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レインとサイカと桜の木

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レインとサイカと桜の木 

Written by Yukineko ?

登場人物
シャワーズ - レイン(雨 - Rain) - ♀
ブースター - サイカ(彩火 - Saika) - ♂

注※流血表現有り


== 0 - Prologue - Beginning of story ==

彼は何時も私の手を引いてくれる。
何か困ったことがあれば彼が手を差し伸べてくれる。
だから私は迷わず進むことができた。

彼は何時も私に笑いかけてくれる。
私に笑いかけてくれるのは彼だけだった。
彼しかいなかった。

彼は何時も私を見ていてくれる。
何一つ隔たりなく、
同じ目線で特別扱いせずに。

そして彼は何時も私の傍にいてくれる。

彼は私の存在を認めてくれた。
私にここにいていいと言ってくれた。



私は自分が嫌いだった。
他とは違うその体が嫌いだった。

  どうして?
  どうして私はこんな体に生まれてきたの?

群れの皆は私を特異な目で見ていた。そこには私の居場所はなかった。
父と母は何も言ってくれなかったし、何も助けてくれなかった。

私は耐えられなかった。
だから群れを飛び出した。

何も考えずただひたすらに、
後ろを振り向かずに、
森を走り続けて、

どの位走ったかは分らない。でもかなり遠くに来たみたい。
住んでいた森とは大分雰囲気が違う。

森の様子が変わってくると、目の前には大きな桜の木が私を待ち構えていたかの様に現れる。
私はその木の根元で休むことにした。

大きく枝を伸ばし真白の花を咲かせたその木は、一日中走り続けて疲れ切った私の体を癒してくれた。
風が吹く度に花は舞い、心地よい葉音が聞こえてくると、嫌な事を全て忘れる事が出来る様な気がした。

  私は一人。
  誰も私を必要としていない。

  誰も私を……。

やっと忘れる事が出来そうだったのに、つい考えてしまう。
もう、消えて無くなってしまいたい……。



ふと足音が聞こえてくる。

一面に敷かれた桜の絨毯の上を一匹のポケモンが歩いてきた。
桜の花びらが風で舞い、顔がよく見えなかった。

そのポケモンが私に話しかけてきた。



―――― ねぇ、隣に座ってもいいかな?



私の前には一匹のブースターが、優しく微笑みながら立っていた。


== 1 - Spring - Encounter with her ==
1-1

僕は群れを出てきた。

僕が小さい頃に父さんと母さんが死んでから、群れの連中は僕を憐みの目で見るようになった。
群れの皆はその日から妙に優しく接してくれる様になった。それが逆に辛かった。

同情なんていらない。僕は可哀そうな子じゃない。
周りの視線が痛い痛い痛い。

  そんな目で僕を見るなそんな目で僕を見るなそんな目で僕を見るな

そんな日常に嫌気がさした。

僕を今まで育ててくれたおばさんには悪いと思った。
本当の母親ではないけど、本当の母親の様に接してくれた。
僕の事を“普通に”見てくれた。
“普通に”接してくれた。

そんな人を裏切るような事はしたくないと思ってはいたが、我慢できなかった。

森をあてもなく彷徨っていた。
別に何所へ行こうと決めていた訳じゃなかったから。

ここは僕がいた森とは大分雰囲気が違う。
桜が奇麗だ。
桜の花が風で舞い、落ちた花は一面に絨毯のように敷き詰められていた。

桜の木の根元に誰かいる。
誰だろう。

シャワーズ……しかも色違いか。
初めて見たよ。都市伝説じゃなかったみたいだね。
生まれる確率は極々極々稀らしいが。

雰囲気が暗いなぁ……。

何だか彼女の事が気になって気になって仕方がなかったのでそっと近づいてみる。
声をかけてみると、彼女は少し驚いたような顔をしていた。

―――― 貴方は誰?

僕がサイカと名乗ると、色違いのシャワーズはレインと名乗った。
とりあえず、ずっと走ってきたし疲れたから座ろう。
隣に座ったけど、文句言ってこないから大丈夫だよね?

なんだか物珍しそうに見られてるな……。
僕の顔に何か付いてるのかな?
普通なら僕が君の事を物珍しそうに見て、「何ジロジロ見てるんですか?」って怒られるシーンな気もするけど。

何でジロジロ見るのか聞いてみようか……答えてくれるかな。
僕は彼女に聞いてみることにした。

――なるほど、こんな色違いで気味の悪い自分になんで近づいて来たのか知りたかったのか。
自分で気味の悪いって言ってる辺り、重症だろうな。何か過去に辛いことでもあったのだろうか。

何で自分の事を気味の悪いって言うのか聞いてみよう。

――ふむふむ、群れの連中が色違いの自分を気味悪がっていたのか。
それで耐えられなくなって逃げて来たのか。

誰も自分を必要としてくれない……か。
両親にも見放されるって……相当辛かっただろうな。

それにしても許せないな。これは差別じゃないか。
確かに色違いはそう簡単に生まれるものではないけど、だからと言って色以外はシャワーズと変わりないじゃないか。

立場や細かい所は違えど、彼女は僕と同じ境遇なのかな。周りから変な目で見られるのって辛いよね。
もしそうだとしたら、彼女と出会ったことは偶然ではなく必然だったのかな。
運命って信じたことは無いけど、今回ばかりは信じてみようかな。

  皆と色が違うからって、別に変じゃないと思うけどな。どう見たって君はシャワーズじゃないか。
  それに僕は、その体は変だとは思わないよ。確かに珍しいけど、それ以上でもそれ以下でもないしね。

  そうだ、その色違いの体は個性だと思えばどうかな?
  皆と違うって結構羨ましいと思うんだ。気持ち悪いって思わないで、自分らしいって思えないかな?
  だってレインはレインなんだからさ。

  僕はそう思うよ。

  居なくなりたいだなんて思ったら駄目だよ。居なくていいポケモンなんていない。
  君がいなければ僕はこうして出会うことは無かっただろうしね。

  君は居て良いんだから。
  だから必要とされてないなんて思わないでよ。

僕は思ってる事を彼女に言った。

あ、あれ……?
僕何か変な事言ったかな?
彼女全く反応無いんですが。

ちょっと失敗しちゃった?

ああ……泣かなくてもいいのに……。
やっぱり変なこと言ってしまったみたいだ……どうしよう……。

やっと落ち着いてきたみたいだ。
涙のせいで顔がぐしゃぐしゃになっちゃって……。
僕は彼女の涙を拭いてあげた。

  泣いてばかりだと幸せが逃げて行くよ?
  だから笑おうよ!

僕が笑いかけると、やっと彼女が微笑んでくれた。


1-2

今までこんな事を言ってくれる人は誰もいなかった。
“気持ち悪い”“気味が悪い”としか言われたことがなかった。
何時しか、自分のことを“気持ち悪いポケモン”と自分で決めつけていた。

普通の体だったらどんなに幸せだっただろうか
何時もそんな事を考えていた。

  自分が嫌い
  こんな体で生まれてきた自分が憎い
  神様は不公平だ

そう思っていた。

そんな私の体を個性だと彼は言ってくれた。自分らしさと言ってくれた。
初めて“気持ち悪い”“気味が悪い”以外の事を言われた。

彼は私の事を“一匹のポケモン”としてみてくれた。

私にはそれが嬉しかった。
対等に見てくれる、そんな存在に出会えたことがとても……とても……。

その言葉が嬉しくて、そして今まで自分自身を“気味の悪いポケモン”と決めつけていた事に腹が立って、思わず泣いてしまった。
彼は少し困っているみたいだったけど、泣き止もうにも私の涙は止まらなかった。

何年振りだろう……泣いたのは。

小さい頃は同じ年頃の子に苛められ、周りから陰口を叩かれては毎晩のように自分の寝床で泣いていた。
何時しか周りから無視される様になると、私は泣くのを忘れた。

泣いたってどうにかなる訳じゃないから。
泣いたって自分の体が変わる訳じゃないから。
そう自分に言い聞かせて。
悲しくても泣かなかった。

私の涙が落ち着いてきた。
彼を見ると、自分が何か変なこと言ってしまったせいで私が泣いたと思ってるみたいだった。

彼が笑いかけてくる。
その笑顔がとても眩しかった。

  泣いてばかりだと幸せが逃げて行くよ?
  だから笑おうよ!

彼がそう言ってきたので、私も笑うことにした。
彼に感謝の意をこめて。

彼がごめんね、と謝ってきた。
貴方のせいじゃないから……と泣いた訳を話した。
貴方の言葉が嬉しかったから、だから……。

彼は私の方を見ると、もう自分の事を“気味の悪いポケモン”って思ったら駄目だよと言った。
私は彼に約束した。

もう自分の事を責めないと。
自分の事を好きになると。

そう言うと彼はニコリと笑った。
そして私の頭を撫でてくれた。


== 2 - Summer - Memories on day of summer ==
2-1

サイカに出会ってから私は、彼と行動を一緒にする事にした。
彼がどこか旅にでも出ないかと誘ってくれたのだ。
私には断る理由もなかったし、行くあても無かったから彼の提案を受け入れた。

どこに行きたいかと彼が尋ねたので、私は海と言うものを見てみたいと彼に言った。
私は小さな川しか見た事がなかったから、海とはどういうものなのかこの目で見てみたかった。
よし早速行こう! と彼は私の手を引いて歩きだした。

私はもう少しだけ、桜の木の下に居たかった。もう少しだけこの桜を見ていたかった。
桜の花が散って、若葉が生い茂るまで。

それを言うと彼は、じゃあ桜が散ったら行こうと言ってくれた。
桜が散るまでの間、二人で桜の木の下で暮らす事にした。

晩春、桜の花が全て散った。
真白だった桜の木に若葉が芽吹くと、鮮やかな緑の葉が眩しい太陽を遮る。

私たちは桜の木の元を出発した。

サイカが言うには海は遠いらしい。
私たちがいた森からはかなりの距離になると彼が言った。
それでも構わなかった。

何日も歩き続けた。長い間歩き続けた。もうどれほど歩いたか分からない位に。
その間に季節は夏へと移り変わり、道端に咲いた小さな向日葵は力強く太陽へとその顔を向けていた。

何度かポケモンに会った。その度に私は好奇の目で見られる。
その視線が痛かった。通り過ぎると陰口が聞こえてくる。それがとても辛かった。悲しかった。
サイカは気にしない気にしない、と私に言ってくれた。これは私の個性なの! ……と、堂々と歩いていれば大丈夫だよと言ってくれた。
その言葉が私を勇気付けてくれる。

何度か人間の街も通った。
私を捕まえようとモンスターボールを投げてくる人間もいたが、サイカがそうはさせないと私に向けられたモンスターボールを弾いてくれた。
あまり人目につかない方がいいねと彼が言った。次からは余り人間が居ない所を通る事にした。

正直に言うと、人間の街には興味があった。
捕まるリスクは百も承知だったけど、見た事がない世界を見てみたいという好奇心の方が強い。
でもここで捕まったらサイカと海に行けなくなってしまう。ここは我慢するしかないのかな。

街を抜けて再び森の中を歩いてると、沢山木の実が生った場所を見つけた。
サイカは物知りで、これがなんて言う名前の木の実なのか、どういう効果がある木の実なのか教えてくれた。

木の実を採って食べようとしたとき、サイカが突然吹き飛ばされた。
何があったのだろうと見てみると、リングマが私とサイカを睨みつけていた。
ここはこのリングマの縄張りらしい。

リングマが私に近づいてきて、その爪を私に向ける。
リングマは怒っていた。
勝手に木の実を取ろうとしたから。

私は怖くて足が動かなかった。
サイカは体中傷だらけで倒れていた。
早く……手当てしないと……。

私はサイカの事ばかり考えていて、リングマの事は頭に入っていなかった。
気がついた時には、リングマはニヤリと笑い私に爪を振りかざす。



――その刹那、リングマの体は横に吹き飛んで行った。

一体何が……。私は助かったの?
訳が分からなかった。

リングマがいた場所には一匹のリザードが立っていた。
リザードは私に大丈夫かと聞いてきた。
遠くから大丈夫かと声が聞こえてきた。

一人の女性と、もう二匹のポケモン――フシギソウとカメールがやってきた。

きっとこの人たちは私を助けてくれたのだろう。
急に緊張の糸が途切れて、体中の力が抜けてしまった。

サイカを……早く助けないと……。

女性がサイカを抱きかかえているのを見た。
私はそこで気を失ってしまったようだ。


2-2

ここは……?
僕はいまどこに居るんだ……?

ふわふわした物の上に寝ているような……。

そういえば、確か森の中を歩いていて木の実を見つけて……。
取ろうとしたら急に誰かに殴られて、目の前が真っ暗になって……。

……レイン!

レインは無事なのか?
まさか……僕一人だけ助かった訳じゃ……。
早くここから出てレインを探さないと!

―――― サイカ!

自分を呼ぶ声が聞こえた。
その声の主はレインだ。
良かった……無事だったのか。

レインは僕に抱きついてくると、僕の胸で泣いていた。
心配掛けてごめんと謝ると、彼女は笑いながら無事でよかったと言ってくれた。

彼女が言うには僕はリングマに攻撃されて気を失っていたらしい。
レインもリングマに襲われそうになったけど、人間が助けてくれた様だ。
その人間が僕をここに運んでくれたのか。

人間たちもやってきた。
女性が一人とフシギソウ、リザード、カメールだった。
人間たちは僕が無事目を覚まして安心しているみたいだ。
人間がレインを見ながら、色違いは珍しいよね……まさかこの目で見れるとは思わなかった、と言った。
それを聞いて僕は不安になった。まさか、この人間もレインを狙って……?

レインの事を狙ってるのかと聞くと、女性はもし狙ってるならとっくに捕まえてるよと、僕に笑いながら言った。
それを見てレインも笑っていた。
どうやらこの女性は僕達に危害を加えたりしないようだ。
それにレインがここまで気を許しているのは、きっとこの女性がレインの事を普通のポケモンとして見ているからなんだろう。

この女性は今まで見てきた人間とは違うし、信用してもよさそうだ。
それにしても、レイン以上に疑心暗鬼になってしまう僕って、やっぱりレインの事が……。

心配だから?

それとも



もう傷は癒えている。
年をとった人間とラッキーが来て、もう大丈夫ですよと言った。
ここはポケモンセンターと言うのか。人間の世界には便利な場所があるものだ。

フシギソウが話しかけてきた。
海に向かうなら一緒に行かないか……と。

女性が話しかけてきた。
私たちも丁度同じ方向に向かってるからどうか……と。
何だか初めから出会う運命だったのかも……と言った。

運命……か。
僕とレインが出会ったのも運命なら、ここでこの女性に会ったの運命なのかな。
どうするか聞くと、レインは一緒に行ってもいいと言った。
決まりね!と女性が言うと、三匹のポケモンはよろしくと挨拶してきた。

海に着くまでの少しの間、この人間たちと一緒に旅をする事になった。


2-3

森の中を歩いていると、次第に視界が開けてく。草原や森に吹く風とは違った匂い。
緑色だったその視界は、青一色になる。その先には大きな水たまりが見えてきた。

これが海だよとサイカが教えてくれた。

大きな水たまりはずっと向こうまで続いている。どこまで続いているのだろうか。
時折水が自分のところにやってきては引いて、やってきては引いて。
桜の木が鳴らしていた葉音の様に、それは心地よいものだった。

これは波だよとサイカが教えてくれた。

ここまで旅をしてきた人間とは少し手前で別れて来た。
この海の近くにある街に用があるみたいで、また何所かで会おうねと約束をして別れて来た。

この二週間はとても楽しく充実していた。
女性のポケモン達とも仲良くなった。家族になったような友達が増えたような。
こんなに人と話すのが楽しいと感じたことはなかった。

だから別れの時が辛かった。

泳いでいいかと聞くと、サイカは思いっきり泳いでおいでと言ってくれた。
嬉しくなって海に飛び込んだ。海はしょっぱかった。ちょっとびっくりした。

川と違い、海は深くて少し暗い。
海に身を任せると、波が私の体をゆりかごの様にゆっくりと揺らす。
川ではそれほど泳ぐことが出来なかったけど、ここなら背伸びをしてもまだ余裕がある。
どこまでいっても水がある。このまま遠くまで泳いでいきたいな……。

どんどん潜っていくと、自分と同じように泳いでいるポケモンを見つけた。
初めは私のこの体を珍しそうに見ていたけど、一匹のポケモンが話しかけてくると周りのみんなも話しかけてくれた。
色違いのこの体を、かっこいい、かわいいな、羨ましい、素敵な体だね、と言ってくれた。
海で泳いでいたポケモン達は私を歓迎してくれた。

ちょっとした人気者になった気分だった。慣れてくると、自分から話しかけてみたり。
ポケモン達と一緒に泳いだ。一緒に遊んだ。競争したり岩を使ってかくれんぼしたり。
自分の居場所を見つけた様な、そんな気がした。
ここに連れてきてくれたサイカに感謝しないとね。私一人だけだったら来れなかったと思うから。

海から上がるとサイカは浜辺で寝そべっていた。
僕は炎タイプだから水は苦手なんだ……って言ってたっけ。
ちょっと悪戯してみようかな。

サイカを自分のところに来るようにと呼ぶ。
海に近づいたのを見計らって大量の海水を彼にかけてみた。
びしょぬれになった彼の首元と頭としっぽの毛は、水分を含んで重く垂れ下っている。
その姿を見て思わず笑ってしまった。

彼が怒った。
少し涙目になっている。
流石にちょっとやりすぎちゃったかな。

恐る恐る近づいてごめんなさいと彼に謝ると、彼は突然私を押し倒してきた。
よくもやったな! と彼が笑いながら私の顔をぐにぐにと前脚で弄ってきた。相当変な顔になってたんだろうね。その顔を見てサイカが笑っていた。
私も何だか楽しくなって、彼のふわふわの鬣を引っ張ったりして遊んでいた。どさくさに紛れて顔を埋めてみたりした。

お互いに上になったり下になったり。
ちょっとしたじゃれ合いをしていたら、突然彼と唇が重なった。



暫く時間が止まった気がした。
その瞬間は何時間にも感じられた。

ふと我に返ると、ごめんと彼が謝った。
わたしもごめんと彼に謝った。
何で謝ったんだろう?
別に嫌だった訳では……ないのに。

彼のオレンジの顔は普段よりも赤くなっていた。
心臓の鼓動が速い。私の顔もきっと赤くなっていたに違いない……。
ちょっと恥ずかしかったから、彼から顔を逸らしてしまった。

心臓が破裂しそうだ。胸が痛い。病気とは違う痛み。
何だろうこの感覚は……。

私もしかして……サイカの事が……。

海岸から見る夕日はサイカの様にオレンジ色で、とても奇麗で眩しくて。
そして私の心を癒してくれて。
その壮大な風景に言葉も出ず、サイカと二人でずっと眺めていた。

徐々に水平線に太陽が沈んでゆく。
そして、太陽が沈むのを待っていたかのように満月が現れる。

季節は夏の終わりに近づいていた。


== 3 - Autumn - You are necessary ==
3-1

紅葉は美しく、そして儚い。黄色に赤に染まった葉は、一枚また一枚落ちていく。
落ちた葉は地面を鮮やかに染め、黄色と赤が混ざった絨毯が出来上がる。
まるで、レインと出会ったあの日の桜の様に。

僕がいた森は常緑樹しかなかったから、紅葉を見るのは初めてだ。

春になったら再びあの桜の木を見たいとレインが言ったので、出会った森へと戻っている最中だった。
遠くから見たその山は紅葉がとても奇麗で、彼女が近くで見てみたいと言ったので寄り道している訳だ。

彼女と出会って半年が経った。
もう彼女は以前の彼女ではなく、とてもレインらしい。

うん、自分でも何言ってるか分からないな……あはは……。

兎に角、彼女は海に行った日から変わった。今まで以上に明るくなったし、積極的にもなった。
何時もは僕から話しかけていたのに、今では彼女から話しかけられる事が多い。
初めて会った時は笑顔とは無縁の様にも見えたが、今は笑顔が素敵な女性になっている。

きっとこれが、本来のレインの姿なのだろう。そう思う。

彼女の支えになってあげたい。彼女に何か与えてあげたい。
そんな風に思って彼女を旅に誘った。

最初は彼女の支えになっていたと自分でも思うし、彼女に色々としてあげれたと思う。
でも最近は、彼女から貰うものが多くなった。そう感じている。

彼女の笑顔を見ると、胸がドキドキする。

きっと僕はレインに特別な感情を抱いている。
もう、彼女の力になりたいとか彼女を助けてあげたいとか、どうでもよくなってきた。
彼女を純粋に一人の女性として、一緒に居たいと思う様になってきた。

  恋なのかな

特別な感情とはきっと恋愛感情だろう。
彼女と出会った時は普通に接していられたけど、今は彼女に普通に接することができない。
勿論、色違いだからという理由でではなく、何だか恥ずかしいのだ。

  僕は彼女に恋をしたのかな

誰かを好きになるなんて今まで無かったから、全然分らないや。

  もしこの先、彼女を失う事があったら僕はどうなるのだろうか?

考えたくない。でも考えてしまう。
彼女はいつも傍に居る。それが当たり前になっている。僕が居て彼女が居て。

何だかとても怖くなった。

当たり前になっているこの日常が崩れ去っていくという事が。
目の前から急に彼女が居なくなるという事が。

何時かレインは僕の元を離れて行くのではないか……。

いつの間にか僕は、彼女に依存するようになったのだろうか…。
僕は……彼女がいないと生きていけない。

ふと、レインが話しかけてきた。
どうやら僕は眉間にしわを寄せて唸っていたみたいだ。
彼女が心配そうに顔を覗いてきた。

何でも無いよと言うと、彼女か笑ってくれた。
その笑顔を見て、僕は心に決めた。

  何があってもレインを守ろう。
  どんな事があっても必ず。

嫌な事は考えないようにしよう。
嫌な事を考えてると、本当に起きるよって昔お母さんに言われたっけか。

  父さん……母さん……僕は出来るだろうか?

そう言えば、僕は自分の事を余り話してなかったな。
レインの事で頭が一杯だったから。

遅くなったけど、今度レインに聞いてもらおうかな。


3-2

サイカが自分の事を話してくれた。
今まで自分の事を話した事が無かったから、何があったんだろうと思った。

サイカも私と同じだった。
周りから変な目で見られて、それが辛くて。

私には痛いほどその気持ちが分かった。

そんな過去があったのに、彼は私の事を励ましてくれた。
彼は、君ほど辛い思いはしてないよと笑いながら言ったけど、私はそうは思わなかった。

辛さなんて人それぞれだから。
私にとっては些細なことでも、サイカにとってはとても辛いことなんだろう。
そう思ったら何だか悲しくなってきた。涙が出てきた。

彼が困ったような顔をしながら私を見ていた。
そして私に言った。

  レインが悲しいと僕も悲しいし、
  レインが泣いてると僕も泣きたい。

  だからレインには笑ってて欲しいな。
  そしたら僕も笑顔になれるからね。

私はサイカの過去を自分の事の様に思ってしまっていた。
彼の辛い過去は私の辛かった過去と同じ。
だから彼の悲しみを自分の悲しみのように思えてきた。

私は彼の力になってあげたい。
今まで助けて貰ってばかりだったから。

  私が彼にしてあげられる事は何かあるだろうか?

たとえあったとしても、彼から与えられたものが多すぎて返せるかどうか分からない。
でも、少しずつでいいから返して行こうと思った。
彼が幸せと感じる事を。
少しずつ。

今まで彼が私の手を引いてくれた。
今度は私が彼の手を引く番。

今までは与えられてばかりだった。
今度は私が与える番。

  私も……私も同じ。

  サイカが幸せだったら私も幸せだから。
  サイカが笑顔なら私も笑顔になれるから。

涙を拭いて、笑いながら彼にそう伝えた。
彼も笑いながら私の方を見てくれた。

風が冷たく吹いてくる。
その風に揺られ、最後の葉が落ちた。

私はサイカの手を引いて、桜の木があった森へと向かった。

山を下りようとすると、雪が降り始めた。
それは私とサイカに冬の始まりを知らせていた。


== 4 - Winter - Uneasiness and fear ==
4-1

サイカは冬は余り好きではないみたい。炎タイプだからね、と苦笑いしていた。
でも彼は暖かい。とても暖かい。だからサイカの周りは少し雪が溶けていた。

私も寒いのは少し苦手。彼には悪いけど、暖房代わりにさせて貰おうかな。
そうすれば、もっと近づける……。彼の温もりを感じることができる。

洞穴の中で彼と過ごす日々は、各地を渡り歩いてる時と比べれば少々退屈だった。
でも、こんな吹雪では進むことも出来なさそう。

春になる前に桜の木に着く事はできるのかな。
もう少し歩けばあの桜の木が見えてくるのに……。

二、三日足止めを食らってしまったけど、やっと吹雪が止んでくれた。
森を抜けて一面銀世界となった草原を歩いてゆく。

誰も歩いていないその草原には私とサイカの足跡だけが森から続いていた。

突然サイカが雪を丸めて投げてきた。私の顔にそれが直撃した。
海でのお返しだと彼が言うと、更に雪玉を投げてくる。
私も負けじと雪玉を投げたけど、中々彼に当たってくれない。

当たらないぞーと彼が挑発してきた。悔しかったので、何も考えずに思いきり振りかぶって投げてみた。
それが見事彼の顔に直撃した。彼はまさか当たるとは思っていなかったみたい。私も当たるとは思わなかった。
ちょっと痛そうだった。

暫く歩いていると、人間の街が見えてきた。確か海に向かう時にもこの街を通ったかも。
この街を越えて森を歩くと、そこには桜の木があるはず。

これなら春になる前に桜の木に着く事が出来る。
まだ冬だけど、早くあの木の元へと行きたい。

いてもたってもいられず、早く桜の木の元へ向かおうと白銀の草原を走りだすと、突然人間が私の目の前に現れた。

人間が私の事を捕まえにやってきた。

  色違いだから
  珍しいから
  高く売れるから

  ただそれだけの理由で

サイカに助けを求めたが、彼はまだ遠くにいた。
急いで彼が駆け付けてくるが、間に合わなかった。

突然体がしびれて動けなくなった。
人間が何か私にしたみたいだけど、何をしたのか分らない。
人間が大事そうに私を抱えると、私を檻に入れた。

私は捕まってしまった。

  嫌だ
  サイカと離れたくない
  一人にはなりたくない

  サイカ……助けて……

人間がどこかへ行こうとすると、サイカが私を助けようと人間に体当たりをした。
その衝撃で人間が体制を崩し籠を落とすと、彼が私を籠から出してくれた。
体に少し痺れが残っていたけど、私は力いっぱい彼に抱きついた。

早く逃げよう。
彼がそういうと私の手を引いて、走り出そうとした。

その時私は見てしまった。
人間はポケモンを出していて、そのポケモンが彼に攻撃しようとしていたのを。
……彼はそれに気が付いていなかった。

―――― 危ない!

痺れてうまく動かせない体に鞭を打って、無理やりサイカを跳ね飛ばす。
サイカに攻撃は当たらなかったみたい。

  良かった……

ふと、意識が遠のいていく。
私の体から赤い何かが流れている。

彼が何か叫んでいる。

何を言ってるのか

分らない

目の前が

暗く

なっ





4-2

人間と闘っている暇はない。
一刻も早く彼女を治療しなければ……彼女は死んでしまう。

  早くレインをポケモンセンターに運ばないと……

この傷では、最早木の実を食べさせた程度では治らないだろう。
人間に治してもらわないと……僕には無理だ……。

僕は……彼女一人助けることが出来ないのか。

可笑しいよね。
人間に傷つけられて、人間に助けてもらうなんて。

あの時出会った女性みたいな、優しい人間がいることは分かっているつもり。
でも……やっぱり人間は勝手だ。
自分の勝手な都合でポケモンを傷つける。その結果がこれだ。

血だらけになったレインを背中に乗せて走った。
目の前に見える街を目指して。

人間は傷物になったレインには興味が無いようで、ポケモンをボールへ戻すとどこかへ消えていった。
それに腹が立った。いっその事同じ目に遭わせてやりたい。いや、二倍三倍にして返してやりたい。すぐに殺さず、じわじわと苦痛を……。
そう思ったけど、今はレインを助けるのが最優先だ。

街の入り口からポケモンセンターの看板が見えた。
周りの人間やポケモン達は、何があったと驚いたような眼で僕を見ていたが、今はそんな事気にしている暇はない。
走る、走る、走る。

背中に乗せたレインの鼓動が弱くなっていくのを感じた。
体が冷たくなっていくのを感じた。

  お願いだ……死なないで……
  絶対助けるから……

  僕は君を……失いたくない

ポケモンセンターに勢いよく入っていった。
その勢いに何だ何だと周りがざわついていたが、僕の背中を見ると何があったか理解したようだ。

ラッキーが急いでやってきて、事情は後で聞きますからと言うと、何やら台の上にレインを乗せて奥の方へと行った。
大きく無機質な扉の上には赤いランプが光っていて『手術中』と書かれていた。

僕は血まみれになりながら、レインが無事戻ってくることを祈った。

扉が開くと、先ほどのラッキーが出てきた。
レインは無事なのか聞くと、ラッキーはまだ治療中なので何とも言えませんと言った。
そして、僕に事情を聞いてきた。

三十分ほどして、レインが台に乗せられて部屋から出てくる。
恐らく治療してくれていたであろう人間は、僕に向かって命に別状はありませんと言ってきた。

ただ、暫くはここに入院しなければいけないと言われた。
僕はレインの為なら何日でも待つつもりだ。

その前に、体の血を落とした方がいいですねとラッキーに言われた。
そう言えばレインを背負ってきたから体中血だらけなんだっけ。
血は乾いてカピカピになっていた。

血を落とすと、レインが寝るベッドの横にあった簡易ベッドへと腰を落とす。
そして、疲れた体を休ませる。

  早く……目を覚まして……。

  君の声が聞きたい
  君の笑顔が見たい

ポケモンセンターに来て三日。
彼女は中々目を覚ましてくれない。

人間に襲われたという事もあって、病室には僕とポケモンセンターの人以外は入れなくなっている。
ガーディを連れた女の人が僕に事情を聞きに来りもした。そこでハンターというのを知った。
奴らはポケモンを売り買いしている連中。ポケモンの売買は当然禁止されているが、裏では取引が盛んらしい。

特に、レインのような珍しいポケモンは。

  やっぱり人間は――――勝手な生き物だ。

一週間して彼女が目を覚ましてくれた。
傷は完全に治った訳ではないが、彼女が目を覚ましてくれたという事実がとても嬉しかった。

彼女の様子がおかしい。酷く怯えているようだ。
寝ている間、何度も何度も人間に追いかけ回される夢を見たと僕に言った。
そして、庇った僕が殺されてしまう夢を見たそうだ。

彼女は不安だった。また何時か捕まってしまうのではないかと。
そして、僕を失ってしまうのではないかと。

僕から離れたくないと言ってくれた。
僕も、レインと離れ離れになるなんて……考えられない。

―――― 僕は……どこにも行かないから……。

震えるレインの体を抱きしめながら、そう言ってあげた。

レインの傷が回復して、退院してもいいと言われた。
僕たちは野生のポケモンなのに、ポケモンセンターの皆は手厚く看護してくれた。

ラッキーが言うには、ポケモンセンターはトレーナーのポケモンだろうと野生のポケモンだろうと、関係なしに受け入れてくれるらしい。
だから困った事があればまたポケモンセンターに来てくださいね、と言ってくれた。

  お世話になりました

彼女と一緒に礼を言う。
ラッキーは笑顔でお大事にと言い、僕たちに礼をするとポケモンセンターの中へと戻って行った。


== 5 - Spring - Existence of me whom he has ==

私とサイカは、出会った桜の木の下にいる。
桜の木はまだ花を咲かせてはいない。まだ枝に雪が残っている。

少し早く着いたけど、間に合ってよかった。
サイカと出会った思い出の場所。私にとって大切な場所。
色違いでなかったら、今頃こうしてサイカと一緒にいる事も出来なかっただろう。
そう思うと、この体には感謝しないとね。

あと一か月もすれば、桜は咲くだろうとサイカが言った。
二人で桜が咲くまでここで、再び暮らすことにした。

次はどこに行こうかと二人で話した。
私はサイカと一緒ならどこでもいいと言うと、彼も私と一緒ならどこでもいいよと言った。
彼がこれじゃどこに行くか決まらないねと笑いながら言うと、そうだねと私も笑いながら言った。

雪はすべて融けて緑色の地面が顔を覗かせる。
今年もまた、春がやってきた。

桜の蕾が徐々に開いてくる。そろそろ開花の季節だ。
今年もまた、奇麗に花が咲いてくれるかな。
今から楽しみで、ワクワクして仕方がない。サイカも楽しみにしていた。

早く開いてくれないかな。
私は毎日桜の木を見ていた。

桜が五分咲きになったある日、私が木の実を採って帰ってくると、サイカが何やら難しい顔をして私の方を見てきた。
どうしたのと聞くと、彼は大事な話があると言い私の目の前に座った。

―――― レイン……君に伝えたい事があるんだ。僕は……

彼が何か言おうとした時、森の向こうから何か音が聞こえてきた。
音のする方へと視線を向けると、そこには見たことがある人間がいた。

そうだ……あの人間は――――――――

  まさかこんな所でもう一度お目にかかれるとは思ってもいなかったぜ……。

人間はそう言うと、ニヤリと笑って私に近付いてきた。
あの時私が死んでしまったと思っていたのだろう。

人間はまた私を捕まえに来た。
あの日の恐怖が蘇る。

全身に走る傷の痛み。
檻に入れられた時の不安。
サイカと離ればなれになってしまう恐怖。

もう嫌だ……。
こんなのもう嫌だ!

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで

―――― 私に近づかないで!!

私は人間に向かって叫んだ。けど人間はお構いなしに近づいてくる。
私に近づいてきた人間に向かってサイカが体当たりをした。
逃げようと思った。けどやっぱり怖くて足が動かない。
それに、サイカを置いて逃げるなんて出来ない。

人間は私を捕まえようとしていた。でもサイカに邪魔されてうまく捕まえられず、イライラしている様に見えた。

ふと、思い出す。

  これはあの時見た夢――――
  あの時見た夢が現実のものになろうとしている――――

  サイカが危ない――――――――

私がサイカに声をかけるよりも早く、人間のポケモンがサイカに攻撃を放った。
サイカに攻撃が直撃すると、彼は血だらけになって吹き飛ばされてしまった。

  あの夢の通り――――

邪魔ものがいなくなったと、人間が私を捕まえに来る。

  ここで私は捕まって、人間に――――――――

――――――――

突然目の間を火柱が走った。
サイカは余った力で『かえんほうしゃ』を放っていた

それは人間とポケモンに向けられた。

木に草に炎が移り、辺りは炎の海と化していた。
人間には当たらなかったものの、人間が連れていたポケモンに直撃して、そのポケモンは悲鳴をあげながら逃げて行った。

人間の周りにも火の手が上がる。
人間はこれはまずいと、逃げ出していった。

人間が居なくなるのを見ると、私は急いで『みずでっぽう』で炎を消した。
よかった……桜の木は燃えていないみたい。
サイカは……彼は無事だろうか……
急いでサイカの元へと駆け付けると、そこには血だらけになってぐったりと倒れている彼の姿があった。

  サイカが……

頭の中が真っ白になる。どうすればいいか分からない。
このままでは彼は……急いでポケモンセンターに運ばなければ、彼は死んでしまう……。

  ポケモンセンター――――――――
  そこなら彼を――――――――

私が彼を背負おうとすると、彼はそれを拒んだ。
私の方を見て顔を横に振った。

私にはまだその意味が分からなかった。

私は貴方に何かしてもらってばかりで、貴方に何もしてあげられなかった。
何時も守ってもらってばかりで……自分では何も出来なかった……。
まだ貴方にお礼をしていない……。

  お願い、死なないで……
  私を置いていかないで……
  私を一人にしないで……
  ずっと一緒に居てくれるって約束したじゃない……

  私は……私は貴方が居ないと生きていけない……
  お願い、サイカ……

サイカの胸に手を当てると、心臓の鼓動が聞こえてきたが、だんだん弱々しくなっている。
彼の顔からは血の気が引き、体温は下がっていく。彼の生気が無くなってゆく。

サイカが笑いながら私に何か話しかけてきた。必死に何か言おうとしてるみたいだった。
でも、その声は聞こえなかった。彼はもう声を出す力も残っていない。



彼が私を止めた意味が分かった。

口を動かしているのは分かったが、涙で彼の顔が見えなかった。
サイカは弱々しく私の頬に手をやり、涙を拭こうとしていた。

サイカに思いを伝えなければ……。

後悔する前に……、
私の思いを伝えなければ……。

彼の目が閉じかけた。



「サイカ、貴方に伝えないといけない事が




















== 6 - Epilogue - Desire is everlasting ==

彼は何時も私の手を引いてくれた。
何か困ったことがあれば彼が手を差し伸べてくれた。
だから私は迷わず進むことができた。

彼は何時も私に笑いかけてくれた。
私に笑いかけてくれるのは彼だけだった。
彼しかいなかった。

彼は何時も私を見ていてくれた。
何一つ隔たりなく、
同じ目線で特別扱いせずに。

そして彼は何時も私の傍にいてくれた。

彼は私の存在を認めてくれた。
私にここにいていいと言ってくれた。



私は自分が嫌いだった。
他とは違うその体が嫌いだった。

そんな私の体を彼は個性だと言ってくれた。
初めて“一匹のポケモン”として見てくれた。
彼と過ごした一年間は私を変えてくれた。



彼は最後まで私を守ってくれた。
彼は最後まで私を見ていてくれた。
彼は最後まで私と一緒にいてくれた。

そんな彼はもういない。
彼はもう戻ってこない。

私はまた一人になってしまった。
それでも寂しくはなかった。



彼と出会った桜の木。
満開に咲いた桜の花びらは風に揺られて舞っていく。
花の間から覗かせる太陽の光は、彼の様にとても温かく私を包んでゆく。

私はその桜の木の根元に座り、彼を想いながら眠りにつこうとしていた。



ふと足音が聞こえてくる。

一面に敷かれた桜の絨毯の上を一匹のポケモンが歩いてきた。
桜の花びらが風で舞い、顔がよく見えなかった。

そのポケモンが私に話しかけてきた。



―――― ねぇ、隣に座ってもいいかな?




ルギアの心を描いている時にふと思いついた作品です。
某小説に感化されて書いてみた。わかる人には一発でわかるような書き方です。

視点がレイン視点・サイカ視点とコロコロ変わります。
分かりにくかったらすみません。

殆ど会話無し(鍵括弧無し)で書いてみました。

格好つけてサブタイトル英語にしてみました!



どう見てもエキサイト翻訳そのままです本当に有難う御座いました。


感想・誤字脱字・意味不明な表現等ありましたらコメント欄へどうぞ。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • な、泣いてもいいですか?
    最後の足音はサイカの生まれ変わりだと信じたいです。
    ――座布団 2009-10-10 (土) 00:59:59
  • サイカを助けた女性って、まさかアスカ?!
    ――かなみ ? 2009-10-10 (土) 01:57:37
  • 座布団さん
    最後に現れるポケモンは、ご想像にお任せしますよ。
    その辺は敢えて謎に…フヒヒ
    書くと雰囲気ぶち壊しそうですしね。

    かなみさん
    誰とは言いませんよ?フフフ…
    ――雪猫 ? 2009-10-10 (土) 05:57:32
  • 悲しいお話ですね…
    最後サイカって死んだのですか?
    でも最後に話しかけてきたのは…
                  -saika-
    だよね…
    ってことはあのあと親切な人がきてポケセンにいった?貰い火で復活?偶々近くに元気の欠片があったとか?
    きにたる……
    ――(TOT) ? 2009-10-10 (土) 09:42:15
  • (TOT)さん
    最後に現れたのがサイカだと思うなら、きっとそうなのでしょう……。
    彼がその後どうなったかはご想像にお任せします。

    因みに、貰い火で復活説ですが、既に火は消えてるので多分無理なんじゃないかと思われます。
    ――雪猫 ? 2009-10-10 (土) 12:17:43
  • ヒルクライムの春夏秋冬にピッタリな曲・・・やばい、泣けてきた・・・(;_;)
    ――雪崩 ? 2009-10-10 (土) 12:30:43
  • 雪崩さん
    YouTubeでどんな曲なのか早速聴いてみました。いい曲ですね~。
    歌詞がそのまんまの所ありましたね。ちょっとびっくりしました。
    ――雪猫 ? 2009-10-10 (土) 12:43:47
  • あ、『ピッタリな曲』じゃなくて『ピッタリな小説』ですねwww
    ――雪崩 ? 2009-10-10 (土) 22:08:08
  • イイハナシダナー(; ;)詩的なところがなんとも…
    自分に全てが理解できるとは思わないのであまり長くは書けませんが…
    ただひたすら感動です。ありがとうございました。
    ――jena ? 2009-10-26 (月) 20:47:50
  • >jenaさん
    いえいえ、こちらこそ読んでいただいてコメントも頂いて嬉しいです。
    有難う御座います。
    ――雪猫 ? 2009-10-26 (月) 23:36:02
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Last-modified: 2013-01-22 (火) 00:00:00
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