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ルカリオの育て屋奮闘記

/ルカリオの育て屋奮闘記



作者:リング

1 


 田舎に設けられただだっ広い土地は、池沼に森林、砂地に草地に洞窟と、数種の環境を人工的に作られた育て屋だ。
 その中、生え放題の雑草が生えるそばから食い荒らされる草地のエリアでは、広い見通しを好むポケモン達がたむろしている。
 抜けるような晴天も、肺を圧迫するような曇天も関係無しとばかりに、その平地のエリアで見つめ合う二人。
 春を迎え、徐々に暖かさを増していき、冬毛が用を為さなくなってゆくこの季節。まだまだ肌寒いけれど、熱くなるにはちょうどいい。
 とあるトレーナーに一緒に預けられた二匹も、もう準備万端とばかりに熱々だ。

 『今日こそ、仕留めて見せる』。まだ経験の浅いルカリオは、緊張した様子で相手に向きあう。
 震える足は、まさしくその緊張を体現しており、元から青い体毛も弱気になっているおかげか、より青みをましているようにさえ思えてしまう。
 対して、彼女は冷静だった。誘うような目つきに、挑発的な態度。
 腰まで上げられた山吹色の抜け殻を着た脚をこれ見よがしにくねらせながら、深紅のモヒカンを掻き上げ笑む。
 ルカリオ*1は意を決した。

 まずは右腰に手を合わせ、波導弾を放つ構え。
 ルカリオがチャージを始めた瞬間、目にもとまらぬ速さでズルズキン*2は接近、前後に頭を振る動作と合わせて口から酸を吐く。
 顔面を狙ったそれを、身をかがめてルカリオが避けた。しかし、その一瞬ズルズキンから眼を離してしまう。
 ズルズキンは隙を見逃さず、鞭のように(しな)らせたミドルキックで、波導弾の構えをとるルカリオの腕を襲い、チャージしていた波導弾を潰しにかかった。
 ルカリオは咄嗟の防御。右腕をクッションにしてその蹴りを防いでなお鳩尾まで響いた痛みを、ルカリオは気合いと精神力で耐え抜き左手の裏拳を相手の顔面めがけて放つ。
 重い金属質の棘が付いた裏拳は、一発で戦意を失いかねない威力を持つが、ズルズキンは後方倒立回転跳び*3を行い、脚による威嚇で追撃を避けつつ安全圏へ離脱した。

 ズルズキン優勢の攻防から一旦膠着状態へと移行して、ズルズキンは吸う息でヒュッと音を鳴らす。呼吸の音に反応してルカリオの体がビクリと震えた。
 音によるフェイントから生まれた一瞬の隙を狙って、ズルズキンは左ジャブ*4で先手を取る。
 予備動作を排した鋭いジャブをなんとか肘でいなして、ルカリオは相手の隙が生まれるのを待つ。
 ルカリオが大きくズルズキンの手を弾き飛ばした瞬間、彼はそれを好機とみた。
 一気にズルズキンの懐に潜り込み、間合いを詰めての左肘打ち。
 相手が左半身を前に出す形で半身になって肘打ちを避けた所を、ルカリオはさらに右掌底で顎を狙う。が、それも避けられた。
 ガラあきになったルカリオの(わき)に、闘気を纏ったズルズキンの拳が叩きつけられる。
 二度にわたる右脇腹への打撃で今すぐに崩れ落ちそうな痛みをこらえて、ルカリオは脚に炎を纏いつつズルズキンの脛をめがけて斜め下にえぐり込むような、踏みつけるような軌道で爪先を当てる。
 いわゆる斧刃脚(ふじんきゃく)と呼ばれるルカリオの一撃*5を、ズルズキンは素早くバックステップでかわす。

 視線を体勢を立て直しながら二人は向きあう。再びの膠着、仕切り直しだが、大ぶりの動作を多く取り入れたルカリオはスタミナが削られ、それに加えて二度も右上半身へと打撃を喰らっている。彼の劣勢は明らかだ。
 ルカリオは前に大きく腕を伸ばした防御の構え、ゆったりとリラックスした膝を前にも後ろにも自在に動かせるよう、重心は両足の真ん中に。
 大して、ズルズキンの重心は低く、かなり前のめりの攻撃的な重心。
 あと少し傾ければ、よろけて立ち膝にならざるを得ないギリギリの所で重心を保っており、そのバランス感覚の良さを伺わせる。
 タックル狙いがバレバレじゃないかと、ルカリオは半ば油断しながら彼女の脚元に注視していた。
 戦いの最中はむしろ相手の目を見るのが基本であり、これはルカリオの経験の浅さが生んでしまった致命的な間違いである。
 相手がテイクダウン*6で来るとわかっていれば、相手に膝を掴まれる前に上から叩き潰すなり、ひざ蹴りを顔面に叩きこむなりしてやろう。
 と、高をくくったのが甘かった。

 走り出したズルズキンはしかし、ルカリオの間合いに入る直前で地面に左手をつき、左手足を軸に後ろ回し蹴り。
 完全に下に向いていたルカリオの視線は、その攻撃を視認することなく、文字通り見えない打撃となった彼女の右踵は彼の側頭部から頭蓋を貫かんと狙う。
 すんでの所で気づいたルカリオは、鼻先を掠め風圧で顔の体毛が揺れるのを感じながら、のけぞってそれを避ける。
 しかし、ズルズキンは回転の勢いを弱めないまま、今度は手をつかずに左足のみを軸にもう一回転。
 ルカリオは体勢が崩れかけていてそれ以上下がる事が出来ず、腕を上げて顔面をカバーしたがそのガードの上から見舞われた重い蹴りが彼のマズルを振り抜き顔面を揺らす。
 綺麗にガードを打ち破られたルカリオは激しい脳震盪できっちりその場に崩れ落ちた。
 驚いたまま止まっているルカリオの顔を確認しながらズルズキンは立ちあがり、うつ伏せに倒れたルカリオへ馬乗りの体勢。
 後頭部に垂れさがる房をひっつかんで顔を浮かし、地面にたたきつける真似をするところで『トドメを刺した』、と満足した。
「……結局アタイにダメージ与えられないでやんの。ダサい」
 勝者であるズルズキンは、唾と一緒に言葉を吐き捨てた。

2 


(ご主人……僕、育て屋よりもあなたの元で修業したいのに……)
 ルカリオはそんな気持ちを言葉にしたくて、しかし人間の言葉を操る術を知らない彼は、口を噤むのであった。
「それじゃ杭奈(くいな)、元気でな。ハカマと一緒に半年間頑張れよ。静流(しずる)も、二人をよろしく頼むからな」
 静流と呼ばれたズルズキンは笑顔で手を振るが、杭奈と呼ばれたルカリオはせめてもの抵抗に主人の体に抱きついた。
 よく鍛えられた主人の体は、大木のようにごつごつとしていて、間違っても喧嘩を売ってはいけない相手である事を分からせてくれる。
 そんな主人の肉体を感じながら甘えて見せるのだが、主人はルカリオの頭を撫でて、「行って来い」と少し名残惜しそうにしながら微笑むだけだった。

 修行の岩屋で暮らしていた杭奈は、ポケモンバトルではなくこの主人のローキックと寝技のみで捕獲された。
 各地の四天王やジムリーダーと同じく、主人も格闘家とポケモントレーナーの二足の草鞋をはいており、それらのご多分にもれずそこいらのポケモンよりずっと強い。
 ゲットされてからの杭奈はというと、強い主人に憧れ必死で好きになろうと努力して、早い段階でルカリオになった。
 ルカリオになれば本格的な指導をしてくれる、強くなれる信じていたのだが、あろうことか主人はもう体も完成されたろうと考え、杭奈を育て屋に預けることになってしまったのだ。
 何でも、彼はポケモンリーグの試験を受け合格したそうで、晴れて格闘タイプのジムを開こうという彼らの主人は、輸入規制が解禁された地方の片っ端から格闘タイプを集めたそうだ。
 一人じゃ育てきれないからと、助手や育成の才覚のある近所の子供にに育成を手伝ってもらったりはしているのだが、それでも育てきれない分を育て屋で補うのだと。
 せっかく進化したというのに、これでは杭奈も意気消沈であった。

 それでも、与えられた試練は越えるしかないと、杭奈は甘んじて育て屋生活に踏み出すのだ。
 杭奈達が預けられるシラモリ育て屋本舗は、ポケモン同士の対戦をいつでも自由に行えるという解放的な(一部ただの放任主義との批判あり)の育て屋として有名である。
 預けられるのは静流と杭奈他、幼い雄のラルトスの(ハカマ)一匹。
 静流は主人と旅を共にしてきたメンバーで、教育・監督役という名目だ。
「おうおう、新人さんのお出ましだな」
 三匹が育て屋の広場に入ると、早速以って先客達からの歓迎を受けることになる。
「見ろよこの女。バカラ教官と同じズルズキンだぜ!」
「へぇ、強いのかなぁ」
 と、三匹にの中でも特に静流に注目が集まって数分。まずは拳で語り合おうとばかりに、先客達と対戦と相成った。
 静流が先程の質問に対して『強いわよ』と、にこやかに答えたせいだろうか。
 なんの間違いか相性の悪い飛行タイプのポケモン、ウォーグルと戦うことになってしまったのだが――
 静流は敵の足爪による掴み攻撃*7を仰向けになってやり過ごし、強酸性の液体を吐きかける。
 その液体は酷い火傷を負いかねないので、浴びたらすぐに地面なり水なりで拭う必要があるのだが、鳥ポケモンが不用意に地面に降り立つというのは多くのアドバンテージを失う自殺行為だ。
 羽根休めで急速なスタミナの回復を図るとしても、格闘タイプが相手では弱点を増やす要因だ。
 しかも、『地面に降りたらその瞬間格闘技でぶっ殺す』とばかりに、指をバキバキと鳴らす彼女から受ける印象など恐怖以外のなにものでもなく、そのウォーグルは空中であえなく降参してしまう。
 拳での会話が終わると、雑魚に興味が無くなったのか、静流は自分と同じズルズキンだというバカラ教官の元へ。
 モチベーションの下がっている杭奈は、静流がそうしたように先客と戯れながらぬるい訓練を行う事で日中を終える。
 ちなみにハカマは、森林エリアの下草刈りの用務員であるハハコモリの着せ替え人形にされたままお持ち帰りされてしまったそうな。

 問題が起こったのはその夜だ。困ったことに、静流は杭奈の異性である。
 育て屋に来て初日はいつも通り可も無く不可も無くなつきあいを続けていくつもりだった杭奈だが――。
 主人の厳しい訓練から解放されて気が楽だと思う反面、さびしい思いをしながら迎えたその日の夜。
 二匹で広大な育て屋を見て回っている最中のことだ。ありがちな話だが、二匹は預けられたポケモンの情事を見てしまう。
 戯れるエモンガとチラーミィをガン見して、非常に微妙な雰囲気になった所を敏感な嗅覚の杭奈は漂って来る匂いに便乗して欲情。
「元気ねぇ……これだから男は」
 興奮する杭奈をよそに、元気な下半身をマジマジと見て静流は溜め息をつくばかり。
 呆れられているとわかっていても抑えきれない衝動に負けて、杭奈が思わず本能的に静流の肩を掴んで抱き寄せたところ……
「調子に乗るな、(いぬ)が」
 足払いから地面にたたきつけられ。一蹴されてしまった。否、倒れたところを実際に蹴られた。しかも2回だから二蹴か。やっぱりこの女は悪タイプだ。

「アタイ、トサカの無い男には魅力を感じないのよねー。その点、バカラ教官は素敵だったわー」
 このままハカマがエルレイドに進化したりもすれば卵グループを無視してそっち側になびいてしまうのではないかといらぬ心配を杭奈はしつつ、なんとか抑えきれない欲求を解消する術を模索する。
「じゃ、じゃあ……僕はどうすれば静流にあのエモンガと同じ事できる?」
 その方法が、恥知らずの質問をやってのける事であったので、静流は純粋で可愛いと思う反面純粋すぎるのも考えものだと溜め息一つ。
「トサカ作ってこれないならアタイを倒せるくらい強くなってきなさいな。所詮、バカラ教官とはお・あ・そ・び・だ・し……
 育て屋を抜けても、長いこと一緒に付き合って行く貴方となら遊びじゃなくって本気で付き合ってあげる」
「や、約束だからな」
 喰らいつくように念を入れる杭奈を、静流は笑う。
「いいわよ。私は雌だけれど、格闘タイプの(おとこ)として二言はないわ」
 こうして、杭奈は1日でじゃれ合いのようなぬるいトレーニングを卒業することになる。
 雨降って地固まるとはこのことで、杭奈もこれによりやる気は出したのだ。
 ……やる気は。

 しかし、それから先は大変だ。まず、杭奈と静流の圧倒的な実力差を覆すための望みが足りない。希望が無ければ頑張り続けることは難しい。
 そしてもう一つは違う意味での絶望として、お遊びとは思えない静流の態度である。
 血のように紅く、大きく形もよいのトサカに大いなる魅力を感じたのか、静流は気がつけば育て屋の教官であるズルズキンのバカラと一緒にいるのであった。
 静流は名目上、杭奈とハカマの教育・監督役として一緒に預けられたのだが、教育役と言うのは名ばかりでバカラ教官に指導してもらうために主人は静流を預けた節があるのかもしれない。
 しかし、バカラ教官と静流の関係は教官として普通に指導しているだけではない。
 昼食時は楽しそうに同じ木の実を食しているわ、しょっちゅう組み手をしているわ。
 さらにはトサカの手入れまでするほど仲睦まじく同じトレーナーの元で育った杭奈の立場が無いのだ。
 それでも彼女曰く、バカラとは『所詮お遊び』らしいのだから、やっぱりこの女は悪タイプだ。
 絶望的なまでの腕の差と魅力の差。杭奈の特性は精神力寄りだが、もう片方の不屈の心も片鱗ながら備えている。
 もしそれが無かったら、やっぱりやる気を失っていたかもしれない。
 今はなけなしの希望を逆境にして、杭奈は『自分だって、棘の手入れをしてほしい!!』と叫びたい衝動を押し殺ながら修業している。
 そのやる気がいつまでもつ事やら……。杭奈は自分自身でやる気が持つかどうかを危ぶんでいた。


「うぅ……ん」
 気絶したまま、預けられた当初の夢を見ている杭奈を背負い、静流は住処として与えられた岩穴へと帰る。
 静流はこんこんと湧き続ける水を手で掬い、杭奈の顔にぶっかける。さすがは悪タイプ、乱暴だ。
 跳び起きた杭奈の額を軽くデコピンで弾き飛ばして、静流は嘲笑した。
「相変わらず弱いな、杭奈」
「あ、あんな足技初めて見たんだよ……避けられるわけないじゃん」
 腫れた頬を冷凍パンチの要領で冷やしながら、杭奈と呼ばれたルカリオは不平を漏らす。
「なーに言ってるのかしらね。彼から習った技を見よう見まねで使ってみただけだってのに、かわせないものかしらねぇ?」
「そっちはマスターの古参メンバーじゃないか……戦い慣れてるってのにハンデも無しじゃ勝てるわけないよ……」
 ウダウダとうるさい杭奈と話しているのは億劫なのか、ズルズキンは組んだ腕を枕にして仰向けに寝転がった。
「たしかにまぁ、勝てないかもだけど、ここに預けられてもう三日。今まで積み上げられた経験はともかくとしたって、あんた、何か得るものがあったっていいはずじゃない? それを、特に何の変化も無しってのはどうしたものかしらね」
「みんな、すごい技術だから何しているのかわかんないんだもの……静流みたいに強くなれば分かるのかもしれないけれど……コレでもきちんと練習しているんだからね」
「なるほどね。あんた見る目ないもんねー」
 ふふんと、得意げに笑いながら、静流は憎まれ口を叩く。仰向けのまま脚まで組んで見せるあられもない姿は、女性としてはいかがなものか。
「ま、こういうものは壁を乗り越えれば突然伸びるって時があるものよ。それまで地道に目を鍛えりゃいいじゃないのさ」
「目……?」
 笑い飛ばされて不満げに口を尖らせる杭奈が、しかめっ面のまま静流に尋ね返す。
「そうさね。攻撃も防御も、動きを真似するのには眼と反復練習さ。あんた、反復練習は上手いくせに、動きを真似すんのは苦手だからなぁ。そんならいっそのことリオルから進化しなきゃ良かったんじゃないの?」
「む……これでもルカリオになって強くなったんだよ」
 静流は起き上がり、杭奈に接近。
「はは、どうかしら。こんな可愛い顔しちゃってさ。強がりたいならもっと風格の一つでも出しなさいな」
 ムキになって反論する杭奈の腫れていない方の左頬を突っつき、静流は笑う。
「急がば回れたぁよく言うじゃないの。リオルの時のような純粋無垢な目で周りを見てみなさいよ。アタイは今でも心は少女だから、見て真似するのは得意なのよ」
 調子に乗った静流は杭奈の頬をつねったままぶんぶんと指を振る。頭を揺らされ何も言えない杭奈を尻目に、静流は頬から離した右手で強烈に背中に張り手を喰らわせる。眼前に閃光が走るような衝撃。
「ぃったぁぁぁぁ……」
 案の定、背中に張り付いた熱を帯びた痛みに杭奈は悶絶。開いた大口からかすれた声を漏らして、目には涙が浮かんでいる。
「約束どおり勝つまでは、お楽しみもお預け……育て屋ライフを半分以上損してるよあんた。無理だろうけれど、さっさとアタイより強くなりなさいな」
「……ふぁい」
 歯を食いしばったままの杭奈は震える声で気の無い返事を返すのが精一杯であった。


「全く、見る力を鍛えろっていうけれど、どうすりゃいいって言うんだよ……」
 岩穴に寝転がりながら、杭奈は静流に聞こえないように愚痴を漏らす。
 杭奈だって、自分が強くなるためにアドバイスの一つや二つ欲しいものだ。しかし、肝心の静流は教えるのが苦手だと、杭奈のことは構ってくれない。
 自分より強そうな格闘タイプも育て屋の先客に居るには居るのだが、それがナゲキやチャオブーではあまりにも戦闘スタイルが違いすぎて参考にならない。
 更なる問題は、静流が言った通り目が鍛えられていないために、上手い動き方の真似が出来ず、それゆえ反復練習も出来ない。
 教育役がいないことによる弊害をもろに被っている、と言うわけだ。
 静流曰く、彼女の2連蹴りはこの育て屋の教官の動きを昨日の戦闘に生かしていたらしいのだが、そんな風に見て真似するなんて器用な事は杭奈には出来ない。
 原因は、狩りの記憶はいくらかあってもバトルの記憶があまりないことによる。
 元野性だけに、杭奈の戦闘技術はバトルよりも狩りに特化しているのだ。とにかく突っ込み、相手に被害を与えればいい。
 返り討ちにあっても、自分を攻撃している間に獲物は仲間に攻撃されている。後先考えない攻撃こそが、野性ではもてはやされるのである。
 そんな風にリオル時代を生きて来た杭奈に、そもそもバトルをしろというのも無理な話。
 一匹で伸び悩む杭奈は途方に暮れていた。

3 


 数日経っても勝てない自分に嫌気がさしながら、寝床として与えられた岩穴に帰って見ると、麗しきトサカップルは戯れていた。
 しかし、戯れてはいるものの愛しあいではなく殺し合いと見まがう勢いの組み手によってだ。
 静流が間合いを離そうとすれば指をそろえて鉈のような抜き手が襲い、接近すれば膝蹴りや頭突き。
 強酸性の液体を吐きかける勢い、フォーム共にそつがなく、攻撃の合間に的確に織り込んでくるバカラの強さは本物だ。元四天王*8の手持ちだったというのも頷ける。
 静流の言うトサカが魅力的というのは確かにそうなのかもしれないが、動きの鋭さは杭奈のそれを遥かに凌駕していた。
 バカラは強さの面でも十分魅力的だということだ。杭奈は遊びの関係だなんてもったいないとは思いつつも、遊びの関係でよかったと安堵している。
「いつ見ても速いな……」
 どうやら意図的に格闘タイプの技を使わないようにしているらしいバカラがだが、それでも静流は襲いかかるバカラの攻撃を凌ぐのにも精いっぱいだ。
 静流がバカラの手首を弾いていなしても、斧の重さと鞭の撓りを合わせたバカラの足技は非常に重い。
 互いに闘気を使って*9攻撃していないだけあって、致命傷は与え難いようだが、徐々に腕が上がらなくなっているのは静流の方だ。
 バカラは弱点である顔を狙うよりもガードしている腕にダメージを与えるように、顔狙いのパンチと腕狙いのパンチを使い分け、上手く静流を翻弄している……なんてことは、杭奈には分かるはずもなく。
 未熟な彼に分かるのは、ただバカラが静流を圧倒していると言うことだけ。

 徐々に蓄積した腕のダメージに耐え切れなくなったのか、静流が勝負にでて、接近からの右ストレート。
 彼女の右腕が突き出されると同時に、バカラはそれを弾くのではなく自身は左に動き、相手の伸びきった腕が畳まれる前に掴みにかかる。
 体の外側から静流の腕を抱くと、バカラは膝の裏に踵蹴りを叩き込んで、無様なうつ伏せの姿勢に倒した。
 静流は腕を後ろに回されたままうつぶせの姿勢。こうなってしまえばバカラの心ひとつで肩を外すも、地面に叩きつけて頭蓋を砕くも自由だ。もちろん、勝負ありだ。
「か、敵いっこない……」
 杭奈は静流の強さにすら足元にすら及んでいないのに、バカラは真っ向から攻めきって勝利してしまった。
 ため息が出るような美しい強さには、強くなることが馬鹿らしく思えるほどの差が見えた。
 まさしく、月とすっぽんというのが正しい表現だ。

 盗み見していた事が何だかバツが悪いので、杭奈は逃げるようにその場を去り、数十分。
「単純な攻撃じゃ、絶対に攻めきれない……でも、トリッキーったってどうすりゃいいのさ」
 先程の試合内容を反芻しながら、杭奈は木陰の下でたたずんでいた。
 あの後も何度か二人は組み手を行い、そして例外なくバカラが勝っていた。
 大きく踏み込んでからの爪による引っ掻き攻撃。岩を砕くが如くの強烈な蹴り。
 静流の攻撃全てを冷静に見切ってはその隙をつき、押し倒すなり打ち崩すなりして敵に致命傷を与えるお手本のような格闘技だ。
 悪党ポケモンなんて呼ばれているけれど、正統派な格闘技でもとんでもなく強かった。
 どちらかと言うと悪闘ポケモンと文字通り読んだほうがしっくりくる。
 弱いほうのズルズキンである静流が当面の目標とはいえ、それにさえどうすれば勝てるのか見当も付かない。
 杭奈はそのまま何事も無かったように岩穴に帰っても良かったのだが、静流の蹴りでも喰らって記憶が飛んでしまったり、頭痛で修行に集中できなくなっては具合が悪い。
 客観的に見て、改めて実力差を理解した杭奈は、今日は徹底的にシャドーをするために静流に挑まないと決め込んだ。
 今は全力であの場から離脱して乱れた息を整えていたが、そろそろ肩で息をする必要も無くなってきた杭奈は、立ちあがってシャドーを始める。
 相手の懐に入り込んでのゼロ距離体当たり、肘打ち、斧刃脚、そして必殺技の裏拳。
 ルカリオは、紙のような防御力を補うために相手の攻撃がしづらい位置から有効な打撃を一方的に与えるというのが理想の闘い方だ。
 杭奈は強くなるためにそれに関わる動作を幾度となく繰り返す。しかし、相手の動きを予見して同じ動作が出来るかといえば難しい。
 その勘を養うためにも、動く標的が欲しいのだが、生憎持って適当な相手が見つけられない。
 二足歩行で、出来れば身長が近い攻撃よりのポケモン。そんなのが都合よくこの育て屋に来てくれればいいのだが。

4 


 さらに数日。杭奈は本日の新入りの中に理想のポケモンを見つけた。身長は杭奈よりも少し高いくらい。
 仮想敵をズルズキンとする杭奈にとっては背の低いポケモンの方がありがたかったのだが、贅沢は言っていられない。
 強いのか? 仲良くなれるだろうか? そんな心配を抱きながらも、そのポケモンを練習相手と決め込んで杭奈は勝負を挑んでみた。
「挨拶代わりにバトル……ねぇ。俺バトルしに来たわけじゃないんだけれどなー……いやいや、手が早いのね……みなさん」
 苦言を呈す新入りの言葉に、杭奈がしょんぼり沈んだ表情をする。
「いや、別に戦いが嫌って言ったわけじゃないからさ……いいよ、そこの青いお兄さん……戦おう。俺、コジョンド*10のジョン。
 飼い主のネーミングセンスが安易なのが欠点さね。今日預けられたばっかりだから、色々粗相もあるだろうけれどよろしくな」
 杭奈の表情を見て少々焦りながら彼は戦いを承諾。微笑みながら無難な自己紹介をした。
「えっと、僕はルカリオの杭奈。その……一緒に預けられた奴との喧嘩に勝ちたいんだけれど……相手がトレーニングの相手にならないから付き合ってくれると嬉しいんだけれどさ……」
「へ~……ここは育て屋だって言われたけれど、いっつもこんな風にバトルをするものなのか?」
「ま、まぁ……教官とバトルするなり、他の客と戦うなり自由だね」
「なるほど、血気盛んな若者がよく育ちそうだ」
 肩をすくめて、皮肉めいた口調でジョンは言う。
「やっぱり、漢たるもの拳で語れってことなのかな?」
「いや、そういうわけじゃないんだけれど……ま、いっか」
 ちょっと馴れ馴れしいが人懐っこいジョンの態度に、杭奈は親近感を覚えて笑う。
「んで、トレーナー同士は審判が必要だったり、コインが落ちたと同時にスタートとか、開始の合図も色々だけれど、ここじゃどんな感じなんだい?」
 体毛で口元を隠しながら尋ねるジョンの質問に杭奈は戸惑ってしまう。
 今までそんなことを考えもせずに育て屋ライフを送ってきただけに、改めて聞かれるとなんと答えればいいのやら。
 他のギャラリーからは、気があったら勝負だよとか、闘いたい奴が闘えばいいんじゃね? など、無責任な声が飛び交っている。
「あぁ……え~と、じゃあ……好きに攻めてきても良いよ」
 思えば適当に向かい合って、構えたらどちらともなく始めるのが普通だった。そういう意味では『好きに』というのは間違っていないと杭奈は判断する。
「う~ん……好きに、か。でも、そんなこと言われるとなぁ……」
 ここで、ジョンは祈るように手を合わせ目を瞑ると、おもむろに息を吐き始める。
 じっと観察していると腹も胸も見て分かるほど縮んでいて、どうやら深呼吸を始めたようだ。
「あ」
 気づいて声を上げた頃にはもう遅い。こいつは瞑想を積んでいる、つまるところ特殊型もしくは両刀*11だと杭奈は気付く。
 瞑想で先手を取ったのはジョン。杭奈は攻撃の方では堅実に先手を取る。
 まずは、電光石火の左ジャブ。瞬きの間にとどかせたその一撃を鼻先に見舞うと、ジョンは杭奈の拳を弾いていなすと同時に離れろとばかりのサマーソルト。
 虫タイプの技だ。ルカリオは虫タイプの技に対して耐性はかなり高い水準で、杭奈もあまり痛くはなかったが、互いを後方へと飛ばす事が出来るこの技は綺麗に決まれば咄嗟の反撃が出来ない。
 吹っ飛ばされたついでにバックステップでさらに距離をとってから波導弾で反撃しようとして、杭奈は躊躇した。
 敵は瞑想を積んでいるから特防も上がっているはず。あまり鍛えていない杭奈の特殊技は、すでに出る幕ではないのだ。
 そうなると、まずは距離を積めない事にはどうしようもなく、杭奈は電光石火で距離を詰める。
 これでは、先程杭奈がしたバックステップは悪戯に敵へ時間を与えてしまっただけだ。
 杭奈の次の攻撃は、ジャブではなくリーチの稼げる左前蹴り。それを股間に見舞うと、ジョンは左足を半歩下げて杭奈の脚を払いのける。
 蹴り足を弾かれて杭奈の体勢が崩れたと見るや、杭奈の外側を取ったジョンは杭奈の右腕を右腕で。
 後頭部の房を左腕で一息の間に掴み取り、耳元で大声で歌い始めた。

 まだ粗削りなエコーボイスの技。単体ではとても使える威力ではないうが、耳元でやられれば常に急所に当たるのとなんの相違もない威力だ。
 杭奈を拘束するために腕を使えない以上、声による攻撃しかないと判断したジョンのエコーボイスだが、抵抗できない杭奈にとってみれば嬲り殺しでしかない。
 瞑想で威力が上がっているともなればなおさら被害は甚大だ。
 鋼タイプの杭奈には効果はいま一つだというのに杭奈は大した抵抗も出来ないまま数秒で負けを認めた。


 その場は、勝者であるジョンへの質問で終始し、質問攻めに疲れたジョンはちょっと休ませてくれと苦笑してその場を去る。
 負けた自分はジョンにどう映ったのかどうしても訪ねたかった杭奈は、房を逆立て波導を感知してジョンを探し、居場所を突き止めた。
 この田舎町の特産品である、摩天楼が霞んで見えるほどの天を貫く白い巨木群。
 育て屋を管理する職員と、経営者の所有するキリキザンとコマタナたちの手によりよく手入れされた森林エリアは、いかなる庭園にも無い魅力を持っている。
 高層ビル顔負けの巨木の足元にも陰を避けるようにして息づく背の低い広葉樹があり(巨木と比べなければ十分高いが)、草食のポケモン達がおやつ代わりに食す草やドングリなども豊富である。
 ジョンは、その枝に座り込んで優雅に毛繕いに興じていた。
 腕から伸びた振り袖状の体毛を、薄く唾液をまぶした舌先で撫で、毛羽立った体毛を()いて光沢を蘇らせる。
 白と薄紫が美しい模様を織り成す毛皮は、境界が曖昧なくらいに太陽光を照り返してはその美しさをアピールしている。
 育て屋に来てから、飼い主の手入れをされていない杭奈は、近くで見れば鮮やかな青も土ぼこりにくすんでいる。
 一応この育て屋には職員による毛繕いタイムもあるにはあるのだが、それよりやるべき事がある!! と、杭奈は招集に応じないのであった。
「こんなことなら……休憩がてらやっておけばよかったなぁ」
 と、自分の汚らしさを再認識した杭奈は、何だか住む世界やが違うのではないかと思って苦笑する。
 先程ジョンは戦いに来たわけではないと言っていたし戦いよりもミュージカルが好きだとでも言われてしまえば目も当てられない。
 そんな相手にこれでは失礼かもしれないなぁと杭奈は悩んだが、とにもかくにもせめて毛づくろいが終わるまでは待とうと樹の影で座って休むことにした。

 毛づくろいの邪魔をしないように、とは言っても相手はポケモン。樹の影もじもじとしていれば敏感な嗅覚が杭奈を捉えるのは造作もないこと。
「……つーかまーえた!!」
 樹の枝から膝でぶら下がった彼に後頭部の房を掴まれて杭奈は跳び上がって驚いた。
「ななな……なんだよ!!」
「あ~れぇ? ルカリオって気配を察知する力は鋭いと思ったんだけれど、何だか拍子抜けだなぁ」
 けらけらと天真爛漫に笑う彼は、勢いを付けて枝から飛び降りる。
「いいから、何のつもりだってさ……」
「ん~……何だか俺と相当戦いたがっていたし、質問したそうにしていたけれど出来なかったからね。
 俺にどんな用があるのかと気になったから話しかけようと思ったのだけれど……ただ話しかけても面白くないから脅かしてみただけさね。
 そんな所で休んでて、なにしてたんだ? 勝手に俺とかくれんぼでも始めてたのか?」
「い、いや……そうじゃなくってその……そうそう、毛繕いが終わるまで話しかけるのを待っていたんだよ」
「ん、そう」
 ニコッ。と、音を出さんばかりに彼は笑った。
「で、なんの用だったの?」
「あの、その……僕が強かったかどうかを聞きたくって……」
 恐ろしく簡単に負けてしまったから、良い評価ではないだろうと考え、杭奈は聞くのを躊躇いたくもなっていた。
 勇気を出して聞いた問いに対する杭奈の答えは、ある程度予想通りのものである。

5 


「強かったか弱かったかで聞かれると……弱かったな」
 早速自分の評価を聞いてみて包み隠さずに言われて、杭奈は言葉を失う。
「うぅ……野性から上がってまだ日が浅いんだよぉ……」
 泣き言のような言い訳もジョンの同情は誘えない。
「へぇ、どおりで防御がお粗末……というか、後先考えずに突っ込む打撃が多いわけだ。なに、野性時代は集団で狩りでもしてたの?」
 全くその通りだった。野性時代は集団で狩りをするから、相手が何が起こったか分からないうちに仕留めればいいだけで、防御の事なんて全く考えていなかったのだ。
 雄同士の喧嘩も、当時はリオルだったものであまり考えていなかったし、メンバー入りしてからはあまり直接指導はしてもらえない。
 彼が強くなれないわけである。
 それなのに、一緒に預けられた静流は卵グループが同じだというのに自分に勝てない相手に体は渡せないと言う。
 逆に勝ったなら格闘タイプの漢として約束は守ると言ってくれたが、それも勝てる気がしない。
「なるほど。それで修行したいと……」
 今必死で鍛えている理由から、未だ弱いままである事情を話してみるとため息交じりにジョンは納得する。
「いま、必死に鍛えているのか?」
「も、もちろん」
 唐突に熱意の確認をされて、杭奈は咄嗟に肯定する。
「よし、その言葉嘘じゃないな? 修行熱心なら、俺もやりがいがあるし付き合ってやるよ。
 杭奈の……というかルカリオの武術ってのをもっと見てみたいしね」
「え、ホント? ありがとう……あ、で、でさ……正直なところ僕はどうだった? もっと詳しく聞きたいんだけれど……」
 修行に付き合ってくれると言われて歓喜する杭奈は、お礼もおざなりに逸る気持ちを態度でぶつける。
「ん~……人間と付き合うなら礼説も大事だと思うんだけれどねぇ。そういう風にがっつくもんじゃないよ?」
 そっちの教育は主人とやらに任せておくかと溜め息をつき、ジョンは脳裏に焼きついた杭奈の動きを言葉にする。
「とりあえず、個人的な評価としてはあれだね。フェイントよりも、不意打ちで敵を仕留めることに向いている素早く直線的な打撃。
 本当に、狩りに特化されてるよ。恐らくだけれど、君は波導弾を撃たれて弱った獲物に追撃する係だったんじゃない? いわゆるトドメ担当」
「あ、あう……その通り……」
「しかも、前蹴りで男の弱点を一直線に狙って来やがって……練習試合だってのに殺す気満々じゃいつか嫌われるよ?」
「ご、ごめん」
「ついでに言えば、パンチを打ったらすぐに引かなきゃ、そうしないと威力も出ないし相手に掴まれるよ。脇を締めて、素早く引く。これが基本さね。
 相手が動かない彫像なら力任せのほうが強いけれど、動き回る相手には力より技術でダメージを与えなきゃ。
 力任せの格闘なんてローブシンにでも任せていればいいんだよ。
 キックも同じで、体ごとぶつかって行くような打撃の良さと悪さを理解してない。個人的に言わせてもらえば圧倒的に悪さが目立ってる。
 うん、こんなとこ……要約すると、攻撃自体は一撃必殺の威力はあるけれど、動く相手には通じないし、防御がゴミ」
「ご、ごめんなさい……」
 何だか酷い言われようの杭奈は、自分が情けなく思えて反射的に謝ってしまう。
「いいよ、別に。最初は弱い方が教えがいあるし」
 対面するジョンは陽気にそんな事を言いながら杭奈の肩を掴んで笑う。
「俺なら、今から2日で、今の倍強くしてあげる」
 あっさりとすごい事を豪語して、ジョンは笑う。
「そ、そうすれば君に勝てる?」
「最低でも5倍は強くならなきゃ無理かなぁ。で、5倍強くなる期間は保障できないなぁ……」
 歯に衣着せない物言いでジョンは笑う。
「でも、ま……なんとかなるでしょ。俺もなんだかんだで預けられる期間は長いし……」
「う、うん。とりあえず頑張ってみるよ」
「よし、その意気だ」
 ひょんな出会いから始まった師弟生活。なんだかんだでまともな指導にありつけたのはこれが初めてな杭奈は、内心飛び上がりそうになりながら初の個人指導を迎えるのであった。
 杭奈とジョンは戦いのスタイルに違いはあるものの、どう攻撃すれば反撃を受けられないかを熟知したジョンの指導は、向こう見ずな杭奈の戦い方を改める。
 臆病にならないよう、反撃はしつつもあまり痛くないように優しい攻撃で返したりと、ジョンは気遣いもばっちりだ。
 見て真似するのが不得意な杭奈に気遣うように、動きを丁寧に指導する腕も大したもので、まさに理想の師匠と言えた。
 ジムリーダーのポケモンにも匹敵しそうな実力を持ったこのコジョンドが、(つがい)もなしにいまさら預けられたりして何故だろうとの疑問も浮かんだ。
 バカラのように教官として預けられた様子もないので、ジョンが目的を話さない以上は見当も付かないのだ。
 ジョンは、夜になったら目的を話すよと秘密にしていたので、待っていれば分かることだと杭奈はわざわざ尋ねる事はしなかった。
 そもそも、トレーニングをしていると起きあがっては倒されの連続で、そんなことを考えている余裕も無くなってしまうので聞く意味もなかった。


 疑問を払拭された夜の事であった。
「こういうの初めて? 力を抜いてリラックスしなよ……その方が気持ちいいよ」
 引き抜いた草を集めてベッド代わりにした地面の上、横たわった杭奈の上で、ジョンは固くなった杭奈の緊張を解くように、杭奈の肢体に手の平を押し付ける。
「や、そこくすぐったい」
 くすぐったさから杭奈は気の抜けるような奇声を発してしまい、まだ慣れていない行為に戸惑う。
「ん~……まだ子供だな。大丈夫、もうちょっと続けてりゃ気持ちよくなるって」
 そんな杭奈のことを笑いながら、ジョンは手を徐々に下の方へと伸ばしていく。
「ほら、ここなんかこんなにカッチコチになってるし……」
 何百回とパンチを打ち込んだ腕は、すっかり緊張して固くなっている上に、酷くむくんでいる。
 その筋肉を両手で揉みほぐされると、痛みとも重みともつかない疲れが解けるような感触を得て、杭奈は初めてマッサージの気持ち良さを知った。
「それにしても、どうして修行中のマッサージ師があんなに強いの? あれ、マッサージ師にあるまじき強さでしょ?」
 ありがちな質問をされてジョンは笑う。
「マッサージ師じゃない、整体師……まぁ、なんだかんだでマッサージもしているわけだけれどさ。
 前の主人がレンジャーでね、新米のポケモン鍛えていたから……一緒に教えるのは慣れてんだ。
 今は元の主人もレンジャーを引退してね、故郷のここでポケモンの整体師をやってる今の御主人に引き取られたんだけれど……
 どんなポケモンにも満足できるを提供するように、ってここで修行の最終段階さね。のびのびと技術を磨けってことさね。
 目的を秘密にしてたのは、ただ最初の客を驚かせたかっただけ。他意はないよ」
 ここに至るまでの間、暗くて攻撃が見えなくなるまでトレーニングは続けられていた。
 大きな力をことごとくつぶされてきた杭奈と、小さな力で大きな力をいなしてきたジョンでは、スタミナの減り具合に明らかな違いが生じており、ジョンの方は若干息が上がっている程度で、まだまだ矢でも鉄砲でも持ってこいとばかりの元気さだった。
 杭奈は『練習終わり』の言葉を聞いてからは立ちあがろうとしないほど疲れていて、それぐらい疲れていればマッサージも効果が高いだろうとわざと修行を厳しくしたジョンはちょっとばかし性格が悪い。
 とはいえ、そんな理由で厳しくされても、強い精神力と不屈の心で必要以上に修行についていけたという事実には、ジョン自身も驚くほどの根性であった。
 本来の目的である整体師の修行も、大抵のポケモンがトレーニングを終える薄暗くなってきたころ始めるつもりだったが、真っ暗になるまで行えなかったのは予想外だったが、育てがいのある奴だと考えれば悪い気分ではなかった。
 だが、とりあえず本来の目的を果たそうとばかりのジョンの手で杭奈は強引に寝かされ、今に至る。
「整体師の修行ばっかりやらされててね、戦いはしばらくやって無かったけれど……まぁ、あんまりブランクが無いようで良かったよ」
 杭奈の筋肉をほぐしながら、ジョンは微笑みかける。といっても、ジョンの顔は杭奈の死角にあったので見えなかったであろうが。

「というか、それだったら僕に構っている時間なんて無いんじゃ……」
「あぁ、いいのいいの。俺はやっぱり戦いの方が性に合ってるわ。後輩のレンジャーに引き取ってもらえなかったのは、今思うと残念なものさね。
 主人はレンジャーの仕事でポケモンが死んだのを何度も見てるから、そうなって欲しくないんだとさ……」
「でも、君は戦い……好きなんだ」
「まぁな。悪の組織との殺し合いは好きじゃないが、訓練の最中はまぁ楽しくやれたよ……だから野蛮だとか誤解しないでくれよな?」
「そっか……」
 強さを極めるのに恵まれた環境にいたのだなぁ、と思いながら杭奈は気になった事を尋ねてみる。
「いつまでここに居られるの?」
「ん~……俺はどうやら3ヶ月契約みたいだから……お前とのトレーニングも、整体師のトレーニングもゆっくりやらせてもらうわ。
 お前に付き合うのも、退屈しのぎにはちょうどよさそうだわ」
 などと、今の安定した生活を嫌うような物言いをするジョンではあるが、もともと発勁を使える以上、力の発生・移動・作用の流れは非常に優れたポケモンであるといえる。
 体の奥深くまできちんと力を届かせるテクニックは、マッサージに応用すれば悪くはなかった。骨や関節の歪みを治すという整体においても、もちろんそれは発揮されている。
「僕は6ヶ月契約……だし、寂しくなるなぁ」
「そうしょげるな。主人は隣町のブラックシティでゴギョウ整体院って店開いてっから、それなりに遊びに来ればいいさ」
 陽気に笑いながらジョンはマッサージを続ける。恐らく、戦い以外ではこういう職業が天職なのだろう。
 気を抜けば眠ってしまいそうな心地よいマッサージだが、ジョンは夢見心地に浸っている杭奈をよそに早々に切り上げて立ちあがる。
「それじゃ、大分血行もよくなっただろうし、今日はもうゆっくり休みなよ。明日の朝も同じ場所で会おうな」
「え、ちょっとどこ行くのジョン?」
「俺は、こっちの修行にいって来る」
 と、言いながらジョンは腕から伸びる体毛を裏返してから手をワキワキと動かし、アピールした。
「あ。もうちょ……行ってらっしゃい」
 樹の枝に飛び移ってから、足跡を残してはいけない呪いでもかかっているかのように木の上をゆくジョンは、そのまま杭奈の視界から消えていった。
 最後に言った『行ってらっしゃい』の一言は、恐らく聞こえてはいないだろう。
 こうして、少々マイペースな所はあるが、なんだかんだで面倒見の良いジョンに出会えて、杭奈は成長する希望と切っ掛けを持つ事が出来るにいたった。

6 


「ただいま!!」
 夜遅く、寝床として与えられた岩穴に帰還した杭奈は、声だけで宇宙に行けそうなほど弾んでいた。
 静流は感心したような、驚いたような顔で杭奈に近づく。今日だけで酷く汚れている上に、疲れているのが目に見えて分かる。
 その上、匂いを嗅いでみれば明らかに杭奈以外の匂いが混ざっている。
「ふぅん……嬉しそうな顔。随分と濃いめの男の匂いだね。アタイを諦めてついに男色にでも走ったかな。お尻の穴は大丈夫?」
「ちちちち違うよ!! これはあれ、ようやく僕の師匠に出会えたってこと。よく意味分からないけれどお尻の穴は大丈夫だから。
 2日で2倍強くしてくれるって言われたんだからね。そりゃ、嬉しくもなるさ」
「ふぅん……2日で2倍ねぇ。本当なら楽しみにしてるわ」
 静流は杭奈の頬を両手で包み込み、鼻に息を吹きかける。
「そんときゃ、アタイに男を感じさせてくれよな」
 そして、杭奈の下あごにチョロリと出した舌を這わせて静流は笑う。
「で、出来れば僕……今感じたいんだけ」
 減らず口をたたく杭奈へ向かって頭突きがゴツン。
「ったぁぁぁぁ……」
 強烈な思念を纏った頭突きが杭奈の鼻面を叩いた。これでは杭奈も悶絶せざるを得ない。
「この技、彼に見てもらってちょっとだけ鋭くなったんだ。
 あんたのように2日で2倍の成長なんて出来なくなっちまったがね。伸びしろってのはまだまだあるものだよ。
 アタイはゆっくり成長するから追いつくのは頑張んな。調子に乗るのはそれから。いいね、杭奈?」
「ふぁい……」
 涙目で痛みをこらえる杭奈に向かって、静流は『若いっていいわね』と笑う。
 鍛えればそれだけ強くなれ、やればやるほど上達していった若いころを想いながら、静流は眠りにつくのであった。


 次の日、ジョンが行う最初の修行は、準備体操から始まる。体が温まったところで昨日初めて会った時と同じように組み手を開始、という流れだ。
 基本的な屈伸運動から、足の甲とキスするような柔軟運動。180度股を開いて地面とキスしろだの、格闘タイプの中でもテクニックタイプのポケモン特有の柔軟さが無ければ到底不可能な要求をされる。
 幸い杭奈は、主人の指導のたまものかジョンの要求ほどハードではないが柔軟運動はやり慣れていて、ある程度無茶な体勢からの蹴りも難なく放つ事は出来る。
 つつがなく柔軟運動を終え、修行は組み手へと移るのであった。
 昨日は意地悪で瞑想を先に積んでいたジョンだが、今日は強気に杭奈へ先攻を譲る。まず最初に左足を前に、それに合わせて左腕を前方に伸ばして腕から垂れ下がる優雅な体毛を見せつけるような構えをとる。

 昨日、杭奈は体毛を掴みにかかった時に、掴まれても意外に問題にしない数多くの対処法に舌を巻いた覚えがある。
 これ見よがしに掴んで下さいとばかりのジョンの腕から伸びる体毛だが、傍から見れば優雅なそれも突き付けられた方は本当に鬱陶しく、槍の穂先を突き付けられた気分である。
 杭奈はまず半身になりながら重心を下げ、上半身を鉄壁の守りで固めながら接近戦を挑む。体の側面を敵に向け、急所を守った構えから顔面めがけて左裏拳。
 流石に隙が大きく、ジョンの手で右手で軽くいなされてしまったが後ろはとられておらず、超接近戦の間合いを取れた。続けて斧刃脚、かわされる。そして近距離での肩口からの体当たり。
 ダメージ狙いではなく体勢を崩すための技ではあるが、きちんとヒットの感触を杭奈は得る。
 追撃として顔を狙って打った杭奈の棘の裏拳は手首を抑えられて止められた。
 杭奈の間合いを嫌ったジョンは大きくバックステップで回避した。得意のアウトレンジからの特殊技とけん制技に持ちこむ算段のようだ。
 負けてなるものかと、遅れて距離を縮める杭奈に、片足で踏ん張ったジョンの強烈な前蹴りが喉元を狙う。
 美しいY字の姿勢で突き出された中足、足指の付け根の部分による前蹴りの威圧感に負けて、杭奈はのけぞりながら止まった。
 ジョンに何かされる前に接近して戦況を立て直そうと、杭奈が脚を動かせば、足元に生えた蔦草が絡まって杭奈は前のめりにつんのめった。
 無防備に晒された杭奈の後頭部には、そっとジョンの足の裏が触れる。そのまま鼻と顎の骨ごと叩き潰す術もジョンは知っていようが、ジョンは敢えてそうはしない。
「立てよ、杭奈。まだ動けるんだろ?」
「……うん」
 不覚にも草結びによってやられてしまった杭奈は、ジョンに足で肩を掬いあげるように起こされ、またも先手を譲られる。
 体力が回復すれば一撃を当てるくらいなんとかなると思っていたが、結局まともにヒットする事は一度も無い。
 このままでは終われないと、杭奈は躍起になるが、冷静さを失わないよう努める事は忘れない。
 今度は鍛え抜いた左ジャブに、鋼の力を付与して鋼鉄の爪での一閃。と、したいところだが、左ジャブでは速すぎて爪が形成されるまでに間に合わない。
 結果、半端な鋼タイプが付与されただけの微妙な威力だが、ある意味では杭奈の攻撃が初めてクリーンヒットした瞬間である。
 しかし、ジョンは杭奈から決して目を離さなかった。
 すぐに左腕を引く反動で右肘をジョンの胸にぶつけてやろうと接近した杭奈を、カウンターの掌底フックで顎を打ち、沈める。
 ふらりとよろけた杭奈に対して、ジョンは腕の体毛を鞭のように唸らせ、鼓膜、眼球、股間と、急所をひたすら狙った。骨を破壊する心配の少ない体毛による打撃は、効果音がビュオン、パシンッ! と、ひたすら風を切る音と乾いた打撃音のみで、聞くからに痛そうだ。
 扱いの難しそうな二刀流の鞭だが、体の一部であるジョンには慣れた物なのだろう、腕同士がぶつかり合う事も絡み合う事も無しに、中空をブレながら優雅に舞い、本能的な恐怖を誘うその音が響く。
 鞭に打たれたような強烈な痛みに負けて、杭奈はついに虐待を受ける子供のように体を丸めて無様な防御の姿勢を取った。
 その隙にジョンは突き離すためのとんぼ返りで大きく距離を取り。杭奈がこちらに追いつく体制になる前にチャージされた特大の波導弾を見せつけ、勝負を決めた。


「……う~ん。昨日よりはだいぶ良くなっているけれど、まだ引きも遅いし動作の連続性がぎこちないかな。コンボを決めるためには結構きついかも。
 ジャブから肘打ちに繋ぐまでの動作……足運びから腋の締め方、足元から頭まで改善の余地があるね」
 動作が早い事は褒められたが、やはり杭奈は最初の一発限りだ。ジョンはコンボに重点を置く必要があると杭奈にアドバイスをする。
「わ、分かった……」
「それとね。一番最初に見せた防御しながら攻撃ってアイデア。一番最初に見せてくれたあれは結構面白かったよ。超近距離攻撃の基本さね。
 でも、あの裏拳……ホントは掴み取ってブン投げるなり、後ろを取って関節外すなりしたかったんだよね。
 動く標的相手に攻撃してみたいだろうから放って置いたけれど……せっかく棘が付いているんだから、顔だけじゃなくって別の場所狙ってみたらどう? 
 あの裏拳はルカリオの専売特許だし、上手く当たれば何処を狙っても痛いだろ?」
 ズバズバとジョンは杭奈の弱点を解剖しては突き付ける。ここまで弱点が多いと気がつかされると、杭奈はもはや言葉が出なかった。
「……はい」
「そうしょげるな……弱点は一つずつ潰して行けばいいさ。明日にはもっと強くなっている。1日だけでここまで強くなったしな」
 そんな杭奈の気分を察してか、最後に励ましてジョンは笑う。
「やっぱり、基礎を抑えた分昨日よりもずっと強くなってたし、今日から息抜きがてら俺以外とも戦おう。
 お前のご友人が何をやってくるか分からない、というのなら何をやってくるか分からない相手との経験を積んでおいた方が絶対にいいから。
 なんだっけ、昼食を賭けて闘うあの……」
「昼食マッチだね……そう言えば静流は毎日洞窟エリアでそれを頑張ってるとか」
「そうそう、それ。お前が負けた相手に対しては、俺が戦いのお手本見せてやるからさ、一緒に昼飯たくさん食べてやろうぜ」
 フォローもアドバイスも忘れないジョンの教えに、杭奈は悔しさと達成感を同時に感じて奮い立つ。
 当面は、静流に勝つ事は諦めて昼食マッチに勝つ事が目標となりそうだ。

7 


 昼食マッチは、食料を賭けて戦う。それだけだ。もちろん、ダブルバトルや、時にはトリプル・ローテーションといったルールはあるが、基本は昼食を賭けて戦う。それだけである。
 なんでも、ブラックシティ出身というこの育て屋の経営者は、『この世界に生きる事は誰も許されていない』という座右の銘を持っている。
 本当なら負けた者には食料を半分しか出さないくらいの厳しいやり方にしたかったそうだが、それではトレーナーからも抗議が出そうなので、昼食を賭ける程度が関の山だそうなのだが。
 昼食には草食、肉食、鉱食、腐食、全てのポケモンが美味しく食べられる木の実をあてがうために、食費は結果的に高くなったが、ポケモン達は美味しい食料を得るために強くなる理由が一つ増えた。
 そのため、ポケモン達は傾向的に育ちがよくなり、なんだかんだでこの育て屋の評判が上がるきっかけともなった独自の育成文化でもある。
 ポケモン達は住処の位置に合わせて別々の場所で餌とそれを入れる専用のカゴを持たされ、それをお好みの場所に持ち寄って賭けなり戦いを繰り広げた。
 あえて不利な場所に挑む事で賭けの条件を良くする者もいれば、自分が慣れた場所で堅実に戦いに興じる者もいるというわけだ。
「じゃ、お前の対戦相手は……やっぱり何やってくるか分からない相手がいいよなー……」
 大小様々なポケモンが入り乱れる草地エリアと森林エリアの境界。癖の無いフィールドゆえに、普段は別の環境を好むポケモンなどもちらほらと集まって織りなす昼食会は、野性の時ほどではないがスリルに満ちた場所となっている。
 池沼エリアや洞窟エリアでの開催もあるにはあり、参加資格に制限はないのだが、人気は少ないし杭奈に不利なフィールドも少なくない。
 それらは後回しという事で、無難に選ばれたのがこの場所であった。
「あ、あいつなんてどう? 賭けの対象は鉄板だってよ」
 ジョンが指さした先にはギギギアル。中心に顔の無い歯車、その隣に顔のある歯車と赤い丸印の歯車。
 二つの歯車の後ろに巨大な歯車と、赤い歯車に噛みあわせて回る鋸のように鋭い棘の生えた輪っか。
 いきなり形状がもはやわけのわからないポケモンである。

「……鉄板、ねぇ」
 杭奈は自分の手の平に包んである薄い板状の鉄、3枚。言うなればチューイングガムのような形に延ばされた副菜を眺め、ギギギアルを眺める。

「奴の特徴は円の動きだ。気をつけろ」
 愉快そうに笑いながらジョンは役に立たないアドバイスをする。
「それ、見れば誰でもわかるし、僕ら格闘タイプの使う円の動きとは全く異質な気がするんだけれど……というか、闘う前提で話してない?」
「いいだろ、鋼タイプ同士仲良くやって来い」
 そんな無茶な、と苦笑して杭奈は背中を押されるがままにギギギアルに話しかけなければ収まりのつかなそうな雰囲気の渦中に放り込まれる。
 ギギギアルにぶつかりかねない距離まで近づいて、杭奈とギギギアルは一気に注目の的に。
「あ、えっと……こっちは鉄板3枚。そっちは1枚でひと試合どうでしょうか……?」
 杭奈は自分の方が不利な条件を提示するが、これは相手を舐めているわけではないし、自分を追い込んで力を出すという高尚な考えを持っているわけでもない。
 早い話が、格闘タイプを持っている杭奈の方がタイプ的に杭奈有利なために、自分からハンデを申し出た。ここではそれが暗黙の了解だ。
「格闘タイプ……か。なら、それくらいが相場かな。いいよ、やろうじゃん」
「お、お願いします」

 ジョンには一応の礼説を知っておくべきだろうという事で、戦う前に礼をさせられる。ただし、いきなり相手がかかってくることも考慮に入れて、礼の前後も目を離さない事は基本である。
 ギギギアルは一応、杭奈が構えをとるまで待ってくれた。しかしながら、ギギギアルは四肢が無いためいつ仕掛けてくるか分からず、気味が悪い。
 確かに、外見の面でも面白いポケモンだが、何をやってくるか分からないという点ではこれほど相応しいポケモンもなさそうだ。
 杭奈もセオリー通りの戦い方が出来る気がせず、どう攻めるか少々迷う。
 何より怖いのは、相手は攻撃しながら移動できるということ。
 頭突きや体当たりといった攻撃も、もちろん攻撃しながら移動と言えばそうなのだが。
 ギギギアルの場合は常に正面を向いたままの回転という方法での攻撃で、必然的によそ見が多くなるジャイロボールとも高速スピンとも違う。
 まさに異質としか表現しようが無い攻撃だ。
 怖いのは鋭い棘の生えた輪っかだ。回転する事で本体を守っており、不用意にしかければ太ももの筋肉を切り裂かれかねない。
 本体に攻撃を届かせるには、あの輪っかを如何に掻い潜るか、である。

 杭奈は難しい事を考えなかった。構えてから一息の間に彼が選んだ技はボーンラッシュ。
 ガラガラのように媒体となっている骨を持っていないために、武器として使用可能な長さまで波導を高め成形・実体化するには最低でも1秒ほどの時間がかかる。
 しかし、武器ではなく防具として使用するならその限りではなく、この時杭奈が出した骨は長さにして約20cm。
 接近の瞬間に伸ばし、防御に使用できるギリギリの長さである。
 杭奈はギギギアルの回転する棘の輪っかに対し、波導で成形した骨を回転方向とは逆向きに打ちつけ、バランスを崩すと同時に回転の勢いを弱める。
 ギギギアルの巨体が前のめりになったところで杭奈は輪っかを踏みつけ、地面にたたき落とす。
 重心の外を踏みつける事で前のめりに襲いかかったギギギアルの本体には、棘の生えた裏拳を見舞って凌いだ。
 回転し続ける事で尋常じゃない威圧感を与える歯車の動きを止めるため、杭奈は赤い歯車と鋸状の輪の間に骨を挟み、小さく跳躍して本体を蹴り飛ばして距離を取った。
「さて、まだ続ける?」
 波導弾をフルチャージした構えのまま、杭奈は尋ねてみる。杭奈自身は知る由もないのだが、ギギギアルにとって回転は呼吸にも等しい行為である。
 それを封じられた今、首に縄を掛けられたまま戦うようなもの。ギギギアルが選んだ答えはもちろんこと、
「参りました」
 思えば、ここ数日負け続きだった杭奈だが、久しぶりに勝ちを拾えた満足と安心感で、安堵のため息をついて彼は座りこんだ。
「よっし、上出来だ。明日はもっと手ごわい奴と戦おうな」
 そして、その勝利を祝ってくれる相手がいる事で、その喜びも一塩だ。杭奈は戦利品として放られた小さな鉄板を受け取り、余った右手でハイタッチを交わして喜びを分かち合う。
 とにかく今は、おやつ代わりの鉄板の味を噛みしめて喜びに浸るのが優先とばかりに、杭奈の食事の様子は馬鹿みたいに幸福な顔に終始していた。

8 


「今日は勝っていたらしいわね」
 夜遅くに帰って見ると、ニコニコした顔で静流が待ち構えていた。どうやらご機嫌な様子。
「ちゅ、昼食マッチのお話?」
「当たり前よ。だって、あんた弱いからあのジョンのお兄さんに全く勝てないし、昼食マッチ以外で貴方が勝ってたりしたの?」
「う……」
 見下ろされるのは気に食わないが、反論しようにもできず杭奈は身をすくめる。
「あのジョンもなかなかの者よねー、あの子ぐらい強くなれば私を倒せるから、頑張りなさいよ。じゃないと私他の男に犯されちゃうかもよ?」
「あぁもう……わかったよ。絶対、僕と交尾させてやるからな!! 覚悟しろよ!!」
「はいはい、覚悟覚悟。待ってるわよ。静流お姉さん、貴方が強くなるのは嬉しいからね」
 クスクスと笑って、静流はあしらう。
「うう……絶対覚悟してないでしょ……」
「さぁ、どうでしょうね?」
 結局自分が相手にされていないことに、杭奈はむくれる。
 むすっとして拗ねてしまった杭奈を見つめる静流の視線は、可愛いと感じているのか、おこちゃまと見下しているのか定かではない。
 後頭部の房を立てれば少しぐらいは感情も伺い知れるが、それに気づかれてしまうと、他人は心の内を探られないようにしてしまうので、それは出来なかった。
 結局、悶々としたまま杭奈は眠くない目を強引に閉じて寝たふりを始めるのであった。

 そして、寝たふりを始めてから少し時間がたつと、岩穴前の草むらからなにがしかの来訪者が訪れ、静流はその来訪者と共に杭奈の付近から消えていた。


 洞窟エリアのすぐそばにある広葉樹に腰掛けて、春一番によって揺れる木の葉ずれの音に邪魔されながらも静流とジョンは仲良く語り合っていた。
「あら、約束は守るわよ。あの子の純粋な気持ちを踏みにじるほどアタイもワルじゃないもの」
 静流はジョンの強烈な突っ込みを笑い飛ばして、眼前で手を振りながら否定する。
「その割にはお前、さっき……」
 静流はジョンの首元にそっと抜き手を添えると、ジョンは黙ってしまった。
 無論、殺す気などはないだろうが、深く詮索するならば何らかの危害を加える事は間違いない。
「レディにみなまで言わせないの。いいかしら? 私は強い人にしか興味が無いのよ……今も昔もね」
 すまん、と謝ってジョンはその手を払いのけて苦笑する。
「男狩りのために強さを磨くか……こりゃまた、立派な目標だこと」
「でも、流石に本気で付き合うには強いだけじゃ不安……落ち着いた雰囲気の年上が良いのよ。私より遥かに弱い事はもちろん、童貞の杭奈なんて対象外だわ」
「へいへい……分かりましたよ。とりあえず悪女なんさね……」
「だって、私悪タイプだし、良いじゃない。それに、約束は守るわ……"勝ったら"やらせてあげるわよ」
「勝たせる気がないわけね。はは、こりゃ杭奈には酷かもな……勝たせられる気がしない」
 悪びれることなく言ってのける静流の言葉に、ジョンはおどけて笑って見せた。

「そう言いなさんな、ジョンさん。貴方は立派よ……杭奈を本当に2日でかなり強くしちゃって……貴方すごいわ」
「身体能力が高い割に基礎が出来ていなかっただけさね。主人が相当あの子の教育をさぼっていたと見える」
「私の主人……忙しかったものね。半年契約じゃなくて良かったわ。半年なら杭奈が勝つってこともあったもの。
 でも……3ヶ月あれば杭奈も少しは美味しくなっているかもね。生焼けの肉をつまみ食いするのは好きよ」
「あ…ああ、そう……さな」
 なんとコメントすれば良いのか分からず、ジョンは生返事からため息へつないで気を取り直す。
「そうさね。半年あれば、あいつはここに来た時よりも5倍強くなるだろうさ……でも、お前さんに勝つには、杭奈が5倍強くなるだけで足りるのかどうか……正直分からんな」
「5倍ってのがどれくらいを意味するのかは分からないけれど……私に勝つには少し足りないでしょうね。
 ま、読みあいに勝って私に綺麗に技を決められるならあるいは……あのピヨピヨ可愛らしいアチャモのようなあの子でも」
 静流は目を閉じて、そんな風に杭奈を評価する。
「ところで、貴方は強そうでいい男ね。私と遊ばないかしら?」
 静流は眼を閉じたまま上体を傾け、右肩をジョンに預ける。
 穿いている抜け殻も少しずらして、大事なところが見えるか見えないかの位置まで下ろした。
 冗談めいた口調で語る静流の言葉は、ジョンとの関係も遊びであると明言しているようなものだった。
「バカラ教官と『遊びで付き合ってる』って明言しているお前とは嫌。っていうか、杭奈に嫌われちまう。
 それに、俺は整体院に戻れば彼女がいるのさね。こんな状況で浮気なんてナンセンスさ。ま、俺に勝ったら遊んであげても良いよ」
 自信満々にジョンは言ってのける。静流は体つき一つで相当鍛え抜かれている事は分かるが、タイプの関係を思えば負ける気はしない。
「んもう……遊びで付き合うって分かられていると辛いわ。杭奈ったら余計な事を言うんだから」
「なら、俺をモノにするのは諦める?」
 ジョンが苦笑して切り返す。
「ジョーダン……私の誘いを断るのなら、お望み通り・・・・・力づくで」
 言いながら、静流の肘打ちがジョンの脇腹を打ち貫――
「冗談なんて、言っていないよ」
 ――かなかった。軽く肘鉄を食らわせるだけのつもりだったが、きっちりそれはガードされて、静流は眼を皿にしてジョンを見る。
「まぁ、驚いた。そんなに強いと本気になってしまうわ……」
 ふん、と鼻息を吐いて静流は尋ねる。
「それじゃ、質問。格闘タイプの漢として、二言は無いかしら? 貴方のことちょっと気に入っちゃったわ」

「勝ったら付き合うってお話の事かい? 失言だけれど……言っちゃったものは仕方ないね。いいよ、お前も闘うのが好きなんだろ? 格闘タイプはみんなそうだ」
 溜め息をつきながら、さりげなく静流の右腕を掴もうとしたジョンだが、その手は逆に静流に掴まれる。
「おっと、付き合ってもいない女性の手を握るのはマナー違反じゃないかしら」
「やべっ」
 不意打ちをしようとして逆に不利な状況に追い込まれたジョンは反射的に声を上げた。
「それに、私は闘うのが好きなんじゃなくって……勝つのが好きなの。とびっきりね」
 静流は、ジョンを掴む手にぐっと力を込める。
「知ったことかよ!」
 ジョンは自身の左手首を強引に手繰り寄せ、それを掴んでいる静流の右手首に、揃えた指先で貫き手*12を喰らわせた。
 手首の腱を強かに打たれて緩んだ静流の手を、彼女の体ごと打ち払って、ジョンは木の上から飛び降りる。
 静流は葉がついた木の枝を折りつつ、ジョンへの跳び蹴りも兼ねて跳び下りた。
 半歩下がって空中からの飛び蹴りをかわしたジョンはバックステップで距離を取るも、静流が投げた樹の枝が襲いかかる。
 視界が塞がれたジョンは、樹の枝を払いのけて視界を確保するが、その瞬間に強酸を含んだ体液が彼の胸にヒットする。
 胸が濡れた感覚に気付いたジョンは、すぐさま腕から伸びる体毛でそれを拭い去った。
 自慢の美しい体毛が、拭いた右腕からはらりと溶け落ちるのを感じてぞっとする暇も無しに、静流の右ローキックがジョンの左脚を狙う。
 膝を上げて、彼女の足の甲を(すね)で受けると、足の甲が堅い骨に当たった痛みで僅かに静流の動きが鈍った。
 ジョンは上げた足を戻さず、前に押し出すようにして間合いを詰め、左手で静流の顎先を右から左へ張り手の形ではたく。
 ジャブ代わりの逆張り手を軽く振り抜いて静流の顎先を揺らし、余った右手でダメ押しの発勁。
 顔を狙った重く響く打撃で一発御退場願おうとしたジョンの一撃は、静流が勢いよく地面に倒れる事で避けられた。
「なっ……」
 しかし、それは倒れたのではなく受け身を取って地面を転がるというトリッキーな動作であった。静流は尻尾を器用に扱って、肩辺りから柔らかく地面に着地。
 自慢のトサカを少々汚しながらも勢いを付けて静流は立ちあがると、双方ともに左足を前にしたスタンダードな構えで仕切り直して膠着する。

「ジョンさん。貴方随分、素敵な攻撃をしてくれるわね? 年のせいかバカラ教官にも劣らない魅力だわ」
「年長者の魅力って奴ですかい。そりゃどーも……こちらこそ、何をしてくるか分からないって杭奈が言っていたけれど、本当さな。
 レンジャーでも整体師でも、今までお前みたいな女見たことねぇ…初体験だぜ」
「お褒めに預かり……」
 と、静流が笑いながらその笑顔の奥に殺意を隠して精神を集中する。
 その様子に本能的な危険を感じたジョンは、ひとまず飛びはねて樹の枝につかまった。
「光栄よ」
 その刹那、ジャブより早く体当たりよりも重い、渾身のパンチが静流から放たれた。
 その威力のほどは拳にヒットした固形物が無いために分からなかったが、踏み込み一つで地面がえぐれ、踏み込む時に足をひっかけた木の根っこが途中で千切れている。
 まともに拳へ当たっていたらその威力は計り知れない物となっていただろう。
「気合いパンチ……お見事」
「避けられちゃあ、世話はないわよ」 
 静流は軽く開いた手の平の中に石を作りだし、飛礫(つぶて)を投げてジョンを撃ち落としにかかる。
 素手で受けては危険なそれを、ジョンは柔らかな体毛でくるみ込むようにキャッチする。
 石の飛礫の結果がどうなったかを見ずして、静流はジョンが石で遊んでいる隙に周囲の木々に身を隠していた。
 だが、逃げたような気配ではない。
「物陰に隠れて……ビルドアップ……もしくは龍の舞いか?」
 もしビルドアップで打撃力を上げられるだけであれば、まだ対処は出来る。しかし、もしも相手が龍の舞いを覚えていれば?
 普通なら龍の舞いなんて行えば確実に居場所がばれる――が、今日は風がやたらとうるさい。
 この闇と音に紛れて龍の舞を積む事は難しくない。恐ろしい想像がめぐって、ジョンの身の毛がよだつ。
 すぐさま、ジョンは精神を研ぎすまし、波導弾を放つ準備をする。瞑想からの波導弾と言えば彼の十八番だ。
 悪タイプは夜目が効く種族が多く、静流が属するズルズキンもまたその例に漏れない。いつでも仕掛けられる静流と、いつ仕掛けられるかもわからないジョン。
 静流が心理的にも状況的にも有利な勝負だ。だが、ジョンには勝算があった。
 彼には、杭奈ほどではないが波導を駆使し気配を感知する技術がある。俗に言う心眼というものだ。
 ジョンはフルチャージした波導弾を構えつつ、周囲の気配に気を払う。
 数秒の沈黙。春一番だけが鳴いているこの場所に、ガサリと異物が紛れ込んだ音。
 背後から繰り出されたズルズキンの跳び蹴り――は、ただの陽動だった。
 わざとらしいまでにガサリと音がした方向から来たそのズルズキンは、いわゆる身代わりの技。
 ぬいぐるみのようにふわりとした質量しか持ちえないその身代わりの跳び蹴りを棒立ちのまま受けとめたジョンは、同じ方向から遅れて迫ってきた静流に向かって特大の波導弾を放つ。
「きゃっ!!」
 龍の舞を積んで対艦巨砲のような圧力を帯びて気合いパンチを放つ静流は、ジョンの攻撃を受けてただダメージを受けるにとどまらない。
 体勢を崩して派手にすっ転び、木の根に四肢が引っかかりながら小さくバウンド。積もった腐葉土で衝撃を吸収しながらブレーキして止まった。
 全く無防備のまま受け身も取れていないという事は、すでに彼女は空中で気絶していたのだろう。
「身代わりからの……気合いパンチ。恐ろしい女だな……」
 もしも最初の身代わりに波導弾を当てていれば、ジョンは無防備になったところに静流の気合いパンチを打ちこまれていたであろう。
 そうなれば、一発KOである事は容易に想像できる。多くの悪党と戦ってきたジョンの経験の差が勝負を分けたと言っていいだろう。
「こいつに3ヶ月で杭奈を勝たせるとか……やっぱり無茶さね……これ」
 勝てたことにほっと息をつきつつ、ジョンは疲れて座りこんだ。
 

9 


 その訪問者がバカラ教官かだれかだろうかと思って房を立てて周囲の状況を探知してみると、どうやら近くでジョンと静流が肩を並べているらしい事を感じる。
 チラチーノとエモンガのカップルの時のような情事ではないようだが、楽しそうに話している事がわかって杭奈は悶々とした気持ちはさらに増してしまう。
 その気持ちをどうにかしたいのだが、解消するには岩穴で同居中という環境は危険だ。
 何が危険かと言えば、主人の古参から教えてもらった自慰でもしようものならその匂いを敏感に感じて指摘されるだろうということだ。
 悶々とした気持ちを抱えながら無意味に寝がえりを打っていると、その内二人は戦いへの欲求に身を焦がされたらしい。
 そんな感情の変化を前触れに、二人は立ちあがり戦闘を行い始めた。感知する力がまだ弱い杭奈には詳しい事までは分からないが、最初静流が優勢に。
 最終的にはジョンが逆転勝利だ。あの圧倒的な静流を下すジョンのすごさを感知して、杭奈は興奮してしまう。

 数十分後に、静流は体中を痛そうにおぼつかない足取りで帰ってきては、泥のように崩れ落ちて眠ってしまう。
 結局杭奈は静流が寝静まってからもどんな方法でジョンが勝ったのかを夢想して、しばらく寝付く事が出来ずに悶々とし続けるのであった。


 翌日。スパーリングや基本練習もそこそこに、二人は昼食マッチに赴いた。
 今日は『不利な場所でも戦えるように相手の領域で』、というコンセプトで池沼エリアでの戦いだ。
 湿原を好むポケモン達が集まるここは、ガマゲロゲやマッギョといったそれらしいポケモンもいれば、眩しい光沢が鋭いランスに映えるシュバルゴなど、不釣り合いとも思えるポケモンが集まっている。
「よし、今日の相手はマッギョだ」
「あ、あのポケモン……?」
 ジョンが指さすのは、顔芸と揶揄されて不動の地位を得ているポケモンである。
 沼地にプカプカ浮かんで、モモンの実を提示して挑戦者を待っているところだ。
 普通の魚と違って平たい体の両側に顔が付いているのではなく、上面に顔がよっているという不思議な形。
 それだけならばまだしも唇が嫌に厚く、目も死んだように生気を感じないという、見ただけで気の抜けるような顔だ。
 女性だというのに、おいたわしや……と杭奈は苦笑した。
 確かに、他の魚とは違って何をしてくるか分からないのは脅威だ。見た所、水・地面タイプのようだし地面技は警戒せねばなるまい。
 後は不安定な足場。直接攻撃の使い手にとっては、結構な鬼門となりそうだと杭奈は分析した。
「お~い、そこのマッギョのお姉さん。僕のオレンを賭けて勝負しないかい?」
「へへ、いいのかいお兄さん。私結構強いんだけれどなー」
「そ、そう言われるとオレンの実が惜しくなるけれど、こっちだってそれなりには強いつもりだ。自信があるってことは同意ってことでいいんだな?」
「へっへ……後悔するなやぁ、兄ちゃん」
「そっちこそ!! ジョン、預かってて」
 杭奈はジョンに向かってオレンの実を投げ、預かってもらいつつ沼の中に入る。
 ぐじゅり、と今まで感じた事の無いような地面の感触に包まれて、ひんやりとした沼の中に足が沈む。
 見た目の割に体重が重い杭奈は歩く時こそよろけずに済んだが、ジャンプもキックも踏み込みも、全てが制限されてしまいそうだと本能的に感じ取った。
 睨みあう二人、もうすでに戦いは始まっている。攻めあぐねている杭奈に対して、マッギョが先攻を取った。
 まず最初に杭奈の意表を突いたのは、マッギョの攻撃が電気で来たこと。電気技は当然スピードが速く、避けるのは難しい。
 沼地に慣れていないであろうことを見越しての攻撃に、杭奈はたまらずサイドステップで避けようとするが、転ぶ。
 図らずも、泥が電気を防いでくれたので効果はかなり抑えられたが、見事に攻撃されるだけされて、こっちは反撃の糸口もつかめなかった。
 しかも、転んだ拍子に大量の泥が顔に付いて目を開けられない。次善の策として後頭部の房を立てるが、その前に足元から大地の力が見舞われる。
 地面が間欠泉のように吹っ飛び、泥飛沫と共に杭奈は中空に浮き、頭から派手に落ちる。
 泥がクッションになって受け身の必要もなかったが、地面タイプが弱点である杭奈には、二つの攻撃ですでにダメージは甚大だ。
 普通に走ろうとしてもダメだと判断した杭奈は、野性の頃の狩りのスタイル。身を低くして接近する4足歩行のスタイルをとる。
 空中で吹っ飛びながら用意したメタルクローをスパイク代わりに、野性の如く向こう見ずな突進で跳び掛かる。
 杭奈の跳び掛かりは、確実にマッギョを捉え、抱きかかえるように覆いかぶさるのだが、彼女は柔軟な体に加えてよく滑る滑らかな泥。
 彼の毛皮はマッギョを捉えることなくすりぬけられる。しかし、杭奈はめげずに胸の棘を突き刺すように、腕へ力を込める場所を変える。
 ザクリとばかりにマッギョの体がえぐれ、滑りが止まった。
 棘に体を抉られる激痛で、ルカリオの死の抱擁から抜け出せないマッギョは、やけくそに放電を見舞って杭奈にダメージを与え始める。図らずも根気の勝負となった。

 バチン、と自分の体が爆ぜる音を聞いて、杭奈は聴覚に遅れて痛覚が悲鳴を上げるのを感じる。
 マッギョも腕の間をするりと抜けてしまい、明らかな劣勢だ。ここで負けを認めてしまえば楽なのだが、なんとか気力を振り絞って彼は立ちあがる。
「た、タフやね~……まだやる気なの?」
 まさか立ち上がるとは思わなかったのか、キレの無い褒め言葉を言ってマッギョは苦笑する。
 その背中というべきか、顔というべきか、表面には血がにじんでいて痛々しい。
 答える余裕もない杭奈だが、敵のタイプは電気・地面だと冷静に正解を導き出している。
 今の自分が出来る技で何か有効打を与えられる技は無いかと模索し、結局見つからずに妥協。
 電撃を防ぐための泥飛沫を派手にまき散らして接近、力任せに殴りかかった。
 目が見えない状態で正確に攻撃してくる杭奈を見て、マッギョは波導がどうのこうのという理由は知らなくとも敵が目以外の感知能力を持っているのは分かっていた。
 相手が正確に襲いかかってくるであろうことは想定済みで、マッギョは泥の中に隠れることをせずに真っ向から受けて立つ。
 彼女の泥爆弾が杭奈の胸にヒットすると、杭奈はそのまま彼女の上に力なく落ちて、そのまま沈んでいった。
 杭奈の敗北で勝負あり、であった。

10 


 目覚めた杭奈は、マッサージされながら目を覚まし、そのまま数十分マッサージをされ続ける。
 まだ電撃の痛みは消えていないが、体はそれなりに動きそうだ。早く修業を再開したい杭奈にとって、この長時間は精神に答える。
「今日はマッサージがいやに念入りだね……」
 少々嫌気がさしていると分かる口調で言うと、焦るなとばかりにジョンが溜め息をつく
「電撃を喰らったら、体の外はともかく中がズタズタになりかねないからな。体の外は傷薬でなんとかなっても、中は熱心に治さんと。
 残念ながら俺は血行を良くして早く治るように祈るしかないし、管理棟のタブンネも昼食時は結構怪我人が多くて並ぶしさ……俺らは自分で治そうぜ」
「はぁい……」
 親切に戦い方を教えてくれるジョンに逆らうわけにもいかず、杭奈はしぶしぶジョンに従う。
「ねぇ、ジョンは、自分が戦えばあのマッギョに勝てたと思う?」
「ん? 俺は……まぁ、勝つだろうな。お前の方は正直沼でマッギョ相手じゃまず負けると思っていたが、案外抵抗出来たと思うよ。ま、大差で負けたことには変わらないけれどね。
 敗因は、いくらお前が物理型だからって、沼の中に無策で入って行った事かな?
 相手の出方を沼の外から伺って、それから対策を立てればよかったんじゃないかな」
「ま、負けると思って戦わせたとか……酷いなぁ」
 杭奈はふてくされて不平を漏らす。
「そう言うな。俺の木の実、半分喰わせてやったろう? まだ欲しいって言うなら明日は俺が奪い返してやろうか?」
「え、ホント?」
 木の実半分に物足りなさを感じていた所。明日、その分が帰ってくると聞いて、杭奈は小躍りして尋ね返す。
「勝てるって決まったわけじゃないし……それに、お前には種族柄真似できない事をやるから、戦い方のお手本にもならないだろうがな。
 ま、強さを目指す基準にでもしてくれって事でさ……」
「ど、どっちにしたっていいよ。ジョンの強さが見られるなら、是非」
 子供のように無防備な笑顔で杭奈が頼む。
「お前は、可愛い奴だな」
 感情ダダ漏れのその表情には、思わずジョンもそう答える始末だ。
「え……」
 上半身だけジョンに向けたまま、杭奈は口をぽっかりと開けた間抜け面を晒す。
「え、じゃない。お前があの静流に相手にされていないって漏らしていたけれど、そういう無防備に感情晒す所が子供なんだよ。
 がっついてて、体だけ大人になっている子供じゃあ、大人を好むお転婆なお嬢様とは相性悪いだろうな」

「む……まだ子供ってこと」
「うん。このままじゃ強くなっても、静流が相手じゃあお前いつか捨てられるだろうな。
 ウチの店には色々来てねぇ……そういう話をするとお前みたいなのが話題に上がるんだよ。もう少し、クールに振る舞ってみたらどうだ?」
「クール……クール……」
 ピンとこない提案に、上半身を起こした無茶な体勢のまま杭奈は首をかしげる。
 杭奈の高い柔軟性はこの体勢を苦と思わないのか、無駄な所で発揮されていた。
「分かった。無理してクールに振る舞おうとするな……いつか世話したがりのお姉さんに拾ってもらえ」
「あ……」
 ジョンの言葉に何かを思い出したのか、素っ頓狂な杭奈の声が漏れる。
「どうした?」
「そう言えば、昨日静流と会っていたでしょ? 何を話していたの?」
「杭奈、お前に大人の魅力を感じないって話とか……」
 何故か得意げにジョンは笑う。
「ぐっ……いや、そういう話じゃなくって、何か褒めてくれたりとかは無かったの?」
「可愛いって誉めてたよ。守ってあげたくなるってな……杭奈、悪いがお前、全く相手にされていないな」
「ううう……」
 からからと陽気に笑うジョンは、杭奈の肩を軽く叩いて笑い飛ばす。
「あいつは、お前のことを弟のように思っているんだよ。だから恋愛対象じゃないってだけじゃないのかな?
 俺が寝ているお前に話しかけようとしたら、唇に指当てて『静かにしろ』って意思表示してきやがったしな」
 意気消沈する杭奈をよそに、ジョンは中々楽しげに静流を語る。
「静流は脈なしだよ。他の女を狙った方がよくないか?」
「ウチのジム男ばっかりなんだよぉ……静流を逃したらずっと男に囲まれちゃう!!」
「はは、そりゃつらい。ここで嫁を見つけなきゃ一生童貞かもな……」
 ひとしきり笑って、自分の手が止まっている事に気付いたジョンは、小さなため息をついた。
「杭奈。お前そろそろ前を向けよ……マッサージし辛いだろう? それでも修業は続けるんだろう?」
「ふぁい……お願い」
「あ、ついでに闘ったりもしたけれど勝敗知りたい?」
「知ってる……ジョンの勝ちでしょ。僕は房で感じていたから……それより、どんな風に戦ったの?」
「はは、危うく負けるところだったよ。あのズルズキンは間違いなくジムリーダーのメンバーとして一流だよ……
 それに、あの時は静流が負けたが、多分あいつまだ隠し玉をいくつか持っていやがる。使えなかったのか使わなかったのかは分からんが……な。
 で、肝心の戦いの内容だけれどね……」
 すっかりテンションが下がった杭奈だが、ジョンと静流の戦いの様子を聞くと、その暗い気分も何処かへ行ってしまい、更なる負けん気を燃やすのであった。
 そうして、杭奈の情熱は加速していく。


 翌日。約束通りジョンはマッギョに戦いを挑む。
「よっす。昨日は俺の弟分が世話になったね。今日は俺が相手したいんだけれど、いいかな?」
 悠々とした足取りで、如何にも自信満々にジョンがマッギョへ歩み寄る。
 視点を少しでも低くするため、屈んで沼地を覗くと、マッギョは見覚えのある顔だと気づいたようだ。
「あ、昨日のコジョンド……なに、あのルカリオの子の敵打ちかしら? いいわよ、今日も木の実同士交換しましょ」
「よし、そうこなくっちゃ」
 前日杭奈に余裕を持って勝ったせいか、マッギョは今回も木の実の等価交換を承諾してくれた。
「じゃ、杭奈。よく見てろよ。戦いってのは、我がままの押し付け合いさね。
 弱い奴だって自分の得意なジャンルでなら勝ちを拾えるんだ。だから、沼で弱い俺はどう戦うべきか……見てろよ」
 勝ってくるぞと勇ましく戦闘態勢に入るジョンは、よせばいいのにわざわざ沼の中に入り込む。
 だが、それを見る杭奈は『ジョンこそ無策じゃないか』とは思わなかった。
 杭奈はジョンなら何か策があるはずだと、根拠のない期待を抱いてジョンの行動をしっかり見つめる。
 ジョンはまず、泥を浴びて電気を防ぐ。昨日の杭奈のやり方を見て、思いついた事で、こればっかりは杭奈の功績である。
 しかし、そこからは杭奈とは全く違ったアプローチを見せる。
 陸のポケモンの沼の中での機動力の低さに味をしめたのか、マッギョは沼の内に地割れを起こし、深みに沈みこませようと画策する。
 対するジョンは跳んだ。ただ跳躍しただけに終わらず、足よりも遥かに面積の広い体毛を水面に叩きつけ、沼の上を4足歩行で走り始める。
 重心を低くして、両足と両手で交互に水面を叩き走る姿は、まさしく肉食獣の荒々しさだ。
 油断して大規模な地割れを起こしたマッギョはその隙も大きく、接近されたと思った頃には体毛で沼の中から掬いあげられ、陸に放り投げられる。
 ビチビチと跳ねて沼の中に戻ろうとしたが、ジョンはさせるかとばかりに再び腕の体毛で掬いあげ、弾き飛ばす。
 泥を吸って重くなった体毛は、痛そうな音を立ててさらにマッギョを吹っ飛ばした。
 さらにジョンはダメ押しで草結びを連続で掛けて拘束。がんじがらめになったところで、跳躍からマッギョの数センチメートル横を地面に穴があくほど踏みつけた。
「まだやる? 次は容赦しない……踏みつぶすよ」
「いや、これは……参ったわ。貴方強いわね。昨日みたいに陸のポケモンなんて一ひねりだと思ったんだけれど……強い奴は沼でも強いのね。
 完敗……私の木の実持って行きなさい」
 あまりにも圧倒的に負けて、マッギョは苦笑するしか出来なかった。この戦いは、非常に鮮やかなジョンの勝利で幕を閉じた。
「へへ、悪いね」
 泥まみれで笑うジョンはひとっ飛びで沼から跳び上がると、マッギョの木の実を預かっていたガマゲロゲからクラボの実を受け取った。
「ジョン、さっすが」
「へへ、レンジャー時代はマグマの上でだって戦ったものさ。沼の中で戦うくらい余裕さね」
 尻尾を振りながら待ちかまえていた杭奈とハイタッチを交わすと、爪で半分に裂いた木の実を渡す。


 二人は木陰に座り込んで、戦利品と共に昼食を口にする。
「マッギョとの戦いで伝えたかったことはだな。相手のペースに合わせる事はない。自分のペースに持ち込む手段を常に考えるんだということさね。
 例えば静流は砂漠……この育て屋で言うところの砂地エリアを得意としている。そこで戦うのであれば、俺は静流には絶対に勝てない、と断言できる。
 それに、お前は暗い洞窟や夜の樹海を得意としているはずだ。そこで戦うのなら俺だってお前に勝てないかもしれない」
「う、うん……」
 杭奈は素直に頷いて、同意する。
「とはいえ、静流と戦うときに、今回みたいに極端に相性の良し悪しがある戦いはしないだろうが……場所と言う条件以外でも自分のペースに持ち込む腕は細かいところで響くもんだ。
 例えば、お前のインファイトだ。ゴウカザルやエルレイドみたく、同じように接近戦が得意な奴とあたらない限り、アレははまれば強い。
 なんせ、近づかれた方は攻撃の方法がかなり限られるわけだからな。
 例えば、はっけい、肘打ち、頭突き、膝蹴り、裏拳と言った、間合いが短くても出せる専用の技でないと対応できないと言うのは大きな強みだ。
 対峙した相手は大きくペースを乱されるはず……ただし、静流が相手だと簡単にはいかないからな。
 ズルズキンのことだ……とんぼ返りで距離を外したり、真っ向から膝蹴りや頭突きで潰される危険性も孕んでいる……
 だからまぁ、それらに対抗する手段、ペースを乱されるイメージと、それを取り戻すイメージ。常に頭の中においておくんだぞ?
 でないと、為すすべなく負けるからな」
「はい、師匠」

 ジョンの強さを改めて認識した杭奈は、いつか追い抜いてやるとばかりに奮起する。
 大変な事は分かっているが、だからこそ燃えるという、まさしく不屈の心の持ち主であった。

11 


 連日のトレーニングの傍ら、昼食マッチに毎日参加する杭奈は、ジョンの意表を突いた攻撃に対しても動じる事がなくなっていた。
 あらゆるタイプ、そして生態のポケモンを相手にする内に、敵に仕掛けられる技というのがなんとなく読めるようになり、その経験もジョンとの戦いで活かせるようになって行く。
 今まで軽くあしらうだけだったジョンも、今となっては杭奈を本気で戦うべき相手だと認めている。
 それでもまだ、ただの一回すら勝ちを拾えない杭奈だが、敵の攻撃が見える、分かる。為すすべなくやられる事が無くなった。
 それに、ジョンに負けはしたが格闘タイプが弱点である静流と戦うのならあるいは、そう希望を持てる戦いも何度かあったのだ。
 他にも、昼食マッチで負ける相手が随分少なくなったと、徐々に感じる成長の実感は、彼のやる気を奮い立てていた。

 相変わらず喜ぶ時は全力で、へこむ時も全力という無防備な感情表現は健在であるが、漂い始めた風格は育て屋に来た頃には無かったものだ。
 しかし、嬉しい事ばかり訪れてくれるほど人生は甘くない。
 別れの時も近づいて、ジョンはマッサージを終えた後だというのに解散せずに木の幹に背を預けて座りこむ。
「どうしたの?」
 中腰の姿勢で話しかける杭奈に、ジョンはまぁ座れやとばかりに手招きする。
「今日、スバルさん……この育て屋の経営者が俺の事を呼んだんだがな。俺が教えられるのも後8日。主人から、あと一週間とちょっとで引き取りに来る……って連絡が来たんだそうだ。だからそろそろ、お別れだなってさ」
「あぁ、そう言えば……もうそんな時間だよね。静流もそろそろお別れじゃないかって言っていたけれど……本人の口から言われると、何だかお別れだって実感がわいちゃうなぁ」
 手招きされるがままに杭奈はジョンの隣に座り込み、木の幹にもたれかかる。
「色々あったなぁ……ここまで強くなれたのは、ジョンのおかげだよ。ありがとう……」
「気にするなや。俺のは暇つぶしさね。本来の目的は整体師としての腕前を上げることだったんだから」
 赤裸々な杭奈のお礼への照れ隠しに、ジョンは本来の目的を口にしてみせる。杭奈は照れ隠しなんて事は考えすらしていないようだが。
「ここに来た頃もすでにうまかったけれど、ジョンのマッサージも整体も上達したよね。今はもう、気持ち良くって眠っちゃいそうな……」
 そこで言葉を切って杭奈はうつむいた。
「ジョンは、この育て屋を抜けたらもう戦いから身を引いちゃうの?」
「どうかね? まだ戦いたい気もするんだが……戦いは爺さんになるまでは続けたいものだね。戦うってのはやっぱり面白いものさ」
「そっか……」
 寂しい、と口にしたいが、それを口にすればジョンが困ってしまうと感じて杭奈は口を噤む。
 だから、せめてもの抵抗として、自分を絶対に忘れられないように印象付けたい。前々から決めていたことだが、杭奈は今ここで言うことに決める。
「ねぇ……ジョン。僕、ジョンがここを去る前にまた静流と戦う……その立会人になって欲しいんだ」
「あぁ、良いぜ」
 最初からそのつもりだったジョンは、今更な頼みに笑って即答する。
「多分勝てないだろうけれど、今のお前なら無様な戦い方はしないはずだ」
 そして、余計な一言を付けくわえながらも杭奈を激励して心臓近くを小突いた。
「ちょちょ、負けるだろうってちょっと酷いなぁ……僕かなり強くなったつもりなのに」
「かなり強くなっても、すごく強いやつにゃ勝てんさ。俺然り、あの姉さんしかり、教官たち然り、洞窟エリアの大将や然り……
 だがまぁ、運ってものがある。読みあいに勝てれば、あの姉さんにだって勝てるはずさ。頑張れよ」
「それはもちろん……。うん、今の僕なら出来るよ」
「よし、その意気だよ杭奈。戦いの日にちが決まったら教えてくれ」
「分かった。今日、静流に申し込んでくるよ」
「あぁ……」
 満足そうに笑ってジョンは溜め息をつき、のっそりと立ち上がる。
「それじゃ、俺はお疲れのポケモン達にマッサージをして回ってくるよ。明日また会おう」
「うん、いつもの場所でね」
 杭奈とジョンは手を振って別れる。
 杭奈は最高のお別れにしようと意気込みながら、住処として与えられた岩穴を目指した。


「あら、遅かったのね。彼氏とは上手くいってる?」
「彼氏じゃなくって師匠!! 全く、僕達そういう関係じゃないってば」
「あらあら、だって貴方達甘い関係なんだもの。お別れも近くなってキスの一つでも交わしているのかと思っていた所よ」
「そーいうのは無いから……はぁ」
 茶化すのが好きな静流の言葉に杭奈は溜め息をつく。相変わらず相手にされていない感が酷いのだが、今に度肝抜いてやると杭奈は気を取り直す。
「そうそう、さっきご主人から電話があったそうなんだけれどね。アタイ3日後の昼ごろに引き取られるって」
「え?」
「あぁん?」
 間抜けな声で聞き返す杭奈に、1世代前の不良を彷彿とさせる凄味を利かせて静流は聞き返す。
「あの、3日後ってどういうこと?」
「どういうことも何もアタイは3ヶ月契約よ……あれ、杭奈もしかして自分の契約期間知らなかったの?」
「え、いや……僕は半年契約……」
「へぇ、なんだ知っているんじゃない。ちなみに袴君も半年契約よ。私が行った後も二人で仲良くやりなさいよ」
 さらりと酷い事を言って静流の笑顔が崩れない。
「ちょちょ、ちょっと待ってよ静流……それじゃ、明後日の夜に勝負を挑むよ。絶対負かせてやるんだからね」
「杭奈……少しは強くなったつもりのようだけれど、それでもアタイにはちょっとねぇ。でもま、万が一ってこともあるでしょうし、頑張りなさい」
 あくまで、静流は杭奈より上という態度を崩さない。負けるとしても本当に万が一だと思っているようだ。
 予定は色々狂ってしまったが、やる事は変わらない。杭奈はこれまでになく気持ちを奮い立たせて、決戦の日に備えるのであった。

12 


「馬鹿だな、お前は」
 静流が3日後に主人に引き取られると聞いてジョンは足首に口付けしながら溜め息を漏らす。
「う……てっきり静流も契約期間が同じだと思っていたんだよ」
「全く……それならもう……明日は軽く調整だけして休んだ方がいいな。本格的な練習は今日で最後にしよう」
「あぁ……もう最後かぁ」
 最後宣言は杭奈の心に突き刺さる。寂しいと口に出してはいないが、ここまであからさまな態度では言葉にする必要もない。
「いや、な……静流が帰ってからも最後の日までは練習に付き合ってやらんでもないが……まぁ、静流に挑むまで、では最後の日だな」
「あ、そっか」
「でもどの道、お前と一緒にいられるのがあと一週間なのは変わらんからな……俺も半年契約なら、ダークライ・ビリジオン感謝祭までお前を鍛えてやれたのに……もったいない。どちらにせよ悔いが残らないようにやれよな」
「うん、分かってる……」
 杭奈は柔軟運動をしながら力強く頷く。相変わらず気合いの入った声を聞いて、ジョンは安心して次のステップに進む事が出来そうだ。
「よし、それじゃあ今日も組み手をやるか……今日で最後だからな、勝つつもりでやれよ?」
「もちろん……そのつもりさ」
 柔軟運動を終えた杭奈は深呼吸して気分を落ち着かせる。敵はジョン、戦って勝つのは難しい相手だ。
 しかし、死ぬ事はないから思い切りやれる。思い切りやる。それだけを考えるよう、吐く息で余計は思考を全てい払う。
 互いに向き合って構えを取り合う。開始の音頭はとらず、この体勢になればどちらが始めても構わない。

 まずは杭奈が先手を取り、右足の上段蹴りがジョンの首を狙う。ジョンは身を屈めてそれを避けて、左貫き手を脇腹に見舞う。
 杭奈はそれを右肘で弾いて、左肩からジョンへ体当たりにかかる。ジョンは上半身を後ろに仰け反らせつつ、右肘を杭奈の肩に合わせて押し返した。
 杭奈お得意の超近距離に持ち込まれればジョンとて長くは持たない。今となっては勝つためには自分のやり方を通さねば不可能な域まで杭奈は達しているのだ。
 体当たりを弾き返したジョンは、真っ直ぐに左拳を突き出す。左、右と払い除けられながら、ジョンは杭奈の太もも狙いで左足で後ろ回し蹴り。
 ジョンの(カカト)を、杭奈は(ひざ)を上げて防ぐ。
 体の固い場所同士がぶつかり合って、2人は骨に響く痛みに顔をしかめるが、痛みに強い精神力の特性を持つ杭奈が一瞬速く動いてジョンの胸に右肘を当てる。
 肺ごと砕くような打撃にジョンは息をつまらせるが、その痛みをこらえながらジョンは杭奈の右肩を掴み、脇の下の肋骨の側面へ向かって跳び膝蹴り。
 効果は抜群だった。無視できない激痛で右わき腹が砕けるような感覚で右腕が患部を押さえるために反射的に下がってしまう。
 そのガードが下がった杭奈の顔に、ジョンの右掌底が迫る。身を屈めて避けると、今度は腕を取られて後ろ手に回される。
 後ろ手を取られた杭奈はこれ以上不利な体勢にされる前にジョンへ肘打ちをしかける。
 脇腹に当たった杭奈の肘打ちは確かにジョンの握力を弱まらせはしたが、手を離させるには至らない。
 ジョンは杭奈を脱臼させないよう注意しながら地面へ押し倒し、うつ伏せの杭奈に草結びを掛ける。
 トドメとばかりに、チャージ次第で拳ではどうあがいても出せない威力を叩きだす必殺技、気合い玉を杭奈の前方にある地面へ向かって放つ。
 地表が砕け弾け飛ぶ威力を目の当たりにして、まともに当たった時のダメージを想像した杭奈は全身の毛を逆立ててぞっとした。
 情けで外されたが、相手が本気なレア絶対に避けられない。そして実際に喰らっていたら大怪我していた事だろう。
「勝負あり……だな」
 色々危ない所があったと感じながら、ジョンはほっと息をついて杭奈の上から退く。
「やっぱり僕の負けか……」
 寝返りをうって仰向けになった杭奈は大きくため息をついた。
「俺も何度も危ない場面はあった。確実に成長はしている……まぁ、本音を言えば勝って欲しくもあるし欲しくなくもある。
 俺が爺さんだったら『年のせいだ』っていいわけも出来るし、純粋に勝って欲しいって思えるんだけれどな……
 今はまだ、俺の勝ちたいっていう欲求が強いから勝ちは譲れんさね。でも、いつかはお前が俺に勝つと思う……それが、予想の域を出なくなるのは残念だが……うん、湿っぽくなっても仕方ない。
 呼吸を整えたら早速パンチの練習から始めよう。本格的な修行は今日で最後だ……悔いの残らないようにやろうじゃないか」
「うん……頑張ろう」
 そうして、2人は夜遅くまで鍛錬を続ける。育て屋に来た当初よりはるかに鋭くなった突きを打ち崩し、遥かに固くなった防御を掻い潜ろうとするジョンも今となっては必死である。
 不覚を貰い、綺麗な当たりを見るたびに、ジョンは痛みと共に満足感を感じて笑みが浮かびそうになるのを抑えるのに苦労する。
 全く、俺はこいつの事が好きなんだなぁと自覚しながら、だからこそジョンは杭奈の熱意にこたえるために本気で彼の相手をする。
 倒れても倒れても向かって来る杭奈を、自分の体力の限界が来るまで付き合って、修行の後にはマッサージ。
 明日、万全な体調で臨めるように、特に念入りにマッサージを行った。

13 


「杭奈……ここ2ヶ月半。私に全然挑んでこなかったけれど……どれくらい成長したのかしらね?」
「……一応、強くなったつもりだよ」
 戦いを前にして、杭奈と静流は二人きりでの会話をする。岩穴の奥にある、オレンジ色の電球がともす頼りない光の元で、2人は岩肌に肩を預けていた。
 この2ヶ月半、互いに自分の師を見つけてそちらとの交流に専念していたせいか、改めて戦うとなると思うところも多いようだ。
 そのせいだろうか、ここで交わされる会話の雰囲気は少々しんみりとしている。
 字面だけ見れば変わっていない静流のセリフも、今は見下しているような視線や嘲りを含む口調は身を潜め、それなりに杭奈を認めている事が伺える憎まれ口に変わっている。
「2ヶ月間、みっちり練習したから」
「アタイもよ。結構強くなったわよ」
 杭奈も、負ける事は覚悟の上。百も承知といった風だが、勝てるかもしれないという希望を含んだ、覇気のある声。
 ジョン曰く『静流も強くなって入るだろうけれど、お前ほどの変化はしていないはずだ。しかし、お前の変化はもはや別人レベル……その変化に戸惑っているうちに度肝抜いてやれ』とのこと。
 もちろん、静流も杭奈も互いの練習風景を覗く事はあったから成長は知っている。
 だが、遠くから見守ることと実際に対面することの違いは著しく、本当の所どれほど成長したかは互いに分かっていない。
 その未知数を、杭奈は恐れている風に肩をすくめ、静流は楽しみにしている風に微笑んでいる。
「この2ヶ月半……楽しかった?」
「いや、辛いことばっかりだったけれど……楽しくはないけれど、嬉しかったね」
「なるほど、良い答えじゃない……確かに、男遊びは楽しいけれど、褒められたりして嬉しい事の方が印象に残ってるわぁ……アタイも」
 ふー、と溜め息をついて静流は微笑む。
「言われてみて気付くなんてね……アタイの方が、育て屋ライフを無駄にしてきちゃったかな。もう少し嬉しい出来事を堪能すれば良かったな」
「……こっちはもっと無駄にしてるんだけれど」
 むすっとした口調で杭奈は不平を漏らす。まだ、無邪気さゆえの性欲はきちんと尾を引いている。
「いいじゃないの。野性だって同じ、弱い奴は雌を手に入れられないのよ……この育て屋では、『強い』のハードルが少し上がっただけじゃない? 漢なら黙って、女をかっさらって行くぐらいの意気込み見せなきゃ」
「……約束、覚えてるよね」
「うん、貴方が勝ったらっていうね。アタイはもちろん、格闘タイプの血に誓って約束は守るわよ」
「僕、頑張るから……」
「頑張りなさいよ。ま、どうせ無駄だろうけれど」
「まだそういう事言う!!」
「あのコジョンド……ジョン君ね」
 静流は思わせぶりにそこで言葉を切る。杭奈が小さく『何?』と、尋ねると静流は笑う。
「一回だけ闘ったけれど、ほとんど互角。格闘タイプの攻撃に弱い私だけれど、技術の面ではきっと負けていなかったわ。つまりそういうこと……
 ジョン君に一度も勝てないようじゃ、まだまだ……」
「それでも……可能性はある」
「うん、万が一ってことはあるから、全力でやらせてもらう。油断も慢心も一切しないから、そのつもりで挑んできなさい」
 今まで挑発するだけであった静流の激励に内心驚きつつも、ルカリオはそれを素直に受け取りうんと頷く。
「そう言えば、勢いで夜に戦闘を開始って言っちゃったけれどどうする? 今も外は結構薄暗いから夜と言えば夜だけれど……」
「ん~……そうね。ハンデって事で、準備が出来たら、いつでも始めて頂戴。ジョンを立会人にでも呼んでくるなりしてさ」

 杭奈は考える。夜になった方が有利に戦えるのか、それとも不利なのか? しかし、空を見てみれば結局はどちらも同じことだった。
 月明かりが明るい。これでは今まで培ってきたすべてを繰り出すのに、小細工は考える必要が無いし、弄しようもない。
「じゃあ、すぐ始めよう」
「分かったわ。平地エリアの昼食マッチの場所でいいのよね?」
「う、うん……」
「アタイは其処で先に待っているわ。もう夏も近いから、凍えさせて体が動かないうちに叩くなんて戦法は使えないからね?」
「……そ、そんなのを考えるのは君だけだから。僕は正々堂々やらせてもらうからね」
「うん、そうして。貴方とは長い事顔合わせるのでしょうし、お互い納得のいくようにしましょう」
 言いながら静流は立ちあがり、上半身だけ振り向かせながらヒラヒラと手を振る。
 遅れて立ちあがった杭奈は、外で毛づくろいをしながら待機しているジョンを呼びに行った。


 その頃、ジョンはというと一人で月を見上げていた。
「今日は月が綺麗ですね」
 静流と杭奈の会話の最中、一人木の枝に座りながら脚を揺らしていたジョンに話しかける人間の声。
「誰かと思えばジョン君でしたか。どうしました、こんなところに一人佇んで?」
 ジョンが振り向いて見ると、そこにいたのはスバルであった。
 この育て屋の経営者兼管理人長であるスバルは、結んだ長髪に黒眼鏡という敏腕秘書的な見た目をしていてデスクワークがよく似合う。
 その割には、ホームページやメールマガジン用の写真撮影のため外にもよく出るのか、浅黒い小麦色の肌をしていて、とても健康的な見た目である。
 暗いために肌の色は伺い知れないが、声色と匂いでスバルだと判断したジョンは、警戒心を解いてキュンキュンと鳴く。
 スバルははちらりと顔を上げ、薔薇の装飾がついたUSBポートを咥えて浮遊しているポリゴンZをこつんと指で叩いて指示をする。
「おい、ふじこ。今の訳してくれ」
 ふじこと呼ばれたポリゴンZが入力し、USBポートを経由して文字が出力された手もとのライブキャスタ―を覗く。
 表示された文字を読みあげて、スバルは笑った。
「ふむ……『マブダチの杭奈が今夜静流とガチバトルんだぜ!! マジ楽しみで全裸待機中(笑)』……元から全裸じゃないですか、ふじこ」
 どうでもいい突っ込みをしながらスバルは続きを読みあげる。
「『ま、勝てる気しねーけれどな、今の杭奈なら公開処刑にゃならんだろうね、だもんで激しく期待』か……
 なるほど、静流ちゃんとのお別れを前に一勝負しようというのですね。よろしければ、私も観戦させてもらってよろしいでしょうか?」
 スバルが尋ねてみると、ジョンは頷きながらキュンと鳴く。
「『俺は構わねーけどよ邪魔すんなよ。フラッシュ焚いて集中力乱したら、逆に俺がバルスッ!! してやるからな』……
 えぇ、ジョン君。問題ありませんよ。邪魔にならないように赤外線カメラで録画させてもらいます」
 こうして、観戦する者が一人増えた状態で杭奈と静流の決戦は始まるのであった。


 日も長くなり、なかなか訪れない夜を間近に控えた平地エリアの一角で、杭奈と静流は向かい合う。
 下心から始まった猛トレーニングだが、効果は上々。呼吸を整えて気合いを入れる杭奈の風格は、この育て屋に入る以前の物とは比べ物にならない。
 しばらく相手をしていなかった静流はその変化に息を飲んで、驚くと同時に歓喜の笑いがこみ上げる。 
「随分と美味しそうな獲物になったわね」
 下半身の抜け殻を引き上げながら静流は挑発した。
「獲物じゃないやい! 真面目に戦ってよ!!」
「……アンタにとっては私が真面目に戦わない方が、勝てる確率が上がって得なのに。全く、熱血馬鹿は損するわよ」
 ヒュッ、と息を吐いて静流は一瞬で気合いを込める。深呼吸で気合いを込める杭奈とは違って、発する気合いの差が急激に上昇して杭奈はどきりと心臓を高鳴らせた。
「二人とも気合い十分さね。いつでも始めろよ……俺はここで見てるからさ」
 ジョンは平地エリアに僅かに生える広葉樹に、スバルと一緒に腰掛ける。スバルはどちらを応援するでもなく黙々とビデオ撮影に没頭していた。
「うん、見てて……ジョン」
 振り向かずに杭奈は頷き、ジョンの激励に応える。
「男の友情っていいわね……でも、無駄よ。スバルさんのビデオには、貴方の無様な姿しか映らないわ」
 静流は頷きを最後まで見送ってから静流が仕掛けた。静流の第一手は杭奈の顎に向かって突き上げるように掌底のアッパーカット。
 単純だが、脳を揺らして一発KOを狙うには最適のえげつない技だ。
 静流の掌底は顔に当たる手前で弾かれたが、それで終わりではない。静流は戦闘前に、下半身の抜け殻の中に仕込んでいた砂を握りしめていた。
 開戦一番、掌底アッパーをフェイクに行われた砂掛け眼つぶしが杭奈の眼を襲う。

14 


 杭奈は咄嗟に腕で顎を守り、房を立てて波導を感知し始めた。
 だが、静流は波導で周囲を感じる体制が整う前に杭奈の肩を掴み、腹に向かって渾身の跳び膝蹴りを放つ。
 もちろん、防御する暇は無かった。体内を鉛が駆け抜けるように重く鈍い感覚。効果は抜群だ。
 その感覚が耐えがたい苦痛へと転じる前に、杭奈の意識は途切れ落ちる。
 思わず、ジョンがなにがしかの言葉を呟いた。
「『\(^o^)/(オワタ)』……か。しかし、約2.5秒とは短い戦いだ……」
 ライブキャスタ―に表示された文字を見て、スバルはそんな風に呟いた。


「終わっちゃった……」
 傍らで『オワタ』と呟くスバルの横、仰向けに空を仰ぐ杭奈を見てジョンはあっけに取られていた。
「雑魚……相変わらず甘いな。私は本気でやるって言ったのに……」
 前のめりに崩れ落ちた杭奈の体を拾い上げ、静流はお暇様抱っこをする。
 死んだようにだらんと垂れさがった杭奈の頭は、確認するまでもなく勝負ありと理解させた。
「……正々堂々って言ってなかったっけ?」
 これからも伸びて欲しいという親心のために、ジョンは向上心を失わないよう杭奈に負けて欲しかったという本音もある。
 そういう本音もあるが、ここまであっさり文字通り秒殺されると言葉も出ない。むしろこれでは向上心を失わないか心配になってきた。
「砂掛けるのって公式技だし……卑怯って人質とるとか弱みを握るとかそういうことじゃなくって? そんなに言うなら、公式に認められていない技*13、使っちゃっても良いのよ?」
 振り向きもせずに静流は言った。
「いや、ごめんなさい……」
「ジョン、貴方の言いたい事はわかってるわ。もう少し、いい試合した方がいいんじゃないかって言いたいのでしょ? でも、アタイの匂い嗅いでみなよ」
「おま……暗くてよく見えなかったけれど」
 鼻を動かしてみれば、風向きのせいか今まで分からなかった血の匂いが漂って来る。
 静流の攻撃は跳び膝蹴りしか当たっていないから、杭奈が流血することはない。
 可能性があるとすれば、杭奈の攻撃が当たったという事しかあり得ない。それも、とびっきり鋭利な攻撃が。
「肩を掴んだ瞬間に、胸と額に綺麗な裏拳が飛んできてね。ジョン、あまりレディが流血している見るものじゃない……
 悪いけれど、医者に見せるまで顔は見ないでくれるかしら?」
「ひとりで行けるのか?」
「うん、血は派手だけれどなんとかね……そうね、杭奈が心配なら少し経ったら医務室に来てくれればいいから」
 声だけでにこやかに言って、静流は杭奈を運んで闇に消えてゆく。彼女の歩いた場所は、例外なく血が滴って道しるべを形成していた。
 途中でスバルが手を貸そうとしても、彼女は断った。変なところでプライドのある女性である。


……
………
「で、跳び膝蹴りをまともに喰らってお前は負けたのさ……これ、プリントアウトしてもらった写真さね」
 ベッドで眼を覚ました杭奈に、勝敗の様子を聞かせてジョンは溜め息をついた。
「……結局、手も足も出なかったか」
 まだ痛む腹の鈍い痛みを気にしながら、無様な写真を見て杭奈は肩を落とす。
「でも、お前は中々よくやったと思うぞ。なんせ、静流の額と胸に裏拳を当てて、静流に流血させやがった……まだ残っている血の匂いはそれだよ」
「いや……結局負けたことには変わらない。僕は……」
「杭奈!!」
 と、その先を言いかけた杭奈の元に、静流が病室のドアを開けて訪れる。額と胸にまかれた僅かに血がにじんだ彼女の包帯が痛々しかった。
「静流……? 何、負けた僕を笑いにでも来たの」
 卑屈になる杭奈の言葉に、静流は首を振って否定する。
「ちがうわよ」
 微笑んで、静流は杭奈の頬を撫でる。
「頑張ったわね……」
 杭奈は眼を背ける。
「どうせ……ダメなんでしょ?」
「うん、約束は約束。どうせ勝たせる気はなかったからね」
 あちゃー……とばかりにジョンは頭を押さえて溜め息をつく。
「それに、ごめんね。私本当は主人の古参にすでに私の帰りを待っている彼氏がいるの」
 杭奈は絶句した。
「で、育て屋で会って終わりの関係ならまだしも、ずっと生活を共にする貴方とは変な関係になると非常に気まずいのよね……だから、ごめんね。
 あんな決着になっちゃったけれど、貴方が強くなっていたから万が一の確率も勘弁して欲しくて……」
「つ、つまり約束守る気はなかったってわけ?」
「そうじゃなくって、約束を守る必要を無くすことに全力を尽くさざるを得なかっただけ。魅力的な男性と言えば、年上でたくましい人一択なのよね」
 ここでくるりとジョンを見据えて静流は笑う。
「例えばジョンみたいな……」
「いや、俺に振られても反応に困る……いや、杭奈。静流とは何も無かったからな。本当だぞ」
 静流の物言いは何かいらぬ誤解をかけられそうな物言いなので、ジョンは必死で否定する。
「……そ、そこまで僕は眼中になかったのか」
「本音言うとね。貴方は、可愛らしい弟としてしか見る事が出来ないの。子供のような、弟のような……私は、貴方を可愛がる事や愛する事は出来ても、恋する事は出来ないし、ときめけない。
 衝動的な性欲で私に固執するよりもね、きっといいお嫁さんが見つかるわよ、あんたなら」
 あれ、静流がまともな事を言っているぞ、とジョンは僅かに感心する。
「それだけ強くなれば、きっとあなたを評価してくれる人はいるわよ。だから頑張りなさい……私との約束よ?」
 傍から見ているジョンにとっては酷い茶番のような気がしたが、なぜだか杭奈は催眠術にでもかかったようにコクリと頷いてしまう。
「わかった……」

 それでいいのかとジョンは杭奈がいきなり哀れになってしまったが、哀れさはともかく色んな疑問は次の瞬間に吹き飛んだ。
 静流が私は寝るから、と病室を出る。房を立てて静流の気配が消えるのを待っていたのだろう、そのまま杭奈はしばらく沈黙していた。
「ジョン……」
 杭奈がジョンにしがみ付いて泣き出した。
「僕、結局相手にされてなかったよ……」
 あらら、と思わずジョンから同情の声が漏れた。
「初恋ってな、叶わない物さね……でも、静流は酷い奴だけれど一理あるよ。お前はお前の相応しい相手を見つければいいさ……」
「そんな事言っても……うぅ……」
 あぁ、ダメだこりゃとジョンはため息をつく。ここは黙って抱きしめてうんうん頷きながら慰めてやるしか効果がなさそうだ。
「僕は真剣だったって言うのにさぁ……その気持ちを簡単に踏みにじるとか酷すぎるよぉ」
「まぁな。ロクな女じゃなかったんだよ、あいつは」
 やがて、ジョンは立って歩けるようになった杭奈を寝床へ送ろうとしたが、今日は静流と顔をあわせたくないとの事。
 結局、その日の夜、杭奈はジョンの寝床で眠ることになるのであった。

15 


「杭奈、修行始めるぞー」
 結局泣き疲れて眠るという赤ん坊のような醜態を晒していた杭奈は惰眠を貪っている。
「くいなー……起きないな」
 死んだように起きない杭奈を可哀想とは思いつつも、早く立ち直らせてやろうという親心で、ジョンは少々おせっかいなくらいに世話を焼くことに決めていた。
 の、だが……ここまで無気力に惰眠を貪られていては埒があかない。
 意地悪だとは思いながらも、ジョンは腕から垂れ下がる体毛に水を吸わせて、杭奈の目の近くにポタポタと垂らす。
 めんどくさそうに目を開けた杭奈に向かって、ジョンは朗らかに言ってみせる。
「おはよう、杭奈」
「おはよ……」
 寝むそうな杭奈は、起きたはいいがうつむいたまま前を見ようとはしていない。
「くーいーな。どうしたよ、ものすごく無気力だが……ぼやぼやしてると朝の配給終わっちまうぞ?」
「食欲がない……」
 こんな調子で、杭奈は話にならなかった。
「杭奈……お前、どれだけ下心で生きていたんだよ? 女も大事だが、もう静流についてはあきらめようぜ? 諦めが肝心だって」
「だ、だってさぁ……もう初体験済ましちゃったジョンには僕の気持ちはわからないってばぁ……愛しい人とやれば相当気持ちいいんでしょ?」

「う、うん……まぁな」
 痛いところを突かれてジョンは少々あせって応答する。初恋が成就してしまったジョンには確かに失恋の気持ちは分からないことであった。
 『諦めが肝心』という言葉に説得力がないといわれれば反論できない。
「つっても、お前に夢を持たせるためにかなり脚色したからなぁ……お互いが気遣わなかったり下手だったりすると女だけじゃなく男だって痛いし……」
「は、はぁ……」
「そもそも、自分の体ってのは自分が一番知っているんだ。マッサージは、自分では揉み難い場所を揉んで貰えるからともかくとして、さ。
 俺ら人型の卵グループのポケモンは自分でもあそこはさわり易いだろ?
 他人にしてもらうよりも自分でしたほうが気持ちいいなんて事は往々にしてあるものさ」
「そ、そうなの? じゃあ、ジョンはその……整体院に居るって言う彼女とはやりたくないの?」
「いや」
 首をかしげる杭奈に、ジョンは否定する。
「そういうわけではない。なんと言うか、気分の問題だな」
「つまり、どういうこと?」
「ふむ……例えば、俺たちに配給される食事は肉や内臓が多いけれど、デンチュラのおやっさんとか、エモンガの兄さんとか、あいつら虫を食うだろう?
 あの虫がな……肉や木の実のようにおいしい味だったとして、食べたいと思う?」
「ちょ、ちょっと気持ち悪いかな……なんていうか、肉の赤い色合いとか、僕にはそういうのが目にあうというかなんと言うか……」
「ま、そういうことだ。腹が膨れて味がよくっても、見た目が悪かったら気分が悪いだろ?
 自慰ってのはまぁ、あれだ……茶色い固形飼料(市販のポケフーズ)のように味は無難だが、見た目は良くも悪くもない感じさね。
 セックスもそれと同じ……って言って良いのかは分からないけれどさ、下手な女とやればダストダスに与えられる餌を食べる気分になっちまう。
 味も悪ければ腹も膨れずしかも腐ってる……っていう最悪な感じのな。
 ダストダスはアレが好きみたいだし、現実問題変わった趣味を持ったポケモンも居ることは居るが、俺達は違うだろ? いや、多分ね。
 静流は……うん、多分真剣に付き合っている奴にはともかくお前には冷たそうだな。
 セックスをしたとしても、期待を持たせておいて悪かったが……多分、あの女とじゃロクな経験にならんさね」
「はぁ……じゃあ、僕が頑張ってきたのはなんだったんだろ?」
「そ、それはアレさね。静流じゃなくって、他の女の子をゲットするための強さを手に入れたって事さ。
 ほら、静流もなんだかんだで強い奴が好みって言っていたし、強いってのは一種のステータスさ。
 なんなら、今日の昼に主人が迎えに来るまでの間にもう一度静流に挑んでみたらどうだ? 勝ってみれば一応約束は守ってくれると思うぞ」
「いや……静流、ここに来る前よりもずっと強くなっていたし、今の僕じゃきっと本当に万が一でしか勝てないよ」
 ここに来た当初の静流と昨夜の静流の違いを思い起こし、ジョンは『あぁ』と頷く。
「確かにあの女、強くなってたな……俺ももう年だからなぁ……ピークを維持するのは出来ても強くはなれねぇや」
「強いものに挑むのも経験かもしれないけれど、わざわざ無駄に痛い思いをすることもないでしょ……」
 深くため息をついた杭奈は、酷く精神的に疲弊していた。
「あぁらら……これは酷い燃え尽き方だなぁ……」
 元々杭奈には才能はあるのだし、どうにかしてやる気を出してもらいたいとジョンは思う。しかし、こうまでやる気が無くてはどうにもならなかった。
 何かあたらしくやる気を出せるようなものを何か与えてやれればいいのだが。
 静流への未練をふっ切るためとはいえ、セックスへの夢を見せてから現実を教えて突き落としてしまったのはまずかったかもしれない……と、ジョンは反省した。
 結局、下心だけでがんばろうと奮起していた杭奈だ。他人に与えられる快感の味をしってしまえば、また燃料となるかもしれない。

 ならば、とジョンは考える。杭奈はまだ野性ならリオルでもおかしくない年齢だ。
 ゲットされて感じていた強い不安を、主人への依存心にすり替えた杭奈は、まだ誰かに甘えていたいはず。
 恐らくは今、杭奈の依存心は自分に向いているはずだとジョンは思う。
 その依存心があるうちはあまり逆らうこともないだろうし、性的に未熟なうちなら抵抗も少ないはずだ。
「な、杭奈」
「ん……何?」
 ジョンは右腕から垂れ下がる体毛で杭奈の眼を隠し、左手で肩を掴みつつ杭奈が戸惑っているうちに彼の唇を舐める。
「ちょ……と……なに?」
 戸惑うばかりの杭奈の疑問をまるで無視し、唇をめくり上げて口の中に滑り込ませる。
 全く状況が飲みこめない杭奈はジョンを押し返そうと肩を掴んで見せるが、抵抗とは言えないほどその力は弱々しい。
 杭奈はもうすでにこの状況を受け入れているようである。
 ずるりと滑り込んだ舌は、最初こそ奥に引っ込んでいた杭奈の舌を煽り、絡ませ合うまで積極的にさせた。やっぱり、杭奈は逆らわない。
 ぷはぁっ、と音を立ててジョンは顔を離す。
「な、なんなのジョン?」
「なに、簡単な事さね。今更女がどうこうとか言うのなら、他人に弄られる感覚がどういうものなのか……知ってみると良い。
 今後、女を手にすることを目標に出来るようにな……お前が自分の手でするよりも、確実に満足を与えることを約束するよ。
 満足はさせてやれるつもりだ」
「は、はぁ……」
「とりあえずは痛くしないから、楽にしてろ」
「えぇ?」
 杭奈は戸惑う。当然だ、彼はセックスなんてのは女性とやるものだと思っている。
 まぁ、彼のジムではあながちそうとも限らないのだが*14――子供には手を出さないあたり節度は守れているジムである。
「いいから、口答えするなよ」 
 ジョンは穏やかな口調で。しかし有無を言わせない凄味を持たせて言い、杭奈の口を指で塞ぐ。
 きっと、ジョンなら間違った事はしないだろうという根拠に乏しい確信と、恐れとも期待ともつかない感情に促されるまま、杭奈はジョンに抵抗せずにごくりと唾を飲みこんだ。

16 


「なんだ? さっきまでうだうだ言っていた割にこっちは素直か」
 それを言い終えると、ジョンは再び杭奈に口付けを交わしながら、優しく押し倒した。
 連動するように、胡坐をかいていた杭奈の脚は生娘のような内股に変わる。やっぱり恥じらいはきちんとあるようだ。
 左腕で胸の棘を触れてみれば、破裂しそうなほど早く波打っている杭奈の鼓動が感じられる。
 心臓の棘から、クリーム色の体毛に隠された乳首をなぞり、バチュルが擦り足をするような足取りで手をゆったりと進ませ腋から脇腹へ。
 左腕でくびれた腹を滑るように撫でながら、肘はへその付近を撫で上げる。
 口同士の探り合いも忘れず、余った右手は後頭部の房と耳を同時に弄って刺激に休みとマンネリ感は与えない。
 さて、ジョンの左手が太ももに到達したはいいのだが、ピッチリと閉じられた股が開く気配が無い。
 強引に分け行ってもいいし、言って聞かせればあまり逆らうこともないだろうが、出来る事なら自分から股を開かせて快感の虜にしてやりたい。
「ふむ……」
「んぁ……」
 ジョンは一旦手を離し、下半身を利き腕で弄ってやろうと、体の位置を逆にする。
 閉じられた股から解放されたがっているルカリオの逸物を、内側からだけではなく外側からも門番に訴えかけようとばかりに、ジョンは柔らかな体毛で股ぐらをマッサージする。
 男を懐柔する際は言葉は不要。と、刺激ありきでやってきたおかげか、杭奈の疼いているどっちつかずな股は限界とばかりに逸物の封印を解いた。

「別に股を開けって言っていないけれど、やる気になった?」
 それが悪いことだとは言わない。意地悪に変態とか淫乱とか罵倒してやりたい気持ちもあったのだが、むしろ嬉しそうにいってやる事でジョンは杭奈を安心させる。
「う……いや、その……」
 それでも、杭奈は吹っ切れない。まだ羞恥心が上回っているようで体は完全に解れてはいないようである。
「恥ずかしがるなよ。レンジャーの頃は慣れたもんさね……だから、普通に体の赴くままやってやればいい。
 お前は変じゃないし、恥ずかしくもないぜ。俺も、同じような事を先輩にやられたことだってあるんだ」
 本当は当時の主人に教えられたのだが、と心の中で付け加えつつ、ジョンは彼の逸物の根元を握る。
「その時は、衝撃だったよ」
「ど、どんな風に?」
「やれば分かるさ。やらなきゃ分かんないけれどね」
 こともなげにそう告げて、ジョンは杭奈の逸物を揉みほぐす。
「続ける? 男にやられるのが嫌だったら、終わらせても良いけれどさ?」
 問いかけながらも、手は止めない。このままじゃ収まりも使ないだろうし、だからと言って自分で処理するなんてしたくはないだろう。
「いや、続けて……」
 ついに杭奈はその一線を踏み越えることを承諾してしまった。
 クスクスと笑うジョンはもう止まらない。
「じゃ、一人でやる時と誰かにやってもらう時の違いを感じさせてあげましょうかな」
「え、う……うん」
 ジョンはぐしぐしと乱雑に逸物を握る手を止めず。杭奈を見下ろす俯瞰の姿勢から、杭奈と同じ視線まで顔を下げる。
 その下げた場所というのは、吸い込まれるように杭奈の股間へ。
 血管が浮き上がり、ビクビクとモノ欲しそうに揺れながらさらなる刺激を待っている。
 咥えてやると、杭奈は腰を突き上げる。気持ち良くて仕方が無いと、言っているようなものだ。

「どう、気持ちいいか?」
「う、うん……」
 照れながら答える杭奈のことを愛でていると、何だかジョンも楽しくなってきた。
「そうか、よかった……お前もきちんと男の子なんだな」
 どうでもいい事をしみじみと喜びながら、ジョンはわざとらしく舌舐めずり。
「でも、そんな所咥えて……大丈夫なの?」
「何言っているんだ杭奈? そりゃ、こんなところを体内に挿れようとしていた静流に失礼じゃないかな?」
「あう……うん」
 杭奈の初々しい問いかけを陽気に笑い飛ばしてやると、正論だとでも思ったのか反論できず杭奈は頷く。
 恥ずかしくないとか、汚くないとか、自分の心配ごとを否定してもらった杭奈はというと、段々と快感を素直に享受し始めているようだ。
 体から強張りが抜け、ジョンの顔を挟みこんでいる股にもあまり力が入らなくなった。
 ビクビクとのたうつ逸物に加えて、腰を突き上げて杭奈はもっともっと快感を欲する。
 ジョンもまた答えるようにわざわざ音を立てて杭奈の聴覚までも犯しにかかる。
 自分が弄ばれている事を否が応無しに認識させるその音で、杭奈はさらに恥ずかしくなったのかすっかりと顔を背けてしまう。
「まったく、初々しい奴だなお前……誰に対して恥ずかしがっているんだよ? 俺がお前に同じ事やられたら恥ずかしがる姿を想像出来るのか?」
「いや、あんまり想像できないけれど……」
「そうだろ? だからお前も恥ずかしがる必要はないのさね」
 優しく諭してから、ジョンは口淫を再開する。
 段々と息を荒げていく杭奈は、同時に余裕も徐々に失っていく。
「もう出ちゃうよ」
 言いながら、杭奈は恥ずかしそうにジョンの顔を退けようとするが、ジョンは軽い力でそれを押し返す。
「うぁ……」
 程なくして、文字通り気持ちよさそうな声を上げて杭奈は達した。
 最近は修行に熱中していて、疲れて気力もわかなかったのかドロリとした濃い物がジョンの口に流れ込む。
 ジョンは鼻で息をしながら、こともなげに全てそれを飲みこんでから口を離す。
「今更だな」
 言い終えてから、ジョンはしたり顔で舌舐めずり。
「中に出すのがイケない事とか、俺がそんなことを構うと思うのか? 言ったろ? レンジャー時代にこういうのは慣れてるって」
 そう言って、綺麗なピンク色の舌を出してジョンは笑う。その仕草は同時に全部飲みほした事の証明にもなっていて、口の中は見事に空っぽだ。
 杭奈は射精後の賢者タイムを迎えたせいか、何だか気まずそうにもじもじしている。
「で、どうだった? 自分でするよりも、何だかよかったんじゃないか?」
「そりゃ、その……ちょっと嬉しくって……でも、申し訳ないというか」
「その考え方駄目だなぁ……」
 ジョンは溜め息をつき、軽く頭を掻きながらどうしたもんかと困惑する。

「いいか、杭奈。俺があれをやったのは、お前にもっと強くなって欲しいから……女を得るってことがどういう事かを教えてやるつもりだった。
 他人にしてもらうってのがどういう感じなのかを知れば、また女を得るための燃料になるかと思ってね」
「そ、それじゃなおさら……」
「そういうな、杭奈。他にも目的が無かったわけじゃないのさね。俺自身、杭奈を弄っている時あれで楽しんでいたから……」
「は、はぁ……」
「よくわからないか? 気持ちよくならんでも、する方も楽しいってことさね。女を勝ちとればきっとわかるさ……この高揚感はね。
 自慰じゃ得られない高揚感ってのは、いいものさね。癖になる」
「そういうものなの?」
 首をかしげる杭奈に、ジョンはあぁと頷く。
「だから、あれだ。お前、静流のことは諦めるべきだが、女の事は諦めるべきじゃない。
 俺も、もうすぐ育て屋との契約が切れる。その時も、修行を続けられるように明確で分かりやすい目標を持っていろよ。
 ジムで一番強い奴ってのも良いが、やっぱり分かりやすく『女を手に入れるための武器としての強さ』を持っておくのがいいと思うんだ。
 性欲は生きる上で付きまとう欲望さね。そいつを糧に頑張るのが、一番確実でいい」
「……う~ん」
「難しく考えるな。気持ち良かったろ?」
「う、うん……」
 ジョンは渋い顔をしている杭奈の頭を軽く叩き、耳をつまんで上を向かせる。
「俺がやってやるのはこれ一回きりだ。後はお前、自分で嫁の一人や二人見つけて、その子にやってもらえよな」
「一回切り……か」
「あぁ、女を勝ちとってもまだ俺とやりたいのなら構わんが……女を勝ち取るまでは、お前とは二度とやらない」
「分かった」
 少しためらいがちに、しかししっかりと頷いて杭奈は言う。
「よし」
 と、ジョンは短く簡潔にその様を褒めた。
「僕も、ジョンの気持ちを無駄に出来ないし……何より、やっぱり女の子とやってみたくなっちゃった。
 ……静流は、まぁ、うん。無理かなって……でも、こんな僕だってまだまだできる事はあるよね」
「よし、その意気だ」
 やる気を取り戻してくれた杭奈を見て、ジョンは安心して溜め息をつく。
「今日、静流は主人の元に帰るんだろう? じゃあ、見送りまでの間、軽く修業をしようか?」
「うん、やろう……」

17 


 他人にしてもらうことの快感を教えたその後、午前中は組み手や軽い防御・攻撃の訓練を行い、程良く汗を流した。
 そうして時間を潰した午前も終わり、昼食マッチも終わりの時間になった頃、静流と杭奈、ついでに袴とその友達は一足先に静流とお別れになる。
 ポケモン受け渡しの受付に訪れた主人は相も変わらず岩か大木のような逞しい体躯の持ち主で、その高身長から見下ろせるのはポケモンだけでない。、
 このシラモリ育て屋本舗の経営者兼管理人である、スバルも女性にしてはかなりの高身長だが、それすらも見下ろしている。
 この主人、大体2m前後はあるだろう。
「よう、皆久しぶり」
 ただ、そうやって見下ろしているのは歩いている時だけで、ポケモンに話しかける時は子供に対してそうするようにしゃがんで視線を合わせている。
 それでも相当な威圧感には変わらないのだが、体操のお兄さんの如く爽やかな笑顔の前には警戒心も薄れるというもの。
 そんな主人は、抱擁というストレートな愛情表現をするあたり、本当は主人もさびしかった事が伺える。
 ごつごつとした筋肉の塊に抱かると、静流もなんだかんだで嬉しそうに抱き返す。
『年上で、しかも強いって意味ではご主人もその条件に当てはまるけれど……』
『はは、人間に取られるとはまた傑作だな』
 人間にはわからない言葉で呟いてしょげる杭奈をジョンは笑う。
『大丈夫よ。主人は好きだけれど、愛人程度にしか見てないわ』
『あぁ、ズルズキンって悪タイプだったな』
 なんのフォローにもなっていないフォローをして笑う静流に、呆れてジョンは苦笑する。
「静流も杭奈もここに来る前よりたくましくなったし……袴はキルリアに進化したか。
 みんな随分成長してまぁ……こりゃ、育て屋に預けて正解だったな」
 言いながら主人は杭奈の首の後ろを撫でながら鼻に杭奈の額を擦り寄せる愛情表現。袴に対しては自分の胸に顔をうずめさせていた。
「それに、友達もできたみたいだが、この子達は?」

 主人はちらりと顔を上げてスバルを見ると、彼女は哺乳瓶の装飾がついたUSBポートを咥えて浮遊しているふじこに通訳の指示を下す。
 手もとのライブキャスタ―を覗きながら、表示された文字を読みあげる。
「この子は、特訓で疲れたポケモン達に対してマッサージをして、整体師の修行に来た子なんです。
 けれどどうやら、初日から杭奈君に戦いのノウハウを教えていたそうで……ふじこによりますと……」
 スバルは手もとのライブキャスタ―を覗き、そこに記された文面を覗く。

「『こいつはマジでマブダチってゆーの? 親友だから、マジそこんところよろしくよご主人! いや、マジで(笑)
 てゆーか、こいつ無しのこの3ヶ月間とか考えられねーしwww
 もしこの育て屋抜けた後にこいつと二度と会えないとかなったらくぁwせdrftgyふじこlp』だそうです。この子達、随分といい友達のようですね」
 読み上げてスバルは主人へ向かって微笑んだ。肝心の主人は戸惑っているが。
「あの、このポリゴンZはもう少しまともな通訳してくれないのか?」
「ポリゴンZに進化させなければもう少しまともだったのですがね。育て屋のポケモンが弱いと示しがつかないので、強くしようと進化させたらこうなってしまいました。
 こればっかりは進化させない方が良かったようですね……申し訳ありません、オリザさん」
 そう言ってスバルはオリザと呼ばれた杭奈達の主人に向かって苦笑する。
「文面は分かりますし、ポケモンの言葉がおぼろげながらに分かるだけでも贅沢は言えませんよ……さて」
 と、言ってスバルはポケットからアルミのケースを取り出す。
「そういうわけで、このコジョンド……ジョン君っていうのですが、この子の主人から名刺を預かっておりましてね。
 よろしければ、お互いのためにも訪ねてあげて下さいな」
 指でつまんで渡されたそれを主人は受け取り、記された情報を一通り眼を通してから名刺ケースへと放り込む。
「色々俺の子によくしてくれたんだな……ありがとう。ジョン君」
 膝立ちの姿勢で頭を下げる主人に、こちらこそとばかりにジョンが頭を下げる。

「杭奈君は、優秀な子ですね」
 スバルはジョンと杭奈を見てしみじみと呟く。
「ん? あぁ、確かにこの短期間で随分と強くなったな……」
「ブラックシティにいた頃の私を思い出します。あの頃は私、食欲のために強くなろうとしておりました……この子は、お嫁さんを勝ち取るために。
 つまるところ、性欲のために強くなろうとしたようです……でも、頑張り続ける事はなかなか出来ることではありません。
 ジョン君がいたからというのもあるでしょうが……優秀な子ですよ」
「ふ、不純な目的だな……男は強くなりたいから強くなるもんだ。本能的なものさ」
 主人のオリザは、鋼のような力瘤を見せてそんな事をのたまった。
「その強くなるための本能は――かつて、群れの中で一番強い者だけが雌とまぐわる事が許された時代の名残ですよ。
 今は、強くなくても生存能力の高さは測れますから、賢いとか、場合によっては歌が上手いとか。
 そういった時代の流れのおかげで強さの意味が薄くなるだけで……強くなる目的というのは、本来不純であるべきですよ。つまり、セックス!!」
「お、大声で……ふむ……そうか。まぁ、そう言われるとそうかもしれないな……うぅん」
「何が言いたいかと申しますと、もしも機会があればこの子にお嫁さんを宛がってやってくださいという事です。
 そうしてあげればきっと、杭奈君は今まで以上に強くなりますよ……女を手に入れるために頑張る意味を失ったら、次は女を守るためという風に」
 お嫁さん、という言葉に杭奈は目を輝かせる。
「そうしたいところなのだが」
 杭奈が俯き顔を横に振った。
「ジムの開設のために予算がな……この子達を預けたせいでしばらくは結構カツカツなんだ。なるたけ、節約したくってな……
 教え子たちの月謝はともかく、リーグからの補助金が降りるまではトレーニング用の機材のローンがきついものでな……これ以上借金もしたくないのだ」
「そうですか。お見合いサービスは最低2万。子育てについては、育て屋孵化で2万から。
 卵は自宅孵化でしたら無料から取り扱っておりますので、詳しくこちらのパンフレットかホームページをご参照くださいませ……と、すみません。
 この子を褒めるだけのつもりが、ついつい商売に目がいってしまいました……」
 恥ずかしそうに苦笑しながら、スバルは頭を下げる。
「いや、構わないよ。この子を育てる参考にしてみる……さて」

 オリザはさらに視点を下げて雄のキルリア、袴を見る。
「袴の友達はゾロアか。この子の名前はなんて言うんだ?」
「ペテンちゃんですよ。最近になって、よく昼食マッチ・ダブルバトルを荒らしているようで、やるたびにかなり面白い試合をしているのですよ……
 二人はとっても仲がよくって……そのせいか、お見合いしようとしても割って入る隙が無いくらいで、いつもお流れになっちゃうんです。
 それについての詳しくは、ホームページにも名勝負として、昼食マッチダブルの部に載せておりますのでご参照くださいませ。
 ちなみに、袴君にとってのペテンちゃんの評価は……『最高のパートナーって奴だぜ!! ペテンは俺の嫁!!』だそうです……
 どこまでふじこの翻訳を信用してよろしいのか分かりませんが、信頼し合っている事は確かなようです。
 そのことを報告したくてわざわざこうして管理棟に呼んでくるくらいですからね」
「そうか……俺の袴と一緒に存分に強くなってくれよな」
 ゾロアの頭を優しく撫でると、主人は立ちあがる。
「静流。それじゃ、俺達の家に帰ろう」
 主人は静流のモヒカンを指で梳くようにしながら彼女をモンスターボールの中にしまい、スバルと眼を合わせる。
「静流がお世話になりました。引き続き、杭奈と袴をよろしくお願いします」
「えぇ、シラモリ育て屋本舗の名に掛けて、責任を以って預からせていただきます」
「それでは、元気でな。杭奈、袴。もう少し経営実績があれば、公式ジムに認定されてジムバッジ検定も行えるようになる……そうすりゃ補助金も手に入る。
 その頃までにはお前はもっと一人前になっているんだぞ……杭奈。期待しているからな」
 杭奈は主人へ向かってくぅんと切なげに鳴いて手を振った。主人は振り向かずに手を振って、背中で『強くなれよと』杭奈へ語っていた。
「ご利用ありがとうございました、オリザ様。これからも、我がシラモリ育て屋本舗のご利用をお願いします」
 丁寧に頭を下げて、スバルは杭奈達の主人、オリザを見送る。
 両開きのドアを抜けて静流と共に主人の姿が消えると、スバルは杭奈の肩を叩いて優しく語りかける。

「オリザさんの言うとおり、この育て屋に入った時よりも格段に強くなっておりましたね。
 昨日はボロ負けでしたが、私はきちんと貴方の成長を感じましたよ……」
 杭奈は首を振って否定し、鳴き声を上げる。
「『負けたら意味ねーしww』……ふふん、そういうな。両生動物のクソをかき集めて出来た(そび)え建つクソの塔ほどの価値もなかったお前が、
 寄生して生きるしか能がない害悪の権化たる卑しいダニを卒業するくらいには成長したものだと私は思ったぞ」
 杭奈はスバルの口調が豹変したことに驚き絶句する。
「何せ、アレだ。もしも静流があの時、跳び膝蹴りではなく頭突きを放っていたら……君は頭突きを防御しつつ、胸にまで攻撃を与えたことになる。
 しかも、頭から出る血の量は半端ではない。持久戦に持ち込めば恐らくは視界に影響を及ぼし、君は隙を見つけて勝ちをもぎ取っていただろう……
 まぁ、確かに頭突きやもろ刃の頭突きは君には効果が今一つだけに、それを放ってくる可能性は極端に低いと言えたろう。
 もしも、格闘タイプで頭突きを放てる技があったらな。あのビッチに鉛の弾丸ぶち込んで公衆の面前で股開かせることくらいは……と、すまん。地が出ていた……
 ここはホワイトフォレストだというのにブラックシティの私になってどうしますのやら……」
 コホンッと咳払いをしてスバルは続ける。
「ようするに、貴方も全く勝つ可能性が無かったわけではないというわけですよ……読みあいにさえ勝てれば、きっと杭奈君も……
 ですから、めげることなくこれからもがんばってください。昨日の夜から、私は貴方を応援しておりますよ」
 そう言い残して、スバルは杭奈の返答も聞かずにデスクワークへと戻って行った。

 ◇

「ふぅ……」
 スバルも去って、この場に人間がいなくなると、何だか虚無感がこみ上げて杭奈は深くため息をついて肩を落とす。
 まだ燃え尽き症状の残っている杭奈に対し、ジョンはおもむろに彼の肩を叩き、微笑みかける。
「杭奈。修行を再開しようぜ。俺がいられる時間も、あと僅かなんだ……悔いの残らないように、寸暇を惜しんで修行に励もう……
 スバルさんだって……何だか物凄い一面を垣間見た気がするけれど、応援してくれたじゃないか」
 杭奈の手を取り、ジョンは外へと歩いて行く。残された数日も充実したものにするため、ジョンはまだ教えていない技術を少しでも杭奈に伝えようと。
 杭奈は教えられていない技術をモノにしようと、それぞれ奮闘するのであった。
 数日後に訪れた別れは、いつでも会える距離だからと、互いに涙を流す事もなくそれなりにあっさりと終わったのである。
 次に会う時は、ダークライ・ビリジオン感謝祭だと約束して。ジョンの育て屋での3ヶ月は幕を閉じた。

つぶやき 


更新1回目:格闘タイプのポケモンの戦いを書きたいがために書いたお話。
希望があればエロはやりますが、CPは登場人物が出揃ってからにします。

更新2回目:元野性なのにブレイズキックが使えるのは何故? とか突っ込んではいけない

更新3回目:3が短かったので4も一気に更新。杭奈・静流・ジョンとこれでキャラは出そろいました……メインはたった三人ですよ、はい
CPは静流×杭奈もしくはジョン×杭奈になりますね。もちろんジョンの性別は雄ですよ

更新4回目:誤字修正……したつもりだけれどまだあるかもしれない。5を追加しますた。

更新5回目:この話には全く関係ないけれど、ギーマさんが好きな人は多いが、アロエさんやシャガさんが好きな人が少ないのが辛い。
所詮見た目が全てか

更新6回目:乱数生成ソフトで対戦相手を選択⇒ギギギアル。空気読み過ぎだよ乱数ソフト。

更新7回目:一応本作では一番レベルの高い者同士の戦い。も、私が書くと他との違いがあまり分からないという罠。

更新8回目:今回も乱数生成ソフトで対戦相手を選ぶ⇒マッギョ
だから空気読み過ぎだってば。

更新9回目:やっぱりジョンは強い。10を追加しました

更新10回目:時間が飛んで、トンデモ展開。昼食マッチを何回もやるわけにはいきませんので

更新11回目:本番前に行うジョンとの最後の戦闘。でもやっぱり負ける杭奈

更新12回目:まさかの新キャラのスバル(人間)と、色々バグが発生しているふじこ(ポリゴンZ)。
ふじこの名前の由来はもちろん『くぁwせdrftgyふじこlp』である。

更新13回目:皆がジョンを推すので勝敗は『静流の圧勝』となりました。
ちなみに静流とのカップリングを推した場合、『相討ち』の予定でしたとさ。

更新14回目:みんな大好きジョンとのエロ。と、言っても甘々ですが……
今日は15を更新しました。

更新15回目:ジョンのアレは整体師の経験ではなくレンジャー時代の経験です。
何やっているんだ当時の御主人は

更新17回目:最終回(さいしゅうかい)じゃないぞよ もうちっとだけ(つづ)くんじゃ*15


続き

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • やべぃ!↑文中、“ジョン×杭奈”後に{希望}追加の脳内補正でお願いします。
    ――S.C. ? 2011-01-19 (水) 23:25:43
  • ついにジョンともお別れに…、寂しくなりそうですね…。あとジョン×杭奈希望です!
    ――Kサン ? 2011-01-21 (金) 01:05:26
  • 毎日携帯から見させてもらってます。
    戦いの場での描写が細かでリアリティがあって素敵です。
    私もバトルを含めた小説を書く者としてとても参考になります。
    またズルズキンとルカリオの組み合わせも新参で私は好きです。これからも頑張ってください。
    ――ヤシの実 2011-01-22 (土) 23:53:45
  • ついにバトル開始ですね、wkwkがとまらねぇー!!

    に、しても、ジョン君がキュンと言うだけで通じるなんてすごいですねw(殴
    ――S.C. ? 2011-01-23 (日) 15:33:43
  • いつも楽しく拝見させていただいてます。

    誤字(?)の報告をさせていただきにきました。
    寝ぬそうな→寝むそうな
    でしょうか?
    私の勘違いでしたら申し訳ないです><

    では、執筆頑張ってください!
    ―― 2011-01-25 (火) 01:05:37
  • ついに手を出し始めましたか、
    いやはや、整体師のジョン君、どんな事をしてくれるのでしょうか?
    マジ期待で全裸待機中ですw(殴
    ――S.C. ? 2011-01-25 (火) 01:22:16
  • こんばんは。ルカリオの育て屋奮闘記読ませていただきました。まだ3番までなんですけど…
    育て屋というタイトルでバトル物になるというのは予想外で、そのスピード感あふれる描写は圧巻でした。
    バトルにおいて技のみならず、通常攻撃のようなものを織り交ぜて書くというのは斬新でとても参考になります。
    また、ズルズキンをメインキャラの1人として採用するというのも、なかなか見られないものなので興味を惹かれました。
    一般的に見た目上人気のあるポケモンを採用する人が多いかと思いますが、あえてマイナーなキャラを採用することで、ズルズキンの性格をイメージするときに静流をイメージするようになるというくらい強い印象がつけられると思います。
    メジャー採用はそれはそれでいいのですが、マイナー採用でありながら素晴らしい文章力で読者を魅了する作者さんの腕前には本当に感服いたします。
    執筆速度が速いことも驚きで、これだけ充実しているのに素晴らしいと思います。
    先々の展開が気になりますので、これからも読んでいきたいなと思います。続きの執筆頑張ってくださいませ。応援しております。
    ――クロス 2011-01-25 (火) 17:58:59
  • 連載当初から読ませていただきました、ストーリーに筋が入っている
    クォリティの高い作品ですね、横道に逸れる事無く進む格闘タイプ達の
    話らしかったと思います。自分も見習いたいです。

    後もうちょっとで終わりなのは悲しいですが、出来れば
    ちょっぴりリクエストよろしいでしょうか?
    可能であれば、番外編的に杭奈×静流編も見たいと思っています。
    もし、お時間があれば、宜しくお願いします。

    これからも執筆がんばってください、応援してます!
    ――チャボ 2011-01-27 (木) 01:39:40
  • こんにちは。12まで読ませていただきました。
    もう3つ分までお話が進んでるとなると、なかなか追いつかないですね(苦笑)
    最近忙しくてあれですが、面白く、勉強にもなるこのお話は読みだしたらだいぶ速い速度で読み進められました。
    相変わらず非常に説得力に優れる描写で、動き1つ1つが丁寧でありながら迫力に欠けず、無理のないものになっていますね。
    今回読んだ部分で言えば、マッギョとの戦いなんかは特に読んでいて面白かったです。
    杭奈のところも楽しめましたが、ジョンが杭奈を破ったマッギョをあっさりと倒すシーンはリングさんの腕の良さが光っているなと感じました。
    電気技はスピードが速いとか、泥から引きづり出して“くさむすび”するとか、威力やスピードと言った視覚的に表現したほうがわかりやすいものにこだわらず、テクニックで強さを見せるということは、小説という分野の特徴をよく把握してのことですからね。
    さすがリングさんは速筆で数をこなし、経験が豊富だなと読んでいて感心しました。素晴らしいですね。
    私のような未熟者は威力やスピードで小説と言う分野の特徴を理解せず、やや説得力に欠けた無茶苦茶な描写をしがちなのでとても勉強になりました。

    また、ジョンの契約が切れるということで杭奈が別れを惜しみ、ジョンもまた杭奈との別れを惜しむシーンでは、戦闘シーンがメインのこのお話において心情描写に重きが置かれていますから、そこはまた違った楽しさを味わうことができました。
    杭奈の子供っぽくも純粋で一生懸命なところは個人的に共感できますし、それを大人の目線でサポートするジョンも素敵なキャラクターだと思います。
    こういったシーンでは会話文が多く、地の文が戦闘に比べやや少なめとなっていますですが、短くまとまった地の文のおかげで十分に彼らの心情が伝わってきます。
    私は描写力を意識するとつい地の文が多めになってしまいますが、会話文を多めにして地の文をまとめていることで、展開がスピーディですね。
    速筆で更新速度が速いこともそうですが、読者に暇を与えないといいますか、戦闘という山場と分けつつも常に読者の興味を引き続ける描写となっており、とても印象的でした。

    それでは、これからも執筆頑張ってください。応援しております。
    ――クロス 2011-02-11 (金) 11:49:07
  • ルカリオ育て屋奮闘記の報告をまとめてきました、


    ミスが全体的に少なかった気がします、では確認の方宜しくお願いします。



    1、二度目の膠着状態を破るシーンより

     完全に下に<向いてい>ルカリオの視線は、その攻撃を視認することなく、

    [向いていた]の脱字でしょうか?


    その直後のシーンより

     <住>んでの所で気づいたルカリオは、鼻先を掠め風圧で顔の体毛が揺れるのを感じながら、のけぞってそれを避ける。

    誤変換のようです。


    さらにその直後のシーン

     ルカリオは体勢が崩れかけていてそれ以上<後ろへ下がる>事が出来ず、

    表現がダブっています、[下がる]のみの方が好ましいですが、
    独特の表現として、そのままでも大丈夫です。


    2、静流vsバカラのシーンより

    それでも<シズル>は襲いかかる<場気あら>の攻撃を凌ぐのにも精いっぱいだ。

    何故かカタカナですが、よろしいのでしょうか?

    [バカラ]の誤入力ではないでしょうか?


    9、ジョンvs静流、を波導で感知した杭奈のシーンより

     <そな>感情の変化を前触れに、二人は立ちあがり戦闘を行い始めた。

    [そんな]の脱字だと思われます。


    静流、帰宅のシーンより

     結局杭奈は静流が寝静まってからもどんな方法でジョンが勝ったのかを<無双>して、しばらく寝付く事が出来ずに悶々とし続けるのであった。

    うーん、うまい代替候補が見つかりませんが、とりあえず報告致します。


    杭奈vsMs.マッギョのシーンより

     空中で吹っ飛びながら用意したメタルクローをスパイク代わりに、野性の如く<向う見ず>な突進で跳び掛かる。

    [むこうみず [向こう見ず]](明鏡モバイル辞典より引用)

    [こ]の脱字ではないでしょうか?


    11、書き出し

     連日のトレーニング<をの>傍ら、昼食マッチに毎日参加する杭奈は、

    多分、をの誤入力でしょうか?


    その後の地文より

    敵が<仕掛けられる技>というのがなんとなく読めるようになり、

    [仕掛けてくる技]ではないでしょうか?
    または、その場で相手が放つ事の出来る技だったりするのでしょうか?
    さすがに敬語は……無いですよね?


    12、杭奈vsジョン、決戦静流の前の最後の組み手にて

     情けで外されたが、<絶際>に喰らっていたら大怪我していた事だろう。

    [実際]の誤入力ではないでしょうか?


    13、決戦の前、スバル初登場のシーンより

    「『俺は<鎌わね>ーけどよ邪魔すんなよ。フラッシュ焚いて集中力乱したら、逆に俺がバルスッ!! してやるからな』

    [構わね]ではないでしょうか?
    ふじこの台詞なので、報告も戸惑います……。


    16、ジョンと杭奈、やる気…というかヤル気注入

     言い終えてから、ジョンはしたり顔で舌舐めずり。
    「中に出すのが<行けない>事とか、俺がそんなことを構うと思うのか? 

    単に誤変換だと思われます。



    以上です、
    ついでですが、何気に名言だと思った台詞を一つ……、

    《お前、どれだけ下心で生きていたんだよ?》〔Byジョン〕

    こほん、ところで ナナシ様と自分は無関係です。
    ですが、同一人物としては実は2個ハンドルがあったりしますよ……
    まぁ、性格とか全部変えてるので……とりあえず探さないで下さい。

    ところで、告白のアドバイスは消してしまったのでしょうか?
    出来るのであればまた読みたいので是非お願いします。

    では近日中に2話を報告致します。

    執筆頑張って下さい、応援してます!
    ――チャボ 2011-07-09 (土) 00:27:22
お名前:

*1 波導ポケモン:あらゆるものが発する波導をキャッチする能力を持ち、他人の考えが読み取れる
*2 悪党ポケモン:縄張りに入ってきた相手を集団で叩きのめす。口から酸性の体液を飛ばす
*3 いわゆるバック転
*4 直線的な突き。腰の動きが無いため体重はのらないが、出してから当たるまではあらゆる技の中で最速といわれる
*5 本当の斧刃脚は踵を当てるが、ルカリオの体ではそれが出来ない
*6 タックルのこと。脚を掴んで体当たりをする事で転ばせる
*7 フリーフォールである
*8 雄から雌に変えてたあの人の事である
*9 格闘タイプの攻撃のこと。同じパンチでも炎を纏えば炎のパンチ、闘気を纏えば気合パンチなどになる。この物語では細分化されている為、炎のパンチもストレート・アッパー・フックなどがあったりする
*10 武術ポケモン:腕の体毛を鞭のように操って戦う。攻撃は目にもとまらぬ速さ
*11 ポケモンでは特殊攻撃と物理攻撃どちらも使うことを指す。ジョンは見れば分かるが両刀
*12 指先で攻撃すること。急所を狙うのに適しているが、きちんと指を鍛えてないと仕掛けた方も怪我をする
*13 ルカリオの波導の嵐等
*14 これだから格闘タイプは……
*15 ドラゴンボール第17巻で亀仙人が言い放った台詞。ルビも原作通り。
宣言通りもうちっとだけ続いて42巻で無事完結。;……まさかね


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Last-modified: 2011-01-26 (水) 00:00:00
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