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レストラン「コラソン マンジェ」

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 レストラン「コラソン マンジェ」

 ある休日に男二人が登山へ出かけた。豊かな山の植物や普段見ることのできない野生のポケモンに出会い、時間が過ぎるのも忘れ夢中でシャッターを切っていた。
 さて、満足のいく写真も撮れたことだしそろそろ帰ろうとすると、来た道がわからなくなってしまった。時は既に夕暮れを過ぎ、夜の帳が降りてこようとしていた。右も左もわからない、およそ人の踏んだ形跡の見られないような道を戸惑いながら歩く二人。すっかり疲れて腹も減り、歩くのもままならない。このままでは死んでしまうかもしれないという絶望感に襲われる中、木の隙間から建物の屋根と灯りが見えた。近づいてみると「コラソン マンジェ」と書かれた看板が立っていた。ほのかにスープのいい香りがする。どうやら飲食店のようだ。

 二人はこれ幸いとドアに手を掛けようとすると、貼り紙がしてあった。
【レストランにご来店のお客様へ:店内に入る前に、必ず備え付けのタブレット菓子を一錠口に含んでください】
 変な貼り紙だなと思いつつも、二人はテーブルの上に置かれたケースからタブレット菓子を出し、口に含んだ。すっぱいような、苦いような、甘いような、いやいや辛いような、ともすると渋いような不思議な味がしてすぐに飲み込んでしまった。

 ドアを開けて店内に入る。クラシック音楽の流れる広々とした店内には、男たち以外誰もいない。奥の方からウェイターがやってきて、特等席だと言って二人を窓際へ案内した。
「当店にはメニューがございません。全てお任せのコース料理となっていますので、どうぞお待ちくださいませ」
 と言って、ウェイターは水と手拭とカトラリーを置くとまた店の奥に引っ込んでいった。

 出された水を一気に飲み干して、ふと我に返った二人はコースの料金に不安を覚えながら、料理が出てくるのを待った。十分ほど経過した頃、ウェイターがサラダを持ってきた。ギザギザした緑色の葉上に、ふわふわした綿のようなものと、細切りにされた青色のイカソーメンのようなものが乗っている。とにかく腹の減っていた二人はむしゃむしゃと食べ始めた。みずみずしい葉物に少し脂のある綿のようなものが合っている。青色の食材は、噛めば噛むほど甘味が染みだしてきて、本当のイカソーメンのようだ。

 そのおいしさに「さぁさぁ早く次を持ってきてくれ」と片方の男がウェイターを急かす。もう片方は黙々とサラダを頬張っている。ウェイターは「かしこまりました」と頭を下げ、食べ終わった皿を持って引っ込んだ。次は何がくるだろうとわくわくする二人の前に、澄んだ金色のスープが出てきた。掬うのが勿体ないほど美しい液を一口飲めば、魚介類のぎゅっと濃縮された味わい深い出汁が効いている。スプーンを使うのがめんどくさくなったのか、二人は途中から器ごと持ち上げて胃の中へ流し込んで、癒されたようにうっとり夢見心地だ。

 メイン料理といえばやはり肉。待ちきれない二人に出されたのは厚切りのステーキだ。引き締まった赤身なのに柔らかく、口の中でとろけてしまいそうなほど。どろどろの燃えるような真っ赤な辛いソースに絡めれば、噴火するような旨さだ。二人はもう切るのも刺すのもめんどくさいのか食器をかなぐり捨て素手でつかみ、ソースが服に垂れるのも構わずそのまま豪快にかぶりついた。

 最後にデザートが出されたのだが、これがピンク色の棒が一本丸ごと。きゅうりのように小さい突起がついている。
「こいつはどうやって食うんだ」と聞くと、ウェイターが「そのまま齧ってお召し上がりください」と言うので齧りついてみると、パキッと心地のいい音を立てて割れた。バリバリ噛み砕くと優しい甘みが広がり、ほんのり感じる塩気が甘さを引き立たせている。初めての食感に二人はお互いの食べこぼれを奪い合うほどだった。

 全部食べ終わって満腹感と幸福感に満たされている二人の元へ、シェフがやってきた。
「いやーうまかったよ。素晴らしい」
「こんな料理ははじめてだ!言葉にならないほどおいしかったよ」
 二人が賞賛の言葉をかけると、シェフはお辞儀をして言った。
「ええ、もちろんですとも。最高級のポケモンを使っていますから」

 そう、二人が食べていたのはポケモンだったのだ。サラダはハネッコの葉、エルフーンの綿毛、オムナイトの足。スープは色違いのミロカロスとコイキングを煮込んだもの。メインはケンタロスの肉で、ソースはヒヒダルマとダルマッカをマトマ煮にしたもの。最後のデザートはサニーゴそのものだ。

 真実を知った男二人はどうしたのか。それは誰も知らない。


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Last-modified: 2015-09-06 (日) 00:53:34
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