの、それに黄色と……茶色? 茶色は飲みたくねぇなぁ。ま、俺は飲まんけど。

「硬直薬に開放薬、それに不停薬? これは、どれもすぐに回復させないと駄目そうだね」
「開放薬っていうのはなんなんスか?」
「ポケモンの持ってる技を勝手に発動しちゃう状態にする薬だって。レオ兄ぃが飲むには危ないでしょ?」
「そうね。後一つは何かしら?」
「えっと、性転換薬だって」

 レオの表情が固まり、フロストがにやりと笑った。飲む事になるのはこれだな。

「ま、待てフロスト! 俺にも牡としての自尊心が!」
「大丈夫よぉ、性転換なんて、そんなに簡単に出来ると思う?」
「さっき私がその甘言で痛い目に遭ったばかりです……」
「あぁ、なんか他の薬より治すの大変だったし、回復に時間掛かるかもな」
「い、嫌だぞ! 長い間牝になるなんて!」
「あら、それは生まれつき牝であるあたし達への冒涜?」
「俺は元々牡なんだ! 地が違うだろ!」

 俺も牝になれって言われたら同じ事言うだろうな。野郎は野郎のままで居たいだろ。
が、フロストに聞く気は無いらしい。目を付けられた事を悔いて諦めるしかないだろうな。

「リィ、その薬は何色?」
「えっと、黒だね」
「分かったわ。……さぁレオ、覚悟はいいかしら?」
「ひ、ひぃ!」

 レオが弱気になってフロストから逃げ回る。とても新鮮な出来事が俺の目の前で起きている。まったく、フロストも悪ノリし過ぎだっての。
コップに入れられた真っ黒な液体がレオを追跡していく。コップを凍らせてフロストが操ってるって訳だ。
……は? おいおいこっち来るなっての! 巻き込まれるのはごめんだぜ!

「レオ、逃げるならキッチンのほう行けっての!」
「俺は今止まれんのだ! 頼むから通路を塞ぐな!」
「うぉぉ、突っ込んで来るながぁ!?」
「チャーンス! って、あら?」

 そ、そのまま向かってきやがった。覆い被さる等に俺はレオに乗られる。
そして一瞬時が止まったように感じた後、俺とレオの上に黒い液体が降ってきたのは言うまでもないだろう。
フロストの野郎、氷が溶けるのを考えてなかったな? なんとか体の中に入れるのだけは避けなければ!
レオが居るから避けられん。浴びるのは諦めるしかないか。

「あっちゃー、やり過ぎたかしら?」
「ぐっ、ったく、飲まなかったからいいものの、調子に乗り過ぎだっての。うわ、浴びたとこ黒くなっちまった」
「うぅ、な、なんとか飲まずに済んだか」
「ライト大丈夫? ほんとだ、黒くなっちゃってるね」

 黄色とか白に黒い染みは目立つ。洗えば何とかなるだろうが、得体の知れないもんだから早く流したいな。
レオも体を起こした。あーあーこっちは頭にもろに掛かってるぞ。こりゃ酷い。

「……あ」
「ん? どうしたリィ」
「これだけ注意書きで、ハヤトは間違っても触れるなって書いてある」
「は? ……はぁぁ!?」

 つまりこれは、飲まなくても効果があるってことか!? おい冗談じゃねぇぞ!?

「レオ! 急いで洗い流すぞ!」
「あぁ! ……ぐ?」
「おいどうし……が……」

 なん、だ? 体が……熱い……。

「え、ちょっ、ちょっと?」
「う、ぐぁぁぁぁ!」

 体の中から熱が溢れるような感じがしたかと思ったら、目の前が真っ白になった。
頭がクラクラしやがる……なんだ? 俺、どうなったんだ?
やっと意識がはっきりしてきたぞ。頭振ってしつこい眩みを払ってと。
目を開けたら、呆然としたレン達がこっちを見てた。なんだ? 俺はどうなったんだ?

「おい、どうな……!?」

 思わず自分の口を塞いだ。なんだ今の高い声は。俺か? 俺が発声したのか?
そして気付く。口を押さえてる前足が……青い。
慌てて自分の姿を見た。毛が、無い。おまけに、全身が青い。

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁァァァぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」
「ら、ライトが、シャワーズになっちゃった……」
「しかも声の高さからして、牡じゃないわよね」
「うぉぉぉぉぉおいどうすんだこれ!? 俺になにがあった!?」
「えっと、さっきのリーフちゃんみたいにピカッと光に包まれて、収まったらそうなってたよ?」

 洒落にならん。性別が変わるだけじゃなくまったく違うポケモンになってんじゃねぇか。シャワーズってなんだよシャワーズって。
は、俺がこうなってんだからレオはどうなったんだ? まさか、俺と同じように?
……ではなかった。目は覚ましてないが、バクフーンのままみたいだな。

「し、師匠がシャワーズに……いや! どんなに姿が変わっても師匠は師匠ッスね!」
「大事なのはそこじゃねぇんだよソウ! 俺がこうなったって事は……」

 さっきまでと同じように、ピュリファイを溜めようとする。が、思ったとおり出来ない。そりゃそうだ、サンダースじゃないからな。
あ、やっとレオも目を覚ましたか? 俺より目立った変化は無いが、どうなった?

「うぐ……ん? ……なんだこの声はぁぁぁぁ!?」
「あら、こっちも見事に高くなってるわね」
「そんなまさか、本当に?」

 自分の体をまさぐってるな。俺はしないぞ。たとえなんか胸が膨らんでるなーとか思っても絶対に触れないぞ。
が、レオはどうやら触れちまったようだ。その、自分の胸にな。

「おぉぉぉぉぉ……そ、そうだライトは!? ピュリファイなら治せるんだったな!?」
「それが……」
「治してほしいのは俺もだぜ、レオ」
「へ? ……なんでシャワーズになっている!? それで電気を使うピュリファイは撃てるのか!?」
「……まぁ、一緒に一日乗り切ろうぜ」

 レオが崩れ落ちた。俺も崩れ落ちた。丸一日、俺達はこのまま過ごさなくちゃならなくなったんだからな。
誓うぞ、俺は。もうこの薬は絶対に飲まない。そして、黒い薬はサンダースに戻ったら消す、絶対に消滅させる。
とにかく、今日はもう何もしないぞ。こんな体で何か出来るか!



 新・光の日々第九話でございます。クスリ、ダメ、ゼッタイ。
ライトのその後は、脇道にて語られておりますのでお楽しみ頂ければ幸いです。

前話へはこちら
脇道へはこちら
次話へはこちら

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  • なんて恐ろしいハヤトの親…でもそこがい(ry
    薬なんて斬新ですね、何が起こるか分からなかったので、とても面白かったです

    因みに脇道の方も読ませて頂きました。
    えちぃ小説も健在ですね、可愛かったです。主にレオが。
    次回も楽しい作品期待してます、頑張って下さい!
    ――こはくろ ? 2012-06-06 (水) 22:12:43
  • ハヤトの親...一番恐ろしい!

    執筆頑張って下さい
    ――ポケモン小説 ? 2012-06-06 (水) 23:19:51
  • >>こはくろさん
    こんな薬を作れる親は確かに恐ろしいですねw
    媚薬が出てくる物語はちらほらありますが、様々な効果のある薬というのは無かったので、新鮮だったでしょうか?

    脇道もお読みですか。拙い官能で申し訳ない。レオ、弄られキャラに定着していっておりますw
    応援感謝です! ありがとうございます!

    >>ヒロトさん
    こんなわいわいしたポケモンの家族、なんか良いですよね。
    ライトはついにノリツッコミを習得。ツッコミ役に磨きが掛かってまいりましたw

    >>ポケモン小説さん
    なんに使う薬か教えずにテストさせるところがまた恐ろしい親です。
    毎回の応援ありがとうございます!
    ――双牙連刃 2012-06-07 (木) 21:23:48
  • ふしぎなくすり 飲まされて スーパー☆ガールに変身よ♪
    という歌を思い出しました
    ―― 2012-06-07 (木) 22:17:54
  • 様々な効果の薬……特に退化とか、恐るべしハヤトの親。
    それを浄化できるライトも凄いですねw
    そしてリィが何気にチート化一直線ww
    ハヤト家で既にリィに勝てるポケいないのでは・・・w

    二作同時の執筆お疲れ様でした、読んでて飽きなく何度も読み返したりしてます。
    今後も執筆頑張って下さい。
    ――cross ? 2012-06-07 (木) 23:12:24
  • >>06-07の名無しさん
    ベースがスーパーなライトなら、ある意味歌詞の通りですねw
    私も聴いた事がありましたが、言われてから思い出しました! コメありがとうごさいました!

    >>crossさん
    マッドな天才性を垣間見せるハヤトの親。確かに恐ろしい存在ですなw
    それに対抗するライトもライトです。まさに薬の天敵なのです。
    リィについては、チート化してもそれを平和利用しようとするので問題ありません! 亜空切断をどんどん使うような性格なら、リィは支配者になってますけどねw

    何度もお読み頂けるとは、ありがたい限りです。これからもそんな作品を作れるよう頑張ります!
    ――双牙連刃 2012-06-08 (金) 20:41:59
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Last-modified: 2012-06-06 (水) 00:00:00
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